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○土砂災害のおそれのある箇所に立地する「主として防災上の配慮を要する者が利用する施設」に係る土砂災害対策における連携の強化について

(平成29年11月24日)

(/子子発1124第1号/社援保発1124第1号/障企発1124第1号/老推発1124第1号/老高発1124第1号/老振発1124第1号/老老発1124第1号/)

(各都道府県・各指定都市・各中核市民生主管部(局)長あて厚生労働省子ども家庭局子育て支援課長、厚生労働省社会・援護局保護課長、厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部企画課長、厚生労働省老健局総務課認知症施策推進室長、厚生労働省老健局高齢者支援課長、厚生労働省老健局振興課長、厚生労働省老健局老人保健課長通知)

(公印省略)

標記については、別添資料「土砂災害のおそれのある箇所に立地する「主として防災上の配慮を要する者が利用する施設」に係る土砂災害対策における連携の強化について」(平成27年8月20日付27文施施企第19号、科発0820第1号、国水砂第44号。別添1)等により適切な対応をお願いしているところです。

このたび、土砂災害対策に関し、

① 土砂災害のおそれのある箇所における要配慮者利用施設の新設計画が把握された場合に、建設申請者等への土砂災害に関する必要な情報提供と計画検討の要請が適切に行われるよう、累次の連名通知で求められた必要な対応について、都道府県及び市町村の民生主管部局に周知徹底されるよう措置する旨、

② 要配慮者利用施設の立地状況等に係る関係部局間での連携強化をよりいっそう推進する必要がある旨、

総務省行政評価局より勧告(平成29年5月26日付総評総第117号。別添2)がなされました。

ついては、改めて同通知の内容を確認し、関係部局の情報共有等により一層緊密な連携を図るなど適切な対応をお願いします。

また、各都道府県民生主管部局においては、都道府県内の各市区町村(指定都市及び中核市を除く)関係部局へ本通知及びその内容について徹底を図られるようお願いします。

○土砂災害のおそれのある箇所に立地する「主として防災上の配慮を要する者が利用する施設」に係る土砂災害対策における連携の強化について

(平成27年8月20日)

(/27文施施企第19号/科発0820第1号/国水砂第44号/)

(関係者(別紙参照)各位あて文部科学省大臣官房文教施設企画部施設企画課長、文部科学省スポーツ・青少年局学校健康教育課長、厚生労働省大臣官房厚生科学課長、国土交通省水管理・国土保全局砂防部砂防計画課長通知)

(印影印刷)

標記については、「災害時要援護者関連施設に係る土砂災害対策における連携の強化について」(平成22年7月27日付け厚生労働省社援総発0727第1号及び国土交通省河砂発第57号)等の通知により、これまでも各都道府県等において関係機関が日頃から緊密な連携を図り、土砂災害対策を推進していただいているところです。

昨年8月の広島市で発生した土砂災害を踏まえ、土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(平成12年法律第57号。以下「土砂災害防止法」という。)を一部改正する法律が平成27年1月18日に施行されました。これにより、土砂災害警戒区域内の社会福祉施設、学校、医療施設その他の主として防災上の配慮を要する者が利用する施設(以下、「当該施設」という。)への情報伝達体制等を市区町村地域防災計画において定めるなどの規定が新たに定められたところです。

国土交通省では、各都道府県の協力を得て、土砂災害のおそれのある箇所(国土交通省の依頼に基づき都道府県が調査した土砂災害危険箇所及び土砂災害危険箇所等を対象に土砂災害防止法に基づく基礎調査を実施し区域指定された土砂災害警戒区域等)に立地する当該施設に係る全国調査(以下、「調査」という。)を実施したところ、ハード対策・ソフト対策の両面において、より重点的な対策を図る必要があることが明らかとなりました。

ついては、下記により当該施設に係る土砂災害対策を一層推進していただきますようお願いします。

また、各都道府県衛生主管部局、民生主管部局、土木主管部局においては都道府県内の各市区町村関係部局へ本通知及びその内容について周知を図られるようお願いします。都道府県教育委員会においては域内の市区町村教育委員会及び所管の専修学校(高校課程を置く場合に限る。以下同じ。)設置者に対して周知を図られるようお願いします。都道府県私立学校主管部局においては所轄の私立学校(専修学校を含む。以下同じ。)設置者に対して周知を図られるようお願いします。

なお、本通知は、地方自治法(昭和22年法律第67号)第245条の4第1項に基づく技術的助言であることを申し添えます。

次の3つの事項について、本通知先である各関係機関が相互に連携・調整を図りつつ、各関係機関の取組について遺漏のないよう適切に実施するものとする。

Ⅰ.土砂災害のおそれのある箇所及び同箇所に立地する当該施設に関する基本的な情報の共有

Ⅱ.土砂災害のおそれのある箇所に立地する当該施設への対応

Ⅲ.土砂災害のおそれのある箇所に新たに立地する当該施設への対応

1.都道府県土木主管部局(砂防部局)による取組

〈Ⅰ.関係〉

① 各都道府県内の土砂災害のおそれのある箇所の位置、範囲等について、都道府県衛生主管部局、民生主管部局など当該施設を所管する部局へ情報提供を行うとともに、学校設置者へも、必要に応じて土砂災害防止法第8条に基づく警戒避難体制の整備等を所管する市区町村担当部局(以下、「市区町村担当部局」という。)の協力を得ながら、情報提供を行う。

② 調査の結果、土砂災害のおそれのある箇所に立地していることが明らかとなった当該施設に関して、市区町村が実施する警戒避難体制の整備の状況等について、市町区村担当部局と情報共有を行う。

〈Ⅱ.関係〉

③ 当該施設が立地する土砂災害危険箇所において、特に優先して基礎調査を実施し、速やかな基礎調査結果の公表及び土砂災害警戒区域等の早期指定に努める。

④ 土砂災害防止法第8条第1項第4号及び同条第2項に基づき当該施設の名称及び所在地、土砂災害に関する情報の伝達等に関する事項を市区町村地域防災計画に定められるよう、市区町村担当部局に対して必要な支援に努める。

⑤ 土砂災害防止法第8条第3項に基づく土砂災害ハザードマップの作成を促進するため、区域指定の公示図面データの提供等により、市区町村担当部局による土砂災害ハザードマップの作成の支援に努める。なお、基礎調査が完了するまでの当面の期間についても、土砂災害危険箇所の一般への周知を行うなど、市区町村担当部局が行う土砂災害ハザードマップの作成支援に努める。

⑥ 土砂災害のおそれのある箇所に立地する当該施設に対して、市区町村担当部局や地域の防災関係機関、自主防災組織等と連携し、土砂災害を対象とした防災訓練の実施やその支援等を行うことにより、避難体制の強化に努める。

⑦ 当該施設の規模・構造等の特性や、当該施設に係る警戒避難体制の整備等の状況などを総合的に勘案しつつ、土砂災害を防止する砂防関係施設の重点的な整備に努める。

〈Ⅲ.関係〉

⑧ 土砂災害危険箇所において当該施設の立地が今後見込まれることを把握した場合には、土砂災害防止法第3条に基づく土砂災害防止対策基本指針における基礎調査の実施や区域指定の指針となるべき事項等を踏まえ、速やかに基礎調査を実施・公表し、土砂災害警戒区域等の早期指定に努める。

⑨ 関係部局と相互に連携し、新たな当該施設に係る建設計画の関係者等に対して土砂災害のおそれのある箇所に関する情報を提供し、土砂災害に対する安全の確保の観点も加味した計画検討を促すよう努める。また、土砂災害警戒区域等が指定されていない場合には、将来指定され得ること及び指定に伴う規制の内容等についても併せて情報提供を行う。

なお、土木主管部局は、本通知先である各関係機関が連携して市区町村が行う警戒避難体制の整備等の支援等に努めるとしていることから、市区町村においても各関係機関と緊密に連携し適切な対応に努めるよう、都道府県消防防災主管部局とも連携して、市区町村担当部局に対する必要な助言、情報の提供・周知等に努める。

2.都道府県衛生主管部局及び民生主管部局の取組

〈Ⅰ.関係〉

① 砂防部局からの情報提供により、土砂災害のおそれのある箇所に立地していることが明らかとなった当該施設の管理者に対し、適宜、砂防部局からの情報等の提供に努める。また、情報提供に当たっては、必要に応じて市区町村担当部局の協力を得るものとする。

② 当該施設の建設や廃止等の動向について、砂防部局への情報提供を行う。

③ 調査の結果、土砂災害のおそれのある箇所に立地していることが明らかとなった当該施設に関して、市区町村が実施する警戒避難体制の整備等の状況について、市区町村担当部局と情報共有を行う。

〈Ⅱ.関係〉

④ 土砂災害防止法第8条第1項第4号及び同条第2項に基づき当該施設の名称及び所在地、土砂災害に関する情報の伝達等に関する事項を市区町村地域防災計画に定められるよう、市区町村担当部局に対して必要な支援に努める。

⑤ 土砂災害のおそれのある箇所に立地する当該施設に対して、市区町村担当部局や地域の防災関係機関、自主防災組織等と連携し、土砂災害を対象とした防災訓練の実施やその支援等を行うことにより、避難体制の強化に努める。

〈Ⅲ.関係〉

⑥ 新たな当該施設に係る建設計画を把握した際には、土砂災害のおそれのある箇所に関する情報と照合し、該当する場合には、速やかに砂防部局への情報提供を行う。

⑦ 関係部局と相互に連携し、新たな当該施設に係る建設計画の関係者等に対して土砂災害のおそれのある箇所に関する情報を提供し、土砂災害に対する安全の確保の観点も加味した計画検討を促すよう努める。また、土砂災害警戒区域等が指定されていない場合には、将来指定され得ること及び指定に伴う規制の内容等についても併せて情報提供を行う。

3.学校設置者の取組

〈Ⅰ.関係〉

① 都道府県土木主管部局(砂防部局)又は市区町村担当部局への確認等を通じて、設置する学校が土砂災害のおそれのある箇所に立地しているか把握する。

② 学校の設置や廃止をした場合であって、土砂災害のおそれのある箇所に該当するときには、市区町村担当部局へ情報提供を行う。

③ 土砂災害のおそれのある箇所に立地する学校に関して、警戒避難体制の整備等の状況について、市区町村担当部局と情報共有を行う。

〈Ⅱ.関係〉

④ 土砂災害防止法第8条第1項第4号及び同条第2項に基づき警戒区域内に立地する学校の名称及び所在地、土砂災害に関する情報の伝達等に関する事項について、市区町村担当部局が市区町村地域防災計画に定められるよう、必要な協力を行う。

⑤ 土砂災害のおそれのある箇所に立地する学校に関して、市区町村担当部局や地域の防災関係機関、自主防災組織等と連携し、土砂災害を対象とした防災訓練の実施等を行うことにより、避難体制の強化に努める。

〈Ⅲ.関係〉

⑥ 新たな学校の設置計画を立てた場合であって、土砂災害のおそれのある箇所に該当するときには、速やかに市区町村担当部局への情報提供を行う。

なお、私立学校主管部局は、所轄の私立学校設置者が、上記①~⑥に基づく情報提供等を行う際、必要に応じて都道府県土木主管部局(砂防部局)や市区町村担当部局等と連携する。

【問合せ先】

<土砂災害対策全般に関して>

○国土交通省水管理・国土保全局砂防部砂防計画課

〒100―8918 東京都千代田区霞が関2―1―3

電話:03―5253―8467

FAX:03―5253―1610

<2.に関して>

○厚生労働省大臣官房厚生科学課

〒100―8916 東京都千代田区霞が関1―2―2

電話:03―5253―1111

FAX:03―3503―0183

<3.に関して>

○文部科学省大臣官房文教施設企画部施設企画課防災推進室

〒100―8959 東京都千代田区霞が関3―2―2

電話:03―6734―2235

FAX:03―6734―3689

(別紙)

