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a) 日本未承認

b) サプリメント

c) P―gp,BCRPのdual inhibitor

d) 反復投与すると,逆に誘導の効果が強く出るので,結果が異なってくることに注意が必要である.

表6―2 トランスポーターを介した臨床薬物相互作用が認められた誘導薬の例

トランスポーター

遺伝子

誘導薬

P―gp

ABCB1

Carbamazepine

Phenytoin

Rifampicin

St.John's Worta)

Tipranavir/Ritonavirb, c)

OATP1B1, OATP1B3

SLCO1B1, SLCO1B3

Rifampicin

Efavirenz

a) サプリメント

b) 日本未承認

c) in vitro実験の結果に基づくと,ritonavirは,P―gpの阻害能を有し,tipranavirは,P―gpの阻害能は弱い一方で,誘導能は強く,それらの効果が混合されたものとして見えていることに注意を要する.

表6―3 トランスポーターを介した臨床薬物相互作用が認められた基質薬の例

トランスポーター

遺伝子

基質薬

P―gp

ABCB1

Aliskiren

Ambrisentana)

Colchicine

Dabigatran etexilate

Digoxin

Everolimusa)

Fexofenadine

Imatiniba)

Lapatiniba)

Maraviroca)

Nilotinib

Ranolazinea, b)

Saxagliptina)

Sirolimusa)

Sitagliptina)

Talinololb)

Tolvaptana)

Topotecanc)

BCRP

ABCG2

Diflomotecanb)

Imatinib

Rosuvastatin

Sulfasalazine

OATP1B1, OATP1B3

SLCO1B1, SLCO1B3

Atorvastatin

Atrasentanb)

Bosentan

Ezetimibe

Fexofenadine

Fluvastatin

Glibenclamide

Nateglinide

Olmesartan

Pitavastatind)

Pravastatin

Repaglinide

Rosuvastatind)

Simvastatin acid

SN―38(active metabolite of irinotecan)

Telmisartane)

Torsemide

Valsartan

OCT2

SLC22A2

Metformin

MATE1, MATE2―K

SLC47A1, SLC47A2

Cephalexin

Cisplatin

Metformin

OAT1, OAT3

SLC22A6, SLC22A8

Adefovirf)

Bumetanideg)

Cefaclor

Cidofovirb, f)

Ciprofloxacing)

Famotidineh)

Fexofenadine

Furosemide

Ganciclovirf)

Methotrexateg)

Penicillin Gg)

Zalcitabineb)

Zidovudine

a) CYP3A基質でもあることから,P―gpの阻害とともに,CYP3Aの阻害の影響を同時に見ている可能性があることに注意が必要である.

b) 日本未承認

c) BCRP基質でもあることからP―gpの阻害とともに,BCRPの阻害の影響を同時に見ている可能性があることに注意が必要である.

d) in vitro試験の結果,肝取り込みにOATP1B1の寄与率が高いことが報告されている.

e) in vitro試験の結果,OATP1B3選択的基質(vs. OATP1B1)であることが示唆されている.

f) in vitro試験の結果,OAT1選択的基質(vs. OAT3)であることが示唆されている.

g) in vitro試験の結果,OAT3選択的基質(vs. OAT1)であることが示唆されている.

h) OCT2基質でもある.

表6―4 トランスポーターのin vivo典型基質薬,典型阻害薬の例

in vivo典型基質薬

トランスポーター

遺伝子

典型基質薬

P―gp

ABCB1

Dabigatran etexilate

Digoxin

Fexofenadinea)

BCRP

ABCG2

Rosuvastatinb)

Sulfasalazine

OATP1B1

SLCO1B1

Pitavastatinc)

Pravastatind)

Rosuvastatinb)

OATP1B3

SLCO1B3

Telmisartane)

OAT1

SLC22A6

Acyclovir

Adefovir

Cidofovirf)

Ganciclovir

OAT3

SLC22A8

Benzylpenicillin

Ciprofloxacin

Pravastating)

Rosuvastating)

