添付一覧
○次世代医療機器・再生医療等製品評価指標の公表について
(平成28年6月30日)
(薬生機審発0630第1号)
(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬・生活衛生局医療機器審査管理課長通知)
(公印省略)
厚生労働省では、医療ニーズが高く実用可能性のある次世代医療機器・再生医療等製品について、審査時に用いる技術評価指標等をあらかじめ作成し、公表することにより、製品開発の効率化及び承認審査の迅速化を図る目的で、評価指標を検討してきたところです。
今般、ヒト軟骨細胞又は体性幹細胞加工製品を用いた関節軟骨再生(別紙1)、ヒト(同種)iPS(様)細胞加工製品を用いた関節軟骨再生(別紙2)及び生体吸収性血管ステント(別紙3)の評価を行うに当たって必要と考えられる資料、評価のポイント等を評価指標としてとりまとめましたので、下記に留意の上、製造販売承認申請に当たって参考とするよう、貴管内関係業者に対して周知いただきますよう御配慮願います。
なお、本通知の写しを独立行政法人医薬品医療機器総合機構理事長、一般社団法人日本医療機器産業連合会会長、一般社団法人米国医療機器・IVD工業会会長、欧州ビジネス協会医療機器委員会委員長、日本製薬団体連合会会長、日本製薬工業協会会長、米国研究製薬工業協会在日技術委員会委員長、欧州製薬団体連合会在日執行委員会委員長、一般社団法人再生医療イノベーションフォーラム会長、一般社団法人日本再生医療学会理事長及び日本遺伝子細胞治療学会理事長宛て送付することを申し添えます。
また、本通知の発出に伴い、「次世代医療機器評価指標の公表について」(平成22年12月15日付け薬食機発1215第1号厚生労働省医薬食品局審査管理課医療機器審査管理室長通知)の別添1「関節軟骨再生に関する評価指標」は廃止します。
記
1.評価指標とは、承認申請資料の収集やその審査の迅速化等の観点から、製品の評価において着目すべき事項(評価項目)を示すものである。評価指標は、法的な基準という位置付けではなく、技術開発の著しい次世代医療機器・再生医療等製品を対象として現時点で考えられる評価項目を示したものであり、製品の特性に応じて、評価指標に示すもの以外の評価が必要である場合や評価指標に示す評価項目のうち適用しなくてもよい項目があり得ることに留意すること。
2.個々の製品の承認申請に当たって必要な資料・データを収集する際は、評価指標に示す事項についてあらかじめ検討するほか、可能な限り早期に独立行政法人医薬品医療機器総合機構の対面助言を活用することが望ましいこと。
(別紙1)
ヒト軟骨細胞又は体性幹細胞加工製品を用いた関節軟骨再生に関する評価指標
1.はじめに
再生医療等製品(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和35年法律第145号)第2条第9項に規定する「再生医療等製品」をいう。以下同じ。)のうち、ヒト細胞加工製品の品質及び安全性を確保するための基本的な技術要件は、平成20年2月8日付け薬食発第0208003号厚生労働省医薬食品局長通知(以下「ヒト(自己)由来細胞・組織加工医薬品等の指針」という。)及び平成20年9月12日付け薬食発第0912006号厚生労働省医薬食品局長通知(以下「ヒト(同種)由来細胞・組織加工医薬品等の指針」という。)に定められているところである。また、ヒト体性幹細胞加工製品の品質及び安全性の確保については、平成24年9月7日付け薬食発第0907第2号厚生労働省医薬食品局長通知(以下「ヒト(自己)体性幹細胞加工医薬品等の指針」という。)及び平成24年9月7日付け薬食発第0907第3号厚生労働省医薬食品局長通知(以下「ヒト(同種)体性幹細胞加工医薬品等の指針」という。)に定められているところである。本評価指標は、ヒト軟骨細胞又は体性幹細胞加工製品のうち特に関節軟骨損傷の治療を目的として軟骨に適用される再生医療等製品について、上述の基本的な技術要件に加えて留意すべき事項を示すものである。
2.本評価指標の対象
本評価指標は、ヒト(自己又は同種)軟骨細胞又は体性幹細胞加工製品のうち特に関節軟骨損傷の治療を目的として適用される再生医療等製品について、基本的な技術要件に加えて品質、有効性及び安全性の評価にあたって留意すべき事項を示したものである。
3.本評価指標の位置づけ
本評価指標は、技術開発の著しいヒト軟骨細胞又は体性幹細胞加工製品を対象とするものであることを勘案し、留意すべき事項を網羅的に示したものではなく、現時点で考えられる点について示している。よって、今後の更なる技術革新や知見の集積等を踏まえ改訂されるものであり、申請内容に関して拘束力を有するものではない。
製品の評価に当たっては、個別の製品の特性を十分理解した上で、科学的な合理性をもって柔軟に対応することが必要である。
なお、本評価指標の他、国内外のその他の関連ガイドラインを参考にすることも考慮すべきである。
4.用語の定義
本評価指標における用語の定義は、ヒト(自己)由来細胞・組織加工医薬品等の指針、ヒト(同種)由来細胞・組織加工医薬品等の指針、ヒト(自己)体性幹細胞加工医薬品等の指針及びヒト(同種)体性幹細胞加工医薬品等の指針の定義による他、以下のとおりとする。
(1) 軟骨細胞:軟骨の細胞外基質中に存在し、主にコラーゲン(タイプⅡ、IX、XI等)とプロテオグリカン(アグリカンを主とする)を分泌し軟骨基質を形成することを特徴とする細胞を一般的には指すが、本評価指標で原材料とする細胞はその前駆細胞(軟骨芽細胞)、軟骨細胞又は軟骨芽細胞を豊富に含む細胞集団及び体外でこれらの細胞を培養して得られた細胞を含む。
(2) 体性幹細胞:生体組織中に存在し、多分化能を有しかつ自己複製能力を維持しているもの又はそれに類することが推定されるもの及びこれを豊富に含む細胞集団をいうが、本評価指標では骨髄間質細胞も含む。また、体外でこれらの細胞を培養して得られた細胞を含む。
(3) 粘弾性:粘性と弾性とを併せ持つ性質。軟骨組織の力学的特性において重要なファクターである。特に粘性は、歩行や運動といった時間的に変化する荷重に対して関節軟骨が応答する際に、重要な働きをする。
(4) 中間製品:製造の中間工程で造られたものであって、以後の製造工程を経ることによって製品となるもの。
5.最終製品に軟骨細胞を含む場合の品質管理
損傷関節軟骨等の治療を目的とした再生医療等製品には、原材料と適用との関係性から、1)原材料として採取されるドナーの細胞・組織が患者の適用部位の細胞・組織と同様の基本機能をもつ場合(相同使用Homologous Use)と、2)そうでない場合(非相同使用Non-homologous Use)とに分けられる。本評価指標においては昨今の国内外の研究開発状況を鑑み、前者の場合には主にヒト軟骨細胞加工製品を、後者の場合には主に軟骨以外の組織に由来するヒト体性幹細胞を原材料とする再生医療等製品を対象とする。両者の安全性・有効性上の大きな差異として考えられるのは、前者の場合には適用部位における細胞・組織の既知の生理学的機能からその有効性の機序を理解することが比較的容易と想定される可能性があるのに対し、後者の場合には移植段階で軟骨細胞様の表現型を呈さないこと及び有効性を裏付ける機序が複数である可能性があることに加えて、それらの確認が困難である可能性が考えられる。従って、軟骨細胞の相同使用による軟骨細胞加工製品と非相同性使用による体性幹細胞加工製品とでは、有効性の評価、その機序の理解及び製品中の細胞の適用部位における機能に基づくリスクの評価について留意点が異なる可能性があることに注意が必要である。
製品評価については、以下に挙げた試験項目が考えられる。しかしながら、製品によっては例示した試験項目又はマーカーが必要十分とは限らず、逆に不必要な場合もある。さらに必要かつ適切であれば、別の試験項目又はマーカーを採用又は追加して設定を検討し、使用する妥当性を説明すること。
本評価指標においては、相同使用と非相同使用について、最終製品に軟骨細胞を含む場合と最終製品に軟骨細胞を含まない場合とに分けてそれぞれ本章及び次章において例示する。最終製品に軟骨細胞を含む場合としては、原材料としてヒト軟骨細胞を用いて適用する場合及び原材料としてヒト体性幹細胞を軟骨細胞に分化誘導して適用する場合が含まれる。
(1) 細胞数及び生存率
出発原料となる軟骨細胞又は体性幹細胞は採取組織に由来する量的な制約がある。軟骨細胞は体外培養すると脱分化する傾向を持つ。軟骨細胞は、ドナーの年齢又は長期の培養等の条件により増殖速度が低下する場合もあるため、体外での増殖にも限度があり、最終製品に使用可能な細胞数は、出発原料として得られた細胞の数に応じて量的な制約を持つ。したがって、意図する治療部位のサイズに見合った量の最終製品を製造するために十分な量の細胞を確保するためには、出発原料又は中間製品中に存在する細胞の数及び生存率について判定基準を設定しておく必要がある。また、最終製品における細胞の数及び生存率についても基準を設定する必要がある。細胞数を測定する方法としては、最終製品の一部を酵素処理して細胞懸濁液とし、血球計算板やセルカウンターで測定する方法がある。細胞生存率を測定する方法として、トリパンブルーを用いた色素排除法があり、生細胞及び死細胞を計数することができる。足場材料等に出発原料又は中間製品である細胞を播種し、三次元培養した製品では、使用している足場材料等をタンパク質分解酵素等で消化して細胞懸濁液を得て、それを細胞数及び細胞生存率の測定に用いることが考えられる。足場材料等から細胞を分離して細胞を計数することが困難な場合には、細胞のDNA量を測定する方法や、MTTアッセイによりミトコンドリアの酵素活性を指標に生細胞数を算出する方法がある。
(2) 確認試験
目的とする体内での有効性(軟骨形成能、軟骨機能等)を達成し、かつ安全性上の問題(意図しない分化、異常増殖等)を可能な限り回避するとともに、一定の品質及び安定性を保持するために必要な最終製品中の細胞の重要細胞特性指標を定め、これらを用いて最終製品中の細胞が目的の細胞であることを確認すること。確認試験には目的細胞に対する特異性が求められるため、試験に用いる細胞特性指標は、混入する可能性のある他の細胞では発現していない分子であることが望ましい。組織工学的手法により製造された製品については、足場材料等に播種して製造された最終製品中に含まれる細胞の生存率、密度、形態学的特徴等を確認すること。
軟骨細胞又は分化誘導した軟骨細胞の確認試験のための具体的な評価指標の例を、形態学的特徴、生化学的指標、遺伝子発現に分けて以下に記す。