関係者内訳

各都道府県衛生主管部(局)長

各都道府県民生主管部(局)長

各都道府県土木主管部(局)長

各都道府県教育委員会教育長

各都道府県私立学校主管部(局)長

附属学校を置く各国立大学法人の長

独立行政法人国立高等専門学校機構理事長

高等専門学校を置く公立大学法人の長

私立高等専門学校を置く学校法人の長

土砂災害対策に関する行政評価・監視結果に基づく勧告

平成29年5月

総務省

前書き

我が国は、国土の約7割を山地・丘陵地が占め、地質的にも脆弱なため、梅雨期の集中豪雨や、台風に伴う豪雨等により、急傾斜地の崩壊、土石流又は地すべりを原因とする土砂災害が全国各地で発生している。平成18年から27年までの10年間では、年平均約1,000件の土砂災害が発生しており、26年8月の広島市における土砂災害においては74人の死者が発生するなど、甚大な被害が発生している。

このような状況に対し、従来から、砂防堰堤等の土砂災害対策施設の整備によるハード対策が行われているが、全ての土砂災害のおそれのある箇所について、土砂災害対策施設を整備するには、多くの時間と費用が必要とされている。このため、土砂災害対策の推進に当たっては、ハード対策とともに、土砂災害のおそれのある土地の区域を明らかにし、警戒避難体制の整備や一定の開発行為の制限等のソフト対策を実施することも重要であり、平成12年に、土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(平成12年法律第57号。以下「土砂災害防止法」という。)が制定され、基礎調査の実施、土砂災害警戒区域等の指定、同区域における警戒避難体制の整備等が推進されてきた。

しかし、平成26年8月の広島市における土砂災害では、基礎調査や土砂災害警戒区域等の指定が行われていない地域が多く、住民に土砂災害の危険性が十分に伝わっていなかったこと、避難勧告等の発令が災害発生後となってしまったことなどの課題が指摘されている。これらを踏まえ、平成26年11月に土砂災害防止法が改正(平成27年1月に施行)され、都道府県による基礎調査結果の公表、土砂災害警戒情報の市町村への通知及び一般への周知等を行うこととされた。

また、土砂災害警戒区域は、指定が全て完了すると約65万か所になると推計(平成28年3月末時点)されているが、29年1月末時点での指定数は約47万か所となっており、土砂災害のおそれがあるにもかかわらず土砂災害警戒区域に指定されていない箇所が多数存在している。

この行政評価・監視は、以上のような状況を踏まえ、土砂災害対策の推進を図る観点から、警戒避難体制の整備等のソフト対策の実施状況等を調査し、関係行政の改善に資するために実施したものである。

目次

1 土砂災害対策の現状

2 基礎調査及び土砂災害警戒区域等の指定の推進

(1) 基礎調査の対象箇所の的確な設定

(2) 基礎調査終了区域における警戒区域等の早期指定の推進

3 警戒避難体制の整備状況

(1) ハザードマップの作成及び避難訓練の推進

(2) 避難勧告等の発令基準の適正な設定

(3) 避難場所等の安全の確保並びに避難経路の適切な設定及び周知

4 要配慮者利用施設における安全確保対策の的確な実施

1 土砂災害対策の現状

(近年における土砂災害の状況)

我が国は、国土の約7割を山地・丘陵地が占め、地質的にも脆弱なため、梅雨期の集中豪雨や、台風に伴う豪雨等により、急傾斜地の崩壊、土石流又は地すべりを原因とする土砂災害が全国各地で発生している。平成18年から27年までの10年間では、年平均約1,000件の土砂災害が発生しており、26年8月の広島市での土砂災害(以下「広島土砂災害」という。)においては74人の死者が発生するなど、甚大な被害が発生している。

平成27年の土砂災害は788件と比較的少ない一方で、28年については8月末までの土砂災害が1,121件となっており、これは同年4月に発生した熊本地震や同年8月の台風第10号による土砂災害が多数発生したことによると考えられる。

(土砂災害対策のこれまでの取組)

土砂災害対策の推進に当たっては、土砂災害対策施設の整備によるハード対策とともに、土砂災害のおそれのある土地の区域を明らかにし、警戒避難体制の整備や一定の開発行為の制限等のソフト対策を実施することも重要である。これらのソフト対策を推進するため、平成11年に広島県で発生した土砂災害(死者24人)を背景として、土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(平成12年法律第57号。以下「土砂災害防止法」という。)が制定され、土砂災害のおそれのある土地に関する地形、地質等の状況や土地の利用状況等について調査する基礎調査の実施、土砂災害が発生した場合に住民等の生命又は身体に危害が生じるおそれがあると認められる区域である土砂災害警戒区域(以下「警戒区域」という。)及び警戒区域のうち、土砂災害が発生した場合に建築物の損壊が生じ住民等の生命又は身体に著しい危害が生じるおそれがある区域である土砂災害特別警戒区域(以下「特別警戒区域」という。)の指定、警戒区域における警戒避難体制の整備等が推進されてきた。

しかし、平成26年8月の広島土砂災害においては、基礎調査や警戒区域等(警戒区域及び特別警戒区域。以下同じ。)の指定が行われていない地域が多く、住民に土砂災害の危険性が十分に伝わっていなかったこと、避難勧告等(避難準備情報、避難勧告及び避難指示。以下同じ。)の発令が災害発生後となってしまったこと、避難場所が危険な区域内に存在するなど、土砂災害からの避難体制が不十分な場合があったことなどの課題が「総合的な土砂災害対策の推進について(報告)」(平成27年6月中央防災会議防災対策実行会議総合的な土砂災害対策検討ワーキンググループ)により指摘されている。広島土砂災害等を踏まえ、平成26年11月に土砂災害防止法が改正(平成27年1月に施行)され、基礎調査結果の公表や、市町村地域防災計画への避難場所、避難経路等の明示などが新たに定められた。

土砂災害防止法第3条では、土砂災害防止対策の推進に関する基本的な取組について定めた土砂災害防止対策基本指針(平成27年国土交通省告示第35号。以下「基本指針」という。)を国土交通大臣が定めることとされている。基本指針においては、行政は土砂災害のおそれのある土地の区域等に関する情報などを、正確性に配慮しつつ、積極的に提供することにより、地域や個人が土砂災害に適切に対応できるよう、最大限の「知らせる努力」をすることが求められるとされている。また、住民は、行政が提供する土砂災害警戒情報(市町村における避難勧告等の発令の判断を支援するため、都道府県と地方気象台等が共同で発表する情報)などの情報を日頃から十分に把握するよう努めるなどの「知る努力」を惜しまないことが重要であるとされ、行政の「知らせる努力」と住民の「知る努力」とが相乗的に働く社会システムを構築していくことを、土砂災害の防止のための対策に関する基本理念とするとされている。

平成26年11月の土砂災害防止法の改正などを踏まえて、市町村による警戒避難体制の整備を支援するため国土交通省が策定した「土砂災害警戒避難ガイドライン」(平成19年4月国土交通省砂防部。以下「警戒避難ガイドライン」という。)についても27年4月に改訂が行われた。警戒避難ガイドラインにおいては、土砂災害の危険性の周知、避難勧告等の発令、安全な避難場所・避難経路の確保などについてまとめられている。

(基礎調査及び警戒区域等の指定状況の概況)

土砂災害防止法では、①都道府県が基礎調査を実施し、②基礎調査の結果に基づき、都道府県が警戒区域等を指定(区域指定)し、③警戒区域においては警戒避難体制の整備、特別警戒区域においては一定の開発行為の制限、建築物の構造規制等を行う仕組みとなっている。このため、基礎調査は、当該地区におけるその後の土砂災害防止対策を左右する重要な手続となっており、警戒避難体制の整備等を推進するためには、まず、基礎調査及び警戒区域等の指定を迅速に行う必要がある。

また、基本指針では、都道府県は、おおむね5年程度で土砂災害のおそれのある箇所(警戒区域、特別警戒区域及び土砂災害危険箇所。以下同じ。)全てについて一通り基礎調査を完了させることを目標とすることとされている。これを踏まえ、各都道府県では、基礎調査の完了予定年度の目標を設定しており、平成31年度末までに全ての都道府県で一巡目の基礎調査が完了する予定となっている。平成29年1月末時点では、全国で警戒区域は約47万か所、うち特別警戒区域は約31万か所が指定されている。

(警戒避難体制の整備の概況)

土砂災害防止法では、市町村は、警戒区域の指定があったときは、①情報の収集・伝達、避難場所・避難経路、避難訓練の実施に関する事項、警戒区域内の要配慮者利用施設(社会福祉施設、学校、医療施設その他の主として防災上の配慮を要する者が利用する施設)の名称及び所在地を市町村地域防災計画に定めること、②警戒区域等を表示した図面に避難場所等を記載したハザードマップの配布等を行うこととされており、これらにより警戒避難体制の整備を図ることとされている。

また、基本指針や警戒避難ガイドラインでは、警戒避難体制の整備に関し、①市町村は、基礎調査が未実施の地域においても、国土交通省において、土砂災害防止法が施行される以前から一定の期間の間隔を置いて都道府県に調査依頼を行って把握していた土砂災害危険箇所(急傾斜地崩壊危険箇所等、土石流危険渓流等及び地すべり危険箇所。これらの地形要件は土砂災害防止法における警戒区域の地形要件に類似)の周知徹底を行うなど、土砂災害の危険性を住民等に十分周知すること、②市町村は、土砂災害警戒情報が発表された場合、直ちに避難勧告等を発令することを基本とし、避難勧告等を発令する区域の単位をあらかじめ設定しておくこと、③市町村は、避難場所については、災害対策基本法(昭和36年法律第223号)に基づく指定緊急避難場所その他の土砂災害に対する安全性が確保された避難場所とし、警戒区域外で選定することが基本となるなどとされている。

特に、避難勧告等については、災害対策基本法を所管する内閣府において、各市町村が避難勧告等の発令基準等を検討するに当たって最低限考えておくべき事項を示した「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン」(平成17年3月内閣府)が平成27年8月に改定され、避難準備情報の段階から住民が自発的に避難を開始することを推奨するなどの点が変更された。また、平成28年8月の台風第10号の発生に伴う災害等を受けて、更に検討が加えられ、29年1月に同ガイドラインの名称を「避難勧告等に関するガイドライン」(平成17年3月内閣府。以下「避難勧告ガイドライン」という。)に変更し、避難情報の名称についても「避難準備情報」を「避難準備・高齢者等避難開始」に、「避難指示」を「避難指示(緊急)」に変更するなどの措置が図られた(注)。

(注) 本報告書では、調査時点において避難情報の名称は変更されていなかったため、基本的に変更前の名称で記載している。

2 基礎調査及び土砂災害警戒区域等の指定の推進

(1) 基礎調査の対象箇所の的確な設定

(基礎調査の対象箇所)

基礎調査は、土砂災害防止法第4条第1項において、国土交通省が定めた基本指針に基づき行うこととされている。基本指針では、土砂災害が発生するおそれがある土地の調査として、①土砂災害が発生するおそれがある箇所を抽出し、②当該箇所について、地形、地質、降水、植生等の状況、土砂災害対策施設等の設置状況及び過去の土砂災害に関する調査を行い、③土砂災害が発生するおそれがある土地の区域を、土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律施行令(平成13年政令第84号)第2条に規定する警戒区域の指定基準に基づき把握することとされている。

しかし、基本指針では、土砂災害が発生するおそれがあるとして基礎調査の対象とする箇所(以下「基礎調査の対象箇所」という。)の抽出方法について、「地形図、航空写真等を用いて概略的に調査を行い、必要に応じて現地確認を行う」等とされているのみで、国土交通省において、このほかに具体的な抽出の考え方は示されていない。