Sitagliptin

MATE1, MATE―2K, OCT2

SLC47A1, SLC47A2, SLC22A2

Metformin

N―methylnicotinamide(NMN)f, h)

a) 肝消失にOATP1B1,OATP1B3,MRP2,MRP3並びに腎排泄には,OAT3,MATE1,MATE2―Kの関与が報告されていることに注意が必要.

b) 消化管吸収にBCRP,肝取り込みにOATP1B1,OATP1B3,NTCP並びに腎排泄にはOAT3の関与が報告されていることに注意が必要.また,in vitro実験ではP―gp,MRP2の基質薬でもある.

c) in vitro実験ではP―gp,MRP2,BCRPの基質薬でもある.

d) 胆汁排泄にMRP2,腎排泄にOAT3の関与が報告されていることに注意が必要.

e) 消化管・肝臓のUGTsによる抱合代謝を受けることが知られている.

f) 日本未承認

g) 腎クリアランスを分離評価することにより,OAT3の機能を推定することが可能である.

h) 内因性基質.食事やサンプリング時間の影響を受けるため,腎クリアランスとして評価する必要あり.

in vivo典型阻害薬

トランスポーター

遺伝子

典型阻害薬

P―gp

ABCB1

Amiodarone

Clarithromycina)

Cyclosporinea)

Itraconazole

Quinidine

Ranolazineb)

Verapamil

BCRP

ABCG2

Curcuminb)

Eltrombopag

OATP1B1, OATP1B3

SLCO1B1, SLCO1B3

Cyclosporinec)

Rifampicind)

OAT1, OAT3

SLC22A6, SLC22A8

Probenecid

MATE1, MATE2―K

SLC47A1, SLC47A2

Cimetidine

Pyrimethamineb, e)

a) 臨床血中濃度でOATP1B1及びOATP1B3も阻害することが報告されていることに注意が必要.

b) 日本未承認

c) 臨床血中濃度で消化管のP―gpも阻害することが報告されていることに注意が必要.

d) 反復投与すると,誘導効果が出てくるので,単回投与での適用.

e) 日本では,単剤の承認薬がない(スルファドキシンとの合剤のみ承認).

表6―5 トランスポーターのin vitro典型基質,典型阻害薬の例

in vitro典型基質

トランスポーター

遺伝子

典型基質

Km値

P―gp

ABCB1

Digoxina)

73―177μM

Fexofenadineb, c, d)

150μM

Loperamide

(1.8―5.5μM)

Quinidine

1.69μM

Talinololc)

(72μM)

Vinblastinec)

19―253μM

BCRP

ABCG2

2―amino―1―methyl―6―phenylimidazo[4, 5―b]pyridine(PhIP)c, e)

 

Coumestrol

 

Daidzein

 

Dantrolene

 

Estrone―3―sulfateb, f)

2.3―13μM

Genistein

 

Prazosine)

 

Sulfasalazine

0.7μM

OATP1B1, OATP1B3

SLCO1B1, SLCO1B3

Cholecystokinin octapeptide(CCK―8)g)

3.8―16.5μM(1B3)

Estradiol―17β―glucuronideh)

2.5―8.3μM(1B1), 15.8―24.6μM(1B3)

Estrone―3―sulfatei)

0.23―12.5μM(1B1)

Pitavastatinc, e, f, j)

1.3―6.7μ(1B1), 3.25μM(1B3)

Pravastatinc, f, k)

11.5―85.7μM(1B1)

Telmisartanl)

0.81μM(1B3)

Rosuvastatinc, f, j, k)

0.802―15.3μM(1B1), 9.8―14.2μM(1B3)

OAT1

SLC22A6

Adefovir

23.8―30μM

p―aminohippurate

4―20μM

Cidofovir

30―58μM

Tenofovir

14.6―33.8μM

OAT3

SLC22A8

Benzylpenicillinb, c)

52μM

Estrone―3―sulfatej, m)

2.2―75μM

Pravastatinb, c)

27.2μM

MATE1, MATE―2K

SLC47A1, SLC47A2

Metforminn)

202―780μM(MATE1), 1050―1980μM(MATE―2K)

1―methyl―4―phenylpyridinium(MPP+)n)

100μM(MATE1), 110μM(MATE―2K)

Tetraethylammonium(TEA)n)

