添付一覧
(取り組むべき施策)
国及び地方公共団体は、在宅緩和ケアの提供や、相談支援・情報提供を行うために、引き続き、地域の医師会や薬剤師会等と協働して、在宅療養支援診療所・病院、薬局、訪問看護ステーション等の医療・介護従事者への緩和ケア研修等を引き続き実施する。
国は、要介護認定における「末期がん」の表記について、保険者が柔軟に対応できるような方策を検討する。
【個別目標】
国は、がん患者がその療養する場所にかかわらず、質の高いがん医療を受けられるよう、2年以内に、地域連携体制について検討し、必要に応じて拠点病院等の整備指針の見直しを行い、拠点病院等の機能を更に充実させる。
拠点病院等は、医療と介護との連携を図りつつ、地域における緩和ケアの状況を把握し、地域における緩和ケアの提供体制について検討する場を3年以内に設けるなど、地域における他の医療機関との連携を図る。都道府県は、その開催状況を把握することに努める。
(4) がん患者等の就労を含めた社会的な問題(サバイバーシップ支援59)
がん患者には、身体的、精神的な苦痛のみならず、社会的な苦痛があることから、第2期基本計画では、重点的に取り組むべき課題として、「働く世代や小児へのがん対策の充実」を掲げ、働く世代に対して、主に、就労支援に関する対策に取り組んできた。しかし、依然として、「がん対策に関する世論調査(内閣府)(平成28(2016)年)」において、働く世代のがん患者が働き続けることを難しくさせている理由として、周囲の理解に関することが挙げられている60。
また、がん患者が、がんと共に生きていくためには、就労支援のみならず、治療に伴う外見(アピアランス)の変化、生殖機能の喪失及びがん患者の自殺といった社会的な課題への対策が求められている。
① 就労支援について
地域がん登録全国推計による年齢別がん罹患者数データによれば、平成24(2012)年において、がん患者の約3人に1人は、20歳から64歳までの就労可能年齢でがんに罹患している61。また、平成14(2002)年において、20歳から64歳までのがんの罹患者数は、約19万人であったが、平成24(2012)年における20歳から64歳までの罹患者数は、約26万人に増加しており、就労可能年齢でがんに罹患している者の数は、増加している。
また、がん医療の進歩により、我が国の全がんの5年相対生存率は、56.9%(平成12(2000)年~平成14(2002)年)、58.6%(平成15(2003)年~平成17(2005)年)、62.1%(平成18(2006)年~平成20(2008)年)と年々上昇しており、がん患者・経験者が長期生存し、働きながらがん治療を受けられる可能性が高まっている。
このため、がんになっても自分らしく活き活きと働き、安心して暮らせる社会の構築が重要となっており、がん患者の離職防止や再就職のための就労支援を充実させていくことが強く求められている。
(ア) 医療機関等における就労支援について
(現状・課題)
平成25(2013)年に実施されたがん患者の実態調査32では、がんと診断された後の仕事の状況の変化について、依願退職又は解雇された者の割合(34.6%)が、平成15(2003)年(34.7%)と比べて変化していない。引き続き、がん患者の離職防止を支援していくことが必要である。
拠点病院等では、専門的な就労相談に対応するため、がん相談支援センターを中心に、社会保険労務士等の就労に関する専門家の活用を促してきた。しかしながら、この取組を実施している拠点病院等は、平成28(2016)年では約3分の1にとどまっており、充実した就労支援を提供するには至っていない。
平成27(2015)年の厚生労働省研究班による調査62では、がんと診断され、退職した患者のうち、診断がなされてから最初の治療が開始されるまでに退職した者が4割を超えている。また、その退職理由としては、「職場に迷惑をかけたくなかった」、「がんになったら気力・体力的に働けないだろうと予測したから」及び「治療と仕事を両立する自信がなかったから」といった、がん治療への漠然とした不安が上位に挙がっている。このため、がん患者が診断時から正しい情報提供や相談支援を受けることが重要である。
また、医療機関や企業に相談する前に離職する者が少なからずいるにもかかわらず、がん相談支援センターの利用度(7.7%)は低い52。
平成29(2017)年3月の「働き方改革実現会議63」において決定された「働き方改革実行計画」では、病気の治療と仕事の両立を社会的にサポートする仕組みを整えることや病を患った方々が生きがいを感じながら働ける社会を目指すことが打ち出された。
がん患者の職場復帰や治療と仕事の両立については、企業は、支援を必要とするがん患者に対し、患者の治療状況等についての主治医の意見書等の必要な情報を踏まえた上で、就業上の措置等を講ずることが重要である。その場合においては、必要に応じて、「両立支援プラン/職場復職支援プラン」を作成することが望ましい。しかし、がん患者自身が自身の治療状況や生活環境、勤務情報等を整理することは難しい場合があるため、がん患者が自分の置かれている状況を整理した上で、復職について相談できるよう、患者に寄り添った相談支援を充実させていくことが求められている。
国は、就職支援としては、がん相談支援センターでの相談支援に加え、転職や再就職の相談に対応するため、公共職業安定所(以下「安定所」という。)に配置されている「就職支援ナビゲーター64」と拠点病院等と連携した就職支援事業等に取り組んでいる。当該事業における就職率について、事業開始年度である平成25(2013)年度は40.0%(実施安定所は5か所)、平成26(2014)年度は43.6%(12か所)及び平成27(2015)年度は51.2%(16か所)となっており、一定の成果をあげている。平成28(2016)年度からは、全国47都道府県で事業を実施している。今後は、更なる事業の拡充が求められるほか、がん患者の再就職については、再就職後の治療と仕事の両立状況を把握した上で、よりよい支援を行う必要がある。
