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○再生医療等製品(ヒト細胞加工製品)の品質、非臨床試験及び臨床試験の実施に関する技術的ガイダンスについて

(平成28年6月27日)

(事務連絡)

(各都道府県衛生主管部(局)薬務主管課あて厚生労働省医薬・生活衛生局医療機器審査管理課通知)

標記について、今般、独立行政法人医薬品医療機器総合機構から、別紙のとおり報告がありましたので、今後の業務の参考とするよう、貴管下関係業者に対し御周知願います。

[別紙]

○再生医療等製品(ヒト細胞加工製品)の品質、非臨床試験及び臨床試験の実施に関する技術的ガイダンスについて

(平成28年6月14日)

(薬機発第0614043号)

(厚生労働省大臣官房参事官(医療機器・再生医療等製品審査管理担当)あて独立行政法人医薬品医療機器総合機構理事長通知)

再生医療等製品の取扱いについては、「再生医療等製品の製造販売承認申請に際し留意すべき事項について」(平成26年8月12日付け薬食機参発0812第5号厚生労働省大臣官房参事官(医療機器・再生医療等製品審査管理担当)通知)等において示されているところですが、今般、独立行政法人医薬品医療機器総合機構は、再生医療等製品のうち、ヒト細胞加工製品を開発する際の考え方や留意点を記した技術的ガイダンスについて別添として取り纏めましたので、報告します。

なお、本ガイダンスは、現時点の科学的知見に基づく基本的考え方を取り纏めたものであり、定期的に内容を見直すこととし、また、必ずしもこれらに示した方法を固守するよう求めるものではありません。

[別添]

平成28年6月14日

独立行政法人医薬品医療機器総合機構

再生医療等製品(ヒト細胞加工製品)の品質、非臨床安全性試験及び臨床試験の実施に関する技術的ガイダンス

目次

1.はじめに

2.品質

2.1.原料等の適格性

2.2.規格及び試験方法、並びに工程内管理試験

2.3.安定性試験

2.4.無菌試験及びマイコプラズマ否定試験について

2.5.ベリフィケーションについて

3.非臨床安全性試験

3.1.一般毒性試験

3.2.造腫瘍性試験について

3.3.非細胞成分の安全性評価

3.4.製造工程由来不純物の安全性評価

4.臨床試験

4.1.基本的考え方

4.2.対象集団及び試験デザイン

4.3.用法及び用量

4.4.有効性評価について

4.5.安全性評価について

4.6.その他の留意事項

5.文献

1.はじめに

iPS細胞等で注目される再生医療は、革新的な医療としての期待が高い反面、関連する経験や知見の蓄積が極めて乏しいことに伴う安全性上の懸念が存在することから、再生医療等製品の開発では、品質及び安全性の確保に関する指針等を踏まえ、安全性を慎重に確保しつつ、実用化が図られているところである。

再生医療等製品の治験開始においては、医薬品や医療機器と同様、治験製品として適切な品質が確保されるとともに、ヒトに投与される際に安全性上の明らかな問題が存在しないか、どのような治験デザインで有効性及び安全性が確認できるか、といった情報の把握が必要とされている。医薬品や医療機器では、これまでに得られた数多くの知見や経験を踏まえて、設定すべき品質規格や試験、実施すべき特性解析、非臨床安全性試験の試験項目や試験法等が整理されているものの、再生医療等製品においては、十分な開発経験が得られていない。そのため多くの場合、製品がヒト由来であるために動物を用いた評価が限定的であること、また、製品の製造方法、製品の由来(ES細胞、iPS細胞、体性幹細胞、体細胞等)が多種多様であること等の理由から、再生医療等製品の品質及び非臨床安全性評価においては、製品の特性を把握した上で、柔軟かつ合理的にケース・バイ・ケースでの対応が求められている。

再生医療等製品の臨床試験デザインを検討する際には、医薬品・医療機器における考え方は参考になるものの、製品の特徴として医薬品・医療機器と異なっている部分があるため、特別に留意すべきポイントが存在する。また、再生医療等製品に条件及び期限付承認の枠組みが出来たことにより、開発戦略全体における各段階の臨床試験のデザイン、目的等が医薬品・医療機器とは異なる場合もありうる。さらに、再生医療等製品にはヒト細胞加工製品(自己由来及び同種由来)、遺伝子治療用製品等が存在しており、それぞれ製品の特徴が異なっていることから、臨床試験のデザイン、目的等を設定する際にはそれぞれの特徴に応じて検討する必要がある。

本ガイダンスでは、独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(以下、「PMDA」)で実施しているヒト細胞加工製品の対面助言や審査における経験を踏まえ、対面助言等での頻出の相談事項を抽出し、その助言内容をより一般化し、医薬品・医療機器とは大きく異なった特徴を有する品質管理、非臨床安全性評価の現時点での考え方、臨床試験における留意点等を紹介する。なお、遺伝子治療用製品等に特異的な留意事項については本ガイダンスの対象とはしていない。また、本ガイダンスは、将来発生する新規のガイドラインの効力を制限しない。本ガイダンスで紹介する留意事項は、科学の進展等により常に更新され、引き続き、知見を収集しながら、改訂すべきものであることから、本ガイダンスは定期的に見直しを行うこととしている。

そのような観点も含め、ヒト細胞加工製品の品質、非臨床安全性試験及び臨床試験については、新しい知見に基づく評価方法や試験方法等の実施を排除するものではなく、また、製品の特性を踏まえた”ケース・バイ・ケース”での評価が極めて重要となることから、より有効で安全なヒト細胞加工製品が遅滞なく開発されるよう、薬事戦略相談等のご活用をお願いしたい。

2.品質

ヒト細胞加工製品は、生きた細胞を含み、細胞が有する多様な特徴により臨床的な効果を期待するというその特徴から、有効性及び安全性と相関性の高い品質特性(以下、「重要品質特性」)を厳密に特定することは容易ではない。さらには原料や加工等により製品品質に高い不均質性が生じること、生物活性試験等においては適切な標準品がなく、試験毎のばらつきも大きいこと、製品の製造量に限りがある場合に試験検査に用いる検体量が制限される等の理由からも、最終製品に対する試験のみから製品の品質を恒常的に確保することは困難である。したがって、最終製品に対する試験のみでなく、製品の製造における管理を含めた品質管理戦略(原料及び材料の管理、工程パラメータ、工程内管理、中間製品の管理、最終製品の規格等)の構築が重要となる。特に、品質管理戦略においては、原料がヒトの細胞又は組織であるため厳密な管理の実施が困難であり、また原料の入手が困難であり製造工程パラメータの最適化の検討が十分にできない場合があること、医薬品のような工程における微生物又はウイルス等の外来性感染性物質に対する不活化/除去を厳密に行うことは困難であること等の問題点に適切に対応することが求められる。その際、「品質リスクマネジメントに関するガイドライン」(平成18年9月1日付け薬食審査発第0901004号、薬食監麻発第0901005号)(ICH―Q9)に示された品質リスクマネジメントの考え方に基づく対応が原則となるが、品質管理戦略を構築する上での各課題に対しての留意点を以下に示す。

2.1.原料等の適格性

2.1.1.原則

原料及び材料の管理項目については、最終製品に求められる品質が確保できるよう設定することが原則となるが、その原料及び材料を用いても最終製品に安全性上の懸念が生じないよう、原料及び材料の品質(無菌性、不純物等)についても考慮し設定することが求められる。その際、原料及び材料の品質特性、原料及び材料の製造工程の複雑さやその製造管理の状況を踏まえ、原料及び材料並びに必要に応じて原材料に対して求められる必要な項目を設定することが重要である。特に、ヒト・動物由来成分を原料又は材料とする場合、さらにそれらの製造に原材料としてヒト・動物由来成分を用いる場合も状況に応じて、ウイルス等の外来性感染性物質の混入のリスクについて「生物由来原料基準」(平成15年厚生労働省告示第210号)に基づいて必要な情報を得た上で、そのリスクが管理できるよう管理項目を設定することが求められる。

