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○In vitro皮膚透過試験(In vitro経皮吸収試験)を化粧品・医薬部外品の安全性評価に資するためのガイダンスについて

(平成28年11月15日)

(薬生薬審発1115第1号)

(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長通知)

(公印省略)

今般、「医薬品等の安全性評価に関するin vitro試験(代替法)の開発、国際標準化及び普及促進に関する研究」(平成28年度日本医療研究開発機構研究費(医薬品等規制調和・評価研究事業、代表研究者 小島肇))において、化学物質や化粧品の安全性評価のために用いられているin vitro皮膚透過試験(in vitro経皮吸収試験)に関する各種ガイドラインを比較し、化粧品・医薬部外品の安全性評価に資する目的で,試験法の概要、適用限界および使用上の留意点等をまとめたガイダンスを別添のとおり作成したので、貴管下関係業者に対して周知願います。

[別添]

In vitro皮膚透過試験(In vitro経皮吸収試験)を化粧品・医薬部外品の安全性評価に資するためのガイダンス

1.緒言

化粧品・医薬部外品の安全性評価における吸収・分布・代謝・排泄試験において、実使用時の適用部位が皮膚のものについては、原則、「経皮吸収(percutaneous absorptionまたはdermal absorption)」についての資料が必要である。本ガイダンスで示す化粧品や医薬部外品原料の「in vitro皮膚透過試験(in vitro skin permeation test)またはin vitro経皮吸収試験(in vitro percutaneous absorption test)」の目的は、実使用条件において、ヒト全身循環系に吸収される(体内全体に曝露される)可能性がある被験物質の量を得ることである。この吸収(曝露)量は、個々の物質についての反復投与毒性試験の無毒性量(no observed adverse effect level:NOAEL)とともに安全域(margin of safety:MOS)を算出する上で必要となる(SCCS/1358/10)1)

本ガイダンスは、化学物質や化粧品の安全性評価のために用いられているin vitro皮膚透過試験(in vitro経皮吸収試験)に関する各種ガイドラインを比較し、化粧品・医薬部外品の安全性評価に資する目的で,試験法の概要、適用限界および使用上の留意点等をまとめたものである。

2.定義

本ガイダンスにおいてin vitro皮膚透過試験(in vitro経皮吸収試験)における「吸収量」とは、角層を透過した被験物質の量と定義する。経皮吸収過程は以下の3つのステップからなる。

皮膚浸透(skin penetration):化学物質の浸透部位の深さを問わない。In vitro研究だけでなくin vivoまたはin situ研究にも用いる。

皮膚透過(skin permeation):皮膚のある層から次の層への移行を意味し、化学物質が皮膚の表側から裏側に移動すること。In vitro研究だけでなくin vivoまたはin situ研究にも用いる。

吸収または再吸収(resorption):In vitro皮膚透過試験(in vitro経皮吸収試験)では、化学物質が皮膚(主に生きた表皮(viable epidermis)や真皮(dermis))に入ることを意味し、さらに、viable epidermisやdermisに入った物質はその後全身循環系に移行すると考えられる。

「経皮吸収(percutaneous absorptionまたはdermal absorption)」はしばしば「皮膚透過(skin permeation)」や「吸収または再吸収(resorption)」と同じ意味で使われるが、より厳密には「経皮吸収」、「再吸収」、そして「皮膚透過」を区別する必要がある。また、「皮膚浸透(skin penetration)も同様な使い方をされることがある。そこでまず、本ガイダンスで用いる用語、特に「経皮吸収」、「皮膚透過」、「再吸収」、そして「皮膚浸透」を主に世界保健機関(World Health Organization:WHO)の基準2」やBasketterら3」の記述に基づき上述したように定義づけた。

