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○「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」の公表について

(平成26年7月8日)

(事務連絡)

(各都道府県衛生主管部(局)薬務主管課あて厚生労働省医薬食品局審査管理課通知)

標記ガイドラインについては、平成25年12月17日から平成26年2月17日の間、広く御意見・情報を募集した結果、多数の御意見が寄せられました。

今般、それらの御意見を反映させ、別添のとおり、最終案をとりまとめたところです。

当ガイドラインの円滑な施行に当たっては、医薬品開発を担う事業者の理解を醸成することが必要であることから、今般、現時点での案を最終案として広くお知らせすることといたしましたので、周知方よろしくお願いします。

なお、当ガイドラインは、米国FDAのガイダンス案の最終化を見据えつつ、来年度以降に発出することを目標に検討を進めることを、申し添えます。

医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)

目次

1.はじめに

1.1 背景と目的

1.2 適用範囲

1.3 薬物相互作用試験の実施における原則

2.吸収における薬物相互作用

2.1 消化管内におけるpHの変化,複合体・キレートの形成及び溶解性への影響

2.1.1 被験薬が被相互作用薬となる場合

2.1.2 被験薬が相互作用薬となる場合

2.2 消化管運動に及ぼす影響

2.2.1 被験薬が被相互作用薬となる場合

2.2.2 被験薬が相互作用薬となる場合

2.3 吸収におけるトランスポーターの関与

2.4 消化管における薬物代謝酵素を介した薬物相互作用

3.組織移行及び体内分布における薬物相互作用

3.1 血漿蛋白結合

3.2 組織移行及び体内分布

3.2.1 特定の組織成分との結合

3.2.2 組織への取り込み及び排出におけるトランスポーターの関与

4.薬物代謝における薬物相互作用

4.1 被験薬の主要消失経路とin vivo寄与率の評価

4.1.1 In vitro代謝試験による主要消失経路に関与する酵素の同定

4.1.2 マスバランス試験による主要消失経路の同定及び定量的評価

4.2 In vitro試験による臨床試験を実施する必要性の評価

4.2.1 シトクロムP450(P450)を介した薬物相互作用に関する検討方法

4.2.1.1 被相互作用薬となる可能性を検討するin vitro試験系

4.2.1.2 被相互作用薬となる可能性を検討する臨床試験の必要性

4.2.1.3 相互作用薬(P450阻害)となる可能性を検討するin vitro試験系

4.2.1.4 相互作用薬(P450阻害)となる可能性を検討する臨床試験の必要性

4.2.1.5 相互作用薬(P450誘導及びダウンレギュレーション)となる可能性を検討するin vitro試験系

4.2.1.6 相互作用薬(P450誘導及びダウンレギュレーション)となる可能性を検討する臨床試験の必要性

4.2.2 その他の薬物代謝酵素を介した薬物相互作用に関する検討方法

4.3 薬物代謝の関与する相互作用のカットオフ基準とモデルによる評価

4.3.1 カットオフ基準に基づく評価

4.3.2 静的薬物速度論(MSPK)モデル

4.3.3 生理学的薬物速度論(PBPK)モデル

4.4 生物薬品(バイオテクノロジー応用医薬品,生物起源由来医薬品)との相互作用

5.排泄における薬物相互作用

5.1 尿中排泄における薬物相互作用

5.2 胆汁中排泄における薬物相互作用

6.トランスポーターを介した薬物相互作用に関する検討方法

6.1 In vitro試験において考慮すべき一般事項

6.2 吸収に関わるトランスポーターを介した薬物相互作用のin vitro試験系

6.3 肝臓におけるトランスポーターを介した薬物相互作用のin vitro試験系

6.4 腎臓におけるトランスポーターを介した薬物相互作用のin vitro試験系

7.臨床薬物相互作用試験による評価

7.1 臨床薬物相互作用試験の必要性及び実施のタイミング

7.2 検討すべき薬物相互作用の指標と結果の判定

7.3 試験デザイン

7.4 投与量と投与経路

7.5 投与期間と投与のタイミング

7.6 薬物代謝酵素及びトランスポーターの阻害薬の選択

7.6.1 P450の阻害薬を用いた薬物相互作用試験

7.6.2 P450以外の薬物代謝酵素及びトランスポーターの阻害薬を用いた薬物相互作用試験

7.7 薬物代謝酵素の誘導薬の選択

7.8 薬物代謝酵素及びトランスポーターの基質薬の選択

7.9 臨床薬物相互作用試験による評価におけるその他の注意事項

7.9.1 単代謝酵素薬物と多代謝酵素薬物

7.9.2 薬物代謝酵素とトランスポーターの両方が関与する薬物相互作用

7.9.3 カクテル基質試験

7.9.4 母集団薬物動態試験法による薬物相互作用の検討

7.9.5 特別な集団についての考慮

7.9.5.1 遺伝子多型を考慮した薬物相互作用の検討

7.9.5.2 被験薬が主として特別な集団,又は特定疾患の患者集団に適用される場合

7.9.5.3 健康志願者を試験対象集団としない場合

8.薬物相互作用に関する情報提供と注意喚起について基本となる考え方

8.1 使用上の注意への記載

8.2 相互作用薬と被相互作用薬についての記載

8.3 薬物動態欄への記載

8.3.1 薬物動態学的な相互作用を受ける薬(基質:被相互作用薬)の場合

8.3.2 薬物動態学的な相互作用を与える薬(阻害薬,誘導薬:相互作用薬)の場合

9.関連する指針及びガイドライン

10.留意事項,解析方法及び事例

11.用語一覧

12.引用文献

1.はじめに

1.1 背景と目的

臨床現場では治療目的を果たすために複数の薬物を処方する場合が多く,併用薬物間の相互作用に注意が必要である.薬物相互作用により重篤な副作用が現れたり治療効果が減弱する場合があることから,新薬の開発においては,生じる可能性のある薬物相互作用の性質とその程度を適切に評価し,患者の不利益とならないように対処する必要がある.

医薬品開発における薬物相互作用の評価には,基本的な検討の段階的な積み重ねと状況に応じた的確な判断が必要であり,計画的,系統的な検討が大切である.本ガイドラインの目的は,薬物相互作用の発現を予測し,臨床試験実施の必要性を判断するための非臨床試験,及びヒトにおける薬物相互作用の発現の有無とその程度を確認するための臨床試験について,具体的な方法や判断の基準,並びに試験結果の解釈や情報提供に関する一般的な指針を提示することにある.本ガイドラインに基づき,臨床上問題となる薬物相互作用が発現する可能性を早期に判断することで,医薬品開発の効率化に資するとともに,開発時に得られた情報を適切に臨床現場に提供することにより,薬物相互作用に基づく副作用の発現や有効性の低下が回避され,医薬品のベネフィットとリスクのバランスを最適化し,適正使用が促進されることが期待される.

本ガイドラインでは,現時点における科学的に妥当な一般的な方法を提示する.しかし,個々の薬物によりその物理的・化学的性質,薬理作用,体内動態,臨床における使用方法などが異なるので,薬物相互作用の可能性を検討する方法も,開発する医薬品ごとに異なる.薬物相互作用試験の実施にあたっては,本ガイドラインで述べる原則に基づいて,薬物の性質に応じた適切な検討方法を取捨選択すべきである.また,必要に応じて学問や科学技術の進歩に基づく新しい検討方法及び情報提供の手段も積極的に評価し,採用すべきである.

1.2 適用範囲

本ガイドラインは医薬品開発における薬物相互作用の検討及びその結果を適正に情報提供するための原則及び方法を示したものである.ヒトにおける薬物相互作用の発現を予測し,臨床試験実施の必要性について判断するために開発早期に実施されるヒト組織,及びヒト薬物代謝酵素やトランスポーターの発現系を用いたin vitro試験,必要に応じて行う臨床薬物相互作用試験,また製造販売後に薬物相互作用の検討が必要とされる場合,さらにそれらの結果を添付文書などで情報提供する場合に適用する.

薬物相互作用はあらゆる投与経路において生じる可能性がある.本ガイドラインでは経口投与時に生じる薬物相互作用を中心に記述するが,必要な箇所では他の投与経路についても述べる.経口以外の投与経路において生じる薬物相互作用に関しては,投与経路が変わることで,薬物相互作用の程度も変化することに注意し,適宜,本ガイドラインで示した考えを参照して検討する.

本ガイドラインで定義する薬物相互作用は,薬物の効果・副作用あるいは薬物動態に影響を及ぼす併用薬物間(バイオテクノロジー応用医薬品や生物起源由来医薬品などの生物薬品を含む)及び薬物と飲食物,嗜好品など(例えば,喫煙,飲酒,サプリメント)との間に生じる現象である.

薬物相互作用は,発現機序により薬物動態学的相互作用(pharmacokinetic drug interaction)と薬力学的相互作用(pharmacodynamic drug interaction)に大別される.前者は薬物の吸収,分布,代謝及び排泄における相互作用の結果,薬物あるいは活性代謝物の血中濃度あるいは組織分布が変化することにより引き起こされるものである.後者は薬理作用が重なり合ったり,また,うち消しあったりすることにより,あるいは併用薬物が薬物感受性を変化させることにより生じる現象である.薬力学的相互作用について,一般的な検討方法として本ガイドラインで示すことは困難であり,薬力学的相互作用を検討するための試験の実施については,薬物の薬理作用や予想される臨床適応に応じて,適宜判断することが必要である.また,本ガイドラインでは一般的な薬物代謝酵素,又はトランスポーターを介する薬物動態学的相互作用を中心に述べるが,ソリブジンと5―フルオロウラシルの併用における有害作用発現事例のように,薬物によっては本ガイドラインで示す一般的な代謝酵素以外の酵素を強く阻害し,その結果として当該酵素により代謝される併用薬物の体内動態に影響を与えることにより薬物動態学的相互作用を生ずる場合があることにも注意が必要である.なお,製剤学的相互作用,生化学的臨床検査値に対する薬物の影響,及び現状では十分な知見がなく医薬品開発における薬物相互作用に関する検討の必要性を判断できない事例については,本ガイドラインでは可能性の紹介に留めた.

1.3 薬物相互作用試験の実施における原則

薬物相互作用は,開発中の薬物(被験薬)及び併用される可能性のある既承認薬などについて,相互作用を受ける可能性と相互作用を与える可能性の両面から検討する必要があり,臨床薬物相互作用試験の実施に先立ち,非臨床試験において薬物相互作用の要因となりうる基本項目について十分に検討する.一般に,薬物相互作用の臨床的影響を予測・評価するために,薬物相互作用の認められた経路が薬物の主要消失経路に関与する程度を定量的に把握しておくことが必要である.この目的のために,ヒト組織,及びヒト酵素やトランスポーターの発現系を用いたin vitro試験などをまず実施し,臨床で相互作用が発現する可能性を探索する.その可能性が認められた場合には,実施すべき臨床薬物相互作用試験を計画する.次に臨床薬物相互作用試験を実施して相互作用の程度を確認し,最終的にその成績に基づき,広範な薬物との組合せの中から,薬物治療への影響を考慮した上で,回避すべき,あるいは注意喚起すべき相互作用を選択することが重要である.また,その情報は医療従事者に分かりやすく簡潔に提供されなければならない.

薬物相互作用試験は,事前に得られた被験薬の物理的・化学的特性,薬理学的・薬物動態学的特性に基づいて予想される薬物相互作用の発現機序に基づき計画・実施する.薬物代謝酵素やトランスポーターに対する強い阻害薬などを用いたin vitro試験及び臨床薬物相互作用試験の結果は,他の薬物併用時の薬物相互作用の予測に有用である.臨床において,血中に代謝物が多く存在するような場合又は有害な作用を引き起こす可能性がある代謝物,又は臨床的に意味のある薬理活性を有する代謝物が生成する場合においては,当該代謝物についても必要に応じて薬物相互作用を生じる可能性を検討する.また,医療用配合剤や併用効能の開発など,被験薬が他の薬物との併用投与を目的として開発されている場合は,基本的には当該両薬物の併用による薬物相互作用試験を実施する.

医薬品開発における薬物相互作用試験は,開発の相を踏まえて段階的に実施する.被験薬の薬物動態に対する他の薬物の作用(被験薬が被相互作用薬となる場合)及び被験薬が他の薬物の薬物動態に及ぼす作用(被験薬が相互作用薬となる場合)を評価するin vitro試験は,多数の被験者あるいは長期間の投与を行う前(通常,第Ⅲ相試験開始前)までに実施しておくべきである.通常,第Ⅰ相試験を開始する前に,in vitro試験に基づき被験薬の血漿蛋白結合率及び主な代謝物を明らかにする.また,臨床における薬物相互作用試験及びヒトにおけるマスバランス試験は,原則,第Ⅲ相試験開始前に実施することが望ましい.以上の検討方針に従い段階的に収集されたin vitro又は臨床薬物相互作用試験に基づく情報は,治験薬概要書に記述するなどの方法で,より後期の臨床試験の実施の際に適切に提供される必要がある.

医薬品開発の各段階において,薬物相互作用の可能性を予測し,臨床試験の実施と試験デザインに関する情報を得るために,生理学的薬物速度論(Physiologically based pharmacokinetics(PBPK))などを活用したモデルとシミュレーションが有用である.モデリングとシミュレーションによる検討においては,検討目的に応じて,使用するモデルや実施するシミュレーションの性質を十分理解するとともに得られた結果の信頼性の確認が必要である.承認申請時にシミュレーション結果を利用する場合には,モデルの設定に関する仮定とモデル構築の過程の情報を提供し,統計学的側面からの検討とともに生理学的及び医学・薬学の観点から,構築されたモデルと実施したシミュレーション結果の妥当性を示す必要がある.

臨床において被験薬と併用薬の間で顕著な薬物相互作用が観察されたものの相互作用の機序が明らかではない場合には,追加の検討を行うことにより,薬物相互作用が生じる機序を解明することが推奨される.

なお,薬物相互作用を検討する臨床試験の実施に当たっては,医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(GCP)を遵守して行い,薬物動態の評価は「医薬品の臨床薬物動態試験について」に準拠して行う.

2.吸収における薬物相互作用

消化管からの吸収過程における薬物相互作用は,主に経口投与される被験薬で問題となるが,薬物投与後に消化管吸収される可能性のある吸入薬,経鼻薬,口腔粘膜吸収薬などについても,同様の薬物相互作用を考慮すべきである.

また,薬物の吸収過程には,併用薬だけでなく飲食物中の成分も大きな影響を及ぼすことがある.これらの影響の多くは薬物及び製剤の物理的・化学的特性及びその薬理作用の十分な理解により定性的な予測が可能である.したがって,以下2.1~2.2の項目に該当する可能性について考察するとともに,それらから予想できないような薬物動態の変化が認められた場合には,必要に応じて,後述の代謝酵素あるいはトランスポーターを介した相互作用の可能性も含めて,その原因を検討する.

吸収過程に及ぼす食事の影響については製剤により影響が異なるため,最終製剤について検討する.最終製剤の定義については「医薬品の臨床薬物動態試験について」を参照する.

2.1 消化管内におけるpHの変化,複合体・キレートの形成及び溶解性への影響

2.1.1 被験薬が被相互作用薬となる場合

薬物又は製剤の溶解性にpH依存性が認められる薬物においては,胃内pHを変化させる薬物(プロトンポンプ阻害薬,H2受容体拮抗薬,及び制酸薬など)との併用による消化管吸収への影響を臨床薬物相互作用試験において評価する必要性を検討すべきである.

また,併用薬及び飲食物成分(カルシウムなど)との間で複合体,キレート又はミセルなどが形成されることで,被験薬の消化管吸収を低下又は増加させる場合があるので,薬物の物理的・化学的特性を踏まえ,必要に応じ複合体等が形成する可能性についてin vitroで評価する.さらに物理的・化学的特性及びin vitroデータから,臨床において複合体等の形成が問題となる可能性が示された場合には,飲食物などとの臨床相互作用試験の必要性を検討すべきである.小児に適応される医薬品では,新生児及び乳児におけるミルクの摂取など,食事内容の特徴も考慮する.

食事の影響の検討は,食事の影響を最も受けやすい条件で実施することが望ましい.脂溶性が高く消化管内での溶解性が低い薬物の中には,高脂肪食の摂取に起因する胆汁の分泌増加などにより溶解性が高まり,薬物の消化管吸収が増加する場合もある.

2.1.2 被験薬が相互作用薬となる場合

被験薬が胃内pHを変化させる場合,pH依存性を示す他の薬物の消化管吸収への影響を予測し,臨床薬物相互作用試験において評価する必要性を検討すべきである.また,被験薬の化学構造によっては,複合体の形成を介して薬物の吸収阻害を生じるなど,他の機序の可能性についても検討する.

2.2 消化管運動に及ぼす影響

2.2.1 被験薬が被相互作用薬となる場合

消化管運動に影響する薬物(プロパンテリン,メトクロプラミドなど)との併用は,製剤の崩壊性や小腸移行速度を変化させ消化管からの薬物の吸収速度を変動させうる.また,摂食により胃内容物の排出速度が遅くなり,小腸からの吸収遅延が認められることがある.これらのうち,特に血中濃度-時間曲線下面積(AUC)の変化を伴う体内動態の変動が認められた場合には,被験薬の代謝への影響にも注意する必要がある.

2.2.2 被験薬が相互作用薬となる場合

被験薬が胃排出又は腸管運動に対して影響を及ぼすことが明らかな場合,他の薬物の薬物動態に影響を与える可能性がある.その場合には,臨床的に問題となる薬物相互作用の生じる可能性について検討し,必要に応じて適切な指標薬(胃排出に対する作用の指標薬としてアセトアミノフェンなど)に対する作用を評価すべきである.このような胃排出又は腸管運動に対する影響は,被験薬が非経口投与される場合であっても生じる可能性があることに留意する.

2.3 吸収におけるトランスポーターの関与

消化管上皮細胞の管腔側の細胞膜上に発現しているトランスポーターにより吸収される薬物では,同じトランスポーターにより吸収される薬物又は飲食物成分との間に相互作用が生じ,薬物の吸収が低下することがある.また,小腸管腔側の細胞膜上には排出トランスポーターが発現していて,一部の薬物については,上皮細胞中に管腔側から取り込まれた後,基底膜側(門脈側)に移行する前に,排出トランスポーターによって小腸管腔側へ排出される.排出トランスポーターの阻害により薬物の吸収が増大する薬物相互作用も報告されている1,2)(表6―1参照).また,消化管における排出トランスポーター(P―糖蛋白質,P―glycoprotein(P―gp))の発現誘導により,薬物の吸収が低下する薬物相互作用も報告されている3,4)(表6―2参照).

消化管上皮細胞の管腔側に発現するP―gp及びbreast cancer resistance protein(BCRP)は,いずれも排出トランスポーターとして,基質となる薬物の消化管吸収を低下させる(表6―1参照)ことから,被験薬がP―gp又はBCRPの基質となる可能性についてin vitro試験により評価する.In vitro試験法としては,Caco―2細胞又はトランスポーター発現細胞株を用いた双方向の経細胞輸送実験が推奨される.この試験結果に基づき,臨床薬物相互作用試験の必要性を検討すべきである(検討手順は6.2項及び図6―2を参照).また,消化管における吸収や排出にP―gp又はBCRP以外のトランスポーターが大きな影響を及ぼすことが示唆された場合には,Caco―2細胞又はトランスポーター発現細胞株などを用いて,寄与するトランスポーターの特定やその寄与の程度を検討し,必要に応じて,臨床薬物相互作用試験の実施も考慮する.

P―gp又はBCRPの基質と阻害薬の併用により,基質の吸収が増大する可能性があることから,被験薬のP―gp及びBCRPに対する阻害作用についてもin vitro試験により評価する.この試験結果に基づき,臨床薬物相互作用試験の実施の必要性を検討する(検討手順は,6.2項及び図6―3を参照).また,P―gp又はBCRP以外のトランスポーターに対する阻害作用が併用薬の吸収に影響を及ぼすことが示唆された場合は,in vitro試験によりその程度を検討し,必要に応じて,臨床薬物相互作用試験の実施も考慮する.

飲食物成分やサプリメントに関しては,セントジョーンズワートによるP―gpの誘導の他,グレープフルーツジュース,オレンジジュース,リンゴジュースなどによる取り込みトランスポーターorganic anion transporting polypeptides(OATPs)の阻害による相互作用も報告されている5,6)

2.4 消化管における薬物代謝酵素を介した薬物相互作用

消化管,特に小腸粘膜では,CYP3Aが多く発現している.小腸においてCYP3Aによる初回通過代謝を大きく受けるような被験薬では,CYP3Aを阻害する薬物の併用によりバイオアベイラビリティが増大し,予期しない副作用につながる可能性がある.一方,CYP3Aを誘導する薬物の併用により肝臓と同様に小腸においてもCYP3Aが誘導されると,被験薬の血中濃度が低下することで治療域に到達せず,期待する効果が得られなくなる可能性がある.したがって,被験薬の初回通過代謝の程度などを考察し,必要に応じて小腸における薬物相互作用について検討することが望ましい.一方で,被験薬がCYP3Aを阻害する場合においては,小腸における代謝阻害の観点からもin vitro試験を行い,臨床薬物相互作用試験の実施の必要性を検討する(検討手順については4.1項,4.2項及び図4―1,図4―2を参照).

また,CYP3A阻害を示す飲食物中の成分の影響も考慮する必要がある.例えば,グレープフルーツジュース中にはCYP3Aを強く阻害する物質が存在するため,CYP3Aにより主として代謝される経口薬をグレープフルーツジュースと一緒に服用した場合にバイオアベイラビリティが上昇したとの報告がある7)

CYP3Aの基質薬はP―gpの基質薬であることが多いが,薬物相互作用へのCYP3A及びP―gpの寄与を分離して評価することは現状では容易ではなく,その両方が阻害あるいは誘導された場合の薬物相互作用のリスクを念頭に置いて評価する.

