添付一覧
○生活保護制度における第三者行為求償事務の手引について
(平成26年4月18日)
(社援保発0418第3号)
(各都道府県・各指定都市・各中核市民生主管部(局)長あて厚生労働省社会・援護局保護課長通知)
(公印省略)
生活保護法の一部を改正する法律(平成25年法律第104号)の施行に伴い、今後、第三者行為を原因とする医療扶助又は介護扶助の給付があった場合には、生活保護法(昭和25年法律第144号)第76条の2の規定に基づき、当該第三者に対し、当該給付に係る費用の限度において、求償を行うことができることとなる。
当該求償事務の取扱いについては、「生活保護制度における第三者行為求償事務について」(平成26年4月18日社援発第354号厚生労働省社会・援護局長通知)において定めたところであるが、当該求償権を行使する事案については、被害の届出の提出の求め、事実関係の確認、損害保険会社等への支払請求等、その事務が多岐にわたる上、求償の対象となる第三者の保険加入状況等により求償先も異なる等、その事務処理も画一的なものではない。
このため、今般、基本的な事務処理手順の例を示すものとして、別添のとおり、「生活保護制度における第三者行為求償事務の手引」を策定したので、これについて御了知の上、管内市町村に対し、その周知を図るとともに、当該手引を参照の上、その運用に遺漏のないようにされたい。
なお、この改正法第76条の2の規定の施行は、本年7月1日からとなるが、当該施行日より前の第三者の行為によって生じた被害に係る医療扶助又は介護扶助の給付については、当該規定の適用とならないので留意されたい。
(別添)
生活保護制度における第三者行為求償事務の手引
平成26年4月
厚生労働省社会・援護局保護課
目次
第1章 第三者行為求償の事務処理
第1節 第三者行為求償事務の概要
第2節 地方自治体における事務処理手順及びその内容
1 第三者行為被害の届出の受付等
2 第三者行為に関する加害者又は損害保険会社等への照会
3 第三者行為被害に関する調査(必要に応じて実施)
4 損害賠償請求額の決定・支払請求
第3節 求償の対象(求償額、消滅時効)
1 求償額の算出方法
2 求償権の消滅時効
第2章 様式例
第1章 第三者行為求償の事務処理
第1節 第三者行為求償事務の概要
1 改正規定の趣旨
生活保護法(昭和25年法律第144号。以下「法」という。)による医療扶助は、生活保護受給者の負傷、疾病に関して行われる医療について行うものであり、法による介護扶助は、要介護状態等となった生活保護受給者の入浴、排せつ、食事等の介護について行うものであるが、その医療扶助又は介護扶助(以下「医療扶助等」という。)の原因となった事由が当該生活保護受給者及び当該生活保護を実施する地方自治体以外の者の加害行為(以下「第三者行為」という。)によって発生する場合がある。
こうした第三者行為を原因として生活保護受給者が第三者(第三者行為の加害者のみならず、当該第三者が加入する損害保険会社等を含む。以下「第三者」という。)に対し損害賠償請求権を取得した場合、第一義的には、当該第三者に対して損害賠償を請求し、これにより受領した賠償金を治療等に必要な医療費を含む最低生活費に充当すべきであるが、当該損害賠償金の受領の前に医療にかかる必要があるケースが多いため、第三者行為による被害を受けた生活保護受給者(以下「第一当事者被保護者」という。)は、いったん医療扶助等により医療又は介護サービスを受けることとなり、その後、当該生活保護受給者が、第三者に対して損害賠償を請求せず、賠償金が第三者から支払われない事案が存在する。
このため、今般の生活保護法改正により、法第76条の2において、医療扶助等と民事損害賠償との調整について定め、第三者行為による被害について医療扶助等を行ったときは、地方自治体は、医療扶助等を受けた者が当該第三者に対して有する損害賠償請求権を医療扶助等の給付額の限度で取得し、当該第三者に対して求償するものとする。
なお、同条の規定による損害賠償請求権の取得は、政策的見地から特に法律が認めた効果であり、要件の具備により当然に効力が発生し、第三者に対抗するために格別の要件を必要としない。
