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○「措置入院の運用に関するガイドライン」について

(平成30年3月27日)

(障発0327第15号)

(各都道府県知事・各指定都市市長あて厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長通知)

(公印省略)

今般、全国の地方公共団体で、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和25年法律第123号)における措置入院の運用が適切に行われるよう、「精神障害者の地域生活支援を推進する政策研究」(研究代表者:国立研究開発法人精神・神経医療研究センター 藤井千代)における検討内容を踏まえ、同法における通報等の中でも特に件数の多い警察官通報を契機とした、措置入院に関する標準的な手続を整理し、「措置入院の運用に関するガイドライン」として取りまとめましたので、通知します。

各都道府県及び指定都市におかれては、管内市区町村及び関係機関等に対し、本ガイドラインについて周知いただくとともに、本ガイドラインを踏まえて、措置入院の適切な運用に努めていただくようお願いします。

なお、本通知については、警察庁からも都道府県警察本部に周知いただくよう依頼しております。

また、本通知(Ⅲ4、Ⅳ11、Ⅷ及びⅨを除く。)は地方自治法(昭和22年法律第67号)第245条の9第1項及び第3項の規定による処理基準であることを申し添えます。

[別添]

措置入院の運用に関するガイドライン

平成30年3月

厚生労働省

目次

Ⅰ.本ガイドラインの趣旨

Ⅱ.警察官通報の受理

1.警察官通報の趣旨

2.警察官通報の受理

Ⅲ.警察官通報の受理後から措置診察まで

1.事前調査の実施

2.事前調査時に確認すべき事項

3.措置診察を行わない決定をすることが考えられる場合

4.措置診察が不要となった後の支援

5.措置診察の要否判断を保留とすることが考えられる場合

6.刑事手続等との関係

7.外国人の被通報者の取扱い

Ⅳ.措置診察

1.指定医の選定

2.指定医の確保

3.一次診察と二次診察の運用

4.措置診察の場所

5.措置診察又は措置入院のための移送

6.都道府県等の職員の立会い

7.措置診察に必要な立入り

8.診察の通知

9.診察時の都道府県等からの情報提供

10.措置診察

11.措置入院が不要となった後の支援

Ⅴ.緊急措置入院の運用

1.緊急措置入院の要件

2.緊急措置入院後の対応

Ⅵ.措置入院の実施

1.措置入院の決定

2.措置入院者に対する告知

3.措置入院先病院に対する情報提供

Ⅶ.措置解除

Ⅷ.地域の関係者による協議の場

1.地域の関係者による協議の場の設置

2.協議の場における情報の取扱い等

Ⅸ.運用マニュアルの整備、研修の実施

Ⅰ.本ガイドラインの趣旨

本ガイドラインは、全国の地方公共団体(以下「自治体」という。)で、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和25年法律第123号。以下「法」という。)における措置入院の運用が適切に行われるよう、法における通報等の中でも特に件数の多い警察官通報を契機とした、措置入院に関する標準的な手続を示したものである。

各自治体においては、本ガイドラインの内容を踏まえ、警察等の関係機関と協力の上、措置入院の適切な運用に努められたい。

Ⅱ.警察官通報の受理

1.警察官通報の趣旨

法第23条に基づく警察官通報の規定は、他の申請・通報・届出と同様、当該通報に基づき、都道府県知事及び政令指定都市の長(以下「都道府県知事等」という。)が調査の上で措置診察の要否を判断し、必要があると認めるときには精神保健指定医(以下「指定医」という。)による措置診察を経て措置入院を行うことを通じて、精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれ(以下「自傷他害のおそれ」という。)のある精神障害者に対し、適時適切な医療及び保護を提供するためのものである。

法第二十三条 警察官は、職務を執行するに当たり、異常な挙動その他周囲の事情から判断して、精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認められる者を発見したときは、直ちに、その旨を、最寄りの保健所長を経て都道府県知事に通報しなければならない。

2.警察官通報の受理

警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から判断して、精神障害のために自傷他害のおそれがあると認められる者を発見した場合、可能な限り早い段階で、都道府県知事等に通報する必要がある。

警察官通報は、いわゆる要式行為たることを要しないとされており、文書のほか、口頭、電話など全ての通報手段を用いることが可能である。

都道府県及び政令指定都市(以下「都道府県等」という。)の職員は、警察官通報の受理に当たって、(1)に掲げる事項について確認する。

(1) 都道府県等の職員が確認すべき事項

① 「警察官通報」であること

精神障害者について、警察から都道府県等に連絡する場面は、法第23条に基づく警察官通報のほか、法第47条第1項の相談があるため、まず、警察官からの連絡が「警察官通報」であることを確認する。

なお、警察と自治体との「警察官通報」以外の協力の在り方については、(2)に示す。

② 被通報者の通報時点の所在等

被通報者がどこに所在しているのか、また、警察官職務執行法(昭和23年法律第136号。以下「警職法」という。)第3条等に基づき保護されている又は刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)に基づき逮捕されている状況か否かについて確認する。

③ 警察官が対象者を発見した状況

警察官がいつ(時間)、どこで(場所)、どのような状況の被通報者を発見したのかを確認する。

④ 精神障害のために自傷他害のおそれがあると認めた異常な言動その他周囲の事情

警察官が、被通報者のどのような言動その他周囲の事情に鑑み、精神障害や自傷他害のおそれを認めたのか、具体的な状況を確認する。その際には、精神疾患の既往歴の有無、覚せい剤等の違法薬物の使用を疑う状況の有無、アルコール摂取の有無について、判明している範囲で確認する。

