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○「地方公共団体による精神障害者の退院後支援に関するガイドライン」について

(平成30年3月27日)

(障発0327第16号)

(各都道府県知事・各保健所設置市長・各特別区長あて厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長通知)

(公印省略)

入院をした精神障害者は、地域生活を送る上で様々な課題やニーズを抱えていることが多く、円滑な社会復帰等の観点からは、そのニーズに応じて、退院後に必要な医療、福祉、介護、就労支援等の支援を受けられる環境を整備することが重要です。

このため、今般、「精神障害者の地域生活支援を推進する政策研究」(研究代表者:国立研究開発法人精神・神経医療研究センター 藤井千代)における検討内容を踏まえ、「地方公共団体による精神障害者の退院後支援に関するガイドライン」を別添のとおり取りまとめましたので、通知します。

各都道府県、保健所設置市及び特別区におかれましては、管内市町村、関係機関等に対し、本ガイドラインについて周知をいただくとともに、本ガイドラインを踏まえ、関係機関等と協力し、積極的に退院後支援の取組を進めていただくようお願いします。

なお、この通知は、地方自治法(昭和22年法律第67号)第245条の4第1項の規定に基づく技術的な助言であることを申し添えます。

[別添]

地方公共団体による精神障害者の退院後支援に関するガイドライン

平成30年3月

厚生労働省

目次

Ⅰ.地方公共団体による精神障害者の退院後支援の趣旨

Ⅱ.退院後支援に関する計画の作成

1.概要

2.作成主体

3.支援対象者

4.計画作成についての本人の同意、本人及び家族その他の支援者の参画

5.計画作成の時期

6.計画の内容

(1) 計画の記載事項

(2) 必要な医療等の支援の利用が継続されなかった場合の対処方針及び病状が悪化した場合の対処方針

(3) 計画に基づく支援期間

(4) 計画内容に関するその他の留意事項

7.会議の開催

(1) 概要

(2) 設置主体、事務局

(3) 参加者

(4) 開催時期

(5) 開催方法

(6) 開催場所

(7) 協議内容

(8) 会議の事務に関して知り得た情報の管理

(9) 会議の記録等の取扱い

(10) その他の留意点

8.計画の交付及び支援関係者への通知

9.入院先病院の役割

(1) 退院後の生活環境に関する相談支援を行う担当者の選任

(2) 退院後支援のニーズに関するアセスメントの実施

(3) 本人の退院後の居住地に関する自治体への連絡

(4) 計画に係る意見書等の自治体への提出

(5) 会議への参加

10.地域援助事業者の役割

Ⅲ.計画に基づく退院後支援の実施

1.帰住先保健所設置自治体の役割

2.各支援関係者の役割

(1) 帰住先保健所設置自治体への協力

(2) 計画に基づく支援の実施に関する留意点

3.必要な医療等の支援の利用が継続されなかった場合又は病状が悪化した場合の対応

4.計画の見直し

5.本人が居住地を移した場合の対応

(1) 概要

(2) 移転元自治体の対応

(3) 移転先自治体の対応

6.計画に基づく支援の終了及び延長

(1) 計画に基づく支援の終了及びその後の対応

(2) 計画に基づく支援期間の延長

7.本人が交付された計画に基づく支援への同意を撤回した場合の対応

8.退院後支援の業務の委託

(1) 概要

(2) 業務委託を実施する場合の留意点

9.退院後支援の体制整備、実施状況の適切な把握

参考:計画作成の具体的な手順の流れ

Ⅰ.地方公共団体による精神障害者の退院後支援の趣旨

入院をした精神障害者は、地域生活を送る上で様々な課題やニーズを抱えていることが多く、円滑な社会復帰等の観点からは、そのニーズに応じて、退院後に必要な医療、福祉、介護、就労支援等の支援(以下「医療等の支援」という。)が実施されることが望ましい。

これまでも、平成25年の精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和25年法律第123号。以下「法」という。)の改正では、医療保護入院を行った入院先病院の管理者に退院後生活環境相談員の選任義務や地域援助事業者の紹介の努力義務を課すなど、病院による退院促進措置の取組を推進してきた。

一方で、例えば、措置入院は、都道府県知事又は政令指定都市の長(以下「都道府県知事等」という。)が行政処分として行うものであり、退院の決定も都道府県知事等が行うものであることから、退院後支援についても、地方公共団体(以下「自治体」という。)が、入院中から入院先病院と協力しつつ検討を行う必要性が高いものと考えられる。

このため、本ガイドラインでは、入院した精神障害者のうち、自治体が中心となって退院後の医療等の支援を行う必要があると認められる者について、各自治体が、その体制を整備しつつ、可能な範囲で積極的な支援を進めていくことができるよう、現行の法の下で実施可能な、自治体が中心となった退院後の医療等の支援の具体的な手順を整理した。

本ガイドラインに基づく退院後の医療等の支援は、精神障害者が退院後にどこの地域で生活することになっても、社会復帰の促進及び自立と社会経済活動への参加の促進等のために必要な医療等の包括的な支援を継続的かつ確実に受けられるようにすることで、地域でその人らしい生活を安心して送れるようにすることを目的として、法第47条に基づく相談支援業務の一環として自治体が中心となって行うものである。

多くのニーズや課題を抱える精神障害者が、地域で安心して生活するためには、多職種・多機関が有機的に連携し、本人のニーズに応じた包括的支援を提供する必要がある。国及び自治体は、精神障害者への退院後支援体制を整備することを通じて、行政と医療、障害福祉サービス、介護サービス等の顔の見える連携を推進し、本人の意向やニーズに応えられるよう地域の包括的支援体制を構築していくべきである。これにより、全ての精神障害者がその人らしい地域生活を送ることのできる社会を目指すことが、法の趣旨に適うものであり、地域移行の促進にもつながるものと考えられる。

自治体は、法の理念と退院後支援の趣旨を十分踏まえた上で、医療機関や地域援助事業者等の関係者と連携・協力して精神障害者の退院後支援に取り組むことが必要である。その際には、本人の支援ニーズを的確に把握し、本人及び家族その他の支援者(本人を支援している家族、支援への関与を本人が希望する友人等の支援者をいう。以下同じ。)の意向を十分踏まえながら、入院中の精神障害者が円滑に地域生活に移行することができるよう、過不足のない支援を提供すべきである。

