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(3) 医薬品の種類

誤飲事故又は誤飲未遂の原因となった医薬品数が判明した466件(514剤)を対象として、医薬品の区分、剤形及び包装容器について聞いた。

医薬品の区分として、大人用医療用が179件(202剤)、大人用一般用が151件(160剤)、子ども用医療用が89件(100剤)、子ども用一般用が27件(31剤)、その他・不明が20件(21剤)であり、大人用医薬品の誤飲事故又は誤飲未遂が70%を超えた。

また、医薬品の剤形の内訳は、飲み薬が412件(457剤)、塗り薬が32件(34剤)及びその他・不明が22件(23剤)であり、飲み薬の中では錠剤・丸薬(口腔内崩壊錠及びチュアブル錠を含む)の267件(294剤)が多かった(図31参照)。医薬品の包装容器は、PTP包装263件(288剤)、1回分ずつ包装された袋包装71件(86剤)、ボトル65件(69剤)、チューブ23件(25剤)の順で多かった(図32参照)。

図31 誤飲事故又は誤飲未遂の原因となった医薬品の剤形(1剤目2剤目合算)

図32 誤飲事故又は誤飲未遂の原因となった医薬品の包装容器(1剤目2剤目合算)

(4) 医薬品の取り出し方

原因となった医薬品を誰が取り出したかが分かった440件(487剤)では、取り出した者が、「子ども本人」という回答が255件(279剤)と半数以上を占め、「周囲の大人」という回答は154件(167剤)、「周囲の子ども」という回答は25件(34剤)及び「その他」が6件(7剤)であった。子ども本人が取り出した255件(279剤)について、どのように取り出したのかを確認した結果、本来の取り出し方が126件(138剤)である一方、「かじって取り出した」が78件(85剤)及び「潰して取り出した」が29件(32剤)のように本来の取り出し方以外の方法で取り出している割合も半数近くあった(図33参照)。

また、子どもの本人の医薬品の取り出し方法を年齢別にみると、年齢が上がるにつれて、「かじって取り出した」の割合が減少する一方、「本来の開封方法で取り出した」割合が増加し、2歳では6割を超えた(図34参照)。

図33 子ども本人の医薬品取り出し方法(1剤目2剤目合算)

図34 年齢別の医薬品の取り出し方法(1剤目2剤目合算)

3.2.4 考察

(1) 子どもによる誤飲事故発生前の保護者の認識と誤飲時の対応

3分の1の保護者は、誤飲未遂発生前に子どもによる医薬品の誤飲事故が発生することを知らなかった。

子どもが誤飲したことがあると回答した保護者の中で、誤飲に対する対処方法を知っていたと回答した人は、35.3%と少数であった。

また、子どもが誤飲することを知っていた保護者は、子どもの検診時や子ども用医薬品を処方された時や購入時に誤飲に関する注意喚起を受けた経験があることが多かった。

(2) 誤飲事故又は誤飲未遂の状況について

誤飲事故又は誤飲未遂は、1~2歳児による事故が63.5%と半数以上を占めた。医薬品の包装容器についてはPTP包装や袋包装が多く、3.1における中毒情報センターからの情報分析結果と同様の傾向がみられた。

医薬品を取り出した者は、誤飲した子ども本人が取り出したとの回答が最も多かったが、周囲の大人が取り出したとの回答や、服用のためや、飲み忘れとの回答も多かった。また、保管場所への戻し忘れも多く、普段の保管・保存場所以外で誤飲が発生している場合が多い。他方、保管・保存場所から取り出した場合も2割程度あった。大人が服用するときは、子どもの存在を意識して、服用後に医薬品を速やかに保管場所に戻すことが重要である。

(3) 誤飲事故又は誤飲未遂発生時に医薬品が置かれていた場所と床からの高さについて

誤飲事故又は誤飲未遂発生時に子どもが手に取った医薬品の高さは、足場がない場合では0歳でも3歳以上でも50cm程度であったことから、医薬品を一定以上の高さに置くことが重要である。足場がある場合では2歳以上であれば100cm程度となっており、年齢が高くなるにつれ、高いところの医薬品を手に取る傾向があった。また、子どもが自分で足場を持ってきたケースでは、既に足場があるケースよりも高いところのものを取る傾向があった。

保護者が思っている以上に子どもの発達が早いことなど、子どもの年齢や発達段階によって変化する特性を意識した事故防止をする必要がある。

(4) 誤飲事故又は誤飲未遂の原因となった医薬品の種類について

誤飲事故又は誤飲未遂をした医薬品は大人用が多く(70.8%)、38.4%が医療用医薬品、32.4%が一般用医薬品であった。また、誤飲した剤形については錠剤・丸薬が多く、これらの中ではチュアブル錠や口腔崩壊錠の誤飲も多かった。大人用医薬品による誤飲事故数が多いため、大人用医薬品の販売時に子どもの誤飲に関する注意喚起の必要がある。

3.3 保護者への聞取り調査

子どもによる医薬品の誤飲事故又は誤飲未遂の経験を持つ保護者8名に協力を得て、誤飲事故又は誤飲未遂が発生した状況について聞取り調査を行った。

表3 誤飲事故又は誤飲未遂の8事例の聞取り調査整理表

事例

年齢

身長

誤飲(誤飲未遂)した医薬品の種類

医薬品の床からの高さ

医薬品誤飲による症状

誤飲(誤飲未遂)に至ったと考えられる主な背景要因

1

1歳6か月

78cm

風邪薬

100cm

・医薬品の一時保管

・椅子を足場にした

2

1歳7か月

79cm

胃炎・胃潰瘍治療薬

136cm

特になし

・椅子を足場にした

(自ら持ってきた可能性あり)

3

2歳2か月

約90cm

解熱鎮痛剤

43cm

特になし

・医薬品の片付け忘れ

・医薬品を菓子と誤認

4

2歳5か月

85cm

精神安定剤

58.5cm

ふらつき

意識朦朧

・医薬品の置き忘れ

5

2歳6か月

約80cm

乗物酔防止薬

0cm

顔面紅潮

興奮状態

・薬箱を出して兄の治療中

・医薬品を菓子と誤認

6

2歳10か月

92cm

風邪薬

(シロップ薬)

85cm/高さ

63cm/奥行き

特になし

・医薬品の一時保管

・踏み台使用又は兄と協力した可能性

7

4歳6か月

97cm

末梢性神経障害改善薬

113cm

特になし

・クローゼットを自ら開ける

・踏み台を使用した可能性

8

6歳

約100cm

下剤

95cm

下痢

・医薬品の収納し忘れ

・医薬品を菓子と誤認

3.3.1 事例1:子どもが足場を使って医薬品を手に取った誤飲未遂

(1) 概要

誤飲未遂が発生した当日、自宅の居間に、母親と子ども(1歳6か月)(以下事例1において「子ども」という。)1名がおり、母親が目を離した少しの間に、子どもは居間のダイニングセットの椅子によじ登っていた。その行為に気付いた母親が駆け寄ると、子どもは、ダイニングセットに隣接する、キッチンカウンター上の籠に一時保管していた風邪薬の紙箱を手に取り、紙箱の中の小袋ごと口に入れようとしていた(図35参照)。

図35 事例1において医薬品を置いていた場所及びその付近の状況

(2) 聞取り調査で判明した事項

① 誤飲未遂をした医薬品と管理状況

・誤飲未遂をした医薬品は、PTP包装に入った風邪薬であり、一般用医薬品(第2類医薬品)であった。

・当該医薬品は、15歳以上の者用であり、1日の服用量は6錠までである。

・当該医薬品は、常備薬であった。

・誤飲未遂当時、子どもの父親が風邪に罹患しており、服用しやすいよう、上述のキッチンカウンターの上(床から100cmの高さ)の、ハンドクリームやボールペン等頻繁に使用するものを入れるための籠に入れてあった。

