添付一覧
○航空法施行規則第176条の改正に伴うドクターヘリの運航について(通知)
(平成25年11月29日)
(医政指発1129第1号)
(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医政局指導課長通知)
(公印省略)
標記については、「航空法施行規則の一部を改正する省令」(平成25年国土交通省令第90号。以下「改正省令」という。)が公布され、平成25年11月29日から施行されたところである。改正省令により新たに追加されたドクターヘリ(救急医療用ヘリコプターを用いた救急医療の確保に関する特別措置法(平成19年法律第103号)第5条第1項に規定する病院の使用する救急医療用ヘリコプター(同法第2条に規定する救急医療用ヘリコプターをいう。)であって救助を業務とするものをいう。以下同じ。)の運航については、下記のとおりであるので、貴職におかれては、その旨御了知願いたい。また、本通知の趣旨等に基づき、貴職からドクターヘリを活用する医療機関に対し必要な指導を行うとともに、消防機関及び関係団体等に対し周知をお願いする。
記
1.平時における消防機関等の依頼又は通報に基づかない運航について
(1) 航空法(昭和27年法律第231号)第79条の国土交通大臣の許可(以下「離着陸の許可」という)を受けていない場所において離着陸を行うドクターヘリの運航については、これまで、航空法施行規則(昭和27年運輸省令第56号)第176条第1号の規定による国土交通省、防衛省、警察庁、都道府県警察又は地方公共団体の消防機関(以下「消防機関等」という。)の依頼又は通報に基づき、消防機関等との連携によりその安全確保を図った上で、活動してきたところである。
今般、ドクターヘリが消防機関等との連携によらないで活動する場合であっても、航空法第79条から第81条までの規定が適用されないこととなったが、引き続き適切な方法により運航の安全を確保する必要がある。
都道府県、市町村、地域医師会、消防、警察、国土交通、教育委員会等関係官署に所属する者、ドクターヘリ運航会社、ドクターヘリ基地病院及び有識者により構成されるドクターヘリの運航調整委員会において、離着陸の許可を受けていない場所に離着陸を行う運航であって、消防機関等の依頼又は通報に基づかない運航が必要な場合があるとの判断がなされた場合には、関係者間で十分な協議を行った上で、ドクターヘリ事業の円滑な推進のために必要な事項を規定する運航要領(以下「運航要領」という。)に、当該運航における関係者間の連携や安全確保のために必要な事項を定めるものとする。ついては、別添1の「平時における消防機関等の依頼又は通報に基づかないドクターヘリの運航に係る要領案」を参考に、必要に応じ、運航要領の見直し又は策定を行うとともに、運航の安全確保を図るようお願いする。運航要領に必要な事項が定められ、これら事項が遵守されているかについては、医療法(昭和23年法律第205号)第25条第1項の規定に基づく立入検査により、ドクターヘリ基地病院に対して確認が行われるものであることを申し添える。
なお、運航要領に関係者間の連携や安全確保のために必要な事項を定めることなく、離着陸の許可を受けていない場所において行う離着陸であって、消防機関等の依頼又は通報に基づかないものを行うことは、航空法違反となるため認められない。
(2) (1)の運航要領に定める関係者間の連携や安全確保のために必要な事項としては、次の内容が含まれるものとする。
① 自ら入手した情報又は消防機関等以外の依頼若しくは通報により出動する場合におけるルールに関する事項
② 依頼又は通報の主体との連携に関する事項
③ 離着陸場所が満たすべき要件に関する事項
④ 離着陸場所において実施する安全確保のための取組に関する事項
⑤ 個々の状況を考慮した安全確保のために必要な事項
⑥ 乗務員等及び想定される消防機関等以外の依頼又は通報の主体に対する安全確保のための教育に関する事項
⑦ 安全確認とその判断に関する事項
⑧ その他離着陸における安全確保のために必要な事項
2.災害時の運航について
「日本DMAT活動要領について」(平成18年4月7日医政指発第0407001号)に基づく「日本DMAT活動要領」(平成25年9月4日最終改正)において、「ドクターヘリが配備されたDMAT指定医療機関のDMATは、ドクターヘリ運航規定等に基づいて必要に応じてドクターヘリを活用することができる」とされ、また、DMAT都道府県調整本部、DMAT・SCU本部等が行う業務として「ドクターヘリの運航と運用に関わる調整」が含まれていることから、災害時のDMAT活動に伴うドクターヘリの活用が期待される。災害時には、消防機関等の依頼又は通報に基づかない出動も想定されることから、災害時のドクターヘリの出動に係るルールを運航要領に定めることが、迅速な出動や安全確保に資すると考えられる。ついては、別添2の「災害時のドクターヘリの運航に係る要領案」を参考に運航要領の見直し又は策定をお願いする。