医薬品領域では、化学物質の「吸収(absorption)」とは全身循環系(主に体循環血液)中に物質が入ることをいう。例えば、消化管吸収は経口投与した物質の消化管から全身循環系(またはごくまれにリンパ系)への移行を意味している。したがって、「経皮吸収」も皮膚上にあった物質が皮膚バリアーを経て全身循環系に移行することを意味する。血液が流れていない摘出皮膚や培養皮膚では化学物質は「吸収」されない。しかしながら、化粧品や医薬部外品に関して、「経皮吸収」は化学物質が皮膚(viable epidermisやdermis)に入ることを意味し、さらに、viable epidermisやdermisに入った物質はその後全身循環系に移行する過程も合わせて「経皮吸収」という表現を用いる。そこで、WHO2)やBasketterら3)は、その後者、すなわち、全身循環系への化学物質の移行を「resorption」と定義している。「resorption」は「再吸収」という訳をする方が理に適っていると思われるが、従来からの慣例もあるので、「吸収または再吸収(resorption)」とする。この「吸収または再吸収(resorption)」という用語はin vivoまたはin situ研究でのみ使われるべきである。そこで、本ガイダンスでは「in vitro皮膚透過試験」と称し、さらに今までの経緯も考慮して、かっこ書きで「経皮吸収(percutaneous absorption)試験」を併記する。

一方、「皮膚透過(skin permeation)」は皮膚のある層から次の層に順々に移行することを意味することから、皮膚の表側から裏側に化学物質が移動することを表現する用語とする。ここには吸収という文字がないので、「皮膚透過」はin vitro研究だけでなくin vivoまたはin situ研究にも用いる。

また、「皮膚浸透(skin penetration)」は化学物質の浸透部位の深さを問わない。ここで、「penetration」は滲みる(染みる)の意味に近いが、「penetration」には貫通という意味もある。しかし、「通り抜ける」に該当する用語として「piercing」または「pass through」を用いる方が「penetration」と「permeation」を区別しやすい。なお、この「skin permeation」と「skin penetration」の定義、さらにそれらの違いはWHO2)やBasketterら3)の表現と同様である。また、「皮膚浸透(skin penetration)」は「皮膚透過(skin permeation)」と同様、in vitro研究だけでなくin vivoまたはin situ研究にも用いることができる。

前述したように、血液が流れていない摘出皮膚や培養皮膚では物質は「吸収または再吸収」されないので、in vitro皮膚透過試験法(in vitro経皮吸収試験法)はin vivo経皮吸収試験法を完全に代替するものではない。

3.試験法の概要

表1に本ガイダンスを作成するにあたり参照した海外ガイドラインにおける試験法の概要を示す。

表1 海外ガイドラインの比較(in vitro皮膚透過試験)

Guideline

SCCS1)

(1358/10)

OECD4)

(TG428, 2004. 4)

Colipa5)

(1997)

拡散セル

Flow through/Static cell

Flow through/Static cell

チャンバー(ドナー、レセプター液)で皮膚を挟んだもの.

セルの選択は被験物質による

レセプター液

親水性:生食、緩衛生食液

脂溶性:アルブミン、可溶化剤の添加は可

・対象物質が溶解すること

・皮膚に影響を与えないこと

・代謝試験では皮膚能を維持すること

親水性:生食、緩衛生食液

脂溶性:アルブミン、可溶化剤を含む液

皮膚膜

○ ヒト/ブタ

× げっ歯類

(× 培養皮膚/再構築皮膚)

ヒト/動物

(ヒトの場合は倫理下で)

記載なし

(標準プロトコールではヒト、ブタ、ラット)

部位

ヒト:腹、脚、胸囲

ブタ:腹、胸、背、側、耳

記載なし

記載なし

皮膚厚

ヒト:○200―500μm

(split-thickness)

△500―1,000μm

(full-thickness skin)

ブタ:full-thickness skin

○ 表皮膜(酵素/熱処理)/剥離皮膚(200―400μm)

△ full-thickness skin

× >1mm

○ whole, split-thickness skin

(<1mmとすること)

