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○十二指腸鏡による多剤耐性菌の伝播について

(平成27年3月20日)

(/医政地発0320第3号/薬食安発0320第4号/)

(各都道府県・各保健所設置市・各特別区衛生主管部(局)長あて厚生労働省医政局地域医療計画課長・医薬食品局安全対策課長通知)

(公印省略)

近年、海外において内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)等に用いられる十二指腸鏡による多剤耐性菌の伝播が報告されており、先日も米国食品医薬品局(FDA)において関連する安全情報(別添参照)が出されたところです。

我が国で流通している十二指腸鏡は、鉗子起上装置のある先端部のキャップが取外しできる構造となっており、取外しできない米国で流通している十二指腸鏡に比べて洗浄に関して有利な構造となっています。また、腸内細菌科細菌のカルバペネム耐性率は米国で11%程度であるのに対して我が国では1%以下となっており、これらの多剤耐性菌による感染リスクの大きさは異なります。しかしながら、これらの違いにより、我が国での感染リスクが十分に小さいことが確認されたわけではなく、依然、注意が必要な状況となっています。

こうした状況を踏まえ、十二指腸鏡の使用に関する留意点を下記のとおりまとめましたので、貴管下の医療機関に対して周知するとともに、必要に応じこれらの機関を指導いただくようお願いいたします。

1.今回の米国でのFDAの安全情報においても、「内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)を必要としている患者に対して、ERCPを中止すべきとする勧告は行っていない」とされているように、ERCP等の十二指腸鏡を用いた施術が必要な国内の患者に対し、当該施術を直ちに中止する必要はないこと。

2.十二指腸鏡を用いた検査又は処置に当たっては、その目的とそれによってもたらされる可能性のあるリスクについて、患者に対してあらかじめ説明すること。

3.感染リスクを最小化するために、十二指腸鏡の洗浄及び滅菌又は消毒に関して関連学会等が策定するガイド及び添付文書・取扱説明書等において製造販売業者が定める方法を遵守すること。

4.鉗子起上装置のある先端部は複雑な構造であるため、先端部のキャップを取り外し、専用のブラシを用いて丁寧に洗浄を行うこと。

5.十二指腸鏡を用いた検査を介したカルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)等の多剤耐性菌の伝播が確認又は疑われた場合は、管轄する保健所に速やかに報告すること。併せて、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和35年法律第145号)第68条の10第2項に基づく報告(医薬関係者による副作用等報告)についても、独立行政法人医薬品医療機器総合機構に提出すること。

<参考>

・ 消化器内視鏡の感染制御に関するマルチソサエティ実践ガイド(日本環境感染学会、日本消化器内視鏡学会、日本消化器内視鏡技師会作成(平成25年7月))

http://www.kankyokansen.org/other/syoukaki_guide.pdf

又は

http://www.jgets.jp/CD_MSguide20130710.pdf

・ 医薬関係者による副作用等報告について

http://www.pmda.go.jp/safety/reports/hcp/pmd-act/0003.html

<別添>

・ FDA安全情報(仮訳)

別添

内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)に使用する十二指腸鏡の設計により効果的な洗浄ができない可能性がある。:FDA安全情報

発行:2015年2月19日

更新:2015年2月23日

更新:2015年3月4日

対象:

・消化器内科医

・消化器外科医

・内視鏡看護師

・医療機関の内視鏡再生処理にかかわる職員

・感染制御にかかわる職員

・ERCPを考慮している患者

医学専門分野:消化器、感染制御

医療機器:ERCPに用いる内視鏡すべて(側視型十二指腸鏡)

Figure 1:ERCP用内視鏡の先端(拡大)

目的:

FDAは洗浄部門を含む医療従事者に対して、ERCP用内視鏡(または十二指腸鏡)の複雑な設計が、効果的な再処理を妨げる可能性があることについて啓発を行いたい。再処理とは、再使用可能な医療機器に対する洗浄および消毒または殺菌のための、複雑で多段階に渡る手順のことである。最近の医学論文や有害事象報告によると、製造業者の定める再処理手順を遵守した場合であっても、ERCPを受けた患者の多剤耐性菌感染が再処理された十二指腸鏡と関連していた。高水準消毒に先立って丁寧に十二指腸鏡の洗浄を行うことで、感染リスクを下げることはできるが、そのリスクを完全に排除することはできない。

事案概要:

