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○犯罪被害による傷病の保険給付の取扱いについて〔国民健康保険法〕

(平成26年3月31日)

(/保保発0331第1号/保国発0331第2号/保高発0331第12号/)

(全国健康保険協会理事長・健康保険組合理事長・都道府県国民健康保険主管課(部)長・都道府県後期高齢者医療主管課(部)長あて厚生労働省保険局保険課長・厚生労働省保険局国民健康保険課長・厚生労働省保険局高齢者医療課長通知)

(公印省略)

犯罪の被害を受けたことにより生じた傷病は、医療保険各法(健康保険法(大正11年法律第70号)、船員保険法(昭和14年法律第73号)、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)及び高齢者の医療の確保に関する法律(昭和57年法律第80号))において、一般の保険事故と同様に、医療保険の給付の対象とされている。

また、加害者が保険者に対し損害賠償責任を負う旨を記した誓約書があることは、医療保険の給付を行うために必要な条件ではないことから、犯罪の被害者である被保険者が当該誓約書を提出することがなくとも医療保険の給付は行われる。

こうした取扱いについては、平成23年8月9日付保保発0809第3号・保国発0809第2号・保高発0809第3号厚生労働省保険局保険課長・国民健康保険課長・高齢者医療課長連名通知「犯罪被害や自動車事故等による傷病の保険給付の取扱いについて」(別紙1)でお示ししたところである。

今般、「第2次犯罪被害者等基本計画」(平成23年3月25日閣議決定)及び「「犯罪被害給付制度の拡充及び新たな補償制度の創設に関する検討会」及び「犯罪被害者等に対する心理療法の費用の公費負担に関する検討会」の開催について」(平成23年3月25日犯罪被害者等施策推進会議決定)に基づき開催された「犯罪被害給付制度の拡充及び新たな補償制度の創設に関する検討会」においてなされた取りまとめ(別紙2)を踏まえ、上記の取扱いについて、改めて周知するので、その趣旨を踏まえて適切に対応いただくとともに、都道府県国民健康保険主管課(部)におかれては、管内の保険者等に対して、都道府県後期高齢者医療主管課(部)におかれては、管内の後期高齢者医療広域連合及び市町村後期高齢者医療主管課(部)に対して、周知をお願いする。

[別紙1]

○犯罪被害や自動車事故等による傷病の保険給付の取扱いについて

(平成23年8月9日)

(/保保発0809第3号/保国発0809第2号/保高発0809第3号/)

(全国健康保険協会理事長・健康保険組合理事長・都道府県国民健康保険主管課(部)長・都道府県後期高齢者医療主管課(部)長あて厚生労働省保険局保険課長・厚生労働省保険局国民健康保険課長・厚生労働省保険局高齢者医療課長通知)

犯罪や自動車事故等の被害を受けたことにより生じた傷病は、医療保険各法(健康保険法(大正11年法律第70号)、船員保険法(昭和14年法律第73号)、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)及び高齢者の医療の確保に関する法律(昭和57年法律第80号))において、一般の保険事故と同様に、医療保険の給付の対象とされています。

また、犯罪の被害によるものなど、第三者の行為による傷病について医療保険の給付を行う際に、医療保険の保険者の中には、その第三者行為の加害者が保険者に対し損害賠償責任を負う旨を記した加害者の誓約書を、被害者である被保険者に提出させるところもあるようですが、この誓約書があることは、医療保険の給付を行うために必要な条件ではないことから、提出がなくとも医療保険の給付は行われます。

今般、第2次犯罪被害者等基本計画(平成23年3月25日閣議決定)に、犯罪による被害を受けた者でも医療保険を利用することが可能である旨や、加害者の署名が入った損害賠償誓約書等の有無にかかわらず医療保険給付が行われる旨を、保険者や医療機関に周知すること等が盛り込まれたことを踏まえ(別添)、上記の取扱いについて改めて周知をしますので、その趣旨を踏まえて適切に対応いただくとともに、都道府県国民健康保険主管課(部)におかれましては、管内の保険者等に対して、都道府県後期高齢者医療主管課(部)におかれましては、管内の後期高齢者医療広域連合及び市町村後期高齢者医療主管課(部)に対して、周知をお願いします。

なお、自動車事故による被害を受けた場合の医療保険の給付と自動車損害賠償保障法(昭和30年法律第97号)に基づく自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)による給付の関係については、自動車事故による被害の賠償は自動車損害賠償保障法では自動車の運行供用者がその責任を負うこととしており、被害者は加害者が加入する自賠責保険によってその保険金額の限度額までの保障を受けることになっています。その際、何らかの理由により、加害者の加入する自賠責保険の保険者が保険金の支払いを行う前に、被害者の加入する医療保険の保険者から保険給付が行われた場合、医療保険の保険者はその行った給付の価額の限度において、被保険者が有する損害賠償請求権を代位取得し、加害者(又は加害者の加入する自賠責保険の保険者)に対して求償することになります(健康保険法第57条第1項、船員保険法第45条第1項、国民健康保険法第64条第1項及び高齢者の医療の確保に関する法律第58条第1項)。

一方で、加害者が不明のひき逃げ等の場合や自賠責保険の補償の範囲を超える賠償義務が発生した場合には、被害者の加入する医療保険の保険者が給付を行ったとしても、その保険者は求償する相手先がないケースや結果的に求償が困難なケースが生じ得ます。このような場合であっても、偶発的に発生する予測不能な傷病に備え、被保険者等の保護を図るという医療保険制度の目的に照らし、医療保険の保険者は、求償する相手先がないことや結果的に求償が困難であること等を理由として医療保険の給付を行わないということはできません。

さらに、加害者が自賠責保険に加入していても、速やかに保険金の支払いが行われない場合等、被害者である被保険者に一時的に重い医療費の負担が生じる場合も考えられるため、このような場合も上記と同様の趣旨から、医療保険の保険者は、被保険者が医療保険を利用することが妨げられないようにする必要があります。これらの取扱いは、その他の犯罪の被害による傷病についての医療保険の給付でも同様です。

なお、上記の例のように、医療保険の給付の原因となった傷病が第三者の行為によって生じたものであるときは、医療保険各法は、被害者である被保険者(国民健康保険では、被保険者の属する世帯の世帯主又は組合員)に対して、その事実等を保険者に届け出ることを義務づけているため、各保険者においては、その旨を被保険者等に周知するとともに、医療保険の給付を行った際には届出の提出を求め、加害者に対する適正な求償を行っていただくようお願いします。(健康保険法施行規則第65条、船員保険法施行規則第57条、国民健康保険法施行規則第32条の6及び高齢者の医療の確保に関する法律施行規則第46条)

[別添]

◎ 第2次犯罪被害者等基本計画(平成23年3月25日閣議決定)(抄)

Ⅴ 重点課題に係る具体的施策

2 給付金の支給に係る制度の充実等(基本法第13条関係)

(8) 医療保険の円滑な利用の確保

厚生労働省において、犯罪による被害を受けた被保険者が保険診療を求めた場合については、現行制度上加害者の署名が入った損害賠償誓約書等の有無にかかわらず保険給付が行われることになっている旨、保険者に周知する。また、医療機関に対して、犯罪による被害を受けた者であっても医療保険を利用することが可能であることや、誓約書等の提出がなくても保険者は保険給付を行う義務がある旨保険者あてに通知していることについて、地方厚生局を通じて周知する。【厚生労働省】

[別紙2]

「犯罪被害給付制度の拡充及び新たな補償制度の創設に関する検討会」

取りまとめ

平成26年1月

目次

はじめに

第1 犯給制度に関する議論

1 遺族給付金の支給を受けるべき第一順位遺族の認定に関する問題

2 親族間犯罪被害者への不支給例外

3 海外での犯罪被害者への適用拡大の適否

4 重傷病給付金

5 裁定期間等

第2 新たな補償制度に関する議論

1 金銭的支給

あすの会要綱で提案された補償制度に関する議論

ア 「補償」の意義

イ 一時金(死亡事案)

ウ 年金(死亡事案,後遺障害事案)

(ア) 支給形式

(イ) 支給水準

エ 過去の犯罪被害者等への支給

海外での犯罪被害者に対する経済的支援

2 現物支給(あすの会要綱第12項)

第3 その他

1 相談支援体制の整備

2 地方公共団体における支援制度の充実への要望

第4 提言

1 犯給制度の拡充及び新たな制度の創設に関する提言

(1) 親族間犯罪被害者への支給に関するもの

(2) 海外での犯罪被害者に対する経済的支援に関するもの

2 現行制度の運用等に関する提言

(1) 犯給制度に関するもの

(2) その他のもの

[はじめに]

本検討会は,第2次犯罪被害者等基本計画(平成23年3月25日閣議決定)に基づき,平成20年度に拡充された犯罪被害給付制度(以下,「犯給制度」という。)の運用状況等を踏まえ,犯給制度の更なる拡充及び新たな補償制度の創設の要否,また犯給制度の拡充又は新制度創設を要するとした場合に,その内容に関して検討するために開催された。

本検討会では,開催の趣旨を踏まえ,犯罪被害者等からの生活状況等に関するヒアリング,平成20年度改正後の犯給制度の運用状況,要件が該当する場合に犯罪被害者等の経済的負担軽減に活用できる又は実際に活用されている社会保障等の枠組み,海外での犯罪被害者等に対する経済的支援制度について,平成18年度の調査からの変化の有無について確認する等の現状確認を行った。

その上で,犯給制度については,平成20年度改正後に拡充・改正の余地が指摘された点について議論を重ね,新たな補償制度の創設については,主として,構成員から提出された,全国犯罪被害者の会(あすの会)作成にかかる「犯罪被害者補償制度案要綱(生活保障型)第二版」(以下,「あすの会要綱」という。)を前提に議論を行った。また,本検討会開催期間中に,複数の海外での邦人犯罪被害が社会の耳目を引いたことも踏まえ,海外犯罪被害者への経済的支援の観点でも,犯給制度の拡充又は新たな補償制度の創設の要否を検討した。

[第1 犯給制度に関する議論]

1 遺族給付金の支給を受けるべき第一順位遺族の認定に関する問題

犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律(昭和55年法律第36号。以下,「犯給法」という。)では,犯罪被害者に配偶者と子がいる場合,遺族給付金の支給を受けることができる第一順位遺族は,配偶者であると定められている。

この点に関し,犯罪被害者に幼い子供がおり,かつ,当該犯罪被害者に戸籍上は配偶者がいるものの婚姻の実態がないような場合,戸籍上の配偶者ではなく,残された幼い子供が遺族給付金の支給を受けられるようにすべきではないかとの問題提起があった。

上記問題提起に対し,申請者が遺族給付金の支給を受けることができる遺族に当たるか否かの判断について,現状の運用においても,例えば,戸籍上では婚姻関係にあったとしても実態として事実上の離婚状態にあったと認められるかどうかという点などについて,ほかの制度(民事訴訟,遺族年金等)と同様,形式面だけでなく実態面からも判断されていることの説明がなされたことを踏まえ,本検討会としては,申請者が遺族給付金の支給を受けることができる遺族に当たるか否かの判断において,引き続き,運用の面での適切な実態判断に委ねることが相当と考える。

他方,子,親,祖父母,兄弟姉妹といったその他の親族関係においても,戸籍上の第一順位遺族が生前の犯罪被害者とは長年音信不通であった場合等に給付金を支給することが,遺族の精神的・経済的打撃の緩和を図り,再び平穏な生活を営むことができるよう支援するという同法の趣旨にそぐわない事案もあるのではないかとの問題提起があった。

しかし,この問題提起に対しては,婚姻関係と異なり,その他の親族関係については,どのような事情があれば給付金を支給することが同法の趣旨にそぐわないと言えるのか,一定の類型を切り出すことは難しいとの見解が示された。以上から,本検討会としては引き続き現行法に基づいた運用を行っていくべきと考える。

2 親族間犯罪被害者への不支給例外

犯給法では,犯罪被害者と加害者との間に一定の親族関係がある場合(以下,「親族間犯罪の場合」という。),犯罪被害者等給付金の全部又は一部を支給しないことができるが,支給しないことが社会通念上適切でないと認められる特段の事情があるときは,同法施行規則により,所定の犯罪被害者等給付金の3分の1を支給するものとされている。また,この場合において,犯罪被害者に配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(平成13年法律第31号)に基づく保護命令が発出されている等の事情がある場合は,同規則に基づき,所定の犯罪被害者等給付金の額の3分の2又は全額を支給することができることとなっている。

この点に関し,本検討会では,配偶者間暴力被害(以下「DV」という。)事案が顕在化していることから,犯給制度制定当時と比べて親族関係のあり方が変化したと言えるのではないかとの指摘のほか,親族関係のあり方が変化したかどうかとの評価とは別に,社会の連帯共助の精神に照らして,経済的支援が相当と考えられる範囲が変化してきている可能性もあるのではないかとの指摘があり,そもそも親族間犯罪の場合には不支給という原則を改めるべきであると強く主張する意見があった。