Integrity test

必須:3H2O、カフェイン、ショ糖の皮膚透過性、TER、TEWL

必須:方法については記載なし

必須:3H2Oの皮膚透過性、TEWL等

被験物質

RI体は大規模ロット(cold体)とは若干異なる特徴を示す

RIラベル化が理想的

標準処方で1濃度以上

 

適用量

固形/半固形:2―5mg/cm2

液体:~10μL/cm2

固形:1―5mg/cm2

液体:~10μL/cm2

実用量

実験例数

n数(/1サンプル)

8

(少なくとも4ドナー)

最低4

 

皮膚表面温度

32±1℃

32±1℃

(湿度は30―70%)

30―32℃±1℃

適用時間

24時間

(超える場合は皮膚状態に注意)

・一般的には24時間(対象物質の透過性による)

・適用途中でサンプリングを実施(透過プロファイルを図示する)

24時間

測定部位

・皮膚表面

・角層

・表皮(角層を除く)

・真皮

・レセプター液

・ドナーチャンバー

・皮膚表面

・皮膚

・レセプター液

場合によっては、塗布部位、塗布外部、(セル密着部位)、角層、表皮、真皮に分ける

・皮膚表面

・角層

・表皮(角層を除く)

・真皮

・レセプター液

回収率

100±15%

(逸脱なら調査/説明)

RI使用時の目標は、100±10%

(逸脱なら理由を記載)

85%以上

(逸脱なら調査/説明)

回収部位

レセプター液、皮膚、皮膚表面およびチャンバー洗浄液

(代謝物を含む)

レセプター液、皮膚、皮膚表面およびチャンバー洗浄液

レセプター液、皮膚、皮膚表面およびチャンバー洗浄液

算出値

絶対量(μg/cm2)

吸収率(% of dose)

実用量の場合:皮膚表面量:皮膚内量、レセプター液の速度および量あるいはパーセンテージ

無限系の場合:透過係数を算出、パーセンテージは必要ない

絶対量(μg/cm2)

吸収率(% of dose)

摘出した皮膚を用いたin vitro皮膚透過試験(in vitro経皮吸収試験)の正当性は、表皮、特に角層が生体への異物の吸収(速度)や取り込みに対する主バリアーとなっているという事実に基づいている(SCCS/1358/10)1)

水溶性化合物の皮膚透過性については角層が主バリアーとなることが知られている。一方で、化粧品原料においては油分等の脂溶性化合物もかなりの数存在し、それら脂溶性化合物の皮膚透過性には角層だけでなくそれ以下の表皮や真皮もまたバリアーとなる。したがって、角層以下の層のバリアー能の寄与が高い物質のin vitro皮膚透過試験(in vitro経皮吸収試験)には、使用するレセプター液や皮膚の厚みに注意が必要である。本試験は拡散セルに摘出した皮膚を挟んで、通常24時間実験を行う。皮膚透過性は経時的にレセプター液に移行した被験物質の量から求める。さらに、実験終了時にはドナー液と皮膚(角層、生きた表皮、および真皮)中の被験物質量を測定する。

ヒト全身循環系に吸収される(体内全体に曝露される)可能性がある被験物質の量は、24時間に亘ってレセプター液に移行した量と24時間目のviable epidermisとdermis中に存在する被験物質の量の和とする(付録A参照)。24時間目に角層にある被験物質の量は吸収されないとみなす。

皮膚組織の安全性については、参照した海外ガイドラインには正確な記述がない。しかし、皮膚組織の安全性は全身循環系に吸収される被験物質の量よりむしろ、viable epidermisとdermis中に存在する被験物質の量とその時間に影響される。この場合は、実用量の安全域を想定した用量または、基剤中の薬物濃度が時間の経過によって減少しない量(無限用量;例えば、適用量が実用量の10―100倍以上)を適用し、皮膚透過が定常状態に到達した後のviable epidermisとdermis中に存在する被験物質の量(この量は実用量適用時より高い)が目安になる(付録B参照)。