また、災害時における安全確保についても、別添1「平時における消防機関等の依頼又は通報に基づかないドクターヘリの運航に係る要領案」を参考に、必要な安全確保を行うようお願いする。
(別添1)
平時における消防機関等の依頼又は通報に基づかないドクターヘリの運航に係る要領案について
本要領案については、ドクターヘリの運航要領に下記の項目を追加する等により、平時における消防機関等の依頼又は通報に基づかないドクターヘリ運航の安全確保に資することを意図して作成したものである。
なお、消防機関等以外からの依頼又は通報に基づく運航を開始した場合であっても、並行して消防機関等から依頼又は通報があった際には従前と同様の扱いであることに留意されたい。
記
【要領案】
(自ら入手した情報又は消防機関等以外の依頼若しくは通報により出動する場合におけるルール)
第A条 消防機関等の依頼又は通報に基づかない運航は、次の各号のいずれかに該当する場合に限って行うものとする。
一 消防機関等に連絡するいとまがないほど切迫した状況において、医療機関又は運航調整委員会が必要とあらかじめ認めた者から依頼又は通報を受け、ドクターヘリ基地病院(以下「基地病院」という。)の長がドクターヘリの運航を必要と判断したとき
二 厚生労働省、地方公共団体、高速道路会社等からの情報又は自ら入手した情報によって、基地病院の長がドクターヘリの運航を必要と判断したとき
2 前項第一号の依頼又は通報の主体は、第F条第三項の研修を受けた者に限る。
(依頼又は通報の主体との連携)
第B条 第A条第一項第一号の規定による運航を行う場合には、基地病院及び運航会社は、依頼又は通報の主体と連携を図りながら活動するものとする。
2 運航に際して、基地病院と依頼又は通報の主体は継続的に連絡が取れる体制を保持しなければならない。
(離着陸場所が満たすべき要件)
第C条 離着陸場所の要件は、航空関係法令等に定める基準に適合するものでなければならない。
2 基地病院及び運航会社は、離着陸場所が航空関係法令等に定める基準に適合することを、事前に確認しなければならない。
(離着陸場所で実施する安全確保のための確認等)
第D条 離着陸場所における安全確保は、依頼若しくは通報の主体、基地病院又はこれらの者から委託を受けた者(以下「離着陸場所の安全確保を行う者」という。)によって行うことを原則とする。離着陸場所の安全確保を行う者は、離着陸場所が次の各号のいずれも満たしているかを確認しなければならない。
一 安全に離着陸が可能な気象状態であること
二 離着陸の間、関係者以外の人及び車両が離着陸場所に接近できない状況であること
三 ダウンウォッシュ及びこれによる飛散物等が、地上の人及び物件に危害を及ぼさない状況であること
四 安定した接地面が確保されていること
五 その他、離着陸のための安全を妨げる事実等がないこと
2 離着陸場所の安全確保を行う者は、前項各号に掲げる安全確保のための条件が確保されるよう、事前の広報及び散水等の措置を講ずることが可能な体制を構築していなければならない。
3 機長は、離着陸場所の安全が確保されていると判断できない場合には、離着陸をしてはならない。また、離着陸場所、その周辺環境及び機体が次の各号のいずれも満たしているかを確認しなければならない。
一 離着陸の過程のいずれの地点においてもホバリング停止が可能な機体重量及び気象状態であること
二 離着陸の間、関係者以外の人及び車両が離着陸場所に接近していないこと
三 ローター及び胴体と障害物件との間隔が目視で確保できていること
四 ダウンウォッシュ及びこれによる飛散物等が、地上の人及び物件に危害を及ぼさない状況であること
五 安定した接地面が確保されていること
六 その他、離着陸のための安全を妨げる事実等がないこと
(個々の状況を考慮した安全確保)
第E条 医療機関からの依頼又は通報を受けて出動する場合には、当該医療機関の敷地内又はこれに準ずる場所に離着陸場所を確保することが望ましい。
(乗務員等及び想定される消防機関等以外の依頼又は通報の主体に対する安全確保のための教育)
第F条 操縦士及び整備士は、必要な医学的知識、医療機器の基本的仕様及び電磁波干渉等による影響に係る知識を有する者でなければならない。
