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○「核酸(siRNA)搭載ナノ製剤に関するリフレクションペーパー」について
(平成28年3月28日)
(事務連絡)
(各都道府県衛生主管部(局)あて厚生労働省医薬・生活衛生局審査管理課通知)
ナノテクノロジーを製剤技術に応用し、標的部位への医薬品の選択的な送達や生体内安定性の向上などにより、副作用の低減及び有効性の向上を目指した革新的医薬品の開発が世界的規模で進んでおり、その一つとして核酸(siRNA)搭載ナノ製剤の開発が進んでいます。
このため、厚生労働省では、核酸(siRNA)搭載ナノ製剤の開発にあたり品質及び非臨床評価等において配慮すべき事項について、「核酸(siRNA)搭載ナノ製剤に関するリフレクションペーパー」として別添のとおり取りまとめました。本リフレクションペーパーを今後の業務の参考とされるよう、貴管下関係業者等に対して周知方願います。
核酸(siRNA)搭載ナノ製剤に関するリフレクションペーパー
目次
1.はじめに
2.適用範囲
3.品質に関わる留意事項
3―1 体内動態や細胞内への送達に関わる品質上の留意事項
3―1―1 体内動態に関わる留意事項
3―1―2 細胞内への送達に関わる留意事項
3―2 安全性に関わる品質上の留意事項
3―2―1 キャリア構成成分の最適化
3―2―2 製剤の特性最適化
3―2―3 標的指向化
4.非臨床試験に関わる留意事項
4―1 非臨床薬物動態試験
4―2 非臨床毒性試験
4―2―1 siRNAに由来する毒性
4―2―2 キャリアに由来する毒性
5.ヒト初回投与試験における留意事項
参考文献
1.はじめに
現在様々な核酸が医薬品として開発中である。siRNA(small interference RNA)は21―23bp程度の2本鎖RNA分子であり、標的mRNAを特異的に切断することで遺伝子発現を抑制することができる。また、siRNAは高いmRNA分解活性を有し配列特異性を有することから、過去10年以上にわたり医薬品開発への応用が期待されてきた。しかし、siRNAは低分子化学合成品と比較し、高分子量であること、負電荷を有すること、さらに高い親水性を有することなど、その物理的化学的特性から標的となる細胞への取り込み効率の向上が課題となっている。また、siRNAを単独で血中に投与すると、酵素により速やかに分解されることや、親水性であり分子量が2万未満であることから腎排泄されやすいことにより、血中から速やかに消失することも医薬品応用への大きな壁となってきた。これらの課題を克服するための手法として、リポソームや高分子ミセルをはじめとするナノ技術を応用したキャリアの利用など、多くの送達技術が開発中である。
siRNAのキャリアへの結合には、キャリアに正電荷を帯電させることによる静電的相互作用や、共有結合などが用いられる。さらに、体内動態を改善するために脂質や高分子を用いて製剤化する場合もある。多くのsiRNAはキャリア内に内包されるが、キャリアに内包されていない場合もある。また、多くのsiRNAキャリアはナノサイズの粒子の状態でエンドサイトーシスなどにより取り込まれる。その後、siRNAが細胞質内に移行するために、リソソームでの分解を避け、リソソームと融合する前に効率良くエンドソームからsiRNAを脱出させる機構を有する製剤が開発されている。さらに、薬効や生体内安定性を増すために化学修飾した核酸の導入なども試みられている。[1、2]
本リフレクションペーパーは、ナノ技術を応用したキャリアを用いたsiRNA医薬品(以下、核酸(siRNA)搭載ナノ製剤)を評価する際に参考とすべき点をまとめたものである。
2.適用範囲
本文書では、核酸(siRNA)搭載ナノ製剤の開発において留意すべき点を議論するが、本文書の考え方はsiRNA以外の核酸を搭載したナノ製剤の開発の際にも参考となるであろう。各キャリアに特有の留意事項は、関連する通知やガイドライン[3]を参照することが重要である。
なお、個々の医薬品についての試験の実施や評価に際しては、その時点の学問や技術の進歩、経験の蓄積を反映した合理的根拠に基づき、ケース・バイ・ケースで柔軟に対応することが必要である。
3.品質に関わる留意事項
