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○水道に関するクリプトスポリジウム等の検出のための検査方法の見直し等について

(平成24年3月2日)

(健水発0302第2号)

(各都道府県・各保健所設置市・各特別区水道行政担当部(局)長あて厚生労働省健康局水道課長通知)

水道行政の推進については、日頃より格別の協力を賜り厚く御礼申し上げます。

水道におけるクリプトスポリジウム等の対策については、「水道施設の技術的基準を定める省令」(平成12年厚生省令第15号)及び「水道におけるクリプトスポリジウム等対策指針」(平成19年3月30日付け健水発第0330005号水道課長通知別添)を定め、対策の推進を図ってきたところです。

対策指針に基づくクリプトスポリジウム等の検査の方法は「水道における指標菌及びクリプトスポリジウム等の検査方法について」(平成19年3月30日付け健水発0330006号水道課長通知。以下「検査方法通知」という。)に、検査精度を確保するためのクロスチェックについては「飲料水におけるクリプトスポリジウム等の検査結果のクロスチェック実施要領について」(平成19年3月30日付け健水発0330007号水道課長通知。以下「クロスチェック実施要領通知」という。)にそれぞれ示しているところですが、今般、遺伝子検出法及び粉体ろ過法をクリプトスポリジウム等の検査方法として追加する等の見直しを下記のとおり行うこととしましたので、貴管下の水道事業者等に対し、周知徹底をお願いいたします。

なお、本通知は、地方自治法(昭和22年法律第67号)に規定する技術的助言であることを申し添えます。

第1 水道に関するクリプトスポリジウム等の検出のための検査方法の見直しについて検査方法通知別添3を別紙1のとおり改正し、平成24年4月1日より適用すること。

第2 飲料水におけるクリプトスポリジウム等の検査結果のクロスチェックの実施要領の一部改正について

クロスチェック実施要領通知別添を別紙2新旧対照表のとおり改正し、平成24年4月1日より適用すること。

(別紙1)

別添3 水道に関するクリプトスポリジウム等の検出のための試験方法

概要

本試験方法は水中に存在するクリプトスポリジウムのオーシスト及びジアルジアのシスト(以下「オーシスト等」という)を精製・濃縮し、クリプトスポリジウム及びジアルジア(以下「クリプトスポリジウム等」という)を検出するためのものである。このうち蛍光抗体染色―顕微鏡検査法はオーシスト等の捕捉・濃縮、選択的な分離・精製、蛍光抗体染色、顕微鏡観察の諸工程からなり、顕微鏡下で蛍光を発する粒子の寸法、外部・内部形態に基づいてオーシスト等を検出・計数する方法である。一方、遺伝子検出法は特異的な遺伝子増幅を行い、増幅の有無によりクリプトスポリジウム等を検出する方法である。

留意事項

一般に、水道原水、沈殿水等には多種多様の無機物、有機物、微生物等が存在している。水道水中にもその一部や浄水用薬品の反応生成物等が混入している。試料によっては、それらの物質がオーシスト等の検出を妨害することがある。特に、一部の藻類は大きさ、形態等がオーシスト等に酷似しており、それらが蛍光抗体試薬と交叉反応などにより偽陽性を示し、オーシスト等との判別が困難となることが知られている。

本試験方法の作成に当たっては、使用可能と考えられる複数の方法について併せて採用することとし、

2 試料水からの懸濁粒子の捕捉・濃縮については、

2.1 メンブレンフィルター吸引ろ過―アセトン溶解法

2.2 メンブレンフィルター加圧ろ過―アセトン溶解法

2.3 親水性PTFEメンブレンフィルター法

2.4 粉体ろ過法

2.5 ポリカーボネートメンブレンフィルター法

2.6 カートリッジフィルター法

2.7 遠心沈殿法

3 オーシスト等の選択的な分離・精製については、

3.1 密度勾配遠沈法(浮遊法)

3.2 免疫磁性体粒子法(免疫磁気ビーズ法)

