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○平成28年の職場における熱中症予防対策の重点的な実施について

(平成28年2月29日)

(基安発0229第1号)

(都道府県労働局長あて厚生労働省労働基準局安全衛生部長通知)

(公印省略)

職場における熱中症予防対策については、平成21年6月19日付け基発第0619001号「職場における熱中症の予防について」(別紙1。以下「基本対策」という。)により示しているところであるが、平成27年の職場における熱中症による死亡者数(平成28年1月末時点速報値)は32人と例年より多く、特に建設業及び建設現場に付随して行う警備業(以下「建設業等」という。)を合わせた死亡者数は19人と、猛暑であった平成22年の死亡者数と同数である。

このため、平成28年は建設業等を熱中症予防対策の重点業種とすることとし、基本対策のうち、屋外作業を中心に特に留意すべき内容を下記のとおりまとめたので、関係事業場等に対する的確な指導等に遺漏なきを期されたい。また、建設業等以外の業種の事業場についても、管内状況に応じ、必要な指導等を図られたい。

なお、職場における熱中症による死傷災害の発生状況(平成28年1月末時点速報値)について、別紙2のとおり取りまとめたので、業務の参考とされたい。

また、関係団体に対しては別添のとおり要請を行ったので、了知されたい。

1 「第1 WBGT値(暑さ指数)の活用」関係

(1) 「1 WBGT値等」関係

WBGT測定器の設置以外にWBGT値を求める方法として、環境省熱中症予防情報サイトで例年5月から10月頃までに公表されているWBGT予測値・実況値を確認する方法があること。

また、当該サイトで、WBGT値の公表と併せて提供される個人向けメールサービス(無料)も、必要に応じて活用すること。

(2) 「2 WBGT値に係る留意事項」関係

黒球が付いていない測定器は、特に屋外でのWBGT値の測定精度が低いことが確認されているため、屋外で測定する場合には、黒球付きのWBGT測定器を使用すること。

また、直射日光が当たる場所、地面に敷かれた鉄板やコンクリート等からの照り返しがある場所、通風が悪い場所などでは、環境省熱中症予防情報サイトで公表されるWBGT予測値・実況値より実際のWBGT値が高くなるおそれがあるので、そのような作業場所で当該サイトの値を活用する場合には、安全側に評価するよう配慮すること。

なお、建設業労働災害防止協会において、建設現場における熱中症の危険度を簡単に判定できるフロー図が作成されており、同協会のホームページへの掲載が予定されているので、参考にすること。

(3) 「3 WBGT基準値に基づく評価等」関係

WBGT値の評価に当たっては、熱に順化している人より熱に順化していない人のWBGT基準値が低いことに留意すること。

2 「第2 熱中症予防対策」関係

(1) 「1 作業環境管理」関係

「(2) 休憩場所の整備等」関係

冷房等を備えた休憩場所を独自に設置できない場合であって、現場管理者等が設置する休憩場所を借用することとした場合は、その旨を労働者に明確に伝達し、必要な休憩が確実に取れるよう配慮すること。また、休憩場所を提供する現場管理者等においても、所属労働者に対し、休憩場所の利用を認めている旨を伝達するなど、休憩を取りやすい環境作りに配意することが望ましいこと。

(2) 「2 作業管理」関係

①「(1) 作業時間の短縮等」

WBGT基準値を大幅に超える場合は、原則作業を行わせないこと。

WBGT基準値を大幅に超える作業場所で、やむを得ず作業を行わせる場合には、単独作業を控え、休憩時間を長めに設定するとともに、作業中は労働者の心拍数、体温及び尿の回数・色等の身体状況、水分及び塩分の摂取状況を頻繁に確認すること。

②「(2) 熱への順化関係」関係

熱への順化の有無が、熱中症の発生リスクに大きく影響することから、高温多湿作業場所において労働者に作業を行わせる場合には、当該労働者の熱への順化の有無を確認すること。

③「(3) 水分及び塩分の摂取」関係

尿の回数が少ない又は尿の色が普段より濃い状態は、体内の水分が不足している状態である可能性があること。

水分及び塩分の摂取については、労働者に呼びかけることに加え、労働者の摂取状況を確認する必要があること。また、便所に行きにくいことを理由として労働者が水分の摂取を控えることがないよう、労働者が便所に行きやすい職場環境の形成に努めること。