220―380μM(MATE1), 760―830μM(MATE―2K)

OCT2

SLC22A2

Metforminn)

680―3356μM

1―methyl―4―phenylpyridinium(MPP+)n)

1.2―22.2μM

Tetraethylammonium(TEA)n)

33.8―76μM

( )内に示された数字は,Ki or IC50

a) OATP1B3基質

b) OATPs基質

c) MRP2基質

d) MRP3基質

e) P―gp基質

f) NTCP基質

g) OATP1B3選択的基質(vs. OATP1B1).

h) 阻害実験の際に,Ki値が小さく見積もられ,プローブ薬として適切な性質を有する.

i) OATP1B1選択的基質(vs. OATP1B3).阻害実験の際に,全体的にKi値が大きく見積もられる傾向があるとする報告があり注意が必要.

j) BCRP基質

k) OAT3基質

l) OATP1B3選択的基質(vs. OATP1B1).非特異的な吸着が大きく,実験系にalbuminの共存を考慮.

m) OATP1B1基質

n) OCTs,MATEs基質

in vitro典型阻害薬

トランスポーター

遺伝子

典型阻害薬

KiorIC50

P―gp

ABCB1

Cyclosporinea)

0.5―2.2μM

Elacridar(GF120918)b)

0.027―0.44μM

Ketoconazolec)

1.2―6.3μM

Quinidined)

3.2―51.7μM

Reserpinee)

1.4―11.5μM

Ritonavirf)

3.8―28μM

Tacrolimusf)

0.74μM

Valspodar(PSC833)e)

0.11μM

Verapamild)

2.1―33.5μM

Zosuquidar(LY335979)

0.024―0.07μM

BCRP

ABCG2

Elacridar(GF120918)g)

0.31μM

Fumitremorgin C

0.25―0.55μM

Ko134

0.07μM

Ko143

0.01μM

Novobiocin

0.063―0.095μM

Sulfasalazine

0.73μM

OATP1B1, OATP1B3

SLCO1B1, SLCO1B3

Cyclosporinec, e, g)

0.24―3.5μM(1B1)i), 0.06―0.8μM(1B3)

Estradiol―17β―glucuronideb, e)

2.5―8.3μM(1B1), 15.8―24.6μM(1B3)

Estrone―3―sulfateb, c)

0.2―0.79μM(1B1), 97.1μM(1B3)

Rifampicin

0.48―17μM(1B1), 0.8―5μM(1B3)

Rifamycin SV

0.17―2μM(1B1), 3μM(1B3)

OAT1, OAT3

SLC22A6, SLC22A8

Benzylpenicillin

1700μM(OAT1), 52μM(OAT3)

Probenecidf)

3.9―26μM(OAT1), 1.3―9μM(OAT3)

MATE1, MATE―2K

SLC47A1, SLC47A2

Cimetidined)

1.1―3.8μM(MATE1), 2.1―7.3μM(MATE―2K)

Pyrimethamine

77nM(MATE1), 46nM(MATE―2K)

OCT2

SLC22A2

Cimetidineh)

95―1650μM

1―methyl―4―phenylpyridinium(MPP+)h)

(1.2―22.2μM)

Tetraethylammonium(TEA)h)

144μM

( )内に示された数字は,Km

a) MRP2,BCRP,NTCP,OATPs阻害薬

b) BCRP阻害薬

c) NTCP阻害薬

d) OCTs阻害薬

e) MRP2阻害薬

f) OATPs阻害薬

g) P―gp阻害薬

h) MATEs基質,阻害薬

i) 阻害実験前に阻害薬をpreincubationすると,Ki値が減少する報告あり(留意事項(14)①も参照のこと)

なお,以上の表は,主に文献35)並びにデータベースの値を参考にして作成された.

TP―search(http://www.TP-Search.jp/)

UCSF―FDA Transportal(http://bts.ucsf.edu/fdatransportal/)

7.臨床薬物相互作用試験による評価

臨床試験は倫理的かつ科学的に行わなければならない.ヒトの組織由来試料及び発現系を用いたin vitro試験であらかじめ十分な情報を得て,被験者の安全を確保したうえで臨床薬物相互作用試験を効率的に実施することが重要である.In vitro試験結果などに基づきヒトにおける薬物相互作用を予測する際には,モデリングやシミュレーションの手法,また同種同効薬や薬物相互作用の機序が同一の他薬のデータを参考にする.臨床薬物相互作用試験については,その薬物相互作用に起因する副作用を念頭におき,被験者の安全に最大限に配慮した試験計画の策定が必要である.