3.組織移行及び体内分布における薬物相互作用

薬物の多くは血漿中で血漿蛋白質と結合して存在し,また,組織内では蛋白質やある種の組織成分と結合している.血漿と組織の間の薬物の移行は非結合形(型)によることから,蛋白結合の置換による非結合率の変動が薬物相互作用の原因となることがある.また,薬物によってはその組織分布にトランスポーターが関与する.

3.1 血漿蛋白結合

薬物が血漿中において結合する蛋白質は主にアルブミンであるが,一部の薬物はα1―酸性糖蛋白質,リポ蛋白質,あるいはその他の蛋白質に結合する.In vitroで血漿蛋白質との結合率が高い被験薬については,結合蛋白質の種類と結合の程度を明らかにしておくことが薬物相互作用の検討に必要である.

薬物相互作用により分布が変化する最も一般的な原因は,血漿蛋白質と結合した薬物の置換によるものである.血漿蛋白質と強く結合する併用薬により,被験薬が結合蛋白質から遊離し,血漿中非結合形濃度が上昇する.しかしほとんどの場合,置換は臨床上の重要な変化をもたらさない.但し,被験薬の血漿蛋白結合率が約90%以上で,治療域が狭く,かつ,以下の条件のいずれかを満たす場合には,血漿蛋白質と強く結合することが知られる薬物との併用により重要な相互作用を受ける可能性があることを考慮する必要がある.

1) 分布容積が小さい薬物.この場合は薬物のクリアランスの大きさ及び被験薬の投与経路の違いは問わない.

2) 主に肝における除去により体内から消失し,しかもその肝クリアランスが大きい被験薬を静脈内に投与する場合.

3) 主に腎からの除去により体内から消失し,しかもその腎クリアランスが大きい被験薬の場合.この場合は投与経路を問わない.

一方で,血漿蛋白結合の置換を介して併用薬の体内動態に影響を及ぼす薬物は,結合対象の蛋白質濃度と少なくとも同程度の血漿中濃度を示す薬物に限られることにも注意が必要である.なお,臨床上問題となる副作用の発現や薬効の変化は非結合形の濃度に依存するので,血漿蛋白結合率の変動が予想される臨床薬物相互作用試験では,非結合形濃度の測定も考慮すべきである.実際にヒトでの分布容積が大きく,かつ肝クリアランスが小さい被験薬においては,併用薬による血漿蛋白結合の置換は血漿中の被験薬の総濃度を低下させるが,非結合形濃度にはほとんど影響を与えないので,臨床上の重要な結果をもたらさない.この事例として,定常状態にあるフェニトインは,バルプロ酸を併用投与したとき血漿中総濃度は低下するが,非結合形濃度には変化が認められないことが報告されている8)

3.2 組織移行及び体内分布

組織中の特定の成分との結合の変動による薬物相互作用に加えて,各組織に発現する取り込み・排出トランスポーターの阻害や誘導が生じることにより被験薬の組織分布が変化する可能性にも留意すべきである.

3.2.1 特定の組織成分との結合

薬物によっては,組織の受容体,蛋白質,脂質などと特異的に結合し,結合における競合により組織内の非結合形の薬物濃度が変化し薬物相互作用が生じることがある.

3.2.2 組織への取り込み及び排出におけるトランスポーターの関与

肝臓,腎臓,脳,胎盤や網膜などに存在する血液と組織を隔てる関門組織にはトランスポーターが発現しており,各組織への薬物の分布(取り込み及び排出)に関与する.トランスポーターを介した能動輸送過程において薬物相互作用が生じる場合には,当該組織中の非結合形薬物濃度に影響を与え(取り込みの阻害により減少,排出の阻害により増加する),その組織での作用や副作用発現に影響を与える可能性がある留意事項(1)

組織分布における薬物相互作用は,必ずしも血漿中の薬物濃度の変化に反映されるとは限らない.特に,全身の分布容積に比して分布容積が小さい組織のみにおいて能動輸送過程に相互作用が生じる場合は,当該組織中の薬物濃度が変動しても,血漿中の薬物濃度の変動に反映されないため注意が必要である.一方で,肝臓,腎臓などの主要な分布,排泄臓器において薬物相互作用の生じる場合には,薬物の分布容積,全身クリアランスにも影響し,血漿中の薬物濃度が変動することもある(5.1項,5.2項参照).

4.薬物代謝における薬物相互作用

薬物代謝が関連する相互作用試験では,相互作用が生じる代謝経路を特定し,被験薬が被相互作用薬である(薬物相互作用を受ける)場合は全体の消失経路の中でその経路が占める重要性を定量的に把握し,また相互作用薬である(薬物相互作用を与える)場合は,阻害,誘導などの機序によりその経路の活性に与える影響を評価することが重要である.薬物代謝においては1つの酵素が多数の薬物の消失に関与することが一般的であり,中でも最も重要な酵素であるCYP3Aは基質特異性が低く薬物相互作用に関係する薬物の数が非常に多い.そのために網羅的な臨床試験の実施は難しく,比較的少数の臨床薬物相互作用試験の結果から,モデリングとシミュレーションを利用して評価することが有用な場合も考えられる(4.3.3項参照).

薬物代謝が関与する薬物相互作用の多くは,酸化的代謝,特にシトクロムP450(P450)が関連する.また,UDPグルクロン酸転移酵素(UGT)などの非P450酵素が薬物相互作用に関与することも知られている9).本項では,主としてP450の関与する薬物相互作用の可能性の検討について述べる.4.1項で主要消失経路の特定と薬物相互作用の寄与の程度の評価について,4.2項においてP450とその他の代謝酵素の場合に分けて,薬物相互作用の可能性を検討する具体的な方法について述べる(図4―1~3).また,in vitroにおける代表的なP450酵素反応,P450阻害薬及び誘導薬の例,in vivoにおける代表的なP450の阻害薬,誘導薬及び基質薬の例を示した(表4―1~3,表7―1~3).

4.1 被験薬の主要消失経路とin vivo寄与率の評価

被験薬が被相互作用薬となる可能性を検討し,薬物相互作用の寄与の程度を定量的に評価するためには,経口薬の場合,被験薬の経口投与時のクリアランス(CL/F)に対する,薬物相互作用を生じる経路のin vivoにおける寄与率(Contribution Ratio, CR)が重要である10).被験薬の主要消失経路が代謝である場合は,4.1.1及び4.1.2に示す検討手順に従って寄与率の大きい酵素分子種を特定し,その寄与の程度を可能な限り明らかにする必要がある(図4―1参照).一般に,in vitro代謝試験からCRを推定する場合には,ヒト肝ミクロソームなどにおいて当該酵素で代謝される割合fm(fraction metabolized)を代用する*留意事項(2).In vitro代謝試験及び臨床薬物動態試験の結果から,特定の代謝酵素による消失が被験薬の消失全体の25%以上に寄与すると推定される場合は,当該酵素の相互作用薬(阻害薬,誘導薬:表7―1,表7―2参照)を用いて臨床薬物相互作用試験の実施を考慮する.なお,被験薬の臨床適応上の投与経路が経口投与であっても,必要に応じて静脈内投与試験を実施することで,被験薬の全身クリアランスにおける腎排泄の寄与を明らかにすることができる.

被験薬がプロドラッグで作用の本体が活性代謝物である場合,あるいは薬理活性を有する代謝物を生成し,そのin vitro活性と非結合形薬物のAUCに基づいて推定されたin vivoにおける薬理作用が全体の作用の50%以上を占める場合,又は有害な作用を引き起こすと疑われる場合は,当該代謝物の主要生成経路及び消失経路に寄与する代謝酵素を特定し,未変化体と同様に相互作用を受ける可能性を検討する.

4.1.1 In vitro代謝試験による主要消失経路に関与する酵素の同定

In vitro試験の実施においては,in vivoにおける代謝プロファイルを反映する実験方法,試験系,適切な基質及び相互作用薬並びにその検討濃度を選択する.通常,酵素の種類に応じて,ヒト肝及び小腸ミクロソーム並びにS9画分,ヒト肝細胞,ヒト酵素の発現系ミクロソームなどを選択する.P450及びUGTは,発現系を除き,上述の全ての系に存在する(通常,発現系細胞は1種類の酵素しか高レベルに発現していない).硫酸転移酵素,グルタチオン転移酵素,アルデヒド脱水素酵素,アルコール脱水素酵素などの可溶性画分に存在する酵素は,S9画分及び肝細胞に含まれる.肝細胞にはトランスポーターも発現している.試験結果を解釈する際には,使用したin vitro試験系の特徴を十分に考慮すべきである.

In vitro代謝試験は,通常,治療上意味のある被験薬濃度を用いて,可能ならば線形条件下において実施する.多酵素系では,各酵素の選択的阻害薬(表4―2参照)を添加して,被験薬の代謝に対する各酵素の寄与を評価することが可能である.阻害薬の特異性が十分に高くない場合は,特定の代謝酵素分子種以外が発現していないin vitro試験系を利用することが推奨される.特異性が十分に裏付けられている抗体があれば,阻害薬の代用として使用可能である.代謝に関与する主要な酵素をin vitroで特定するためには,複数のin vitro試験系で評価を行い,結果を比較することが推奨される*留意事項(3)

代謝は,被験薬の消失速度又は代謝物の生成速度として評価する.特定の代謝経路を触媒する酵素活性を評価する場合には,被験薬又は指標薬の減少よりも代謝物の生成速度として検討することが推奨される.一方で,被験薬の消失全体における当該代謝経路の寄与を把握する目的では,当該被験薬の消失速度として評価することが重要である.

4.1.2 マスバランス試験による主要消失経路の同定及び定量的評価

ヒトにおけるマスバランス試験は体内における薬物の物質収支を把握する試験であり,未変化体に加えて代謝物の薬物動態に関する情報,及び主要消失経路の同定に有用な情報が得られる.マスバランス試験で得られた情報をin vitro試験結果と統合することにより,被験薬のin vivoでの主要な消失経路及びその経路に関与する酵素の寄与率を推定することが可能である.ただし,マスバランス試験が主要消失経路の同定に特に有用なのは,その経路が単純な場合であり,多段階の代謝が複雑に絡み合っている場合には,その解釈に注意が必要である.なお,未変化体及び既知の代謝物の回収率が高く,未知の代謝物が少ない被験薬の場合には,必ずしもマスバランス試験を放射性標識体で実施する必要はない.

マスバランス試験では,通常代謝的に安定な位置に放射標識した被験薬を投与し,総放射能のAUCと,未変化体及び代謝物のAUC,並びに尿中及び糞便中排泄量を測定する.薬物関連物質はできるだけ多く特定することが望ましい.一般的に,薬物関連物質の総AUC(マスバランス試験の場合は総放射能のAUC)に対する割合が10%を超える代謝物については,その化学構造を推定することが推奨される.この場合,通常はAUCの群平均値,例えば,0時間から無限大までのAUC(AUCinf)に基づいて代謝物の割合を算出する.

マスバランス試験で得られた情報とin vitro試験結果に基づき,in vivoでの被験薬の主要な消失経路及びその経路に関与する酵素の寄与率の推定の際には,通常,以下の手順で行う.被験薬の化学構造から予想される代謝反応及びマスバランス試験などで測定された代謝物に基づき,代謝経路を推定し,次に,特定の経路において一次代謝物及び二次代謝物として排泄される薬物関連物質量に基づき,各代謝経路による消失の定量的な寄与率を推定する.被験薬の総消失量(初回通過分を含む)に対する主要経路の推定寄与率は,1つの主要経路に由来する全代謝物の排泄物中の総量を,投与量又は排泄物中に認められた薬物関連物質の総量で除した値である.相当量の未変化体が糞便中に認められ,これが胆汁(又は消化管壁)分泌に由来することを確認できない場合,排泄物中で認められた薬物関連物質の量から糞便中で認められた未変化体の量を減じた値を計算式の分母とする.以上の手順などにより,各(主要)消失経路のin vivo寄与率(最大の推定値)を算出する.

4.2 In vitro試験による臨床試験を実施する必要性の評価

In vitro酵素阻害試験は,ヒト肝ミクロソーム,ヒト肝細胞,評価対象の酵素の発現系ミクロソームなどを用いて実施する.反応液中での被験薬の代謝が速い場合には,被験薬の濃度低下を最小限に抑えるため,被験薬と比較して十分に代謝が速い指標薬を使用してKi(阻害定数:酵素―阻害薬複合体からの阻害薬の解離定数)の評価を行う.選択的阻害薬(表4―2参照)を使用して陽性対照実験を行い,同様の方法で評価されたKi値などの文献値と比較し,試験系の妥当性を確認する.

In vitro酵素誘導及びダウンレギュレーション試験では,初代培養肝細胞(新鮮又は凍結保存)を使用することが望ましい.現時点では,ヒト肝腫瘍由来細胞株(HepaRGなど),核内受容体結合アッセイ,リポーター遺伝子アッセイなど,他のin vitro試験系から得られたデータは,初代培養肝細胞系から得られたデータの補足データとして位置づけられる.一般に,初代培養肝細胞を用いて得られる結果は個体間変動やロット差が大きいため,3名以上のドナー由来の肝細胞を用いて,適切な溶媒対照及び陽性対照を評価に含め,試験系の妥当性を担保する*留意事項(4)(表4―3参照).評価項目としては,被験薬の酵素阻害作用により酵素誘導を見落とすことを避けるため,標的遺伝子のmRNA発現量の変化を用いることが推奨される.ただし,被験薬が酵素阻害作用(特に時間依存的阻害,4.2.1.3項参照)を有していないことが明らかな場合には,酵素活性を評価項目とすることも可能である.この際,濃度依存的な酵素活性の変動(誘導)が認められた場合には,mRNAを評価項目とする場合と同様の基準で臨床薬物相互作用試験の必要性を判断する(4.2.1.6項参照).

4.2.1 シトクロムP450(P450)を介した薬物相互作用に関する検討方法

P450には多くの分子種が知られているが,主要な分子種はCYP1A2,2B6,2C8,2C9,2C19,2D6及び3A(CYP3A4及びCYP3A5)である.被験薬がこれらの分子種による代謝を受ける場合は,in vitro代謝試験及び臨床薬物動態試験からその消失への寄与を推定する.また,in vitro試験からP450に対する阻害や誘導の可能性が考えられる場合には,臨床薬物相互作用試験を実施する(図4―1~3参照).被験薬の代謝における主要なP450分子種の寄与が小さい場合には,他のP450分子種(例:CYP2A6,2E1,2J2,4F2)あるいはP450以外の第Ⅰ相酵素や第Ⅱ相酵素の基質となる可能性を検討する.

4.2.1.1 被相互作用薬となる可能性を検討するin vitro試験系

P450分子種の寄与率の推定は,一般的にヒト肝ミクロソームを用いた試験系により検討する.試験系の妥当性は,通常,反応時間依存性及びミクロソーム蛋白量依存性などを,代謝物の生成速度を指標として評価することで確認する.用いる被験薬濃度などの試験条件によりP450分子種の寄与率が異なる場合には,in vivoの条件を考慮して評価する必要がある11―13)

4.2.1.2 被相互作用薬となる可能性を検討する臨床試験の必要性

In vitro代謝試験及びマスバランス試験などの結果から,特定のP450分子種による代謝が被験薬の消失全体の25%以上に寄与する場合には*留意事項(5),被験薬がそのP450分子種の関与する薬物相互作用の被相互作用薬になる可能性があることから,適切な代謝酵素阻害薬及び誘導薬(7.6項,7.7項,表7―1,表7―2参照)を用いての臨床薬物相互作用試験の実施を考慮する(図4―1参照).当該試験においては,可能な限り最初に強い阻害薬(7.6項,表7―1参照)を用い,被験薬の薬物動態の変化の程度を評価する.試験結果により薬物相互作用がないと判断された場合(7.2項,図4―1参照),あるいは相互作用が軽微である場合には,被験薬の消失全体における当該酵素の寄与は小さいことが多く,臨床薬物相互作用試験を追加して実施する必要性は低い.一方,強い阻害薬を用いた相互作用試験の結果から,用量調整の必要性を考慮すべき薬物相互作用を受けることが示唆された場合は,必要に応じて、臨床的に併用される可能性を考慮のうえ,同じ経路の他の阻害薬の影響を臨床薬物相互作用試験で評価する.PBPKモデルの妥当性が確認され臨床試験の結果を矛盾なく説明できる場合は,モデルによる評価も可能である.それ以外の阻害薬との相互作用の評価は,通常の臨床試験の中での併用事例データに基づき検討することも可能である.誘導薬との臨床薬物相互作用試験は,阻害薬との臨床薬物相互作用試験の結果から,シミュレーションなどにより臨床的に問題となる薬物相互作用が生じるリスクがあると判断された場合には必要となる.なお,サプリメントであるセントジョーンズワート中には,CYP3Aを誘導する物質が存在するので,CYP3Aにより主として代謝される被験薬との併用については注意が必要である.

4.2.1.3 相互作用薬(P450阻害)となる可能性を検討するin vitro試験系

被験薬がP450に対して阻害作用を及ぼすか否かについて,in vitro試験系により評価する(図4―2参照).通常,主要な分子種であるCYP1A2,2B6,2C8,2C9,2C19,2D6及び3Aに対する阻害作用を検討する.表4―1に,in vitroにおけるP450のマーカー反応を示す.In vitro試験で使用する基質の濃度は文献を参照し,通常,Km値付近かそれ以下とする.CYP3Aの阻害作用は,ミダゾラムとテストステロンなどの基質結合部位の異なる複数の基質を用いて評価する14)

一定範囲の濃度で被験薬の阻害作用を評価し,当該P450のマーカー反応に対するKi値を算出する.被験薬の濃度範囲は,臨床で起こりうる阻害が適切に評価可能となるよう十分に高濃度まで設定する.設定する被験薬の濃度範囲は,予想される酵素阻害部位(肝臓,小腸),投与方法,剤形,薬物動態パラメータ(Cmax又はAUC)に応じて変わるが,通常は,Cmax(結合形+非結合形)の10倍以上を含む濃度設定とし,濃度依存的な阻害が認められた場合にはKi値を算出する.In vitro試験系におけるKi値の算出の際には,反応系における被験薬の非結合形濃度が総濃度よりも顕著に低いと予想される場合,反応液中の非結合形濃度の推定値又は実測値を使用する15).これは,被験薬が試験管壁に著しく吸着する可能性がある場合などにも当てはまる.

未変化体に加えて,主要な代謝物による酵素阻害作用についても検討することが望ましい.評価対象とすべき判断基準としては,第Ⅰ相代謝物のうち,AUCが未変化体の25%以上かつ薬物関連物質の総AUCの10%以上を占める代謝物とする.その他の代謝物においても,強い酵素阻害が疑われる理由がある場合には阻害作用を検討する.In vivoで観察された薬物相互作用が特定の代謝物に起因することが示されている場合,in vitroでの代謝物による酵素阻害試験の実施は,臨床薬物相互作用試験のデザイン及び試験結果の解釈に有用である.また臨床薬物相互作用試験では,薬物相互作用に関連する可能性のある代謝物の血中濃度を測定することが推奨される.

代謝物の阻害作用を検討する際においても,未変化体と同様,代謝物のCmax(結合形+非結合形)の10倍以上を含む濃度設定とし,Ki値の算出を行う場合には,必要に応じて,ミクロソームなどへの結合率を推定あるいは実測するなどして非結合形濃度に補正する.

In vitro試験において,プレインキュベーションにより阻害作用が増強する場合は,時間依存的阻害(time―dependent inhibition, TDI)があると判断する.TDIが認められた場合は,kinact値(最大不活性化速度定数)及びKI値(最大不活性化速度の50%の速度をもたらす阻害薬の濃度)を推定する16).In vitro試験の条件(例えば,蛋白質の濃度が高く非結合形の濃度が顕著に低いことが想定される場合には,ミクロソーム蛋白への非特異的な結合を評価する必要があるなど)が結果に影響を及ぼす場合があることを十分に考慮してTDIを評価する必要がある.

4.2.1.4 相互作用薬(P450阻害)となる可能性を検討する臨床試験の必要性

被験薬が阻害薬となる可能性を評価するための臨床薬物相互作用試験を実施するか否かは,in vitroデータなどに基づく,以下に述べるカットオフ基準による評価を行う(図4―2参照).カットオフ基準に加えて,静的薬物速度論(MSPK)モデル,生理学的薬物速度論(PBPK)モデルなどを用いた検討が可能である(4.3項参照).カットオフ基準は,以下で述べる式に従い,特定の酵素反応に対する被験薬の存在下と非存在下における基質の固有クリアランス値の比(R値)を算出する.算出したR値に基づき,臨床薬物相互作用試験を実施する必要性の有無を判断する.被験薬に関する評価においてこの基準を超える場合には,薬物動態学的相互作用を受けやすい基質薬(7.8項及び表7―3参照)を用いて,そのリスクを臨床試験で検討する.

モデルを用いた検討における判断基準として,生物学的同等性の評価に使用するAUC比(AUCR)の90%信頼区間が0.8~1.25を使用できる.モデルにより推定されるAUCRが0.8~1.25の範囲外であった場合には,原則として臨床薬物相互作用試験が必要になる.なお,阻害(可逆的又はTDI)及び誘導の双方向の作用によって生じる薬物相互作用の定量的評価にモデルを適用した経験は限られていることから,臨床薬物相互作用試験を実施する必要性の有無を判断する際には,現状では阻害と誘導は別個に評価した上で保守的な判断をすべきである17)

1―1) 可逆的阻害

R値は,in vitro阻害定数(Ki)及び臨床最大用量を投与したときにin vivoで達成される阻害薬(被験薬又は代謝物)の最高濃度[I]により以下の式に従って決定される.

