添付一覧
○ストレスチェック制度の施行を踏まえた当面のメンタルヘルス対策の推進について
(平成28年4月1日)
(基発0401第72号)
(都道府県労働局長あて厚生労働省労働基準局長通知)
(公印省略)
職場におけるメンタルヘルス対策については、平成26年6月に、労働安全衛生法(昭和47年法律第57号。以下「法」という。)が改正され、法第66条の10の規定により、事業者に労働者の心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)、医師による面接指導の実施及び事後措置の実施(以下「ストレスチェック制度」という。)等を義務付け、平成27年12月1日から施行されたところである。また、第13次労働災害防止計画においては「仕事上の不安、悩み又はストレスについて、職場に事業場外資源を含めた相談先がある労働者の割合を90%以上とする」「メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業場の割合を80%以上とする」「ストレスチェック結果を集団分析し、その結果を活用した事業場の割合を60%以上とする」との目標を定め、メンタルヘルス対策を重点的に推進しているところである。
さらに、社会問題となっている過労死等(業務における強い心理的負荷による精神障害を含む。)を防止するため、議員立法として制定された過労死等防止対策推進法(平成26年法律第100号)が、平成26年11月1日から施行され、同法に基づく「過労死等の防止のための対策に関する大綱」(令和3年7月30日閣議決定)においては、労働行政機関等における対策、調査研究、啓発、相談体制の整備等及び民間団体の活動に対する支援の五つの対策を重点的に実施していくことが示されている。
以上を踏まえ、当面のメンタルヘルス対策の進め方を下記のとおり定め、これに基づきメンタルヘルス対策を的確に推進されたい。
なお、本通達により平成21年3月26日付け基発第0326002号「当面のメンタルヘルス対策の具体的推進について」を廃止する。
記
第1 基本方針等
1 メンタルヘルス対策を取り巻く状況
厚生労働省実施の令和2年労働安全衛生調査(以下「2年調査」という。)によると、職業生活等において強い不安、ストレス等を感じる労働者は5割を超えており、また、メンタルヘルス不調により連続1か月以上休業した労働者がいた事業場は7.8%、退職した労働者がいた事業場は3.7%という結果となっている。このような状況を背景に、令和2年度において、精神障害による労災支給決定件数は増加傾向にあり、608件、脳・心臓疾患による労災支給決定件数は減少傾向にあるものの194件となっている。
一方、メンタルヘルス対策(メンタルヘルスケア)に取り組んでいる事業場の割合は、2年調査によると61.4%であり、第13次労働災害防止計画に掲げる80%の目標達成に向けてより一層の取組が必要である。また、パワーハラスメント対策に取り組んでいる事業場の割合についても、令和2年雇用均等基本調査によると79.5%であり、より一層の取組が必要である。
さらに、平成27年12月1日に施行された法第66条の10の規定に基づくストレスチェック制度の周知徹底及び法令に基づく適切な実施を徹底していく必要がある。
2 基本方針
メンタルヘルス対策は、一次予防(メンタルヘルス不調の未然防止)、二次予防(メンタルヘルス不調の早期発見・早期治療)、三次予防(メンタルヘルス不調者の職場復帰支援)を総合的に進めるべきものであるが、上記1の状況を踏まえ、当面は、ストレスチェック制度の履行確保をメンタルヘルス対策の最重点課題として位置付け、同制度の導入を契機として、事業場におけるメンタルヘルス対策が加速的に進むよう、計画的に取り組むこととする。
また、メンタルヘルス対策に取り組んでいない事業場のその主な理由として「専門スタッフがいない」及び「取り組み方が分からない」が挙げられていることを踏まえ、事業者に対する取組に当たっては、産業保健活動総合支援事業を始めとする各種支援事業の積極的な活用を図ることとする。
第2 実施事項
1 事業場に対する周知及び指導の実施等
(1) あらゆる機会を捉えたストレスチェック制度の周知の実施
平成27年12月1日に法第66条の10の規定に基づくストレスチェック制度が施行され、常時50人以上の労働者を使用する事業場に対してストレスチェック制度の実施が義務付けられたところであるが、引き続きあらゆる機会を捉えて、同制度の周知を図るとともに、下記3に掲げる国の支援事業についても情報提供を行うこと。
