○国民年金・厚生年金保険障害認定基準の一部改正について
(平成26年3月17日)
(年管発0317第1号)
(日本年金機構理事長あて厚生労働省大臣官房年金管理審議官通知)
(公印省略)
国民年金法施行令(昭和34年政令第184号)別表並びに厚生年金保険法施行令(昭和29年政令第110号)別表第1及び別表第2に規定する障害の程度の認定については、「国民年金・厚生年金保険障害認定基準の改正について」(平成14年3月15日庁保発第12号)により取り扱っているところであるが、近年の医学的知見を反映して、認定基準を見直すとともに、表現や例示の明確化を図るため、関係の専門家による審議等を踏まえ、今般、「国民年金・厚生年金保険障害認定基準」の一部を別紙1から別紙3のとおり改正し、平成26年6月1日から適用することとしたので通知する。ただし、別紙3に関する改正については、平成26年4月1日から適用する。
なお、国民年金法等の一部を改正する法律(昭和60年法律第34号)により従前の例によることとされた改正前の国民年金法(昭和34年法律第141号)及び厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)の規定に基づく障害給付に係る障害の程度の認定については、それぞれ「国民年金障害等級認定基準」(昭和54年11月1日庁保発第31号)及び「国民年金において併合認定を行う場合の後発障害認定基準」(昭和54年11月1日庁保発第32号)並びに「厚生年金保険の障害認定要領」(昭和52年7月15日庁保発第20号)により取り扱うものであることを申し添える。
(別紙1)
(別紙2)
(別紙3)
(参考)
国民年金・厚生年金保険
障害認定基準
平成26年4月1日改正
(P86~88差替え)
平成26年6月1日改正
(P58~64、68~72差替え)
第11節/心疾患による障害
心疾患による障害の程度は、次により認定する。
1 認定基準
心疾患による障害については、次のとおりである。
令別表 |
障害の程度 |
障害の状態 |
国年令別表 |
1級 |
身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの |
2級 |
身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの |
|
厚年令別表第1 |
3級 |
身体の機能に、労働が制限を受けるか、又は労働に制限を加えることを必要とする程度の障害を有するもの |
心疾患による障害の程度は、呼吸困難、心悸亢進、尿量減少、夜間多尿、チアノーゼ、浮腫等の臨床症状、X線、心電図等の検査成績、一般状態、治療及び病状の経過等により、総合的に認定するものとし、当該疾病の認定の時期以後少なくとも1年以上の療養を必要とするものであって、長期にわたる安静を必要とする病状が、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のものを1級に、日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものを2級に、また、労働が制限を受けるか又は労働に制限を加えることを必要とする程度のものを3級に該当するものと認定する。
2 認定要領
(1) この節に述べる心疾患とは、心臓だけではなく、血管を含む循環器疾患を指すものである。(ただし、血圧については、本章「第17節 高血圧症による障害」で述べるので除く。)
心疾患による障害は、弁疾患、心筋疾患、虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)、難治性不整脈、大動脈疾患、先天性心疾患に区分する。
(2) 心疾患の障害等級の認定は、最終的には心臓機能が慢性的に障害された慢性心不全の状態を評価することである。この状態は虚血性心疾患や弁疾患、心筋疾患などのあらゆる心疾患の終末像である。
慢性心不全とは、心臓のポンプ機能の障害により、体の末梢組織への血液供給が不十分となった状態を意味し、一般的には左心室系の機能障害が主体をなすが、右心室系の障害も考慮に入れなければならない。左心室系の障害により、動悸や息切れ、肺うっ血による呼吸困難、咳・痰、チアノーゼなどが、右心室系の障害により、全身倦怠感や浮腫、尿量減少、頚静脈怒張などの症状が出現する。
(3) 心疾患の主要症状としては、胸痛、動悸、呼吸困難、失神等の自覚症状、浮腫、チアノーゼ等の他覚所見がある。