① 形態学的特徴
軟骨細胞は球形又は楕円形の形態をとるが、平面培養によって紡錘状の線維芽細胞様となる。細胞外マトリックスの存在等、培養環境により細胞形状が変わる。球形状の細胞形状の方が、紡錘型の細胞に比してタイプⅡコラーゲン等、軟骨基質産生を維持していることが知られている。細胞を足場材料等に播種した場合の細胞形態の観察は困難であることが多い。
② 生化学的指標
生化学的指標としては、軟骨細胞が産生するグリコサミノグリカン(GAG)、タイプⅡコラーゲン、アグリカン等が考えられる。また、軟骨細胞特異的な産生物質及び線維芽細胞や脱分化軟骨細胞が産生する物質の比率を指標として、例えばタイプⅡコラーゲン/タイプⅠコラーゲン比、コンドロイチン6硫酸/コンドロイチン4硫酸の比を指標とする方法がある。足場材料等に細胞を播種し、三次元培養した製品では、使用している足場材料等をタンパク質分解酵素等で消化し、その消化液中に存在する産生物質を定量することも考えられる。GAGは硫酸化GAGの硫酸基に色素を結合させ、吸光度で測定する方法が知られている(色素結合法)。その他の産生物質はELISAやHPLC等によって定量することができる。
③ 遺伝子発現
生化学的指標のマーカーとなるタンパク質については、Sox9やHAPLN1(ヒアルロン酸とプロテオグリカン連結タンパク質)の遺伝子発現を軟骨細胞のマーカーとして検出する方法が報告されている。タンパク質発現についてmRNAを各種PCRにより定性的又は定量的に確認することでも代替可能である。
注:なお、最終製品の確認試験ではないが、最終製品の規格を最も良く実現するために必要な、出発原料及び中間製品の重要細胞特性指標を設定することも必要である。量的制約や複雑な品質特性のために、最終製品において細胞の特性を必要十分に評価できない場合は、中間製品(又は出発原料)で評価することが選択肢となる場合もある。そのためには、中間製品(又は出発原料)の特性が最終製品の品質に関する適正な道標となるという合理性を示すことが必要である。
(3) 細胞の純度試験
細胞の純度は品質管理における重要な要素であり、他の品質試験と同様、工程の性能、非臨床及び臨床試験結果等に基づき、規格を設定すべきものである。原材料、中間製品、最終製品の各段階における目的細胞については、確認試験で定めた重要細胞特性指標に基づいて定義すること。混入細胞(例えば骨芽細胞、血管内皮細胞、線維芽細胞、その他の採取時に混入する可能性のある細胞)又は原材料・製造工程における幹細胞の意図しない分化により生じた体細胞(様)細胞、未分化細胞又は脱分化細胞、異常増殖細胞、形質転換細胞といった目的細胞以外の細胞の検出及びその混入率の定量法、並びにその安全性を確認する試験方法及び判断基準を設定すること。特に移植後に重篤な有害事象をひきおこす可能性のある造腫瘍性細胞については、その混入量を検討すること。
(4) 力学的適合試験
最終製品の段階で軟骨組織と類似した力学特性を持つ等、最終製品によっては最終製品自体に耐荷重性、摺動特性、粘弾性等における適合性が要求される。各製品の適用方法を考慮した上で必要に応じて力学的適合性を確認するための規格を設定すること。力学的適合性試験は無菌性又は非破壊性を保った状態で行うことが困難でなじまない場合には、並行して製造した試験用検体を用いて実施することでも構わない。
(5) 効能を裏付ける品質試験
軟骨再生を目的とした再生医療等製品の有効性を担保するためには、最終製品に対する適切な効能試験を設定することが望ましい。
組織工学的手法によらず軟骨組織とは類似しない力学特性を持つ製品については、体内における有効性の代替指標(Surrogate Marker)を同定し、効能試験に応用することが考えられる。例えば、タイプⅡコラーゲン/タイプⅠコラーゲンの遺伝子発現比は軟骨細胞の分化の指標とされることがある。ただし、代替指標の使用に際しては、患者における有効性と代替指標との相関性を予め明らかにすること。適用後に体内での増殖、分化等を期待する場合には、設定された基準による継代数又は分裂回数で期待された機能を発揮することを明らかにすること。
(6) 細胞の培養期間の妥当性
培養期間の妥当性及び細胞の安定性を評価するために、予定の培養期間を超えて培養した細胞において脱分化、増殖速度の異常変動等の目的外の変化がないことを適切な細胞指標を用いて示すこと。適用後に体内での増殖、分化等を期待する場合には、設定された基準による継代数又は分裂回数で期待された機能を発揮することを明らかにすること。
(7) 製品の安定性試験
ヒト軟骨細胞又は体性幹細胞加工製品の最終製品又は重要なそれらの中間製品について、保存・流通期間及び保存形態を十分考慮して、細胞の生存率及び効能を裏付ける代替指標等を指標に実保存条件での安定性試験を実施し、貯法及び有効期限を設定し、その妥当性を明らかにすること。特に凍結保管及び解凍を行う場合には、凍結及び解凍操作が製品の解凍後の培養可能期間や品質へ与える影響を確認すること。また、必要に応じて標準的な製造期間を超える場合や標準的な保存期間を超える長期保存についても検討し、安定性の限界を可能な範囲で確認すること。ただし、製造終了後直ちに使用するような場合はこの限りではない。
また、出発原料、中間製品及び最終製品を運搬する場合には、それぞれの条件と手順(容器、輸送液、温度管理等を含む)等を定め、その妥当性について明らかにすること。細胞を凍結状態で輸送する場合には、凍結時に使用する培地又は凍結保存液、凍結保護剤等について、製造工程で使用する材料と同様に適切に選択すること。また、非凍結状態で輸送する場合の輸送液等も同様である。製品形態又は細胞種によって、製品安定性を保つための適切な保存形態、温度条件、輸送液等が異なる可能性があるため、製品毎に適切な組み合わせを検討し、安定性を担保する必要がある。
(8) 非細胞材料及び最終製品の生体適合性
製品に関係する非細胞材料については、製造工程中で細胞と接触する材料だけでなく、細胞とともに最終製品の一部を構成する副成分となるものや、副構成体等として適用時に併用されるもの(局所封入用の膜、フィブリン糊等)に関しても、材料自体の品質・安全性に関する知見について明らかにするとともに、生体適合性等、患者及び製品中の細胞との相互作用に関する知見について明らかにすること。また、最終製品総体についても患者の細胞・組織、特に適用部位周辺組織との相互作用について評価すること。また、最終製品の副成分となる非細胞材料の、製造工程中(培地中)及び体内での分解特性、体内での再吸収特性、分解物の安全性に関して適切な情報を収集すること。特に、生体吸収性材料を用いる場合には、分解生成物に関して必要な試験を実施すること。非細胞材料の生体適合性については、ISO10993―1、JIS T 0993―1又はASTM F748―04、医療機器の製造販売承認申請等に必要な生物学的安全性評価の基本的考え方について(平成24年3月1日付け薬食機発0301第20号)等を参考にすること。
(9) 細胞の造腫瘍性・過形成
製品中の細胞に由来する腫瘍形成及び過形成は適用部位における物理的障害となる恐れがあること、患者の正常な生理機能に対し悪影響を及ぼす可能性があること等から、悪性腫瘍のみならず、良性腫瘍を含む腫瘍形成及び過形成の可能性を検討すること。試験により造腫瘍性を評価する方法としては、核型分析、軟寒天コロニー形成試験、免疫不全動物における腫瘍形成能試験等が挙げられる。また、既定の培養期間を超えて培養した細胞について、目的外の形質転換や増殖速度の異常亢進がないことを明らかにすることも重要である。なお、免疫不全動物における腫瘍形成能試験においては、移植した細胞が体内で軟骨を形成した場合も腫瘍のように見えることがあるので、形態的特徴だけでなく組織病理学的特徴による評価も検討すること。
体性幹細胞等、軟骨細胞へと分化しうる細胞又は分化した軟骨細胞を含んだ再生医療等製品の造腫瘍性については、複数の試験法による評価の必要性を検討すること。核型分析、免疫不全動物における腫瘍形成能試験については、それぞれAn International System for Human Cytogenic Nomenclature (ISCN2005)、WHO technical report series, No 978 Annex 3 (2013)等を参考にすることが考えられるが、試験法の妥当性については、製品の特性やその時点での技術レベル等に応じて検討を行うこと。なお、核型分析において細胞・組織を採取したドナーの年齢や原疾患によっては、ある頻度で染色体異常が生じている場合があるので、染色体異常が認められた場合にそれがドナー背景に起因するのか、又は培養に起因するのかを明らかにできるような試験計画の立案を検討すること。なお、造腫瘍性が疑われた場合の他、使用する材料や製造方法によっては、がん原性の検討が必要な場合もあるかもしれない。
6.最終製品に軟骨細胞を含まない場合の品質管理
軟骨細胞を含まない最終製品としては、原材料としてヒト体性幹細胞を用い、軟骨細胞へ分化誘導せず適用する場合が含まれ、軟骨細胞としての特性(基質産生能等)を製品性能の指標とすることができないため、非臨床試験において効力又は性能を裏付けるデータを示す必要がある。
(1) 細胞数及び生存率
出発原料となる体性幹細胞は採取組織に由来する量的な制約がある。体性幹細胞は体外培養によりその表現型を変化させる傾向を持つ。そして、ドナーの年齢又は長期の培養等の条件により増殖速度が低下する場合もあるため、体外での増殖にも限度があり、最終製品に使用可能な細胞数は、出発原料として得られた細胞の数に応じて量的な制約を持つ。したがって、意図する治療部位のサイズに見合った量の最終製品を製造するために十分な量の細胞を確保するためには、出発原料又は中間製品中に存在する細胞の数及び生存率について判定基準を設定しておく必要がある。また、最終製品における細胞の生存率についても基準を設定する必要がある。細胞数を測定する方法としては、最終製品の一部を酵素処理して細胞懸濁液とし、血球計算板やセルカウンターで測定する方法がある。細胞生存率を測定する方法として、トリパンブルーを用いた色素排除法があり、生細胞及び死細胞を計数することができる。足場材料等に出発原料又は中間製品である細胞を播種し、三次元培養した製品では、使用している足場材料等をタンパク質分解酵素等で消化して細胞懸濁液を得て、それを細胞数及び細胞生存率の測定に用いることが考えられる。足場材料等から細胞を分離して細胞を計数することが困難な場合には、細胞のDNA量を測定する方法や、MTTアッセイによりミトコンドリアの酵素活性を指標に生細胞数を算出する方法がある。
