添付一覧
○「治験関連文書における電磁的記録の活用に関する基本的考え方」の一部改正について
(平成26年7月1日)
(事務連絡)
(各都道府県衛生主管部(局)あて厚生労働省医薬食品局審査管理課通知)
治験関連文書における電磁的記録の活用に関する基本的考え方(以下「基本的考え方」という。)については、平成24年度の厚生労働科学研究費補助金医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究事業における「医師主導治験等の運用に関する研究」での検討を踏まえ、「治験関連文書における電磁的記録の活用に関する基本的考え方について」(平成25年7月1日付け厚生労働省医薬食品局審査管理課事務連絡)により示してきたところです。
今般、下記のとおり基本的考え方を改正し、別添のとおりとしましたので、業務の参考として、貴管下関係業者及び医療機関等に対し周知いただきますよう御配慮願います。
記
1.改正の趣旨
平成25年度の医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究事業における「治験活性化に資するGCPの運用等に関する研究」での継続的な検討や、基本的考え方を示した後の電磁的記録の取扱いの状況等を踏まえ、基本的考え方の3.治験関連文書を電磁記録として保存等する場合の留意事項における、(1)⑧ii)交付用フォルダに格納されるファイル名称について、その一部を見直すこととしたもの。
2.主な改正内容
(1) 文書の訂正のためファイルを修正した場合等に、修正されたことをファイル名から識別するため、ファイル名の中で「同一統一書式の版数」を記載することとしたこと。
(2) 治験責任医師及び治験分担医師の履歴書に限り、治験責任医師と治験分担医師のいずれのものであるかをファイル名から識別するため、「同一統一書式の連番」の最初に、治験責任医師の場合はPを、治験分担医師の場合はSを付すこととしたこと。
(3) 有害事象に関する報告書に限り、記述される被験者及びその被験者の報告書の報数をファイル名から識別するため、ファイル名の中で、「被験者識別記号」と「報数」を記載することとしたこと。
(4) 以上を踏まえ、新たな「治験の依頼等に係る統一書式」に基づき作成された文書の名称の例を、別紙において示したこと。
(5) 統一書式に添付して交付される治験実施計画書、治験薬概要書等のファイルの名称についても、原則として、統一書式のファイル名に準じ、連番、版数及び作成年月日を付与することとしたこと。
[別添]
「治験関連文書における電磁的記録の活用」に関する基本的考え方
1.趣旨
治験の実施に当たっては、「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」(平成9年厚生省令第28号。以下「GCP省令」という。)に基づき、治験に係る様々な文書を交付及び保存(以下「保存等」という。)をする必要がある。これらの業務は治験を実施する上で必要不可欠であるが、同時に治験審査委員会等の業務のIT化(審査資料の電子ファイル化等)及び実施医療機関における情報伝達の効率化等が求められている。本文書は、治験依頼者等、治験審査委員会、実施医療機関の長及び治験責任医師との間で授受される治験関連文書を電磁的記録として保存等することに関する基本的考え方を示し、治験に関わる全ての関係者の認識を統一することにより、治験手続きの効率化に寄与することを目指すものである。
なお、本文書においては、GCP省令に基づき治験依頼者等と実施医療機関の長及び治験責任医師との間、実施医療機関の長と治験審査委員会との間で授受される治験関連文書(以下「治験関連文書」という。)を電磁的記録として保存等する場合を対象とした。
2.治験関連文書を電磁的記録として扱うことに関する法令上の整理
(1) e―文書法と厚生労働省令第44号
「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律」(平成16年12月1日法律第149号。以下「e―文書法」という。)及び「厚生労働省の所管する法令の規定に基づく民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する省令」(平成17年3月25日厚生労働省令第44号。以下「省令第44号」という。)において、厚生労働省の所管する法令に係り、民間事業者等が書面により行わなければならないとされている文書の保存等を電磁的記録として行うことが認められている。省令第44号では、電磁的記録として作成するための方法(第6条)、電磁的記録として交付するための方法(第11条第1項)、電磁的記録として保存するための方法(第4条第1項)及び電磁的記録として保存等できる文書の範囲(別表)が規定されている。
さらに別表第1の表2、表4又は表3に掲げる文書(医師法・歯科医師法に基づく診療録、薬剤師法に基づく処方せん等を含む。)を電磁的記録として保存する場合には、第4条第4項で規定される①機器上への表示及び書面の作成ができること(見読性)、②保存期間中の改変、消去について確認でき、責任の所在が明らかであること(真正性)、③復元可能な状態で保存する措置を講じておくこと(保存性)が求められており、別表第1の表1に掲げる文書(GCP省令に基づき交付される治験関連文書を含む。)を電磁的記録として保存する場合には、第4条第3項で規定される機器上への表示及び書面の作成ができること(見読性)が、別表第4に掲げる治験関連文書を電磁的記録として交付する場合には、第11条第2項で規定されるように当該記録が書面を作成することができるものであることが求められている。
(2) 治験関連文書の電磁的記録としての交付及び保存
治験関連文書は、GCP省令において規定されている交付形態から、①書面による交付が求められている治験関連文書、②電磁的記録として交付することも可能とされる治験関連文書(GCP省令第10条又は第15条の7に基づき提出される事前提出資料等)、③交付形態に関する規定はなく、利便性の問題から書面で交付される治験関連文書(GCP省令第20条又は第26条の6に基づき通知される副作用情報等)に分類されているが、全て電磁的記録として交付することが可能である。
また、治験関連文書は省令第44号の別表第1の表1において、電磁的記録として保存できる文書としても規定されていることから、全て電磁的記録として保存することが可能である。
また、治験関連文書を電磁的記録として保存する場合、(1)で述べたように、省令第44号第4条第3項で規定される見読性のみが求められており、同条第4項で規定される真正性、見読性、保存性まで求められていない。しかしながら、治験関連文書を電磁的記録として保存する場合は、紙記録として保存する場合と同様に、治験に関する全ての情報を、正確に報告、解釈及び検証することが可能となるように記録し、取扱い及び保存する必要があることを踏まえると、真正性、見読性、保存性の確保が重要である。なお、以下の(3)及び(4)に示す点にも留意する必要がある。
(3) 電磁的記録を利用する上での一般的な留意事項(電磁的記録の特性)
電磁的記録によって文書を保存等するに当たっては、関係者が電磁的記録の特性を良く理解することが必要である。電磁的記録の利用において、紙記録と比較した利点及び留意点があるが、留意点を十分に理解して対応することで電磁的記録の利点を最大限に活かすことができる場合も多い。
