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○小児集団における医薬品開発の臨床試験に関するガイダンスの補遺について

(平成29年12月27日)

(薬生薬審発1227第5号)

(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長通知)

(公印省略)

小児集団における医薬品の臨床試験に関するガイダンスに関する指針に関しては、「小児集団における医薬品の臨床試験に関するガイダンスについて」(平成12年12月15日付け医薬審第1334号厚生省医薬安全局審査管理課長通知)により通知したところです。

今般、医薬品規制調和国際会議(以下「ICH」という。)において、小児集団における医薬品開発の臨床試験に関するガイダンスに関する補遺が別添のとおり合意されましたので、下記事項を御了知の上、貴管下関係業者等に御周知いただくようお願いいたします。

1.本補遺の要点

本補遺は小児医薬品開発のための臨床試験の基本的考え方について述べた「小児集団における医薬品の臨床試験に関するガイダンス」(以下「ICH E11」という。)の内容を補完し、かつ、小児医薬品開発に必要な新たな考え方を示すものである。具体的には、「2.倫理的配慮」、「4.年齢区分と小児サブグループ(新生児を含む)」、及び「7.小児用製剤」については、ICH E11の内容を補っており、「3.小児用医薬品開発プログラムのための科学的アプローチの共通性」、「5.小児用医薬品開発最適化へのアプローチ」及び「6.小児臨床試験のデザインと実施についての実践的側面」については、新たに全般的な指針を概説している。

2.本補遺の取扱い

本補遺はICH E11と共に参照されるものであり、それにより小児用医薬品の臨床試験が適切に実施されることを意図したものである。

3.本補遺の実施時期

本日以降に届出られる小児臨床試験に本補遺を適用する。

以上

(別添)

ICH調和ガイドライン

小児集団における医薬品の臨床試験に関するガイダンスの補遺

E11(R1)

ICHコンセンサスガイドライン

ICHステップ4採択により2017年8月18日付け公表

目次

1.緒言

1.1.ICH E11補遺(R1)の適用範囲と目的

2.倫理的配慮

3.小児用医薬品開発プログラムのための科学的アプローチの共通性

4.年齢区分と小児サブグループ(新生児を含む)

5.小児用医薬品開発最適化へのアプローチ

5.1.小児用医薬品開発における既存知識の活用

5.1.1.小児用医薬品開発における外挿の活用

5.1.2.小児用医薬品開発におけるモデリングとシミュレーションの活用

6.小児臨床試験のデザインと実施についての実践的側面

6.1.実施可能性

6.2.アウトカム評価

6.3.長期的臨床側面

7.小児用製剤

7.1.投与量と投薬

7.2.添加剤

7.3.嗜好性と許容性

7.4.新生児

8.用語集

1.緒言

1.1.ICH E11補遺(R1)の適用範囲と目的

小児用医薬品開発は初版のICH E11(2000年)発出以降進化を遂げ、小児集団に関わる規制と科学の面での進歩を考慮することが必要となった。本補遺は小児集団における医薬品の臨床試験を安全、効率的、かつ倫理的に実施するためのアプローチを概説している初版のE11の適用範囲を変えるものではない。本補遺(R1)を含め、ICH E11(2000年)は小児用医薬品開発のすべてについて包括的に記述することは意図していない。他のICHガイドラインや世界各地域の規制当局、世界保健機関(WHO)、小児科関連学会からの文書において、必要な詳細情報が提供されている。

本補遺の目的は、小児用医薬品開発上の課題に関し、必要な説明と現時点における規制上の考え方を補完・提示することである。本補遺において、「すべき」、「されるべき」という表現は、世界各地域の規制当局による見解において特定の規制又は法令上の要求として提示される場合を除き、何かを提案又は推奨するが必須事項ではないことを意味する。