(基礎調査の対象箇所を抽出する箇所)

一方、土砂災害防止法が施行される前から、関係省庁により土砂災害が発生するおそれがある箇所等として把握されているものとして、次の①国土交通省所管の土砂災害危険箇所、②林野庁所管の山地災害危険地区(山腹崩壊危険地区、地すべり危険地区及び崩壊土砂流出危険地区)、③農林水産省農村振興局所管の地すべり危険箇所がある。

① 国土交通省所管の土砂災害危険箇所

国土交通省では、土砂災害が発生するおそれがある箇所について一定の期間の間隔を置いて都道府県に調査依頼を行い、土砂災害危険箇所として把握しており、全国で52万5,307か所(急傾斜地崩壊危険箇所等33万156か所、土石流危険渓流等18万3,863か所、地すべり危険箇所1万1,288か所)となっている。これら土砂災害危険箇所の地形要件は、土砂災害防止法における警戒区域の地形要件と類似しており、国土交通省では、実質的に基礎調査の対象箇所として取り扱っている。

また、この土砂災害危険箇所については、土砂災害防止法に基づく基礎調査が開始されたことに伴い、土砂災害が発生するおそれがある箇所は基礎調査により新たに把握されるため、国土交通省では、平成14年度(地すべり危険箇所は平成10年度)に公表されたものを最後に新規把握を行っていないが、基本指針、警戒避難ガイドライン及び避難勧告ガイドラインにおいて、基礎調査が未実施の地域においても、土砂災害危険箇所の周知徹底を行うなど、土砂災害の危険性を住民等に十分周知するとともに、必要に応じて避難体制を強化する必要がある旨が規定されている。また、平成26年8月の広島土砂災害を受けて同年9月に内閣府、消防庁及び国土交通省が実施した「土砂災害危険箇所における警戒避難体制の緊急点検」においても、土砂災害防止法上は警戒区域等の指定を受けて整備することになる警戒避難体制の点検の対象とされるなど、土砂災害危険箇所は基礎調査の未実施箇所における土砂災害が発生するおそれがある箇所として取り扱われている。

② 林野庁所管の山地災害危険地区

林野庁では、森林管理局に調査させるとともに、都道府県にも調査依頼を行い、山地に起因する山腹の崩壊、地すべり、崩壊土砂の流出により、官公署、学校、病院、道路等の施設や人家等に直接被害を与えるおそれのある地区で、地形、地質等からみてその危険度が一定の基準以上のものについて、山地災害危険地区として把握しており、平成24年度末時点で、全国で18万4,129か所(山腹崩壊危険地区6万9,403か所、地すべり危険地区5,940か所、崩壊土砂流出危険地区10万8,786か所)となっている。

また、避難勧告ガイドラインにおいて、関係市町村は、必要に応じ、山地災害危険地区について都道府県林務担当部局又は森林管理局に確認するものとされている。

③ 農林水産省農村振興局所管の地すべり危険箇所

農林水産省農村振興局では、地方農政局を通じて都道府県に調査依頼し、地すべりにより農地等へ被害が生じるおそれのある箇所について、地すべり危険箇所として把握しており、全国で約4,400か所(地すべり防止区域1,969か所(平成27年10月時点)、地すべり危険地2,408か所(平成24年3月時点))となっている。

(国土交通省所管の土砂災害危険箇所との関係)

林野庁所管の山地災害危険地区のうち、山腹崩壊危険地区及び崩壊土砂流出危険地区は、国土交通省所管の土砂災害危険箇所の急傾斜地崩壊危険箇所等及び土石流危険渓流等と、斜面地の崩壊及び土石流・土砂流出という点でそれぞれ類似する部分はあるが、関係機関において、斜面地の崩壊等を防止するための行為規制やハード対策を講ずる場合に適用する法律・制度が、林野庁の山腹崩壊危険地区及び崩壊土砂流出危険地区は、森林法(昭和26年法律第249号)に基づく保安林、国土交通省の急傾斜地崩壊危険箇所等及び土石流危険渓流等は、急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律(昭和44年法律第57号。以下「急傾斜地法」という。)に基づく急傾斜地崩壊危険区域、砂防法(明治30年法律第29号)に基づく砂防指定地となっており、法体系や事業を実施する目的等が異なっている。このため、調査に当たり関係機関で必ずしも協議することを要さず、各制度の所管部局において、それぞれの調査に基づき必要な範囲の土地を把握している状況である。

一方、地すべりについては、地すべり等防止法(昭和33年法律第30号)において、同法に基づく地すべり防止区域の指定及び管理を行う主務大臣が、地すべり地域の区分ごとに国土交通大臣又は農林水産大臣で分けられている。また、林野庁所管の山地災害危険地区の地すべり危険地区及び農林水産省農村振興局所管の地すべり危険箇所(以下「農林水産省所管の地すべり危険箇所」という。)並びに国土交通省所管の土砂災害危険箇所の地すべり危険箇所については、調査する段階で関係機関が所管を協議することとされていることから、山腹崩壊危険地区と急傾斜地崩壊危険箇所等との場合や崩壊土砂流出危険地区と土石流危険渓流等との場合に比して、国土交通省所管の地すべり危険箇所と農林水産省所管の地すべり危険箇所の場合は同一の土地について重複して設定される可能性は低い。

(基礎調査の完了目標の設定)

広島土砂災害では、警戒区域の指定や、その前段階の基礎調査が進んでいない等の課題が明らかとなり、平成26年11月に土砂災害防止法が改正された。この改正を受けて、国土交通省は、平成27年1月に基本指針を変更し、①都道府県は、おおむね5年程度で、管内における土砂災害のおそれのある箇所全てについて一通り基礎調査を完了させることを目標として、完了予定年度も含めた実施目標を速やかに設定すること、②国は、都道府県から定期的に進捗状況の報告を受け、都道府県の実施目標及び進捗状況を公表するとともに、遅れている都道府県に対しては理由を確認し、基礎調査の早期完了のため必要な措置を講ずること等を定めた。

これを受けて、国土交通省は、都道府県から、設定した基礎調査の実施目標の報告を求め、その結果を公表しており、平成31年度までに全ての都道府県において、基礎調査を完了する予定となっており、完了した際の警戒区域の総区域数の推計値は全国で約65万か所(平成27年度末時点)とされている。

また、「国土強靱化アクションプラン2016」(平成28年5月24日国土強靱化推進本部)では、土砂災害の危険性のある区域を明示するための基礎調査について平成31年度末を目標に完了させるため、確実な実施を支援するとされている。

【調査結果】

農林水産省所管の地すべり危険箇所は、上記のとおり、山腹崩壊危険地区及び崩壊土砂流出危険地区に比して、土砂災害危険箇所と重複して設定されている可能性が低いため、基礎調査の対象箇所を土砂災害危険箇所のみとした場合に基礎調査の対象から漏れる可能性が高い。今回、調査対象17都道府県における農林水産省所管の地すべり危険箇所の基礎調査の実施状況を調査した結果、次のとおり、基礎調査を実施中又は今後実施するとする都道府県においては、農林水産省所管の地すべり危険箇所について、基礎調査の対象箇所の抽出は、目標数に計上された土砂災害危険箇所について基礎調査を実施する都度、当該危険箇所の周辺地域を調べる中で行うこととしているため、基礎調査の対象箇所はあらかじめ分からないとするものがみられた。これらの中には、a)都道府県が基礎調査を進めるに当たり作成しているマニュアルにおいて、基礎調査の対象箇所を抽出する箇所として土砂災害危険箇所は明記されているが農林水産省所管の地すべり危険箇所は明記されていないものや、b)農林水産省所管の地すべり危険箇所は農地等を対象に設定されるものであるため基礎調査の対象箇所となることはほとんどないとするものなどがみられた。

① 基礎調査を実施済み等とするもの(6都道府県)

i) 基礎調査の対象箇所を全て抽出し、その全てについて基礎調査を実施済みとしている都道府県(4都道府県)

ii) 基礎調査の対象箇所として抽出すべき箇所を精査した結果、基礎調査の対象箇所がなかったとしている都道府県(2都道府県)

② 基礎調査を実施中又は今後実施するとするもの(11都道府県)

i) 基礎調査の対象箇所をできる限り抽出した上で、平成31年度までに基礎調査を実施する目標数に計上しているとしている都道府県(1都道府県)

ii) 基礎調査の対象箇所の抽出は、目標数に計上した土砂災害危険箇所について基礎調査を実施する都度、当該危険箇所の周辺地域を調べる中で行うこととしており、その対象箇所はあらかじめ分からないため、平成31年度までに実施する目標数には計上していないなどとしている都道府県(10都道府県)

他方、この農林水産省所管の地すべり危険箇所については、農林水産省による調査結果(注1)で、上記17都道府県の管内に3,517か所、うち地すべりにより被害を与える可能性のある人家(以下「保全対象人家」という。)(注2、3)のある箇所が2,350か所(66.8%)あるとされており、その保全対象人家の戸数は、警戒区域の指定基準における土地の区域の範囲と異なるものの、i) 50戸以上のものが162か所(林野庁所管92か所、農村振興局所管70か所)、ii) 10戸以上50戸未満のものが1,093か所(林野庁所管504か所、農村振興局所管589か所)、iii) 5戸以上10戸未満のものが517か所(林野庁所管332か所、農村振興局所管185か所)で、延べ50,586戸あるとされている。これらの保全対象人家が、全て警戒区域の対象区域内に立地するとは限らないが、基礎調査の対象箇所を抽出するに際し、十分に留意することが求められる。

(注)

1 林野庁所管のものは平成24年時点、農村振興局所管のものは28年時点(農林水産省において保有している最新のもの)

2 林野庁所管の地すべり危険地区に係る保全対象人家には、工場、旅館、社寺など、住居の用に供する家屋以外のものも含まれる。また、保全対象人家のない地区においても、官公署、学校、病院、道路など保全対象となる公共施設がある。

3 農村振興局所管の地すべり危険箇所に係る保全対象人家には、住居の用に供する家屋以外のもの(工場、旅館、社寺等)は含まれていない。

【所見】

したがって、国土交通省は、土砂災害が発生するおそれがある箇所における基礎調査の的確な実施を確保する観点から、都道府県に対し、基礎調査の対象箇所の抽出を行うに当たっては、地形や土地の利用状況等を踏まえて農林水産省所管の地すべり危険箇所についても基礎調査の必要性を検討し、新たに基礎調査の対象箇所とすべき土地の区域が認められた場合には、確実に基礎調査が実施されるよう改めて助言する必要がある。

(2) 基礎調査終了区域における警戒区域等の早期指定の推進

(警戒区域等の指定手続)

都道府県は、土砂災害防止法第4条第2項に基づき、基礎調査の結果を関係市町村長に通知するとともに、公表しなければならないとされている。

また、都道府県知事は、基礎調査の結果を踏まえ、土砂災害防止法第7条第1項及び第9条第1項に基づき、警戒区域及び特別警戒区域を指定することができるとされており、指定をするときは、あらかじめ関係市町村長の意見を聴かなければならないとされている。

(広島土砂災害における被害拡大に関する指摘)

