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○医薬品のがん原性試験に関するガイダンスの改正に係る前向き評価への参加協力依頼の改訂について

(平成27年10月8日)

(事務連絡)

(各都道府県衛生主管部(局)薬務主管課あて厚生労働省医薬・生活衛生局審査管理課通知)

医薬品のがん原性試験については、日米EU医薬品規制調和国際会議(以下「ICH」という。)における合意に基づき、「医薬品のがん原性試験に関するガイドラインの改正について」(平成20年11月27日付け薬食審査発第1127001号厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知)により通知してきたところです。そのガイドラインの改正について、改正の検討に資する情報収集の協力を「医薬品のがん原性試験に関するガイダンスの改正に係る前向き評価への参加について(協力依頼)」(平成25年10月25日付け厚生労働省医薬食品局審査管理課事務連絡。以下「前向き評価依頼」という。)にてお願いしてきたところであり、今般、日米EUに加え、カナダ(カナダ保健省。以下「HC」という。)が新たにがん原性評価文書(CAD)の提出先に加わることとなりました。そのため、前向き評価依頼にて周知した内容に別添1及び2のとおりHCに関する記載を加え、引き続き、開発中の医薬品で実施される2年間ラットがん原性試験について、試験結果が得られる前のCAD及び試験終了後の試験結果を各極の規制当局に提出していただく医薬品製造販売業者の協力を募集するので、御了知の上、貴管下関係業者等への周知方御協力願います。

(別添1)

医薬品のげっ歯類がん原性試験の変更(案)

規制通知文書

要約

げっ歯類がん原性試験に関する現行のICH S1ガイダンスの変更が検討されている。この変更の目的は、低分子医薬品のヒトに対する発がんリスクを評価するためのより包括的で統合的な方法を導入すること、及び2年間ラットがん原性試験の実施により発がん性評価に新たな意義が付加される条件を規定することである。この取り組みは、ICH S6(R1)ガイダンスに従うバイオテクノロジー応用医薬品には適用されない。

ICH S1専門家作業部会(S1 EWG)による既存データセットの分析から、開発医薬品の毒性データやその他のデータに加えて、薬理学的な標的及び経路等の主薬効薬理に関する知見を評価することによって予想される2年間ラットがん原性試験の結果が、ヒトにおける発がんリスクを予測する上でのどの程度の意義があるのか推測するために十分な情報が得られる場合があると考えられた。これらの情報を検討することにより、特定の条件を満たす開発医薬品については、2年間ラットがん原性試験を実施することなく、ヒトにおける発がんリスクが無視できる程度である、又は逆に発がんリスクをもたらす可能性が高いと結論できるとする仮説が立てられている。将来的には、このような医薬品について、企業が2年間ラットがん原性試験の省略を求める「免除申請(waiver request)」を行う場合に、その根拠を示すがん原性評価文書(CAD:Carcinogenicity Assessment Document、以下「CAD」)を医薬品規制当局(以下「規制当局」という。)に提出することを想定している。CADには、本文書に示す評価項目によって予測される開発医薬品の総合的な発がんリスクとともに、2年間ラットがん原性試験の実施が発がん性評価に意義があるか否かの根拠を示すことになる。

ICH S1ガイダンスの改定を進めるための根拠として、この仮説を前向き(prospective)に評価することが必要である。前向き評価期間を設け、その間に、2年間ラットがん原性試験が進行中または計画されているすべての開発医薬品についてのCADを規制当局に提出するよう企業に強く奨励する。規制当局は提出されたCADを独自に審査し、企業との見解の一致及び各極の規制当局間の見解の一致の程度を調べる。この前向き評価期間中には、2年間ラットがん原性試験の免除申請が許可されることはなく、前向き評価は経験の蓄積と仮説の検証のみを目的としている(ただし後述するように現行S1Aガイダンスに基づくがん原性試験の免除の可能性はある)。提出されたCADは2年間ラットがん原性試験の結果と比較され、実際の試験結果に対する予測の正確性が評価されることになる。ICH S1ガイダンスに記載されている低分子医薬品のがん原性評価について現行の枠組みの見直しを検討しているS1 EWGの活動にとって、この前向き評価期間の経験は非常に重要であると考えられる。