(2) 確認試験
目的とする体内での有効性(軟骨形成能、軟骨機能等)を達成し、かつ安全性上の問題(意図しない分化、異常増殖等)を可能な限り回避するとともに、一定の品質及び安定性を保持するために必要な最終製品中の細胞の重要細胞特性指標を定め、これらを用いて最終製品中の細胞が目的の細胞であることを確認すること。確認試験には目的細胞に対する特異性が求められるため、試験に用いる細胞特性指標は、混入する可能性のある他の細胞では発現していない分子であることが望ましい。組織工学的手法により製造された製品については、足場材料等に播種して製造された最終製品中に含まれる細胞の生存率、密度、形態学的特徴等を確認すること。
細胞の確認試験のための具体的な評価指標の例を、形態学的特徴、免疫学的指標に分けて以下に記す。
① 形態学的特徴
体性幹細胞の中でも間葉系幹細胞は骨芽細胞、脂肪細胞、筋細胞、軟骨細胞等、間葉系に属する細胞への分化能をもつ細胞である。一般的な培養条件下で培養皿に接着する性質を利用して血球系細胞と分離でき、細胞形態を観察することができる。顕微鏡観察において線維芽細胞に似た形態をとり、一般には紡錘形である。しかし、実際に培養された細胞の形態は多様で、典型的な紡錘形のもの、神経細胞様に突起を伸ばしたもの、細胞が広がり扁平になったもの等様々である。
② 免疫学的指標
細胞表面マーカーにより幹細胞を定義づける報告は多数あるが、例えば間葉系幹細胞のように骨髄由来又は脂肪由来など、組織によって指標に用いられる表面抗原が異なる場合もあるので、製品の特性を示すのに適切な表面抗原を選択することが重要である。また、原材料となる細胞、中間製品、最終製品等、製造工程を通じて管理するのに適切な表面抗原を選択することが望ましい。
注:なお、最終製品の確認試験ではないが、最終製品の規格を最も良く実現するために必要な、出発原料及び中間製品の重要細胞特性指標を設定することも必要である。量的制約や複雑な品質特性のために、最終製品において細胞の特性を必要十分に評価できない場合は、中間製品(又は出発原料)で評価することが選択肢となる場合もある。そのためには、中間製品(又は出発原料)の特性が最終製品の品質に関する適正な道標となるという合理性を示すことが必要である。
(3) 細胞の純度試験
細胞の純度は品質管理における重要な要素であり、他の品質試験と同様、工程の性能、非臨床及び臨床試験結果等に基づき、規格を設定すべきものである。原材料、中間製品、最終製品の各段階における目的細胞については、確認試験で定めた重要細胞特性指標に基づいて定義すること。混入細胞(例えば骨芽細胞、血管内皮細胞、線維芽細胞、その他の採取時に混入する可能性のある細胞)又は原材料若しくは製造工程における幹細胞の意図しない分化により生じた体細胞(様)細胞、未分化細胞、異常増殖細胞、形質転換細胞といった目的細胞以外の細胞の検出及びその混入率の定量法、並びにその安全性を確認する試験方法及び判断基準を設定すること。
(4) 効能を裏付ける品質試験
軟骨再生を目的とした再生医療等製品の有効性を担保するためには、最終製品に対する適切な効能試験を設定をすることが望ましい。適用後に体内での増殖、分化等を期待する場合には、設定された基準による継代数又は分裂回数で期待された機能を発揮することを明らかにすること。
(5) 細胞の培養期間の妥当性
培養期間の妥当性及び細胞の安定性を評価するために、予定の培養期間を超えて培養した細胞において多分化能の減弱、増殖速度の異常変動等の目的外の変化がないことを適切な細胞指標を用いて示すこと。適用後に体内での増殖及び分化等を期待する場合には、設定された基準による継代数又は分裂回数で期待された機能を発揮することを明らかにすること。
(6) 製品の安定性試験
ヒト体性幹細胞加工製品又は重要なそれらの中間製品について、保存・流通期間及び保存形態を十分考慮して、細胞の生存率及び効能を裏付ける代替指標等を指標に実保存条件での安定性試験を実施し、貯法及び有効期限を設定し、その妥当性を明らかにすること。特に凍結保管及び解凍を行う場合には、凍結及び解凍操作が製品の解凍後の培養可能期間や品質へ与える影響を確認すること。また、必要に応じて標準的な製造期間を超える場合や標準的な保存期間を超える長期保存についても検討し、安定性の限界を可能な範囲で確認すること。ただし、製造終了後直ちに使用するような場合はこの限りではない。
また、出発原料、中間製品及び最終製品を運搬する場合には、それぞれの条件と手順(容器、輸送液、温度管理等を含む)等を定め、その妥当性について明らかにすること。細胞を凍結状態で輸送する場合には、凍結時に使用する培地又は凍結保存液、凍結保護剤等について、製造工程で使用する材料と同様に適切に選択すること。また、非凍結状態で輸送する場合の輸送液等も同様である。製品形態又は細胞種によって、製品安定性を保つための適切な保存形態、温度条件、輸送液等が異なる可能性があるため、製品毎に適切な組み合わせを検討し、安定性を担保する必要がある。
(7) 非細胞材料及び最終製品の生体適合性
製品に関係する非細胞材料については、製造工程中で細胞と接触する材料だけでなく、細胞とともに最終製品の一部を構成する副成分となるものや、副構成体等として適用時に併用されるもの(局所封入用の膜、フィブリン糊等)に関しても、材料自体の品質・安全性に関する知見について明らかにするとともに、生体適合性等、患者及び製品中の細胞との相互作用に関する知見について明らかにすること。また、最終製品総体についても患者の細胞・組織、特に適用部位周辺組織との相互作用について評価すること。また、最終製品の副成分となる非細胞材料の、製造工程中(培地中)及び体内での分解特性、体内での再吸収特性、分解物の安全性に関して適切な情報を収集すること。特に、生体吸収性材料を用いる場合には、分解生成物に関して必要な試験を実施すること。非細胞材料の生体適合性については、ISO10993―1、JIS T 0993―1又はASTM F748―04、医療機器の製造販売承認申請等に必要な生物学的安全性評価の基本的考え方について(平成24年3月1日付け薬食機発0301第20号)等を参考にすること。
(8) 細胞の造腫瘍性・過形成
製品中の細胞に由来する腫瘍形成及び過形成は適用部位における物理的障害となる恐れがあること、患者の正常な生理機能に対し悪影響を及ぼす可能性があること等から、悪性腫瘍のみならず、良性腫瘍を含む腫瘍形成及び過形成の可能性を検討すること。試験により造腫瘍性を評価する方法としては、核型分析、軟寒天コロニー形成試験、免疫不全動物における腫瘍形成能試験等が挙げられる。また、既定の培養期間を超えて培養した細胞について、目的外の形質転換や増殖速度の異常亢進がないことを明らかにすることも重要である。なお、免疫不全動物における腫瘍形成能試験においては、移植した細胞が体内で軟骨を形成した場合も腫瘍のように見えることがあるので、形態的特徴だけでなく組織病理学的特徴による評価も検討すること。
体性幹細胞等、軟骨細胞へと分化しうる細胞を含んだ再生医療等製品の造腫瘍性については、複数の試験法による評価の必要性を検討すること。核型分析、免疫不全動物における腫瘍形成能試験については、それぞれAn International System for Human Cytogenic Nomenclature (ISCN2005)、WHO technical report series, No 978 Annex 3 (2013)等を参考にすることが考えられるが、試験法の妥当性については、製品の特性やその時点での技術レベル等に応じて検討を行うこと。なお、核型分析において細胞・組織を採取したドナーの年齢や原疾患によっては、ある頻度で染色体異常が生じている場合があるので、染色体異常が認められた場合にそれがドナー背景に起因するのか、又は培養に起因するのかを明らかにできるような試験計画の立案を検討すること。なお、造腫瘍性が疑われた場合の他、使用する材料や製造方法によっては、がん原性の検討が必要な場合もあるかもしれない。
7.効力又は性能を裏付ける試験について
効力又は性能を裏付ける試験として、ヒト軟骨細胞又は体性幹細胞加工製品の機能発現、作用持続性及び再生医療等製品として期待される臨床効果の実現可能性(Proof-of-Concept)を示すこと。また、適当な動物由来細胞・組織製品モデル又は関節疾患モデルがある場合には、それを用いて治療効果を検討すること。モデル動物としては、ラット、ウサギ、ミニブタの関節軟骨に欠損を作製したもの等が挙げられる。ヒト由来細胞・組織製品をモデル動物に移植する場合は異種移植となり、免疫抑制剤を投与する必要があるが、免疫抑制の効果期間は限られており、短期間の観察に限られることに留意すること。治療効果の評価方法にはICRSスコア、O'Driscollスコア、Wakitaniスコア等を利用することが考えられるが、妥当性については検討を行うこと。
8.体内動態について
いかなる再生医療等製品においても製品に由来する細胞が意図しない生体内分布を示すかどうかは安全上の懸念となる。したがって、ヒト軟骨細胞又は体性幹細胞加工製品を構成する細胞・組織についても、技術的に可能で科学的合理性のある範囲で、実験動物での分布、吸収、遊走、生着等の体内動態に関する試験を実施すること。試験を実施しない場合には、その妥当性を示すこと。
9.臨床試験(治験)
臨床データパッケージ及び治験実施計画書は、対象疾患、目的とする効能、効果又は性能、当該治療法に期待される臨床上の位置づけ等に応じて、非臨床データ等も踏まえて適切に計画されるべきである。
(1) 臨床試験における評価技術に関する基本的考え方
臨床試験は試験に伴うリスクを最小限とし治療による利益を最大限に得られるように計画されるべきである。特に目的とする細胞・組織の由来、対象疾患及び適用方法等を踏まえて適切な試験デザイン及びエンドポイントを設定して実施することが推奨される。
評価項目に関しては、その最終目的に応じて主要評価項目(Primary endpoint)、副次的評価項目(Secondary endpoint)を設定する必要がある。有効性評価項目としては自覚的臨床評価スコア、活動性評価スコア、疼痛のVisual analogue scale (VAS)等が、また、修復組織の構造的改善の評価としてMRIや関節鏡、バイオプシー等から得られる情報が含まれる。
