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○原薬の開発と製造(化学薬品及びバイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品)ガイドラインについて

(平成26年7月10日)

(薬食審査発0710第9号)

(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知)

(公印省略)

日米EU医薬品規制調和国際会議(以下「ICH」という。)が組織され、品質、安全性及び有効性の各分野で、ハーモナイゼーションの促進を図るための活動が行われているところである。

今般、ICHにおける三極の合意事項として、「原薬の開発と製造(化学薬品及びバイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品)ガイドライン」を別添のとおり定めましたので、下記事項を御了知の上、貴管内関係業者等に対し周知方御配慮願います。

1.本ガイドラインの要点

(1) 本ガイドラインは、原薬(化学薬品及びバイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品)の製造工程を開発し、理解するための手法を示したものである。

(2) 本ガイドラインは、「新医薬品の製造又は輸入の承認申請に際し承認申請書に添付すべき資料の作成要領について」(平成13年6月21日付け医薬審発第899号厚生労働省医薬局審査管理課長通知)により提出される承認申請資料のうち、3.2.S.2.2~3.2.S.2.6に記載すべき内容に関する指針を示したものである。

2.本ガイドラインの留意点

(1) 本ガイドラインは、原薬(化学薬品及びバイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品)の開発と製造について、製品のライフサイクル全期間を通じて適用される。

(2) 本ガイドラインは、製剤開発(Q8)、品質リスクマネジメント(Q9)及び医薬品品質システム(Q10)の3つのICHガイドラインに記述されている原則と概念を、原薬に関連づけて、より明確に説明することを意図している。

(3) 本ガイドラインを利用する際には、製剤開発については、「製剤開発に関するガイドラインの改定について」(平成22年6月28日付け薬食審査発第0628第1号厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知)を、品質リスクマネジメントについては、「品質リスクマネジメントに関するガイドライン」(平成18年9月1日付け薬食審査発第0901004号、薬食監麻発第0901005号厚生労働省医薬食品局審査管理課長及び監視指導・麻薬対策課長連名通知)を、医薬品品質システムについては「医薬品品質システムに関するガイドラインについて」(平成22年2月19日付け薬食審査発0219第1号、薬食監麻発0219第1号厚生労働省医薬食品局審査管理課長及び監視指導・麻薬対策課長連名通知)を参考にされたい。

(別添)

ICH Q11 原薬の開発と製造

(化学薬品及びバイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品)

目次

1.はじめに

2.適用範囲

3.製造工程の開発の経緯

3.1 一般原則

3.1.1 製剤に関連する原薬の品質

3.1.2 製造工程の開発ツール

3.1.3 開発の手法

3.1.4 原薬の重要品質特性(CQA)

3.1.5 物質特性及び工程パラメータと原薬CQAとの関連付け

3.1.6 デザインスペース

3.2 製造工程の開発情報の提出

3.2.1 製造工程開発の総合的な要約

3.2.2 原薬CQA

3.2.3 製造工程の変遷

3.2.4 製造工程の開発研究

4.製造方法及びプロセス・コントロールの記述

5.出発物質及び生物起源原材料の選定

5.1 一般原則

5.1.1 合成原薬の出発物質の選定

5.1.2 半合成原薬の出発物質の選定

5.1.3 バイオテクノロジー応用原薬/生物起源由来原薬の生物起源原材料及び出発物質の選定

5.2 出発物質又は生物起源原材料に関する情報の提出

5.2.1 合成原薬の出発物質の選定の妥当性

5.2.2 半合成原薬の出発物質の選定の妥当性

5.2.3 バイオテクノロジー応用原薬/生物起源由来原薬の生物起源原材料又は出発物質の適格性評価

6.管理戦略

6.1 一般原則

6.1.1 管理戦略開発の取り組み

6.1.2 管理戦略を開発する際の考慮点

6.2 管理戦略の情報の提出

7 プロセス・バリデーション/プロセス評価

7.1 一般原則

7.2 バイオテクノロジー応用原薬/生物起源由来原薬に特有の原則

8.コモン・テクニカル・ドキュメント(CTD)様式での製造工程開発情報及び関連情報の提出

8.1 品質リスクマネジメント及びプロセス開発

8.2 重要品質特性(CQA)

8.3 デザインスペース

8.4 管理戦略

9.ライフサイクルマネジメント

10.図解例

10.1 例1:物質特性及び工程パラメータと原薬CQAとの関連付け-化学薬品

10.2 例2:工程パラメータのライフサイクルマネジメントを支援するための品質リスクマネジメントの使用

10.3 例3:バイオテクノロジー応用原薬の工程単位操作のデザインスペースの例示

10.4 例4:適切な出発物質の選定

10.5 例5:選択された重要品質特性のための管理要素の要約

11.用語

1.はじめに

本ガイドラインは、原薬の製造工程を開発し、理解するための手法について述べるとともに、コモン・テクニカル・ドキュメント(CTD)のモジュール3の章3.2.S.2.2~3.2.S.2.6(ICH M4Q)に提供すべき記載内容に関する指針を示す。不純物を減少させるようにデザインしたステップの有無等も含めて、原薬に関連する開発と製造の側面に焦点を当てる。加えて、製剤開発(Q8)、品質リスクマネジメント(Q9)及び医薬品品質システム(Q10)に係るICHガイドラインに記述されている原則と概念は、原薬の開発と製造に関連していることから、ICH Q11はそれらについてさらに説明を提供する。

本ガイドラインにおいて「従来の(traditional)」及び「より進んだ(enhanced)」という用語は、二つの可能な手法を区別するのに用いられ、企業は、原薬開発においてこれらの異なる手法を選択できる。従来の手法では、工程パラメータの設定値(set points)及び操作範囲を規定し、一般には、工程の再現性を証明することと、設定された判定基準を満たすための試験を行うことを原薬の管理戦略の基礎とする。より進んだ手法では、リスクマネジメントと科学的知識をより広く活用し、重要品質特性(CQA)に影響する工程パラメータと単位操作を特定して理解するとともに、原薬のライフサイクル全般に適用できる適切な管理戦略を開発するが、これはデザインスペースの確立も含むことがある。製剤開発に関するガイドライン(ICH Q8)で論じられたように、原薬とその製造工程のより深い理解は、より弾力性のある規制取り組みのための基礎を築くことができる。その規制の弾力性の程度は、一般的に製造販売承認申請において提示した関連する科学的知識のレベルに基づいている。

従来の手法とより進んだ手法は、相容れないものではない。企業は、原薬の開発に対して、従来の手法あるいはより進んだ手法、又は両者の組合せを利用することができる。

2.適用範囲

本ガイドラインは、ICHガイドラインのQ6A及びQ6Bの適用範囲項目で定義されている原薬に適用されるが、適切な規制当局に相談したうえで、他のタイプの製品に対しても同様に適用可能な場合もある。これは、コモン・テクニカル・ドキュメント(ICH M4Q)のモジュール3の章3.2.S.2.2~3.2.S.2.6の内容の作成及び構成に、特に関連している。本ガイドラインは、医薬品の臨床開発段階の原薬に関わる提出内容には適用されない。しかし、本ガイドラインで提示した開発の原則は、臨床開発段階において考慮することは重要である。

承認後の変更に対する各極要件は本ガイドラインでは取り扱わない。

3.製造工程の開発の経緯

3.1 一般原則

原薬の製造工程開発の目標は、求める品質の原薬を、一貫して製造することができる商業用製造プロセスを確立することである。

3.1.1 製剤に関連する原薬の品質

原薬に求める品質は、製剤の開発に影響する原薬の物理的、化学的、生物学的及び微生物学的な性質又は特性に関する知識及び理解、並びに製剤における原薬の使用を考慮して決定する必要がある(例えば、原薬の溶解性は、剤形の選択に影響することがある)。目標製品品質プロファイル(QTPP)、製剤の見込まれるCQA(ICH Q8で定義)及び類似する製品からの過去の経験は、原薬の見込まれるCQAを特定するのに役立つ。このCQAに関する知識や理解は、開発の過程で深めることができる。