緒言

問題点

医薬品の発がんリスクの評価方法は、ICH開始当初からの安全性に関する最初のトピックであった。その主なトピックは、試験実施の必要性(S1A)、試験に用いるげっ歯類の種の選択基準(S1B)、試験における用量の選択基準(S1C(R2))である。その当時の議論で、ラットおよびマウスを用いたがん原性の生涯試験の妥当性については大いに論じられたが、適切な代替法がない状況で、ヒトでの使用を目的とした医薬品の試験を2種のげっ歯類を用いて行うという基本的な試験方法が大きく変わることはなかった。その後、第2の動物種としてのマウスを削除する案は十分な支持を得られなかったものの、適切な代替法としてトランスジェニックマウスに6~9ヵ月間投与する試験系を導入する道が開かれた(S1B)。

その後の数年間に、多くの資源を費やしてトランスジェニックマウスを用いた試験法の評価が行われた(Pritchard et al., 2003; Cohen et al., 2001)。また、その他のモデルや試験法、特に、3ヵ月試験または6ヵ月試験の結果に基づいてがん原性試験の結果を予測することが可能かについての議論が注目を集めた(Cohen, 2004; Jacobs, 2005)。

この枠組みの中で、米国を拠点とする企業の研究者らは、60社が所有する市販化合物を対象とした調査を開始し(Reddy et al., 2010)、ラットの病理組織学的検査で陰性(例;いずれの臓器にも過形成の証拠がみられない。)の結果から2年間ラットがん原性試験で腫瘍が発生しないことを予測し得る可能性を示した。

これは、後述する13社が参加するより広範な調査の実施につながった。

歴史的背景

PhRMAが182の化合物のデータセットについて実施したこの解析の結論(Sistare et al., 2011)は、先の論文の結論に一致した。この解析に基づき、ラット6カ月慢性毒性試験における病理組織学的検査の陰性結果は、遺伝毒性の陰性結果及びホルモン作用の陰性の証拠と合わせて、これらの化合物の2年間ラットがん原性試験の陰性結果を82%の正確さで予測できる、と結論した。これは化合物のおよそ30~40%に相当する。

これらの結果について規制当局と討議する中で、まず偽陰性の化合物について、また、最終的にはすべての化合物について、化合物の薬理学的特性を考慮すべきとの提案がなされた。EU規制当局による解析の結果、腫瘍が誘発された化合物の多くで腫瘍発生にその薬力学的作用が関与していると結論された。さらに、肝細胞肥大又は肝臓酵素誘導を伴う一部の化合物は、必ずしも肝臓でなく甲状腺及び精巣で腫瘍を誘発する傾向がみられた。

PhRMAのデータセット解析に加えて、FDAが別の44化合物で同様の調査を行い、またJPMAがいずれのデータセットともほとんど重複しない64化合物による調査を行った。これらの解析により、陰性予測性に関する先のPhRMAの解析結果と、薬理作用との関連についてのEU規制当局の解析結果が支持された。また、動物種の妥当性に関するICH S1B策定当初の議論において、EU(van Oosterhout, et al., 1997)及び米国(Contrera, et al., 1997)はラットおよびマウスを用いた生涯投与によるがん原性試験で得られた数百の化合物のデータセットを公表している。EU規制当局は、化合物の薬理作用及びラットがん原性試験の結果について、これらの公表論文の背景データを用いて解析し、先のPhRMAデータベースから得られた結論が十分に確認されたとしている。

データセット解析の結論

各種データセット(PhRMA、FDA、JPMA、およびEU+FDA)の後ろ向き(retropective)解析から、薬理作用、遺伝毒性及び慢性毒性データ(通常は新薬開発の第2相終了時に得られる)に基づいて、2年間ラットがん原性試験が明らかに陰性又は陽性の結果となることが、一定の確実性をもって予測可能と結論づけられた。すなわち、発がんを予測する要素が全くない場合は陰性予測を、その要素がある場合には陽性予測を行うことができる。ただし、その中間には、がん原性試験の結果が十分な確実性をもって予測できない化合物のカテゴリーも残ることになる。

