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○眼刺激性試験を化粧品・医薬部外品の安全性評価に活用するための留意事項について

(平成27年2月27日)

(事務連絡)

(各都道府県衛生主管部(局)薬務主管課あて厚生労働省医薬食品局審査管理課通知)

眼刺激性試験については、「医薬部外品の製造販売承認申請及び化粧品基準改正要請に添付する資料に関する質疑応答集(Q&A)について」(平成18年7月19日付け審査管理課事務連絡)により、参考となる試験条件を示してきたところです。

今般、OECDテストガイドライン405の2012年の改訂を踏まえ、平成26年度医薬品等規制調和・評価研究事業「新規動物試験代替法の開発、国際標準化及び普及促進に関する研究」(研究代表者 国立医薬品食品衛生研究所 小島肇)において、JaCVAM:Japanese Center for the Validation of Alternative Methods(日本動物実験代替法評価センター)の資料をもとに、別添のとおり、眼刺激性試験を化粧品・医薬部外品の安全性評価に活用するにあたり必要な留意事項が取りまとめられましたので、参考までお知らせいたします。

眼刺激性試験を化粧品・医薬部外品の安全性評価に活用するための留意事項

1.序論

眼刺激性は、被験物質を眼に直接接触させることにより生じる結膜の発赤・浮腫・分泌物、虹彩の変化や角膜の混濁等を指標とする変化であり、眼刺激性試験はヒトが被験物質を粘膜に適用、あるいは誤って眼に入れた場合に生じる結膜、虹彩及び角膜に対する傷害を予測するために実施される。

医薬部外品の製造販売承認申請および化粧品基準改正要請では、原料および製剤の眼刺激性を評価するため、従来、ウサギを用いた方法(Draize法1))が通常実施されてきた。Draize法は、急性眼刺激性/腐食性(Acute Eye Irritation/Corrosion)を評価する経済協力開発機構(OECD)テストガイドライン(Test Guideline:TG)405として1981年に採択され、その後改訂および更新されている2)

2012年のOECD TG 405の改訂に先立ち、米国の動物実験代替法評価センター(ICCVAM)の国際的な第三者評価委員会(International Scientific Peer Review Panel)3)において、局所麻酔薬と全身性鎮痛薬の使用により、試験成績に影響を与えることなく動物の痛みと苦痛を回避できるか、そして、その際の局所麻酔薬と全身性鎮痛薬の処方およびエンドポイントについて議論された。その結果、ウサギを用いた眼刺激性試験において、試験成績に影響を与えることなく動物の痛みと苦痛が軽減されると考えられ、本改訂にいたった。

今回のOECD TG 405(2012)の改訂の要点を次に示す。

1)被験物質投与前には、局所麻酔薬(例:プロパラカイン、テトラカイン)と全身性鎮痛薬(例:ブプレノルフィン)による前処置を行う。

2)被験物質投与後では、全身性鎮痛薬(例:ブプレノルフィン、メロキシカム)による処置を行う。

3)動物の痛みと苦痛の症状の計画観察、モニタリングおよび記録。

4)全ての眼傷害の(症状、程度および進行状況)計画観察、モニタリング、記録及びエンドポイントの設定。

本文書は、TG 405(2012)を用い、化粧品・医薬部外品の安全性評価に利用するに当たっての必要な留意点を取りまとめたものである。

なお、試験実施にあたっては、JaCVAMの資料編纂委員会報告書4)やOECD TG 405(2012)の原文2)を参照することにも留意すべきである。

2.ウサギ眼刺激性試験手順

2.1.供試動物

健康な若齢成熟のアルビノウサギを供試動物として使用する。試験開始前24時間以内に供試動物の両眼を検査する。眼の刺激、眼傷害又は角膜損傷が認められた動物は使用しない。

動物は個別飼育とし、通常の動物室で飼育する。

2.2.局所麻酔薬及び全身性鎮痛薬の適用

眼刺激性試験の実施にあたり、動物の痛み及び苦痛を回避ないし最小限にする適用方法を例示する。

被験物質投与の60分前に、ブプレノルフィン0.01mg/kg(鎮痛薬として治療に用いられる用量)を皮下投与する。

被験物質投与5分前に、両眼に局所麻酔薬(例えば、0.5%塩酸プロパラカインあるいは0.5%塩酸テトラカイン)を1、2滴点眼する。局所麻酔点眼薬中の防腐剤が試験結果に影響する可能性を回避するため、防腐剤無添加の局所麻酔点眼薬の使用を推奨する。注1対照眼には被験物質は投与せず、局所麻酔薬のみを投与する。

