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○原子力損害の賠償に関する法律の一部改正に伴う原子力損害が生じた場合の労災保険の取扱いの見直しについて

(平成27年3月25日)

(基発0325第10号)

(都道府県労働局長あて厚生労働省労働基準局長通知)

(公印省略)

原子炉の運転等により原子力損害が生じた場合における損害賠償に関する基本的制度については、原子力損害の賠償に関する法律(昭和36年法律第147号。以下「原賠法」という。)に規定されているが、原子力事業者(原賠法第2条第3項に規定する原子力事業者をいう。以下同じ。)の従業員が原子力損害(原賠法第2条第2項に規定する原子力損害をいう。以下同じ。)を受けた場合の労災保険の取扱いについては、原賠法附則第4条に基づき、昭和54年12月27日付け基発第654号「原子力損害の賠償に関する法律の一部改正に伴う労災保険の取扱いについて」により指示してきたところである。

今般、「原子力損害の補完的な補償に関する条約」の締結に伴う国内法の整備のため、原子力損害の賠償に関する法律及び原子力損害賠償補償契約に関する法律の一部を改正する法律(平成26年法律第134号。以下「平成26年改正法」という。)が別添のとおり公布され、平成27年4月15日から施行される。本改正に伴い原子力損害が生じた場合の労災保険の取扱いについても見直されるため、今後の取扱いについては下記のとおり実施することとし、事務処理に遺漏なきを期されたい。なお、本通達は平成26年改正法による改正事項(記の3の(2))を除けば、原子力損害が生じた場合の現行の労災保険の取扱いを整理したものであり、従前の取扱いを変えるものではないため、念のため申し添える。

本通達は、平成27年4月15日から施行し、本通達の施行をもって、昭和54年12月27日付け基発第654号は廃止する。

1 原子力損害が生じた場合における損害賠償に関する基本的制度について

(1) 原子力損害(原賠法第2条第2項)

原賠法における原子力損害とは、核燃料物質の原子核分裂の過程の作用又は核燃料物質等の放射線の作用若しくは毒性的作用により生じた損害(身体的損害、物質的損害等の原子炉の運転等と相当因果関係のある損害を含み、原子力事業者自身が受けた損害は除く。)をいう。

(2) 原子力事業者の無過失責任及び責任集中原則(原賠法第3条、第4条)

原子炉の運転等の際、当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは、その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によって生じたものであるときを除き、過失の有無にかかわらず、当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害賠償責任を負う(無過失責任)。さらに、当該原子力損害が原子力事業者以外の者により生じた場合でも、当該原子力損害の賠償責任を原子力事業者のみに負わせ、その他の者の賠償責任は一切免責する(責任集中原則)。

(3) 原子力事業者の求償権の制限(原賠法第5条)

原賠法では、責任集中原則の下で原子力事業者が行った賠償について、当該原子力事業者の求償権行使を、一定の場合に制限している。

平成26年改正法による改正前の原賠法(以下「旧原賠法」という。)第5条では、特約を別途結ぶ場合及び原子力損害が第三者の故意により生じた場合に限り、原子力事業者は当該第三者に対して求償権を有し、第三者とは、自然人・法人の如何を問わないとされていた。

しかしながら、平成27年4月15日以後は、平成26年改正法による改正後の原賠法(以下「新原賠法」という。)第5条により、書面による特約を別途結ぶ場合及び原子力損害が自然人の故意により生じた場合に限り、原子力事業者は当該特約の相手方又は自然人に対してのみ求償権を有し、原子力事業者は書面による特約を別途結んでいない法人への求償ができないこととなった。

2 従業員損害の原賠法による賠償と労働者災害補償保険法の規定による給付との調整について

(1) 調整の基本的な考え方

原子力事業者が原子力損害の賠償と労災保険料の負担を二重に負担するという不合理を避けるため、労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号。以下「労災保険法」という。)の規定による保険給付(以下「労災保険給付」という。)で填補されない損害のみを原賠法による賠償の対象とするということが両者間の調整の基本的な考え方である。

(2) 具体的な調整方法

原子力事業者の従業員(原子力事業者の下請企業の従業員は含まれない。以下同じ。)が業務上の事由又は通勤により受けた原子力損害(以下「従業員損害」という。)については、原賠法に基づく賠償を受けるほか、労災保険給付を受けることができるため、当該従業員又はその遺族がその損害の填補に相当する労災保険給付を受けるべきときは、労災保険給付が先行して行われ、原子力事業者の行う損害賠償については、以下の調整が行われる(原賠法附則第4条第1項)。