3.1.2 製造工程の開発ツール

品質リスクマネジメント(QRM、ICH Q9に記述)は、製造プロセスの設計の選択肢を評価すること、品質特性及び製造プロセスパラメータを評価すること、そして目標品質のロットを日常的に生産する保証を高めることを含む、様々な取り組みにおいて使用できる。リスクアセスメントは開発過程の初期から実施することができ、そしてさらなる知識と理解が利用できるようになった時に、繰り返し行なうことができる。認知されている手法又は内部手順のように、形式に従った、又は形式にとらわれないリスクマネジメントツールを用いることができる。

知識管理(ICH Q10に記述)は、同様に製造工程の開発を促進することができる。これに関連して、潜在的な情報源は既に得られている知識や開発研究を含めることができる。既に得られている知識には、確立した生物学、化学やエンジニアリングなどの原則、技術的文献及び適用した製造経験を含むことができる。プラットフォーム製造(用語の定義参照)を含む関連する既に得られている知識から由来するデータは、商業用プロセスの開発の支持、及び科学的な理解を促進するために、活用することができる。

3.1.3 開発の手法

ICH Q8は「製品開発戦略は企業や製品によって異なる。開発の手法及び範囲も一様ではなく、承認申請添付資料でそれらを概説する必要がある。」ことを認めている。これらの概念は、原薬の製造工程の開発にも等しくあてはまる。申請者は、原薬の開発について、従来の手法あるいはより進んだ手法、又は両者の組合せを選択することができる。

製造工程の開発は、最低限、以下の要素を含めるべきである:

● 製品(製剤)の品質に影響を及ぼす特性の検討と管理が出来るように、原薬に関連する見込まれる重要品質特性(CQA)を特定する

● 適切な製造工程を定める

● 工程の能力と原薬の品質を確実にするために管理戦略を定める。

製造工程の開発に対してより進んだ手法は、さらに以下の要素を含めることができる:

● 製造工程を評価、理解及び最適化するための体系的な手法には、以下の事項を含める

○ 既に得られている知識、実験及びリスクアセスメントなどを通して、原薬CQAに影響を及ぼすことがある物質特性(例えば原材料、出発物質、試薬、溶媒、プロセス助剤、中間体等)及び工程パラメータを特定する

○ 物質特性及び工程パラメータと、原薬CQAを関連付ける機能的関係を明らかにする

● より進んだ手法を、品質リスクマネジメントと組み合わせて活用することにより、例えばデザインスペースの提案を含む、適切な管理戦略を構築することができる。

より進んだ手法を採用することで得られる知識と理解の深化により、製品ライフサイクルの全期間を通して継続的改善と技術革新を促進できるだろう(ICH Q10参照)。

3.1.4 原薬の重要品質特性(CQA)

重要品質特性(CQA)とは、要求される製品品質を確実にするため、適切な限度内、範囲内、又は分布内にする必要がある物理的、化学的、生物学的、微生物学的な性質又は特性である。原薬の見込まれるCQAは、工程開発の指標として使用される。原薬に関する知識及び工程の理解が深まるにつれて、見込まれるCQAの一覧は見直すことができる。

原薬CQAは通常、確認試験、純度、生物学的活性、安定性に関して、それらに影響を及ぼす性質又は特性を含む。物理的性質が製剤の製造や機能に関して重要な場合、これらはCQAとして指定できる。バイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品の場合は、製剤の殆どのCQAは原薬に関連することから、製剤CQAが原薬の設計あるいはその製造プロセスの結果そのものとなる。

製剤の安全性に潜在的に影響がある事から、不純物は原薬の見込まれるCQAとして重要なものとして位置付けられる。化学原薬では、不純物には、有機不純物(潜在的な変異原性不純物を含む)、無機不純物(例えば金属残留物)及び残留溶媒(Q3A及びQ3C参照)が含まれる。バイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品に対しては、不純物は製造工程由来不純物又は目的物質由来不純物(ICH Q6B参照)とされる。製造工程由来不純物には、細胞基材に由来する不純物(例えば、宿主由来タンパク質、DNA)、細胞培養液に由来する不純物(例えば、培地成分)及び以降の工程に由来する不純物(例えば、カラムからの漏出物)が含まれる。バイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品のCQAの決定には、Q6Bで定義されている「混入汚染物質」、すなわち製造工程には本来存在しないはずの外来性の汚染物質(例えば、外来性ウイルス、バクテリアあるいはマイコプラズマの汚染)についても考慮すべきである。

構造が複雑な原薬に対してCQAを特定することは、大きな労力を要する課題である。例えば、一般的にバイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品の品質特性の多くは、それぞれの安全性及び有効性に及ぼす影響を十分に評価することが可能ではない。リスクアセスメントは、品質特性のランク付け又は優先順位付けのために行うことができる。既に得られている知識は開発の初期に使用することができ、評価はライフサイクルにおける開発データ(非臨床試験及び臨床試験のデータを含む)により繰り返し更新することができる。構造機能相関を評価した研究のように、作用機序や生物学的特性に関する知識は、いくつかの製品特性に対するリスクアセスメントに役立てることができる。

3.1.5 物質特性及び工程パラメータと原薬CQAとの関連付け

製造工程の開発プログラムにより、どの物質特性(例えば、原材料、出発物質、試薬、溶媒、プロセス助剤、中間体等の)及び工程パラメータを管理する必要があるかを特定すべきである。リスクアセスメントは、原薬CQAに影響を及ぼしうる物質特性及び工程パラメータを特定するために役立つ。原薬の品質に対して重要であることが判明した物質特性及び工程パラメータは、管理戦略の中で取り扱う必要がある。

原薬の上流に位置する各種の物質について、管理戦略の要素を定めるために役立つリスクアセスメントには、原薬の品質に関連する製造プロセス能力、特性検出能力、及び影響の重大性の評価を含むことができる。例えば、原材料又は中間体中の不純物と原薬CQAのつながりを評価するときは、その不純物やその誘導体を除去する原薬の製造工程の能力をその評価において考慮する必要がある。不純物に関連するリスクは、原材料/中間体の規格や下流のステップの頑健な精製工程の能力により通常は制御することができる。このリスクアセスメントは、原薬における検出能力に固有の限界がある場合にも同様にCQAを特定することができる(例えば、ウイルス安全性)。この場合、このようなCQAは、工程の上流の適切な時点において管理する必要がある。

化学薬品の開発において、不純物の知識と管理は重要な焦点となる。不純物の生成、挙動(不純物は反応して化学構造を変えるのかどうか)及び除去(不純物は、結晶化、抽出等を通して除去されるのかどうか)を理解し、またそれらと共に最終的に原薬中にもたらされCQAとなる不純物との関係を理解することが重要である。不純物は複数の工程操作を通して推移するので、不純物の適切な管理を確立するために、工程を評価する必要がある。

従来の手法の場合、物質の規格と工程パラメータの範囲は、主にバッチの製造工程履歴と一変量実験に基づく。より進んだ手法は、物質特性及び工程パラメータとCQAとの関係並びに相互作用の影響の、より綿密な理解へ導くことができる。例1は、既に得られている知識と化学の基本原理(first principles)を使用することで、工程パラメータの開発を例示で説明している。

リスクアセスメントは、見込まれるCQAに影響を及ぼしそうな製造工程の箇所を特定するために、開発中に使用することができる。さらなるリスクアセスメントは、工程と品質のつながりを、より深く理解する必要がある部分に開発作業を集中させるために使用することができる。より進んだ手法を採用することで、適切な物質の規格と工程パラメータ範囲の決定は、おそらく以下に示すような順序に従うことができるだろう:

● 工程の変動の潜在的な原因を特定する

● 原薬の品質に最も大きな影響を及ぼしそうな物質特性及び工程パラメータを特定する。これは、既に得られている知識とリスクアセスメント手法に基づくことができる

● 原薬CQAに対する物質特性及び工程パラメータのつながりを特定し、関連性を確認するために、研究(例えば、反応機構や反応速度論的な評価、多変量実験計画、シミュレーション、モデル化等)を計画し実施する

