添付一覧
○製造販売後の医薬品安全性監視における医療情報データベースの利用に関する基本的考え方について
(平成29年6月9日)
(/薬生薬審発0609第8号/薬生安発0609第4号/)
(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長、厚生労働省医薬・生活衛生局安全対策課長通知)
(公印省略)
製造販売後における医薬品安全性監視の方法については、「医薬品安全性監視の計画について」(平成17年9月16日付け薬食審査発第0916001号・薬食安発第0916001号厚生労働省医薬食品局審査管理課長・安全対策課長通知)等において示してきたところです。
今般、独立行政法人医薬品医療機器総合機構が構築を進めている医療情報データベースシステムである、MID―NETの本格的な運用が開始される予定であるなど、医療情報データベースを医薬品安全性監視に利用できる環境が整いつつあります。これを踏まえ、医薬品製造販売業者が製造販売後の医薬品安全性監視において医療情報データベースを利用する上での基本的な考え方を、下記のとおり取りまとめましたので、御了知の上、貴管下関係業者に対し周知方御配慮お願いいたします。
なお、医療情報データベースの利用を含む主な医薬品安全性監視の方法の特徴及び留意点についても、別添のとおり整理したので併せて参考としてください。
記
1.適用範囲
本通知は、主として新医薬品に関して医療情報データベースを利用した製造販売後の医薬品安全性監視活動を実施する場合に適用する。
本通知において「医療情報データベース」とは、病院情報システムデータ(電子カルテデータ、診断群分類包括評価(DPC)データ等)、診療報酬並びに調剤報酬明細書(健康保険組合レセプトデータ等)及び疾患登録データ等の電子的な医療情報を体系的に集積したデータベースを指すものとする。
2.医療情報データベースを利用した調査を実施する場合について
製造販売後の医薬品安全性監視活動を実施するにあたっては、有効な安全対策の実施につながる科学的根拠を得るため、選択する調査方法を問わず、具体的な検討課題(リサーチ・クエスチョン)をあらかじめ設定すること。その上で、設定した検討課題に対処しうる適切な調査手法について十分な検討を行わなければならない。
調査の目的を踏まえ、迅速かつ効率的に適切な調査となる場合には、医療情報データベースを利用した調査の実施を考慮すること。例えば、以下のような場合においては医療情報データベースを利用した調査が適している可能性がある。
・ 副作用等報告情報から懸念される事象が認められた際に、特定集団における当該事象の発現頻度、発現傾向又はそれに関連する要因を探索する場合
・ 適正使用に関する情報提供の方法及び内容を検討するにあたって処方実態を調査する場合
・ 評価に必要とされる症例数や調査期間を考慮すると、製造販売業者等がデータを自ら医療機関から収集する調査の実施が適当ではないと考えられる場合
・ 医薬品使用の有無に関わらず発生しうる有害事象について、その原因が特定の医薬品に基づくものであるのか否か等を、対照群をおいて評価する場合
・ リスク最小化活動が実施された結果としてリスク最小化活動の実施前と比較してリスクが軽減されているか等の、安全対策の実施や効果を定量的又は経時的に評価する場合
3.医療情報データベースの選択について
医療情報データベースの選択にあたっては、データの信頼性が担保されていることを確認するとともに、データベースの保有者、集積されているデータの期間、調査対象となる集団の例数並びに集団の特徴、追跡可能性、調査可能な医薬品の範囲、調査可能な有害事象及びデータの入手手続き等のデータベースの特徴について、あらかじめ十分な調査を行うこと。
4.医療情報データベースを利用した調査の計画の策定について
(1) 「医療情報のデータベース等を用いた医薬品の安全性評価における薬剤疫学研究の実施に関するガイドライン」(平成26年3月31日付け独立行政法人医薬品医療機器総合機構)を踏まえ、評価に用いるデータ項目の特徴を十分に吟味した上で、調査計画やその統計的手法についてもあらかじめ十分に検討すること。特に、データ項目の臨床的意義やその項目に関する医療現場での運用方法等についても十分に理解した上で計画することが重要である。