7.1 臨床薬物相互作用試験の必要性及び実施のタイミング

ヒトにおいて薬物相互作用を生じる可能性が示唆された被験薬については,通常,健康志願者などを対象に,臨床薬物相互作用試験を,原則,第Ⅲ相試験開始前に実施することが望ましい.臨床用量の被験薬,指標薬,阻害薬,誘導薬を用いて薬物相互作用試験を実施する.この結果,被験薬と指標薬との間などにおいて薬物相互作用が示された場合においては,臨床での使用の可能性が高い併用薬についても,その特性,薬物相互作用発現の可能性などを考慮し,必要に応じて薬物相互作用の検討を行う.なお,医療用配合剤や併用療法など,被験薬が他の薬物との併用投与を目的として開発されている場合は,基本的には当該両薬物の併用による薬物相互作用試験を実施する.

臨床薬物相互作用試験の結果は,その後の臨床試験の治験実施計画書の作成時において,相互作用に基づく併用規定を検討する際に利用される.また,PBPKモデル解析とシミュレーションから得られる情報が有用な場合もある.In vitro薬物相互作用試験の結果,相互作用が現れる可能性が示された薬物は,臨床薬物相互作用試験などで安全性が示されるまでは,原則として,臨床試験では併用禁止とすべきである.第Ⅱ相及び/又はⅢ相臨床試験で薬物相互作用の影響を検討する場合,母集団薬物動態解析法により併用薬物との薬物相互作用に関する情報を得ることは,個体間変動を考慮した薬物動態を予測し,被験薬の薬物動態と有効性及び安全性を検討する上で有用な場合もある.なお,承認後に新たな薬物相互作用の発現が報告された場合は,製造販売後に臨床薬物相互作用試験による検討を考慮すべき場合もある.

7.2 検討すべき薬物相互作用の指標と結果の判定

薬物相互作用の定量的評価を行うために,被験薬又は併用薬のAUCを評価する.また,併用薬物との組み合わせなどによっては,薬効や副作用の評価も薬物相互作用の指標となる場合がある.

臨床試験の結果に基づく薬物相互作用の有無の判定は,相互作用薬の併用時及び非併用時で得られた薬物動態パラメータの幾何平均比の90%信頼区間に基づき行う.幾何平均比の90%信頼区間が0.8―1.25の範囲にあるとき,一般的には当該薬物間の薬物動態学的な相互作用は無いと判断する.なお,上述の範囲内外にかかわらず,当該医薬品の臨床試験で確認された安全性も踏まえた上で薬物相互作用が臨床的に問題となるかを判断すべきである.また必要に応じて相互作用によるCmax,トラフ濃度,Cmax到達時間(tmax),クリアランス,分布容積,半減期などの薬物動態パラメータへの影響についても評価する.

臨床的に問題となる薬物相互作用が生じる可能性がある場合,8章を参照して,薬物相互作用の情報提供と注意喚起の内容を判断する.

7.3 試験デザイン

臨床薬物相互作用試験は,無作為化クロスオーバー試験,上乗せ試験などの試験デザインで実施する.クロスオーバー試験や上乗せ試験の実施が不可能な場合は,並行群間比較試験も許容可能であるが,個体間変動が交絡因子となるため一般的には推奨されない.異なる試験の結果を対照とする比較(外部対照との比較)は原則行わない.

薬物相互作用試験は,血圧や症状観察による評価などバイアスを受けやすい有害事象を含む薬力学的マーカーの評価が重要な場合を除き,一般的には非盲検で実施する.

登録前に医療用又は一般用医薬品,サプリメント,健康食品,タバコ又はアルコールを摂取した被験者は,代謝酵素及びトランスポーターの活性が影響を受けている可能性があることから,臨床薬物相互作用試験の対象から除外することを考慮すべきである.