・当該医薬品は、既に紙箱及び中の小袋は開封済みであったことから、PTP包装が外から見える状態であった。

・当該家庭では、通常、医薬品を押入れのプラスチックケースの上段(床面から53.5cmの高さ)の中に保管していた。

② 誤飲未遂時の子どもの身体的特徴及び運動能力

・子どもの身長は78cm、体重は9.3kgであった。

・子どもは、独り歩きや走り回ることが可能で、自身の身長よりも高いところに置いてあるものを手に伸ばして取ることが可能であった。

・子どもは、自宅の棚の上に手を伸ばして、物をよく落とすなどの行動をしていた。

③ 誤飲未遂時の現場の状況

・自宅の居間に、母親と子ども1名がいた。

・母親は、居間で掃除をしていたが、子どもから短時間目を離し、その後、子どものいる方に目をやると、居間にあったダイニングセットの椅子に登っているのを見つけた。

・母親は、本件誤飲未遂まで子どもが1人で椅子に登るのを見たことがなかったので、危険であると判断し、駆け寄ったところ、子どもはキッチンカウンターの上の籠の中に一時保管していた風邪薬の紙箱を手に取り、箱の中の薬の小袋ごと口に入れようとしていた。

・母親は、子どもからすぐに薬の箱を取り上げたことから、誤飲に至らなかった。

④ 誤飲未遂後の保護者の対応

・当該家庭では、誤飲未遂を受けて、対策として医薬品を居間に隣接する部屋のデスクの棚の上(床から145cmの高さ)に置くこととした。

・母親は、子どもによる医薬品誤飲事故が発生した場合の対処方法は知らなかった。

3.3.2 事例2:子どもが足場を持ってきて手に取った医薬品を誤飲したと推定される事故

(1) 事故概要

誤飲事故が発生した当日、母親と子ども(1歳7か月)(以下事例2において「子ども」という。)1名が家にいた。両名は居間にいたが、母親は、夜勤明けのため帰宅後、昼寝をし、子どもは居間で遊んでいた。その後、母親が昼寝から目を覚ますと、いつも医薬品を保管している居間の棚の近くに医薬品のPTP包装が落ちているのを発見した。子どもは居間の棚に保管していた胃腸薬を取り出し、4~5錠誤飲していた(図36参照)。

誤飲に気付いた母親は、知り合いの医師に連絡して対処方法を相談し、当該医師からは、様子を見てぐったりするようであれば小児科に連れて行くように指示された。その後、子どもに特別変わった様子はなかった。

図36 事例2において医薬品を置いていた場所及びその付近の状況

(2) 聞取り調査で判明した事項

① 誤飲した医薬品と管理状況

・誤飲した医薬品は、PTP包装に入った口腔内崩壊錠の胃炎・胃潰瘍治療薬であり、医療用医薬品であった(図37参照)。

図37 事例2で誤飲した医薬品の形状

・当該医薬品は、成人用であり、通常、成人の1日の服用量は3錠である。子どもは、当該医薬品を4~5錠誤飲しており、成人の1日の服用量を超えていた。

・当該家庭では、通常、医薬品は、子どもが手の届かない、見えない場所の、扉付きの棚(床から136cmの高さ)に保管していた。

・誤飲事故当日も、医薬品は、通常の場所に保管していた。

② 誤飲事故発生時の子どもの身体的特徴及び運動能力

・子どもの身長は79cm、体重は8.8kgであった。

・子どもは、独り歩きや走り回ることが可能であり、自身の身長よりも高いところに置いてあるものをジャンプして取ることが可能であった。

・子どもは、引出しや棚など、様々な場所から物を取り出す行動をしていた。

・子どもは、自身で取り出すことが困難な場所である場合は、子どもの姉(当時5歳)と協力して取り出すケースもあった。

③ 誤飲事故発生時の現場の状況

・自宅の居間に、母親と子ども1名がいた。

・母親は夜勤明けで昼寝をしており、子どもは居間で遊んでいた。

・母親は昼寝から目覚めた後、居間の棚の近くに噛み跡があるPTP包装が落ちているのを発見した。

・母親は、誤飲後、医薬品の保管してあった棚の前に座椅子2台が重ねて置かれ、座椅子の近くには、その場所にないはずの子ども用の椅子が転がっていたことに気付いた。

④ 誤飲事故発生後の保護者の対応

・母親は、薬効の強い薬であれば救急車を呼んだ可能性があるが、誤飲した医薬品が胃薬であったことから、危険性は低いと判断し、知り合いの医師に相談することとした。

・相談を受けた医師は、誤飲したものが胃薬であれば様子を見て、子どもがぐったりするようであれば小児科に連れていくように指示した。

・母親は、医師の指示どおり、夜まで様子を見たが、子どもに特別変わった様子はなかった。

・事故後、当該家庭では、医薬品の保管場所を、棚から食器棚に変更し、食器棚の手前に侵入防止用のベビーゲートを設けることとした。

・当該家庭では、保管場所を変更したことにより、大人が服用する医薬品の保管位置は、床から177cmの高さ、子ども用の薬は、床から162cmの高さとなった。

・当該家庭では、以前はかばんの中にも医薬品を入れていたが、子どもがかばんの中にも興味を示し始めたため、医薬品をかばんの中に入れるのをやめた。

3.3.3 事例3:片付け忘れた医薬品の誤飲事故

(1) 事故概要

誤飲事故が発生した当日、自宅には、父親、母親、子ども(2歳2か月)(以下事例3において「子ども」という。)1名がおり、3名はそれぞれ別の部屋にいた。父親が寝室にいた子どもの様子を見に行くと、PTP包装の医薬品がかじられた状態でベッドの付近に落ちているのを発見した。これは、誤飲した子どもがベッドの上に置いてあった解熱鎮痛剤をPTP包装ごとかじり、半錠誤飲していたものである(図38参照)。

母親は、この状態を見て、中毒情報センターが開設している中毒110番に電話して対処方法を相談した。中毒110番の担当者からは、200mlの牛乳を飲ませて、様子を見てから、様子に変化がなければ病院に行かなくてもよいと言われた。母親は指示どおりに対処したところ、子どもに通常と変わった様子はなく、ふらつきもなかった。

図38 事例3において医薬品を置いていた場所及びその付近の状況

(2) 聞取り調査で判明した事項

① 誤飲した医薬品と管理状況

・誤飲した医薬品は、PTP包装に入った解熱鎮痛剤であり、一般用医薬品(第2類医薬品)であった(図39参照)。

図39 事例3で誤飲した医薬品の形状

・当該医薬品は、15歳以上の者用であり、1日の服用量は6錠までである。

・当該医薬品は、子どもが食べたことがある菓子と外観が似ていたため、子どもは菓子と間違って食べた可能性がある。

・母親は、当該医薬品のPTP包装を2錠分切り離した状態で、常備薬としてかばんの中に入れていた。

・誤飲事故当日、母親は、かばんの中の荷物を整理するため、その中身の全てをベッドの上(床から43cmの高さ)に出していた。

・当該家庭では、通常、医薬品をプラスチックケースの中に入れ、居間の扉付き棚の上段(床から140cmの高さ)に保管していた。

② 誤飲事故発生時の子どもの身体的特徴及び運動能力

・子どもの身長は約90cm、体重は約12kgであった。

・子どもは、独り歩きや走り回ることが可能であり、菓子の袋を手で開封することが可能であった。

・子どもは、自身の身長よりも高いところに置いてあるものを踏み台に乗って取ることが可能であった。

③ 誤飲事故発生時の現場の状況

・父親、母親、子ども1名が家におり、父親は物置部屋、母親は居間、誤飲した子どもは寝室にいた。

・父親は、寝室にいる子どもの様子を見に行くと、PTP包装ごとかじられた医薬品がベッド付近に落ちているのを発見した。

④ 誤飲事故発生後の保護者の対応

・誤飲発生直後、母親は子どもを病院に連れて行こうと考えたが、自宅の近所の病院は休診日であったため、友人から聞いていた中毒情報センターの中毒110番をインターネットで調べて電話した。中毒情報センターの担当者から、「200mlの牛乳を飲ませて、様子を見ること。その後、通常と変化がなければ病院に連れて行かなくてもよい」と指示を受け対処した。