Ⅱ.退院後支援に関する計画の作成

1.概要

2の作成主体の自治体は、法第47条に基づく相談支援業務の一環として、自治体が中心となって退院後支援を行う必要があると認められる入院中の精神障害者について、退院後に社会復帰の促進及び自立と社会経済活動への参加の促進のために必要な医療等の支援を適切かつ円滑に受けることができるよう、本人の同意を得た上で、必要な医療等の支援内容等を記載した退院後支援に関する計画(別添参考様式1、2)(以下「計画」という。)を作成することが適当である。

計画に基づく退院後支援は、入院中の精神障害者が希望する地域生活を送るための援助として、そのニーズに応じて行われるものである。このため、計画の作成に当たっては、本人の支援ニーズを的確に把握し、本人及び家族その他の支援者の意向を十分踏まえることが重要であり、本人及び家族その他の支援者が計画作成に参画できるよう十分な働きかけを行う必要がある。

作成主体の自治体は、計画の作成に当たり、原則として、退院後の医療等の支援の関係者(以下「支援関係者」という。)等が参加する会議(以下「会議」という。7で詳述)を開催し、計画の内容を協議することが適当である。

2.作成主体

支援対象者の退院後の居住地を管轄する保健所設置自治体(都道府県、保健所を設置する市及び特別区をいう。)(以下「帰住先保健所設置自治体」という。)が、計画の作成主体となり、計画に基づく相談支援等を実施することが原則である。

ただし、支援対象者が措置入院者又は緊急措置入院者の場合には、措置を行った都道府県又は政令指定都市(以下「都道府県等」という。)と帰住先保健所設置自治体が異なる場合がある。この場合には、措置を行った都道府県等が入退院の決定を行うこととなるため、当該都道府県等が、帰住先保健所設置自治体と共同して作成主体となることが適当である。この場合も、実効性のある計画を作成し、効果的な退院後支援を実施する観点から、帰住先保健所設置自治体が、計画の作成やそのための会議の開催に当たって中心的な役割を果たすことが必要である。なお、本人が地域へ退院する際には、多くの場合、入院前の居住地に戻ることになるため、入院前の居住地が確認されている場合には、当該居住地を管轄する保健所設置自治体を帰住先保健所設置自治体として取り扱う。ただし、本人が地域へ退院する際に入院前の居住地に戻らない可能性が高い場合又は入院前の居住地が不明な場合においては、帰住先が確定するまでは帰住先不明の扱いとし、措置を行った都道府県等が計画作成のために必要な準備を進める。

作成主体となる自治体の具体的な機関としては、法第47条に基づく相談支援を行っている保健所等の機関が想定される。

3.支援対象者

計画は、作成主体の自治体が、自治体が中心となって退院後の医療等の支援を行う必要があると認めた入院中の精神障害者のうち、計画に基づく支援を受けることに同意した者について作成する。

措置入院者については、都道府県知事等が入退院の決定を行うものであり、退院後支援に自治体が関与する必要性が高いと考えられるが、まずは、措置入院者のうち退院後支援を実施する必要性が特に高いと認められる者から支援対象とするなど、自治体の支援体制に応じて対応していくことが考えられる。また、医療保護入院や任意入院等で入院している者や、緊急措置入院後に措置入院とならなかった者についても、本人や家族その他の支援者、入院先病院から求めがあった場合等で、自治体が中心となって退院後支援を行う必要性が高いと認められる場合には、自治体の支援体制に応じて可能な範囲で支援対象とすることが考えられる。

4.計画作成についての本人の同意、本人及び家族その他の支援者の参画

計画の作成は、本人に対して計画に基づく支援の必要性等について丁寧に説明し、本人から、自治体が計画を作成すること、退院後は計画に基づき支援関係者が協力して退院後支援を実施すること、計画の作成・実施に必要な本人の情報及び作成された計画を支援関係者間で共有すること等について同意を得た上で行う。作成主体の自治体は、本人から同意を得たことについて記録を行うことが適当である。

計画の作成に当たって、十分な説明を行っても、本人から同意が得られない場合には、計画の作成は行わない。

ただし、この場合も、作成主体の自治体は、本人や家族その他の支援者に対して、その希望に応じて保健所等の職員が退院後の支援等について相談に応じることができる旨を伝える等、必要に応じて法第47条による相談支援等を提供できるよう環境調整等を行うことが望ましい。

退院後支援は、支援対象者が必要な医療等の支援を受けることで、本人が希望する地域生活の実現と維持を図ることが目的であるため、本人の支援ニーズを的確に把握し、本人及び家族その他の支援者の意向を十分に踏まえて作成することが重要である。このため、計画の作成主体及び入院先病院は、本人及び家族その他の支援者が7の会議への参加等を通じて計画作成に参画ができるように、十分な働きかけを行う必要がある。その際、本人に視覚障害、聴覚障害、知的障害等が重複している場合には、障害特性に応じた合理的配慮の提供が必要である。

5.計画作成の時期

作成主体の自治体は、原則として入院中(措置入院の場合は措置解除を行うまでの間)に計画を作成する。

ただし、

・ 入院期間が短い場合

・ 計画の内容の検討に時間を要し、入院中に作成することが難しい場合

・ その他精神医療審査会の審査の結果に基づき退院させる場合等入院中に計画を作成できないことについて、やむを得ない事情がある場合

は、退院後(措置入院の場合は措置解除後)速やかに作成するものとする。

この場合も、退院前に、計画の作成等について本人の意向を確認しておくことが望ましい。

この点、措置入院者については、都道府県知事等は、入院を継続しなくても精神障害による自傷他害のおそれがないと認められるに至ったときは、直ちに措置入院者を退院させなければならないとされている。(法第29条の4)

このため、措置症状が消退しているにもかかわらず、計画に基づく支援について本人の同意が得られないことや、計画の作成に時間を要していることを理由として措置入院を延長することは、法律上認められない。

措置入院者に計画を作成する場合には、この点に厳に留意することが必要である。

6.計画の内容

(1) 計画の記載事項

計画には、本人の支援ニーズに応じ、次の各事項を記載することが適当である(参考様式1、2)。

ア.本人の氏名、生年月日、帰住先住所、連絡先

イ.精神科の病名、治療が必要な身体合併症

ウ.今回の入院年月日

エ.入院先病院名及び連絡先

オ.退院後の生活に関する本人の希望(就労・就学、家庭、娯楽等)

カ.家族その他の支援者の氏名、続柄、連絡先、退院後支援に関する意見

キ.退院日(予定)

ク.入院継続の必要性

ケ.【入院継続の場合のみ】予定されている入院形態、推定入院期間(転院の場合(身体科への転院を含む。)は、転院先病院名及び連絡先)

コ.医療・障害福祉サービス・介護サービス等に関する基本情報

サ.退院後に必要な医療等の支援の種類(精神科外来通院、保健所等による相談支援、外来診療以外の精神科医療サービス、身体合併症治療、障害福祉サービス、介護サービス、その他)

