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○食品中の有害物質等に関する分析法の妥当性確認ガイドラインについて
(平成26年12月22日)
(食安発1222第7号)
(各都道府県知事・各保健所設置市長・各特別区長あて厚生労働省医薬食品局食品安全部長通知)
(公印省略)
食品中の金属を含む有害物質等の試験法については、食品、添加物等の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号。以下「告示」という。)等により定められているところである。
今般、告示の第1食品の部D各条「清涼飲料水」、「粉末清涼飲料」、「寒天」及び「穀類」に分類される食品の成分規格への適合を判定するための試験に用いる分析法(同等以上の性能を有すると認められる試験法を採用することが認められている場合に限る。)の妥当性を確認するためのガイドラインを策定した。
ついては、各試験機関において開発した試験法により試験を実施しようとする場合は、その試験法が本ガイドラインのそれぞれの基準に適応していることが確認されれば、同等以上の試験法とみなすこととするので御了知願いたい。
食品中の有害物質等に関する分析法の妥当性確認ガイドライン
1 趣旨
本ガイドラインは、金属を含む有害物質等(以下「有害物質等」という。)の濃度が、食品、添加物等の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号。以下「告示」という。)で定める食品の成分規格に適合していることの判定を目的として試験を実施する場合に、各試験機関が使用する分析法の妥当性を確認するための手順を示すものである。
なお、本ガイドラインは、機器を用いる定量分析法を対象とする。また、限度試験1に用いる分析法も対象とする。
注:本ガイドラインに示す手順は、分析法の性能を評価し、妥当性を確認する標準的方法の一例であり、国際的に認められた他の手順を使用することもできる。
2 本ガイドラインの対象
告示の第1食品の部D各条中「清涼飲料水」、「粉末清涼飲料」、「寒天」及び「穀類」に分類される食品の成分規格への適合を判定するための試験に用いる分析法であって、妥当性未確認の方法を対象とする。ただし、基準値が定められている場合又は、限度濃度の明らかな場合にのみ適用する。
3 用語の定義
本ガイドラインにおいて、用語は以下のとおり定義する。
(1) 「限度試験」とは、告示の第1食品の部D各条に掲げる試験法の中に、「超えてはならない」とされる信号強度の限度が示されている試験をいう。
(2) 「限度濃度」とは、限度試験において、限度とする信号強度が得られることが期待される食品相当の濃度をいう。
(3) 「選択性」とは、試料中に存在すると考えられる物質の影響を受けず、分析対象とする有害物質等を正確に測定する能力をいう。
(4) 「真度」とは、分析により得られた十分多数の定量値2の平均値と、承認された標準値(本ガイドラインでは、添加する濃度、認証標準試料に付与された認証値等)との一致の程度をいう。
(5) 「精度」とは、指定された条件下で得られた独立した分析結果間の一致の程度をいう。
(6) 「併行精度」とは、併行条件(同一と見なされる試料の分析において、同一の方法を用いて、同一の試験室で、同一の分析者が同一の装置を用いて、短時間のうちに独立した分析結果を得る条件)下での精度をいう。
(7) 「室内精度」とは、室内条件(同一と見なされる試料の分析において、同一の方法を用いて、同一の試験室で、独立した分析結果を得る条件)下での精度をいう。
(8) 「枝分かれ実験計画」とは、ある因子の全ての水準が、他の全ての因子のひとつの水準だけに現れる実験計画をいう。
4 定量分析法の性能評価と妥当性確認の方法
食品ごとに、分析対象である有害物質等を含まない試料(ブランク試料)3及びブランク試料に分析対象である有害物質等を添加した試料(添加試料)を計画的に分析し、得られた結果から以下の性能パラメータを推定する。推定した性能が、それぞれの目標値等に適合しているかを評価し、適合している場合に妥当性を確認する。
添加試料調製のための各有害物質等の添加濃度は、原則として、対象食品中の対象有害物質等の基準値とする。
(1) 選択性
