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○骨粗鬆症用薬の臨床評価方法に関するガイドラインの改訂について

(平成29年7月7日)

(薬生薬審発0707第1号)

(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長通知)

(公印省略)

骨粗鬆症用薬の臨床評価方法に関するガイドラインについては、平成11年4月15日付医薬審第742号厚生省医薬安全局審査管理課長通知「骨粗鬆症用薬の臨床評価方法に関するガイドラインについて」(以下「現行ガイドライン」という。)として通知され、骨粗鬆症用薬の承認申請の目的で実施される臨床試験の評価方法の標準的方法として適用されてきたところである。今般、現行ガイドラインが通知されてから10年以上の年月が経過し、この間に骨粗鬆用薬の開発・審査を巡る状況に大きな変化が認められたことから、別添のとおり現行ガイドラインを改め、下記により取り扱うこととしたので、貴管下関係業者に対し周知方よろしくご配慮願いたい。

1.適用日等

(1) 本ガイドラインは平成30年4月1日以降に開始する臨床試験から適用する。

(2) 本ガイドラインの施行に伴い、現行ガイドラインは平成30年3月31日をもって廃止すること。

(3) 本通知日以降、可能な範囲で本ガイドラインに示された方法等を開発計画に取り入れることは差し支えないこと。

2.留意事項

学問の進歩等を反映した合理的根拠に基づいたものであれば、必ずしもここに示した方法を固守するよう求めるものではないこと。

[別添]

骨粗鬆症用薬の臨床評価方法に関するガイドライン

目次

第1章 緒言

第2章 非臨床試験

1.はじめに

2.薬効薬理試験

(1) 動物種の選択

(2) 骨代謝マーカーの測定

(3) 骨量の測定

(4) 骨組織学的分析

(5) 骨強度の測定

(6) 骨折治癒に対する影響

第3章 骨粗鬆症用薬の有効性の評価方法に関する一般的配慮

1.はじめに

2.骨粗鬆症の診断

3.骨粗鬆症用薬の臨床評価法

(1) 新規骨折発生の判定

(2) 骨量測定法

(3) 骨代謝マーカー

(4) 骨生検―骨組織形態計測法

(5) 臨床評価上の留意点

第4章 臨床試験

1.治験の実施にあたって

(1) 治験責任医師及び治験実施医療機関

(2) 症例の評価

2.第Ⅰ相試験

(1) 目的

(2) 治験責任医師及び治験実施医療機関

(3) 被験者

(4) 試験方法

(5) 臨床評価

3.第Ⅱ相試験

3―1 前期第Ⅱ相試験

(1) 目的

(2) 治験責任医師及び治験実施医療機関

(3) 被験者

(4) 試験方法

(5) 臨床評価

3―2 後期第Ⅱ相試験

(1) 目的

(2) 治験責任医師及び治験実施医療機関

(3) 被験者

(4) 試験方法

(5) 臨床評価

(6) 後期第Ⅱ相試験より第Ⅲ相試験への継続

4.第Ⅲ相試験

4―1 閉経後骨粗鬆症

4―2 男性骨粗鬆症

4―3 ステロイド性骨粗鬆症

(1) 目的

(2) 治験責任医師及び治験実施医療機関

(3) 被験者

(4) 試験方法

(5) 臨床評価

(6) 被験者数と治験参加医療機関数

(7) 外国で行われた臨床試験の利用及び国際共同治験への参加について

第5章 製造販売後調査

参考文献

骨量測定法の種類と評価

「骨粗鬆症用薬の臨床評価方法に関するガイドライン」に関する質疑応答

第1章 緒言

骨粗鬆症とは、骨強度の低下を特徴とし、骨折のリスクが増大し骨折しやすくなる骨格疾患である1)。骨強度は骨密度と骨質の2つの要因からなり、骨強度が低下する要因である低骨量及び骨質の劣化は、早期には主として海綿骨に顕著に現われるが、進行すれば皮質骨にも及ぶ。女性の場合には、閉経や卵巣摘除などにより骨量の減少は急速に起こる。また、骨粗鬆症は、甲状腺・副甲状腺疾患、関節リウマチ、糖尿病をはじめとする生活習慣病などの全身性疾患や、ステロイドなど薬剤の使用により二次的に引き起こされることもある。骨粗鬆症により骨折、身体変形、寝たきり状態などが引き起こされ、これらはQOL低下の主要な原因となる。

本ガイドラインは、新たに新医薬品として開発される骨粗鬆症用薬[原発性骨粗鬆症(閉経後骨粗鬆症、男性骨粗鬆症、特発性骨粗鬆症)及びステロイド性骨粗鬆症の治療薬]を評価するための臨床試験の計画、実施、評価法などについて、現時点で妥当と思われる方法と、その一般的手順をまとめたものである。

ここに述べる指針は、現時点での考え方に沿って、また今後の骨粗鬆症用薬における薬物療法のあり方をも想定して作成したものであり、臨床試験を科学的に、かつ倫理的に実施するにあたって、臨床試験の質の向上に役立つことを願うものである。本ガイドラインの運用にあたっては、患者に対する慎重な倫理的配慮とともに、今後の経験や知見の蓄積などに応じて柔軟に対応され、必要に応じ改正されることを望むものである。

第2章 非臨床試験

1.はじめに

非臨床試験は、①対象疾患に対して有効性のある医薬品のスクリーニング、②医薬品の特性の明確化、③ヒトに投与するに際しての安全性の検討、④薬物相互作用の検討、⑤適切な臨床試験デザイン構築のための情報収集等のために求められるものである。はじめてヒトを対象とする治験を行う場合は、それに先立って治験に用いる薬物(以下「治験薬」という)に関する非臨床試験成績を十分に検討し、ヒトにおける有効性及び安全性を予測しておくことが必要である。

検討すべき非臨床試験には、①薬理試験、②薬物動態試験、③毒性試験が含まれるが、非臨床試験は、『「医薬品開発におけるヒト初回投与試験の安全性を確保するためのガイダンス」について(平成24年4月2日付 薬食審査発0402第1号)』及びICH M3ガイドライン、『「医薬品の臨床試験及び製造販売承認申請のための非臨床安全性試験の実施についてのガイダンスについて」(平成22年2月19日薬食審査発第0219第4号厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知)』等、適切なガイドラインに従い実施し、適切な実験系を選択して行う。また、動物実験を実施するにあたり、動物福祉の原則(3R:使用動物数の削減/苦痛の軽減/代替法の利用)に従い実施しなければならない。薬理試験のうち薬効薬理試験(効力を裏付ける試験)については、以下を考慮すること。

2.薬効薬理試験

治験薬の薬効薬理に関しては、適切な実験系を選択し、ヒトにおいて予想される臨床効果についての十分な裏付けをしておくことが望まれる。

骨粗鬆症用薬の場合、ヒトにおいてその効果を確認するためには多数の症例と長期間の観察が必要となる。また、骨強度に及ぼす影響などは、ヒトにおいて非侵襲的な方法による確認が困難である。そのため、治験に先立つ非臨床試験において、骨強度や骨組織像などへの影響に関する十分な検討を行っておくことが重要である。通常、複数用量での群間比較を行い、低用量群、骨量に対する至適用量群、高用量群の3用量以上の群で検討することが望ましい。至適用量は骨密度と骨代謝マーカーに基づいて決める。

(1) 動物種の選択

治験薬の効果を動物で評価する際には、原則として少なくとも2種類の動物で検討する必要がある。この際、卵巣を摘除した成熟ラット(モデリング動物)と他の種類のリモデリング動物の骨量減少モデルを対象とするのが適当であるが、後者については選択した基準を明確にする必要がある。投与期間については、ラットにおいては12ヶ月間以上、ヒト以外の霊長類を用いた試験については16ヶ月間以上が推奨される。なお、非臨床試験にはマウス、ラット、ウサギ、ミニブタ、ヒツジ、イヌ、サルを含む多様な動物種を用いることができる。また、治験薬の投与開始時期については薬剤の臨床使用方法や用いた種の骨量減少の時間推移により決定する必要がある。長期投与による骨質への影響を評価するのには、ヒトへの投与3年間に相当した投与期間が必要である。