(3) 「3 健康管理」関係

①「(1) 健康診断結果に基づく対応等」関係

高温多湿作業場所において作業を行っている、又は予定している場合には、その旨を意見聴取する医師等に伝え、熱中症の発症に影響を与えるおそれのある疾患を有する労働者への配慮事項等についても意見を求めることが望ましいこと。

②「(3) 労働者の健康状態の確認」関係

労働者が体調不良を訴えていなかったにもかかわらず、死亡に至った事例が確認されていることから、労働者の健康状態は、労働者の申出だけでなく、発汗の程度、行動の異常等についても確認すること。

③「(4) 身体の状況の確認」関係

高温多湿作業場所での作業が原因で、帰宅途上又は帰宅後に、死亡に至った事例が確認されていることから、労働者に高温多湿作業場所で作業を行わせた場合には、作業終了時に当該労働者の体温を測定し、必要に応じて、水分摂取や濡れタオルの使用等により体温を下げるように努め、平熱近くまで下がることが確認できるまでは、一人にしないことが望ましいこと。なお、作業終了時の体温が平熱より相当程度高かった場合には、病院等に搬送することが望ましいこと。

(4) 「4 労働衛生教育」関係

労働者に対する労働衛生教育が確実に実施されるよう、高温多湿作業場所における作業を管理する者に対しては、別表1に基づく労働衛生教育を行うこと。なお、事業者が自ら当該教育を行うことが困難な場合には、関係団体が行う教育を活用すること。

また、労働者に対する労働衛生教育は継続的に行うことが望ましいことから、雇入れ時又は新規入場時教育等の中で別表2に示す内容について教育するとともに、日々の朝礼等の際にも、繰り返し教育することが望ましいこと。

なお、教育用教材としては、厚生労働省ホームページに公表されている「職場における熱中症予防対策マニュアル」及び熱中症予防対策について点検すべき事項をまとめたリーフレット等、環境省熱中症予防情報サイトに公表されている熱中症に係る動画コンテンツ及び救急措置等の要点が記載された携帯カード「熱中症予防カード」などが活用できること。

(5) 「5 救急処置」関係

①「(1) 緊急連絡網の作成及び周知」関係

身体症状が急激に悪化し、死亡に至った事例が確認されていることから、あらかじめ、緊急時に直ちに熱中症に対応できる近隣の病院、診療所の情報を把握しておくこと。

②「(2) 救急措置」関係

救急措置が円滑に実施されるよう、あらかじめ、救急措置の手順を作成し、関係者に周知すること。

身体を冷やす方法には、うちわ、扇風機等の風を当てること、脇の下、太腿の付け根等を保冷剤で冷やすこと等があること。

基本対策の表3の「熱中症の症状と分類」において、Ⅱ度に分類される症状が現れた場合には、病院等に搬送することが望ましく、Ⅲ度に分類される症状が現れた場合には、直ちに救急隊を要請すること。

症状が急激に悪化する場合に備え、熱中症を疑う症状がなくなる、又は病院等に搬送するまでは、可能な限り、当該労働者を一人にしないこと。

[別表1]

作業を管理する者向けの労働衛生教育

事項

範囲

時間

(1)

熱中症の症状

・熱中症の概要

・職場における熱中症の特徴

・体温の調節

・体液の調節

・熱中症が発生する仕組みと症状

30分

(2)

熱中症の予防方法

・WBGT値(意味、基準値に基づく評価)

・作業環境管理(WBGT値の低減、休憩場所の整備等)

・作業管理(作業時間の短縮、熱への順化、水分及び塩分の摂取、服装、作業中の巡視等)

・健康管理(健康診断結果に基づく対応、日常の健康管理、労働者の健康状態の確認、身体の状況の確認等)

・労働衛生教育(労働者に対する教育の重要性、教育内容及び教育方法)

・熱中症予防対策事例

150分

(3)

緊急時の救急処置

・緊急連絡網の作成及び周知

・緊急時の救急措置

15分

(4)

熱中症の事例

・熱中症の災害事例

15分

[別表2]

労働者向けの労働衛生教育(雇入れ時又は新規入場時)

事項

範囲

(1)

熱中症の症状

・熱中症の概要

・職場における熱中症の特徴

・体温の調節

・体液の調節

・熱中症が発生する仕組みと症状

(2)

熱中症の予防方法

・WBGT値の意味

・現場での熱中症予防活動(熱への順化、水分及び塩分の摂取、服装、日常の健康管理等)

(3)