被験薬の消失が,遺伝子多型により活性の変化する代謝酵素あるいはトランスポーターの影響を強く受けると考えられる場合は(CYP2D6,CYP2C9,CYP2C19,UGT1A1,OATP1B1など),遺伝子多型によって薬物相互作用の程度が相違する可能性があり,遺伝子型により層別化した試験デザインが有用な場合がある(7.9.5.1項参照).

7.4 投与量と投与経路

試験で使用する阻害薬又は誘導薬の用量は,薬物相互作用を示す可能性を最大化する用量とすべきであり,予定あるいは承認されている最大用量と最短投与間隔を用いる.一方,基質薬は線形の範囲内であれば,いずれの用量を投与してもよい.また,基質薬の薬物動態が非線形性を示す場合は,臨床用量を考慮して定める.安全性上の懸念がある場合は,基質薬の用量を臨床用量よりも低用量に設定し,分析法の検出感度の観点など,用法・用量の変更が薬物相互作用の評価に与える影響を考察して,治験実施計画書及び治験総括報告書に記載する.

代謝における薬物相互作用試験では,投与経路の選択が重要である.被験薬の投与経路は,一般的に臨床使用を予定している投与経路とする.複数の投与経路の用法を開発する場合,予測される薬物相互作用の機序と被験薬及び代謝物のAUC値の変化の程度によって,薬物相互作用試験をそれぞれの投与経路別に実施する必要性を判断する.経口製剤のみを市販する場合は,通常,静脈内投与製剤を用いる臨床薬物相互作用試験を実施する必要はない.

7.5 投与期間と投与のタイミング

臨床薬物相互作用試験において,被験薬が代謝酵素の相互作用薬の場合には,被験薬の反復投与による定常状態での相互作用を検討することが望ましい.特にin vitro試験においてTDIが認められた被験薬及び酵素誘導を起こす可能性のある被験薬は,少なくとも数日間の前投与が必要である.この時に,安全性に配慮した上で投与量又は投与間隔を調整し,目標となる定常状態の薬物濃度に短期間で到達させることを考慮する.一方,TDI及び酵素誘導などの可能性のない相互作用薬,又は臨床上も単回投与で用いられる薬物の場合には,単回投与による検討も可能である.一般に,被相互作用薬(基質薬)は単回投与により薬物相互作用試験を実施できる.なお,TDI又は誘導などで代謝酵素の活性が長期的に変動する可能性のある相互作用の場合には,併用投与期の後に被相互作用薬の単独投与期を含むクロスオーバーデザインによって,相互作用薬休薬後の回復性を評価することが推奨される.相互作用薬の消化管吸収が胃内pHによる影響を受けることが予想される場合には,吸収過程での相互作用を分離して代謝過程への影響を正確に評価するため,例えば相互作用薬と胃酸分泌抑制剤による相互作用情報等から,予め影響の程度についても把握することが有用である.

被相互作用薬と相互作用薬の投与のタイミングが両薬物間の相互作用に及ぼす影響についても留意する.臨床薬物相互作用試験では,薬物相互作用の可能性を最大化するタイミングで投与することが望ましいが,被験者の安全性に最大限に配慮する必要がある.薬物相互作用の大部分が初回通過中に生じる場合には,両薬物の投与の間隔を空けることにより,薬物相互作用の程度は低下する可能性があるが,異なる時点で投与した場合に最も顕著な薬物相互作用が生じる場合もある*留意事項(15)