他方,犯給制度は,通り魔殺人等の故意の犯罪行為による不慮の死亡等の犯罪被害を対象として発足したものであり,互いに助け合うべき親族の間で行われた犯罪については,通り魔その他の不慮性の高い犯罪被害とは同一には論じられず,また,親族間犯罪の場合に給付金を支給することによって結果として加害者を利するようなおそれもあることから,原則として不支給とされている原則を現時点で変えなければいけない状況になっていないとの意見のほか,現在の犯給制度が前提としてきた立法事実と異なる立法事実があるのかといった指摘がなされた。また,近年急増しているDV事案の被害者については,平成18年以降の犯給法施行規則改正により,一定の場合に全額支給を可能とする措置が既に講じられている等の説明があった。

これらを踏まえ,本検討会は,現時点で,現行法上の原則と例外とを入れ替えるべきであるとの合意には至らなかった。

上記論点に関連し,親族間犯罪でも犯罪被害者等給付金が支給される場合の範囲を拡大することができないかとの意見があった。この点に関し,本検討会としては,DV事案以外にも,全額支給又は減額割合を3分の1までとする特例を認めるべきであると考える。具体的には,年少時に,長年にわたって保護者等から受けた性的虐待等の事案について,検討すべきである。

あわせて,本検討会では,親族間犯罪に係る犯給法及び同法施行規則の規定に関し,支援の現場において,支給を受けられるケースもあることについての理解や説明が十分でないことによって,被害者等が申請できないと誤解することもあるのではないかとの意見があったことから,都道府県警察等の支援の現場への教育,周知が徹底されるべきと考える。

3 海外での犯罪被害者への適用拡大の適否

現在の犯給制度における支給対象者は,日本国内又は日本国外にある日本船舶若しくは日本航空機内での犯罪行為による被害者又はその遺族に限られているところ,犯給法の適用範囲を国外犯罪にも拡大できないかとの問題提起があった。

上記問題提起に対し,現行の犯給制度では,犯罪被害者等給付金の支給裁定にあたって,犯罪被害の事実や減額事由の有無等に関する詳細な事実調査を行う必要があるため,この犯給制度をそのまま国外犯罪に適用しようとすると,外国では都道府県公安委員会には調査の足場がないこと等から事実調査が困難な事例が多く見込まれ,事実調査ができる事案の被害者と,できない事案の被害者への救済の差が生じ,公平性に問題があるとの意見があった。

上記意見に対しては,事実関係が調査できないケースもあるという事情は,事実関係が明白な事案について支給をしないことの理由とはならないのではないか,事実関係が確認できる事件についてのみ支給することとしても公正に反しないのではないか等の意見があった。

これらを踏まえ,国内犯罪に適用されている犯給制度をそのまま国外犯罪に適用させるのではなく,国外犯罪については,対象事件,渡航先,渡航目的,調査を要する事実の範囲等,何らかの限定を加えた上で犯給制度に組み入れることができるのではないかとの提案があったが,かかる限定を行う時点で,そのような制度は犯給制度とは最早言えず,全く別の新たな制度となるのではないかとの指摘があった。

これを受け,本検討会では,犯給制度とは別の枠組みとして,海外での犯罪行為による被害者への経済的支援の在り方について検討を行った(第2.1.(2)において後述)。

4 重傷病給付金

医療費の自己負担相当額について負担軽減を図るために平成13年度に新設された重傷病給付金については,3か月未満で治癒又は症状固定(以下「治癒等」という。)に至った被害者が約7割であったことを踏まえ,支給対象期間が当初3か月とされていたが,その後の運用状況調査の結果,1年以内に治癒等に至った被害者が約7割を占めることが判明したことから,平成18年度に支給対象期間が1年に延長された。さらに,平成19年9月に取りまとめられた「経済的支援に関する検討会」の提言(以下「「経済的支援に関する検討会」提言」という。)を踏まえ,平成20年度において,重傷病給付金の額(上限120万円)を医療費の自己負担相当額に休業損害を考慮した額を加算したものとする制度改正がなされた。

本検討会では,過去の被害者の経済的困窮状況の一因として,1年を超える医療費負担の問題が提示され,重傷病給付金の支給対象期間を延長することができないか,また,その場合において上限額を引き上げることができないかとの意見があった。

1年を超える医療費の自己負担分については,「経済的支援に関する検討会」提言の中で,「重傷病給付金の支給対象期間が3ヶ月から1年に拡大されたばかりであることから,当面,その運用状況を見るべきである。ただし,運用状況から,1年をさらに拡大する必要がある立法事実が出てくれば,さらなる期間の拡充を検討する必要がある」との指摘がなされていることを受け,平成18年度改正以降の運用状況を確認したところ,重傷病給付金受給者のうち平成18年度改正時と同程度の割合の者が1年以内で治療を終えていることが判明した。

このことから,現時点において,支給対象期間の更なる延長を必要とする立法事実があるとは認められず,本論点については引き続き運用状況を見て検討していくとの説明があった。

他方,1年を超えて治療を要する被害者の割合(約3割)が今後大きく変動しない限り,支給対象期間の延長を必要とする立法事実が生じないとすることは妥当ではないという意見や,1年を超えて治療を要する被害者の治療費用等の問題に関し,そうした被害者の実情(どのような被害について治療を要しているか,どの程度の期間の治療を要しているか,どの程度の経済的負担となっているか等)を明確にしなければ,支給対象期間を延長すること及びその場合における上限額の引き上げについての合理性を判断できないとの意見があった。

以上の議論を踏まえ,本検討会は,被害者の負担軽減を更に図るべき合理性が認められる実態があるか確認するため,現行制度について運用状況を更に詳細に調査すべきであると考える。その上で,1年を更に延長する必要がある状況が出てくれば,重傷病給付金の支給対象期間の延長及びその場合における上限額の引き上げを検討する必要があると考える。

5 裁定期間等

犯罪被害者等給付金の裁定・給付に関し,申請から給付されるまで時間がかかっていることが問題点として指摘された。

この点については,障害が固定しない,または犯罪被害該当性や減額事由の有無が確定しない場合に,裁定まで時間がかかる一方で,平成20年度の平均裁定期間9.8月が,平成24年度には5.9月と大幅に短縮されてきているとの説明がなされた。

これを踏まえ,本給付の裁定が長引く場合に,仮給付ができないかとの問題提起があったが,現状の仮給付制度では,犯罪被害であることや給付基礎額が判明した上で,所定の犯罪被害者等給付金の額の3分の1を給付するものであることから,給付基礎額が決まらないケースでは,裁定に要する時間が本給付と大差がないため,本給付を急ぐことが優先されてきたとの説明があった。他方,犯罪被害者等の要望も踏まえ,仮給付制度をより活用していくようにしたいとの意見があった。

なお,資料の提出等を求めずに一定金額を被害直後に給付することへの要望があったが,犯罪被害該当性等が給付条件となっている現状の仕組みからは,難しいとの意見があった。

以上から,本検討会としては,引き続き,本給付の迅速な裁定に努めていくべきであり,犯罪被害者等の要望を踏まえ,仮給付制度の一層の活用がなされるべきであると考える。

[第2 新たな補償制度に関する議論]

1 金銭的支給

(1) あすの会要綱で提案された補償制度に関する議論

ア 「補償」の意義

新たな補償制度に関し,「補償」の意義について,犯罪被害者等基本法第3条により,国は,犯罪被害者等が事件前の平穏な生活に戻るために補償をする責務があるのではないかとの意見があった。

これに対し,国に「損害」を補償する責務があるとする場合,その前提として,国に責任があるから補償するという理論的根拠を要するのではないか,との意見があった。

また,国はある意味社会の代表者であり,その国と犯罪被害者等を二項対立的に捉えない方がいいのではないかとの意見があった。

さらに,犯罪被害者等基本法は,犯罪被害者に対する広い意味での「福祉」の理念のもと,社会正義の実現等を求めているのではないか,給付水準等は,財源及びその支給根拠に国民全体の理解が得られるか否かといった要素で導かれるのではないかとの意見があった。

本論点については,本検討会として総論的な解釈を示すものではなく,あすの会要綱の中に掲げられた,各要望事項に沿った制度についての検討にあたり,当該問題となっている制度の支給根拠及びその相当性の問題として,個別に議論するにとどめた。

イ 一時金(死亡事案)

あすの会要綱第3項において,犯罪被害者死亡時に,葬儀費用,当座の教育費用,ローン返済のための資金,自営業の場合の事業資金等として,現行の犯給制度での単身者死亡の場合の遺族給付金最高額(1,210万円)相当の金額を,一律に支給する一時金制度の提案があった。

上記提案に対し,犯罪被害者の遺族が置かれた状況は様々であり,当座経済的支援を必要とする要素は個人差があると考えられるため,金額が一律であることの根拠が乏しいのではないかとの意見があり,現行の犯給制度の支給額について変更すべきとの結論には至らなかった。

ウ 年金(死亡事案,後遺障害事案)

あすの会要綱第5項,第9項において,犯罪被害者が死亡又は後遺障害を負ったときは,事件前の生活を取り戻すことができるまでの期間,事件前の収入を基本として,平均収入を基準とした年金を支給する生活保障制度の提案があった。

(ア) 支給形式

上記提案は,年金型支給に伴う事務的コストについては,労災年金又は遺族年金の処理機関に委嘱することによって抑えられるのではないかとの前提が述べられた。

この点に関しては,現行の労災年金又は遺族年金に係る事務は,別々の法令体系に基づき,申請受付,認定,支払い,さらに年金を支払い続ける限りは要件の確認等,継続的に労働基準監督署,年金事務所などのそれぞれの機関が管理しているところであり,単純に委嘱をすれば事務量が減るというものではないとの意見があった。

他方,現在の犯罪被害者等給付金のような一時金型支給であったとしても,年金保険の購入や信託財産の設定などにより,個人で年金化することができること,また,労災年金等,既存の年金制度についても,原資計算の上では,仮に平均余命まで生きた場合の総支給額を現在価値に置き換えて検討していることについての指摘があった。

これを踏まえ,本検討会では,年金制度の提案について,支給形式の問題ではなく,支給総額の問題として検討することとした。

(イ) 支給水準

支給総額としての議論を行うに当たって,犯罪被害者・遺族に,平均収入相当を上限として事件前の生活水準を補償するという考え方をとることについては,犯罪被害以外で,自分に責任がない要因に基づき,経済的支援を要する状況に置かれている方達を考えると,社会保障の枠組み全体の中での公平性の問題があるのではないかとの意見があった。

また,現状の提案を前提とすると,累積総支給額が相当高額になると思われ,財源の問題があるのではないかとの意見があった。

以上のような議論を踏まえ,本検討会としては,年金型(生活保障型)の給付を行うことについての結論を導くことはできなかった。

エ 過去の犯罪被害者等への支給

過去に犯給制度が拡充された際,制度拡充前の被害者への遡及適用がなかったため,年金型の支給とすることで,そのように,犯給制度拡充の効果を受けられなかった過去の被害者にも,将来の年金として支給を受給できることを期待している側面もある点が指摘された。

この点,上記のように,本検討会としては,年金型(生活保障型)制度について提言に至るところではないことから,その効果を過去の被害者にも及ぼし得るか否かについても検討は行っていない。

他方,ヒアリング等により,一部であれ犯罪被害者等給付金を受給した過去の犯罪被害者等についても,引き続き困窮状況にある状況がうかがえたことから,あすの会会員の中で,現在,特に経済的支援を要するのではないかとうかがえる犯罪被害者・遺族20人について,犯罪被害による経済的負担が生じている要因の説明を受けたところ,医療費,リハビリ費用のほか,世帯収入の低下,既存の負債,民事訴訟費用の負担といった事情があるとの意見があった。なお,医療関連費,リハビリ費用については現物支給(第2.2)としての提案の中にも含まれている。

(2) 海外での犯罪被害者に対する経済的支援

本検討会では,海外での犯罪被害者も,被害に遭うという意味では日本国内の被害者と共通性があり,海外で日本人が犯罪被害に遭った場合においても,その後の経済的支援をしっかり行うことが重要であるとの意見が出されるなど,国としての支援の必要性を認める意見が多数を占めたことを受け,犯給制度の拡大適用の形ではないとしても,社会の連帯共助の精神にのっとり,何らかの経済的支援をスタートさせるべきと考える。

他方,既に検討済みのように,海外での犯罪事実の調査や認定等の困難性等にかんがみ,本支援制度については,金額は多少低額になるとしても,国として速やかに被害者へ見舞金を支給できるよう,死亡事案に限るなど犯罪被害の類型等により支給対象を限定する形で,また,事実の認定に関しては,国内での犯罪被害に関する犯罪被害者等給付金の裁定において行われているような厳密な調査を要さず,在外公館の有する情報等,入手可能な範囲の情報を基に行うような,単純な制度を目指すべきである。

2 現物支給(あすの会要綱第12項)

あすの会要綱第12項において,犯罪被害者が重傷病を受け,又は後遺障害を負ったときは,治療費,付添介護費,自宅改造費,義足義肢に要する費用,カウンセリング費用等の医療関係費を国が現物支給する制度の提案があった。