(2) 骨代謝マーカーの測定

治験薬の骨代謝回転に対する効果を鋭敏に検出する方法として、骨代謝マーカーを測定することが必須である。試験動物の特性に合わせ、骨吸収マーカー、骨形成マーカーを選び、治験薬投与後の経時変化を追跡することが望ましい。

(3) 骨量の測定

治験薬の骨量に対する効果を評価する方法としては、骨灰重量の測定、DXA(dual energy x-ray absorptiometry)法(小動物モード)、pQCT(peripheral quantitative computed tomography)法などがあり、試験動物の大きさ、測定部位などに応じて適当な方法を選択する。骨密度及び骨塩量の測定にはDXA法やpQCT法による非侵襲的な方法により、椎体と長管骨を測定することが望ましい。また、pQCT法を用いる場合には、皮質骨と海綿骨の両方のデータを取得しておくことが望ましい。

(4) 骨組織学的分析

治験薬投与前後の骨組織像の変化を光学顕微鏡像、偏光顕微鏡像、電子顕微鏡像などで確認する。さらに、テトラサイクリン標識法などを含めた骨組織形態計測の手法を用いて、骨代謝回転の動態を明らかにすることが必要である。また、海綿骨における骨梁の太さや連続性についても、骨強度の参考指標として検討する必要がある。

マイクロCT、高解像度pQCT、MRI、ラマン分光法、赤外線分光法、放射光など、画像やスペクトロスコピーを用いた種々の階層における骨微細構造評価法も、付加的情報を提供する。

(5) 骨強度の測定

治験薬の有効性及び安全性並びに骨質への影響を確認するためには、治験薬の投与により適切な対照と比較して骨強度が改善すること、あるいは少なくとも悪化しないことを証明する必要がある。このためには、摘出骨を用いて生体力学的な検討をすることが重要である。薬剤の種類によって骨強度への影響に相違があるので、個々の治験薬に応じて、科学的に効果と安全性を実証するのに十分な投薬期間を設定する必要がある。

数種の力学試験法を用いて、小動物及び大動物から採取した骨の構造学的力学特性と内在性材料特性を評価する。具体的には、長管骨では折り曲げ試験、椎体や大腿骨頸部では圧縮試験などが可能であり、皮質骨と海綿骨の骨強度を別個に分析することも必要であろう。

これらの力学試験では、いずれも荷重一変位曲線から、以下の項目に関する情報を得ることができる。

a.剛性:骨の固さの指標であり、荷重を受け止めて伝達する能力を表すもので、荷重―変位曲線の直線状部分の傾きに相当する。

b.最大荷重:骨が耐えうる最大の荷重を表すもので、荷重―変位曲線におけるピークの高さに相当する。

c.吸収エネルギー:これは骨の頑強さを示す測定値で、荷重―変位曲線における最大荷重までの曲線下の面積に相当する。

その他、弾性変形と塑性変形とを区別し、応力―歪み曲線における降伏点に達するまでの曲線下面積(弾性変形領域)と降伏点から破断(極限応力)に達するまでの曲線下面積(塑性変形領域)も骨の脆弱性に関する情報となる。応力―歪み曲線から、以下の内在性材料特性に関する情報を得ることができる。

d.最大応力:応力―歪み曲線で破断するまでの最大の応力に相当する。

e.弾性率:応力―歪み曲線における弾性変形領域の直線状部分の傾きに相当し、内在性の剛性を表すもの。

f.靭性:応力―歪み曲線における破断に至るまでの曲線下面積に相当し、内在性のエネルギー吸収容量を表すもの。

長管骨での折り曲げ試験では、断面の慣性モーメント(中心軸のまわりの骨組織の分布)を測定し構造に関する情報を得ることにより、骨の材質の変化を識別することが可能である。大腿骨頸部の折り曲げ試験で材質に関する識別をするには、頸部の長軸の長さ及び断面の慣性モーメントを測定する必要がある。慣性モーメントは画像解析により測定するのがよく、幾何学的近似法を用いることは、正確さにおいて本質的な誤差を生じるため避けるべきである。例えば長管骨断面を楕円又は円と見なす方法は採用すべきではない。椎体の破壊強度及び剛性に関する情報は頭・尾側軸における圧縮試験から求めることができるが、この場合、無損傷の椎体を用いてもよいし、データの再現性を向上させるためには両側の椎体終板を切除してもよい。いずれにせよ荷重-変位曲線を得るとともに、骨の微細構造のデータと併せて骨組織の材料特性についての解析をする必要がある。また、骨量と骨強度との相関性についても検討しておく必要がある。

(6) 骨折治癒に対する影響

骨折の治癒は、骨折端をつなぐ化骨の形成から、ミネラルの沈着、化骨の再構築による骨折部の骨性癒合に至る一連の過程をたどる。骨代謝に影響を及ぼす薬剤は、これらの過程のどこかに作用して骨折の治癒に影響する可能性があるので、非臨床試験において、使用する薬剤の骨折治癒に及ぼす効果を観察しておく必要がある。ラットの大腿骨や脛骨に関しては標準的な骨折モデルが提唱されており、これらを用いるのも一法であろう。

第3章 骨粗鬆症用薬の有効性の評価方法に関する一般的配慮

1.はじめに

骨粗鬆症に対して薬剤を投与する目的は、骨粗鬆症による骨折を減少させることである。骨折の頻度は骨の量的、質的変化に関係することが明らかにされている。NIHにおけるコンセンサス会議では、骨粗鬆症の定義を「骨強度の低下を特徴とし、骨折リスクが増大しやすくなる骨格疾患」とすることが提案され、「骨強度」は骨密度と骨質の2つの要因からなり、骨密度は骨強度のほぼ70%を、骨質が残りの30%を説明するとされている1)。したがって、骨粗鬆症による骨量減少だけでなく骨質の劣化を抑制することにより骨強度の低下を抑制する効果をもつ薬剤が骨粗鬆症用薬として望ましい薬剤であろう。

従って、骨粗鬆症の診断及び治療効果の判定にあたっては、骨量の測定は重要ではあるが、それは診断決定や薬効評価のために現時点で利用し得る一手段に過ぎない。

臨床試験の実施に当たっては、動物での適切な非臨床試験(毒性試験や安全性薬理試験)がすでに行われていることが前提であり、その治験薬がヒトにおいて許容される安全性の範囲内で骨量増加作用、骨強度、骨組織像などへの影響に関する成績が得られていなければならない。その後の臨床試験の進め方は、他の医薬品の場合と同様に、第4章に述べるような第Ⅰ相、II相、III相と段階的に実施するのが原則である。またいずれの段階においても、安全性ないし有効性に疑問が生じた場合は、非臨床試験も含めて、適切な段階に立ち戻って再検討を行う必要がある。

2.骨粗鬆症の診断

本邦における原発性骨粗鬆症(閉経後骨粗鬆症、男性骨粗鬆症、特発性骨粗鬆症)の診断基準は、日本骨代謝学会・日本骨粗鬆症学会合同で「原発性骨粗鬆症の診断基準(2012年度改訂版)」が示されており、男性についても女性と同様の基準が採用されている2),3)。具体的には、続発性骨粗鬆症や低骨量をきたす他の疾患の要因がなく、以下を満たす者が原発性骨粗鬆症患者と診断される(①大腿骨近位部もしくは椎体の脆弱性骨折あり、②大腿骨近位部もしくは椎体以外の脆弱性骨折があり、骨密度値がYAMの80%未満、③脆弱性骨折がなく、骨密度値がYAMの70%以下または-2.5標準偏差単位(SD)以下)。なお、脆弱性骨折がなく、骨密度値がYAMの-2.5SDより大きく、-1.0SD未満の場合は「骨量減少」とされる。

原発性骨粗鬆症の診断基準については、新しい診断法の開発(診断機器の進歩、骨代謝マーカーの開発など)や科学的知見等により修正される可能性もあるが、現実的に骨粗鬆症の治療に焦点を当てて考えると、骨粗鬆症用薬の薬効評価の対象となる患者の選定にあたっては、上記の基準を考慮することになる。