2.1.2.生物由来原料基準の対象となる原料等の範囲

生物由来原料基準(平成15年厚生労働省告示第210号)の規制対象となる原料等の範囲は、「生物由来原料基準の運用について」(平成26年10月2日付け薬食審査発1002第1号、薬食機参発1002第5号)の「1 第1通則関係」にあるとおりである。原料又は材料がヒト・動物由来成分であるか否かのみならず、それら原料又は材料の製造工程に使用されている原材料についても、ヒト・動物由来成分の使用の有無を確認することが必要となる。例えば、ヒト細胞加工製品の製造工程中の培養において使用する培地成分に組換えタンパク質が含まれている場合に、組換えタンパク質自体はヒト・動物由来成分に該当しないが、その組換えタンパク質の製造工程にヒト・動物由来成分が使用されている場合には当該ヒト・動物由来成分は生物由来原料基準の対象となる。

2.1.3.原料及び材料となる細胞・組織のウイルス安全性管理

ヒト(同種)由来製品については、由来する原料又は材料となる細胞・組織については、生物由来原料基準や「5.文献」の3)、5)、7)及び8)に示すとおりドナーの適格性が十分であることを確認する必要があり、通常、初回治験届出時において具体的に説明が求められる点に留意する必要がある。特に、生物由来原料基準「第3 ヒト由来製品原料総則1ヒト細胞組織原料基準(3)ア、イ及びウ」に関しては、検査を実施する対象となるウイルス種の選択を慎重に実施することが求められている。また、検査方法・検査時期として、ウインドウピリオドを勘案した再検査は、初回検査時にウイルスに感染していたが、検出感度未満にあったため検出されなかった可能性を否定する試験であり、ドナーの適格性評価の判断においてより確度の高い検査であるため、原則実施されていることが重要である。ヒト(自己)由来製品については、製品の使用対象が限られることを考慮して、検査の対象とするウイルス種を選択すること。

最終製品における潜在的なウイルス混入リスクを可能な限り低減化するために、原料又は材料となる細胞・組織についてはドナーの適格性の確認に加え、必要に応じてセルバンクシステムを構築する場合にあってはセルバンク、中間製品又は最終製品に対し、日本薬局方参考情報「日局生物薬品のウイルス安全性確保の基本要件」及び「ヒト又は動物細胞株を用いて製造されるバイオテクノロジー応用医薬品のウイルス安全性評価」(平成12年2月22日付け医薬審第329号)(ICH―Q5A)を踏まえ、より高いウイルス安全性が確保できるよう管理戦略を構築することが重要である。

ウイルス安全性確保を目的とした管理のうち、特にウイルス否定試験については、試験に用いる検体の適切性、試験項目及び試験方法を検討する必要がある。より高いウイルス安全性を確保する目的から、ウイルス汚染が最も高感度に検出できると考えられる検体を試験に供するべきである。また、設定する試験項目については、原料又は材料となる細胞・組織への混入が想定されるウイルス種、ヒトへの感染性、感染による重篤性等のリスクアセスメントを踏まえ、ウイルスによる汚染リスクを見落とすことがないよう、特異的・非特異的なウイルス否定試験を組み合わせることで広範にウイルスが検出できるよう検討することが重要である。開発初期ではウイルス汚染の頻度等に関する十分な実績が得られていない場合が多いことから、非特異的なウイルスを広範に検出が可能な否定試験の実施を考慮し、ウイルス安全性確保のための管理戦略を構築することがより望ましい。なお、各種試験方法については、試験の目的に適った必要な試験性能を確保できるよう、「分析バリデーション」(平成7年7月20日付け薬審第755号及び平成9年10月28日付け医薬審第338号)(ICH―Q2)を参考に、必要な範囲で分析法バリデーションを行うとともに、その試験精度が試験毎に確保されるよう試験成立条件を設定し、試験の信頼性を確保することに留意する必要がある。

2.1.4.材料となるヒト又は動物由来成分のウイルス安全性管理

製造工程においてヒト又は動物由来の材料(ウシ血清、フィーダー細胞等)を使用する場合においては、混入するおそれのあるウイルスの情報を可能な限り得た上で、必要なウイルス否定試験を実施するとともに、その結果を踏まえ、製品へのウイルス混入のリスクを管理する上で適切な管理項目を設定することが必要である。また、それらの材料の使用目的を踏まえ、ウイルス不活化/除去処理が可能であれば、原則、ウイルス不活化/除去処理を実施することが重要となる。特に、タンパク質等の単離・精製される成分については、原則、当該成分の製造工程においてウイルス等の不活化/除去処理が可能と考えられることから、実施されていることが求められる。ウイルス不活化/除去処理の工程を実施するにあたっては、日本薬局方参考情報「ウイルス安全性確保の基本要件」を参考に、事前に製造条件を反映したウイルスクリアランス能の評価が実施されたウイルス不活化/除去処理工程を経て製造されたものを採用することが重要である。

2.1.5.製造販売業者が把握すべき原料等に関する情報

適切な品質管理及び安全性対策の観点から、製造販売業者が把握しておくべき原料等に関する品質及び安全性に係る情報として、生物由来原料基準への適合性や、最終製品へ残存する可能性のある製造工程由来不純物が挙げられる。

生物由来原料基準への適合性に関しては、ヒト由来の原料又は材料となる細胞・組織であればドナーの適格性評価の内容や記録の保管状況等について根拠情報を入手・把握しておくことが必要である。加えて、動物由来の材料であれば健康な動物に由来すること、ヒト又は動物の個体又は細胞に由来するタンパク質等の成分のように製造工程におけるウイルス不活化/除去処理が可能なものについてはその条件及びそのウイルスクリアランス能の根拠資料について情報を入手・把握しておくことが必要である。なお、生物由来原料基準に規定する記録の保管が外部の機関において行われる場合には、必要な情報が管理され、必要に応じて速やかに入手できる体制を構築しておくことが求められる。

通常、初回治験届出時において、開発者がウイルス等の外来性感染性物質の混入のリスクについて説明できるようにすることに留意が必要である。

また、製造工程で用いる培地成分等も含め、最終製品へ残存する可能性のある製造工程由来不純物の安全性について、通常、初回治験届出時に、ヒトへの曝露量を踏まえた安全性の評価結果に基づく説明が求められることに留意が必要である(3.非臨床安全性試験の項参照)。

2.2.規格及び試験方法、並びに工程内管理試験

ヒト細胞加工製品は、細胞を主な構成成分としたものであり、ヒト(自己又は同種)由来の細胞・組織を原料として、様々なヒト・動物由来成分を用い、細胞培養等の加工を含む製造工程を経て製品化される。そのため、ヒト細胞加工製品は、原料又は製造工程の変動の影響を受け極めて不均質性が高い特徴を示す。実際の製造の際には、原料、製造工程、設備等が複雑に絡み合う過程を経るため、製造される製品の品質は多様な変動、ばらつきを含むものとなる。このような特徴を有した製品における品質管理の要点は、最終製品の規格試験のみで管理するのではなく、原料及び材料の管理、工程内管理及び中間製品の試験等により、それらの変動やばらつきを制御又はモニタリングし、製造工程での品質管理を含めて最終製品の品質を確保していくという考え方が一層重要となる。

2.2.1.品質管理戦略

ヒト細胞加工製品の品質管理項目は、単にそれまでの研究開発にて得た品質特性を並べたものと考えるのではなく、その製品の臨床における投与経路、投与細胞の体内での分布能、期待する効力又は性能を踏まえた重要品質特性を含め、ヒト細胞加工製品として必要な品質特性を網羅したものであることに留意する必要がある。したがって、品質管理項目を設定する際には、求められる製品品質、これまでに広範に実施した特性解析、効力又は性能を裏付ける試験等の成績、最新の公表論文等の知見も考慮し慎重に検討することが重要である。