特に、ストレスチェックの結果を踏まえた就業上の措置の実施又は職場環境の改善として、必要に応じて事業主がパワーハラスメント対策を行う際に参考とすることができるよう、令和3年4月9日付け基発0409第2号、職発0409第3号、雇均発0409第2号「都道府県労働局における雇用環境・均等部(室)と労働基準部との連携及び雇用環境・均等部(室)と職業安定部等との連携について」(以下「連携通達」という。)記の第3の1に基づき、ハラスメント対策パンフレット等を活用して、併せて周知を行うことが望ましいこと。
(2) ストレスチェック制度に関する指導の実施
ア 集団指導及び個別指導
ストレスチェック制度の内容や実施方法に関する集団指導や個別指導を実施すること。
これらの指導の際には、ストレスチェック制度の実施に困難を生じている事業場等に対して、具体的な進め方に関し、「心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」(平成27年心理的な負担の程度を把握するための検査等指針公示第1号)に基づき助言・指導を行うこと。その際には、事業場の実態やニーズを踏まえて、ストレスチェック制度を含めたメンタルヘルス対策の全般的な取組方法について、「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(平成18年健康保持増進のための指針公示第3号)に基づき助言・指導を行うこと。
イ 監督指導
監督指導において、ストレスチェック制度の実施の有無等について確認し、必要な指導等を行うこと。
(3) 精神障害等による業務上の疾病等が発生した場合の再発防止対策等の指導の実施
監督指導又は個別指導において、精神障害又は脳・心臓疾患(以下「精神障害等」という。)による業務上の疾病が発生した事業場に対して、再発防止の措置を行うよう必要な指導を行うこと。
再発防止の措置に当たっては、衛生委員会又は安全衛生委員会において法第18条第1項第3号の規定に基づき、「労働災害の原因及び再発防止対策」について調査審議を行わせること。
なお、監督指導又は個別指導において、精神障害等による複数業務要因災害として支給決定がなされた、被災労働者を使用していた各事業場に対しては、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(平成30年1月策定、令和2年9月改定)等を活用し、副業・兼業を行う者の必要な健康確保措置の実施について周知啓発を行うとともに、メンタルヘルス対策の取組が不十分である場合には、必要な指導を行うこと。
(4) 衛生管理特別指導事業場に対する指導の実施
衛生管理特別指導事業場に対する指導については、平成29年3月31日付け基発0331第76号「今後における安全衛生改善計画の運用について」により行うこと。
(5) メンタルヘルス対策のモデル事業場の育成・把握
都道府県労働局、労働基準監督署において、メンタルヘルス対策の取り組みを積極的に行い他の模範となる事業場(モデル事業場)を育成し、又は把握し、関係者に対して広く周知すること。
なお、モデル事業場の育成に関しては、上記(4)の衛生管理特別指導事業場に対する指導のしくみを活用することが可能であること。
2 業界団体等の自主的活動等の促進
(1) 業界団体等における自主的活動の促進
業界団体・地域団体・労働団体・労働災害防止団体等に対して、例えばメンタルヘルス対策に関する教育研修の合同実施や、ストレスチェック制度の好事例の収集・共有など自主的な活動を行うよう働きかけを行うとともに、これら団体の各種会議、行事、広報紙等の機会又は媒体を活用し、周知を行うこと。
また、精神障害等による労災請求事案が多い医療・福祉、運輸業、建設業、卸売業・小売業、情報通信業等の業種を重点として、業界団体に対し自主的な取組を行うよう指導すること。
(2) 啓発活動の促進
ストレスチェック制度を中心とするメンタルヘルス対策への取組についての社会的機運の醸成を図るため、地方労働審議会や労働災害防止に関する協議会等地域の関係労使等の代表者が参集する機会を活用する等により、ストレスチェック制度の趣旨・目的や、事業者・労働者にとっての意義などを含めたメンタルヘルス対策の重要性等について説明を行い、例えばキャンペーンや合同宣言を行う等連携した取組への働きかけを行うこと。
3 支援事業の活用等
(1) 支援事業の活用促進
ストレスチェック制度を含めたメンタルヘルス対策やパワーハラスメント対策について、以下の国の支援事業を実施しているので、事業場に対する指導等に当たっては、事業場の取り組むべき課題に対応した支援事業を教示し、これらの活用を促すこと。