一方で、留意点を十分理解せずに利用した場合には、電磁的記録の消失等が頻繁に生じる等、紙記録と比較した欠点が問題となる可能性がある。例えば、消失した文書が再現できない場合には、保存義務のある文書を保存していなかっただけではなく、実施義務のある業務自体を実施していなかったと扱われる可能性があるので留意する必要がある。
以下に電磁的記録を利用する上での一般的な留意事項を示す。
・ 電磁的記録はそれ自体を人の知覚で認識することはできず、その閲覧にはソフトウェアや専用のシステムが必要である。そのため、開発会社独自のファイル形式や特定の環境でしか確認できないファイル形式で交付された電磁的記録は、将来的にソフトウェア等のバージョンアップ及び開発中止等によって、閲覧できなくなる危険性がある。
・ 電磁的記録を保存するためのDVD―R等の記録媒体は、特定の読取装置が必要である。そのため、その読取装置が使用できず代替手段もない場合には、閲覧できなくなる危険性がある。
・ 記録媒体の劣化や損壊により、保存している電磁的記録が滅失又は棄損してしまう危険性がある。電磁的記録の場合、一部分の劣化であっても全て判読できなくなる危険性が高く、紙記録に比べてより留意する必要がある。
・ 電磁的記録や関連情報(システム時刻、ログの内容等)は、ユーザーの過失や意図的な改ざん、コンピュータウイルスの感染、第三者の不正なアクセス等により書換えられる危険性があり、セキュリティ管理が不十分な場合に、より増大する。
(4) ER/ES指針について
「医薬品等の承認又は許可等に係る申請等における電磁的記録及び電子署名の利用について」(平成17年4月1日付け薬食発第0401022号厚生労働省医薬食品局長通知)の別添(以下「ER/ES指針」という。)は、医薬品、医薬部外品、化粧品及び医療機器の承認又は許可等並びに適合性認証機関の登録等に係る申請、届出又は報告等に関する資料及び当該資料の根拠となる資料について、電磁的記録として提出又は保存する場合の留意事項をまとめたものである。治験関連文書を電磁的記録として保存等する場合にもER/ES指針を遵守する必要がある。しかし、ER/ES指針の適用範囲は広く、GCP省令で規定される文書に限っても、様々な位置づけの文書(例えば、原資料、関係者間で授受される文書、治験依頼者等のみで保存される文書。)が対象となっている。また、電磁的記録及び電子署名利用のための一般的な要件等は示されているが、当該文書の作成者等が信頼性の確保を十分に考慮し妥当性や正当性を判断した上で対応することを基本としているため、具体的な要件は示されていない。
さらに、電磁的記録利用のための要件については「電磁的記録利用システム及びその運用方法により、電磁的記録の真正性・見読性・保存性が確立されていること」とされており、電磁的記録の真正性等は、「電磁的記録利用システム」と「その運用方法」の両者で確立できればよい。しかし、治験に関わる全ての関係者の間でこの要件について共通の認識が得られていないために、電磁的記録の真正性等を確立するためには全ての業務のシステム化が必要と考えられ、その実現に向けた議論に終始し、結果的に電磁的記録の活用が進んでいないのが現状である。
なお、「「医薬品等の承認又は許可に係る申請に関する電磁的記録・電子署名利用のための指針(案)」に関する意見・情報の募集結果について」(平成17年5月9日厚生労働省医薬食品局審査管理課。以下「パブリックコメント回答」という。)もER/ES指針の理解の一助となるため、適宜参考にされたい。
3.治験関連文書を電磁的記録として保存等する場合の留意事項
(1) 治験関連文書を電磁的記録として交付する場合の方法及び留意事項
治験関連文書を電磁的記録として扱うに当たっては、電磁的記録として扱うために必要十分な要件を踏まえて整理する必要がある。治験関連文書を交付する場合の必要十分な要件は、紙記録であっても電磁的記録であっても、「必要な情報が適切な相手に迅速に届けられ、評価されていること」、「事実経過が検証できるよう記録されていること」、「事実経過の記録と交付された文書が交付側及び受領側で適切に保存されていること」である。以下に治験関連文書を電磁的記録として交付する場合の方法及び留意事項を示す。
①交付方法
治験関連文書を電磁的記録として交付する場合、治験依頼者等、実施医療機関及び治験審査委員会は、省令第44号第11条第1項に規定される方法で行う必要がある。また、GCP省令第10条第1項又は第15条の7第1項に規定される治験関連文書を電磁的記録として交付する場合には、各条中に規定される方法で行う必要がある。規定されている方法は同一であり、具体的には以下の方法が考えられる。
・e―メールに添付し交付(以下「メールによる交付」という。)
・DVD―R等を交付(以下「DVD―R等による交付」という。)
・クラウド等システムに対して、アップロードし、受領者がダウンロードする方法により交付(以下「クラウド等システムによる交付」という。)
なお、交付形態に関する規定はないが利便性の問題から書面で交付されている治験関連文書(例えば、GCP省令第20条/第26条の6に基づき通知される副作用情報。)を電磁的記録として交付する場合にも、上記の方法を参考に行うことで差し支えない。
②電磁的記録を交付する際の留意事項
ER/ES指針では、治験関連文書を交付する際の留意事項が示されていない。しかし、治験依頼者等及び実施医療機関は、治験関連文書を電磁的記録として交付するに当たっては、e―文書法、省令第44号及びGCP省令に基づき、以下の点が求められることを理解して対応する必要がある。
・受領側から電磁的記録の交付について承諾を得ること。また、受領側から承諾が得られない場合には利用できない。なお、交付側及び受領側で承諾書や確認書の作成を求めるものではない。
・受領側が電磁的記録の出力による書面を作成できること。
・交付側及び受領側が授受された治験関連文書を保存していること。
・交付側及び受領側が授受された事実経過を検証できるように記録し、その記録(以下「事実経過を検証するための記録」という。)を保存していること。
・GCP省令、薬事法、その他関連法規及び関連通知(以下「GCP省令等」という。)で署名又は記名押印(以下「署名等」という。)が求められている場合、当該治験関連文書に署名等がされていること。
③事実経過を検証するための記録
GCP省令では、事実経過を検証するための記録について具体例が示されていないため、個々の事例において適切な方法を検討されたい。例として以下に示したようなものが考えられる。
i)メールによる交付の場合
【交付側】
・送信メール及び受領返信メールを保存する。
・送信簿を作成し、送信者、送信日時、送信内容を記録する。
・電話等で、受領されていることを確認しモニタリング報告書等に記録する。
【受領側】
・受信メール及び受領返信メールを保存する。
・受信簿を作成し、受信者、受信日時、受信内容を記録する。
・代理受信を行う場合、本来の受領者へ交付されていることを検証できるように記録する。
ii)DVD―R等による交付の場合
【交付側】
・交付資料に添付する鑑の複写及び送付した記録(送付伝票等)を保存する。
・受領票等に受領者の署名等を受ける。又は、受領されていることを確認しモニタリング報告書等に記録する。