ヒト細胞加工製品の品質特性における主要な評価項目と試験方法、並びに規格及び試験方法の設定に際しての留意点を表1に示す。力価試験、効能試験の試験方法については、多様な生理活性を期待する場合又は投与後に生体内で成熟又は分化誘導した細胞により効力又は性能を期待する場合、投与前において期待する細胞の潜在的な特徴が確認できる等、広範に実施した特性解析から特定することが重要である。

表1:品質特性の例

評価項目

試験項目

規格及び試験方法の設定に際しての留意点

確認試験

性状、細胞表現型、分化能、細胞種等

原則、最終製品において設定すること。製品の本質的な特性を確実に確認する観点から特異性の高い試験項目を選択する。

細胞の純度試験

細胞表現型、異常増殖等

原則、最終製品において設定すること。含まれる細胞の不均質性、目的外細胞としてヒトへの投与が許容できる混入の程度が管理できるよう設定する。

製造工程由来不純物

製造工程由来物質(血清由来アルブミン、抗生物質等)

原則、最終製品において設定すること。工程における除去能の評価結果を踏まえ、恒常的かつ十分に除去できる場合は工程評価で代替できる場合がある。ただし、開発段階においては情報が限定的であることを踏まえ、治験製品の管理においては可能な限り実測し、市販用製品の規格及び試験方法において管理すべき対象とその管理値を検討する。

目的外生理活性不純物

生理活性物質等

目的外生理活性物質としてヒトへの安全性が懸念される物質が産生されるリスクが想定される場合には、製品における管理方法の要否を慎重に検討する。

安全性

染色体異常、軟寒天コロニー形成能、ウイルス、マイコプラズマ、エンドトキシン、無菌等

無菌性等に係る試験については、原則、最終製品において設定する(2.4の項参照)。

力価試験、効能試験、力学的適合性

タンパク質発現、生理活性物質の分泌能、分化能、細胞表現型、細胞増殖能、耐久性等

原則、最終製品において設定する。製品の特徴に応じて多様な設定方法が考えられる。工程内管理試験、中間製品に対する試験の設定によっては代替できる場合も考えられる。

含量

細胞数、細胞生存率等

原則、最終製品において設定する。

2.2.2.工程内管理試験

ヒト細胞加工製品の製造工程管理において考慮すべき工程内管理、試験項目、及び実施の際の留意点を表2に示す。工程内管理項目及び試験項目の設定においては、製品に求められる重要な品質特性の特定とそれらの品質特性が製造のどの工程において変動しうるかの品質リスクを踏まえ、製造ごとにそれらの品質リスクが管理できるよう設定するのが原則である。品質リスクの管理では、その品質リスクの検出力が最大となるよう管理すべき工程に対し、可能な限り検出力の高い試験方法、試験検体及び検体量を設定することが重要である。実際の工程内管理項目の設定に際して、治験製品の場合は少なくとも表2の事項に留意する必要がある。また、製造販売承認申請の時点では、これらの他に、治験製品の製造実績も考慮し、重要品質特性の変動要因となる重要工程パラメータ及び重要工程内管理項目の特定等を含め、より恒常的かつ堅牢に最終製品の品質確保が可能となる品質管理戦略が構築されていることが望まれる。

表2:工程内管理項目及び試験方法の例

考慮すべき工程内管理

試験項目

実施の際の留意点

無菌性確保のための管理戦略として実施する工程内管理

無菌試験、バイオバーデン試験、マイコプラズマ否定試験等

最終製品の試験の試験感度は一般的に無菌性を保証する上で十分とは言えないことから、製造管理として例えば、原料・資材の無菌化処理等の技術的に可能な微生物汚染リスク低減化の措置を講じるとともに、原料でのバイオバーデン管理、工程内管理での微生物管理試験等の実施も考慮し、汚染の有無を慎重に確認することが望まれる。(2.4の項参照)

ウイルス安全性の確保のための管理戦略として実施する工程内管理

ウイルス否定試験等

(ICH―Q5A参照)

最も検出力が高い検体(例えば、使用する原料、又は中間製品等)を用いてウイルス汚染のリスクを管理する。その際、特異性の高い試験法(例えばNAT試験等)により確認すること。さらに必要に応じ広範にウイルス種を検出できる非特異的なウイルス否定試験法(in vitro試験、in vivo試験及び電子顕微鏡確認等)を組み合わせることが望ましい。試験の対象となるウイルス種については混入のおそれのあるウイルス種やその重篤性等のリスクアセスメント、潜在的なウイルスリスクの許容可能性を踏まえ総合的に判断する。

期待する製品の品質特性を確保するための管理戦略として実施する工程内管理

確認試験、純度試験、外観試験、力価試験/効能試験等

実施される工程の目的を踏まえ、その工程を経た際に期待されない品質の物が製造された際、その特性を感度よく検出できる試験方法を設定することが望ましい。設定する試験は重要品質特性の試験であることが望ましいが、工程の特徴及び実施可能性も考慮し重要品質特性に関連した代替可能な項目を設定することも可能である。

2.2.3.重要品質特性と規格設定

製造販売承認される製品は、治験で確認された製品の有効性及び安全性が恒常的に確保されている必要がある。そのために、それらが確保できるよう品質を規定し、出荷される前に製品の規格試験を含めた品質管理及び製造管理が達成されていることを確認することが原則である。品質においては、重要品質特性とその重要品質特性を管理し得る製造の工程パラメータ(重要工程パラメータ)を可能な範囲で特定し管理できるよう、規格試験の設定を含めた品質管理戦略として管理方法を構築することが求められる。

品質管理戦略の構築は、製品化に向けた研究開発において最も重要な事項のひとつであるが、特に開発初期ではそのような知見が十分に得られてはいないため、治験を開始する際の治験製品の品質管理戦略では、原則、ベリフィケーションにより品質を確保することとなる。規格及び試験方法は、その時点で得られている特性解析結果及び製品の有効性及び安全性に係る情報等に基づく重要品質特性になり得る試験項目やそれらを管理する工程パラメータ等の知見を踏まえて合理的な範囲で設定し、開発段階が進むにつれて得られる知見を参考に、適宜見直すことが重要である。その際、次相の臨床試験に用いる治験製品の品質管理戦略の構築も考慮し、有効性に関連性の高いと考えられる品質特性を可能な限りモニタリングする等、可能な範囲で幅広い品質の情報を収集しておくことが、その後の迅速な開発をする上で重要となる。開発後期においては、工程理解に基づき適宜見直した製造工程により製造した製品の品質特性、及び臨床試験で得られたより多くの有効性及び安全性に係る情報を照らし合わせて、重要品質特性を特定し、それらが適切に管理できる品質管理戦略を構築することが求められる。また、製造販売承認申請においては、開発段階を通じ一貫した品質が確保できる品質管理戦略が構築され、プロセスバリデーション又はベリフィケーションによりその品質管理戦略の妥当性が検証されていることが求められる。

なお、ヒト(自己)由来製品においては、以下に示すような特徴があるため、これらの特徴を踏まえた慎重な品質の開発計画が求められる。また、ヒト(自己)由来製品においては、治験製品の品質管理戦略の妥当性、それに基づくベリフィケーションマスタープランの作成が求められることも想定されるため、治験開始後の品質相談も活用し慎重に進めることがより効率的である。

・ 治験開始前に患者由来の検体を入手することが難しく、健常人由来等の患者以外の検体を用いて特性解析を実施した場合は、治験開始段階で得られる試験製造品の特性解析結果と、患者由来の細胞を用いて実施する治験製品の特性解析結果は、必ずしも同等でない可能性がある。

・ 患者毎に製造する必要があるヒト(自己)由来製品では、患者毎に細胞の特性が異なり、工程の変動要因が複雑であり特定することは容易でない。また、製造の限界によりヒト(同種)由来製品に比べて少ない症例数で治験を実施せざるを得ないことが少なくなく、治験で得られる有効性及び安全性に係る情報が限られることが多い。