2 法第76条の2の規定の適用対象となる第三者行為被害の要件
第三者行為が法第76条の2の規定の適用対象となるには、
(1) 医療扶助等の給付事由が第三者の不法行為等により生じたものであること
(2) 地方自治体がその事故に対してすでに医療扶助等の給付を行ったこと
(3) 生活保護受給者の第三者に対する損害賠償請求権が現に存在すること
の3要件を必要とする。
上記(1)から(3)までの要件の詳細については、以下のとおり。
(1) 医療扶助等の給付事由が第三者の不法行為等により生じたものであること
ア 「第三者」とは、第一当事者被保護者及び医療扶助等を行った地方自治体以外の者であって、その第三者行為被害について損害賠償責任を有する者を意味する。
イ 第三者行為被害には、人の加害行為によって被害が発生した場合のみならず、土地の工作物等の設置又は保存に瑕疵があり、民法(明治29年法律第89号)第717条の規定に基づきその占有者又は所有者が損害賠償責任を負う場合、及び動物の加害によって被害が発生した場合でその占有者等が民法第718条の規定に基づき損害賠償責任を負う場合等も含まれる。
(2) 地方自治体がその事故に対してすでに医療扶助等の給付を行ったこと
地方自治体が生活保護受給者の第三者行為被害に対して医療扶助等の給付を行っていなければ、地方自治体が求償すべき損害賠償請求権が存在しないこととなる。
(3) 生活保護受給者の第三者に対する損害賠償請求権が現に存在すること
民法その他の法令の規定に基づき、第三者が第一当事者被保護者に対し損害賠償をまだ行っておらず、又は差し押さえられていない等、損害賠償請求権が現に存在していることが必要である。
なお、上記(1)から(3)までの要件を具備することにより法的には当然に当該規定の適用対象となるが、当該規定の対象となることにより取得した求償権については、財政上最も国及び地方自治体の利益に適合するよう処理されるべきであり、一定の合理的な理由の下、地方自治体の裁量によって放棄することも検討すること。
3 第三者行為被害と自動車保険
第三者行為被害はその大部分が交通事故であり、その場合には医療扶助等の給付については、他法他施策優先の保護の原則から、自動車損害賠償保障法(昭和30年法律第97号。以下「自賠責法」という。)第5条に規定する自動車損害賠償責任保険若しくは自動車損害賠償責任共済(以下「自賠責保険等」という。)又は任意の対人賠償保険・共済(以下「任意保険等」という。)による保険金又は共済金の支払が優先されることとなる。
また、自賠責法第71条に規定する政府の自動車損害賠償保障事業によるてん補金についても、医療扶助等の給付に優先されて支払われるものである。
ただし、政府の自動車損害賠償補償事業は、あくまでも被害者へのてん補金を支払うものであり、損害賠償ではないことから、当該てん補金は、法第76条の2に規定する損害賠償請求権の代位取得の対象とはならないが、当該てん補金の支払いがあった場合には収入認定すること。また、この場合において、損害保険会社等に対して損害賠償請求権を行使するときの支払請求額は、支払請求額から当該てん補金の額を差し引いた額となるので、留意すること。
4 損害賠償義務及び保険金支払義務等を負う者の相互関係
第三者行為被害において医療扶助等の原因となった被害につき損害賠償義務を負う者としては、不法行為責任を負う加害者、使用者責任を負う使用者、運行供用者責任を負う運行供用者等があり、保険金支払義務を負う者としては、自動車損害賠償責任保険及び任意保険等を取り扱う損害保険会社、自動車損害賠償責任共済を取り扱う都道府県共済連等がある。
第一当事者被保護者の有する損害賠償請求権を取得した地方自治体は、その求償権の行使は、加害者と損害保険会社等のいずれにも行うことが可能である。
5 損害賠償と示談
加害者の不法行為等によって損害を受けた第一当事者被保護者は、当該加害者やその加入する損害保険会社等に対して損害賠償請求を行うことができるが、この損害賠償請求権は私法上の債権であるものの、他法他施策優先という保護の原則を踏まえれば、第一当事者被保護者は医療扶助等の給付を行った地方自治体に相談することなく、加害者や損害保険会社等に対して有する損害賠償請求権の全部又は一部を放棄すべきではない。この点については、福祉事務所から、管内の生活保護受給者に対し、日常から説明を行っていくべきである。
