○検査料の点数の取扱いについて
(平成27年5月29日)
(保医発0529第1号)
(地方厚生(支)局医療課長・都道府県民生主管部(局)国民健康保険主管課(部)長・都道府県後期高齢者医療主管部(局)後期高齢者医療主管課(部)長あて厚生労働省保険局医療課長・厚生労働省保険局歯科医療管理官通知)
(公印省略)
標記について、「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について」(平成26年3月5日付け保医発0305第3号)の一部を下記のとおり改正し、平成27年6月1日から適用するので、貴管下の保険医療機関、審査支払機関等に対して周知徹底をお願いいたします。
記
別添1第2章第3部第1節第1款D012感染症免疫学的検査中(51)を(52)とし、(45)から(50)を(46)から(51)とし、(44)の次に次のように加える。
(45) デングウイルス抗原定性
ア デングウイルス抗原定性は、区分番号「D012」感染症免疫学的検査の「40」レジオネラ抗原定性(尿)の所定点数に準じて算定する。
イ 本検査は、国立感染症研究所が作成した「デング熱・チクングニア熱の診療ガイドライン」に基づきデング熱を疑う患者が、当該患者の集中治療に対応できる下記のいずれかに係る届出を行っている保険医療機関に入院を要する場合に限り算定できる。
(イ) 区分番号「A300」救命救急入院料「1」から「4」までのいずれか
(ロ) 区分番号「A301」特定集中治療室管理料「1」から「4」までのいずれか
(ハ) 区分番号「A301―2」ハイケアユニット入院医療管理料「1」又は「2」のいずれか
(ニ) 区分番号「A301―4」小児特定集中治療室管理料
ウ 本検査は、感染症の発生の状況、動向及び原因を明らかにするための積極的疫学調査を目的として実施された場合は算定できない。
(参考:新旧対照表)
《参考》
○「デング熱・チクングニア熱の診療ガイドライン」について
(平成27年5月22日)
(事務連絡)
(各都道府県・各保健所設置市・各特別区衛生主管部(局)あて厚生労働省健康局結核感染症課通知)
標記について、「デング熱診療ガイドライン(第1版)」(平成26年9月16日厚生労働省健康局結核感染症課事務連絡)を、別添のとおり改訂したので、関係者への周知方よろしくお取り計らい願います。
別添
デング熱・チクングニア熱の診療ガイドライン
2015年5月22日
国立感染症研究所
はじめに
本ガイドラインは、蚊媒介感染症に関する特定感染症予防指針(平成27年厚生労働省告示第二百六十号)に基づき、医師がデング熱やチクングニア熱などの蚊媒介感染症を診断し、確定した症例について直ちに届出を行うことができるよう、疫学、病態、診断から届出、治療、予防に至る一連の手順などを示したものである。
疫学
デング熱はアジア、中東、アフリカ、中南米、オセアニア地域で流行しており、年間1億人近くの患者が発生していると推定される1)。とくに近年では東南アジアや中南米で患者の増加が顕著となっている。こうした流行地域で、日本からの渡航者がデングウイルスに感染するケースも多い2,3)。2014年に日本国内で診断され、感染症法に基づく発生動向調査へ報告されたデング熱症例は計341例、うち国内感染例162例、国外感染例179例であった4)。国内感染例の大部分は都立代々木公園周辺への訪問歴があり、同公園周辺の蚊に刺咬されたことが原因と推定された。このため、今後は海外の流行地域からの帰国者だけでなく、海外渡航歴がない者についても、デング熱を疑う必要性が生じている。
また、チクングニア熱も現在、世界的に流行が拡大している。チクングニア熱は1952年にタンザニアでデング熱様疾患として初めて確認された。以来、アフリカ、アジアを中心に流行が散発してきたが、2004年から急速にその流行域を拡大している再興感染症である。2007年に、イタリア北部における国内流行が報告され、2010年にはフランス南東部および中国南部で国内流行が確認された。さらに2013年末にはカリブ海の島嶼国で流行が発生し、その流行は約1年間で米国、メキシコ、ブラジルを含むアメリカ大陸に拡大し、太平洋島嶼国でも流行が確認されている5,6)。日本では流行地域からの輸入症例が2006年末から確認されているが7,8,9)、国内感染例はない。