式1

R=1+[I]/Ki

[I]:Cmax(結合形濃度+非結合形濃度),あるいは,[I]g:投与量/250mL

Ki:in vitro試験で測定した阻害定数

Ki値の代わりに50%阻害濃度(IC50)を用いる場合もある.ただし,IC50値を使用する場合は,基質濃度がKm値付近の場合は競合阻害を仮定してKi=IC50/2,あるいは基質濃度がKmより明らかに小さい線形条件下ではKi=IC50とするなど,科学的な根拠を示す必要がある.

通常は,保守的な[I]として,阻害薬の全身血中Cmaxの総濃度(結合形濃度+非結合形濃度)を用い,R値のカットオフ基準は,1.1を使用する17,18).経口投与薬の場合は,消化管で高発現するP450(例:CYP3A)を阻害する可能性に留意すべきであり,消化管内の最高濃度[I]gとして投与量/250mLを用いる方が全身血中濃度よりも阻害薬の最高濃度を適切に反映する可能性がある(但し,低溶解性化合物には当てはまらない場合がある).[I]gを用いる場合,代替R値(R=1+[I]g/Ki)のカットオフ基準は11を使用する.R値が1.1又は11(代替R値)を下回る場合は,臨床薬物相互作用試験の実施は不要である.この基準を上回る場合は,4.3項に示すモデルを用いた検討結果も考慮した上で,最もR値が大きいP450を対象に,薬物動態学的相互作用を受けやすい基質薬(7.8項,表7―3)を用いる臨床薬物相互作用試験を実施する.当該臨床薬物相互作用試験において薬物相互作用がないと判断された場合(7.2項,図4―2参照)には,他のP450に関する臨床薬物相互作用試験の実施は不要である.

1―2) 時間依存的阻害(TDI)*留意事項(6)

P450を阻害する薬物相互作用の多くは可逆的であるが,阻害作用が経時的に増加し,必ずしも完全には可逆的でない場合,TDIがみられることがある.TDIは,主として化学反応性の高い代謝中間体の形成を触媒する酵素に,生成した中間体が不可逆的に共有結合又は強力かつ準不可逆的に非共有結合することに起因すると考えられる.

In vitroでの標準的なTDI評価方法では,基質を添加する前に被験薬を試験系でプレインキュベートする.基質の代謝物の生成率が時間依存的に低下する場合は,TDIが示唆され,in vitro試験でTDIのパラメータ(kinact及びKI)を算出する16).一般に,阻害を受ける酵素の濃度が阻害薬の存在下で新たな定常状態に達しており,阻害薬が酵素の新規合成に影響を与えないという前提で評価する.可逆的阻害とは異なり,TDIのR値は,阻害薬の濃度及びTDIのパラメータ(kinact及びKI)に加えて,酵素分解の速度定数(kdeg)にも左右される(式2).

式2

R=(kobs+kdeg)/kdeg,ただし,kobs=kinact×[I]/(KI+[I])

[I]:Cmax(結合形濃度+非結合形濃度),あるいは,[I]g:投与量/250mL

KI:最大不活性化速度の50%の速度をもたらす阻害薬の濃度

kdeg:酵素の分解速度定数,kinact:最大不活性化速度定数,kobs:見かけの不活性化速度定数

In vitro試験の結果からTDIが生じる可能性が示唆される場合(肝でR>1.1あるいは小腸でR>11)は,可逆的阻害の場合と同様に,4.3項に示すモデルを用いた検討結果も考慮した上で,薬物動態学的相互作用を受けやすい基質薬(7.8項,表7―3)を用いる臨床薬物相互作用試験を実施する.

4.2.1.5 相互作用薬(P450誘導及びダウンレギュレーション)となる可能性を検討するin vitro試験系

被験薬により,核内受容体又はその他のP450の発現制御経路への影響を介した代謝酵素の誘導又はダウンレギュレーション*留意事項(7)が起こりうるため,薬物相互作用が生じる可能性を検討する(図4―3参照).一般に,in vitroでの検討に基づき,臨床薬物相互作用試験の必要性を検討するが,直接,臨床薬物相互作用試験で誘導を評価する場合もある.

通常,in vitro試験でCYP1A2,2B6及び3A(通常はCYP3A4)について酵素誘導作用を検討する.核内受容体であるpregnane X receptor(PXR)の活性化により,CYP3A及びCYP2C(CYP2C9やCYP2C19など)が共誘導されることから,CYP3Aの誘導を評価するin vitro試験の結果により誘導作用がないと判断された場合は,CYP3Aの臨床薬物相互作用試験及びCYP2Cのin vitro又は臨床における誘導試験を更に行う必要はない.CYP3A誘導試験の結果により誘導作用があると判断された場合は,CYP2Cの誘導をin vitro又は臨床試験のいずれかで検討する.CYP1A2及びCYP2B6はPXRとは異なる核内受容体(aryl hydrocarbon receptor(AhR)及びconstitutive androstane receptor(CAR)により誘導されるため,被験薬がCYP1A2及びCYP2B6を誘導する可能性は,CYP3Aの試験結果に関わらず検討する.

検討対象の濃度範囲は,被験薬の薬物動態により異なり,in vivoの肝細胞で予測される最高濃度を含む3濃度以上で評価し誘導パラメータ(EC50及びEmax)を算出する.一般に,肝酵素に影響を及ぼす薬物に関しては,最大治療用量を投与したときの定常状態で得られるCmax(結合形+非結合形)の10倍以上を含む濃度設定とする.通常は,mRNAレベルを対照(溶媒添加)と比較し,上述した濃度の被験薬処理によりその増加が濃度依存的であり,増加率が100%を超える場合には,in vitro試験での酵素誘導作用があるとみなす.観察された濃度依存的なmRNA増加が100%未満の場合は,そのmRNAの増加が陽性対照による反応の20%未満である場合に限り,in vitro試験での酵素誘導作用がないとみなすことができる.

4.2.1.6 相互作用薬(P450誘導及びダウンレギュレーション)となる可能性を検討する臨床試験の必要性

In vitro試験より得られたEC50及びEmaxを用いて,以下の式3に基づきカットオフ基準としてR値を算出する*留意事項(8).カットオフ基準に加えて,MSPKモデル,PBPKモデルなどを用いて検討することができる(4.3項参照).

式3

R=1/(1+d×Emax×[I]/(EC50+[I]))

[I]:Cmax(結合形濃度+非結合形濃度)

EC50:最大効果の50%の効果をもたらす濃度,Emax:最大誘導作用,d:換算係数

カットオフ基準に基づく評価ではd=1を用いる.R<0.9の場合は,当該被験薬を酵素誘導薬と判断する.

4.2.2 その他の薬物代謝酵素を介した薬物相互作用に関する検討方法*留意事項(9)

薬物の代謝に関与しているP450以外の第Ⅰ相酵素(酸化,還元,加水分解,閉環及び開環反応に関与している酵素)として,モノアミン酸化酵素,フラビンモノオキシゲナーゼ,キサンチンオキシダーゼ,アルデヒドオキシダーゼ及びアルコール脱水素酵素,アルデヒド脱水素酵素などがある.これらP450以外の第Ⅰ相酵素の基質である場合についても,被験薬の消失への寄与が大きい場合は,関与する分子種の同定及び寄与の程度を検討することが推奨される.被験薬がこれらの酵素の基質となる可能性については,同種同効薬や構造類縁化合物などの知見を踏まえて評価可能な場合もある.

第Ⅱ相酵素のうち,被験薬が主にUGTで代謝される場合には,その消失におけるUGT1A1,1A3,1A4,1A6,1A9,2B7及び2B15などの寄与の程度について検討する(図4―1参照).この場合には,主要な代謝酵素であった分子種に加えて,比較的多くの医薬品の代謝に関与することが知られているUGT(UGT1A1,UGT2B7など)に対する阻害作用を検討することが推奨される(図4―2参照).

被験薬あるいは併用薬が上記以外の酵素により主に代謝される場合においても,その酵素に対する阻害作用を評価することが望ましい.すなわち,ソリブジンと5―フルオロウラシルの併用における有害作用発現事例のように,被験薬との併用が想定される薬物の主要な代謝経路に,P450やUGT以外の酵素の寄与が大きい場合には,被験薬及びその代謝物の当該酵素に対する阻害作用を検討すべきである.これらの試験で得られた結果を基に,臨床試験を実施する必要性を評価する際の考え方は,P450の場合に準ずる.

4.3 薬物代謝の関与する相互作用のカットオフ基準とモデルによる評価

臨床薬物相互作用試験の必要性を判断する目的には,基本的にカットオフ基準を用いる.しかし,カットオフ基準では併用薬の性質は考慮されないので,臨床試験を計画する場合には,モデルを用いた検討が有用な場合がある*留意事項(10)(図4―2,図4―3参照).これらの検討の目的には,MSPKモデル,又はPBPKモデルなどが使用できる.

4.3.1 カットオフ基準に基づく評価

カットオフ基準は,被験薬の臨床における薬物相互作用のリスクを判断するための,in vitroデータなどの閾値である.偽陰性(false―negative)の判断を避け,臨床において薬物相互作用が生じる可能性を見落とすことがないように,カットオフ基準は保守的な設定を用いる.カットオフ基準は,併用される基質薬には依存せず,阻害薬あるいは誘導薬の一般的な相互作用のリスクを表す.

4.3.2 静的薬物速度論(MSPK)モデル*留意事項(11)

MSPKモデルは,代謝経路の寄与率を考慮し,相互作用が生ずる部位を小腸と肝臓に区別するなどの点で,相互作用の機序を組み込んでいる(式4).また,薬物濃度の時間による変化を考慮しないなどの単純化を行うことで,PBPKモデルと比較した場合に解析が容易であることは1つの利点と考えられる.誘導についても,MSPKモデルを使用した相互作用の解析例が報告されている19)

一方でMSPKモデルを用いた解析では,濃度の時間変化を考慮しないことから,通常,その影響を過大評価する傾向がある.また,可逆的酵素阻害とTDI,並びに酵素誘導の作用が組み込まれており,双方向の作用を有する被験薬に関して臨床薬物相互作用試験を実施する必要性の有無を判断する際には,その使用に注意が必要である(4.2.1.4項参照).

式4

式中のA,B,Cは,それぞれTDI,誘導,可逆的阻害を指し,下記の補足表に記載のとおりである.Fgは薬物が消化管上皮細胞に吸収後,門脈血に到達する割合で,消化管上皮細胞内で代謝を受ける場合に小さくなる.fmは阻害(誘導)を受けるP450を介した基質の代謝固有クリアランスの,肝臓全ての代謝固有クリアランスに対する割合である.

式4(補足表)

時間依存的阻害

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誘導

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可逆的阻害

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下付き文字の「h」及び「g」はそれぞれ肝臓及び消化管を指し,[I]h及び[I]gはそれぞれ肝細胞中及び消化管上皮細胞中の被験薬濃度を示す.dは,対照データセットの線形回帰で同定した換算係数である.

4.3.3 生理学的薬物速度論(PBPK)モデル*留意事項(12)

PBPKモデルでは,時間推移を考慮した薬物濃度の変化が記述でき,相互作用薬が被相互作用薬の薬物動態プロファイル全体に及ぼす作用の評価に加え,トランスポーターや代謝物の寄与など,複雑な相互作用の評価が理論的に可能とされる(図4―2,図4―3参照).PBPKモデルにはヒトの生理機能に基づくパラメータと薬物毎に特有なパラメータを組み込む.

PBPKモデルを相互作用の予測に用いる際には,被験薬(特に相互作用薬として)の血中濃度推移がモデルのパラメータに基づき適切に記述されることが必要である.一般に,in vitroの情報のみから血中濃度推移を正確に予測することは困難であり,被験薬の薬物動態の情報が臨床試験において得られる前にPBPKモデルによる相互作用の解析を行っても,正確な予測結果が得られないことに注意すべきである.

PBPKモデルに基づいた予測は,臨床薬物相互作用試験の実施後にその正確さを確認すべきである.予測と試験の結果が著しく異なった場合は,それまでの情報を精査した上で,必要に応じて,以降に実施するin vitro及び臨床薬物相互作用試験の計画に反映させる.PBPKモデルの妥当性が確認され,臨床試験の結果を矛盾なく説明できる場合は,同一の機序が関与する他薬物との相互作用についても,臨床上の注意喚起のためにモデリングとシミュレーションによる検討を活用できる場合もある.

4.4 生物薬品(バイオテクノロジー応用医薬品,生物起源由来医薬品)との相互作用*留意事項(13)

一般に,生物薬品は細胞表面の受容体との特異的な相互作用に続く標的細胞内への内在化とリソソームによる分解を介して消失する.P450などによる代謝又は薬物トランスポーターによる輸送を受けないため,生物薬品と併用薬との薬物動態学的相互作用の可能性は限定的と考えられる.

被験薬がサイトカイン又はサイトカイン修飾因子である場合,被験薬及び併用薬の有効性及び安全性の観点から,必要に応じてP450又はトランスポーターに対する被験薬の影響を評価するための臨床薬物相互作用試験を実施することを検討すべきである.

同種同効薬で薬物動態学的相互作用又は薬力学的相互作用の機序が判明しており,これに基づく臨床薬物相互作用の報告がある場合,当該薬物相互作用が生じる可能性を検討するための臨床薬物相互作用試験を実施すべきである.

さらに用法・用量などで規定される併用療法として,他の薬物(低分子医薬品又は生物薬品)と併用投与される予定の生物薬品については,必要に応じて,併用される薬物同士の相互作用の可能性を臨床試験で評価し,その際には薬物動態に対する作用に加えて薬力学的作用も評価することを検討すべきである.

図4―1 被験薬が相互作用を受ける可能性の検討(被験薬の代謝に関与する酵素の同定)

a) 対象とする酵素:CYP1A2,2B6,2C8,2C9,2C19,2D6,3A;

UGT1A1,1A3,1A4,1A6,1A9,2B7,2B15; その他

*P450以外の代謝酵素が主に寄与する場合には,既知の阻害薬及び誘導薬の有無から臨床薬物相互作用試験の実施可能性を判断する.

b) 被験薬の主要な活性代謝物についても同様に検討する.

*活性代謝物:被験薬がプロドラッグの場合,あるいはin vivoにおける薬理学的作用が全体の50%以上を占める場合,又は有害な作用を引き起こすと疑われる場合.

c) 実施した臨床薬物相互作用試験は,相互作用の有無に関わらず臨床的に有用と考えられる情報を添付文書などに適切に記載する.

d) 被験薬との併用可能性を考慮して選択する.誘導薬との臨床薬物相互作用試験は,阻害薬との臨床薬物相互作用試験の結果から,シミュレーションなどにより臨床的に問題となる薬物相互作用が生じるリスクがあると判断された場合には必要となる.その場合は,原則として強い誘導薬を用いて試験を行う.

図4―2 被験薬が代謝酵素を阻害する可能性の検討

a) 対象とする酵素:CYP1A2,2B6,2C8,2C9,2C19,2D6,3A;

UGT1A1,2B7; その他

*P450以外は被験薬及び主たる併用薬の主要消失経路に関与する酵素が対象.

*Cmax(結合形+非結合形)の10倍以上を含む濃度設定とする.

*時間依存的阻害の有無についても検討する.

b) 可逆的阻害:R=1+[I]/Ki

TDI:R=(kobs+kdeg)/kdeg,kobs=kinact×[I]/(KI+[I])

[I]:Cmax(結合形+非結合形),小腸の場合:投与量/250mL

c) PKモデルによる予測の精度が十分でないと考えられる場合には,直接,臨床薬物相互作用試験による評価に進んでもよい.

d) 式4を参照(4.3.2項).阻害と誘導の双方向の作用がある場合には,阻害と誘導を別個に評価する.

e) 実施した臨床薬物相互作用試験は,相互作用の有無に関わらず臨床的に有用と考えられる情報を添付文書などに適切に記載する.

図4―3 被験薬が代謝酵素を誘導する可能性の検討

a) 対象とする酵素:CYP1A2,2B6,3A4

*必要に応じて,CYP2C9分子種などを追加.

*Cmax(結合形+非結合形)の10倍以上を含む濃度でmRNAが100%以上増加あるいは陽性対照の20%以上増加.

b) R=1/(1+d×Emax×[I]/(EC50+[I])),d=1と仮定

[I]:Cmax(結合形+非結合形)

c) PKモデルによる予測の正確さが十分でないと考えられる場合には,直接,臨床薬物相互作用試験による評価に進んでもよい.

d) 式4を参照(4.3.2項).阻害と誘導の双方向の作用がある場合には,阻害と誘導を別個に評価する.

e) 実施した臨床薬物相互作用試験は,相互作用の有無に関わらず臨床的に有用と考えられる成績を添付文書などに適切に記載する.

表4―1 P450のin vitro酵素反応の代表例14,20―22)

酵素

マーカー反応

CYP1A2

Phenacetin O―deethylation, 7―Ethoxyresorufin―O―deethylation

CYP2B6

Efavirenz hydroxylation, Bupropion hydroxylation

CYP2C8

Paclitaxel 6α―hydroxylation, Amodiaquine N―deethylation

CYP2C9

S―Warfarin 7―hydroxylation, Diclofenac 4'―hydroxylation

CYP2C19

S―Mephenytoin 4'―hydroxylation

CYP2D6

Bufuralol 1'―hydroxylation, Dextromethorphan O―demethylation

CYP3A

Midazolam 1'―hydroxylation, Testosterone 6β―hydroxylation

CYP3A阻害については,両方のマーカー反応を用いて評価すべきである.

表4―2 P450のin vitro阻害薬の代表例16,20,21,23―25)

酵素

阻害薬

CYP1A2

α―Naphthoflavone, Furafylline

CYP2B6**

Sertraline, Phencyclidine, Thiotepa, Ticlopidine

CYP2C8

Montelukast, Quercetin, Phenelzine

CYP2C9

Sulfaphenazole, Tienilic acid

CYP2C19**

S―(+)―N―3―benzyl―nirvanol, Nootkatone, Ticlopidine

CYP2D6

Quinidine, Paroxetine

CYP3A

Itraconazole, Ketoconazole, Azamulin, Troleandomycin, Verapamil

時間依存的阻害作用を有する.

**現在のところ,in vitroで使用できる既知の選択的阻害薬はない.ここに挙げた阻害薬は選択的ではないが,他の情報と共に使用するか,単一酵素系で使用可能である.

表4―3 P450のin vitroの誘導薬の代表例26―29)

酵素

誘導薬

CYP1A2

Omeprazole, Lansoprazole

CYP2B6

Phenobarbital

CYP2C8

Rifampicin

CYP2C9

Rifampicin

CYP2C19

Rifampicin

CYP3A

Rifampicin

この表は例示であり,網羅的なリストでない.

5.排泄における薬物相互作用

5.1 尿中排泄における薬物相互作用

薬物の多くは腎糸球体で濾過され,尿細管で受動的に再吸収されるが,極性の高い薬物は一般に再吸収されずに尿中へ排泄される傾向がみられる.再吸収率の高い薬物(弱酸性,弱塩基性薬物)は,尿のpHを変化させる薬物を併用すると尿中排泄の変動による薬物相互作用が生じることがある.極性の高い薬物にはトランスポーターを介して尿細管中に能動的に分泌されるものが多く,また,尿細管から能動的に再吸収されるものもあり,その過程で薬物相互作用を起こすことがあるので充分な注意が必要である.腎疾患や加齢により薬物の尿中排泄機能が低下している患者では,腎クリアランス依存型の薬物が高い血中濃度を示すことが多いので,特に尿中排泄における相互作用により、さらなる血中濃度の上昇に伴う薬効の増強及び副作用の発現に注意が必要である.

近位尿細管上皮細胞の血管側に発現し,薬物を血中から近位尿細管上皮細胞へ取り込むトランスポーターであるorganic anion transporter(OAT)1及びOAT3や,尿管側に発現し,近位尿細管上皮細胞から尿中へ排出するトランスポーターであるP―gp,multidrug and toxin extrusion(MATE)1,MATE2―K及びBCRPが阻害されるとこれらの基質の血中濃度が上昇する可能性がある(表6―1参照).また,P―gp,MATE類及びBCRPが阻害されると血中濃度には変化を及ぼさず近位尿細管上皮細胞中の薬物濃度が増加する場合もある.血中から近位尿細管上皮細胞へ薬物を取り込むorganic cation transporter(OCT)2が阻害された場合,併用薬の血中濃度が増加する可能性がある.被験薬がこれらのトランスポーターの基質薬あるいは阻害薬となるかを検討し,臨床薬物相互作用試験を実施すべきかを判断する(図6―6,図6―7参照).薬物を輸送することが知られているトランスポーターとしては,他にも,近位尿細管上皮細胞の尿管側に発現し,近位尿細管上皮細胞から尿中へ薬物を排出するmultidrug resistance―associated protein(MRP)2やMRP4などがある.さらに,MATE類のように内因性物質の尿中排泄に関わるトランスポーターの場合,薬物による阻害により,クレアチニンなどの内因性物質の血中・組織中濃度の上昇が生じる可能性がある*留意事項(14).このような尿中排泄に寄与しうるトランスポーターや,5.2項に示す肝取り込み及び胆汁中排泄に働くトランスポーターが関わる薬物相互作用の評価にあたっては,被験薬と類似した構造を有する薬物から得られた知見が役立つ場合がある.

代謝物の中にも併用薬との間で薬物相互作用を起こす場合があるため,4.1及び4.2項の記載を参照のうえ,代謝物についてもこれらのトランスポーターとの薬物相互作用を検討することを考慮する.