なお,本提案については,言及されている支援の提供状況が多岐にわたることから,本検討会は各支援を受ける上での被害者の窓口負担の状況等,負担軽減の必要性に関する個別の検討はしておらず,各費用に関する「現物支給」を検討する上で共通して生じるであろう問題点として,医療機関等の関係窓口において,当該現物支給申請者が「犯罪被害者」であることをどのように認定できるのか,との指摘があった。また,被害者及び,各サービス提供者の負担がないことによる過剰給付の弊害及びいずれにしても「犯罪被害者」であることを前提とする制度であるため,犯罪被害者であることの認定に一定の時間を要することが不可避であることから,被害直後から支給可能となる制度とする困難性などが指摘され,何らかの制度を具体的に変更する提案にまでは至らなかった。

本提案に関しては,現状において,これら諸費用にかかる犯罪被害者の負担が,犯給制度や犯罪被害者等に利用者を限定しない社会保障制度等によって軽減が図られていることを前提としても,現実には,医療保険の適用が断られる等,被害者にとって予期せぬ高額の窓口負担となっているケースがあるため,これを軽減する重要性についての問題提起であり,この窓口負担の軽減によって,一時金(第2―1―(1)―イで前述)の金額との調整が考え得る旨の追加説明があった。

本検討会では,本論点に限らず,犯罪被害者が保険診療を断られるケースが見受けられるとの言及がなされていることを踏まえ,犯罪被害者である被保険者が保険診療を求めた場合については,現行制度上加害者の署名が入った損害賠償誓約書等の有無にかかわらず保険給付が行われることになっている旨の保険者及び医療機関への周知が,改めて徹底されるべきであると考える。あわせて,支援の現場でまだ混乱が続いているところもあるとの言及がなされていることを踏まえ,支援の現場に対しても,各種研修等を通じて,同様の趣旨が改めて周知されるべきであると考える。

また,あすの会要綱第12項の提案には,カウンセリング費用についても含まれているところ,本検討会は,「犯罪被害者等に対する心理療法の費用の公費負担に関する検討会」において,平成25年1月に①既存の機関・団体等において提供されている心理的支援について,犯罪被害者がその地域を問わず一層充実した心理療法・カウンセリングが受けられるようになるための措置が執られるべきである,②公費負担制度の対象として相当と認められる心理療法・カウンセリングの範囲を明らかにするための研究会が設置され,その研究に基づき,公費負担制度が導入されることを期待する,と取りまとめられた提言を支持する。

[第3 その他]

1 相談支援体制の整備

本検討会では,犯罪被害者に対する経済的支援の枠組みが不足しているか否かとは別に,既存の活用可能な各種制度が,被害者に効果的に活用されているのかどうかについても問題提起があった。

この観点において,本検討会は,年金,障害者福祉,母子家庭保護等各種制度の窓口を担っている市町村において,犯罪被害者等に対して適切な情報提供を行う総合的な対応窓口が設置されることが重要であると認識し,引き続き,内閣府において,市町村に対し,かかる総合的対応窓口の設置促進を働き掛けることを求める。

あわせて,海外での犯罪被害者についても,経済的な支援の観点だけではなく,外務省(在外公館)と,日本での当該被害者又はその家族の住所地における,既存の犯罪被害者支援体制との連携構築が必要であると考える。

2 地方公共団体における支援制度の充実への要望

本検討会は,一部の地方公共団体において,犯罪被害者等のための制度として導入されている見舞金や無料法律相談等の各種支援についても,犯罪被害者の経済的負担の軽減に寄与していると認識し,引き続き,このような地方公共団体における犯罪被害者支援体制についても地域間の差が縮小するよう,先駆的な取り組みについての情報共有が図られると同時に,全国的な支援の水準が向上していくことを期待する。

[第4 提言]

1 犯給制度の拡充及び新たな制度の創設に関する提言

(1) 親族間犯罪被害者への支給に関するもの

犯給制度において,DV事案以外にも,全額支給又は減額割合を3分の1までとする特例を認めるべきであると提言する。(第1.2)

(2) 海外での犯罪被害者に対する経済的支援に関するもの

犯給制度の拡大適用の形ではないとしても,社会の連帯共助の精神にのっとり,何らかの経済的支援をスタートさせるべきと提言する。(第2.1.(2))

2 現行制度の運用等に関する提言

(1) 犯給制度に関するもの

ア 親族間犯罪に係る犯給法及び同法施行規則の規定に関し,都道府県警察等の支援の現場への教育,周知が徹底されるべきと提言する。(第1.2)

イ 重傷病給付金に関し,被害者の負担軽減を更に図るべき合理性が認められる実態があるか確認するため,現行制度について運用状況を更に詳細に調査すべきであると提言する。(第1.4)

ウ 引き続き,本給付の迅速な裁定に努めていくべきであり,犯罪被害者等の要望を踏まえ,仮給付制度の一層の活用がなされるべきであると提言する。(第1.5)

(2) その他のもの

ア 犯罪被害者である被保険者が保険診療を求めた場合については,現行制度上加害者の署名が入った損害賠償誓約書等の有無にかかわらず保険給付が行われることになっている旨の保険者及び医療機関への周知が,改めて徹底されるべきであると提言する。あわせて,支援の現場に対しても,各種研修等を通じて,同様の趣旨が改めて周知されるべきであると提言する。(第2.2)

イ 引き続き,内閣府において,市町村に対し,犯罪被害者等に対して適切な情報提供を行う総合的な対応窓口の設置促進を働き掛けることを提言する。(第3.1)

ウ 海外での犯罪被害者についても,経済的な支援の観点だけではなく,外務省(在外公館)と,日本での当該被害者又はその家族の住所地における,既存の犯罪被害者支援体制との連携構築が必要であると提言する。(第3.1)

○犯罪被害による傷病の保険給付の取扱いについて

(平成26年3月31日)

(保保発0331第2号)

(地方厚生(支)局長あて厚生労働省保険局保険課長通知)

(公印省略)

標記について、別添のとおり、健康保険組合理事長あて通知したので、その指導に当たり遺漏なきを期されたい。

[別添]

○犯罪被害による傷病の保険給付の取扱いについて

(平成26年3月31日)

(/保保発0331第1号/保国発0331第2号/保高発0331第12号/)

(全国健康保険協会理事長・健康保険組合理事長・都道府県国民健康保険主管課(部)長・都道府県後期高齢者医療主管課(部)長あて厚生労働省保険局保険課長・厚生労働省保険局国民健康保険課長・厚生労働省保険局高齢者医療課長通知)

(公印省略)

犯罪の被害を受けたことにより生じた傷病は、医療保険各法(健康保険法(大正11年法律第70号)、船員保険法(昭和14年法律第73号)、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)及び高齢者の医療の確保に関する法律(昭和57年法律第80号))において、一般の保険事故と同様に、医療保険の給付の対象とされている。

また、加害者が保険者に対し損害賠償責任を負う旨を記した誓約書があることは、医療保険の給付を行うために必要な条件ではないことから、犯罪の被害者である被保険者が当該誓約書を提出することがなくとも医療保険の給付は行われる。

こうした取扱いについては、平成23年8月9日付保保発0809第3号・保国発0809第2号・保高発0809第3号厚生労働省保険局保険課長・国民健康保険課長・高齢者医療課長連名通知「犯罪被害や自動車事故等による傷病の保険給付の取扱いについて」(別紙1)でお示ししたところである。

今般、「第2次犯罪被害者等基本計画」(平成23年3月25日閣議決定)及び「「犯罪被害給付制度の拡充及び新たな補償制度の創設に関する検討会」及び「犯罪被害者等に対する心理療法の費用の公費負担に関する検討会」の開催について」(平成23年3月25日犯罪被害者等施策推進会議決定)に基づき開催された「犯罪被害給付制度の拡充及び新たな補償制度の創設に関する検討会」においてなされた取りまとめ(別紙2)を踏まえ、上記の取扱いについて、改めて周知するので、その趣旨を踏まえて適切に対応いただくとともに、都道府県国民健康保険主管課(部)におかれては、管内の保険者等に対して、都道府県後期高齢者医療主管課(部)におかれては、管内の後期高齢者医療広域連合及び市町村後期高齢者医療主管課(部)に対して、周知をお願いする。

[別紙1]

○犯罪被害や自動車事故等による傷病の保険給付の取扱いについて

(平成23年8月9日)

(/保保発0809第3号/保国発0809第2号/保高発0809第3号/)

(全国健康保険協会理事長・健康保険組合理事長・都道府県国民健康保険主管課(部)長・都道府県後期高齢者医療主管課(部)長あて厚生労働省保険局保険課長・厚生労働省保険局国民健康保険課長・厚生労働省保険局高齢者医療課長通知)

犯罪や自動車事故等の被害を受けたことにより生じた傷病は、医療保険各法(健康保険法(大正11年法律第70号)、船員保険法(昭和14年法律第73号)、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)及び高齢者の医療の確保に関する法律(昭和57年法律第80号))において、一般の保険事故と同様に、医療保険の給付の対象とされています。

また、犯罪の被害によるものなど、第三者の行為による傷病について医療保険の給付を行う際に、医療保険の保険者の中には、その第三者行為の加害者が保険者に対し損害賠償責任を負う旨を記した加害者の誓約書を、被害者である被保険者に提出させるところもあるようですが、この誓約書があることは、医療保険の給付を行うために必要な条件ではないことから、提出がなくとも医療保険の給付は行われます。

今般、第2次犯罪被害者等基本計画(平成23年3月25日閣議決定)に、犯罪による被害を受けた者でも医療保険を利用することが可能である旨や、加害者の署名が入った損害賠償誓約書等の有無にかかわらず医療保険給付が行われる旨を、保険者や医療機関に周知すること等が盛り込まれたことを踏まえ(別添)、上記の取扱いについて改めて周知をしますので、その趣旨を踏まえて適切に対応いただくとともに、都道府県国民健康保険主管課(部)におかれましては、管内の保険者等に対して、都道府県後期高齢者医療主管課(部)におかれましては、管内の後期高齢者医療広域連合及び市町村後期高齢者医療主管課(部)に対して、周知をお願いします。

なお、自動車事故による被害を受けた場合の医療保険の給付と自動車損害賠償保障法(昭和30年法律第97号)に基づく自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)による給付の関係については、自動車事故による被害の賠償は自動車損害賠償保障法では自動車の運行供用者がその責任を負うこととしており、被害者は加害者が加入する自賠責保険によってその保険金額の限度額までの保障を受けることになっています。その際、何らかの理由により、加害者の加入する自賠責保険の保険者が保険金の支払いを行う前に、被害者の加入する医療保険の保険者から保険給付が行われた場合、医療保険の保険者はその行った給付の価額の限度において、被保険者が有する損害賠償請求権を代位取得し、加害者(又は加害者の加入する自賠責保険の保険者)に対して求償することになります(健康保険法第57条第1項、船員保険法第45条第1項、国民健康保険法第64条第1項及び高齢者の医療の確保に関する法律第58条第1項)。

一方で、加害者が不明のひき逃げ等の場合や自賠責保険の補償の範囲を超える賠償義務が発生した場合には、被害者の加入する医療保険の保険者が給付を行ったとしても、その保険者は求償する相手先がないケースや結果的に求償が困難なケースが生じ得ます。このような場合であっても、偶発的に発生する予測不能な傷病に備え、被保険者等の保護を図るという医療保険制度の目的に照らし、医療保険の保険者は、求償する相手先がないことや結果的に求償が困難であること等を理由として医療保険の給付を行わないということはできません。

さらに、加害者が自賠責保険に加入していても、速やかに保険金の支払いが行われない場合等、被害者である被保険者に一時的に重い医療費の負担が生じる場合も考えられるため、このような場合も上記と同様の趣旨から、医療保険の保険者は、被保険者が医療保険を利用することが妨げられないようにする必要があります。これらの取扱いは、その他の犯罪の被害による傷病についての医療保険の給付でも同様です。

なお、上記の例のように、医療保険の給付の原因となった傷病が第三者の行為によって生じたものであるときは、医療保険各法は、被害者である被保険者(国民健康保険では、被保険者の属する世帯の世帯主又は組合員)に対して、その事実等を保険者に届け出ることを義務づけているため、各保険者においては、その旨を被保険者等に周知するとともに、医療保険の給付を行った際には届出の提出を求め、加害者に対する適正な求償を行っていただくようお願いします。(健康保険法施行規則第65条、船員保険法施行規則第57条、国民健康保険法施行規則第32条の6及び高齢者の医療の確保に関する法律施行規則第46条)

[別添]

◎ 第2次犯罪被害者等基本計画(平成23年3月25日閣議決定)(抄)

Ⅴ 重点課題に係る具体的施策

2 給付金の支給に係る制度の充実等(基本法第13条関係)

(8) 医療保険の円滑な利用の確保

厚生労働省において、犯罪による被害を受けた被保険者が保険診療を求めた場合については、現行制度上加害者の署名が入った損害賠償誓約書等の有無にかかわらず保険給付が行われることになっている旨、保険者に周知する。また、医療機関に対して、犯罪による被害を受けた者であっても医療保険を利用することが可能であることや、誓約書等の提出がなくても保険者は保険給付を行う義務がある旨保険者あてに通知していることについて、地方厚生局を通じて周知する。【厚生労働省】