試験方法

(1) 拡散セル

Flow through型またはstatic型の拡散セルを使用し、ドナーとレセプター(レシーバー)用のセルに皮膚を挟んで使用する。なお、flow through型拡散セルではレセプター液が環流される。

(2) レセプター(レシーバー)液

A) 試験条件下、レセプター液中で被験物質は確実に溶解しており、また、化学的に安定である必要がある。

B) 親水性化合物の試験には、一般的に生理食塩液や等張緩衝液をレセプター液に用いる。原則としてレセプター液は生理的pH値にする。これを逸脱する場合には正当化する必要がある。

C) 化粧品の原料においては、油分等の脂溶性化合物がかなりの数存在し、これらは生理食塩液には溶解しない。脂溶性物質の試験では、血清アルブミンまたは適当な可溶化剤・乳化剤を添加することができるが、その際、皮膚バリアー能(membrane integrity)を悪化させてはならない。例えば、WHO2352)で提案されている50%エタノール水溶液を用いる場合には、それが皮膚健常性(=integrity)に影響を及ぼさないことを確認しておかねばならない。また、ドナー側にエタノールが5%を超えて含まれると経皮吸収性に影響を及ぼす可能性があることが知られている6)。なお、50%エタノール水溶液を用いても溶解しない場合は、可溶化剤/乳化剤としてポリオキシエチレン(20)オレイルエーテルを用いることができる2)、注1)。皮膚を透過した被験物質のレセプター中濃度が、選択した溶媒の飽和溶解度の10%を超えないこと。

D) レセプター液は分析手法を妨害しないよう選択するべきである(SCCS/1358/10)1)。なお、早期の採取時間で連続的なND値とならないようにするため、レセプター液量は最小限にする。試験システムの選択の妥当性は試験報告書で説明すること。

E) 実験中の気泡の発生が予測される場合、これを抑えるためレセプター液には脱気した溶液を用いる。なお、レセプター液に可溶化剤/乳化剤を添加する場合は脱気の不要なstatic型拡散セルを用いる。また、static型拡散セルでは試験中十分に撹拌し、flow through型拡散セルでは絶えず液を流しておく。

(3) 皮膚膜

A) WHOは最適標準(gold standard)としてヒト皮膚の使用を勧めている2)。もちろん、ヒト皮膚が経皮吸収試験に最も適した試料であるが、それらはいつも容易に入手できるとは限らない。そこで、代わりにヒト皮膚とほぼ同様の透過性を示すと考えられるブタ皮膚が使用される(SCCS/1358/10)1)、ヒト、ブタ皮膚に加えて、ラット皮膚も使用される(COLIPA)5)。さらに、ヒト、ブタ、ラットに加えて、他の動物皮膚が使用される(OECD TG428)4)こともある。ラットなどのげっ歯類は角層バリアーが充分でないため完全にヒト皮膚の代わりにはならないが、被験物質の透過量を過大評価していると考えることができるため毒性を過大評価できると考えて使用することが可能である1)

本ガイダンスでは,量的な皮膚透過性を評価するための試験に用いる場合、ヒト皮膚およびブタ皮膚を推奨する。

被験物質がin vivo試験においてかなり皮膚代謝を受ける場合には、さらに検討が必要である。被験物質の皮膚代謝が重要である場合には、凍結皮膚を用いたin vitro実験では、被験物質やその代謝物の経皮吸収についても正確な情報を与えないことがあるので、新鮮な皮膚を使用する1)、7)、注2)

B) 使用可能な皮膚は、split-thickness skin(200~500μm)またはfull-thickness skin(500~1000μm)である(Sanco/222/2000)8)。本邦では、ダーマトームで薄切されたsplit-thickness skinが入手可能である。使用した皮膚の皮膚厚は適切な方法で測定し、試験報告書に記載する。また、皮膚は実験用セルにあうように大きさを調整する(SCCS/1358/10)1,4)