提案

この提案によって開始される検討は、患者の安全性を損なうことなく、医薬品のがん原性評価を改善し、3R(使用動物数の削減/苦痛の軽減/代替法の利用)の原則に従って動物の使用を抑え、医薬品開発リソースの使用を減少させ、ときには市販承認までの時間を短縮することも期待される。上述のデータセットの解析から、特定の医薬品については2年間ラットがん原性試験を行わなくとも発がん性評価を完了できることが示唆されている。これらのデータベースから、ラット6ヵ月慢性毒性試験を含む様々な薬理学的及び毒性学的データを統合することで、その医薬品が以下のカテゴリー1から3bのいずれに分類されるかを十分な確実性をもって予測できると言える。

・カテゴリー1

ヒトにおいて発がん性がある可能性が高いため、製品の添付文書にその旨が明記されることから、2年間ラットがん原性試験、2年間マウスがん原性試験またはトランスジェニックマウスがん原性試験の実施意義はない。

・カテゴリー2

入手可能な薬理学的及び毒性学的データのセットからは、ヒトに対する発がん性を確実に予測することができず、げっ歯類がん原性試験により、ヒトのリスク評価に意義が付加される可能性が高い。これに関して、現行S1Bガイダンスではげっ歯類がん原性試験の選択肢が記載されている。

・カテゴリー3a

ラットにおける発がん機序が既に立証されており、かつ、それがヒトに関連しないことがよく知られていることから、ラットにおいては発がん性があるがヒトにおいては発がん性がない可能性が高いために、2年間ラットがん原性試験の実施意義はない。

・カテゴリー3b

ラット及びヒトにおいて発がん性がない可能性が高いため、2年間ラットがん原性試験は不要である。

カテゴリー3の判定の根拠としてトランスジェニックマウスを用いた試験は、有用と考えられる。ラットがん原性試験のデータがないときでも、ほとんどの場合に2年間マウスがん原性試験またはトランスジェニックマウスがん原性試験のいずれかが必要になると考えられる。

証拠の重み付け(WOE:Weight-of-evidence、以下「WOE」)の要素を策定した(付録1)。前向き評価期間中、企業には2年間ラットがん原性試験の終了前に開発医薬品について可能な範囲でWOEの各要素を評価し、CADにおいて2年間ラットがん原性試験の意義及び必要性を予測して、カテゴリー1、2、3a又は3bに割り当てるように依頼する。企業は2年間ラットがん原性試験の結果が判明する前に、各医薬品について免除相当とすることの適否に関する見解とその正当性を示したCADを規制当局に提出することが奨励される。

前向き評価期間の範囲およびプロセス

目的

前向き評価期間の意図するところは、既存データセットに基づく後ろ向きな解析ではわからなかったICH S1ガイダンス変更案の重要な側面に対処するための経験を積み、データを収集することである。重要な側面としては、特に、本文書に記述するWOEが2年間ラットがん原性試験の結果と意義をどの程度予測できるか、及びCADで示される論拠に基づいて判断した2年間ラットがん原性試験実施の必要性に関して、規制当局と企業、及び規制当局相互でどの程度見解が一致するのかが挙げられる。

この取り組みは、ICH S6(R1)ガイダンスに従うバイオテクノロジー応用医薬品には適用されない。

企業は、現行のICH S1Aガイダンスの下で2年間ラットがん原性試験の実施対象となる開発中のすべての医薬品及び2年間ラットがん原性試験が進行中の医薬品について、CADの提出が奨励される。ただし、発がん予測においてバイアスが生じる可能性を最小限にとどめるために、CAD作成時に2年間ラットがん原性試験で投与期間が18ヵ月を超えていないことが重要である。従って、投与開始前または投与開始から12ヵ月以内にCADを作成することが推奨される。CADには、投与開始日との関連が明瞭になるように、その作成日を明記するものとする。前向き評価期間の結果は、その後のICH S1ガイダンスの改定に活用される。前向き評価期間に提出されたCADは規制文書とはみなされず、また標準的ながん原性評価に代わるものともみなされない。

規制当局が2010年以降に受領したげっ歯類がん原性試験報告書の数を解析したところ、50化合物について2年間ラットがん原性データによりCADを評価するという目標の達成には2年間のデータ収集期間が必要と予測される。したがって、バイアスを最小限にとどめ、評価期間の延長を避けてこの取り組みを成功させるには、広く各極から多数の製薬会社が参加してCADを提出し、規制当局が評価することが極めて重要である。全てのカテゴリー分類についてのCAD提出が推奨されるが、現行ガイドラインからの乖離が最も顕著なものは、2年間ラットがん原性試験を省略できるカテゴリー3の化合物と思われることから、規制当局にとっては、カテゴリー3の化合物に関するCADが特に有用と考える。現行のデータセットに基づくと、がん原性試験が行われる化合物の約40%がカテゴリー3に分類されると予想され、前向き評価期間中もこの割合で収集されているかについて定期的に確認されることになる。前向き評価期間終了の公示はICHウェブサイトで行う。