・送付簿を作成し、送付者、送付日時、送付内容を記録する。
【受領側】
・DVD―R等に添付された鑑に受領印を押し保存する。
・受領簿を作成し、受領者、受領日時、受領内容を記録する。
iii)クラウド等システムによる交付の場合
・クラウド等システムにログを残す。
・受領後速やかに保存し、その保存ログで受領されたことを記録させる。
・受領簿を作成し、受領者、受領日時、受領内容を記録する。
※その他留意すべき事項
・クラウド等システムを利用する場合において、事実経過を検証するための記録としてログを活用することは有用な手段であるが、この場合には、ER/ES指針を遵守して管理する必要がある。なお、交付側がクラウド等システムにアップロードするだけでは法令上の交付が成立していないことに留意する必要がある。
・ER/ES指針では、保存情報の作成者が明確に識別できることや監査証跡が自動的に記録され、記録された監査証跡はあらかじめ定められた手順で確認できることが望ましいと規定されている。しかし、適切な管理が行われていれば自動生成以外の手段で操作履歴を記録/管理することも認められている(パブリックコメント回答69)。例えば、具体的な保存手順を定めメール等の記録とともに保存することでもよい。
・レター等に受領印を押す等の措置については、事実経過を検証するための記録として有効であり、改変には当たらない。
④署名等の必要性
治験関連文書は、署名等の必要性から、以下の3つに分類され、これらの文書を電磁的記録として交付する場合には、その署名等の位置づけを理解して行う必要がある。
i)GCP省令等で署名等が求められている文書
・症例報告書
・監査証明書・監査報告書
・同意文書
・治験実施計画書の合意を証するための記録
・契約書
ii)GCP省令等で規定されていないが、署名等を求められることがある文書
・緊急の逸脱の通知文書
・治験の変更に関する報告書
・治験薬割付コードの開封記録
・治験責任医師からの重篤な有害事象報告等
iii)署名等が必要と考えにくい文書
上記i)及びii)に該当しない文書
i)は作成者による署名等が必要である(パブリックコメント回答109)が、その他の文書では、その他の記録からその真正性が客観的に確保されれば、医療機関内に保存されるその他の記録の有無も踏まえて、署名等の必要性を判断できる。
なお、「電子署名及び認証業務に関する法律」(平成12年5月31日法律第102号)第3条において、電磁的記録は本人による電子署名が行われているときに、真正に成立したものと推定されることが規定されており、電磁的記録の真正性を確保するために電磁的記録に電子署名(デジタル署名を含む。)が行われることがある。しかし、ER/ES指針が適応される文書(治験関連文書を含む。)においては、必ずしも電子署名が求められているわけではない(パブリックコメント回答62)。
⑤署名等がなされた治験関連文書の交付方法及び留意事項
GCP省令等で署名等が求められている文書のうち、症例報告書に関しては、既に電磁的記録及び電子署名の活用が進んでいる。また、症例報告書以外の文書は、本文書において対象とする治験依頼者等、実施医療機関及び治験審査委員会の間で授受される文書ではないことから、ここでは「④署名等の必要性 ii)GCP省令等で規定されていないが、署名等を求められることがある文書」に示される文書を対象にその交付方法及び留意事項を示す。
i)紙記録に署名等したものをスキャンし電磁的記録として交付する場合
以下の手順を明確に規定し、作業が実施されたことを検証できるように記録する。
・作業責任者及び作業者の役割と責務
・スキャンするための業務の流れ(作業の実施時期や対象文書等)
・記録するファイルの形式、名称の付け方等の規定
・署名等された文書の保管方法
ii)電磁的記録に電子署名を付して交付する場合
文書ごとに電子署名を付す場合及び文書管理システム等自体に署名機能を組み込む場合が考えられるが、いずれの場合であってもER/ES指針の電子署名利用のための要件を満たすことが重要であり、また、電磁的記録の変更や不正な修正が行われた場合等に検出・検証できるようにしておく必要がある。なお、電子署名の実施に当たっては、電子署名を利用するためのID・パスワード等の発行及び管理等を適切に行い、電子署名の実施者を限定し、それが検証できるように記録することが必要である。
⑥交付先における留意事項
治験依頼者等が治験関連文書を交付する場合には、紙記録であっても、電磁的記録であっても、GCP省令で規定される実施医療機関の長や治験責任医師等に交付する必要がある。なお、当該受領業務が治験協力者等に分担され、かつ、治験協力者等から本来受領すべき者に届く手順が明確に確立されている場合には、治験協力者等を介して交付することも可能である。また、このような方法で交付する場合には、治験関連文書を受領した治験協力者等から実施医療機関の長や治験責任医師等に交付されていることが検証できるような記録を保存する必要がある。なお「交付先の設定を誤ることで情報が届かなくなる」、「受領担当者を単独で登録し、長期休暇等で情報が届かなくなる」といった事例が発生しないよう留意する必要がある。
⑦ファイル形式に関する留意事項
「2.治験関連文書を電磁的記録として扱うことに関する法令上の整理(3)電磁的記録を利用する上での一般的な留意事項」において示したとおり、開発会社独自のファイル形式や特定の環境でしか確認できないファイル形式で交付された電磁的記録は、将来的にソフトウェア等のバージョンアップ及び開発中止等によって、閲覧できなくなる危険性がある。このため、治験依頼者等、実施医療機関及び治験審査委員会は、治験関連文書を電磁的記録として交付するに当たり、いずれの環境でもほぼ同様の状態で文書や画像等を閲覧できる可能性が高いファイル形式(例えば、PDF等の国際標準化機構で標準化されたファイル形式。)を活用することが望ましい。
⑧ファイル名等に関する留意事項
今後、治験関連文書が電磁的記録として授受される事例が増加することが予想される。治験依頼者等、実施医療機関及び治験審査委員会の各々が異なるルールに基づきファイル名等を付与し授受を行うと、ファイル管理において混乱をきたす可能性が高い。一方、ファイル名等を標準化した場合、ファイル管理が簡略化され業務負荷を抑えられるだけでなく、電磁的記録の管理システムの開発推進、導入後の管理システム変更や改変における柔軟性の向上、治験ネットワーク等における複数施設の文書管理の促進等にも寄与することが期待できる。ファイル名等の標準化に当たっては、以下の点について留意する必要がある。
・治験依頼者等から実施医療機関の長、治験責任医師及び治験審査委員会に対し、同時に複数の資料を提示することが多いため、交付用フォルダに格納して交付する。
・交付用フォルダの名称は、その内容が判別しやすいように実施医療機関名、治験の内容や文書の種類等を組み合わせて作成し、名称の長さは必要十分なものとする。
・治験依頼者等から実施医療機関、治験責任医師及び治験審査委員会に交付された段階で、実施医療機関側は、交付用フォルダの名称を変更せずに保存できるようにする。また、提供された資料を加工せずに治験審査委員会の審議に活用でき、交付用フォルダの名称も審議案件の種別(初回審議、変更審議、継続審議等)が区別できるようにする。