緊急時の救急処置

・緊急時の救急措置

(4)

熱中症の事例

・熱中症の災害事例

※ 下線部は日常教育事項

[参考]

1 厚生労働省ホームページ(職場における労働衛生対策)

PCサイト:http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/anzeneisei02.html

2 環境省熱中症予防情報サイト

PCサイト:http://www.wbgt.env.go.jp

スマートフォンサイト:http://www.wbgt.env.go.jp/sp/

携帯サイト:http://www.wbgt.env.go.jp/kt

3 気象庁ホームページ

(1) 高温注意情報

翌日又は当日の最高気温が概ね35℃以上になることが予想される場合に、以下のサイトで発表。

PCサイト:http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/kurashi/netsu.html

(2) 高温に関する気象情報

向こう1週間で最高気温が概ね35℃以上になることが予想される場合に、数日前から以下のサイトで発表。

PCサイト:http://www.jma.go.jp/jp/kishojoho/

(3) 高温に関する異常天候早期警戒情報

5日後から14日後にかけての7日間平均気温がかなり高くなることが予想される場合に、毎週月・木曜日に以下のサイトで発表。

PCサイト:http://www.jma.go.jp/jp/soukei/

(4) 1ヶ月予報及び3ヶ月予報

毎週木曜日に1か月予報を、毎月25日頃に翌月以降の3か月予報を以下のサイトで発表。

PCサイト:http://www.jma.go.jp/jp/longfcst/

(5) 気候系監視年報

過去の気候系の特徴をまとめ、以下のサイトで発表。

PCサイト:http://www.data.jma.go.jp/gmd/cpd/diag/nenpo/index.html

[別紙1]

○職場における熱中症の予防について

(平成21年6月19日)

(基発第0619001号)

(都道府県労働局長あて厚生労働省労働基準局長通知)

(公印省略)

職場における熱中症の予防については、平成8年5月21日付け基発第329号「熱中症の予防について」及び平成17年7月29日付け基安発第0729001号「熱中症の予防対策におけるWBGTの活用について」により対策を推進しているが、熱中症による死亡者数が年間約20名を数え、また、休業4日以上の業務上疾病者数が年間約300名にも上っているところである。

さらに、糖尿病、高血圧症等が一般に熱中症の発症リスクを高める中、健康診断等に基づく措置の一層の徹底が必要な状況であること等から、下記のとおり、職場における熱中症の予防に関する事業者の実施事項を示すこととしたところである。

各労働局においては、関係事業場等において、下記事項が的確に実施されるよう指導等に遺憾なきを期されたい。

また、関係業界団体等に対しては、本職から別添のとおり要請を行ったので、了知されたい。

なお、本通達をもって、平成8年5月21日付け基発第329号通達は廃止する。

第1 WBGT値(暑さ指数)の活用

1 WBGT値等

WBGT(Wet-Bulb Globe Temperature:湿球黒球温度(単位:℃))の値は、暑熱環境による熱ストレスの評価を行う暑さ指数(式①又は②により算出)であり、作業場所に、WBGT測定器を設置するなどにより、WBGT値を求めることが望ましいこと。特に、WBGT予報値、熱中症情報等により、事前にWBGT値が表1―1のWBGT基準値(以下単に「WBGT基準値」という。)を超えることが予想される場合は、WBGT値を作業中に測定するよう努めること。

ア 屋内の場合及び屋外で太陽照射のない場合

WBGT値=0.7×自然湿球温度+0.3×黒球温度 式①

イ 屋外で太陽照射のある場合

WBGT値=0.7×自然湿球温度+0.2×黒球温度+0.1×乾球温度 式②

また、WBGT値の測定が行われていない場合においても、気温(乾球温度)及び相対湿度を熱ストレスの評価を行う際の参考にすること。

2 WBGT値に係る留意事項

表1―2に掲げる衣類を着用して作業を行う場合にあっては、式①又は②により算出されたWBGT値に、それぞれ表1―2に掲げる補正値を加える必要があること。

また、WBGT基準値は、既往症がない健康な成年男性を基準に、ばく露されてもほとんどの者が有害な影響を受けないレベルに相当するものとして設定されていることに留意すること。

