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○3,3’―ジクロロ―4,4’―ジアミノジフェニルメタン(MOCA)による健康障害の防止対策について

(平成28年9月21日)

(基安発0921第2号)

(都道府県労働局長あて厚生労働省労働基準局安全衛生部長通知)

(公印省略)

今般、化成品等の製造事業場で、複数の労働者及び退職者に膀胱がんの病歴又は所見があることが明らかになった。

独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所の協力も得て作業実態や発生原因について調査を行ったところ、これらの労働者及び退職者のうち多くは、3,3’―ジクロロ―4,4’―ジアミノジフェニルメタン(以下「MOCA」という。)を取り扱う作業に従事していたことが判明した。

MOCAは、特定化学物質障害予防規則(昭和47年労働省令第39号。以下「特化則」という。)の特定第二類物質かつ特別管理物質として規制が行われている物質であるが、特化則に基づくMOCAの特殊健康診断の項目に膀胱がんに関する項目が含まれていないこと等から、本省では、現在、専門家からなる検討会において特殊健康診断の項目の見直しのための検討を行っているところであり、MOCAについてもその結論を踏まえて必要な措置を講じる予定としている。

このため、厚生労働省においては、引き続き原因究明のための調査を実施するとともに、関係業界団体に対して、別添のとおり、MOCAによる健康障害を防止するため、特化則に基づくばく露防止措置等の徹底を図ること、及び特殊健康診断項目の見直しまでの間、緊急的な措置として、膀胱がんに関する検査を実施すること等について要請したところである。

ついては、都道府県労働局においても、同種の事案を予防する観点から、関係事業者に対してMOCAによる健康障害の防止のための上記の措置の適切な実施について、指導するとともに、管内関係事業者団体に対して要請願いたい。

[別添]

○3,3’―ジクロロ―4,4’―ジアミノジフェニルメタン(MOCA)による健康障害の防止対策について

(平成28年9月21日)

(基安発0921第1号)

((別記関係団体の長)あて厚生労働省労働基準局安全衛生部長通知)

(公印省略)

今般、化成品等の製造事業場で、複数の労働者及び退職者に膀胱がんの病歴又は所見があることが明らかになりました(別紙1)。

独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所の協力も得て作業実態や発生原因について調査を行ったところ、これらの労働者及び退職者のうち多くは、3,3’―ジクロロ―4,4’―ジアミノジフェニルメタン(以下「MOCA」という。)を取り扱う作業に従事していたことが判明しました。

MOCAは、特定化学物質障害予防規則(昭和47年労働省令第39号。以下「特化則」という。)の特定第二類物質かつ特別管理物質として規制が行われている物質ですが、特化則に基づくMOCAの特殊健康診断の項目に膀胱がんに関する項目が含まれていないこと等から、厚生労働省では、現在、専門家からなる検討会において特殊健康診断の項目の見直しのための検討を行っており、MOCAについてもその結論を踏まえて必要な措置を講じる予定としております。

これらのことを踏まえ、厚生労働省においては、引き続き原因究明のための調査を実施しておりますが、MOCAによる健康障害を防止するため、下記1のとおり法令等の改めての徹底、下記2及び3のとおり緊急の措置の実施を要請したく、貴会の会員事業場等に対して周知いただきますようお願いします。

1 特化則に基づくばく露防止措置等の徹底(現在取扱事業場)

MOCAの製造・取扱いを現在行っている事業場においては、特化則に基づくばく露防止措置が徹底されているか確認すること。

その際、設備的な対策のみならず、関係労働者の作業方法や保護具の着用・管理等についても確認を行っていただきたいこと。また、経気道ばく露に限らず、保護手袋の着用や休憩室への入室の際の付着物の除去状況など、経皮ばく露や経口ばく露のおそれがないかについても点検いただきたいこと。

2 労働者等に対する膀胱がんに関する検査の実施等(現在及び過去取扱事業場)

現在、専門家からなる検討会において特殊健康診断の項目の見直しのための検討を行っており、MOCAについてもその結論を踏まえて必要な措置を講じる予定としているが、それまでの間、緊急の措置として、現にこの物質を取り扱っている労働者及び過去に取り扱ったことのある労働者であって現在も雇用している者に対して、できる限り特化則にある膀胱がんに関する健康診断項目(別紙2)の検査を実施することが望ましいこと。また、この物質を取り扱ったことのある労働者であって既に退職している者に対して、同検査の受検を勧奨することが望ましいこと。これらの労働者及び退職者に対する膀胱がんに関する検査の結果については、所轄の労働局又は労働基準監督署にご報告いただきたいこと。

なお、検査結果の報告の内容については、所轄の労働局又は労働基準監督署にご確認ください。

3 特化則に基づく記録の保存期間の延長(現在及び過去取扱事業場)