7.6 薬物代謝酵素及びトランスポーターの阻害薬の選択

7.6.1 P450の阻害薬を用いた薬物相互作用試験

被験薬のP450による代謝が阻害される可能性について評価する場合は,in vitro試験又は臨床薬物動態試験の結果に基づいて,被験薬の代謝経路に関与する酵素の阻害薬を選択して臨床薬物相互作用試験を実施する.その際,阻害の程度を考慮する.阻害の程度は臨床薬物相互作用試験により,相互作用薬及び相互作用を受けやすい基質薬が経口投与の場合に,AUCに及ぼす影響の程度を目安として設定している.AUCを5倍以上に上昇(CL/Fが1/5未満に減少)させると考えられる阻害薬を「強い阻害薬」,同2倍以上5倍未満に上昇(CL/Fが1/2未満1/5以上に減少)させると考えられる阻害薬を「中程度の阻害薬」,及び同1.25倍以上2倍未満に上昇(CL/Fが1/1.25未満1/2以上に減少)させると考えられる阻害薬を「弱い阻害薬」とする(表7―1参照).臨床薬物相互作用試験で用いる阻害薬の選択にあたっては,被験薬の消失に関与する酵素の強い阻害薬の使用が望ましいが,被験者の安全性に最大限に配慮する必要がある(4.2.1.2項,表7―1参照).安全性の観点から強い阻害薬との臨床相互作用試験の実施が困難な場合は,被験者の安全性に留意しながら中程度以下の強さの阻害薬を用いた臨床薬物相互作用試験を実施し,その影響を検討する.強い阻害薬を用いた相互作用試験の結果から,用量調整を考慮する必要性が示唆された場合は,臨床的に併用される可能性を考慮して,同じ代謝酵素に対する他の阻害薬の作用についても臨床試験で検討すべきである.臨床相互作用試験で検討した阻害薬以外の阻害薬については,必要に応じて第Ⅱ相又は第Ⅲ相臨床試験又はモデル解析により評価することも可能である.

被験薬の主要な代謝酵素が表7―1に記載されていない場合,治療域を超える血中濃度での安全性及び被験薬の消失全体に対する当該代謝経路の寄与の程度を考慮し,併用投与されることの多い薬物を用いて,当該酵素に及ぼす阻害作用を検討する.

7.6.2 P450以外の薬物代謝酵素及びトランスポーターの阻害薬を用いた薬物相互作用試験

被験薬がP450以外の酵素により代謝あるいはトランスポーターで輸送され,臨床においてそれらの阻害による薬物相互作用を生じる懸念がある場合,当該酵素あるいはトランスポーターに対する既知の阻害薬の有無などを考慮したうえで,臨床薬物相互作用試験の実施可能性を検討することが推奨される.臨床薬物相互作用試験を実施する場合,P450により代謝される薬物の場合と同様の手順に沿って評価する.

7.7 薬物代謝酵素の誘導薬の選択

被験薬のP450による代謝が誘導される可能性について評価する場合は,in vitro試験又は臨床薬物動態試験の結果に基づいて,被験薬の代謝経路に関与するP450を選択して臨床薬物相互作用試験を実施する.その際,誘導の程度を考慮する.誘導の程度は臨床薬物相互作用試験により,相互作用薬及び相互作用を受けやすい基質薬が経口投与の場合に,AUCに及ぼす影響の程度を目安として設定している.AUCを1/5以下に減少(CL/Fが5倍より大きく上昇)させると考えられる誘導薬を「強い誘導薬」,同1/2以下1/5以上より大きく減少(CL/Fが2倍以上5倍未満に上昇)させると考えられる誘導薬を「中程度の誘導薬」,及び同1/1.25以下1/2より大きく減少(CL/Fが1.25倍以上2倍未満に上昇)させると考えられる誘導薬を「弱い誘導薬」とする(表7―2参照).臨床薬物相互作用試験で用いる誘導薬の選択にあたって,相互作用の最大効果を評価するために作用の強い誘導薬の使用が望ましいが,被験者の安全性に最大限に配慮する必要がある(4.2.1.2項,表7―2参照).臨床相互作用試験で検討した誘導薬以外の誘導薬については,必要に応じて第Ⅱ相又は第Ⅲ相臨床試験又はモデル解析により評価することも可能である.適応疾患及び用法の観点から,特定の酵素誘導薬との併用投与が必要となる被験薬の場合には,被験者の安全性に最大限配慮したうえで,適切な治療法を確立するために当該誘導薬との臨床薬物相互作用試験の実施が推奨される(4.2.1.2項参照).