C) 試験皮膚には、組織としての健常性が維持されていれば、酵素、熱、化学処理により剥離した表皮(表皮シート)も用いることができる(OECD TG428)4)。ただし、表皮シートを使用する場合には、その理由が必要である。表皮シートはもろいことがあり、このモデルではテープストリッピング法等のマスバランス手法を適用することができない。表皮シートの使用は、ヒトのin vivo経皮吸収を過大評価する可能性があることも指摘されている1)

D) 培養皮膚モデルもしくは再構築皮膚を用いた試験はいまだ発展途上であることや角層バリアー能が不十分であることから、これら皮膚を用いた試験は実施しないこと1)

ヒト皮膚:原則としてsplit-thickness skinを用い試験を行う。ただし、体毛は真皮側に存在する毛根から皮膚表面に伸びているため、薄切処理した皮膚では毛穴が貫通している場合がある。毛穴が貫通した皮膚では、透過性が正しく評価できないため使用しないこと。Full-thickness skinや表皮シートを用いる場合には、その理由を明確にする必要がある。

ブタ皮膚およびその他皮膚:技術的にsplit-thickness skinの調製が難しいため、原則としてfull-thickness skinを用いた試験を行う。split-thickness skinや表皮シートを用いる場合には、その理由を明確にする必要がある。

(4) 皮膚膜の健常性試験(integrity test)注3)

皮膚の健常性のチェックはin vitro皮膚透過試験に必須である。これは、指標となる化合物(例:トリチウム水、カフェイン、ショ糖)の皮膚透過性を測定するか、もしくは経表皮水分喪失量(Transepidermal water loss:TEWL)や経上皮電気抵抗(Transcutaneous Electrical Resistance:TER)等などの物理的方法によって確認する。特に、TEWLは局所皮膚適用製剤の生物学的同等性ガイドライン9)に採用されたテープストリッピング法と併用することにより角層厚を推定する方法にもなる。なお、得られた皮膚膜の健常性データは試験報告書に記載する。

(5) 被験物質

放射性同位元素(Radio Isotope:RI)標識体だけではなく非標識体も使用される。被験物質は、実使用製剤、またはこの製剤と皮膚透過(経皮吸収)が同等となる適切な製剤を用いて適用する。なお、実使用製剤以外の製剤を用いた場合には、その理由を試験報告書に記載する。

(6) 適用量

実用量の適用が推奨される1)。既存のガイドラインでは、固形、半固形製剤なら2―5mg/cm2 1)または1―5mg/cm2 4)が、また、液体なら最大10μL/cm2までが推奨されており1,4)、この値を目安とする。酸化染毛剤の場合は、1剤と2剤を混合したものを20mg/cm2適用する1)。被験物質は、適切な方法を用いて適用面積全体に均一に広がるように塗布する。なお、本試験は、無限用量でもin vitro皮膚透過実験を行うことが可能である。この場合は、一般に皮膚透過量よりも皮膚透過係数(permeability coefficient)を算出する(付録 C参照)。

(7) 実験例数

実験例数は理想として8以上1)が望ましい。

(8) 皮膚表面温度

32±1℃とする。

(9) 適用時間

24時間が推奨される。24時間以上適用する場合には、皮膚の健常性を損なわないよう注意が必要である。シャンプーや酸化染毛剤などのリンスオフ用被験物質は、被験物質の実使用時間、もしくは実使用時間よりも長い時間(少なくとも30分間以上)適用することを推奨する。この後、実使用条件と同等の方法で皮膚表面から洗い流す。

(10) 測定部位

In vitro皮膚透過試験ではレセプター液を経時的にサンプリングして皮膚透過量を測定する。さらに実験終了時には、ドナー液、皮膚表面、皮膚(角層、角層を除く表皮、真皮)、レセプター液も測定する。