[別紙2]

「犯罪被害給付制度の拡充及び新たな補償制度の創設に関する検討会」

取りまとめ

平成26年1月

目次

はじめに

第1 犯給制度に関する議論

1 遺族給付金の支給を受けるべき第一順位遺族の認定に関する問題

2 親族間犯罪被害者への不支給例外

3 海外での犯罪被害者への適用拡大の適否

4 重傷病給付金

5 裁定期間等

第2 新たな補償制度に関する議論

1 金銭的支給

あすの会要綱で提案された補償制度に関する議論

ア 「補償」の意義

イ 一時金(死亡事案)

ウ 年金(死亡事案,後遺障害事案)

(ア) 支給形式

(イ) 支給水準

エ 過去の犯罪被害者等への支給

海外での犯罪被害者に対する経済的支援

2 現物支給(あすの会要綱第12項)

第3 その他

1 相談支援体制の整備

2 地方公共団体における支援制度の充実への要望

第4 提言

1 犯給制度の拡充及び新たな制度の創設に関する提言

(1) 親族間犯罪被害者への支給に関するもの

(2) 海外での犯罪被害者に対する経済的支援に関するもの

2 現行制度の運用等に関する提言

(1) 犯給制度に関するもの

(2) その他のもの

[はじめに]

本検討会は,第2次犯罪被害者等基本計画(平成23年3月25日閣議決定)に基づき,平成20年度に拡充された犯罪被害給付制度(以下,「犯給制度」という。)の運用状況等を踏まえ,犯給制度の更なる拡充及び新たな補償制度の創設の要否,また犯給制度の拡充又は新制度創設を要するとした場合に,その内容に関して検討するために開催された。

本検討会では,開催の趣旨を踏まえ,犯罪被害者等からの生活状況等に関するヒアリング,平成20年度改正後の犯給制度の運用状況,要件が該当する場合に犯罪被害者等の経済的負担軽減に活用できる又は実際に活用されている社会保障等の枠組み,海外での犯罪被害者等に対する経済的支援制度について,平成18年度の調査からの変化の有無について確認する等の現状確認を行った。

その上で,犯給制度については,平成20年度改正後に拡充・改正の余地が指摘された点について議論を重ね,新たな補償制度の創設については,主として,構成員から提出された,全国犯罪被害者の会(あすの会)作成にかかる「犯罪被害者補償制度案要綱(生活保障型)第二版」(以下,「あすの会要綱」という。)を前提に議論を行った。また,本検討会開催期間中に,複数の海外での邦人犯罪被害が社会の耳目を引いたことも踏まえ,海外犯罪被害者への経済的支援の観点でも,犯給制度の拡充又は新たな補償制度の創設の要否を検討した。

[第1 犯給制度に関する議論]

1 遺族給付金の支給を受けるべき第一順位遺族の認定に関する問題

犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律(昭和55年法律第36号。以下,「犯給法」という。)では,犯罪被害者に配偶者と子がいる場合,遺族給付金の支給を受けることができる第一順位遺族は,配偶者であると定められている。

この点に関し,犯罪被害者に幼い子供がおり,かつ,当該犯罪被害者に戸籍上は配偶者がいるものの婚姻の実態がないような場合,戸籍上の配偶者ではなく,残された幼い子供が遺族給付金の支給を受けられるようにすべきではないかとの問題提起があった。

上記問題提起に対し,申請者が遺族給付金の支給を受けることができる遺族に当たるか否かの判断について,現状の運用においても,例えば,戸籍上では婚姻関係にあったとしても実態として事実上の離婚状態にあったと認められるかどうかという点などについて,ほかの制度(民事訴訟,遺族年金等)と同様,形式面だけでなく実態面からも判断されていることの説明がなされたことを踏まえ,本検討会としては,申請者が遺族給付金の支給を受けることができる遺族に当たるか否かの判断において,引き続き,運用の面での適切な実態判断に委ねることが相当と考える。

他方,子,親,祖父母,兄弟姉妹といったその他の親族関係においても,戸籍上の第一順位遺族が生前の犯罪被害者とは長年音信不通であった場合等に給付金を支給することが,遺族の精神的・経済的打撃の緩和を図り,再び平穏な生活を営むことができるよう支援するという同法の趣旨にそぐわない事案もあるのではないかとの問題提起があった。

しかし,この問題提起に対しては,婚姻関係と異なり,その他の親族関係については,どのような事情があれば給付金を支給することが同法の趣旨にそぐわないと言えるのか,一定の類型を切り出すことは難しいとの見解が示された。以上から,本検討会としては引き続き現行法に基づいた運用を行っていくべきと考える。

2 親族間犯罪被害者への不支給例外

犯給法では,犯罪被害者と加害者との間に一定の親族関係がある場合(以下,「親族間犯罪の場合」という。),犯罪被害者等給付金の全部又は一部を支給しないことができるが,支給しないことが社会通念上適切でないと認められる特段の事情があるときは,同法施行規則により,所定の犯罪被害者等給付金の3分の1を支給するものとされている。また,この場合において,犯罪被害者に配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(平成13年法律第31号)に基づく保護命令が発出されている等の事情がある場合は,同規則に基づき,所定の犯罪被害者等給付金の額の3分の2又は全額を支給することができることとなっている。

この点に関し,本検討会では,配偶者間暴力被害(以下「DV」という。)事案が顕在化していることから,犯給制度制定当時と比べて親族関係のあり方が変化したと言えるのではないかとの指摘のほか,親族関係のあり方が変化したかどうかとの評価とは別に,社会の連帯共助の精神に照らして,経済的支援が相当と考えられる範囲が変化してきている可能性もあるのではないかとの指摘があり,そもそも親族間犯罪の場合には不支給という原則を改めるべきであると強く主張する意見があった。

他方,犯給制度は,通り魔殺人等の故意の犯罪行為による不慮の死亡等の犯罪被害を対象として発足したものであり,互いに助け合うべき親族の間で行われた犯罪については,通り魔その他の不慮性の高い犯罪被害とは同一には論じられず,また,親族間犯罪の場合に給付金を支給することによって結果として加害者を利するようなおそれもあることから,原則として不支給とされている原則を現時点で変えなければいけない状況になっていないとの意見のほか,現在の犯給制度が前提としてきた立法事実と異なる立法事実があるのかといった指摘がなされた。また,近年急増しているDV事案の被害者については,平成18年以降の犯給法施行規則改正により,一定の場合に全額支給を可能とする措置が既に講じられている等の説明があった。

これらを踏まえ,本検討会は,現時点で,現行法上の原則と例外とを入れ替えるべきであるとの合意には至らなかった。

上記論点に関連し,親族間犯罪でも犯罪被害者等給付金が支給される場合の範囲を拡大することができないかとの意見があった。この点に関し,本検討会としては,DV事案以外にも,全額支給又は減額割合を3分の1までとする特例を認めるべきであると考える。具体的には,年少時に,長年にわたって保護者等から受けた性的虐待等の事案について,検討すべきである。

あわせて,本検討会では,親族間犯罪に係る犯給法及び同法施行規則の規定に関し,支援の現場において,支給を受けられるケースもあることについての理解や説明が十分でないことによって,被害者等が申請できないと誤解することもあるのではないかとの意見があったことから,都道府県警察等の支援の現場への教育,周知が徹底されるべきと考える。

3 海外での犯罪被害者への適用拡大の適否

現在の犯給制度における支給対象者は,日本国内又は日本国外にある日本船舶若しくは日本航空機内での犯罪行為による被害者又はその遺族に限られているところ,犯給法の適用範囲を国外犯罪にも拡大できないかとの問題提起があった。

上記問題提起に対し,現行の犯給制度では,犯罪被害者等給付金の支給裁定にあたって,犯罪被害の事実や減額事由の有無等に関する詳細な事実調査を行う必要があるため,この犯給制度をそのまま国外犯罪に適用しようとすると,外国では都道府県公安委員会には調査の足場がないこと等から事実調査が困難な事例が多く見込まれ,事実調査ができる事案の被害者と,できない事案の被害者への救済の差が生じ,公平性に問題があるとの意見があった。

上記意見に対しては,事実関係が調査できないケースもあるという事情は,事実関係が明白な事案について支給をしないことの理由とはならないのではないか,事実関係が確認できる事件についてのみ支給することとしても公正に反しないのではないか等の意見があった。

これらを踏まえ,国内犯罪に適用されている犯給制度をそのまま国外犯罪に適用させるのではなく,国外犯罪については,対象事件,渡航先,渡航目的,調査を要する事実の範囲等,何らかの限定を加えた上で犯給制度に組み入れることができるのではないかとの提案があったが,かかる限定を行う時点で,そのような制度は犯給制度とは最早言えず,全く別の新たな制度となるのではないかとの指摘があった。

これを受け,本検討会では,犯給制度とは別の枠組みとして,海外での犯罪行為による被害者への経済的支援の在り方について検討を行った(第2.1.(2)において後述)。

4 重傷病給付金

医療費の自己負担相当額について負担軽減を図るために平成13年度に新設された重傷病給付金については,3か月未満で治癒又は症状固定(以下「治癒等」という。)に至った被害者が約7割であったことを踏まえ,支給対象期間が当初3か月とされていたが,その後の運用状況調査の結果,1年以内に治癒等に至った被害者が約7割を占めることが判明したことから,平成18年度に支給対象期間が1年に延長された。さらに,平成19年9月に取りまとめられた「経済的支援に関する検討会」の提言(以下「「経済的支援に関する検討会」提言」という。)を踏まえ,平成20年度において,重傷病給付金の額(上限120万円)を医療費の自己負担相当額に休業損害を考慮した額を加算したものとする制度改正がなされた。

本検討会では,過去の被害者の経済的困窮状況の一因として,1年を超える医療費負担の問題が提示され,重傷病給付金の支給対象期間を延長することができないか,また,その場合において上限額を引き上げることができないかとの意見があった。

1年を超える医療費の自己負担分については,「経済的支援に関する検討会」提言の中で,「重傷病給付金の支給対象期間が3ヶ月から1年に拡大されたばかりであることから,当面,その運用状況を見るべきである。ただし,運用状況から,1年をさらに拡大する必要がある立法事実が出てくれば,さらなる期間の拡充を検討する必要がある」との指摘がなされていることを受け,平成18年度改正以降の運用状況を確認したところ,重傷病給付金受給者のうち平成18年度改正時と同程度の割合の者が1年以内で治療を終えていることが判明した。

このことから,現時点において,支給対象期間の更なる延長を必要とする立法事実があるとは認められず,本論点については引き続き運用状況を見て検討していくとの説明があった。

他方,1年を超えて治療を要する被害者の割合(約3割)が今後大きく変動しない限り,支給対象期間の延長を必要とする立法事実が生じないとすることは妥当ではないという意見や,1年を超えて治療を要する被害者の治療費用等の問題に関し,そうした被害者の実情(どのような被害について治療を要しているか,どの程度の期間の治療を要しているか,どの程度の経済的負担となっているか等)を明確にしなければ,支給対象期間を延長すること及びその場合における上限額の引き上げについての合理性を判断できないとの意見があった。

以上の議論を踏まえ,本検討会は,被害者の負担軽減を更に図るべき合理性が認められる実態があるか確認するため,現行制度について運用状況を更に詳細に調査すべきであると考える。その上で,1年を更に延長する必要がある状況が出てくれば,重傷病給付金の支給対象期間の延長及びその場合における上限額の引き上げを検討する必要があると考える。

5 裁定期間等

犯罪被害者等給付金の裁定・給付に関し,申請から給付されるまで時間がかかっていることが問題点として指摘された。

この点については,障害が固定しない,または犯罪被害該当性や減額事由の有無が確定しない場合に,裁定まで時間がかかる一方で,平成20年度の平均裁定期間9.8月が,平成24年度には5.9月と大幅に短縮されてきているとの説明がなされた。

これを踏まえ,本給付の裁定が長引く場合に,仮給付ができないかとの問題提起があったが,現状の仮給付制度では,犯罪被害であることや給付基礎額が判明した上で,所定の犯罪被害者等給付金の額の3分の1を給付するものであることから,給付基礎額が決まらないケースでは,裁定に要する時間が本給付と大差がないため,本給付を急ぐことが優先されてきたとの説明があった。他方,犯罪被害者等の要望も踏まえ,仮給付制度をより活用していくようにしたいとの意見があった。

なお,資料の提出等を求めずに一定金額を被害直後に給付することへの要望があったが,犯罪被害該当性等が給付条件となっている現状の仕組みからは,難しいとの意見があった。

以上から,本検討会としては,引き続き,本給付の迅速な裁定に努めていくべきであり,犯罪被害者等の要望を踏まえ,仮給付制度の一層の活用がなされるべきであると考える。

[第2 新たな補償制度に関する議論]

1 金銭的支給

(1) あすの会要綱で提案された補償制度に関する議論

ア 「補償」の意義

新たな補償制度に関し,「補償」の意義について,犯罪被害者等基本法第3条により,国は,犯罪被害者等が事件前の平穏な生活に戻るために補償をする責務があるのではないかとの意見があった。