海外でデング熱及びチクングニア熱を媒介する蚊はネッタイシマカとヒトスジシマカであるが、日本における媒介蚊はヒトスジシマカである。日本におけるヒトスジシマカの活動は主に5月中旬~10月下旬に見られ(南西諸島の活動期間はこれよりも長い)、冬季に成虫は存在しない。ヒトスジシマカの発生数は国内全域で非常に多く、2014年時点で、本州(秋田県及び岩手県以南)から四国、九州、沖縄、小笠原諸島まで広く分布していることが確認されている。デング熱及びチクングニア熱を疑う際には、臨床所見に加えて、地域のヒトスジシマカの活動状況やそれぞれの患者の発生状況が参考になる。
1) デング熱
① 病原体
デング熱はフラビウイルス科フラビウイルス属のデングウイルスによって起こる熱性疾患で、ウイルスには4つの血清型がある10)。感染源となる蚊(ネッタイシマカ及びヒトスジシマカ)はデングウイルスを保有している者の血液を吸血することでウイルスを保有し、この蚊が非感染者を吸血する際に感染が生じる。
② 病態
ヒトがデングウイルスに感染しても無症候性感染の頻度は、50~80%とされている10,11)。症状を呈する場合の病態としては、比較的軽症のデング熱と顕著な血小板減少及び血管透過性亢進(血漿漏出)を伴うデング出血熱に大別される12,13)。また、デング出血熱はショック症状を伴わない病態とショック症状を伴うデングショック症候群に分類される。
デング熱を発症すると通常は1週間前後の経過で回復するが、一部の患者はデング出血熱の病態を呈する12,13)。このうち、デングショック症候群などの病態になった患者を重症型デングと呼ぶ。重症型デングを放置すれば致命率は10~20%に達するが、適切な治療を行うことで致命率を1%未満に減少させることができる1)。なお、感染症発生動向調査によれば、1999年から現在までに日本国内で発症したデング熱患者で、死亡者は報告されていない。
デング熱患者が重症化する要因については、血清型の異なるウイルスによる二度目の感染に起因するという説がある1)。一方、ウイルス自体の病原性の強さによるとの説もある。
③ 症状及び検査所見
2014年に日本国内で診断されたデング熱患者の症状や検査所見の出現頻度を表1に示す4)。3~7日(最大2~14日)の潜伏期間の後に、急激な発熱で発症し、発熱、発疹、頭痛、骨関節痛、嘔気・嘔吐などの症状がおこる。ただし、発熱以外の症状を認めないこともある。発症時には発疹はみられないことが多いが、皮膚の紅潮がみられる場合がある。通常、発病後2~7日で解熱する。発疹は解熱時期にでることが多く、点状出血(図1)、島状に白く抜ける紅斑(図2)など多彩である。検査所見では血小板減少、白血球減少が高頻度に認められる。またCRPは陽性となってもマラリアと比較すると高値ではないとの報告もある14)。表2にはデング熱を疑う目安となる症状・所見を示した12)。
血管透過性亢進を特徴とするデング出血熱は典型的には発病後4~5日に発症する。この病態は解熱する時期に1~2日続き、この時期を乗り切ると2~4日の回復期を経て治癒する。しかしながら、病態が悪化しデングショック症候群となった場合、患者は不安・興奮状態となり、発汗や四肢の冷感、血圧低下がみられ、しばしば出血傾向(鼻出血、消化管出血など)を伴う。デング出血熱を疑う場合の重症化サインを表3に、デングショック症候群を含む重症型デングの診断基準を表4に示した12)。また、重症化のリスク因子としては、妊婦、乳幼児、高齢者、糖尿病、腎不全などが指摘されている12)。
小児のデング熱患者の多くは軽症で、症状がより非特異的であるため他の感染症との鑑別が難しい。成人と比して嘔吐、発疹及び熱性けいれんなどの出現頻度が高いとされている15)。その一方で、乳児は重症化のリスクが高くデング出血熱やデングショック症候群を発症する可能性に注意する必要がある。
④ 診断
