添付一覧
○レーザ医療機器の承認申請の取扱いについて
(平成28年6月29日)
(薬生機審発0629第4号)
(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬・生活衛生局医療機器審査管理課長通知)
(公印省略)
レーザ手術装置の承認申請の取扱いについては、平成20年11月28日付け薬食機発第1128001号厚生労働省医薬食品局審査管理課医療機器審査管理室長通知「レーザ手術装置の承認申請に際し添付すべき臨床試験の試験成績に関する資料の取扱いについて」(以下「臨床不要通知」という。)により取り扱ってきたところですが、今般、既に承認されたレーザ手術装置の使用実態等を踏まえ、下記により取り扱うこととしたので、御了知の上、貴管下関係業者、関係団体等に対して周知いただきますようご配慮願います。
また、本通知の発出に伴い、臨床不要通知は廃止します。
なお、本通知の写しを各地方厚生局長、独立行政法人医薬品医療機器総合機構理事長、一般社団法人日本医療機器産業連合会会長、一般社団法人米国医療機器・IVD工業会会長及び欧州ビジネス協会医療機器委員会委員長宛てに送付することとしています。
記
1 趣旨
本通知は、レーザ手術装置の使用実態等を踏まえ、臨床不要通知の対象とされた「切開、止血、凝固及び蒸散」を使用目的又は効果とする手術用機器(レーザメス)に限定せず、レーザ光と生体との相互作用により効果をもたらす医療機器における評価指針及び臨床試験の試験成績に関する資料を必要としない範囲等についてとりまとめたものである。
2 適用範囲
レーザ光と生体との相互作用により効果をもたらす医療機器(眼科及び光線力学的治療に用いるものを除く。以下「レーザ医療機器」という。)を対象とする。なお、レーザ光ではないが、限られた波長帯の光と生体との相互作用により効果をもたらす医療機器についても本通知を準用して差し支えない。
3 定義
本通知で用いられる用語の定義は以下によるものとする。
(1) レーザ光
誘導放出を介して可干渉性に光を増幅する装置から出射された光をいう。
(2) 蒸散
レーザ光の連続的又は間欠的な照射により、生体組織の体積を減少させる効果をいう。
(3) 凝固
レーザ光を生体組織に照射することにより、被照射部に発生する熱によって生体組織を不可逆的に熱変性させる効果をいう。
(4) 切開
連続的な線状の蒸散によって、組織の連続性を断つ処置をいう。
(5) 切除
切開により組織を取り除く処置をいう。
(6) 止血
損傷した血管の断端、孔、血液等を凝固することで血管を閉塞し、出血を止める処置をいう。
(7) 外科的な処置
生体組織を蒸散又は凝固させることによる、切開、止血等の組織損傷を伴う処置をいう。
(8) 組織選択性
ヘモグロビン、メラニン、刺青の色素等に対して選択的に吸収される光の波長による性質をいう。
(9) 表在性色素病変
扁平母斑、老人性色素斑、雀卵斑等の主として表皮内に存在するメラニン色素に起因する病変をいう。
(10) 深在性色素病変
太田母斑、異所性蒙古斑、外傷性色素沈着症等の主として真皮内に存在するメラニン色素に起因する病変をいう。
(11) 血管病変
単純性血管腫、毛細血管拡張症、苺状血管腫等の血管に起因する病変をいう。
4 承認申請の取扱い
(1) 全てのレーザ医療機器について、別添1を参考に性能及び安全性に関する評価を行うこと。
(2) 使用目的は、別添2を参考に開発の意図を適切に反映した内容を記載すること。
(3) 別添2の1.の事項を使用目的とする場合は、別添3を参考に評価を行うこと。
(4) 別添2の2.の事項を使用目的とする場合は、別添4を参考に評価を行うこと。
(5) 使用目的に応じて、レーザ光の照射部位、可能な処置、処置・適応疾患ごとの設定(モード、パワー等の設定値)、レーザ出射端から被照射部までの距離及びその距離を維持する方法(ディスタンスゲージの使用等)並びに併用する構成品又は医療機器を承認申請書の使用方法欄に記載すること。また、その内容を適切に添付文書に反映すること。
(6) 別添2の1.の事項を使用目的とする場合は、以下に留意して添付文書に必要な記載をすること。
① 特定の疾患の治療に対する性能が検証されたものではないことを「使用目的又は効果に関連する使用上の注意」に記載すること。