被験物質投与8時間後に、ブプレノルフィン0.01mg/kg及びメロキシカム0.5mg/kgを皮下投与する。なお、メロキシカムが1日1回皮下投与で眼に対する抗炎症性作用を示すというデータはないが、被験物質投与の8時間後まではメロキシカムを投与すべきではない。被験物質投与8時間以降は、眼所見や痛み及び苦痛が消失するまで、ブプレノルフィン0.01mg/kgを12時間間隔、メロキシカム0.5mg/kgを24時間間隔で皮下投与する。注2

――――――――――

注1 OECD TG 405(2012)で例示されている局所麻酔薬は、わが国において、現時点では医薬品として流通していない。それゆえ、わが国で入手可能な局所麻酔薬を用いるべきである。防腐剤を添加していない局所麻酔点眼薬として、「オキシブプロカイン塩酸塩ミニムス点眼液0.4%「センジュ」(千寿製薬株式会社)」がある。

注2 先行投与の鎮痛薬および局所麻酔薬の効果が不十分な場合には、被験物質投与直後に鎮痛薬の投与を実施する。試験期間中に動物が痛みや苦痛を示した際には直ちに追加の鎮痛薬(0.03mg/kgブプレノルフィン、皮下投与)を投与し、必要に応じて8時間毎に投与する。0.5mg/kgメロキシカムは緊急用量のブプレノルフィンと併用し、24時間間隔で皮下投与する。なお、その際は12時間間隔で実施しているブプレノルフィン投与は実施しない。

2.3.被験物質の適用

下眼瞼を穏やかに引き、各動物の片眼の結膜嚢内に被験物質を投与する。被験物質の流失を防ぐため、約1秒間上下の眼瞼を静かに合わせ、閉じたままにしておく。

2.3.1.洗浄

被験物質が固体の場合や投与直後に眼刺激性・腐食性作用を示す場合を除いては、被験物質投与後少なくとも24時間は被験動物の眼を洗浄しない。24時間後に洗浄してもよい。

科学的に妥当性がない限り、洗浄による影響を評価するためのサテライト群の使用は推奨できない。もし、サテライト群が必要な場合は2例のウサギを使用する。洗浄の条件、例えば洗浄時間、洗浄液の組成、温度及び量などを記録する。

2.3.2.用量

(1) 液体での試験

被験物質が液体の場合、投与量は0.1mLとする。

(2) 固体での試験

被験物質が固体、ペースト及び粒子状の場合、投与量は容量として0.1mL、あるいは重量で100mg以下の量とする。被験物質は摩砕して微粉末化する。固体物質の容量は容器に詰めた後に秤量する。固体物質が投与後1時間の観察時点で、生理的機能によって眼から除去されていない場合には、眼を生理食塩液又は蒸留水で洗浄してもよい。

(3) エアゾールでの試験

ポンプスプレー及びエアゾール製品の場合は、予め内容物を採取し眼に適用することが推奨される。ただし、被験物質が気化するために加圧エアゾール容器に入れられている場合は例外であり、その場合は開眼させ、眼の直前10cmの距離から約1秒間単回噴射して被験物質を眼に適用する。この距離は、スプレーの射出圧力およびその含量に応じて変えてもよい。スプレーの射出圧力で眼を損傷しないように注意する。スプレーからの噴射による投与量は、以下のシュミレーションによって概算の投与量を推定する。

被験物質を秤量用紙の直前に置いたウサギの眼のサイズの穴を通してスプレーし、秤量用紙の重量増加から眼にスプレーされる量を概算する。揮発性物質の投与量については、被験物質をスプレーする前と後の容器重量を秤量することにより推定する。

2.4.初回試験(動物1例を用いるin vivo眼刺激性・腐食性試験)