・治験依頼者等から実施医療機関、治験責任医師及び治験審査委員会に同時に資料を交付できるようにする。
以下に、上記に留意して作成した交付用フォルダ等の名称付与ルールを示す。
なお、治験依頼者等、実施医療機関、治験責任医師及び治験審査委員会の名称のコード化や、閲覧や評価の記録が自動処理されるような仕組みは考慮していないが、これらを導入することで更なる効率化を図ることも期待できる。
i)交付用フォルダの名称
・交付用フォルダの名称には、審議処理区分(新規、継続等)、同一審議処理区分、文書の回数(以下「届出回数」という。)、試験名、実施医療機関名の要素を含め、各々をアンダーバーで接続する。
「審議処理区分」_「実施治験名」_「届出回数」_「実施医療機関名」
・「審議処理区分」(半角英数)は、治験審査委員会において多数の審議案件を効率的に処理するため、以下のように付与する。
1 新規審議
2 継続審議(治験に関する変更)
3 継続審議(重篤な有害事象)
4 継続審議(緊急回避の為の逸脱)
5 継続審議(継続審査)
6 継続審議(副作用情報等)
7 その他
8 治験審査委員会からの交付文書
・「実施治験名」(半角英数15文字以内)については、治験開始前に治験依頼者等側から周知されたものを使用する。なお、治験期間を通じ、同一名称を用いる。
・「届出回数」(半角英数)については、同一文書を交付回数別に管理できるよう連番で付与する。また、多施設共同治験においては、実施医療機関ごとに異なる番号ではなく同一の番号を付与する。
・「実施医療機関名」については、病院名(法人名を除く。英語名でも可能)を記載する。また、実施医療機関と治験責任医師を区別して交付する場合には、「実施医療機関名」及び「実施医療機関名(治験責任医師名)」のように括弧内に治験責任医師名を記載する。なお、半角英数で記載してもよい。
ii)交付用フォルダに格納されるファイル名称
・「新たな「治験の依頼等に係る統一書式」の一部改正について」(平成26年7月1日付け医政研発0701第1号・薬食審査発0701第1号厚生労働省医政局研究開発振興課長・医薬食品局審査管理課長通知)において定める書式(以下「統一書式」という。)に基づいて作成された文書を交付用フォルダに格納する場合、そのファイルの名称については、「統一書式番号」、「同一統一書式の連番」、「同一統一書式の版数」、「作成年月日」を含め、各々をアンダーバーで接続する。
「統一書式番号」_「同一統一書式の連番」_「同一統一書式の版数」_「作成年月日」
・有害事象に関する報告書(統一書式12~15)については、さらに、「被験者識別記号」及び「報数」を含め、各々をアンダーバーで接続する。
「統一書式番号」_「同一統一書式の連番」_「同一統一書式の版数」_「被験者識別記号」_「報数」_「作成年月日」
・統一書式番号については、最初にFを付与することとする(半角英数字3桁:F01~18、FS1、FS2)。ただし、書式4の書式番号については、治験審査委員会の利便性を考慮し、「F00」としても良い。
・同一統一書式の連番(半角英数、数字3桁)については、提出回数を001から連番で付与する。ただし、治験責任医師及び治験分担医師の履歴書(統一書式1)の場合に限り、連番の番号を数字2桁とし、その前に、治験責任医師の場合はPを、治験分担医師の場合はSを、それぞれ付与することとする。
・同一統一書式の版数(半角英数、数字3桁)については、修正等、再作成毎にその改訂回数を、001から連番で付与する。
・作成年月日(半角英数)については、YYYYMMDDで付与する。
・被験者識別記号(半角英数字、5~15字)については、治験依頼者等とあらかじめ協議して決定した各被験者の識別記号を付与する。ただし、原則として医療機関内では、同一の桁数を用いることとする。
・報数(半角英数、数字3桁)については、被験者識別記号ごとに、001から連番で付与する。
・以上を踏まえ、統一書式に基づき作成された文書のファイル名の例を、企業治験・製造販売後臨床試験の場合について別紙1の1)に、医師主導治験の場合について別紙1の2)に、それぞれ示した。
・統一書式に添付して交付される治験実施計画書、治験薬概要書等のファイルの名称については、統一書式番号に代わり、資料固有記号(半角英数字)を用いることとする。資料固有記号の例を、別紙1の3)に示した。また、ファイル名中の資料固有記号よりも後の部分については、原則として、統一書式のファイル名に準じ、連番、版数及び作成年月日を付与することとする。ただし、治験依頼者等と実施医療機関の協議の上、治験依頼者等が定めたルールに基づきファイル名を付与しても差し支えない。
iii)参考事例
上述i)、ii)の留意点を踏まえ、交付用フォルダ及びフォルダ内の資料名称を付与する場合の参考事例を別紙2に示したので、適宜参考にされたい。
(2) 治験関連文書を電磁的記録として保存する場合の方法及び留意事項
交付された治験関連文書を保存する場合には、紙記録であっても電磁的記録であっても、治験審査委員会及び実施医療機関又は実施医療機関及び治験審査委員会の双方で、「事実経過が検証できるように記録されていること」、「事実経過の記録と交付された文書が適切に保存されていること」が必要である。また、電磁的記録を活用する場合にはER/ES指針を遵守する必要があるが、以下に治験関連文書を電磁的記録として保存する場合の方法及び留意事項を示す。
①保存方法
治験関連文書を電磁的記録として保存する場合(事実経過を検証するための記録を含む。)、治験依頼者等、実施医療機関及び治験審査委員会は、省令第44号第4条第1項に規定される方法で行う必要がある。また、同条第3項に規定されるように、必要に応じて電磁的記録に記録された事項を明瞭かつ整然とした形式で表示させ、書面を作成できる環境が求められ、具体的には以下の方法が考えられる。
・DVD―R等に保存
・自施設専用サーバーに保存
・クラウド等システムに保存
・受領した紙記録をスキャンし、上記のいずれかの方法で保存(以下「スキャンを活用し保存」という。)
②電磁的記録を保存する際の留意事項
治験関連文書を電磁的記録として交付する場合には、授受に係る双方において、電磁的記録として保存することが望ましい。また、電磁的記録の保存方法や記録媒体については、治験依頼者等、実施医療機関及び治験審査委員会が各々で選択することで差し支えない。ただし、「責任の所在が明確化されたとしても、記録の削除が認められるわけではなく、削除する場合であっても、削除に至るまでの当該記録の履歴が適切に保存されている必要がある」(パブリックコメント回答60・73)ことを満たす必要があるため、電磁的記録として保存する場合には、再書込み・修正が可能な環境(DVD―RW、USB―メモリ、リムーバルディスク、ログイン管理・書込み権限を設定されていないサーバー等)は、治験関連文書を電磁的記録として保存するための記録媒体として活用することは、一時的な利用を除き、困難である。
なお、以下に電磁的記録の保存方法ごとの留意事項を示す。
i)DVD―R等に保存する場合
DVD―R等に保存する方法としては、受領したDVD―R等をそのまま保存する方法やメール等で受領した電磁的記録を新たなDVD―R等に保存する方法等が考えられ、前者の方法は既に症例報告書を電磁的記録として保存する際に活用されている。後者の方法を活用する際には、DVD―R等への記録手順、受領した記録の保存や管理の手順等について具体的に定めておく必要がある。また、いずれの場合もDVD―R等の劣化が生じにくい場所に保存し、仮にDVD―R等の劣化が生じた場合であっても電磁的記録を復元できるように手順を定めておくこと等が必要である。