(取り組むべき施策)
国は、全国のどの拠点病院等においても、より充実した就労相談支援を受けられるようにするため、拠点病院等で就労支援に携わる者が、患者の状況を踏まえた適切な支援に必要な知識を身につけることができるよう、必要な研修を実施する。
国は、拠点病院等において、治療の早期から患者ががん相談支援センターを認識し、必要に応じて確実に支援を受けられるよう、拠点病院等におけるがん相談支援センターの位置づけ、主治医等の治療スタッフからの紹介の方法など、がん相談支援センターの利用を促す方策を検討し、必要に応じて、拠点病院等の整備指針に反映することを検討する。また、国は、社会保険労務士等の院外の就労支援に関する専門家との連携、相談の質の確保及びその評価の方策を検討する。
診断早期の離職を防止するため、拠点病院等をはじめとする医療機関の協力の下、ポスターやリーフレットを活用すること等によって、がん患者に対する治療と職業生活の両立支援について、周知を図る。
国は、患者が安心して復職できるよう、個々の患者ごとの治療と仕事の両立に向けたプランの作成支援、患者の相談支援及び主治医や企業・産業医と復職に向けた調整の支援を行う「両立支援コーディネーター」を、拠点病院等、関係団体及び独立行政法人労働者健康安全機構との連携の下に育成・配置し、主治医等、会社・産業医及び「両立支援コーディネーター」による、患者への「トライアングル型サポート体制65」を構築する。
「トライアングル型サポート」を行うためには、拠点病院等で相談支援に携わる者や「両立支援コーディネーター」が、がん患者の治療の状況のみならず、必要に応じて、がん患者一人ひとりの社会的な背景や生活の状況等を把握することが重要である。国は、がん患者自身や就労支援に携わる者が、がん患者のおかれた事情を総合的に把握するためのツールとして、患者の治療、生活、勤務情報等をまとめた「治療と仕事両立プラン(仮称)」を開発する。また、就労支援に携わる者は、患者個々の事情を把握した上で、患者と事業主との間で復職へ向けた調整を支援する。
また、国は、就職支援において、拠点病院等と安定所との連携を推進する事業について、各地域の実情を踏まえながら事業の拡充を図る。さらに、がん患者の再就職後の就労継続状況について調査を行い、再就職支援に活かしていく。
(イ) 職場や地域における就労支援について
(現状・課題)
「がん対策に関する世論調査(内閣府)(平成28(2016)年)」では、がん患者が働き続けるために必要な取組として、「通院のために短時間勤務が活用できること」、「1時間単位の休暇や長期の休暇が取れるなど柔軟な休暇制度」等が上位に挙がっており、柔軟な勤務制度や休暇制度の導入が求められている。
がん患者の実態調査32では、離職理由として「仕事を続ける自信がなくなった」、「会社や同僚、仕事関係の人々に迷惑をかけると思った」及び「治療や静養に必要な休みをとることが難しかった」が上位に挙がっており、企業内におけるがん患者への理解や協力も必要である。
「働き方改革実現会議」の議論においても、企業文化の抜本改革として、経営トップや管理職等の意識改革や、治療と仕事の両立を可能にする社内制度の整備の推進が求められている。
国は、平成28(2016)年2月に「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン66」を作成し、また、企業ががん治療の特徴を踏まえた治療と仕事の両立支援を行えるよう、がんに関する知識やがんの治療に必要な配慮等をまとめた留意事項を作成し、公表した。今後も更なる周知・普及を図る必要がある。さらに、医療機関と企業だけでなく、都道府県、安定所、産業保健総合支援センター67等の有機的な連携をより一層推進することが求められている。
傷病手当金については、がん治療のために入退院を繰り返す場合や、がんが再発した場合に、患者が柔軟に利用できないとの指摘がある。
(取り組むべき施策)
国は、企業が、柔軟な休暇制度や勤務制度など、治療と仕事の両立が可能となる制度の導入を進めるよう、表彰制度等の検討を行うとともに、助成金等による支援を行う。
企業において、「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」に基づくがん患者の働きやすい環境整備を推進するため、産業保健総合支援センター等において、経営者等に対する啓発セミナーや産業医、産業保健スタッフ、人事労務担当者等に対する専門的研修を開催する。
国は、両立支援に係る相談対応や両立支援に取り組む事業場への訪問指導、がん患者と事業場の間の個別調整支援等を実施するとともに、支援が活用されるよう周知を図る。
企業は、社員研修等により、がんを知り、がん患者への理解を深め、がん患者が働きやすい社内風土づくりを行うよう努める。
がん患者・経験者に対する就労支援を推進するため、地域における就労支援の関係者等で構成するチームを設置し、連携した取組の推進を図る。
現在、職域における健康の保持や増進のための取組として、企業等における「健康経営」を表彰する取組が推進されており、平成27(2015)年の「健康経営銘柄」の選定に続き、平成29(2017)年2月には中小企業等を対象とした「健康経営優良法人」も認定されているが、その選定基準に、「病気の治療と仕事の両立の促進に向けた取り組み」を盛り込んだ。
国は、治療と仕事の両立等の観点から、傷病手当金の支給要件等について検討し、必要な措置を講ずる。
② 就労以外の社会的な問題について
(現状・課題)
がんに罹患して治療を受けている者は、現在163万人68である。がんの治療成績の向上に伴い、がん経験者は増加しており、就労支援のみならず、がん患者・経験者のQOL向上に向けた取組が求められる。