(2) 対象疾患
関節軟骨損傷を適応とするが、その際考慮するべき事項として、年齢、BMI、関節機能、疼痛、変形性関節症(程度、定義)、病変の受傷時期、部位、大きさ、深さ、数、先行治療、共存する関節内病変(半月板損傷、前十字靭帯損傷等)及び関節外病変(変形、アライメント異常等)が挙げられる。
(3) 臨床有効性評価
臨床評価においては、関節の状態、疼痛と機能までの評価を含んだ評価方法を用いることが推奨されるが、修復組織の構造的改善の評価などの副次的評価項目とあわせて評価すべきであろう。
臨床評価法として、Knee injury and Osteoarthritis Outcome Score (KOOS)は関節の状態、痛み、機能、QOLを総合的に評価できるもので、また臨床評価スコアとして国際的に評価の高いWestern Ontario and McMaster Universities Index (WOMAC)をそのまま一部として含んでいることから、軟骨細胞治療の評価法として国際的に最も広く用いられている。また、International Knee Documentation Committee (IKDC) Subjective Knee Evaluation Form-2000も膝関節軟骨治療の臨床評価として国際的に使用されている。KOOS、IKDCとも日本語版が作成され使用されている。
(4) 構造学的評価
① 画像診断評価
(単純X線)
単純X線では再生軟骨の直接的な評価はできないが、再生軟骨周囲の骨組織の評価法として簡便かつ有用であり、経時的な評価に使用することが望ましい。
(MRI)
MRIは再生軟骨の臨床的画像診断法として、現在最も有用な評価法であり、再生軟骨や周囲組織の構造的評価を主眼とした包括的MRI評価法と、修復軟骨の質的MRI評価法に分けられる。
包括的MRI評価法では、MOCART(magnetic resonance observation of cartilage repair tissue)等の客観的な評価基準を用いて、多施設間で統一した評価を行うことが望ましい。撮像法としては、fast spin-echo法を用いたプロトン密度強調像、脂肪抑制プロトン密度強調像、及び三次元等方性ボクセル撮像等を基本として、再生軟骨の位置に合わせた撮像断面で評価を行う。
再生軟骨の質的MRI評価法としては、プロテオグリカン濃度の評価に有用なdelayed gadolinium-enhanced MRI of cartilage (dGEMRIC)、水分含有量やコラーゲン配列の評価に有用なT2 mapping、及びプロテオグリカン濃度や水分含有量の評価に有用なT1ρ mappingなどが挙げられる。しかし、これらの質的MRI評価法の再生軟骨における有用性に関しては未だコンセンサスが得られておらず結果の解釈には注意を要する。
したがってMRI評価にあたっては、包括的MRI評価を第一選択として行い、質的MRI評価はその補助的な評価として用いられるべきである。
② 関節鏡評価
関節鏡は肉眼的評価に加え、硬さなど力学的特性の評価が可能であり、再生軟骨の有用な評価法の一つである。
関節鏡評価法として、International Cartilage Repair Society (ICRS) cartilage repair assessmentが広く用いられている。また肉眼的評価に加え、プロービングによる硬さの評価を行うOswestry macroscopic cartilage evaluation scoreも、ICRS cartilage repair assessmentとともに有用な評価法として国際的に使用されている。
③ バイオプシー
関節軟骨の再生評価として、術後一定期間後に製品移植部位からバイオプシーを施行して評価することは、有効性の評価として有用である。バイオプシーには骨生検針を用いることから、深さ方向は十分なものが得られるため、軟骨下骨の評価も可能である。
バイオプシーは、通常関節鏡視下に修復・再生された軟骨部分を確認しながら、骨生検針を用いて施行される。骨生検針の径については、修復・再生の評価が可能かつできるだけ侵襲性が低くなるよう考慮し選択すること。施行の際は、関節鏡視下でモニターしながら実施し、サンプリングバイアスが含まれないように留意する。ヒトでの結果として既に報告のあるOsScore、ICRS組織評価―Ⅰ(Histological assessment of cartilage repair: a report by the histology endpoint committee of ICRS)及びⅡ(ICRS Ⅱ histology score for the assessment of the quality of human cartilage repair)等も、評価法として考慮すべきである。各種評価法による特徴を把握し、評価の定量化は軟骨組織の状態の比較に有用である。サンプルの組織染色としては、通常サフラニンO染色やトルイジンブルー染色等が軟骨のマトリックス評価に重要であり、タイプⅠコラーゲンやタイプⅡコラーゲン等の免疫組織染色も硝子軟骨と線維性軟骨の鑑別に重要である。組織学的評価により軟骨マトリックスの構造上の修復・再生の状況が明らかになる。
(別紙2)
ヒト(同種)iPS(様)細胞加工製品を用いた関節軟骨再生に関する評価指標
1.はじめに
ヒト由来の人工多能性幹細胞(iPS細胞)又は人工多能性幹細胞様細胞(iPS様細胞)のうち、同種由来iPS細胞又はiPS様細胞を加工した製品(以下「ヒト(同種)iPS(様)細胞加工製品」という。)の品質及び安全性を確保するための基本的な技術要件は、「ヒト(同種)iPS(様)細胞加工医薬品等の品質及び安全性の確保について」(平成24年9月7日付け薬食発0907第5号厚生労働省医薬食品局長通知)に定められているところである。
本評価指標は、ヒト(同種)iPS(様)細胞加工製品のうち特に関節軟骨損傷の治療を目的として適用される再生医療等製品(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和35年法律第145号)第2条第9項に規定する「再生医療等製品」をいう。以下同じ。)について、上述の基本的な技術要件に加えて当該製品特有の留意すべき事項を示すものである。
2.本評価指標の対象
本評価指標は、ヒト(同種)iPS(様)細胞加工製品のうち特に関節軟骨損傷の治療を目的として適用される再生医療等製品について、基本的な技術要件に加えて品質、有効性及び安全性の評価にあたって留意すべき事項を示すものである。
3.本評価指標の位置づけ
本評価指標は、技術開発の著しいヒト(同種)iPS(様)細胞加工製品を対象とするものであることを勘案し、留意すべき事項を網羅的に示したものではなく、現時点で考えられる点について示している。よって、今後の更なる技術革新や知見の集積等を踏まえ改訂されるものであり、申請内容に関して拘束力を有するものではない。
製品の評価に当たっては、個別の製品の特性を十分理解した上で、科学的な合理性をもって柔軟に対応することが必要である。
なお、本評価指標の他、国内外のその他の関連ガイドラインを参考にすることも考慮すべきである。
4.用語の定義
本評価指標における用語の定義は、「ヒト(同種)iPS(様)細胞加工医薬品等の品質及び安全性の確保について」(平成24年9月7日付け薬食発0907第5号厚生労働省医薬食品局長通知)の定義による他、以下のとおりとする。
(1) 軟骨組織:軟骨は、軟骨細胞外マトリックス中に軟骨細胞が散在する構造である。軟骨細胞が軟骨細胞外マトリックスを作り、維持する。軟骨は組織であり、軟骨と軟骨組織は同義である。本評価指標では、軟骨細胞と区別するために、軟骨組織という言葉を用いる。また、本評価指標では生体内の軟骨組織に相当するiPS(様)細胞を加工して生体外で製造される組織も軟骨組織と呼ぶ。
(2) 軟骨細胞外マトリックス:軟骨特異的なコラーゲン(タイプⅡ、Ⅸ、XI等)とプロテオグリカンで構成され、組織に抗張力と抗圧縮力を付与している。軟骨組織の力学的機能を担い、また軟骨細胞を維持する作用がある。軟骨組織を酵素で消化するなどして軟骨細胞外マトリックスを除去した状態で軟骨細胞を培養すると、軟骨細胞は軟骨細胞の性質を失い、線維芽細胞様細胞に変質する。
(3) 軟骨周膜:発生過程において、軟骨組織の周囲を包む膜状の組織。軟骨細胞の分化を制御する因子を産生する。
(4) 軟骨細胞:体内にあって、軟骨組織中に散在し、軟骨細胞外マトリックスの成分であるコラーゲン(タイプⅡ、Ⅸ、XI等)やプロテオグリカン(アグリカンを主とする)等を分泌する細胞を一般的には指すが、本評価指標では生体内の軟骨細胞に相当するiPS(様)細胞を加工して生体外で製造される細胞、及びその前駆細胞を含む。
(5) 原材料:再生医療等製品の製造に使用する原料又は材料の由来となるものをいう。(生物由来原料基準(平成15年厚生労働省告示第210号)の定義と同じ)
(6) セル・バンク:均一な組成の内容物をそれぞれに含む相当数の容器を集めた状態で、一定の条件下で保存しているものである。個々の容器には、単一の細胞プールから分注された細胞が含まれている。(ICH―Q5D「生物薬品(バイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品)製造用細胞基剤の由来、調製及び特性解析について」(平成12年7月14日付け医薬審第873号厚生省医薬安全局審査管理課長通知)の定義と同じ)
(7) クロスコンタミネーション:サンプル間の混入のこと。交叉汚染とも呼ばれる。製造に用いられる原料の間、中間体の間等での混入を意味する。例えば、あるセル・バンクに由来する細胞に別のセル・バンクに由来する細胞が混入する場合や、ウイルス不活化後の原料に不活化前の原料が混ざってしまう場合等が挙げられる。
(8) 細胞シート:細胞同士が直接、あるいは間接的に結合してシート状の形態を呈しているものをいう。
5.評価に当たって留意すべき事項
本評価指標は、当面、既に再生医療等製品の原材料として株化されているヒト(同種)iPS(様)細胞(細胞株)を主たる原材料として製造所に受け入れ、これを製造所においてセル・バンク・システムを構築し、加工して製造されたヒト(同種)iPS(様)細胞加工製品としての軟骨組織又は軟骨細胞の評価に適用することを想定している。再生医療等製品の製造所内でヒト(同種)iPS(様)細胞を体細胞から新たに樹立し、これを原材料とした再生医療等製品の製造を意図するような場合には、本評価指標を参照しつつ、「ヒト(同種)iPS(様)細胞加工医薬品等の品質及び安全性の確保について」(平成24年9月7日付け薬食発0907第5号厚生労働省医薬食品局長通知)等を参考とすること。