ア メンタルヘルス対策に関する専門のポータルサイト「こころの耳」やパンフレットの配布等によるメンタルヘルス対策に関する情報の提供及び電話・電子メール・SNSによる相談対応
イ 独立行政法人労働者健康安全機構及び都道府県に設置されている産業保健総合支援センターによる各種事業(下記(2)参照)
ウ 連携通達記の第3の1に基づき、ハラスメント対策に関する専門のポータルサイト「あかるい職場応援団」やハラスメント対策パンフレット等の配布による情報の提供のほか、必要に応じてパワーハラスメント対策を所管する雇用環境・均等部(室)の教示
エ 副業・兼業を行う者がいる場合には、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(平成30年1月策定、令和2年9月改定)等の配布による副業・兼業を行う者の適切な健康確保措置に関する情報の提供及び労働者が自ら本業及び副業・兼業の労働時間や健康状態を管理できるアプリ「マルチジョブ健康管理ツール」の周知
(2) 産業保健総合支援センターとの連携
ア 独立行政法人労働者健康安全機構及び産業保健総合支援センター・地域窓口(地域産業保健センター)においては、次に掲げるメンタルヘルスに関する各種支援を実施し、地域におけるメンタルヘルス対策を支援するための中核的役割を担っている。
① 産業保健スタッフ等関係者に対する研修の実施(産業保健総合支援センター)
② 事業場に対するメンタルヘルス対策の周知や情報の提供(産業保健総合支援センター)
③ 事業場からのメンタルヘルス対策・職場復帰支援に関する相談対応(産業保健総合支援センター)
④ 事業場のメンタルヘルス対策への取組に対する訪問支援(産業保健総合支援センター)
⑤ 事業場に対し上記(1)の支援事業及び平成20年6月19日付け基安労発第0619001号「メンタルヘルス対策における事業場外資源との連携の促進について」に基づく登録相談機関やその他の事業場外資源の紹介・教示(産業保健総合支援センター)
⑥ 小規模事業場における労働者のメンタルヘルスに関する相談・指導の実施(地域産業保健センター)
⑦ 小規模事業場の長時間労働者及び高ストレス者に対する面接指導の実施(地域産業保健センター)
⑧ 小規模事業場におけるストレスチェック制度の実施、事業場におけるストレスチェック実施後の集団分析結果を踏まえた職場環境改善の実施、事業場における「心の健康づくり計画」の策定、副業・兼業を行う労働者に対する健康診断の実施等の促進のための助成金の支給(労働者健康安全機構本部)
⑨ 関係行政機関等とのネットワーク形成・連携(産業保健総合支援センター)
イ 独立行政法人労働者健康安全機構及び産業保健総合支援センターとの連携においては、以下に留意すること。
① 文書要請、説明会の開催等によるメンタルヘルス対策の周知に当たっては、産業保健総合支援センターと連携を図ること。
② 事業場がメンタルヘルス対策・職場復帰支援に取り組むに当たっての相談先として、産業保健総合支援センターの周知等を行うこと。
③ 事業場に対する指導等に当たっては、産業保健総合支援センターによる事業場への支援を受けるよう勧奨等を行うこと。
4 関係行政機関等との連携
(1) 関係行政機関との連携
自殺予防を含むメンタルヘルス対策については、職域のみの取組では解決されないこと及び家族を含む地域での取組も重要であることから、その一体的推進を図るため、地方公共団体の地域保健主管課、自殺対策主管課、保健所、精神保健福祉センター等と連携した取組を行うこと。
(2) 関係機関との連携
上記(1)の行政機関はもとより、産業保健総合支援センター(地域産業保健センターを含む。)、各医師会、労災病院(勤労者メンタルヘルスセンター、治療就労両立支援センターを含む。)、その他医療機関や相談の専門機関等の事業場外資源とのネットワークづくりを行い、連携した取組を行うこと。
第3 関連通達の改正
平成18年3月17日付け基発第0317008号「過重労働による健康障害防止のための総合対策について」を別添の新旧対照表のとおり改正する。
[別添]
参考
○過重労働による健康障害防止のための総合対策について
(平成18年3月17日)
(基発第0317008号)
(都道府県労働局長あて厚生労働省労働基準局長通知)
改正 平成20年 3月 7日基発 第0307006号
同 23年 2月16日基発0216第 3号
同 28年 4月 1日基発0401第 72号
(公印省略)