・ 製造可能な製品の量に制限があり、特性解析を実施する上で、十分な検体量が得られないことが考えられる。

2.3.安定性試験

ヒト細胞加工製品は生きた細胞・組織を含むことから、一般的にその品質は極めて不安定である。安定性が十分に得られない場合には、品質管理を行う際に時間的な制限が生じることになり得ることから、治験開始にあたり治験製品の安定性が十分に得られない場合には、処方設定等の検討も含め、必要な安定性を確保することが重要である。また、安定性の検討においては、臨床での使用方法等も考慮し評価する必要があることに留意が必要である。安定性の評価に際し留意すべき事項については、「生物薬品(バイオテクノロジー応用製品/生物起源由来製品)の安定性試験について」(平成10年1月6日付け医薬審第6号)(ICH―Q5C)が参考になる。

2.3.1.長期保存試験

予定する保存条件下における製品の安定性プロファイルを評価する。実際に貯蔵される状態での保存における経時変化を評価するための安定性試験を行い、その結果に基づき適切な貯蔵方法及び有効期間を設定する。中間製品を保管する場合は、当該製品の安定性も評価する。

2.3.2.輸送時安定性試験

製品出荷から医療機関等への輸送条件(温度、時間、経路、容器等)を反映し、輸送による品質への影響を評価する。輸送において温度管理が適切に行われたか評価するため、温度ロガー等を用いて輸送容器中の温度を記録しておくことが重要である。

2.3.3.凍結融解後の安定性試験

凍結製品を開発し、製品出荷後、医療現場において用時融解して用いられる製品の場合、凍結融解による品質への影響を評価するとともに、製品を融解してから患者に適用するまでの時間等を規定する必要があることに留意が必要である。

2.4.無菌試験及びマイコプラズマ否定試験について

2.4.1.原則

無菌試験及びマイコプラズマ否定試験については、安全性に係る試験項目であるため、原則として最終製品を試験検体として実施することが求められている。これらの試験方法としては日本薬局方に準じた試験が望ましいが、ヒト細胞加工製品では検体量の限界、試験に要する時間の制限等から、必ずしもこれを適用できない場合が考えられる。その場合、日本薬局方に厳格に準じた試験方法を採用するのではなく、科学的に合理的な試験方法を採用することが可能である。その際、最終製品の安定性、採取できる検体量の限度、各試験に使用される検体量の配分等を考慮し、最善となる試験方法を設定することが求められる。試験方法を選択する際には、採用する試験方法の原理や測定の特性を踏まえ試験結果に影響を与えるリスクを慎重に評価し、必要な分析法バリデーションを実施することが重要である。また、試験毎の試験成立要件又は試験対照を適切に設定し、品質管理試験として信頼性を確保することが求められる。

微生物管理の試験では一般的に結果を得るまでに時間を要するため、最終製品の保存安定性の確保に努め、出荷の可否のための試験に必要な時間を確保することが望まれる。患者の治療上の適切性を考慮した上で、患者の状態等により適用前に試験結果を得られるのであれば、試験結果を得た後に投与できるような計画とすることが望ましい。なお、技術的に困難でやむを得ず患者への投与後に試験結果が判明する場合は、その旨を同意文書・説明文書に記載し、予め患者の同意を取得することに留意する必要がある。また、汚染が確認された場合の患者保護に関する対処方法をあらかじめ設定しておくことが重要である。

最終製品出荷後に各医療機関において投与液の調製を行う場合は、投与液調製操作に関する手順書を作成した上で、投与液の調製を行う者に対するトレーニングを治験開始前に実施することが重要である。また、調製後の洗浄液等を試験検体とした無菌試験及びマイコプラズマ否定試験を実施し、投与液の無菌性等を確認することが望ましい。投与液の無菌性等の確認の結果についても上述の患者への説明及び同意の取得、並びに対処法の設定の対象に含めること。なお、製造販売承認申請時には、投与液調製操作に関する手順書や無菌性等の確認を行った試験成績等を用いて、投与液調製方法の妥当性の説明が求められることに留意する必要がある。

2.4.2.無菌試験

ヒト(自己)由来製品で供試量に限界があることが想定される場合は、その検体量における検出感度や精度等に関するバリデーションを実施し、日本薬局方に準拠する試験を行う場合に比べて、どの程度試験性能が低下するか等を治験開始前までに、確認することが求められる。検出感度の低下が認められる場合は、製造工程中の品質管理項目を含めて製造工程全体での無菌性の管理を可能な限り堅牢に行うことが重要である。例えば、中間製品の培養上清、最終製品の洗浄液等を用いて、可能な限り多くの検体を試験に供する等の方策を実施し、最終製品の汚染がないことを担保することを検討することも一案である。製品の保存安定性から試験に要する時間に制限がある場合は、患者への投与までに許容される時間も考慮した上で、迅速無菌試験法の採用を検討し、可能な限り投与前までに試験結果を得ることが望ましい。その際、迅速判定の適切性を確認するために判定後の試験継続が可能であれば微生物の検出に十分な時間モニタリングすることがより望ましい。

最終製品の代わりに中間製品を試験検体とする場合は、試験検体を得た工程から最終製品までの製造工程における微生物汚染の可能性を否定することが求められる。具体的には、製造管理の適切性、最終製品の一次包装容器の密封性、包装容器を含む資材等からの微生物汚染リスクが管理できることについて適切な説明を行うことに留意する必要がある。

2.4.3.マイコプラズマ否定試験

市販のキットを用いてマイコプラズマ否定試験を実施する場合であっても、試験で使用する機器や検体を用いて、自施設で検出感度や特異性について確認することが求められる。試験方法については、第17改正日本薬局方参考情報「バイオテクノロジー応用医薬品/生物起原由来医薬品の製造に用いる細胞基材に対するマイコプラズマ否定試験」(以下、「参考情報」)を参考にし、実施することが必要である。ただし、「B.指標細胞を用いたDNA染色法(B法)」のみを用いて試験を行う場合、B法は偽陽性の結果が出る可能性があることから、他の適切な試験と組み合わせることで確認を行うことが望ましい。なお、適切なバリデーションを行った上で、「C.核酸増幅法(C法)」を「A.培養法(A法)」又はB法に代えて用いることもできる。

C法において確認すべきマイコプラズマ種については、参考情報を参考にし、7種類のマイコプラズマ種が10CFU/mLの検出感度で検出可能であることを示すことに留意が必要である。第16改正日本薬局方参考情報に記載されているプライマーを用いている場合は、当該プライマーではA. laidlawiiが検出できないこと及びM. pneumoniaeの検出感度が不十分であるとの報告がなされているため(文献1)、これら2種のマイコプラズマ種に対する試験が別に必要になる可能性があることに留意が必要である。

2.5.ベリフィケーションについて

品質保証において、治験製品及び市販製品ともに、プロセスバリデーション又はベリフィケーションは極めて重要な事項である。市販製品の製造管理及び品質管理の運用においては、原則として、プロセスバリデーションの実施が要件とされている。しかしながら、再生医療等製品での運用において、特にヒト(自己)由来製品では、患者由来の細胞・組織を原料に用いるため倫理上の観点から事前に入手可能な検体が制限され、限られた製造経験から製品化が進められる場合や技術的限界からプロセスバリデーションの実施が困難な場合が想定されるため、ベリフィケーションにより品質を確保する手法も規定されている。

プロセスバリデーションとは、期待する製造プロセスの稼働性能及び品質に寄与する重要工程パラメータ等の変動要因並びに品質リスクを特定した上で、それらのパラメータの監視及び工程内管理試験等により製造プロセスの制御を通じ、恒常的に品質保証を高いレベルで達成する活動であり、また、構築した管理戦略を事前に検証する手法である。一方、ベリフィケーションとは、本来であれば、プロセスバリデーションにより、恒常的に目的とする品質に適合する製品が製造できるよう事前に検証しておくことが望まれるものの、制限された状況での検討結果や技術的な限界により変動要因の理解が十分に進んでいない状況の下であっても、慎重な品質リスクマネジメントに基づく品質の管理戦略を設定することにより、求められる製品品質を製造毎に確認することが、その本質である。すなわち、ベリフィケーションは、単なる品質試験の結果の確認にとどまるものではなく、製造管理及び品質管理の方法により期待される結果が得られているかの確認であり、原料等の品質、工程パラメータ及び工程内管理試験も含めた総合的な確認と理解すべきである。さらに、ベリフィケーションにより品質を確認する際は、その手法の特性上、プロセスバリデーションと異なり市販後製造においても継続的にベリフィケーション計画に基づく確認を行う必要があることにも留意が必要である。その際の実際の運用においては、「再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準等に関する質疑応答集(Q&A)について(その2)」(平成27年7月28日付け薬食監麻発0728第4号)が参考となる。