3 WBGT基準値に基づく評価等

WBGT値が、WBGT基準値を超え、又は超えるおそれのある場合には、冷房等により当該作業場所のWBGT値の低減を図ること、身体作業強度(代謝率レベル)の低い作業に変更すること、WBGT基準値より低いWBGT値である作業場所での作業に変更することなどの熱中症予防対策を作業の状況等に応じて実施するよう努めること。それでもなお、WBGT基準値を超え、又は超えるおそれのある場合には、第2の熱中症予防対策の徹底を図り、熱中症の発生リスクの低減を図ること。ただし、WBGT基準値を超えない場合であっても、WBGT基準値が前提としている条件に当てはまらないとき又は補正値を考慮したWBGT基準値を算出することができないときは、実際の条件により、WBGT基準値を超え、又は超えるおそれのある場合と同様に、第2の熱中症予防対策の徹底を図らなければならない場合があることに留意すること。

上記のほか、熱中症を発症するリスクがあるときは、必要に応じて第2の熱中症予防対策を実施することが望ましいこと。

第2 熱中症予防対策

1 作業環境管理

(1) WBGT値の低減等

次に掲げる措置を講ずることなどにより当該作業場所のWBGT値の低減に努めること。

ア WBGT基準値を超え、又は超えるおそれのある作業場所(以下単に「高温多湿作業場所」という。)においては、発熱体と労働者の間に熱を遮ることのできる遮へい物等を設けること。

イ 屋外の高温多湿作業場所においては、直射日光並びに周囲の壁面及び地面からの照り返しを遮ることができる簡易な屋根等を設けること。

ウ 高温多湿作業場所に適度な通風又は冷房を行うための設備を設けること。また、屋内の高温多湿作業場所における当該設備は、除湿機能があることが望ましいこと。

なお、通風が悪い高温多湿作業場所での散水については、散水後の湿度の上昇に注意すること。

(2) 休憩場所の整備等

労働者の休憩場所の整備等について、次に掲げる措置を講ずるよう努めること。

ア 高温多湿作業場所の近隣に冷房を備えた休憩場所又は日陰等の涼しい休憩場所を設けること。また、当該休憩場所は臥床することのできる広さを確保すること。

イ 高温多湿作業場所又はその近隣に氷、冷たいおしぼり、水風呂、シャワー等の身体を適度に冷やすことのできる物品及び設備を設けること。

ウ 水分及び塩分の補給を定期的かつ容易に行えることができるよう高温多湿作業場所に飲料水の備付け等を行うこと。

2 作業管理

(1) 作業時間の短縮等

作業の休止時間及び休憩時間を確保し、高温多湿作業場所の作業を連続して行う時間を短縮すること、身体作業強度(代謝率レベル)が高い作業を避けること、作業場所を変更することなどの熱中症予防対策を、作業の状況等に応じて実施するよう努めること。

(2) 熱への順化

高温多湿作業場所において労働者を作業に従事させる場合には、熱への順化(熱に慣れ当該環境に適応すること)の有無が、熱中症の発生リスクに大きく影響することを踏まえて、計画的に、熱への順化期間を設けることが望ましいこと。特に、梅雨から夏季になる時期において、気温等が急に上昇した高温多湿作業場所で作業を行う場合、新たに当該作業を行う場合、また、長期間、当該作業場所での作業から離れ、その後再び当該作業を行う場合等においては、通常、労働者は熱に順化していないことに留意が必要であること。

(3) 水分及び塩分の摂取

自覚症状以上に脱水状態が進行していることがあること等に留意の上、自覚症状の有無にかかわらず、水分及び塩分の作業前後の摂取及び作業中の定期的な摂取を指導するとともに、労働者の水分及び塩分の摂取を確認するための表の作成、作業中の巡視における確認などにより、定期的な水分及び塩分の摂取の徹底を図ること。特に、加齢や疾患によって脱水状態であっても自覚症状に乏しい場合があることに留意すること。

なお、塩分等の摂取が制限される疾患を有する労働者については、主治医、産業医等に相談させること。

(4) 服装等

熱を吸収し、又は保熱しやすい服装は避け、透湿性及び通気性の良い服装を着用させること。また、これらの機能を持つ身体を冷却する服の着用も望ましいこと。

なお、直射日光下では通気性の良い帽子等を着用させること。

(5) 作業中の巡視

定期的な水分及び塩分の摂取に係る確認を行うとともに、労働者の健康状態を確認し、熱中症を疑わせる兆候が表れた場合において速やかな作業の中断その他必要な措置を講ずること等を目的に、高温多湿作業場所の作業中は巡視を頻繁に行うこと。