・その後、子どもに変わった様子はなく、ふらつきもなかったことから、病院に行かなかった。

・当該家庭では、本件誤飲事故を受けて、医薬品を子どもの手に届かないところに保管するように徹底することとした。

3.3.4 事例4:置き忘れた医薬品を誤飲した事故

(1) 事故概要

誤飲事故が発生した当日、母親と子ども(2歳5か月)(以下事例4において「子ども」という。)1名が家にいた。母親は、子どもと昼寝しようと考え、いつも自身が寝つきをよくするために服用している精神安定剤を3~4錠(PTP包装)持って、子どもと一緒に寝室へ行った。母親は当該医薬品を1錠服用し、残った2~3錠を同室のベッドのサイドテーブルの上に置いた。その後、子どもと一緒に同ベッドで昼寝をした(図40参照)。

母親が何か音がするので目を覚ましたところ、子どもが意識朦朧とした状態で、船をこぐようにして寝室の壁に自身の頭をぶつけていた。母親は、同ベッド横の床に、噛み跡のあるPTP包装が落ちているのを発見した。

子どもの誤飲に気付いた母親は、複数の医療機関に相談するとともに子どもの父親に連絡し、誤飲の1時間後に子どもを病院に連れて行った。診察をした医師から、2日間はふらつくかもしれないが大丈夫だと言われた。子どもは病院で3時間程度寝た後、帰宅した。その後、子どもに通常と変わった様子はなかった。

図40 事例4において医薬品を置いていた場所及びその付近の状況

(2) 聞取り調査で判明した事項

① 誤飲した医薬品と管理状況

・誤飲した医薬品は、PTP包装に入った精神安定剤であり、医療用医薬品であった(図41参照)。

図41 事例4で誤飲した医薬品の形状

・当該医薬品の1日の服用量は、成人で睡眠障害に用いる場合に2~6錠であり、子どもは最大で3錠誤飲していた可能性がある。

・当該家庭では、通常は、医薬品を子どもの手の届かない居間のテレビ台の棚(床から140cmの高さ)に保管していた。

・誤飲事故当日は、母親は服用する分だけを上述の保管場所から寝室に持って行ったが、これまで寝室に医薬品を持ち込んだことはなかった。

② 誤飲事故発生時の子どもの身体的特徴及び運動能力

・子どもの身長は85cm、体重は13kgであった。

・子どもは、独り歩きや走り回ることが可能であり、ペットボトルの蓋を手で開けることが可能であった。

・子どもは、自身で踏み台を用意し、自身の背丈よりも高い位置にあるものを取ることが可能であった。

③ 誤飲事故発生時の現場の状況

・自宅の居間に、母親、子ども1名がいた。

・子どもが眠そうにしていたことから、寝室のベッドで一緒に昼寝することにした。

・母親は、寝つきを良くするために通常服用している精神安定剤を1錠服用し、残った2~3錠を同室のベッドのサイドテーブルの上に置いたまま、子どもと同ベッドで昼寝をした。

・母親が何か音がするので驚いて目を覚ますと、子どもが船をこぐように同ベッドの横の壁に自身の頭をぶつけていた。

・子どもは、目が半開き状態で、意識が朦朧としており、同ベッドの上で立ち上がろうとして壁に自身の頭を何度もぶつけていた。

・同ベッド横の床には、噛み跡のあるPTP包装が落ちていた。

④ 誤飲事故発生後の保護者の対応

・母親は、子どもが薬を誤飲するとは考えていなかった。

・母親は、どの診療科の病院に連れて行けばよいのか分からず、複数の医療機関に電話をした。しかし、状況がうまく伝わらず、誤飲への対処方法を聞くことができなかった。

・母親から連絡を受けた子どもの父親は、複数の医療機関に連絡し、医薬品の誤飲事故に対応可能な病院を見つけた。

・母親が誤飲に気付いてから約1時間後に当該病院に到着し、すぐに医師の診断を受けた結果、2日間ふらつくかもしれないが大丈夫とのことであった。その後、病院で3時間ほど子どもを休ませた後、帰宅した。

・帰宅後、子どもに通常と変わった様子はなかった。

3.3.5 事例5:兄の治療中に弟が医薬品を誤飲した事故

(1) 事故概要

誤飲事故が発生した当日、母親と子ども2名(兄と弟)が自宅の居間にいた。母親は、居間の床の上に薬箱を置いて兄の怪我の手当てをしていた。母親が、弟(2歳6か月)(以下事例5において「弟」という。)を見たとき、弟が何かを食べており、母親はタブレットの菓子を食べていると考えていたが、よく見ると、弟は薬箱に入っていた乗物酔防止薬を取り出し5錠程度誤飲していた(図42参照)。

弟の誤飲に気付いた母親は、救急(119番)に連絡し、小児救急医療センターを紹介してもらった。弟は、誤飲の1時間後に小児救急医療センターで受診した。受診時、弟は泣き、顔が紅潮していたため、直ちに2次病院へ搬送された。弟は、搬送直後、興奮状態にあったが、翌日には、普段どおりとなり、退院した。

図42 事例5において医薬品を置いていた場所及びその付近の状況

(2) 聞取り調査で判明した事項

① 誤飲した医薬品と管理状況

・誤飲した医薬品は、PTP包装に入った乗物酔防止薬であり、一般用医薬品(第2類医薬品)であった(図43参照)。

図43 事例5で誤飲した医薬品の形状

・当該医薬品は、7歳以上の者用であり、7~14歳の者の1日の服用量は半錠となっている。弟は、3錠~7錠誤飲しており、7~14歳の者の1日の服用量の6倍から14倍の量を誤飲していたものと考えられる。

・当該医薬品は、誤飲した子ども(弟)の兄の常備薬であった。

・当該医薬品は、弟が数日前まで食べていた菓子と外観が似ていたため、弟は菓子と間違って食べた可能性がある。

・当該家庭では、医薬品の保管場所に気をつけており、通常は、医薬品を兄弟の目や手の届かない戸棚の上(床から180cmの高さ)の薬箱に保管してあった。

② 誤飲事故発生時の弟の身体的特徴及び運動能力

・弟の身長は約80cm、体重は約10kgであった。

・弟は、独り歩きや走り回ることが可能であり、小袋を手で開けることが可能であった。

③ 誤飲事故発生時の現場の状況

・誤飲発生時、母親と兄弟の母子3名が居間にいた。

・母親は、居間の床の上に薬箱を置いて絆創膏を取り出し、兄の怪我の手当てをしており、薬箱は開けたままであった。

・同居間で、ピリピリと音がするので、母親は、弟はタブレットの菓子を食べていると考えていた。

・母親が、弟が菓子を既に食べていたことに気付いたため、弟に慌てて駆け寄ると、弟は、薬箱から取り出した乗物酔防止薬を5錠程度誤飲していた。

④ 誤飲事故発生後の保護者の対応

・誤飲に気付いた母親は、救急(119番)に相談をしたところ、小児救急医療センターを紹介された。

・弟は、誤飲の1時間後に小児救急医療センターで受診した。

・受診時、弟は泣き、顔が紅潮していたため、直ちに2次病院へ搬送され、2日間入院した。

・弟は、搬送直後、興奮状態であったが、翌日、通常の容態となり退院した。

3.3.6 事例6:甘い味のするシロップ薬を多量に誤飲した事故

(1) 事故概要

誤飲事故が発生した当日、父親、母親と子ども2名(兄と弟)が家におり、誤飲事故は、父親と兄弟の3名が風呂から上がった際に発生した。

父親は、脱衣所にいた時、弟(2歳10か月)(以下事例6において「弟」という。)が何かを飲んだことを兄から聞いた。父親が、台所に行くと、シロップ薬の空き瓶が床に転がっているのを発見し、弟がシロップ薬を誤飲したと知った(図44参照)。