この前向き評価期間の対象は2年間ラットがん原性試験にあり、マウスがん原性試験の評価は意図していない。カテゴリー3の化合物では、従来どおりS1Bガイダンスに基づいて第2のげっ歯類動物種を用いたがん原性試験が要求される。

ほとんどの化合物でラットが毒性試験に用いる第1のげっ歯類動物種として選択されるが、化合物によってはマウスを使用した試験のほうが適切な場合もある。しかし、マウス毒性データの予測能に関する評価はまだ試みられておらず、マウスがん原性試験結果の予測に関する意義は不明であることから、マウスがん原性試験の予測性に関しては今回の前向き評価期間の対象とはしない。

提出されるCADの内容

提出されるCADでは、付録1に記載するWOEのアプローチを参照して、開発中の医薬品のがん原性が評価される。CADは、がん原性に関連があると考えられる各要素について論じるものであって、当該医薬品の非臨床プロファイルの一般的な概要を示すものではない。付録1に記載されたすべての要素が必ずしもすべての場合に適用又は利用できるわけではない。

CADには、付録1のWOE以外に、以下の重要な要素を含めなければならない(付録2参照)。

1.計画中/進行中の2年間ラットがん原性試験について予測される試験結果(陽性/腫瘍発生に関する標的臓器、又は陰性)

2.がん原性試験に関する総合評価及びヒトに対するリスク評価における2年間ラットがん原性試験の実施意義の予測

3.CADが1)2年間ラットがん原性試験の実施、又は2)2年間ラットがん原性試験(カテゴリー1化合物についてはあらゆるがん原性試験)の免除申請のどちらを裏付けるのかについての明確な記述及び説明と、それぞれの化合物のカテゴリー分類

前向き評価期間の目的は、将来のICH S1ガイダンスの改定を進める上で適切なデータを得ることである。したがって、この期間内に提出されるCAD自体は、いずれの極においても当該医薬品の開発計画に影響を及ぼすことはない。また、提出によって、実際に2年間ラットがん原性試験の免除が許諾されるものでもなく、CADが当該医薬品の開発計画において、規制上の措置に用いられることもない。この期間におけるがん原性の評価及びげっ歯類を用いた生涯投与試験の必要性に関しては、既存のICH S1Aガイダンスに従うものとする。なお、現行S1Aガイダンスの下でも、遺伝毒性が明らかな化合物など、ある種の化合物ではがん原性試験は不要である。

CAD提出のプロセス

現行のICH S1ガイダンス下で2年間ラットがん原性試験の実施対象となるすべての開発医薬品、並びに実施中のラットがん原性試験で投与期間が18ヵ月以内のものについて、CADの作成(電子ファイルとして)が求められる。各規制当局にCAD審査委員会を設け、企業からの実際の医薬品申請試験データを直接審査する担当者とは別にCAD審査担当者を任命する。企業には、治験が実施されている極の1つの規制当局に、企業及び医薬品の個別情報を記したカバーレターを添えて、匿名化したCADを電子ファイルとして提出することを要請する(送付先は後述するアドレス参照)。CADを受理した規制当局(「一次規制当局」と称する)のCAD事務局は、企業及び医薬品の個別情報を含むカバーレターを除き、識別コードを割り当てたのち、匿名化したCADの電子ファイルのみを一次規制当局のCAD審査委員会および他の規制当局に送付し、送付の記録を作成する。各規制当局のCAD審査委員会は、コードを付された匿名化CADの記載内容のみに基づいてそれぞれに評価を実施する。したがって、どのCAD審査委員会も企業及び化合物を特定することはできない。CADとそれを提出した企業を関連づけることができるのはCADを受理した一次規制当局の事務局だけである。