社会的な問題としては、がんに対する「偏見」があり、地域によっては、がんの罹患そのものが日常生活の大きな障壁となること、自身ががんであることを自由に話すことができず、がん患者が社会から隔離されてしまうことがあることや、離島、僻地における通院等に伴う経済的な課題、がん治療に伴う外見(アピアランス)の変化(爪、皮膚障害、脱毛等)、診療早期における生殖機能の温存、後遺症及び性生活(セクシャリティ)に関する相談支援並びに情報提供の体制が構築されていないこと等が指摘されているものの、十分な検討がなされていない。
また、我が国のがん患者の自殺は、診断後1年以内が多いという報告69があるが、拠点病院等であっても相談体制等の十分な対策がなされていない状況にある。がん診療に携わる医師や医療従事者を中心としたチームで、がん患者の自殺の問題に取り組むことが求められる。
さらに、我が国において、障害のあるがん患者に関する課題は明確になっていない。障害のあるがん患者に対してどのような対応が必要かということについて、行政、医療従事者での問題意識の共有が不十分であり、対応も病院ごとに異なる。また、罹患前から障害を持つ人だけでなく、がん治療によって障害を持つことになった人に関する課題についても、十分な検討がなされていない。がんに罹患した後も、治療により長期に生存することが可能になっているが、高額な治療が必要な患者については、その医療費が生活を圧迫し続けるという指摘もある。
(取り組むべき施策)
地方公共団体は、学校におけるがん教育だけでなく、がんに対する「偏見」の払拭や国民全体に対する健康についての啓発につながるよう、民間団体や患者団体等の協力を得ながら、がんに関する正しい知識を得る機会を設ける。
国は、がん患者の経済的な課題を明らかにし、利用可能な社会保障制度に関する周知の方法や、その他の課題の解決に向けた施策を検討する。
国は、がん患者の更なるQOL向上を目指し、医療従事者を対象としたアピアランス支援研修等の開催や、生殖機能の温存等について的確な時期に治療の選択ができるよう、関係学会等と連携した相談支援及び情報提供のあり方を検討する。
国は、家族性腫瘍に関する情報を集約化し、診断、治療及び相談体制の整備や人材育成等について検討する。
国は、拠点病院等におけるがん患者の自殺の実態調査を行った上で、効果的な介入のあり方について検討する。また、がん患者の自殺を防止するためには、がん相談支援センターを中心とした自殺防止のためのセーフティーネットが必要であり、専門的・精神心理的なケアにつなぐための体制の構築やその周知を行う。
国は、障害のあるがん患者の実態やニーズ、課題を明らかにする。各専門分野を越えた連携を可能とするため、障害者福祉の専門支援機関(点字図書館、生活訓練施設、作業所等)と拠点病院等との連携を促進させる仕組みについて検討する。コミュニケーションに配慮が必要ながん患者や、がん治療に伴って障害をもった患者等について、ユニバーサルな視点70を取り入れることを検討する。
【個別目標】
国は、3年以内に、「治療と仕事両立プラン(仮称)」を開発するとともに、そのプランを活用した、がん相談支援センターの相談員をはじめとする就労支援の関係者間の連携についてモデルを構築し、「治療と仕事両立プラン(仮称)」を用いた生活、介護及び育児の状況など、個々の事情に応じた就労支援を行うための体制整備を進める。
国は、3年以内に、医療機関向けに企業との連携のためのマニュアルを作成し、その普及を開始する。
国は、がん患者・経験者、その家族の生活の質を向上させるため、がん患者や家族に関する研究を行うことによって、その課題を明らかにする。また、既存の施策の強化や普及啓発など、更なる施策の必要性について検討する。
(5) ライフステージに応じたがん対策
がんによって、個々のライフステージごとに、異なった身体的問題、精神心理的問題及び社会的問題が生じることから、小児・AYA世代や高齢者のがん対策など、他の世代も含めた「ライフステージに応じたがん対策」を講じていく必要がある。
小児・AYA世代のがん患者に対する教育については、平成28(2016)年の法の一部改正によって、法第21条に、「国及び地方公共団体は、小児がんの患者その他のがん患者が必要な教育と適切な治療とのいずれをも継続的かつ円滑に受けることができるよう、必要な環境の整備その他の必要な施策を講ずるものとする」と明記されるなど、更なる対策が求められている。
① 小児・AYA世代について
(現状・課題)
小児・AYA世代のがんは、他の世代に比べて患者数が少なく、疾患構成も多様であり、医療従事者に診療や相談支援の経験が蓄積されにくいこと、乳幼児から思春期・若年成人世代まで幅広いライフステージで発症し、晩期合併症のため、治療後も長期にわたりフォローアップを要すること及び年代によって就学、就労、生殖機能等の状況が異なり、心理社会的状況も様々であって個々の状況に応じた多様なニーズが存在することから、成人のがんとは異なる対策が求められている。
小児・AYA世代のがん患者の中には、成長過程にあり、教育を受けている者がいることから、治療による身体的・精神的な苦痛を伴いながら学業を継続することを余儀なくされている者がいる。しかし、小児・AYA世代のがん患者のサポート体制は、必ずしも十分なものではなく、特に、高校教育の段階においては、取組が遅れていることが指摘されている。このため、小児・AYA世代のがん患者が治療を受けながら学業を継続できるよう、入院中・療養中の教育支援、退院後の学校・地域での受入れ体制の整備等の教育環境の更なる整備が求められている。
小児・AYA世代のがん経験者は、晩期合併症等により、就職が困難な場合があるため、就労支援に当たっては、成人発症のがん患者とニーズや課題が異なることを踏まえる必要がある。利用可能な制度や相談機関が、がん患者・経験者と家族に周知されていない場合があること、周知されていても十分に活用されていない場合があること等の指摘がある。