⑤ 被通報者の外傷や意識障害等の有無・程度

措置診察に係る手続に優先して、身体的な診療を行う必要があるか否かを確認するため、被通報者の外傷や意識障害(呼びかけや刺激に反応しない、次第に呼びかけに応じなくなる等の所見の有無)、呼吸状態の悪化、発熱、けいれん等の有無、程度を確認する。

⑥ 被通報者の家族やかかりつけ医の有無、状況等

被通報者と同行している家族や知人等の有無を確認するほか、同行の有無に関わらず、被通報者の家族やかかりつけ医等の有無、その連絡先等を警察官が把握しているか確認する。

(2) 警察と自治体との「警察官通報」以外の協力

警察が様々な活動の中で接した精神障害者については、警察官通報の要件に該当しない場合であっても、精神保健医療福祉に関する支援が必要と認められる場合がある。自治体は警察官からこうした精神障害者に対する支援についての相談があった場合には、法第47条第1項又は第2項に基づき、必要に応じて、その相談に応じ、本人又はその家族等に対し、精神障害の状態に応じた適切な医療施設の紹介を行うなど、これらの者が必要な精神保健医療福祉の支援を受けられるよう積極的に対応することが望ましい。

一方、自治体が支援等に関与している事案において、警察官の臨場を要請することが必要な場合もあると考えられる。自治体は、警察との間でこれらの対応や協力が適切かつ円滑になされるよう努める必要がある。

(3) 警察官通報として受理する際の留意点

① 被通報者が保護・逮捕等されていない状況での通報

警察官が、精神障害のために自傷他害のおそれがあると認められる者を発見する場合としては、警察官がこれらの者を警職法第3条により保護した場合や、犯罪の被疑者を逮捕した後、当該被疑者に精神障害のために自傷他害のおそれがあると認められた場合等が考えられる。

ただし、次のような場合には、被通報者が保護・逮捕等されていない状態でも通報が行われる可能性があることに留意する必要がある(※)。

(ア) 被通報者に外傷、その他の身体疾患があり、身体的治療を優先して病院に搬送された場合

(イ) 被通報者が病院内又は児童相談所等の施設に所在している等の状況において、当該機関の職員等の関係者から警察に通報された場合

(ウ) 被通報者を現に監護できる者がいるなど、警察が保護をする必要がない場合

また、次のような場合には、被通報者が保護された上で警察官通報が行われた後に、保護が解除されている可能性があることに留意する。

(エ) 保護・通報の後に、被通報者の監護が可能な家族等が被通報者を引き取る等、警察において保護を継続する必要がなくなった場合

これらの場合には、事前調査を行う際に困難を生じる可能性があることから、通報又は保護が解除された旨の連絡を受けた段階でその経緯を確認するとともに、どのような方法で事前調査すべきかについて、必要に応じて、通報元の警察や被通報者が搬送された病院等と調整することが必要である。

(※) 法第23条は、昭和40年の改正前は、警職法第3条の規定によって保護された事例についてのみ通報することとされていた。しかし、現実には、犯罪の被疑者を逮捕した後、当該被疑者に精神障害のために自傷他害のおそれがあると認められた場合に通報されるケースも多く含まれていたことから、同改正により実態に即した形に改められた。このように、法においては、警察において保護や逮捕等がなされた事例が警察官通報の対象となることが想定されている。

一方で、警察官が行う精神錯乱者の保護は、警職法第3条第1項に基づいて行われるが、同項は、「精神錯乱により自己又は他人の生命、身体、財産に危害を及ぼすおそれのある者で、応急の救護を要すると認められる者」を保護しなければならないとしており、法第23条の通報の要件と「応急の救護を要する」という点で差異が生じている。すなわち警察官は、精神錯乱により自傷他害のおそれがある者であっても、その者の所在する場所や、保護によらなくてもその者を監護できる等の状況から、直ちに応急の救護を要すると認められない場合は保護をしないこと、または保護の上警察官通報を行った後であっても、保護を解除することがありえる。このため、上記のような場合には、被通報者が保護・逮捕等されていない状態でも警察官通報が行われる可能性がある。

また、法第23条においては、精神障害のために自傷他害のおそれがあると認められる者を発見した時は、直ちに、その旨を通報しなければならないとしているが、ここでいう「直ちに」とは、被通報者に対する緊急的な医療的処置よりも優先されることを意味しない。すなわち、被通報者に対する医療の確保が結果的に警察官通報よりも先んじる状況も想定される。

② 警察官が「精神障害のために自傷他害のおそれがあると認められる」状況を視認していない状況での通報

警察が、被通報者の家族からの相談を受けたのみであるなど、被通報者を視認していない場合は、「精神障害のために自傷他害のおそれがある」ことを合理的・客観的に判断することが困難であり、通常、警察官通報を要すべき状況とは認められないと考えられる。ただし、例外的に、以下のような場合等には、警察官が本人を視認していない場合でも、通報することがあり得ることに留意する必要がある。

(ア) 精神障害のために自傷他害のおそれがある者がいることが極めて確からしいと認めるが、その者が、直ちに警察官が臨場することが困難な場所(離島や山岳地帯等)にいる場合