● 必要に応じてデザインスペースの設定を含め、適切な範囲を確立するためにデータを分析し、評価する。

小規模モデルは工程開発検討を裏付けるために開発され使用することができる。モデルの開発はスケール効果を考慮すべきであり、かつ提案された商業用製造工程を反映している必要がある。科学的に妥当性のあるモデルでは、製品品質を予測することが可能であり、各種のスケール及び設備を通して操作条件を外挿することを裏付けるために用いることができる。

3.1.6 デザインスペース

デザインスペースは、品質を保証することが立証されてきた入力変数(例えば、物質特性)と工程パラメータとの多次元的な組み合わせと相互作用である。このデザインスペース内で運用することは、変更とはみなされない。デザインスペース外への移動は変更とみなされ、通常は承認事項一部変更のための規制手続きを開始することになる。デザインスペースは申請者が提案し、規制当局がその評価を行って承認する(ICH Q8)。

製剤開発へのより進んだ手法についてICH Q8に記載されているデザインスペースの考え方は、原薬の開発に適用できる。原薬CQAに対する物質特性と工程パラメータの変動の重大性と効果、また、デザインスペースの範囲を正確に評価する能力は、製造工程と製品に対する理解の深さに依存する。

デザインスペースは、工程の既に得られている知識、基本原理や工程の経験的な理解との組み合わせに基づき開発することができる。モデル(例えば、定性的、定量的)は、複数のスケール及び設備に跨るデザインスペースを裏付けるために用いることができる。

単位操作(例えば、反応、結晶化、蒸留、精製)又は選択した単位操作の組み合わせごとに、1つのデザインスペースを決定することがある。このようなデザインスペースに含まれる単位操作は、通常、それがCQAに及ぼす影響に基づいて選定すべきであり、必ずしも逐次的である必要はない。例えば、不純物の累積的な発生と除去を管理できるように、工程間のつながりを評価すべきである。複数の単位操作に及ぶ1つのデザインスペースがあれば、より柔軟な操作の運用が可能になる。

バイオテクノロジー応用原薬/生物起源由来原薬に対するデザインスペースの開発と承認は、工程の変動性や原薬の複雑さ(例えば、翻訳後修飾)などの要因により、大きな労力を要することがある。これらの要因は、デザインスペースの承認後に残る残存リスク(例えば、スケール感受性に関連した不確実性に基づくCQAへの予期しない変化の可能性)に影響を与えることがある。残存リスクのレベルに応じて、申請者は、承認後のデザインスペース内での変動を管理する方法について提案することが適切といえる。これらの提案には、承認されたデザインスペース内での移動に従い、製品品質を評価するために工程知識、管理戦略及び特性解析方法をどのように展開することができるかを示すべきである。

3.2 製造工程の開発情報の提出

原薬の製造工程の開発に関して提示する情報(主に承認申請添付資料の章3.2.S.2.6)では、工程開発の過程における重要な変更を特定し、該当する各原薬バッチと開発段階における各製造工程を関連付けるべきである。そして、既に得られている知識、リスクアセスメント及び他の研究(例えば、実験、モデル化、シミュレーション)を、製造工程と管理戦略の重要な要素を確立するためどのように使用したのか説明すべきである。製造工程の開発情報は、論理的に構成され、理解しやすいものである必要がある。製造業者は、製造工程の開発情報を様々な方法で提示することができるが、参考として特定の推奨事項を以下に示す。

3.2.1 製造工程開発の総合的な要約

製造工程の開発の経緯の章は、初めに、製造工程の開発における重要な事象を記述し、原薬に求める品質が達成されることを保証することと、これらがどのように関連付けられているかを説明する、叙述的要約を経時的に記述することを推奨する。その要約には以下の内容を含める必要がある:

● 原薬CQAの一覧

● 製造工程の進展と、それに関連する管理戦略の変更について、段階を追った簡潔な記述

● 原薬CQAに影響を及ぼすことが特定された、物質特性及び工程パラメータの簡潔な記述

● デザインスペース開発の簡潔な説明。

製造工程の開発に関する総合的な要約に続き、製造工程の開発に関する項目は以下に推奨したような、さらに詳細な情報を含めなければならない。

3.2.2 原薬CQA

原薬CQAを一覧とし、これらの性質又は特性をCQAとする妥当性を示す必要がある。場合によっては、見込まれたCQAと考えられるその他の性質又は特性が、CQAの一覧に含まれない理由を説明することが適切である。CQAとして指定される性質又は特性を支持する情報が他の章(例えば、3.2.S.3.1、構造その他の特性の解明)で提示された場合には、引用先を示す必要がある。製剤CQAに関連する場合、原薬CQAの幾つかの考察を示す場所としては、承認申請添付資料の製剤開発の章(例えば、3.2.P.2.1、製剤成分)が適切である。

3.2.3 製造工程の変遷

製造販売承認申請の内容を支持するために使用された原薬バッチ(例えば、製造販売承認を裏付ける非臨床試験、臨床試験又は安定性試験において使用したバッチ)について行われた重大な製造工程又は製造場所の変更に関する説明及び考察を示す必要がある。もし可能であれば、実生産規模で製造したバッチも含める。これらの説明は、通常、提案する商業プロセスに向けて時系列的に示すべきである。バッチ情報(バッチサイズあるいはスケール、製造場所と製造日、使用した製造経路及びプロセス、そして意図した用途(例えば、特定の毒性あるいは臨床試験))及び関連する原薬バッチの比較分析試験による裏付けデータは提示又は参照(例えば、3.2.S.4.4ロット分析の章)する必要がある。

バイオテクノロジー応用原薬/生物起源由来原薬に関しては、各々の重要な変更の理由を説明する必要がある。その際には、原薬(や適切であれば中間体)の品質に影響する可能性を評価し、製造工程の開発の経緯の章に、ICH Q5Eに記述されている同等性/同質性評価に関する考察を含めるべきである。試験方法の選択及び結果の評価の妥当性を含むデータに関する議論を含める必要がある。製造工程を変更した原薬及び対応する製剤への影響を評価するために実施した試験には、非臨床試験及び臨床試験も含めることができる。その場合には、承認申請添付資料にある他のモジュールの試験を引用すること。

3.2.4 製造工程の開発研究

承認申請において商業用製造工程の開発とその管理戦略の重要な要素を確立するために使用された研究及びリスクアセスメントは、一覧として提示する必要がある(例えば、表形式)。各々の提示した研究又はリスクアセスメントの目的や最終結果は示す必要がある。

提示した研究あるいはリスクアセスメントは、十分に詳細なレベルで要約する必要がある。それらは、研究の目的、収集したデータ、その分析方法、到達した結論、製造工程に関する研究の影響あるいは、さらなる製造工程の開発の理解を伝達するために十分なものでなければならない。検討した特定のパラメータと範囲は、商業用製造工程の申請操作条件やデザインスペースに関連付けて記述し、考察すべきである(章3.2.S.2.2に記載した)。デザインスペースの設定の根拠となったリスクアセスメント手法と研究結果を適切に記述する必要がある。例2は、デザインスペースの開発中に評価されるパラメータのリスク順位付けを提示するための、可能な手法の一つとして示す。原薬のプロセス開発が特定の既に得られている知識に関連している場合には、関係する情報とデータを提示し、そして適宜、当該原薬との関連性について妥当性を示す必要がある。

商業用製造工程の開発を支持するために使用された小規模モデルは、記述する必要がある。

4.製造方法及びプロセス・コントロールの記述

申請者は、原薬の製造に対して、責任を持つものであり、原薬の製造方法に関して説明する必要がある。製造方法及びプロセス・コントロールを適切に説明する必要がある(ICH M4Q(3.2.S.2.2)参照)。

製造方法の説明には、流れ図と一連の製造方法の記述を示す必要がある。製造方法の各工程(step及びstage)に対する工程内管理は、その記述の中に示す必要がある。その工程が製造スケールに依存する場合、複数の操作スケールに適用することを意図した時には、スケールに関する要素を含む必要がある。製造工程中のあらゆるデザインスペースは、製造方法の説明の一部に含める必要がある。バイオテクノロジー応用医薬品のためのデザインスペースの提示の仕方の一つを例3に示す。

多くのバイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品は多様な上流工程の取扱い方を有し、一つの原薬ロットを製造するためにバッチの分割(splitting)及びプールを行う。製造業者が原薬のバッチをどのように定義(例えば、ハーベスト又は中間体の分割及びプール)するのかを説明する必要がある。バッチサイズ又はスケールの詳細とともに、バッチ番号のナンバリングについて詳細に記載しなければならない。

5.出発物質及び生物起源原材料の選定

5.1 一般原則

5.1.1 合成原薬の出発物質の選定

以下に示す一般原則は、原薬の製造工程の開始時点(すなわち、出発物質の選定)を決定する際に考慮する必要がある。

● 一般的に、製造工程の開始付近で生ずる物質特性や操作条件の変更は、原薬の品質に影響を及ぼす可能性が低い

○ リスクと製造工程の終わりからのステップ数との関係は、二つの要因に基づき考察される。一つは原薬の物理的性質に関連し、そしてもう一つは不純物の生成、挙動及び除去に関連する。原薬の物理的性質は、製造工程の最終段階で実施する最終結晶工程及びそれ以降の操作(例えば、粉砕、微粉砕)において決定される。通常、製造工程の上流で混入したり、副生する不純物は、製造工程の下流で生成する不純物よりも精製操作(例えば、洗浄、単離する中間体の晶析)により除去される機会が多く、それ故に原薬に残留する可能性は低い。しかし、幾つかのケースでは(例えば、固相法により合成されるペプチド又はオリゴヌクレオチド等)、最終製造工程からの工程数とリスクの関係は、より限定的なものとなる

● 規制当局は、不純物が適切に管理されているかどうかを含めて、原薬及びその製造工程の管理が適切かどうかを評価する。この評価を行うために、原薬の製造工程に関して、不純物が工程中でどのように生成し、各製造工程を変更した場合に不純物の生成、挙動及び除去に対してどのような影響を及ぼすのか、また提案された管理戦略がなぜ原薬の製造工程に適切であるのかを、規制当局が理解できるように、原薬の製造工程を承認申請添付資料に十分に記述する必要がある。通常、これは複数の化学変換工程の説明を含む

● 通常、原薬の不純物プロファイルに影響を及ぼす製造工程は、承認申請添付資料の章3.2.S.2.2で記述される製造工程に含める必要がある

● 枝分かれした合成ルートを収斂して原薬を合成する場合には、各分岐したルートにおける製造は1つあるいは複数の出発物質から開始される。ICH Q7で記述されたGMP条項は、各分岐ルートにおいて出発物質が最初に用いられた時点から適用される。原薬の品質は、適切な管理戦略と共にGMP下で製造工程を実施することにより保証される。

● 出発物質は、化学的特性及び構造が明確にされている物質である必要がある。通常、単離出来ない中間体は適切な出発物質とはみなされない

● 出発物質は、原薬の構造中の重要な構成部分となる。ここでの「重要な構成部分」とは、出発物質を試薬、溶媒又は他の原材料と区別することを意図したものである。塩類、エステル類又は他の単純な誘導体を形成するために使用する汎用化学品は試薬とみなすべきである。

出発物質を選定する際には、各々の一般原則を個別に厳密に適用することよりも、むしろ、上記の一般原則のすべてを考慮する必要がある(章10.4、例4参照)。

5.1.2 半合成原薬の出発物質の選定

本ガイドラインの解釈上、半合成原薬とは化学合成と生物起源(例えば、発酵由来あるいは植物材料から抽出されたもの)の組み合わせにより、構造の構成要素が導入された原薬である。場合によっては、申請者は製造工程の記述を生物起源原材料(微生物又は植物材料)から開始することが適切であるかもしれない。しかし、合成プロセス中で単離した中間体の一つが、合成原薬の出発物質の選定において示された原則に適合することを示すことができれば、その単離した中間体を出発物質として提案することができる。申請者は、提案する出発物質について、その不純物プロファイルを含めて分析的に特徴付けることが可能かどうか、及び、発酵又は植物材料及び抽出工程が、原薬の不純物プロファイルに影響を与えるかどうかを特に評価すべきである。微生物及びその他の汚染物質からのリスクも同様に対応する必要がある。

5.1.3 バイオテクノロジー応用原薬/生物起源由来原薬の生物起源原材料及び出発物質の選定

セルバンクは、バイオテクノロジー応用原薬及びある種の生物起源由来原薬の製造の出発点(starting point)である。ある極では、これらは生物起源原材料(source materials)と称され、他の極では、出発物質(starting materials)と称される。当該ガイダンスはICH Q5A、Q5B及びQ5Dに示されている。

5.2 出発物質又は生物起源原材料に関する情報の提出

申請者は提案するすべての出発物質又は生物起源原材料を特定し、適切な規格を設定しなければならない。合成原薬及び半合成原薬に対して提案された出発物質は、妥当性を示す必要がある。

5.2.1 合成原薬の出発物質の選定の妥当性

申請者は、上記の章5.1.1で概説される出発物質の選定の一般原則に照らし、提案する各々の出発物質がどのように適切かを説明し、選択の妥当性を示さなければならない。これには、以下の情報を含む事ができる:

● 出発物質中の不純物を検出する分析方法の能力

● 以降の製造工程における出発物質中の不純物及びその誘導体の挙動と除去

● 各々の出発物質について提案する規格がどのように管理戦略に寄与するのか。

申請者は、提案する出発物質を明確に示した現行の原薬の合成経路を概要する流れ図を妥当性の一部として、提示すべきである。出発物質の規格及び出発物質以降の最終原薬までの合成経路の変更は、各極の承認後の変更の要求事項に従う。さらに、出発物質の供給業者に関係する各極の規制当局の要件が同様に適用される。

出発物質として市販の化学製品を使用する場合は、一般的にはその申請者は妥当性を示す必要はない。市販の化学製品とは、通常、提案する出発物質としての使用に加えて、既存の医薬品業界以外の市場を有し、汎用商品として販売されているものである。委託合成された化学製品は、市販品とはみなされない。もし、委託合成された化学製品を出発物質として提案するのであれば、上記の章5.1.1に概説される出発物質の選定の一般原則に従って妥当性を示さなければならない。

場合によっては、市販の出発物質の一貫した品質を確保するために、原薬製造業者は市販の出発物質に精製工程を追加する必要があるかもしれない。このような場合には、追加した精製工程は、原薬の製造工程の記述の一部に含める必要がある。通常、規格は受け入れた出発物質及び精製した出発物質の両方を提示する必要がある。

5.2.2 半合成原薬の出発物質の選定の妥当性

半合成原薬において単離した中間体を出発物質として提案する場合、申請者は、提案する出発物質が上記の章5.1.1に概説した出発物質の選定の一般原則にどのように従うかを説明し、妥当性を示すべきである。妥当性を示すことができない場合には、申請者は適切に製造工程の記述を微生物又は植物材料から記載し、これらの原材料の適格性を評価すべきである。

5.2.3 バイオテクノロジー応用原薬/生物起源由来原薬の生物起源原材料又は出発物質の適格性評価

当該ガイダンスはICH Q5A、Q5B及びQ5Dに示されている。

6.管理戦略

6.1 一般原則

管理戦略は、最新の製品及び製造工程の理解から導かれる、製造プロセスの稼働性能及び製品品質を保証する計画された管理の一式である(ICH Q10)。従来の手法あるいはより進んだ手法(又はそれらの組合せ)を用いて開発されるかどうかに関係なく、あらゆる原薬の製造工程には関連する管理戦略がある。

管理戦略には以下の事項を含むが、これらに限定されるものではない:

● 物質特性(原材料、出発物質、中間体、試薬、原薬の一次包装材料、その他)の管理

● 製造工程の設計に事実上含まれている管理(例えば、精製工程の順序(バイオテクノロジー応用原薬/生物起源由来原薬)又は試薬投入の順序(化学薬品))

● 工程内管理(工程内試験及び工程パラメータを含む)

● 原薬の管理(例えば、出荷試験)。

6.1.1 管理戦略開発の取り組み

管理戦略は、従来の手法とより進んだ手法を組合せた方法により開発することもできる。例えば、特定のCQA、工程又は単位操作に対しては従来の手法で、それ以外の箇所ではより進んだ手法を組合せた方法によって開発することもできる。