5.2 胆汁中排泄における薬物相互作用

多くの薬物は抱合体として,また,一部の薬物は未変化体のまま胆汁中へ排泄される.胆汁中への排泄はトランスポーターによることが多いので,薬物の併用により薬物相互作用が生じる可能性がある.肝細胞の血管側に発現し,血中から肝細胞中へ薬物を取り込むトランスポーターであるorganic anion transporting polypeptide(OATP)1B1及びOATP1B3が阻害されると,血中濃度が上昇することが知られている(表6―1参照).被験薬がこれらのトランスポーターの基質薬又は阻害薬となるかを検討し,臨床薬物相互作用試験を実施すべきかを判断する(図6―4,図6―5参照).薬物を輸送することが知られているトランスポーターとしては,他にも,肝細胞の血管側に発現し,血中から肝細胞中へ薬物を取り込むトランスポーターであるOCT1,肝細胞の胆管側に発現し,肝細胞から胆汁中へ薬物を排出するMRP2などがある.さらに,OATP類,MRP2やbile salt export pump(BSEP)のように胆汁酸やビリルビンなどの内因性物質の胆汁中排泄に関わるトランスポーターの場合,薬物による阻害により,内因性物質の血中・組織中濃度の上昇が生じる可能性がある*留意事項(14).グルクロン酸抱合体などの抱合体は胆汁中に排泄され消化管内で腸内細菌により脱抱合され,再吸収されることが多い(腸肝循環).抱合体の胆汁中排泄における薬物相互作用が生じると血漿中での未変化体の滞留時間やAUCに影響を与える可能性がある.

6.トランスポーターを介した薬物相互作用に関する検討方法

6.1 In vitro評価において考慮すべき一般事項

トランスポーターのin vitro試験系を用いた輸送評価を行う場合には,典型基質,典型阻害薬(表6―5)を用いた検討もあわせて実施し,対象とするトランスポーターの機能が十分に観察できることを確認した試験系で,被験薬の試験を実施する.

被験薬が特定のトランスポーターの基質となる可能性を検討する試験の場合,被験薬の濃度は想定されるKm値と比較して十分に低い濃度を用い,トランスポーターが飽和していない条件で試験を実施する必要がある.Km値が正確にわからない場合などにおいては,Km値よりも十分に低いことが想定される濃度2点以上を用いて,被験薬の濃度と輸送速度との間に比例関係が確認できれば,その試験濃度範囲でのトランスポーターの飽和は否定できる.

一方,被験薬が特定のトランスポーターの阻害薬となる可能性を検討する試験の場合,異なる濃度の被験薬が典型基質の輸送に対して及ぼす作用を評価し,原則としてKi値を算出する.基質としてKm値が既知の薬物を用いる場合,Km値より十分に低い基質濃度を用いればIC50=Kiとすることができる.Km値が明らかでない薬物を基質として使用せざるを得ない場合には,十分に低い基質濃度2点以上を用いて,基質濃度と輸送速度との間に比例関係が確認できたとき,その基質濃度を用いた場合にはIC50=Kiとすることができる.P―gp,BCRP,MATE1及びMATE2―Kのような排出トランスポーターにおいて,細胞系を用いた試験の場合には,培地中濃度を基準とした見かけのIC50値により評価する.この場合においても,基質濃度がKm値と比較して十分に低い濃度を用いる必要がある.

6.2 吸収に関わるトランスポーターを介した薬物相互作用のin vitro試験系

P―gp及びBCRPはいずれも消化管に発現し,経口バイオアベイラビリティの変動に影響を及ぼしうる重要なトランスポーターである.このため,全ての被験薬についてP―gp及びBCRPの基質となる可能性をin vitro試験で検討する(図6―1,図6―2参照).なお,これらのトランスポーターは,肝臓,腎臓及び脳にも発現しているため,薬物の消失及び中枢移行性にも影響を及ぼしうることから,経口以外の投与経路の場合も検討が必要な場合がある.

In vitro評価法としては,Caco―2細胞又は特定のトランスポーターの過剰発現細胞株を用いる双方向性の経細胞輸送試験が望ましい.Caco―2細胞にはP―gp,BCRP,MRP2などの数種類のトランスポーターが発現しているが,個々のトランスポーターに対する典型阻害薬を用いることができれば,それぞれのトランスポーターの関与を検討することができる.典型阻害薬を用いることができない場合は特定のトランスポーター遺伝子を過剰発現する細胞株を用いた試験が有用である.

P―gpやBCRPのような排出トランスポーターの関与について検討する際は,薬物の頂端膜側(A)から基底膜側(B)への透過性を,反対方向(BからA)の透過性と比較する.BからAへの透過性とAからBへの透過性の比からFlux ratio(=B to A/A to B ratio)を算出する.発現細胞株を用いる場合は原則として,非発現細胞のFlux ratioを用いて補正し,Net flux ratio(=(発現細胞のFlux ratio)/(非発現細胞のFlux ratio))を算出する.Net flux ratio(以後,Caco―2細胞の場合は,Flux ratioと読み替える)が2以上の場合,あわせて対象となる排出トランスポーターの典型阻害薬を併用し,Net flux ratioが1付近になる,又は明らかに低下することを確認する.

また,被験薬のP―gp及びBCRPに対する阻害を評価する場合,被験薬の消化管上皮細胞の頂端膜側における管腔内での予測最高濃度(1回に投与される最大用量/250mL,または溶解度が低い場合は,達成可能な最高濃度)を基に,検討濃度の設定を行う.IC50値が0.1×予測最高濃度よりも大きい場合,すなわち予測最高濃度/IC50<10となる場合,消化管におけるトランスポーターのin vivoでの阻害を否定できる.IC50値が10×臨床最大用量を投与後の定常状態での総Cmax(非結合形薬物と結合形薬物濃度の総和)よりも大きい場合,すなわち臨床最大用量を投与後の定常状態での総Cmax/IC50<0.1となる場合,腎臓におけるトランスポーターのin vivoでの阻害を否定できる(図6―3).なお,IC50値の算出においてはNet flux ratioを指標にする.発現細胞を用いた評価において,内因性トランスポーターの影響等により,非発現細胞での補正が行えない場合には,発現細胞のみのflux ratioによる算出が許容できる場合もある.

被験薬がP―gp及びBCRPの基質になる可能性を検討する場合,濃度が高すぎると,高親和性のトランスポーターを飽和させてしまう可能性があるため,用いる濃度の設定が重要である.被験薬の濃度は,Km値より十分に低いと考えられる基質濃度を用いる.

双方向性の経細胞輸送試験を実施する際には,アクセプター側とドナー側の両方の溶液のpHを7.4とすることが推奨される.また,アクセプター側及びドナー側における添加薬物の回収率を求めておくことが望ましい.

このような双方向性の経細胞輸送試験により,P―gp及びBCRPの評価を行う場合には,典型基質(表6―5参照)を用いて,P―gp及びBCRPの機能が十分に観察できる試験系であることを確認する.典型基質については,Net flux ratioが2を超え,かつ典型阻害薬の添加により,Net flux ratioが,典型阻害薬の添加濃度とIC50値より理論的に見積もられる程度に低下することを確認する.典型阻害薬については,用いた阻害薬の濃度と阻害薬のIC50値より理論的に見積もられる程度,Net flux ratioが低下することを確認する.

6.3 肝臓におけるトランスポーターを介した薬物相互作用のin vitro試験系

肝代謝又は胆汁中排泄が主要消失経路(肝代謝又は胆汁中排泄クリアランスが全身クリアランスの25%以上を占める)の被験薬については,肝取り込みトランスポーターOATP1B1及びOATP1B3の基質となる可能性を検討する(図6―1).ただし,動物における組織分布実験の結果などによる肝臓への分布を検討し,in vitro試験実施の必要性を判断できる場合がある(図6―4).

被験薬がOATP1B1及びOATP1B3の基質若しくは阻害薬となる可能性を検討する場合,OATP1B1及びOATP1B3発現細胞株又はヒト肝細胞を用いた試験系を用いることができる.OATP1B1及びOATP1B3発現細胞株又はヒト肝細胞を用いて試験を行う場合,典型基質(表6―5参照)を用いた検討もあわせて実施し,OATP1B1及びOATP1B3の機能が十分に観察できる試験系であることを確認する.許容可能なOATP1B1及びOATP1B3発現細胞株は,典型基質の細胞内への取り込み比(トランスポーター発現細胞と非発現細胞における取り込みの比)が通常2以上となる.また,典型阻害薬により,阻害薬の添加濃度とKi値より理論的に見積もられる程度に減少することを確認する.ヒト肝細胞を用いて試験を行う場合,典型基質の単純拡散に対するトランスポーターの取り込み比が発現系での基準と同程度に認められ,かつ典型阻害薬により,阻害薬の添加濃度とKi値より理論的に見積もられる程度に減少することを確認する.

被験薬がOATP1B1及びOATP1B3の基質になる可能性を検討する場合,OATP1B1及びOATP1B3発現細胞株を用いた試験系において,被験薬の発現細胞内への取り込みが,非発現細胞内への取り込みよりも2倍を超えて高く,既知の対象とするトランスポーターの典型阻害薬により,阻害薬の添加濃度とKi値より理論的に見積もられる程度に阻害される場合,被験薬をOATP1B1及びOATP1B3基質と判断する(図6―4参照).ただし,被験薬の吸着などにより,発現細胞内への取り込みが,非発現細胞内への取り込みと比較して2倍以上の差が認められない場合でも,典型阻害薬により,阻害薬の添加濃度とKi値より理論的に見積もられる程度,減少することをもって,基質と判断することができる.また,あらかじめOATP1B1及びOATP1B3の典型基質を用いて,トランスポーター機能の十分な維持が確認されているヒト肝細胞を用いた取り込み試験においても,OATP1B1又はOATP1B3の関与を検討可能である.被験薬のヒト肝細胞への取り込みが認められた場合,典型阻害薬により,阻害薬の添加濃度とKi値より理論的に見積もられる程度に阻害される場合,被験薬をOATP1B1又はOATP1B3基質と判断する.

被験薬のOATP1B1及びOATP1B3に対する阻害を検討する場合,検討時に用いるOATP1B1及びOATP1B3の基質は,臨床で併用される薬物を考慮して選択することを推奨するが,選択が困難な場合はOATP1B1及びOATP1B3の典型基質(表6―5)の利用も可能である.この際,Km値より十分に低いと考えられる基質濃度を用いて検討する.あわせて,典型基質(表6―5)を用いた検討を実施すると共に,典型阻害薬(表6―5)を使用し,阻害薬の添加濃度とKi値より理論的に見積もられる程度,典型基質の取り込みが減少することを確認し,OATP1B1及びOATP1B3の機能が十分に観察できる試験系であることを確認する.阻害試験を実施する場合の濃度設定は,被験薬のKi値が,臨床推定用量における非結合形薬物の門脈血中最高濃度([I]u, inlet, max)の4倍以上であるか否かを判断可能な濃度範囲をカバーするよう考慮する.Ki値が4×fu×([I]inlet, max)よりも大きい場合(fu×[I]inlet, max/Ki<0.25)は,肝臓におけるトランスポーターのin vivoでの阻害を否定できる(図6―5).なお,OATP1B1及びOATP1B3の阻害実験における追加の留意事項について別途記載した*留意事項(14)

6.4 腎臓におけるトランスポーターを介した薬物相互作用のin vitro試験系

主に腎臓の能動分泌により消失(腎分泌クリアランスが全身クリアランスの25%以上を占める)される被験薬については,OAT1,OAT3,OCT2,MATE1及びMATE2―Kの基質となる可能性をin vitroで検討する(図6―1).

OAT1,OAT3,OCT2,MATE1及びMATE2―K発現細胞株を用いて試験を行う場合,典型基質(表6―5参照)を用いた検討をあわせて実施し,これらのトランスポーターの機能が十分に観察できる試験系であることを確認する.OAT1,OAT3,OCT2,MATE1及びMATE2―K発現細胞株による典型基質の細胞内への取り込み比(トランスポーター発現細胞と非発現細胞における取り込みの比)は通常2以上となる.また,典型阻害薬により,阻害薬の添加濃度とKi値(以後,MATE1,MATE2―Kの場合のみKi値ではなくIC50値を用いる)より理論的に見積もられる程度に減少することを確認する.なお,MATE1,MATE2―Kについては,駆動力が逆向きのH勾配であることから,細胞内を酸性化(MATE発現細胞を塩化アンモニウムとプレインキュベーションする,又は取り込み実験時の細胞外pHを8.4程度のアルカリ性にするなど)することにより,輸送活性を細胞内への取り込みとして測定できる30).また,MATE1,MATE2―K発現細胞株の代わりにこれらの細胞から調製した膜小胞を用いることも可能である31).この場合も同様に,輸送駆動力を得るために膜小胞内を酸性化する必要がある.

被験薬が対象となるトランスポーターの基質になる可能性を検討する場合,被験薬の発現細胞内への取り込みが,非発現細胞内への取り込みよりも2倍を超えて高く,対象とするトランスポーターの既知の典型阻害薬により,阻害薬の添加濃度とKi値より理論的に見積もられる程度に阻害される場合,被験薬を対象となるトランスポーターの基質と判断する(図6―6参照).ただし,被験薬の吸着などにより,発現細胞内への取り込みが,非発現細胞内への取り込みと比較して2倍以上の差が認められない場合でも,典型阻害薬により,阻害薬の添加濃度とKi値より理論的に見積もられる程度に減少することを確認し,基質と判断することができる.

被験薬のOAT1,OAT3,OCT2,MATE1及びMATE2―Kに対する阻害を検討する場合,検討時に用いるトランスポーターの基質は,臨床で併用される薬物を考慮して選択することを推奨するが,選択が困難な場合は各トランスポーターの典型基質(表6―5)の利用も可能である.この際,Km値より十分に低いと考えられる基質濃度を用いて検討する.あわせて,典型基質(表6―5)を用いた検討を実施すると共に,典型阻害薬(表6―5)を使用し,阻害薬の添加濃度とKi値(MATEsの場合,IC50値)より理論的に見積もられる程度,典型基質の取り込みが減少することを確認し,検討するトランスポーターの機能が十分に観察できる試験系であることを確認する.OAT1,OAT3,OCT2,MATE1及びMATE2―Kに対する阻害試験を実施する場合の検討濃度設定は,被験薬のKi(IC50)値が,臨床推定用量における非結合形Cmaxの4倍以上であるか否かを判断可能な濃度範囲をカバーするよう考慮する.Ki(IC50)値が4×非結合形Cmaxよりも大きい場合(非結合形 Cmax/Ki(IC50)<0.25)は,腎臓におけるトランスポーターのin vivoでの阻害を否定できる(図6―7).

図6―1:被験薬がP―gp,BCRP,OATP1B1,OATP1B3,OAT1,OAT3,OCT2,MATE1及びMATE2―Kトランスポーターの基質となる可能性の検討

a) 4.1及び4.2項の代謝物の検討を参考に,代謝物とトランスポーターの薬物相互作用についても検討することを考慮する.

b) 肝経路が重要となる被験薬(例:肝代謝又は胆汁分泌クリアランスが,総クリアランスの25%以上)については,肝取り込みトランスポーターのOATP1B1及びOATP1B3の基質かどうか検討する.胆汁分泌は,非臨床データ(in vitro肝細胞実験又は放射標識体によるin vivo ADME試験)及び腎外クリアランスのデータから推定できる.

c) 腎尿細管分泌が重要となる被験薬(腎分泌クリアランスが,総クリアランスの25%以上)については,OAT1,OAT3,OCT2,MATE1及びMATE2―Kの基質かどうかをin vitro実験で検討する.分泌クリアランスの割合(%)は,(CLr-fu*GFR)/CLtotalから推定する.(CLr:腎クリアランス,fu:血中蛋白非結合形薬物分率,GFR:糸球体ろ過速度,CLtotal:全身クリアランス)

図6―2:被験薬がP―gp及びBCRPの基質となる可能性の検討

a) Caco―2細胞,P―gp発現細胞株などを用い,典型基質(表6―5)のnet flux ratio(Caco―2細胞の場合は,flux ratio)を指標に輸送能を確認する.使用する細胞系でのこれまでの経験からnet flux ratioの2という値では結果を判断できないと考えられる場合は,2以外のnet flux ratioのカットオフ値か,又は陽性対照との相対比を使用してもよい.その場合は,陽性対照(表6―5)の検討結果に基づき,適切な値を設定する.

b) Net flux ratioが1付近になる,又は明らかに低下する.

c) P―gpは消化管吸収や尿細管分泌,中枢移行性に関与することから,消化管アベイラビリティ(FaFg),尿細管分泌の有無,中枢毒性の懸念などを考慮し,臨床薬物相互作用試験の必要性を判断する.例えば,FaFg>80%であれば,消化管のP―gp阻害のみによっては,1.25倍以上のAUC上昇は起こらないと考えられる.なお,BCRP基質の場合は,in vivoでの機能低下を示唆する,日本人で比較的頻度の高い変異が報告されており32,33),基質薬の薬物動態の個人差の原因となり得ることから,本決定樹を用いてin vitro試験で基質となるか否かを検討しておくことが推奨される.試験方法はP―gp基質試験に準じる.典型基質,典型阻害薬を表6―5に示す.但し,BCRP基質の場合,in vivoで使用可能な典型阻害薬(表6―4)を用いた臨床薬物相互作用試験を計画することは現時点で困難であることから,当面は,BCRPの基質であることを情報提供するのみにとどめる.

d) その被験薬が属する薬効分類での既存の知見に基づいて,消化管における吸収や排出過程にP―gp及びBCRP以外のトランスポーターが大きな影響を及ぼすことが示唆された場合には,Caco―2細胞又はトランスポーター発現細胞株などを用いて,寄与するトランスポーターの特定やその寄与の程度を検討し,必要に応じて,臨床薬物相互作用試験の実施も考慮する.

図6―3:被験薬がP―gp及びBCRPの阻害薬となる可能性の検討

a) Caco―2細胞,P―gp発現細胞株などを用い,典型基質(表6―5)のnet flux ratio(Caco―2細胞の場合は,flux ratio)を指標に輸送能を確認する.また,典型阻害薬の添加により,net flux ratioが,阻害薬の添加濃度とKi値より理論的に見積もられる程度に低下することを確認する.

b) [I1]は予定している臨床最大用量を投与後の定常状態での総Cmax(非結合形薬物と結合形薬物濃度の総和)の平均値を示す.[I2]=阻害薬の投与量/250mL.この際,典型基質の濃度は,Kmに比べて十分低く設定する(表6―5).

c) In vivoでの典型基質は,表6―4を参考に選択する.

図6―4:被験薬がOATP1B1及びOATP1B3の基質となる可能性の検討

a) 図6―1を参照

b) 動物における組織分布試験の結果などから,肝臓への選択的な分布の情報を得ることができる.なお,例外が存在するものの,生理的条件下で負電荷を持つ化合物で膜透過性が比較的低い化合物は,OATP1B1及びOATP1B3の基質となるものが多いことにも留意すること.また,代謝により肝消失するような薬物でも,肝取り込みにはトランスポーターが関与している場合もあるので,注意が必要である.

c) 受動拡散の寄与が大きく,OATP1B1及びOATP1B3による輸送がマスクされる場合も含まれる.

d) ヒト肝細胞はOATP1B1及びOATP1B3を介した輸送能が十分にあることをあらかじめ確認したものを用いる.典型基質(表6―5)の取り込みが認められ,かつ典型阻害薬(表6―5)により,阻害薬の添加濃度とKi値より理論的に見積もられる程度に阻害されることを確認する.

e) OATP1B1及びOATP1B3発現細胞株を用いる場合は,典型基質(表6―5)の発現系細胞への取り込みが,非発現細胞の2倍以上で,かつ典型阻害薬(表6―5)により,阻害薬の添加濃度とKi値より理論的に見積もられる程度に阻害されることを確認する.被験薬の発現系細胞への取り込みが,非発現細胞の2倍以上で,かつ典型阻害薬(表6―5)により,阻害薬の添加濃度とKi値より理論的に見積もられる程度に阻害された場合,OATP1B1及びOATP1B3の基質であると判断する.ただし,被験薬の取り込みについて,使用する細胞系でのこれまでの経験から,取り込み比(トランスポーター発現細胞とトランスポーター非発現細胞の比)が2という値では結果を識別できないと考えられる場合は,2以外の取り込み比を使用してもよい.脂溶性が高い化合物では,発現系細胞では取り込みが検出し難い場合があることに注意する.

f) リファンピシンについては,繰り返し投与により,誘導能を発揮するため,単回投与で行う.

図6―5:被験薬がOATP1B1及びOATP1B3の阻害薬となる可能性の検討

a) ヒト肝細胞を用いる場合は,典型基質(表6―5)の明らかな取り込みが認められ,かつ典型阻害薬(表6―5)により,阻害薬の添加濃度とKi値より理論的に見積もられる程度に阻害されることを確認する.OATP1B1及びOATP1B3発現細胞株を用いる場合は,典型基質(表6―5)の発現系細胞への取り込みが,非発現細胞の2倍以上で,典型阻害薬(表6―5)により,阻害薬の添加濃度とKi値より理論的に見積もられる程度に阻害されることを確認する.Ki値を求める際の典型基質及び推奨濃度は,表6―5を参照のうえ,十分にKm値より低い濃度を用いる.阻害試験に用いる被験薬の濃度範囲の設定は,OATP1B1及びOATP1B3に曝露される被験薬の臨床濃度(門脈血液中濃度)を考慮して設定する.

b) R値=1+(fu×Iinlet, max/Ki).式中,Iinlet, maxは門脈血液中での推定最大阻害薬濃度であり,Cmax+(ka×用量×FaFg/Qh)として計算される.Cmaxは阻害薬の最高血中濃度,用量は阻害薬の投与量,FaFgは投与した阻害薬の消化管アベイラビリティ,kaは阻害薬の吸収速度定数,Qhは肝血流速度である(例:97L/hr).FaFg値及びka値が不明の場合は,理論的な最高値を使用することで偽陰性の予測が避けられるため,FaFg及びkaにそれぞれ1及び0.1min-1を使用する34).fu値が0.01未満か,又は蛋白結合率が高く(fu値が0.01未満)fu値が正確に測定できない薬物については,偽陰性な予測を避けるため,fu=0.01と仮定して計算する.