これに対し,国に「損害」を補償する責務があるとする場合,その前提として,国に責任があるから補償するという理論的根拠を要するのではないか,との意見があった。

また,国はある意味社会の代表者であり,その国と犯罪被害者等を二項対立的に捉えない方がいいのではないかとの意見があった。

さらに,犯罪被害者等基本法は,犯罪被害者に対する広い意味での「福祉」の理念のもと,社会正義の実現等を求めているのではないか,給付水準等は,財源及びその支給根拠に国民全体の理解が得られるか否かといった要素で導かれるのではないかとの意見があった。

本論点については,本検討会として総論的な解釈を示すものではなく,あすの会要綱の中に掲げられた,各要望事項に沿った制度についての検討にあたり,当該問題となっている制度の支給根拠及びその相当性の問題として,個別に議論するにとどめた。

イ 一時金(死亡事案)

あすの会要綱第3項において,犯罪被害者死亡時に,葬儀費用,当座の教育費用,ローン返済のための資金,自営業の場合の事業資金等として,現行の犯給制度での単身者死亡の場合の遺族給付金最高額(1,210万円)相当の金額を,一律に支給する一時金制度の提案があった。

上記提案に対し,犯罪被害者の遺族が置かれた状況は様々であり,当座経済的支援を必要とする要素は個人差があると考えられるため,金額が一律であることの根拠が乏しいのではないかとの意見があり,現行の犯給制度の支給額について変更すべきとの結論には至らなかった。

ウ 年金(死亡事案,後遺障害事案)

あすの会要綱第5項,第9項において,犯罪被害者が死亡又は後遺障害を負ったときは,事件前の生活を取り戻すことができるまでの期間,事件前の収入を基本として,平均収入を基準とした年金を支給する生活保障制度の提案があった。

(ア) 支給形式

上記提案は,年金型支給に伴う事務的コストについては,労災年金又は遺族年金の処理機関に委嘱することによって抑えられるのではないかとの前提が述べられた。

この点に関しては,現行の労災年金又は遺族年金に係る事務は,別々の法令体系に基づき,申請受付,認定,支払い,さらに年金を支払い続ける限りは要件の確認等,継続的に労働基準監督署,年金事務所などのそれぞれの機関が管理しているところであり,単純に委嘱をすれば事務量が減るというものではないとの意見があった。

他方,現在の犯罪被害者等給付金のような一時金型支給であったとしても,年金保険の購入や信託財産の設定などにより,個人で年金化することができること,また,労災年金等,既存の年金制度についても,原資計算の上では,仮に平均余命まで生きた場合の総支給額を現在価値に置き換えて検討していることについての指摘があった。

これを踏まえ,本検討会では,年金制度の提案について,支給形式の問題ではなく,支給総額の問題として検討することとした。

(イ) 支給水準

支給総額としての議論を行うに当たって,犯罪被害者・遺族に,平均収入相当を上限として事件前の生活水準を補償するという考え方をとることについては,犯罪被害以外で,自分に責任がない要因に基づき,経済的支援を要する状況に置かれている方達を考えると,社会保障の枠組み全体の中での公平性の問題があるのではないかとの意見があった。

また,現状の提案を前提とすると,累積総支給額が相当高額になると思われ,財源の問題があるのではないかとの意見があった。

以上のような議論を踏まえ,本検討会としては,年金型(生活保障型)の給付を行うことについての結論を導くことはできなかった。

エ 過去の犯罪被害者等への支給

過去に犯給制度が拡充された際,制度拡充前の被害者への遡及適用がなかったため,年金型の支給とすることで,そのように,犯給制度拡充の効果を受けられなかった過去の被害者にも,将来の年金として支給を受給できることを期待している側面もある点が指摘された。

この点,上記のように,本検討会としては,年金型(生活保障型)制度について提言に至るところではないことから,その効果を過去の被害者にも及ぼし得るか否かについても検討は行っていない。

他方,ヒアリング等により,一部であれ犯罪被害者等給付金を受給した過去の犯罪被害者等についても,引き続き困窮状況にある状況がうかがえたことから,あすの会会員の中で,現在,特に経済的支援を要するのではないかとうかがえる犯罪被害者・遺族20人について,犯罪被害による経済的負担が生じている要因の説明を受けたところ,医療費,リハビリ費用のほか,世帯収入の低下,既存の負債,民事訴訟費用の負担といった事情があるとの意見があった。なお,医療関連費,リハビリ費用については現物支給(第2.2)としての提案の中にも含まれている。

(2) 海外での犯罪被害者に対する経済的支援

本検討会では,海外での犯罪被害者も,被害に遭うという意味では日本国内の被害者と共通性があり,海外で日本人が犯罪被害に遭った場合においても,その後の経済的支援をしっかり行うことが重要であるとの意見が出されるなど,国としての支援の必要性を認める意見が多数を占めたことを受け,犯給制度の拡大適用の形ではないとしても,社会の連帯共助の精神にのっとり,何らかの経済的支援をスタートさせるべきと考える。

他方,既に検討済みのように,海外での犯罪事実の調査や認定等の困難性等にかんがみ,本支援制度については,金額は多少低額になるとしても,国として速やかに被害者へ見舞金を支給できるよう,死亡事案に限るなど犯罪被害の類型等により支給対象を限定する形で,また,事実の認定に関しては,国内での犯罪被害に関する犯罪被害者等給付金の裁定において行われているような厳密な調査を要さず,在外公館の有する情報等,入手可能な範囲の情報を基に行うような,単純な制度を目指すべきである。

2 現物支給(あすの会要綱第12項)

あすの会要綱第12項において,犯罪被害者が重傷病を受け,又は後遺障害を負ったときは,治療費,付添介護費,自宅改造費,義足義肢に要する費用,カウンセリング費用等の医療関係費を国が現物支給する制度の提案があった。

なお,本提案については,言及されている支援の提供状況が多岐にわたることから,本検討会は各支援を受ける上での被害者の窓口負担の状況等,負担軽減の必要性に関する個別の検討はしておらず,各費用に関する「現物支給」を検討する上で共通して生じるであろう問題点として,医療機関等の関係窓口において,当該現物支給申請者が「犯罪被害者」であることをどのように認定できるのか,との指摘があった。また,被害者及び,各サービス提供者の負担がないことによる過剰給付の弊害及びいずれにしても「犯罪被害者」であることを前提とする制度であるため,犯罪被害者であることの認定に一定の時間を要することが不可避であることから,被害直後から支給可能となる制度とする困難性などが指摘され,何らかの制度を具体的に変更する提案にまでは至らなかった。

本提案に関しては,現状において,これら諸費用にかかる犯罪被害者の負担が,犯給制度や犯罪被害者等に利用者を限定しない社会保障制度等によって軽減が図られていることを前提としても,現実には,医療保険の適用が断られる等,被害者にとって予期せぬ高額の窓口負担となっているケースがあるため,これを軽減する重要性についての問題提起であり,この窓口負担の軽減によって,一時金(第2―1―(1)―イで前述)の金額との調整が考え得る旨の追加説明があった。

本検討会では,本論点に限らず,犯罪被害者が保険診療を断られるケースが見受けられるとの言及がなされていることを踏まえ,犯罪被害者である被保険者が保険診療を求めた場合については,現行制度上加害者の署名が入った損害賠償誓約書等の有無にかかわらず保険給付が行われることになっている旨の保険者及び医療機関への周知が,改めて徹底されるべきであると考える。あわせて,支援の現場でまだ混乱が続いているところもあるとの言及がなされていることを踏まえ,支援の現場に対しても,各種研修等を通じて,同様の趣旨が改めて周知されるべきであると考える。

また,あすの会要綱第12項の提案には,カウンセリング費用についても含まれているところ,本検討会は,「犯罪被害者等に対する心理療法の費用の公費負担に関する検討会」において,平成25年1月に①既存の機関・団体等において提供されている心理的支援について,犯罪被害者がその地域を問わず一層充実した心理療法・カウンセリングが受けられるようになるための措置が執られるべきである,②公費負担制度の対象として相当と認められる心理療法・カウンセリングの範囲を明らかにするための研究会が設置され,その研究に基づき,公費負担制度が導入されることを期待する,と取りまとめられた提言を支持する。

[第3 その他]

1 相談支援体制の整備

本検討会では,犯罪被害者に対する経済的支援の枠組みが不足しているか否かとは別に,既存の活用可能な各種制度が,被害者に効果的に活用されているのかどうかについても問題提起があった。

この観点において,本検討会は,年金,障害者福祉,母子家庭保護等各種制度の窓口を担っている市町村において,犯罪被害者等に対して適切な情報提供を行う総合的な対応窓口が設置されることが重要であると認識し,引き続き,内閣府において,市町村に対し,かかる総合的対応窓口の設置促進を働き掛けることを求める。

あわせて,海外での犯罪被害者についても,経済的な支援の観点だけではなく,外務省(在外公館)と,日本での当該被害者又はその家族の住所地における,既存の犯罪被害者支援体制との連携構築が必要であると考える。

2 地方公共団体における支援制度の充実への要望

本検討会は,一部の地方公共団体において,犯罪被害者等のための制度として導入されている見舞金や無料法律相談等の各種支援についても,犯罪被害者の経済的負担の軽減に寄与していると認識し,引き続き,このような地方公共団体における犯罪被害者支援体制についても地域間の差が縮小するよう,先駆的な取り組みについての情報共有が図られると同時に,全国的な支援の水準が向上していくことを期待する。

[第4 提言]

1 犯給制度の拡充及び新たな制度の創設に関する提言

(1) 親族間犯罪被害者への支給に関するもの

犯給制度において,DV事案以外にも,全額支給又は減額割合を3分の1までとする特例を認めるべきであると提言する。(第1.2)

(2) 海外での犯罪被害者に対する経済的支援に関するもの

犯給制度の拡大適用の形ではないとしても,社会の連帯共助の精神にのっとり,何らかの経済的支援をスタートさせるべきと提言する。(第2.1.(2))

2 現行制度の運用等に関する提言

(1) 犯給制度に関するもの

ア 親族間犯罪に係る犯給法及び同法施行規則の規定に関し,都道府県警察等の支援の現場への教育,周知が徹底されるべきと提言する。(第1.2)

イ 重傷病給付金に関し,被害者の負担軽減を更に図るべき合理性が認められる実態があるか確認するため,現行制度について運用状況を更に詳細に調査すべきであると提言する。(第1.4)

ウ 引き続き,本給付の迅速な裁定に努めていくべきであり,犯罪被害者等の要望を踏まえ,仮給付制度の一層の活用がなされるべきであると提言する。(第1.5)

(2) その他のもの

ア 犯罪被害者である被保険者が保険診療を求めた場合については,現行制度上加害者の署名が入った損害賠償誓約書等の有無にかかわらず保険給付が行われることになっている旨の保険者及び医療機関への周知が,改めて徹底されるべきであると提言する。あわせて,支援の現場に対しても,各種研修等を通じて,同様の趣旨が改めて周知されるべきであると提言する。(第2.2)

イ 引き続き,内閣府において,市町村に対し,犯罪被害者等に対して適切な情報提供を行う総合的な対応窓口の設置促進を働き掛けることを提言する。(第3.1)

ウ 海外での犯罪被害者についても,経済的な支援の観点だけではなく,外務省(在外公館)と,日本での当該被害者又はその家族の住所地における,既存の犯罪被害者支援体制との連携構築が必要であると提言する。(第3.1)

○犯罪被害による傷病の保険給付の取扱いについて

(平成26年3月31日)

(保保発0331第3号)

(健康保険組合連合会長あて厚生労働省保険局保険課長通知)

(公印省略)

標記について、別添のとおり、健康保険組合理事長あて通知したので、よろしくお取り計らい願いたい。

[別添]

○犯罪被害による傷病の保険給付の取扱いについて

(平成26年3月31日)

(/保保発0331第1号/保国発0331第2号/保高発0331第12号/)

(全国健康保険協会理事長・健康保険組合理事長・都道府県国民健康保険主管課(部)長・都道府県後期高齢者医療主管課(部)長あて厚生労働省保険局保険課長・厚生労働省保険局国民健康保険課長・厚生労働省保険局高齢者医療課長通知)

(公印省略)

犯罪の被害を受けたことにより生じた傷病は、医療保険各法(健康保険法(大正11年法律第70号)、船員保険法(昭和14年法律第73号)、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)及び高齢者の医療の確保に関する法律(昭和57年法律第80号))において、一般の保険事故と同様に、医療保険の給付の対象とされている。

また、加害者が保険者に対し損害賠償責任を負う旨を記した誓約書があることは、医療保険の給付を行うために必要な条件ではないことから、犯罪の被害者である被保険者が当該誓約書を提出することがなくとも医療保険の給付は行われる。

こうした取扱いについては、平成23年8月9日付保保発0809第3号・保国発0809第2号・保高発0809第3号厚生労働省保険局保険課長・国民健康保険課長・高齢者医療課長連名通知「犯罪被害や自動車事故等による傷病の保険給付の取扱いについて」(別紙1)でお示ししたところである。