誤飲した弟の様子は、通常と変わりはなかったが、心配した両親が病院へ連絡し、病院からは、小児救急センターに行くように指示された。弟は、誤飲30分後に、小児救急センターに到着した。弟は小児医療センターで胃洗浄と点滴が行われ、そのまま入院し、2日後に退院した。

図44 事例6において医薬品を置いていた場所及びその付近の状況

(2) 聞取り調査で判明した事項

① 誤飲した医薬品と管理状況

・誤飲した医薬品は、瓶入りの液体風邪薬であり、一般用医薬品(第2類医薬品)であった。

・当該医薬品の瓶には誤飲防止のためのキャップがついており、未開封であった(図45参照)。

図45 事例6で誤飲した医薬品の形状

・当該医薬品は、いちご風味のシロップ薬であり、甘くて飲みやすいのが特徴であった。このため、弟が全量誤飲したと考えられる。

・弟の年齢での用量は、1回7.5ml(1歳以上3歳未満)であり、1日6回まで(45ml)服用することができる。弟が誤飲した120mlは、1日の最大服用量の2.7倍になる。

・母親は、誤飲事故当日、咳が止まらない兄(兄は、当時4歳8か月)のために薬局で当該医薬品を購入した。

・母親は、シロップ薬を購入した際は、通常、帰宅後すぐに冷蔵庫に保管しているが、当日は、初めて購入した医薬品の説明書を読むため、薬の箱の封を開け、瓶のキャップは開けずに箱に入れた状態で、台所の調理台(床からの高さ85cm)の奥のほう(奥行き63cm)に置いていた。

② 誤飲事故発生時の弟の身体的特徴及び運動能力

・弟の身長は92cm、体重は14kgであった。

・弟は、独り歩きや走り回ることが可能であり、ペットボトルの蓋を手で開けることが可能であった。

③ 誤飲事故発生時の現場の状況

・自宅には、父親、母親、子ども2名(兄弟)の4名がいた。

・父親と兄弟の3名は風呂から上がり、母親は、入れ替わりで風呂に入った。

・父親は、脱衣所で目薬を点眼している時、兄から弟が何かを飲んだことを聞き、台所に行くと、床に薬の空き瓶が転がっているのを発見し、弟が誤飲したことを知った。

・瓶にはシロップ薬が残っておらず、弟はシロップ薬全量(120mL)飲んだと推定される。

・両親は、弟の身長では台所の調理台上の奥のほうにある医薬品には手が届かないと思っていた。

④ 誤飲発生後の保護者の対応

・両親は、誤飲の対処方法を聞くために、地元の医師会が作成した小児救急体制をまとめたパンフレットを見て、そこに掲載されていた病院に電話をかけた。

・数箇所の病院に電話をかけたがつながらず、つながった病院に相談したところ、小児救急センターに連絡するように指示された。そこで、指示通り連絡をして自家用車で弟を連れて小児救急センターに向かった。

・弟の誤飲に気付いてから、小児救急センターに連れて行くまでの時間は、30分程度であった。

・両親は、これまで行っていた保管方法を再度徹底することにした。

3.3.7 事例7:子どもの目や手の届かない場所に保管していた医薬品の誤飲事故

(1) 事故概要

誤飲事故が発生した当日、母親と子ども(4歳6か月)(以下事例7において「子ども」という。)の2名が家にいた。母親は、子どもがゴミ箱に何かを捨てたのを見たので、確認すると、空のPTP包装が捨ててあった。子どもは、自宅のクローゼット内の衣装ケースの上に置いていたポーチの中から、末梢性神経障害改善薬を取り出し、3~10錠誤飲していた可能性があった(図46参照)。そこで母親は、医師会に電話して対処方法を相談した。医師会の担当者から子どもの様子を見て、異常があれば救急車を呼ぶようにと指示された。その後、子どもに変わった様子はなかった。

図46 事例7において医薬品を置いていた場所及びその付近の状況

(2) 聞取り調査で判明した事項

① 誤飲した医薬品と管理状況

・誤飲した医薬品は、PTP包装に入った末梢性神経障害改善薬であり、医療用医薬品であった(図47参照)。

図47 事例7で誤飲した医薬品の形状

・当該医薬品は、父親の治療薬であった。

・当該医薬品は、成人用であり、成人の1日の服用量は3錠までである。子どもは、少なくとも3~4錠、最大で10錠を一度に飲んでいた。

・当該医薬品は、クローゼット内の衣装ケースの上(床から113cmの高さ)の、奥行き約19cmの場所に、医薬品をポーチに入れて保管されていた。

・家庭では、通常、医薬品は、子どもの手の届かない高さのところや目に入らないところに保管しており、両親は、日頃から保管場所に気をつけていた。

② 誤飲事故発生時の子どもの身体的特徴及び運動能力

・子どもの身長は97cm、体重は16kgであった。

・子どもは、独り歩きや走り回ることが可能であり、小袋を手で開けることが可能であった。

・子どもは、自身の身長よりも高いところに置いてあるものを、踏み台を使って取ることが可能であった。

③ 誤飲事故発生時の現場の状況

・自宅には、母親と子ども1名がいた。

・母親は、風呂場で風呂掃除をし、子どもは居間で遊んでいた。

・子どもの足音と気配により、子どもが、台所のゴミ箱に何かを捨て、居間に戻ったことが分かった。

・母親が、ゴミ箱の中を確認すると、唾液で濡れ、噛み跡のあるグチャグチャの空のPTP包装が捨ててあった。

・また、医薬品を保管してあったクローゼットが開いており、医薬品の入ったポーチは元の保管場所に置いてあったのが確認された。

④ 誤飲事故発生後の保護者の対応

・24時間診療を行っている小児科や中毒110番に電話したが、つながらなかった。

・母親は、子どもが通う幼稚園から配布されていた「お知らせの紙」に医師会への連絡先が書いてあったことに気付き、医師会に電話し、対処方法のアドバイスをもらった。

・医師会の担当者から電話で、「子どもの様子を見て異常があれば救急車を呼ぶように」と指示されたが、その後、子どもは日常と変わった様子はなかったので、母親は、救急車を呼ばなかった。

・当該家庭では、事故後、医薬品は子どもの見えない、衣装ケースの上のプラスチックケースの中に入れることとしていた。さらに、子どもには、医薬品を飲んでいるところを見せないようにした。

3.3.8 事例8:収納し忘れた医薬品を菓子と間違えて誤飲した事故

(1) 事故概要

誤飲事故が発生した当日、母親、姉と弟の2名、母親の両親の5名が家にいた。母親が家事をしていたところ、キッチンカウンターに置いていた下剤がダイニングテーブルに移動していることに気付いた。医薬品が移動していることを弟(6歳)(以下事例8において「弟」という。)に聞くと、食べたと答えた。

弟は、調理台の上に置いていた医薬品を取り出し、3~4錠誤飲していた(図48参照)。

母親は、医療機関には相談せず、自宅で様子を見ることにした。翌日、弟はひどく下痢をしたが、下痢による脱水症状はみられなかった。

図48 事例8において医薬品を置いていた場所及びその付近の状況

(2) 聞取り調査で判明した事項

① 誤飲した医薬品と管理状況

・誤飲した医薬品は、PTP包装に入った下剤であり、一般用医薬品(第2類医薬品)であった(図49参照)。

図49 事例8で誤飲した医薬品の形状

・当該医薬品は、11歳以上の者用であり、11~14歳の者の1日の服用量は2錠までである。弟は医薬品の対象年齢より低い6歳で、少なくとも3~4錠を誤飲していた。

・当該医薬品は、PTP包装に入った、色が鮮やかな球形の錠剤であり、弟が食べたことがある菓子の形状と容器が類似していた。母親は、弟が、菓子の食べ残しを食べていると考えていた。