図6―6:被験薬がOCT2,OAT1,OAT3,MATE1及びMATE2―Kの基質となる可能性の評価

a) 図6―1を参照

b) 典型基質(表6―5)の発現系細胞への取り込みが,非発現細胞の2倍以上で,典型阻害薬(表6―5)により,阻害薬の添加濃度とKi値より理論的に見積もられる程度に阻害されることを確認する.被験薬の発現系細胞への取り込みが,非発現細胞の2倍以上で,かつ典型阻害薬(表6―5)により,阻害薬の添加濃度とKi値より理論的に見積もられる程度に阻害された場合,対象とするトランスポーターの基質であると判断する.ただし,被験薬の取り込みについて,使用する細胞系でのこれまでの経験から,取り込み比(トランスポーター発現細胞とトランスポーター非発現細胞の比)が2という値では結果を識別できないと考えられる場合は,2以外の取り込み比を使用してもよい.脂溶性が高い化合物では,発現系細胞では取り込みが検出し難い場合があることに注意する.

c) MATE1及びMATE2―Kは,腎臓からの排出を担っているトランスポーターであることから,被験薬の血中濃度は,阻害薬の共存により変化しないが,腎臓中濃度が上昇する場合があることに留意する.

d) OCT2基質の場合,in vivoで使用可能な典型阻害薬(表6―4)を用いた臨床薬物相互作用試験を計画することは現時点で困難であることから,当面は,OCT2の基質であることを情報提供するのみにとどめる.

図6―7:被験薬がOCT2,OAT1,OAT3,MATE1及びMATE2―Kの阻害薬となる可能性の評価

a) 典型基質(表6―5)の発現系細胞への取り込みが,非発現細胞の2倍以上で,典型阻害薬(表6―5)により,阻害薬の添加濃度とKi値より理論的に見積もられる程度に阻害されることを確認する.Ki(IC50)値を求める際の典型基質及び推奨濃度は,表6―5を参照のうえ,十分にKm値より低い濃度を用いる.阻害試験に用いる被験薬の濃度範囲の設定は,対象トランスポーターに曝露される被験薬の臨床濃度(血漿中非結合形濃度)を考慮して設定する.

b) MATE1及びMATE2―Kについて細胞系を用いた阻害試験を行った場合は,Ki値に代わり,medium中濃度基準のIC50値を用いてよい.

c) 排出トランスポーターであるMATE1及びMATE2―Kの阻害は,血中濃度には変化を及ぼさず,腎臓中濃度のみを上昇させる場合があるため,留意が必要である.

表6―1 トランスポーターを介した臨床薬物相互作用が認められた阻害薬の例

トランスポーター

遺伝子

阻害薬

P―gp

ABCB1

Amiodarone

Azithromycin

Carvedilol

Clarithromycin

Cyclosporine

Darunavir/Ritonavir

Diltiazem

Dronedaronea)

Itraconazole

Lapatinib

Lopinavir/Ritonavir

Quercetinb)

Quinidine

Ranolazinea)

Verapamil

BCRP

ABCG2

Curcuminb)

Elacridar(GF120918)a), c)

Eltrombopag

OATP1B1, OATP1B3

SLCO1B1, SLCO1B3

Atazanavir/Ritonavir

Clarithromycin

Cyclosporine

Darunavir/Ritonavir

Gemfibrozila)

Lopinavir/Ritonavir

Rifampicind)

OAT1

SLC22A6

Probenecid

OAT3

SLC22A8

Probenecid

MATE1, MATE―2K

SLC47A1, SLC47A2

Cimetidine

Pyrimethaminea)

a) 日本未承認

b) サプリメント

c) P―gp,BCRPのdual inhibitor

d) 反復投与すると,逆に誘導の効果が強く出るので,結果が異なってくることに注意が必要である.

表6―2 トランスポーターを介した臨床薬物相互作用が認められた誘導薬の例

トランスポーター

遺伝子

誘導薬

P―gp

ABCB1

Carbamazepine

Phenytoin

Rifampicin

St.John's Worta)

Tipranavir/Ritonavirb, c)

OATP1B1, OATP1B3

SLCO1B1, SLCO1B3

Rifampicin

Efavirenz

a) サプリメント

b) 日本未承認

c) in vitro実験の結果に基づくと,ritonavirは,P―gpの阻害能を有し,tipranavirは,P―gpの阻害能は弱い一方で,誘導能は強く,それらの効果が混合されたものとして見えていることに注意を要する.

表6―3 トランスポーターを介した臨床薬物相互作用が認められた基質薬の例

トランスポーター

遺伝子

基質薬

P―gp

ABCB1

Aliskiren

Ambrisentana)

Colchicine

Dabigatran etexilate

Digoxin

Everolimusa)

Fexofenadine

Imatiniba)

Lapatiniba)

Maraviroca)

Nilotinib

Ranolazinea, b)

Saxagliptina)

Sirolimusa)

Sitagliptina)

Talinololb)

Tolvaptana)

Topotecanc)

BCRP

ABCG2

Diflomotecanb)

Imatinib

Rosuvastatin

Sulfasalazine

OATP1B1, OATP1B3

SLCO1B1, SLCO1B3

Atorvastatin

Atrasentanb)

Bosentan

Ezetimibe

Fexofenadine

Fluvastatin

Glibenclamide

Nateglinide

Olmesartan

Pitavastatind)

Pravastatin

Repaglinide

Rosuvastatind)

Simvastatin acid

SN―38(active metabolite of irinotecan)

Telmisartane)

Torsemide

Valsartan

OCT2

SLC22A2

Metformin

MATE1, MATE2―K

SLC47A1, SLC47A2

Cephalexin

Cisplatin

Metformin

OAT1, OAT3

SLC22A6, SLC22A8

Adefovirf)

Bumetanideg)

Cefaclor

Cidofovirb, f)

Ciprofloxacing)

Famotidineh)

Fexofenadine

Furosemide

Ganciclovirf)

Methotrexateg)

Penicillin Gg)

Zalcitabineb)

Zidovudine

a) CYP3A基質でもあることから,P―gpの阻害とともに,CYP3Aの阻害の影響を同時に見ている可能性があることに注意が必要である.

b) 日本未承認

c) BCRP基質でもあることからP―gpの阻害とともに,BCRPの阻害の影響を同時に見ている可能性があることに注意が必要である.

d) in vitro試験の結果,肝取り込みにOATP1B1の寄与率が高いことが報告されている.

e) in vitro試験の結果,OATP1B3選択的基質(vs. OATP1B1)であることが示唆されている.

f) in vitro試験の結果,OAT1選択的基質(vs. OAT3)であることが示唆されている.

g) in vitro試験の結果,OAT3選択的基質(vs. OAT1)であることが示唆されている.

h) OCT2基質でもある.

表6―4 トランスポーターのin vivo典型基質薬,典型阻害薬の例

in vivo典型基質薬

トランスポーター

遺伝子

典型基質薬

P―gp

ABCB1

Dabigatran etexilate

Digoxin

Fexofenadinea)

BCRP

ABCG2

Rosuvastatinb)

Sulfasalazine

OATP1B1

SLCO1B1

Pitavastatinc)

Pravastatind)

Rosuvastatinb)

OATP1B3

SLCO1B3

Telmisartane)

OAT1

SLC22A6

Acyclovir

Adefovir

Cidofovirf)

Ganciclovir

OAT3

SLC22A8

Benzylpenicillin

Ciprofloxacin

Pravastating)

Rosuvastating)

Sitagliptin

MATE1, MATE―2K, OCT2

SLC47A1, SLC47A2, SLC22A2

Metformin

N―methylnicotinamide(NMN)f, h)

a) 肝消失にOATP1B1,OATP1B3,MRP2,MRP3並びに腎排泄には,OAT3,MATE1,MATE2―Kの関与が報告されていることに注意が必要.

b) 消化管吸収にBCRP,肝取り込みにOATP1B1,OATP1B3,NTCP並びに腎排泄にはOAT3の関与が報告されていることに注意が必要.また,in vitro実験ではP―gp,MRP2の基質薬でもある.

c) in vitro実験ではP―gp,MRP2,BCRPの基質薬でもある.

d) 胆汁排泄にMRP2,腎排泄にOAT3の関与が報告されていることに注意が必要.

e) 消化管・肝臓のUGTsによる抱合代謝を受けることが知られている.

f) 日本未承認

g) 腎クリアランスを分離評価することにより,OAT3の機能を推定することが可能である.

h) 内因性基質.食事やサンプリング時間の影響を受けるため,腎クリアランスとして評価する必要あり.

in vivo典型阻害薬

トランスポーター

遺伝子

典型阻害薬

P―gp

ABCB1

Amiodarone

Clarithromycina)

Cyclosporinea)

Itraconazole

Quinidine

Ranolazineb)

Verapamil

BCRP

ABCG2

Curcuminb)

Eltrombopag

OATP1B1, OATP1B3

SLCO1B1, SLCO1B3

Cyclosporinec)

Rifampicind)

OAT1, OAT3

SLC22A6, SLC22A8

Probenecid

MATE1, MATE2―K

SLC47A1, SLC47A2

Cimetidine

Pyrimethamineb, e)

a) 臨床血中濃度でOATP1B1及びOATP1B3も阻害することが報告されていることに注意が必要.

b) 日本未承認

c) 臨床血中濃度で消化管のP―gpも阻害することが報告されていることに注意が必要.

d) 反復投与すると,誘導効果が出てくるので,単回投与での適用.

e) 日本では,単剤の承認薬がない(スルファドキシンとの合剤のみ承認).

表6―5 トランスポーターのin vitro典型基質,典型阻害薬の例

in vitro典型基質

トランスポーター

遺伝子

典型基質

Km値

P―gp

ABCB1

Digoxina)

73―177μM

Fexofenadineb, c, d)

150μM

Loperamide

(1.8―5.5μM)

Quinidine

1.69μM

Talinololc)

(72μM)

Vinblastinec)

19―253μM

BCRP

ABCG2

2―amino―1―methyl―6―phenylimidazo[4, 5―b]pyridine(PhIP)c, e)

 

Coumestrol

 

Daidzein

 

Dantrolene

 

Estrone―3―sulfateb, f)

2.3―13μM

Genistein

 

Prazosine)

 

Sulfasalazine

0.7μM

OATP1B1, OATP1B3

SLCO1B1, SLCO1B3

Cholecystokinin octapeptide(CCK―8)g)

3.8―16.5μM(1B3)

Estradiol―17β―glucuronideh)

2.5―8.3μM(1B1), 15.8―24.6μM(1B3)

Estrone―3―sulfatei)

0.23―12.5μM(1B1)

Pitavastatinc, e, f, j)

1.3―6.7μ(1B1), 3.25μM(1B3)

Pravastatinc, f, k)

11.5―85.7μM(1B1)

Telmisartanl)

0.81μM(1B3)

Rosuvastatinc, f, j, k)

0.802―15.3μM(1B1), 9.8―14.2μM(1B3)

OAT1

SLC22A6

Adefovir

23.8―30μM

p―aminohippurate

4―20μM

Cidofovir

30―58μM

Tenofovir

14.6―33.8μM

OAT3

SLC22A8

Benzylpenicillinb, c)

52μM

Estrone―3―sulfatej, m)

2.2―75μM

Pravastatinb, c)

27.2μM

MATE1, MATE―2K

SLC47A1, SLC47A2

Metforminn)

202―780μM(MATE1), 1050―1980μM(MATE―2K)

1―methyl―4―phenylpyridinium(MPP+)n)

100μM(MATE1), 110μM(MATE―2K)

Tetraethylammonium(TEA)n)

220―380μM(MATE1), 760―830μM(MATE―2K)

OCT2

SLC22A2

Metforminn)

680―3356μM

1―methyl―4―phenylpyridinium(MPP+)n)

1.2―22.2μM

Tetraethylammonium(TEA)n)

33.8―76μM

( )内に示された数字は,Ki or IC50

a) OATP1B3基質

b) OATPs基質

c) MRP2基質

d) MRP3基質

e) P―gp基質

f) NTCP基質

g) OATP1B3選択的基質(vs. OATP1B1).

h) 阻害実験の際に,Ki値が小さく見積もられ,プローブ薬として適切な性質を有する.

i) OATP1B1選択的基質(vs. OATP1B3).阻害実験の際に,全体的にKi値が大きく見積もられる傾向があるとする報告があり注意が必要.

j) BCRP基質

k) OAT3基質

l) OATP1B3選択的基質(vs. OATP1B1).非特異的な吸着が大きく,実験系にalbuminの共存を考慮.

m) OATP1B1基質

n) OCTs,MATEs基質

in vitro典型阻害薬

トランスポーター

遺伝子

典型阻害薬

KiorIC50

P―gp

ABCB1

Cyclosporinea)

0.5―2.2μM

Elacridar(GF120918)b)

0.027―0.44μM

Ketoconazolec)

1.2―6.3μM

Quinidined)

3.2―51.7μM

Reserpinee)

1.4―11.5μM

Ritonavirf)

3.8―28μM

Tacrolimusf)

0.74μM

Valspodar(PSC833)e)

0.11μM

Verapamild)

2.1―33.5μM

Zosuquidar(LY335979)

0.024―0.07μM

BCRP

ABCG2

Elacridar(GF120918)g)

0.31μM

Fumitremorgin C

0.25―0.55μM

Ko134

0.07μM

Ko143

0.01μM

Novobiocin

0.063―0.095μM

Sulfasalazine

0.73μM

OATP1B1, OATP1B3

SLCO1B1, SLCO1B3

Cyclosporinec, e, g)

0.24―3.5μM(1B1)i), 0.06―0.8μM(1B3)

Estradiol―17β―glucuronideb, e)

2.5―8.3μM(1B1), 15.8―24.6μM(1B3)

Estrone―3―sulfateb, c)

0.2―0.79μM(1B1), 97.1μM(1B3)

Rifampicin

0.48―17μM(1B1), 0.8―5μM(1B3)

Rifamycin SV

0.17―2μM(1B1), 3μM(1B3)

OAT1, OAT3

SLC22A6, SLC22A8

Benzylpenicillin

1700μM(OAT1), 52μM(OAT3)

Probenecidf)

3.9―26μM(OAT1), 1.3―9μM(OAT3)

MATE1, MATE―2K

SLC47A1, SLC47A2

Cimetidined)

1.1―3.8μM(MATE1), 2.1―7.3μM(MATE―2K)

Pyrimethamine

77nM(MATE1), 46nM(MATE―2K)

OCT2

SLC22A2

Cimetidineh)

95―1650μM

1―methyl―4―phenylpyridinium(MPP+)h)

(1.2―22.2μM)

Tetraethylammonium(TEA)h)

144μM

( )内に示された数字は,Km

a) MRP2,BCRP,NTCP,OATPs阻害薬

b) BCRP阻害薬

c) NTCP阻害薬

d) OCTs阻害薬

e) MRP2阻害薬

f) OATPs阻害薬

g) P―gp阻害薬

h) MATEs基質,阻害薬

i) 阻害実験前に阻害薬をpreincubationすると,Ki値が減少する報告あり(留意事項(14)①も参照のこと)

なお,以上の表は,主に文献35)並びにデータベースの値を参考にして作成された.

TP―search(http://www.TP-Search.jp/)

UCSF―FDA Transportal(http://bts.ucsf.edu/fdatransportal/)

7.臨床薬物相互作用試験による評価

臨床試験は倫理的かつ科学的に行わなければならない.ヒトの組織由来試料及び発現系を用いたin vitro試験であらかじめ十分な情報を得て,被験者の安全を確保したうえで臨床薬物相互作用試験を効率的に実施することが重要である.In vitro試験結果などに基づきヒトにおける薬物相互作用を予測する際には,モデリングやシミュレーションの手法,また同種同効薬や薬物相互作用の機序が同一の他薬のデータを参考にする.臨床薬物相互作用試験については,その薬物相互作用に起因する副作用を念頭におき,被験者の安全に最大限に配慮した試験計画の策定が必要である.

7.1 臨床薬物相互作用試験の必要性及び実施のタイミング

ヒトにおいて薬物相互作用を生じる可能性が示唆された被験薬については,通常,健康志願者などを対象に,臨床薬物相互作用試験を,原則,第Ⅲ相試験開始前に実施することが望ましい.臨床用量の被験薬,指標薬,阻害薬,誘導薬を用いて薬物相互作用試験を実施する.この結果,被験薬と指標薬との間などにおいて薬物相互作用が示された場合においては,臨床での使用の可能性が高い併用薬についても,その特性,薬物相互作用発現の可能性などを考慮し,必要に応じて薬物相互作用の検討を行う.なお,医療用配合剤や併用療法など,被験薬が他の薬物との併用投与を目的として開発されている場合は,基本的には当該両薬物の併用による薬物相互作用試験を実施する.

臨床薬物相互作用試験の結果は,その後の臨床試験の治験実施計画書の作成時において,相互作用に基づく併用規定を検討する際に利用される.また,PBPKモデル解析とシミュレーションから得られる情報が有用な場合もある.In vitro薬物相互作用試験の結果,相互作用が現れる可能性が示された薬物は,臨床薬物相互作用試験などで安全性が示されるまでは,原則として,臨床試験では併用禁止とすべきである.第Ⅱ相及び/又はⅢ相臨床試験で薬物相互作用の影響を検討する場合,母集団薬物動態解析法により併用薬物との薬物相互作用に関する情報を得ることは,個体間変動を考慮した薬物動態を予測し,被験薬の薬物動態と有効性及び安全性を検討する上で有用な場合もある.なお,承認後に新たな薬物相互作用の発現が報告された場合は,製造販売後に臨床薬物相互作用試験による検討を考慮すべき場合もある.

7.2 検討すべき薬物相互作用の指標と結果の判定

薬物相互作用の定量的評価を行うために,被験薬又は併用薬のAUCを評価する.また,併用薬物との組み合わせなどによっては,薬効や副作用の評価も薬物相互作用の指標となる場合がある.

臨床試験の結果に基づく薬物相互作用の有無の判定は,相互作用薬の併用時及び非併用時で得られた薬物動態パラメータの幾何平均比の90%信頼区間に基づき行う.幾何平均比の90%信頼区間が0.8―1.25の範囲にあるとき,一般的には当該薬物間の薬物動態学的な相互作用は無いと判断する.なお,上述の範囲内外にかかわらず,当該医薬品の臨床試験で確認された安全性も踏まえた上で薬物相互作用が臨床的に問題となるかを判断すべきである.また必要に応じて相互作用によるCmax,トラフ濃度,Cmax到達時間(tmax),クリアランス,分布容積,半減期などの薬物動態パラメータへの影響についても評価する.

臨床的に問題となる薬物相互作用が生じる可能性がある場合,8章を参照して,薬物相互作用の情報提供と注意喚起の内容を判断する.

7.3 試験デザイン

臨床薬物相互作用試験は,無作為化クロスオーバー試験,上乗せ試験などの試験デザインで実施する.クロスオーバー試験や上乗せ試験の実施が不可能な場合は,並行群間比較試験も許容可能であるが,個体間変動が交絡因子となるため一般的には推奨されない.異なる試験の結果を対照とする比較(外部対照との比較)は原則行わない.

薬物相互作用試験は,血圧や症状観察による評価などバイアスを受けやすい有害事象を含む薬力学的マーカーの評価が重要な場合を除き,一般的には非盲検で実施する.

登録前に医療用又は一般用医薬品,サプリメント,健康食品,タバコ又はアルコールを摂取した被験者は,代謝酵素及びトランスポーターの活性が影響を受けている可能性があることから,臨床薬物相互作用試験の対象から除外することを考慮すべきである.

被験薬の消失が,遺伝子多型により活性の変化する代謝酵素あるいはトランスポーターの影響を強く受けると考えられる場合は(CYP2D6,CYP2C9,CYP2C19,UGT1A1,OATP1B1など),遺伝子多型によって薬物相互作用の程度が相違する可能性があり,遺伝子型により層別化した試験デザインが有用な場合がある(7.9.5.1項参照).

7.4 投与量と投与経路

試験で使用する阻害薬又は誘導薬の用量は,薬物相互作用を示す可能性を最大化する用量とすべきであり,予定あるいは承認されている最大用量と最短投与間隔を用いる.一方,基質薬は線形の範囲内であれば,いずれの用量を投与してもよい.また,基質薬の薬物動態が非線形性を示す場合は,臨床用量を考慮して定める.安全性上の懸念がある場合は,基質薬の用量を臨床用量よりも低用量に設定し,分析法の検出感度の観点など,用法・用量の変更が薬物相互作用の評価に与える影響を考察して,治験実施計画書及び治験総括報告書に記載する.

代謝における薬物相互作用試験では,投与経路の選択が重要である.被験薬の投与経路は,一般的に臨床使用を予定している投与経路とする.複数の投与経路の用法を開発する場合,予測される薬物相互作用の機序と被験薬及び代謝物のAUC値の変化の程度によって,薬物相互作用試験をそれぞれの投与経路別に実施する必要性を判断する.経口製剤のみを市販する場合は,通常,静脈内投与製剤を用いる臨床薬物相互作用試験を実施する必要はない.