段階的試験戦略(下記3項)に示すように、in vivo試験では、まず1例の動物を用いて実施する。確認試験に移る前に、眼刺激性の重症度と回復性の有無を観察する。この初回試験の観察結果により、被験物質が腐食性又は強度の眼刺激性を有すると判断される場合には、それ以降の確認試験は実施しない。

2.5.確認試験(追加動物を用いるin vivo眼刺激性試験)

初回試験において腐食性ないし強度の眼刺激性作用が観察されない場合は、1例ないし2例の動物を追加して刺激反応の有無を確認する。初回試験で中等度の眼刺激性が認められた場合は、確認試験で2例の動物を同時に投与するよりも、1例ずつ段階的に投与する確認試験を実施することが推奨される。そして2例目の動物において、腐食性又は強度の眼刺激性作用が認められた場合はそれ以降の試験を実施しない。また2例目の動物の結果でハザード分類に十分と判断された場合でも、それ以降の確認試験は実施しない。

2.6.観察期間

観察期間としては、傷害の程度及び回復性を十分に評価できる期間とする。しかし、動物が重度の苦痛又は傷害を示した場合は、その時点で試験を中止する。傷害の回復性を評価するためには、被験物質投与後、通常21日までは観察する。回復性が21日以前に確認できた場合は、その時点で試験を中止する。

2.7.臨床観察及び眼刺激性スコア(評点)

投与後1時間及びその後数日間毎日観察し、眼の傷害の有無を詳細に観察する。眼刺激性のスコア(評点)を各試験で記録する。その他の眼の所見(例えばパンヌス、染色、前眼房の変化)や全身性の影響も詳細に記録する。

動物は試験期間中、定期的に苦痛及び痛み(例;繰り返しの眼部接触又は擦り、過度の瞬きをする、過度の流涙など)の症状を観察する。フルオレセイン染色は定期的に行うべきであり、必要と考えられた場合は細隙灯生体顕微鏡を使用し、眼の損傷域の検出及び程度を適切に判断する(例;角膜潰瘍が認められる時の損傷の深さの検出)。またこれら方法は安楽殺処分のための制定されたエンドポイント要件を充足する判断にも使用される。眼における傷害の程度を不変的な記録として保存する目的で、傷害部位をデジタルカメラ等も用いた記録は参考資料となる。評価に必要な十分なデータが得られた後は、意味のない動物飼育は避ける。

動物が重篤な苦痛を示した場合や次のような眼傷害を起こした動物は安楽殺を実施する。角膜の穿孔やぶどう腫(Staphyloma)を含む角膜の重度の潰瘍形成、前眼房の出血、グレード4の角膜混濁、72時間継続する対光反射の消失(虹彩反応;グレード2)、結膜の潰瘍、結膜又は瞬膜の壊死、脱落が挙げられる。このような傷害は一般的に回復しない。さらに、21日間の観察終了までに次の眼傷害が認められた場合には、動物愛護の観点からのエンドポイントとして試験を中止する判断を推奨する。それらの眼傷害は、重い損傷(例:角膜実質層に達する角膜損傷)、角膜輪部の損傷が50%以上(結膜組織の蒼白化により評価)、重度の感染症状(化膿性の分泌物)であり、これらの眼所見は21日間の観察終了時までに完全に回復することが望めない、あるいは腐食性又は強度の眼刺激性による損傷を示すと考えられるからである。また、角膜表面への血管新生(パンヌス)、フルオレセインによる染色域(毎日の観察によって縮小しない)、あるいは被験物質投与後5日以降に見られる角膜上皮再生の欠落などの複合的所見もまた早期試験中止の判定根拠として考えられる。

しかしながら、上記に示した各々の眼所見だけでは、試験中止判断材料として十分ではない。総合的に重症度を判定し、早期に試験を中止すべきかどうかの判断のため、選任獣医師、資格のある実験動物獣医師あるいは臨床症状を正確に判定できるよう訓練された実験動物技術者に試験の継続に関して助言を求めねばならない。