第2節「倫理的配慮」、第4節「年齢区分と小児サブグループ(新生児を含む)」、第7節「小児用製剤」の各節はICH E11(2000年)を補完するものである。第3節「小児用医薬品開発プログラムのための科学的アプローチの共通性」では、各地域の小児用医薬品開発の様々な段階における科学的議論に役立つ諸問題を扱う。第5節「小児用医薬品開発最適化へのアプローチ」は小児用医薬品開発における外挿についての内容の充実を含み、また、新たにモデリングとシミュレーション(M&S)についての記載を取り入れている。第6節「小児臨床試験のデザインと実施についての実践的側面」では、実施可能性、アウトカム評価及び長期臨床的側面に関する記述を含む。これらの各節では、小児用医薬品開発において欠かすことのできない考慮すべき事項について、高位の指針となることを意図した記述とし、それぞれの領域が進歩し続けていることに配慮している。本補遺でのハーモナイゼーションは、現時点での推奨事項を明確にする一助となり、国際的な小児用医薬品開発プログラムで取得されたデータの受け入れに関して、地域による大きな違いが生じる可能性を減らし、時宜を得た小児用医薬品の利用を可能にするであろう。

2.倫理的配慮

ICH E11(2000年)2.6節では、治験審査委員会/独立倫理委員会(IRB/IEC)の役割と責任、被験者の募集、親(法的保護者)のインフォームドコンセント/パーミッションと子どものインフォームドアセント(用語集参照)、リスクと苦痛の最少化をはじめとする、小児臨床試験が倫理的に実施されるために重要な原則を扱っている。また、これらの倫理原則は、研究に参加する子どもの保護が確実に担保されることに責任をもつ、世界中の保健当局の現行の法及び規制の枠組みの中でも定義されている。

小児用医薬品開発の根本的原則として、小児の臨床試験への組み入れは、小児領域における重要な公衆衛生上の目的を達成するために必要でない限り控えるべきとされる。ある医薬品の使用にとって重要な情報を得るために臨床試験が必要な場合、このような試験は、例外とする正当な理由がない限り、当該被験薬の使用が企図される疾病又は健康状態を伴った小児集団において行なわれるべきである。実験的介入又は手技により受ける直接的な臨床的有益性の見込みがない場合には、小児被験者が曝露される予見可能なリスクと負担は低いこと、即ち、通常の臨床現場におけるリスクや負担と同程度である必要がある。臨床試験に関連して生じる負担も最小限となるように軽減されるべきである。低リスクを超えるリスクへの曝露を被験者が受けるような実験的介入又は手技には、そのようなリスクに小児集団が曝露されることを正当化するのに十分か、それを上回る臨床的有益性の見込みがなければならない。同様に、リスクと期待される臨床的有益性とのバランスは、利用可能な現行の治療法と同等以上でなくてはならず、臨床試験に組み入れられることで子どもが不利益を受けることがあってはならない。当該臨床試験から得られる知見が、小児集団の健康に将来寄与することが合理的に見込まれる必要がある。

親(法的保護者)のインフォームドコンセント/パーミッション及び子どものインフォームドアセントについての倫理的配慮の一般原則はICH E11(2000年)2.6.3項に定められており、引き続き適用される。臨床試験への参加及び親(法的保護者)のインフォームドコンセント/パーミッション、子どものインフォームドアセントを得る手順に関する情報を、親(法的保護者)には明瞭な形で、小児被験者には被験者に適切な内容で、試験登録時に提供すべきである。子どものインフォームドアセントを得る際には、インフォームドコンセントの要素のうちで必要な内容をその子の理解能力に適した形で提示するべきである。子どもがインフォームドアセントを拒否あるいは撤回する意思は、尊重すべきである。

臨床試験の過程で、子どもの年齢、成熟や理解力の発達を踏まえて本人のインフォームドアセントの内容の見直しが必要となる場合が、特に長期試験や検体の長期保管に関連して生じうる。臨床試験の実施中に、小児被験者が法的にインフォームドコンセントを与えることが可能な年齢に達する時点で、試験に継続して参加するためにインフォームドコンセントを得る必要がある。小児被験者に関する機密とプライバシーの保護については、各地域の規制に従わねばならない。

小児用医薬品開発において臨床研究の透明性を確保する方法には、臨床試験情報を公共に公開され公認されたデータベースに登録し、試験結果を公表することが含まれる。このように、客観的かつバイアスのない情報が公共に提供されることにより、臨床研究の質を高め、小児での不要な臨床試験を減らし及び小児医療における臨床的意思決定に有用な情報を与えることで、小児集団に利益がもたらされる。