なお、ER/ES指針では、電磁的記録及び電子署名の利用に当たって必要となる責任者、管理者、組織、設備及び教育訓練に関する事項を規定しておくことが求められているが、電磁的記録の特性を考慮し、見読性を確保することを保証できるならば、紙記録の保存における責任者等がDVD―R等の保存管理の業務を行うことは可能である。
ii)自施設専用サーバーに保存する場合
自施設専用サーバーに保存する方法としては、既存の電磁的記録管理組織や設備を活用する方法、新たに電磁的記録管理組織や設備を設置する方法が考えられる。診療情報等を電磁的記録として保存している実施医療機関にあっては、「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第4.1版」(平成22年2月厚生労働省、以下「安全管理に関するガイドライン」という。)に基づき電磁的記録の管理が行われており、監査証跡が付与されるシステムの導入、当該システムに対する入力権限の設定、電磁的記録及び電子署名の利用に当たって必要となる責任者、管理者、組織、設備及び教育訓練に関する事項の規定等が既に整備されている。ER/ES指針を遵守した管理を実施するためにも、この管理体制を最大限利用することが推奨される。新たに電磁的記録管理組織や設備等を新たに設置することも可能であるが、この場合においては、前述のような管理体制を含めて新たに整備する必要があることから、まずはDVD―R等に保存による方法を導入することも検討されたい。
さらに、法令で定められる保存期間中、治験関連文書の見読性を確保するため、以下の点にも留意する必要がある。
・保存場所のセキュリティに関する規則(利用者の権限、アクセス範囲、セキュリティ範囲等)を定めておき、適切な書込み権限を設ける。
・電磁的記録の保存や修正のための手順を定めておく。また、ログデータの証跡(各種ID、アクセス時間、アクセス対象文書、操作内容、ログイン情報等)に関するルールも定めておく。
・電磁的記録(及び電子署名)の利用における責任者、管理者にだけでなく、書込みや閲覧する担当者に対しても教育訓練を行う。
・既に保存した情報を削除する場合には、削除に関する情報を記録する。
・バックアップ・リカバリーの手順を明確にする。
iii)クラウド等システムに保存する場合
治験関連文書を電磁的記録として保存する業務を、自施設専用サーバーに保存する場合と同様の点に留意した上で、クラウド等システムを管理する企業、団体等に委託することも可能である。また、治験終了後に、継続して当該保存業務を委託すること、当該電磁的記録をDVD―R等に別途記録した上で保存業務の委託を継続すること等も可能である。これらの場合にあっては、GCP省令に基づく委受託契約を締結する必要があることに留意されたい。
なお、業務委託先の管理体制(特に、バックアップの実施状況、リカバリー手順及び報告連絡体制等)や事業継続性については委託契約前に十分に確認し、必要に応じて委託先を変更することができるような方策(例えば、ファイル形式、ファイル保存方法の標準化等を行なっておくこと。)も検討しておくことが望ましい。
iv)スキャンを活用し保存する場合
省令第44号第4条第1項2号では、治験関連文書の紙記録をスキャンして作成した電磁的記録を上記i)~iii)の方法で保存することが認められている。
なお、ER/ES指針では、スキャンを活用する場合の具体的な要件は示されていないが、スキャンして作成した電磁的記録が明瞭に確認できること、スキャンに関する手順及び担当者を定めておくこと、事実経過を検証するための記録を残すこと等が必要であることに留意されたい。
③標準業務手順書の作成
治験依頼者等、実施医療機関及び治験審査委員会は、治験関連文書を電磁的に保存する場合には、その保存方法等に関して手順を定めておく必要がある。特に、情報流出等に関する交付側の懸念を払拭するためにも、受領側において受領及び受領後の管理手順を明確に規定し運用する必要がある。
なお、セキュリティ対策として、保存領域を保護するために閲覧権限又は書込み権限を有するユーザーを設定するだけではなく、不特定ユーザーの攻撃等によりデータの消失が生じることのないよう、適切な方法を検討すべきである。以下に各保存方法における標準業務手順書中に規定すべき事項の参考事例を示す。
i)DVD―R等に保存する場合
【受領段階の手順】
・提供された電磁的記録の取扱い
・受領時の受領記録の残し方
・電磁的記録の受領担当者の指名
【ファイル保存前の手順】
・保存用DVD―R等を作成する時期、作成担当者
【保存段階の手順】
・記録しておくファイル形式(例えば、PDF。)、フォルダ構成、ファイル名の付け方
・誤ったファイルを登録した場合の記録の残し方
【全般的事項】
・バックアップの方法とその担当者
・DVD―R等の劣化により見読性を失った場合のリカバリー手順及び記録の残し方
・モニタリング、監査並びに治験審査委員会及び規制当局の調査時に直接閲覧させる場合の方法
ii)自施設専用サーバーに保存する場合
【受領段階の手順】
・提供された電磁的記録の取扱い
・受領時の受領記録の残し方
・電磁的記録受領者とその役割を記載した文書の作成
【ファイル保存前の手順】
・専用サーバーへの移管時期、移管担当を含めた経緯の作成
【保存段階の手順】
・保存しておく電磁的記録のファイル形式(例えば、PDF。)、フォルダ構成、ファイル名の付け方
・誤ったファイルを登録した場合の記録の残し方(誤ったファイルを修正した経緯と作業者、作業日、内容等)
【全般的事項】
自施設専用サーバーを活用する場合には、システムに求める要件、システムの機能として盛り込まれない事項に関する運用手順を定めておくことが重要である。
・専用サーバーの仕様(ログ・アクセス・バックアップ・リカバリー・セキュリティ等)
・バックアップ・リカバリー及びセキュリティ体制と担当者
・システムの点検・監査に関する事項
・システムの機能として盛り込まれない事項に関する、運用手順・サーバーの故障等により見読性を失った場合のリカバリー手順及び記録の残し方
・治験後の電磁的記録の管理に関する事項
・モニタリング、監査並びに治験審査委員会及び規制当局の調査時に直接閲覧させる場合の方法
iii)クラウド等システムに保存する場合
【全般的事項】
クラウド等システムを活用する場合には、システムに求める要件、システムの機能として盛り込まれない事項に関する運用手順を定めておくことが重要である。
・自施設専用サーバーに求める要件(ログ・アクセス・バックアップ・リカバリー・セキュリティ等)について、システム機能として満たしたことを検証する手順
・バックアップ・リカバリー及びセキュリティ体制と担当者
・システムの点検・監査に関する事項
・システムの機能として盛り込まれない事項に関する運用手順
・サーバーの故障等により見読性を失った場合のリカバリー手順及び記録の残し方
・契約終了後の電磁的記録の管理に関する事項
・モニタリング、監査並びに治験審査委員会及び規制当局の調査時に直接閲覧させる場合の方法
iv)その他
・i)~iii)に示した方法を併用し、バックアップを実施することも可能である。