・誤飲事故当日、下剤を収納し忘れて、キッチンカウンターのトレーの上(床からの高さ95cm、手前から10cm)に下剤が置かれたままの状態になっていた。

・当該家庭では、通常、医薬品は、テレビボードの引出しの中に保管しており、当該引出しには、樹脂製のチャイルドロックを付けていた。

② 誤飲事故発生時の弟の身体的特徴及び運動能力

・弟の身長は約100cm、体重は不明であった22

・弟は、独り歩きや走り回ることが可能であり、ペットボトルの蓋や菓子の袋を手で開けることが可能であった。

③ 誤飲事故発生時の現場の状況

・母親、姉と弟の2名、母親の両親の5名が家にいた。

・夕食後の当該家庭の状況は、母親が家事、他の家族は、各々活動していた。

・母親は、キッチンカウンターの上に置いていたはずの医薬品が、その脇のダイニングテーブルに移動していることに気付いた。

・弟に医薬品が移動していることを確認すると、こっそりと食べたが、まずかったと答えた。

④ 誤飲事故発生後の保護者の対応

・母親は、弟が誤飲した医薬品が下剤であったため、それほど危なくないだろうと考え、弟に脱水症状がみられる場合は水分補給をし、医療機関には相談せずに様子を見ることにした。

・母親は、弟が重症になった場合の対処方法をどこに聞けばよいのか分かっておらず、仮に弟が重症になったとすれば救急車を呼んでいただろう、とのことであった。

・当該家庭では、事故後、キッチンカウンターに薬を置かないようにした。

3.3.9 8事例から確認された子どもによる医薬品誤飲の傾向

(1) 子どもは、手の届くところにある物は手に取る

誤飲事故及び誤飲未遂の8事例中6事例(事例1、3、4、5、6、8)で、保護者が服用等のために一時的に通常の保管場所と異なる場所に置かれた医薬品を、子どもが手に取ったことが確認されている。

(2) 子どもは、手の届かない場所や見えない場所に置いてある物でさえも取ろうとする

事例2及び7では、子どもの手の届かない場所、見えない場所に医薬品を保管していたが、誤飲事故は発生した。両事例では、床から100cm以上の高さの、扉のある場所に医薬品を保管していたものの、子どもは、踏み台などの足場になるものを持ってきて、医薬品を取ったと考えられる。また、事例1及び6は一時的に保管していた場所で発生したが、いずれも保護者から見れば、子どもには届かないだろうと考えられていた場所である。

(3) 子どもは、医薬品を菓子と間違えて誤飲することがある

事例3、5及び8の医薬品は、子どもが食べたことがある菓子又は菓子の容器と外観が似ていたために、誤飲した可能性がある。また、医薬品の中には甘い味付けがされているものもあり、子どもが菓子と間違えて一度に多量に誤飲する可能性が考えられる。

3.4 小児科医からの誤飲事故の情報収集

3.1に述べた医療機関から連絡のあった事例で追跡調査を実施した112件のうち9件について、それぞれの事例を診察した小児科医から、誤飲事例の概要や見解、それ以外の誤飲事故の対応経験の有無、重症例の概要などについて聞取り調査を行った。

3.4.1 追跡調査を行った誤飲事故事例概要

① 事例A

年齢:0歳11か月

誤飲医薬品、量:血管収縮剤(劇薬)、1錠

症状:啼泣、頻脈、血液検査の軽度異常

病院での治療:経過観察、入院2日間

② 事例B

年齢:1歳6か月

誤飲医薬品、量:内服風邪薬、10錠

症状:興奮、頻脈

病院での治療:輸液、経過観察

③ 事例C

年齢:1歳7か月

誤飲医薬品、量:筋緊張性疾患治療剤、最大7錠

症状:傾眠傾向、筋由来酵素が上昇

病院での治療:胃洗浄、点滴、入院3日間

④ 事例D

年齢:1歳10か月

誤飲医薬品、量:抗ヒスタミン剤と気管支拡張剤の合剤シロップ薬(誤飲した子ども自身の医薬品)、5回分

症状:傾眠、頻脈、低カリウム血症

病院での治療:胃洗浄時、おう吐あり。原疾患の気管支炎に対し、気管支拡張剤吸入、酸素呼吸及び理学療法。入院8日間(原疾患の加療を含む。)。

⑤ 事例E

年齢:1歳11か月

誤飲医薬品、量:催眠鎮静剤と精神神経用剤(劇薬)を各1錠

症状:流涎、傾眠、歩容異常、立位困難

病院での治療:輸液、経過観察、翌日再診

⑥ 事例F

年齢:1歳11か月

誤飲医薬品、量:下剤、15~30錠

症状:しゃっくり、顔面紅潮、興奮、マグネシウム血中濃度が正常上限程度

病院での治療:胃洗浄、入院4日間

⑦ 事例G(事例5)

年齢:2歳6か月

誤飲医薬品、量:乗物酔防止薬、5錠程度

症状:頻脈、血圧上昇、顔面紅潮、散瞳、興奮状態

病院での治療:輸液、尿のアルカリ化、入院2日間

⑧ 事例H

年齢:3歳

誤飲医薬品、量:鼻炎用内服液(誤飲した子ども自身の医薬品)、13回分

症状:受診時は症状なし。受診後帰宅すると、興奮状態となり、やがて入眠。

病院での治療:受診時は症状がなかったため、自宅で経過観察。

⑨ 事例I

年齢:4歳

誤飲医薬品、量:精神神経用剤(劇薬)、最大8包

症状:意識障害、眼振、流涎

病院での治療:胃洗浄、活性炭・下剤を投与、入院5日間

3.4.2 誤飲すると重い中毒症状を呈するリスクが高い医薬品

聞取り調査した小児科医9名中8名が、追跡調査対象事故以外にも子どもによる医薬品誤飲事故に対処した経験があり、そのうち2名が重症例に対処したことがあると回答した。

追跡調査9事例以外の事例も含め、子どもが誤飲して、重い中毒症状を呈した事例で原因となった主な医薬品は、催眠鎮静剤、抗不安剤、精神神経用剤などの向精神薬、血糖降下剤(糖尿病治療薬)及び気管支拡張剤であった。また、誤飲すると重い中毒症状を呈するリスクが高い医薬品として、半数以上の医師が、血圧降下剤を挙げた。

これら重い中毒症状を呈するリスクが高い4種類の医薬品の誤飲件数と入院件数について、3.1において分析した平成24年の事故情報で確認した(表4参照)。向精神薬の誤飲事故133件中、入院例は14件であり、合剤を含む気管支拡張剤の誤飲事故33件中、入院例は2件であった。血圧降下剤の誤飲事故8件中、入院例は2件であった。血糖降下剤の誤飲事故は3件あったが、入院例はなかった。血糖降下剤による事故件数は3件と少なく、入院例はなかった。

誤飲により重い中毒症状を呈するリスクが高い向精神薬、気管支拡張剤、血圧降下剤及び血糖降下剤については、特に誤飲防止に注意を払う必要がある。

表4 平成24年における4種類の医薬品誤飲件数と入院件数

 

2012年の誤飲件数

そのうち入院した件数

向精神薬

133

14

気管支拡張剤(合剤を含む。)

33

2

血圧降下剤

8

2

血糖降下剤

3

0

(中毒情報センターが収集した情報より調査委員会が作成)