(イ) その者を視認することができないものの、視認した現場の状況や、家族等からの聴き取り等、警察官が得た情報により、その者に精神障害のために自傷他害のおそれがあることが極めて確からしいと判断できる場合

これらの場合には、①の場合と同様、事前調査を行う際に困難を生じる可能性があることから、通報の段階で、どのような方法で事前調査すべきかについて、必要に応じて、通報元の警察や被通報者の家族等と調整する必要がある。

③ 被通報者が精神科病院に入院中である場合

通報の段階で被通報者が既に医療保護入院等により精神科病院に入院中である場合には、被通報者に必要な医療と保護が提供されている状況であると認められること、また、入院中の患者に係る措置入院の要否については、患者からの退院の申出の段階で、別途、法第26条の2に基づく精神科病院の管理者からの届出を受け検討されることから、警察官通報を要すべき状況とは認められないと考えられる。

ただし、入院中の精神科病院から、患者の他害行為に関する110番通報等がなされた場合や、患者が入院先の精神科病院から外出中に警察官通報を要する状況に至った場合などは、警察官通報として受理すべきであることに留意する。

Ⅲ.警察官通報の受理後から措置診察まで

1.事前調査の実施

警察官通報を受理した都道府県知事等は、原則として、その職員を速やかに被通報者の居宅等現在場所に派遣し、被通報者との面接を行わせ、被通報者について事前調査を行った上で措置診察の要否を決定する。事前調査で得られた情報は、事前調査票に記録する。事前調査に際しては可能な限り複数名の職員で行うことが望ましく、当該職員は法第48条第1項に規定する「精神保健福祉相談員」等の専門職であることが望ましい。また措置診察の要否の判断は、都道府県等において、協議・検討の体制を確保し、対応に当たった職員のみで判断するのではなく、組織的に判断することが適当である。

これらの対応が確保されるよう、都道府県知事等は、措置入院の運用に係る体制、特に、夜間・休日などに迅速な対応ができる体制を整備する必要がある。

事前調査を実施するに当たっては、被通報者及び家族等の安全や人権に十分配慮するとともに、通報を受理した際の調整等に基づき、警察や病院等と適切に連携する必要がある。特に、被通報者が保護・逮捕等されていない状況又は警察官が視認していない状況での通報においては、事前調査に際して、必要に応じて、警察に連絡し、臨場等の協力を要請することも考慮するべきである。

法第二十七条 都道府県知事は、第二十二条から前条までの規定による申請、通報又は届出のあった者について調査の上必要があると認めるときは、その指定する指定医をして診察をさせなければならない。

2~5 (略)

2.事前調査時に確認すべき事項

(1) 被通報者に関して関係者から総合的に確認すべき事項

警察官、被通報者、家族等からの聴取や被通報者の状態等を踏まえ、以下の事項について可能な限り確認する。この際、被通報者や家族等に対しては、警察官通報及び措置入院の仕組みについて十分に説明を行うことが必要である。なお、家族等からの聴取の際は、家族等自身の疲弊や、心的外傷を負っている可能性にも留意するとともに、家族等に対する支援の必要性についても検討することが適当である。

① 被通報者の外傷等や精神作用物質の摂取を疑う所見の有無等

被通報者について、措置診察より優先すべき対応がないか、また、措置診察が困難となる状況がないか確認するため、以下の事項を確認する。

被通報者が身体的な診療を必要としている場合や、被通報者が酩酊状態の場合は、措置診察の要否判断を保留すべき場合がある。(5参照)

● 被通報者の外傷や身体疾患、呼びかけに対する応答の有無や程度

● 被通報者のアルコール等の精神作用物質の摂取を疑う所見の有無

② 被通報者の言動

被通報者の言動について、以下の事項の該当の有無及び程度等を確認する。

● 幻覚・妄想又は明白な病的言動

● 社会生活における状況認知・判断の障害

● 基本的な生活維持の困難(睡眠・栄養・清潔の保持、電気・水道・ガスの確保、寒暑炎熱の防御等)

● 自傷行為又はそのおそれのある言動(今回の通報に関するもの)

・ 自殺企図、自傷、その他(※)

(※) その他の場合には、その言動が浪費や自己の所有物の損壊等、単に自己の財産に損害を及ぼすにとどまらないものか否かについても確認する。

● 他害行為又はそのおそれのある言動(今回の通報に関するもの)

・ 殺人、放火、強盗、強制性交等、強制わいせつ、傷害、暴行、恐喝、脅迫、窃盗、器物損壊、弄火又は失火、家宅侵入、詐欺等の経済的な問題行動、その他(※)

(※) その他の場合には、その言動が刑罰法令に触れる程度の行為につながるものか否かについても確認する。

(2) 警察官から特に確認すべき事項

警察官通報の受理の際に都道府県等の職員が確認すべき事項(Ⅱ2(1)参照)に関して、より詳細な情報収集を行う。また、あわせて、以下の事項についても確認する。

① (家族等が警察への通報者でない場合)警察の家族等との接触状況及び内容

② (被通報者が警察官により保護された後に保護を解除されている場合)警察官が被通報者を発見してから通報するまでの経緯、保護を解除すると判断した理由・状況、保護を解除したときの本人の様子、現時点で被通報者の監護に当たっている者の有無及び被通報者との関係等