小児・AYA世代の緩和ケアは、家族に依存しており、家族が離職する場合があるなど、家族の負担が非常に大きい。また、小児の在宅医療に対応できる医療関係者は限られており、緩和ケア病棟もほとんどないとの指摘がある。
(取り組むべき施策)
国は、医師・看護師等の医療従事者に対し、長期フォローアップ71に関する教育を充実させる。「小児がん治療後の長期フォローアップガイドライン」72等を活用しながら長期フォローアップの体制を整備する。晩期合併症対策を専門とする医療体制を構築するとともに、晩期合併症に関する研究を推進する。
国及び地方公共団体は、医療従事者と教育関係者との連携を強化するとともに、情報技術(ICT)を活用した高等学校段階における遠隔教育など、療養中においても適切な教育を受けることのできる環境の整備や、復学・就学支援など、療養中の生徒等に対する特別支援教育をより一層充実させる。
国は、小児・AYA世代のがん患者の長期フォローアップについて、晩期合併症への対応、保育・教育・就労・自立・心理的課題に関する支援を含め、ライフステージに応じて成人診療科と連携した切れ目のない相談等の支援の体制整備を推進する。
国は、小児・AYA世代のがん経験者の就労における課題を踏まえ、医療従事者間の連携のみならず、安定所、地域若者サポートステーション73等を含む就労支援に関係する機関や患者団体との連携を強化する。
国は、緩和ケアに従事する医療従事者が、小児・AYA世代のがん医療に携わる診療従事者と問題点や診療方針等を共有できるようにすること、入院中だけでなく外来や在宅においても連携できるようにすることを目的として、例えば、小児がん緩和ケア研修会を実施するなど、小児・AYA世代のがん患者に対する緩和ケア提供体制の整備や在宅療養環境の整備等に必要な方策を検討する。
② 高齢者について
(現状・課題)
高齢者は、入院をきっかけに認知症と診断される場合や、既にある認知症の症状が悪化する場合があるため、がん医療における意思決定等について、一定の基準が必要と考えられるが、現状そのような基準は定められていない。
高齢者ががんに罹患した際には、医療と介護との連携の下で適切ながん医療を受けられることが重要であり、医療従事者のみならず、介護従事者についても、がんに関する十分な知識が必要とされている。
(取り組むべき施策)
国は、認知症等を合併したがん患者や、看取り期における高齢のがん患者の意思決定を支援するための方策について、検討を行う。
国は、高齢のがん患者を支援するため、医療機関・介護施設等の医師、医療従事者及び介護従事者が連携し、患者とその家族の意思決定に沿った形で患者の療養生活を支えるための方策を検討する。
【個別目標】
国は、小児・AYA世代のがんの経験者が治療後の年齢に応じて、継ぎ目なく診療や長期フォローアップを受けられる体制の整備を進める。そのため、3年以内に、「小児がん医療・支援のあり方に関する検討会」及び「がん診療提供体制のあり方に関する検討会」で検討を行い、小児がん拠点病院とがん診療連携拠点病院等の整備指針の見直しを行う。
また、高齢のがん患者の意思決定の支援に関する診療ガイドラインを策定し、拠点病院等に普及させることを検討する。
――――――――――
41 「苦痛のスクリーニング」とは、診断や治療方針の変更の時に、身体的苦痛や精神心理的苦痛、社会的苦痛など、患者とその家族にとって重要な問題でありながらも取り上げられにくい問題について、医療従事者が診療の場面で定期的に確認し、話し合う機会を確保すること。
42 ここでいう「つなぐ」とは、医療従事者が専門的な緩和ケアについて、緩和ケアチームや緩和ケア外来等に相談し、その後も双方向性に協働すること。
43 「緩和ケアセンター」とは、拠点病院等において、緩和ケアチーム、緩和ケア外来、緩和ケア病棟等の専門的な緩和ケアを統括する院内拠点組織のこと。
44 「緩和医療専門医」とは、患者と家族を全人的に把握し、理解できる能力と資質を有する医師として、特定非営利活動法人日本緩和医療学会が認定する資格。平成29(2017)年4月時点で178名。
45 「精神腫瘍医」とは、がんが患者、家族、医療従事者の心に及ぼす影響を熟知し、臨床・実践活動でがんに伴って生じる精神心理的な苦痛の軽減に取り組む精神科医又は心療内科医のことをいう。
46 「がん専門薬剤師」とは、がん領域の薬物療法等に一定水準以上の実力を有し、医療現場において活躍しうる薬剤師として、一般社団法人日本医療薬学会が認定する資格。平成29(2017)年1月時点で529名。
47 「緩和薬物療法認定薬剤師」とは、緩和薬物療法に貢献できる知識・技能・態度を有する薬剤師として、一般社団法人日本緩和医療薬学会が認定する資格。平成29(2017)年4月時点で595名。
48 「がん病態栄養専門管理栄養士」とは、がんの栄養管理・栄養療法に関する高度な知識と技術を取得した管理栄養士として、一般社団法人日本病態栄養学会と公益社団法人日本栄養士会が認定する資格。平成29(2017)年3月時点で344名。
49 「グリーフケア」とは、大切な人を失い、残された家族等の身近な者が悲しみを癒やす過程を支える取組のこと。また、「ビリーブメントケア」ともいう。
50 「臨床研修の到達目標(厚生労働省)」において、経験目標として「緩和ケア、終末期医療」について盛り込まれている。
51 「地域統括相談支援センター」とは、平成23(2011)年度から都道府県健康対策推進事業の一環として開始。全国に14か所ある(平成29(2017)年3月時点)。
52 平成26(2014)年度厚生労働科学研究費補助金がん対策推進総合研究「がん対策における進捗管理評価指標の策定と計測システムの確立に関する研究」
53 「ピア・サポート」とは、患者・経験者やその家族がピア(仲間)として体験を共有し、共に考えることで、患者や家族等を支援すること。