4 オーシスト等の検出については、

4.1 蛍光抗体染色―顕微鏡検査法

4.1.1 直接蛍光抗体染色法

4.1.2 間接蛍光抗体染色法

4.1.3 顕微鏡観察

4.2 遺伝子検出法

を並列的に記載した。また、以下の項目を付記した。

付録1 精度管理のためのオーシスト等の添加実験

付録2 顕微鏡の取扱い

付録3 顕微鏡観察における蛍光フィルター選択と観察上の注意

付録4 遺伝子検出法におけるオーシスト等の定量

[参考] 検査室におけるクリプトスポリジウム等の感染防止方法

このうち、知見が集積されている「標準的方法」(2.1、2.2又は2.3と、3.1及び4.1を組み合わせた方法)については、すべての試験操作等を確定的に記述した。しかしながら、検出の原理を損なわず、かつ回収率を損なわないことが確実であるか、あるいは一層の改善が得られることが明らかな場合は、必要に応じて適宜、部分的な変更や改良を加えても差し支えない。

一方、標準的方法以外の方法については基本操作と留意事項を記述した。必要に応じて、標準的方法との比較や添加系における回収実験等を行い、対象水に対する適切性、回収率等を確認することが適当である。

なお、検査機器等の整備に当たっては、試験の目的、対象水の水質等に応じて選択した方法に必要な試薬、器具、器材を用意すればよく、試験方法に記載されているすべての試薬、器具、器材等を用意する必要はない。

1 試料の採取

クリプトスポリジウム等は感染力が強いため、水道では低濃度でも問題になる。このため、原水、水道水ともに大量の水を採取して試験しなければならない。また、ガラス壁に付着しやすい性質があるといわれていることから、採取容器は大型のポリエチレン又はポリプロピレン製容器を用いる。

試料水の量は原水で概ね10L、水道水で20Lを標準とし、その全量を用いて検査する。応急対応のための検査にあっては、水道水40L(消毒のみで給水する水道等であって原水を対象とする場合も原水40L)を採水場所毎に3試料採取し、その全量を濃縮して、各濃縮物の半量を検査し、残りの半量を保存しなければならない。

1) 器具

試料容器:容量10Lまたは20Lのポリエチレン又はポリプロピレン製で、スクリューキャップ付きのもの。あらかじめ採水量に相当する目盛りを付しておくとよい。

2) 操作

試料水の適量を試料容器に採取し、密栓して24時間以内に試験室に搬入し、速やかに濃縮処理を行う。

備考 予め界面活性剤を加えることで、試料の試料容器への付着を防止することによる回収率の向上が期待できる。ただし、試料水からの懸濁粒子の捕捉・濃縮の際に吸引ろ過法を用いる場合を除く。

2 懸濁粒子の捕捉・濃縮

試料水中の懸濁粒子を捕捉して濃縮する方法には、アセトン溶解性のメンブレンフィルターを用いた吸引ろ過法あるいは加圧ろ過法、親水性PTFEメンブレンフィルター法、粉体ろ過法、アセトン非溶解性のポリカーボネートメンブレンフィルター法(吸引ろ過法又は加圧ろ過法)、カートリッジフィルター法、遠心沈殿法がある。このうち、粉体ろ過法、ポリカーボネートメンブレンフィルター法、カートリッジフィルター法、遠心沈殿法についてはいずれも知見の集積が少なく、適用できる水質や操作条件等の詳細が必ずしも十分には明らかになっていないので、基本操作及び留意事項を記載するに留めた。これらの未確定な方法を採用する場合は、予備的検討を行い、適正な条件を設定する必要がある。

2.1 メンブレンフィルター吸引ろ過―アセトン溶解法

本法は、孔径1μm付近のアセトン溶解性メンブレンフィルターを用いて吸引ろ過したのち、メンブレンフィルターをアセトンにより完全溶解して除去し、残った沈渣を濃縮物として回収する方法である。高濁度試料水の場合は多量のメンブレンフィルターを要するなどの難点がある。