臨床所見には、自覚症状(心不全に基づく)と他覚所見があるが、後者は医師の診察により得られた客観的症状なので常に自覚症状と連動しているか否かに留意する必要がある(以下、各心疾患に同じ)。重症度は、心電図、心エコー図・カテーテル検査、動脈血ガス分析値も参考とする。
(4) 検査成績としては、血液検査(BNP値)、心電図、心エコー図、胸部X線、X線CT、MRI等、核医学検査、循環動態検査、心カテーテル検査(心カテーテル法、心血管造影法、冠動脈造影法等)等がある。
(5) 肺血栓塞栓症、肺動脈性肺高血圧症は、心疾患による障害として認定する。
(6) 心血管疾患が重複している場合には、客観的所見に基づいた日常生活能力等の程度を十分考慮して総合的に認定する。
(7) 心疾患の検査での異常検査所見を一部示すと、次のとおりである。
区分 |
異常検査所見 |
A |
安静時の心電図において、0.2mV以上のSTの低下もしくは0.5mV以上の深い陰性T波(aVR誘導を除く。)の所見のあるもの |
B |
負荷心電図(6Mets未満相当)等で明らかな心筋虚血所見があるもの |
C |
胸部X線上で心胸郭係数60%以上又は明らかな肺静脈性うっ血所見や間質性肺水腫のあるもの |
D |
心エコー図で中等度以上の左室肥大と心拡大、弁膜症、収縮能の低下、拡張能の制限、先天性異常のあるもの |
E |
心電図で、重症な頻脈性又は徐脈性不整脈所見のあるもの |
F |
左室駆出率(EF)40%以下のもの |
G |
BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)が200pg/ml相当を超えるもの |
H |
重症冠動脈狭窄病変で左主幹部に50%以上の狭窄、あるいは、3本の主要冠動脈に75%以上の狭窄を認めるもの |
I |
心電図で陳旧性心筋梗塞所見があり、かつ、今日まで狭心症状を有するもの |
(注1) 原則として、異常検査所見があるもの全てについて、それに該当する心電図等を提出(添付)させること。
(注2) 「F」についての補足
心不全の原因には、収縮機能不全と拡張機能不全とがある。
近年、心不全症例の約40%はEF値が保持されており、このような例での心不全は左室拡張不全機能障害によるものとされている。しかしながら、現時点において拡張機能不全を簡便に判断する検査法は確立されていない。左室拡張末期圧基準値(5―12mmHg)をかなり超える場合、パルスドプラ法による左室流入血流速度波形を用いる方法が一般的である。この血流速度波形は急速流入期血流速度波形(E波)と心房収縮期血流速度波形(A波)からなり、E/A比が1.5以上の場合は、重度の拡張機能障害といえる。
(注3) 「G」についての補足
心不全の進行に伴い、神経体液性因子が血液中に増加することが確認され、心不全の程度を評価する上で有用であることが知られている。中でも、BNP値(心室で生合成され、心不全により分泌が亢進)は、心不全の重症度を評価する上でよく使用されるNYHA分類の重症度と良好な相関性を持つことが知られている。この値が常に100pg/ml以上の場合は、NYHA心機能分類でⅡ度以上と考えられ、200pg/ml以上では心不全状態が進行していると判断される。
(注4) 「H」についての補足
すでに冠動脈血行再建が完了している場合を除く。
(8) 心疾患による障害の程度を一般状態区分表で示すと次のとおりである。
一般状態区分表
区分 |
一般状態 |
ア |
無症状で社会活動ができ、制限を受けることなく、発病前と同等にふるまえるもの |
イ |
軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業はできるもの 例えば、軽い家事、事務など |
ウ |
歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、軽労働はできないが、日中の50%以上は起居しているもの |
エ |
身のまわりのある程度のことはできるが、しばしば介助が必要で、日中の50%以上は就床しており、自力では屋外への外出等がほぼ不可能となったもの |
オ |
身のまわりのこともできず、常に介助を必要とし、終日就床を強いられ、活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるもの |
(参考) 上記区分を身体活動能力にあてはめると概ね次のとおりとなる。
区分 |
身体活動能力 |
ア |
6Mets以上 |
イ |
4Mets以上6Mets未満 |
ウ |
3Mets以上4Mets未満 |
エ |
2Mets以上3Mets未満 |
オ |
2Mets未満 |