③ (被通報者が保護・逮捕等されていない場合)警察官が被通報者を発見してから通報するまでの経緯、保護・逮捕等を要しないと判断した理由・状況、保護・逮捕等を要しないと判断したときの本人の様子、現時点で被通報者の監護に当たっている者の有無及び被通報者との関係等

(3) 被通報者から特に確認すべき事項

被通報者からは、以下の事項について確認する。

① 自傷他害行為又はそのおそれに関する被通報者の認識(問題行動の事実の認否等)

② 現在の主訴(被通報者による訴え)

③ 被通報者にとっての医療及び支援ニーズ

④ 希死念慮の有無及び程度

(4) 確認が望ましいその他の事項

被通報者、家族、主治医等担当医、被通報者の居住地を管轄する保健所や市町村その他の関係者から、以下の事項について可能な限り確認することが望ましい。

① 精神障害の診断・治療歴等の有無・状況

以下の事項につき確認する。通院先医療機関がある場合、可能な限り主治医等担当医と連絡をとって確認を行うよう努める。主治医等担当医との連絡がとれない場合には、当該医療機関の職員から可能な限り情報を得るよう努める。

● 主治医等担当医名、担当医が指定医であるかの別

● 精神科診断名、現在(3ヶ月以内)の病状

● 通院・服薬状況(現在の処方、禁忌薬)、直近受診日

● 既往歴、入院歴を含む現病歴、生活歴、家族歴

● 治療が必要な身体合併症、アレルギーの有無

● アルコール飲用歴、薬物乱用歴等

● 主治医等担当医の入院の必要性に関する意見(※)

(※) 警察官通報の原因となった問題行動と病状に関する評価、必要と思われる治療形態(非自発的入院の必要性等)に関する意見は、措置診察の要否判断における重要な参考情報である。

② 現在の生活状況

③ 家族構成

● 家族の氏名、続柄、年齢、同居・別居の別、家族関係等

④ 医療・福祉に関する基本情報

● 健康保険種別

● 自立支援医療受給の有無

● 障害年金受給の有無・等級

● 精神障害者保健福祉手帳の有無・等級

● 身体障害者手帳の有無・等級・障害名

● 療育手帳の有無・等級

● 障害支援区分認定の有無及びその区分

● 要介護認定の有無・要介護度

● 利用中の障害福祉サービス

3.措置診察を行わない決定をすることが考えられる場合

事前調査の結果、都道府県知事等が措置診察を行わない決定をすることができる場合として、以下のいずれかに該当する場合が想定される。なお、判断に迷う場合は、措置診察を行う決定をすることが適当である。

① 被通報者の主治医等担当医の見解から明らかに措置診察不要と判断できる場合

② 被通報者に精神障害があると疑う根拠となる被通報者の具体的言動(※)がない場合

③ 被通報者に措置要件に相当する自傷他害のおそれ(Ⅳ10参照)があると疑う根拠となる被通報者の具体的言動(※)がない場合

(※) ②及び③の「被通報者の具体的言動」には、警察官が通報に際して把握した被通報者の具体的言動を含む。

④ 被通報者の所在が不明又は通報を受理した都道府県等に所在していない場合

①について、措置診察の要否の判断に当たっては、その者の平素を知る専門家の意見も参照することが適当である。主治医等担当医が措置入院によらずとも適切な精神医療を確保できると判断しており、その判断に合理的な疑いの余地が乏しい場合には、担当医(特に担当医が指定医である場合)の判断を尊重して、措置診察を不要と判断するのが合理的である場合もある。

ただし、被通報者が精神医療を受けていたにもかかわらず通報されたという事実を重く見た場合、担当医の意見を重視することが必ずしも適切とは言えない場合もあることに留意が必要である。特に、被通報者の最終受診が通報時点よりも前であるほど、担当医の意見の重要性は下がることになる。

4.措置診察が不要となった後の支援

措置診察が不要と判断された場合であっても、被通報者に対するその後の支援が必要と認められる場合には、自治体は、法第47条第1項又は第2項に基づく相談指導等を積極的に行うことが望ましい。

被通報者に対するその後の支援が必要と認められるが、被通報者の居住地を管轄する保健所設置自治体が措置診察の要否判断を行った都道府県等と異なる場合は、措置診察の要否判断を行った都道府県等は、被通報者の了解を得た上で、当該保健所設置自治体に連絡し、被通報者への支援の必要性について当該保健所設置自治体に説明をすることが望ましい。

5.措置診察の要否判断を保留とすることが考えられる場合

都道府県等は、以下の①又は②に該当する場合は、措置診察の要否判断を一旦保留することが適当である。措置診察より優先すべき処置があると判断される場合は、必要な処置後の状況も加味して措置診察の要否について改めて検討し、決定することが適当である。

① 身体的な診療等、措置診察より優先すべき処置がある場合

身体科救急受診を要する程度の身体症状、外傷等がある場合は、措置診察の要否判断よりも救命等必要な身体的な診療を優先し、都道府県等は被通報者の生命及び身体予後の改善に必要な支援を行うべきである。