7.5 投与期間と投与のタイミング

臨床薬物相互作用試験において,被験薬が代謝酵素の相互作用薬の場合には,被験薬の反復投与による定常状態での相互作用を検討することが望ましい.特にin vitro試験においてTDIが認められた被験薬及び酵素誘導を起こす可能性のある被験薬は,少なくとも数日間の前投与が必要である.この時に,安全性に配慮した上で投与量又は投与間隔を調整し,目標となる定常状態の薬物濃度に短期間で到達させることを考慮する.一方,TDI及び酵素誘導などの可能性のない相互作用薬,又は臨床上も単回投与で用いられる薬物の場合には,単回投与による検討も可能である.一般に,被相互作用薬(基質薬)は単回投与により薬物相互作用試験を実施できる.なお,TDI又は誘導などで代謝酵素の活性が長期的に変動する可能性のある相互作用の場合には,併用投与期の後に被相互作用薬の単独投与期を含むクロスオーバーデザインによって,相互作用薬休薬後の回復性を評価することが推奨される.相互作用薬の消化管吸収が胃内pHによる影響を受けることが予想される場合には,吸収過程での相互作用を分離して代謝過程への影響を正確に評価するため,例えば相互作用薬と胃酸分泌抑制剤による相互作用情報等から,予め影響の程度についても把握することが有用である.

被相互作用薬と相互作用薬の投与のタイミングが両薬物間の相互作用に及ぼす影響についても留意する.臨床薬物相互作用試験では,薬物相互作用の可能性を最大化するタイミングで投与することが望ましいが,被験者の安全性に最大限に配慮する必要がある.薬物相互作用の大部分が初回通過中に生じる場合には,両薬物の投与の間隔を空けることにより,薬物相互作用の程度は低下する可能性があるが,異なる時点で投与した場合に最も顕著な薬物相互作用が生じる場合もある*留意事項(15)

7.6 薬物代謝酵素及びトランスポーターの阻害薬の選択

7.6.1 P450の阻害薬を用いた薬物相互作用試験

被験薬のP450による代謝が阻害される可能性について評価する場合は,in vitro試験又は臨床薬物動態試験の結果に基づいて,被験薬の代謝経路に関与する酵素の阻害薬を選択して臨床薬物相互作用試験を実施する.その際,阻害の程度を考慮する.阻害の程度は臨床薬物相互作用試験により,相互作用薬及び相互作用を受けやすい基質薬が経口投与の場合に,AUCに及ぼす影響の程度を目安として設定している.AUCを5倍以上に上昇(CL/Fが1/5未満に減少)させると考えられる阻害薬を「強い阻害薬」,同2倍以上5倍未満に上昇(CL/Fが1/2未満1/5以上に減少)させると考えられる阻害薬を「中程度の阻害薬」,及び同1.25倍以上2倍未満に上昇(CL/Fが1/1.25未満1/2以上に減少)させると考えられる阻害薬を「弱い阻害薬」とする(表7―1参照).臨床薬物相互作用試験で用いる阻害薬の選択にあたっては,被験薬の消失に関与する酵素の強い阻害薬の使用が望ましいが,被験者の安全性に最大限に配慮する必要がある(4.2.1.2項,表7―1参照).安全性の観点から強い阻害薬との臨床相互作用試験の実施が困難な場合は,被験者の安全性に留意しながら中程度以下の強さの阻害薬を用いた臨床薬物相互作用試験を実施し,その影響を検討する.強い阻害薬を用いた相互作用試験の結果から,用量調整を考慮する必要性が示唆された場合は,臨床的に併用される可能性を考慮して,同じ代謝酵素に対する他の阻害薬の作用についても臨床試験で検討すべきである.臨床相互作用試験で検討した阻害薬以外の阻害薬については,必要に応じて第Ⅱ相又は第Ⅲ相臨床試験又はモデル解析により評価することも可能である.

被験薬の主要な代謝酵素が表7―1に記載されていない場合,治療域を超える血中濃度での安全性及び被験薬の消失全体に対する当該代謝経路の寄与の程度を考慮し,併用投与されることの多い薬物を用いて,当該酵素に及ぼす阻害作用を検討する.

7.6.2 P450以外の薬物代謝酵素及びトランスポーターの阻害薬を用いた薬物相互作用試験

被験薬がP450以外の酵素により代謝あるいはトランスポーターで輸送され,臨床においてそれらの阻害による薬物相互作用を生じる懸念がある場合,当該酵素あるいはトランスポーターに対する既知の阻害薬の有無などを考慮したうえで,臨床薬物相互作用試験の実施可能性を検討することが推奨される.臨床薬物相互作用試験を実施する場合,P450により代謝される薬物の場合と同様の手順に沿って評価する.

7.7 薬物代謝酵素の誘導薬の選択

被験薬のP450による代謝が誘導される可能性について評価する場合は,in vitro試験又は臨床薬物動態試験の結果に基づいて,被験薬の代謝経路に関与するP450を選択して臨床薬物相互作用試験を実施する.その際,誘導の程度を考慮する.誘導の程度は臨床薬物相互作用試験により,相互作用薬及び相互作用を受けやすい基質薬が経口投与の場合に,AUCに及ぼす影響の程度を目安として設定している.AUCを1/5以下に減少(CL/Fが5倍より大きく上昇)させると考えられる誘導薬を「強い誘導薬」,同1/2以下1/5以上より大きく減少(CL/Fが2倍以上5倍未満に上昇)させると考えられる誘導薬を「中程度の誘導薬」,及び同1/1.25以下1/2より大きく減少(CL/Fが1.25倍以上2倍未満に上昇)させると考えられる誘導薬を「弱い誘導薬」とする(表7―2参照).臨床薬物相互作用試験で用いる誘導薬の選択にあたって,相互作用の最大効果を評価するために作用の強い誘導薬の使用が望ましいが,被験者の安全性に最大限に配慮する必要がある(4.2.1.2項,表7―2参照).臨床相互作用試験で検討した誘導薬以外の誘導薬については,必要に応じて第Ⅱ相又は第Ⅲ相臨床試験又はモデル解析により評価することも可能である.適応疾患及び用法の観点から,特定の酵素誘導薬との併用投与が必要となる被験薬の場合には,被験者の安全性に最大限配慮したうえで,適切な治療法を確立するために当該誘導薬との臨床薬物相互作用試験の実施が推奨される(4.2.1.2項参照).

7.8 薬物代謝酵素及びトランスポーターの基質薬の選択

被験薬がP450による代謝を阻害又は誘導する可能性について評価する場合は,in vitro試験又は臨床薬物動態試験の結果に基づいて,被験薬が影響を与える基質薬を選択して臨床薬物相互作用試験を実施する.基質薬を選択する際,基質薬が作用を受ける程度を考慮する.作用を受ける程度は臨床薬物相互作用試験により,相互作用薬及び基質薬が経口投与の場合に,特定の分子種のP450の「強い阻害薬」の併用によりAUCの影響の程度を目安として設定している.AUCが5倍以上に上昇(CL/Fが1/5未満に減少)する基質薬は,消失における当該P450の寄与率がおおむね80%以上と考えられ,「薬物動態学的相互作用を受けやすい基質薬」とする(表7―3参照).また同AUCが2倍以上5倍未満に上昇(CL/Fが1/5以上1/2未満に減少)する基質は,消失における当該代謝酵素の寄与率がおおむね50%以上80%未満と考えられ,「薬物動態学的相互作用の受けやすさが中程度の基質薬」とする(表7―3参照).被験薬が薬物代謝酵素(又はトランスポーター)を阻害又は誘導するか否かを臨床試験で調べるためには,消失全体に対する代謝酵素(又はトランスポーター)の寄与が大きく(薬物動態学的相互作用を受けやすい基質薬),当該経路に選択性の優れていることが確立している指標薬(又は典型基質薬,表6―4)との薬物相互作用試験を実施する.代謝酵素のin vivoの指標薬の例として,(1) CYP1A2基質のテオフィリン,(2) CYP2B6基質のブプロピオン,エファビレンツ,(3) CYP2C8基質のレパグリニド,(4) CYP2C9基質のS―ワルファリン,トルブタミド,(5) CYP2C19基質のオメプラゾール,(6) CYP2D6基質のメトプロロール,及び(7) CYP3A基質のミダゾラムがある(表7―3).臨床薬物相互作用試験において,被験薬が指標薬又は薬物動態学的相互作用を受けやすい基質薬の代謝を阻害又は誘導することが確認された場合,製造販売後に併用される可能性が高い当該酵素の基質薬を用いて,臨床薬物相互作用試験を追加することを考慮する(図4―2,図4―3,4.2.1.4項及び4.2.1.6項参照)*留意事項(16)

7.9 臨床薬物相互作用試験による評価におけるその他の注意事項

7.9.1 単代謝酵素薬物と多代謝酵素薬物

1つの酵素によってのみ代謝される薬物(単代謝酵素薬物)においては,関与する酵素が阻害されると,薬物の生体内濃度が著しく高くなる.一方,複数の代謝酵素により代謝される薬物(多代謝酵素薬物)では,主たる代謝酵素が阻害されても,他酵素(代替酵素)による代謝により薬物の生体内濃度の上昇の程度が少ない.酵素誘導の場合も,誘導を受けた酵素によってのみ代謝される被験薬の場合には生体内濃度は著しく低くなるが,他に被験薬の代謝に関与している酵素がある場合には血中濃度の減少は相対的に軽度となる.これらの相互作用の程度を予測するためには,適切にデザインされた薬物相互作用試験結果の解析と合わせて,モデリング及びシミュレーションによる検討が有用と考えられる36)

7.9.2 薬物代謝酵素とトランスポーターの両方が関与する薬物相互作用

酵素とトランスポーターの基質特異性が重複していることが原因で,薬物相互作用に複数の機序が関与する場合(Complex drug―drug interaction)がある37).代表例としては,CYP3AとP―gpの基質特異性の重複が挙げられる.薬物相互作用の検討方法としては,P―gp及びCYP3Aの双方に強い阻害作用を示すイトラコナゾールなどの阻害薬を用いて試験を実施するが,薬物相互作用があることが明らかとなった場合でも,AUCを変化させる原因がいずれの分子であるかを特定することはできず,試験結果の解釈には注意が必要である.

また,被験薬が相互作用薬となり,複数の酵素及びトランスポーターを阻害又は誘導する場合や,特定の酵素及びトランスポーターを阻害すると同時に,別の酵素及びトランスポーターを誘導する場合も想定される.さらには,複数の薬物を同時併用することで,代謝酵素とトランスポーターの両者が阻害される場合には,より複雑かつ重大な影響が現れる可能性がある*留意事項(17)

7.9.3 カクテル基質試験

数種類の酵素及びトランスポーターに対する被験薬の作用を,1回の臨床薬物相互作用試験で検討するためにカクテル基質試験を利用することができる38).カクテル基質試験を適切にデザインすれば,阻害作用(可逆的又はTDI)及び誘導作用の双方を検討することが可能である.カクテル基質試験で使用する基質は,評価対象の各酵素(及びトランスポーター)の指標薬又は相互作用を受けやすい基質から構成されている必要がある*留意事項(18).用いた指標薬又は基質毎にCL/F又はAUC値に対する被験薬の影響を算出する.適切に実施されたカクテル基質試験の結果,薬物相互作用がないと判断された場合(7.2項参照)は,該当する酵素やトランスポーターについて更に評価を行う必要はないが,臨床的に問題となる可能性がある薬物相互作用があると判断された場合には,当該経路の阻害又は誘導による薬物動態学的相互作用を受けやすい基質薬,典型基質薬(表7―3,表6―4参照)単剤を用いた臨床薬物相互作用試験を実施する.

7.9.4 母集団薬物動態試験法による薬物相互作用の検討

第Ⅱ及び/又はⅢ相臨床試験において併用薬の情報を収集し,母集団薬物動態解析を利用して薬物相互作用の検討を行えるように試験を計画することにより,独立した薬物相互作用試験で検討されなかった薬物相互作用を検討できる場合がある.そのためには,他の薬物に対する被験薬の作用を評価するために,当該臨床試験における測定試料及び採取のタイミングなどは適切に設定することが重要である.

7.9.5 特別な集団についての考慮

7.9.5.1 遺伝子多型を考慮した薬物相互作用の検討

被験者の遺伝子型により,特定の酵素又はトランスポーターにおける薬物相互作用の程度(阻害又は誘導)が異なることがある.主要な消失経路(酵素又はトランスポーター)の活性が欠損又は低下している被験者では,一般に薬物の血中濃度は高く,代替経路の代謝又は排泄を阻害する薬剤と併用された場合には,更に血中濃度は高くなり,安全性上の問題を生じる可能性がある.

遺伝子多型が薬物動態に大きな影響を与える代謝酵素とトランスポーターの分子種としては,CYP2C9,CYP2C19,CYP2D6,UGT1A1,OATP1B1がある32).これら代謝酵素やトランスポーターが主要消失経路である被験薬は,臨床薬物相互作用試験を行う場合は,事前に遺伝子多型解析を実施することが有用である.

遺伝子多型の種類及び頻度も考慮する必要がある.特に東アジア人で活性欠損者の頻度が高いCYP2C19及び活性が大きく低下する遺伝子多型が知られているCYP2D6が主要消失経路である被験薬については,これらP450分子種の特性を念頭に臨床薬物相互作用試験を行う必要がある*留意事項(19)

7.9.5.2 被験薬が主として特別な集団,又は特定疾患の患者集団に適用される場合

被験薬が幼小児や高齢者などの集団,又は腎機能や肝機能が低下した患者集団に投与されることが十分想定される場合,薬物相互作用の検討方法として,母集団薬物動態試験法やPBPKモデルなどによる評価も可能である.臨床での薬物相互作用の予測を行うためには,被験薬の消失に占める代謝酵素の相対的寄与率の適切な予測が重要である.また,モデルを用いた検討の際には最大限に影響があるケースを想定するなど,これら集団において臨床上問題となる薬物相互作用を見逃さないよう注意する.

7.9.5.3 健康志願者を試験対象集団としない場合

臨床薬物相互作用試験は,通常,健康志願者を対象として実施され,その結果を踏まえて患者集団における薬物相互作用の考察を行う場合が多い.健康者での実施が困難な場合,適応患者集団を対象に薬物相互試験が実施される場合がある.その際には,試験期間,用量,採血スケジュールなどの試験デザイン上の制約が多くなるため,これら集団における薬物相互作用の検討にあたっては,患者集団の個体間差を十分に考慮するとともにモデリングやシミュレーションを適用し適宜情報を補うことも有用である.

表7―1 P450酵素のin vivo阻害薬の例

P450分子種

強い阻害薬

相互作用を受けやすい基質薬a)のAUCが5倍以上に上昇(CL/Fが1/5未満に減少)

中程度の阻害薬

相互作用を受けやすい基質薬a)のAUCが2倍以上5倍未満に上昇(CL/Fが1/2未満1/5以上に減少)

弱い阻害薬

相互作用を受けやすい基質薬a)のAUCが1.25倍以上2倍未満に上昇(CL/Fが1/1.25未満1/2以上に減少)

CYP1A2

ciprofloxacin, enoxacin, fluvoxamine,

zafirlukast

(rofecoxib)

methoxsalen,mexiletine ,oral contraceptives,

(clinafloxacin), (idrocilamide)

acyclovir, allopurinol, cimetidine,

peginterferon alpha―2a (sc)

(grepafloxacin), (piperine),

(pefloxacin), (pipemidic acid),

(zileuton)

(antofloxacin), (daidzein),

(viloxazine)

CYP2B6

clopidogrel, tenofovir, ticlopidine

CYP2C8

(gemfibrozil)

cyclosporine, deferasirox

(teriflunomide)

trimethoprim

itraconazole

(telithromycin)

CYP2C9

fluorouracil derivatives,

(carmofur), (sulfaphenazole)

amiodarone,

bucorome,

cyclosporine,

fluconazole, miconazole,

cimetidine,disulfiramfluvastatin,

fluvoxamine, voriconazole

(diosmin)

CYP2C19

fluconazole, fluvoxamine, ticlopidine,

voriconazole


tienilic acid

(fluoxetine),

allicin, clopidogrel, etravirine,

grapefruit juiceb),omeprazole, oral contraceptives, ritonavir

roxithromycin

(moclobemide)

(ketoconazole), (troleandomycin)

(armodafinil)

CYP2D6

cinacalcet, fluoxetine, quinidine

paroxetine, terbinafine

(bupropion), (dacomitinib)

celecoxib,

duloxetine, escitalopram

mirabegron,

amiodarone, cimetidine, clobazam,

cobicistat, labetalol, ritonavir,

sertraline,

(moclobemide)

(abiraterone), (deramciclane),

(desvenlafaxine), (lorcaserin)

(vemurafenib)

CYP3A

cobicistat, indinavir, itraconazole,

ritonavir, telaprevir, voriconazole

(conivaptan),(ketoconazole),(posaconazole),

(troleandomycin)

amprenavirc), aprepitant,

atazanavir,

ciprofloxacin,

crizotinib,

cyclosporine,

diltiazem, erythromycin,

fluconazole,

fosamprenavir,

imatinib,

istradefylline,

miconazole,

tofisopam,

verapamil,

(casopitant),

(dronedarone),

chlorzoxazone, cilostazol,

cimetidine, fluvoxamine,

fosaprepitant, ranitidine,

tacrolimus

(clotrimazole),(ivacaftor),

(lomitapide),(ranolazine),

(tabimorelin), (ticagrelor)

clarithromycin, grapefruit juice b) ,

nelfinavir, saquinavir

(boceprevir), (nefazodone)

① CYP3Aの強い阻害薬の表中,点線より上の薬物は相互作用を受けやすい基質薬のAUCを10倍以上に上昇(CL/Fが1/10未満に減少)させることが報告されている.弱い阻害薬については,その相互作用に対してとるべき臨床的対処等を踏まえ,相互作用を受けやすい基質薬のAUCを1.5倍以上に上昇する薬物のみを提示している.

② 括弧内の薬物は本邦未承認.

③ 表中の薬物は,薬物相互作用データベース(http://www.druginteractioninfo.org/)及びその根拠となった論文における指標薬との臨床相互作用試験データに基づき,また当該薬物の添付文書等も確認のうえ分類を行い,例示するものである.なお,外用薬及び医療用配合剤は記載していない.

a) 表7―3及び7.8項参照.

CL/Fを1/5未満,同1/2未満1/5以上及び同1/1.25未満1/2以上に減少:それぞれCL/Fを80%以上,同50―80%及び20―50%減少と同義.

b) グレープフルーツジュースによる作用は濃度,用量及び製品に左右される.

c) CYP3A4の中程度の阻害薬であるamprenavirは,プロドラッグがfosamprenavir (calcium hydrate)として承認されている.

表7―2 P450酵素のin vivo誘導薬の例

P450分子種

強い誘導薬

相互作用を受けやすい基質薬a)のAUCが1/5以下に減少(CL/Fが5倍より大きく上昇)

中程度の誘導薬

相互作用を受けやすい基質薬a)のAUCが1/2以下1/5より大きく減少(CL/Fが2倍以上5倍未満に上昇)

弱い誘導薬

相互作用を受けやすい基質薬a)のAUCが1/1.25以下1/2より大きく減少(CL/Fが1.25倍以上2倍未満に上昇)

CYP1A2

phenytoin, smoking

montelukast

(moricizine)

CYP2B6

efavirenz

nevirapine, rifampicin

CYP2C8

rifampicin

CYP2C9

aprepitant, carbamazepine,

phenobarbital, rifampicin

CYP2C19

rifampicin, ritonavir

rifampicin

CYP3A

carbamazepine, phenobarbital,

phenytoin, rifabutin, rifampicin

St. John's wortb)

bosentan, efavirenz, etravirine,

modafinil,

rufinamide,

(armodafinil)

① 括弧内の薬物は本邦未承認.

② 表中の薬物は,薬物相互作用データベース(http://www.druginteractioninfo.org/)及びその根拠となった論文における指標薬との臨床相互作用試験データに基づき,また当該薬物の添付文書等も確認のうえ分類を行い,例示するものである.なお,外用薬及び医療用配合剤は記載していない.

a) 表7―3及び7.8項参照.

AUCの減少が1/5以下,同1/2以下1/5より大きい及び同1/1.25以下1/2より大きい:それぞれAUCの減少が80%以下,同50―80%及び20―50%と同義.

b) St.John's wortによる作用は濃度,用量及び製品に左右される.

表7―3 P450酵素の阻害又は誘導による相互作用を受けやすい基質薬の例

P450分子種

阻害あるいは誘導による薬物動態学的相互作用を受けやすい基質薬

強い阻害薬a)との併用によりAUCが5倍以上に上昇(CL/Fが1/5未満に減少)あるいは強い誘導薬a)との併用によりAUCが1/5以下に減少(CL/Fが5倍より大きく上昇)

阻害あるいは誘導による薬物動態学的相互作用の受けやすさが中程度の基質薬

強い阻害薬a)との併用によりAUCが2倍以上5倍未満に上昇(CL/Fが1/5以上1/2未満に減少)あるいは強い誘導薬a)との併用によりAUCが1/2以下1/5より大きく減少(CL/Fが2倍以上5倍未満に上昇)

CYP1A2

caffeine, duloxetine, pirfenidone, ramelteon, tizanidine

(alosetron), (melatonin), (tacrine)

clozapine, olanzapine,ramosetron, ropinirole,

theophylline

CYP2B6

efavirenz

(bupropion)

 

CYP2C8

montelukast, repaglinideb)

pioglitazone

CYP2C9

celecoxib, diclofenac, glimepiride, tolbutamide, warfarin

fluvastatin, glibenclamide, ibuprofen, nateglinide,

phenytoin

CYP2C19

clobazam, lansoprazole, S―mephenytoin,omeprazoleb), voriconazole

clopidogrel, diazepam, escitalopram, esomeprazole,

etizolam, rabeprazole, sertraline,

CYP2D6

atomoxetine, desipramine, dextromethorphan, maprotiline,

metoprolol, nortriptyline, perphenazine, propafenone,

tamoxifen, tolterodine, tramadol, trimipramine, tropisetron,

venlafaxine

(doxepin), (encainide), (nebivolol)

amitriptyline, clomipramine, flecainide, imipramine,

timolol, propranolol

CYP3A

alprazolam, aprepitant, azelnidipine, blonanserin, budesonide,

buspirone, colchicine, conivaptan, darifenacin, darunavir,

dasatinib, eleptriptan, eplerenone, evelolimus, felodipine,

fluticasone, indinavir, lopinavir, lovastatin, maraviroc,

midazolam, nisoldipine, quetiapine, saquinavir, sildenafil,

simvastatin, sirolimusc), tadalafil, tolvaptan, triazolam,

vardenafil

(alfentanil), (dronedarone), (lurasidone), ticagrelor,

tipranavir

atorvastatin, pimozide, rilpivirine, rivaroxaban,

tacrolimus

① 括弧内の薬物は本邦未承認.