平成26年8月の広島土砂災害を受けて中央防災会議の下に設けられた「総合的な土砂災害対策検討ワーキンググループ」の「総合的な土砂災害対策の推進について(報告)」(平成27年6月)では、広島土砂災害について、11年の大規模な土砂災害による被害を踏まえ、広島県は、土砂災害危険箇所をハザードマップとして公表したものの、警戒区域等の指定については、26年の被災時点においては完了していなかったため、被災した地域の一部では、土砂災害の危険があるという認識を持てていなかった可能性がある旨指摘されている。また、公益社団法人土木学会及び公益社団法人地盤工学会の「平成26年広島豪雨災害合同調査団調査報告書」(平成26年10月)では、多くの犠牲者が出た緑井・八木地区について「土砂災害警戒区域と特別警戒区域に指定されていなかったが、広島県による指定のための調査は終了していた」ことが指摘されているほか、公益社団法人砂防学会の「広島市の大規模土砂災害に関する砂防学会緊急調査に基づく提言」(平成27年3月)では、「被災地域の大半は土砂災害防止法の警戒区域等の指定がなされていなかった。土砂災害の危険箇所(急傾斜地崩壊危険箇所や土石流危険渓流)でありながら、危険度の高い谷の出口付近や谷筋において新しく宅地が造成され人家が増えつつある状況と、それらの人家が激しく被災している状況も今回の災害では多数確認された」などと指摘されている。

(警戒区域等の確実な指定)

広島土砂災害を契機とした平成26年の土砂災害防止法の改正では、国民の生命及び身体の保護のため、国としても土砂災害防止法に基づく事務が適正かつ円滑に行われるよう援助することが重要との指摘を踏まえ、第36条が新設され、国土交通大臣は警戒区域等の指定その他土砂災害防止法に基づく都道府県及び市町村が行う事務が適正かつ円滑に行われるよう、都道府県及び市町村に対する必要な助言、情報の提供その他の援助を行うよう努めなければならないとされた。また、この改正の際の衆議院国土交通委員会及び参議院国土交通委員会における附帯決議では、政府に対して、都道府県において警戒区域等の指定が確実に行われるよう、必要な措置を講ずることとされている。

警戒区域等の指定については、土砂災害防止法に基づく警戒避難体制の整備等のソフト対策を推進し、土砂災害から国民の生命及び身体を保護していく上で、基礎となるものであることから、国土交通省は、基本指針において、i) 都道府県知事が土砂災害のおそれがあると認めた土地の区域については、可及的速やかに指定を行うことが重要である、ii) 警戒区域等の指定要件に該当する区域が相当数に上る場合においても、基礎調査の結果を踏まえ、過去の災害の実態、居室を有する建築物の多寡、要配慮者利用施設の有無、開発の進展の見込み等を勘案して、速やかに警戒区域等を指定することが望ましい、iii) 国は、都道府県から定期的に警戒区域等の指定状況の報告を受けてこれを公表するとともに、遅れている都道府県に対して理由を確認し、警戒区域等の早期指定のため必要な措置を講ずるものとしている。

(区域指定に係る市町村・住民意見の取扱い)

警戒区域等の指定に当たっては、最新の地域開発動向等の地域の事情に最も精通しているのは市町村長であること、警戒区域等が指定された後の警戒避難体制の整備、住民等への周知等といった関係市町村に新たな事務が発生することなどから、上記のとおり、土砂災害防止法においては、あらかじめ関係市町村長から意見を聴取することとされている。

他方、土砂災害防止法制定時(平成12年)の衆議院建設委員会の附帯決議においては、警戒区域等の指定に当たって、「関係市町村や関係住民の意見が反映されるよう努めること」との決議がなされたが、その後、平成17年及び26年の改正時の附帯決議では、警戒区域等の指定に関して「指定が積極的に進められるよう、土砂災害防止対策に関する国民の理解を深めるために必要な措置を講ずる」、「指定が確実に行われるよう、必要な措置を講じる」等とされている。

(区域指定の推進に向けた国土交通省の取組)

平成22年度の会計検査院による決算検査報告や、平成23年に国土交通省が実施した「政策レビュー結果評価書「土砂災害防止法」」において、基礎調査が完了した後も、住民や市町村の反対意見により長期間にわたって警戒区域等に指定されない状況がみられることが指摘されている。このため、国土交通省は、平成24年4月、都道府県に対して「土砂災害防止法に基づく土砂災害対策の推進について」(平成24年4月5日付け国水砂第82号国土交通省水管理・国土保全局砂防部砂防計画課長通知)を発出し、i) 区域指定に係る業務の効率化、迅速化等を図り、基礎調査後速やかに区域指定を行うよう検討を進めること、ii) 区域指定の進め方について市町村と十分に意見交換を行い、必要に応じて地域住民の意識等を把握することなどを助言している。また、平成25年5月には、「土砂災害防止法に基づく取り組みの強化について」(平成25年5月20日付け国水砂第13号国土交通省水管理・国土保全局砂防部砂防計画課長通知)及び当該通知を補足する砂防計画課長補佐による事務連絡(以下、当該砂防計課長通知及び課長補佐事務連絡を「平成25年通知」という。)を都道府県に対して発出し、住民等からの警戒区域等の指定に対する反対意見への対応について基本的な考え方を示し、i) 指定に反対する意見を持つ住民に対しては、土砂災害防止法の趣旨、目的等について理解、認識を得るため、市町村と連携し、丁寧に説明を行う必要があること、ii) 市町村からの反対意見への対応として、警戒区域等の指定に当たってあらかじめ行うこととされている市町村長への意見聴取は、指定についての同意を得ることを目的としたものではないが、市町村長から反対意見を表明された場合、市町村長本人から意見の背景や理由を十分確認した上で、土砂災害防止法の趣旨を丁寧に説明し理解を得る必要があること、iii) これらの対応を行ってもなお指定に時間を要する場合は、基礎調査結果の説明、公表に努めるとともに、市町村及び関係機関と連携し、危険な区域での開発を抑制するための準備や、市町村に対して警戒避難体制の整備を要請することなどを助言している。

さらに、平成26年の土砂災害防止法の改正においては、区域指定前であっても早期に土砂災害の危険性を住民等に認識してもらい、警戒区域等の指定を促進する観点から、基礎調査結果の公表が義務化されている。

また、これと同様の観点で、国土交通省では、平成27年度から、防災・安全交付金(注)に土砂災害防止法に基づく基礎調査のための優先配分枠制度を創設している。

(注) 防災・安全交付金は、地域住民の命と暮らしを守る総合的な老朽化対策や、事前防災・減災対策の取組等を支援することを目的とした交付金であり、土砂災害防止法第33条に基づく基礎調査に要する費用の国の補助は、当該交付金が充てられている。

さらに、国土交通省は、都道府県に対して「土砂災害防止推進会議の設置について」(平成26年12月16日付け国水砂第56号国土交通省水管理・国土保全局砂防部砂防計画課長通知)を発出し、国・都道府県が土砂災害対策に引き続き連携して取り組むため、地方ブロックごとに土砂災害防止推進会議を開催し、基礎調査・区域指定をより一層推進することとしている。

【調査結果】

今回、調査対象17都道府県における警戒区域等の指定状況について調査した結果、以下のとおり、基礎調査が終了した区域においては、警戒区域等の指定に当たり関係市町村や住民から理解を得られないこと等により、基礎調査の終了後2年以上経過しても区域指定されていないものが多数みられた。このため、これらの区域においては、基礎調査の結果、土砂災害が発生した場合に住民等の生命又は身体に危害が生じるおそれがあると認められる土地とされながら、特に特別警戒区域の指定予定地については、土砂災害防止法に基づく住民等の安全を確保するための開発行為の制限や建築物の構造規制等もされないままの状態が長期継続している状況にある。

ア 警戒区域等の指定状況

調査対象17都道府県において、平成27年11月30日現在、基礎調査が終了している区域(警戒区域指定予定地17万3,726区域、うち特別警戒区域指定予定地12万5,151区域)について、その警戒区域等の指定状況をみると、指定された警戒区域が16万1,120区域(92.7%)、特別警戒区域が9万2,683区域(74.1%)となっており、特別警戒区域の指定は、警戒区域と比して指定率が18.6ポイント低く、低調なものとなっている。

また、平成27年11月30日現在、基礎調査が終了した区域のうち未指定となっている区域(警戒区域指定予定地1万2,606区域、特別警戒区域指定予定地3万2,468区域)について、土砂災害防止法第4条第2項に基づく基礎調査結果の市町村長への通知の時点からの未指定期間の年数をみると、次のとおり、特別警戒区域指定予定地においては、警戒区域指定予定地に比して未指定期間が長い割合が高い結果となった。

① 警戒区域

i) 2年以上未指定となっている区域があるものは7都道府県(該当区域1,156区域)あり、当該都道府県の未指定区域に占める2年以上未指定の区域の割合が2割以上あるものは3都道府県(該当区域1,093区域)となっているが、5割以上を占めている都道府県はない。

ii) 上記i)のうち、未指定期間が5年以上となっている区域があるものは5都道府県(該当区域461区域)あり、当該都道府県の未指定区域に占める5年以上未指定の区域の割合が2割以上あるものは1都道府県(該当区域260区域)となっているが、5割以上を占めている都道府県はない。

② 特別警戒区域

i) 2年以上未指定となっている区域があるものは9都道府県(該当区域1万3,852区域)あり、当該都道府県の未指定区域に占める2年以上未指定の区域の割合が2割以上あるものは6都道府県(該当区域1万3,792区域)、このうち5割以上のものが3都道府県(該当区域1万2,800区域)、うち7割以上のものが2都道府県(該当区域1万2,588区域)となっている。

ii) 上記i)のうち、未指定期間が5年以上の区域があるものは8都道府県(該当区域6,159区域)あり、当該都道府県の未指定区域に占める5年以上未指定の区域の割合が2割以上あるものは4都道府県(該当区域5,965区域)となっている。

イ 2年以上未指定区域が存在している都道府県の状況

① 未指定の理由

基礎調査の終了後2年以上経過しても区域指定が行われていない区域(警戒区域指定予定地1,156区域、特別警戒区域指定予定地1万3,852区域)について、その理由をみると、関係市町村との協議や住民への説明に時間を要しているものが、警戒区域指定予定地1,128区域(97.6%)、特別警戒区域指定予定地1万3,825区域(99.8%)と大部分を占めている。

② 関係市町村との協議や住民への説明に時間を要している理由

これらの区域指定について関係市町村との協議や住民への説明に時間を要している区域がある8都道府県では、その理由について、

i) 住民から区域指定への反対意見が出た場合には、警戒区域等の指定に当たり関係市町村や住民の意見が反映されるよう努めることを求めた国会の附帯決議を尊重し、反対者の納得が得られるまで説明に努め、区域指定を行わないこととしている、

ii) 区域指定に市町村が反対した場合には、市町村は地域の事情に最も精通していることや、区域指定後の警戒避難体制の整備や住民への周知、今後の砂防事業への対応などにおいて市町村が重要な役割を担っていることなどから、市町村への説明に努め、市町村の同意を得ないまま区域指定することはしない

などとしている。

特に特別警戒区域については、指定に伴う建築物の構造規制など住民負担が発生する、過疎化に拍車が掛かる等との懸念から、住民の理解や市町村からの指定の同意を得られにくいとしている都道府県もあり、調査対象都道府県の中には、警戒区域の指定は県内全域で完了しているものの、特別警戒区域については、特別警戒区域に係る基礎調査が完了した10市町村1万4,567区域のうち、区域指定されたのは1市町村の一部地域の912区域にとどまっており、10市町村の1万3,655区域が未指定で、うち6市町村の1万659区域の未指定期間が2年以上経過しているものが1都道府県みられた。

以上のように、特別警戒区域については、警戒区域に比して基礎調査終了後も長期間未指定となっている区域の割合が高いものとなっている。一方で、調査対象17都道府県の中には、これら2年以上未指定となっている区域の割合が高い都道府県と特別警戒区域に係る基礎調査完了数が同程度以上であるものの、2年以上未指定となっている区域がないものが3都道府県みられた。