シ.退院後支援の担当機関名、本人の支援ニーズ・課題、支援内容、連絡先(担当者)

ス.必要な医療等の支援の利用が継続されなかった場合の対処方針

セ.計画に基づく支援期間

ソ.【推奨項目】病状が悪化した場合の対処方針

上記の項目に加え、計画に基づく支援期間中に転居した場合には本人の同意を得た上で転居先の自治体に計画に関する情報を提供する旨を付記する。

なお、措置解除後に医療保護入院等により入院を継続する場合は、入院継続となる段階で作成する計画は、参考様式1における入院継続時の必須記入項目を記載すれば足りる。この場合、本人が、医療保護入院等から退院した後も、引き続き自治体による退院後支援を受けることを希望している場合には、医療保護入院等から退院する段階で、全ての項目を記載した計画に見直し、当該計画に基づき必要な支援を行うことが望ましい。

(2) 必要な医療等の支援の利用が継続されなかった場合の対処方針及び病状が悪化した場合の対処方針

必要な医療等の支援の利用が継続されなかった場合の対処方針として、例えば、本人が通院先の外来を受診しなかった場合には、通院先医療機関から本人の居所に電話連絡を入れる、通院先医療機関の看護師が精神科訪問看護・指導を実施する、通院先医療機関が自治体に連絡し自治体職員が訪問する、家族その他の支援者や関係機関に照会を行う、といった種々の対応が考えられる。これらの対処方針については、会議においてあらかじめ協議を行い、本人がその必要性を理解できるように丁寧に説明することが必要である。

病状が悪化した場合の対処方針とは、病状悪化を未然に防ぎ、病状が悪化したときでも可能な限り本人の意向に添った対応を行うことを目的に、病状悪化の兆候に気づいたときに本人が行う対処や、支援関係者及び家族その他の支援者が行う対処等をあらかじめ確認しておくものである。このため、計画の作成に当たっては、この対処方針をあわせて作成することが望ましい。この対処方針は、医療機関において、本人との話し合いにより、当初案を作成し、会議において協議した後、計画の一部として決定する。

病状が悪化した場合の対処方針には、次の各項目が含まれる。

・ 病状悪化の兆候

・ 病状悪化の兆候に気づいたときに本人が行う対処

・ 病状悪化の兆候に気づいたときに支援関係者及び家族その他の支援者が行う対処

・ 緊急連絡先

医療機関においては、病状が悪化した場合の対処方針を作成する意義や活用方法について、本人に十分説明した上で、本人との共同作業によりこの対処方針の案を作成する。

(3) 計画に基づく支援期間

自治体が中心となって行う計画に基づく支援期間は、本人が希望する地域生活に円滑に移行するための期間として、退院後6ヶ月以内を基本として設定する。具体的な支援期間については、本人の意向や病状、支援ニーズ、退院後の生活環境等を踏まえて適切に設定し、不要に長い期間となることがないよう留意する。

最初に設定した支援期間が満了した場合は、原則として、計画に基づく支援を終了する。このため、自治体は、計画に基づく支援期間が終了した後に既存の精神保健医療福祉サービス等による支援に円滑に移行できるよう、支援期間中から地域における既存サービスの活用やネットワークの構築を図ることが適当である。

ただし、本人の病状や生活環境の変化(例えば、支援を終了すると本人の病状が悪化して危機的状況に陥るおそれが高い場合等)によっては、本人の同意を得た上で、例外的に、支援期間の延長を行うことが考えられるが、その場合も、延長は原則1回とし、退院後1年以内には、計画に基づく支援を終了して本人が地域生活を送ることができるよう努めることが適当である。計画に基づく支援期間に関して、本人及び家族その他の支援者の理解と納得を得られるよう、作成主体の自治体は、最初の計画作成の段階で、支援期間の延長があり得る旨も丁寧に説明することが適当である。

(4) 計画内容に関するその他の留意事項

計画作成にあたっては、本人の病状や支援ニーズに応じた過不足のない支援を提供できるように留意する。例えば、比較的支援ニーズが小さく、病状も安定しているような場合には、外来通院と必要に応じた保健所等による相談支援を行う旨のみを記載した計画とすることも考えられる。

入院前から障害福祉サービスを受けている場合や、入院後に障害福祉サービスを利用する場合には、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成17年法律第123号。以下「障害者総合支援法」という。)に基づくサービス等利用計画やサービス毎の個別支援計画が、計画とは別に作成される。このため、計画の支援内容や担当機関等については、障害者総合支援法に基づく各計画の内容との整合性を図る必要がある。介護保険法(平成9年法律第123号)に基づく居宅サービス計画等についても同様である。計画の作成時に障害福祉サービス等の具体的な内容や担当機関等が未定の場合は、計画には、その作成時点で予定されているサービス内容等を記載し、事後に作成されたサービス等利用計画等の内容を、本人の同意を得た上で、追加資料として支援関係者と共有する。

計画については、地域で生活を行うために十分な内容とする観点から、その作成の際、都道府県等の常勤、非常勤、嘱託の精神科医や精神保健福祉センターの精神科医など、地域の社会資源等に係る知識を有する者の意見を聴くことも有用と考えられる。

7.会議の開催

(1) 概要

計画の作成にあたっては、原則として、入院中に会議を開催し、支援関係者等で計画の内容等を協議することが適当である。

計画は、本人の社会復帰の促進等のために作成するものであるため、会議には、本人及び家族その他の支援者の参加を原則とする。

(2) 設置主体、事務局

会議の設置主体は、計画の作成主体の自治体である。

措置入院者又は緊急措置入院者の場合に、措置を行った都道府県等と帰住先保健所設置自治体が共同で計画を作成する場合には、帰住先保健所設置自治体が会議の設置主体となることを原則とし、措置を行った都道府県等は、支援関係者として参加する。ただし、帰住先保健所設置自治体が遠方であって、入院先病院への移動が困難であるなど、相応の理由がある場合には、入院中に開催する会議については、措置を行った都道府県等が設置主体となり、帰住先保健所設置自治体が支援関係者として参加することとしても差し支えない。この場合、帰住先保健所設置自治体は、会議への出席が困難な場合は、電話やインターネット回線等を活用して支援関係者と協議を行うこととして差し支えないが、本人が地域に退院した後、帰住先において、改めて会議を開催することが望ましい。