米国では毎年50万例以上の十二指腸鏡を用いたERCPが実施されている。この手技は、がん、胆石、その他の理由により閉塞した膵胆管から貯留液を排液するためのもっとも非侵襲的なものである。十二指腸鏡は屈曲可能な、光源付チューブであり、口、喉、胃を経て小腸上部(十二指腸)まで挿入されるものである。この内視鏡には、内腔管があり、染料の注入や、生検のための器具を挿入したり、何等かの治療に用いられることもある。その他の多くの内視鏡と違い、十二指腸鏡はその先端部に可動式の鉗子起上装置がついている。鉗子起上装置により、付属器開口部から付属器が出ていく角度を調節することができ、そのことによって排液のために膵胆管に機器を挿入することができる。この複雑な構造のおかげでERCPの効率が向上したが、洗浄と高水準消毒にとっては不利な構造となっている。この内視鏡の部品のいくつかは、到達するのが極めて困難であり、十二指腸鏡全体を効率的に洗浄することは不可能となりえる。加えて、最近のFDAの工学的評価では、十二指腸鏡において再生処理上の問題を来す設計上の問題があることが判明しており、同様の見解を示す科学論文も増えている。例えば、機器の添付文書にある手洗い洗浄手順においては、鉗子起上部はブラシを用いて洗浄することとなっている。しかし、鉗子起上部の可動部分には微細な隙間があり、その部分はブラシが到達しない。洗浄消毒後にも、体液や組織片が残存する可能性がある。このような残存体液等の中に病原微生物が含まれている場合には、他の患者に深刻な感染症がもたらされる可能性がある。

FDAは再生処理された十二指腸鏡とクレブシエラ属や大腸菌などのカルバペネム耐性腸内細菌科細菌によって引き起こされた多剤耐性菌感染症等の感染伝播の関連について注視している。2013年1月から2014年12月の期間に、FDAは、再生処理された十二指腸鏡を介した可能性のある感染事案に関して、米国内で計75例の医療機器事故報告(MDR)を受けており、患者数は約135人であった。FDAに報告されていない事案もあると考えられる。当局は引き続き確定症例及び疑い症例に関してMDR、医学論文、医学関係者、関連学会、CDC等の様々な情報源から得られる情報を精査していく。

ERCPに用いられる十二指腸鏡の再生処理に関わる施設及び作業者への勧告:

・製造業者が示す洗浄及び再生処理の手順を全て遵守すること。

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FDAは、下記の参考文献に示される感染制御及び内視鏡の専門家によって築かれた一般的な内視鏡再生処理のガイドラインおよび手順を遵守することを勧める。加えて、それぞれの医療機器毎に製造業者が定めた再生処理手順を遵守することも重要である。

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十二指腸鏡は元来再生処理することが難しいものではあるが、製造業者が定める再生処理手順を厳密に遵守することで感染リスクを最小化できる。製造業者が定める再生処理手順からの逸脱は、汚染につながるおそれがある。製造業者が定める再生処理手順に書かれていない洗浄用具(チャネル送水補助器具、ブラシ、洗剤等)の有効性は、確立していない。

・下記に示す方法により、有害事象を製造業者とFDAに報告すること。

・以下の追加的手順を遵守すること:

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自動内視鏡再処理装置(AER)を使用する場合であっても、鉗子起上装置及びその周辺の陥凹部は丁寧に用手洗浄すること。用手洗浄の際は、起上装置を上げ下げして両面をブラシで洗浄すること。

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十二指腸鏡の再生処理に関する、包括的な品質管理プログラムを導入すること。個々の再生処理プログラムは、モニタリングの訓練及びプログラム遵守状況、機器テストの文書化、過程、再生処理作業中に適応される品質モニタリングについての文書化された手順を含んでいることが望ましい。

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Multisociety Guideline on Reprocessing Flexible Gastrointestinal Endoscopes:2011(内視鏡再処理に関するエビデンスに基づいた勧告のための合意文書)を参考にすること。

医療者への勧告:

・ERCPに関して、患者にその利点とリスクについて情報提供を行うこと。

・ERCPを受けた後に患者に起こると考えられる症状と、どのような症状が出た場合は追加的に経過観察しなければいけないか(発熱、悪寒、胸痛、強い腹痛、嚥下困難と呼吸困難、黒色便又はタール便等)に関して患者と話し合うこと。

・使用毎に徹底的に十二指腸鏡を消毒し、再処理の品質管理プログラムを導入すること。

・患者への感染の関与が疑われる十二指腸鏡に関しては、病原微生物がいないことが証明されるまで使用を中止し丁寧に洗浄及び消毒すること。

・下記に示すように、十二指腸鏡の再生処理の問題が患者の感染につながったことを疑った場合は、MedWatchから製造業者及びFDAに報告すること。

患者への勧告:

・ERCPに関して、患者にその利点とリスクについて担当医師と話し合うこと。ほとんどの患者にとって、ERCPの利点が感染リスクを上回る。ERCPは、しばしば治療しなければ深刻な予後に帰結するような生命を脅かす状況において用いられるものである。

・ERCPを受けた後にどのような事が起こると考えられるかや、どのような場合に受診するべきかについて担当医師に聞くこと。ERCP後には、多くの患者が咽頭痛や軽度の腹部不快感などの軽い症状を経験しうる。ERCP後に、発熱や悪寒やその他のより重篤な異常のサイン(胸痛、強い腹痛、嚥下困難と呼吸困難、黒色便又はタール便等)を認めた場合は、担当医に連絡をとること。

FDAの動き:

FDAはCDC等の他の政府機関及び米国で使用されている十二指腸鏡の製造業者と緊密に連携し、感染の原因と病原微生物の伝播に関わるリスク因子を特定し、患者の暴露を最小化するための解決策の確立に向けて努力している。今般のFDAの動きは以下の通り:

・CDC及び環境保護庁(EPA)と連携し、薬剤耐性菌の高水準消毒への感性を評価。

・CDCと連携し、十二指腸鏡の微生物学的サーベイランス等、追加の感染リスク低減策の探索。

・問題の規模を調査し、米国外で検討されている解決策を探るための、国外の公衆衛生機関との情報交換。

・米国での十二指腸鏡市場における3社(富士フイルム、オリンパス、ペンタックス)からの再処理の承認に関するデータの確認。

FDAは引き続き状況を注視し、適切に最新情報提供していく。

FDAへの問題の報告

製造業者と使用機関はMDR規則の関連条項を遵守しなければならない。

FDAの定める使用機関報告の対象となっている医療機関の職員は、施設の内規で定められた報告手順を遵守するべきである。

有害事象報告が速やかに行われることで、FDAは医療機器に関連するリスクを把握し、より正確に理解することができる。医療従事者は、十二指腸鏡の不十分な洗浄が原因で感染の伝播が起こった場合は、自発的にMDRから当局に報告するべきである。

ERCP後の感染増加や十二指腸鏡の培養サーベイランスの結果から、製造業者の示す再生処理の手順に従ったにも関わらず、細菌汚染が疑われた場合には、医療従事者はMedWatch(FDA安全情報及び有害事象報告プログラム)を通じて自主報告を行うように勧告する。

その他の参考資料:

・American Society for Gastrointestinal Endoscopy: Multisociety Guideline on Reprocessing Flexible Gastrointestinal Endoscopes: 2011

・Society of Gastroenterology Nurses and Associates: Standards of Infection Control in Reprocessing of Flexible Gastrointestinal Endoscopes

・FDA: Reprocessing of Reusable Medical Devices

・FDA: Preventing Cross-Contamination in Endoscope Processing: FDA Safety Communication

リファレンス:

Alrabaa SF, Nguyen P, Sanderson R, et al. June 2013. Early Identification and Control of Carbapenemase-Producing Klebsiella Pneumoniae, Originating from Contaminated Endoscopic Equipment. Retrieved from

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23171594

Aumeran C, Poincloux L, Souweine B, et al. November 2010.

Multidrug-Resistant Klebsiella Pneumoniae Outbreak After Endoscopic Retrograde Cholangiopancreatography. Retrieved from

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20725887

Epstein L, Hunter JC, Arwady MA, et al. October 2014. New Delhi Metallo-β-Lactamase-Producing Carbapenem-Resistant Escherichia Coli Associated with Exposure to Duodenoscopes. Retrieved from

http://jama.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=1911326

Rutala WA and Weber DJ. October 2014. Gastrointestinal Endoscopes: ANeed to Shift From Disinfection to Sterilization? Retrieved from

http://jama.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=1911309

Verfaillie C, Bruno M, Poley, JW, et al. Withdrawal of a Duodenoscope Stops Outbreak by A Vim-2 Pseudomonas Aeruginosa. [Abstract] Retrieved from

http://www.icaaconline.com/php/icaac2014abstracts/data/papers/2014/K-1685.htm

連絡先:

当通知に関する質問がある場合は、the Division of Industry and Consumer Education (DICE)まで連絡されたし。

Eメール:DICE@FDA.HHS.GOV

電話:800―638―2041又は301―796―7100

医療従事者のための十二指腸鏡に関する追加情報(2015年3月4日)

特定の型番(オリンパス製、TJF―Q180V)の十二指腸鏡が現時点で510(k)のクリアランスを取得していないことをもって、ERCPを中止するべきかどうかという問い合わせが、医療従事者からFDAに寄せられている。FDAは、ERCPを必要としている患者に対して、ERCPを中止すべきとする勧告は行っていない。

オリンパスは現在この製品に関して510(k)の申請を行っているが、申請が審査されている間も市場への供給は続いている。FDAとしては、審査中において、オリンパスに対してこの製品に関する特段何らかの対応をとる予定はない。なぜならば、現在得られている情報によると、市場からこの製品を排除すれば、年間米国で50万件施行されているERCPの需要に対応することができなくなると考えられるからである。

FDAの分析によると、十二指腸鏡に関連する感染は、3社全ての製品で起こっている。現時点において、510(k)の未取得が感染と関連しているというエビデンスをFDAは得ていない。

FDAは以下のことを推奨する:

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製造業者の指示に従い、十二指腸鏡の洗浄及び消毒を徹底的に行うこと。

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十二指腸鏡の再生処理に関して、包括的な品質管理プログラムを導入すること。

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患者への感染の関与が疑われる十二指腸鏡に関しては、病原微生物がいないことが証明されるまで使用を中止し丁寧に洗浄及び消毒すること。

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ERCPに関して、患者にその利点とリスクについて情報提供を行うこと。

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ERCPを受けた後に患者に起こると考えられる症状と、どのような症状が出た場合は追加的に経過観察しなければいけないか(発熱、悪寒、胸痛、強い腹痛、嚥下困難と呼吸困難、黒色便又はタール便等)に関して患者と話し合うこと。

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十二指腸鏡の再生処理の問題が患者の感染につながったことを疑った場合は、MedWatchから製造業者及びFDAに報告すること。