本通知の冒頭で述べた事案において、現時点までの調査では、膀胱がんが発見されたのが、MOCAへのばく露から30年以上経過していると考えられる者も確認された。

原因は引き続き調査中であるが、MOCAの製造・取扱いを現在又は過去に行ったことのある事業場においては、特化則に基づくMOCAに関する作業の記録、作業環境測定の評価の記録、特殊健康診断の結果の記録について、当面の間、法令上の保存期間(30年間)を経過後も、引き続き、保存していただきたいこと。

(別記)

一般社団法人日本化学工業協会

化成品工業協会

日本ウレタン建材工業会

ウレタン原料工業会

[別紙1]

化成品等を製造する事業場における膀胱がん発症事案について

1 事業場の概要

業種:化学工業(化成品等の製造)

労働者数:約200人

2 事案概要

○ 平成27年12月に明らかになった福井県の膀胱がん事案を契機として、オルト―トルイジン等を取り扱ったことのある全国の事業場に対して、労働局・労働基準監督署による調査を行ったところ、オルト―トルイジンを取り扱ったことのある事業場において、労働者1名、退職者6名、計7名が膀胱がんの病歴又は所見が明らかになった。

(※)平成28年3月4日付け報道発表資料の別添p.3の「C事業場」

○ 膀胱がんの病歴又は所見が明らかになった労働者・退職者とも、全て男性、発症年齢は30代から60代。

○ 独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所において、調査を行ったところ、発症者7名のうち5名について、3,3’―ジクロロ―4,4’―ジアミノジフェニルメタン(MOCA)(参考資料参照)の取扱歴があるとの情報を得た。なお、これらの中にはオルト―トルイジンの取扱歴のない者もいる。

○ なお、当該事業場では、平成22年以降、MOCAを取り扱う作業はなく、関係設備を廃止されているため、関係者からのヒアリングや当時の書類の確認により調査を行った。

○ 厚生労働省としては、引き続き、当該事業場について、原因等の究明作業を行う。

(別紙2)

MOCAに係る膀胱がんに関する検査項目

1 対象者に共通に実施する項目

① 業務の経歴の調査(※)

② 血尿、頻尿、排尿痛等の他覚症状又は自覚症状の既往歴の有無の検査

③ 血尿、頻尿、排尿痛等の他覚症状又は自覚症状の有無の検査

④ 尿沈検鏡(医師が必要と認める場合は、尿沈のパパニコラ法による細胞診)の検査

2 上記1の検査の結果、医師が必要と認めた場合に実施する項目

① 作業条件の調査(※)

② 医師が必要と認める場合は、膀胱ぼうこう鏡検査又は腎撮影検査

(注) 上記のうち(※)の項目については、MOCAに関する特化則の特殊健康診断について調査を行っている場合には、それを確認することで足りる。

[参考資料]

化学物質「MOCA」について

○ 3,3’―ジクロロ―4,4’―ジアミノジフェニルメタン

(略称 MOCA、MBOCA)

・別名 「4,4’―メチレンビス(2―クロロアニリン)」、「ビス(4―アミノ―3―クロロフェニル)メタン」 など

・CAS番号 101―14―4

・外観 無色の結晶又は淡茶色のペレット

・融点 110℃

・沸点 378.9℃

・用途 防水材、床材や全天候型舗装材などに利用されるウレタン樹脂の硬化剤

・労働安全衛生法令の適用

特定化学物質障害予防規則の特定第2類物質、特別管理物質(1976年~)

労働安全衛生法のラベル表示対象物質、SDS交付対象物質

管理濃度 0.005mg/m3(1995年~)

・有害性情報

IARC(国際がん研究機関) グループ1(ヒトに対して発がん性がある)(2010年)

日本産業衛生学会 発がん分類2A(ヒトに対しておそらく発がん性がある)

許容濃度 0.005mg/m3(1993年) 経皮吸収による健康障害

ACGIH(米国産業衛生専門家会議) 発がん性区分 A2(疑わしいヒト発がん因子)

TLV―TWA 0.01ppm=0.11mg/m3(1991年) 経皮吸収による健康障害

※ 特定化学物質障害予防規則(特化則)では、規制対象物質を①製造設備の密閉化、作業規程の作成などの措置を条件とした製造の許可を必要とする「第1類物質」、②製造・取扱設備の密閉化または局所排気装置等の設置などの措置を必要とする「第2類物質」、③主として大量漏えい事故の防止措置を必要とする「第3類物質」に分類して、健康障害の防止措置を規定している。「特定第2類物質」は「第2類物質」の細分類であり、当該物質の製造設備を密閉式とする等の必要がある。

また、第1類物質、第2類物質のうち、職業がんなど労働者に重度の健康障害を生じるおそれがあり、その発症までに長い期間がかかるものについては、「特別管理物質」として、作業記録、健康診断の結果を30年間保存すること等を義務付けている。