② この表は,代謝におけるP450酵素の寄与が大きい薬物を例示する目的で作成されたものであり,網羅的調査に基づくものではない.表中の薬物は,薬物相互作用データベース(http://www.druginteractioninfo.org/)及びその根拠となった論文における指標薬との臨床相互作用試験データに基づき,また当該薬物の添付文書等も確認のうえ分類を行い,例示するものである.なお,外用薬及び医療用配合剤は記載していない.

③ 薬物動態学的相互作用の大きさと,その相互作用に対してとるべき臨床的対処の程度は一致しないことが多いので注意すること.

a) 臨床薬物相互作用試験に用いるために推奨される指標薬は7.8項参照.

b) 留意事項(16)参照.

c) CYP3Aの阻害あるいは誘導による薬物動態学的相互作用を受けやすい基質薬であるsirolimus は,プロドラッグがtemsirolimusとして承認されている.

8.薬物相互作用に関する情報提供と注意喚起について基本となる考え方

医薬品開発の過程で得られた被験薬の薬物動態情報及び薬物相互作用試験の情報は,添付文書やその他の手段を通じて医療現場に提供されることにより,医薬品の適正使用のために有用な情報となる.薬物動態学的な相互作用に関する情報を添付文書に反映させる際の基本となる考え方は以下の通りである.情報提供や注意喚起の内容を判断する際には,薬物動態の変動が治療効果や副作用発現に影響するか否かという観点から検討する.

8.1 使用上の注意への記載

他の医薬品を併用することにより,被験薬又は併用薬の薬理作用の増強又は減弱,既知の副作用の増強,新しい副作用の出現又は原疾患の増悪などが生じるおそれがあり,臨床使用上の注意を要する場合には,活性本体の用量反応や曝露―応答関係などを踏まえ,有効性の減弱や効果の増強による副作用の発現並びにその種類とその程度及び薬物動態(AUC及びCmax)の変動の程度に基づき,注意喚起の要否を検討する.措置分類として,「併用禁忌(併用しないこと)」又は「併用注意(併用に注意すること)」がある.薬物動態の変動の程度に関わらず,重篤な副作用が発現する可能性が高く,それが当該薬に期待される治療効果の臨床的重要性を上回る場合には,原則として「併用禁忌」とする.当該薬による治療効果の臨床的重要性は認められるが,薬物動態の変動が承認用法・用量の範囲で想定される曝露の範囲を逸脱する可能性があり,患者を危機にさらし重篤な結果に至らぬように処置を必要とするような場合は,その程度に応じて「併用禁忌」又は「併用注意」とする.

「相互作用」の項には,冒頭において,被験薬の代謝に関わる酵素分子種とその寄与割合の目安,阻害及び誘導作用,吸収,分布及び排泄における薬物輸送機序など,相互作用に関連する薬物動態特性の概要を,原則,臨床薬物動態情報に基づき,簡潔に記載する.被験薬がP450を介して薬物動態学的相互作用を与える場合(阻害薬,誘導薬:相互作用薬),相互作用の強度(7.6項,7.7項及び表7―1,表7―2参照)も明記する.併用薬に関する注意喚起は,可能な限り表などのわかりやすい形式とし,相互作用の種類(機序など)に基づき項を分けて,薬剤名・薬効群名と相互作用の内容(臨床症状・措置方法,機序・危険因子など)を記載する.薬力学的な相互作用の場合には薬剤名の記載欄に薬効群と一般名を記載する.「併用禁忌」では,併用禁忌とするすべての薬剤名を一般名と代表的な販売名を併記して記載する.併用禁忌とする薬剤は「禁忌」の項にも簡潔に記載する.

薬物相互作用による影響を回避するための注意事項があれば,「臨床症状・措置方法」に記載し,薬物相互作用を生じる機序や併用により安全性上の懸念が生じる可能性のある危険因子などは「機序・危険因子」に記載する.相互作用の機序が不明な場合には,機序が不明である旨を記載する.

相互作用により,当該被験薬の用法・用量の調節が必要な場合には,「用法・用量に関連する使用上の注意」の項において,実施した臨床相互作用試験などにおける定量的な情報に基づき用法・用量の調節方法を具体的に記載する.また,リスク管理の観点から特に注意を喚起すべき事項は「重要な基本的注意」の項に記載する.

器質障害又は機能障害に結びつかない見かけ上の臨床検査値の変動などの診断(検査)薬との相互作用は「臨床検査結果に及ぼす影響」,薬剤学的配合変化に関する注意は,「適用上の注意」又は「取り扱い上の注意」に記載する.生物薬品や飲食物などとの相互作用についても重要なものについては同様な考え方で判断する.

類薬において,薬物動態学的相互作用により臨床上注意を要する明白な副作用が生じており,当該被験薬について,臨床相互作用試験は実施していないものの同一の薬物動態の機序に起因して,併用薬との間に薬物動態変化が生ずる蓋然性が適切なモデル解析やシミュレーションなどにより示された場合には,臨床での併用の可能性なども考慮した上で,注意喚起の記載を検討する.この考え方は薬物動態の変化を注意喚起の指標として用いるが,注意喚起の程度及び内容の判断は,あくまで有効性・安全性,対処法などの臨床的要因を考慮して決定する.また,注意喚起にあたってはモデリングやシミュレーションを活用したことが明確になるよう留意する.

8.2 相互作用薬と被相互作用薬についての記載

「併用禁忌」の注意喚起は,相互作用薬及び被相互作用薬とも,併用禁忌とするすべての薬剤名を,一般名と代表的な販売名を併記して注意喚起を行う.一方,「併用注意」の注意喚起は,併用薬剤名の一般名を明記して注意喚起を行う.ただし,CYP3Aが関わる薬物相互作用は,注意喚起が必要な併用薬が多数となることに加えて,それぞれに必要な注意喚起の程度は併用薬の薬効だけではなく薬物動態特性によっても異なることから,併用薬の全ての組合せについて添付文書に記載することは不可能である.CYP3Aが関わる薬物相互作用については,阻害又は誘導の強度分類の明記とともに併用薬の添付文書を参照する旨,基質薬に関してはCYP3Aで主に代謝される旨の記載を「相互作用」の冒頭に記載することで,「相互作用」の併用注意欄における個々の薬剤名の記載を省略することができる.しかしながら,その場合でも臨床での併用の可能性なども考慮した上で代表的な併用薬剤名を三剤程度列挙する.なお,CYP3A以外のP450分子種による薬物相互作用については,併用薬剤名を明記して注意喚起を行うとともに,必要に応じて強度分類も記載する.P450以外の代謝酵素及びトランスポーターなどによる相互作用の注意喚起においては,併用薬剤名を明記して注意喚起を行う.

8.3 薬物動態欄への記載

「薬物動態」には,ヒトにおける被験薬の薬物動態学的特徴が把握できるよう基本的な薬物動態パラメータと相互作用の機序に関連する事項とその根拠となるin vivoやin vitro試験成績を記載する.薬物動態学的特徴を把握するためには,全身クリアランス,分布容積,絶対バイオアベイラビリティ,尿中排泄率等の薬物動態パラメータが重要であり,経口投与を目的とした開発においても.必要に応じて静脈内投与によりデータを得て吸収や排泄等の該当する項目に記載する.また,相互作用の機序に関連する事項として,主要消失経路とそれに関わる酵素などとその寄与の程度に関する定量的な情報,代謝酵素の阻害及び誘導,並びに吸収,分布,排泄における薬物輸送機序などを代謝や排泄などの該当する項目に記載する.データの情報提供を行う際には,in vitro試験又は臨床薬物相互作用試験によるものか,また実測データかシミュレーションなどで得られた推定値なのか明確に区別して記載する.実施した臨床薬物相互作用試験は,相互作用の有無に関わらず,臨床的に有用と考えられる情報を「薬物動態」の項目において適切に情報提供する.薬物動態に変動が認められ治療効果や副作用発現に影響する懸念がある場合は,試験で用いた用法・用量などの情報とともに薬物動態の変化を情報提供する.試験成績の表示は,記述,表又は図を利用しAUC又はCmaxなどの変化を定量的かつ簡潔に記載する.試験デザインや詳細なデータは添付文書以外の資材を活用して情報提供する.いずれの情報提供についても,添付文書中で文献を引用するなどして根拠を明確にする.

8.3.1 薬物動態学的な相互作用を受ける薬(基質:被相互作用薬)の場合

薬物動態学的な相互作用を受ける被験薬は,相互作用を生じる薬物動態上の機序及び受ける影響の大きさを,定量的に特定して記載する.この情報は,一般に当該経路に対する選択的で強い相互作用薬との臨床薬物相互作用試験により検討される(阻害薬,誘導薬の7.6項,7.7項及び表7―1,表7―2参照).なお,特定の代謝酵素(及びトランスポーター)経路がその被験薬にとって主要な消失経路でない場合には,その根拠となるin vitro試験の情報を記載することで差し支えない.

8.3.2 薬物動態学的な相互作用を与える薬(阻害薬,誘導薬:相互作用薬)の場合

薬物動態学的な相互作用を与える被験薬は,相互作用を生じる薬物動態上の機序及び与える影響の定量的な大きさに基づき,阻害又は誘導作用の強度(7.6項,7.7項及び表7―1,表7―2参照)も記載する.ただし,トランスポーターを介した薬物相互作用の場合には,現時点ではこれらの基準を明確化することができないことから,典型基質薬(表6―4参照)に及ぼす阻害又は誘導作用の程度を定量的に記載する.

9.関連する指針及びガイドライン

本ガイドラインは,薬物相互作用の検討及び注意喚起に関する一般的原則を示したものである.既に公表されているガイドラインや指針などにも薬物相互作用の検討に関する記述が含まれているが,本ガイドラインはそれらの内容を統合して整理するとともに,現時点での最新の知見及び考え方を組み込んだものである.

ICHガイドライン

1) 平成7年3月20日付 薬審第227号 治験中に得られる安全性情報の取り扱い(ICHE2Aガイドライン)

2) 平成17年3月28日付 薬食安発0328007号 承認後の安全性情報の取り扱い:緊急報告のための用語の定義と報告の基準 (ICHE2Dガイドライン)

3) 平成17年9月16日付 薬食審査発第0916001号,薬食安発第0916001号 医薬品安全性監視の計画 (ICHE2Eガイドライン)

4) 平成8年5月1日付 薬審第335号 治験の総括報告書の構成と内容に関するガイドライン (ICHE3ガイドライン),平成24年10月18日付 事務連絡 同質疑応答集

5) 平成6年7月25日付 薬審第494号 新医薬品の承認に必要な用量―反応関係の検討 (ICHE4ガイドライン)

6) 平成10年8月11日付 医薬発第739号 外国で実施された医薬品の臨床試験データの取り扱い,同付医薬審第672号 外国臨床データを受け入れる際に考慮すべき民族的要因についての指針 (ICHE5ガイドライン),平成16年2月25日及び平成18年10月5日付 事務連絡 同質疑応答集及び同質疑応答集(その2)

7) 平成9年3月27日付 医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令,同付 薬発第430号 医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令の施行 (ICHE6ガイドライン)

8) 平成5年12月2日付 薬新薬第104号 高齢者に使用される医薬品の臨床評価法に関するガイドライン (ICHE7ガイドライン),平成22年9月17日付 事務連絡 同質疑応答集

9) 平成10年4月21日付 医薬審第380号 臨床試験の一般指針 (ICHE8ガイドライン)

10) 平成12年12月15日付 医薬審第1334号 小児集団における医薬品の臨床試験に関するガイダンス (ICHE11ガイドライン),平成13年6月22日付 事務連絡 同質疑応答集

11) 平成20年1月9日付 薬食審査発第0109013号,薬食安発第0109002号 ゲノム薬理学における用語集 (ICHE15ガイドライン)

12) 平成23年1月20日付 薬食審査発第0120第1号,薬食安発第0120第1号 医薬品またはバイオテクノロジー応用医薬品の開発におけるバイオマーカー:適格性確認のための資料における用法の記載要領,資料の構成及び様式 (ICHE16ガイドライン)

13) 平成22年2月19日付 薬食審査発0219第4号 医薬品の臨床試験及び製造販売承認申請のための非臨床安全性試験の実施についてのガイダンス (ICH M3(R2)ガイドライン),平成24年8月16日付 事務連絡 同質疑応答集

国内の指針等 (薬物動態関連)

1) 昭和63年3月11日付 薬審1第5号 徐放性製剤 (経口投与製剤) の設計及び評価に関するガイドライン

2) 平成10年6月26日付 医薬審第496号 非臨床薬物動態試験ガイドライン

3) 平成13年6月1日付 医薬審発第796号 医薬品の臨床薬物動態試験について

4) 平成24年2月29日付 薬食審査発0229第10号 後発医薬品の生物学的同等性試験ガイドライン等の一部改正について,同付 事務連絡 同質疑応答集

5) 平成20年6月3日付 薬食審査発第0603001号 マイクロドーズ臨床試験の実施に関するガイダンス

6) 平成20年9月30日付 薬食審査発第093007号 ゲノム薬理学を利用した治験について

7) 平成26年1月10日付 事務連絡 ブロック共重合体ミセル医薬品の開発に関する厚生労働省/欧州医薬品庁の共同リフレクション・ペーパー)

8) 平成25年2月8日付 文部科学省,厚生労働省,経済産業省 ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針

9) 「母集団薬物動態試験法」解説

国内の指針 (添付文書関連)

1) 平成9年4月25日付 薬発第606号,薬安第59号 医療用医薬品添付文書の記載要領について

2) 平成9年4月25日付 薬発第607号 医療用医薬品の使用上の注意記載要領について,同付 事務連絡 同質疑応答集,平成12年12月25日付 事務連絡 医療用医薬品の使用上の注意の記載について

海外のガイダンス等

1) FDA:Guidance for Industry Drug Interaction Studies ― Study Design, Data Analysis, Implications for Dosing, and Labeling Recommendations DRAFT GUIDANCE (2012,2)

2) EMA:Guideline on the investigation of drug interactions (2013,1)

3) FDA:Guidance for Industry Clinical Pharmacogenomics:Premarket Evaluation in Early-Phase Clinical Studies and Recommendations for Labeling (2013,1)

4) EMA: Guideline on the use of pharmacogenetic methodologies in the pharmacokinetic evaluation of medicinal products (2012,8)

5) FDA: Guidance for Industry Food-Effect Bioavailability and Fed Bioequibalence Studies (2002,12)

10.留意事項,解析方法及び事例

(1) 血液脳関門におけるP―gp阻害を介した薬物相互作用の事例

血液脳関門においては,血液側にP―gp, BCRPなど複数の排出トランスポーターが発現しており,薬物の脳内への移行を制限している.これらトランスポーターが阻害された場合,被相互作用薬の脳内移行が上昇する可能性が考えられる.このような相互作用がヒトで実証された例は,手法の困難さのため限られるが,例えば,P―gpの基質薬であるベラパミルの脳移行が,阻害薬であるシクロスポリンとの併用により上昇したことが,PET試験により示された報告39)などがある.

(2) 寄与率(Contribution ratio; CR)の算出

一般に,ヒト肝ミクロソームにおけるfm(fraction metabolized)によるCRの評価が直接適用可能な場合は,経口薬で小腸における代謝が小さく,胆汁中排泄や尿中排泄などの排泄クリアランスや肝臓におけるP450以外の代謝クリアランスが無視できる場合である.また,厳密には一次代謝反応から薬物相互作用の程度が単純に計算できる場合に限られ,肝取り込みなどのトランスポーターの活性も変動する場合は,PBPKモデルなどの方法の適用が望ましい.なお,静脈内投与(注射薬)の場合は,CL/Fではなく全身クリアランス(CLtot)に対するCRを評価する必要がある.

被験薬が遺伝子多型を有する酵素(CYP2D6,CYP2C9,CYP2C19など)によって代謝される場合,遺伝的に活性を欠損する被験者(Poor metabolizer, PM)のin vitro又はin vivoのクリアランスの変化は,その酵素をほぼ完全に阻害する阻害薬を併用した場合と同程度と考えられ,対応するCLを野生型の被験者(Extensive metabolizer, EM)と比較することにより,被験薬の消失全体における当該酵素の寄与率を推定可能である.また,薬物の消失経路における特定のトランスポーターの重要性についても,その遺伝子型が異なる被験者(例:OATP1B1(SLCO1B1) c.521T>C)の間で被験薬の薬物動態を比較することにより評価できる.

(3) In vitro代謝試験による代謝酵素の同定に関する留意事項

代謝の寄与の大きい酵素分子種を同定する目的で,複数の個体から調製した肝ミクロソームなどを用いて特定の酵素活性(指標基質の代謝)と被験薬の代謝を比較する相関試験を利用する際には,各種酵素の活性強度がそれぞれの個体で互いに相関する場合があることに留意すべきである.選択性の高い酵素阻害薬が存在しないなどの場合において,やむを得ず相関試験を実施する際には,他の手法と組み合わせて判断する必要がある.また,各種P450分子種の発現系細胞から調製したミクロソームによる代謝活性を,肝臓中の各種P450分子種の含量で補正して寄与率を評価する方法(Relative activity factor, RAF)も用いられるが,一般にRAF法の妥当性確認には十分な検証が必要であり,同様に他の手法と組み合わせて判断する必要がある.

基質として代謝される分子種と阻害する分子種は必ずしも一致しないことにも留意すべきである.例えば,キニジンは,主としてCYP3Aで代謝されるが,CYP2D6を強く阻害する40,41).また,in vitroでは代謝が全く認められない,又はほとんど認められない場合でもin vivoで代謝物が認められる場合は,化学構造及び既報のデータを利用して,関与する酵素を特定できるようなin vitro試験系を見出すよう試みるべきである.

(4) 肝細胞を用いた酵素誘導試験の妥当性の確認

培養ヒト肝細胞は個体間変動やロット差が大きいため,3名以上のドナー由来の肝細胞を使用することが望ましく,さらに培養開始時の細胞生存率が80%を明らかに下回る場合,又は培養終了時の細胞生存率が顕著に低下している場合は,新たなドナー由来の肝細胞で実施すべきである.当該試験においては,通常,薬物を含む培地を一日一回交換することにより,被験薬を連続的に曝露させる.曝露期間は一般的に2~3日であるが,文献報告などを参考に適切な期間を設定する.通常は,誘導作用が最も顕著であった肝細胞での結果を臨床試験の必要性判断に用いる.なお,培養前及び培養期間終了時に,細胞形態や細胞生存率を適切に評価することにより,細胞毒性が誘導反応に影響を及ぼしていないことを確認する必要がある.毒性あるいは生存率の低下が観察された場合には,試験結果に対する影響を注意深く考察する.また,培養条件下での被験薬の代謝や分解又は培地中での蛋白結合などによる顕著な薬物濃度の低下が予想される場合には,培地中の被験薬濃度や蛋白結合率を測定することにより実際の薬物濃度を把握し,必要に応じて培地交換の頻度を増やすなどの措置を講ずることが推奨される.

(5) P450の遺伝子多型についての留意事項

遺伝子多型により活性を欠損する分子種(CYP2C19及びCYP2D6など)が代謝経路に大きく関与する場合は,活性欠損者などの特定の集団において寄与率が大きく異なることを考慮し,重要な消失経路を判断すべきである.留意事項(2)及び(19)も参照のこと.

(6) 時間依存的阻害(TDI)の事例と評価

代表的な例として,HIVプロテアーゼ阻害薬のリトナビル及びサキナビル,マクロライド系抗生物質のエリスロマイシン及びクラリスロマイシン,並びにカルシウムチャネル遮断薬のベラパミル及びジルチアゼムなどによるCYP3AのTDIがある.ジルチアゼムの場合,未変化体のジルチアゼム及びその主要代謝物であるN―脱メチルジルチアゼムの両薬物が,CYP3Aを時間依存的に阻害する42).CYP2D6のTDIの例としては,パロキセチンがある43).TDIの作用が最大になるのは,誘導薬の場合と同様に,作用を受ける酵素が新たな定常状態レベルに達した時点である.これは,酵素の分解速度定数(kdeg),及び不活性化速度定数(kinact)に依存するが,阻害薬の反復投与により阻害が経時的に強まり,阻害薬の投与中止後も長期間持続することが多い.例えば,エリスロマイシン1日あたり800mgを反復投与したときのヒトにおけるCYP3A活性の阻害は,投与4日後に最大に達した(CYP3Aの指標基質であるミダゾラムの経口投与後2日目,4日目及び7日目のAUC値はそれぞれ2.3倍,3.4倍及び3.4倍増加した)44).それぞれのP450の分解速度定数としては,in vitro及びin vivoのデータに基づいた文献報告の値を参照することができる45).また,CYP3Aのように腸管と肝臓の双方に存在する酵素は,各組織によって分解速度定数が異なることに注意する46).ただし,それらの値には幅があることから,感度分析を実施して,kdegの変動性が推定結果に及ぼす影響を明らかにすることも推奨される.