今般、「第2次犯罪被害者等基本計画」(平成23年3月25日閣議決定)及び「「犯罪被害給付制度の拡充及び新たな補償制度の創設に関する検討会」及び「犯罪被害者等に対する心理療法の費用の公費負担に関する検討会」の開催について」(平成23年3月25日犯罪被害者等施策推進会議決定)に基づき開催された「犯罪被害給付制度の拡充及び新たな補償制度の創設に関する検討会」においてなされた取りまとめ(別紙2)を踏まえ、上記の取扱いについて、改めて周知するので、その趣旨を踏まえて適切に対応いただくとともに、都道府県国民健康保険主管課(部)におかれては、管内の保険者等に対して、都道府県後期高齢者医療主管課(部)におかれては、管内の後期高齢者医療広域連合及び市町村後期高齢者医療主管課(部)に対して、周知をお願いする。

[別紙1]

○犯罪被害や自動車事故等による傷病の保険給付の取扱いについて

(平成23年8月9日)

(/保保発0809第3号/保国発0809第2号/保高発0809第3号/)

(全国健康保険協会理事長・健康保険組合理事長・都道府県国民健康保険主管課(部)長・都道府県後期高齢者医療主管課(部)長あて厚生労働省保険局保険課長・厚生労働省保険局国民健康保険課長・厚生労働省保険局高齢者医療課長通知)

犯罪や自動車事故等の被害を受けたことにより生じた傷病は、医療保険各法(健康保険法(大正11年法律第70号)、船員保険法(昭和14年法律第73号)、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)及び高齢者の医療の確保に関する法律(昭和57年法律第80号))において、一般の保険事故と同様に、医療保険の給付の対象とされています。

また、犯罪の被害によるものなど、第三者の行為による傷病について医療保険の給付を行う際に、医療保険の保険者の中には、その第三者行為の加害者が保険者に対し損害賠償責任を負う旨を記した加害者の誓約書を、被害者である被保険者に提出させるところもあるようですが、この誓約書があることは、医療保険の給付を行うために必要な条件ではないことから、提出がなくとも医療保険の給付は行われます。

今般、第2次犯罪被害者等基本計画(平成23年3月25日閣議決定)に、犯罪による被害を受けた者でも医療保険を利用することが可能である旨や、加害者の署名が入った損害賠償誓約書等の有無にかかわらず医療保険給付が行われる旨を、保険者や医療機関に周知すること等が盛り込まれたことを踏まえ(別添)、上記の取扱いについて改めて周知をしますので、その趣旨を踏まえて適切に対応いただくとともに、都道府県国民健康保険主管課(部)におかれましては、管内の保険者等に対して、都道府県後期高齢者医療主管課(部)におかれましては、管内の後期高齢者医療広域連合及び市町村後期高齢者医療主管課(部)に対して、周知をお願いします。

なお、自動車事故による被害を受けた場合の医療保険の給付と自動車損害賠償保障法(昭和30年法律第97号)に基づく自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)による給付の関係については、自動車事故による被害の賠償は自動車損害賠償保障法では自動車の運行供用者がその責任を負うこととしており、被害者は加害者が加入する自賠責保険によってその保険金額の限度額までの保障を受けることになっています。その際、何らかの理由により、加害者の加入する自賠責保険の保険者が保険金の支払いを行う前に、被害者の加入する医療保険の保険者から保険給付が行われた場合、医療保険の保険者はその行った給付の価額の限度において、被保険者が有する損害賠償請求権を代位取得し、加害者(又は加害者の加入する自賠責保険の保険者)に対して求償することになります(健康保険法第57条第1項、船員保険法第45条第1項、国民健康保険法第64条第1項及び高齢者の医療の確保に関する法律第58条第1項)。

一方で、加害者が不明のひき逃げ等の場合や自賠責保険の補償の範囲を超える賠償義務が発生した場合には、被害者の加入する医療保険の保険者が給付を行ったとしても、その保険者は求償する相手先がないケースや結果的に求償が困難なケースが生じ得ます。このような場合であっても、偶発的に発生する予測不能な傷病に備え、被保険者等の保護を図るという医療保険制度の目的に照らし、医療保険の保険者は、求償する相手先がないことや結果的に求償が困難であること等を理由として医療保険の給付を行わないということはできません。

さらに、加害者が自賠責保険に加入していても、速やかに保険金の支払いが行われない場合等、被害者である被保険者に一時的に重い医療費の負担が生じる場合も考えられるため、このような場合も上記と同様の趣旨から、医療保険の保険者は、被保険者が医療保険を利用することが妨げられないようにする必要があります。これらの取扱いは、その他の犯罪の被害による傷病についての医療保険の給付でも同様です。

なお、上記の例のように、医療保険の給付の原因となった傷病が第三者の行為によって生じたものであるときは、医療保険各法は、被害者である被保険者(国民健康保険では、被保険者の属する世帯の世帯主又は組合員)に対して、その事実等を保険者に届け出ることを義務づけているため、各保険者においては、その旨を被保険者等に周知するとともに、医療保険の給付を行った際には届出の提出を求め、加害者に対する適正な求償を行っていただくようお願いします。(健康保険法施行規則第65条、船員保険法施行規則第57条、国民健康保険法施行規則第32条の6及び高齢者の医療の確保に関する法律施行規則第46条)

[別添]

◎ 第2次犯罪被害者等基本計画(平成23年3月25日閣議決定)(抄)

Ⅴ 重点課題に係る具体的施策

2 給付金の支給に係る制度の充実等(基本法第13条関係)

(8) 医療保険の円滑な利用の確保

厚生労働省において、犯罪による被害を受けた被保険者が保険診療を求めた場合については、現行制度上加害者の署名が入った損害賠償誓約書等の有無にかかわらず保険給付が行われることになっている旨、保険者に周知する。また、医療機関に対して、犯罪による被害を受けた者であっても医療保険を利用することが可能であることや、誓約書等の提出がなくても保険者は保険給付を行う義務がある旨保険者あてに通知していることについて、地方厚生局を通じて周知する。【厚生労働省】

[別紙2]

「犯罪被害給付制度の拡充及び新たな補償制度の創設に関する検討会」

取りまとめ

平成26年1月

目次

はじめに

第1 犯給制度に関する議論

1 遺族給付金の支給を受けるべき第一順位遺族の認定に関する問題

2 親族間犯罪被害者への不支給例外

3 海外での犯罪被害者への適用拡大の適否

4 重傷病給付金

5 裁定期間等

第2 新たな補償制度に関する議論

1 金銭的支給

あすの会要綱で提案された補償制度に関する議論

ア 「補償」の意義

イ 一時金(死亡事案)

ウ 年金(死亡事案,後遺障害事案)

(ア) 支給形式

(イ) 支給水準

エ 過去の犯罪被害者等への支給

海外での犯罪被害者に対する経済的支援

2 現物支給(あすの会要綱第12項)

第3 その他

1 相談支援体制の整備

2 地方公共団体における支援制度の充実への要望

第4 提言

1 犯給制度の拡充及び新たな制度の創設に関する提言

(1) 親族間犯罪被害者への支給に関するもの

(2) 海外での犯罪被害者に対する経済的支援に関するもの

2 現行制度の運用等に関する提言

(1) 犯給制度に関するもの

(2) その他のもの

[はじめに]

本検討会は,第2次犯罪被害者等基本計画(平成23年3月25日閣議決定)に基づき,平成20年度に拡充された犯罪被害給付制度(以下,「犯給制度」という。)の運用状況等を踏まえ,犯給制度の更なる拡充及び新たな補償制度の創設の要否,また犯給制度の拡充又は新制度創設を要するとした場合に,その内容に関して検討するために開催された。

本検討会では,開催の趣旨を踏まえ,犯罪被害者等からの生活状況等に関するヒアリング,平成20年度改正後の犯給制度の運用状況,要件が該当する場合に犯罪被害者等の経済的負担軽減に活用できる又は実際に活用されている社会保障等の枠組み,海外での犯罪被害者等に対する経済的支援制度について,平成18年度の調査からの変化の有無について確認する等の現状確認を行った。

その上で,犯給制度については,平成20年度改正後に拡充・改正の余地が指摘された点について議論を重ね,新たな補償制度の創設については,主として,構成員から提出された,全国犯罪被害者の会(あすの会)作成にかかる「犯罪被害者補償制度案要綱(生活保障型)第二版」(以下,「あすの会要綱」という。)を前提に議論を行った。また,本検討会開催期間中に,複数の海外での邦人犯罪被害が社会の耳目を引いたことも踏まえ,海外犯罪被害者への経済的支援の観点でも,犯給制度の拡充又は新たな補償制度の創設の要否を検討した。

[第1 犯給制度に関する議論]

1 遺族給付金の支給を受けるべき第一順位遺族の認定に関する問題

犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律(昭和55年法律第36号。以下,「犯給法」という。)では,犯罪被害者に配偶者と子がいる場合,遺族給付金の支給を受けることができる第一順位遺族は,配偶者であると定められている。

この点に関し,犯罪被害者に幼い子供がおり,かつ,当該犯罪被害者に戸籍上は配偶者がいるものの婚姻の実態がないような場合,戸籍上の配偶者ではなく,残された幼い子供が遺族給付金の支給を受けられるようにすべきではないかとの問題提起があった。

上記問題提起に対し,申請者が遺族給付金の支給を受けることができる遺族に当たるか否かの判断について,現状の運用においても,例えば,戸籍上では婚姻関係にあったとしても実態として事実上の離婚状態にあったと認められるかどうかという点などについて,ほかの制度(民事訴訟,遺族年金等)と同様,形式面だけでなく実態面からも判断されていることの説明がなされたことを踏まえ,本検討会としては,申請者が遺族給付金の支給を受けることができる遺族に当たるか否かの判断において,引き続き,運用の面での適切な実態判断に委ねることが相当と考える。

他方,子,親,祖父母,兄弟姉妹といったその他の親族関係においても,戸籍上の第一順位遺族が生前の犯罪被害者とは長年音信不通であった場合等に給付金を支給することが,遺族の精神的・経済的打撃の緩和を図り,再び平穏な生活を営むことができるよう支援するという同法の趣旨にそぐわない事案もあるのではないかとの問題提起があった。

しかし,この問題提起に対しては,婚姻関係と異なり,その他の親族関係については,どのような事情があれば給付金を支給することが同法の趣旨にそぐわないと言えるのか,一定の類型を切り出すことは難しいとの見解が示された。以上から,本検討会としては引き続き現行法に基づいた運用を行っていくべきと考える。

2 親族間犯罪被害者への不支給例外

犯給法では,犯罪被害者と加害者との間に一定の親族関係がある場合(以下,「親族間犯罪の場合」という。),犯罪被害者等給付金の全部又は一部を支給しないことができるが,支給しないことが社会通念上適切でないと認められる特段の事情があるときは,同法施行規則により,所定の犯罪被害者等給付金の3分の1を支給するものとされている。また,この場合において,犯罪被害者に配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(平成13年法律第31号)に基づく保護命令が発出されている等の事情がある場合は,同規則に基づき,所定の犯罪被害者等給付金の額の3分の2又は全額を支給することができることとなっている。

この点に関し,本検討会では,配偶者間暴力被害(以下「DV」という。)事案が顕在化していることから,犯給制度制定当時と比べて親族関係のあり方が変化したと言えるのではないかとの指摘のほか,親族関係のあり方が変化したかどうかとの評価とは別に,社会の連帯共助の精神に照らして,経済的支援が相当と考えられる範囲が変化してきている可能性もあるのではないかとの指摘があり,そもそも親族間犯罪の場合には不支給という原則を改めるべきであると強く主張する意見があった。

他方,犯給制度は,通り魔殺人等の故意の犯罪行為による不慮の死亡等の犯罪被害を対象として発足したものであり,互いに助け合うべき親族の間で行われた犯罪については,通り魔その他の不慮性の高い犯罪被害とは同一には論じられず,また,親族間犯罪の場合に給付金を支給することによって結果として加害者を利するようなおそれもあることから,原則として不支給とされている原則を現時点で変えなければいけない状況になっていないとの意見のほか,現在の犯給制度が前提としてきた立法事実と異なる立法事実があるのかといった指摘がなされた。また,近年急増しているDV事案の被害者については,平成18年以降の犯給法施行規則改正により,一定の場合に全額支給を可能とする措置が既に講じられている等の説明があった。

これらを踏まえ,本検討会は,現時点で,現行法上の原則と例外とを入れ替えるべきであるとの合意には至らなかった。

上記論点に関連し,親族間犯罪でも犯罪被害者等給付金が支給される場合の範囲を拡大することができないかとの意見があった。この点に関し,本検討会としては,DV事案以外にも,全額支給又は減額割合を3分の1までとする特例を認めるべきであると考える。具体的には,年少時に,長年にわたって保護者等から受けた性的虐待等の事案について,検討すべきである。