3.小児用医薬品開発プログラムのための科学的アプローチの共通性

ICH E11(2000年)1.4節及び2.1節に定める一般原則は引き続き適用される。小児用医薬品開発プログラムは多地域にまたがって実施されることが多くなっている。多地域にまたがる小児用医薬品開発プログラムは、小児に関する規制要件、開発の実践的側面、標準的治療や、社会文化的な期待における地域差によって、特有の課題に直面している。これらの地域による違いから、規制当局間で小児用製品の開発における要求事項を調整する上で制約を生じる場合がある。このような違いを解決しやすくし、時宜を得た、かつ効率的な医薬品の開発のためには、下記の問いに対応した共通の科学的アプローチが必要である。

・ 当該医薬品が解決できる(単数又は複数の)小児集団における医療上の必要性とは何か?

・ どのような小児集団又はサブグループが適切な対象集団と考えられるか(第4節参照)?

・ 医薬品開発プログラムのなかで解決すべき、想定される小児での使用に即した主要課題は何か?

・ 発達生理学、疾患の病態生理学、非臨床データ、成人あるいは小児集団のデータ及び関連化合物からのデータを含めた既存知識を踏まえて、安全で有効な医薬品の使用を確立するために不足している知識は何か(第5.1節参照)?

・ どのような特定の非臨床試験が考えられるか?

・ どのような臨床試験及び/又は方法論的なアプローチが考えられるか(第5節参照)?

・ 小児に特有な臨床試験デザインの要素としてどのようなものが考えられるか(第5節参照)?

・ どのような実践的及び運用上の問題点を検討しておくべきか(第4節及び第6節参照)?

・ 至適用量の検討計画を容易にするため、また、様々なサブグループにおける小児患者の治療に対応するために、特定の小児サブグループに別途必要となる製剤/剤形又は送達のための医療機器や器具はあるか(第7節参照)?

共通の科学的アプローチは、小児用医薬品開発に関係するステークホルダー(例:臨床医、患者、学界の専門家)からの意見を考慮し、科学の進歩や最新の知識に基づいているべきである。

医薬品開発計画の早い段階で小児集団について検討すること、また、医薬品開発者と世界各地域の規制当局が早期から意見交換をすることで、小児用医薬品開発プログラムでの共通の科学的アプローチについて合意に達しやすくなる。規制当局間での考え方の差異が特定された場合には、これらの差異がもたらす影響を最小化するために規制当局間で定められている手続きが利用できる。したがって、効率的な小児用医薬品開発及び安全かつ有効な小児用医薬品の時宜を得た供給の礎となるのは、地域間の規制要件の共通化ではなく、共通の科学的アプローチである。

4.年齢区分と小児サブグループ(新生児を含む)

ICH E11(2000年)2.5節に定める一般原則は引き続き適用される。臨床試験に組み入れられる小児集団を選んだ理論的根拠が示されるべきである。小児臨床試験において、暦年齢だけでは、発達の観点からみたサブグループ分類を決定する要因として十分ではないかもしれない。小児臨床試験のサブグループを決める際には、生理学的発達及び臓器の成熟度、対象とする疾病又は健康状態の病態生理学及び自然歴、利用できる治療選択肢、被験薬の薬理作用を考慮すべきである。さらに、対象とする健康状態によっては、小児サブグループの暦年齢による恣意的な区分に科学的根拠がないことがあり、臨床試験に組み入れる集団を限定することになって小児用医薬品の開発を不必要に遅らせることになりうる。対象とする健康状態、治療、臨床試験デザインによっては、成人の試験に小児の部分集団を(第6節参照)、あるいは小児の試験に成人の部分集団を組み入れるのが適切な場合もあるだろう。

医療の進歩により、高リスクの新生児、特に早産児の生存率が向上し、いくつかの健康状態に関して新生児における医薬品開発研究の重要性が高まっている。新生児には正期産、過期産及び早産の新生児が含まれる。正期産及び過期産の新生児の新生児期は出生日+27日間と定義づけられる。早産児の新生児期は出生日から出産予定日を含む期間+27日間と定義づけられる。新生児集団は幅広い成熟度を呈することから、このような集団でみられる健康状態は相当に多様である可能性がある。したがって、臨床試験に組み入れる新生児集団又はサブグループを選択する理論的根拠を慎重に検討することが重要である。