続発性骨粗鬆症は、遺伝的素因、生活習慣、閉経及び加齢以外の特定の要因が認められる場合の総称とされており、原因として内分泌疾患、糖尿病などの生活習慣病、慢性腎臓病、薬剤などがある。続発性骨粗鬆症の管理における原則は、原疾患の治療と原因薬剤の減量ないしは中止であるが、コントロールが困難な疾患や原因薬剤の減量が困難な疾患も多い。

続発性骨粗鬆症の中でも患者数が多いものとして、ステロイド性骨粗鬆症が挙げられる。副腎皮質ステロイド剤の長期治療を受けている患者の30~50%に骨折が起こるとの報告があり4),5)、患者層も小児から高齢者、閉経前女性や男性にも幅広く起きる。ステロイド性骨粗鬆症の管理において重要なのは、副腎皮質ステロイド剤投与開始後のすみやかな骨密度低下と骨折リスク上昇を抑制することである。ステロイド性骨粗鬆症は原発性骨粗鬆症に比べ高い骨密度でも骨折リスクが高いことが知られており6)、原発性骨粗鬆症と同じ骨量のカットオフ値を当てはめることはできない。

本邦におけるステロイド性骨粗鬆症の治療開始基準は、日本骨代謝学会により「ステロイド性骨粗鬆症の管理と治療のガイドライン(2014年改訂版)」において示されている7)

なお、ステロイド性骨粗鬆症以外の次に示すような二次的に骨量が減少する疾患による続発性骨粗鬆症は、本ガイドラインの対象から除外する。すなわち、原発性・続発性副甲状腺機能亢進症、関節リウマチ、糖尿病に基づく骨粗鬆症、悪性腫瘍の骨転移、多発性骨髄腫、不動、甲状腺機能亢進症、慢性消化管疾患、アルコール多飲者、性ホルモン低下療法用薬剤、アロマターゼ阻害薬、選択的セロトニン再取り込み阻害薬、抗凝固薬、抗痙攣薬等の常用者等である。

これらの特殊な病態における治験薬の薬効を評価する場合には、新たに治験を実施することが望ましい。その際には、治療介入する対象患者の妥当性と医療現場における治療の必要性に対する十分な説明が必要になるであろう。

3.骨粗鬆症用薬の臨床評価法

(1) 新規骨折発生の判定

骨粗鬆症の進行に伴い、骨強度が低下し、些細な衝撃によっても骨折を起こす機会が多くなる。骨粗鬆症用薬の臨床評価は、骨量に及ぼす影響のみでは不十分であり、骨強度に対する影響が評価されなければならない。

骨粗鬆症で骨折を起こしやすい部位は、椎体、大腿骨近位部、上腕骨近位部、橈骨遠位部などの部位である。椎体の骨折では必ずしも痛みを伴わない場合も多く、脊柱の後弯のみが進行する場合もある。椎体の骨折(変形)とともに、椎体以外の骨折についても、痛みなどの臨床症状、単純X線像の注意深い観察から骨折の有無を判定することが必要である。

椎体骨折(変形)の有無とその程度を判定する方法として、「椎体骨折評価基準(2012年度改訂案)」が椎体骨折評価委員会から示されている8),9)。また、治験期間中に新規の骨折を起こした場合と、既存の骨折の変形の程度が増悪した場合とを、それぞれ区別することも必要である。また、治験期間中に骨折の生じた総症例数のみならず、治験期間中の総骨折数についても副次的に検討する必要があろう。

(2) 骨量測定法

骨粗鬆症における骨量減少の過程は、部位により、また、病態により異なると言われており、薬剤も作用する部位にそれぞれ特異性があるので、同時に複数の部位の骨量を測定して治験薬の薬効を詳細に検討することが望まれる。ただし、骨量測定に際しては、骨量が低下する骨粗鬆症以外の病態を区別できない場合もあるので注意を要する。

骨量測定法には種々の方法があるが、骨粗鬆症診断にはdual-energy X-ray absorptiometry(DXA)を用いて、腰椎と大腿骨近位部の両者を測定することが望ましいとされている10)。臨床評価においても現時点ではDXA法で骨量の変化を追跡するのが最も望ましい。

今後、各方法の改良が進み、新たな方法も開発されてくると考えられるので、その時点での最良の方法を取り入れていくことが望まれる。骨量測定に際しては、測定精度の精度管理を行い、施設内での測定精度を把握しておくことが必要である。

(3) 骨代謝マーカー

骨代謝マーカーの上昇は、骨密度とは独立した骨折危険因子であることが確認されているため11),12)、骨の代謝回転の状態を評価する上で、骨吸収、骨形成を定性的、定量的に測定しうる骨代謝マーカーの測定も重要である。治験薬の効果が骨量の変化として検出されうる以前に、骨代謝マーカーの変化として検出しうるので、薬効の有無を推定する上で役立つ可能性がある。したがって、骨吸収マーカー(尿中デオキシピリジノリン、血中・尿中I型コラーゲン架橋Cテロペプチド、血中・尿中I型コラーゲン架橋Nテロペプチド、血中酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ5bなど)、骨形成マーカー(血清骨型アルカリホスファターゼなど)、骨マトリックス関連マーカー(血中低カルボキシル化オステオカルシン)などのそれぞれについて適切なマーカーを選択し、骨代謝回転に及ぼす治験薬の経時的影響を追跡する必要がある。また、骨代謝に影響する副甲状腺ホルモンや活性型ビタミンD、エストロゲンなどのカルシウム、リン代謝調節ホルモンなどの動態についても注意を払うべきである。骨代謝マーカーの値には日差変動、日内変動のほか、測定誤差もあるため、骨代謝マーカーに基づく骨粗鬆症病態の評価にあたっては、個々のマーカーの変動や誤差に留意する必要がある。

(4) 骨生検―骨組織形態計測法

骨生検が最もよく行われる部位は腸骨であり、骨組織形態計測法は骨生検から得られた組織を組織学的に観察することにより、骨吸収、骨形成など骨リモデリングの状態を評価する方法である。骨組織での変化を直接に評価できるという利点はあるが、生検部位が必ずしも骨全体の状態を反映したものではなく、また、同一部位の変化を経時的に追跡することは不可能である。この方法は被験者への侵襲が少なくないが、実施可能な症例につき少なくとも治験開始前と終了時の2回は施行することが望ましい。治験開始前と治験薬投与後の評価が適切になされていれば、比較対照群を設定することは必ずしも必要ではないかもしれない。なお、作用機序が十分に解明されておらず、骨組織に生理的でない形態学的変化をもたらす可能性のある薬剤については、実施可能な症例につき治験薬投与前後2回の骨生検を骨粗鬆症用薬の臨床評価の手段として積極的に取り入れる必要がある。

(5) 臨床評価上の留意点

骨粗鬆症に対する治験薬の有効性は、前述のように骨折と骨量、骨代謝マーカーなどに対する効果の面から、プラセボ又は標準薬を対照とした二重盲検比較試験を注意深く実施した上で検討する。

現在の骨量測定装置の誤差を考慮すると、より精密な測定機器が出現しない限り、短期間の骨量の変化を、再現性をもって正確に測定することは極めて難しい。従って、治療薬の有効性を示すためには、治療効果の顕著な薬剤の場合を除けば、症例数を増加させるか、あるいは投与期間を長く取るかの必要に迫られることになる。

また、骨量の減少を抑制する又は骨量を増加させる作用が示されたとしても、必ずしもそれらが骨の強度を高め、骨折の防止に結びつくわけではない。従って、骨折抑制効果については、骨量に対する効果とは別に有効性を示すことが必要である。このような検討には、さらに多くの症例と数年にわたる治験期間が必要である。

閉経直後の女性の骨量減少のメカニズムと老人にみられる骨量減少のメカニズムとが本質的に同一のものか否かは現時点では不明であるため、前述の骨粗鬆症の定義を参照しながら、年齢などで層別して検討する又は交互作用を含んだ統計モデルを用いた解析を行うことが必要となろう。