第一当事者被保護者が自ら、地方自治体に相談なく加害者や損害保険会社等との間において、損害賠償額について示談を行い、損害賠償債務の全部又は一部の行使をせず、その限度において損害賠償請求権を喪失した場合には、地方自治体も損害賠償請求権を失うことになるため、留意が必要である。
なお、示談については、次のような効力が生じるものである。
(1) 当事者間で示談が成立した後、示談の内容に反する事象が現れても、原則としてその示談の効力は失われない。
(2) 示談がその内容どおり履行されない場合は、債権者は債務不履行を理由に民法第540条、第541条、第543条に基づき、その示談を破棄することができる。
(3) 次のような意思を欠いたり、意思表示に瑕疵があった場合の示談は無効とすること又は取り消すことができる。
① 錯誤又は心裡留保による意思表示に基づく場合
② 詐欺又は脅迫による意思表示に基づく場合
第2節 地方自治体における事務処理手順及びその内容
1 第三者行為被害届の受付等
生活保護受給者が第三者行為被害に遭い、これを原因とする負傷等について医療又は介護サービスを要する場合には、当該生活保護受給者に、被害発生状況、損害賠償金の支払い状況、過失割合に関する意見等の届出(以下「第三者行為被害届」という。)をさせた上で、医療扶助等を受けさせること。
(1) 第三者行為被害届の提出
生活保護受給者の負傷等について医療扶助等の給付を必要とする場合であって、地方自治体が、負傷等の原因が第三者行為によるものとして、法第76条の2の規定に基づき損害賠償請求権を代位取得するものについては、地方自治体は、当該生活保護受給者に対して、第1号様式「第三者行為被害届」を提出させること。
また、第三者行為被害届の提出よりも医療扶助等の給付が先行した場合であっても、第一当事者被保護者に対して、速やかに第三者行為被害届を提出させること。
なお、第一当事者被保護者本人により、当該被害届に係る必要事項の記入が困難な場合には、福祉事務所職員が必要な支援を行うものとする。
(2) 第三者行為被害届以外の添付書類の提出
第三者行為被害届の提出と併せて、第一当事者被保護者に対し、例えば交通事故の場合、下記の書類の添付を求めること。
なお、第一当事者被保護者本人により、これらの書類の用意が困難な場合には、関係機関に書類交付の申請を替わって行う等により、書類の充足に向けて必要な支援を行うものとする。
① 「交通事故証明書(写)」又は「交通事故発生届」
② 「事故発生状況報告書」
③ 「念書」
④ その他必要な書類(示談が行われた場合には示談書の謄本の写し、損害賠償金の一部又は全部、仮渡金、内払金を受けた場合にはその支払証明書や通知書、等)
(3) 添付書類について(詳細)
① 交通事故証明書等
交通事故証明書は、自動車安全運転センターにおいて交付証明を受けたものを提出させること。
なお、警察署への未届等の理由により、当該証明書の提出ができない場合には、様式第2号「交通事故発生届」を提出させること。
また、交通事故以外の第三者行為被害については、当該被害の発生の事実に関し、公的機関の証明等が得られる場合には、当該証明書等の提出を行うよう指導すること。
② 事故発生状況報告書
過失割合の認定の参考等とするため、第一当事者被保護者から、様式第3号「事故発生状況報告書」を提出させること。
③ 念書
第三者行為被害における求償事務を適正に行うため、第一当事者被保護者から、様式第4号「念書」を提出させること。
なお、念書の提出に当たっては、その後の債権関係において無用な混乱が生じないよう、地方自治体の担当者がその内容を読み上げる等、生活保護受給者の理解を確認した上で提出させること。
2 第三者行為に関する加害者又は損害保険会社等への照会
第三者行為被害における求償事務を適正に行うため、地方自治体は、第三者行為の加害者又は当該者が加入する損害保険会社等に対して、必要な事項を照会すること。
(1) 照会の方法