会議の日程調整、記録の作成等、関係事務を行う事務局は、会議の設置主体となる自治体の保健所等の機関が担うことが想定される。

(3) 参加者

① 本人及び家族その他の支援者の参加

計画は、本人及び家族その他の支援者の意向を十分に踏まえた上で作成することが必要である。

このため、会議には、本人及び家族その他の支援者の参加を原則とする。その際、事前に本人及び家族その他の支援者に計画や会議の目的と参加の意義について丁寧に説明し、その参加を促すものとする。ただし、家族の参加に関しては、本人の意向を尊重し、本人が同席を望まない家族は原則として参加しないこととする。しかしながら、本人の病状の影響により家族との関わりを忌避する場合もあることを考慮し、本人を支援する意志を表示している家族が計画の作成過程から排除されることのないよう、作成主体の自治体は、会議の前後で当該家族の意向を確認する等の配慮を行う必要がある。本人又は家族その他の支援者が会議への参加を希望しない場合や、本人の病状や家族その他の支援者の事情により本人又は家族その他の支援者の参加が困難な場合には、例外的にこれらの者が会議に参加しないことはありえるが、この場合も、作成主体の自治体は、事前又は事後にその意向を確認する機会を設けるなど、本人及び家族その他の支援者の意向を計画に反映させるための対応を行うべきである。

② 弁護士等の代理人の参加

本人が、弁護士等を成年後見人や代理人として、会議に参加させることを希望する場合には、これらの者を会議に参加させるものとする。

③ 支援関係者

会議は、原則として本人及び家族その他の支援者の参加を得た上で、支援関係者により構成し、開催する。具体的には以下の者等が支援関係者となることが想定され、設置主体の自治体が、本人の支援ニーズその他の状況に応じて決定する。本人から、支援関係者に関する具体的な意思表示(支援を希望する機関、支援を希望しない機関等)があった場合は、本人の希望を尊重するよう努める。

なお、【】内は、実際に会議に出席することが想定される担当者を示したものである。

会議に出席できなかった支援関係者については、会議の前後で事務局が個別に協議し、その内容を記録することが適当である。

ア.作成主体の自治体【精神保健医療福祉担当部局、保健所、精神保健福祉センター等の職員】

イ.帰住先の市町村(保健所を設置する市を除く。以下同じ。)【障害福祉担当課、生活保護担当課、地域包括支援センター、市町村保健センター等の職員】

ウ.入院先病院【主治医、退院後生活環境相談担当者(9(1)で詳述)、看護師、作業療法士、臨床心理技術者等】

エ.通院先医療機関【主治医、精神保健福祉士、看護師、作業療法士、臨床心理技術者等】

オ.入院前の通院先医療機関【主治医、精神保健福祉士、看護師、作業療法士、臨床心理技術者等】

カ.地域援助事業者その他の障害福祉サービス、介護サービス事業者【担当職員】

キ.訪問看護ステーション【担当職員】

ク.NPOなどの支援機関【担当職員】、民生委員等

なお、会議には防犯の観点から警察が参加することは認められず、警察は参加しない。

例外的に、例えば、退院後に再び自殺を企図するおそれがあると認められる者や、繰り返し応急の救護を要する状態が認められている者等について、警察が支援関係者として本人の支援を目的に参加することは考えられるが、この場合は、事務局は、本人及び家族その他の支援者から意見を聴いた上で、警察以外の支援関係者間で警察の参加についての合意が得ることが必要である。この際、本人が警察の参加を拒否した場合には、警察を参加させてはならない。

警察の参加に関する本人、家族その他の支援者、支援関係者の意見の確認は、客観性を担保する観点から、書面等により行うことが望ましい。

(4) 開催時期

会議の事務局は、本人の症状が一定程度落ち着き、退院後支援のニーズをある程度評価できるようになった段階で、入院先病院から提出された計画に係る意見書(参考様式3、4)及び退院後支援のニーズに関するアセスメント(9(2)で詳述。参考様式5)の結果を踏まえて、会議の開催時期及び支援関係者を検討する。その上で、支援関係者及び本人、家族その他の支援者と調整を行い、会議の開催日を設定する。

退院前に会議を開催することが原則であるが、開催が困難な場合は、退院後可能な限り早期に開催する。会議の開催日は退院前に決定しておくことが望ましい。

なお、措置入院者が入院形態を変更して入院を継続する場合は、措置入院中に作成する計画の作成にあたって会議を開催することは要しない。

また、医療保護入院者に計画を作成する場合に、法第33条の6の規定に基づく退院支援委員会の開催予定時期に近接して会議の開催が予定されているときは、会議の開催をもって退院支援委員会の開催とみなすことができる。ただし、会議の開催後に、病状の変化等により地域への退院の時期を再検討する必要が生じた場合には、退院支援委員会は当初予定されていた時期に開催することが適当である。

(5) 開催方法

会議は対面で協議することを原則とするが、遠方等の理由で参加が困難な支援関係者がいる場合などには、電話やインターネット回線等を活用して協議を行うこととしても差し支えない。

(6) 開催場所

本人の入院中に開催される会議は、本人の参加を容易にするため、原則として入院先病院内で開催する。本人が地域へ退院した後で開催される会議は、地域の実情に合わせ、本人の参加しやすさを勘案して開催場所を決定する。

(7) 協議内容

会議においては、入院先病院から提出された計画に係る意見書(参考様式3、4)や直近の退院後支援のニーズに関するアセスメント(9(2)で詳述。参考様式5)の結果等を踏まえ、以下の項目について情報共有及び協議を実施することが考えられるが、協議内容は、本人の状態やニーズに応じて柔軟に設定して差し支えない。

会議において資料を共有する際には、退院後支援のニーズに関するアセスメントの項目に慎重に扱うべき個人情報が含まれていることを考慮し、必要に応じて参考様式6を活用するなど、資料の提示方法を工夫する等の配慮を行うことが望ましい。

・ 治療経過

・ 入院に至った経緯の振り返り

・ 退院後支援のニーズに関するアセスメントの結果

・ 今後の治療計画

・ 計画の内容

(8) 会議の事務に関して知り得た情報の管理

設置主体の自治体は、支援関係者に、正当な理由なく会議の事務に関して知り得た情報(計画の内容、支援の実施状況、本人の病状等)を漏らさないこと等、会議の事務に関して知り得た情報の適正な取扱いについてあらかじめ説明し、文書により各支援関係者から当該取扱いを遵守することについて同意を得ておくことが適当である。また、各支援機関内で当該情報を共有するにあたっては、退院後支援の実施に当たり当該情報の共有が職務上必要となる者に限り、支援の実施のために必要な限度の情報を共有するに留め、本人の情報を取り扱う者全員がその責任を自覚して適切な情報管理を行うことが求められる。