(7) 代謝酵素のダウンレギュレーションの評価

酵素誘導に関しては,in vitroデータを用いた酵素誘導評価のアルゴリズムや定量化のための複数のアプローチが提案されているが19,47―50),ダウンレギュレーションに関する検証はなされていない.薬物により生じるダウンレギュレーションの例として,フッ化ピリミジン系の薬物がCYP2C9の活性を低下させることにより,フェニトインやワルファリンのクリアランスが減少したと考えられる報告があるが,詳細なメカニズムは現在不明である51).このように,現状では薬物により生じるダウンレギュレーションと発現メカニズムの報告は非常に限定的であるため,in vitroで濃度依存的なダウンレギュレーションが観察された場合は臨床薬物相互作用試験で検討することが推奨される.

(8) 酵素誘導試験のカットオフ基準による判定

酵素誘導評価のための臨床試験の必要性を判断するために独自のカットオフの基準値を決定することも可能であるが,その際は,十分な数の臨床的エビデンスのある誘導薬及び非誘導薬を使用した結果に基づき判断する必要がある50).1名以上のドナー由来の肝細胞を用いて評価した結果が事前に定義した基準値を超えた場合は,当該薬物は誘導薬と考えられるため,追加評価が必要となる.当該評価試験において,被験薬の溶解性や細胞毒性などの原因により,in vitro試験の被験薬濃度を高濃度に設定できず,EC50やEmaxの算出が困難な場合など,結論を導けないと判断された場合は,臨床薬物相互作用試験により酵素誘導の有無を検討しなければならない.

(9) P450以外の薬物代謝酵素を介した薬物相互作用試験の必要性

P450以外の酵素に対する阻害や誘導に基づく薬物相互作用の事例は少なく,通常は,これらを事前に予測することは困難である.P450に次いで主要な薬物代謝酵素であるUGTに関しても,臨床上の懸念が大きい薬物相互作用の報告は少ない.最も顕著な例は,カルバペネム併用によるバルプロ酸のグルクロン酸抱合における代謝クリアランスの増大であるが,その機序はグルクロン酸抱合体のバルプロ酸への逆反応を触媒する酵素の阻害である52)

一般的に薬物の酵素阻害スクリーニングには含まれない酵素が主要代謝酵素である場合,当該酵素に対する強い又は中程度の阻害薬に関する情報はほとんどない.そのような場合には,必要に応じて当該酵素に対する被験薬自身の阻害強度を評価することに加えて,併用頻度の高い薬物に関しても当該酵素に対する阻害作用の有無の調査あるいはin vitroでの阻害試験を検討すべきである.これら試験の必要性は,治療域を超えるCmaxやAUCでの被験薬の安全性及びその触媒経路が薬物消失に関与する程度により異なる.

(10) モデルによる評価における留意事項

モデルによる評価を行った場合,実施したモデリングとシミュレーションは客観的に再現できる必要があり,モデルの構造の説明,生体に基づくパラメータ(生理学的パラメータ)及び薬物に特有なパラメータの設定根拠,誤差モデルの種類,解析のアウトプット,感度分析の結果などを提示する.最終のモデル式と使用したデータ及びパラメータの開示,あるいはその電子媒体での提供が考慮されるべきである.使用したソフトウエアの情報,また既定のモデルを使用する場合はそれを特定し,モデルや解析の設定に変更点がある場合はその内容を明記する.

(11) 静的薬物速度論(MSPK)モデルを適用する場合の留意事項

①MSPKモデルを適用する場合の留意点

MSPKモデルでは,被相互作用薬の薬物動態特性によって予測結果が大きく異なるため,式4(4.3.2項)において,被験薬が相互作用薬の場合で特定の代謝酵素に対する最大の相互作用を推定する場合は,fmを1に設定する.また,被相互作用薬に尿中排泄などの肝外クリアランスがある場合は,これを考慮してAUCRを算出すべきであるが,式4では最大の相互作用を推定するために,その寄与はないと仮定している.一方で,特定の医薬品に対する影響を推定する場合,薬物に特有なパラメータは文献報告等による裏付けが必要である.式中,誘導部分(BhとBg)は,用いた肝細胞ロットの適格性の評価後に使用可能である.適格性の評価において,in vitro試験系として用いる特定のロットの肝細胞について,異なる誘導能を示す複数の対照誘導薬のin vitro誘導パラメータ(EC50及びEmax)を測定し,指標薬(ミダゾラムなど)に対する対照誘導薬のin vivo誘導作用を予測する.予測した誘導作用と指標薬が臨床において受ける誘導作用を比較しd値を算出する.d値,被験薬のEC50とEmaxの測定値に基づきAUCRを算出する.この際,入力するパラメータは保守的に選択することが推奨される.また小腸の不可逆的阻害及び誘導については,MSPKモデルによる解析の経験は限られていることに注意が必要である.

②細胞中及び消化管上皮細胞中の被験薬濃度

MSPKモデルなどの薬物速度論モデルにおける被験薬濃度は,阻害又は誘導される酵素が主に存在する部位(肝細胞や消化管上皮細胞内)の濃度として,非結合形の門脈血中濃度と消化管上皮細胞近傍の最高濃度を用いる.[I]hは非結合形阻害薬又は誘導薬の門脈血中最高濃度([I]u,inlet,max)であり,[I]h=fu,b×([I]max,b+Fa×Fg×ka×Dose/QH)で保守的に推定できる53).ここで,Faは消化管吸収率で正確には消化管内腔から消化管上皮細胞内に到達する薬物の割合,Fgは消化管壁細胞に吸収後,門脈血に到達する薬物の割合,kaは吸収速度定数,QHは総肝血流量(97L/hr)54),fu,bは血中非結合率,[I]max,bは定常状態における阻害薬の最高血中総濃度(非結合形+結合形)である.血中蛋白結合率が高く(99%以上),測定値の信頼性が低い場合はfu,b=0.01とする.また,[I]gは消化管上皮細胞への仮想的な血流量(Qen,18L/hr)55)を用いて,[I]g=Fa×ka×Dose/Qenにより推定する56).kaは実測することが望ましいが,最大推定値として0.1/分に設定してもよい.用いたka及びFgの推定方法については,その妥当性を示す必要があり,必要に応じて,感度分析を実施する.

(12) 生理学的薬物速度論(PBPK)モデルを適用する場合の留意事項

臨床での薬物相互作用のリスク評価においてPBPKモデルを適用した場合,適切な注意を払わなければ,MSPKモデルを適用した場合に比べて予測は明確には改善されない場合があることに注意が必要である.特に代謝酵素の阻害による薬物相互作用の場合は,PBPKモデルであってもMSPKモデルと同様に固有クリアランスの変化をin vitroの情報から正しく予測することが重要である.その他の例えば蛋白結合や血流量の変化などの要因は,薬物相互作用の程度に大きくは影響しないことが多い.PBPKモデルにより特定の被験者集団のPKの変動を予測することは理論的には可能であるが,in vitro実験データの変動は個体間差に加えて試料採取法など多くの要因で生じており,そのままin vivoへの外挿が可能かは慎重に検討すべきである.留意事項(10)も参照のこと.

(13) 生物薬品(バイオテクノロジー応用医薬品,生物起源由来医薬品)との相互作用の事例

生物薬品と薬物の相互作用として以下の報告例がある.

・P450の発現レベルに影響を及ぼすことによるP450基質の代謝を修飾する例:IFNα―2bなどのサイトカインは,様々なP450分子種の転写レベルを低下させ酵素活性の低下を引き起こすことにより,当該P450分子種の基質薬の血中濃度を増加させる57)

・サイトカインを介したP450分子種の酵素活性低下作用の抑制によるP450活性「正常化」の例:リウマチ患者に対するトシリズマブ投与によるシンバスタチンのAUC低下が挙げられる58)

・P450又はトランスポーターの調節以外のメカニズムに基づく例:メトトレキサートの免疫抑制作用による,併用薬(生物薬品)に対して形成される抗体の減少に伴うクリアランスの低下が挙げられる59,60)

(14) トランスポーターを介した薬物相互作用の評価に関する留意事項

①OATPに対する阻害における特殊な事例

OATPでは,時間依存的な阻害が現れる場合があり,このような場合では,あらかじめトランスポーターを発現する細胞(発現系・ヒト肝細胞など)と阻害薬とを一定時間プレインキュベーション後に阻害実験を実施することにより,見かけのKi値が,プレインキュベーションなしでの通常の阻害実験から求められたKi値よりも低く見積もられることがある61,62).この見かけのKi値の方が,よりin vivoでの薬物相互作用の強度を反映する場合があることに留意が必要である.また,基質により阻害薬のKi値が異なる事例も報告されている63)ため,阻害実験の際に,基質薬としては,臨床現場での併用が想定される薬物を用いた解析が有用である.さらに,蛋白結合形の薬物による阻害も考慮しないと阻害強度が説明できない事例も報告されており,蛋白結合形薬物濃度も含めた全薬物濃度に基づいた考察が必要になる場合もある64)

②トランスポーターを介した内因性物質の変動

トランスポーターには,胆汁酸の肝輸送に寄与するSodium―taurocholate cotransporting polypeptide(NTCP)やBSEP,ビリルビンないしはそのグルクロン酸抱合体の肝輸送に寄与するOATP類やMRP2,クレアチニンやN―methylnicotinamideの腎排泄に関わる分泌に一部寄与するMATE類などのように内因性物質の輸送に関わるトランスポーターがある65―67).これらトランスポーターの阻害により,内因性物質の血中濃度上昇や組織内蓄積が認められる場合がある.内因性物質の臨床検査値に変動が見られた場合には,肝毒性及び腎毒性だけでなく,トランスポーターの阻害もその原因になり得ることがあることに留意する必要がある.BSEPの阻害強度が強い医薬品において,臨床での肝毒性発現のリスクが高い傾向がみられるとする最近の報告もあり,注意が必要である68)

(15) 投与期間と投与タイミングの重要性

CYP3Aの阻害薬であると同時にCYP2C9などの誘導薬でもあるリトナビルに代表されるように,代謝酵素の阻害薬であり誘導薬でもある場合,併用する時期により正味の相互作用が異なる可能性がある69,70).このような場合には,代謝酵素の発現量が新たな定常状態となるための十分な投与期間を設けると共に,必要に応じて,被験薬と併用薬の投与タイミングを変化させた臨床薬物相互作用試験を実施し,その影響を慎重に考察することが推奨される.

また,リファンピシンは,CYP3Aをはじめとした薬物代謝酵素の強い誘導薬として知られているが,同時にOATP1B1などのトランスポーターの阻害薬でもある71,72).したがって,リファンピシンによるトランスポーター阻害作用を検討する目的で併用投与試験を行う場合,被相互作用薬としての被験薬の濃度測定のためのサンプリングはリファンピシンの単回投与直後に行うのが最適である.一方,強い酵素誘導薬としてのリファンピシンによる影響を明確にして他の誘導薬の作用を推定することが目的である場合,リファンピシンのOATP1B1阻害作用により酵素誘導作用が過小評価されることがあるため,リファンピシン最終投与の翌日に被験薬のサンプリングを行うのが最適である.

(16) 代謝酵素の基質薬の選択

被験薬と併用される薬物の中に,治療域の狭い基質薬が含まれる場合には特に注意が必要である.治療域の狭い基質薬は,P450阻害薬との併用によってCmaxやAUCがわずかに増加するだけで,重篤な安全性の懸念が生じるおそれがある薬物である.治療域の狭い基質薬の典型例としては,ワルファリン(濃度が若干増加しただけで,重大出血を引き起こすおそれがある),torsade de pointesを引き起こすおそれがある薬物,ほとんどの細胞障害性抗腫瘍薬,及びアミノグリコシド系抗生物質などが挙げられる.これら治療域の狭い基質薬との併用が想定される場合には,安全性の観点に立って臨床薬物相互作用試験の必要性,並びに基質薬の投与量や投与期間を検討するべきである.

臨床薬物相互作用試験に使用される指標薬のいくつかは,2種類以上のP450又はトランスポーターの基質である場合があるため,選択的基質ではないことに注意する.例として,オメプラゾールはCYP2C19の基質であるが,CYP3Aによっても代謝される.CYP2C19阻害(誘導)を評価するためにオメプラゾールを基質として使用する場合は,未変化体と共に代謝物(CYP2C19を介するヒドロキシオメプラゾール及びCYP3Aを介するオメプラゾールスルホン)を測定することが推奨される73).また,レパグリニドはCYP2C8の指標薬として用いられるが,OATP1B1の基質でもあるため,同トランスポーターを阻害する薬物との相互作用試験の結果の解釈には注意が必要である.

(17) 代謝酵素とトランスポーターの両方が関わる薬物相互作用の事例

複数の酵素/トランスポーターを阻害又は誘導する場合の例としては,CYP3A及びP―gpを共に阻害するイトラコナゾールや共に誘導するリファンピシンがある.この際,CYP3A及びP―gpの両者に対して必ずしも同等の阻害能や誘導能を示すとは限らない.したがって,CYP3Aの基質,P―gpの基質,又はCYP3AとP―gpの両者の基質である被験薬との薬物相互作用試験のために阻害薬を選択する際は,CYP3A及びP―gpに対する阻害作用の違いを考慮する37).なお,リファンピシンは複数のP450及びトランスポーターの誘導薬であることが立証されており,取り込みトランスポーターOATP1B1の阻害薬でもあることに留意する(留意事項(15)参照).

また,複数の薬物を同時併用することで,代謝酵素とトランスポーターの両者が阻害され,より複雑な影響が現れた例としては,イトラコナゾール及びゲムフィブロジルの同時投与によるレパグリニドのAUCが大きく変化した場合がある.これは,酵素(CYP3A)に対するイトラコナゾールの阻害作用,及びトランスポーター(OATP1B1)及び酵素(CYP2C8)に対する,ゲムフィブロジルとその代謝物による阻害作用の総合的な作用と考えられる74)

(18) カクテル基質試験による評価

通常,カクテル基質試験は一般的な臨床薬物相互作用試験と同様に,in vitroで示された作用を検討するために行われるが,酵素(及びトランスポーター)に対する多種多様な代謝物の阻害能及び誘導能を評価することを目的として,in vitro試験の代わりに行ってもよい.

試験において使用する基質は,特定の酵素(及びトランスポーター)に対する選択的阻害薬を用いた薬物相互作用試験あるいは薬理遺伝学的試験などにおいて,その特異性が証明されている必要がある.カクテル基質試験における使用用量の妥当性は,お互いに相互作用を及ぼさないことが臨床において示されていることが望ましいが,評価対象の酵素(及びトランスポーター)に対するKm値と循環血中のCmaxや消化管における推定濃度を比較して,十分低い濃度であれば基質間の相互作用が無いとみなすことができる.

(19) 遺伝子多型を考慮した薬物相互作用の評価

CYP2C19は主としてCYP2C192及びCYP2C193多型により東アジア人で活性欠損者の頻度が高く,CYP2D6は東アジア人で活性欠損者は少ないが,活性が大きく減じる遺伝子多型であるCYP2D610の頻度が高い32).このため,これらの分子種がクリアランスの主要経路である被験薬については,東アジア人を対象とした試験と東アジア人以外を対象とした試験の結果を比較考察する場合に遺伝子多型に注意が必要である.特に,CYP2C19の活性欠損者において薬物相互作用の程度が大きいと予想され,臨床的に問題となる可能性がある場合には遺伝子多型を考慮した臨床薬物相互作用試験を追加することが有用である.遺伝子多型を考慮した臨床薬物相互作用試験の実施に際しては,活性欠損者の血中濃度は高値となることが予想され,被験者の安全性に最大限配慮する.また,薬物相互作用に影響を及ぼす可能性を,in vitro試験の成績等に基づき,モデリングとシミュレーションにより検討することも有用である.

遺伝子多型を考慮すべき薬物相互作用の例として以下がある.

CYP2C19で主に代謝されるボリコナゾールは,CYP2C19の活性欠損者では,代替経路であるCYP3Aの阻害薬の併用で顕著に全身曝露が増大する75).CYP2D6で主に代謝されるトルテロジンは,CYP2D6の活性欠損者では,代替経路であるCYP3Aの阻害薬の併用で全身曝露が顕著に増大する76)

CYP3A5,UGT1A1,OATP1B1 (SLCO1B1),BCRP (ABCG2)などの分子種でも,遺伝子多型によりクリアランスが変化することが知られている32,33,77).CYP3A5で頻度の高い遺伝子多型として,酵素発現の消失をもたらすCYP3A53が知られている.CYP3A5は,一般にCYP3A4と基質認識性が類似しているが,一部の阻害薬ではCYP3A4とCYP3A5の阻害定数が異なることが報告されている.したがって,CYP3A4の阻害が強くCYP3A5の阻害が弱い場合では,CYP3A53を有する被験者はCYP3A基質薬のクリアランスが大きく低下することに留意する必要がある.また,日本人では,酵素活性の低下を示すUGT1A16,UGT1A128,及び輸送機能の低下が示唆されるSLCO1B1 c.521T>C, ABCG2 c.421C>Aの頻度が比較的高いため注意を要する.

11.用語一覧

1) 基質:一般に代謝を受ける薬物あるいはトランスポーターにより輸送される薬物.

2) 分布容積:分布容積が小さいとは,ほぼ細胞外液量あるいはそれ以下の値(ヒトで約0.25L/kg以下),分布容積が大きいとはヒトで約0.8L/kg以上とする.

3) 併用薬:複数の薬物を使用する場合,それぞれを広義の併用薬と呼ぶ.なお,狭義の意味では,基礎療法に用いられている薬物に更に追加して使用される薬物を併用薬と呼ぶ.

4) 相互作用薬:薬物動態学的相互作用においては,併用することにより,他の薬物の体内動態に影響を与える薬物.例えば代謝に関しては,代謝酵素を阻害するものと誘導するものがある.

5) 被相互作用薬:薬物動態学的相互作用においては,併用薬物により,その体内動態が影響を受ける薬物.例えば代謝に関しては,代謝酵素が阻害されその薬物の代謝が低下するものと酵素誘導により代謝が亢進するものがある.

6) 被験薬:併用薬に薬物相互作用を与えるか,又は併用薬から影響を受けるかについての可能性が検討される医薬品あるいは開発中の薬物.

7) 指標薬:薬物動態に関与する酵素,トランスポーター又は血漿蛋白質に対する特異性が高いことが複数の臨床試験で確認されており,薬物動態の変動を示す指標となる薬物.定量が可能な薬物で,臨床試験で使用される薬物の場合は安全性が高いことが必要である.

8) 単代謝酵素薬物:主として一つの代謝酵素により代謝される薬物.当該代謝酵素の活性変動による薬物相互作用を受けた場合に総代謝クリアランスの変動が大きく,その場合のリスクが高い.

9) 多代謝酵素薬物:複数の代謝酵素により代謝される薬物.一般に,薬物相互作用による代謝酵素活性変動を受けた場合に総代謝クリアランスの変動が小さく,よりリスクが低い.

10) トランスポーター:生体膜を横切り,薬物を細胞の内外へ輸送する担体.

11) 選択的阻害薬,選択的基質薬:ある代謝酵素又はトランスポーターに対してのみ,比較的強い阻害作用を有する薬物,又は比較的選択的に代謝又は輸送を受ける薬物.

12) 典型阻害薬,典型基質薬(表6―4,6―5):あるトランスポーターの阻害に良く用いられるが,複数の代謝酵素又はトランスポーターを阻害する場合があり,典型基質は複数の代謝酵素又はトランスポーターの基質となる場合があるため,必ずしも選択的阻害薬又は選択的基質薬とはならない.

13) 強い阻害薬,中程度の阻害薬,弱い阻害薬:「相互作用を受けやすい基質薬」のAUCを,5倍以上に上昇(CL/Fが1/5未満に減少)させると考えられる医薬品などを「強い阻害薬」,2倍以上5倍未満に上昇(CL/Fが1/2未満1/5以上に減少)させると考えられる医薬品などを「中程度の阻害薬」,1.25倍以上2倍未満に上昇(CL/Fが1/1.25未満1/2以上に減少)させると考えられる医薬品などを「弱い阻害薬」とする(7.6項の記載を参照).

14) 強い誘導薬,中程度の誘導薬,弱い誘導薬:「相互作用を受けやすい基質薬」のAUCを1/5以下に減少(CL/Fが5倍より大きく上昇)させると考えられる医薬品などを「強い誘導薬」,1/2以下1/5より大きく減少(CL/Fが2倍以上5倍未満に上昇)させると考えられる医薬品などを「中程度の誘導薬」,1/1.25以下1/2より大きく減少(CL/Fが1.25倍以上2倍未満に上昇)させると考えられる医薬品などを「弱い誘導薬」とする(7.7項の記載を参照).

15) 相互作用を受けやすい基質薬,相互作用の受けやすさが中程度の基質薬:「強い阻害薬」の併用によりAUCが5倍以上に上昇(CL/Fが1/5未満に減少)する基質薬を「薬物動態学的相互作用を受けやすい基質薬」,「強い阻害薬」との併用によりAUCが2倍以上5倍未満に上昇(CL/Fが1/5以上1/2未満に減少)する基質薬を「薬物動態学的相互作用の受けやすさが中程度の基質薬」とする(7.8項の記載を参照).

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