地方自治体は、加害者又は損害保険会社等に対して、様式第5号「生活保護法の医療扶助又は介護扶助の給付についての通知及び損害賠償等についての照会」により、様式第4号「念書」及び様式第6号「損害賠償等につき回答」の用紙を添付した上で、照会すること。
なお、任意保険等の損害保険会社等に対して照会する場合は、災害発生状況や過失割合の判断に必要な参考資料(例えば、第三者行為被害届)を添付すること。
これは、任意保険等の保険金額の決定に当たっては、第三者行為被害の過失割合が大きな考慮要素となり、第一当事者被保護者、加害者双方の過失割合についての損害保険会社等の意見を徴することが重要となるためである。
また、照会に際しては、その回答期限を社会通念上合理的な範囲で設定し、迅速に回答を得ることができるよう配慮するとともに、事実関係についての調査を要する等の理由により、過失割合についての意見の提出が遅れるような場合には、判明する事項から順次回答するよう損害保険会社等に対して要請すること。
なお、「保険金等が支払われている場合の内訳」欄については、損害保険会社等が事務手続の必要上作成している「任意保険等の損害額積算明細書」等により、保険金等が支払われている場合の内訳を全て把握することが可能であれば、当該書類を回答文書に添付して内訳の記載に替えても差しつかえないものとする。
(2) 照会先
事案は、主として、
① 加害者が自賠責保険等のみ加入している場合
② 加害者が自賠責保険等の他に任意保険等にも加入している場合
③ 加害者が保険未加入である場合
等が考えられるが、その照会先はそれぞれ異なる。詳細は以下のとおり。
① 加害者が自賠責保険等のみ加入している場合
自賠責保険等の損害保険会社等に対して照会する。
その際には、保険金限度額(自賠責保険では、傷害の場合は、限度額が120万円と少額であり、請求権の行使の前に支払額が残存しているかの確認が必要)や、任意保険等の損害保険会社等と任意一括払対応であって任意保険等に対して先行して請求すべきなのか等について確認する。
② 加害者が自賠責保険等の他に任意保険等にも加入している場合
任意保険等にも加入している場合には、任意一括払対応である場合が多いことから、まずは、任意保険等の損害保険会社等に照会することが基本となる。
なお、任意一括払対応ではない場合には、自賠責保険等に係る部分の照会は、自賠責保険等の損害保険会社等に対して行い、任意保険等に係る部分の照会は、任意保険等を取り扱う損害保険会社等に対して行うものとする。
③ 加害者が保険未加入である場合
無保険車及び自賠責保険等、任意保険等の保険金等の限度額を超過した場合や、暴力行為等による第三者行為被害にあっては、加害者に対して直接、代位取得した損害賠償請求権を行使し、支払請求を行うこととなる。
必要事項の照会に当たっては、当該加害者に対して照会することとする。
なお、照会に当たって加害者に提示する診療報酬明細書には、第一当事者被保護者に既往症があった場合には、第三者行為被害と関係のない治療も混在している場合がある。この場合に加害者に被害者の私病の治療内容を知らせることは、第一当事者被保護者の個人情報に関する問題が起こり得るため、例えば、診療報酬明細書の添付を省略するなど、第一当事者被保護者への配慮を行う必要がある。
(3) 回答が得られない場合の対応
加害者又は損害保険会社等への照会について、地方自治体が設定した回答期限までに回答がなく、遅延している場合には、様式第7号「損害賠償等についての照会に対する回答の提出について」により、改めて合理的な範囲で回答期限を設定した上で催促を行うこと。
なお、催促したにもかかわらず、損害保険会社等より何ら連絡もないまま回答期限を過ぎた場合には、迅速に事務処理を進めるという観点から、損害保険会社等の回答を待つことなく求償に係る事務処理を進める等、適宜対応を進めるものとする。
3 第三者行為被害に関する調査(必要に応じて実施)
第三者行為被害届、加害者又は損害保険会社等への照会に対する回答等を総合的に検討し、その内容に不備、不審等があると認められる場合又はそれらの書類が未提出のために事実関係の把握が困難な場合には、必要に応じて、地方自治体の職員により、調査を行うこと。