長時間にわたる過重な労働は、疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられ、さらには、脳・心臓疾患の発症との関連性が強いという医学的知見が得られている。働くことにより労働者が健康を損なうようなことはあってはならないものであり、この医学的知見を踏まえると、労働者が疲労を回復することができないような長時間にわたる過重労働を排除していくとともに、労働者に疲労の蓄積を生じさせないようにするため、労働者の健康管理に係る措置を適切に実施することが重要である。
このため、平成14年2月12日付け基発第0212001号「過重労働による健康障害防止のための総合対策について」(以下「旧総合対策」という。)に基づき所要の対策を推進してきたところであるが、昨年11月、働き方の多様化が進む中で、長時間労働に伴う健康障害の増加など労働者の生命や生活にかかわる問題が深刻化しており、これに的確に対処するため、必要な施策を整備充実する労働安全衛生法等の改正が行われたところである。
今般、今回の労働安全衛生法等の改正の趣旨を踏まえ、旧総合対策に基づく措置との整合性、一貫性を考慮しつつ、新たに標記の総合対策を別紙1のとおり策定したので、各局においては、同総合対策に基づく措置の周知徹底を図り、改正労働安全衛生法の円滑かつ着実な施行と併せて、過重労働による健康障害防止対策のなお一層の推進に努められたい。
なお、旧総合対策は廃止する。
おって、関係団体に対し、別紙2のとおり要請を行ったので、了知されたい。
(別紙1)
過重労働による健康障害防止のための総合対策
1 目的
長時間にわたる過重な労働は、疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられ、さらには、脳・心臓疾患の発症との関連性が強いという医学的知見が得られている。働くことにより労働者が健康を損なうようなことはあってはならないものであり、この医学的知見を踏まえると、労働者が疲労を回復することができないような長時間にわたる過重労働を排除していくとともに、労働者に疲労の蓄積を生じさせないようにするため、労働者の健康管理に係る措置を適切に実施することが重要である。
このため、厚生労働省においては、平成14年2月から「過重労働による健康障害防止のための総合対策」(以下「旧総合対策」という。)に基づき所要の対策を推進してきたところであるが、働き方の多様化が進む中で、長時間労働に伴う健康障害の増加など労働者の生命や生活にかかわる問題が深刻化しており、これに的確に対処するため、必要な施策を整備充実する労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)等の改正が行われ、平成18年4月から施行されているところである。
加えて、労働者のメンタルヘルス不調の一次予防を目的として、平成26年6月の労働安全衛生法の改正により「ストレスチェック制度」が導入され、平成27年12月から施行されているところである。
さらに、社会問題となっている過労死等を防止するため、同じく平成26年6月に過労死等防止対策推進法(平成26年法律第100号)が議員立法として制定され、同年11月1日から施行されており、同法に基づき平成27年7月には「過労死等の防止のための対策に関する大綱」が定められ、調査研究、啓発、相談体制の整備、民間団体の活動に対する支援の四つの対策を重点的に実施していくことが示されたところである。
本総合対策は、上記の労働安全衛生法等の改正及び過労死等防止対策推進法の制定の趣旨を踏まえ、旧総合対策に基づく措置との整合性、一貫性を考慮しつつ、事業者が講ずべき措置(別添「過重労働による健康障害を防止するため事業者が講ずべき措置」をいう。以下同じ。)を定めるとともに、当該措置が適切に講じられるよう国が行う周知徹底、指導等の所要の措置をとりまとめたものであり、これらにより過重労働による健康障害を防止することを目的とするものである。
2 過重労働による健康障害を防止するため事業者が講ずべき措置等の周知徹底
都道府県労働局及び労働基準監督署は、集団指導、監督指導、個別指導等のあらゆる機会を通じて、リーフレット等を活用した周知を図るとともに、キャンペーン月間の設定等により、事業者が講ずべき措置の内容について、事業者に広く周知を図ることとする。
なお、この周知に当たっては、関係事業者団体等並びに産業保健総合支援センター等も活用することとする。
3 過重労働による健康障害防止のための窓口指導等
(1) 36協定における時間外労働の限度時間に係る指導の徹底
ア 労働基準法(昭和22年法律第49号)第36条に基づく協定(以下「36協定」という。)の届出に際しては、労働基準監督署の窓口において次のとおり指導を徹底する。