治験製品の製造において行われるベリフィケーションについても、品質確保の観点から基本的考え方は市販製品と大きく変わるものではないが、治験製品の製造においては開発段階であり製造方法や試験方法が未だ確定されていないことを十分に考慮した上で、その時点で得られている製品品質や製造プロセスの理解を踏まえ、品質リスクマネジメントに基づく品質の管理戦略を設定した上でベリフィケーションを実施することが期待される。

3.非臨床安全性試験

ヒト細胞加工製品の非臨床安全性については、「ヒト(自己)由来細胞・組織加工医薬品等の品質及び安全性の確保に関する指針」を含めた7つの通知(文献2~8)に基本的な考え方が示されており、技術的に可能かつ科学的合理性のある範囲において動物試験が必要であること、また、非細胞成分及び製造工程由来不純物については可能な限り理化学的な分析法により評価することとされている。したがって、ヒト細胞加工製品に関する非臨床安全性を考える上では、ヒト細胞加工製品の構成を踏まえて、目的とする細胞・組織などの「細胞成分」、目的とする細胞・組織以外の材料(細胞凍結保護液、スキャフォールド等)などの「非細胞成分」、又は最終製品に残留する培地成分などの「製造工程由来不純物」に分類し、安全性を評価することが適切である。

医薬品や医療機器などを開発する場合には、臨床で生じる毒性を予測するリスク評価のために、まず生体内で起こりうる安全性上の懸念としてハザード(有害性)を確認し、生体内での薬物動態学的データ(吸収、分布、代謝、排泄)を勘案した上で、総合的に非臨床安全性が評価される。しかしながら、ヒト細胞加工製品については、動物試験において異種免疫反応が惹起される場合があること、またヒト細胞加工製品では、低分子医薬品等で実施されるような曝露評価もなじまないことなどから、量的なリスク評価は困難であり、非臨床安全性試験で得られる安全性情報は限定的と考えられる。したがって、このような限界を理解した上で、ヒト細胞加工製品の非臨床安全性試験を検討することが重要である。

3.1.一般毒性試験

ヒト細胞加工製品の一般毒性試験については、現時点では「医薬品の製造(輸入)承認申請に必要な毒性試験のガイドラインについて」(平成22年2月19日付け薬食審査発0219第4号)の別添「医薬品毒性試験法ガイドライン」を参考に立案することが適切である。しかしながら、このガイドラインは、医薬品の毒性試験に関する標準的な考え方を示したものであることから、ヒト細胞加工製品を用いた一般毒性試験を検討する場合には、特に以下の点に留意する必要がある。

3.1.1.動物種の選択

ヒト細胞加工製品の非臨床安全性試験では、特に以下の観点から動物種を選択する。

3.1.1.1.異種免疫反応の回避

ヒト細胞に対する異種免疫反応を回避するために、免疫不全動物(ヌード、SCID、NOD/SCID/γCnull等)の利用が考えられる。臨床適用経路での一般毒性試験が、免疫不全動物(マウス又はラット)で実施困難な場合には、免疫抑制剤投与下での動物の利用も考えられるが、試験動物種の背景データや免疫抑制剤による評価への影響等を事前に把握することが重要である。

また、異種免疫反応を回避するために、動物由来の同等製品を利用するアプローチも考えられるが、原料、製造方法、効力や性能等のヒトと動物における違いを含めて、その外挿可能性について説明することが求められる。

3.1.1.2.In vivo効力試験で安全性を合わせて評価を場合について

効力や性能を裏付ける(Proof of Concept:POC)試験として、モデル動物を用いた試験が既に実施され、当該試験を安全性評価に利用する場合には、モデル動物に関する背景データの不足やモデル作出時における人為的な背景値のバラツキによる影響も考えられることから、利用の可否については、一般毒性評価が適切に実施可能か、及び安全性評価に用いることが可能な試験成績の信頼性が確保されているかの観点から十分に検討すること。

3.1.2.動物種の数

通常、医薬品では動物種2種を用いた一般毒性試験が求められるが、ヒト細胞加工製品では、化学合成医薬品(以下、「化成品」)のような代謝等の動物種差が考えにくいこと、またいずれの動物種でも異種免疫反応が惹起される場合があることから、一般に、動物種1種による評価が可能である。

3.1.3.用法及び用量

3.1.3.1.用量

ヒト細胞加工製品では、異種免疫反応が惹起されること、またヒト由来製品から産生される各生理活性物質(サイトカインなど)の生物活性にも動物種差が考えられ、量的なリスク評価は困難であることから、ハザード(有害性)を確認するために、用量は対照群と投与群の少なくとも2群で評価可能である。また、その際の最高用量は、最大耐量(Maximum Tolerated Dose:MTD)、投与可能な最大量(Maximum Feasible Dose:MFD)及び動物福祉を考慮し、可能な限り多くの細胞数を設定することが重要である。

3.1.3.2.投与回数

投与回数は、可能な限り臨床で予定されている用法と同様にすることが望ましい。ただし、動物にヒト細胞加工製品を反復投与しても生体内で蓄積性が認められず、毒性所見の増悪が考えにくい場合には、必ずしも反復投与の実施は必要としない。

3.1.3.3.投与経路

ヒト細胞加工製品の生体内組織への影響は、投与部位や生着部位の微小環境により影響を受ける可能性があることから、臨床適用経路で実施することが望ましい。

3.1.4.試験期間

ヒト細胞加工製品については、ヒト由来細胞を異種の動物に投与する等、安全性評価に限界があることから、観察期間については、全身毒性を評価可能と考える最短の期間である14日間程度とすることは可能である。しかしながら、製品の効力や性能に起因する安全性への懸念が明らかであり、かつ動物試験で評価可能と考えられる場合には、POC試験等を参考に、適切な試験期間を設定することも一案である。

3.1.5.性、動物数、観察及び検査項目

ヒト細胞加工製品では、単回投与であっても生体内に一定期間存在することから、一般毒性を評価する場合には、「医薬品毒性試験法ガイドライン」の急性毒性評価を目的とした単回投与毒性試験ではなく、反復投与毒性試験のガイドラインを参考に、性、動物数、観察及び検査項目等を設定することが適切である。

また、医薬品では、生理機能に対する望ましくない薬力学的作用を検討するために安全性薬理試験が実施されるが、ヒト細胞加工製品では、ヒトへの外挿性に乏しく量的なリスク評価が困難であること、また「安全性薬理試験ガイドライン」(平成13年6月21日付け医薬審発第902号)の適用範囲が医薬品であることを考慮すると、当該試験ガイドラインに記載されている試験(評価)項目を、そのままヒト細胞加工製品に適用することは適切ではない。ただし、治験開始前には、ヒト細胞加工製品の特性や一般毒性試験成績を踏まえ、主要な生理的機能(中枢神経系、心血管系及び呼吸器系)に対する特段の懸念がないことを確認することに留意する必要がある。