(1) 原料
原料となるiPS(様)細胞は、再生医療等製品の原材料として株化され、セル・バンク・システムを構築したヒト(同種)iPS(様)細胞であって、一定の製造工程を経ることにより軟骨細胞へ分化し、軟骨組織を形成することが確認されている、又は合理的に予測されるものである必要がある。また、ゲノムシークエンスにより、軟骨組織又は軟骨細胞の機能に関わる遺伝子変異を持たないことを確認しておくことが望ましい。軟骨組織又は軟骨細胞の機能に影響する可能性のある遺伝子としては、軟骨細胞外マトリックスタンパク質をコードする遺伝子(COL2A1、COL9A1、COL9A2、COL9A3、COL11A1、COL11A2、ACAN、HAPLN1、COMP、MATN3)、変形性関節症と相関がある遺伝子(6.参考資料の文献1)(GDF5)、軟骨形成異常症の原因遺伝子(6.参考資料の文献2に記載の疾患のうち、軟骨組織に異常を来す疾患の原因遺伝子)等が挙げられる。
ヒト体細胞への初期化遺伝子導入による遺伝子リプログラミングによりiPS(様)細胞を樹立した場合には、導入された遺伝子の残存が否定されていることが望ましい。残存が否定できない場合には、導入遺伝子が最終製品である軟骨組織又は軟骨細胞の品質及び安全性に悪影響を与えないことを確認する必要がある。
(2) 製造工程において特に注意が必要な事項
軟骨組織又は軟骨細胞(最終製品)の製造に当たっては、製造方法を明確にし、可能な範囲でその妥当性を以下の項目で検証し、一定の品質を保持すること。
①ロット構成の有無とロットの規定
最終製品及び中間製品がロットを構成するか否かを明らかにすること。ロットを構成する場合には、ロットの内容について規定しておくこと。
②製造方法
原材料となるiPS(様)細胞株の製造所への受入から、出発原料となるヒトiPS(様)細胞のセル・バンク・システム構築までの履歴、及び出発原料から分化段階の進んだ細胞を経て最終製品に至る製造方法の概要を示すとともに、具体的な処理内容及び必要な工程管理、品質管理の内容を明らかにすること。
a) 受入検査
原材料となるiPS(様)細胞株について、製造所への受入れのための試験検査の項目(例えば、目視検査、顕微鏡検査、生存率、細胞の特性解析、細菌、真菌、ウイルス等の混入の否定等)と各項目の判定基準を設定すること。表現型、遺伝形質、特有の機能等の特性、細胞生存率及び品質に影響を及ぼさない範囲で、必要かつ可能な場合は、細菌、真菌、ウイルス等の検査を行うこと。結果が陽性の場合には、iPS(様)細胞株のストック及びその輸送における汚染の有無を確認した上で、改めてiPS(様)細胞株を入手する。
なお、技術的な理由により、工程を一部進めた上で検査を行うことが適切な場合にあっては、受入れ後の適切な時点で検査を実施すること。例えば、凍結ヒト(同種)iPS(様)細胞株を原材料製造時の試験検査結果(Certificate of Analysis)を基に受入れた後、解凍して拡大培養を実施する際に追加の検査を行うことが挙げられる。治験を開始する前段階の場合は、それまでに得られた試験検体での実測値を提示し、これらを踏まえた暫定値を示すこと。
b) 細胞のバンク化
製造所に受入れたiPS(様)細胞株からセル・バンクを作製する方法及びセル・バンクの特性解析、保存・維持・管理方法・更新方法その他の各作業工程及び試験に関する手順等について詳細を明らかにし、その妥当性を示すこと。ICH―Q5D等を参考とすること。ただし、より上流の過程で評価されていることに起因する正当な理由により検討事項の一部を省略することは差し支えない。
c) 最終製品の構成要素となる細胞の作製
出発原料となるセル・バンクから最終製品の構成要素となる細胞を作製する方法(分化誘導方法、目的とする細胞の分離・培養の方法、培養の各段階での培地、培養条件、培養期間、収率等)を明確にし、可能な範囲でその妥当性を明らかにすること。
d) 製造工程中の取り違え及びクロスコンタミネーション防止対策
iPS(様)細胞由来の軟骨組織又は軟骨細胞(最終製品)の製造にあたっては、製造工程中の取違え及びクロスコンタミネーションの防止が重要であり、工程管理における防止対策を明らかにすること。
(3) 製品の品質管理
品質規格の値の設定について、治験を開始する前段階の場合にあっては、それまでに得られた試験検体での実測値を提示し、これらを踏まえた暫定値を示すこと。
なお、出荷製品そのもの又はその一部に対して規格試験の実施が技術的に困難である場合にあっては、妥当性を示した上で並行して製造した製品を用いて規格試験を実施すること。
iPS(様)細胞から作られる軟骨組織又は軟骨細胞(最終製品)の移植方法を明らかにすること。移植方法には、例えば関節軟骨の欠損部にこの軟骨組織をそのまま必要数だけ充填し、フィブリン糊等で固定すること、又は、製造した軟骨組織をさらに加工する(例えば、複数の軟骨組織を融合させる、又は複数の軟骨組織をゲルで固めて板状にする)工程を経た後に、移植することが考えられる。
また、iPS(様)細胞から作られる軟骨組織を消化酵素等で消化して軟骨細胞を単離し、単離細胞そのもの、又は更に細胞を加工して移植物とすることも可能である。しかし、軟骨細胞外マトリックスを除去して得られた軟骨細胞は、変質して軟骨細胞の性質を失うことに留意が必要である。
ここでは、iPS(様)細胞から作られた軟骨組織の品質規格を①で、軟骨細胞を加工して作られた細胞シートの品質規格を②で扱う。
①軟骨組織としての品質規格設定のための特性解析項目
a) 外観の確認
多くの場合、表面が乳白色~白色である。色素を含む培養液中に存在する場合は、培養液色素の色を帯びる。iPS(様)細胞から製造される軟骨組織は、培養中に軟骨組織同士が融合することがある。大きさ・形状に関する規格を設定することが望ましい。
b) 細胞数及び生存率
最終製品における細胞の数及び生存率についても基準を設定する必要がある。なお、軟骨組織から軟骨細胞を効率よく回収する方法が確立されておらず、細胞数及び生存率を測定し規格とすることは技術的に困難である場合にあっては、軟骨組織に含まれる細胞数及び生存率を裏付ける代替指標を用いてよい。ただし、その指標の妥当性について明らかにすること。
c) 軟骨組織としての特異性の確認
mRNA発現解析において、軟骨細胞マーカー遺伝子(COL2A1、COL9A1、COL9A2、COL9A3、COL11A1、COL11A2、ACAN、HAPLN1等)の相対的発現量を明らかにすること。タンパク質レベルでの発現定量は、軟骨組織から可溶性の軟骨細胞外マトリックスを抽出する方法が確立していないため難しい。
グリコサミノグリカンの定量を行い、軟骨組織としての特性の指標とすることができる。
また、必要に応じて、組織切片のサフラニンO染色及びタイプⅡコラーゲン免疫染色にて、軟骨細胞外マトリックスがよく染色されることを確認すること。組織切片のSOX9免疫染色により、軟骨細胞を同定することができ、その数を数えることで、軟骨細胞への分化効率を調べることができる。
軟骨組織の表層を覆う軟骨周膜様組織は、タイプⅠコラーゲンを発現している。
d) 未分化細胞が混在していないことの確認
未分化細胞の混在については、文献では、定量PCRによるマーカー遺伝子の定量(OCT3/4、NANOG等の遺伝子発現量の評価)等が報告されている(6.参考資料の文献3)。
なお、未分化のiPS(様)細胞の混在と造腫瘍性については、必ずしも一致しないものであり、造腫瘍性試験に関しては非臨床試験の項目を参照すること。
e) 機能評価
治療用途に整合性のある軟骨組織としての機能特性を有することを製造工程中又は最終製品で確認する。例えば、最終製品の軟骨組織が、生体軟骨組織と類似した組成を持つことを期待されている場合には、軟骨細胞外マトリックス遺伝子の発現量を測定すること、又は組織学的解析(サフラニンO染色や、タイプⅡコラーゲンの免疫染色)を行うことにより、製品の体内における効能を移植前に予測または評価することが可能かもしれない。また、例えば、最終製品の軟骨組織が、生体軟骨組織と類似した力学的特性を持つことを期待されている場合には、粘弾性特性等の力学的特性を測定することにより、製品の体内における効能を移植前に予測または評価することが可能かもしれない。しかし、軟骨組織の力学的機能に重要な力学的特性は明らかにされているわけではない。
②軟骨細胞シートとしての品質規格設定のための特性解析項目
軟骨細胞シートとしての特性を解析する場合は、以下のように形状確認、機能特性について評価を行い、シート作製方法としての製造工程の妥当性についても明らかにしておくこと。
a) 外観の確認
形状確認として、例えばシートの組織切片の作製や共焦点顕微鏡での3次元観察等により、細胞がシートを形成していることを確認する。
b) 細胞数及び生存率
細胞数を測定する方法としては、最終製品の一部を酵素処理して細胞懸濁液とし、血球計算盤やセルカウンターで測定する方法がある。細胞生存率を測定する方法として、トリパンブルーを用いた色素排除法があり、生細胞及び死細胞を計数することができる。足場材料等に細胞を播種し、三次元培養した製品では、使用している足場材料等をタンパク質分解酵素等で消化して細胞懸濁液を得て、それを細胞数及び細胞生存率の測定に用いることが考えられる。
c) 未分化細胞が混在していないことの確認
未分化細胞の混在については、定量PCRによるマーカー遺伝子の定量(OCT3/4、NANOG等の遺伝子発現量の評価)、細胞シートから細胞を単離して未分化マーカーの免疫染色(OCT3/4、SOX2、TRA―1―60)によるフローサイトメトリーによる解析、等が考えられる。
なお、未分化のiPS(様)細胞の混在と造腫瘍性については、必ずしも一致しないものであり、造腫瘍性試験に関しては非臨床試験の項目を参照すること。
d) 機能評価
細胞シートの作用機序は、細胞シートから産生される成長因子等が、損傷したホストの軟骨組織の再生を促すことであると考えられる。よって、有効と考えられる成長因子のタンパク質量やmRNA発現量を測定することにより、体内における効能を移植前に予測または評価することが可能かもしれない。ただし、成長因子等を指標とする場合は、患者における有効性との相関性を予め明らかにすることが望ましい。