② レーザによる蒸散又は凝固は、切除又は核出のように組織の摘出ができず、組織学的評価が困難であるため、根治を目的とした悪性腫瘍の蒸散又は凝固には用いないことを「禁忌・禁止」に記載すること。
(7) 本通知に示す評価項目に加えて、個々の製品の特性に応じた評価(生物学的安全性等)を適宜実施すること。
(8) 臨床試験の試験成績に関する資料の添付の要否については、別添5を参照すること。なお、既承認品と異なる機能若しくは原理を有する、又は新しい適応疾患に使用する医療機器の承認申請を検討する場合は、事前に独立行政法人医薬品医療機器総合機構に相談すること。
5 実施時期
本通知は、本年6月29日から適用する。ただし、平成28年12月31日までに承認申請する医療機器については、なお従前の例によることができる。また、本通知適用時点において既に承認されている又は承認申請中の医療機器については、本通知に対応するための承認事項一部変更承認申請等は不要であるが、次回の本通知の対象となる承認事項一部変更承認申請を行う機会から本通知を参照すること。
(別添1)
レーザ医療機器に共通した性能及び安全性に関する評価指針
レーザ医療機器の承認申請に際しては、当該機器の使用目的に関わらず、以下の項目のうち規定可能なものについて特定し、試験成績を提出すること。なお、規定した内容が自明な項目については試験成績の提出は不要とする。
また、エネルギー密度等、併用するプローブ、先端チップ等によって変動する項目については、原則、全ての組合せについて評価を行うこと。
1 性能に関する項目
(1) レーザ発振動作(連続波、パルス波、Qスイッチ等)
(2) レーザ発振波長(中心波長、動作時の最大波長範囲、スペクトル幅等)
(3) レーザの種類の分類(レーザ媒質、発生素子、波長変換素子、発振方式等)
(4) 照射範囲
(5) レーザ出力又はエネルギー密度の可変範囲
(6) 最大エネルギー密度及び最大パワー密度
(7) 付加機能(副作用の発生低減等を目的とした冷却装置等)の性能
(8) デリバリーシステム(ビーム拡がり角、焦点距離、ファイバの最小許容曲げ半径、システムの構成及びファイバの材質、透過率(又は伝送損失)、被照射部における出力精度等)
(9) 出射端への流体噴射
(10) 照射動作モード(連続、単発、繰返し等)
(11) 変調方式
(12) レーザ出力の精度
(13) ガイド光の出力制限
(14) レーザ出力の安定性
(15) タイマ(照射時間、停止時間)の精度
(16) ビームシャッタの耐久性(機械的な機構の場合)
(17) ビームシャッタ等の安全機構の動作確認(機械的及び電子的な機構を含む。)
(18) 標準作動距離/照射範囲の精度
(19) 治療光とガイド光の焦点位置のずれ
(パルス発振原理を採用している場合は、以下の項目についても評価すること。)
(20) パルスエネルギーの最大値
(21) ピークパワー
(22) パルス幅の可変範囲
(23) 繰返し周波数の可変範囲
(24) ビームプロファイル
(25) パルス波形(時間的な変動)
(26) 繰返し周波数の精度
2 安全性に関する項目
(1) レーザ製品のクラス分け(IEC 60825―1の8項「クラス分け」に基づく分類)
(2) 医用電気機器としての安全性(JIS T O601―1、JIS T O601―1―2への適合)
(3) 電撃に対する保護(使用部位に応じたJIS T O601―1の分類)
(4) レーザ光に対する保護(IEC 60825―1及びIEC 60601―2―22)
① 保護筐体
② 保護筐体のセーフティインターロック
③ リモートインターロック
④ マニュアルリセット
⑤ 鍵による制御
⑥ 放出警告デバイス
⑦ ビームシャッタ
⑧ 緊急停止スイッチ
⑨ レディスイッチ
⑩ フットスイッチ
⑪ ターゲットインディケーションデバイス
⑫ 監視及び保護機構
(5) 耐久性(プローブ、先端チップ等を繰り返し使用する場合)
(別添2)
レーザ医療機器の使用目的
レーザ医療機器の承認申請に際しては、当該機器の開発の経緯及び外国等の使用実態に鑑みて、想定される適切な使用目的を全て承認申請書に記載すること。
1.を使用目的とする場合は、外科的な処置が可能な対象組織を使用方法欄に記載すること。