デング熱患者の確定診断には、血液からのウイルス分離やPCR法によるウイルス遺伝子の検出、血清中のウイルス非構造タンパク抗原(NS1抗原)や特異的IgM抗体の検出、ペア血清による抗体陽転又は抗体価の有意の上昇などが用いられる。国内ではELISA法によるNS1抗原検査試薬が平成27年4月に「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和三十五年八月十日法律第百四十五号)」上の製造販売承認を取得した。これらの検査法は、発病からの日数によって陽性となる時期が異なる16)。デング熱の鑑別疾患としては、麻疹、風疹、インフルエンザ、レプトスピラ症、伝染性紅斑(成人例)、伝染性単核球症、急性HIV感染症などがあげられる。
図3に国内におけるデング熱診療の流れを示す。医師が患者にデング熱を疑う目安(表2)に該当する症状及び所見を認めた場合は、必要に応じて、診断に加えて適切な治療が可能な医療機関に相談又は患者を紹介する。デング熱は輸液療法などの適切な治療によって重症化を予防できることから、デング熱を疑う患者において、血管透過性亢進に対する輸液療法などが必要な患者など、入院治療が推奨される病態では、検査による確定診断が必要である。デング熱疑い例を探知したが、医療機関でウイルス学的検査を実施できない場合、地域の保健所に相談の上、地方衛生研究所(地衛研)又は国立感染症研究所(感染研)に検査を依頼することができる。
⑤ 届出
デング熱は感染症法では4類感染症の全数把握疾患に分類されるため、診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出る必要がある。届出の詳細は、厚生労働省ホームページ「感染症法に基づく医師の届出のお願い」にて最新の情報を参照されたい。参考として、2015年5月22日時点におけるデング熱の届出様式を別添に示す。
⑥ 治療
デングウイルスに対する有効な抗ウイルス薬はなく、治療の基本はデング出血熱の血管透過性亢進による重症化の予防を目的とした輸液療法と解熱鎮痛薬(アセトアミノフェンなど)の投与である。アスピリンは出血傾向やアシドーシスを助長するため使用すべきでない。また、イブプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬も胃炎あるいは出血を助長することから使用すべきでない12)。
1.外来治療
経口水分補給が可能で、尿量が確保されており、重症化サイン(表3)が認められない場合は外来治療も可能である12)。ただし外来で治療する場合も、解熱時期の前は重症化サインの出現の有無を慎重に経過観察することが必要である12,13)。経口水分補給ができない場合は、生食や乳酸リンゲル液などの等張液輸液を開始する。数時間の輸液により、経口水分補給が可能になったら、輸液量を減じる。
小児の場合は、脱水になりやすいため十分な観察が必要であり、特に乳児は入院加療が推奨される。経口水分補給にはORSなど電解質を含む溶液を推奨し、4―6時間ごとの排尿があることを確認する12)。重症化のリスクがないことが確認されるまでは、連日外来で熱型、水分バランス、尿量、重症化徴候の有無、血液検査による白血球数、Hctや血小板数の評価を行う12)。
2.入院治療
重症化サイン(表3)が認められる場合は入院が必要である7)。代償性ショックの患者に対しては生理食塩水や乳酸リンゲル液などの等張液輸液を5―10ml/kg(小児の場合は10―20ml/kg)開始し、適宜追加しバイタルサインの改善を図るとともに、血管透過性亢進の指標となるベースラインのヘマトクリット値からの上昇率(%Hct)を監視することが重要である。重症化サインを認める患者に対する輸液療法について表5に示す。代償性ショックを認めない場合でも、生食や乳酸リンゲル液などの等張液輸液を5~7ml/kg/時から開始し、臨床症状の改善に応じて、過剰輸液を避けるために輸液速度を減じる。さらに、臨床所見とHct値を再検し、Hct値が同程度あるいは軽度の増加であれば同じ速度の輸液を継続する。もし、臨床所見が悪化し、Hct値が増加すれば輸液速度を増加し、その後に再評価をする。回復期には輸液過剰による肺水腫、腹水、低ナトリウム血症などの危険があることから、厳重な輸液管理を行うことが重要である。Hct値以外にも、患者の熱型、輸液量、尿量、白血球数及び血小板数などの検査所見の監視が必要である。また、解熱後の病態安定を確認するための観察期間は2~3日を目安とする。輸液療法の詳細はWHOガイドライン12)の推奨に基づく。同ガイドラインは東南アジアにおける小児患者からの経験を中心に作成されたものである。