(注) Metsとは、代謝当量をいい、安静時の酸素摂取量(3.5ml/kg体重/分)を1Metsとして活動時の酸素摂取量が安静時の何倍かを示すものである。
(9) 疾患別に各等級に相当すると認められるものを一部例示すると、次のとおりである。
① 弁疾患
障害の程度 |
障害の状態 |
1級 |
病状(障害)が重篤で安静時においても、心不全の症状(NYHA心機能分類クラスⅣ)を有し、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの |
2級 |
1 人工弁を装着術後、6ヶ月以上経過しているが、なお病状をあわらす臨床所見が5つ以上、かつ、異常検査所見が1つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの 2 異常検査所見のA、B、C、D、E、Gのうち2つ以上の所見、かつ、病状をあらわす臨床所見が5つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの |
3級 |
1 人工弁を装着したもの 2 異常検査所見のA、B、C、D、E、Gのうち1つ以上の所見、かつ、病状をあらわす臨床所見が2つ以上あり、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの |
(注1) 複数の人工弁置換術を受けている者にあつても、原則3級相当とする。
(注2) 抗凝固薬使用による出血傾向については、重度のものを除き認定の対象とはしない。
② 心筋疾患
障害の程度 |
障害の状態 |
1級 |
病状(障害)が重篤で安静時においても、心不全の症状(NYHA心機能分類クラスⅣ)を有し、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの |
2級 |
1 異常検査所見のFに加えて、病状をあらわす臨床所見が5つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの 2 異常検査所見のA、B、C、D、E、Gのうち2つ以上の所見及び心不全の病状をあらわす臨床所見が5つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの |
3級 |
1 EF値が50%以下を示し、病状をあらわす臨床所見が2つ以上あり、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの 2 異常検査所見のA、B、C、D、E、Gのうち1つ以上の所見及び心不全の病状をあらわす臨床所見が1つ以上あり、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの |
(注) 肥大型心筋症は、心室の収縮は良好に保たれるが、心筋肥大による心室拡張機能障害や左室流出路狭窄に伴う左室流出路圧較差などが病態の基本となっている。したがってEF値が障害認定にあたり、参考とならないことが多く、臨床所見や心電図所見、胸部X線検査、心臓エコー検査所見なども参考として総合的に障害等級を判断する。
③ 虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)
障害の程度 |
障害の状態 |
1級 |
病状(障害)が重篤で安静時においても、常時心不全あるいは狭心症状を有し、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの |
2級 |
異常検査所見が2つ以上、かつ、軽労作で心不全あるいは狭心症などの症状をあらわし、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの |
3級 |
異常検査所見が1つ以上、かつ、心不全あるいは狭心症などの症状が1つ以上あるもので、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの |
(注) 冠動脈疾患とは、主要冠動脈に少なくとも1ヶ所の有意狭窄をもつ。あるいは、冠攣縮が証明されたものを言い、冠動脈造影が施行されていなくとも心電図、心エコー図、核医学検査等で明らかに冠動脈疾患と考えられるものも含む。
④ 難治性不整脈
障害の程度 |
障害の状態 |
1級 |
病状(障害)が重篤で安静時においても、常時心不全の症状(NYHA心機能分類クラスⅣ)を有し、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの |
2級 |