54 「都道府県がん診療連携拠点病院連絡協議会情報提供・相談支援部会」とは、都道府県がん診療連携拠点病院の機能強化や、都道府県がん診療連携拠点病院と都道府県内の地域がん診療連携拠点病院や地域がん診療病院等との連携強化について協議するために設置された、都道府県がん診療連携拠点病院連絡協議会の下に設けられた4部会のうちの1つ。
55 「PDCAサイクル」とは、事業活動における生産管理や品質管理等の管理業務を円滑に進める手法の1つ。Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Act(改善)の4段階を繰り返すことによって、業務を継続的に改善する。
56 在宅療養支援診療所:14,562診療所、在宅療養支援病院:1,074病院(平成27(2015)年7月1日時点)
57 「地域包括支援センター」とは、市町村が設置主体となり、保健師・社会福祉士・主任介護支援専門員等の配置による3職種のチームアプローチによって、住民の健康の保持及び生活の安定のために必要な援助を行うことで、その保健医療の向上及び福祉の増進を包括的に支援することを目的とする施設のこと(介護保険法(平成9年法律第123号)第115条の46第1項)。全国に4.685か所ある(平成27(2015)年4月末時点)。
58 「フォローアップ」とは、治療終了後のがん患者の定期的な外来診療や検査での経過の観察のこと。
59 「サバイバーシップ支援」とは、がんになったその後を生きていく上で直面する課題を乗り越えていくためのサポートのこと。
60 「がんの治療や検査のために2週間に一度程度病院に通う必要がある場合、働き続けることを難しくさせている最も大きな理由は何だと思うか」という質問に対して「代わりに仕事をする人がいない、またはいても頼みにくいから」と答えた者の割合が21.7%(平成26(2014)年11月同調査:22.6%)、「職場が休むことを許してくれるかどうかわからないから」と答えた者の割合が21.3%(平成26(2014)年11月同調査:22.2%)となっている。
61 全がん罹患者数86.5万人のうち、20歳から64歳の者は26万人(地域がん登録全国推計値(平成24(2012)年)より)。
62 平成27(2015)年度厚生労働科学研究費補助金がん対策推進総合研究事業「働くがん患者の職場復帰支援に関する研究」
63 「働き方改革実現会議」とは、働き方改革の実現を目的とする実行計画の策定等に係る審議に資するため、平成28(2016)年9月から開催された内閣総理大臣を議長として政府に置かれた会議のこと。
64 「就職支援ナビゲーター」とは、公共職業安定所に配置されているがん患者等の就職支援に対応する専門相談員のこと。
65 「トライアングル型サポート体制」とは、病気の治療と仕事の両立を社会的にサポートする仕組みを整えるため、主治医等、会社・産業医及び患者に寄り添う「両立支援コーディネーター」によるトライアングル型で患者をサポートする体制のこと。平成29(2017)年3月28日「働き方改革実現会議」で決定された「働き方改革実行計画」において、構築するよう定められた。
66 「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」とは、事業場が、がん、脳卒中等の疾病を抱える方々に対して、適切な就業上の措置や治療に対する配慮を行い、治療と職業生活が両立できるようにするため、事業場における取組等をまとめたもの。
67 「産業保健総合支援センター」とは、各都道府県に設置されており、事業場で産業保健活動に携わる事業主、人事労務担当者、産業医、産業保健スタッフ等に対して、研修や専門的な相談への対応等を行う支援機関のこと。
68 平成26(2014)年「患者調査」
69 「Psychooncology 2014; 23: 1034-41.」より引用。
70 「ユニバーサルな視点」とは、「バリアフリー」のように、既存の状況を前提として、利用できない環境を特別な方法で解決するという考え方ではなく、物事の設計の段階から、広く誰もが、という普遍的(ユニバーサル)な考え方に基づく視点のこと。
71 「長期フォローアップ」とは、原疾患の治療がほぼ終了し、診療の重点が晩期合併症、後遺症や副作用対策が主となった時点からの対応のこと(出典:がん対策推進協議会小児がん専門委員会資料)。
72 日本小児白血病リンパ腫研究グループ(JPLSG)の長期フォローアップ委員会が作成した「小児がん治療後の長期フォローアップガイドライン」
http://jplsg.jp/menu11_contents/FU_guideline.pdf
73 「地域若者サポートステーション(通称:「サポステ」)」とは、働くことに悩み・課題を抱えている15歳~39歳までの若者に対し、キャリアコンサルタント等による専門的な相談支援、個々のニーズに即した職場体験、就職後の定着・ステップアップ相談等による職業的自立に向けた支援を行う就労支援機関のこと。
4.これらを支える基盤の整備
がん対策における横断的な対応が必要とされる基盤として、「がん研究」、「人材育成」及び「がん教育・がんに関する知識の普及啓発」を位置づけ、一層の対策を講ずる。
(1) がん研究
(現状・課題)
我が国のがん研究は、第2期基本計画と「健康・医療戦略」(平成26(2014)年7月22日閣議決定)を踏まえ、平成26(2014)年度に、厚生労働大臣、文部科学大臣、経済産業大臣の確認の下に策定された「がん研究10か年戦略」に基づき、計画的に進めている。