重症化サインを認めない場合でも、重症化リスクの高い、乳幼児、高齢者、妊婦、糖尿病患者、腎不全患者又は血管透過性亢進に対する輸液療法が必要な患者は入院を推奨する12)。生食や乳酸リンゲル液などによる等張液輸液を開始し、低張液の投与は避ける。経口水分補給の量に注意し、末梢循環や適切な尿量が保たれるよう維持輸液を行い、同時に過量投与を避けるために、頻回の輸液量の調整が必要である。多くの場合、輸液は24~48時間で十分である。患者の熱型、輸液量、尿量、ヘマトクリット(Hct)値及び白血球数、血小板数などの検査所見の監視を行い重症化サインの出現に注意する。
重症型デング(重症の血漿漏出症状、出血症状、臓器障害)と診断された患者(表4参照)に対しては集中治療が必要である12)。低血圧性ショックの患者には、生食や乳酸リンゲル液などの等張液を投与することで、ショック状態からの脱出を試みる(表5参照)。患者の状態が回復すれば、輸液速度を減じる。患者の状態が改善しない場合は、さらなる等張液の投与が必要となる。粘膜出血はしばしば解熱期頃に見られるが、通常は問題なく改善する。もし、消化管などからの大量出血が認められた時には、濃厚赤血球輸血を考慮する。血小板減少に対して、血小板輸血は必ずしも必要ではない。
チクングニア熱
① 病原体
チクングニア熱はトガウイルス科アルファウイルス属のチクングニアウイルスによって起こる熱性疾患である10)。デングウイルスとは異なり単一血清型のウイルスである。感染源となる蚊および感染様式もデング熱と同様である。
② 症状及び検査所見
潜伏期間は2~12日で多くは3~7日である。チクングニア熱を発症すると発熱及び関節痛がよくみられる。また、全身倦怠感、リンパ節腫脹、頭痛、筋肉痛、発疹、関節炎、悪心・嘔吐などを呈することもある5,6)。ほとんどの症状は3~10日で消失するが関節炎は数週間から数ヶ月持続する場合がある。関節炎は特に四肢末梢の関節に多発し、激しい関節痛および多発性腱滑膜炎を伴う関節リウマチ様症状を呈するため日常生活に困難を伴う。主な血液所見はリンパ球減少及び血小板減少であり、ALT、ASTの上昇も認められる。小児における関節症状は比較的軽度であることが報告される一方で、中枢神経症状を呈する例や母児感染例も報告されている17,18)。
③ 診断
チクングニア熱の臨床症状はデング熱と最も鑑別が難しい(表6)19,20)。アフリカ、アジアにおける分布域もほぼ一致するため、確定診断には実験室診断が必須である。チクングニア熱患者の確定診断には、血液からのウイルス分離やPCR法によるウイルス遺伝子の検出、特異的IgM抗体の検出、ペア血清による抗体陽転又は抗体価の有意の上昇などが用いられる。国内に製造販売承認されたチクングニアウイルスの抗原検査試薬はない。
チクングニア熱を疑う症状を認めた場合は、必要に応じて、診断や適切な治療が可能な医療機関に相談又は患者を紹介する。チクングニア熱疑い例を探知した場合は、地域の保健所に相談の上、地方衛生研究所(地衛研)又は国立感染症研究所(感染研)に検査を依頼することができる。
④ 届出
チクングニア熱は感染症法で4類感染症全数把握疾患に分類されるため、診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出る必要がある。届出の詳細は、厚生労働省ホームページ「感染症法に基づく医師の届出のお願い」にて最新の情報を参照されたい。参考として、2015年5月22日時点におけるチクングニア熱の届出様式を別添に示す。
⑤ 治療
チクングニアウイルスに対してもデングウイルス同様に有効な抗ウイルス薬はなく、高熱による脱水予防のための輸液療法を行い、関節痛・関節炎の程度に応じて解熱鎮痛薬(アセトアミノフェンなど)を投与する。チクングニア熱では出血症状を呈することは稀であることから、チクングニア熱と確定診断された成人の症例では、ロキソプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬の使用は許容される。また、チクングニア熱では関節炎が数ヶ月に渡って遷延することがあり、これらの慢性関節痛には適宜、対症療法を行う。
デング熱及びチクングニア熱の予防