あわせて,本検討会では,親族間犯罪に係る犯給法及び同法施行規則の規定に関し,支援の現場において,支給を受けられるケースもあることについての理解や説明が十分でないことによって,被害者等が申請できないと誤解することもあるのではないかとの意見があったことから,都道府県警察等の支援の現場への教育,周知が徹底されるべきと考える。

3 海外での犯罪被害者への適用拡大の適否

現在の犯給制度における支給対象者は,日本国内又は日本国外にある日本船舶若しくは日本航空機内での犯罪行為による被害者又はその遺族に限られているところ,犯給法の適用範囲を国外犯罪にも拡大できないかとの問題提起があった。

上記問題提起に対し,現行の犯給制度では,犯罪被害者等給付金の支給裁定にあたって,犯罪被害の事実や減額事由の有無等に関する詳細な事実調査を行う必要があるため,この犯給制度をそのまま国外犯罪に適用しようとすると,外国では都道府県公安委員会には調査の足場がないこと等から事実調査が困難な事例が多く見込まれ,事実調査ができる事案の被害者と,できない事案の被害者への救済の差が生じ,公平性に問題があるとの意見があった。

上記意見に対しては,事実関係が調査できないケースもあるという事情は,事実関係が明白な事案について支給をしないことの理由とはならないのではないか,事実関係が確認できる事件についてのみ支給することとしても公正に反しないのではないか等の意見があった。

これらを踏まえ,国内犯罪に適用されている犯給制度をそのまま国外犯罪に適用させるのではなく,国外犯罪については,対象事件,渡航先,渡航目的,調査を要する事実の範囲等,何らかの限定を加えた上で犯給制度に組み入れることができるのではないかとの提案があったが,かかる限定を行う時点で,そのような制度は犯給制度とは最早言えず,全く別の新たな制度となるのではないかとの指摘があった。

これを受け,本検討会では,犯給制度とは別の枠組みとして,海外での犯罪行為による被害者への経済的支援の在り方について検討を行った(第2.1.(2)において後述)。

4 重傷病給付金

医療費の自己負担相当額について負担軽減を図るために平成13年度に新設された重傷病給付金については,3か月未満で治癒又は症状固定(以下「治癒等」という。)に至った被害者が約7割であったことを踏まえ,支給対象期間が当初3か月とされていたが,その後の運用状況調査の結果,1年以内に治癒等に至った被害者が約7割を占めることが判明したことから,平成18年度に支給対象期間が1年に延長された。さらに,平成19年9月に取りまとめられた「経済的支援に関する検討会」の提言(以下「「経済的支援に関する検討会」提言」という。)を踏まえ,平成20年度において,重傷病給付金の額(上限120万円)を医療費の自己負担相当額に休業損害を考慮した額を加算したものとする制度改正がなされた。

本検討会では,過去の被害者の経済的困窮状況の一因として,1年を超える医療費負担の問題が提示され,重傷病給付金の支給対象期間を延長することができないか,また,その場合において上限額を引き上げることができないかとの意見があった。

1年を超える医療費の自己負担分については,「経済的支援に関する検討会」提言の中で,「重傷病給付金の支給対象期間が3ヶ月から1年に拡大されたばかりであることから,当面,その運用状況を見るべきである。ただし,運用状況から,1年をさらに拡大する必要がある立法事実が出てくれば,さらなる期間の拡充を検討する必要がある」との指摘がなされていることを受け,平成18年度改正以降の運用状況を確認したところ,重傷病給付金受給者のうち平成18年度改正時と同程度の割合の者が1年以内で治療を終えていることが判明した。

このことから,現時点において,支給対象期間の更なる延長を必要とする立法事実があるとは認められず,本論点については引き続き運用状況を見て検討していくとの説明があった。

他方,1年を超えて治療を要する被害者の割合(約3割)が今後大きく変動しない限り,支給対象期間の延長を必要とする立法事実が生じないとすることは妥当ではないという意見や,1年を超えて治療を要する被害者の治療費用等の問題に関し,そうした被害者の実情(どのような被害について治療を要しているか,どの程度の期間の治療を要しているか,どの程度の経済的負担となっているか等)を明確にしなければ,支給対象期間を延長すること及びその場合における上限額の引き上げについての合理性を判断できないとの意見があった。

以上の議論を踏まえ,本検討会は,被害者の負担軽減を更に図るべき合理性が認められる実態があるか確認するため,現行制度について運用状況を更に詳細に調査すべきであると考える。その上で,1年を更に延長する必要がある状況が出てくれば,重傷病給付金の支給対象期間の延長及びその場合における上限額の引き上げを検討する必要があると考える。

5 裁定期間等

犯罪被害者等給付金の裁定・給付に関し,申請から給付されるまで時間がかかっていることが問題点として指摘された。

この点については,障害が固定しない,または犯罪被害該当性や減額事由の有無が確定しない場合に,裁定まで時間がかかる一方で,平成20年度の平均裁定期間9.8月が,平成24年度には5.9月と大幅に短縮されてきているとの説明がなされた。

これを踏まえ,本給付の裁定が長引く場合に,仮給付ができないかとの問題提起があったが,現状の仮給付制度では,犯罪被害であることや給付基礎額が判明した上で,所定の犯罪被害者等給付金の額の3分の1を給付するものであることから,給付基礎額が決まらないケースでは,裁定に要する時間が本給付と大差がないため,本給付を急ぐことが優先されてきたとの説明があった。他方,犯罪被害者等の要望も踏まえ,仮給付制度をより活用していくようにしたいとの意見があった。

なお,資料の提出等を求めずに一定金額を被害直後に給付することへの要望があったが,犯罪被害該当性等が給付条件となっている現状の仕組みからは,難しいとの意見があった。

以上から,本検討会としては,引き続き,本給付の迅速な裁定に努めていくべきであり,犯罪被害者等の要望を踏まえ,仮給付制度の一層の活用がなされるべきであると考える。

[第2 新たな補償制度に関する議論]

1 金銭的支給

(1) あすの会要綱で提案された補償制度に関する議論

ア 「補償」の意義

新たな補償制度に関し,「補償」の意義について,犯罪被害者等基本法第3条により,国は,犯罪被害者等が事件前の平穏な生活に戻るために補償をする責務があるのではないかとの意見があった。

これに対し,国に「損害」を補償する責務があるとする場合,その前提として,国に責任があるから補償するという理論的根拠を要するのではないか,との意見があった。

また,国はある意味社会の代表者であり,その国と犯罪被害者等を二項対立的に捉えない方がいいのではないかとの意見があった。

さらに,犯罪被害者等基本法は,犯罪被害者に対する広い意味での「福祉」の理念のもと,社会正義の実現等を求めているのではないか,給付水準等は,財源及びその支給根拠に国民全体の理解が得られるか否かといった要素で導かれるのではないかとの意見があった。

本論点については,本検討会として総論的な解釈を示すものではなく,あすの会要綱の中に掲げられた,各要望事項に沿った制度についての検討にあたり,当該問題となっている制度の支給根拠及びその相当性の問題として,個別に議論するにとどめた。

イ 一時金(死亡事案)

あすの会要綱第3項において,犯罪被害者死亡時に,葬儀費用,当座の教育費用,ローン返済のための資金,自営業の場合の事業資金等として,現行の犯給制度での単身者死亡の場合の遺族給付金最高額(1,210万円)相当の金額を,一律に支給する一時金制度の提案があった。

上記提案に対し,犯罪被害者の遺族が置かれた状況は様々であり,当座経済的支援を必要とする要素は個人差があると考えられるため,金額が一律であることの根拠が乏しいのではないかとの意見があり,現行の犯給制度の支給額について変更すべきとの結論には至らなかった。

ウ 年金(死亡事案,後遺障害事案)

あすの会要綱第5項,第9項において,犯罪被害者が死亡又は後遺障害を負ったときは,事件前の生活を取り戻すことができるまでの期間,事件前の収入を基本として,平均収入を基準とした年金を支給する生活保障制度の提案があった。

(ア) 支給形式

上記提案は,年金型支給に伴う事務的コストについては,労災年金又は遺族年金の処理機関に委嘱することによって抑えられるのではないかとの前提が述べられた。

この点に関しては,現行の労災年金又は遺族年金に係る事務は,別々の法令体系に基づき,申請受付,認定,支払い,さらに年金を支払い続ける限りは要件の確認等,継続的に労働基準監督署,年金事務所などのそれぞれの機関が管理しているところであり,単純に委嘱をすれば事務量が減るというものではないとの意見があった。

他方,現在の犯罪被害者等給付金のような一時金型支給であったとしても,年金保険の購入や信託財産の設定などにより,個人で年金化することができること,また,労災年金等,既存の年金制度についても,原資計算の上では,仮に平均余命まで生きた場合の総支給額を現在価値に置き換えて検討していることについての指摘があった。

これを踏まえ,本検討会では,年金制度の提案について,支給形式の問題ではなく,支給総額の問題として検討することとした。

(イ) 支給水準

支給総額としての議論を行うに当たって,犯罪被害者・遺族に,平均収入相当を上限として事件前の生活水準を補償するという考え方をとることについては,犯罪被害以外で,自分に責任がない要因に基づき,経済的支援を要する状況に置かれている方達を考えると,社会保障の枠組み全体の中での公平性の問題があるのではないかとの意見があった。

また,現状の提案を前提とすると,累積総支給額が相当高額になると思われ,財源の問題があるのではないかとの意見があった。

以上のような議論を踏まえ,本検討会としては,年金型(生活保障型)の給付を行うことについての結論を導くことはできなかった。

エ 過去の犯罪被害者等への支給

過去に犯給制度が拡充された際,制度拡充前の被害者への遡及適用がなかったため,年金型の支給とすることで,そのように,犯給制度拡充の効果を受けられなかった過去の被害者にも,将来の年金として支給を受給できることを期待している側面もある点が指摘された。

この点,上記のように,本検討会としては,年金型(生活保障型)制度について提言に至るところではないことから,その効果を過去の被害者にも及ぼし得るか否かについても検討は行っていない。

他方,ヒアリング等により,一部であれ犯罪被害者等給付金を受給した過去の犯罪被害者等についても,引き続き困窮状況にある状況がうかがえたことから,あすの会会員の中で,現在,特に経済的支援を要するのではないかとうかがえる犯罪被害者・遺族20人について,犯罪被害による経済的負担が生じている要因の説明を受けたところ,医療費,リハビリ費用のほか,世帯収入の低下,既存の負債,民事訴訟費用の負担といった事情があるとの意見があった。なお,医療関連費,リハビリ費用については現物支給(第2.2)としての提案の中にも含まれている。

(2) 海外での犯罪被害者に対する経済的支援

本検討会では,海外での犯罪被害者も,被害に遭うという意味では日本国内の被害者と共通性があり,海外で日本人が犯罪被害に遭った場合においても,その後の経済的支援をしっかり行うことが重要であるとの意見が出されるなど,国としての支援の必要性を認める意見が多数を占めたことを受け,犯給制度の拡大適用の形ではないとしても,社会の連帯共助の精神にのっとり,何らかの経済的支援をスタートさせるべきと考える。

他方,既に検討済みのように,海外での犯罪事実の調査や認定等の困難性等にかんがみ,本支援制度については,金額は多少低額になるとしても,国として速やかに被害者へ見舞金を支給できるよう,死亡事案に限るなど犯罪被害の類型等により支給対象を限定する形で,また,事実の認定に関しては,国内での犯罪被害に関する犯罪被害者等給付金の裁定において行われているような厳密な調査を要さず,在外公館の有する情報等,入手可能な範囲の情報を基に行うような,単純な制度を目指すべきである。

2 現物支給(あすの会要綱第12項)

あすの会要綱第12項において,犯罪被害者が重傷病を受け,又は後遺障害を負ったときは,治療費,付添介護費,自宅改造費,義足義肢に要する費用,カウンセリング費用等の医療関係費を国が現物支給する制度の提案があった。

なお,本提案については,言及されている支援の提供状況が多岐にわたることから,本検討会は各支援を受ける上での被害者の窓口負担の状況等,負担軽減の必要性に関する個別の検討はしておらず,各費用に関する「現物支給」を検討する上で共通して生じるであろう問題点として,医療機関等の関係窓口において,当該現物支給申請者が「犯罪被害者」であることをどのように認定できるのか,との指摘があった。また,被害者及び,各サービス提供者の負担がないことによる過剰給付の弊害及びいずれにしても「犯罪被害者」であることを前提とする制度であるため,犯罪被害者であることの認定に一定の時間を要することが不可避であることから,被害直後から支給可能となる制度とする困難性などが指摘され,何らかの制度を具体的に変更する提案にまでは至らなかった。

本提案に関しては,現状において,これら諸費用にかかる犯罪被害者の負担が,犯給制度や犯罪被害者等に利用者を限定しない社会保障制度等によって軽減が図られていることを前提としても,現実には,医療保険の適用が断られる等,被害者にとって予期せぬ高額の窓口負担となっているケースがあるため,これを軽減する重要性についての問題提起であり,この窓口負担の軽減によって,一時金(第2―1―(1)―イで前述)の金額との調整が考え得る旨の追加説明があった。