ウ 長期間未指定の区域がある都道府県に対する国土交通省の対応状況

このような状況の中、国土交通省では、基本指針に基づき、都道府県から、定期的に基礎調査の実施状況や警戒区域等の指定状況等の報告を受けているが、基礎調査終了後も長期間にわたり未指定となっている区域に関する、区域指定に向けた都道府県の取組状況については、土砂災害防止推進会議などの機会に聴取する場合はあるとしているものの、国土交通省が都道府県に対して長期間未指定となっている区域の解消に向けた助言や情報提供を行うために必要となる現状把握という面では、一層の取組が求められる状況にある。

【所見】

したがって、国土交通省は、基礎調査完了後長期間にわたり警戒区域等に指定されていない区域の早期指定を引き続き促進し、これらの区域における住民等の安全を確保する観点から、平成25年通知の趣旨・内容を都道府県に改めて周知するとともに、特別警戒区域指定予定地などの指定が推進されるよう、26年の土砂災害防止法改正により義務化された基礎調査結果の公表による指定促進効果を踏まえつつ、都道府県における指定に向けた取組状況を一層把握した上で、必要な助言、情報提供等を行う必要がある。

3 警戒避難体制の整備状況

(1) ハザードマップの作成及び避難訓練の推進

(土砂災害ハザードマップの作成)

「社会資本整備重点計画」(平成27年9月18日閣議決定)では、警戒避難体制の確立を推進するため、市町村は土砂災害ハザードマップを作成・公表し、市町村地域防災計画に土砂災害の防災訓練に関する記載のある市町村の割合を、平成32年度に約100%とする目標が掲げられた。

土砂災害防止法第8条第3項では、警戒区域における円滑な警戒避難を確保する上で必要な事項を住民等に周知させるため、警戒区域をその区域に含む市町村の長は、土砂災害に関する情報の伝達方法、急傾斜地の崩壊等が発生するおそれがある場合における避難施設その他の避難場所及び避難路その他の避難経路(以下「避難経路」という。)に関する事項等を記載した印刷物の配布等を行うこととされている。

また、国土交通省は、基本指針において、同項に基づき、市町村長は、警戒区域等の範囲や避難場所、避難経路等とともに、土石流等のおそれがある区域から避難する際の避難方向を示すなど、実際の避難行動に資する内容のハザードマップを作成するよう努めるものとしている。

さらに、国土交通省は、警戒避難ガイドラインにおいて、警戒区域等の周知に当たっては、土砂災害のおそれのある箇所、避難場所・避難経路、要配慮者利用施設等を記載したハザードマップを作成することなどが、住民等が当該箇所における土砂災害の危険性を十分理解し避難できるようにする上で効果的であるとしており、警戒区域等の指定を受けた区域について早急にハザードマップを整備し、住民に周知することとしている。また、警戒区域を基に作成するハザードマップができるまでの間も、基礎調査の結果に基づく警戒区域に相当する範囲を示した図面や土砂災害危険箇所を示した図面等を活用し、土砂災害の危険性を周知する必要があるとしている。

(避難訓練の実施)

「総合的な土砂災害対策の推進について(報告)」では、住民一人ひとりが、いつ、どこに、どのように避難するかについて、避難行動をとるための手順を確認し、実際に避難できるかどうか訓練しておくことにより、迅速な避難が可能となると指摘されており、避難訓練について、ハザードマップ等を活用し、より実践的な訓練を実施すべきであり、地域の実情に合わせて工夫を行い、全ての警戒区域等・土砂災害危険箇所の住民が参加できるよう取り組むべきであるとされている。

また、平成26年9月には、内閣府、消防庁及び国土交通省が、土砂災害のおそれのある箇所を有する市町村を対象とした「土砂災害危険箇所等における警戒避難体制の緊急点検」を実施した。この結果では、26年10月における土砂災害に係る避難訓練を実施した実績があるものの割合は35%、このうち年1回以上実施しているものの割合は19%にとどまっている。

平成26年の土砂災害防止法の改正では、警戒避難体制の充実・強化を図るため、第8条第1項第3号において、警戒区域の指定があったときは、市町村防災会議又は市町村の長は、市町村地域防災計画において、当該警戒区域ごとに、市町村長が行う土砂災害に係る避難訓練の実施に関する事項について定めるものとする規定が新たに追加された。

この改正を受け、国土交通省は、平成27年1月に基本指針を変更し、土砂災害に係る避難訓練について、i) 毎年1回以上実施することを基本とした上で、ii) 訓練内容については、ハザードマップ等を活用するとともに、土石流が流れてくると予想される区域や危険な急傾斜地から離れる方向に速やかに避難するなど、実践的な避難訓練となるよう工夫し、広く住民の参加が得られるよう努めるものとした。

さらに、平成27年4月に、国土交通省が、警戒避難ガイドラインを改訂し、都道府県及び市町村に対し、土砂災害に関する防災訓練について、次の点を示している。

i) 警戒区域ごとに防災訓練を毎年行うことが基本となること。

ii) 要配慮者を含む住民参加を基本とし、自主防災組織、消防団、警察、自衛隊、都道府県、国、その他関係機関等との連携、夜間・休日の実施等、実効性のある訓練とすること。

iii) 訓練実施項目は、土砂災害に関する情報の伝達、避難勧告等の発令、避難場所の開設、住民の避難、要配慮者への避難支援等、実際の土砂災害発生を想定して訓練を実施すること。

iv) できるだけ多くの住民が参加できる訓練とするために、定期的に行っている地域の清掃活動、火災予防活動等の地域コミュニティの活動に併せて実施することも有効であること。

v) ハザードマップを見ながらの危険な場所、避難場所・避難経路の確認、立退き避難を行う場合の避難方向の確認、ハザードマップの裏面に記載してある避難勧告や土砂災害警戒情報等の伝達方法の確認等の活動を自主防災組織等が主体となって展開していくことが考えられること。

また、消防庁及び国土交通省は、毎年6月の「土砂災害・全国防災訓練」の実施について、共同して都道府県及び市町村に対し依頼しており、地方公共団体における防災訓練の実施を支援していくこととしている。

【調査結果】

ア 土砂災害ハザードマップの作成

今回、調査対象60市町のうち、調査時点において警戒区域等が存在しなかった1市町を除く59市町について、警戒区域を記載したハザードマップの作成状況を調査した結果、51市町については、ハザードマップを作成しており、うち37市町は、域内の警戒区域等の指定が全て完了していないものの、住民に当該区域における土砂災害の危険性を十分理解し避難できるよう周知する必要があることなどから、警戒区域等に指定済みの箇所について、順次ハザードマップを作成している。

一方、8市町については、ハザードマップを作成中の市町もあるものの、ハザードマップの重要性が十分認識されていないことなどから、調査時点では未着手又はハザードマップの作成が中断されていた。これらの市町については、いずれも警戒区域等の指定が域内で完了しておらず、うち5市町では平成28年度又は29年度以降に作成を予定している。残りの3市町(指定済警戒区域等5,753か所)では、警戒区域等の指定の都度又は年1回等定期的にハザードマップを作成し住民に配布することにすれば、経費面・労力面での負担が大きいこと等から、市町域内の警戒区域等の指定が全て完了した時点で作成するとしており、最も長期の場合には、市町域内において全ての警戒区域等の指定が完了する平成32年度以降までハザードマップが作成されないこととなる。

なお、上記8市町においても、基礎調査結果の公表や土砂災害危険箇所を示した図面等を活用し、土砂災害の危険性がある範囲については周知していた。

イ 防災訓練の実施

今回、調査対象60市町について、当該市町域内に存する警戒区域等における平成25年度から27年度までの3年間の市町主体の土砂災害に係る防災訓練(土砂災害に関する情報の伝達、避難勧告等の発令、避難場所の開設、住民の避難、要配慮者への避難支援等)の実施状況を調査した結果、警戒避難ガイドライン等においては、実践的な訓練の方法や、連携先となる関係機関、より多くの住民の参加を得るための方法は示されているものの、市町におけるこれらに対する理解が十分ではないことなどから、次のとおり、上記の平成26年9月に内閣府等が実施した緊急点検結果と比して防災訓練の実施は増加していたが、依然として毎年1回以上実施していないものがみられた。

市町域内のいずれかの警戒区域等において、

i) 毎年1回以上実施しているものが31市町(51.7%)

ii) 2年又は3年ごとに実施しているものが25市町(41.7%)

iii) 3年間で一度も実施していないものが4市町(6.7%)

また、少なくとも3年に1回は防災訓練を実施している56市町について、その訓練内容を調査した結果、次のとおり、基本指針や警戒避難ガイドラインに沿った実践的な避難訓練(ハザードマップを活用した訓練や要配慮者を含む住民が参加した避難訓練)が実施されていない市町がみられた。

i) ハザードマップを見ながら危険な場所や避難場所等を確認する訓練及び要配慮者を含む住民が参加した避難訓練を実施していないものが13市町(23.2%)

ii) 上記i)の避難訓練のどちらかを実施していないものが19市町(33.9%)

なお、年1回以上の防災訓練を実施していない29市町では、その理由について、i) 警戒区域数が多く、市町域内全てを対象とした実施は困難である、ii) 地震や津波対策等の災害に係る訓練を優先していた、iii) 土砂災害の発生が想定される地区は山間部の高齢者が多い地区であるため実施が困難であるなどとしている。

【所見】

したがって、関係府省は、住民等における土砂災害の危険性の十分な理解と避難の実効性を高め、また、土砂災害防止法、基本指針等に沿った実践的な避難訓練の実施を確保する観点から、市町村におけるハザードマップの作成及び避難訓練の実施が適切に行われるよう、その重要性を一層周知するとともに、次の措置を講ずる必要がある。

① 市町村に対し、改めてハザードマップの早急な作成を促すこと。また、市町村域内の全ての警戒区域等の指定完了後にハザードマップを作成するとしている場合は、順次作成するよう促すこと。(国土交通省)

② 市町村に対し、引き続き、市町村主体の実践的な避難訓練の具体的な実施方法を示すなどにより、積極的に避難訓練が実施されるよう促すこと。(総務省(消防庁)、国土交通省)

(2) 避難勧告等の発令基準の適正な設定

(避難勧告等と土砂災害警戒情報)

土砂災害に係る避難勧告及び避難指示については、災害対策基本法第60条第1項に基づき、市町村長が発令するものとされ、必要と認める地域の居住者等に対し、避難のための立退きを勧告し、及び急を要すると認めるときは、これらの者に対し、避難のための立退きを指示することができるものとなっている。

平成26年8月の広島土砂災害においては、土砂災害警戒情報が避難勧告に結び付かず、結果的に避難勧告の発令が災害発生後になってしまったことが被害の拡大を招いた原因の一つとされた。

このため、平成26年11月に土砂災害防止法が改正され、第27条において、都道府県知事は、基本指針に基づき、当該都道府県の区域を分けて定める区域ごとに、土砂災害の急迫した危険が予想される降雨量(以下「危険降雨量」という。)を設定し、当該区域に係る降雨量が危険降雨量に達したときは、土砂災害警戒情報を関係のある市町村の長に通知するとともに、一般に周知させるため必要な措置を講じなければならないものとされ、土砂災害警戒情報が明確に位置付けられたところである。

(避難勧告ガイドラインにおける避難勧告等の発令基準)

広島土砂災害等を受け、災害対策基本法を所管する内閣府でも、避難勧告ガイドラインを平成27年8月に改定し、さらに、29年1月にも改定している。

その中で、突発性が高く予測が困難な土砂災害においては、避難準備情報の発令の段階は、要配慮者等、特に避難行動に時間を要する者が避難行動を開始しなければならない段階であり、人的被害が発生する可能性が高まった状況にあるとし、住民が自発的に避難を開始することを強く推奨するとされている。さらに、土砂災害警戒情報の発表をもって、直ちに避難勧告を発令することを基本とする旨が改定前の避難勧告ガイドライン(平成26年9月版)と同様に示されている。