1 異常検査所見のEがあり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの 2 異常検査所見のA、B、C、D、F、Gのうち2つ以上の所見及び病状をあらわす臨床所見が5つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの |
3級 |
1 ペースメーカー、ICDを装着したもの 2 異常検査所見のA、B、C、D、F、Gのうち1つ以上の所見及び病状をあらわす臨床所見が1つ以上あり、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの |
(注1) 難治性不整脈とは、放置すると心不全や突然死を引き起こす危険性の高い不整脈で、適切な治療を受けているにも拘わらず、それが改善しないものを言う。
(注2) 心房細動は、一般に加齢とともに漸増する不整脈であり、それのみでは認定の対象とはならないが、心不全を合併したり、ペースメーカーの装着を要する場合には認定の対象となる。
⑤ 大動脈疾患
障害の程度 |
障害の状態 |
3級 |
1 胸部大動脈解離(Stanford分類A型・B型)や胸部大動脈瘤により、人工血管を挿入し、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの 2 胸部大動脈解離や胸部大動脈瘤に、難治性の高血圧を合併したもの |
(注1)
Stanford分類A型:上行大動脈に解離がある。
Stanford分類B型:上行大動脈まで解離が及んでいないもの。
(注2) 大動脈瘤とは、大動脈の一部がのう状又は紡錘状に拡張した状態で、先天性大動脈疾患や動脈硬化(アテローム硬化)、膠原病などが原因となる。これのみでは認定の対象とはならないが、原疾患の活動性や手術による合併症が見られる場合には、総合的に判断する。
(注3) 胸部大動脈瘤には、胸腹部大動脈瘤も含まれる。
(注4) 難治性高血圧とは、塩分制限などの生活習慣の修正を行った上で、適切な薬剤3薬以上の降圧薬を適切な用量で継続投与しても、なお、収縮期血圧が140mmHg以上又は拡張期血圧が90mmHg以上のもの。
(注5) 大動脈疾患では、特殊な例を除いて心不全を呈することはなく、また最近の医学の進歩はあるが、完全治癒を望める疾患ではない。従って、一般的には1・2級には該当しないが、本傷病に関連した合併症(周辺臓器への圧迫症状など)の程度や手術の後遺症によっては、さらに上位等級に認定する。
・ 大動脈瘤の定義:嚢状のものは大きさを問わず、紡錘状のものは、正常時(2.5~3cm)の1.5倍以上のものをいう。(2倍以上は手術が必要。)
・ 人工血管にはステントグラフトも含まれる。
⑥ 先天性心疾患
障害の程度 |
障害の状態 |
1級 |
病状(障害)が重篤で安静時においても、常時心不全の症状(NYHA心機能分類クラスⅣ)を有し、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの |
2級 |
1 異常検査所見が2つ以上及び病状をあらわす臨床所見が5つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの 2 Eisenmenger化(手術不可能な逆流状況が発生)を起こしているもので、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの |
3級 |
1 異常検査所見のC、D、Eのうち1つ以上の所見及び病状をあらわす臨床所見が1つ以上あり、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの 2 肺体血流比1.5以上の左右短絡又は肺動脈収縮期圧50mmHg以上のもので、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの |
⑦ 重症心不全
心臓移植や人工心臓等を装着した場合の障害等級は、次のとおりとする。ただし、術後は次の障害等級に認定するが、1~2年程度経過観察したうえで症状が安定しているときは、臨床症状、検査成績、一般状態区分表を勘案し、障害等級を再認定する。
・ 心臓移植 1級
・ 人工心臓 1級
・ CRT(心臓再同期医療機器)、CRT―D(除細動器機能付き心臓再同期医療機器) 2級
(10) 心臓ペースメーカー、又はICD(植込み型除細動器)、又は人工弁を装着した場合の障害の程度を認定すべき日は、それらを装着した日(初診日から起算して1年6月以内の日に限る。)とする。
