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○児童虐待の防止等に係る児童等に関する資料又は情報の提供について
(平成28年12月16日)
(雇児総発1216第1号)
(各都道府県知事・各指定都市市長・各児童相談所設置市長あて厚生労働省雇用均等・児童家庭局総務課長通知)
(公印省略)
「児童福祉法等の一部を改正する法律」(平成28年法律第63号。以下「改正法」という。)については、本年6月3日に公布され、その一部は本年10月1日から施行することとしている。
改正法による改正後の児童虐待の防止等に関する法律(平成12年法律第82号。以下「虐待防止法」という。)第13条の4においては、地方公共団体の機関に加え、児童の医療、福祉又は教育に関係する機関や児童の医療、福祉又は教育に関連する職務に従事する者も、児童相談所長等から児童虐待の防止等に関する資料又は情報の提供を求められたときは、これを提供することができるものとされた。
改正法の趣旨及び内容等については、改正法の公布に際し、「児童福祉法等の一部を改正する法律の公布について」(平成28年6月3日付け雇用均等・児童家庭局長通知)において既に通知しており、公布日及び平成28年10月1日施行の改正内容を踏まえた「児童相談所運営指針」(平成2年3月5日付け児童家庭局長通知)の改訂についても、「児童相談所運営指針の改正について」(平成28年9月29日付け雇用均等・児童家庭局長通知)において通知したところであるが、改正法に規定されていない民間事業者からの資料又は情報の提供に係る考え方も含め、当該規定の趣旨等について、下記のとおり通知する。貴職におかれては、十分御了知の上、管内市町村(特別区を含む。)をはじめ、関係者、関係団体等に対し、その周知を図り、対応に遺漏のないよう努められたい。市町村、都道府県の設置する福祉事務所、児童相談所におかれては、必要のある場合には、躊躇なく資料又は情報の提供を依頼するとともに、できる限りの協力を求め、児童虐待への対応方針の判断等にあたり活用されたい。
なお、本通知については、医政局及び社会・援護局障害保健福祉部並びに文部科学省、個人情報保護委員会事務局、総務省自治行政局及び法務省刑事局と協議済みであることを申し添える。
また、本通知は、地方自治法(昭和22年法律第67号)第245条の4第1項の規定に基づく技術的助言である。
記
1 改正の趣旨
虐待防止法においては、児童相談所や市町村から児童虐待に係る情報の提供を求められた場合、地方公共団体の機関は情報を提供することができると従前から規定されていた一方、児童虐待の兆しや疑いを発見しやすい立場にある民間の医療機関、児童福祉施設、学校等は提供できる主体に含まれておらず、これらの機関等が児童虐待に係る有益な情報を有しているような場合であっても、個人情報保護や守秘義務の観点を考慮し、情報提供を拒むことがあった。
児童虐待が疑われるケースについては、児童や保護者の心身の状況、置かれている環境等の情報は、児童相談所や市町村において、児童の安全を確保し、対応方針を迅速に決定するために必要不可欠であることから、改正法においては、地方公共団体の機関に加え、病院、診療所、児童福祉施設、学校その他児童の医療、福祉又は教育に関係する機関や医師、看護師、児童福祉施設の職員、学校の教職員その他児童の医療、福祉又は教育に関連する職務に従事する者(以下「関係機関等」という。)も、児童相談所長等から児童虐待の防止等に関する資料又は情報の提供を求められたときは、当該児童相談所長等が児童虐待の防止等に関する事務又は業務の遂行に必要な限度で利用し、かつ、利用することに相当の理由があるときは、これを提供することができるものとされた。ただし、当該資料又は情報を提供することによって、当該資料又は情報に係る児童等又は第三者の権利利益を不当に侵害するおそれがあると認められるときは、この限りでないとされた(虐待防止法第13条の4)。
なお、歯科医師については、児童虐待の早期発見において重要な役割を果たしており、虐待防止法第4条第2項及び第5条第1項における「その他児童の福祉に職務上関係のある者」と同様、「その他児童の医療、福祉又は教育に関連する職務に従事する者」に含まれる。
2 守秘義務、個人情報保護との関係について
関係機関等については、刑法(明治40年法律第45号)又は関係資格法により守秘義務規定が設けられている場合があり、職務上知り得た秘密を漏らした場合には刑事罰の対象とされる。ただし、法令による行為など正当な行為については違法性が阻却され、これらの規定違反は成立しない(同法第35条参照)。
児童虐待の防止や対応のために児童相談所や市区町村に情報提供することは、学校、児童福祉施設、病院その他児童の福祉に業務上関係のある団体及び学校の教職員、児童福祉施設の職員、医師、保健師、弁護士その他児童の福祉に職務上関係のある者には、虐待防止法第5条第2項に基づき児童虐待の防止等に関する国及び地方公共団体の施策に協力する努力義務があり、法第10条又は第11条に基づき児童相談所や市区町村が行う児童及び妊産婦の福祉に関する必要な実情把握等に協力するものであることから、必要かつ社会通念上相当と認められる範囲で行われる限り、正当な行為に当たり、基本的に守秘義務に係る規定違反とはならないと考えられる。
また、個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号。以下「個人情報保護法」という。)においては、本人の同意を得ない限り、①あらかじめ特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて個人情報を取り扱ってはならず、②第三者に個人データを提供してはならないこととされている(個人情報保護法第16条及び第23条)。しかしながら、「法令に基づく場合」は、これらの規定は適用されないこととされており、虐待防止法第13条の4に基づき資料又は情報を提供する場合は、この「法令に基づく場合」に該当するため、個人情報保護法に違反することにならない。
なお、地方公共団体の機関からの情報提供については、各地方公共団体の個人情報保護条例において、個人情報の目的外利用又は提供禁止の除外規定として、「法令に定めがあるとき」等が定められていることが一般的であり、虐待防止法第13条の4に基づく情報提供は「法令に定めがあるとき」に該当するため、条例にこのような除外規定がある場合には条例違反とはならないと考えられる。