3.5 子どもによる医薬品等の誤飲に関する保護者への情報提供及び注意喚起について

3.5.1 具体的な注意喚起等の内容

1.3でも述べたように、子どもによる医薬品等の誤飲事故を防止するため、注意喚起の通知や啓発パンフレット配布等の取組が行われている。ここでは、過去に行われた具体的な取組の内容を記載する。

(1) 「家庭用品等に係る健康被害病院モニター報告」(厚生労働省)

平成24年12月に公表した「平成23年度家庭用品等に係る健康被害病院モニター報告」において、医薬品等に関しては、誤飲による症状発現、要処置事例、入院例が多く報告されている。誤飲した医薬品等の内訳をみると、処方された中枢神経用薬(23件)が多い。同報告では、医薬品等の保管及び管理には細心の注意が必要であること、中枢神経用薬は服用後に一時的に注意力が散漫になる場合もあるので、服用者以外の家族が注意を払う必要があること及びシロップ、小児が飲みやすいように味付けがしてあるものは、小児がおいしいものとして認識し、冷蔵庫に入れておいても自ら取り出して飲んでしまうことがあるため注意が必要であることなどが記載されている。

(2) 「医薬品等の誤飲防止対策の徹底について」(厚生労働省)

(1)の報告等を踏まえ、平成25年1月に厚生労働省が、地方自治体の衛生主管部(局)長や医療関係団体等に対して「医薬品等の誤飲防止対策の徹底について」を通知した。この通知では、患者の家族等、特に小児による誤飲が生じないように、処方又は調剤に当たっては、医薬品を小児の手の届かない場所に保管するなど、適切な保管及び管理をするよう、患者及び家族等に十分注意喚起することを促している。

(3) 「母子保健事業のための事故防止指導マニュアル」(厚生労働省)

「母子保健事業のための事故防止指導マニュアル」(以下「指導マニュアル」という。)では、子どもの事故防止のための指導メニューを複数提示し、市町村が最も効果的で、適した指導メニューを選択できるようになっている。指導マニュアル中にはリーフレットとしてそのまま使用できる事故防止指導用教材も含まれている。国立保健医療科学院のホームページから指導マニュアルと指導用教材をダウンロードし、活用することが可能となっている。子どもの事故防止のための取組は、母子保健事業の機会を利用して実施されており、その際、保護者への指導にこれらの教材が活用されている。指導マニュアルには、医薬品の誤飲事故防止について、子どもの手の届かないところに置くことや引き出しや冷蔵庫をロックすることが記載されている。

(4) 「子ども安全メール」(消費者庁)

平成22年9月から開始した「子ども安全メール」は、消費者庁の「子どもを事故から守る!プロジェクト」の一環として情報発信されている。同メールでは、直近に発生した事故事例や消費者の体験談も配信されており、医薬品の誤飲に関するものでは、平成26年3月27日Vol.180で「水薬(シロップ状の薬)は子どもの手の届かないところで保管しましょう。~体験談の御紹介26~」が配信されている。

(5) 「知っておきたい薬の知識」(厚生労働省、日本薬剤師会)

厚生労働省と日本薬剤師会は、「知っておきたい薬の知識」という冊子を作成し、薬の正しい使い方や正しい保管の仕方、薬についての相談窓口等の情報について、本冊子を使って啓発を行っている。この冊子の中で、薬の誤飲を防ぐために、子どもの手の届きやすいところに薬を置かないよう、常に注意することが記載されている。

(6) リーフレット「大変危険です。子どもの誤飲!!」(中毒情報センター)

中毒情報センターでは、昭和61年から子どもの誤飲事故について情報発信しており、長年の情報収集から得られた知見をリーフレット「大変危険です。子どもの誤飲!!」にまとめている。

リーフレットには、親がちょっと目を離した隙に誤飲事故が発生していること、子どもの年齢に応じて注意すべき対象が変わること、子どもの誤飲が発生した際の対処方法といった内容が記載されており、誤飲事故の予防や重篤化防止に活用されている。なお、医薬品の誤飲については、誤飲事故を起こす製品の一つとして紹介されており、誤飲した場合は、中毒情報センターが開設している中毒110番に連絡する旨が記載されている。

(7) 「子供用水薬を中心とした医薬品容器の安全対策報告書」(東京都商品等安全対策協議会)

東京都商品等安全対策協議会が公表した「子供用水薬を中心として医薬品容器の安全対策報告書」では、子どもによる医薬品の誤飲事故が多く発生している現状や国内外の取組状況を踏まえ、事業者や消費者にCR機能の考え方を浸透させていくことを主眼に置いた内容となっている。医薬品の包装容器の現状調査や消費者アンケート調査の結果等を踏まえて、誤飲防止の意識を高め、普及を促進するために、消費者にCR包装容器の存在を知ってもらい、使用体験をしてもらうことが必要としている。

3.5.2 考察

上述のように子どもによる医薬品誤飲防止に関する取組については、注意喚起やパンフレット等を使った啓発活動等の対策が講じられ、一定の効果が上がっていると考えられるが、平成25年1月~12月の中毒情報センターの5歳以下の子どもの医薬品等の誤飲相談(受信)件数23(8,585件)は、前年の相談(受信)件数24(8,388件)より約200件増加しており、直近のデータをみても子どもによる医薬品の誤飲は、依然減少していないものと考えられる。

また、平成26年4月に実施した保護者へのアンケート調査結果から、子どもによる医薬品の誤飲に関する保護者の認知度をみると、こうした事故の発生自体を認識していない保護者も少なくなかった。毎年、新たに保護者になる方々もいることから、様々な機会、媒体を活用しつつ、注意喚起や啓発の取組を継続して行っていくことが重要である。

その際、事故事例を紹介するなどにより、子どもの成長に応じた事故の特徴、注意すべきポイント、特に注意を要する医薬品の種類などをできるだけ具体的に示すことがより効果的と考えられる。

――――――――――

18 中毒110番は、一般市民や医療機関等からの相談者に対して、医薬品等の化学物質等に起因する急性毒性について、受診の必要性、予想される中毒症状、家庭での可能な応急手当などの情報を365日24時間対応で提供しているほか、起因物質別、発生場所別、年齢層別などの相談(受信)件数を、年報で毎年公開している。

19 「医薬品等の取り違え」とは、本来飲むべき医薬品等とは異なる医薬品等を与えることをいう。

20 「医薬品等の飲ませ間違い」とは、本来飲むべき医薬品等の投与量や投与回数を間違えることをいう。

21 データを小さい順に並べて、下から1/4のところのデータを第1四分位数、2/4のところのデータを第2四分位数(これは中央値と同じ。)、3/4のところのデータを第3四分位数という。ここでは、第1四分位数と第3四分位数を表記している。

22 子どもの当時の体重は、記録がなく不明である。

23 中毒情報センター 2013年年報受信報告「表4 起因物質別 患者の性別と年齢層別 受信件数(2013年1月~2013年12月)」

24 中毒情報センター 2012年年報受信報告「表4 起因物質別 患者の性別と年齢層別 受信件数(2012年1月~2012年12月)」

4 分析のまとめ

保護者へのアンケート調査及び誤飲事故が発生した家庭での現地調査や聞取り調査から、子どもによる医薬品の誤飲については、①医薬品の置き忘れや一時保管していた場所から子どもが医薬品を手に取って誤飲する事故や、②手が届かない、目に触れないはずの保管場所から子どもが取り出し誤飲する事故が確認された。後者には、保護者が想像し難いような行動により取り出した事例もあった。

これらの事故には、子どもの成長に応じて「身近にあるものを何でも口に運ぶ」、「周囲への興味や関心が高まり人の模倣をする」、「興味を持って好んで取る」など、子どもの年齢や発達段階によって変化する行動特性が影響していると考えられる。