(9) 会議の記録等の取扱い

会議の記録及び計画等の関係資料については、各自治体の文書管理の規則等に基づき、事務局が保存する。保存期間は、計画に基づく支援終了後、5年を目途として設定することが適当と考えられる。これらの記録は、機微な個人情報であることから、不要に長い期間保存することのないよう留意する。

各支援関係者は、退院後支援に関する資料を、同様の保存期間を設定して適切に管理するとともに、退院後支援以外の目的で使用することのないよう厳に留意するべきであり、各自治体はその旨を各支援関係者に対して周知することが適当である。

また、本人から会議の記録について情報開示の求めがあった場合には、本人に関する情報であることを踏まえ、各自治体の条例に基づき、できる限り速やかにこれに応じるよう努めることが適当である。

(10) その他の留意点

会議には本人の参加が原則であるが、参加にあたっては、本人が自らの希望や意見を十分に伝えられる環境設定が重要である。このため、会議には、本人と信頼関係が構築されている支援関係者が参加していることが重要であり、入院先病院の主治医、退院後生活環境相談担当者(9(1)で詳述)等や自治体職員等は、入院早期から本人との信頼関係構築に努めることが重要である。

8.計画の交付及び支援関係者への通知

計画を決定したときは、作成主体の自治体は、速やかに、本人に対して計画を交付する。この際、本人及び家族その他の支援者に対して、計画の内容等について再度丁寧に説明する。その際、計画の見直しや同意の撤回を申し出ることが可能である旨をあわせて説明することが適当である。これらの説明は対面により行うことが望ましいが、対面による説明が困難な場合は、郵送により交付し、電話にて説明することとしても差し支えない。

交付した計画について本人又は家族その他の支援者が見直しを求めた場合や、計画に基づく支援への同意を本人が撤回した場合の対応については、Ⅲの4及び7で後述する。

また、作成主体の自治体は、計画内容の協議を行った支援関係者に対し、作成した計画の内容を通知する。なお、本人又は家族その他の支援者の求めに応じて本人に交付した計画の見直しを検討する場合や計画に基づく支援への同意を本人が撤回した場合については、その旨を速やかに支援関係者に伝えておくことが適当である。

9.入院先病院の役割

入院先病院は、計画の作成主体の自治体に協力し、以下の対応を行うことが望ましい。

(1) 退院後の生活環境に関する相談支援を行う担当者の選任

入院した精神障害者が、退院後に円滑に社会復帰等を行うためには、入院中から、退院後に必要な医療等の支援の検討が行われることが望ましい。本人の同意を得ることなく行われる医療保護入院については、こうした検討を入院中から行うことで可能な限り早期退院等を促していく観点から、既に、精神科病院の管理者に、医療保護入院者に退院後生活環境相談員を選任することが義務付けられている(法第33条の4)。

この点、措置入院は、医療保護入院と同様に本人同意を得ることなく行われる入院であり、自治体が中心となって退院後の医療等の支援が行われることが想定されるが、措置入院先病院においても、本人や家族等が退院後の生活環境に関する相談を容易に行える体制を整えておくことが望ましいと考えられる。このため、措置入院先病院の管理者は、措置入院者を入院させた場合には、退院後の生活環境に関し、本人及びその家族等の相談支援を行う担当者(以下「退院後生活環境相談担当者」という。)を選任することが望ましい。

退院後生活環境相談担当者は、計画の作成等のための病院における取組の中心的役割を果たすことが期待される。この際、本人の治療と生活支援の両面からの支援を、本人を主体とした権利擁護の視点に立って考えることが求められる。

退院後生活環境相談担当者には、当該病院の精神保健福祉士が最も適任と考えられるが、保健師、看護師、准看護師、作業療法士、社会福祉士として精神障害者に関する業務に従事した経験を有する者についても、退院後生活環境相談担当者として選任することが考えられる。

退院後生活環境相談担当者は、以下に示す業務を行うことが望ましい。なお、計画が作成されない場合には、〈計画に関する業務〉を除く業務を実施する。

〈入院時の業務〉

・ 本人及び家族その他の支援者に対して、退院後生活環境相談担当者として選任されたこと及びその役割について説明する。

・ 入院時における入院診療計画の立案に参画し、適宜本人及び家族その他の支援者に説明を行う。

〈退院に向けた相談支援業務〉

・ 本人及び家族その他の支援者からの相談に応じる。

・ 入院当初より、退院後の支援ニーズに関係する情報を積極的に把握する。

・ 本人及びその家族等と相談を行った場合には、当該相談内容について相談記録又は看護記録等に記録する。

・ 退院に向けた相談支援を行うに当たっては、主治医の指導を受けるとともに、本人の治療に関わる者との連携を図る。

・ 本人及び家族その他の支援者の意向を踏まえて、必要に応じた経済的支援制度の紹介及び申請等の支援、退院後の障害福祉サービス、介護サービス等の紹介及び利用の申請支援等、各種社会資源を活用するための支援を行う。

〈計画に関する業務〉

・ 症状が一定程度落ち着いた段階で、本人に、入院中から、本人及び家族その他の支援者とともに、自治体と連携して退院後の支援について検討を行う旨の説明を行う。

・ 自治体が作成する計画が適切なものとなるよう、他の職種と協働して退院後支援のニーズに関するアセスメントを実施し、自治体と協力して計画作成のために必要な情報収集、連絡調整を行う。

・ 入院後早期から本人との信頼関係の構築に努め、計画に関して本人が意見を表明できるよう支援する。

・ 本人の退院後の生活を想定して、自治体と協力し、入院中から通院先医療機関、行政関係者、地域援助事業者等による支援体制を形成していくための調整を行う。

・ 自治体が開催する会議への参加、院内の関係者への連絡調整を行う。

〈退院調整に関する業務〉

・ 退院に向け、自治体や支援関係者と必要に応じて連絡調整を行うこと等により、地域生活への円滑な移行を図る。

・ 他院に転院となる場合は、本人の希望や意向を十分に確認しながら、転院先病院への情報提供、転院調整等を行う。

以上の責務・役割を果たすため、退院後生活環境相談担当者は、その業務に必要な技術及び知識を得て、その資質の向上を図ることが望ましい。

なお、医療保護入院者が支援対象者となる場合には、退院後生活環境相談員が、通常の業務に加え、〈計画に関する業務〉を担うことが望ましい。

(2) 退院後支援のニーズに関するアセスメントの実施

〈概要〉

退院後支援のニーズに関するアセスメントは、入院中の精神障害者が地域に退院した後に必要な医療等の支援の内容を明らかにするための取組の一環として行われる評価である。

支援対象者の入院先病院は、本人のニーズに応じた退院後支援が実施できるよう、支援対象者について、退院後支援のニーズに関するアセスメントを実施することが望ましい。ここでいう必要な支援とは、本人が必要と考えているものと、評価者又は家族その他の支援者から見て必要と考えられるものの両方を含む。