2 医療要員は、機体の限界事項及び非常操作手順(医療要員に関連するものに限る。)、操縦士と医療要員とのコーディネーションに係る知識並びに第D条第三項各号に掲げる機長が離着陸の際に確認すべき事項に係る知識等を有する者でなければならない。
3 運航調整委員会は、離着陸場所の安全確保を行う者に対して、消防機関等が行う離着陸場所の安全確保に係る教育に準じた内容の研修を行うとともに、出動事案における安全確保上の課題等を共有するため、これらに係る教育を年2回程度定期的に行わなければならない。
(安全確認とその判断)
第G条 医療要員及び基地病院において搬送調整を行う医師等は、運航上の安全確保に関して運航会社の判断を妨げてはならない。
(その他離着陸のための安全確保)
第H条 消防機関等の依頼又は通報に基づかない運航を行った場合、基地病院は運航調整委員会にその旨を報告し、安全性等について検証を受けなければならない。運航調整委員会は、当該検証の結果を踏まえ、必要に応じて基地病院の長及び離着陸場所の安全確保を行う者に対して勧告又は指導を行い、常に安全性の向上を図らなければならない。
【要領案の趣旨】
第A条第2項
・ 消防機関等による離着陸場所及びその周囲の安全確保の支援が行われないことから、ドクターヘリの出動の依頼又は通報をすることができる者を、第F条第3項の研修を受け、離着陸時の安全確保に関する必要な知識を持つ者に限定することを明示している。
第C条第1項
・ 離着陸場所に関する航空関係法令等に定める基準とは、航空法第38条及び航空法施行規則第79条に定める設置基準、「地方航空局における場外離着陸許可の事務処理基準」(平成9年9月30日空航第715号)で定める許可基準、「高層建築物等におけるヘリコプターの屋上緊急離着陸場等の設置の推進について」(平成2年2月6日消防消第20号)による緊急離着陸場等の設置指導指針及び「高速道路におけるヘリコプターの活用に関する検討結果について」(平成17年8月18日医政指発第0818001号)等による基準をいう。
第D条第1項
・ 離着陸場所における安全確保は、依頼又は通報した者等が主体的に行うことを明示するとともに、実施すべき安全確保のために必要な事項を規定している。
第D条第2項
・ 離着陸場所における安全を確保するため、離着陸場所の安全確保を行う者が事前に整備すべき体制について明示している。
第D条第3項
・ 離着陸場所における安全確保のため、機長が確認すべき事項は、消防機関等が安全確保する際に必要な一般的事項と同様であるが、これを特に確認するよう明示している。
第F条第2項
・ 機長による離着陸の判断を医療要員が補助することが望まれることから、第D条第三項各号に掲げられた離着陸の際に機長が確認する事項について、医療要員においても習得する必要があることを明示している。
第F条第3項
・ 離着陸場所の安全確保が確実に行われるよう、教育体制が必要であること、及びその教育主体について明示している。
・ 消防機関等が行う離着陸場所の安全確保に係る教育に準じた内容の研修については、地域の消防機関等で行われている安全確保に係る教育訓練の内容を参考の上、運航調整委員会において検討されたい。
・ 安全確保上の課題等を共有するため年2回程度定期的に行う教育とは、基地病院又は運航調整委員会等が開催する検討会等において、消防機関等による依頼又は通報に基づかない運航の事例に関して、離着陸場所の安全確保を行う者の間で経験や課題の共有を行うこと等を想定している。
第H条
・ 運航調整委員会が安全確保のための重要な役割を担っていることを明示するとともに、運航調整委員会が行うべき取組について記載している。
(別添2)
災害時のドクターヘリの運航に係る要領案について
本要領案については、ドクターヘリの各運航要領に下記の項目を追加する等により、災害時における迅速な出動及び運航の安全確保に資することを意図して作成したものである。
ドクターヘリの派遣については、DMATの活動が移動時間を除きおおむね48時間以内の活動を基本としていること等を踏まえ、災害の発生場所から300km圏内のドクターヘリを対象とすることを一定の目安として考えている。一方、DMAT2次隊、3次隊等の追加派遣又はその見込みがある場合には、300km圏外のドクターヘリも含めた派遣要請を検討する必要がある。なお、本要領案におけるドクターヘリの出動については、DMATと一体となって出動する場合のほか、災害時に必要な医療救護活動及びその支援としてドクターヘリ単体で出動する場合も想定している。
記
【要領案】