また、骨量増加が認められ、骨密度が正常範囲に至った場合、医療現場では薬剤の投与を中止することが想定される。治療中止後の骨量低下が報告されている13),14),15),16)ことから、投与中止後の影響(骨密度、骨代謝マーカー等の推移)を一定期間評価することが必要であろう。なお、投与中止後の影響を評価するために必要な期間については、薬剤の特性や臨床試験に組入れられた患者層により実施可能な期間が異なると推定されることから、適切な期間を設定して評価する必要がある。

第4章 臨床試験

1.治験の実施にあたって

(1) 治験責任医師及び治験実施医療機関

治験の実施にあたっては、治験実施医療機関及び治験責任医師の選定が極めて重要である。治験責任医師はGCPに記載されている要件を満たし、骨粗鬆症の診断・治療に造詣が深く、骨粗鬆症用薬の薬効を適切にかつ均質に評価できる能力を備えていなければならない。

また、複数の医療機関が参加する場合には、各医療機関の設備や、X線撮影や骨量測定などに携わる医師や技師の技能が均質で、医療機関の間に差が少なく、一定の水準に達していることが肝要である。

(2) 症例の評価

骨折の判定等におけるX線写真の読影は、専門家によって構成され、中央委員会などの治験責任医師から独立した組織で行われることが望ましい。また、読影に当たっては、読影写真の無作為化、盲検化などにより客観的に処理できるように配慮すべきである。

2.第Ⅰ相試験

(1) 目的

第Ⅰ相試験は、非臨床試験で得られた情報をもとに、治験薬をはじめてヒトに適用する臨床試験が含まれる。比較的限定された数の健康人志願者などが対象となり、治験薬のヒトにおける安全性の確認に重点がおかれる。また、この段階で治験薬の薬物動態学的性質の検討も行われる。可能であれば、有効成分の薬力学的プロフィールに関する予備的評価が行われることも望まれる。

(2) 治験責任医師及び治験実施医療機関

臨床薬理に関して十分な知識と経験を有する医師と、骨粗鬆症に精通している臨床医とが協力して実施することが望ましい。また、被験者に対する十分な観察と管理ができ、緊急時にも十分な措置のできる医療機関で行われなければならない。

(3) 被験者

a.一般には健康成人男性を対象とする。ただし、治験薬の効果や副作用、投与方法などにより、健康成人男性を対象として第Ⅰ相試験を実施することが倫理上適切でないと考えられる場合には、閉経後健康成人女性を対象とする。また、これらの女性を対象とする試験を健康成人男性の試験終了後に行うのも一法であろう。重篤な疾患を有しない高齢者を対象とする場合には、ICH E7ガイドライン、『「高齢者に使用される医薬品の臨床評価法に関するガイドライン」について(平成5年12月2日付 薬新薬第104号)』等を参照し、慎重な配慮のもとに行う。

b.以前に骨粗鬆症の治療薬を使用したことのある者については、薬剤によっては長期間にわたり作用点に蓄積するものもあるため、原則として対象から除外する。ただし治療薬により、十分な長さのwash out期間を経過したと思われる場合はこの限りではない。

c.試験期間中、被験者は入院又はそれに準じた状態におくものとする。

d.重篤な疾患を有しない高齢者における薬物動態の検討を健康成人志願者における薬物動態試験の後に実施しておくことが望ましい。この他、男性における薬物動態、その他消失経路を考慮した腎機能障害患者及び肝機能障害患者における薬物動態試験等により薬物動態に関する情報を収集する。

(4) 試験方法

安全性の確認に最重点をおく。また、治験薬の単回及び反復投与時の薬物動態の結果を論理的に考察し、有効性についても予備的に推論することが望まれる。

a.用法・用量

非臨床試験成績から推定された安全な最低用量の1回投与から開始し、安全性を確認しながら、用量と必要ならば投与回数を漸次増大させ、将来予想される用法・用量を考慮して、原則として血中薬物濃度がプラトー値に達するまでの期間、連続投与を行う。

b.安全性の観察

①一般身体所見

―自覚症状

―他覚的所見 体重、血圧、脈拍、呼吸数、体温、皮膚所見(発疹、浮腫、出血傾向など)、視力、眼底、心電図、神経症状などに治験薬に応じて必要な項目を追加する。

②一般臨床検査

―血液生化学的検査

―血清免疫学的検査

―尿検査

③内分泌学的検査

④その他、安全性評価に必要な項目

治験中に発生した異常検査所見を発見するためには、すべての検査を試験の開始前後に行い、必要があれば試験中にも実施すべきである。さらに、試験終了から一定期間、経過観察の時期を設定する必要がある。設定期間については、それぞれ個々に考慮して決定する。しかしながら、被験者の負担を考慮して必要な検査項目を選択し、検査項目毎に検査間隔を適切に定めることが望ましい。また、非臨床試験で異常のみられた項目に関連する事項については、臨床試験において特に慎重に検討できるように検査項目を設定することが必要である。

c.薬物動態の検討

薬物の吸収・分布・代謝・排泄について、可能な限りバイオアベイラビリティ、血中半減期、分布容積、消失経路、代謝産物などを検討し、後の試験の投与量及び投与方法の決定のための参考にする。また、単回投与時及び反復投与時に適当な間隔で薬物の血中濃度を測定し、線形性の有無や、プラトー値に達するまでの投与回数とそのレベルなど、薬物動態学的な特徴を明らかにする。

d.治験薬の特性による特殊検査

予想される作用機序を考慮し、必要とされる検査を実施する。

(5) 臨床評価

以上の試験の結果、安全性について、自覚症状、他覚的所見の項目及び一般臨床検査値の異常変動の項目と程度を確認する。安全性に問題がある場合には、治験薬の毒性試験や薬効薬理試験から予想されるものか否かを検討する。次に、治験薬の薬理学的及び薬物動態学的な特性を加えて、適当な用法・用量についての知見を得てから、第Ⅱ相へ進むものとする。

本試験で得られた結果が非臨床試験の結果と著しく異なるときは、第Ⅱ相への移行は中止して非臨床試験に立ち戻る必要がある。

第Ⅰ相試験では安全性を評価することが第一義的であるが、有効性をみる指標としては、骨量の変化は必須ではなく、骨代謝マーカーの変化をみることも一法であろう。

3.第Ⅱ相試験

第Ⅰ相試験の結果を詳細かつ慎重に評価し、第Ⅱ相試験を開始する。第Ⅱ相試験は、骨粗鬆症患者を対象として、治験薬の有効性、安全性、用法・用量、骨密度上昇作用の用量反応関係などを検討することを目的とする臨床試験である。第Ⅱ相試験は通常、患者を対象に有効性と安全性を探索する前期第Ⅱ相試験と第Ⅲ相試験の用法・用量を決定する後期第Ⅱ相試験に分けられる。

3―1.前期第Ⅱ相試験

(1) 目的

初期の十分に管理された臨床試験であり、骨粗鬆症患者を対象として、治験薬の有効性、相対的な安全性、用法・用量、用量反応性、骨粗鬆症のタイプや病期による効果の違いなどを探索的に検討することを目的とする。

(2) 治験責任医師及び治験実施医療機関

骨粗鬆症患者の診療経験豊富な臨床医が臨床薬理学の知識を持つ者と協力して行うことが望ましい。また、被験者に対する十分な観察と管理ができ、緊急時にも十分な措置のできる医療機関で行われなければならない。

(3) 被験者

a.対象

骨粗鬆症患者

b.選択基準

被験者の選択にあたっては、薬効薬理や作用機序などから効果が期待でき、かつ薬効判定に適していると考えられる患者を選択するのが原則である。

しかし、既に第3章で述べたように、骨粗鬆症の病因、病態、病期などは多岐にわたる。閉経後骨粗鬆症患者を対象とする場合は、閉経後の女性で、DXA法による腰椎骨量が若年正常平均値より-2.5SD以上の低下、又は一個以上の脆弱性骨折を有する患者を被験者として選ぶのも一法であろう。