ナノサイズのキャリアでsiRNAを運搬する目的には、siRNAの生体内安定性向上及び標的臓器・組織への送達、さらに場合によっては、細胞内での動態の制御などがある。そのため、キャリア構成成分が様々な機能を有しており、構成成分の品質が製剤全体の品質に影響を及ぼす可能性もある。したがって、構成成分の品質に関する情報は有効成分と同程度の水準で詳細に示す必要がある。さらに、有効性及び安全性に影響を与えうる重要品質特性(特に体内動態、薬力学的特性に影響を与えうる品質特性)を明らかにし、それらの品質特性を評価するための試験法を確立することが重要である。このようにsiRNAの体内動態はキャリアに依存するため、異なる構成成分を含むキャリアへの変更時など、体内動態の変化が予測される場合には、新たな非臨床評価とともに、詳細な品質特性の評価が必要となる。
3―1 体内動態や細胞内への送達に関わる品質上の留意事項
3―1―1 体内動態に関わる留意事項
ナノサイズのキャリアを送達手段として用いる場合、一般的にsiRNAの血中滞留性を向上させることは、標的臓器・組織への送達に影響するため、血中滞留性に影響する粒子径やポリエチレングリコール(PEG)などによるキャリア粒子表面の物性の制御が重要となる。一般的にキャリアを用いる場合には、キャリアと生体成分との相互作用が生じやすいため、生体成分とsiRNAとの置換、分解酵素によるsiRNAの分解などに起因する製剤の安定性に留意すべきである。siRNAのキャリアへの搭載率は、ゲル電気泳動法、蛍光標識法、蛍光色素を用いたインターカレーション法などでおおむね評価可能であろう。また、製剤が一定の生体内安定性及びsiRNAの放出特性を有していることを保証するために、生理的条件を適切に反映した試験液中でin vitro評価試験法を確立し、キャリアからのsiRNAの放出を評価するべきである。
キャリアに機能性分子(例えば、リガンド(標的素子)・抗体など)を結合させることで、その機能を利用した能動的送達により、標的臓器・組織や標的細胞へ送達される製剤もある。機能性分子をキャリアに結合する際、リンカーが機能性分子の機能に影響を及ぼさないように最適化する必要がある。また、機能性分子及びリンカーの物性がキャリア全体の物性に影響を及ぼすことがあるので留意すべきである。さらにリンカーの安定性も重要である。
3―1―2 細胞内への送達に関わる留意事項
siRNAを効率的に標的細胞内へ送達させるためには、キャリアの特性や動態の制御が重要な要素となりうる。
細胞内への取り込みを亢進するための手法として、粒子径の制御、siRNAキャリアへの正電荷や細胞膜融合性の付加、機能性分子の結合など表面物性の制御などが挙げられる。
3―2 安全性に関わる品質上の留意事項
キャリアに由来する安全性上のリスクを低減するために、キャリア構成成分及び製剤の特性の最適化が重要となる。特に留意すべき事項を以下に例示する[4]。
3―2―1 キャリア構成成分の最適化
・生分解性の向上
・安全性プロファイル既知の構成成分の利用
・カチオン性脂質やポリマーの設計、最適化
3―2―2 製剤の特性最適化
・粒子サイズの最適化
・正電荷の遮蔽
・PEG修飾によるキャリアの血中滞留性の向上及び標的臓器や組織への移行性の向上
・キャリア安定性の向上
・投与経路に適した特性最適化
3―2―3 標的指向化
・リガンド分子によるターゲティング(例えば、上皮成長因子受容体(EGFR)、葉酸受容体、トランスフェリン受容体)
・細胞膜透過性ペプチドの利用 など
4.非臨床試験に関わる留意事項
4―1 非臨床薬物動態試験
キャリアで通常送達するsiRNAについて、有効性や安全性を適切に評価するためには、製剤を用いて血中濃度及び臓器・組織への分布を定量することが重要である。
・定量法には蛍光標識法、放射性同位体標識法、polymerase chain reaction(PCR)法、質量分析法などがある。標識法の特性や分析手法の感度などに留意し、選択する。
・遊離siRNAの濃度、キャリアに搭載されたsiRNAの濃度及び総量を測定対象として検討する。ただし、天然型のsiRNAのように、血中でのsiRNAの安定性によっては遊離有効成分の濃度の測定が困難な場合もある。
4―2 非臨床毒性試験
基本的には製剤を用いて低分子化合物に準じた毒性試験が必要である。特に、標的臓器への影響やin vivoにおけるサイトカイン類産生など、核酸(siRNA)搭載ナノ製剤に関連した毒性を評価する必要がある。なお、動物種の選定や試験デザインなどについては、siRNAやキャリアの特性に応じて検討すべきである。生体内での安定性を向上させた修飾型siRNAは、キャリアから遊離した状態では腎臓などへの蓄積が懸念されるため、必要に応じてsiRNA単独による毒性試験を実施するなど留意すべきである。