眼の刺激性反応(結膜、角膜及び虹彩)は被験物質投与後1、24、48及び72時間に採点する。眼の傷害が認められない時は、投与後3日以内に試験を終了させてはならない。軽度から中等度の眼刺激性が明らかに認められる場合は投与後21日まで観察し、その時点で試験を終了する。観察の実施および記録は少なくとも投与後1時間、24時間、48時間、72時間、7日、14日及び21日に損傷の状態を観察して、回復の有無を評価する。被験物質を投与された動物が動物愛護の観点から安楽殺処分された場合、評価の対象にするか否かの判断は、所見の観察結果によって判断されるべきである。

眼刺激性のスコア(評点)は、試験施設及び実験者が観察結果を一致させるため、判断が主観的となることがある。観察者は適切な訓練を受け正確に評価することが必要である。

2.8.結果の評価

眼刺激性スコアを採点し、その傷害の種類及び重症度、並びにその回復性の有無について化学品の分類及び表示に関する世界調和システム(UN GHS)の基準に従い評価する。また、個別のスコアは眼刺激性評価に用いない。

3.眼刺激性及び腐食性評価のための段階的試験戦略(TG 405(2012)の付属文書)

科学的妥当性及び動物福祉を目的として、強度の眼刺激性を惹起する可能性が高い被験物質を動物の眼に投与する眼刺激性試験は回避あるいは最小限にとどめ、不必要な動物の使用を避けることが重要である。ウサギを用いたin vivo試験の実施前に、段階的試験戦略の一部として被験物質の潜在的眼刺激性・腐食性に関する可能な限り多くの情報を収集し、評価する必要がある。以下の情報から、強度の眼刺激性や腐食性が認められる場合にはin vivo試験を実施すべきではない。

1)ヒトまたは動物の既存データおよび国際的に承認された方法によるin vitro試験データの評価

2)構造活性相関(SAR)の解析

3)物理的化学的特性及び化学反応性(例えば、pH2.0以下又は11.5以上の強酸、強塩基物質)

4)上記以外の既存情報(塗布による全身毒性等利用可能なすべての情報)

5)in vitro皮膚腐食性試験の評価(皮膚腐食性及び強度の眼刺激性影響;in vitro皮膚腐食性試験法:TG430、431及び435)

6)in vitro又はex vivo眼刺激性試験の評価(in vitro又はex vivo試験:TG437及びTG438)

4.本試験法の運用方法に関する留意点

TG 405(2012)の利用に際しては次の点を考慮すべきである。

1)ウサギを用いるin vivo試験を実施する場合には、OECD TG 405(2012)に記載されている段階的試験戦略(上記3項)に従って、被験物質の潜在的眼刺激性・腐食性に関するすべての情報、皮膚刺激性試験情報及び眼刺激性in vitro又はex vivo試験情報を収集・評価すべきである。これらの情報及び試験結果により強度の眼刺激性や腐食性が認められると判断される場合には、ウサギを用いるin vivo試験を実施すべきではない。

2)特段の理由がない限り、動物愛護の観点から、ウサギを用いるin vivo試験の実施には局所麻酔薬及び鎮痛薬を使用すべきである。

3)OECD TG 405(2012)中に記載のある局所麻酔薬、鎮痛薬は例示であり、本邦では医薬品として流通していない薬剤もある、同様の効能・効果を持つ医薬品あるいは動物用医薬品である局所麻酔薬及び鎮痛薬を適宜使用することで問題ない。

4)実験動物の生理、疾患、症状等を熟知し、臨床兆候を確認できるよう訓練された者が試験の実施及びエンドポイントの適切な判定に従事すべきである。

5.引用文献

1)Draize,J.H.(1959)Appraisal of the safety of chemicals in foods,drugs and cosmetics,Association of Food and Drug Officials of the United States

2)OECD(2012).Test Guideline 405.OECD Guideline for Testing of Chemicals.Acute eye irritation/corrosion.

http://www.oecd.org/document/40/0,2340,en_2649_34377_37051368_1_1_1_1,00.html

3)ICCVAM(2010),ICCVAM Test Method Evaluation Report:Recommendations for Routine Use of Topical Anesthetics,Systemic Analgesics,and Humane Endpoints to Avoid or Minimize Pain and Distress in Ocular Safety Testing,NIH Publication No.10-7514,Research Triangle Park,NC,USA

4)JaCVAM(2014)

http://www.jacvam.jp/