また、保護者へのアンケート調査から、保護者にこのような誤飲事故について十分に認知されていないことが事故発生の背景要因となっていると考えられる。

子どもが誤飲する医薬品の種類は多岐にわたったが、特に注意を要するものとして、向精神薬、気管支拡張剤、血圧降下剤及び血糖降下剤が考えられる。

子どもの行動特性25や、保護者の体調等によっては注意力が散漫になりがちな場合があることなどに鑑み、仮に子どもが医薬品を手に取ったとしても容易に開封することができない容器の開発や普及などの対策が必要であると考えられる。

さらに、様々な機会、媒体を活用しつつ、注意喚起や啓発の取組を継続して行っていくことが重要である。その際、事故事例を紹介するなどにより、子どもの成長に応じた事故の特徴、注意すべきポイント、特に注意を要する医薬品の種類などをできるだけ具体的に示すことがより効果的と考えられる。

以下に詳細を記載する。

4.1 誤飲発生時の医薬品の管理状況

子どもによる医薬品の誤飲については、医薬品の置き忘れや一時保管していた場所から子どもが医薬品を手に取って誤飲する事故や、手が届かない、目に触れないはずの保管場所から子どもが取り出して誤飲する事故が確認された。

(1) 置き忘れや一時保管していた場所から通常の保管場所に入れなかったため子どもが医薬品を手に取った事例

保護者へのアンケート調査によると、子どもによる医薬品誤飲事故又は誤飲未遂が発生したとき、その場所に医薬品が置かれていた理由として、「服用のため」が42%、「保管場所への戻し忘れ」が32%(複数回答)といったように、通常の保管場所以外に置かれていたと考えられる事例が最も多かった。

保護者からの聞取り調査によると、通常は子どもの手や目の届かない場所に医薬品を保管していたが、保護者等の体調不良で服用のために医薬品を手の届く場所に置いていた事例や、他の子どもの治療中で薬箱を開けたまま床に置いていたといった事例もみられた。こうしたことは日常生活の中で十分に起こり得ることと考えられる。

(2) 通常の保管場所から子どもが医薬品を取り出した事例

誤飲事故又は誤飲未遂の4件に1件の割合で、子どもは、通常の保管場所から医薬品を取り出していたことが分かった。誤飲事故又は誤飲未遂をした際の医薬品の床からの高さ(中央値)は、台などの足場がない場合では50cmであったが、足場があった場合では、80cm前後(2歳では90cm)であり、足場を自分で持ってきたと考えられるケースでは100cmであった。このことから子どもは、特に興味を示すような場合には、床から100cmの高さに置いた薬であっても取り出してしまった。

また、アンケート調査による事例や保護者からの聞取り調査から、子どもの手の届かない高い位置に置いていた医薬品を子ども達が協力して取り出した可能性のある事例や、子どもが椅子に登るのは見たことがなかったといった事例など、保護者の想像を超えた子どもの行動による誤飲事例がみられた。

実際に誤飲事故又は誤飲未遂を経験した保護者の71%が、「子どもの手が届かない高さに保管するようにしている」と回答し、保護者の47%は、「子どもに見えないところに保管するようにしている」と回答しているが(複数回答)、子どもの発達段階によって変化する特性を踏まえると、これだけでは十分ではない可能性がある。

4.2 子どもの行動特性からみる医薬品誤飲事故

中毒情報センターに寄せられた情報や保護者へのアンケート調査から、子どもによる医薬品の誤飲事故は、子どもの成長に応じて、「身近にあるものを何でも口に運ぶ」ことによる事故、「周囲への興味や関心が高まり人の模倣をする」ことによる事故、「興味を持って好んで取る」ことによる事故などの特徴がみられた。

(1) 身近にあるものを手に取り何でも口に運ぶ

おおむね6か月から1歳半頃までにかけて、身近にあるものを手に取り口に入れる行動による誤飲事故が多く認められた。

・子どもの身近なところ、手の届くところにある医薬品を、種類にかかわらず誤飲する傾向がある

・口に入れることが想定されていない塗り薬等でも誤飲することがある

・PTP包装ごと口に入れて噛んだり、袋を噛んで破いたり、金属チューブを噛んだりする等、通常の取り出し方でない方法で医薬品を誤飲する傾向がある

(2) 周囲への興味や関心が高まり人の模倣をする

1歳(特に1歳半頃)から2歳までにかけては、周囲への興味・関心が高まる時期であり、保護者の模倣等により誤飲することが考えられる。

1歳児、2歳児では、0歳児と比べて

・足場を使って高いところの医薬品を取り出す

・大人用の医薬品を誤飲する

・包装容器を通常の取り出し方で開けて飲む

といった事例が増加した。

(3) 興味を持って好んで手に取る

おおむね2歳頃からの特徴として、興味を持って好んで手に取ったと考えられる事故がみられた。こうした事故は1歳以下でもみられるが、年齢が上がるに連れ誤飲全体の件数が減少するなかで、以下のような事例が2歳以上で比較的多くみられた。

・子どもの手の届かない高い場所にある医薬品でも、足場になるものを自ら持ってくるなどして誤飲する

・子どもが飲みやすいように甘く味付けされたシロップ剤等を多量に誤飲する

・3歳以上でも、剤形がチュアブル錠、ドロップ、ゼリー等の医薬品を菓子と間違えて多量に誤飲することがある

4.3 特に注意を要する医薬品の種類

子ども用医薬品誤飲事故に比べ、大人用医薬品誤飲事故が多いことが明らかになった。3.1に述べた中毒情報センターへの相談事例や3.4で述べた小児科医への聞取り調査結果では、誤飲して重い中毒症状を呈したまたは、重い中毒症状を呈するリスクが高い医薬品として、向精神薬、気管支拡張剤、血圧降下剤及び血糖降下剤があった。これらの医薬品の誤飲による入院例が確認されており、誤飲防止に特に注意を払う必要がある。

特に向精神薬の誤飲件数、入院件数は他の医薬品の件数に比べて多く、誤飲した際の眠気、めまい、不整脈等の症状から、ふらつきによる壁への頭突き等の事例も生じている。「平成23年度家庭用品等に係る健康被害病院モニター報告」(厚生労働省)においても、処方された中枢神経用薬(23件)の誤飲事故が多くなっており、服用後に一時的に注意力が散漫になる場合もあるので、服用者以外の家族が注意を払う必要があることが報告されている。

特に子どもが誤飲をすると重い中毒症状を呈するリスクが高い医薬品については、誤飲防止の注意喚起の徹底とともに仮に子どもが医薬品を手に取ったとしても容易に開封できない容器の改良の対策を講じる必要があると考えられる。

4.4 子どもによる医薬品誤飲に関する注意喚起

子どもによる医薬品誤飲防止に関する取組については、3.5で記述したとおり、注意喚起、マニュアル及びパンフレットを使った啓発等の対策が講じられている。

最近では、「平成23年度家庭用品等に係る健康被害病院モニター報告」を踏まえて、平成25年1月に厚生労働省が注意喚起の通知を発出している。しかしながら、平成25年1月~12月の中毒情報センターの5歳以下の子どもの医薬品等の誤飲相談(受信)件数(8,585件)は、前年の相談(受信)件数(8,388件)より約200件増加しており、直近のデータをみても子どもによる医薬品の誤飲は、依然減少していないものと考えられる。

平成26年4月に実施した保護者へのアンケート調査結果から保護者の子どもによる医薬品の誤飲に関する認知度をみると、こうした事故の発生自体を認識していない保護者も少なくなかった。毎年、新たに保護者になる方々もいることから、様々な機会、媒体を活用しつつ、注意喚起や啓発の取組を継続して行っていくことが重要である。

その際、事故事例を紹介するなどにより、子どもの成長に応じた事故の特徴、注意すべきポイント、特に注意を要する医薬品の種類などをできるだけ具体的に示すことがより必要と考えられる。