(ア) 「労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準」(平成10年労働省告示第154号。以下「限度基準」という。)に規定する限度時間を超える36協定については、限度時間を遵守するよう指導を行う。特に、限度基準第3条ただし書又は第4条に定める「特別の事情」を定めた36協定については、この「特別の事情」が臨時的なものに限られるものとするよう指導する。また、過重労働による健康障害を防止する観点から、限度時間を超える一定の時間まで延長する労働時間をできる限り最小限のものとするようにリーフレット等を活用し指導する。
(イ) 限度基準に適合し、月45時間を超える時間外労働を行わせることが可能である36協定であっても、実際の時間外労働については月45時間以下とするようリーフレット等を活用し指導する。
(ウ) 休日労働を行うことが可能な36協定であっても、実際の休日労働をできる限り最小限のものとするようリーフレット等を活用して指導する。
イ 限度基準に規定する限度時間を超える36協定について、労働者代表からも事情を聴取した結果、労使当事者間の検討が十分尽くされていないと認められた場合などには、協定締結当事者である労働者側に対しても必要な指導を行う。
(2) 裁量労働制に係る周知指導
裁量労働制に係る届出に際しては、労働基準監督署の窓口において、リーフレット等を活用して、事業者が講ずべき措置の内容を周知指導する。
(3) 労働時間等の設定の改善に向けた自主的取組の促進に係る措置
限度基準に規定する限度時間を超える時間外労働を行わせることが可能な36協定を締結している事業場であって、労働時間等の設定の改善に向けた労使による自主的取組の促進を図ろうとするものに対し、都道府県労働局に配置されている働き方・休み方改善コンサルタントの活用が図られるよう措置する。
4 過重労働による健康障害防止のための監督指導等
時間外・休日労働時間(休憩時間を除き1週間当たり40時間を超えて労働させた場合におけるその超えた時間をいう。以下同じ。)が月45時間を超えているおそれがある事業場に対しては、次のとおり指導する。
(1) 産業医、衛生管理者、衛生推進者等の選任及び活動状況並びに衛生委員会等の設置及び活動状況を確認し、必要な指導を行う。
(2) 健康診断、健康診断結果についての医師からの意見聴取、健康診断実施後の措置、保健指導等の実施状況について確認し、必要な指導を行う。
(3) 労働者の時間外・休日労働時間の状況を確認し、労働安全衛生法第66条の8及び第66条の9の規定等に基づく長時間労働者に対する面接指導等(医師による面接指導及び面接指導に準ずる措置をいう。以下同じ。)及びその実施後の措置等(別添の5の(2)のアに掲げる措置をいう。)を実施するよう指導を行う。
(4) (3)の面接指導等が円滑に実施されるよう、手続等の整備(別添の5の(2)のイに掲げる措置をいう。)の状況について確認し、必要な指導を行う。
(5) 事業者が(3)の面接指導等(別添5の(2)のアの(ア)の[1]から[3]までに掲げる措置に限る。)に係る指導に従わない場合には、労働安全衛生法第66条第4項に基づき、当該面接指導等の対象となる労働者に関する作業環境、労働時間、深夜業の回数及び時間数、過去の健康診断及び面接指導の結果等を踏まえた労働衛生指導医の意見を聴き、臨時の健康診断の実施を指示するとともに、厳正な指導を行う。
(6) 事業場が常時50人未満の労働者を使用するものである場合であって、近隣に専門的知識を有する医師がいない等の理由により、事業者自ら医師を選任し、面接指導を実施することが困難なときには、産業保健総合支援センターの地域窓口(以下「地域産業保健センター」という。)の活用が可能であることを教示する。
(7) 心理的な負担の程度を把握するための検査(以下「ストレスチェック」という。)、高ストレス者に対する医師による面接指導及び事後措置(医師からの意見聴取及び意見を勘案した就業上の措置)(以上をまとめて「ストレスチェック制度」という。)を実施するよう指導する。
また、ストレスチェック制度が当分の間努力義務とされている常時50人未満の労働者を使用する事業場に対しては、独立行政法人労働者健康安全機構が行うストレスチェック制度に関する助成金や、地域産業保健センターの医師による面接指導の活用が可能であることを教示する。
(8) 上記のほか、長時間労働の抑制を図るため、36協定により定められた延長することができる時間を超えて時間外労働が行われている場合や限度基準に適合していない場合などのほか、中小事業主以外の事業主に係る労働基準法第37条第1項ただし書に規定する割増賃金が支払われていないなどの場合には、必要な指導を行う。