提出されたCADの一般的な内容に関して、評価を行うために不十分な点があれば、一次規制当局からその事務局を通じて遅滞なく当該企業に提示される。企業からの要求があれば、各規制当局のCAD審査委員会が判断したCADに対するカテゴリー分類は、2年間ラットがん原性試験結果の提出時までに企業にフィードバックされる。前向き評価期間の終了時には、企業から要求されれば、それぞれのCADに対する科学的審査を要約した追加的なフィードバックを機密情報扱いで個別に企業に提供することも可能である。

ラットがん原性試験結果の提出プロセス企業は、現行の各極の規制ガイドラインに従って該当する規制当局に2年間ラットがん原性試験の最終報告書を提出するものとする。がん原性試験の規制当局による審査は現行の各極の手順に従う。CADは匿名化文書として審査されるため、CAD審査委員会のメンバーが、該当する2年間ラットがん原性試験報告の科学的協議に関与したとしても、その場合に生じうるバイアスは排除される。企業は、ラットがん原性試験報告書を規制当局に提出したことを連絡する電子メールに、匿名化したがん原性試験結果の要約報告書の電子ファイルを添付して、CADを提出した一次規制当局のCAD審査委員会の事務局に送付する(後述アドレス参照)。そのメールを受理した一次規制当局のCAD審査委員会事務局は、企業からの匿名化要約報告書に対応するCADコードを付して、2年間ラットがん原性試験報告書を受領しない他の規制当局に送付する。

2年間ラットがん原性試験の提出がすでに規制上必要なくなっている場合(医薬品製造販売承認申請の取り止めなど)でも、企業は試験報告書または試験結果の要約報告書を一次規制当局のCAD審査委員会に直接提出することができる(後述するアドレス宛て)。このような場合、一次規制当局のCAD審査委員会がその最終報告書/要約報告書を直接審査し、一次規制当局による試験結果の解釈と共に企業が作成したコード付きの匿名化要約報告書を他の規制当局に提供する。前向き評価期間の円滑な完了のため、製造販売承認申請の時期に関わりなく、たとえ当該医薬品の開発計画が打ち切りになった場合でも、試験結果が得られたならば試験報告書を提出するよう企業に奨励する。

CAD及び試験結果の評価

2年間ラットがん原性試験結果を受領する前に定期的に規制当局のみによる会議が開催され、規制当局と企業、及び規制当局間におけるカテゴリー分類の一致度を評価する。これらの会議により規制当局間の見解の一致を図るよう努力し、その結果を記録する。これらの会議を通して規制当局が化合物や企業に関する情報を明らかにすることはない。

CADに対応する2年間ラットがん原性試験の規制当局による審査結果の受領後に、以下の3つの事項のそれぞれについてCADの再評価を行う。

1.CADに記載されたWOEに基づく2年間ラットがん原性試験での腫瘍発生予測と実際の結果を比較し、予測が正確であったかどうか

2.実施されたがん原性試験の総合的な結果と比較して企業及び規制当局が行ったカテゴリー分類が正確であったかどうか

3.腫瘍発生予測と実際の腫瘍発生に差異があり、ヒトの健康上のリスクに影響する場合に、規制にどのようなインパクトを及ぼすか

化合物のカテゴリー3への誤ったクラス分けによる安全上の懸念を最小限にとどめるため、上記の項目「3」の事項を重点的に評価する。

各極規制当局は、化合物名に加えて、上記の項目について独立した分析を行うにあたり、化合物の機密を保持する。ICH S1 EWGでは、各カテゴリー(1、2、3a、3b)に分類される化合物の割合および企業参加の状況について定期的に確認する。前向き評価期間の最終結果はS1 EWGにおいて検討され、現行のICH S1ガイダンスの改定のために情報提供される。前向き評価期間の経験及び結論について、査読制の毒性関連学雑誌での公表を予定している。

CAD及び要約試験報告書提出用の規制当局アドレス

CAD及び最終要約試験報告書は、上記要領で下記の適切な規制当局のアドレス宛に適宜提出される。

EMA:EMA-CAD@ema.europa.eu

FDA:FDA-CAD@fda.hhs.gov

PMDA:PMDA-CAD@pmda.go.jp

HC:HC-CAD@hc-sc.gc.ca

注)2年間ラットがん原性試験を省略することによって見過ごされる腫瘍発生以外の毒性情報が2年間ラットがん原性試験から得られる可能性がある。しかし本文書及び前向き評価期間では、腫瘍所見の予測のみに基づく2年間ラットがん原性試験の必要性の検討に焦点を絞っている。2年間ラットがん原性試験でのみ発生する非腫瘍性病変の調査を考察評価したところ、この問題により2年間ラットがん原性試験の省略に関する今回のWOEアプローチが制限されるものではないことが判明した。