具体的には、実地に赴き、第三者行為被害届や加害者又は損害保険会社等への照会に対する回答等を参照しながら調査を行う、事案発生時に第三者行為被害の現場を日撃した者等関係者に対する電話照会、文書照会等により行うものとする。
4 損害賠償請求額の決定・支払請求
(1) 損害賠償請求額の決定【詳細は第3節】
診療報酬明細書により、第三者行為を原因とする負傷等について、医療扶助等の給付の完了(治癒・中止・症状固定・示談等)がなされた時点で、これに係る費用を把握する。この際、医療扶助等の支払額に過誤がある場合には、当該過誤調整に係る精算書等により正しい費用を把握するものとする。
この際、私病、既往症等これらの被害に関係のない分は減額するものとする。ただし、私病等について分離が困難な場合は、自動車事故によるものについては、医療扶助等の給付を担当した医師等の判断を基に、第三者行為被害に関係する費用を請求し、損害保険料率算出機構の行う自賠責保険等の損害調査の結果等を踏まえ、損害保険会社等と調整を図るものとする。
その上で、損害賠償請求額を決定するに当たっては、当事者双方の過失割合等を考慮して算出する必要があるが、この請求額の算出方法等については、第3節において詳細を示すので、参照されたい。
なお、医療扶助等の給付の完了を待たずとも、損害賠償額の一部として、任意保険等では内払金の請求を行うことができる事案もあることから、必要な場合には、これらの請求を行うことも検討すること。また、自賠責保険に対して、給付の完了を待たずに請求を行うことも可能であるが、自賠責保険では、給付が完了した場合か、他の損害と合算して限度額を超過した場合で、様式第8号「自動車損害賠償責任保険損害賠償金支払請求書」の「医療扶助又は介護扶助の給付」欄を「完了」として請求するまでは処理がされずに保留される点に留意すること。
(2) 支払請求の方法
支払請求は、
・ 自賠責保険等に対しては、様式第8号「自動車損害賠償責任保険損害賠償金支払請求書」により、
・ 加害者又は任意保険等に対しては、様式第9号「損害賠償金支払請求書」により、
それぞれ行うものとする。
また、いずれの場合も、円滑な事務処理とするため、次に掲げる書類を添付する必要がある。
① 「交通事故証明書(写)」又は「交通事故発生届」
② 「事故発生状況報告書」
③ 「診療報酬明細書(写)」
④ 「介護給付明細書(写)」及び「サービス利用票(写)」
⑤ 「念書」
⑥ その他加害者又は損害保険会社等への照会等を踏まえて必要となった書類
なお、原本を提出する書類については、その後、第一当事者被保護者や加害者又は損害保険会社等との調整を行う場合に備え、地方自治体において複写物を管理しておくこと。
(3) 支払請求先
2による照会結果等を踏まえ、以下のとおり請求する。
① 加害者が自賠責保険等のみ加入している場合
自賠責保険等の損害保険会社等に請求する。
② 加害者が自賠責保険等の他に任意保険等も加入している場合
ア 任意一括払対応の場合
自賠責保険等の部分を含め、すべての部分について、任意保険等の損害保険会社等に請求する。
イ 任意一括払対応ではない場合
自賠責保険等の限度額までの部分については、自賠責保険等の損害保険会社等に請求し、その超過額であって任意保険等で支払われる部分については、任意保険等の損害保険会社等に請求する。
③ 加害者が保険未加入である場合
加害者本人に請求する。
第3節 求償の対象(求償額、消滅時効)
1 求償額の算出方法
第一当事者被保護者が第三者に対して請求し得る損害賠償には、不法行為責任を負う加害者、使用者責任を負う使用者、運行供用者責任を負う運行供用者に対して請求し得る損害賠償だけではなく、自賠責保険等及び任意保険等を取り扱っている損害保険会社等に対して請求し得る保険金等をも含むものである。
しかし、地方自治体が法第76条の2の規定に基づき損害賠償請求権を取得し、求償することができる損害賠償額は、同一の事由に関し、第一当事者被保護者が第三者に対して請求し得る損害賠償額と医療扶助等の給付額とを比較したいずれか低い額であり、損害賠償額の範囲も、医療扶助等の給付事項に対応する損害賠償に限定されるものである。
また、これらの算出に当たっては過失相殺が行われる場合もある。