この場合、身体科入院中に精神医療が提供されたり、身体的な診療の実施に伴い通報対象者の精神状態が改善したりして、措置症状が速やかに消失することもあり得る。しかし、身体的な診療が必要な状態は、措置診察を直ちに行わない理由にはなるが、措置診察の必要性を阻却する理由にはならない。このため、このような事例では原則として、身体的な診療が一段落した段階で改めて事前調査を行い、措置診察の要否を判断するべきである。このことは、身体的な診療が終了した後の被通報者に継続的な精神医学的支援を実施する意味でも重要であり、身体的な診療が一段落したと判断された場合には、その診療を行った医療関係者より都道府県等に連絡するよう依頼しておくことが適当である。

なお、身体的な診療にある程度の日数を要し、かつ、重度の意識障害がある等、入院中に自傷他害のおそれが生じ得ない状況にある場合は、診察不要とすることができる。ただし、その後、状態及び状況等が変化し、精神障害による症状等への対処が必要であると認められる状況となった場合の対応(都道府県等に連絡する、精神科救急情報センターに連絡する、110番通報する等)につき、都道府県等の職員から医療関係者に説明等しておくことが適当である。

② 酩酊により精神科の診察が困難な場合

飲酒による酩酊状態で意識レベルが下がっている状態の者については、十分な精神医学的所見を得ることができず、措置入院の要否を判定できないことが多い。このため、例えば呂律が回らないほどの酩酊状態である被通報者に対して措置診察を行うことは、適切でない場合が多い。

このため、酩酊者への対応としては、酩酊により精神科の診察が困難な場合は、措置診察の要否判断を一旦保留し、酩酊状態を脱した時点において改めて事前調査を行い、措置診察の要否判断をすることが適当である。

ただし、例外的に、以下のような場合には、状況によっては、酩酊が醒めていなくても措置診察を行うことが妥当と考えられる事例もあることに留意が必要である。これらについては、警察を含めた地域の関係者による協議の場(Ⅷ参照)における協議により、円滑な運用を目指すことが望ましい。

(ア) 被通報者が精神科受診歴を有しており、主治医等担当医から、病状悪化と酩酊が関係する可能性が高いという情報提供を受けている場合

(イ) 警察が保護した者について、家族等からその者の精神疾患や服薬の状況等を聴き取った結果、その者が精神障害者であり、かつ自傷他害のおそれが酩酊によるものとは異なると強く認められる場合

(ウ) せん妄や痙攣を伴う急性中毒や離脱状態が生じている場合

(エ) 幻覚や妄想等の精神病性の症状等が物質使用中または使用直後に起こった場合

アルコール以外の精神作用物質による急性薬物中毒者への基本的な考え方は上記と同様であり、被通報者の身体に薬物が直接的な作用を起こしている、いわゆる臨床的な中毒の状態では、直ちに措置診察を行うことを避け、必要に応じ一般医療による解毒を行うべきである。中毒状態が解消した段階で措置症状が残存している可能性があれば、改めて措置診察を行う必要がある。したがって、中毒状態が解消された場合には、治療にあたった医療関係者から都道府県等に、被通報者の状態について連絡するよう依頼しておくことが適当である。

ただし、薬物中毒の場合には、アルコールによる酩酊に比べて状態像が一般人には判別しがたく、特に、薬物の影響による意識障害の有無・程度の判断は専門家でも難しいことがある。対応方針としては、被通報者の救命と病状改善を最優先とすべきである。また、判断に迷う場合は原則として措置診察を行うべきである。

6.刑事手続等との関係

被通報者が刑罰法令に触れる行為に及んでおり、措置入院の手続と刑事事件の手続等が並行することがある。

この点、法第43条及び第44条においては、法と、刑事事件や心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(平成15年法律第110号。以下「医療観察法」という)に関する手続等との関係につき、刑事事件や医療観察法に関する手続等をとる必要がある場合には、法の措置に関わらず、これらの手続を進めることができる旨等が規定されている。

被通報者が殺人、放火等の重大な他害行為を行った後、都道府県知事等に警察官通報がなされた場合、その者は医療観察法の申立ての対象となる可能性があることに留意する。

7.外国人の被通報者の取扱い

外国人が精神障害による自傷他害のおそれを疑われて警察官通報された場合、言語的障壁や文化の違い等により、措置診察には一定の配慮が必要となる。具体的な対応としては、通訳の手配、被通報者の状況をよく知る者からの情報収集、被通報者の文化的背景を勘案した上でその行動を分析すること等が考えられる。状況によっては、被通報者の国籍の領事館等に対し、身元や家族等連絡先の照会が必要となる場合がある。また、外国人の被通報者の措置入院の要否が決定した後に、当該者の保護や、帰国の援助等について、当該領事館等の見解を確認することが有用な場合がある。

Ⅳ.措置診察

1.指定医の選定

都道府県知事等は、措置診察を行う2名の指定医については、同一の医療機関に所属する者を選定しないことを原則とするべきである。また、指定医の所属先の病院に被通報者を措置入院させることについては、避けるように配慮すべきである。指定医の確保が困難である等の理由により、措置入院決定後の受入れ予定病院の指定医に措置診察を依頼することを容認せざるを得ない場合はあるものの、都道府県等は、当該病院の指定医が措置診察を行うことは避けるよう配慮することとする通知が出されていることを考慮した上で、地域の実情に合わせた最善の運用を検討すべきである。

参考:精神保健指定医の選定について(平成10年3月3日障第113号・健政発232号・医薬発第176号・社援第491号厚生労働大臣官房障害保健福祉部長・厚生省健康政策局長・厚生省医薬安全局長・厚生省社会・援護局長通知)(抜粋)