7.8 薬物代謝酵素及びトランスポーターの基質薬の選択

被験薬がP450による代謝を阻害又は誘導する可能性について評価する場合は,in vitro試験又は臨床薬物動態試験の結果に基づいて,被験薬が影響を与える基質薬を選択して臨床薬物相互作用試験を実施する.基質薬を選択する際,基質薬が作用を受ける程度を考慮する.作用を受ける程度は臨床薬物相互作用試験により,相互作用薬及び基質薬が経口投与の場合に,特定の分子種のP450の「強い阻害薬」の併用によりAUCの影響の程度を目安として設定している.AUCが5倍以上に上昇(CL/Fが1/5未満に減少)する基質薬は,消失における当該P450の寄与率がおおむね80%以上と考えられ,「薬物動態学的相互作用を受けやすい基質薬」とする(表7―3参照).また同AUCが2倍以上5倍未満に上昇(CL/Fが1/5以上1/2未満に減少)する基質は,消失における当該代謝酵素の寄与率がおおむね50%以上80%未満と考えられ,「薬物動態学的相互作用の受けやすさが中程度の基質薬」とする(表7―3参照).被験薬が薬物代謝酵素(又はトランスポーター)を阻害又は誘導するか否かを臨床試験で調べるためには,消失全体に対する代謝酵素(又はトランスポーター)の寄与が大きく(薬物動態学的相互作用を受けやすい基質薬),当該経路に選択性の優れていることが確立している指標薬(又は典型基質薬,表6―4)との薬物相互作用試験を実施する.代謝酵素のin vivoの指標薬の例として,(1) CYP1A2基質のテオフィリン,(2) CYP2B6基質のブプロピオン,エファビレンツ,(3) CYP2C8基質のレパグリニド,(4) CYP2C9基質のS―ワルファリン,トルブタミド,(5) CYP2C19基質のオメプラゾール,(6) CYP2D6基質のメトプロロール,及び(7) CYP3A基質のミダゾラムがある(表7―3).臨床薬物相互作用試験において,被験薬が指標薬又は薬物動態学的相互作用を受けやすい基質薬の代謝を阻害又は誘導することが確認された場合,製造販売後に併用される可能性が高い当該酵素の基質薬を用いて,臨床薬物相互作用試験を追加することを考慮する(図4―2,図4―3,4.2.1.4項及び4.2.1.6項参照)*留意事項(16)

7.9 臨床薬物相互作用試験による評価におけるその他の注意事項

7.9.1 単代謝酵素薬物と多代謝酵素薬物

1つの酵素によってのみ代謝される薬物(単代謝酵素薬物)においては,関与する酵素が阻害されると,薬物の生体内濃度が著しく高くなる.一方,複数の代謝酵素により代謝される薬物(多代謝酵素薬物)では,主たる代謝酵素が阻害されても,他酵素(代替酵素)による代謝により薬物の生体内濃度の上昇の程度が少ない.酵素誘導の場合も,誘導を受けた酵素によってのみ代謝される被験薬の場合には生体内濃度は著しく低くなるが,他に被験薬の代謝に関与している酵素がある場合には血中濃度の減少は相対的に軽度となる.これらの相互作用の程度を予測するためには,適切にデザインされた薬物相互作用試験結果の解析と合わせて,モデリング及びシミュレーションによる検討が有用と考えられる36)

7.9.2 薬物代謝酵素とトランスポーターの両方が関与する薬物相互作用

酵素とトランスポーターの基質特異性が重複していることが原因で,薬物相互作用に複数の機序が関与する場合(Complex drug―drug interaction)がある37).代表例としては,CYP3AとP―gpの基質特異性の重複が挙げられる.薬物相互作用の検討方法としては,P―gp及びCYP3Aの双方に強い阻害作用を示すイトラコナゾールなどの阻害薬を用いて試験を実施するが,薬物相互作用があることが明らかとなった場合でも,AUCを変化させる原因がいずれの分子であるかを特定することはできず,試験結果の解釈には注意が必要である.