また、可能であれば、特定の患者層、例えば男性高齢者の骨粗鬆症患者などでの安全性と薬効の感触を得ることも有用であろう。

c.除外基準

①骨代謝に影響を及ぼす薬剤の投与を受けたことのある患者

―例えば、活性型ビタミンD3製剤、カルシトニン製剤、イプリフラボン製剤、性ホルモン製剤、蛋白同化ホルモン製剤、ビタミンK製剤、ビスホスホネート製剤、選択的エストロゲン受容体調節薬、副甲状腺ホルモン製剤、抗RANKL抗体製剤など

過去にこれらの薬剤を投与された経験のある者又は投与中の者については、それらの薬剤の休止期間、治験前のwash out期間の設定などについて十分に考慮する必要がある。

なお、カルシウム製剤及びビタミンD製剤については、一定の必要量が継続的に長期投与されている場合には、その量を治験期間中変更しない限り、必ずしも除外基準に含めなくてよい。

②原発性骨粗鬆症とまぎらわしい所見を呈する患者

―例えば、二次的に骨量が減少する疾患患者(第3章の2参照)

③腰椎骨量測定(DXA法)に影響を及ぼす所見を有する患者

―例えば、強度の側弯を認める者、L1―L4(又はL2―L4)の間で椎体のいずれか2個所以上に骨折を認める者など

④その他、治験責任医師が不適当と判断した者

(4) 試験方法

a.投与期間、用法・用量

治験薬の投与期間、用法・用量は、骨量測定の方法、治験薬の性質に依存するものであり、試験デザインについてはそれぞれの治験薬の特徴を生かして適宜設定する。

b.基礎治療

十分な量のカルシウム剤やビタミンD製剤などの基礎治療が施されるべきである。食事については、カルシウムの摂取量について考慮する必要があり、牛乳などの乳製品を含め治験期間中は大きな変動がないようにする。また、運動量や日光曝露量などにも配慮することが望ましい。

(5) 臨床評価

試験期間を通じ、少なくとも同一の被験者については、同一の治験責任医師によって評価が行われることが望ましい。また、治験開始にあたって、骨量や骨代謝マーカーなど主要な有効性評価の指標を明確に決めておく必要がある。第Ⅱ相の段階では、骨折率をエンドポイントにすることは必須としなくてよいであろう。

a.被験者の背景情報

被験者の背景を明らかにできるような項目を選び、記載する。入院・外来の別、性、年齢、体重、身長、診断名、主訴、疼痛の有無と程度、身体障害の有無と程度、罹病期間、閉経後年数、妊娠回数、出産回数、授乳経験の有無、卵巣摘出術の有無、合併症、既往歴、牛乳やカルシウムの摂取状況、喫煙、飲酒、運動状況、投与前のX線所見、前治療の有無などは薬効評価に影響する重要な因子と思われるので、これらについても記載する。

b.一般身体所見

c.一般臨床検査

d.治験薬投与・服薬状況

注射薬の場合には注射回数を記録し、経口薬の場合には、再診察時に飲み残しの治験薬を持参させるか、あるいは患者の服薬日誌などにより服薬状況を調査する。

e.骨所見に対する評価

①骨量測定

骨量の測定装置は、それぞれの機種の持つ特性を考慮して選択し、被験者における試験期間内の骨量の変化、骨粗鬆症用薬の予想される改善効果及び測定機器の測定誤差を十分に勘案して、第Ⅲ相試験での測定間隔設定のため、X線の被曝量を考慮の上、できるだけ頻回に測定する。

②骨量改善効果

DXA法その他の方法によって得られた投与前と投与後の腰椎、大腿骨近位部などの骨量を比較し、適切な基準を用い、それぞれの改善効果を評価する。骨量の評価は、開始時からの変化率(又は回帰に基づく傾き)による検討が妥当であり、段階的な改善度評価は適切とはいえない。

③骨代謝マーカーの測定

骨の病態の判定に有用と思われる指標を選び、血清及び尿などで測定する。

f.安全性に対する評価

①有害事象(Adverse Event)

治験期間中に観察されるすべての好ましくない徴候又は症状は、治験薬との因果関係の有無の如何にかかわらず「有害事象」として扱い、症例報告書にその内容、程度、発現時期及び消失時期、治験薬の服薬状況、処置の有無、経過などを記載するとともに、治験薬との因果関係を判定する。これらの有害な症状のうち、治験薬との因果関係が否定できないものを「副作用(Adverse Drug Reaction)」として取り扱う。

治験薬の種類によっては、治験薬投与終了後にも一定の期間経過観察を必要とする場合もある。

②副作用

副作用と思われる症状が発現した場合や、臨床検査異常がみられた場合には、治験責任医師の判断により、当該被験者についての治験薬投与の継続又は中止を決定し、その内容(症状、発現日、程度、処置、持続時間、経過、転帰)の詳細を治験薬との因果関係とともに記載する。

なお、副作用の経過観察は、原則として症状又は臨床検査値異常変動が消失するまで行う。副作用の中には、症状や検査値異常の他に、新たな検査所見が出現することもあり、ある種の薬剤については、軟部組織の石灰化を調べるためにX線CT検査が必要になることもある。

③臨床検査

下記の項目について、治験薬投与前、必要であれば投与中の然るべきポイントで、さらに治験終了時(又は中止時)にも検査を実施する。治験薬投与中に実施する場合には、治験薬の特性と患者の負担を考慮し、適切な間隔を設定する。また、治験薬の種類によっては、治験薬投与終了後一定の期間経過観察をする必要があるものもある。

治験責任医師により臨床的に問題とすべき異常変動が認められた場合は、項目、処置、経過、治験薬との因果関係を記載する。また、そのような異常値がみられた場合は、投与終了後も前値に復するまで追跡、検査する。

―血液生化学的検査

すべての薬剤について、安全性評価のために通常の検査が行われるが、血清中のカルシウムとリンの測定は欠かせない。

―内分泌学的検査

必要に応じて、副甲状腺ホルモン(PTH)とビタミンDの測定を行う。

―尿検査

必要に応じて、尿中のカルシウム、リン及びクレアチニンの測定を行う。

―その他、安全性評価に必要な項目

④重篤な有害事象発現時の処置

有害事象が重篤な場合に、治験責任医師は直ちに適切な処置を行うとともに、所属医療機関の長及び治験依頼者に連絡する。さらに、速やかに文書による報告を行う。

⑤薬剤の作用機序に関連する事象

⑥薬物間相互作用

骨粗鬆症用薬の使用対象は高齢者であり、しかも多くが非ステロイド性抗炎症薬、利尿薬、抗凝固薬、ジギタリス配糖体、降圧薬などが同時に投与されている患者である。薬物動態学的又は薬力学的な性質から、あるいは臨床試験の結果から相互作用が起こりうる可能性が示唆されるならば、その解明のために特別な検討が行われるべきである。

3―2.後期第Ⅱ相試験

(1) 目的

後期第Ⅱ相試験の主な目的は、骨粗鬆症患者を対象として用量反応関係を明らかにし、第Ⅲ相比較試験のための用法・用量を決定することにある。

(2) 治験責任医師及び治験実施医療機関

前期第Ⅱ相試験に準ずる。

(3) 被験者

薬効評価の対象として、閉経後女性と男性の骨粗鬆症患者をそれぞれ分けて選定するのも一法であろう。

治験に参加する医療機関数及び被験者数は、統計学的な考察に基づき、計画した試験から評価可能な成績を得るために必要な数を算出する。

(4) 試験方法

a.治験実施計画書

治験実施計画書の作成にあたっては、目的、対象疾患、患者の選択基準及び除外条件、主要評価項目、解析方法、副作用などを明確に把握し得るような考慮が払われねばならない。

b.評価指標(エンドポイント)