二 入院制度等の適正な運用について

(一) 措置入院制度について

ア 入院手続について

…精神保健指定医の選定に当たっては、原則として同一の医療機関に所属する者を選定しないこととするとともに、措置決定後の入院先については当該精神保健指定医の所属病院を避けるよう配慮すること。

2.指定医の確保

措置診察を行う指定医の確保体制については、あらかじめ、ある程度の取決めを行っておくことが望ましい。特に、夜間又は休日に措置入院の手続を円滑に進める上では、措置診察を行う指定医の確保体制を構築しておくことが重要となる。限られた指定医に負担が集中することのないよう、多くの指定医が措置診察に関与することのできる体制の構築が望ましい。

3.一次診察と二次診察の運用

措置診察を行う2名の指定医が被通報者を診察する際に、一次診察と二次診察を分けて行うか同時に行うかについては、いずれの運用でも差し支えない。ただし、各指定医の独立性を担保するため、同時診察や合議を行う場合にも、要措置あるいは不要措置の最終判断は、各指定医が個別に行わなければならない。例えば、二次診察を行う指定医に一次診察の診断書を提供することは望ましくない。また、一次診察と二次診察との間に時間が空いた場合には、被通報者の精神状態、意識レベル、身体の状況等が変化することもありうる。この場合、診察に立ち会った都道府県等の職員が、その間の様子も含め、その旨を二次診察を行う指定医に伝える必要がある。

4.措置診察の場所

措置診察を行う場所に関しては、特に法令上規定はされていない。ただし、措置診察の場所の決定に当たっては、事前調査を行った場所から一次診察医療機関、二次診察医療機関、措置入院先病院というように搬送を重ねることが被通報者の症状の悪化など不利益につながる場合があることを踏まえ、被通報者の状況等に応じ、できるだけ搬送が少なくすむよう必要な配慮を行うことが望ましい。

5.措置診察又は措置入院のための移送

措置診察のための被通報者の移送については、法第27条第1項の規定に基づき診察させることの一環として、必要に応じて行うことができる。ただし、この移送に当たっては、行動の制限を行うことはできない。

一方、法第29条の2の2に定める措置入院のための移送に関しては、診察を実施した指定医が必要と認めたときは、その者の医療又は保護に欠くことのできない限度において厚生労働大臣があらかじめ社会保障審議会の意見を聴いて定める行動の制限(※)を行うことができる(同条第3項)。

都道府県等の職員は、移送の対象者を実際に搬送する以前に、書面により、対象者に対して移送を行う旨等を告知することが必要である。

都道府県知事等は、移送を適切に行うとともに、搬送(車両等を用いて移動させることをいう。以下同じ。)中の被通報者の安全を確保しなければならない。ただし、対象者の状況等から消防機関による搬送が適切と判断され、当該移送が救急業務と判断される場合や、移送にかかる事務に従事する者の生命又は身体に危険が及ぶおそれがあるなど警察官の臨場を要請することが必要であると判断される場合も考えられることから、移送体制について、地域の関係者による協議の場において協議しておくことが望ましい。

移送に関する手続の詳細については、「精神障害者の移送に関する事務処理基準について」(平成12年3月31日障第243号厚生省大臣官房障害保健福祉部長通知)を参照されたい。

(※) 身体的拘束(衣類又は綿入り帯等を使用して、一時的に当該患者の身体を拘束し、その運動を抑制する行動の制限をいう。)

6.都道府県等の職員の立会い

措置診察を実施する際には、都道府県知事等は、その職員を指定医の診察に立ち会わせなければならない。当該職員は、指定医の診察が適法かつ確実に行われたかどうかを確認し、診察に当たって被診察者の確認その他指定医の診察に伴う事務的介助を行う。(法第27条第3項)

7.措置診察に必要な立入り

都道府県等の職員及び指定医は、措置診察を行うに当たって必要な限度において、被診察者の居住する場所に立ち入ることができる。この際、「居住する場所」とは、現に事実上居住している場所であって、例えば2カ所以上の場所に居住している実態があれば、そのいずれにも立ち入ることができる。また、居住地がない場合には、被診察者の滞留する場所も「居住する場所」に含まれる。被診察者の居住する場所へ立ち入る場合には、指定医及び立ち会う都道府県等の職員は、その身分を示す証票を携帯し、本人、本人を現に保護している者、本人の居住する場所を管理している者等関係者から請求されれば、これを提示しなければならない。(法第27条第4項及び第5項)

8.診察の通知

措置診察を行わせる都道府県等の職員は、措置診察に当たり、被診察者の家族等、現に本人の日常において保護の任に当たっている者に対し、診察の日時及び場所を通知する。ただし、警察署、刑務所等公的施設に収容されている者が被診察者である場合であって、家族等、本人の保護の任に当たっている者がいないか、又は不明であるときは、当該施設の長を、現に保護の任に当たっている者として通知の相手方としても差し支えない。(法第28条第1項)

これらの現に本人の保護の任に当たっている者は、措置診察に立ち会うことができる。(法第28条第2項)

9.診察時の都道府県等からの情報提供

措置診察にあたり、都道府県等は、措置診察を行う指定医に対し、事前調査の情報を必要十分な範囲で具体的に伝達すべきである。

10.措置診察

都道府県知事等の指定を受けて措置診察を行う指定医は、厚生労働大臣の定める基準(昭和63年厚生省告示第125号)に従い、措置診察をした者が精神障害者であり、かつ、医療及び保護のために入院させなければその精神障害のために自傷他害のおそれがあるかどうかの判定を行わなければならない。(法第28条の2)