(11) サンプリング

レセプター液のサンプリングは24時間目まで実施し、少なくとも被験物質適用後6点(ただし、適用直後~適用後30分後のサンプリングを含む)サンプリングする。また、サンプリング時間およびその量は試験報告書に記載する。

(12) 被験物質の分析、回収率

皮膚中の各層および/あるいはレセプター液サンプルは、液体シンチレーションカウンター、高速液体クロマトグラフィー(high performance liquid chromatography:HPLC)、ガスクロマトグラフィー(Gas Chromatography:GC)、あるいは他の適当な分析方法で、また、適切にそしてバリデートされた方法を用いて分析する。もちろん、分析方法の感度、再現性、精度も証明する(SCCS/1358/10)1)。被験物質の皮膚透過性試験は再現性を示す必要があるが、被験物質の皮膚透過性は用いる摘出皮膚サンプルにより異なる可能性があるため、少なくとも異なる4つのドナーもしくは個体の皮膚部位から8例(ヒト摘出皮膚もしくはブタ摘出皮膚)のデータを用いる。得られたデータ(累積透過量もしくは透過係数(permeability coefficient))の変動係数は30%未満とし、もし、統計的評価が難しい場合には、累積透過量もしくは透過係数の最大値を用いる。さらに、実用量の適用では、マスバランスを考慮することが重要であることから、適用量に対して85~115%の回収率が必要である1)。低いもしくは高い回収率を示した場合は、再試験をするか、もしくはその理由について述べる。

(13) 算出値

実用量の適用では、経時的な皮膚透過量は絶対値(μg/cm2)で表示する。また、吸収率(% of dose)を用いることもある1,4)。実用量の適用では前者に加えて皮膚中量を、無限用量では皮膚中量および皮膚透過係数(permeability coefficient)を算出し、パーセンテージは不要である。

(14) 正確性、妥当性、再現性

MOSの計算には、平均値+1SDを用いる。これは下記に記した通り、in vitro皮膚透過性試験は、個体間および部位差による角層の性質の違いや皮膚の厚みの違いによりばらつきが大きいためである。さらに、本手法は実際の経験から得られたものであり、入念な妥当性検証を実施したものではないからである。プロトコールから著しく逸脱している場合やばらつきが非常に大きい場合には、安全域の算出のため平均値+2SDを用いる。

In vitro皮膚透過試験に影響を及ぼす要因

・ 個体間および部位差による角層の性質の違い

・ 皮膚表面温度や皮膚の厚みの違い、被験物質の適用濃度、適用量および適用時間等

・ セルの種類(static型拡散セルとflow through型拡散セル等)

・ 被験物質の定量条件

4.本試験法の適用限界

前述したように、in vivo条件下では微少循環系(血管およびリンパ管)により化合物が皮膚組織から全身循環系に移行する(absorptionまたはresorption、再吸収)が、in vitro条件下では、その様な吸収過程は評価できない(SCCS/1358/10)1)

表皮は絶えず増殖、分化、落屑を繰り返しており、一日当たり約一層分の角質細胞層が取り除かれる。局所適用した場合、in vitro試験における皮膚上、特に角層最上層や毛嚢脂腺で検出された異物は、in vivoにおいては、それぞれ落屑あるいは皮脂分泌により取り除かれる。これらの過程もin vitroでは再現できない10)ので、in vitro系での最終的な表皮(角層)中濃度はin vivoレベルと比較して高くなる(SCCS/1358/10)1)

また、in vitro試験では、被験物質が表皮組織中で不可逆的に結合(吸着)することがあるが、これもin vivoにおいては皮膚表面の落屑によって除去されることもありうる。この現象が示唆された場合には、別の試験により実証しなければならない(SCCS/1358/10))1)

5.最後に

本試験により、特にin vitro皮膚透過性(in vitro経皮吸収性)が高い場合、さらに経皮吸収性・全身への移行性を高める化合物が含有されている場合等については、必要に応じて分布・代謝・排泄についての検討が必要になる。