〈実施主体〉

退院後支援のニーズに関するアセスメントは、原則として、実施時点において本人の治療に直接携わっている医療従事者が、多職種(主治医、退院後生活環境相談担当者、看護師等)による協議を経て行う。可能であれば、本人の退院後の地域生活に関わる帰住先保健所設置自治体の職員、地域援助事業者の職員、家族その他の支援者も協議に参加することが望ましい。

〈内容〉

退院後支援のニーズに関するアセスメントは、本人の生活機能、生活環境や人間関係等の環境要因、心身の状態、支援継続に関する課題、行動に関する課題等について多面的に評価するものである。(参考様式5、評価マニュアル参照)

(3) 本人の退院後の居住地に関する自治体への連絡

支援対象者の入院先病院は、支援対象者の退院後の居住地が入院前の居住地から変更になることを把握した場合は、速やかに作成主体の自治体に対して連絡を行うことが望ましい。また、住所不定の者の退院後の居住地に関しては、関係する自治体と協力して本人が居住地を確定するために必要な援助を行うことが望ましい。

(4) 計画に係る意見書等の自治体への提出

支援対象者の入院先病院は、支援対象者の症状が一定程度落ち着き、退院後支援のニーズをある程度評価できるようになった段階で、直近の退院後支援ニーズに関するアセスメントの結果を踏まえ、計画に係る意見書(参考様式3、4)を可能な範囲で記載し、当該アセスメントの結果とともに、作成主体の自治体に提出することが望ましい。

その際には、本人及び家族その他の支援者の意向を確認し、意見書の作成に本人及び家族その他の支援者が参画できるようにすることが望ましい。また、この際、入院先病院は、可能な範囲で、通院先医療機関等、具体的な支援関係者の候補も併せて作成主体の自治体に情報提供する。

(5) 会議への参加

支援対象者の入院先病院の職員は、会議に支援関係者として出席し、本人の病状や治療経過、退院後支援のニーズに関するアセスメントの結果、計画に関する意見等について説明するなど、計画の作成が適切かつ円滑に行われるよう協力することが望ましい。出席する担当者としては、主治医、退院後生活環境相談担当者、看護師、作業療法士、臨床心理技術者等が想定される。主治医が精神保健指定医(以下「指定医」という。)ではない場合には、主治医に加え、指定医が参加することが望ましい。

10.地域援助事業者の役割

前述の通り、地域援助事業者は支援関係者として会議に参加することが想定されている。とりわけ、本人が入院をする前から関わっていた事業者は、原則として会議に参加し、退院後支援のニーズに関するアセスメントの結果について意見を述べるとともに、計画の作成に関与することが望ましい。その際、本人が事前に希望している内容に十分配慮する。病状が悪化した場合の対処方針を作成する上で重要な情報となる、本人の精神症状悪化前後における様子等についても情報提供することが望ましい。計画の作成時に、相談支援事業者が作成するサービス等利用計画等、障害者総合支援法や介護保険法に基づく各種計画が既に作成されている場合には、計画にその内容を反映し、整合性を図る。計画の作成時に他の各種計画の作成が未了の場合には、各種計画が作成され次第、本人の同意を得て支援関係者にその内容を共有する。

Ⅲ.計画に基づく退院後支援の実施

1.帰住先保健所設置自治体の役割

支援対象者が地域に退院した後は、帰住先保健所設置自治体が、計画に基づき、本人及び家族その他の支援者に対して、電話、訪問、来所による相談等の相談支援を行う。また、計画に基づく支援全体が適切に行われるよう、医療等の支援の実施状況を確認し、障害者総合支援法及び介護保険法に基づく支援計画等も勘案して支援関係者と支援の実施に係る連絡調整を行うことにより、支援全体の調整主体としての役割を担う。

退院後支援の実施状況の把握や課題解決に向けた協議を行うため、帰住先保健所設置自治体は、必要に応じて会議を開催し、本人の状況に応じた適切な支援が実施できるよう調整を行う。

この役割を担う帰住先保健所設置自治体の具体的な機関としては、計画作成の場合と同様、法第47条に基づく相談支援業務を実施している保健所等の機関が想定される。また、都道府県等の精神保健福祉センターは、保健所等に対し、退院後支援に関する積極的な技術的指導・援助を行うことが望ましい。

2.各支援関係者の役割

(1) 帰住先保健所設置自治体への協力

支援関係者は、計画に沿った支援を提供するよう努める。また、会議の事務局である帰住先保健所設置自治体から、支援対象者の計画の作成や実施に係る連絡調整のために必要な範囲で、計画の作成又は見直しに関する情報提供、会議への参加、支援の実施状況の確認等の協力を求められた場合には、これに協力するよう努めることが望ましい。なお、市町村は必要に応じて、本人及び家族その他の支援者に対する福祉に関する相談等を実施し、又は精神保健に関する相談等を実施するよう努めなければならない(法第47条第3項及び第4項)とされており、本人の支援ニーズに応じ、支援関係者として、退院後支援に必要な協力を行うことが適当である。

(2) 計画に基づく支援の実施に関する留意点

計画に基づく支援の実施にあたり、障害福祉サービスや介護サービスの利用を含む包括的な支援を提供する必要がある場合は、帰住先保健所設置自治体、医療機関、地域援助事業者、市町村の担当部署等、多機関間の調整が必要となる。この場合、帰住先保健所設置自治体が調整主体となるが、本人の医療ニーズが高い場合には、通院先医療機関に、調整主体の自治体及び各支援関係者との連絡調整を円滑に行うための精神保健福祉士等の担当者が配置されていることが望ましい。当該担当者は、本人の意向や支援ニーズ等を十分に理解した上で連絡調整を行うことが重要であり、本人との面談や実際の支援の提供を通じて、本人との信頼関係の構築に努めることが必要である。

地域援助事業者は、本人の身近で生活を見守る立場にあり本人が希望する地域生活を営むことができるよう、本人の意思決定を支援し、本人の意向や生活状況等を他の支援関係者と共有するよう努めることが必要である。