5 過重労働による業務上の疾病が発生した場合の再発防止対策を徹底するための指導等
(1) 過重労働による業務上の疾病を発生させた事業場に対する再発防止対策の徹底の指導
過重労働による業務上の疾病を発生させた事業場については、当該疾病の原因の究明及び再発防止の措置を行うよう指導する。
(2) 司法処分を含めた厳正な対処
過重労働による業務上の疾病を発生させた事業場であって労働基準関係法令違反が認められるものについては、司法処分を含めて厳正に対処する。
(別添)
過重労働による健康障害を防止するため事業者が講ずべき措置
1 趣旨
長時間にわたる過重な労働は疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられ、さらには、脳・心臓疾患の発症との関連性が強いという医学的知見が得られている。働くことにより労働者が健康を損なうようなことはあってはならないものであり、当該医学的知見を踏まえると、労働者が疲労を回復することができないような長時間にわたる過重労働を排除していくとともに、労働者に疲労の蓄積を生じさせないようにするため、労働者の健康管理に係る措置を適切に実施することが重要である。
このため、厚生労働省においては、平成14年2月から「過重労働による健康障害防止のための総合対策」(以下「旧総合対策」という。)に基づき所要の対策を推進してきたところであるが、今般、働き方の多様化が進む中で、長時間労働に伴う健康障害の増加など労働者の生命や生活にかかわる問題が深刻化しており、これに的確に対処するため、必要な施策を整備充実する労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)等の改正が行われたところである。
本措置は、このような背景を踏まえ、過重労働による労働者の健康障害を防止することを目的として、以下のとおり、事業者が講ずべき措置を定めたものである。
2 時間外・休日労働時間の削減
(1) 時間外労働は本来臨時的な場合に行われるものであり、また、時間外・休日労働時間(休憩時間を除き1週間当たり40時間を超えて労働させた場合におけるその超えた時間をいう。以下同じ。)が月45時間を超えて長くなるほど、業務と脳・心臓疾患の発症との関連性が強まるとの医学的知見が得られている。このようなことを踏まえ、事業者は、労働基準法(昭和22年法律第49号)第36条に基づく協定(以下「36協定」という。)の締結に当たっては、労働者の過半数で組織する労働組合又は労働者の過半数を代表する者とともにその内容が「労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準」(平成10年労働省告示第154号。以下「限度基準」という。)に適合したものとなるようにするものとする。
また、限度基準第3条ただし書又は第4条に定める「特別の事情」(限度時間を超える一定の時間まで労働時間を延長することができる事情)を定めた36協定については、この「特別の事情」が臨時的なものに限るとされていることに留意するものとする。さらに、月45時間を超えて時間外労働を行わせることが可能である場合であっても、事業者は、実際の時間外労働を月45時間以下とするよう努めるものとする。
さらに、事業者は、休日労働についても削減に努めるものとする。
(2) 事業者は、「労働時間の適正な把握のための使用者が講ずべき措置等に関する基準について」(平成13年4月6日付け基発第339号)に基づき、労働時間の適正な把握を行うものとする。
(3) 事業者は、裁量労働制対象労働者及び管理・監督者についても、健康確保のための責務があることなどに十分留意し、当該労働者に対し、過重労働とならないよう十分な注意喚起を行うなどの措置を講ずるよう努めるものとする。
3 年次有給休暇の取得促進
事業者は、年次有給休暇を取得しやすい職場環境づくり、計画的付与制度の活用等により年次有給休暇の取得促進を図るものとする。
4 労働時間等の設定の改善
労働時間等の設定の改善に関する特別措置法(平成4年法律第90号)第4条第1項に基づく、労働時間等設定改善指針(平成20年厚生労働省告示第108号)においては、事業主及びその団体が労働時間等の設定の改善(労働時間、休日数及び年次有給休暇を与える時季その他の労働時間等に関する事項について労働者の健康と生活に配慮するとともに多様な働き方に対応したものへと改善することをいう。)について適切に対処するために必要な事項を定めている。また、平成22年3月19日の改正により、年次有給休暇を取得しやすい環境の整備に関し事業者が講ずべき措置の項目が追加されたところである。このため、事業者は、過重労働による健康障害を防止する観点から、改正後の同指針に留意しつつ、必要な措置を講じるよう努めるものとする。