また、避難勧告ガイドラインで示されている「避難勧告等の種類別の判断基準の設定例」においても、土砂災害警戒情報の発表をもって直ちに避難勧告を発令することを基本としており、避難準備情報については、土砂災害警戒情報の発表時より前の段階で発表される大雨警報(土砂災害)の段階で発令することが基本とされ、避難指示については、基本的には土砂災害警戒情報が発表された段階で避難勧告が発令されていることが前提となるが、まだ、避難していない人へより強く避難を促す措置として発令するものとなっている。

(警戒避難ガイドラインにおける避難勧告等の発令基準)

国土交通省は、平成27年1月に基本指針を変更し、土砂災害警戒情報は、土砂災害からの避難にとって極めて重要な情報であることから、土砂災害警戒情報が発表された場合は、市町村長は直ちに避難勧告等を発令することを基本とするものとした。

また、平成27年4月には、警戒避難ガイドラインを改訂し、市町村は、i) あらかじめ定量的で客観的な発令基準を設定しておく必要があり、その客観的基準としては土砂災害警戒情報を用いることが基本となること、ii) 地域の実情に合わせて、地域で独自の基準を定める場合も土砂災害警戒情報を参考に避難勧告等の発令が遅れることがないよう十分留意する必要があることを示している。

(市町村が作成した避難勧告等の発令基準の実態調査)

消防庁は、消防組織法(昭和22年法律第226号)第4条第2項第21号及び第37条に基づき、避難勧告等の具体的な発令基準の策定の有無、発令の判断材料等について調査し、土砂災害に係る避難勧告等の具体的な発令基準については、平成27年12月1日現在92.3%(調査対象1,600市町村中1,477市町村)において策定済みとの調査結果を28年1月に取りまとめ、公表している。また、未策定の市町村に対しては、避難勧告ガイドラインを参考に、具体的な発令基準を策定するよう求めている。

さらに、消防庁は、平成28年8月に発生した台風第10号の発生に伴う災害等による甚大な被害を受け、同年9月に地域の防災体制の再点検を実施している。この再点検において、土砂災害について、避難準備情報、避難勧告及び避難指示の各発令段階ごとに、発令の対象区域の設定の有無、定量的な判断基準の設定の有無、判断材料の種類等について、避難勧告ガイドラインで求められている取組の状況を把握している。

また、この再点検の結果について、消防庁は、平成28年12月に取りまとめ、公表し、都道府県に対し、地域の防災体制の再構築に取り組むよう通知している。

【調査結果】

(避難勧告等の発令基準の設定状況)

今回、調査対象60市町における避難勧告等の発令基準の設定状況について調査した結果、次のとおり、土砂災害警戒情報に関する取扱いが市町によって区々となっており、広島土砂災害等の反省に基づき見直された避難勧告ガイドライン及び警戒避難ガイドラインの趣旨・内容が十分周知されていないおそれのある状況がみられた。

① 土砂災害警戒情報を避難勧告の発令の判断材料としており、かつ、土砂災害警戒情報の発表前に避難準備情報を発令する基準としているものが51市町(85.0%)

② 土砂災害警戒情報を避難勧告等の発令の判断材料としているものの、土砂災害警戒情報の発表時に避難準備情報を発令する基準としているものが9市町(15.0%)

【所見】

したがって、内閣府、総務省(消防庁)及び国土交通省は、連携して、市町村に対し、各市町村が設定する避難勧告等の発令基準について、土砂災害警戒情報の取扱いが避難勧告ガイドライン及び警戒避難ガイドラインの趣旨・内容に沿ったものとなるよう、改めて周知する必要がある。

(3) 避難場所等の安全の確保並びに避難経路の適切な設定及び周知

(土砂災害に係る指定緊急避難場所・指定避難所)

土砂災害に係る指定緊急避難場所については、災害対策基本法第49条の4第1項及び災害対策基本法施行令(昭和37年政令第288号)第20条の3において、防災施設の整備等の状況を総合的に勘案し、必要があると認めるときは、災害が発生し、又は発生するおそれがある場合における円滑かつ迅速な避難のための立退きの確保を図るため、

i) 災害が発生し、又は発生するおそれがある場合において居住者、滞在者その他の者に開放されること等の基準に適合するものであること、

ii) 同施行令第20条の4に規定する土石流等の異常な現象が発生した場合において、安全な構造のものとして技術的基準に適合するものである場合を除き、人の生命又は身体に危険が及ぶおそれがないと認められる土地の区域内にあるものであること

といった基準に適合する施設又は場所を、洪水、津波、崖崩れ、土石流、地すべり等の異常な現象の種類ごとに、市町村長が指定するものとされ、土砂災害に係る指定緊急避難場所はその一つとなっている。

また、指定避難所については、同法第49条の7第1項及び同施行令第20条の6において、想定される災害の状況等を勘案し、災害が発生した場合における適切な避難所(避難のための立退きを行った居住者等を避難のために必要な間滞在させ、又は自ら居住の場所を確保することが困難な被災住民等を一時的に滞在させるための施設)の確保を図るため、

i) 避難のための立退きを行った居住者等又は被災者を滞在させるために必要かつ適切な規模のものであること、

ii) 速やかに、被災者等を受け入れ、又は生活関連物資を被災者等に配布することが可能な構造又は設備を有するものであること、

iii) 想定される災害による影響が比較的少ない場所にあるものであること

といった基準に適合する公共施設等を、異常な現象の種類に関係なく、市町村長が指定するものとなっており、同法第49条の8において、指定緊急避難場所と相互に兼ねることができるものとされている。

(土砂災害に係る避難場所・避難経路の設定)

国土交通省は、基本指針において、土砂災害に係る避難場所については、災害対策基本法第49条の4に規定する指定緊急避難場所その他の土砂災害に対する安全性が確保された避難場所とし、警戒区域外で避難場所を選定することが基本となるとするとともに、各地域によって、予想される災害形態や土砂災害のおそれがある区域の範囲など状況は様々であり、例えば警戒区域外に適切な避難場所がない場合は、最寄りのマンションやビルの所有者等の理解を得て避難場所として協定等を結ぶことも有効であり、地域の実情に応じて適切に対応することが望ましいとしている。

また、避難経路について、土砂災害に対する安全性を確認し、適切な避難経路を選定するものとするが、全ての避難経路をあらかじめ選定することは困難な場合も多いことから、土砂災害の危険性があるなどにより、避難経路として適さない区間を明示することや、土石流等のおそれがある区域から避難する際の避難方向を示すなど、地域の実情に応じて適切に対応することが望ましいとしている。

さらに、国土交通省は、警戒避難ガイドラインにおいて、

i) 市町村は、安全な避難場所・避難経路を確保し住民へ周知すること、

ii) 安全な避難場所の確保が難しい場合には、民間施設、最寄りのマンションやビル等を一時的な避難場所として協定等を結ぶほか、他の公共施設等の活用等を検討すること、

iii) どうしても安全な避難経路の設定が難しい場合は、住民にも理解を求めつつ、少しでも避難時の被災リスクの低い避難経路の選定や早い段階からの避難準備情報の活用などについて、あらかじめ行政と住民が一緒になって検討しておくことが重要であり、その結果は、ハザードマップ等において、必ずしも安全と言えない区間についての注意事項を示すなど、住民にとって分かりやすいよう工夫して周知する必要があること

としている。

(避難場所及び避難経路の市町村地域防災計画への記載と住民等への周知)

平成26年8月の広島土砂災害の際に、避難場所や避難経路が危険な区域内に存在するなど土砂災害からの警戒避難体制の整備が不十分であったため、避難場所とされていた場所に土砂が流れ込み、避難した住民が亡くなるという事態が発生した。これを受けて、安全な避難場所の確保等、避難体制の充実・強化を図るため、同年11月に土砂災害防止法が改正され、第8条第1項において、警戒区域の指定があったときは、市町村地域防災計画において、避難施設その他の避難場所及び避難経路に関する事項を定めることとされた。また、同条第3項において、警戒区域における円滑な警戒避難を確保する上で必要な事項を住民等に周知させるため、市町村長は、避難施設その他の避難場所及び避難経路に関する事項等を記載した印刷物の配布その他の必要な措置を講じなければならないものとされている。

また、災害対策基本法第49条の9においても、市町村長は、居住者等の円滑な避難のための立退きに資するよう、指定緊急避難場所や避難経路といった円滑な避難のための立退きを確保する上で必要な事項を居住者等に周知させるため、これらの事項を記載した印刷物の配布その他の必要な措置を講ずるよう努めなければならないものとされている。

(土砂災害のおそれのある避難場所の安全対策)

避難場所については、「社会資本整備重点計画」(平成27年9月18日閣議決定)において、「土砂災害に対する安全度の向上を図るため、土砂災害警戒区域等に関する基礎調査結果の公表による危険な区域の明示や警戒避難体制の整備とあわせて、要配慮者利用施設、防災拠点を保全し、人命を守る土砂災害対策実施率を平成32年度までに約41%にするなど、砂防堰堤等の施設整備等を推進する」ものとされている。

また、消防庁では、平成23年台風第12号及び第15号の発生に伴う記録的大雨により、各地で水害・土砂災害が発生し、比較的安全であるとされていた場所に避難して被害にあった事例等を踏まえ、都道府県に対し、「避難場所や避難所(中略)について、土砂災害警戒区域など災害発生のおそれのある区域に入っているものが無いかどうかの点検を早急に行うこと」について、市町村に適切に助言するよう要請している。

さらに、平成24年12月には、当省が厚生労働省及び国土交通省に対し、「土砂災害防止対策に関する実態把握」の結果を通知した中で、i) 地方公共団体における土砂災害のおそれのある避難所の点検結果、見直し状況の把握、ii) 当該避難所の点検・見直しに関して成果を上げている推奨事例の都道府県への提示、iii) 市町村において点検の結果、安全でないと判断した避難所であって、避難所の変更、補強等の見直しを行うことが困難なものについて、都道府県による砂防施設の重点的な整備等の安全対策が図られるよう引き続き促すことを課題として指摘している。

【調査結果】

ア 避難場所・避難所の立地状況等

調査対象60市町のうち、指定緊急避難場所及び指定避難所を指定手続中である18市町を除いた42市町の避難場所等1万2,516か所(指定緊急避難場所7,328か所、指定避難所5,188か所)について、その立地状況を調査した結果、次のとおり、一部の市町において、他に適当な場所・施設がない場合の対応策が分からず、土砂災害のおそれがあることを知りながら、やむを得ず避難場所等として設定しているものがみられた。

① 土砂災害のおそれのある箇所に立地する避難場所等が36市町で1,097か所あった。

② 上記①のうち、

i) 建築構造上安全な建物を指定している、土砂災害防止対策工事が施されている、風水害や土砂災害時には使用しない、警戒区域等内は敷地の一部である等として、特段の問題はないとしているものが817か所(22市町)

ii) 危険なため避難場所等としての設定を見直す予定があるとしているものが156か所(8市町)ある一方、

iii) 危険ではあるが他に適当な場所・施設がないため、現状やむを得ず避難場所等として設定しているとしているものが124か所(6市町)

あった。

また、当該6市町の中には、避難場所等のうち危険度が高いと思われるものについては、地域の自治区長等と協議して削減に努めてきたが、近くに代替施設がないため、やむを得ず設定している状況であり、この対策には財源と長期間を要し、対応が課題であるとするなどの意見がみられた。