ブランク試料を分析法に従って試験し、分析対象以外に由来し、定量値の正の誤差要因になり得る信号がないことを確認する。そのような信号が認められる場合は、その強度が添加濃度の分析対象に由来する信号強度の1/10未満であることを確認する。
(2) 真度4,5
添加試料5個以上を分析法に従い分析し、得られた定量値の平均値の添加濃度に対する比を求め、これを真度とする。推定された真度を評価するための目標値は、食品と有害物質等の組み合わせごとに表1のとおりとする。
(3) 精度
添加試料を指定された条件下で繰り返し分析し、得られた定量値の相対標準偏差を求め、併行精度及び室内精度を推定する。室内精度を推定するためには、室内条件に含まれる最低1つの因子の効果が現れるよう実験を計画する。また、実験計画では、自由度4以上で分散の推定が可能な定量値を得るよう、分析の繰り返し回数を設定する。推定された精度を評価するための目標値は、食品と有害物質等の組み合わせごとに表1のとおりとする。
表1―1 ミネラルウォーター類試験法の真度及び精度の目標値
分析対象とする有害物質等 |
濃度 |
真度 (%) |
併行精度 (RSD%) |
室内精度 (RSD%) |
ホウ素、クロム、マンガン、銅、亜鉛、ヒ素、セレン、カドミウム、バリウム、鉛、アンチモン |
基準値 |
90~110 |
室内精度の目標値以下 |
15> |
フッ化物イオン、塩素酸イオン、亜塩素酸イオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン |
90~110 |
10> |
||
四塩化炭素、ジクロロメタン、シス―1,2―ジクロロエチレン、トランス―1,2―ジクロロエチレン、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、トルエン、ベンゼン、1,2―ジクロロエタン、クロロホルム、ジブロモクロロメタン、ブロモジクロロメタン、ブロモホルム、1,4―ジオキサン |
70~120 |
20> |
||
シアン化物イオン、塩化シアン |
90~110 |
5> |
||
ジクロロアセトニトリル |
90~110 |
10> |
||
フタル酸ジ―2―エチルへキシル |
90~110 |
10> |
||
ホルムアルデヒド |
90~110 |
5> |
||
臭素酸イオン |
90~110 |
5> |
||
六価クロム |
90~110 |
10> |
||
水銀 |
90~110 |
10> |
||
残留塩素 |
90~110 |
5> |
||
クロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸 |
90~110 |
15> |
||
全有機炭素(TOC) |
90~110 |
15> |
表1―2 寒天及び穀類試験法の真度及び精度の目標値
分析対象とする有害物質等 |
濃度 |
真度 (%) |
併行精度 (RSD%) |
室内精度 (RSD%) |
ホウ素化合物 |
基準値 |
90~110 |
室内精度の目標値以下 |
15> |
カドミウム |
基準値 |
90~110 |
室内精度の目標値以下 |
15> |
5 限度試験に用いられる分析法の性能評価と妥当性確認の方法
限度試験に用いられる分析法の性能は、用いる測定機器により得られる信号を指標に評価する。添加試料調製のための各有害物質等の添加濃度は、原則として、対象食品中の対象有害物質等の限度濃度とする。
(1) 選択性
4に従い、ブランク試料を分析法に従って分析した結果から、選択性を確認する。
(2) 得られる信号の差とばらつき
併行条件下で、添加試料5個以上を分析法に従い分析する。また、同条件下で、分析法により指示される濃度の標準試薬を測定する。標準試薬の繰り返し測定回数は、添加試料数と同数とする。標準試薬の測定により得られる信号(SIstandard)の平均値に対する添加試料の分析により得られる信号(SIsample)の平均値の比(SIratio)を求める。また、SIstandardの相対標準偏差(sstandard)及びSIsampleの相対標準偏差(ssample)を求める。これらSIratio、sstandard、ssampleの目標値は、表2の通りとする。
表2 限度試験に用いられる試験法の性能の目標値
分析対象とする有害物質等 |
濃度 |
SIratio |
sstandard (RSD%) |
ssample (RSD%) |
限度濃度の示されている物質 |