References

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付録1.がん原性評価文書で検討する証拠の重み付け(WOE)の要素

2年間ラットがん原性試験の結果および実施意義の予測、及びヒトの発がんリスクの全般的かつ統合的評価を行う上で、以下に示す各要素について検討するものとする。両方の目的に適した要素もあれば、いずれか一方により適切な要素もあると考える。企業はこの付録をCAD作成指針として利用することができる。

予定される医薬品の主薬効薬理、副次的薬理、並びにラット及びヒトにおける医薬品の薬理標的分布に関する知見

標的および経路に関連した機序/薬理学的特性並びに判明している副次的薬理特性は、がん原性試験の結果の予測に寄与し、潜在的なヒト発がん物質の予測性を向上させうる。CADには、特にがん原性リスクを扱った包括的な文献レビューを含め、これらの特性すべてに関する企業の認識に基づく徹底的かつ決定的な評価の記載が望まれる。このような情報の例としては、以下のものがあげられる。

o 当該医薬品クラスの他の化合物での既知の情報

o 当該の薬効標的又は経路におけるヒト遺伝的多型の情報

o 治験データ

o 遺伝子組換えげっ歯類モデル

o 疾患動物モデル

o 意図しない薬理作用

o ホルモンの撹乱作用

o 標的組織のゲノムバイオマーカーのデータ

遺伝毒性試験の結果

ICH S2(R1)の基準を使用して、WOEを考慮して遺伝毒性データを評価する。

ラット反復投与毒性試験の病理組織学的評価

腫瘍発生の病理組織学的リスク因子をラット6ヵ月慢性毒性試験で評価するものとする。ラットの短期反復投与毒性試験でのみ得られる所見は、一般的には2年間ラットがん原性試験の結果予測にとっての意義が低いと考えられるが、発がんとの関連性について記載するものとする。特に注目すべき病理組織学的所見としては、細胞肥大、びまん性/限局性の細胞過形成、持続性組織損傷/慢性炎症、前がん病変、及び腫瘍があげられる。この様な所見についてヒトとの関連性を論じることが重要である。例えば、肝腫瘍はラットにおいて比較的高頻度に認められ、場合によってはライディッヒ細胞及び甲状腺濾胞細胞の腫瘍が同時に認められる。肝重量の増加を伴う肝細胞肥大はしばしば肝薬物代謝酵素誘導の結果として生じ、その場合は、ヒトにはほとんど外挿されないげっ歯類に特異的な腫瘍発生の機序に基づく変化であると理解されている(McClain, 1989; Cook et al., 1999)。CADでは、ヒトでのリスクを評価する際に、この様な機序の根拠となるデータを精査するものとする。

ラット6ヵ月慢性毒性試験における安全域

発がんリスク因子のないラット6ヵ月慢性毒性試験において、慢性毒性試験における曝露量と臨床用量における曝露量との間に高い安全域がある場合は、がん原性試験免除を支持する補足的要素となる。さらに、発がんリスク因子がヒトで予想される曝露に比べて十分に高い曝露でしか生じない場合も、がん原性試験免除を考慮する補足的要素となろう。忍容性、薬理作用又は吸収の限界によりラット6ヵ月慢性毒性試験で高い安全域が得られない場合も、ラットがん原性試験免除の可能性が排除されることはない。

代謝プロファイル

ICH S1C(R2)に従い、低分子医薬品の発がん可能性を評価する場合には、ラットとヒトとの代謝プロファイルの比較も考慮する必要がある。したがってCADでは、ラットにおける代謝プロファイルの妥当性およびヒト代謝物への曝露も考察する。

ホルモンの撹乱の証拠

ホルモンの撹乱作用の証拠は反復投与試験及び生殖発生毒性試験の両方の試験から検討するものとする。このような証拠は、内分泌器官の器官重量、肉眼的及び/又は顕微鏡的変化、又は生殖発生毒性試験のパラメータから得られる。血清ホルモンレベルは所見を検討するのに有用であるが、必ずしも必須ではない。