このように現状やむを得ず危険な場所等に設定している避難場所等に関しては、平成28年6月の内閣府と消防庁の連名の地方公共団体宛て事務連絡「指定緊急避難場所及び指定避難所の指定等について」、29年1月に改定された避難勧告ガイドライン及び同年3月に内閣府が取りまとめ、消防庁とともに地方公共団体に通知した「「指定緊急避難場所」の指定に関する手引き」(平成29年3月内閣府)の中で、土砂災害に係るものも含め、次の対応策が示されている。

① 地域の大部分が被害想定区域となっている等の事情により、当該市町村内に十分な避難場所が確保できない場合等には、近隣市町村・施設管理者との協議の下、指定緊急避難場所を近隣の市町村に指定することも差し支えないこと。

② 民間施設等の活用や市町村の区域を越えた指定を検討してもなお、指定条件を満たす場所等が近隣になく、指定緊急避難場所を確保することが困難な場合に居住者等の差し当たりの安全を確保するためには、市町村において指定緊急避難場所以外の比較的安全な場所を確保すること、自主防災組織等が地域内で比較的安全な施設等を「近隣の安全な場所」として自主的に設定することに対して助言を行うこと。

③ 上記②の場合においても、居住者等に対しては、早めの避難行動を開始することにより可能な限り指定緊急避難場所への立退き避難を行うよう心がけることが原則であること、指定緊急避難場所以外の避難場所や「近隣の安全な場所」は一定のリスクを抱えている場合があること等を周知すること。

一方、砂防堰堤等の土砂災害対策施設の整備は、砂防法、地すべり等防止法、急傾斜地法のいわゆる砂防三法に基づき、都道府県を中心に実施されている(一部の工事を国が行う場合もある。)。国土交通省は、警戒避難ガイドラインにおいて、土砂災害に対して安全な避難場所を確保することは市町村長の責務であるが、地域内に安全な避難場所を確保できない場合には、避難場所を保全する土砂災害対策施設の整備は、重点的に取り組むべき課題であるとし、関係機関と十分な連携及び調整を図った上で、土砂災害対策施設を整備することにより、警戒避難体制と一体となり、地域全体の安全度の向上を図る必要があるとしている。

イ 避難経路の設定状況及び周知状況

調査対象60市町のうち、警戒区域を記載したハザードマップについて、調査時点では未着手若しくは作成を中断している、又は警戒区域等の指定がない9市町を除いた51市町について、市町村地域防災計画における避難経路の設定状況及びハザードマップによる避難経路の住民等への周知状況を調査した結果、

① 2市町(3.9%)では、市町村地域防災計画に避難経路についてはハザードマップで定める旨を記載し、ハザードマップに避難経路を記載するなどにより対応が行われている一方、

② 市町村地域防災計画に避難経路を記載していないものが9市町(17.6%)、「避難経路の整備に努める」等として避難経路について抽象的な記載となっているものが25市町(49.0%)、「原則6メートル以上の十分な幅員」等の選定基準のみを記載しているものが14市町(27.5%)、警戒区域等の一部について避難経路を記載しているものが1市町(2.0%)みられた。

③ また、上記②の49市町のうち、ハザードマップに避難経路を記載していないものが33市町(67.3%)みられた。

さらに、この33市町について、今後の避難経路の設定予定を聴取したところ、設定予定があるとしているのは20市町(60.6%)で、13市町(39.4%)については設定予定はないとしている。

また、上記③の避難経路の設定や周知が適切でない市町からは、i) 警戒区域等が多数存在し、これを避けて避難経路を設定すること自体が難しいので、こうした場合に具体的にどのように対処するのかが国から示されていない、ii) 土砂災害防止法第8条に基づく市町村地域防災計画への避難経路に関する記載について、警戒区域等が多数ある中で、どのような記載が求められているのか判然としないとする意見が聴かれた。

【所見】

したがって、国土交通省は、土砂災害のおそれがある区域の住民等における安全な避難活動を確保する観点から、避難場所等の安全の確保並びに避難経路の適切な設定及び周知が図られるようにするため、次の措置を講ずる必要がある。

① やむを得ず土砂災害のおそれのある箇所に避難場所等を設定している場合は、都道府県に対し、これらの避難場所等について重点的に土砂災害対策施設の整備を図るよう引き続き促すこと。

② 避難経路について、市町村に対し、基本指針や警戒避難ガイドラインに示された避難経路の設定に関する考え方を改めて周知するとともに、必要な助言を行うこと。

4 要配慮者利用施設における安全確保対策の的確な実施

(要配慮者利用施設の新設規制)

特別警戒区域については、土砂災害防止法第10条において、土砂災害時に円滑な避難行動が困難な者が利用する施設の安全を確保するため、高齢者、障害者、乳幼児その他の特に防災上の配慮を要する者が利用する社会福祉施設、学校及び医療施設の建築を目的とした開発行為(以下「特定開発行為」という。)(注)を行う場合は、あらかじめ都道府県知事の許可が必要とされており、第12条において、都道府県知事は、土砂災害を防止するための対策工事等の計画が安全を確保するために必要な技術的基準に従っているものに限り許可しなければならないとされている。

(注) 特定開発行為の対象となる施設は、土砂災害防止法第8条第1項第4号に規定される要配慮者利用施設とおおむね同義である。

他方、警戒区域については、土砂災害防止法において、要配慮者利用施設が既に設置されている場合の警戒避難体制の整備等については規定されているものの、当該警戒区域内への要配慮者利用施設の新設等の規制に関する規定はない。

また、土砂災害危険箇所についても、土砂災害防止法において、当該箇所への要配慮者利用施設の新設等の規制に関する規定はない。

(要配慮者利用施設の新設申請時における対応)

これらの警戒区域等・土砂災害危険箇所では、いずれも土砂災害が発生するおそれがあることから、要配慮者利用施設の新設に当たっては、都道府県又は市町村は、土砂災害に対する安全を確保する観点から、要配慮者利用施設(注)及び土砂災害対策に関する関係部局から当該施設の建設関係者への情報提供等を行うことや安全の確保の観点も加味した計画検討を促すことが望ましい。

(注) 要配慮者利用施設の管轄は、老人福祉法(昭和38年法律第133号)などの施設関係法令に規定されている。おおむね都道府県が管轄しているが、要配慮者利用施設の種類や規模等により、市町村が管轄している場合もある。

このため、平成22年7月には、厚生労働省及び国土交通省が、都道府県民生部局及び都道府県土木部局(砂防部局)に対し、技術的助言「災害時要援護者関連施設に係る土砂災害対策における連携の強化について」(平成22年7月27日付け社援総発0727第1号国河砂第57号厚生労働省社会・援護局総務課長、国土交通省河川局砂防部砂防計画課長通知。以下「平成22年連名通知」という。)を発出し、市町村の協力を得た上で、主に次の対応を図るよう要請している。

① 民生部局は、要配慮者利用施設の新設の申請を受けた際には、立地予定場所が土砂災害のおそれのある箇所に該当するか照合し、該当する場合には、速やかに砂防部局への情報提供を行うこと。

② 上記①を踏まえ、民生部局は、砂防部局と連携し、申請者に対して土砂災害のおそれのある箇所に関する情報を提供するとともに、警戒区域等に指定されていない場合には、将来指定され得ることや指定に伴う規制の内容等についても併せて情報提供を行い、土砂災害に対する安全の確保の観点も加味した計画検討を促すよう努めること。

また、平成24年12月には、当省が厚生労働省及び国土交通省に対し、「土砂災害防止対策に関する実態把握」の結果を通知し、当該実態把握の結果、市町村が管轄する要配慮者利用施設には平成22年連名通知で要請されている対応が行われていないことから、i) 都道府県民生部局における市町村管轄施設を含めた要配慮者利用施設の新設計画の早期把握、ii) 新設計画の把握後、都道府県民生部局、都道府県砂防部局及び市町村が連携した新設計画者への土砂災害に対する安全の確保の観点も加味した計画の検討要請について課題を指摘している。この指摘を踏まえ、厚生労働省及び国土交通省は、都道府県に対し、「総務省行政評価局による災害時要援護者関連施設に係る土砂災害防止対策の実態把握結果について(情報提供)」(平成24年12月27日付け厚生労働省社会・援護局福祉基盤課事務連絡、同日付け国土交通省水管理・国土保全局砂防部砂防計画課長補佐事務連絡)を発出し、都道府県民生部局、都道府県砂防部局及び市町村が緊密に連携し、要配慮者利用施設の土砂災害対策への適切な対応の徹底を図る旨を要請している。

さらに、平成27年8月には、国土交通省が土砂災害のおそれのある箇所に立地する要配慮者利用施設における土砂災害対策の状況を調査した結果、より重点的な対策を図る必要があったため、文部科学省、厚生労働省及び国土交通省が、都道府県の衛生部局、民生部局(以下、衛生部局及び民生部局を「衛生・民生部局」という。)、砂防部局、教育委員会等に対し、技術的助言「土砂災害のおそれのある箇所に立地する「主として防災上の配慮を要する者が利用する施設」に係る土砂災害対策における連携の強化について」(平成27年8月20日付け27文施施企第19号、科発0820第1号、国水砂第44号文部科学省大臣官房文教施設企画部施設企画課長、文部科学省スポーツ・青少年局学校健康教育課長、厚生労働省大臣官房厚生科学課長、国土交通省水管理・国土保全局砂防部砂防計画課長通知。以下「平成27年連名通知」という。)を発出し、i) 土砂災害のおそれのある箇所及び同箇所に立地する要配慮者利用施設に関する基本的な情報の共有、ii) 同箇所に立地する当該施設への対応、iii) 同箇所に新たに立地する当該施設への対応について、都道府県砂防部局、都道府県衛生・民生部局、学校設置者に分けて、それぞれにおける都道府県関係部局、市町村担当部局等との情報共有や連携の方法・内容等について、主に次の対応を図るとともに、各市町村関係部局に周知を図るよう要請している。

① 都道府県砂防部局

i) 土砂災害のおそれのある箇所の位置、範囲等を衛生・民生部局等の施設所管部局に情報提供するとともに、学校設置者にも、必要に応じ市町村担当部局の協力を得ながら情報提供する。

ii) 土砂災害のおそれのある箇所に立地していることが明らかとなった要配慮者利用施設に関して、市町村が実施する警戒避難体制の整備の状況等について、市町村担当部局と情報共有を行う。

iii) 関係部局と相互に連携し、新たな当該施設に係る建設計画の関係者等に対して、土砂災害のおそれのある箇所に関する情報を提供し、土砂災害に対する安全の確保の観点も加味した計画検討を促すよう努めるとともに、警戒区域等が指定されていない場合には、将来指定され得ることや指定に伴う規制の内容等についても併せて情報提供を行う。

iv) 警戒避難体制の整備等について、市町村においても関係機関と緊密に連携し適切な対応に努めるよう、都道府県消防防災部局とも連携し、市町村担当部局に対する必要な助言、情報の提供・周知等に努める。

② 都道府県衛生・民生部局

i) 砂防部局からの情報提供により、土砂災害のおそれのある箇所に立地していることが明らかになった要配慮者利用施設の管理者に対し、必要に応じ市町村担当部局の協力を得ながら砂防部局からの情報等の提供に努める。

ii) 当該施設の建設や廃止等の動向について、砂防部局への情報提供を行う。

iii) 新たな要配慮者利用施設に係る建設計画を把握した際には、土砂災害のおそれのある箇所に関する情報と照合し、該当する場合には、砂防部局への情報提供を行い、関係部局と相互に連携し、新たな当該施設に係る建設計画の関係者等に対して、土砂災害のおそれのある箇所に関する情報を提供し、土砂災害に対する安全の確保の観点も加味した計画検討を促すよう努めるとともに、警戒区域等が指定されていない場合には、将来指定され得ることや指定に伴う規制の内容等についても併せて情報提供を行う。

iv) 土砂災害のおそれのある箇所に立地している要配慮者利用施設に関して、市町村が実施する警戒避難体制の整備の状況等について、市町村担当部局と情報共有を行う。

③ 学校設置者

i) 都道府県砂防部局又は市町村担当部局への確認等を通じて、設置する学校が土砂災害のおそれのある箇所に立地しているか把握する。

ii) 学校の設置や廃止をした場合であって、土砂災害のおそれのある箇所に該当するときには、市町村担当部局への情報提供を行う。

iii) 土砂災害のおそれのある箇所に立地する学校に関して、警戒避難体制の整備の状況等について、市町村担当部局と情報共有を行う。

(要配慮者利用施設への避難支援)