なお、2.は使用目的例であり、これに限るものではない。
1.臨床不要通知の対象とされた使用目的(外科的処置)
・ 生体組織の切開
・ 止血
・ 病変組織の切除、凝固又は蒸散
2.1.以外の使用目的(例)
・ う蝕、歯石の除去
・ 皮膚良性色素病変の治療(深在性、表在性の別を記載すること。)
・ 刺青の除去
・ 皮膚血管病変の治療
・ 脱毛
・ 皮膚の療痕の治療
・ しわ取り、皮膚の引き締め等の美容目的の整容面の改善
・ 組織再生の促進
・ 動脈硬化部位の蒸散による狭窄又は閉塞の解除(対象血管を明記すること)
・ 下肢静脈瘤の血管内焼灼・凝固治療(治療の対象とする血管及び血管径を記載すること。)
・ 結石の破砕
・ 体内植込みリードの癒着の剥離(対象とするリードを明記すること。)
・ 疼痛の緩和
(別添3)
外科的な処置を使用目的とするレーザ医療機器の性能評価指針
別添2の1.に規定された外科的な処置を使用目的とする場合は、以下を参考に評価項目を設定し、当該項目を裏付ける試験成績を添付して承認申請すること。
なお、開発の意図及び既承認品との差分に応じて、以下の評価項目では充足しない場合があるため、申請品目の性能及び安全性の検証が充足しているか、十分に確認すること。
1 性能
性能については、生肉又は動物を用いて、蒸散、凝固、切開又は止血のうち、申請品目が処置可能な範囲に対して評価を行うこと。
評価における留意点は以下のとおり。
・ 原則、設定可能なモード及び出力全体にわたって評価を行うこと。
・ 蒸散、凝固、切開又は止血を意図した設定がある場合は、当該設定により評価を行うこと。
・ 併用可能な全てのプローブ、先端チップ等について評価を行うこと。
・ 実際の手技を反映した使用方法において評価を行うこと。
2 使用方法
レーザ光を照射する部位が体表面以外(口腔、喉頭、咽頭、鼻腔、消化管、尿路、腎臓、肝臓、膵臓、血管内、膣、子宮等)である場合は、当該部位の体内における位置、併用する構成品又は医療機器の形状及び申請品目の物理的特性(柔軟性等)等から、当該部位へのアプローチが可能であることを説明するとともに、アプローチの際に想定されるレーザファイバの屈曲を再現し、照射部位における照射性能の評価を行うこと。
照射部位へのアプローチが可能であることの説明が困難である場合は、実際の使用方法が再現可能な動物又はファントムを使用し、併用する構成品又は医療機器を用いて当該部位における照射性能の評価を行うこと。
動物又はファントムによる実際の使用環境の再現が困難な場合は、臨床試験の実施を検討すること。
(別添4)
外科的な処置以外を使用目的とするレーザ医療機器の性能評価指針
別添2の2.で示した例を使用目的とする場合は、以下を参考に評価項目を設定し、当該項目を裏付ける試験成績を添付して承認申請すること。
なお、開発の意図又は既承認品との差分に応じて、以下の評価項目では充足しない場合があるため、申請品目の性能及び安全性の検証が充足しているか、十分に確認すること。
1 性能
同一の使用目的及び生体組織への作用原理を有する既承認品が存在する場合は、別添1「1 性能に関する項目」について評価し、既承認品との同等性又は差分を示すこと。
2 使用方法
別添3「2 使用方法」に同じ。
(別添5)
レーザ医療機器の臨床試験成績の要否の考え方
注1:同等性の評価においては、後発医療機器区分による審査の考え方を適用する。
注2:波長の組織選択性を利用した治療又は処置であるか否かについては、以下の例を参考に判断すること。
(1) レーザ光の組織選択性を利用した治療又は処置
・ ヘモグロビンへの選択的光吸収を利用した色素レーザ等
・ 主として表皮内に存在するメラニン色素へ選択的光吸収を利用したアレキサンドライトレーザ、ルビーレーザ等
・ 主として真皮内に存在するメラニン色素や刺青の色素に対する選択的光吸収を利用したQスイッチ・アレキサンドライトレーザ、Qスイッチ・ルビーレーザ、Qスイッチ・ネオジミウムヤグレーザ等
(2) レーザ光の組織選択性を利用しない治療又は処置
・ 主に水への光吸収を利用した炭酸ガスレーザ、エルビウムヤグレーザ、ホルミウムヤグレーザ、ダイオードレーザ等
注3:事前に独立行政法人医薬品医療機器総合機構に相談することが望ましい。