免疫抑制

免疫抑制はヒトにおける腫瘍発生の要因になり得る。免疫系への作用が腫瘍監視機構に影響することや、腫瘍ウイルスの再燃により二次的な腫瘍発生につながることが考えられる。免疫系への影響の可能性についてICH S8ガイドラインに従って評価し、CADの要素として記載するものとする。

特別な試験および評価項目

特殊染色、新規バイオマーカー、新技術、及び代替試験系から得られたデータについては、それらががん原性評価に十分に寄与すると考えられる場合には、動物及び/又はヒトの発がんの経路および機序を説明又は予測するために有用であるとの科学的根拠とともに提出することができる。

非げっ歯類長期試験の結果

非げっ歯類毒性試験における発がんリスク因子の評価は、ラット慢性毒性試験の結果に関係なくヒトのリスク評価のために考慮するべきである。

トランスジェニックマウス試験

トランスジェニックマウスを用いるがん原性試験(通常はrasH2又はp53+/-マウス)は、WOEの論拠としては必須ではない。しかし、必要に応じて実施された場合には、トランスジェニックマウスがん原性試験がWOEに寄与する場合がある。

[様式ダウンロード]

(別添2)

医薬品のげっ歯類がん原性試験の変更案に係る前向き評価への参加要項

現在、げっ歯類がん原性試験に関する現行のICH S1ガイダンスの変更が検討されている。ガイダンスの改定を進めるために、「特定の条件を満たす開発医薬品については、2年間ラットがん原性試験を実施することなく、ヒトにおける発がんリスクが無視できる程度である、又は逆に発がんリスクをもたらす可能性が高いと結論できる」とする仮説を前向きに評価することが必要とされている。前向き評価にあたっては、開発中の医薬品に関するがん原性評価文書(Carcinogenicity Assessment Document。以下「CAD」という。)を企業が規制当局に提出することが求められている。そこで、本参加要項及び「医薬品のげっ歯類がん原性試験の変更(案)規制通知文書」を参照の上、医薬品開発企業の前向き評価への積極的な参加をお願いしたい。

1.対象となる開発医薬品

「医薬品のがん原性試験に関するガイドラインの改正について」(平成20年11月27日付け薬食審査発第1127001号厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知)において2年間ラットがん原性試験の実施対象となる、開発中の低分子医薬品であり、かつ、2年間ラットがん原性試験が進行中で、CAD提出時点での投与期間が18カ月未満のもの。

ただし、日本、米国EU又はカナダのいずれかにおいて臨床試験が実施されている又は実施される予定のものに限る。また、「バイオテクノロジー応用医薬品の非臨床における安全性評価」について(平成24年3月23日付け薬食審査発0323第1号厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知)が適用される医薬品を除く。

2.国内におけるCAD審査体制について

CAD審査委員会を国立医薬品食品衛生研究所内に設置し日本におけるCADの審査を実施する。また、CAD事務局を独立行政法人医薬品医療機器総合機構(以下「PMDA」という。)内に設置する。

3.CADの作成及び提出について

(1) CADの作成

CADは、「医薬品のげっ歯類がん原性試験の変更(案)規制通知文書」を参照して作成すること。CAD作成時点までの既存のデータを活用してCADを作成するものとし、CAD作成のみを目的とした新たな追加試験等の実施は必須ではない。なお、CADは英語で作成し、化合物名は匿名化すること。

(2) CAD提出時の添付資料

CADのカバーレターとして、提出企業名、CADに関する連絡先(担当者名、メールアドレス及び電話番号を含む。)及び当該医薬品の治験成分記号を明記した書類を、CADとは別の電子ファルとして作成し、CADと共に提出すること。なお、カバーレターは英語で作成すること。

(3) CAD電子ファイルの提出先 以下のア~ウに従い、該当する地域の規制当局のCAD事務局に、カバーレターの電子ファイルとともに、CADの電子ファイルを電子メールに添付して提出すること。

ア 日本国内のみで臨床試験が実施されている又は実施される予定の場合は、PMDAのCAD事務局に提出すること。

イ 日本国外のみで臨床試験が実施されている又は実施される予定の場合は、臨床試験実施地域の規制当局(米国のみの場合は米国食品医薬品庁(以下「FDA」という。)、EUのみの場合は欧州医薬品庁(以下「EMA」という。)、カナダのみの場合はHC、米国、EU及びカナダの複数国の場合はFDA、EMA又はHCのいずれか)のCAD事務局に提出すること。