(4) 製品の安定性試験
最終製品又は重要なそれらの中間製品について、保存・流通期間及び保存形態を十分考慮して、細胞の生存率及び効能を裏付ける代替指標等を指標に実保存条件での安定性試験を実施し、貯法及び有効期限を設定し、その妥当性を明らかにすること。特に凍結保管及び解凍を行う場合には、凍結及び解凍操作が製品の解凍後の培養可能期間や品質へ与える影響を確認すること。また、必要に応じて標準的な製造期間を超える場合や標準的な保存期間を超える長期保存についても検討し、安定性の限界を可能な範囲で確認すること。ただし、製造終了後直ちに使用するような場合はこの限りではない。
また、出発原料、中間製品及び最終製品を運搬する場合には、それぞれの条件と手順(容器、輸送液、温度管理等を含む)等を定め、その妥当性について明らかにすること。細胞を凍結状態で輸送する場合には、凍結時に使用する培地又は凍結保存液、凍結保護剤等について、製造工程で使用する材料と同様に適切に選択すること。また、非凍結状態で輸送する場合の輸送液等も同様である。製品形態又は細胞種によって、製品安定性を保つための適切な保存形態、温度条件、輸送液等が異なる可能性があるため、製品毎に適切な組み合わせを検討し、安定性を担保する必要がある。
(5) 非細胞材料及び最終製品の生体適合性
製品に関係する非細胞材料については、製造工程中で細胞と接触する材料だけでなく、細胞とともに最終製品の一部を構成する副成分となるものや、副構成体等として適用時に併用されるもの(局所封入用の膜、フィブリン糊等)に関しても、材料自体の品質・安全性に関する知見について明らかにするとともに、生体適合性等、患者及び製品中の細胞との相互作用に関する知見について明らかにすること。また、最終製品総体についても患者の細胞組織、特に適用部位周辺組織との相互作用について評価すること。また、最終製品の副成分となる非細胞材料の、製造工程中(培地中)及び体内での分解特性、体内での再吸収特性、分解物の安全性に関して適切な情報を収集すること。特に、生体吸収性材料を用いる場合には、分解生成物に関して必要な試験を実施すること。非細胞材料の生体適合性については、ISO10993―1、JIS T 0993―1又はASTM F748―04、医療機器の製造販売承認申請等に必要な生物学的安全性評価の基本的考え方について(平成24年3月1日付け薬食機発0301第20号)等を参考にすること。
(6) 非臨床試験
①最終製品の品質管理又は非臨床安全性評価のための造腫瘍性試験
iPS(様)細胞を加工して製造される再生医療等製品の造腫瘍性を評価する上では、「原料となるiPS(様)細胞の造腫瘍性と最終製品の造腫瘍性との相関・因果関係は未解明である」という点に注意が必要である。すなわち、臨床適用に際しては、原料となるiPS(様)細胞ではなくあくまで最終製品としてのiPS(様)細胞加工製品の造腫瘍性評価が最も重要であることを常に留意しなければならない。したがって、造腫瘍性試験については最終製品を用い、免疫不全動物を利用した検出限界が既知の試験系を用いて評価を行うことが有用である。
最終製品の造腫瘍性の評価には目的別に大きく2種類ある。「品質管理」のための造腫瘍性試験(主に奇形腫形成が想定される未分化細胞、目的細胞以外の細胞などの造腫瘍性細胞の存在量の確認)及び「非臨床安全性評価」のための造腫瘍性試験(最終製品の細胞がヒトでの移植部位に相当する微小環境で造腫瘍性を示すかどうかの確認)であり、これらは区別して評価することが重要である。前者の例としては観察の簡便性と高感度な特性から、免疫不全動物(例:SCIDマウス、NOD/SCID/γCnull (NOG)マウス、NOD/SCID/IL2rγKO (NSG)マウス、Rag2-γC double-knockout (DKO)マウス)への皮下投与試験が挙げられ(6.参考資料の文献3)、後者の例としては免疫不全動物(rnu/rnu(Nude)ラット等)の関節内投与が挙げられる(6.参考資料の文献3)。いずれの試験も、iPS(様)細胞のセル・バンクを樹立する場合には、原則として当該セル・バンクから製造された最終製品を用いて造腫瘍性試験を行う必要がある。当該セル・バンク以外から製造された最終製品を用いた造腫瘍性試験結果を用いる場合には、その妥当性を説明すること。最終製品の造腫瘍性に関する品質評価では、免疫不全動物への皮下投与試験以外に、最終製品中に残存する未分化細胞の量をin vitroで確認することも有用である。In vitroの評価法としては、例えば未分化細胞マーカー分子を指標にした定量RT―PCR(例:OCT3/4)が挙げられ(6.参考資料の文献3)、いずれにしても試験系の検出限界を確認しておくことが結果の解釈において重要である。
関節内(臨床投与経路)移植については、小動物では手術侵襲が大きく、手術手技により結果判定が困難となる可能性があることに留意する。この際の移植細胞数としては、想定される臨床使用量に種差と個体差の安全係数を掛けた量であることが望ましいが、動物に移植した際に、移植細胞の総容量自体が投与部位の微小環境に大きな影響を与え、アーチファクトとなってしまう可能性を十分考慮する必要がある。すなわち、関節内移植による造腫瘍性試験の目的は、最終製品の細胞がヒトでの移植部位に相当する微小環境で造腫瘍性を示すかどうかの確認にあることに留意しながら投与細胞数を設定することが重要である。
HLAタイピング等の後に同じ方法で樹立され、最終製品の原料として同等の品質特性を持つことが確認された複数のiPS(様)細胞セル・バンクから、同一の製造方法により同等の品質特性を持つ軟骨組織または軟骨細胞(最終製品)を製造する場合であっても、原則的には各セル・バンクから製造された最終製品について、ヒトでの移植部位に相当する微小環境で造腫瘍性を示すかどうかを評価する必要がある。免疫不全動物の関節内への移植による最終製品の造腫瘍性試験は、その代表的な方法として挙げられる。
②最終製品の効力又は性能を裏付ける試験
技術的に可能かつ科学的に合理性のある範囲で、対象疾患に対し適切なモデル動物等を用いて、最終製品の機能発現、作用持続性、ヒト(同種)iPS(様)細胞加工製品として期待される臨床効果の実現可能性(Proof-of-Concept, POC)を示すこと。モデル動物としては、ラット、ウサギ、ミニブタの関節軟骨に欠損を作製したものが挙げられる。一方、骨髄間葉系細胞による修復を除外するため、及び異種移植における骨髄細胞による拒絶反応の影響を抑えるために、軟骨内欠損をモデルとして使用することが望ましい場合は、軟骨が厚い幼若飼育ブタなどを使うことも一つの方法である。但し、モデルには性成熟に達した動物を用いるべきであり、さらに幼若飼育ブタは急激な体重増加があって軟骨損傷を合併しやすいことに留意する必要がある。ウサギやミニブタのモデル動物にヒトiPS(様)細胞由来軟骨組織を移植する場合は異種移植となり、免疫抑制剤を投与する必要があるが、免疫抑制の効果期間は限られており、短期の観察に限られることに留意すること。治療効果の評価方法にはICRSスコア、O'Driscollスコア、Wakitaniスコア等を利用することが考えられるが、妥当性については検討を行うこと。HLAタイピング等の後に同じ方法で樹立され、最終製品の原料として同等の品質特性を持つことが確認された複数のiPS(様)細胞のセル・バンクから同等の品質特性を持つ軟骨組織又は軟骨細胞(最終製品)を製造する場合には、代表的な株から製造された最終製品について、POCを示すことで良い。
③その他
移植時の手技的な安全性の確認、その手技を用いての移植後の局所における短期間での反応等、臨床応用において必要かつ科学的に妥当と考えられる項目については、目的に応じて例えば中型又は大型動物を利用することにより確認を行うことが望ましい。
(7) 臨床試験(治験)
本指標が対象とする、ヒト(同種)iPS(様)細胞加工製品としての軟骨組織又は軟骨細胞の移植は、HLAをミスマッチ又は主要座をマッチ、そして免疫抑制剤を投与下又は非投与下、のいずれの状況で行われるのかを明らかにすることが重要である。臨床データパッケージ及び治験実施計画書は、対象疾患、目的とする効能及び効果、当該治療法に期待される臨床上の位置づけ等に応じて、非臨床データ等も踏まえて適切に計画されるべきである。
臨床試験は試験に伴うリスクを最小限とし治療による利益を最大限に得られるように計画されるべきである。特に目的とする細胞・組織の由来、対象疾患及び適用方法等を踏まえて適切な試験デザイン及びエンドポイントを設定して実施することが推奨される。
評価項目に関しては、その最終目的に応じて主要評価項目(Primary endpoint)、副次的評価項目(Secondary endpoint)を設定する必要がある。有効性評価項目としては自覚的臨床評価スコア、活動性評価スコア、疼痛のVisual analogue scale (VAS)等が、また、修復組織の構造的改善の評価としてMRIや関節鏡、バイオプシー等から得られる情報が含まれる。
①対象疾患
関節軟骨損傷を適応とするが、その際考慮するべき事項として、年齢、BMI、関節機能、疼痛、変形性関節症(程度、定義)、病変の受傷時期、部位、大きさ、深さ、数、先行治療、共存する関節内病変(半月板損傷、前十字靭帯損傷等)及び関節外病変(変形、アライメント異常等)が挙げられる。
②臨床有効性評価
臨床評価においては、関節の状態、疼痛と機能までの評価を含んだ評価方法を用いることが推奨されるが、修復組織の構造的改善の評価などの副次的評価項目とあわせて評価すべきであろう。
臨床評価法として、Knee injury and Osteoarthritis Outcome Score (KOOS)は関節の状態、痛み、機能、QOLを総合的に評価できるもので、また臨床評価スコアとして国際的に評価の高いWestern Ontario and McMaster Universities Index (WOMAC)をそのまま一部として含んでいることから、軟骨細胞治療の評価法として国際的に最も広く用いられている。また、International Knee Documentation Committee (IKDC) Subjective Knee Evaluation Form-2000も膝関節軟骨治療の臨床評価として国際的に使用されている。KOOS、IKDCとも日本語版が作成され使用されている。