3.2.造腫瘍性試験について

ヒト細胞加工製品には、製造工程における細胞の分離、人為的な増殖、薬剤処理、遺伝子工学的改変等の影響により、構成細胞が生体内で異所性組織形成や腫瘍形成を引き起こす懸念があるため、造腫瘍性試験による評価が検討される。ヒト細胞加工製品に関する造腫瘍性の懸念については、細胞の分化段階、加工方法、培養期間、類似品の実績等によって異なると考えられる。概して、ES/iPS細胞、体性幹細胞、体細胞の順に最終製品の悪性形質転換(意図しない増殖性や形質の変化等)のリスクは高く、さらにES/iPS細胞由来の製品では、多能性幹細胞の残存による奇形腫形成のリスクについても評価することが重要である(図1、文献9)。一方、造腫瘍性に関する懸念がさらに低いと考えられる骨髄由来の間葉系幹細胞や体細胞由来の製品については、必ずしもin vivoの造腫瘍性試験が必要ない場合も考えられる。ヒト細胞加工製品の造腫瘍性試験としては、核型分析試験や軟寒天コロニー形成試験等のin vitro試験や、免疫不全動物への移植によるin vivo試験等が知られているが、開発する製品における造腫瘍性の懸念の程度に応じて、ケース・バイ・ケースで検討することに留意が必要である。特に、in vivoの造腫瘍性試験を立案する場合には、以下の点に留意していただきたい。

図1 細胞加工製品の造腫瘍性リスク

3.2.1.動物種の選択

造腫瘍性試験における動物種の選択では、まず異種免疫反応を回避することが重要になるが、腫瘍発生に関する試験動物の背景データ、使用実績等を踏まえ、免疫不全マウス(ヌード、SCID、NOD/SCID/γCnul l等)を利用することが一般的である。免疫不全マウスでは臨床適用経路による評価が手技的に困難な場合には、免疫不全ラットを利用することも一案と考えられる。なお、一般毒性試験と同様に、動物種は1種で評価可能と考える。

3.2.2.動物数

造腫瘍性試験の動物数については、現時点では医薬品のがん原性試験のように統計学的観点から設定することは困難と考えられる。したがって、一般毒性試験等で通常設定される1群あたりの動物数(最終評価の段階で10匹/群)を目安に設定することが実際的である。

3.2.3.用法・用量

3.2.3.1.用量

ヒト細胞加工製品の造腫瘍性試験では、多能性幹細胞又は悪性形質転換細胞の残存を確認するために、最大耐用量(MTD)、投与可能最大量(MFD)又は動物福祉を考慮し、可能な限り多くの細胞数を投与することが重要である。また、造腫瘍性のポテンシャルを確認するためには、対照群(陰性)と投与群の2群で評価可能である。また、対照群(陽性)については、造腫瘍性に関する特性はヒト細胞加工製品毎に異なると考えられることから、投与手技等の技術的な懸念がない限り、汎用される細胞株(Hela細胞等)を利用する意義は低い。

3.2.3.2.投与回数

免疫不全動物で腫瘍を形成させるためには、一定数以上のがん細胞が移植部位に存在する必要があるとされる。造腫瘍性を有する細胞の移植数が少ない場合、移植部位における腫瘍形成能の閾値を下回り、造腫瘍性が見かけ上陰性と判定され、適切な評価が実施されてない懸念がある。したがって、造腫瘍性試験では、臨床での用法・用量によらず、可能な限り多くの細胞数を単回移植することが適切と考える。

3.2.3.3.投与経路

ヒト細胞加工製品の造腫瘍性試験では、造腫瘍性を評価する細胞に応じて、以下の観点から投与経路を選択することは重要である。

・ 多能性幹細胞の残存リスク

ES/iPS細胞由来の製品については、ヒト多能性幹細胞の残存を検出するために、奇形腫形成能を評価する試験として実績のある免疫不全マウスへの背部皮下への移植が望ましい。他の投与経路により奇形腫形成能を評価する場合には、免疫不全マウスへの背部皮下移植以上の検出感度が得られるようにすることに留意が必要である。

・ 悪性形質転換細胞のリスク

最終製品の分化誘導(製造)過程で生じる懸念のある悪性形質転換細胞は、移植部位の微小環境により影響を受ける可能性があることから、悪性形質転換細胞のリスクは、臨床適用経路により評価することが適切である。しかしながら、臨床適用経路による評価が技術的に困難な場合には、背部皮下移植等、他の投与経路による評価も考えられるが、その場合には、投与経路の差違による影響(妥当性)を十分に説明することが重要である。

3.2.4.試験期間

造腫瘍性試験の試験期間は、造腫瘍性の懸念の程度に応じて、製品毎に検討することが適切である。例えば、当該懸念が高いES/iPS細胞由来の製品については、悪性形質転換細胞のリスクを評価するためには、試験動物において移植細胞が確認できなくなるまでの期間、又は試験に用いる動物種における自然発生病変や死亡率が評価に影響を与えない最長期間を設定することが適切である。一方、多能性幹細胞の残存による奇形腫形成のリスクを評価するためには、これらのアプローチでなくとも、公表論文等で試験期間が確立されている場合には、その試験期間を設定することも可能である。より造腫瘍性の懸念が低いと考えられる体性幹細胞由来の製品については、現時点ではWHOガイドラインTRS978(文献10)で推奨される試験期間(4~16週)を目安に設定し、病理組織学的検査にて、細胞異型や細胞増殖等がないことを確認するアプローチも考えられる。

3.3.非細胞成分の安全性評価

ヒト細胞加工製品には、化成品(DMSO等)、バイオテクノロジー応用医薬品(以下、「バイオ医薬品」)、又はスキャフォールド等の非細胞成分が意図して加えられることがある。非細胞成分の安全性については、各成分の特性や含有量を踏まえ、公表データやヒト細胞加工製品の一般毒性試験から得られた情報を十分活用し、可能な限り理化学的手法によって評価することが適切である。その上で、非細胞成分に注目した非臨床安全性試験を別途実施する必要が生じた場合には、化成品であれば「医薬品の臨床試験及び製造販売承認申請のための非臨床安全性試験の実施についてのガイダンスについて」(平成22年2月19日付け薬食審査発0219第4号)(ICH―M3(R2))、バイオ医薬品であれば「バイオテクノロジー応用医薬品の非臨床における安全性評価について」(平成24年3月23日付け薬食審査発0323第1号)(ICH―S6(R1)、スキャフォールド等の材料であれば「医療機器の製造販売承認申請等に必要な生物学的安全性評価の基本的考え方について」(平成24年3月1日付け薬食機発0301第20号)等のガイドラインを参考に、非臨床安全性試験を立案することが適切である。なお、重篤な疾患(末期がん等)を適応症とする場合にはICH―M3(R2)や「抗悪性腫瘍薬の非臨床評価に関するガイドラインについて」(平成22年6月4日付け薬食審査発0604第1号)(ICH―S9)を参考に、非臨床安全性試験の省略や簡略化も可能である。

3.4.製造工程由来不純物の安全性評価

製造工程由来不純物については、不純物に起因するリスクを特定する前に、まずは製造方法に関する情報(原料及び材料、製造関連物質、製造工程、最終製品の品質管理等)を踏まえ、可能な限り除去することが重要である。その上で、公表データや最終製品の非臨床安全性試験から得られた情報をもとに、可能な限り理化学的手法によって安全性を評価することが適切である。公表データとしては、例えば、化成品やバイオ医薬品の毒性プロファイル(無毒性量や最小薬理作用量等)、ヒト内因性物質に関する情報(血中濃度等)、ヒトへの使用実績(医薬品や添加物としての使用前例、許容摂取量等)、不純物に関するICHガイドライン(「医薬品の残留溶媒ガイドラインについて」(平成10年3月30日付け医薬審第307号)(ICH―Q3C)、「医薬品の元素不純物ガイドラインについて」(平成27年9月30日付け薬食審査発0930第4号)(ICH―Q3D)、「潜在的発がんリスクを低減するための医薬品中DNA反応性(変異原性)不純物の評価及び管理ガイドラインについて」(平成27年11月10日付け薬生審査発1110第3号)(ICH―M7)等)、毒性学的な概念(毒性学的懸念の閾値等)などが含まれる。これらのアプローチを利用してもヒトでの安全性が評価できない場合には、非細胞成分と同様に、不純物に着目した非臨床安全性試験を実施することが適切である。