また,被験薬が相互作用薬となり,複数の酵素及びトランスポーターを阻害又は誘導する場合や,特定の酵素及びトランスポーターを阻害すると同時に,別の酵素及びトランスポーターを誘導する場合も想定される.さらには,複数の薬物を同時併用することで,代謝酵素とトランスポーターの両者が阻害される場合には,より複雑かつ重大な影響が現れる可能性がある*留意事項(17)

7.9.3 カクテル基質試験

数種類の酵素及びトランスポーターに対する被験薬の作用を,1回の臨床薬物相互作用試験で検討するためにカクテル基質試験を利用することができる38).カクテル基質試験を適切にデザインすれば,阻害作用(可逆的又はTDI)及び誘導作用の双方を検討することが可能である.カクテル基質試験で使用する基質は,評価対象の各酵素(及びトランスポーター)の指標薬又は相互作用を受けやすい基質から構成されている必要がある*留意事項(18).用いた指標薬又は基質毎にCL/F又はAUC値に対する被験薬の影響を算出する.適切に実施されたカクテル基質試験の結果,薬物相互作用がないと判断された場合(7.2項参照)は,該当する酵素やトランスポーターについて更に評価を行う必要はないが,臨床的に問題となる可能性がある薬物相互作用があると判断された場合には,当該経路の阻害又は誘導による薬物動態学的相互作用を受けやすい基質薬,典型基質薬(表7―3,表6―4参照)単剤を用いた臨床薬物相互作用試験を実施する.

7.9.4 母集団薬物動態試験法による薬物相互作用の検討

第Ⅱ及び/又はⅢ相臨床試験において併用薬の情報を収集し,母集団薬物動態解析を利用して薬物相互作用の検討を行えるように試験を計画することにより,独立した薬物相互作用試験で検討されなかった薬物相互作用を検討できる場合がある.そのためには,他の薬物に対する被験薬の作用を評価するために,当該臨床試験における測定試料及び採取のタイミングなどは適切に設定することが重要である.

7.9.5 特別な集団についての考慮

7.9.5.1 遺伝子多型を考慮した薬物相互作用の検討

被験者の遺伝子型により,特定の酵素又はトランスポーターにおける薬物相互作用の程度(阻害又は誘導)が異なることがある.主要な消失経路(酵素又はトランスポーター)の活性が欠損又は低下している被験者では,一般に薬物の血中濃度は高く,代替経路の代謝又は排泄を阻害する薬剤と併用された場合には,更に血中濃度は高くなり,安全性上の問題を生じる可能性がある.

遺伝子多型が薬物動態に大きな影響を与える代謝酵素とトランスポーターの分子種としては,CYP2C9,CYP2C19,CYP2D6,UGT1A1,OATP1B1がある32).これら代謝酵素やトランスポーターが主要消失経路である被験薬は,臨床薬物相互作用試験を行う場合は,事前に遺伝子多型解析を実施することが有用である.

遺伝子多型の種類及び頻度も考慮する必要がある.特に東アジア人で活性欠損者の頻度が高いCYP2C19及び活性が大きく低下する遺伝子多型が知られているCYP2D6が主要消失経路である被験薬については,これらP450分子種の特性を念頭に臨床薬物相互作用試験を行う必要がある*留意事項(19)

7.9.5.2 被験薬が主として特別な集団,又は特定疾患の患者集団に適用される場合

被験薬が幼小児や高齢者などの集団,又は腎機能や肝機能が低下した患者集団に投与されることが十分想定される場合,薬物相互作用の検討方法として,母集団薬物動態試験法やPBPKモデルなどによる評価も可能である.臨床での薬物相互作用の予測を行うためには,被験薬の消失に占める代謝酵素の相対的寄与率の適切な予測が重要である.また,モデルを用いた検討の際には最大限に影響があるケースを想定するなど,これら集団において臨床上問題となる薬物相互作用を見逃さないよう注意する.

7.9.5.3 健康志願者を試験対象集団としない場合

臨床薬物相互作用試験は,通常,健康志願者を対象として実施され,その結果を踏まえて患者集団における薬物相互作用の考察を行う場合が多い.健康者での実施が困難な場合,適応患者集団を対象に薬物相互試験が実施される場合がある.その際には,試験期間,用量,採血スケジュールなどの試験デザイン上の制約が多くなるため,これら集団における薬物相互作用の検討にあたっては,患者集団の個体間差を十分に考慮するとともにモデリングやシミュレーションを適用し適宜情報を補うことも有用である.

表7―1 P450酵素のin vivo阻害薬の例