ウ 日本国内及び国外の両方で臨床試験が実施されている又は実施される予定の場合は、臨床試験実施地域の中から日本、米国、EU又はカナダのいずれかを選択し、その地域の規制当局のCAD事務局に提出すること。

なお、各地域の規制当局のCAD事務局メールアドレスは以下のとおりである。

日本(PMDA):PMDA-CAD@pmda.go.jp

米国(FDA)):FDA-CAD@fda.hhs.gov

EU(EMA):EMA-CAD@ema.europa.eu

カナダ(HC):HC-CAD@hc-sc.gc.ca

(4) CAD提出後の規制当局からの連絡について

CADに不備があった場合には、提出した規制当局のCAD事務局から、カバーレターに記載の担当者に連絡をするので、指示に従い、適切に対応をお願いしたい。なお、PMDAにCADを提出した場合には、提出から概ね2週間以内を目安として連絡する。

「医薬品のげっ歯類がん原性試験の変更(案)規制通知文書」付録2の書式において、「1)Sponsor DOES wish to receive DRA feedback.(規制当局からのフィードバックを希望する)」にチェックをした場合に限り、ラット2年間がん原性試験成績提出前までに規制当局側のカテゴリー分類について通知され、さらに、前向き評価期間終了後に規制当局のCADに対する科学的審査内容の概略が通知される。

なお、規制当局からの連絡を円滑にするために、CAD提出時にカバーレターに記載した連絡先が前向き評価期間中に変更となった場合には、速やかにCADを提出した規制当局のCAD事務局に連絡すること。

4.ラット2年間がん原性試験成績の提出及び評価について

CADを提出した開発医薬品のラット2年間がん原性試験成績については、化合物名及び企業名を匿名化したがん原性試験の要約報告書を英文で作成すること。また、がん原性試験の最終報告書を、各地域の制度に従って規制当局に提出することとし、最終報告書の提出時期に応じて、以下の(1)~(3)に従い、要約報告書等を各地域のCAD事務局に提出すること。

(1) 最終報告書を製造販売承認申請に先立って提出する場合

製造販売承認申請前に、規制当局にラット2年間がん原性試験成績の最終報告書を提出する必要が生じた場合(例えば、PMDAが実施する事前評価相談に利用する場合等)には、以下の(2)に準じて、最終報告書を提出した地域の規制当局のCAD事務局にその旨を連絡するとともに、要約報告書を電子メールに添付して提出すること。この場合には、各地域の制度の下で試験成績が評価され、その評価結果は、要約報告書と共に、当該CAD事務局を通じて各極のCAD審査委員会に通知される。

(2) 最終報告書を製造販売承認申請時に提出する場合

ラット2年間がん原性試験成績の最終報告書を各地域の制度に基づいて作成する通常の承認申請資料として、当該規制当局に提出すること。また、承認申請した地域の規制当局のCAD事務局に承認申請した旨を連絡するとともに、要約報告書を電子メールに添付して提出すること。この場合、ラット2年間がん原性試験成績の評価は、当該化合物の通常の医薬品審査の過程で実施され、評価結果が試験成績の要約報告書と共に当該CAD事務局を介して各極のCAD審査委員会に通知される。

(3) CADを提出した開発医薬品が、開発中止等の理由により現行の制度上は規制当局にがん原性試験成績を提出することが必須とされなくなった場合可能な限り、速やかに、CADを提出した規制当局のCAD事務局に、承認申請が実施されない旨を連絡するとともに、ラット2年間がん原性試験の最終報告書又は要約報告書を電子メールに添付して提出すること。この場合、ラット2年間がん原性試験成績の評価は、CAD審査委員会によって実施される。なお、ラット2年間がん原性試験が途中で中止され、試験の最終報告書又は要約報告書が提出できない場合には、CADを提出し規制当局のCAD事務局にその旨を速やかに連絡すること。また、試験が途中で中止された場合でも、要約報告書等が提出可能な場合には、CADを提出した規制当局のCAD事務局に要約報告書等を提出すること。

5.国内問い合わせ先

本件について問い合わせる場合は、PMDAのCAD事務局に、電子メールにて連絡されたい。

PMDAのCAD事務局の連絡先:PMDA-CAD@pmda.go.jp

以上