③構造学的評価
a) 画像診断評価
(単純X線)
単純X線では再生軟骨の直接的な評価はできないが、再生軟骨周囲の骨組織の評価法として簡便かつ有用であり、経時的な評価に使用することが望ましい。
(MRI)
MRIは再生軟骨の臨床的画像診断法として、現在最も有用な評価法であり、再生軟骨や周囲組織の構造的評価を主眼とした包括的MRI評価法と、修復軟骨の質的MRI評価法に分けられる。
包括的MRI評価法では、MOCART(magnetic resonance observation of cartilage repair tissue)等の客観的な評価基準を用いて、多施設間で統一した評価を行うことが望ましい。撮像法としては、fast spin-echo法を用いたプロトン密度強調像、脂肪抑制プロトン密度強調像、及び三次元等方性ボクセル撮像等を基本として、再生軟骨の位置に合わせた撮像断面で評価を行う。
再生軟骨の質的MRI評価法としては、プロテオグリカン濃度の評価に有用なdelayed gadolinium-enhanced MRI of cartilage (dGEMRIC)、水分含有量やコラーゲン配列の評価に有用なT2 mapping、及びプロテオグリカン濃度や水分含有量の評価に有用なT1ρ mappingなどが挙げられる。しかし、これらの質的MRI評価法の再生軟骨における有用性に関しては未だコンセンサスが得られておらず結果の解釈には注意を要する。
したがってMRI評価にあたっては、包括的MRI評価を第一選択として行い、質的MRI評価はその補助的な評価として用いられるべきである。
b) 関節鏡評価
関節鏡は肉眼的評価に加え、硬さなど力学的特性の評価が可能であり、再生軟骨の有用な評価法の一つである。
関節鏡評価法として、International Cartilage Repair Society (ICRS) cartilage repair assessmentが広く用いられている。また肉眼的評価に加え、プロービングによる硬さの評価を行うOswestry macroscopic cartilage evaluation scoreも、ICRS cartilage repair assessmentとともに有用な評価法として国際的に使用されている。
c) バイオプシー
関節軟骨の再生評価として、術後一定期間後に製品移植施行部位からバイオプシーを施行して評価することは、有効性の評価として有用である。バイオプシーには骨生検針を用いることから、深さ方向は十分なものが得られるため、軟骨下骨の評価も可能である。
バイオプシーは、通常関節鏡視下に修復・再生された軟骨部分を確認しながら、骨生検針を用いて施行される。骨生検針の径については、修復・再生の評価が可能かつできるだけ侵襲性が低くなるよう考慮し選択すること。施行の際は、関節鏡視下でモニターしながら実施し、サンプリングバイアスが含まれないように留意する。ヒトでの結果として既に報告のあるOsScore、ICRS組織評価―Ⅰ(Histological assessment of cartilage repair: a report by the histology endpoint committee of ICRS)及びⅡ(ICRS Ⅱ histology score for the assessment of the quality of human cartilage repair)等(6.参考資料の文献4)も、評価法として考慮すべきである。各種評価法による特徴を把握し、評価の定量化は軟骨組織の状態の比較に有用である。サンプルの組織染色としては、通常サフラニンO染色やトルイジンブルー染色等が軟骨細胞外マトリックス評価に重要であり、タイプⅠコラーゲンやタイプⅡコラーゲン等の免疫組織染色も硝子軟骨と線維性軟骨の鑑別に重要である。組織学的評価により軟骨細胞外マトリックスの構造上の修復・再生の状況が明らかになる。
④全身モニタリング項目
移植後に関節以外に腫瘍が発見された場合に、それが移植細胞に由来するものかどうか判断するために、術前に必要と思われる既往歴の聴取を含む悪性腫瘍の全身的なスクリーニングを行っておくことが望ましい。移植手術後、妥当と考えられる期間を設定し、腫瘍発生等に注意する。
⑤免疫抑制剤を投与しない場合に必要な評価項目
下記方法にて移植部位の状態を随時観察すること。
a) 解剖学的評価のために、視診、触診上の関節の炎症反応の確認に加え、画像診断(エコー、単純レントゲン、CT、MRI等)を継時的に行う。移植部分だけでなく関節全体の炎症等に着目する。
b) 関節機能検査のために臨床検査、筋力検査等を行う。術後回復傾向にあったものが低下した場合等は、移植組織または細胞の脱落等による関節の機能障害の発生等の可能性も含めて、特に注意を払う。
c) 炎症反応のモニターのため、定期的な採血を行う。
⑥免疫抑制剤を投与する場合に必要な評価項目
免疫抑制剤を全身投与する場合は、⑤に加えて全身合併症のスクリーニング及び定期的な採血を行う。
6.参考資料
1 Ikegawa, S. The genetics of common degenerative skeletal disorders: osteoarthritis and degenerative disc disease. Annual review of genomics and human genetics 14, 245-256, (2013).
2 Bonafe, L. et al. Nosology and classification of genetic skeletal disorders: 2015 revision. Am J Med Genet A 167, 2869-2892, (2015).
3 Yamashita, A. et al. Generation of Scaffoldless Hyaline Cartilaginous Tissue from Human iPSCs. Stem cell reports 4, 404-418, (2015).
4 Rutgers M et al. Evaluation of histological scoring systems for tissue-engineered, repaired and osteoarthritic cartilage. Osteoarthritis Cartilage 18, 12-23 (2010).
(別紙3)
生体吸収性血管ステントに関する評価指標
1.はじめに
薬剤溶出性ステント(Drug eluting stent、DES)の登場によって、再狭窄のリスクが著しく低減し冠動脈インターベンション(Percutaneous coronary intervention、PCI)の世界は大きく変化した。このDESは血管を内側から保持する役割のステント、局所に薬剤をデリバリーする役割のポリマー、そして内膜増殖をコントロールする薬剤の三者で構成されている。しかし、このポリマーが炎症を惹起することが報告され、薬剤をデリバリーする役割を終えたのちには吸収され消失するポリマーが望ましいのではないかと考えられるようになり、DESは永続的なポリマーから生体吸収性ポリマーへと進化を遂げてきている。この考え方をさらに発展させると、血管を内側から保持するといったステント本来の役割も永久的に必要なわけではなく、当初の役割を終えたのちにはすべて消退するのが理想的ではないかといった考えに至る。このコンセプトを具現化したのが生体吸収性ステント(スキャフォールド)である。異物が残らないこと、血管反応性を保持することなどから長期的なイベントを回避する可能性を有し、理論的には多くのメリットを挙げることができる。一方、吸収される過程で従来のステントとは異なった事象が生じることも懸念され、従来のステントとは異なった審査が必要とされるであろう。このため、本邦における生体吸収性ステントの有効性、安全性評価に際して留意すべき事項を定めた。
2.本評価指標の対象
本評価指標は、冠動脈及び末梢動脈に対する血行再建治療のために使用する血管ステントのうち、構造物が完全に吸収され、消退するステント(スキャフォールド)を対象とする。従って、生体吸収性ポリマーをコーティングしたDESは、金属製の骨格が残るため、本評価指標の対象としない。なお、薬剤を含む製品も本評価指標の対象とするが、薬剤部分の評価は本評価指標の対象としない。
3.本評価指標の位置づけ
本評価指標は、技術開発の著しい生体吸収性血管ステントを対象とするものであることを勘案し、問題点、留意すべき事項を網羅的に示したものではなく、現時点で考えられる、製品の評価において着目すべき点(評価項目)について示したものである。よって、今後の更なる技術革新や知見の集積等を踏まえ改定されるものであり、申請内容等に関して拘束力を有するものではない。
本評価指標が対象とする生体吸収性血管ステントの評価にあたっては、個別の製品の特性を十分理解した上で、科学的な合理性をもって柔軟に対応することが必要である。
また、本評価指標の他、国内外のその他の関連ガイドライン等を参考にすることも考慮すべきである。
4.評価に当たって留意すべき事項
原則として、滅菌済み最終製品で試験を行うこと。
原則として、ステントをデリバリーシステムにマウントした状態又はデリバリーシステムにて拡張されたステントに対して試験を行うこと。
(1) 物理的化学的性質並びに規格及び試験方法等に関する資料
1) 原材料について
原材料の組成、性状に関し、以下の項目について明らかにすること。
① ポリマー系生体吸収性材料においては、組成、分子量及び分子量分布、残存触媒等の不純物の限度等
② 金属系生体吸収性材料においては、組成、不純物の限度、耐食性等
2) ステント自体について
① 溶出物について、材料の特性に応じた方法で評価すること。例えば、金属系生体吸収性材料では、生理食塩水等を使用するとpHが生理的範囲を超えて上昇し、生体内環境とは異なる分解挙動を示すため、例えば、JIS T 0304記載方法のうち、5%CO2下細胞培養液による試験を実施することが考えられる。試料表面積に対する使用溶液量は、実際のステント使用状況を鑑み、10―100mL/cm2(又はそれ以上)とし、撹拌等の実施を推奨する。
② ポリマー系生体吸収性材料等、吸水により影響を受ける場合は、充分に吸水させた条件下及び、臨床で想定される留置時の吸水状態を模擬した条件下で、ステントの評価を行うこと。