・保存場所は、記録媒体の劣化が進まない環境(直射日光を避ける等)を選択する。
・事実経過が検証できる環境が構築されていれば、受領資料を所定の場所へ保存するまでの期間、一時的にメールやその添付ファイルをメールソフト中に保存しておくことも可能である。しかし、受領担当者の異動、メールソフトの障害等により受領資料の所在が不明になってしまうおそれがあるため、あらかじめ定めておいた手順に基づき所定の場所へ適切かつ速やかに保存する必要がある。
④サーバーの故障等により見読性が失われた場合の対応
十分な管理体制のもと、電磁的記録を管理していたにも関わらず、見読性が失われた場合には、治験依頼者等及び実施医療機関は、以下の対応を行う必要がある。
・授受関係にある当事者にその旨を伝える。
・見読性を失ってしまった原因を検討し、再発防止措置をとり、当該対応に係る事項を記録する。
・手順に従いリカバリーを実施し、リカバリーに係る事項を記録する。
4.治験関連文書を電磁的記録として保存等する場合の活用事例
「3.治験関連文書を電磁的記録として保存等する場合の留意事項 (1)治験関連文書を電磁的記録として交付する場合の方法及び留意事項 ⑧ファイル名等に関する留意事項」に示した名称ルールも参考にし、以下に電磁的記録として保存等する場合の活用事例を示す。なお、活用事例は、作業工数が少なくなるように留意している。電磁的記録の利用の有無に関わらず、作業工数を減少させることは、情報伝達までの時間の短縮、実施医療機関内の事務手続きの簡略化と情報処理の迅速化及び治験依頼者等によるプロセス管理の簡便化等につながるため、是非検討されたい。
(1) 副作用情報等の授受に係る電磁的記録の活用
①治験依頼者等から実施医療機関の長、治験責任医師、治験審査委員会への副作用情報等の通知
治験依頼者等は、GCP省令第20条第2項第3項/第26条の6第2項に基づき、実施医療機関の長及び治験責任医師に対して副作用情報等を通知しなければならない。なお、治験依頼者等は副作用情報等を治験審査委員会にも同時に通知することもできる(GCPガイダンス(平成24年12月28日付け薬食審査発1228第7号厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知)第20条第2項及び第3項に係る解説4/第26条の6第2項に係る解説3)。以下に電磁的記録を活用して副作用情報等の通知を行う事例を示す。
i)提供開始前の準備
治験依頼者等は、提供開始前に以下の手続きを行う。
・交付手順及び交付した治験関連文書の保存手順を定めておく。
・電磁的記録として交付することについて、治験責任医師、実施医療機関の長及び治験審査委員会から承諾を得る。
・交付先を明確にする。
・実施医療機関において、治験関連文書の保存手順が定められているか確認する。
・治験協力者等を介して交付する場合には、治験協力者等から治験責任医師等に提供される手順が定められているか、事実経過を検証するための記録が残されるようになっているかを確認する。
・クラウド等システムを介して交付する場合には、ER/ES指針を準拠できる体制等を確保する。さらに、送信者、受領者に対して十分な教育訓練を行うとともにID・パスワードを交付する。
・交付した電磁的記録を保存するための保存領域を定めておく。
ii)個別の副作用情報を交付する際の留意点
治験依頼者等は、個別症例の副作用情報を、以下のように交付する。
・統一書式16及び個別症例票のPDFファイルを準備する。なお、治験依頼者等側で、評価に関する記録が残される場合には署名等を行わない。
・名称ルールに従い、交付用フォルダ及びPDFファイルに名称を付与する。
【例】
交付用フォルダ名:6_Study2013_02_BBB病院
PDFファイル:
書式16(F16_002_001_20130223.pdf)
個別報告書(Z10_SI_008_002_20130110.pdf)
個別報告書(Z10_SI_009_001_20130110.pdf)
・治験依頼者等は、手順書に従い、所定の保存領域に交付用フォルダを作成しPDFファイルを保存する。
・交付後に文書の変更が必要となった場合等には変更前の文書も保存する。
・交付用フォルダを実施医療機関、治験責任医師及び治験審査委員会に交付する。
ア)メールによる交付の場合、交付用フォルダごとに圧縮したファイルを、宛先を指定して送信する。また、メール送信記録を、印刷して保存するか、所定の保存領域に格納する。
イ)DVD―R等による交付の場合、交付用フォルダをDVD―R等に保存し、媒体上には保存されている情報が識別できるような表示を行う。さらに、添付する鑑文書(紙記録)を複写し、保存する。
ウ)クラウド等システムによる交付の場合、治験依頼者等の担当者は、クラウド等システムにID・パスワードを用いてログインし、交付先を指定し、交付すべき電磁的記録をアップロードする。ログ等で交付した事実を確認する。
※アップロードするだけでは法令上の交付が成立していないため、メールでの連絡等も併用することも検討されたい。
iii)その他の留意事項
統一書式16に記載すべき実施医療機関の長の職名及び治験責任医師名は、実施医療機関と治験依頼者等双方の合意があれば、それぞれ「各実施医療機関の長」及び「各治験責任医師」と記載することで差し支えない。これにより、電磁的記録の利用の有無に関わらず、実施医療機関ごとの文書の作成は不要となり、事務手続きを大幅に簡略化できる。
②実施医療機関の長及び治験責任医師における受領準備と受領
副作用情報は、実施医療機関の長及び治験責任医師によって十分に評価されることにより、治験継続の可否の判断にも影響を与える重要な情報である。本文書においては、これらの情報に基づき治験継続の可否を判断する業務については言及せず、以下に実施医療機関の長及び治験責任医師が副作用情報を電磁的記録として受領する前の準備と実際に受領する方法に関する事例を示す。
i)受領する前の準備
実施医療機関の長及び治験責任医師は、受領する前に、以下の手続きを行う。
・受領した治験関連文書の保存手順を定めておく。なお、治験依頼者等ごとに交付方法が異なるため、メールによる交付、DVD―R等による交付、又はクラウド等システムを介した交付に対応できる手順を定めておく。
・バックアップ・リカバリー手順を定めておく。
・受領した電磁的記録を自施設専用サーバー又はクラウド等システムに保存する場合には、電磁的記録及び電子署名の利用のために必要な責任者、管理者、組織、設備及び教育訓練に関する事項を規定しておく。また、受領した電磁的記録を保存するための保存領域を定めておくとともに、作成、変更及び削除における責任の所在を明確にするために、保存領域に対する書込み権限を設定しておく。
・交付方法について、治験依頼者等と合意する。
・治験協力者等を介して受領する場合には、受領担当者を指名し、治験依頼者等に伝える。なお、治験協力者から治験責任医師等に提供される手順及び事実経過を検証するための記録を残すための手順も定めておく。
・受領した副作用情報を保存する担当者を明確にする。治験協力者、治験事務局又は治験審査委員会事務局の担当者である場合が多いと考えられるが、その場合には職務として分担する。
・治験依頼者等が準備したクラウド等システムを介して受領する場合には、受領者は治験依頼者等から十分な教育訓練を受け、ID・パスワードを受領する。