デング熱及びチクングニア熱には現時点でワクチンがないため、予防には蚊に刺されないような予防対策をとる。皮膚が露出しないように、長袖シャツ、長ズボンを着用し、裸足でのサンダル履きを避ける。しかし、薄手の繊維の場合には服の上から吸血されることもあること、足首、首筋、手の甲などの小さな露出面でも吸血されることがあることにも留意する。忌避剤の利用も効果的である。
ディートは、忌避剤の有効成分としてもっとも広く使われており、ディート含有率12%までのエアゾール、ウエットシート、ローション又はゲルを塗るタイプなどが国内で市販されている。医薬品又は医薬部外品として承認された忌避剤を、年齢に応じた用法・用量や使用上の注意を守って適正に使用する。特に小児(12歳未満)に使用させる場合には、保護者などの指導監督の下で、以下の回数を目安に使用し、顔には使用しない22,23)。
・6か月未満の乳児には使用しない。
・6か月以上2歳未満は、1日1回。
・2歳以上12歳未満は、1日1~3回。
海外では、デング熱及びチクングニア熱を媒介するネッタイシマカやヒトスジシマカは、都市やリゾート地にも生息しており、とくに雨季にはその数が多くなる。また、これらの蚊は特に昼間吸血する習性があり、蚊の対策は昼間に重点的に行う必要がある。
国内では、ヒトスジシマカが媒介蚊であり、朝方から夕方まで吸血する(特に、早朝・日中・夕方(日没前後)の活動性が高い)。ヒトスジシマカは屋内でも屋外でも吸血するが、屋外で吸血することがはるかに多い。
医療機関においては、デング熱及びチクングニア熱患者が入室している病室への蚊の侵入を防ぐ対策をとると同時に、有熱時にはウイルス血症を伴うため、病院敷地内の植え込みなどで、蚊に刺されないように患者に指導することが重要である。敷地内に雨水が溜まった容器が放置してあれば、幼虫が発生しないように少なくとも1週間に一度は逆さにして水を無くすなどの対策が必要である。場合によっては、昆虫成長制御剤(IGR)などの使用も検討する。加えて、病院建物周辺の雨水ますなどの幼虫対策にも留意する必要がある。
デング熱及びチクングニア熱は患者から直接感染することはないが、針刺し事故などの血液曝露で感染する可能性があるため充分に注意する。また患者が出血を伴う場合には、医療従事者は不透過性のガウン及び手袋を着用し、体液や血液による眼の汚染のリスクがある場合にはアイゴーグルなどで眼を保護する。患者血液で床などの環境が汚染された場合には、一度水拭きで血液を十分に除去し、0.1%次亜塩素酸ナトリウムで消毒する。院内感染予防のための患者の個室隔離は必ずしも必要ない。
おわりに
本ガイドラインは、以下の有識者の協力を得て、国立感染症研究所により作成された。
都立墨東病院感染症科:岩渕千太郎
国立国際医療研究センター病院国際感染症センター:大曲貴夫
東京医科大学病院渡航者医療センター:濱田篤郎
国立成育医療研究センター感染症科:宮入烈
(文献)
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http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs117/en/
2) Takasaki T.: Imported dengue fever/dengue hemorrhagic fever cases in Japan.Tropical Medicine and Health. 39: 13-15, 2011
3) 国立感染症研究所:デング熱 2006~2010年 IDWR. 13: 13-21, 2011
4) 国立感染症研究所:<特集>デング熱・デング出血熱 2011~2014. IASR.36(3)33-34
http://www.niid.go.jp/niid/ja/id/692-disease-based/ta/dengue/idsc/iasr-topic/5461-tpc421-j.html
5) Lim CK, et al. Re-emergence of chikungunya virus. Animal viruses. 1-22. 2010.(Transworld Research Network)