この際、自傷行為とは、主として自己の生命、身体を害する行為を指し、浪費や自己の所有物の損壊等のように単に自己の財産に損害を及ぼすにとどまるような行為は、自傷行為には当たらないものであること、また、他害行為は、原則として刑罰法令に触れる程度の行為をいうものと規定されていることに留意し、慎重な判断がなされるべきである。

参考:精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第28条の2の規定に基づき厚生労働大臣の定める基準(昭和63年厚生省告示第125号)(抜粋)

第一

一 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和25年法律第123号。以下「法」という。)第29条第1項の規定に基づく入院に係る精神障害者であり、かつ、医療及び保護のために入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがある旨の法第18条第1項の規定により指定された精神保健指定医による判定は、診察を実施した者について、入院させなければその精神障害のために、次の表に示した病状又は状態像により、自殺企図等、自己の生命、身体を害する行為(以下「自傷行為」という。)又は殺人、傷害、暴行、性的問題行動、侮辱、器物破損、強盗、恐喝、窃盗、詐欺、放火、弄火等他の者の生命、身体、貞操、名誉、財産等又は社会的法益等に害を及ぼす行為(以下「他害行為」といい、原則として刑罰法令に触れる程度の行為をいう。)を引き起こすおそれがあると認めた場合に行うものとすること。

11.措置入院が不要となった後の支援

措置診察により措置入院が不要になった場合であっても、被診察者に対するその後の支援が必要と認められる場合には、都道府県等は、法47条に基づく相談指導等を積極的に行うことが望ましい。被診察者に対するその後の支援が必要と認められるが、被診察者の居住地を管轄する保健所設置自治体が措置入院の要否判断を行った都道府県等と異なる場合は、措置入院の要否判断を行った都道府県等は、被診察者の了解を得た上で、当該保健所設置自治体に連絡し、被診察者への支援の必要性について当該保健所設置自治体に説明をすることが望ましい。

Ⅴ.緊急措置入院の運用

1.緊急措置入院の要件

都道府県知事等は、措置入院の要件に該当すると認められる精神障害者又はその疑いのある者について、急速を要し、以下の①~③に示すような通常の措置入院の手続の全部又は一部を採ることができない場合において、指定医1名の診察の結果、その者が精神障害者であり、かつ、直ちに入院させなければその精神障害のために自傷他害のおそれが著しいと認めたときは、その者を緊急措置入院とすることができる。(法第29条の2第1項)

① 都道府県知事等が派遣した2名以上の指定医が診察すること

② 診察に、都道府県等の職員が立ち会うこと(Ⅳ6参照)

③ 診察について家族等に通知をし、及び診察に立ち会わせること

この際、都道府県等は、夜間及び休日であることのみをもって上記①~③の手続の全部又は一部を採ることができないとは必ずしも言えないことに留意し、可能な限り通常の手続を採るよう努めることが必要である。

緊急措置入院は通常の措置入院よりも簡略な手続で措置権限を行使するものであることから、法第29条の通常の措置症状よりも自傷他害のおそれの程度が著しいと認められる場合でなければならない。

また、緊急措置入院の場合も、できる限り事前調査を行うよう努めることが適当である。

2.緊急措置入院後の対応

緊急措置入院の入院期間は72時間を超えることはできない。(法第29条の2第3項)このため、都道府県知事等は、緊急措置入院を行った後、速やかに緊急措置入院者の措置入院の要否について決定しなければならない。(法第29条の2第2項)その際、措置診察を行う2名の指定医を選任するに当たっては、必ずしも当該緊急措置入院の要否判断を行った指定医を除外する必要はない。

また、都道府県等は、緊急措置診察において要措置判断のための判断材料となった情報は、その全てを、後に措置診察を行う指定医にも提供するべきである。

Ⅵ.措置入院の実施

1.措置入院の決定

都道府県知事等が指定した2名の指定医が診察を行い、その2名が独立して措置入院が必要であると判断をした場合、すなわち、被診察者が精神障害者であり、かつ、医療及び保護のために入院させなければ精神障害のために自傷他害のおそれがあると認めることについて各指定医の診察の結果が一致した場合には、都道府県知事等は、被診察者を、国等(国、都道府県並びに都道府県又は都道府県及び都道府県以外の地方公共団体が設立した地方独立行政法人をいう。)の設置した精神科病院又は指定病院に入院させることができる。(法第29条第1項及び第2項)

国等の設置した精神科病院及び指定病院の管理者は、既に別の措置入院者又は緊急措置入院者がいるため指定病床に余裕がない場合のほかは、措置入院者を入院させなければならない。(法第29条第4項)

2.措置入院者に対する告知

都道府県知事等は、措置入院を行う場合には、当該措置入院者に対し、措置入院を行う旨、退院等の請求に関すること及び入院中の行動制限に関することを所定の様式により書面で告知しなければならない。(法第29条第3項)