3 改正法に規定されていない民間事業者からの資料又は情報の提供について
上記関係機関等の他、一般の民間事業者においても、児童虐待防止に係る情報を有しており、これらの民間事業者から情報提供を受けることが、児童の安全を確保し、対応方針を迅速に決定するために有効な場合があると考えられる。
具体的には、以下のような場合が考えられる。
・集合住宅の管理会社等に対し、虐待が疑われる児童や保護者の居住実態の確認をする場合
・虐待通告に基づき、スーパー、コンビニエンスストア、飲食店、ゲームセンター等に対し、虐待の目撃情報の照会をする場合
・集合住宅の管理会社や警備会社、鉄道会社、コンビニエンスストア等に対し、虐待行為を確認し得る防犯カメラの映像の提供を求める場合 等
これらの民間事業者についても、個人情報保護法上、「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき」、「児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき」又は「国の機関若しくは地方公共団体又はその委託を受けた者が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき」には、本人の同意を得ることなく個人情報を提供することが可能である(個人情報保護法第23条第1項第2号、第3号又は第4号)。
なお、「国の機関若しくは地方公共団体又はその委託を受けた者が法令の定める事務を遂行すること」には、法第10条又は第11条に基づき、児童相談所や市区町村が児童及び妊産婦の福祉に関する必要な実情把握を行うことが含まれると解される。
(参考)
[児童福祉法(昭和22年法律第164号)(抄)]
第十条 市町村は、この法律の施行に関し、次に掲げる業務を行わなければならない。
一 児童及び妊産婦の福祉に関し、必要な実情の把握に努めること。
二~四 (略)
②~④ (略)
第十一条 都道府県は、この法律の施行に関し、次に掲げる業務を行わなければならない。
一 (略)
二 児童及び妊産婦の福祉に関し、主として次に掲げる業務を行うこと。
イ 各市町村の区域を超えた広域的な見地から、実情の把握に努めること。
ロ~ト (略)
三 (略)
②~⑤ (略)
[児童虐待の防止等に関する法律(平成12年法律第82号)(抄)]
(国及び地方公共団体の責務等)
第四条 (略)
2 国及び地方公共団体は、児童相談所等関係機関の職員及び学校の教職員、児童福祉施設の職員、医師、保健師、弁護士その他児童の福祉に職務上関係のある者が児童虐待を早期に発見し、その他児童虐待の防止に寄与することができるよう、研修等必要な措置を講ずるものとする。
3~7 (略)
(児童虐待の早期発見等)
第五条 学校、児童福祉施設、病院その他児童の福祉に業務上関係のある団体及び学校の教職員、児童福祉施設の職員、医師、保健師、弁護士その他児童の福祉に職務上関係のある者は、児童虐待を発見しやすい立場にあることを自覚し、児童虐待の早期発見に努めなければならない。
2・3 (略)
(資料又は情報の提供)
第十三条の四 地方公共団体の機関及び病院、診療所、児童福祉施設、学校その他児童の医療、福祉又は教育に関係する機関(地方公共団体の機関を除く。)並びに医師、看護師、児童福祉施設の職員、学校の教職員その他児童の医療、福祉又は教育に関連する職務に従事する者は、市町村長、都道府県の設置する福祉事務所の長又は児童相談所長から児童虐待に係る児童又はその保護者の心身の状況、これらの者の置かれている環境その他児童虐待の防止等に係る当該児童、その保護者その他の関係者に関する資料又は情報の提供を求められたときは、当該資料又は情報について、当該市町村長、都道府県の設置する福祉事務所の長又は児童相談所長が児童虐待の防止等に関する事務又は業務の遂行に必要な限度で利用し、かつ、利用することに相当の理由があるときは、これを提供することができる。ただし、当該資料又は情報を提供することによって、当該資料又は情報に係る児童、その保護者その他の関係者又は第三者の権利利益を不当に侵害するおそれがあると認められるときは、この限りでない。
[刑法(明治40年法律第45号)(抄)]
(秘密漏示)
第百三十四条 医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、六月以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
2 (略)
[個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)(抄)]
(利用目的による制限)
第十六条 個人情報取扱事業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで、前条の規定により特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を取り扱ってはならない。
2 個人情報取扱事業者は、合併その他の事由により他の個人情報取扱事業者から事業を承継することに伴って個人情報を取得した場合は、あらかじめ本人の同意を得ないで、承継前における当該個人情報の利用目的の達成に必要な範囲を超えて、当該個人情報を取り扱ってはならない。
3 前二項の規定は、次に掲げる場合については、適用しない。
一 法令に基づく場合
二 人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
三 公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
四 国の機関若しくは地方公共団体又はその委託を受けた者が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき。
(第三者提供の制限)
第二十三条 個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない。
一 法令に基づく場合
二 人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
三 公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
四 国の機関若しくは地方公共団体又はその委託を受けた者が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき。
2~6 (略)