「がん研究10か年戦略」においては、「がんの本態解明に関する研究」、「アンメットメディカルニーズに応える新規薬剤開発に関する研究」、「充実したサバイバーシップを実現する社会の構築をめざした研究」等の具体的研究事項を定め、平成27(2015)年4月に設立された国立研究開発法人日本医療研究開発機構(Japan Agency for Medical Research and Development。以下「AMED」という。)と協力しながら、長期的視点を持って研究成果を産み出すこととしている。具体的には、医薬品、医療機器を開発するために、厚生労働省、文部科学省、経済産業省の3省連携プロジェクトとして、「ジャパン・キャンサーリサーチ・プロジェクト」を推進しており、基礎研究から実用化を目指した研究まで一貫した管理を行い、がん医療の実用化を加速している。
厚生労働省の「がん対策推進総合研究事業」においては、充実したサバイバーシップを実現する社会の構築や、がん対策の効果的な推進・普及のための研究を進めているものの、公衆衛生、政策形成等に関する公的な研究が不十分との指摘がある。なお、サバイバーシップに関する研究は、「がん研究10か年戦略」に、「充実したサバイバーシップを実現する社会の構築をめざした研究」として位置づけられているものの、現在のがん患者を取り巻く社会の状況に応じた更なる研究が求められている。
依然として、小児がん、希少がん及び難治性がんについては、標準的治療や診療ガイドラインがないがん種があること、必ずしも、科学的な根拠に基づかない治療が提供されていること、臨床研究における症例集積が困難であること等に加え、医療従事者に対する臨床研究に関する情報提供が分かりやすくなされていないことが、新たな治療開発の障壁となっている。
また、がんの克服を目指し、目覚ましい発展を遂げているゲノム解析や人工知能を含めた情報通信技術等をがん医療に応用すること等による、革新的な診断法や治療法の開発が求められている。
治験、臨床試験に関する計画立案の段階から、研修を受けた患者が参画することによって、患者視点のアウトカムの提案や、患者のリクルートの適正化等をより高い精度で進めていくことの必要性が指摘されている。
(取り組むべき施策)
「がん研究10か年戦略」は、本基本計画を踏まえ、中間評価や内容を見直すこととしており、国は、現状のニーズや我が国に求められる研究について、有識者の意見を参考にしつつ見直す。
AMEDは、基礎的な研究から実用化に向けた研究までを一体的に推進するため、有望な基礎研究の成果の厳選及び医薬品・医療機器の開発と企業導出を速やかに行うための取組を推進する。
「ジャパン・キャンサーリサーチ・プロジェクト」を中心として、関係省庁が協力し、小児がん、希少がん、難治性がん等の標準的治療の確立や診療ガイドラインの策定及びバイオマーカー74の開発に向けた取組をより一層推進する。
また、新たな治療法の開発が期待できるゲノム医療や免疫療法について、重点的に研究を推進する。
国は、ゲノム医療に関しては、「がんゲノム情報管理センター(仮称)」に集積された情報を分析すること等により、戦略的にがん研究を進める体制を整備する。
国は、革新的な診断法や治療法を創出するため、リキッドバイオプシー等を用いた低侵襲性診断技術や早期診断技術の開発、新たな免疫療法に係る研究等について、戦略的に研究開発を推進する。
国は、健康に無関心な層に対して、がんの予防法を周知する方法を含め、効果的な健康増進に関する研究に取り組む。これらの研究の必要性を戦略上より一層明確に位置づけ、関係省庁、関係機関等が一体となって推進する。
国は、患者の声を取り入れながら、がん罹患後の社会生活に関する研究や、中長期的な後遺症に対する診療ガイドラインを作成するための研究など、サバイバーシップ研究を推進する。
国は、治験をはじめとした臨床研究の情報を医療従事者や国民にわかりやすく提供するとともに、関係団体等と連携し、治療開発を一層推進する。
AMEDは、海外の研究体制と同様、我が国でも患者やがん経験者が研究のデザインや評価に参画できる体制を構築するため、平成30(2018)年度より、患者及びがん経験者の参画によって、がん研究を推進するための取組を開始する。また、国は、研究の計画立案と評価に参画可能な患者を教育するためのプログラムの策定を開始する。
国は、近年著しく進歩しつつある革新的医療機器については、均てん化に資する更なるコストダウン等に向けた研究開発を推進する。
国は、拠点病院等や小児がん拠点病院と臨床研究中核病院等との連携を一層強化し、がん患者に対して、臨床研究を含めた治療選択肢を提供できる体制を整備する。
【個別目標】
国は、2年以内に、「がん研究10か年戦略」のあり方について検討を行い、新たな課題や重点的に進めるべき研究を盛り込む。その際、必要に応じて、現在AMEDで行われている事業の研究領域を見直し、科学技術の進展や臨床ニーズに見合った研究を推進する。
(2) 人材育成
(現状・課題)
集学的治療等の提供については、引き続き、手術療法、放射線療法、薬物療法及び免疫療法を専門的に行う医療従事者を養成するとともに、こうした医療従事者と協力して、がん医療に関する基本的な知識や技能を有し、がん医療を支えることのできる薬剤師、看護師等の人材を養成していく必要がある。
これまで、厚生労働省では、拠点病院等を中心に、医療チームによる適切な集学的治療等を提供するため、「がん対策推進総合研究事業」における外科医の育成プログラム、病理医育成ネットワーク、緩和ケア研修、リハビリテーション研修等の人材育成のための支援を行ってきた。
文部科学省では、平成24(2012)年度から平成28(2016)年度まで、「がんプロフェッショナル養成基盤推進プラン75」を実施し、全国の大学に、がんに特化した臓器横断的な講座が整備され、手術療法、放射線療法及び薬物療法のほか、緩和ケア等のがん医療に専門的に携わる医師、歯科医師、看護師、薬剤師、診療放射線技師、医学物理士等の医療従事者の育成を行ってきた。
一方、近年、ゲノム医療等のがん医療が進歩し細分化が進んだことや、希少がん、難治性がん及び小児・AYA世代のがん等の特性やライフステージに応じた対応が必要とされていることにより、専門的な人材の育成を更に進めていくことが求められているものの、どのような人材を重点的に育成すべきか、必ずしも方向性が定まっていない。