(11) 各疾患によって、用いられる検査が異なっており、また、特殊検査も多いため、診断書上に適切に症状をあらわしていると思われる検査成績が記載されているときは、その検査成績も参考とし、認定時の具体的な日常生活状況等を把握して、総合的に認定する。
第13節/肝疾患による障害
肝疾患による障害の程度は、次により認定する。
1 認定基準
肝疾患による障害については、次のとおりである。
令別表 |
障害の程度 |
障害の状態 |
国年令別表 |
1級 |
身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの |
2級 |
身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの |
|
厚年令別表第1 |
3級 |
身体の機能に、労働が制限を受けるか、又は労働に制限を加えることを必要とする程度の障害を有するもの |
肝疾患による障害の程度は、自覚症状、他覚所見、検査成績、一般状態、治療及び病状の経過、具体的な日常生活状況等により、総合的に認定するものとし、当該疾病の認定の時期以後少なくとも1年以上の療養を必要とするものであって、長期にわたる安静を必要とする病状が、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のものを1級に、日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものを2級に、また、労働が制限を受けるか又は労働に制限を加えることを必要とする程度のものを3級に該当するものと認定する。
2 認定要領
(1) 肝疾患による障害の認定の対象は、慢性かつびまん性の肝疾患の結果生じた肝硬変症及びそれに付随する病態(食道・胃などの静脈瘤、特発性細菌性腹膜炎、肝がんを含む。)である。
肝硬変では、一般に肝は萎縮し肝全体が高度の線維化のため硬化してくる。
肝硬変で最も多いものは、B型肝炎ウイルスあるいはC型肝炎ウイルスによるウイルス性肝硬変であり、その他自己免疫性肝炎や非アルコール性脂肪肝炎による肝硬変、アルコール性肝硬変、胆汁うっ滞型肝硬変、代謝性肝硬変(ウィルソン病、ヘモクロマトーシス)等がある。
(2) 肝疾患の主要症状としては、易疲労感、全身倦怠感、腹部膨満感、発熱、食欲不振、悪心、嘔吐、皮膚そう痒感、吐血、下血、有痛性筋痙攣等の自覚症状、肝萎縮、脾腫大、浮腫、腹水、黄疸、腹壁静脈怒張、食道・胃静脈瘤、肝性脳症、出血傾向等の他覚所見がある。
(3) 検査としては、まず、血球算定検査、血液生化学検査が行われるが、さらに、肝炎ウイルス検査、血液凝固系検査、免疫学的検査、超音波検査、CT・MRI検査、腹腔鏡検査、肝生検、上部消化管内視鏡検査、肝血管造影等が行われる。
(4) 肝疾患での重症度判定の検査項目及び臨床所見並びに異常値の一部を示すと次のとおりである。
検査項目/臨床所見 |
基準値 |
中等度の異常 |
高度異常 |
血清総ビリルビン (mg/dl) |
0.3~1.2 |
2.0以上3.0以下 |
3.0超 |
血清アルブミン (g/dl) (BCG法) |
4.2~5.1 |
3.0以上3.5以下 |
3.0未満 |
血小板数 (万/μl) |
13~35 |
5以上10未満 |
5未満 |
プロトロンビン 時間(PT)(%) |
70超~130 |
40以上70以下 |
40未満 |
腹水 |
― |
腹水あり |
難治性腹水あり |
脳症(表1) |
― |
Ⅰ度 |
Ⅱ度以上 |
表1 昏睡度分類
昏睡度 |
精神症状 |
参考事項 |
Ⅰ |
睡眠―覚醒リズムに逆転。 多幸気分ときに抑うつ状態。 だらしなく、気にとめない態度。 |
あとで振り返ってみて判定できる。 |
Ⅱ |
指南力(時、場所)障害、 物をとり違える(confusion) 異常行動 (例:お金をまく、 化粧品をゴミ箱に捨てるなど) ときに傾眠状態(普通のよびかけで開眼し会話が出来る) 無礼な言動があったりするが、他人の指示には従う態度を見せる。 |
興奮状態がない。 尿便失禁がない。 羽ばたき振戦あり。 |
Ⅲ |
しばしば興奮状態またはせん妄状態を伴い、反抗的態度をみせる。 嗜眠状態(ほとんど眠っている)。 外的刺激で開眼しうるが、他人の指示には従わない、または従えない(簡単な命令には応じえる)。 |
羽ばたき振戦あり。 (患者の協力がえられる場合) 指南力は高度に障害。 |
Ⅳ |
昏眠(完全な意識の消失)。 痛み刺激に反応する。 |
刺激に対して、払いのける動作、顔をしかめるなどがみられる。 |
Ⅴ |
深昏睡 痛み刺激にもまったく反応しない。 |