5 労働者の健康管理に係る措置の徹底
(1) 健康管理体制の整備、健康診断の実施等
ア 健康管理体制の整備及び健康診断の実施
事業者は、労働安全衛生法に基づき、産業医や衛生管理者、衛生推進者等を選任し、その者に事業場における健康管理に関する職務等を適切に行わせるとともに、衛生委員会等を設置し、適切に調査審議を行う等健康管理に関する体制を整備するものとする。
なお、事業場が常時50人未満の労働者を使用するものである場合には、産業保健総合支援センターの地域窓口(以下「地域産業保健センター」という。)の活用を図るものとする。
また、事業者は、労働安全衛生法第66条から第66条の7までに基づき、健康診断、健康診断結果についての医師からの意見聴取、健康診断実施後の措置、保健指導等を確実に実施するものとする。特に、深夜業を含む業務に常時従事する労働者に対しては、6月以内ごとに1回の健康診断を実施しなければならないことに留意するものとする。なお、医師からの意見聴取の際には、事業者は労働時間等に関する情報を提供することが適当であること。
イ 自発的健康診断制度の活用等
事業者は、労働安全衛生法第66条の2に基づく深夜業に従事する労働者を対象とした自発的健康診断制度や、労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)第26条に基づく血圧等一定の健康診断項目に異常の所見がある労働者を対象とした二次健康診断等給付制度の活用について、労働者への周知に努めるものとするとともに、労働者からこれらの制度を活用した健康診断の結果の提出があったときには、労働安全衛生法第66条の5に基づく事後措置についても講ずる必要があることについて留意するものとする。
また、事業者は、労働安全衛生法第69条に基づき、労働者の健康保持増進を図るための措置を継続的かつ計画的に実施するものとする。
(2) 長時間にわたる時間外・休日労働を行った労働者に対する面接指導等
ア 面接指導等(医師による面接指導及び面接指導に準ずる措置をいう。以下同じ。)の実施等
(ア) 事業者は、労働安全衛生法第66条の8及び第66条の9の規定等に基づき、労働者の時間外・休日労働時間に応じた面接指導等を次のとおり実施するものとする。
[1] 時間外・休日労働時間が1月当たり100時間を超える労働者であって、申出を行ったものについては、医師による面接指導を確実に実施するものとする。
[2] 時間外・休日労働時間が1月当たり80時間を超える労働者であって、申出を行ったもの([1]に該当する労働者を除く。)については、面接指導等を実施するよう努めるものとする。
[3] 時間外・休日労働時間が1月当たり100時間を超える労働者([1]に該当する労働者を除く。)又は時間外・休日労働時間が2ないし6月の平均で1月当たり80時間を超える労働者については、医師による面接指導を実施するよう努めるものとする。
[4] 時間外・休日労働時間が1月当たり45時間を超える労働者で、健康への配慮が必要と認めた者については、面接指導等の措置を講ずることが望ましいものとする。
(イ) 事業者は、労働安全衛生法第66条の8及び第66条の9の規定等に基づき、面接指導等の実施後の措置等を次のとおり実施するものとする。
[1] (ア)の[1]の医師による面接指導を実施した場合は、その結果に基づき、労働者の健康を保持するために必要な措置について、遅滞なく医師から意見聴取するものとする。また、その意見を勘案し、必要があると認めるときは、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少など適切な事後措置を講ずるものとする。なお、医師からの意見聴取の際には、事業者は労働時間等に関する情報を提供することが適当であること。
[2] (ア)の[2]から[4]までの面接指導等を実施した場合は、[1]に準じた措置の実施に努めるものとする。
[3] 面接指導等により労働者のメンタルヘルス不調が把握された場合は、面接指導を行った医師、産業医等の助言を得ながら必要に応じ精神科医等と連携を図りつつ対応するものとする。
イ 面接指導等を実施するための手続等の整備