5.小児用医薬品開発最適化へのアプローチ

ICH E11(2000年)2.4節に示されている概念が引き続き適用される。ICH E4、E5、E6、E9、E10に示されている諸原則を参照すべきである。小児臨床試験の数と小児領域の知識はICH E11(2000年)の発出以降、増加してきた。小児用医薬品開発についての個々の規制も各地域において進歩してきた。一方において、小児用医薬品開発は課題と機会を呈し続けている。例えば、倫理及び実施可能性に関する様々な問題のために、対象となる小児集団全体に亘ってデータを取得することが難しい場合がある。代替的なアプローチを本補遺に定める原則に準じて構築し開発プログラム内に統合することで、この課題に対処する機会を得られる。このようなアプローチの受け入れ可能性については、事前の段階から複数の規制当局との多角的な意見交換を行うことが推奨される。小児用医薬品開発の計画は、製品開発全体の中に組み込まれているべきである。成人対象の開発が一定の結論を得るまで立案の開始を待っていると、小児用医薬品開発にとって意義のあるデータを取得する機会に制約を生じうる。

5.1.小児用医薬品開発における既存知識の活用

より詳細な情報に基づいた小児用医薬品開発プログラムとするために、既存知識を活用するという選択肢がある。開発中の薬剤についての既存知識としては、類似のあるいは他の関連する疾病又は健康状態の成人及び小児集団において、既に、あるいは同時並行して得られているエビデンスが含まれる。既存知識には非臨床データ、関連化合物に関するデータ、疾病の病態生理学、発達生理学についての考察及び小児集団あるいはサブグループでの臨床データも統合されている。このような情報を利用することで、小児での承認に求められる水準を緩和することなく小児用医薬品開発プログラムを最適化できる。既存知識をもとに安全性及びリスクを検討することで、臨床試験で年齢サブグループ別に段階的に組み入れを行うような、特定のリスク軽減措置が必要か否かの意思決定に役立てることができる。一方、既存知識の活用に伴ういかなる不確実性も前向きに特定されて管理される必要がある。医薬品開発サイクルを通じてデータが得られるにつれて、新たな情報を考慮に入れて、開発戦略や方法論に組み込まれた各パラメータの背景にある仮定を再考する必要が生じるかもしれない。このような新たな情報は、開発戦略を確かなものにしていくとともに、不確実性にさらに対処する機会を与える。

小児用医薬品開発最適化へのさらなるアプローチとしては、以下に留まらないが、既存知識を統合的に活用するM&S(用語集参照)をはじめとする統計学的及び計量薬物学的方法や、他集団(成人あるいは小児のサブグループ)からの情報の外挿が挙げられる。次の2つの項では、小児用医薬品開発における外挿とM&Sの活用に関する一般的な考慮すべき点を挙げる。

5.1.1.小児用医薬品開発における外挿の活用

「外挿」という概念は、医薬品開発において様々な場面で使われる。「小児用医薬品開発における外挿」とは、疾患経過及び期待される医薬品への反応が、小児及び参照集団(成人又は他の小児集団)の間で十分に類似していると推定できる場合に、小児集団における医薬品の有効かつ安全な使用を支持するエビデンスを提供する手段と定義される。

医薬品の試験が小児集団において実施される際には、内因性要因(例:発達)及び外因性要因(例:地理的要因)のようにある集団から他の集団へのデータの外挿に影響する可能性があり、薬物に対し異なった反応を招くかもしれない全ての要因を考慮すべきである。

小児医薬品開発における外挿のプロセスでは、小児集団と参照集団の間で疾患と治療への反応が類似しているという仮定を支持する次のような要因、つまり疾患発症機序、診断と分類の基準、疾患進行の指標尺度、病態生理学的特徴、組織病理学的特徴及び病理生物学的特徴をはじめとする複数の要因を評価する。疾患の病態生理学、利用可能なバイオマーカー/エンドポイント、器官系の生理学(腎、肝、中枢神経、骨格、免疫系)、並びに、既存治療の中での臨床的位置づけ及び薬物の作用機序及び薬理学的特徴に関して、小児集団と参照集団との異同を入念に理解することが必要である。新たな情報が得られるにつれ、小児用医薬品開発における外挿のアプローチは見直され確認されるべきである。