3 健康管理

(1) 健康診断結果に基づく対応等

労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号)第43条、第44条及び第45条に基づく健康診断の項目には、糖尿病、高血圧症、心疾患、腎不全等の熱中症の発症に影響を与えるおそれのある疾患と密接に関係した血糖検査、尿検査、血圧の測定、既往歴の調査等が含まれていること及び労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第66条の4及び第66条の5に基づき、異常所見があると診断された場合には医師等の意見を聴き、当該意見を勘案して、必要があると認めるときは、事業者は、就業場所の変更、作業の転換等の適切な措置を講ずることが義務付けられていることに留意の上、これらの徹底を図ること。

また、熱中症の発症に影響を与えるおそれのある疾患の治療中等の労働者については、事業者は、高温多湿作業場所における作業の可否、当該作業を行う場合の留意事項等について産業医、主治医等の意見を勘案して、必要に応じて、就業場所の変更、作業の転換等の適切な措置を講ずること。

(2) 日常の健康管理等

高温多湿作業場所で作業を行う労働者については、睡眠不足、体調不良、前日等の飲酒、朝食の未摂取等が熱中症の発症に影響を与えるおそれがあることに留意の上、日常の健康管理について指導を行うとともに、必要に応じ健康相談を行うこと。これを含め、労働安全衛生法第69条に基づき健康の保持増進のための措置に取り組むよう努めること。

さらに、熱中症の発症に影響を与えるおそれのある疾患の治療中等である場合は、熱中症を予防するための対応が必要であることを労働者に対して教示するとともに、労働者が主治医等から熱中症を予防するための対応が必要とされた場合又は労働者が熱中症を予防するための対応が必要となる可能性があると判断した場合は、事業者に申し出るよう指導すること。

(3) 労働者の健康状態の確認

作業開始前に労働者の健康状態を確認すること。

作業中は巡視を頻繁に行い、声をかけるなどして労働者の健康状態を確認すること。

また、複数の労働者による作業においては、労働者にお互いの健康状態について留意させること。

(4) 身体の状況の確認

休憩場所等に体温計、体重計等を備え、必要に応じて、体温、体重その他の身体の状況を確認できるようにすることが望ましいこと。

4 労働衛生教育

労働者を高温多湿作業場所において作業に従事させる場合には、適切な作業管理、労働者自身による健康管理等が重要であることから、作業を管理する者及び労働者に対して、あらかじめ次の事項について労働衛生教育を行うこと。

(1) 熱中症の症状

(2) 熱中症の予防方法

(3) 緊急時の救急処置

(4) 熱中症の事例

なお、(2)の事項には、1から4までの熱中症予防対策が含まれること。

5 救急処置

(1) 緊急連絡網の作成及び周知

労働者を高温多湿作業場所において作業に従事させる場合には、労働者の熱中症の発症に備え、あらかじめ、病院、診療所等の所在地及び連絡先を把握するとともに、緊急連絡網を作成し、関係者に周知すること。

(2) 救急措置

熱中症を疑わせる症状が現われた場合は、救急処置として涼しい場所で身体を冷し、水分及び塩分の摂取等を行うこと。また、必要に応じ、救急隊を要請し、又は医師の診察を受けさせること。

(解説)

本解説は、職場における熱中症予防対策を推進する上での留意事項を解説したものである。

1 熱中症について

熱中症は、高温多湿な環境下において、体内の水分及び塩分(ナトリウム等)のバランスが崩れたり、体内の調整機能が破綻するなどして、発症する障害の総称であり、めまい・失神、筋肉痛・筋肉の硬直、大量の発汗、頭痛・気分の不快・吐き気・嘔吐・倦怠感・虚脱感、意識障害・痙攣・手足の運動障害、高体温等の症状が現れる。

2 WBGT値(暑さ指数)の活用について

(1) WBGT値の測定方法等は、平成17年7月29日付け基安発第0729001号「熱中症の予防対策におけるWBGTの活用について」によること。

(2) WBGT値の測定が行われていない場合には、表2の「WBGT値と気温、相対湿度との関係」などが熱ストレス評価を行う際の参考になること。

3 作業管理について

(1) 熱への順化の例としては、次に掲げる事項等があること。

ア 作業を行う者が順化していない状態から7日以上かけて熱へのばく露時間を次第に長くすること。

イ 熱へのばく露が中断すると4日後には順化の顕著な喪失が始まり3~4週間後には完全に失われること。

(2) 作業中における定期的な水分及び塩分の摂取については、身体作業強度等に応じて必要な摂取量等は異なるが、作業場所のWBGT値がWBGT基準値を超える場合には、少なくとも、0.1~0.2%の食塩水、ナトリウム40~80mg/100mlのスポーツドリンク又は経口補水液等を、20~30分ごとにカップ1~2杯程度を摂取することが望ましいこと。