製造工程と管理戦略を開発する際に、従来の手法では、通常、製造の一貫性を確実にするために、設定された値と操作範囲は得られたデータに基づき狭く定められる。原薬の段階(即ち、最終製品試験)におけるCQAの評価に、より重点が置かれる。従来の手法では、変動(例えば、原材料における)に対処する操作範囲に関する弾力性は、限定的なものとなる。

より進んだ手法による製造工程の開発では、従来の手法より更に深い工程と製品の理解を生みだすので、変動の原因をより系統立てて特定できる。これは、さらに有意義で効果的なパラメータ管理、特性管理及び操作管理の開発を可能にする。この管理戦略は、製品ライフサイクルにおいてプロセスの理解が深まるにしたがい、何度か繰り返すことにより開発される場合がある。より進んだ手法に基づく管理戦略は、変動(例えば、原材料における)に対処する工程パラメータの操作範囲において、弾力性を与えることができる。

6.1.2 管理戦略を開発する際の考慮点

原薬の品質を確保するために、管理戦略を用いることで、個々の原薬CQAが適切な範囲や限度、分布内に入る事を保証すべきである。原薬の規格及び試験方法は、管理戦略全体の要素の一つであり、必ずしもすべてのCQAを原薬の規格に含める必要はない。CQAは、(1)規格及び試験方法に含まれ、最終原薬を試験し確認する、又は(2)規格及び試験方法に含まれるが、上流の管理(例えば、リアルタイムリリース試験(RTRT)として)を通して確認する、あるいは(3)規格及び試験方法には含まれないが、上流の管理を通して保証することができる。上流の管理の例としては:

● 工程内試験

● 原薬CQAを予測できる、工程パラメータや工程内の物質特性を測定し適用する。ある場合には、プロセス解析工学(PAT)が工程の管理と得られる品質の維持の強化の為に利用できる。

従来の開発手法を用いるか、より進んだ開発手法を用いるかに関わらず、上流管理の適用は、CQAの変動原因の評価及び理解に基づかなければならない。原薬の品質に影響を及ぼす可能性のある下流工程の要因、例えば、温度変化、酸化条件、光、イオン含量及び剪断を、考慮する必要がある。

管理戦略を開発するとき、CQAに関連するリスク及び潜在的な問題点を検出する個々の管理能力に従い、製造業者は特定のCQAの管理を工程中の単一又は複数の箇所で実施することを考慮することができる。例えば、滅菌合成原薬又はバイオテクノロジー応用原薬/生物起源由来原薬では、低レベルの細菌汚染又はウイルス汚染を検出する能力には固有の限界がある。このような場合、原薬について試験をすることのみでは品質の適切な保証が得られないと考えられることから、追加の管理ポイント(例えば、特性管理及び工程内管理)が管理戦略に組み込まれる。

製造工程で使用する各々の原材料の品質は、その意図した使用に適していなければならない。製造工程の上流で使用する原材料よりも、最終段階近傍で使用する原材料は、原薬に不純物をもたらす可能性が大きい。そのため、そのような原材料はその品質を、上流で使用する類似した原材料よりも、より厳密に管理する必要があるかどうかを製造業者は評価すべきである。

6.2 管理戦略の情報の提出

管理戦略に示す情報には、管理戦略の個々の要素の詳細な説明を含め、適切ならば、さらに原薬の全体的な管理戦略の要約を含めるべきである。全体的な管理戦略の要約は、視覚的に理解できるよう、図表形式で示すことができる(章10.5、例5参照、表形式による管理戦略の要約の例)。理想的には、要約には、原薬の品質を保証するために、管理戦略の個々の要素がどのように相互に関連して機能しているかを説明するべきである。

ICH M4Qでは、承認申請添付資料に記載する管理戦略の個々の要素を適切な章に示すことを推奨している。これには以下を含める。

● 製造方法及びプロセス・コントロール(3.2.S.2.2)

● 原材料の管理(3.2.S.2.3)

● 重要工程及び重要中間体の管理(3.2.S.2.4)

● 原薬の管理(3.2.S.4)

● 容器及び施栓系(3.2.S.6)。

7 プロセス・バリデーション/プロセス評価

7.1 一般原則

プロセス・バリデーションとは、設定パラメータ内で稼働する工程が、設定規格及び品質特性に適合した中間体・原薬を製造するために効果的かつ再現性よく機能できることに関する文書による確証である(ICH Q7)。

プロセス・バリデーションには、製造工程の設計段階から実生産を通して、製造工程が適切な品質の原薬を一貫して供給できることを、科学的に証拠付けるデータの収集と評価を含めることができる。

原薬の製造工程のバリデーションは、それを使用した製剤が商品として流通するまでに完了しなければならない。バイオテクノロジー応用医薬品の製造工程、又は原薬の無菌工程及び滅菌工程の場合は、プロセス・バリデーションを支持するデータが承認申請添付資料の一部に含まれる(3.2.S.2.5)。通常は、非無菌の化学薬品の原薬の工程については、プロセス・バリデーションの結果は承認申請添付資料に含まない。

一般的にプロセス・バリデーションは、適切な数の生産バッチに関するデータの収集を必要とする(ICH Q7、章12.5参照)。バッチ数は以下のいくつかの要因に依存するが、これらに限らない:(1)バリデーションを行う製造工程の複雑さ、(2)製造工程の変動のレベル、(3)特定の工程に関して得られている実験データの量や工程の知識。

従来のプロセス・バリデーションに代わる方法として、初回商業用生産時、及びその後の製品ライフサイクルを通した継続的改善を目的とする製造プロセスの変更のためのプロセス・バリデーションの実施内容の一部として、継続的工程確認(ICH Q8)を利用することができる。

7.2 バイオテクノロジー応用原薬/生物起源由来原薬に特有の原則

バイオテクノロジー応用原薬/生物起源由来原薬では、承認申請添付資料中に提示するプロセス・バリデーションを支持する情報として、通常、商業規模のプロセス・バリデーション及び小規模試験の検討結果が含まれる。プロセス・バリデーションのバッチは、製造方法の記載の項で詳述したバッチの定義を考慮し、商業用プロセスを反映したものとする必要がある。

バリデーションパッケージ全体に対する小規模試験のデータの寄与の程度は、小規模モデルが申請した商業規模を十分に反映していることを、実証しているかどうかに依存する。そのモデルはスケールの変更が可能であり、かつ商業規模を反映しているという事をデータにより立証する必要がある。小規模モデルの適切性に問題のないことが十分に実証できれば、製造業者は、商業規模のバッチ試験への依存度が減少したプロセス・バリデーションを提出することができる。但し、商業規模のバッチから得られたデータにより、プロセス・バリデーションを支持するために実施された小規模試験の結果を裏付けるべきである。科学的根拠がある場合や、あるいはこのような試験を必要としないか又は特別に除外するガイドラインを参照できる場合、ある種の試験を小規模のみで実施することを正当化することができる(例えば、ウイルス除去)。

目的物質由来不純物、製造工程由来不純物(ICH Q6B)及び可能性のある混入汚染物質(ヒト又は動物に由来する物質を使用するプロセスにおけるウイルス等、ICH Q5A参照)を除去する工程能力を示す研究を行わなければならない。クロマトグラフィー用カラムの寿命を示すために行われる研究は、小規模のモデルで行われる実験的研究を含むことができるが、商業規模の製造中に確認する必要がある。

商業用生産におけるin vitro細胞齢の上限を決定しておく必要がある。この詳細なガイダンスは、ICH Q5B及びQ5Dに示されている。

プラットフォーム製造の経験を利用するとき、承認申請時には管理戦略の適合性を示し、原薬の製造工程は適切にバリデートする必要がある。通常、フルスケールバリデーションには、商業化製品を生産するための最終的な製造工程及び製造場所に関するデータを含めるべきである。