本検討会では,本論点に限らず,犯罪被害者が保険診療を断られるケースが見受けられるとの言及がなされていることを踏まえ,犯罪被害者である被保険者が保険診療を求めた場合については,現行制度上加害者の署名が入った損害賠償誓約書等の有無にかかわらず保険給付が行われることになっている旨の保険者及び医療機関への周知が,改めて徹底されるべきであると考える。あわせて,支援の現場でまだ混乱が続いているところもあるとの言及がなされていることを踏まえ,支援の現場に対しても,各種研修等を通じて,同様の趣旨が改めて周知されるべきであると考える。

また,あすの会要綱第12項の提案には,カウンセリング費用についても含まれているところ,本検討会は,「犯罪被害者等に対する心理療法の費用の公費負担に関する検討会」において,平成25年1月に①既存の機関・団体等において提供されている心理的支援について,犯罪被害者がその地域を問わず一層充実した心理療法・カウンセリングが受けられるようになるための措置が執られるべきである,②公費負担制度の対象として相当と認められる心理療法・カウンセリングの範囲を明らかにするための研究会が設置され,その研究に基づき,公費負担制度が導入されることを期待する,と取りまとめられた提言を支持する。

[第3 その他]

1 相談支援体制の整備

本検討会では,犯罪被害者に対する経済的支援の枠組みが不足しているか否かとは別に,既存の活用可能な各種制度が,被害者に効果的に活用されているのかどうかについても問題提起があった。

この観点において,本検討会は,年金,障害者福祉,母子家庭保護等各種制度の窓口を担っている市町村において,犯罪被害者等に対して適切な情報提供を行う総合的な対応窓口が設置されることが重要であると認識し,引き続き,内閣府において,市町村に対し,かかる総合的対応窓口の設置促進を働き掛けることを求める。

あわせて,海外での犯罪被害者についても,経済的な支援の観点だけではなく,外務省(在外公館)と,日本での当該被害者又はその家族の住所地における,既存の犯罪被害者支援体制との連携構築が必要であると考える。

2 地方公共団体における支援制度の充実への要望

本検討会は,一部の地方公共団体において,犯罪被害者等のための制度として導入されている見舞金や無料法律相談等の各種支援についても,犯罪被害者の経済的負担の軽減に寄与していると認識し,引き続き,このような地方公共団体における犯罪被害者支援体制についても地域間の差が縮小するよう,先駆的な取り組みについての情報共有が図られると同時に,全国的な支援の水準が向上していくことを期待する。

[第4 提言]

1 犯給制度の拡充及び新たな制度の創設に関する提言

(1) 親族間犯罪被害者への支給に関するもの

犯給制度において,DV事案以外にも,全額支給又は減額割合を3分の1までとする特例を認めるべきであると提言する。(第1.2)

(2) 海外での犯罪被害者に対する経済的支援に関するもの

犯給制度の拡大適用の形ではないとしても,社会の連帯共助の精神にのっとり,何らかの経済的支援をスタートさせるべきと提言する。(第2.1.(2))

2 現行制度の運用等に関する提言

(1) 犯給制度に関するもの

ア 親族間犯罪に係る犯給法及び同法施行規則の規定に関し,都道府県警察等の支援の現場への教育,周知が徹底されるべきと提言する。(第1.2)

イ 重傷病給付金に関し,被害者の負担軽減を更に図るべき合理性が認められる実態があるか確認するため,現行制度について運用状況を更に詳細に調査すべきであると提言する。(第1.4)

ウ 引き続き,本給付の迅速な裁定に努めていくべきであり,犯罪被害者等の要望を踏まえ,仮給付制度の一層の活用がなされるべきであると提言する。(第1.5)

(2) その他のもの

ア 犯罪被害者である被保険者が保険診療を求めた場合については,現行制度上加害者の署名が入った損害賠償誓約書等の有無にかかわらず保険給付が行われることになっている旨の保険者及び医療機関への周知が,改めて徹底されるべきであると提言する。あわせて,支援の現場に対しても,各種研修等を通じて,同様の趣旨が改めて周知されるべきであると提言する。(第2.2)

イ 引き続き,内閣府において,市町村に対し,犯罪被害者等に対して適切な情報提供を行う総合的な対応窓口の設置促進を働き掛けることを提言する。(第3.1)

ウ 海外での犯罪被害者についても,経済的な支援の観点だけではなく,外務省(在外公館)と,日本での当該被害者又はその家族の住所地における,既存の犯罪被害者支援体制との連携構築が必要であると提言する。(第3.1)

○犯罪被害による傷病の保険給付の取扱いについて

(平成26年3月31日)

(/保保発0331第4号/保国発0331第3号/保高発0331第13号/)

(日本医師会長・日本歯科医師会長・日本薬剤師会長あて厚生労働省保険局保険課長・厚生労働省保険局国民健康保険課長・厚生労働省保険局高齢者医療課長通知)

(公印省略)

犯罪の被害を受けたことにより生じた傷病は、医療保険各法(健康保険法(大正11年法律第70号)、船員保険法(昭和14年法律第73号)、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)及び高齢者の医療の確保に関する法律(昭和57年法律第80号))において、一般の保険事故と同様に、医療保険の給付の対象とされている。

また、加害者が保険者に対し損害賠償責任を負う旨を記した誓約書があることは、医療保険の給付を行うために必要な条件ではないことから、犯罪の被害者である被保険者が当該誓約書を提出することがなくとも医療保険の給付は行われる。こうした取扱いについては、平成23年8月9日付保保発0809第4号・保国発0809第3号・保高発0809第4号厚生労働省保険局保険課長・国民健康保険課長・高齢者医療課長連名通知「犯罪被害や自動車事故等による傷病の保険給付の取扱いについて」(別紙1)でお示ししたところである。

今般、「第2次犯罪被害者等基本計画」(平成23年3月25日閣議決定)及び「「犯罪被害給付制度の拡充及び新たな補償制度の創設に関する検討会」及び「犯罪被害者等に対する心理療法の費用の公費負担に関する検討会」の開催について」(平成23年3月25日犯罪被害者等施策推進会議決定)に基づき開催された「犯罪被害給付制度の拡充及び新たな補償制度の創設に関する検討会」においてなされた取りまとめ(別紙2)を踏まえ、上記の取扱いについて、改めて周知するので、その趣旨を踏まえて適切に対応いただくようお願いする。

[別紙1]

○犯罪被害や自動車事故等による傷病の保険給付の取扱いについて

(平成23年8月9日)

(/保保発0809第4号/保国発0809第3号/保高発0809第4号/)

(日本医師会長・日本歯科医師会長・日本薬剤師会長あて厚生労働省保険局保険課長・厚生労働省保険局国民健康保険課長・厚生労働省保険局高齢者医療課長通知)

犯罪や自動車事故等の被害を受けたことにより生じた傷病は、医療保険各法(健康保険法(大正11年法律第70号)、船員保険法(昭和14年法律第73号)、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)及び高齢者の医療の確保に関する法律(昭和57年法律第80号))において、一般の保険事故と同様に、医療保険の給付の対象とされています。

また、犯罪の被害によるものなど、第三者の行為による傷病について医療保険の給付を行う際に、医療保険の保険者の中には、その第三者行為の加害者が保険者に対し損害賠償責任を負う旨を記した加害者の誓約書を、被害者である被保険者に提出させるところもあるようですが、この誓約書があることは、医療保険の給付を行うために必要な条件ではないことから、提出がなくとも医療保険の給付は行われます。

今般、第2次犯罪被害者等基本計画(平成23年3月25日閣議決定)に、犯罪による被害を受けた者でも医療保険を利用することが可能である旨や、加害者の署名が入った損害賠償誓約書等の有無にかかわらず医療保険給付が行われる旨を、保険者や医療機関に周知すること等が盛り込まれたことを踏まえ(別添)、上記の取扱いについて改めて周知をしますので、その趣旨を踏まえて適切に対応いただきますようお願い申し上げます。

なお、自動車事故による被害を受けた場合の医療保険の給付と自動車損害賠償保障法(昭和30年法律第97号)に基づく自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)による給付の関係については、自動車事故による被害の賠償は自動車損害賠償保障法では自動車の運行供用者がその責任を負うこととしており、被害者は加害者が加入する自賠責保険によってその保険金額の限度額までの保障を受けることになっています。その際、何らかの理由により、加害者の加入する自賠責保険の保険者が保険金の支払いを行う前に、被害者の加入する医療保険の保険者から保険給付が行われた場合、医療保険の保険者はその行った給付の価額の限度において、被保険者が有する損害賠償請求権を代位取得し、加害者(又は加害者の加入する自賠責保険の保険者)に対して求償することになります(健康保険法第57条第1項、船員保険法第45条第1項、国民健康保険法第64条第1項及び高齢者の医療の確保に関する法律第58条第1項)。

一方で、加害者が不明のひき逃げ等の場合や自賠責保険の補償の範囲を超える賠償義務が発生した場合には、被害者の加入する医療保険の保険者が給付を行ったとしても、その保険者は求償する相手先がないケースや結果的に求償が困難なケースが生じ得ます。このような場合であっても、偶発的に発生する予測不能な傷病に備え、被保険者等の保護を図るという医療保険制度の目的に照らし、医療保険の保険者は、求償する相手先がないことや結果的に求償が困難であること等を理由として医療保険の給付を行わないということはできません。

さらに、加害者が自賠責保険に加入していても、速やかに保険金の支払いが行われない場合等、被害者である被保険者に一時的に重い医療費の負担が生じる場合も考えられるため、このような場合も上記と同様の趣旨から、医療保険の保険者は、被保険者が医療保険を利用することが妨げられないようにする必要があります。これらの取扱いは、その他の犯罪の被害による傷病についての医療保険の給付でも同様です。

なお、上記の例のように、医療保険の給付の原因となった傷病が第三者の行為によって生じたものであるときは、医療保険各法は、被害者である被保険者(国民健康保険では、被保険者の属する世帯の世帯主又は組合員)に対して、その事実等を保険者に届け出ることを義務づけているため、各保険者においては、その旨を被保険者等に周知するとともに、医療保険の給付を行った際には届出の提出を求め、加害者に対する適正な求償を行っていただくようお願いします。(健康保険法施行規則第65条、船員保険法施行規則第57条、国民健康保険法施行規則第32条の6及び高齢者の医療の確保に関する法律施行規則第46条)

[別添]

◎ 第2次犯罪被害者等基本計画(平成23年3月25日閣議決定)(抄)

Ⅴ 重点課題に係る具体的施策

2 給付金の支給に係る制度の充実等(基本法第13条関係)

(8) 医療保険の円滑な利用の確保

厚生労働省において、犯罪による被害を受けた被保険者が保険診療を求めた場合については、現行制度上加害者の署名が入った損害賠償誓約書等の有無にかかわらず保険給付が行われることになっている旨、保険者に周知する。また、医療機関に対して、犯罪による被害を受けた者であっても医療保険を利用することが可能であることや、誓約書等の提出がなくても保険者は保険給付を行う義務がある旨保険者あてに通知していることについて、地方厚生局を通じて周知する。【厚生労働省】

[別紙2]

「犯罪被害給付制度の拡充及び新たな補償制度の創設に関する検討会」

取りまとめ

平成26年1月

目次

はじめに

第1 犯給制度に関する議論

1 遺族給付金の支給を受けるべき第一順位遺族の認定に関する問題

2 親族間犯罪被害者への不支給例外

3 海外での犯罪被害者への適用拡大の適否

4 重傷病給付金

5 裁定期間等

第2 新たな補償制度に関する議論

1 金銭的支給

あすの会要綱で提案された補償制度に関する議論

ア 「補償」の意義

イ 一時金(死亡事案)

ウ 年金(死亡事案,後遺障害事案)

(ア) 支給形式

(イ) 支給水準

エ 過去の犯罪被害者等への支給

海外での犯罪被害者に対する経済的支援

2 現物支給(あすの会要綱第12項)

第3 その他

1 相談支援体制の整備

2 地方公共団体における支援制度の充実への要望

第4 提言

1 犯給制度の拡充及び新たな制度の創設に関する提言

(1) 親族間犯罪被害者への支給に関するもの

(2) 海外での犯罪被害者に対する経済的支援に関するもの

2 現行制度の運用等に関する提言

(1) 犯給制度に関するもの

(2) その他のもの

[はじめに]

本検討会は,第2次犯罪被害者等基本計画(平成23年3月25日閣議決定)に基づき,平成20年度に拡充された犯罪被害給付制度(以下,「犯給制度」という。)の運用状況等を踏まえ,犯給制度の更なる拡充及び新たな補償制度の創設の要否,また犯給制度の拡充又は新制度創設を要するとした場合に,その内容に関して検討するために開催された。

本検討会では,開催の趣旨を踏まえ,犯罪被害者等からの生活状況等に関するヒアリング,平成20年度改正後の犯給制度の運用状況,要件が該当する場合に犯罪被害者等の経済的負担軽減に活用できる又は実際に活用されている社会保障等の枠組み,海外での犯罪被害者等に対する経済的支援制度について,平成18年度の調査からの変化の有無について確認する等の現状確認を行った。