4 健康管理について

(1) 糖尿病については、血糖値が高い場合に尿に糖が漏れ出すことにより尿で失う水分が増加し脱水状態を生じやすくなること、高血圧症及び心疾患については、水分及び塩分を尿中に出す作用のある薬を内服する場合に脱水状態を生じやすくなること、腎不全については、塩分摂取を制限される場合に塩分不足になりやすいこと、精神・神経関係の疾患については、自律神経に影響のある薬(パーキンソン病治療薬、抗てんかん薬、抗うつ薬、抗不安薬、睡眠薬等)を内服する場合に発汗及び体温調整が阻害されやすくなること、広範囲の皮膚疾患については、発汗が不十分となる場合があること等から、これらの疾患等については熱中症の発症に影響を与えるおそれがあること。

(2) 感冒等による発熱、下痢等による脱水等は、熱中症の発症に影響を与えるおそれがあること。また、皮下脂肪の厚い者も熱中症の発症に影響を与えるおそれがあることから、留意が必要であること。

(3) 心機能が正常な労働者については1分間の心拍数が数分間継続して180から年齢を引いた値を超える場合、作業強度のピークの1分後の心拍数が120を超える場合、休憩中等の体温が作業開始前の体温に戻らない場合、作業開始前より1.5%を超えて体重が減少している場合、急激で激しい疲労感、悪心、めまい、意識喪失等の症状が発現した場合等は、熱へのばく露を止めることが必要とされている兆候であること。

5 救急処置について

熱中症を疑わせる具体的な症状については表3の「熱中症の症状と分類」を、具体的な救急処置については図の「熱中症の救急処置(現場での応急処置)」を参考にすること。

表1―1 身体作業強度等に応じたWBGT基準値

区分

身体作業強度(代謝率レベル)の例

WBGT基準値

熱に順化している人 ℃

熱に順化していない人 ℃

0 安静

安静

33

32

1 低代謝率

楽な座位;軽い手作業(書く、タイピング、描く、縫う、簿記);手及び腕の作業(小さいベンチツール、点検、組立てや軽い材料の区分け);腕と脚の作業(普通の状態での乗り物の運転、足のスイッチやペダルの操作)。

立位;ドリル(小さい部分);フライス盤(小さい部分);コイル巻き;小さい電気子巻き;小さい力の道具の機械;ちょっとした歩き(速さ3.5km/h)

30

29

2 中程度代謝率

継続した頭と腕の作業(くぎ打ち、盛土);腕と脚の作業(トラックのオフロード操縦、トラクター及び建設車両);腕と胴体の作業(空気ハンマーの作業、トラクター組立て、しっくい塗り、中くらいの重さの材料を断続的に持つ作業、草むしり、草堀り、果物や野菜を摘む);軽量な荷車や手押し車を押したり引いたりする;3.5~5.5km/hの速さで歩く;鍛造

28

26

3 高代謝率

強度の腕と胴体の作業;重い材料を運ぶ;シャベルを使う;大ハンマー作業;のこぎりをひく;硬い木にかんなをかけたりのみで彫る;草刈り;掘る;5.5~7km/hの速さで歩く。重い荷物の荷車や手押し車を押したり引いたりする;鋳物を削る;コンクリートブロックを積む。

気流を感じないとき

気流を感じるとき

気流を感じないとき

気流を感じるとき

25

26

22

23

4 極高代謝率

最大速度の速さでとても激しい活動;おのを振るう;激しくシャベルを使ったり掘ったりする;階段を登る、走る、7km/hより速く歩く。

23

25

18

20

注1 日本工業規格 Z 8504(人間工学―WBGT(湿球黒球温度)指数に基づく作業者の熱ストレスの評価―暑熱環境)附属書A「WBGT熱ストレス指数の基準値表」を基に、同表に示す代謝率レベルを具体的な例に置き換えて作成したもの。