限度濃度 |
0.9-1.0 |
5> |
15> |
――――――――――
1 限度試験とは、指示される濃度の標準試薬を測定して得られる信号強度を限度とし、これと食品を分析して得られる信号強度とを比較し、その結果から、食品中にその成分規格の対象となる有害物質等の含有を認めないと判断する試験である。限度とする信号強度が得られることが期待される食品相当の濃度を「限度濃度」とする。
2 内部標準を用いる分析法にあっては、定量値は、内部標準に由来する信号により分析対象とする有害物質等に由来する信号を補正した値を検量して得られる。内部標準には、分析における挙動(試料からの回収や、測定により得られる信号の強度等)が、分析対象と一致する物質を用いること。
3 天然に存在する有害物質等が分析対象である場合、これらを含まないブランク試料の準備には困難が予想される。そのような場合にも、添加濃度から得られる信号への影響を無視できるよう、より低い濃度の試料(以下「トレース試料」という)を用いることが望ましい。トレース試料中の分析対象有害物質等の濃度の目安は、添加濃度の1/2未満とする。
4 特に金属類を対象とする分析法の場合、測定における物理的又は化学的干渉と呼ばれる効果が知られている。これらの干渉による定量値への影響は、試験溶液の希釈率、測定波長又は測定質量数の変更により確認可能である。支配的な効果となることも考えられるため、真度の目標値を踏まえ、事前に確認することが効率的である。
5 トレース試料から調製した添加試料を分析して得られる定量値は、トレース試料中の濃度と添加濃度の和を期待値とする推定値である。従って、トレース試料を添加試料と同様に操作し得られた定量値の平均値を個々の添加試料の定量値から差し引いた値の平均値を求め、その値の添加濃度に対する比を真度とする。また、入手可能な場合には、濃度及びマトリクスが適切な認証標準試料を分析し、得られた定量値と認証値の比から真度を推定するのが最も適切である。
別紙1
室内精度推定のための実験計画の例
(例1)分析者1名が、同一の添加試料を1日2回、5日間分析する枝分かれ実験計画
内部精度管理を2併行で実施したデータ、検体分析の際の添加試験を2併行で実施したデータの使用も可能である。
(例2)分析者2名が、それぞれ添加試料を1日2回、3日間分析する枝分かれ実験計画
別紙2
既存のデータを用いた分析法の性能評価と妥当性確認の例
1.精度管理データの利用
食品の成分規格に掲げる有害物質等の試験を実施している機関では、「食品衛生検査施設等における検査等の業務の管理の実施について(平成9年4月1日付け衛食第117号)別添「精度管理の一般ガイドライン」」に従って、精度管理が実施されている。妥当性確認の対象とした試験法を用いて精度管理が実施されている場合、このデータを用いて当該試験法の妥当性確認が可能である。
精度管理の一般ガイドラインでは、定期的に陰性対照(ブランク試料)及び添加量が明らかな試験品(添加試料)を試験し、さらに定期的に添加量が明らかな試験品の5回併行試験を行うこととされている。
これらデータを用いて、
① 陰性対照の結果から選択性が評価される。
② 定期的に5回以上行われた添加量が明らかな試験品の試験結果の平均値から真度が、標準偏差から室内精度が求められる。添加量の明らかな試験品が2併行で試験されている場合は、別紙1に示した枝分かれ実験データとして、真度、併行精度及び室内精度が求められる。
③ 添加量が明らかな試験品の5回併行試験が、定期的に5回以上行われていれば、真度、併行精度及び室内精度が求められる。
2.試験と併行して実施した添加試験データの利用
妥当性確認の対象とする試験法を用いた試験を実施する際に、既知濃度の対象有害物質等を添加したブランク試料(添加試料)の試験が同時に行われている場合、それらの結果から当該試験法の妥当性確認が可能である。
試験品の試験と同時に行われる添加試験では、ブランク試料と添加試料1~3個が試験されることが一般的である。
この場合、
① ブランク試料の結果から選択性が評価される。
② 1回の試験において添加試料を2~3個併行で試験している場合には、5回以上の試験結果を別紙1に示した枝分かれ実験データとして用いる事により、真度、併行精度及び室内精度が求められる。
③ 1回の試験において添加試料1個を試験している場合は、5回以上の試験結果の平均値から真度が、標準偏差から室内精度が求められる。