|
(5) 肝疾患による障害の程度を一般状態区分表で示すと次のとおりである。
一般状態区分表
区分 |
一般状態 |
ア |
無症状で社会活動ができ、制限を受けることなく、発病前と同等にふるまえるもの |
イ |
軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業はできるもの 例えば、軽い家事、事務など |
ウ |
歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、軽労働はできないが、日中の50%以上は起居しているもの |
エ |
身のまわりのある程度のことはできるが、しばしば介助が必要で、日中の50%以上は就床しており、自力では屋外への外出等がほぼ不可能となったもの |
オ |
身のまわりのこともできず、常に介助を必要とし、終日就床を強いられ、活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるもの |
(6) 各等級に相当すると認められるものを一部例示すると次のとおりである。
障害の程度 |
障害の状態 |
1級 |
前記(4)の検査成績及び臨床所見のうち高度異常を3つ以上示すもの又は高度異常を2つ及び中等度の異常を2つ以上示すもので、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの |
2級 |
前記(4)の検査成績及び臨床所見のうち中等度又は高度の異常を3つ以上示すもので、かつ、一般状態区分表のエ又はウに該当するもの |
3級 |
前記(4)の検査成績及び臨床所見のうち中等度又は高度の異常を2つ以上示すもので、かつ、一般状態区分表のウ又はイに該当するもの |
なお、障害の程度の判定に当たっては、前記(4)の検査成績及び臨床所見によるほか、他覚所見、他の一般検査及び特殊検査の検査成績、治療及び病状の経過等も参考とし、認定時の具体的な日常生活状況等を把握して、総合的に認定する。
(7) 検査成績は、その性質上変動しやすいので、肝疾患の経過中において最も適切に病状をあらわしていると思われる検査成績に基づいて認定を行うものとする。
(8) 肝硬変は、その発症原因によって、病状、進行状況を異にするので、各疾患固有の病態に合わせて認定する。アルコール性肝硬変については、継続して必要な治療を行っていること及び検査日より前に180日以上アルコールを摂取していないことについて、確認のできた者に限り、認定を行うものとする。
(9) 慢性肝炎は、原則として認定の対象としないが、(6)に掲げる障害の状態に相当するものは認定の対象とする。
(10) 食道・胃などの静脈瘤については、吐血・下血の既往、治療歴の有無及びその頻度、治療効果を参考とし、(4)に掲げる検査項目及び臨床所見の異常に加えて、総合的に認定する。特発性細菌性腹膜炎についても、同様とする。
(11) 肝がんについては、(4)に掲げる検査項目及び臨床所見の異常に加えて、肝がんによる障害を考慮し、本節及び「第16節/悪性新生物による障害」の認定要領により認定する。ただし、(4)に掲げる検査項目及び臨床所見の異常がない場合は、第16節の認定要領により認定する。
(12) 肝臓移植の取扱い
ア 肝臓移植を受けたものに係る障害認定に当たっては、術後の症状、治療経過、検査成績及び予後等を十分に考慮して総合的に認定する。
イ 障害年金を支給されている者が肝臓移植を受けた場合は、臓器が生着し、安定的に機能するまでの間を考慮して術後1年間は従前の等級とする。
第18節/その他の疾患による障害
その他の疾患による障害の程度は、次により認定する。
1 認定基準
その他の疾患による障害については、次のとおりである。
令別表 |
障害の程度 |
障害の状態 |
国年令別表 |
1級 |
身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの |
2級 |
身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの |
|
厚年令別表第1 |
3級 |
身体の機能に、労働が制限を受けるか、又は労働に制限を加えることを必要とする程度の障害を有するもの |