8.コモン・テクニカル・ドキュメント(CTD)様式での製造工程開発情報及び関連情報の提出

より進んだ手法を製造工程の開発に使用することにより、記載場所がCTDに特定されていない情報が生じる。製造工程の開発情報は、通常CTDの章3.2.S.2.6に示す必要がある。開発研究から生じる他の情報は、種々の方法によりCTD様式に記載することができる。また、いくつかの具体的な提案を以下に示す。申請者は、各種の情報の記載場所を明確に示すべきである。本ガイドラインにおいて参照される特定のトピック(例えば、ライフサイクルマネジメント、継続的改善)は、承認申請添付資料に記載する事項に加え、申請者の医薬品品質システム(PQS)に基づき取り扱う(ICH Q10参照)。

8.1 品質リスクマネジメント及びプロセス開発

品質リスクマネジメントは、プロセス開発及び実生産における様々な段階で使用することができる。開発上の判断の指針として、また、その判断の妥当性の説明に用いられた評価(例えば、物質特性及び工程パラメータを原薬CQAに関連付けるリスク評価及び機能的な関係)は、章3.2.S.2.6に要約することができる。

8.2 重要品質特性(CQA)

原薬CQAを一覧とし、これらの性質又は特性をCQAとした理由付けを承認申請添付資料の製造工程の開発の経緯の章(3.2.S.2.6)に示さなければならない。しかし、構造に関する性質又は特性をCQAに選定した場合には、それを支持する構造の研究に関する詳細な情報は、CTD様式の適切な章(例えば、3.2.S.3.1構造その他の特性の解明、3.2.S.7安定性)に示す必要がある。製剤CQAに関連する原薬CQAの考察は、製剤開発の経緯(3.2.P.2.1製剤成分)の章に記載することが適切である。

8.3 デザインスペース

提案する製造工程の一つの要素として、承認申請添付資料中の製造方法及びプロセス・コントロールに係る章(3.2.S.2.2)にデザインスペースを記載することができる。適切であれば、承認申請添付資料中の重要工程及び重要中間体の管理に係る章(3.2.S.2.4)に、追加情報を提供してもよい。製造工程の開発の経緯(3.2.S.2.6)の章に、デザインスペース設定の根拠となる製造工程の開発研究を要約し、記載することが適切である。全体的な管理戦略とデザインスペースの関係は、原薬の規格及び試験方法の妥当性(3.2.S.4.5)の章で考察することができる。

8.4 管理戦略

原薬の規格及び試験方法は管理戦略全体の一部分に過ぎないが、承認申請添付資料の原薬の規格及び試験方法の妥当性(3.2.S.4.5)の章は、原薬の全体的な管理戦略を要約する適切な場所である。但し、原材料の管理、製造工程の管理及び原薬の管理はCTD様式の適切な章に示す必要がある(例えば、製造方法及びプロセス・コントロール(3.2.S.2.2)、原材料の管理(3.2.S.2.3)、重要工程及び重要中間体の管理(3.2.S.2.4)、規格及び試験方法(3.2.S.4.1))。製造工程の開発に伴う関連の管理戦略の変更については、3.2.S.2.6の章に簡潔に記述する。

9.ライフサイクルマネジメント

ICH Q10で記述された品質システムの要素及び経営陣の責任は、各ライフサイクルの段階における科学及びリスクに基づく取り組みの使用を推奨するものであり、それにより製品ライフサイクルの全期間にわたり継続的改善を促進する。製品及び製造プロセスの知識は、開発から製品の終結までを含む製品の商業的寿命の期間を通して管理されなければならない。

原薬の製造工程の開発と改善は、通常、そのライフサイクルにわたって継続する。製造工程の性能については、管理戦略の有効性も含めて、定期的に評価しなければならない。商業生産から得た知識は、製造工程の理解及び稼働性能をより改善し、原薬の品質を確実にするための管理戦略を調整するために用いることができる。さらに、他の製品又は新しい革新技術から得た知識は、同様にこれらの目的に寄与できる。継続的改善とプロセス・バリデーション、又は継続的工程確認は、適切で効果的な管理戦略のもとで実行される。

ライフサイクルを通して、原薬とその製造工程に関連した知識を管理する体系的な取り組みが必要である。この知識管理には、原薬のプロセス開発、自社内製造所及び受託製造業者に対する技術移転、原薬のライフサイクルにわたるプロセス・バリデーション及び変更マネジメントに関する活動を含めるべきであるが、これらだけに限らない。原薬の製造に携わるすべての施設で、製造工程を実行し、管理戦略を遂行するために必要な知識と工程理解を共有すべきである。

申請者は、製品ライフサイクルの間に、管理戦略の変更も含め将来予想される特定の変更がどのように運営されるのかの提案を初回申請の中に含めることができる。バイオテクノロジー応用医薬品の工程パラメータのライフサイクルマネジメントの例を、例2に示す。

提案された全ての製造工程の変更は、原薬及び必要に応じて製剤の品質に及ぼす影響について評価しなければならない。この評価は製造工程の科学的な理解に基づく必要があり、提案された変更の影響を分析するために、適切な試験を設定しなければならない。化学薬品では、申請された変更の影響を分析するための適切な試験に、現在の不純物と潜在的な新規不純物の評価、並びに全ての新規不純物を検出するための試験方法の能力評価(これに限定されるものではない)を含めることができる。この試験は、申請された変更の後に、工程の適切な時点(例えば、中間体又は原薬について)において実施する必要がある。バイオテクノロジー応用原薬/生物起源由来原薬のプロセス変更については、ICH Q5Eも参照すること。

すべての変更は、品質システムの一部として社内の変更管理プロセスに従う必要がある(ICH Q7及びICH Q10)。これには、各極の規制当局の承認を必要としない、デザインスペース内の変更を含む。

申請し、承認された情報の変更は、各極の規制及びガイドラインに従って規制当局に報告する必要がある。

10.図解例

これらは説明用に例示したものであり、可能性のある使用用途を提案したものにすぎない。この付録は、現行の規制要件を超えた、いかなる新たな要件を設定することを意図したものではない。

10.1 例1:物質特性及び工程パラメータと原薬CQAとの関連付け-化学薬品

これは、既に得られている知識と化学の基本原理を使用してデザインスペースを開発した例を示す。これは次に示す反応スキーム(例4でも使用)のステップ5において、加水分解不純物の生成をコントロールしているパラメータの範囲を決定するために、従来の手法及びより進んだ手法の双方の例を示す。

ステップ5において中間体Fの生成後、混合物は加熱還流される。還流下、中間体Fの加水分解により不純物が生成する。

例を単純化するため、本反応は中間体Fの還流の間に生じる唯一の反応とする。下記の仮定をこのプロセスの設計において使用した:

● 中間体Fの濃度は、ほぼ一定である

● 温度は一定である

● 中間体F中の加水分解不純物に対する判定基準は0.30%である(これは原薬CQA及びそれ以降のステップにおける不純物の実証された除去能力に基づく)

● 還流混合物中の初期水分量は中間体E中の水分量に依存し、中間体Eの水分量は乾燥操作により管理可能である。

還流時間と水分濃度は、中間体Fの加水分解に影響する最も重要なパラメータと特定した。その他の潜在的因子は、既に得られている知識とリスクアセスメントにより重要でないと決定した。

この反応は、下記の二次反応速度式で進行するものとした:

ここで、[F]は中間体Fの濃度。

簡単な実験により、加水分解の程度を時間と中間体Eの水分含量に関連付けて、以下に示すグラフを作成することができる:

従来の手法:

従来の手法では、この情報は中間体Fの加水分解不純物に対する判定基準0.30%を達成する水分量(%)と時間の立証された許容範囲の設定に使用する。通常、これは以下の様に目標値と最大値の設定をすることで行う。

● 中間体Eは最大水分含量1.0%まで乾燥

● 目標還流時間は1時間且つ最大還流時間は3時間

より進んだ手法:

二次反応速度式を積分し、完全に解くことができる(Chemical Reaction Engineering, Levenspiel 2nd Edition, 1972)。

[F]0 中間体Fの初期濃度

[H2O]0 中間体Eの水分の初期濃度

M=[H2O]0/[F]0 中間体Fの初期濃度に対する中間体Eの水分の初期濃度の比

XF=[X]/[F]0 中間体Fの時間依存的な加水分解物濃度を中間体Fの初期濃度で除した値

時間(t)に対してこの式を解くことで、初期水分量と加水分解不純物の目標レベルのあらゆる組合せに対して許容しうる最大還流時間を算出する。(還流混合物中のこの中間体Fの初期濃度はバッチ間において本来本質的には一定となる)。以下のグラフは、加水分解濃度が中間体F中に0.30%以下になることを保証するために必要な条件の組み合わせを示す。