(災害時運航の手続)
第A条 ドクターヘリ基地病院(以下「基地病院」という。)の長は、次の各号のいずれかに該当する場合には、ドクターヘリを被災地域において運航することを検討するものとする。
一 知事等(当該ドクターヘリの基地病院の所在する都道府県の知事又は知事からの委任を受けた者をいう。以下同じ。)からドクターヘリの派遣要請を受けたとき
二 厚生労働省DMAT事務局からドクターヘリの派遣要請を受けたとき
三 基地病院の長が被災地域における運航が必要と判断したとき
2 前項第一号の規定による派遣要請を受けた場合、基地病院の長は、ドクターヘリの運航状況等を勘案しドクターヘリの運航を決定するものとする。
3 第一項第二号の規定による派遣要請を受けた場合、基地病院の長は、要請への対応の可否を知事等との協議によりドクターヘリの運航を決定するものとする。
4 第一項第三号の規定による判断を行った場合、基地病院の長は、被災地域における運航の可否を知事等との協議によりドクターヘリの運航を決定するものとする。
5 基地病院の長は、第二項から前項の規定に基づき、ドクターヘリの運航を決定した場合には、速やかに厚生労働省DMAT事務局に報告するものとする。
6 知事等又は第二項から第四項までの運航の決定を行った基地病院の長は、被災地域におけるドクターヘリの運航及びその支援のため、運航会社の操縦士、整備士及び運航管理者等(以下「運航会社の従業員」という。)を被災地域に派遣することができる。
(災害時の指揮)
第B条 ドクターヘリが前条第二項から第四項までの規定に基づき出動した場合は、被災した都道府県の災害対策本部等の指揮下において、関係機関と連携を図りながら活動するものとする。
2 ドクターヘリは、前項の規定に関わらず、知事等の指示があった場合には、被災した都道府県の災害対策本部等との調整を図った上で、当該指示に従うものとする。
3 前二項の場合において、被災地におけるDMATの活動領域が複数の都道府県にわたるときは、ドクターヘリは、DMATと一体となって活動領域を拡大するものとする。この場合、ドクターヘリの搭乗者は、関係都道府県の災害対策本部、基地病院の長、厚生労働省DMAT事務局等にその旨を報告するものとする。
4 被災した都道府県の災害対策本部等は、第一項の規定による指揮を行うに当たり、運航上の安全確保に関し、運航会社の判断を妨げてはならない。
(災害時の任務)
第C条 ドクターヘリの災害時の任務は、通常時の任務のほか、次のとおりとする。
一 医師、看護師等の医療従事者及び業務調整員の移動
二 患者の後方病院への搬送
三 その他被災した都道府県の災害対策本部等が必要と認める任務であって、ドクターヘリが実施可能なもの
(搭乗する医師及び看護師)
第D条 基地病院の長は、災害時の運航として出動する場合には、平時からドクターヘリに搭乗している医師又は看護師であって、DMAT隊員資格を有する者を搭乗させるよう配慮するものとする。
(費用等)
第E条 基地病院(又は○○県)は、第A条第一項の規定による検討の結果に基づく運航に係る費用について、ドクターヘリ運航会社との協議に基づき、必要と認められる額を支弁するものとする。
【要領案の趣旨】
第A条
・ ここでの「災害時」とは、「日本DMAT活動要領」(平成25年9月4日最終改正)のⅣの「1.DMATの派遣要請」に記載された、被災地域の都道府県がDMATの派遣要請を行う基準に定められた規模の災害発生時等を想定している。当該基準に定められた規模以外の災害発生時における出動についても、各都道府県において事前に検討がなされていることが望ましい。
第A条第3項
・ 厚生労働省DMAT事務局の要請を受けた場合に、要請への対応の可否が迅速に行えるよう、基地病院の長が対応を協議する者(知事又は知事からの委任を受けた者)をあらかじめ明確にしておく必要がある。
第A条第6項
・ 運航会社の従業員を被災地に派遣することについて事前に明示している。
第B条第3項
・ 一体運用しているドクターヘリとDMATは、初動において派遣された被災都道府県の近隣都道府県においても活動することがあることを規定している。
第B条第4項
・ 現地における運航の可否については、天候上の理由のみならず、2次災害のおそれや被災地全般の状況を踏まえた上で、運航会社が判断を行う場合がある。このドクターヘリの運航に係る判断は、前述のいかなる指揮にも優先される。
第C条
・ 通常のドクターヘリの任務のほか、災害時に必要と考えられる任務を規定している。
第D条
・ 災害対応には、十分な経験を持つ者の搭乗が望ましいことを明示している。