(ア) 事業者は、アの面接指導等を適切に実施するために、衛生委員会等において、以下の事項について調査審議を行うものとする。また、この結果に基づく必要な措置を講ずるものとする。
[1] 面接指導等の実施方法及び実施体制に関すること。
[2] 面接指導等の申出が適切に行われるための環境整備に関すること。
[3] 面接指導等の申出を行ったことにより当該労働者に対して不利益な取扱いが行われることがないようにするための対策に関すること。
[4] アの(ア)の[2]から[4]までに該当する者その他の者について面接指導等を実施する場合における事業場で定める必要な措置の実施に関する基準の策定に関すること。
[5] 事業場における長時間労働による健康障害防止対策の労働者への周知に関すること。
(イ) 事業者は、アの(ア)の[1]及び[2]の面接指導等を実施するに当たっては、その実施方法及び実施体制に関する事項に、
[1] 労働者が自己の労働時間数を確認できる仕組みの整備
[2] 申出を行う際の様式の作成
[3] 申出を行う窓口の設定
等を含め必要な措置を講じるとともに、労働者が申出を行いやすくする観点に立ってその周知徹底を図るものとする。
ウ 常時50人未満の労働者を使用する事業場の対応
常時50人未満の労働者を使用する事業場においても、ア及びイの措置を実施する必要があるが、アについては、近隣に専門的知識を有する医師がいない等の理由により、事業者自ら医師を選任し、面接指導を実施することが困難な場合には、地域産業保健センターの活用を図るものとする。
また、当該事業場においてイの手続等の整備を行う場合には、事業者は、労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号)第23条の2に基づき設けた関係労働者の意見を聴くための機会を利用するように努めるものとする。
なお、地域産業保健センターで実施する面接指導を、事業者の指示等により対象者が受ける場合には、労働安全衛生法第66条の8第2項に規定されている事業者が指定した医師が行う面接指導に該当することとなるが、この場合、事業者は、対象となる労働者の勤務の状況(例えば直近1ヶ月の総労働時間、時間外・休日労働時間、業務内容等)を記した書面を当該医師に提出するとともに、労働安全衛生規則第52条の6に基づき当該面接指導の結果を記録し保存しておくものとする。
(3) ストレスチェック制度の実施
労働安全衛生法第66条の10により、事業者は、常時使用する労働者に対して1年以内ごとに1回、心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)を実施し、高ストレス者に対して医師による面接指導を行うとともに、就業上の措置について医師の意見を聴き、その意見を勘案して必要な措置を講じること(以上をまとめて「ストレスチェック制度」という。)が義務付けられている(常時50人未満の労働者を使用する事業場においては、当分の間努力義務)。
このため、事業者は、「心理的な負担を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」(平成27年心理的な負担の程度を把握するための検査等指針第1号)に基づき、ストレスチェック制度を適切に実施する必要があること。また、同指針に示しているとおり、医師からの意見聴取の際には、事業者は労働時間等に関する情報を提供することが適当であること。
なお、ストレスチェック制度は、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止することを主たる目的としているが、過重労働が原因となったメンタルヘルス不調が認められ、就業上の措置が必要となる場合があり得る。このため、事業者は、上記(2)の長時間労働者を対象とした面接指導だけでなく、高ストレス者に対する面接指導も活用して、過重労働による健康障害防止対策に取り組むこと。
(4) 過重労働による業務上の疾病を発生させた場合の措置
事業者は、過重労働による業務上の疾病を発生させた場合には、産業医等の助言を受け、又は必要に応じて労働衛生コンサルタントの活用を図りながら、次により原因の究明及び再発防止の徹底を図るものとする。
ア 原因の究明
労働時間の適正管理、労働時間及び勤務の不規則性、拘束時間の状況、出張業務の状況、交替制勤務・深夜勤務の状況、作業環境の状況、精神的緊張を伴う勤務の状況、健康診断及び面接指導等の結果等について、多角的に原因の究明を行うこと。
イ 再発防止
上記アの結果に基づき、衛生委員会等の調査審議を踏まえ、上記2から5の(2)までの措置に則った再発防止対策を樹立し、その対策を適切に実施すること。