6.注

注1:被験物質が油分の様な場合は、可溶化剤/乳化剤を用いても、その溶解性には限界がある。

注2:日本でも最近、ヒト皮膚を安定的に供給できる体制が整いつつあり、試験計画と試験施設の倫理面が明確であれば供給可能となった。しかしながら、その場合も輸送の関係で、凍結皮膚がほとんどである。したがって、日本国内において、新鮮なヒト皮膚を用いてin vitro皮膚透過試験(in vitro経皮吸収試験)を実施し、皮膚代謝まで明らかにすることは非常に難しいと考える。また、凍結防止溶媒に浸けた摘出ヒト皮膚を海外から空輸し、ヒト皮膚を非凍結状態で入手することもできるが、凍結防止溶媒により皮膚特性が変わる可能性があるため利用は控えるべきである。

注3:皮膚バリアーの健常性をチェックする方法としてOECD TG4284)ではトリチウム水の使用を推奨している。日本の放射線障害予防規定においては、現在、国際基準に合わせる意味で,トリチウムは濃度で1MBq/g、数量で1GBqを下限値として、放射性同位元素(radio isotope、RI)としての取り扱いを免除することになっている。しかしながら、歴史的な背景から、日本の放射能に対する認識は欧米諸国とは異なるため、本規定が運用されることはほとんどない。トリチウムを用いる場合は、施設の規定で、やはりRI実験となる。

また、トリチウム水で皮膚の健常性をチェックした皮膚は、RI施設から持ち出すことはできないことから、おのずと被験物質の透過性もRI施設内で実施することになる。被験物質に放射性標識体を用いる場合は問題ないが、非標識体の機器分析を実施する場合は、当分析機器をRI室に常設する必要がある。LC/MS/MS、ICP/MS等の分析機器はかなり高価であるため、必ずしもRI施設内に設置することが容易とはいえないのが現状である。これを避ける方法として、皮膚の健常性はトリチウム水でチェックし、その皮膚とは別に、その近傍の皮膚を用いて、RI施設外で試験化合物の試験を行い、非標識体で機器分析を実施する方法がある。

7.引用文献

1) SCCS/1358/10 Basic criteria for the in vitro assessment of dermal absorption of cosmetic ingredients (2010).

2) WHO, Environmental Health Criteria 235, Dermal Absorption (2006).

3) D. Basketter, C. Pease, G. Kasting, I. Kimber, S. Casati, M. Cronin, W. Diembeck, F. Gerberick, J. Hadgraft, T. Hartung, J. P. Marty, E. Nikolaidis, G. Patlewicz, D. Roberts, E. Roggen, C. Rovida, J. van de Sandt, Skin sensitisation and epidermal disposition: the relevance of epidermal disposition for sensitisation hazard identification and risk assessment. The report and recommendations of ECVAM workshop 59, ATLA, 35, 137-154 (2007).

4) OECD428 Guideline for the testing of chemicals, skin absorption: In vitro method (2004).

5) Colipa regulatory, Guidelines for percutaneous absorption/penetration (1997).

6) T. Oshizaka, H. Todo, K. Sugibayashi, Effect of direction (epidermis-to-dermis and dermis-to-epidermis) on the permeation of several chemical compounds through full-thickness skin and stripped skin, Pharm Res., 29, 2477-2488 (2012).

7) W. Diembeck, H. Beck, F. Benech-Kieffer, P. Courtellemont, J. Dupuis, W. Lovell, M. Paye, J. Spengler, W. Steiling, Test guidelines for in vitro assessment of dermal absorption and percutaneous penetration of cosmetic ingredients. European Cosmetic, Toiletry and Perfumery Association, Food Chem. Toxicol., 37, 191-205 (1999).

8) Sanco/222/2000 rev. 7, Guidance document on dermal absorption (2004).

9) 局所皮膚適用製剤の後発医薬品のための生物学的同等性試験ガイドライン

(http://www.nihs.go.jp/drug/be-guide/GL061124_hifu.pdf).