以下に、siRNA、キャリアそれぞれにおいて留意すべき点を記載する。
4―2―1 siRNAに由来する毒性[5]
siRNAの体内動態改善を目的に、siRNAの化学的修飾やキャリアの利用による生体内安定性・標的化の向上が試みられているが、血中や臓器・組織における滞留性の持続に伴う、siRNA由来の毒性増悪やキャリアと生体成分の相互作用などの懸念も生じうることに留意すべきである。一般的には以下の毒性を考慮することが必要である。
・免疫毒性:Toll-like receptor(TLR)などを介した免疫系の活性化、補体活性化、免疫系細胞の変動
・血液毒性:溶血性、血液凝固、血小板凝集など
そのほか、siRNAに由来する毒性として以下が挙げられる。
・標的配列へ作用することに起因する毒性
・標的配列以外に作用することに起因する毒性
これらの毒性を評価する適切な試験法を検討する。
4―2―2 キャリアに由来する毒性[4]
キャリアに由来する安全性上の問題として、キャリアと生体成分との相互作用に由来する毒性が挙げられるため、これらの毒性に配慮する必要がある。注1また、頻回投与や長期投与による蓄積性が問題となることも考えられる。
5.ヒト初回投与試験における留意事項
「ブロック共重合体ミセル医薬品の開発に関する厚生労働省/欧州医薬品庁の共同リフレクションペーパーの公表について」薬食審査発0110第1号(平成26年1月10日)の「3.3ヒト初回投与試験において考慮すべき事項」に準じた考え方を考慮する。
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注1キャリアに由来する問題点として、以下の事例が報告されている。
・カチオン性キャリア成分と細胞膜や細胞小器官との相互作用による炎症性反応や細胞毒性、また、キャリア成分による活性酸素産生に起因する炎症性反応や細胞毒性(Ballar画像1 (1KB)
n-Gonz画像2 (1KB)
lez B, Howard KA. Adv Drug Deliv Rev. 2012;64:1717-1729., Akhtar S. Expert Opin Drug Metab Toxicol. 2010;6:1347-1362., Lappalainen K, J画像3 (1KB)
skel画像4 (1KB)
inen I, Syrj画像5 (1KB)
nen K, Urtti A, Syrj画像6 (1KB)
nen S. Pharm Res. 1994;11:1127-1131., Lv H, Zhang S, Wang B, Cui S, Yan J. J Control Release. 2006;114:100-109.)
・特定のデンドリマーによる遺伝子発現への影響(Akhtar S, Benter I. Adv Drug Deliv Rev. 2007;59:164-182., Omidi Y, Hollins AJ, Drayton RM, Akhtar S. J Drug Target. 2005;13:431-443.)
・特定のカーボンナノチューブによる遺伝毒性(Tsukahara T, Haniu H. Mol Cell Biochem. 2011;352:57-63.)
・免疫学的毒性
血液毒性、過敏症反応、炎症反応など(Zolnik BS, Gonz画像7 (1KB)
lez-Fern画像8 (1KB)
ndez A, Sadrieh N, Dobrovolskaia MA. Endocrinology. 2010;151:458-465.)
参考文献
[1] Castanotto D, Rossi JJ. Nature. 2009;457:426-433.
[2] Cabral H, Kataoka K. J Control Release. 2014;190:465-476.
[3] 「ブロック共重合体ミセル医薬品の開発に関する厚生労働省/欧州医薬品庁の共同リフレクションペーパーの公表について」薬食審査発0110第1号(平成26年1月10日)
[4] Xue HY, Liu S, Wong HL. Nanomedicine (Lond). 2014;9:295-312.
[5] 宮川伸.医学のあゆみ.2011;238:519-523.
[参考(リフレクションペーパー英訳)]