ii)個別症例の副作用情報を受領する際の留意点
実施医療機関の長又は治験責任医師は、個別症例の副作用情報を、以下のように受領する。
・手順書に従い、所定の保存領域に、治験依頼者等から提供された受領フォルダを保存する。
・治験継続の可否及び同意説明文書等の改訂の必要性を検討し記録する。所定の保存領域に併せて保存しておく。また、必要に応じて、以下の対応も行う。
ア)治験責任医師等が治験継続に問題があると判断した場合
・関係者にその旨を伝える。
・書式17(治験終了(中止・中断)報告書)を関係者に送付する。
【例】
交付用フォルダ名:7_Study2013_01_BBB病院
PDFファイル:
書式17(F17_001_001_20130223.pdf)
その他の資料
治験責任医師等が治験継続に問題があると判断した場合には、電磁的記録の利用の有無に関わらず、電話等を活用しながら、迅速に関係者に伝える必要がある。また、実施医療機関の長が、治験継続に問題があると判断した場合には、統一書式参考書式1(治験に関する指示・決定通知書)にて、別途実施医療機関の長から治験責任医師及び治験依頼者等に通知する。
イ)治験責任医師が同意説明文書等の改訂が必要と判断した場合
・関係者にその旨を伝える。
・統一書式10(治験に関する変更申請書)及び同意説明文書(改訂版)のPDFファイルを作成する。なお、これらのファイルは、名称ルールに従い、PDFファイル及び交付用フォルダに名称を付与する。
【例】
交付用フォルダ名:2_Study2013_01_BBB病院
PDFファイル:
書式10(F10_002_001_20130223.pdf)
同意説明文書(改訂版)(Z04_ICF_002_001_YYYYMMDD.pdf)
受領した受領フォルダ(6_Study2013_02_BBB病院)
ウ)実施医療機関の長及び治験依頼者等に交付する。また、交付した資料を保存する。
エ)実施医療機関の長は、統一書式4のPDF(F04_002_001_YYYYMMDD.pdf)をフォルダに格納し、治験審査委員会に審議依頼する。また、交付した資料を保存する。
(2) 治験審査委員会における受領した副作用情報等の保存、会議資料の準備、審議結果の通知
①保存方法
治験審査委員会は、交付された副作用情報等を「②実施医療機関の長及び治験責任医師における受領準備と受領」に示される方法と同様の方法で保存することができる。すなわち、あらかじめ受領・保存手順を定めておき、手順書に従い、所定の保存領域に受領フォルダを保存し、事実経過を検証するための記録も併せて保存することが必要である。
②副作用情報等を受領・保存する際の留意点
・実施医療機関内に治験審査委員会が設置されている場合は、実施医療機関の手順書等で明確に定められていれば、実施医療機関と治験審査委員会の資料を共有して保存することも可能である。
・治験審査委員会の会議資料を準備するに当たり、治験依頼者等から受領した副作用情報等の電磁的記録について、ファイル自体を加工することがあり得る。このような場合には、治験審査委員会の手順書等において、加工する内容や加工する担当者と実施記録の残し方を規定しておく。また、治験依頼者等から受領した電磁的記録をGCP省令上保存すべき資料として取り扱い、加工した資料も同様の内容であることがわかるようにしておくことも必要である。
③治験審査委員会委員に対する会議資料の事前配布
GCP省令では、治験審査委員会委員に対して治験審査委員会の会議資料を事前配布する方法に関する規定はなく、治験審査委員会の手順書でその方法を定めることができる。なお、電磁的記録を活用する方法としては、実施医療機関内共有フォルダに電磁的記録を保存し供覧する方法、電磁的記録を保存したDVD―Rやタブレット端末等を配布し閲覧する方法、治験審査委員会で管理するクラウド等システムに電磁的記録を保存し閲覧する方法等が考えられる。
いずれの方法であっても、治験審査委員会の手順書において、治験審査委員会委員に対して会議資料を配布する時期及び方法、外部に情報が漏洩しないようにするためのセキュリティに関する方策、治験審査委員会後のファイルの取り扱い(破棄方法等)、事前に配布したことを事実検証できるような記録の保存等について規定しておく必要がある。
④治験審査委員会当日の会議資料
GCP省令では、治験審査委員会当日の会議資料に関する規定はなく、治験審査委員会の手順書でその方法を定めることができる。なお、電磁的記録を活用する方法としては、事前配布した電磁的記録を活用する、別途同一の電磁的記録又は紙記録を準備する等の方法が考えられる。なお、PCやタブレット端末を用いて電磁的記録を活用した審査を実施する際には、複数の資料を同時に確認できない場合がある等の不便な点もある。そのため、治験審査委員会委員に対して審議資料の提示方法を十分説明する、プロジェクター等で審査を行っているポイントを表示する、必要に応じて紙記録も併用する等の対応を検討する。
⑤治験審査委員会から実施医療機関の長、治験責任医師及び治験依頼者等への審査結果等の通知
治験審査委員会は、治験審査委員会終了後、治験審査委員会の議事録及び議事概要を作成し、審議結果を実施医療機関の長、治験責任医師及び治験依頼者等に通知しなければならない(GCPガイダンス第32条第3項に係る解説4及び解説5、第40条第1項に係る解説3)。この際、審議結果が「承認する」の場合は、実施医療機関の長は統一書式5を提出する必要はなく、実施医療機関における事務作業の効率化が期待できる。一方、審議結果が「承認する」以外の場合は、電話等も活用し審議結果を確実に伝える必要がある。
なお、以下に審議結果通知書を交付するための事例を示す。
i)承認の場合
・統一書式5を作成し、実施医療機関の長、治験責任医師及び治験依頼者等にメール等で交付する。
・治験依頼者等から送付された統一書式16(PDFファイル)を印刷し、「治験審査委員会名」、「治験審査委員会開催日」、「審議結果(承認)」が入ったスタンプで押印する。当該資料を、PDF化し、実施医療機関の長、治験責任医師及び治験依頼者等にメール等で交付する。
ii)修正の上で承認する、又は既に承認した事項を取り消す場合
・統一書式5を作成し、実施医療機関の長、治験責任医師及び治験依頼者等にメール等で交付する。
・メール以外の方法も活用しながら確実に伝える手順を定めておく。
治験審査委員会における事実経過を検証するための記録としては、「送信メール、受領返信メールを電磁的記録として残す」、「送信者、送信日時、送信内容が記載できる受領簿を作成し記録する」、「代理送信を行う場合には、代理送信が委任されていることが検証できるように記録する」が考えられる。
なお、送付プロセスに問題が生じ、治験審査委員会から審査結果が送付されない危険性があるため、あらかじめ送信に要する日数を双方で確認しておく等、未送信の状態が検出できるように工夫しておくことが重要である。
(3) 治験中の副作用等報告について
治験責任医師は、GCP省令第48条第2項及び第3項に基づき、自施設で発生した重篤な有害事象に関する情報を実施医療機関の長に報告するとともに、治験依頼者が行う治験においては、治験依頼者に通知しなければならない。また、自ら治験を実施する者が行う治験においては、他の治験責任医師に報告するとともに、治験薬提供者にも通知しなければならない。