6) Sam IC, et al. Updates on chikungunya epidemiology, clinical diseases, and diagnostics. Vector Borne Zoonotic Dis. 15:223-230,2015.
7) 水野泰孝、他.:遷延する関節痛から確定診断に至ったチクングニア熱の本邦初発例.感染症学雑誌.81:600-601,2007
8) 国立感染症研究所:感染症発生動向調査におけるチクングニア熱報告症例,2011~2014年.IASR.http://www.nih.go.jp/niid/ja/iasr-sp/2305-related-articles/related-articles-421/5457-dj4219.html
9) 忽那賢志、他.:南米から帰国後にチクングニア熱と診断された3例. IASR速報.2015年5月現在URL:
http://www.nih.go.jp/niid/ja/id/1295-disease-based/ta/chikungunya/idsc/iasr-news/5643-pr4232.html
10) Knipe DM, Howley PM. Filed Virology 6th edition.
11) Tien NT, et al. A prospective cohort study of dengue infection school children in Long Xuyen, Vietnam. Trans R Soci Trop Med Hyg 104:592-600, 2010.
12) Dengue Guidelines for diagnosis, treatment, prevention and control. Geneva. World Health Organization, 2009
13) CDC Dengue Homepage :Clinical guidance
http://www.cdc.gov/dengue/clinicalLab/laboratory.html
14) Kutsuna S, et al.: The usefulness of serum C-reactive protein and total bilirubin level for distinguishing between dengue fever and malaria in returned travelers. Am J Trop Med Hyg.90: 444-448, 2014
15) Verhagen LM, de Goot R. Dengue in children. J Infect. 69: S77-S86, 2014
16) CDC Dengue Homepage :Laboratory guidance and diagnostic testing.
17) Ramful D, et al. Mother-to-child transmission of chikungunya virus infection. Pediatr Infect Dis J. 26:811-815,2007.
18) Sebastian MR, et al. Chikungunya infection in children. Indian J Pediatr.76:185-189,2009.
19) Pan American Health Organization (PAHO)/CDC. Preparedness and response for chikungunya virus. Introduction in the Americas.
http://carpha.org/DesktopModules/Bring2mind/DMX/Download.aspx?Command=Core_Download&EntryId=1131&language=en-US&PortalId=0&TabId=109
20) US CDC. Chikungunya virus.
http://www.cdc.gov/chikungunya/pdfs/CHIKV_DengueEndemic.pdf
21) US CDC. Clinical assessment. Tourniquet test.