(2) 調査計画書の策定に先立ち、利用するデータベース、調査デザイン又は解析手法等を検討するためにフィージビリティ調査や粗解析等を実施する場合には、調査対象となる医薬品に対して意図的に有利な調査計画の策定につながらないよう、十分留意すること。
(3) 有効な安全対策の実施につながる十分な科学的根拠が取得できるよう、原則として対照群を設定した調査を実施すること。対照群として既存の医薬品を設定する場合、対照群とする医薬品は、適応疾患の治療ガイドラインや医薬品の作用機序等も踏まえて、科学的・臨床的な観点から妥当なものを選択すること。
(4) 国外の医療情報データベースを利用した調査を実施する場合には、調査結果を日本人へ外挿することの妥当性等についても検討すること。
5.その他
医療情報データベースを利用した調査結果に基づき、安全性監視活動及びリスク最小化活動の追加、変更又は終了を行う場合には、調査結果の臨床的意義を慎重に評価し、他の情報とともに総合的に評価した判断を行うこと。
(参考)
独立行政法人医薬品医療機器総合機構ホームページ
・データベース分析手法高度化事業
URL:https://www.pmda.go.jp/safety/surveillance-analysis/0032.html
・医療情報データベース等を用いた医薬品の安全性評価における薬剤疫学研究の実施に関するガイドライン
URL:https://www.pmda.go.jp/files/000147250.pdf
(別添)
主な医薬品安全性監視の方法の特徴及び留意点
1.医療機関等からの自発的な副作用等の報告に基づく調査
<特徴>
・医薬品の使用と副作用発現との時間的関連や、副作用に関する経過、臨床検査値の詳細情報を得ることができる。
・臨床試験では検出できなかった、頻度の低い副作用や臨床試験に組み入れられていない患者集団における副作用を検出できる可能性がある。
・市販直後調査を実施している場合には、製造販売の開始後6ヶ月間は副作用等報告の促進と情報提供が行われているため、製造販売後早期における副作用情報を迅速に収集できる。
<留意点>
・副作用を発現した症例の情報のみが集積されるため、使用患者の総数が不明で、発現頻度は得られず、科学的評価を行う上で限界がある。
・医薬品との因果関係の有無に関わらず特定の有害事象の発現頻度が高い疾患領域においては、当該事象と医薬品使用との因果関係を評価することは困難である。
・対照群と比較した相対リスクを定量的に評価することは困難である。
・医薬品の使用と有害事象の発現の時間的関連性から因果関係を評価するのが困難な場合(例えば、発がん性、長期使用による脂質異常症の発現等)については、副作用等報告として収集されない場合がある。
・副作用と判断するか否か、報告するか否かは、報告者の自発性に依存するため、集積結果を評価・解釈する際にはその報告バイアス等に十分留意しなければならない。
・医薬品により使用患者の特性や使用量等が異なるため、副作用報告数の多寡は個々の医薬品における有害事象の発現頻度の大きさを必ずしも反映するものではない。
2.使用成績調査
<特徴>
・調査目的に応じて収集する項目の設定が可能であり、多施設から統一した方法により医療情報の収集ができる。
・適切な標本抽出が行われた場合には、有害事象の発現頻度を把握することができる。
・対照群が設定されている場合には、背景因子の影響等を調整した、相対リスクの推定ができる。
・希少疾病用医薬品等、製造販売承認時点での評価例数が極めて限られている場合には、安全性情報の不足を早期に補うための手法として有用な可能性がある。
<留意点>
・現実的に調査可能な例数は限られるため、発現頻度が非常に低い有害事象と医薬品の使用との因果関係を科学的に評価することは困難な場合がある。
・調査の対象とする施設の選定、症例採択や調査の実施時期(製造販売後直後等)等を踏まえ、得られた結果を一般化できるかどうかについて考慮する必要がある。