上図において、当該曲線以下の領域はデザインスペースとして提案できる。

要約:

従来の手法とより進んだ手法は、加水分解不純物の生成を管理するための水分含量と時間の幅を提供するが、より進んだ手法はより一層の製造の弾力性を可能にする。

10.2 例2:工程パラメータのライフサイクルマネジメントを支援するための品質リスクマネジメントの使用

これは、工程パラメータのクラス分けと将来の変更管理の提案に関する妥当性を示すために、繰り返し実施された品質リスクアセスメントの結果がどのように使用できるかを例示したものである。Q-陰イオン交換カラムに対するデザインスペースを確立するための関連するパラメータは、以下のリスクランキングヒストグラムで示される。パラメータの順位付けを示したヒストグラムは例証を意図したものであり、全てを含むものでなく、またイオン交換クロマトグラフィーを使用する全ての製品に適用出来ることを意味するものでもない。

初回承認申請

既に得られている知識及び開発研究を用いた品質リスクアセスメントは、万一パラメータの範囲を変更する場合に、変更が製品品質に影響を及ぼす相関的な可能性に基づき、工程パラメータのランク付けに使用することができる。申請時の知識と理解に基づき、パラメータの範囲を将来変更した際の品質への潜在的な影響が、このヒストグラムに示されている。CQAに影響を及ぼすような高いリスクのパラメータ(パラメータA~F)の各々のデザインスペースの境界を確立するため、プロセス開発研究及び相互作用に関する研究を実施した。パラメータG、H及びIは、この開発研究において同様に取り組まれ、この検討条件下ではCQAに影響を及ぼさないことが示された。しかしながら、これらのパラメータ(G、H、I)の範囲の変更は、残存リスクを伴っているかもしれない(潜在的なスケールに対する影響の受けやすさを含めた、既に得られている知識/不確実性に基づく)。パラメータJ~Tは、文書化された既に得られている知識により、低いリスクのパラメータと考えられ、そのために品質特性への影響は想定していない。品質リスクアセスメントからのパラメータのランク付けは、製品ライフサイクルを通じた継続的な改善を保証するためのライフサイクルマネジメントの取り組みを、規制当局と理解し合うために有用である。

ライフサイクルマネジメントにおける選択肢

プロセス理解が深まるにつれて、ライフサイクルを通じてリスクを再評価する必要がある。ライフサイクルマネジメントの変更に関する推奨事項については、ICH Q10で記述されている医薬品品質システム(PQS)を参照すること。

デザインスペース内で運用することは、変更とはみなされない。デザインスペースの外への移動は変更とみなされ、その結果、より高いリスクのパラメータ(すなわちパラメータA~F)の範囲をデザインスペース外へと拡大する場合、通常、当局の承認後変更プロセスが開始される。

申請者は、初回申請資料に、パラメータG、H及びIに対して特定の将来変更を製品ライフサイクル期間でどのように管理するのかの提案を含めることができる。低リスクパラメータ(J~T)に対する範囲の拡大は主にPQSにより取り扱い、各極の規制要件とガイダンスに応じて、届出がおそらく必要ではあるが、当局の事前承認は必要ではない。もし申請後に、パラメータの範囲の拡大が高リスクに相当するようなリスクランク付けにおける変更であると判断する場合には、この変更は各極の規制のプロセスを通じて適切に申請する必要がある。

イオンクロマトグラフィーの工程パラメータのリスクランキング

10.3 例3:バイオテクノロジー応用原薬の工程単位操作のデザインスペースの例示

この例は、原薬精製の単位操作(精製を目的としたフロースルーモードでのモノクローナル抗体のためのQ-陰イオン交換カラム操作)のデザインスペースに基づいている。デザインスペースは、複数のCQAの条件に適合した生産が可能な操作範囲の共有領域として設定されたものである。この図は、三つのCQAに適合する操作範囲と開発における既に得られている知識(プラットフォーム製造)の使用に基づき、設定されるデザインスペースを示している。ここでの範囲は、許容操作範囲を示すものである。これらの範囲を越えた操作は、許容できない品質の原薬を製造するということを必ずしも意味するものではなく、単に、これらの操作条件はこれまでに検討されたことがなく、したがってその条件下での原薬の品質は明らかではないと言うことである。

ウイルスクリアランスと宿主細胞由来タンパク質(HCP)の操作範囲は、多変量実験(ICH Q8参照)から求められる。DNA除去に関する許容操作範囲は、関連製品で実施された多変量解析の結果に基づく既に得られている知識(プラットフォーム製造)から得られたものである。HCPに関する許容操作範囲は、ウイルスクリアランスとDNA除去の許容操作範囲の内側に収まっている。この事例において、図は、ウイルスクリアランスやDNA除去の結果を踏まえて、HCPが単位操作デザインスペースをどのように制限するかを示している。さらなる入力変数、工程パラメータ又はCQAを考慮すると、更にデザインスペースが限定される可能性もある。

デザインスペースは、以下を含む特定の状況下においてのみ適用できる。

1.投入物質の品質基準が適切に規定されている

2.CQA及び工程パラメータが適切に選択されている。

10.4 例4:適切な出発物質の選定

この例は、適切な出発物質を選定する際に、章5.1.1で記述される一般原則を個々に適用するよりも、すべての原則を考慮することの重要性を示したものである。比較的単純な分子の直線的な合成に基づいた例示であり、ステップ数に関して特定の意図を伝えることを目的としない。

原薬での望ましい立体化学構造は、市販のアキラルな前駆体Aと立体選択的な試薬によりステップ1で合成された化合物Bに由来する。化合物Bの逆の対掌体も、ステップ1で少量が生成する。一旦、生成すると、両方の立体化学構造はあとに続く合成ステップでも消失せず、それゆえに原薬には特定された不純物として少量の望ましくない対掌体が含まれる。通常、原薬の不純物プロファイルに影響を与える製造工程は承認申請添付資料の章3.2.S.2.2に記述される製造方法に含まれる必要があるという原則に従えば、ステップ1は3.2.S.2.2に記述する必要がある。そして、前駆体Aは出発物質と考えなければならない。

しかし、この製造工程では、原薬中の重要な不純物(逆の対掌体以外)の全てがステップ4、5、6から生ずることが判明している。ステップ2及び3は原薬の不純物プロファイルに影響を及ぼさず、かつ、ステップ1からの唯一の影響は対掌体不純物に関するものである。さらに、ステップ1で最初につくられる不斉中心は、以降すべてのステップの製造条件において安定である(すなわち、ラセミ化は起こらない、又は、決して起こりそうにない)。また、化合物Dにおいて逆の対掌体を測定する適切な分析法が存在する事が知られている。それゆえ、もし化合物Dが章5.1.1で記載する他の一般原則の殆どに合致しているとすれば、化合物Aは製造工程の後の工程より前の工程のほうが原薬の品質に与える影響が低い可能性を有する傾向があるという一般原則に合致しているものの、化合物Aの代わりに化合物Dを出発物質として提案することは妥当である。この例では、ステップ1の唯一の影響は原薬における対掌体の量であり、化合物D中の逆の対掌体に適切な限度値を設定することにより、代わりに管理することができる。ステップ1~3の情報は、規制当局がそのような提案の妥当性を各極の要求事項として確認するために、利用可能なものになるであろう。

原薬の不斉中心がステップ1で作られる代わりに、市販の前駆体Aに由来するならば、恐らく同様の議論となる。

10.5 例5:選択された重要品質特性のための管理要素の要約

この例では、どのように原薬の管理戦略の一部を表形式で要約できるかを示す。表は申請者がどのようにして原薬の管理戦略に関する複数の要素について情報を伝えることができるのかを示し、審査側に管理戦略の詳細な要素や妥当性がCTDのどの章に記載されているかを示す。このような管理戦略の要約の表には、管理の論理的根拠や妥当性を含めるべきではなく、情報が製造販売承認申請の添付資料のどこに記載されているのか分かるように、簡単に示すべきである。