この通知についても、電磁的記録として交付することができるが、自ら治験を実施する者による多施設共同治験においては、この作業を治験責任医師ごとに行うことは非効率である。しかし、電磁的記録の交付を開始する前に、まずは、各自ら治験を実施する者は、自ら治験を行う者の代表者等に、治験薬提供者やその他の自ら治験を実施する者に対する通知等の交付作業を委託し、自ら治験を行う者の代表者等が代表して副作用情報等の交付を行うことも可能である。
(4) クラウドコンピューティングの活用等について
今後、臨床研究・治験活性化5か年計画2012で目標とされた「治験依頼者、医療機関は、費用対効果を勘案しながらクラウドコンピューティングの活用等について検討する。」が進められた場合、「クラウド等システムによる交付」及び「クラウド等システムによる保存」については、交付側及び受領側が同一のサーバーを使用して実施することが可能になると考えられる。
このような場合にあっては、厚生労働省令第44号第11条第1項第1号ロにおいて求められる「当該相手方の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに当該事項を記録する」ことが明確になるような環境を構築することが重要である。例えば、あらかじめ手順書等において、ログ等を活用し事実経過を検証できるように規定するとともに、法令で定められる保存期間中は、常に受領側の意思で電磁的記録を確認でき、ファイル出力により書面を作成できるようにしておく。なお、交付側がクラウド等システムにアップロードするだけでは法令上の交付が成立していないことに留意する必要がある。
(5) 実施医療機関で作成した治験関連文書を電子カルテシステムで保存する場合の対応
実施医療機関で作成した治験関連文書(診療録・検査伝票・同意説明文書等)を実施医療機関で保存する場合は、授受を伴う治験関連文書と同様の方法のみで真正性を確保することは困難であり、その具体的な方法については別途検討する必要がある。
しかし、電子カルテシステムを導入している医療機関では、安全管理に関するガイドラインを遵守して運用されていると考えられるため、この仕組みを利用することで、医療機関で作成した治験関連文書(診療録・検査伝票・同意説明文書等)を電磁的記録として保存することが可能である。例えば電子カルテ等の運用で診療の大部分が電子化されている医療機関においては、安全管理に関するガイドラインの9.1及び9.2に基づき、紙記録として作成された文書を改ざんの動機が生じないと考えられる1~2日程度以内の運用管理規程で定めた期間で、遅滞なくスキャンし、改変不可能とした電磁的記録を電子カルテシステムに登録している。このように電磁的記録として登録された文書は、登録日以降に変更できなくなり、監査証跡等で電子カルテシステムへの登録者及び登録日時も明確となる。また、安全管理に関するガイドラインを遵守していれば、ER/ES指針も遵守していると考えられる。このため、実施医療機関で紙記録として作成された治験関連文書(作成者が明確なものに限る。)が改変不可能な電磁的記録として保存され、かつ、手順書等で当該電磁的記録の位置づけが明確に規定されている場合(または通常診療で発生する紙記録も同様な方法で保存されている場合)には、当該電磁記録をGCP省令上の保存文書として取り扱うことが可能である。なお、電子カルテシステムを利用して実施医療機関で作成した治験関連文書を保存するに当たっては、その保存期間にも留意する必要がある。医師法で求める診療録の保存期間は5年間であるが、治験関連文書は、当該被験薬に係る医薬品が製造販売承認を受ける日まで保存しなければならない。そのため、保存期間の設定ミスや電子カルテシステムのリプレイス等により見読性を失うことのないよう十分配慮する必要がある。
[別紙1]
1)統一書式に基づき作成された文書のファイル名の例(企業治験・製造販売後臨床試験の場合)
統一書式番号 |
ファイル名の例 |
書式1 |
F01_P01_001_20130123.pdf ※治験責任医師の場合 F01_S01_001_20130123.pdf ※治験分担医師の場合 |
書式2 |
F02_001_001_20130123.pdf |
書式3 |
F03_001_001_20130123.pdf |
書式4 |
F04_001_001_20130123.pdf |
書式5 |
F05_001_001_20130123.pdf |
書式6 |
F06_001_001_20130123.pdf |
(書式7) |
― |
書式8 |
F08_001_001_20130123.pdf |
書式9 |
F09_001_001_20130123.pdf |
書式10 |
F10_001_001_20130123.pdf |
書式11 |
F11_001_001_20130123.pdf |
書式12 |
F12_001_001_ABCDE_001_20130123.pdf |
書式13 |
F13_001_001_ABCDE_001_20130123.pdf |
書式14 |
F14_001_001_ABCDE_001_20130123.pdf |
書式15 |
F15_001_001_ABCDE_001_20130123.pdf |
書式16 |
F16_001_001_20130123.pdf |
書式17 |
F17_001_001_20130123.pdf |
書式18 |
F18_001_001_20130123.pdf |
参考書式1 |
FS1_001_001_20130123.pdf |
参考書式2 |
FS2_001_001_20130123.pdf |
2)統一書式に基づき作成された文書のファイル名の例(医師主導治験の場合)
統一書式番号 |
ファイル名の例 |
書式1 |
FD01_P01_001_20130123.pdf ※治験責任医師の場合 FD01_S01_001_20130123.pdf ※治験分担医師の場合 |
書式2 |
FD02_001_001_20130123.pdf |
書式3 |
FD03_001_001_20130123.pdf |
書式4 |
FD04_001_001_20130123.pdf |
書式5 |
FD05_001_001_20130123.pdf |
書式6 |
FD06_001_001_20130123.pdf |
(書式7) |
― |
書式8 |
FD08_001_001_20130123.pdf |
(書式9) |
― |
書式10 |
FD10_001_001_20130123.pdf |
書式11 |
FD11_001_001_20130123.pdf |
書式12 |
FD12_001_001_ABCDE_001_20130123.pdf |
(書式13) |
― |
書式14 |
FD14_001_001_ABCDE_001_20130123.pdf |
(書式15) |
― |
書式16 |
FD16_001_001_20130123.pdf |
書式17 |
FD17_001_001_20130123.pdf |
書式18 |
FD18_001_001_20130123.pdf |
参考書式1 |
FDS1_001_001_20130123.pdf |
参考書式2 |
FDS2_001_001_20130123.pdf |