第一当事者被保護者が第三者に対して有する損害賠償請求額の具体的な算出方法は、次頁以降のとおり。以下の枠線内の算式は、それらの概要である。
<自賠責保険等>
請求額(①)=第一当事者被保護者に生じた損害(医療扶助等の対象となる医療又は介護サービスに要した費用)の合計額
≦限度額(120万円)のうち医療扶助等の対象となる医療又は介護サービスに対する保険金額
(ただし、第一当事者被保護者に重大な過失(70%以上)があった事故であって、傷害の場合には20%減額される。)
<任意保険等>
請求額(②)=第一当事者被保護者に生じた損害(医療扶助等の対象となる医療又は介護サービスに要した費用)の合計額-自賠責保険等の請求額(①)
≦限度額(保険約款に定める額)のうち医療扶助等の対象となる医療又は介護サービスに対する保険金額
(ただし、第一当事者被保護者の過失割合に応じて過失相殺が行われる。)
※ 既に第一当事者被保護者が第三者から損害賠償金を受領している場合にあっては、①、②の額から当該受領金額を控除した額が請求額となる。
(1) 第一当事者被保護者が第三者に対して有する損害賠償請求額
① 求償可能な第一当事者被保護者の損害の把握
ア 医療に係る費用
医療扶助として行われるものすべて
イ 介護に係る費用
介護扶助として行われるものすべて
② 過失相殺等
第一当事者被保護者に過失がある場合にあっては、自賠責保険等に対して支払請求を行う場合を除き(ウで後述)、前記①の範囲内で算出された第一当事者被保護者に生じた損害額に過失相殺を行うことにより、第一当事者被保護者が第三者に対して有する損害賠償請求額となる。
ア 過失割合の認定
民法第722条第2項においては、「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる」とされており、最終的には裁判所において過失割合を認定することとなるが、実際に発生する多くの損害賠償請求事案について裁判で損害賠償額が決定されることを待つことは、時間や費用をいたずらに費やすことにもなることから、一般的には過去の類似判例等を当てはめ、当事者間の合意に基づき示談により過失割合を加味して損害賠償額が決められているのが通例である。
そのため、求償を行う際には過失割合を認定する必要があるが、過失割合の認定は次により行うこと。
a 過失割合は損害賠償額の確定について重要な要素であり、過失割合の認定に当たっては公平な立場で行うこと。
また、両当事者で過失割合の主張が一致しない場合には、求償事務に支障を来さないよう両当事者の指導を行い、主張の内容及び被害発生状況等を総合的に勘案して過失割合を認定すること。
b 自動車事故については、道路、道路標識、信号機等の状況及び運転者の行為等が過失割合の判定要素となるが、損害保険会社等の意見も参考にしつつ、「民事交通訴訟における過失相殺率等の認定基準」(東京地裁民事交通訴訟研究会編、別冊判例タイムズ第16号)等の参考図書を参照の上、客観的に過失割合を認定すること。
なお、損害保険会社等の意見や参考図書の記載内容は、過失割合を認定するに当たっての参考資料に過ぎず、これらに拘束されるものではないことは当然のことであり、被害発生状況等を総合的に勘案して個々の事案ごとに妥当と考えられる過失割合を認定すること。
イ 第一当事者被保護者に過失が認められる場合の過失相殺(任意保険等への請求又は加害者への直接請求の場合)
第一当事者被保護者に過失が認められる場合は、第一当事者被保護者に生じた損害の合計額に第三者行為の加害者の過失割合を乗じて得た額を、第一当事者被保護者が第三者に対して有する損害賠償請求額とすること。
例えば、第一当事者被保護者の過失割合が40%、加害者の過失割合が60%の場合には、第一当事者被保護者の医療扶助等の給付事項に対応する損害額の合計額に60%を乗じて損害賠償請求額を算出すること。
ウ 自賠責保険等の損害保険会社等に対して支払請求を行う場合における過失割合の取扱い
自賠責保険等損害保険会社等に対して支払請求を行う事案については、上記イにかかわらず、第一当事者被保護者の損害額に当事者の過失割合を加味することなく、損害賠償請求額を算出すること。これは、自賠責保険等においては、第一当事者被保護者に重過失が認められる場合を除き第一当事者被保護者の過失の有無にかかわらず自賠責保険等の限度額までは保険金等を支払うという取扱いを定めているためである。