3.必要な医療等の支援の利用が継続されなかった場合又は病状が悪化した場合の対応

退院後支援を行うに当たって、支援対象者が必要な医療等の支援の利用を継続しなかった場合や、精神症状の悪化がみられた場合には、帰住先保健所設置自治体は、計画にあらかじめ記載した対処方針に基づき、通院先医療機関や地域援助事業所等の支援関係者と連携、協力して対応する。その際には、本人が事前に希望している内容に十分配慮する。

通院が継続されない可能性が高い場合においては、通院先医療機関は、精神科訪問看護・指導や、訪問診療、多職種アウトリーチの実施、家族その他の支援者との連絡等により、通院中断を予防する取組を積極的に行うことが望ましい。障害者総合支援法に基づく地域定着支援や自立生活援助の活用、自立訓練(生活訓練)事業所からの訪問も推奨される。また、本人が必要な通院を継続しなかった場合には、市町村からも必要に応じて受診勧奨等を行うことが望ましい。

4.計画の見直し

帰住先保健所設置自治体は、本人又は家族その他の支援者が計画の見直しを希望した場合又は計画に基づく支援を実施する中で本人の状況に応じて支援内容等を見直す必要があると考えられた場合には、速やかに、計画の見直しについて、その必要性も含めて検討を行う。支援関係者は、支援計画の見直しの必要性を認識した場合には、速やかに、帰住先保健所設置自治体と情報共有を行う。

計画の見直しに当たっては、以下のいずれかに該当する場合には会議を開催することが適当である。

・ 計画に基づく支援期間を延長する場合

・ 見直し内容が複数の支援関係者に関係しており、協議が必要と認められる場合

計画の見直しに当たって会議を開催しない場合には、本人及び家族その他の支援者並びに見直し内容に関係する支援関係者と個別に調整を行って見直しを行う。見直し後の計画は本人に交付するとともに、支援関係者に通知する。

5.本人が居住地を移した場合の対応

(1) 概要

計画に基づく支援期間中に本人が居住地を移した場合には、社会復帰の促進及び自立と社会経済活動への参加の促進等のために、新しい環境においても、本人が必要な医療等の支援を継続的に受けることができるようにすることが重要である。このため、移転元の保健所設置自治体(以下「移転元自治体」という。)は、本人が支援期間中にその居住地を移したことを把握した場合には、本人の同意を得て、移転先の保健所設置自治体(以下「移転先自治体」という。)に対して計画の内容等を通知することが適当である。また、移転先自治体は、移転元自治体からの情報に基づき、本人の同意を得た上で、本人及び家族その他の支援者の意向を十分踏まえて、計画を作成することが適当である。

なお、「居住地」とは本人の生活の本拠が置かれている場所であり、本人が住民票を移していない場合においても、本人の生活の本拠が置かれている場所が移転した場合には、居住地を移したものとして取り扱う。

(2) 移転元自治体の対応

移転元自治体は、本人に対して、計画の交付の際等に、居住地を移す場合の取扱いについてあらかじめ説明し、居住地を移す予定が決まった場合には、事前に移転元自治体の担当者に連絡するよう依頼しておき、本人が居住地を移したことを把握した場合には、移転先自治体への通知を行う旨と通知内容等について本人に丁寧に説明し、本人の同意を得た上で、退院後支援に関する計画の内容、新居住地の住所、転居後の医療等の支援の必要性、これまでの支援の実施状況等について移転先自治体に通知することが適当である(参考様式7)。

本人が居住地を移した後、速やかに計画に基づく支援が開始できるよう、可能な場合には、居住地を移す予定が確定した段階で事前にこの通知を行うことが望ましい。また、このような対応に関して本人の理解と納得が得られるよう、移転元自治体は、平素から本人との信頼関係の構築に努めることが重要である。

(3) 移転先自治体の対応

移転元自治体から通知を受けた移転先自治体は、速やかに、本人の同意を得て、その者の計画を作成することが適当である。

その際は、移転元自治体の作成した計画の内容を踏まえつつ、会議の開催等、措置入院からの退院時の計画作成と同様の手続を経て、本人及び家族その他の支援者の意見を十分踏まえて計画を作成する。本人への交付及び説明、支援関係者への通知も同様に行う。なお、移転先自治体の計画に基づく支援期間中に、再度本人が居住地を移した場合には、その移転先の保健所設置自治体に対して、本人の同意を得た上で、同様の通知を行うことが適当である。

移転先の保健所設置自治体が作成する計画の支援期間は、原則として、移転元の保健所設置自治体が作成した計画の支援期間の残存期間とする。

6.計画に基づく支援の終了及び延長

(1) 計画に基づく支援の終了及びその後の対応

計画に基づく支援期間が満了する場合は、原則として、計画に基づく支援を終了する。支援終了の決定は、帰住先保健所設置自治体が、本人及び家族その他の支援者、各支援関係者の意見を確認した上で行う。この際、帰住先保健所設置自治体は、必要に応じた会議の開催、各支援関係者との個別協議等により、計画に基づく支援終了後の各支援関係者による対応や支援体制について確認しておくことが望ましい。

また、計画に基づく支援期間が経過する前であっても、本人の病状や支援ニーズ等から、本人が地域生活を送るに当たって計画に基づく支援を継続する必要性がないと認められる場合には、退院後支援の調整主体である自治体は計画を終了することが考えられる。なお、計画に基づく支援期間中に医療観察法の対象となった場合には、医療観察法における処遇を優先させ、計画に基づく支援を終了することが適当である。支援期間が満了する前に支援を終了する場合においても、本人及び家族その他の支援者、各支援関係者の意見を確認し、可能であれば、会議を開催した上で終了を決定することが望ましい。

支援の終了を決定した場合においては、帰住先保健所設置自治体は、本人及び家族その他の支援者、支援関係者にその旨を連絡する。なお、会議の場でこれらの者の合意が得られている場合は、改めて連絡を行う必要はない。

計画に基づく支援を終了した後も、保健所設置自治体は、法第47条に基づき必要に応じて一般的な相談支援を実施することが望ましい。

計画に基づく支援の終了後も、本人が包括的な支援を受ける必要性が高い場合には、多職種・多機関の連携による包括的支援が継続されることが適当である。この場合、通院先医療機関又は地域援助事業者が、他の支援関係者と支援の実施に係る連絡調整を行うなど調整主体の役割を引き継ぐことが望ましい。特に本人の医療ニーズが高い場合には、各支援関係者と連絡調整を円滑に行うための精神保健福祉士等の担当者が、通院先医療機関に配置されていることが望ましい。