4.臨床試験

4.1.基本的考え方

ヒト細胞加工製品は、製品品質に不均質性があるという点や未知のリスクがあるという点で医薬品や医療機器と異なっており、臨床試験を計画する際には個々の製品の特徴を考慮する必要がある。例えば、被験者から細胞・組織の採取が必要となる製品、試験中に製造期間を必要とする製品、長期間にわたり体内に残存することが想定される製品等があり、これらの特徴を有する製品の臨床試験では、臨床試験デザインや安全性のモニタリング等において医薬品の臨床試験とは異なる方法の検討が必要となることがある。

一方で、医薬品及び医療機器と共通点を有する再生医療等製品も存在し、そのような製品では医薬品及び医療機器の臨床試験に関する基本的考え方を当てはめることができる。臨床試験デザイン、投与方法、有効性及び安全性の評価方法において、類似する医薬品及び医療機器の考え方を参考にしつつ個々の再生医療等製品の特徴を踏まえて試験計画を考えることが可能である。

ヒト細胞加工製品のベネフィット・リスクを検討する際の基本的考え方は、医薬品及び医療機器と大きく異なるものではない。したがって、開発全体を考える際には、開発対象とする疾患における医薬品及び医療機器のベネフィット・リスクの考え方も参考に、再生医療等製品の特徴や特有のベネフィット・リスクを加味した上で、製品の全体的なベネフィット・リスクバランスを検討する必要がある。

4.2.対象集団及び試験デザイン

ヒト細胞加工製品の開発を考えるにあたり、基本的な開発相の考え方は「臨床試験の一般指針」(平成10年4月21日付け医薬審第380号)(ICH―E8)、臨床試験デザインに関する基本的考え方は「臨床試験のための統計的原則」(平成10年11月30日付け医薬審第1047号)(ICH―E9)、対照群の考え方は「臨床試験における対照群の選択とそれに関する諸問題」(平成13年2月27日付け医薬審発第136号)(ICH―E10)に示されているものが参考となる。また、First in Human試験において留意すべき点も「医薬品開発におけるヒト初回投与試験の安全性を確保するためのガイダンス」(平成24年4月2日付け薬食審査発0402第1号)に示されている考え方の多くは共通している。

4.2.1.ヒト初回投与試験を含む早期相の臨床試験について

ヒト細胞加工製品で被験者からの組織採取を必要とする製品があること及び未知のリスクが否定できないことから、主に被験者への侵襲及びリスクの観点から医薬品のように健康被験者でヒト初回投与試験を実施することが困難な場合がある。そのため、ヒト初回投与試験は開発対象としている疾患を有する被験者で実施されることが多く、安全性のみならず有効性に関する情報がヒト初回投与試験にて収集されることもある。この点において医薬品の開発相の考え方とは異なる部分があるため、再生医療等製品の早期相の臨床試験では、個々の製品の特徴が考慮された臨床試験デザインを検討する必要がある。特に、実施可能性の観点から開発全体において臨床試験にて評価できる被験者数が限られる場合には、有効性と安全性の両方の観点で1例の被験者から得られる情報を最大化するという視点で、有効性及び安全性に影響する要因(例えば、バイアスを生じうる標準治療の影響及びプラセボ効果、手術手技による影響)を考慮し開発早期の臨床試験を計画することが重要である。なお、開発早期から統計学的評価が可能な被験者数で臨床試験が実施できる場合は、医薬品における考え方を参考に試験計画を立てることが望ましい。

4.2.2.盲検化及びランダム化について

ヒト細胞加工製品では、被験者からの組織採取が必要となる製品があること及び医薬品と異なり被験者への投与方法が多様であること等から、盲検化の実施可能性が個々の製品により大きく異なる。被験者からの組織採取が不要で、静脈内投与等低侵襲な方法で投与可能な製品については、盲検化のためにプラセボ投与を検討することが可能である。一方で、投与に際して手術を必要とする製品については、シャム手術の侵襲性及び倫理性を踏まえ、盲検化の実施可能性を慎重に検討することが重要である。シャム手術による盲検化が実施困難な場合には、評価者盲検等の盲検性を高めるための他の方策を検討することが重要である。また、試験デザインを検討する際には、盲検化の要否のみを議論するのではなく、対照群の設定を含めてランダム化比較試験の要否について議論する必要がある。

参考:平成28年3月9日付け科学委員会報告書「プラセボ対照試験の現状と考え方(プラセボ対照試験に関する専門部会)」

4.2.3.対象集団の定義について

臨床試験への組み入れ後、被験者へ投与されるまでの間に製造が開始される製品では、臨床試験を計画する上で適格性評価と解析における集団定義を考慮することに留意が必要である。ヒト(自己)由来製品等では、製造期間中に被験者の状態が変化する可能性が考えられる場合には、臨床試験への組入れ及び細胞・組織採取のそれぞれの時点における適格性評価に加えて、製品を投与する時点で有効性及び安全性評価に適した被験者であることを再度確認するための適格性評価を行うことを検討することに留意が必要である。

4.2.4.対照群について

盲検化の有無にかかわらず、臨床試験においてより科学的に有効性及び安全性の情報を収集するためには、内部対照群の設定を検討することが重要である。製品の特徴等から内部対照群の設定が困難な場合には、外部対照群との比較が検討されることがあるが、ICH―E10に示されているように、外部対照群との比較には、バイアスを制御できないという根本的な問題があることから、結果から得られる説得力には限界がある。したがって、外部対照群との比較は、被験者からの組織採取が不要で静脈内投与等の低侵襲な方法で投与される製品では、製品が劇的な治療効果を有することが期待される場合及び疾患の通常の経過が十分に予測可能である場合に限定されるべきである。

また、さまざまな制約から対照群が設定できない場合においても、参考となる臨床データから有効性評価のための閾値を事前に設定する等の方策により、可能な限りの有効性評価方法を検討することは重要である。

ヒト細胞加工製品では、ときには臨床開発全体で有効性及び安全性評価のために集積可能な被験者数が限られる場合もある。このような条件下では、医薬品で用いられている標準的な評価方法が適用し難い場合もあり、希少疾病用医薬品等で用いられている領域毎の方法論が参考になる場合がある。

その場合には一定のエビデンスレベルを確保するための方策を検討することが必要となる。再生医療等製品の特性を踏まえた上で一定のエビデンスレベルを確保するためには、二重盲検が困難な場合においても評価者盲検を検討する、可能な限りバイアスの影響が少ない対照群を設定し、ランダム化を検討する、有効性評価項目では臨床的意義と客観性等を考慮する等が考えられる。

4.2.5.試験デザインに関するその他の留意事項

再生医療等製品では、製品品質に不均質性があるという特徴から品質及び製造に関する要因が臨床試験デザインに影響する場合がある。例えば、感染症に関する検査結果が判明する以前に製品を投与する必要がある場合、ヒト(自己)由来製品等で被験者の特性により製造される製品の量及び質が異なる場合、製造が失敗したことにより被験者への製品の投与ができなくなる場合等がある。これらへの対応は、開発対象となる疾患の特徴及び個々の製品の特徴に大きく依存することから、ケース・バイ・ケースでの対応が必要となる。

再生医療等製品では作用機序が単一ではないことも考えられるため、被験者に生じた有効性又は安全性に関連する変化について、関連の特異性や他の解釈の可能性について検討できる情報は重要であり、またそれらの変化について再現性を検討するのみならず他の知見との一致についても、最新の知見を参考に評価できるような試験デザインとしておくことが重要である。

4.3.用法及び用量

ヒト細胞加工製品では、有効性及び安全性の評価において用量反応関係を検討する意義はまだ確立されていない。有効性に関する用法及び用量の検討においては、少なくとも有効性が期待できる用法及び至適用量の探索は必要であり、製造販売承認申請する際の用法及び用量を適切に説明できるような情報について開発全体を通して収集することは重要である。安全性の観点からの用法及び用量の検討については、用量依存的なリスクの増大や反復投与に伴う免疫応答等の製品の特徴に応じたリスクを検討することに留意する必要がある。また、特殊な投与方法を用いる場合には投与方法に関連するリスクも評価しておくことは重要である。