この情報を提示するには多くの方法があり、以下に二つの方法を示す。一つの表は、もう一方の表より多くの詳細な情報を提示できる可能性が高いことを示す。管理戦略の要約の表に含める詳細さのレベルは申請者に依存するものであり、原薬の種類には関係しない。下表に示すCQAと管理要素は単なる例示であり、原薬の管理戦略のすべての要素を包括的に表示することを目的とするものではない。これらの表をテンプレート(標準様式)と考える必要はない。承認申請の添付資料において原薬の規格及び試験方法の妥当性(3.2.S.4.5)の章は、原薬の全体的な管理戦略を要約する適切な場所である。

5a.可能性のある管理戦略の要約の例-バイオテクノロジー応用製品

原薬CQA

原薬CQAの管理戦略

詳細な情報を記載するCTDの章

生物由来物質中の汚染物質(ウイルス安全性)

生物由来原材料に対するウイルス安全性情報の要約

3.2.S.2.3

生物起源由来の原材料、製造の適切な段階における試験及びウイルスクリアランスに関する研究を含む詳細な情報

3.2.A.2

残留宿主細胞由来タンパク質

個々の単位操作に対するデザインスペース(例えば、例3参照)

3.2.S.2.2

バリデーションで確認された恒常的な除去の目標範囲

3.2.S.2.5

試験方法とその分析法バリデーション

3.2.S.4.2及び3.2.S.4.3

特定の糖鎖構造

工程管理段階(例えば、細胞培養条件、下流工程の精製、保持条件、その他)の要約を含めた、製造工程の設計に事実上含まれている必要不可欠な管理項目

3.2.S.2.2

CQAとして分類したことを正当化する特徴(関連する場合は、非臨床や臨床の章を相互参照)

3.2.S.3.1

重要工程の管理、試験実施計画、規格及び試験方法

3.2.S.2.4や3.2.S.4.1

規格及び試験方法の妥当性

3.2.S.4.5

安定性

3.2.S.7

5b.可能性のある管理戦略の要約の例-化学薬品

管理の種類

原薬CQA

(3.2.S.2.6)/

原薬における許容値

工程内管理

(工程内試験及び工程パラメータの管理を含む)

物質特性の管理

(原材料/出発物質/中間体)

製造工程の設計の影響

原薬においてCQAは試験されるか/原薬規格に含まれるか(3.2.S.4.1)

有機不純物

 

 

 

 

-不純物X

0.15%以下

中間体F中の加水分解物が0.30%以下となるステップ5における中間体Eの含水率%と還流時間の組み合わせで構成される還流操作のデザインスペース(3.2.S.2.2)

 

はい/はい

-不純物Y

0.20%以下

ステップ4(3.2.S.2.2)の工程パラメータ

水素(p)≧2barg

温度<50℃

ステップ4における工程内試験(3.2.S.2.4)

不純物Y画像9 (1KB)別ウィンドウが開きます
0.50%

 

 

はい/はい

-個別規格を設定しない不純物個々

0.10%以下

 

出発物質Dの規格(3.2.S.2.3)

 

はい/はい

-不純物合計

0.50%以下

 

 

はい/はい

対掌体

-S-対掌体

0.50%以下

 

出発物質Dの規格(3.2.S.2.3)

-S-対掌体

画像10 (1KB)別ウィンドウが開きます
0.50%

不斉中心はラセミ化しない(3.2.S.2.6)

いいえ/いいえ

残留溶媒

 

 

 

 

-エタノール

5000ppm以下

最終精製工程後の乾燥時における工程内試験(3.2.S.2.4)

乾燥減量画像11 (1KB)別ウィンドウが開きます
0.40%以下

 

工程内試験結果は原薬における試験結果と関連性あり

(3.2.S.2.6)

いいえ/はい

-トルエン

890ppm以下

ステップ4における工程内試験

(3.2.S.2.4)

GC法2000ppm以下

 

ステップ4後の製造工程においてトルエンはICH Q3Cに示されたレベルよりも有意に除去(10%未満)(3.2.S.2.6)

いいえ/いいえ1

1 プロセス設計と管理の適切性を確実にする関連したプロセスデータの提示により妥当性が示されれば、管理戦略の一部としてこの取り組みが許容できることがある。溶媒除去を検証するために、企業の品質システムのもとで製造プロセスを定期的に評価しなければならない。

表5bに関する注

上記の表は例1で提示された合成経路に基づく。対掌体不純物の管理はICHガイドラインQ6Aのフローチャートに基づく。Q6Aでは、開発段階での検討により妥当性が示されている場合には、原薬に対してではなく、適切な出発物質又は中間体に対して限度値を設定することによって、キラルな品質の管理を認めている。この手法を許容できるようにするためには、提案する製造条件において不斉中心が安定であることを示すデータを3.2.S.2.6に提示することになる。

この表は初回承認申請時において提出する管理戦略の一部分のみを要約したものであり、原薬のすべてのCQAを含むものではない。この管理戦略の例は、CQAの幾つかについて、原薬に至るプロセスの段階における管理を示している。承認申請の添付資料に記述し提案される管理戦略の要素は、申請者により立証され、規制当局の評価と承認に付される。

11.用語

化学変換工程:

化学薬品において、前駆体の分子構造から原薬の化学構造の合成に関係するステップのことである。一般的に、これらはC-X又はC-C結合が形成するか切断することを含む。

混入汚染物質:

原薬及び製剤の製造工程には本来存在しないはずのもので、外来性の物質(例えば、化学物質、生化学的な物質、微生物類など)すべてを指す。(ICH Q6B)

継続的工程確認:

製造工程の性能を継続的にモニタリングし評価する、工程バリデーションの代替法。(ICH Q8)

管理戦略:

最新の製品及び製造工程の理解から導かれる、製造プロセスの稼動性能及び製品品質を保証する計画された管理の一式。管理は、原薬及び製剤の原材料及び構成資材に関連するパラメータ及び特性、設備及び装置の運転条件、工程管理、完成品規格及び関連するモニタリング並びに管理の方法及び頻度を含み得る。(ICH Q10)

重要品質特性(CQA):

要求される製品品質を保証するため、適切な限度内、範囲内、分布内であるべき物理学的、化学的、生物学的、微生物学的特性又は性質。(ICH Q8)

デザインスペース:

品質を確保することが立証されている入力変数(原料の性質など)と工程パラメータの多元的な組み合わせと相互作用。このデザインスペース内で運用することは変更とはみなされない。デザインスペース外への移動は変更とみなされ、通常は承認事項一部変更のための規制手続きが開始されることになる。デザインスペースは申請者が提案し、規制当局がその評価を行って承認する。(ICH Q8)

中間体/中間製品:

ICH Q7、ICH Q3A及びICH Q5C参照

不純物:

ICH Q3A、ICH Q6A及びICH Q6B参照

ライフサイクル:

初期開発から市販を経て製造販売中止に至るまでの製品寿命の全過程。(ICH Q8)

プラットフォーム製造:

同一の申請者が同じタイプの他の医薬品を製造するために使用したことのある、同様の製造工程からなる新医薬品の製造戦略に関する開発の方法論(例えば、あらかじめ確立されている宿主細胞、細胞培養、及び精製工程を利用した、すでに十分な経験のあるモノクローナル抗体の製造)。

工程の頑健性:

ある工程が、材料の変動性や工程自体及び装置の変更に対して、品質にマイナスの影響を与えることなく耐えられることを示す。(ICH Q8)

品質リスクマネジメント(QRM):

製品ライフサイクルを通じて、医薬品の品質に係るリスクについてのアセスメント、コントロール、コミュニケーション、レビューからなる系統だったプロセス。(ICH Q9)

目標製品品質プロファイル(QTPP):

製剤の安全性及び有効性を考慮した場合に要求される品質を保証するために達成されるべき、製剤の期待される品質特性の要約。(ICH Q8)

リアルタイムリリース試験:

工程内データに基づいて、工程内製品及び/又は最終製品の品質を評価し、その品質が許容されることが保証できること。通常、あらかじめ評価されている物質(中間製品)特性と工程管理との妥当な組み合わせが含まれる。(ICH Q8)