曝露―反応関係や対象集団で予測される有効用量及び用法を含む、治療への反応や疾患経過が類似しているという仮定を支持する根拠は、その薬剤の使用に関する既存のデータ、公表文献、専門委員会の見解、専門家のコンセンサス文書、あるいは同一薬効分類の他製品での経験から得られるかもしれない。集められた全てのデータと情報により、外挿のアプローチを確認するか、又は、どのように改善しうるかを知ることができる。このような作業により、最終的には、小児用医薬品開発における外挿を支持するデータの充足性あるいは追加の臨床情報の必要性を特定することになる。

参照集団のデータから小児集団における有効性が外挿できる場合、参照集団の安全性データは小児集団での安全性情報に関して活用することができるかもしれないが、通常、小児集団における追加の安全性データは必要である。そのような既存のデータは、使用される医薬品の小児集団における潜在的な安全性の懸念について、限られた情報を提供するに過ぎないためである[ICH E11(2000年)2.4節]。

小児用医薬品の開発戦略において小児用医薬品開発における外挿を検討する場合は、以下に構成した論点についての評価を行い、どのような追加の支持データが必要となるかを確認すべきである。

1.参照集団と小児集団の間に共通する疾患の病態生理学、自然経過並びに疾患経過が類似していることを支持するエビデンスは何か?

2.参照集団における有効性のエビデンスの強さはどのようなものか?

3.参照集団において、小児集団でも意義のあるバイオマーカー又は代替エンドポイントがあるか?

4.参照集団と対象集団の間で曝露―反応関係が類似していることを支持するエビデンスは何か?

5.既存のデータ(例:臨床試験あるいは観察研究データ、公表文献)に伴う不確実性及び/又は限界は何か、また小児集団に関してどのような不確実性が残っているか?

6.不確実性が残る場合、外挿のアプローチの許容可能性を判断できるようにするためには、どのような追加情報(例:M&S、動物、成人又は他の小児サブグループにおける試験から得られる情報)を取得すべきか?

エビデンスが構築されるにつれ、企図する外挿のアプローチが許容可能なものであるかを再評価しなければならず、時には、外挿のアプローチを変更することが適切となるかもしれない。

5.1.2.小児用医薬品開発におけるモデリングとシミュレーションの活用

臨床薬理学と定量的なM&Sの手法の発達は、医薬品開発におけるモデルに基づいたアプローチ(例:数理的/統計学的モデルと生理学、病理学及び薬理学に基づいたシミュレーション)の活用の進歩を可能にした。M&Sは、利用可能な情報を定量的に扱うことを可能にし、小児臨床試験のデザイン及び/又は用量設定戦略についての判断に役立つ。小児集団におけるデータ収集には限界があることから、小児用医薬品開発においては、知識の不足に対応するための手段が必要である。M&Sは、不要な小児臨床試験の実施を回避するとともに、最小限の小児患者から適切なデータを取得できる可能性を高めることができるようにする手段のひとつである。小児用医薬品開発におけるM&Sの有用性としては、臨床試験のシミュレーション、投与量の選択、試験デザインの選択と最適化、エンドポイントの選択、小児医薬品開発における外挿での活用が挙げられるが、これらに限らない。M&Sでは、全ての利用可能かつ関連のある既存知識を使って定量的数理モデルが構築される。適切に実行されたM&Sは、薬物動態、薬力学、薬物の有効性及び安全性についての情報を提供することができる。

M&Sを小児用医薬品開発に取り入れる場合には、多面的な科学的議論によりその目的、方法、仮定、成果物及び開発スケジュールを含む全体像を描いて確立された開発戦略に基づくべきである。

モデル構築の際には、そのモデルが利用される状況、既存データの質と範囲、設けた仮定などを含めた、複数の要素を検討することが重要である。M&Sにおける仮定は、通常、薬理学、生理学、疾患についての考察、既存データ並びに使用されるモデルの基となる数理的及び統計学的な仮定という、5つの主な領域について構築される。