医学部のモデル・コア・カリキュラム76や医師国家試験の出題基準等においては、緩和ケアに関する項目があるが、卒前教育においては、緩和ケアにおけるチーム連携に係る教育を充実させる必要があるとの指摘がある。
(取り組むべき施策)
国は、がん医療や支援の均てん化に向けた、幅広い人材の育成について、検討を行う。
国は、文部科学省におけるこれまでの取組において構築された人材育成機能を活用し、がん医療を専門とする医療従事者の養成を継続するとともに、ゲノム医療や希少がん及び難治性がんへの対応や、小児・AYA世代や高齢者といったライフステージに応じたがんへの対応ができる医療従事者等の育成を推進する。
国は、今後、緩和ケアをがん以外の疾患に広げていくために、大学等の教育機関において、実習等を組み込んだ緩和ケアの実践的な教育プログラムの充実や、緩和医療に関する講座の設置も含め、医師の卒前教育を担う指導者を育成するための積極的な取組を推進する。また、看護教育及び薬学教育においても、基本的な緩和ケアの習得を推進する。
【個別目標】
国は、2年以内に、今後のがん医療や支援に必要な人材と、幅広い育成のあり方について検討し、そのために必要な具体的なスケジュールを策定する。
(3) がん教育・がんに関する知識の普及啓発
(現状・課題)
法第23条では、「国及び地方公共団体は、国民が、がんに関する知識及びがん患者に関する理解を深めることができるよう、学校教育及び社会教育におけるがんに関する教育の推進のために必要な施策を講ずるものとする」とされている。
健康については、子どもの頃から教育を受けることが重要であり、子どもが健康と命の大切さについて学び、自らの健康を適切に管理するとともに、がんに対する正しい知識、がん患者への理解及び命の大切さに対する認識を深めることが大切である。これらをより一層効果的なものとするため、医師やがん患者・経験者等の外部講師を活用し、子どもに、がんの正しい知識やがん患者・経験者の声を伝えることが重要である。
国は、平成26(2014)年度より「がんの教育総合支援事業」を行い、全国のモデル校において、がん教育を実施するとともに、がん教育の教材や外部講師の活用に関するガイドラインを作成し、がん教育を推進している。しかし、地域によっては、外部講師の活用が不十分であること、教員のがんに関する知識が必ずしも十分でないこと及び外部講師が学校において指導する際の留意点77等を十分認識できていないことについて指摘がある。
国民に対するがんに関する知識の普及啓発は、「がん医療に携わる医師に対する緩和ケア研修等事業」や、職場における「がん対策推進企業等連携事業」の中で推進してきた。しかし、民間団体が実施している普及啓発活動への支援が不十分であるとの指摘がある。また、拠点病院等や小児がん拠点病院のがん相談支援センターや、国立がん研究センターがん情報サービスにおいて、がんに関する情報提供を行っているが、それらが国民に十分に周知されていないとの指摘がある。
(取り組むべき施策)
国は、学校におけるがん教育について、全国での実施状況を把握する。教員には、がんについての理解を促すため、外部講師には、学校でがん教育を実施する上での留意点や指導方法を周知するため、教員や外部講師を対象とした研修会等を実施する。
都道府県及び市町村において、教育委員会及び衛生主管部局が連携して会議体を設置し、医師会や患者団体等の関係団体とも協力しながら、また、学校医やがん医療に携わる医師、がん患者・経験者等の外部講師を活用しながら、がん教育が実施されるよう、国は必要な支援を行う。
国や地方公共団体は、引き続き、検診や緩和ケア等の普及啓発活動を推進する。また、民間団体や患者団体によって実施されている普及啓発活動をより一層支援するとともに、がん相談支援センターやがん情報サービスに関する広報を行う。
事業主や医療保険者は、雇用者や被保険者・被扶養者が、がんに関する正しい知識を得ることができるよう努める。
【個別目標】
国は、全国での実施状況を把握した上で、地域の実情に応じて、外部講師の活用体制を整備し、がん教育の充実に努める。
国民が、がん予防や早期発見の重要性を認識し、自分や身近な人ががんに罹患しても、そのことを正しく理解し向き合うことができるよう、国は、がんに関する知識の普及啓発を更に進める。
――――――――――
74 「バイオマーカー」とは、血液や尿等の体液や組織に含まれるタンパク質や遺伝子等の生体内の物質で、病気の変化や治療に対する反応に相関し、指標となるもの。バイオマーカーの量を測定することで、病気の存在、進行度及び治療の効果の指標の1つとすることができ、腫瘍マーカーもバイオマーカーの一種である(出典:国立がん研究センターがん情報サービス)。
75 「がんプロフェッショナル養成基盤推進プラン」とは、文部科学省において平成24(2012)年度に大学改革推進等補助金より開始された事業。手術療法、放射線療法、化学療法その他のがん医療に携わるがん専門医療人を養成する大学の取組を支援することを目的とした事業。平成25(2013)年度より研究拠点形成費等補助金にて行われている。
76 「医学教育モデル・コア・カリキュラム(平成28年度改訂版・文部科学省)」において、「緩和ケア」について盛り込まれている。
77 がん教育の実施に当たっては、以下のような事例について授業を展開する上で配慮が求められるとされている。①小児がんの当事者、小児がんにかかったことのある児童生徒がいる場合、②家族にがん患者がいる児童生徒や、家族をがんで亡くした児童生徒がいる場合、③生活習慣が主な原因とならないがんもあり、特に、これらのがん患者が身近にいる場合、④がんに限らず、重病・難病等にかかったことのある児童生徒や、家族に該当患者がいたり家族を亡くしたりした児童生徒がいる場合(出典:外部講師を用いたがん教育ガイドライン;文部科学省)。