③ 過拡張による破断及び骨格の亀裂を生じない等、有効性及び安全性に影響を与えない最大拡張径について評価すること。
④ 後拡張等、最適な拡張方法について検討を行うことが望ましい。
⑤ テーパ血管や石灰化病変等のため、不均等に拡張された場合の破損リスクについて評価することが望ましい。
⑥ ステント留置後の側枝の拡張性について評価することが望ましい。
⑦ 重複留置をした場合の、ステントストラットの厚みによる影響や、吸収特性への影響等について評価を行うことが望ましい。なお、申請品どうしの重複留置のほか、他の生体吸収性血管ステントとの重複留置、非吸収性血管ステントとの重複留置の可能性についても考慮すること。例えば、金属系生体吸収性ステントと非吸収性金属製ステントを重複留置した場合、金属系生体吸収性ステントの分解が加速する可能性があることに留意すること。
⑧ エックス線による視認性について評価すること。
3) ステントの分解特性について
① ポリマー系生体吸収性材料の分解特性は、配向性や結晶化度等の影響を受けるため、製品と同等の試料を用いて試験を行うこと。
② 金属系生体吸収性材料の分解特性は、不純物や内部組織・表面処理等の影響を受けるため、製品と同等の試料を用いて試験を行うこと。
③ 材料の分解機構に応じて、使用環境を模擬した適切な試験環境を設定し、製品の分解特性について試験を行うこと。温度、pH、イオン構成・強度、酸素濃度、タンパク質の有無等の影響を受ける可能性があるので、試験中は適切な範囲に保つこと。金属系生体吸収性材料では、例えばJIS T0304記載方法のうち、5%CO2下細胞培養液による試験を実施することが考えられる。
④ 生体吸収性材料の分解特性は、応力状態の影響を受けるため、製品の使用環境を考慮した応力条件下で評価することが望ましい。応力条件下で評価しない場合は、その妥当性について示すこと。
⑤ 生体吸収性材料の分解特性は、溶液の流れの影響を受けるため、製品の使用環境を考慮した流れの中で評価することが望ましい。製品の使用環境を考慮した流れの中で評価しない場合は、その妥当性について示すこと。
⑥ 生体吸収性材料の分解特性に対する加速試験は十分に確立されていないため、分解特性の評価は、原則として実時間で行うこと。加速試験を用いる場合は、その妥当性について示すこと。
⑦ 製品の特性や開発のコンセプトに応じて適切な間隔で評価を行うこと。
⑧ 分解特性の評価は、少なくとも製品の構造一体性が維持される期間行うこと。
⑨ 分解特性の評価には、金属系生体吸収性材料の場合は、少なくとも、重量、ラディアルフォース、ポリマー系生体吸収性材料の場合は上記に加え分子量の評価を含めること。
⑩ 分解の機構、副成分を含む分解生成物及び微粒子を含む分解残存物について評価すること。
⑪ 製品留置部位の再治療において、内膜化される時期を考慮の上、一定の分解後のステントに対し、再治療する場合のステント破断などのリスク評価を行うこと。
(2) 安定性に関する資料
実際に貯蔵される状態及び苛酷条件での保存における経時変化等安定性に関する評価を行い、その結果に基づき適切な貯蔵方法及び有効期間を設定すること。
(3) 生物学的安全性に関する資料
平成24年3月1日付薬食機発0301第20号厚生労働省医薬食品局審査管理課医療機器審査管理室長通知「医療機器の製造販売承認申請等に必要な生物学的安全性評価の基本的考え方について」に準じて生物学的安全性に問題が認められないこと。
生物学的安全性の評価にあたっては、ISO 10993シリーズ、ISO/TS 17137、ISO/TR 37137等も参考にすること。生体吸収性材料に特有の理由により、試験条件に変更を加えた場合は、その妥当性を示すこと。例えば、生体内における灌流や炭酸平衡がin vitro試験では再現されないため、分解生成物、分解残存物、副成分等により生じるpHや浸透圧の変化を、中和や希釈により調整すること等が考えられる。
また、使用環境及び分解メカニズムを考慮した適切な抽出溶媒及び溶液量/表面積比を用いること。例えば、金属系生体吸収性材料では、5%CO2下細胞培養液(動物に投与する場合は人工血漿)を用い、10―100mL/cm2(又はそれ以上)とする等が考えられる。
(4) 性能に関する資料
1) 動物を用いた試験
① 動物を用いた試験により、デリバリー及び留置の評価、分解挙動の評価、生体反応の評価等を行うこと。
② 動物種の選択にあたっては、人への外挿性の観点を考慮すること。ブタは適切な動物の一種として推奨される。また、評価の内容によっては、ウサギによる代用も一部可能である。
③ 有効性、安全性を検証する上で、術前、術後及び経過観察時の血管状態を詳細に確認し、内皮形成、内膜肥厚、血管径の変化や血管壁の損傷、埋め込み部位から遠位の塞栓の状況等についても明確に説明すること。
④ 臨床を想定した抗凝固療法を実施し、その詳細を記録すること。
⑤ 従来の透視法で観察できない場合は、適切な方法で設置位置、不完全拡張の有無等を確認すること。
⑥ 製品の分解特性や使用する動物種の特性に応じて、生体反応性や分解挙動を評価するため必要な観察期間及び観察間隔を適切に設定すること。完全な消失まで評価することが望ましい。
⑦ 動物実験では吸収過程と生体反応のタイミングがヒトの生体内を反映していない可能性があることに留意すること。
⑧ 観察項目として、少なくとも以下を含めること。
ア) 血管の内径(留置前、留置後、フォローアップ時)
イ) ステントの形状の実測値(長さ、拡張後直径、拡張圧等)
ウ) 留置後の血流、塞栓の有無、血圧や心電図の変化
エ) 組織病理学的所見
オ) 走査性電子顕微鏡や組織切片を用いた被覆化の評価
⑨ フォローアップ時の血管径は、非吸収性金属ステントと異なり、採取後に内腔面積が縮小する可能性があるため、動物の安楽死前に血管内イメージング等で生体内でのステント径および血管径を評価することが望ましい。
⑩ 金属系生体吸収性血管ステントについては、病理組織切片作製時の処理により分解が進むため、処理溶液の種類や処理時間を一定にする等、留意すること。
⑪ 重複留置をした場合の、ステントストラットの厚みによる影響や、吸収特性への影響について評価を行うことが望ましい。なお、申請品どうしの重複留置のほか、他の生体吸収性血管ステントとの重複留置や、非吸収性血管ステントとの重複留置の可能性についても考慮すること。例えば、金属系生体吸収性ステントと非吸収性金属製ステントを重複留置した場合、金属系生体吸収性ステントの分解が加速する可能性があることに留意すること。
2) 体内における分解物の挙動について
既に安全性が充分確認されているもの及び既知の情報により評価できるもの以外のものにあっては、動物への長期埋入等により体内における分解物の挙動について検討すること。
3) ステント自体の耐久性
① 最悪の生理的負荷を受けたときの最大ストレスを同定する有限要素解析又はその他のストレス解析を行うこと。
② 材料の分解機構に応じて、使用環境を模擬した適切な試験環境を設定し、製品の耐久性について試験を行うこと。
③ 製品の特性を考慮し、少なくとも、構造一体性の維持が必要と考えられる期間の耐久性試験を行うこと。
④ 分解特性の加速と、応力負荷の加速を一致させることが困難であるため、耐久性試験は、原則として実時間で行うこと。加速試験を行う場合は、妥当性について示すこと。
⑤ ステント自体の耐久性は、留置部位の特性に応じた負荷に対して評価すること。冠動脈ステントの場合は、脈動に加え屈曲負荷を加えることが望ましい。末梢動脈ステントの場合は、脈動に加え適用部位に応じた負荷等を加えること。
(5) 臨床試験の試験成績に関する資料
① 新規性の高い生体吸収性材料の場合、探索的治験により、以下のような評価を行い、これらの情報をもとに検証的治験のデザインを検討することが望ましい。なお、血管内腔の観察を行う際には、一定分解後のステントは破断などが懸念されるため、観察時期、手技においては留意すること。
ア) 有効性:血管造影による遠隔期血管内腔損失径
イ) 安全性:光干渉断層法(OCT)、血管内超音波検査(IVUS)等によるステント圧着不良、ステント新生内膜被覆、ステント破損等の観察
ウ) その他:病変への送達、留置精度、周術期安全性を含む手技成功率、必要に応じ重複留置を行う場合の安全性、金属ステントによるベイルアウト手技の安全性、本品特有の有害事象の有無、重大心臓有害事象(MACE)、標的病変不全(TLF)等その他の臨床的評価項目等
② 生体吸収性血管ステントの治験を実施する際には、原則として既承認品との臨床的予後に関するエンドポイントを設定した無作為化比較試験を実施すること。
③ 製品特徴に応じた有害事象について確認できるプロトコルが望ましい。例えば、留置時に、透視法、又は従来の透視法で観察できない場合は適切な方法で、設置位置や圧着不良の有無等を確認することが考えられる。
④ 摘出物があり、病理切片を作製する場合は、切片作製処理により生体吸収性血管ステントの分解が進む可能性があることに留意すること。
⑤ 末梢動脈ステントの場合は、血管造影等による有効性評価の他、超音波検査(エコー)、足関節上腕血圧比(ABI)、CT等から適切な方法を選択し、評価を行うこと。
⑥ 製品の分解特性に応じて、観察期間を適切に設定すること。
⑦ ステント留置後に再治療が必要となった際の安全性は、再治療の時期、ステントの分解挙動、ステントが内膜化される時期等によって異なると考えられるため、それぞれを踏まえ、必要な考察を行うこと。また、再治療時にはステント破断等のメカニズムを考察できるよう、画像評価等の併用を検討すること。なお、一定の分解後のステントに対し、画像評価等を行う場合はステント破断などが懸念されるため、手技においては留意すること。
⑧ 生体吸収性血管ステントは、血管を開存維持することにより臨床的予後の改善を目的とする医療機器であり、遠隔期の血管開存性を確認する必要がある。サブグループなどを設定し、血管開存率、血管の保持性、ステント圧着率等を、血管造影、或いは従来の透視法で観察できない場合は適切な方法で、確認することが望ましい。
⑨ すべての有害事象(特に血栓・塞栓症)を収集し、治験機器との関連、原因について考察すること。
なお、生体吸収性血管ステントについては、現時点で既存の金属ステントほど確立されたエビデンスがなく、ステント血栓症の報告も多くなされていることから、市販後の適応対象、治験の選択・除外基準に関しては、リスク・ベネフィットのバランスを考え、慎重に判断すること。側枝拡張、重複留置など実臨床例における応用は段階的に実証しながら進めてくことが望ましい。