注2 熱に順化していない人とは、「作業する前の週に毎日熱にばく露されていなかった人」をいう。

表1―2 衣類の組合せによりWBGT値に加えるべき補正値

衣類の種類

WBGT値に加えるべき補正値(℃)

作業服(長袖シャツとズボン)

0

布(織物)製つなぎ服

0

二層の布(織物)製服

3

SMSポリプロピレン製つなぎ服

0.5

ポリオレフィン布製つなぎ服

1

限定用途の蒸気不浸透性つなぎ服

11

注 補正値は、一般にレベルAと呼ばれる完全な不浸透性防護服に使用してはならない。また、重ね着の場合に、個々の補正値を加えて全体の補正値とすることはできない。

表2 WBGT値と気温、相対湿度との関係

(日本生気象学会「日常生活における熱中症予防指針」Ver.1 2008.4から)

注 危険、厳重警戒等の分類は、日常生活の上での基準であって、労働の場における熱中症予防の基準には当てはまらないことに注意が必要であること。

図:熱中症の救急処置(現場での応急処置)

※ 上記以外にも体調が悪化するなどの場合には、必要に応じて、救急隊を要請するなどにより、医療機関へ搬送することが必要であること。

表3 熱中症の症状と分類

分類

症状

重症度

Ⅰ度

めまい・失神

(「立ちくらみ」という状態で、脳への血流が瞬間的に不十分になったことを示し、“熱失神”と呼ぶこともある。)

筋肉痛・筋肉の硬直

(筋肉の「こむら返り」のことで、その部分の痛みを伴う。発汗に伴う塩分(ナトリウム等)の欠乏により生じる。これを“熱痙攣”と呼ぶこともある。)

大量の発汗

Ⅱ度

頭痛・気分の不快・吐き気・嘔吐・倦怠感・虚脱感

(体がぐったりする、力が入らないなどがあり、従来から“熱疲労”といわれていた状態である。)

Ⅲ度

意識障害・痙攣・手足の運動障害

(呼びかけや刺激への反応がおかしい、体がガクガクと引きつけがある、真直ぐに走れない・歩けないなど。)

高体温

(体に触ると熱いという感触がある。従来から“熱射病”や“重度の日射病”と言われていたものがこれに相当する。)

[別紙2]

職場における熱中症による死傷災害の発生状況

(平成28年1月末時点速報値)

1 熱中症による死傷者数の推移(平成18~27年分)

過去10年間(平成18~27年)の職場での熱中症による死亡者及び休業4日以上の業務上疾病者の数(以下合わせて「死傷者数」という。)をみると、平成22年に656人と最多であり、その後も400~500人台で推移している。平成27年の死亡者数は32人と過去10年間で2番目に多くなっている。

※ 平成27年の数は、平成28年1月末時点の速報値であり、今後、修正されることがあり得る。

2 業種別発生状況(平成22~27年)

猛暑であった平成22年以降の業種別の熱中症の死傷者数をみると、建設業が最も多く、次いで製造業で多く発生しており、全体の約5割がこれらの業種で発生している。

平成27年の死傷者数及び死亡者数は平成22年より減少しているが、建設業及び警備業を合わせた死亡者数は平成22年と同数である。

熱中症による死傷者数の業種別の状況(平成22~27年)

(人)

業種

建設業

警備業

製造業

運送業

商業

清掃・と畜業

農業

林業

その他

平成22年

183

44

164

85

32

44

17

4

83

656

(17)

(2)

(9)

(2)

(3)

(2)

(6)

(1)

(5)

(47)

平成23年

139

17

70

56

25

27

10

6

72

422

(7)

(3)

(0)

(0)

(2)

(1)

(2)

(2)

(1)

(18)

平成24年

143

27

87

43

35

28

7

6

64

440

(11)

(2)

(4)

(0)

(0)

(1)

(0)

(2)

(1)

(21)

平成25年

151

53

96

68

31

28

8

8

87

530

(9)

(2)

(7)

(1)

(3)

(2)

(1)

(1)

(4)

(30)

平成26年

144

20

84

56

28

16

13

7

55

423

(6)

(0)

(1)

(2)

(0)

(0)

(1)

(0)

(2)

(12)

平成27年

111

40

86

64

50

23

12

8

69

463

(速報値)

(12)

(7)

(5)

(2)

(0)

(2)

(1)

(0)

(3)

(32)

871

201

587

372

201

166

67

39

430

2,934

(62)

(16)

(26)

(7)

(8)

(8)

(11)

(6)

(16)

(160)