(2) 計画に基づく支援期間の延長

本人の病状や生活環境の変化(例えば、支援を終了すると本人の病状が悪化して危機的状況に陥るおそれが高い場合等)によっては、例外的に支援期間の延長を行うことも考えられる。この場合には、当初の支援期間が満了する前に、会議を開催し、延長の必要性について検討を行い、本人及び家族その他の支援者に延長の必要性について丁寧に説明し、本人の同意を得た上で延長を行う。ただし、この場合も、延長は原則1回とし、退院後1年以内には、計画に基づく支援を終了して本人が地域生活を送ることができるよう努めることが適当である。

7.本人が交付された計画に基づく支援への同意を撤回した場合の対応

計画の交付後に、本人から計画に基づく支援への同意を撤回する旨の意向が示された場合には、本人の意向を傾聴し、その真意を確認した上で、必要に応じて計画内容(担当機関、支援内容、計画に基づく支援期間等)を見直すなどの対応することが考えられる。また、本人の状態に応じて、計画に記載された医療等の支援が継続されなかった場合の対処方針や病状が悪化した場合の対処方針に沿った対応を行うことも考慮する。

十分な対応を行っても、計画に基づく支援に本人から同意を得られない場合には、計画に基づく支援の終了を決定する。

その場合も、保健所等の職員が本人や家族その他の支援者から求めがあった場合に相談に応じる等、法第47条に基づく相談支援の範囲内で必要な支援を行うことが望ましい。

8.退院後支援の業務の委託

(1) 概要

計画に基づく支援は、帰住先保健所設置自治体が実施することが想定されているが、円滑に退院後支援全体の調整等を行う観点から、帰住先保健所設置自治体は、地域の医療機関等に対し、計画に基づく退院後支援に係る以下の業務を委託することができる。

・ 計画に基づく相談支援の実施

・ 各支援関係者の支援の実施状況の確認

・ 退院後支援の実施に必要な連絡調整 等

(2) 業務委託を実施する場合の留意点

地域の医療機関等に計画に基づく支援に係る業務を委託する場合には、これらの業務が、支援対象者が退院後に必要な医療等の支援を継続的に受けられるようにするための重要な業務であることをから、以下の点に留意が必要である。

・ 委託先の選定過程及び委託に係る費用を公開すること

・ 委託先の医療機関等(※)は、多職種の配置等がなされ、一定程度、精神障害者の退院後支援の実績を有すること

※ 訪問看護ステーション、相談支援事業者等が医療機関と連携して支援体制を確保することも想定

・ 委託元は、委託先と、定期的なミーティングを実施し必要に応じて助言を行うなど、密接な連携をとること

・ 委託元は、必要に応じて本人又は家族その他の支援者に連絡を行い、委託先の医療機関等による業務が適切に行われていることを確認すること

・ 委託元は、委託先における業務の実施状況、個人情報管理及び記録の適切性等について定期的に把握及び評価すること。これらの評価は、外部委員が参加する評価委員会において実施することが望ましい。

・ 委託先の医療機関等の名称、委託期間、委託事例数等、委託に関する状況を公開すること

9.退院後支援の体制整備、実施状況の適切な把握

自治体は、自治体が中心となって退院後の医療等の支援を行うことが必要であると認められる者について、必要な支援を提供できるよう、精神保健福祉士等の専門職の配置や研修の実施を行うなど、必要な体制整備を進めることが望ましい。

退院後支援の実施状況に関しては、各保健所設置自治体において、計画の作成数(単独・共同作成の別)、計画に基づく支援期間及び転帰、会議の開催状況、職員1名あたりの担当者数等を把握し、適正な運用となるよう努めることが適当である。

<参考:計画作成の具体的な手順の流れ>

計画を作成する具体的な手順の流れを以下に示す。

① 計画の作成に向けた手続等の確認【作成主体の自治体、入院先病院】

作成主体の自治体は、入院先病院との間で計画の作成に向けた今後の手続(③~⑨)等について確認する。

※ 措置入院の場合は、措置を行った都道府県等が、措置入院後速やかに確認を行うことが望ましい。

② 退院後生活環境相談担当者の選任【入院先病院】

Ⅱ9(1)参照。なお、医療保護入院者の場合は、退院後生活環境相談員が通常の業務に加え、計画の作成に関する業務を担うことが望ましい。

③ 計画に関する説明と本人の意向の確認【作成主体の自治体、入院先病院】

Ⅱ4参照。本人の症状が一定程度落ち着いた段階で、作成主体の自治体は、必要に応じて入院先病院と協力しつつ、計画に基づく支援に関する説明を行い、計画の作成等について本人の意向を確認し、その同意を得る。

④ 退院後支援のニーズに関するアセスメントの実施【入院先病院】

Ⅱ9(2)参照。支援対象者の入院先病院は、支援対象者について、退院後支援のニーズに関するアセスメントを実施することが望ましい。

⑤ 計画に係る意見書等の自治体への提出【入院先病院→作成主体の自治体】

Ⅱ9(4)参照。入院先病院は、支援対象者の症状が一定程度落ち着き、退院後支援のニーズをある程度評価できるようになった段階で、直近の退院後支援のニーズに関するアセスメントの結果を踏まえ、計画に係る意見書を作成し、当該アセスメントの結果とともに、作成主体の自治体に提出することが望ましい。

⑥ 会議の開催【作成主体の自治体、入院先病院、地域援助事業者等】

Ⅱ7参照。なお、措置解除後に医療保護入院等で継続して入院する場合には、会議の開催は不要である。

⑦ 計画の決定【作成主体の自治体】

作成主体の自治体は、退院後支援のニーズに関するアセスメントの結果、計画に係る意見書、会議における協議内容等を踏まえ、計画を決定する。

※ 措置入院の場合には、入院先病院の管理者は、症状消退届を提出する際に、本人の直近の状態等からその時点で作成されている計画の内容を修正する必要があると認めた場合には、症状消退届の「訪問指導等に関する意見」又は「障害福祉サービス等の活用に関する意見」の欄に、修正意見を記載して提出することが適当である。作成主体の自治体は、この内容も踏まえて計画を決定する。

⑧ 計画の交付、支援関係者への通知【作成主体の自治体】

Ⅱ8参照。

(注)

・ 入院期間が短い場合や、計画の内容の検討に時間を要し、入院中に作成することが難しい場合等は、退院後速やかに計画を作成する(Ⅱ5参照)。

・ 措置解除後に医療保護入院等で継続して入院する者が、医療保護入院等から地域に退院した後も、引き続き自治体による退院後支援を受けることを希望している場合には、医療保護入院等から退院する段階で会議を開催して、全ての項目を記載した計画に見直し、当該計画に基づき必要な支援を行うことが望ましい。

参考様式1

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参考様式2

参考様式3

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参考様式4

参考様式5

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参考様式6

参考様式7