3.措置入院先病院に対する情報提供

都道府県等は、被通報者を措置入院させるにあたり、適切な入院医療を提供する観点から、措置入院先病院に事前調査及び措置入院に関する診断書の情報を提供することが適当である。事前調査や通報に関する添付資料、特に、被通報者自身が作成した文書等の資料や被通報者の直近の状況を知る上で重要な資料の情報も同様である。なお、措置入院先病院にこれらの情報に関する資料を提供するに当たっては、病院が患者等から当該資料も含めた診療記録等の開示を求められた場合には、開示の判断に当たって都道府県等に確認を行うようあらかじめ伝達しておくことが適当と考えられる。

措置入院に関する診断書は、指定医が公務員として作成して都道府県知事等に提出する性質のものであることから、提出された診断書は都道府県知事等の管理する行政文書であって、この情報を第三者に提供することを都道府県知事等の権限で実施するにあたり、作成した指定医の同意を得る必要はない。他方、措置入院に関する診断書には、指定医の氏名をはじめ、患者以外の第三者の個人情報が含まれているため、当該診断書自体を病院に提供することの是非については、各都道府県等における個人情報の取扱いに関する条例等に従う必要がある。

Ⅶ.措置解除

都道府県知事等は、措置入院者が、入院を継続しなくても精神障害のために自傷他害のおそれがない、すなわち、措置症状が消退したと認められるに至ったときは、直ちに、措置解除を行わなければならないこととされている。(法第29条の4第1項)

このため、都道府県知事等は、法第29条の5に基づき措置入院先病院から保健所長を経て提出された症状消退届を受理した場合、速やかに、措置解除の判断を行う。

都道府県知事等が措置解除の判断を適切に行えるようにするため、症状消退の事実等に疑義がある場合には、精神科医療を専門とする医師に依頼し、措置入院者の病状等につき措置入院先病院に照会することが考えられる。具体的には、都道府県等の常勤、非常勤、嘱託の精神科医や精神保健福祉センターの精神科医などが、必要に応じて対応できる体制を確保することが望ましい。

また、症状消退届の「訪問指導等に関する意見」及び「障害福祉サービス等の活用に関する意見」が空欄である場合、都道府県知事等は措置入院先病院に状況を確認し、必要に応じて追記を求めることが適当である。

措置症状が消退している場合に、退院後支援に関する計画(地方公共団体による精神障害者の退院後支援に関するガイドライン(平成30年3月27日障発0327第16号厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長通知参照))に基づく支援について本人の同意を得られないことや、当該計画の作成に時間を要していることを理由として、措置入院を延長することは、法第29条の4の規定上認められない。都道府県知事等は、患者の人権保護の観点から、こうした対応を行うことのないよう厳に留意する必要がある。

都道府県知事等は、症状消退届があった場合のほか、法第38条の6第1項に基づき、その指定した指定医に措置入院者を診察させた結果、措置症状が消退したと認められるに至ったときは、直ちに措置解除を行わなければならない。この場合は、あらかじめ、措置入院先病院の管理者の意見を聞かなければならない。この指定医による診察は、措置入院後概ね3ヶ月を経過したときに実施することが適当である。また、これ以外の場合にも必要に応じ積極的に実施するよう努めるべきである。

このほか、精神医療審査会の審査の結果、措置入院者の入院が必要でないと認められた場合には、措置解除を行わなければならない。(第38条の3第4項又は第38条の5第5項)

Ⅷ.地域の関係者による協議の場

1.地域の関係者による協議の場の設置

都道府県等は、措置入院の適切な運用に資するよう、自治体、精神科医療関係者、福祉関係者、障害者団体、家族会、警察、消防機関等の地域の関係者による協議の場を設け、

・ 本ガイドラインを踏まえた警察官通報等から措置入院までの対応方針

・ 困難事例への対応のあり方など運用に関する課題

・ 移送の運用方法

等について、年に1~2回程度を目安に協議を行うことが望ましい。

なお、各都道府県等において、地域の精神保健医療福祉体制等について協議する既存の会議体がある場合は、当該会議体を協議の場として位置付け、当該会議体にその役割を担わせることとして差し支えない。

2.協議の場における情報の取扱い等

協議の場は、措置入院の適切な運用のあり方等について、地域の関係者が協議を行うものであり、当該協議の場において個人情報を共有することは想定されていないことから、個人情報を取り扱うことのないよう厳に留意すること。

協議の場においては、地域における措置入院の適切な運用のあり方という、地域の精神障害者等に広く関わる事項を取り扱うことから、原則公開で行うことが望ましい。

また、協議の場の議事録等の記録の作成主体は協議の場を設置した都道府県等であり、その作成と保管期間は、各自治体の文書管理の規則等により設定されることとなるが、協議内容等の検証を可能とし、協議の場の適正な運用を確保する観点から、保存期間は10年を目途として設定することが適当と考えられる。使用した関係資料についても同様である。

Ⅸ.運用マニュアルの整備、研修の実施

各都道府県等は、措置入院の適切な運用を図るため、措置入院の運用について、本ガイドラインを踏まえ、運用マニュアルを整備することが適当である。

また、措置入院の運用に関わる職員に対し、本ガイドラインの内容等、その適切な運用を図るために必要な研修を行うことが適当である。その際、グループワークによるケーススタディ等実践的な内容を含める、参加者の理解度を確認してフィードバックする仕組みを設ける、近隣自治体や警察等の関係機関の職員との合同研修を実施する等、措置入院の運用に関わる職員の知識と技術を高める上で効果的な研修となるよう努めることが望ましい。