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○救急救命士の心肺機能停止前の重度傷病者に対する静脈路確保及び輸液、血糖測定並びに低血糖発作症例へのブドウ糖溶液の投与の実施に係るメディカルコントロール体制の充実強化について
(平成26年1月31日)
(/消防救第13号/医政指発0131第3号/)
(各都道府県消防主管部(局)長・各都道府県衛生主管部(局)長あて消防庁救急企画室長・厚生労働省医政局指導課長通知)
「救急救命士法施行規則の一部を改正する省令」(平成26年1月31日厚生労働省令第7号)が公布され、平成26年4月1日より救急救命士の行う救急救命処置として、医師の具体的な指示の下での心肺機能停止前の重度傷病者に対する静脈路確保及び輸液並びに低血糖発作症例へのブドウ糖溶液の投与が新たに可能となったが、こうした処置範囲拡大の前提として、事後検証の実施を含めたメディカルコントロール体制の充実強化が不可欠である。
従前より、「救急救命士の気管内チューブによる気道確保の実施にかかるメディカルコントロール体制の充実強化について(平成16年3月23日消防庁救急救助課長、厚生労働省医政局指導課長通知)」及び「救急救命士の薬剤投与の実施に係るメディカルコントロール体制の充実強化について(平成17年3月10日消防庁救急救助課長、厚生労働省医政局指導課長通知)」により、メディカルコントロール体制の充実強化については、周知しているところであるが、貴職におかれては、今回追加される処置について特に下記の事項に十分に留意し、救急救命士制度の円滑な運用を図られるようお願いしたい。
また、貴都道府県内市町村(消防の事務を処理する組合を含む。)及び関係団体等に対しこの旨周知願いたい。
記
1 医師からの具体的の指示・指導体制の充実
救急救命士が心肺機能停止前の重度傷病者に対する静脈路確保及び輸液並びに低血糖発作症例へのブドウ糖溶液の投与を適正に行うためには、迅速かつ確実に医師の具体的な指示を受ける必要があることから、その実施に当たり、常時継続して医師からの具体的な指示・指導を受けられる体制の充実を図ること。
2 プロトコールに沿った実施
救急救命士の心肺機能停止前の重度傷病者に対する、静脈路確保及び輸液のプロトコール並びに血糖測定及び低血糖発作症例へのブドウ糖溶液の投与のプロトコール(以下合わせて「プロトコール」という。)については、地域メディカルコントロール協議会(以下、「地域MC協議会」)において作成すること。その際には、平成25年度厚生労働科学研究「救急救命士の処置範囲に係る研究」報告書にある「『心肺機能停止前の重度傷病者に対する血糖測定及び低血糖発作症例へのブドウ糖溶液の投与』のプロトコール」及び「『心肺機能停止前の重度傷病者に対する静脈路確保及び輸液』のプロトコール」(別添1)を参考にすること。
救急救命士はプロトコールに習熟した上で、プロトコールに沿って医師の具体的な指示に基づき、薬剤投与を適切に実施することにより、救命効果の向上を図ること。
3 所定の知識の習得
心肺機能停止前の重度傷病者に対する静脈路確保及び輸液、血糖測定並びに低血糖発作症例へのブドウ糖溶液の投与を実施する際は、「救急救命士の心肺機能停止前の重度傷病者に対する静脈路確保及び輸液、血糖測定並びに低血糖発作症例へのブドウ糖溶液の投与の実施のための講習及び実習要領並びに修了の認定等について」(平成26年1月31日医政指発0131第2号厚生労働省医政局指導課長通知)に定める講習及び実習(以下「追加講習」という。)を修了し、都道府県メディカルコントロール協議会により認定を受ける必要があること。
なお、心肺機能停止前の重度傷病者に対する静脈路確保及び輸液、血糖測定並びに低血糖発作症例へのブドウ糖溶液の投与に係る内容を含んだカリキュラムを修了したうえで救急救命士国家試験に合格した者については追加講習の対象外となる予定であることを申し添える。
4 事後検証体制の確立等
心肺機能停止前の重度傷病者に対する静脈路確保及び輸液、血糖測定並びに低血糖発作症例へのブドウ糖溶液の投与については、地域MC協議会が設置され、事後検証体制が確保されていることが前提であり、当該処置を実施した際の観察結果、投与状況等の必要事項を正確に把握する必要があることから、事後検証票(別添2)を参考にし、処置が適切に実施されたかについて事後検証を実施すること。今後、心肺機能停止前の重度傷病者に対する静脈路確保及び輸液、血糖測定並びに低血糖発作症例へのブドウ糖溶液の投与について全国的な効果の検証のために事後検証票内の項目に係るデータあるいは検証結果の情報提供を求める場合があることを申し添える。