10) M. Sugino, H. Todo, T. Suzuki, K. Nakada, K. Tsuji, Y. Tokunaga, H. Jinno, K. Sugibayashi, Safety evaluation of topically exposed biocides using permeability coefficients and the desquamation rate at the stratum corneum, J. Toxicol. Sci., 39, 474-485 (2014).

付録

全身クリアランスが大きいため全身循環系に吸収されても血液中濃度が高くならず、結果として安全であると判断される物質でも、高い皮膚中濃度を示し局所での毒性が懸念されるものもある。以下に示すパラメータを用いることでヒト皮膚中に相当量入る被験物質の量を得ることができる。

総経皮吸収量と皮膚中量の査定、およびこれらと他のパラメータとの関係

A) 総経皮吸収量と血中濃度時間曲線下面積AUCとの関係

被験物質を皮膚に適用した時の血中濃度(Cblood)は、被験物質の全身循環系への流入速度(-dxdt)と被験物質の全身クリアランス(CLtot)から以下のように求めることができる。

ここで、-dX/dtは吸収速度を示す。血中濃度時間曲線下面積AUCは、式(1)の両辺の時間を0から無限大まで積分して以下のように得られる。

AUC=吸水量/CLtot (2)

なお、本in vitro皮膚透過試験のガイドラインでは、

吸収量=24時間に亘ってレセプター液に移行した被験物質量+24時間時のviable epidermis and dermis中の被験物質量 (3)

とする。

B) 皮膚中濃度

皮膚中濃度の査定では、透過性(拡散性)の違いから皮膚全体を角層と生きた表皮・真皮(viable epidermis and dermis、vedと略記することあり)に分けることが推奨されている。無限用量法で被験物質を皮膚適用し、定常状態時の被験物質の皮内分布を求めると、図1のように示すことができる1)

図1 2層膜拡散モデルを用いた定常状態時の皮内被験物質分布

2層膜拡散モデルにおいては、被験物質の全層皮膚(添え字はtot)の透過係数Ptotは角層(添え字はsc)の透過係数Pscと生きた表皮・真皮の透過係数Pvedを用いて以下のように示される。

1/Ptot=1/Psc+1/Pved (4)

また、これら透過係数の逆数1/Ptot、1/Psc、1/Pvedは透過抵抗Rtot、Rsc、Rvedとなるので

Rtot=Rsc+Rved (5)

となる。さらに、図1の角層と生きた表皮と真皮界面でのpoint a,b,cにおいて、abとbcの比はRscとRvedの比で示されることになる。すなわちpoint bでの被験物質濃度は次式で表すことが出来る。

Cb=KscCvRved/Rtot (6)

角層から表皮・真皮への分配係数はKscとKvedの定義からKved/Kscと表すことが出来る。したがって、単位面積当たりの生きた表皮と真皮中の被験物質量Mvedは次式のように表すことが出来る。

となる。

C) 無限用量法における透過係数(permeability coefficient)の算出

無限用量法で被験物質を皮膚適用すると、累積皮膚透過量QはFickの拡散則に従い以下のように示すことができる。

ここで、D、K、CvおよびLは皮膚バリアー中拡散係数、皮膚バリアー/基剤分配係数、基剤中濃度、および皮膚バリアーの厚みである。また、式(8)は定常状態では右辺第二項がゼロになり、次式に簡略化できる。

式(9)より定常状態での透過速度(J)は、

dQ/dt=J=DKCv/L (10)

で表すことができ、さらに式(10)を基剤中薬物濃度(Cv)で除することにより透過係数Pが算出できる。

P=DK/L (11)

引用文献

1) K. Sugibayashi, H. Todo, T. Oshizaka, Y. Owada, Mathematical model to predict skin concentration of drugs: toward utilization of silicone membrane to predict skin concentration of drugs as an animal testing alternative, Pharm. Res., 27, 134-142 (2010).