4.4.有効性評価について

ヒト細胞加工製品の個々の製品毎に実施可能な試験デザインや製品の特徴に由来する臨床試験における評価の限界等を考慮した上で有効性の評価方法を検討する必要がある。

開発対象とする疾患や製品の特徴により、開発全体において臨床試験にて評価できる被験者数が限られる場合には、海外臨床試験成績等の情報を参考とするだけでなく、臨床試験から得られる情報を最大化できるように有効性の評価方法を検討することが重要となる。特に、治療の最終目的に相当する真のエンドポイント及び有効性を補足的に説明できる変化に鋭敏な代替エンドポイント(サロゲートエンドポイント)を適切に定義することは臨床試験から得られる情報を最大化するために有用である。さらに、組織又は臓器を修復するような特徴を有する製品において、製品の有効性を補足するために、製品が期待される性能や作用を発揮できていることが、画像評価やバイオマーカーにより確認できる場合には、これらの情報を活用することも有用である。

開発対象とする疾患や製品の特徴により、非盲検非対照試験で有効性を評価する場合には、可能な限り客観的な評価項目を設定することが望ましい。疾患によっては、真のエンドポイントを評価できるのが主観的な評価項目に限定される場合もあるが、そのような場合においても副次評価項目として客観的な評価項目を設定することで、有効性が治験製品の投与により得られたことの説明に役立つ情報を収集するという視点は重要である。

以上のような検討を踏まえても、有効性及び安全性の評価を極めて限られた例数で評価しなければならない場合には、個々の症例毎に医学的に総合的な評価ができるように情報収集をしておくことも有用である。特に、既存治療の乏しい領域において自然歴等を参考に有効性を評価する場合には、真のエンドポイントに関連する医学的な情報が収集されていることが必要となる。

ヒト細胞加工製品では作用機序が単一ではないことも考えられるため、被験者に生じた有効性又は安全性に関連する変化について、関連の特異性や他の解釈の可能性について検討できる情報は重要であり、またそれらの変化について再現性を検討するのみならず他の知見との一致についても最新の知見を参考に評価できるようにしておくことが重要である。

4.5.安全性評価について

ヒト細胞加工製品は、医薬品や医療機器と異なり、細胞・組織採取と製造期間が必要になるなど個々の製品の特徴により、臨床適用に必要な安全性情報が異なることが想定される。

「再生医療等製品の臨床試験の実施の基準に関する省令」(平成26年7月30日付け厚生労働省令第89号)に示されているように、有害事象は治験製品又は製造販売後臨床試験製品を使用された被験者に生じた全ての疾病若しくは障害又はこれらの徴候であるが、細胞・組織採取に伴う製品における有害事象は、「再生医療等製品の臨床試験の実施の基準に関する省令の施行について」(平成26年8月12日付け薬食発0812第16号)にあるとおり、治験製品又は製造販売後臨床試験製品の製造のために実施する細胞・組織の採取において生じた好ましくない又は意図しない疾病又は障害並びにその兆候も含むものであることから、これらを安全性情報として収集する必要がある。なお、ここでの有害事象には、コンビネーション製品における機械器具の不具合による有害事象も含む。

ヒト細胞加工製品では、投与した細胞の生着等のリスクがあることから、安全性をモニタリングする期間及び情報収集の方法については、個々の製品の特徴を踏まえて検討することに留意が必要である。投与された被験者の体内から消失するまでの期間が明らかでない製品では、少なくとも1年程度は安全性情報を臨床試験に規定する形で収集した上で、より長期的なフォローアップについて個々の製品の特性に応じて検討することが重要である。

例えば、ヒト(自己)由来製品等の場合、細胞・組織採取後から治験製品投与前までに発生した有害事象は、治験製品の投与により生じた有害事象ではないことは明らかであるが、臨床適用する際には細胞・組織採取から治験製品投与までが一連の処置となることから、ベネフィット・リスクを検討するにあたり重要な意味を持つ情報となる。特に細胞・組織は採取されたものの、被験者に起因する要因又は治験製品に起因する要因で治験製品が投与できなかった被験者に関する安全性情報は細胞加工製品の特徴を反映する情報となることから、適切に情報収集できるように治験実施計画書に規定しておくことが望ましい。

4.6.その他の留意事項

4.6.1.日本人での臨床データ

ヒト細胞加工製品の開発においても、海外臨床試験成績を参考にする場合や国際共同治験による開発を行う場合には、医薬品と同様に民族的要因を考慮する必要がある。「外国で実施された医薬品の臨床試験データの取扱いについて」(平成10年8月11日付け医薬発第739号)(ICH―E5)で示されている内因性民族的要因及び外因性民族的要因を参考に、日本人及び日本の医療環境における有効性及び安全性を説明できるように留意する必要がある。

4.6.2.条件及び期限付承認制度と開発のライフサイクル

再生医療等製品には条件及び期限付承認制度があることから、一連の臨床開発のライフサイクルの中で、最終的に製品が患者にもたらすベネフィットを定義した上で、開発早期の探索的臨床試験で得られる一定程度の有効性に関する情報と、製造販売後承認条件評価で得られる有効性及び安全性の検証に関する情報を検討することが重要である。すなわち、条件及び期限付承認での上市は、その後にひかえている通常の承認審査、再審査へとつづく臨床開発のライフサイクルの途上と捉えることが適当という意味である。したがって、条件及び期限付承認を経る臨床開発では、上市後の通常の承認審査に向けて、製造販売後承認条件評価における有効性及び安全性の評価方法について、実施可能性のある計画を製造販売承認申請前に検討しておくことが重要である。条件及び期限が付された上で承認された場合、医療現場において当該製品を適用できる患者に対し適用しないことへの抵抗感は条件及び期限付承認前よりも大きいものになると予想されるため、製品を適用しない場合における自然予後等に関する情報の取得は開発前や途中よりも困難になる可能性がある。これらの一連の臨床開発のライフサイクルにおける有効性及び安全性に関する情報の収集方法及び評価方法については、今後更なる議論が望まれている。

製造販売後承認条件評価の一環として自然歴等の比較対照群を前向きに取得することが不可能な場合、選択できる有効性評価方法が限定され、さらに利用できるエンドポイントも限定されることになる。それらにより、臨床的有効性を説明することが困難な試験デザインとなった場合、製品が患者にもたらすベネフィットを説明することができなくなるため、通常の承認審査において、製造販売承認に向かって進めること自体が困難になる。

5.文献

1)平成24年度「日本薬局方の試験法等に関する研究」研究報告 細胞基材に対するマイコプラズマ否定試験のPCR法の見直しに関する研究(医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス、Vol.45,No.5,442―451,2014)

2)ヒト(自己)由来細胞や組織を加工した医薬品又は医療機器の品質及び安全性の確保について(平成20年2月8日付け薬食発第0208003号)

3)ヒト(同種)由来細胞や組織を加工した医薬品又は医療機器の品質及び安全性の確保について(平成20年9月12日付け薬食発第0912006号)

4)ヒト(自己)体性幹細胞加工医薬品等の品質及び安全性の確保について(平成24年9月7日付け薬食発0907第2号)

5)ヒト(同種)体性幹細胞加工医薬品等の品質及び安全性の確保について(平成24年9月7日付け薬食発0907第3号)

6)ヒト(自己)iPS(様)細胞加工医薬品等の品質及び安全性の確保について(平成24年9月7日付け薬食発0907第4号)

7)ヒト(同種)iPS(様)細胞加工医薬品等の品質及び安全性の確保について(平成24年9月7日付け薬食発0907第5号)

8)ヒトES細胞加工医薬品等の品質及び安全性の確保について(平成24年9月7日付け薬食発0907第6号)

9)ヒト細胞加工製品に関する非臨床安全性評価について(再生医療、Vol.15,No.1,44―49,2016)

10)World Health Organization. Recommendations for the evaluation of animal cell cultures as substrates for the manufacture of biological medicinal products and for the characterization of cell banks. WHO technical report series, No 978 Annex 3. 2013