本来、有効性の証明には骨強度の変化や骨折率を見ることが望ましいが、長期間を要するので、骨量の変化を見ることで代用される。なお、骨量測定と並行して、骨代謝マーカーの測定も副次的評価項目として行われるべきである。

c.投与期間、用法・用量

臨床推奨用量の決定にあたっては、通常、無作為に割り付けた複数用量での群間比較試験が行われる。この場合、プラセボを含めた少なくとも3用量群を含む二重盲検法で行うことが望ましい。投与期間については、前期第Ⅱ相試験の結果も参照して、治験薬に応じて適宜設定する。なお、骨粗鬆症用薬の評価にはクロスオーバー試験は適さない。

d.基礎治療

前期第Ⅱ相試験に準ずる。

(5) 臨床評価

a.被験者の背景情報

b.一般身体所見

c.一般臨床検査

d.治験薬投与・服薬状況

e.骨所見に対する評価

①骨量測定

②骨量改善効果

③骨代謝マーカーの測定

f.安全性に対する評価

①有害事象

②副作用

③臨床検査

―血液生化学的検査

―内分泌学的検査

―尿検査

―その他、安全性評価に必要な項目

④重篤な有害事象発現時の処置

⑤薬物間相互作用

以上a.~f.は、前期第Ⅱ相試験に準ずる。

(6) 後期第Ⅱ相試験より第Ⅲ相試験への継続

後期第Ⅱ相試験で得られた成績により、治験薬の期待された有効性及び安全性が認められたならば、必要に応じて、次の第Ⅲ相の長期投与試験に継続して移行することもできる。

4.第Ⅲ相試験

第Ⅱ相試験までの段階で、その治験薬が医薬品として有用である見込みが高いと考えられる場合、検証的試験が行われる。これが第Ⅲ相試験であり、治験薬の有用性が適切な計画に基づく比較試験で証明されることが重要である。また、この段階で安全性を確認し、有害事象及び副作用の種類、程度、頻度などを明らかにすることが重要である。

通常、骨粗鬆症用薬の第Ⅲ相の目的は以下の3つである。

①骨折の発生頻度を主要評価項目とした有効性の評価

②骨量を主要評価項目又は副次評価項目とした有効性の評価

③長期投与試験による安全性及び有効性の評価(第Ⅱ相からの継続を含む)

③について、被験者数、投与期間については、「致命的でない疾患に対し長期間の投与が想定される新医薬品の治験段階において安全性を評価するために必要な症例数と投与期間について」に従って統計学的な考察により適宜設定する。また、①又は②により長期投与時の安全性が評価可能な場合には、③は行わなくてもよい。

第Ⅲ相試験の対象集団は、閉経後骨粗鬆症患者、男性骨粗鬆症患者、ステロイド性骨粗鬆症患者の3つに分類される。開発する薬剤の特徴に応じて、いずれの患者層においても有効性が期待される場合は、下記の3つの試験を通じて有効性を評価することが望ましい。

4―1.閉経後骨粗鬆症

閉経後骨粗鬆症の薬効評価には、骨粗鬆症に伴う骨折に対する効果を示すことが必要である。

閉経後骨粗鬆症における第Ⅲ相試験での評価方法としては、骨粗鬆症用薬投与前と投与後の椎体X線像と臨床所見などから、治験実施計画書に予め定められた基準に従って、骨折の数、部位、程度及び骨折発生の状況などを評価する必要がある。この観点から薬効と効果の維持を評価するのに、現在の評価手段では原則として1年間の観察では不十分であり、通常、3年間程度の観察が必要と思われる15)。治療効果の顕著な薬剤においては、より短期間で骨折に対する効果が検討可能な場合もあると考えられるため、そのような薬剤については個別に判断することが必要であろう。

なお、ステロイド骨格を有するいわゆるエストロゲン製剤については、骨量の改善が骨折の改善に結びつくとの臨床データが数多く出されているので、骨折に対する効果を主要評価項目として検討することは必須ではない。選択的エストロゲン・レセプター・モデュレイター(SERM)などエストロゲン・レセプターを介して主たる薬効を示す薬物についても、作用機序が十分に明らかにされている場合には同様の取扱いとするが、副次評価項目として骨折に対する効果を評価しておく必要があろう。

骨粗鬆症患者にしばしば合併する身体障害も多くの加齢に伴う変化との関連を検討する必要があるため、現時点では、骨粗鬆症用薬の薬効評価の対象とはしにくく、将来の検討が必要である。

4―2.男性骨粗鬆症

男性骨粗鬆症患者については、閉経後女性の骨粗鬆症患者とは別に第Ⅲ相試験を実施し、有効性を確認することが望ましい。閉経後骨粗鬆症患者において骨折抑制効果が示されている場合は、通常、男性骨粗鬆症患者を対象とした第Ⅲ相試験は、ベースラインからの骨量の変化を主要評価項目とし、プラセボ又は実薬を対照とした二重盲検比較試験により評価し、閉経後骨粗鬆症患者と同程度の骨量増加作用を有する結果を示すことでよい。対照群を実薬とする場合は、作用機序を考慮して適切な薬剤を選択する必要がある。

なお、男性骨粗鬆症患者における試験の実施が、実施可能性の観点から困難な場合は、有効性及び安全性が男性骨粗鬆症患者と閉経後骨粗鬆症患者で変わらないことを説明することが可能と考えられるのであれば、4―1の項の閉経後骨粗鬆症患者の試験に男性の原発性骨粗鬆症患者を組入れることが可能となる場合もあるが、その際には少なくとも以下の点について、留意が必要である。

・被験者数全体に対して男性骨粗鬆症患者を一定症例数組入れること。

・主要評価項目について、男性患者を含めた全体集団及び閉経後骨粗鬆症患者のいずれにおいても統計的に有意な結果を示すこと。検定を二回行い、その両方で有意な結果を求めるときには、検定の多重性は生じない。ただし、統計解析がより複雑な場合には、多重性を適切に調整する必要がある。

4―3.ステロイド性骨粗鬆症

ステロイド性骨粗鬆症における第Ⅲ相試験については、閉経後骨粗鬆症において骨折抑制効果が示されている場合、通常、ベースラインからの骨量の変化を主要評価項目とし、プラセボ又は実薬を対照とした二重盲検比較試験により評価する。対照群を実薬とする場合は、作用機序を考慮して適切な薬剤を選択する必要がある。

以上の3つの試験に際しては、以下に留意して実施する。

(1) 目的

有効性及び安全性並びに適応疾患における用法・用量等を調べ、当該治験薬が実際に臨床使用されたときの効果を検討し、適応症(効能・効果)、用法・用量等を最終的に設定することを目的とする。

(2) 治験責任医師及び治験実施医療機関

治験責任医師は骨粗鬆症患者の診療経験豊富な臨床医でなければならない。

(3) 被験者

閉経後骨粗鬆症の被験者としては、原則として原発性骨粗鬆症と診断された閉経後女性の患者を選択する。特に一個以上の脆弱性骨折がある患者も組み入れることが望ましい。この場合、さらに骨折するリスクを低下させるかを検討することになる。種々の骨折を有する被験者を選択基準にする場合、骨折の種類に応じて層別して評価する必要がある。骨折率の低下を指標にする場合には、椎体については新規椎体骨折と椎体骨折の増悪の定義が重要であり、大腿骨近位部の骨折については70歳以上の患者では骨折頻度が急激に上昇することがある点に配慮すべきである。

男性骨粗鬆症の被験者としては、原則として原発性骨粗鬆症と診断された患者を対象とするが、一定の基準を設けた上で二次的な骨量減少となる要因を含む性腺機能低下による続発性骨粗鬆症患者を含めることも可能であるかもしれない。その場合には対象患者の妥当性を説明するとともに、全体を評価した上でそれぞれの患者層においても有効性を評価する必要がある。

ステロイド性骨粗鬆症の被験者としては、原則として日本骨代謝学会による「ステロイド性骨粗鬆症の管理と治療のガイドライン2014年度版」における薬物療法開始基準なども参考にする。

(4) 試験方法

治験実施計画書の作成にあたっては、目的、対象疾患、患者の選択基準及び除外基準、用法・用量、併用薬の条件、臨床効果の判定基準、主要評価項目、解析方法、副作用などを明確に把握し得るような考慮が払われねばならない。比較試験では、標準薬又はプラセボと比較して、治験薬の臨床的有効性と安全性の評価を行う。この場合、無作為化二重盲検比較法による試験を計画すべきである。