その他の疾患による障害の程度は、全身状態、栄養状態、年齢、術後の経過、予後、原疾患の性質、進行状況等、具体的な日常生活状況等を考慮し、総合的に認定するものとし、身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状があり、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のものを1級に、日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものを2級に、また、労働が制限を受けるか又は労働に制限を加えることを必要とする程度のものを3級に該当するものと認定する。
2 認定要領
(1) その他の疾患による障害は、本章「第1節 眼の障害」から「第17節 高血圧症による障害」において取り扱われていない疾患を指すものであるが、本節においては、腹部臓器・骨盤臓器の術後後遺症、人工肛門・新膀胱、遷延性植物状態、いわゆる難病及び臓器移植の取扱いを定める。
(2) 腹部臓器・骨盤臓器の術後後遺症
ア 腹部臓器・骨盤臓器の術後後遺症とは、胃切除によるダンピング症候群等、短絡的腸吻合術による盲管症候群、虫垂切除等による癒着性腸閉塞又は癒着性腹膜炎、腸ろう等をいう。
イ 腹部臓器・骨盤臓器の術後後遺症の障害の程度は、全身状態、栄養状態、年齢、術後の経過、予後、原疾患の性質、進行状況、具体的な日常生活状況等を考慮し、総合的に認定するものとする。
(3) 人工肛門・新膀胱
ア 人工肛門又は新膀胱を造設したもの若しくは尿路変更術を施したものは、3級と認定する。
なお、次のものは、2級と認定する。
(ア) 人工肛門を造設し、かつ、新膀胱を造設したもの又は尿路変更術を施したもの
(イ) 人工肛門を造設し、かつ、完全排尿障害(カテーテル留置又は自己導尿の常時施行を必要とする)状態にあるもの
なお、全身状態、術後の経過及び予後、原疾患の性質、進行状況等により総合的に判断し、さらに上位等級に認定する。
イ 障害の程度を認定する時期は、人工肛門、新膀胱又は尿路変更術を施した日(初診日から起算して1年6月以内の日に限る。)とする。
(4) 遷延性植物状態については、次により取り扱う。
ア 遷延性植物状態については、日常生活の用を弁ずることができない状態であると認められるため、1級と認定する。
イ 障害の程度を認定する時期は、その障害の状態に至った日から起算して3月を経過した日以後に、医学的観点から、機能回復がほとんど望めないと認められるとき(初診日から起算して1年6月以内の日に限る。)とする。
(5) いわゆる難病については、その発病の時期が不定、不詳であり、かつ、発病は緩徐であり、ほとんどの疾患は、臨床症状が複雑多岐にわたっているため、その認定に当たっては、客観的所見に基づいた日常生活能力等の程度を十分考慮して総合的に認定するものとする。
なお、厚生労働省研究班や関係学会で定めた診断基準、治療基準があり、それに該当するものは、病状の経過、治療効果等を参考とし、認定時の具体的な日常生活状況等を把握して、総合的に認定する。
(6) 臓器移植の取扱い
ア 臓器移植を受けたものに係る障害認定に当たっては、術後の症状、治療経過及び検査成績等を十分に考慮して総合的に認定する。
イ 障害等級に該当するものが、臓器移植を受けた場合は、臓器が生着し、安定的に機能するまでの間、少なくとも1年間は従前の等級とする。
なお、障害等級が3級の場合は、2年間の経過観察を行う。
(7) 障害の程度は、一般状態が次表の一般状態区分表のオに該当するものは1級に、同表のエ又はウに該当するものは2級に、同表のウ又はイに該当するものは3級におおむね相当するので、認定に当たっては、参考とする。
一般状態区分表
区分 |
一般状態 |
ア |
無症状で社会活動ができ、制限を受けることなく、発病前と同等にふるまえるもの |
イ |
軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業はできるもの 例えば、軽い家事、事務など |
ウ |
歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、軽労働はできないが、日中の50%以上は起居しているもの |
エ |
身のまわりのある程度のことはできるが、しばしば介助が必要で、日中の50%以上は就床しており、自力では屋外への外出等がほぼ不可能となったもの |
オ |
身のまわりのこともできず、常に介助を必要とし、終日就床を強いられ、活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるもの |
(8) 本章「第1節 眼の障害」から「第17節 高血圧症による障害」及び本節に示されていない障害及び障害の程度については、その障害によって生じる障害の程度を医学的に判断し、最も近似している認定基準の障害の程度に準じて認定する。