① 原子力事業者は、原子力事業者の従業員又はその遺族の労災保険給付を受ける権利が存続する間は、従業員損害賠償額のうち将来の労災保険給付相当額の部分については履行が猶予され、全損害額から当該相当額を控除した額を賠償すれば足りる。

② ①において、現実に労災保険給付が支給される都度、履行が猶予されている額がその分だけ減少し、原子力事業者はその分について最終的に賠償の責を免れる。

3 原子力損害に係る政府からの第三者に対する求償について

労災保険では、労災保険給付の原因となる事故が第三者の行為によって生じた場合、政府はその給付の価額の限度で、労災保険給付を受けた者が第三者に対して有する損害賠償請求権を取得する(労災保険法第12条の4第1項)。

原賠法は、こうした労災保険の第三者求償の枠組みについて一定の変更を加えており、その具体的な取扱いについては下記の方法による。

(1) 原子力事業者の従業員ではない者が原子力損害を受けた場合

原子力事業者の従業員を除く原子力損害の被害者は、当該原子力損害の発生の原因にかかわらず、責任集中原則に基づき、原子力事業者への損害賠償請求権を有するため、当該原子力損害について労災保険給付が行われた場合の政府による第三者求償は、労災保険法第12条の4第1項に基づき原子力事業者に対して行われる。

(2) 原子力事業者の従業員が原子力損害を受けた場合

① 旧原賠法における取扱い(旧原賠法附則第4条第2項)

従業員損害が第三者により生じたときであっても、責任集中原則に基づき、当該従業員は原子力事業者への損害賠償請求権のみを有することになるが、当該原子力事業者は当該従業員の事業主にあたることから、原則として、労災保険給付を行った場合でも政府は求償を行うことができない。

一方で、従業員損害が第三者の故意により生じたときは、原子力事業者が従業員に対して賠償を行った場合に当該第三者に対して求償できることとの均衡から、政府は労災保険給付を行った場合に当該第三者に対し、労災保険法第12条の4ではなく旧原賠法附則第4条第2項の規定に基づき、求償を行うことができる。

② 新原賠法における取扱い(新原賠法附則第4条第2項)

原子力事業者の求償権の制限について見直しが行われたこと(記の1の(3)参照)との均衡から、政府が第三者求償を行うことができるときが、従前の「原子力損害が第三者の故意により生じたものであるとき」から「他に原子力損害の発生の原因について責めに任ずべき自然人があるとき(当該損害が当該自然人の故意により生じたものである場合に限る。)」とされたため、平成26年改正法の施行後は、法人の故意により生じた従業員損害で労災保険給付を行った場合は、政府は第三者求償を行うことができず、自然人が故意で行った行為により従業員損害が生じた場合には、当該自然人に対し新原賠法附則第4条第2項の規定に基づき、政府は第三者求償を行うことができることとなる。

したがって、新原賠法の施行後は、従業員損害が自然人の故意により生じたものでないときで労災保険給付を行う場合は、政府が第三者求償を行うことができない一方、自然人の故意により生じたものであるときで労災保険給付を行う場合は、労災保険法第12条の4ではなく新原賠法附則第4条第2項の規定に基づき政府は第三者求償を行うことができる。

なお、新原賠法の施行(平成27年4月15日)前に従業員損害の発生の原因となった事実が生じた場合における政府の第三者求償については、なお従前の例による(平成26年改正法附則第2条第3項)。

(3) 原子力損害に係る求償事務の取扱い

上記(2)の①、②のいずれの場合も、求償は原賠法に基づく求償権により行われるものであり、損害賠償請求権の代位取得という構成をとる労災保険法第12条の4に基づく求償権の行使とは異なるものであるが、実際の取扱いについては、同条に基づく求償事務の例に準じて、原子力損害の発生の原因について責めに任ずべき第三者に対して求償事務を行うこと。

なお、原子力損害には特殊性・専門性があること、原子力事業者の求償との均衡を考慮する必要があること等に鑑み、万一原賠法に基づく求償事務を取り扱う必要が生じた場合には、本省に協議されたい。

別添