一般に骨粗鬆症用薬は効果の評価に長期間を要することが多いが、治療中止後も残存効果が長期にわたる可能性もあるため、治験実施計画書の作成にあたっては、慎重な配慮が望まれる。また、試験期間が長期にわたることに鑑み、適切な中間解析の実施を考慮してもよい。

(5) 臨床評価

a.被験者の背景情報

b.一般身体所見

c.一般臨床検査

d.治験薬投与・服薬状況

e.骨所見に対する評価

①骨折評価を含める以外は後期第Ⅱ相試験に準ずる。

②骨折評価

新規骨折(椎体については新規骨折及び既存骨折の増悪)の発生頻度を主要評価項目とした無作為化二重盲検比較試験を行う。検証的試験における有意水準は、ICH―E9ガイドライン、『「臨床試験のための統計的原則」について(平成10年11月30日付医薬審第1047号)』に基づき原則として両側5%とする。

十分な量のカルシウム剤やビタミンD製剤などの基礎治療が施されるべきである。既存薬を対照とする場合には、用いられる既存薬が骨折に関して所定の用法・用量にてプラセボに優る有効性を有することが過去の報告から実証されていない場合には、治験薬が当該既存薬に比し骨折評価において優れることを示すことが必要となろう。

f.安全性に対する評価

以上a.~f.は、特に記載のない場合は、後期第Ⅱ相試験に準ずる。

(6) 被験者数と治験参加医療機関数

被験者数の決定にあたっては、それまでに得られた資料をもとにして統計学的に必要症例数を算出する。比較試験に必要な症例数の設定に関しては、その根拠を明示する。長期間の投与となるので、ある程度予想される脱落例を前もって計算に入れ、症例数を設定する必要がある。

ICH E9ガイドライン、『「臨床試験のための統計的原則」について(平成10年11月30日付医薬審第1047号)』に基づき、被験者数は、主要な解析で用いる解析対象集団に基づくべきであり、解析対象集団は一般的には最大の解析対象集団とする。同等性試験又は非劣性試験の場合には、最大の解析対象集団を使用することは一般に保守的ではないため、実施計画書に適合した対象集団についても解析し、二つの解析結果で結論が変わらないことを確認することが望ましい。

また、検証的試験及び用量反応試験(用量反応性を示すことにより薬剤の有効性を検証するような試験)においては、有意水準は原則として片側2.5%又は両側5%とする。

(7) 外国で行われた臨床試験成績の利用及び国際共同治験への参加について

骨粗鬆症における骨折の発生や骨量の変化に対しては、運動、食事(カルシウム、ビタミンDやたん白質の摂取、飲酒など)、喫煙を含めた生活様式や遺伝的要因が影響を与えることが報告されている。そのため、外国で行われた臨床試験成績を利用して我が国で承認申請を行う場合には、ICH E5ガイドライン、「外国臨床データを受け入れる際に考慮すべき民族的要因について(平成10年8月11日付医薬審第672号)」に基づき、これらの点を含めた薬効評価に及ぼす民族的要因の影響に関する検討が必要となる。

また、国際共同治験に参加する場合は、「国際共同治験に関する基本的な考え方について(平成19年9月28日付薬食審査発第0928010号)」、『「国際共同治験に関する基本的考え方(参考事例)」について(平成24年9月5日付厚生労働省医薬食品局審査管理課事務連絡)』を参考に、個別に判断する必要がある。

いずれも、医薬品医療機器総合機構の対面助言を利用し実施の可否や試験デザインについて確認しておくことが望ましい。

第5章 製造販売後調査

骨粗鬆症用薬の臨床使用は、その性質上長期にわたる。承認前に実施される臨床試験においては、症例数、投与期間、患者背景などその範囲には限界がある。様々な背景を持った患者も含めて、医薬品がどのような使われ方をしているかの情報収集をすることで、適正使用のための情報を得ることが製造販売後の試験及び調査の目的の一つである。製造販売後の広い範囲での臨床使用の結果により、医薬品の安全性と有効性を確認するとともに、その有用性を評価する。このため、承認後においても、医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準(GPSP)に従って医薬品の有効性及び安全性についての情報を幅広く、かつ継続して収集する必要がある。

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骨量測定法の種類と評価

現在使用されている骨量測定法の長所、短所は以下のとおりである。

a) MD(microdensitometry)法

第二中手骨とアルミニウム製ファントムを同時にX線撮影し、皮質骨の骨量を定量的に測定する方法である。手の皮質骨における骨量の変化が、腰椎や大腿骨頸部など海綿骨の多い部位の骨量の変化をどの程度反映するかという点で問題がある。第二中手骨X線骨密度計測法は、特に高齢者の測定に適する。CR・DRデジタルデータを用いてフィルムレスで第2中手骨を解析する方法が普及してきており、再現性・高速化を進めた。

b) DXA(dual energy X-ray absorptiometry)法

線源としてエネルギーの異なる2種類のX線を使用することにより、腰椎、大腿骨近位部、全身骨などの測定が可能であるが、測定結果が平面に投影された骨密度(g/cm2)で表現されるため、重なり合う骨組織を分離できない。腰椎を前後方向に照射して測定する場合には、重なり合う椎弓や棘突起、横突起、大動脈壁の石灰化、椎間板の変性、靭帯骨化、強度の側弯などの影響を受けやすい。また、測定対象の椎体のいずれかに骨折が存在する場合も正確な測定が不可能である。椎体を側面から測定する方法も試みられているが、正確性及び再現性の面で推奨できない。

以上のような欠点を持ちながらも、ハード、ソフトの両面での改良が急速に進んでおり、また、機器の普及もかなり行き渡り、骨量測定の標準的な方法として定着してきている。

c) QCT(quantitative computed tomography)法

CTスキャナーを使用し、骨量ファントムと腰椎・大腿骨近位部を同時にスキャンし、腰椎の任意の部位の骨量を測定することが可能である。DXA法で問題となる肋骨や椎弓、棘突起、大動脈の石灰化など、一方向からの照射では重なりあってしまう組織を排除して、測定部位だけに関心領域(Region of Interest)を設定できる。このことにより、海綿骨と皮質骨を区別することができ、骨量を投影された平面の上での面積密度(g/cm2)でなく真の骨密度(g/cm3)として測定できる。放射線被曝量が多いが、三次元データを得ることにより、従来の方法と比較して関心領域の設定の再現性が改善した。また、CT三次元データを用いて、粗大構造の評価も可能である。

質疑応答

Q1.承認申請時までに骨折をエンドポイントとした比較試験成績の提出を必須とすると、臨床上有用な薬剤を医療現場に提供する時期をいたずらに遅らせることとなると思われる。骨折試験を承認後に終了すること又は市販後に確認することでも可とすべきではないか。

(答)

骨量の改善作用と骨折の防止(骨強度の増強)効果とは必ずしも単純な比例関係にはないことが示されている。よって、過去の臨床データから骨量の改善が骨折の防止に結びつくことが示されている一部の薬剤を除いては、申請医薬品の承認の可否の判断に際し、当該医薬品が骨粗鬆症用薬として臨床上有用なものであるか否かを判断する上で骨折に対する効果の検討データが必要と考える。

Q2.薬効薬理試験における薬物の投与期間について(第2章2.薬効薬理試験(1))、ガイドラインに示されている期間の根拠は何か。

(答)

主として試験動物の骨代謝回転(1年当たりの完全な骨吸収・形成周期の数)に基づいて、ヒトに4年間投与した場合に相当する数の周期が含まれるよう設定した。例えば、ヒトの骨代謝回転を2~4周期/年とすれば、ラット、カニクイザルの骨代謝回転は9周期/年程度であり、ラット及び霊長類における16ヶ月試験はヒトにおける4年の試験に匹敵するものとなる。ただし、ラットの寿命は比較的短いため、12ヶ月間でよいとした。

Q3.薬効薬理試験の項(第2章2.薬効薬理試験(1))で言及されているモデリング動物、リモデリング動物とは何か。

(答)

ラットなどでは長管骨の長軸方向への成長が終生持続するためにモデリング動物と呼ばれるが、ヒト、霊長類、ヒツジ、ブタなどでは思春期以降、成長板の閉鎖とともにモデリングは停止するためリモデリング動物と呼ばれる。