M&Sの複雑性においては、異なる対象集団間で上記のそれぞれの仮定によるモデル構築への影響が異なっている可能性があることから、各仮定の影響について注意深く評価することが必要となる。小児領域では、臓器系の成熟について考慮することが特に重要で、あるサブグループのデータが、より低年齢層のサブグループに対して必ずしも参考にならないことを理解しておかねばならない。仮定が設定された後には、既存の知識に起因する潜在的な不確実性の影響の程度についての分析を支持するために、異なるシナリオを用意して、評価をすべきである。

モデルを再構築及び改良する反復的なアプローチによって、新たに得られた知識はモデルに取り入れられる。モデル構築とシミュレーション/予測においては、一連の「学習と確認」のサイクルを繰り返して、新たな知識が得られたら直ちに確認を行うべきである。計画された小児用医薬品開発プログラムを支援するためには、解決しようとする問題、モデルの信頼度及び新たに得られたデータに応じて、複数のモデルが必要になることがある。

リスク評価はM&Sの中でも特に重要な部分である。特定のアプローチに伴う臨床的及び統計学的な影響の大きさについて複数の専門家と議論を行い、管理する必要のあるリスクを特定すべきである。モデルを受け入れることに伴うリスクは、製品開発における意志決定とその結果に対して相対的にモデルが寄与する度合いに依存している。これらのリスクは、適宜評価され、利用目的から求められるモデルの信頼度に照らして検討されるべきである。

6.小児臨床試験のデザインと実施についての実践的側面

臨床試験のデザインにおいて、実施する際に採るべき方法論上のアプローチを決める前には、小児臨床試験のデザインと実施に影響を及ぼすいくつかの実践上の要因を考慮すべきである。考慮すべき鍵となる3つの実践上の要因は、実施可能性、アウトカム評価、安全性を含む長期的臨床側面である。

6.1.実施可能性

小児用医薬品開発が直面する実施可能性について特有の問題として、臨床研究に適格な小児被験者数が少ないこと、研究施設において小児に特化した資源が限られること、小児専門の治験ネットワークの少なさなどが挙げられる。試験参加意欲があり、適格小児被験者に接触できて、小児疾患の研究と患者の診療に適切なスタッフを擁する施設やセンターの参加を十分に検討するべきである。小児領域の健康状態に関する研究においては、例えば次のような臨床試験の運用戦略をとらねばならない可能性がある。即ち、小児領域の研究を運用調整する機関の活用、同一の疾病や健康状態を対象とする複数の治療法を共通の単独の対照群を用いて評価する目的で、共同で計画し実施する臨床試験やレジストリ研究のマスター・プロトコルの作成、小児臨床研究ネットワークの強化などである。これらの運用戦略をとり、GCP(ICH E6)に準拠して臨床試験を実施することで、実施可能性の向上と、時宜を得た、かつ効率的な小児用医薬品開発につながるはずである。

子どもとその保護者が臨床試験において経験することが予見される、心理的・肉体的な負担や試験参加の利便性なども考慮すべき事項である。既存の標準治療は、医師/患者の治療選択に影響し、小児臨床試験のデザインや実施にも影響を与えるかもしれない。子どもたちや保護者及び小児を支援するコミュニティからの意見の取り入れを培う戦略により臨床試験への参加、患者募集、受容を促進できる。

6.2.アウトカム評価

ICH E11(2000年)2.4.2項に記載されているように、特定の年齢及び発育段階のサブグループに対応して、異なったエンドポイントを明らかにし、その妥当性を検証し、採用する必要があるかもしれない。適切な小児集団向けのエンドポイントやアウトカム尺度はできるだけ早期に特定するべきである。小児用医薬品開発を最適化するために、アウトカム評価の測定方法尺度、データ収集、解析及び報告を標準化することが勧められる[ICH E11(2000年)2.4節及び本補遺第5節参照]。可能な場合には、適齢の小児被験者がそのような尺度評価に直接寄与できるように、プロトコル・デザイン上の取り決めを含めることが重要である。妥当な場合には、小児用医薬品開発プログラムに採用する前に、成人の医薬品開発プログラム内で、想定される小児でのエンドポイントについて評価を開始しておくのが堅実であろう。