http://www.cdc.gov/dengue/training/cme/ccm/page73112.html
22) 薬食安発第0824003号通知(平成17年8月24日)
http://www.mhlw.go.jp/topics/2005/08/tp0824-1.html
23) 平成22年度第2回薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会資料
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/06/s0608-5.html
表1.国内デング熱患者(n=162)にみられた症状や検査所見(文献4より改変)
症状・検査所見 |
発生頻度(%) |
発熱 |
99 |
血小板減少 |
78 |
白血球減少 |
78 |
頭痛 |
72 |
発疹 |
48 |
全身の筋肉痛 |
22 |
骨関節痛 |
18 |
表2.デング熱を疑う目安(文献12)
海外のデング熱流行地域から帰国後、あるいは海外渡航歴がなくてもヒトスジシマカの活動時期に国内在住者において、発熱と以下の所見の2つ以上を認める場合にデング熱を疑う。
1.発疹、2.悪心・嘔吐、3.頭痛・関節痛・筋肉痛、4.血小板減少
5.白血球減少、6.ターニケットテスト陽性※、7.重症化サインのいずれか.
※ ターニケット(駆血帯)テスト:上腕に駆血帯を巻き、収縮期血圧と拡張期血圧の中間の圧で5分間圧迫を続け、圧迫終了後に2.5cm×2.5cmあたり10以上の点状出血が見られた場合に陽性と判定する(文献21)
表3.重症化サイン(文献12)
デング熱患者で以下の症状や検査所見を1つでも認めた場合は、重症化のサイン有りと診断する。
1.腹痛・腹部圧痛、2.持続的な嘔吐、3.腹水・胸水、4.粘膜出血
5.無気力・不穏、6.肝腫大(2cm以上)、7.ヘマトクリット値の増加(20%以上,同時に急速な血小板減少を伴う)
表4.重症型デングの診断基準(文献12)
デング熱患者で以下の病態を1つでも認めた場合、重症型デングと診断する。
1.重症の血漿漏出症状(ショック、呼吸不全など)
2.重症の出血症状(消化管出血、性器出血など)
3.重症の臓器障害(肝臓、中枢神経系、心臓など)
表5.重症化サインを認める患者に対する輸液療法(詳細は文献12を参照)
重症化サインが認められるが、ショックではない場合 生食や乳酸リンゲル液などの等張液を5~7ml/kg/時(1~2時間)から開始する。 ・ 臨床症状の改善に応じて、輸液速度を3~5ml/kg/時(2~4時間)さらに2~3ml/kg/時(2~4時間)と減じる。 ・ 臨床所見とHct値を再検し、Hct値が同程度あるいは軽度の増加であれば2~3ml/kg/時(2~4時間)の輸液を継続する。 ・ 臨床所見の悪化に伴ってHct値が増加すれば5~10ml/kg/時に輸液速度を増加し、1~2時間後に再評価をする。 代償性ショックの場合 ・ 生食や乳酸リンゲル液などの等張液の5-10ml/kg(小児の場合は10-20ml/kg)を1時間かけて静注する。患者の状態が回復すれば原則として上記へ 低血圧性ショックの場合 ・ 生食や乳酸リンゲル液などの等張液の20ml/kgを15分かけて静注する。患者の状態が回復すれば、輸液速度を10ml/kg/時として1時間継続し、その後も輸液速度を減じる。 |
表6.デング熱とチクングニア熱の臨床像(発熱を除く)と検査所見の比較(文献19,20)
|
チクングニア熱 |
デング熱 |
関節痛 |
+++ |
± |
関節炎 |
+ |
- |
頭痛 |
++ |
++ |
発疹 |
+ |
+ |
筋肉痛 |
+ |
++ |
出血 |
± |
++ |
ショック |
- |
+ |
白血球減少 |
++ |
+++ |
血小板減少 |
+ |
+++ |
血液濃縮 |
- |
++ |
頻度
+++:70~100%
++:40~69%
+:10~39%
±:<10%
図1.デング熱患者の発疹:解熱時期にみられた点状出血
図2.デング熱患者の発疹:解熱時期にみられた島状に白く抜ける紅斑
図3.国内におけるデング熱診療の流れ