Q4.骨組織像の確認について(第2章2.(4))、「治験薬投与前後の骨組織像の変化の確認」とあるが、特にラットのような小動物においては投与前の骨生検が困難と思われる。このような場合には、投与前後の比較でなく、対照群との比較を行うことでもよいか。

(答)

個体間のばらつきも考慮の上、適切な対照群が設置されるのであれば、必ずしも同一個体における前後比較でなくともよい。

Q5.後期第Ⅱ相での評価項目について、骨代謝マーカーが副次評価項目して位置づけられている理由を示していただきたい。

(答)

骨代謝マーカーを後期第Ⅱ相試験において主要評価項目として用いることについては、現時点では、その評価項目としての妥当性、信頼性等の観点から根拠不十分と考えたからである。欧米のガイドラインでも同様の取扱いとなっている。

Q6.エストロゲン製剤については、検証的試験において骨折に対する効果を主要評価項目とすることは必須ではないとされているが、選択的エストロゲン・レセプター・モデュレーター(SERM)についてはどのように考えたらよいのか。

(答)

SERMについても、その作用機序が十分に明らかにされ、骨に対するエストロゲン作用が確認できる場合には、骨折効果を主要評価項目とすることは必須とはしないこととした。ただし、本作用機序を有する薬剤に関する経験が未だ多く蓄積されていないことに鑑み、副次評価項目として骨折効果に関するデータを収集しておくべきと考える。

Q7.第Ⅲ相比較試験で実薬を対照とする場合、非劣性の証明で事足りる実対照薬はあるのか。また、当該実対照薬が骨折効果を有することをどのように証明したらよいのか。

(答)

用いた実対照薬が骨折に対する効果を有することを適切な比較試験(無作為化二重盲検比較試験)に基づく過去の試験成績(文献等)によって示すとともに、申請資料として用いようとする比較試験においても、当該実対照薬の骨折に対する効果が十分に発揮されたことを説明する必要がある。我が国での当該薬剤の効能・効果の表現に必ずしもとらわれる必要はないが、用いた文献等における当該薬剤の用法・用量にも留意されたい。またICH E10ガイドライン、『「臨床試験における対照群の選択とそれに関連する諸問題」(平成13年2月27日付医薬審発第136号)』も参考にされたい。

Q8.前回のガイドラインから第Ⅲ相で骨折効果を評価する試験を実施する場合に、非臨床試験における結果により有意水準を緩めてよいとの記載が削除されているが(第4章(5)e②)、その経緯は何か。

(答)

検証的試験における有意水準は、ICH―E9において、原則として片側仮説を検証する場合は2.5%、両側仮説の場合は5%とすることとされている。ICH―E9のQ&AのQ2において「稀少疾病用医薬品のように十分な被験者を集めることが困難な場合は有意水準を緩くするなどの措置をとってもよい。」とされているが、骨粗鬆症については十分な被験者を集めることが困難な疾患には該当しない。以前のガイドラインの施行時と比べ現時点では国内臨床試験を実施する治験環境も整備されてきていること、現時点における本邦における骨折試験の実施状況等を勘案して、変更したものである。

Q9.第Ⅱ相終了時までに臨床推奨用量が一つに絞り切れない場合、第Ⅲ相において治験薬の複数用量を用いる(多群比較を行う)ことは可能か。

(答)

可能である。その場合は、試験計画を立案する際に、比較の形式について十分な検討を行っておくべきである。

Q10.ガイドラインに「治療」効能のみならず、「予防」に関する事項も盛り込んでいただきたい。また、骨粗鬆症と骨量減少例とは診断基準的にも連続的な概念であり、骨量減少例についてもリスク因子を抱えた症例は治療対象とすべきと考えられることから、骨量減少例の取扱いについても本ガイドラインに含めるべきではないか。

(答)

「予防」の取扱いについては、その臨床的意義について、医療経済学的な観点や専門学術団体において一定のコンセンサスが形成される必要があり、また、本領域の薬剤の開発状況、医療現場での使用状況等を見ながら、必要に応じ別途検討することとしたい。

Q11.ガイドラインに「骨折治癒」の事項も盛り込んでいただきたい。

(答)

現時点において国際的に「骨折治癒」に対する適切な指標のコンセンサスは得られていないため、本領域の薬剤の開発状況、医療現場での使用状況等を見ながら、必要に応じ別途検討することとしたい。

Q12.前回のガイドラインから、骨粗鬆症に伴う「腰背部の痛み」に対する効果の項が削除されているが、その理由は何か。

(答)

骨粗鬆症患者における腰背部の痛みの軽減と骨粗鬆症の治療効果とは必ずしも相関関係はないとされている。したがって骨粗鬆症治療薬の開発に際して腰痛部の痛みの評価は必須ではないことから、今般ガイドラインの記載から削除した。薬剤の特徴に応じて副次的に評価を実施することを阻むものではない。疼痛に対する効果を検討する場合は試験開始時から悪化していないことを説明することが望ましい。

Q13.第Ⅲ相の臨床評価の項の男性骨粗鬆症について、男性骨粗鬆症患者における試験の実施が、実施可能性の観点から困難な場合は、閉経後骨粗鬆症患者の試験に男性の原発性骨粗鬆症患者を一定症例数組入れることとされているが、一定数とはどの程度組入れる必要があるのか。

(答)

現時点において明確に数値を示すことは困難であるものの、閉経後女性との一貫性を示すために必要な症例数と実施可能性の両者を考慮に入れる必要があるため、機構に個別に相談されたい。

Q14.今回から新たにステロイド性骨粗鬆症の試験の実施が求められているが、その理由は何か。

(答)

ステロイド性骨粗鬆症は原発性骨粗鬆症に比べ高い骨密度でも骨折リスクが高いことが知られている。今回の当ガイドラインの改訂に際して、ステロイド性骨粗鬆症の管理と治療ガイドラインも作成されており、原発性骨粗鬆症とは異なる治療薬の選択が求められていることや海外での医薬品の開発状況等も勘案して、変更したものである。

Q15.本ガイドラインに基づいて臨床試験を行った場合に、効能・効果の記載はどうなるのか。

(答)

臨床試験の項に基づき臨床試験を実施し、閉経後骨粗鬆症、男性骨粗鬆症、ステロイド性骨粗鬆症に対して治験薬の有用性が確認された場合、その効能・効果の記載は、「骨粗鬆症(ステロイド性骨粗鬆症を含む)」とするのが適当である。なお、骨粗鬆症を骨折のリスクの高い各骨粗鬆症患者(閉経後骨粗鬆症、男性骨粗鬆症、ステロイド性骨粗鬆症)を対象とした臨床試験を実施した場合は、「骨折のリスクの高い骨粗鬆症(ステロイド性骨粗鬆症を含む)」とすることが適当である。

Q16.本ガイドライン以前に「骨粗鬆症」の効能・効果で承認された既承認の薬剤について、本ガイドライン発効後の効能・効果はどのような記載となるのか。

(答)

本ガイドライン以前に「骨粗鬆症」の効能・効果で承認された薬剤について、本ガイドライン発効後の効能・効果は、既承認の効能・効果から変更せず、「骨粗鬆症」とする。

Q16―1.本ガイドライン以前に「骨粗鬆症」の効能・効果で承認された既承認の薬剤について、本ガイドライン発効後においてもステロイド性骨粗鬆症は効能・効果に含まれるのか。

(答)

本ガイドライン以前に「骨粗鬆症」の効能・効果で承認された薬剤については、従来通り、ステロイド性骨粗鬆症に投与することを否定するものではない。

Q17.本ガイドライン以前に承認された薬剤において、本ガイドラインに基づいてステロイド性骨粗鬆症に関する開発を行った場合、効能・効果の記載はどうなるのか。

(答)

既に承認されている薬剤において、有用性が承認審査で確認された場合、その効能・効果の記載は、「骨粗鬆症(ステロイド性骨粗鬆症を含む)」とするのが適当である。なお、本ガイドライン以前に承認された薬剤についてステロイド性骨粗鬆症に関する開発を実施する際には、機構に個別に相談されたい。