6.3.長期的臨床側面

ICH E11(2000年)2.4.3及び2.4.4項、E6、E2に記載されている安全性についての概念は引き続き適用される。希少な有害事象は承認申請までの開発段階では特定できず、規模や実施期間が限られる医薬品開発プログラムにおいて小児特有の有害事象が発見される可能性は低いことが認識されている。非臨床試験及び投与量や適応症に関わりなく成人臨床試験等での安全性データ、あるいは他の情報源(例:M&S)からの情報を計画的に収集することで、小児における安全性上の特定の懸念に対応して、小児臨床試験等や医薬品安全性監視活動のデザインを改善するのに役立てることができるはずである。

子どもでの薬物治療の長期的影響には、発達、成長及び/又は器官/系統機能の成熟への影響が含まれる。したがって成長/発達及び器官機能の十分なベースラインでの評価や定期的な経過観察と測定を計画し、適宜、規制当局と議論すべきである。医薬品開発プログラムの早い段階から長期のフォローアップ観察について計画することで、対象とする疾病あるいは健康状態での長期的影響を体系的に捉えて評価し、データの解釈性を高める機会が生まれる。

7.小児用製剤1

ICH E11(2000年)2.2節に示されている、小児用医薬品の安全で正確な使用を可能とするために、年齢に応じた小児用製剤を開発する際の主な留意事項は引き続き適用される。有効性を最適化し、投薬や投与量の過誤のリスクを軽減するためにさらに検討されるべき小児用製剤開発における留意事項として、年齢に適した剤形、保護者にとっての調製と使用説明のわかりやすさ、許容性(例:味、錠剤のサイズ)、添加剤の選択と量、代替となるドラッグデリバリーシステムなどの送達手段、適切な包装形態が含まれるべきである。

成人の剤形は必ずしも小児集団には適さず、成人向けの製剤を流用する場合には、安全性のリスクが伴いうる。開発プロセスの早い段階で小児での留意事項に対処しておかないと、医薬品の最終製品を使用する際に製剤に手を加える必要が生じてしまい、不正確な投薬、あるいは安定性やバイオアベイラビリティが変化する、患者の受容性が低下する等のリスクが高まるかもしれない。そのような例としては、成人向けの単回使用バイアルから少量ずつを複数回の投与に使用する、小児での用量を食べ物と混ぜて投与する目的で成人用カプセル製剤を脱カプセルあるいは錠剤を粉砕する、割線のない錠剤を割るといった場合がある。利用可能な剤形では投与時に製剤に手を加えることが避けられない場合でも、投与量の正確性、安定性、バイオアベイラビリティに与える影響を最小限に抑えられるように手段を講じておかなければならない。

したがって、小児集団の年齢に応じた剤形についての開発計画には、製品開発の最初の段階から取り組むべきである。開発早期に小児患者を臨床試験に組み入れる必要から、その時点で利用可能な製剤に手を加えることで対処した場合には、年齢に適した製剤を開発するとともに、開発した小児用製剤の臨床使用の適切性を示す試験も計画すべきである。

――――――――――

1本補遺においては、“小児用製剤”の範囲には、小児用医薬品の剤形、投与経路、包装、計量および投与器具も含めることとする。

7.1.投与量と投薬

目標とする曝露量を得るために、医薬品の投与が想定される小児集団の範囲に応じて、一つの医薬品有効成分について複数の剤形あるいは力価の製剤が必要となることがある。小児用医薬品については、開発する製剤処方を決定する際に、その医薬品が使用されることになる環境を考慮するべきである。たとえば、保護者が不在の状況が伴う場合(例:学校、保育園)では長期作用型の製剤処方が有用と考えられる。さらに、取り扱いや保管に関する条件を緩和できる製剤が、より適切となる場合が考えられる。

小児用製剤を開発する際は、特に新生児や乳幼児における投薬過誤のリスクを軽減するために、正確な計量が容易に行え、小さな容量の液体を投与できる手段についての考慮も含めるべきである。このような取り組みとしては、最小投与量及び増量分を正確に計量できるように明瞭に印がつけられた与薬用の器具などが含まれるであろう。