また、任意一括払対応の事案において、損害賠償の対象となる医療扶助等の給付額や慰謝料等の合計額が自賠責保険等の限度額に収まる場合にも、最終的にその支払いは自賠責保険等を支払う損害保険会社等が自賠責保険の基準により負担することになるため、同様に、第一当事者の過失割合等を考慮せずに、任意保険等の損害保険会社等に対して求償すること。
③ 第一当事者被保護者が既に第三者から損害賠償を受領している場合
前記①及び②により算出して得られた損害賠償請求額のうち、第一当事者被保護者が既に第三者から同一の事由に基づく損害賠償を受領している場合には、前記①及び②により算出して得られた額から、第一当事者被保護者が既に受領した額を控除して得た額をもって、損害賠償請求額とすること。
(2) 求償額
前記(1)の方法により得られた額と医療扶助等の給付額を比較して、いずれか低い額とすること。
(3) 第一当事者被保護者が請求権の一部を放棄した場合の取扱いについて
第一当事者被保護者と第三者との間で示談が成立した場合において、その示談額が、本来自賠責保険等の損害保険会社等に対して請求できる金額を下回るものである場合、例えば、任意一括払いが成立している事案で当事者の過失割合によって過失相殺を行って計算した額で示談が成立したが、本来は示談額より高い額での請求が可能であったような場合には、他法他施策優先という保護の原則を踏まえればあってはならないが、民事法律関係においては第一当事者被保護者等は任意に自らの権利を放棄する自由を有するものであるため、有効な示談として認められる。
すなわち、第一当事者被保護者が請求権の一部を放棄した場合には、求償額が、本来求償できたであろう額を下回る場合が生じることもあり得るので注意すべきであり、福祉事務所は、管内の生活保護受給者に対し、日常から、他法他施策優先が保護の原則であることを説明すべきであること。
(4) 求償の対象とならない事項の取扱い
(1)①のとおり、損害賠償請求権を代位取得し、求償することができるのは、医療及び介護サービスに係る損害賠償請求権に限られる。
すなわち、これら以外の慰謝料等に係る損害賠償請求権は、引き続き第一当事者被保護者が有しているものであり、当該者が、求償を行う地方自治体とは別途、加害者又は損害保険会社等に対し、損害賠償請求を行わせる必要があるので留意すること。
また、地方自治体による求償と、第一当事者被保護者による慰謝料等の請求が競合する場合には、自賠責保険の限度額の範囲内においては、第一当事者被保護者に対する支払いが優先される点に留意すること。
2 求償を行う期間
地方自治体が行う求償は、第一当事者被保護者が第三者に対して有する損害賠償請求権を前提とするため、第一当事者被保護者が有している損害賠償請求権に係る消滅時効の起算日等の事由は、そのまま地方自治体が引き継ぐことになる。
そのため、地方自治体が第一当事者被保護者より取得した損害賠償請求権が民法上の不法行為責任(自賠責法上の運行供用者責任の場合も同じ)である場合には、民法第724条に基づき第一当事者被保護者が損害及び加害者を知ったとき、すなわち、一般的には第三者行為被害の発生日から3年間を経過した時点で消滅時効が完成することになる。
なお、主な損害賠償請求権の消滅時効は以下のとおり。
① 自賠責保険等に対する被害者請求権等・・・3年(自賠責法第19条)
② 運行供用者責任に基づく損害賠償請求権・・・3年(自賠責法第4条、民法第724条)
③ 不法行為による損害賠償請求権・・・3年(民法第724条)
④ 製造物責任法に基づく損害賠償請求権・・・3年(製造物責任法第6条、民法第724条)
⑤ 旅客運送業者等に対する損害賠償請求権・・・5年(商法第522条)
⑥ 債務不履行(安全配慮義務違反等)による損害賠償請求権・・・10年(民法第167条)
様式第1号
様式第2号
様式第3号
様式第4号
様式第5号
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