また、保護者へのアンケート調査によると、子どもが誤飲したことがあると回答した保護者の中で、誤飲に対する対処方法を知っていると回答した人は、35.3%と少数であった。保護者への聞取り調査によると、医薬品誤飲後の対処の相談や指示を受けられる窓口について事前に知識がなく、誤飲発生後に慌てた保護者も多かった。

医薬品の誤飲への対応は、医薬品の種類や量などにより対処方法が異なることから、保護者に対して、誤飲事故が発生した場合の的確な対処方法の相談や指示などができる機関の情報を確実に提供する必要があると考えられる。

――――――――――

25 本経過報告の子どもの行動特性については、保育所保育指針解説書(平成20年4月厚生労働省雇用均等・児童家庭局保育課)や指導マニュアル(平成17年度厚生労働科学研究費補助金)を参考に分析を行った。

5 再発防止策

4で述べた分析のまとめから、子どもによる医薬品誤飲を防ぐためには、保護者等へのリスクの周知を通じて家庭での適切な管理を促すこと及び子どもが取り出そうとしても容易に取り出しにくい容器の改良との両面での対策を効果的に講じることが必要と考えられる。

5.1 保護者に対する周知

5.1.1 リスクの周知

3.2.3に述べたように、誤飲事故の発生自体を認識していなかった保護者が3分の1、誤飲事故が発生した際の対処方法を知らない保護者が3分の2を占めた。一方、4.1に述べたように、誤飲時の薬の管理状況をみると、「服用のため」、「保管場所への戻し忘れ」など通常の保管場所以外に置かれていたと考えられる事例が比較的多くみられた。

したがって、誤飲のリスク及び対策を保護者・祖父母等に対して広く周知徹底し、家庭での適切な管理を促すことが、誤飲防止に重要であると考えられる。

その際、子どもによる大人用医薬品の誤飲が多く発生し、入院に至るような重い中毒症状を呈すると考えられる向精神薬等の誤飲も発生している実態や子どもの成長に応じた事故の特徴などを伝えることで、より効果的なものになると考えられる。

4.3で述べたように、子どもが大人用医薬品を誤飲している事例が多くみられるほか、入院に至るような重い中毒症状を呈すると考えられる向精神薬、気管支拡張剤、血圧降下剤及び血糖降下剤を誤飲した事例が確認された。こうしたことから、子どもが誤飲して、重い中毒症状を呈するリスクが高い医薬品については特に注意が必要と考えられ、医薬品を処方する際に、誤飲の注意喚起とともに、それを記した注意書きを手渡すなどの対策が考えられる。

5.1.2 誤飲発生後の重症化リスクの低減

4.4で述べたように、子どもによる医薬品の誤飲に対する対処方法を知らない保護者が多いということが調査結果から明らかになっており、仮に誤飲が発生した場合においても迅速かつ適切に対応することにより、重症化リスクを低減することができる。

また、医薬品の誤飲への対応は、医薬品の種類や量によって異なることから、保護者に対して、子どもによる医薬品の誤飲事故が発生した場合に的確な対処方法の相談や指示などができる機関に関する情報提供を行う必要がある。

具体的には、子どもが医薬品を誤飲した際の相談機関として、中毒情報センターの「中毒110番」や「#8000(小児救急電話相談)」がある。併せて効果的に相談し的確な回答を受けるためには、状況を正確に伝えることが重要であり、子どもが医薬品を誤飲した際は、冷静に医薬品の名称や摂取量等相談に必要な情報(下記参照)を記録して相談することが重要である。

(参考)子どもによる医薬品を誤飲した際の相談機関及び相談に必要な情報例

【相談機関】

「中毒110番・電話サービス(一般専用)」

連絡先

大阪中毒110番(365日24時間対応)

072―727―2499

つくば中毒110番(365日9時~21時対応)

029―852―9999

*なお、一般専用電話に医師及び医療機関から問い合わせを受けた場合、情報提供料は有料(1件につき2,000円)

【相談に必要な情報】

・患者の氏名、年齢、体重、性別

・連絡者と患者との関係・連絡者の電話番号

・医薬品名等(正確な商品名、会社名、用途)

・誤飲事故の発生状況(摂取量、摂取経路、発生時刻)

・患者の状態

*ここでいう患者とは、医薬品を誤飲した子どものことである。

5.2 包装容器改良面での対策(今後、調査委員会で更に検討)

5.1で述べた保護者等への注意喚起を通じて家庭での適切な薬の管理を促すことは、誤飲のリスクの低減に有効と考えられる。一方で、子どもの行動特性や、保護者の体調等によっては注意力が散漫になりがちな場合があること、さらには、子どもは保護者が想像しないような行動をとることもあることから、注意喚起のみでは子どもの誤飲を防止することができない場合もあると考えられる。

我が国では、医薬品及び日用化学製品におけるCR包装容器の採用は、現在のところ、子ども向け風邪用シロップ剤や一部のPTP包装の錠剤にみられる程度であるが、子どもが開封しにくい包装容器の開発や普及などの対策についても検討が必要と考えられる。これについては、本来使用する者(例えば高齢者など)が開けられることとのバランスなどの課題もあることから、CR包装容器等による製品面での再発防止等に関しては、調査委員会で引き続き検討していくこととする。

6 意見

調査委員会は、医薬品包装容器等の製品面の課題を中心に、子どもによる誤飲事故の防止に向けた調査を引き続き行うが、現時点までに行った調査の結果に基づき、消費者へのリスク等の周知に関する点について、以下のとおり意見を述べる。

6.1 厚生労働大臣への意見

厚生労働省は、子どもによる医薬品の誤飲防止のため、次の(1)、(2)及び(3)の取組を行うよう地方公共団体及び関係団体に求めるべきである。

(1) 子どもによる医薬品の誤飲事故の発生自体を認識していない保護者も少なくないことから、医薬品の誤飲のリスクについて、子どもの年齢や発達段階によって変化する行動特性や、子どもによる大人用医薬品の誤飲が多く発生し、入院に至るような重い中毒症状を呈すると考えられる向精神薬等の誤飲も発生していること等も踏まえ、できるだけ具体的なポイントを示しつつ、保護者に対して広く周知し、家庭での適切な管理を促すこと。

(2) 子どもが誤飲して、重い中毒症状を呈するリスクが高い医薬品を中心に、医薬品を処方及び調剤する際に、子どもによる誤飲について保護者に伝わる注意喚起を行うこと。

(3) 子どもによる医薬品の誤飲に対する対処方法を知らない保護者が多いという実態に鑑み、保護者に対して、子どもによる医薬品の誤飲事故が発生した場合に的確な対処方法の相談や指示ができる機関に関する情報提供の徹底を図ること。

6.2 消費者庁長官への意見

消費者庁は、子どもによる医薬品の誤飲防止のため、保護者等に対して、6.1(1)及び(3)を内容とする注意喚起を行うべきである。

別添2

○消費者安全法第33条の規定に基づく意見

(平成26年12月19日)

(消安委第105号)

(消費者庁長官・厚生労働大臣あて消費者安全調査委員会委員長通知)

消費者安全調査委員会は、子どもによる医薬品誤飲事故に関して行った消費者安全法(平成21年法律第50号)第31条第3項の規定に基づく経過報告の結果を踏まえ、消費者安全確保の見地から、下記のとおり意見を提出する。

なお、この意見を受けて講じた措置について、その内容を報告いただくようよろしくお取り計らい願いたい。

消費者安全調査委員会は、医薬品包装容器等の製品面の課題を中心に、子どもによる誤飲事故の防止に向けた調査を引き続き行うが、現時点までに行った調査の結果に基づき、消費者へのリスク等の周知に関する点について、以下のとおり意見を述べる。

1 厚生労働大臣への意見

厚生労働省は、子どもによる医薬品の誤飲防止のため、次の(1)、(2)及び(3)の取組を行うよう地方公共団体及び関係団体に求めるべきである。