7.2.添加剤

添加剤によっては、成人では認められない(又は、成人で認められない程度の)有害反応につながることが子どもにおいて起こりうる。小児用医薬品で使用する添加剤については、年齢、体重、成熟(例:正期産及び早産新生児など生理的発達に応じて)、投薬頻度、意図される治療期間等の因子及び通常同時に投与される薬剤の添加剤により添加剤の曝露量が増える可能性を考慮すべきである。使用される添加剤と製剤中の添加剤の含量は、製品の性能、安定性、嗜好性、微生物管理、用量均一性を確保するうえで必要かつリスクが最小となるようにすべきである。小児に対して無視できないリスクを呈する添加剤については常に代替物の使用を検討し、また、そのような添加剤によるリスクは疾病の重症度及び他の治療法が利用可能かという点に照らして検討されるべきである。添加剤を選ぶ際には、有効成分の吸収及びバイオアベイラビリティへの潜在的な影響を常に考慮すべきである。

7.3.嗜好性と許容性

経口投与用の小児用医薬品は、用量の受容と用法の遵守を確保するために、嗜好にあったものでなければならない。嗜好にあった薬を開発するための製剤化の手法として、嫌悪感の原因となる有効成分の性質の軽減/除去や、好ましい風味特性についての検討がある。有効成分の嗜好性を改善するために味のマスキングが必要になることが多い。小児用医薬品開発は世界中の人にとって有益となりうることから、味のマスキングは不快な味とならないことのみを目的とするべきでない。理想的には、中立な味又は生活文化の面からも幅広く受け入れられる味を呈するべきである。

開発を予定する剤形では対応できない小児集団については、代替投薬法(例:錠剤の分割あるいは粉砕、飲食物との同時投与)となる点を考慮すべきである。最終的に上市する製剤の剤形を決定するまでに、対象となる小児集団における代替投薬法の適切性について、親や養育にあたる者が関わる各要素(例:味/嗜好による内服のしやすさ、製剤に手を加える場合の容易さと正確さ、様々な要因によって起こりうるバイオアベイラビリティの変化)の側面を含め、調査しておくべきである。小児向け製剤の投与に関して実臨床での使用行動を理解し、付随するリスクを軽減することは、安全な投薬を実現する製剤開発に役立つであろう。

7.4.新生児

新生児向けの製剤に求められる要件においては、電解質や体液、あるいは栄養バランスへの影響など、特別な注意を要する。痛みや刺入ミス(例:骨や血管)のリスク、薬物吸収の不安定性から、筋肉内注射は可能であれば避けるべきである。同様に、皮下注及び静注用製剤の忍容性についても検討を行うべきである。新生児の場合、環境条件(例:温度、光)や投与器具(例:経腸チューブ)が薬物送達とバイオアベイラビリティに影響を及ぼす可能性がある。非経口の投与剤形を開発する際は、新生児では静脈内投与経路が限られる場合が多いことから、一般的に使われる他の非経口薬あるいは非経口栄養剤との適合性についても検討し、必要に応じて適合性を調べるべきである。新生児において非経口製剤が用いられる場合には、体液及び電解質のバランスを乱すリスクを最小化するために、注意深いモニタリングが必要となることが多い点についても配慮が必要である。

8.用語集

親(法的保護者)のインフォームドコンセント/パーミッション:

十分な説明を受け、理解をしたうえで親又は法的保護者が、臨床試験への子どもの登録を治験責任医師/治験依頼者に対して許可することへの理解と同意を明示するもの。インフォームドコンセントあるいはパーミッションという用語の選択は地域の法規制及び倫理上の規定を反映している場合がある。

子どものインフォームドアセント:

研究に参加すること、あるいは医療介入を受けることに対する、子どもによる理解と肯定的な賛同の意志の表明。賛同あるいは異議を示す表現がないことをインフォームドアセントと解釈してはならない。

モデリングとシミュレーション(M&S):

生理学、病理学、薬理学にもとづいた計量薬物学/システム薬理学などの数学的/統計学的な一連の定量的な取り扱いは薬剤と臓器系の相互作用を定量的に明らかにし、薬剤及び/又は生体系のふるまいの定量的な結果を予測することができる。モデリングとシミュレーションにおいては、既存の知識は「事前知識」と称されることが多い。