国土交通省は、警戒避難ガイドラインにおいて、警戒区域内の要配慮者利用施設への避難支援として、主に次のことを示している。

① 市町村は、円滑かつ迅速な避難を確保する必要があると認められる要配慮者利用施設について、その名称、所在地及び土砂災害に関する情報、予報及び警報の伝達に関する事項を、市町村地域防災計画に記載し、ハザードマップを作成する際には、要配慮者利用施設に関する情報を記載することが重要。

② 要配慮者利用施設の管理者は、市町村地域防災計画、ハザードマップ等の情報を活用して、要配慮者が迅速に避難行動をとれるよう、あらかじめ避難計画を策定しておくことが有効であり、i) 施設の立地条件と想定される土砂災害リスクを確認すること、ii) 情報の入手方法をその発信者に確認するとともに、受けた情報を伝達する相手及びその方法を定めること、iii) 施設職員の参集基準や役割分担等の防災体制を決めておくこと、iv) 施設内の垂直避難も含めた施設利用者ごとの避難場所・避難経路、避難方法を定めるとともに、避難先での場所を確保すること、v) 避難誘導に関する責任者を明確化すること、vi) これらの計画を避難経路図等に分かりやすくまとめることに留意しつつ検討することが考えられるとともに、実効性を高めるために、防災訓練や研修等を通じて計画の点検を行うことが必要。

③ 防災部局、福祉部局等が、必要に応じて調整・連携し、要配慮者利用施設の管理者に対して説明会等を開催することや個別に説明を行うこと等により、土砂災害に関する知識や防災意識の向上を図ること。

また、平成28年8月の台風第10号等で逃げ遅れによる多数の死者が発生したことなどを背景として、水防法等の一部を改正する法律案が第193回国会に提出されており、同法律案において、土砂災害防止法についても改正が予定されている。同法律案では、警戒区域内に存在し市町村長が必要と認める要配慮者利用施設について、避難計画の作成及び避難訓練の実施を義務化することなどを主な改正内容としている。

さらに、国土交通省は、平成28年8月の台風第10号の発生に伴う豪雨により、岩手県岩泉町の施設において、多数の利用者が被災した事例を踏まえ、要配慮者利用施設において、土砂災害に対して適切な避難行動がとられるよう、関係省庁や地方公共団体と連携し、要配慮者利用施設の管理者に対して、同年10月から土砂災害の危険性や非常災害対策計画の策定方法等についての説明会を実施しており、今後、この説明会は全国的に実施予定であるとしている。厚生労働省においては、平成28年9月に介護保険施設等の非常災害対策計画の策定や避難訓練の実施等について参考となる事例を含めて都道府県及び市町村に周知を行い、29年1月にはこれらに関して都道府県及び市町村に点検を依頼している。

【調査結果】

ア 要配慮者利用施設の新設計画を把握した場合の対応状況等

調査対象17都道府県60市町においては、平成23年4月から26年11月までの間に、土砂災害のおそれのある箇所に新設された要配慮者利用施設が延べ98施設(都道府県管轄が60施設、市町管轄が38施設)あり、特別警戒区域で10施設、警戒区域で70施設、土砂災害危険箇所で18施設が立地している。今回、これら98施設について、管轄する都道府県又は市町の関係部局が新設計画を把握した際の対応状況について調査した結果、次のとおり、主に衛生・民生部局の認識の低さから衛生・民生部局と砂防部局との間、要配慮者利用施設の建設申請者等との間や都道府県と市町との間における必要な情報共有・情報提供が行われないまま、土砂災害のおそれのある箇所に新設された要配慮者利用施設が多数みられた。

i) 都道府県管轄60施設中38施設(63.3%)に係る対応が不十分

a) 衛生・民生部局から砂防部局に情報提供が行われておらず、砂防部局から土砂災害に関する詳細な説明を受けないまま新設されたものが38施設(63.3%)

b) 衛生・民生部局から建設申請者等に土砂災害のおそれのある箇所に関する情報提供や土砂災害に対する安全の確保の観点も加味した計画の検討要請も行われないまま新設されたものが24施設(40.0%)

c) 施設移転を予定する事業者に対し、移転先が土砂災害危険箇所に該当し、さらに、特別警戒区域の指定に向けて砂防部局が手続を進めていることが情報提供されないまま移転されているなど、上記a)及びb)の対応がいずれも行われないまま新設されたものが24施設(40.0%)

ii) 市町管轄38施設中37施設(97.4%)に係る対応が不十分

a) 衛生・民生部局から都道府県関係部局に情報提供が行われておらず、都道府県砂防部局から土砂災害に関する詳細な説明を受けないまま新設されたものが37施設(97.4%)

b) 衛生・民生部局から建設申請者等に土砂災害のおそれのある箇所に関する情報提供や土砂災害に対する安全の確保の観点も加味した計画の検討要請も行われないまま新設されたものが17施設(44.7%)

c) 衛生・民生部局において、整備予定地が警戒区域に該当するかの確認を行っておらず、事業者に対し、安全の確保の観点を加味した計画の検討要請が行われないまま新設されるなど、上記a)及びb)の対応がいずれも行われないまま新設されたものが17施設(44.7%)

また、これらの情報提供や計画検討の要請が行われていなかった75施設(9都道府県管轄38施設・10市町管轄37施設)について、その理由をみると、警戒区域や土砂災害危険箇所については、土砂災害防止法や施設関係法令では立地規制がないとするものや新設計画を把握した時点で既に開発許可や建築確認の手続が進められており、衛生・民生部局における新設計画の事前把握ができていないとするものなど、平成22年連名通知等の趣旨・内容が十分に周知されていないことによるものが75施設中71施設(94.6%:8都道府県・10市町)と多数を占めていた。

他方、上記98施設とは別に、要配慮者利用施設の新設計画の検討時に立地予定箇所が警戒区域の指定予定箇所に該当するとの情報が市町から施設に提供された結果、施設利用者の居住箇所が警戒区域外となるよう新設計画が作成されるなど土砂災害のおそれのある箇所に関する情報提供や新設計画の検討要請が行われ、土砂災害のおそれのある箇所に新設されなかったものが3施設(3市町)みられた。

また、調査対象17都道府県60市町の中には、市が要配慮者利用施設を整備・運営する事業者を公募する際、i) 事業者への公募説明会において、警戒区域等を避けるよう指導するとともに、ii) 公募事業者の審査基準において、必須要件に施設の立地箇所が警戒区域等に指定されていないことを明示し、事業者が新設計画を立案する段階から警戒区域等外での立地を促しているもの(1市町)がみられた。

さらに、要配慮者利用施設の把握の状況について、調査対象60市町のうち、警戒区域等内に要配慮者利用施設は存在しないとしている1市町及び調査時点で警戒区域等の指定がなかった1市町を除いた58市町から8市町を抽出し、厚生労働省が公表している介護事業者一覧等と当該市町が把握している要配慮者利用施設のリストとを照合し、土砂災害のおそれのある箇所における立地の有無をハザードマップ等で確認した上で、当該市町(防災部局等)にも確認した結果、3市町において把握漏れとなっていたものが9施設(当該3市町が把握しているとする要配慮者利用施設152施設の5.9%)みられた。

土砂災害のおそれのある箇所に立地する要配慮者利用施設を防災部局等が把握していなかった3市町においては、その理由として、市町の衛生・民生部局や防災部局等の関係部局間や都道府県と市町との間での当該施設に係る情報共有がなされていなかったことなどを挙げている。

イ 要配慮者利用施設における土砂災害対策

① 避難計画の策定及び避難訓練の実施状況

平成28年8月に発生した台風第10号においては、川の氾濫により要配慮者利用施設の入所者に甚大な被害が発生する結果となり、当該施設の管理者からの「避難準備情報の意味を把握していなかった」、「避難訓練も実施していなかった」とのコメントも報道されていたところであるが、こうした状況に鑑みても、要配慮者利用施設の管理者においては、災害時に、入所者等の生命・身体を守るための適切な避難行動をとれるよう、避難計画の策定や防災訓練を適切に実施しておくことが重要なものとなっている。

今回、調査対象60市町において土砂災害のおそれのある箇所に立地する要配慮者利用施設から78施設を抽出し、これら施設における避難計画の策定及び避難訓練の実施状況を調査した結果、次のとおり、55施設(70.5%)において避難計画の策定又は避難訓練が実施されていなかった。

i) 土砂災害に係る避難計画が策定されていないものが33施設(42.3%)

ii) 土砂災害に係る避難訓練を実施していないものが52施設(66.7%)

iii) 土砂災害に係る避難計画が策定されておらず避難訓練も実施していないものが30施設(38.5%)

iv) 土砂災害に係る避難計画が策定されていない、又は避難訓練を実施していないものが55施設(70.5%)

これらの施設においては、その理由として、土砂災害のおそれのある箇所に施設が存在するという認識がなかったこと(5施設(9.1%))、土砂災害に係る避難計画の策定や避難訓練の実施が必要であると認識していなかったこと(30施設(54.5%))などを挙げており、その一方で、行政側から施設の規模や立地場所に応じた具体的な助言を求める意見や、避難計画の策定や避難訓練の実施のためのマニュアル及び推奨事例の提供を求める意見も聴かれた。

他方、土砂災害に係る避難計画の策定や防災訓練のためのマニュアルについては、8都道府県及び3市町で策定されており、要配慮者利用施設に提供されていた。

② 安全かつ円滑な避難行動を確保するための情報提供

調査対象17都道府県及び60市町のうち、調査時点で警戒区域等内に要配慮者利用施設は存在しないとしている1市町及び調査時点で警戒区域等の指定がなかった1市町を除いた58市町について、土砂災害のおそれのある箇所に立地する要配慮者利用施設に対する土砂災害に関する個別説明又は説明会の実施状況をみると、i) 土砂災害に関する危険性及び避難勧告等の内容及びii) 要配慮者利用施設に対する土砂災害警戒情報や避難勧告等の情報伝達の方法について説明していないものが7都道府県(41.2%)及び39市町(67.2%)あった。

【所見】

したがって、関係府省は、土砂災害のおそれのある箇所に立地する要配慮者利用施設について土砂災害からの安全確保対策が的確に実施されるようにするため、次の措置を講ずる必要がある。

① 土砂災害のおそれのある箇所における要配慮者利用施設の新設計画が把握された場合に、建設申請者等への土砂災害に関する必要な情報提供と計画検討の要請が適切に行われるよう、累次の連名通知で求められた必要な対応について、都道府県及び市町村の衛生・民生部局に周知徹底されるよう措置すること。(厚生労働省)

また、要配慮者利用施設及び土砂災害対策に関する関係部局に対して累次の連名通知で示されている対応がより図られるよう、これら関係部局に対し改めて助言すること。(文部科学省、厚生労働省、国土交通省)

② 土砂災害のおそれのある箇所に立地する要配慮者利用施設における避難計画の策定や避難訓練の実施を促進するための取組を、今後とも必要に応じ実施するとともに、要配慮者利用施設の管理者等の土砂災害に関する知識や防災意識の向上等を図るため、引き続き都道府県や市町村における取組を促すよう助言すること。(厚生労働省、国土交通省)