第3 がん対策を総合的かつ計画的に推進するために必要な事項
1.関係者等の連携協力の更なる強化
がん対策を実効あるものとして、総合的に展開していくためには、国、地方公共団体、関係者等が、適切な役割分担の下、相互の連携を図りつつ、一体となって努力することが重要である。
国及び地方公共団体は、関係者等の意見の把握に努め、がん対策に反映させていくことが重要である。
国及び地方公共団体は、がん教育、がんに関する知識の普及啓発等により、がん患者が円滑な社会生活を営むことができる社会環境の整備への理解を図るとともに、相談支援や情報提供を行うことにより、国民とともに、地域における「がんとの共生社会」を目指して、共に取り組んでいくことが重要である。
2.都道府県による計画の策定
都道府県においては、本基本計画を基本としながら、本基本計画と、平成30(2018)年度からの新たな医療計画等との調和を図ることが望ましい。また、がん患者に対するがん医療の提供の状況等も踏まえ、地域の特性に応じた自主的かつ主体的な施策も盛り込みつつ、なるべく早期に、「都道府県がん対策推進計画(以下「都道府県計画」という。)」の見直しを行うことが望ましい。
なお、都道府県計画の見直しの際には、都道府県の協議会等にがん患者等が参画するなど、都道府県は、関係者等の意見の聴取に努める。また、がん対策の課題を抽出し、その解決に向けた目標を設定すること、必要な施策を検討し、実施すること、施策の進捗状況を把握し、評価すること等を実施しながら、必要があるときには、都道府県計画を変更するよう努める。国は、都道府県のがん対策の状況を定期的に把握し、積極的に都道府県に対して好事例の情報提供を行うなど、都道府県との情報共有に努める。
都道府県計画の作成に当たり、国は、都道府県計画の作成手法等について、必要な助言を行う。都道府県は、がん検診のみならず、普及啓発や地域における患者支援等の市町村の取組についても都道府県計画に盛り込むことが望ましい。
3.がん患者を含めた国民の努力
がん患者を含めた国民は、法第6条のとおり、がんに関する正しい知識を持ち、がんの予防に必要な注意を払い、必要に応じ、がん検診を受けるよう努めることとされており、今後のがん医療の向上に資するよう、以下の点についても努力していくことが望まれる。
・ がん医療は、がん患者、家族、医療従事者の人間関係を基盤として成り立っていることから、医療従事者のみならず、がん患者やその家族も、医療従事者と信頼関係を築くことができるよう努めること。
・ がん患者が適切な医療を受けるためには、セカンドオピニオンに関する情報の提示、がんに関する十分な説明、相談支援等が重要であるが、がん患者やその家族も、医療従事者からの説明を受けながら、病態や治療内容等について、理解するよう努めること。
・ がん患者を含めた国民の視点に立ったがん対策を実現させるため、がん患者を含めた国民も、国、地方公共団体、関係者等と協力して、都道府県におけるがん対策の議論に参画するなど、がん医療や、がん患者とその家族に対する支援を充実させることの重要性を認識し、行動するよう努めること。
・ 国や地方公共団体が国民の理解を得るために行う普及啓発は重要であるが、治験を含む臨床試験を円滑に進めていくためには、がん患者の協力が不可欠であることから、がん患者を含めた国民も、がんに関する臨床試験の意義を理解するよう努めること。
4.患者団体等との協力
国及び地方公共団体は、民間団体が行うがん患者の支援に関する活動、がん患者の団体が行う情報交換等の活動等を支援するため、情報提供その他の必要な施策を講ずるよう努める。
5.必要な財政措置の実施と予算の効率化・重点化
基本計画による取組を総合的かつ計画的に推進し、全体目標を達成するためには、がん対策を推進する体制を適切に評価していくこと、各取組の着実な実施に向けて必要な財政措置を行っていくこと等が重要である。
一方、近年の厳しい財政事情の下では、限られた予算を最大限有効に活用することによって、がん対策の成果を上げていくという視点が必要となる。
このため、より効率的に予算の活用を図る観点から、選択と集中の徹底、各施策の重複排除及び関係省庁間の連携強化を図るとともに、官民で役割と費用負担の分担を図る。
また、将来にわたって必要かつ適切ながん医療を提供するため、効率的かつ持続可能ながん対策を実現する。
6.目標の達成状況の把握
国は、全体目標とそれを達成するために必要な分野別施策の個別目標等について、ロードマップを作成し、公表する。
国は、基本計画に定める目標及びロードマップについては、適宜、その達成状況についての調査を行い、その結果を公表する。また、がん対策の評価に資する医療やサービスの質も含め、分かりやすい指標の策定について、引き続き必要な検討を行い、施策の進捗管理と必要な見直しを行う。
なお、国は、計画期間全体にわたり、基本計画の進捗状況を把握し、管理するため、3年を目途に、中間評価を行う。その際、個々の取り組むべき施策が個別目標の達成に向けて、どれだけの効果をもたらしているか、施策全体として効果を発揮しているかという観点から、科学的・総合的な評価を行い、その評価結果を踏まえ、課題を抽出し、必要に応じて施策に反映するものとする。また、協議会は、がん対策の進捗状況を踏まえ、施策の推進に資する上で必要な提言を行うとともに、必要に応じて、検討会等の積極的な活用を行うこととする。
また、都道府県は、都道府県計画に基づくがん対策の進捗管理に関するPDCAサイクルを回し、施策に反映するよう努める。
7.基本計画の見直し
法第10条第7項では、「政府は、がん医療に関する状況の変化を勘案し、及びがん対策の効果に関する評価を踏まえ、少なくとも6年ごとに、基本計画に検討を加え、必要があると認めるときには、これを変更しなければならない」と定められている。このため、計画期間が終了する前であっても、必要があるときには、本基本計画を変更するものとする。