[別添1]
「心肺機能停止前の重度傷病者に対する静脈路確保及び輸液」プロトコール
1 基本的な事項
・各地域のショックなどに対する活動プロトコールに組み込んで活用する。
・状況によって、処置の実施よりも迅速な搬送を優先する。
2 対象者
次の2つをともに満たす傷病者(※1)
・増悪するショックである可能性が高い。
もしくは、クラッシュ症候群を疑うか、それに至る可能性が高い。
・15才以上である(推定も含む)。
※ただし、心原性ショックが強く疑われる場合は処置の対象から除外する。
3 留意点
・ショックの増悪因子としては、出血の持続、意識障害の進行、アナフィラキシー、熱中症などによる脱水などがあげられる。(※1)
・狭圧(重量物、器械、土砂等に身体が挟まれ圧迫されている状況)などによるクラッシュ症候群を疑うかそれに至る可能性の高い場合も処置の対象となる。(※1)
・「心肺機能停止前の重度傷病者に対する静脈路確保及び輸液」は特定行為であり、医師の具体的な指示を必要とする。(※2)
・救急救命士は、可能性の高いショックの病態、傷病者の観察所見、状況等を医師に報告する。(※2)
・医師は適応を確認し、具体的な指示(輸液量、滴下速度等)を救急救命士に与える。
静脈路確保にいたずらに時間を費やさないように留意し、静脈路確保が困難であると判断された場合などは、搬送を優先してよい。(※3)
・穿刺針の太さ(ゲージ)は傷病者の状態等により選択する。(※3)
・急速輸液(救急車内の最も高い位置に輸液バックをぶら下げ、クレンメを全開して得られる輸液速度)を原則とするが、医師の指示によって維持輸液(1秒1滴程度)を行う。(※4)
・傷病者の状況、観察所見、実施した処置、その結果等をオンラインMCの医師、もしくは搬送先医療機関の医師等に報告する。(※5)
図「心肺機能停止前の重度傷病者に対する静脈路確保及び輸液」プロトコールの一例
「心肺機能停止前の重度傷病者に対する血糖測定及び低血糖発作症例へのブドウ糖溶液の投与」プロトコール
1 基本的な事項
・各地域の意識障害に対する活動プロトコールに組み込んで活用する。
・状況によって、処置の実施よりも迅速な搬送を優先する。
2 対象者
(1) 血糖の測定
① 次の2つをともに満たす傷病者(※1)
・意識障害(JCS≧10を目安とする)を認める。
・血糖測定を行うことによって意識障害の鑑別や搬送先選定等に利益があると判断される。
※ただし、くも膜下出血が疑われる例などで、血糖測定のための皮膚の穿刺による痛み刺激が傷病者にとって不適切と考えられる場合は対象から除外する。
② 上記①による血糖の測定後に、医師により再測定を求められた傷病者
(2) 静脈路確保とブドウ糖溶液の投与
次の2つをともに満たす傷病者(※2)
・血糖値が50mg/dl未満である。
・15才以上である(推定も含む)。
3 留意点
・「静脈路確保とブドウ糖溶液の投与」は特定行為であり、医師による事前の具体的な指示を必要とする。(※2)
・「血糖の測定」については特定行為ではないため具体的指示は必ずしも必要ない。ただし、血糖の測定を試みた場合は、オンラインMCの医師、もしくは搬送先医療機関の医師等に、血糖測定の実施とその結果等を報告する。(※2,5)
・医師は、ブドウ糖溶液の投与の適応を確認し指示する。
・静脈路確保にいたずらに時間を費やさないように留意し、静脈路確保が困難であると判断された場合などは、搬送を優先してよい。(※3)
・穿刺針の太さ(ゲージ)は傷病者の状態等により選択する。(※3)
・輸液の速度は、維持輸液(1秒1滴程度)を目安とする。(※3)
・ブドウ糖溶液の投与は50%ブドウ糖溶液40mlを原則とするが、必要に応じて減量する。(※4)
・傷病者の状況、観察所見、実施した処置、その結果等をオンラインMCの医師、もしくは搬送先医療機関の医師等に報告する。(※5)
・医師の指示に応じ、血糖の再測定をしてもよい。
図「心肺機能停止前の重度傷病者に対する血糖測定及び低血糖発作症例へのブドウ糖溶液の投与」プロトコールの一例
[別添2]