・医療情報の収集には医療機関の協力が不可欠であり、医療情報を適時に収集するためには、製造販売業者及び医療機関の大きな人的、財務的及び労務な負担が生じる。
3.医療情報データベースを利用した調査
<特徴>
・大規模な症例数を対象とした調査や、既存薬等の他剤群、非治療群などを対照群として設定した調査の実施が容易である。
・対象となるデータベースに登録された患者のうち特定の医薬品を使用した患者の総数が取得できることから、有害事象の発現頻度等も算出することができる。
・調査に必要なデータが十分に集積されている場合には、調査開始から短期間で集計および安全性の評価ができる。
・データベースにあらかじめ集積されている情報を利用するため、調査実施時に調査票への記入が不要であることから、医療現場の負担が低く、社会的な側面からも一般に人的・財務的な負担が小さい。
・長期間にわたり経時的にデータが集積されているデータベースを利用することで、自然経過や生存時間等を評価することが可能な場合がある。
・医薬品の製造販売承認前の情報をヒストリカル・コントロールとして用いる調査や、安全対策の措置実施といった社会的介入の前後における状況の変化等の評価を目的とする調査が可能な場合がある。
<留意点>
・利用できる調査項目はデータベース毎に異なり、調査の目的に対して網羅的ではないことがある。
・調査に用いるデータベース中に調査目的の患者集団を代表する集団が含まれているかなど、調査で得られた結果を一般化できるかどうかについて考慮する必要がある。
・調査開始前に評価の対象とするアウトカムを明確に定義する必要があるため、定義ができない事象の検出には適さない。
・データベースに集積されている各項目の収集方法を確認し、運用上の課題が認められた場合には、データの信頼性等について個別に検討が必要な場合がある。
・調査の実施にあたっては、臨床的意義も踏まえてアウトカム定義を慎重に検討するとともに、既存のバリデーション研究の結果等に基づいて、評価の対象とするアウトカムがデータから高い確度で特定できることをあらかじめ確認しておく必要がある。確度の不明なアウトカム定義を用いる場合には、バリデーションをあらかじめ実施しておく必要がある。
・一般に、最新の情報がデータベースに集積されるまでには、一定のタイムラグがあるため、用いるデータの内容や特性を解析前にあらかじめ理解しておくことが必要である。
・解析の実施に際しては、都合のよい後付け解析とならないよう調査実施計画書や解析方法等についてあらかじめ十分な検討が必要である。
4.製造販売後臨床試験
<特徴>
・目的に応じた試験デザイン及び評価項目を設定することで、必要な情報を不足なく取得できる。
・無作為化や盲検化等の措置を講じることができ、適切な試験プロトコルでGCPに基づき実施することで、安全性や有効性を科学的に評価する上で質の高いデータを収集し課題を検証することができる。
・調査対象医薬品の適応疾患における標準療法等の適切な対照群を設定することで、調査対象医薬品の臨床的位置づけを明確化することができる。
・科学的な検証が可能な症例数を設定することで、安全性の検討を主目的とした介入研究の実施により、観察研究では難しい安全性に関する課題を検証することができる。
<留意点>
・医療機関及び被験者の協力が必須で、目的に応じた症例数を確保するために長期間を要する場合がある。
・試験実施には、介入を伴わない調査に比べ、さらに多くの人的負担や財務的負担、医療機関の労務負担が求められる。
・一般的に臨床試験に組み入れられる被験者は、実臨床で対象となる患者の一部であり、厳密な基準に基づき治療が管理されるため、結果の解釈において、一般化が可能か慎重に検討する必要がある。
5.研究文献に基づく調査
<特徴>
・適切な計画の基に実施された研究論文であれば、科学的根拠に基づいた安全性情報や、ベネフィット・リスク評価の根拠となる情報を少ない人的・財務負担で効率的に収集できる可能性がある。
<留意点>
・文献データベース及び検索式の適切性について根拠に基づく説明が必要であり、情報は日々更新されるため経時的な見直しが必要である。
・文献で得られた結果を適切に評価するためには、その目的、研究デザインの特徴や限界などを十分に吟味する必要がある。