1) 試薬

(1) 精製水:イオン交換水又は蒸留水等の精製水で、クリプトスポリジウム等による汚染のないもの。

(2) 10倍濃度PBS(10倍濃度リン酸緩衝生理食塩水、pH7.4):精製水約800mLに塩化ナトリウム80g、塩化カリウム2g、リン酸二水素カリウム2g、リン酸一水素ナトリウム12水和物29gを溶解し、1N塩酸または1N水酸化ナトリウムを用いてpH7.4に調整したのち、精製水を加えて1Lとする。

(3) PBS(リン酸緩衝生理食塩水、pH7.4):精製水900mLに10倍濃度PBS100mLを加えて混合する。pH値を確認し、必要に応じて0.1N塩酸又は0.1N水酸化ナトリウムを用いてpH7.4に調整する。

(4) 界面活性剤加PBS(界面活性剤添加リン酸緩衝生理食塩水、pH7.4):PBS1LにPolyoxyethylene(20)sorbitan monooleate(Tween80又はそれと同等のもの)1mLを加え、混和する。

(5) アセトン:試薬特級

(6) エタノール:試薬特級

2) 器具及び器材

(1) 吸引ポンプ

(2) 吸引瓶又はマニホールド(フィルターホルダーセット用)

(3) フィルターホルダーセット(ベース、ファネル、固定金具)

(4) トラップ用吸引瓶(ろ過水用及びアセトン廃液用)

(5) メンブレンフィルター:孔径1μm付近で、アセトンに完全溶解するセルロース混合エステルタイプの材質のもの。

(6) フィルター用ピンセット

(7) 連結用チューブ

(8) 遠沈管:容量15mL又は50mLのポリプロピレン製でスクリューキャップ付きのもの。目盛付きのものが使用しやすい。

(9) 遠心沈殿機:遠心荷重1,050×g(半径15cmスイング型ローターで2,500rpmに相当)が保証でき、15mL及び50mL遠沈管用多本掛バスケット付きで、ブレーキの解除ができるもの。

(10) アスピレーター

(11) パスツールピペット又は駒込ピペット

3) 操作

(1) ろ過装置の組立:吸引ろ過装置にメンブレンフィルターをセットし、[フィルターホルダーをセットした吸引瓶又はマニホールド]―[トラップ用吸引瓶]―[吸引ポンプ]の順にチューブ等で連結する。

(2) ろ過:試料水をファネルに注ぎ、吸引ポンプを用いて吸引ろ過する注1、2)。試料水を全てろ過し終わったのち、試料容器に界面活性剤加PBS200~300mLを加え、強く振とうして内部を洗浄し、洗液を同様にろ過する。さらに試料容器に精製水200~300mLを加えて内部を再度すすぎ、すすぎ液を同様にろ過する。

注1) 試料容器内の全量をろ過する。

注2) ろ過速度が遅くなり始めた時点で試料水の供給を停止してメンブレンフィルターを交換する。ろ過済みのメンブレンフィルターは乾燥させないように注意して保管する。

(3) 回収

i) メンブレンフィルターの溶解・除去:ろ過に用いたメンブレンフィルターを遠沈管に入れる注1)。十分量注2)のアセトンを速やかに加え、スクリューキャップを強く閉め注3)、直ちに強く攪拌してメンブレンフィルターを溶解した後注4)、1,050×gで10分間遠心する。上清(アセトン層)を吸引除去注5、6)した後、沈渣をよくほぐし、再び十分量注2)のアセトンを加えて強く攪拌して沈渣を完全に分散させる。これを1,050×gで10分間遠心し上清を吸引除去する注7)

ii) アセトン除去と水和:遠沈管内の沈渣に遠沈管容量の約1/10量注8)のエタノールを加えて十分攪拌したのち、エタノールと等量のPBSを加えて再び充分攪拌する。繰り返し攪拌しながらPBSを徐々に加えて遠沈管を満たした後、1,050×gで10分間遠心する。上清を捨て、沈渣を丁寧にほぐした後、PBS約10mL注9)を加えてよく攪拌し、1,050×gで10分間遠心して、上清を捨てる。

得られた沈渣の量が少なく顕微鏡観察に支障がない場合はそのまま4 オーシスト等の検出に移る。沈渣が多い場合は3 オーシスト等の分離精製を行った後、4 オーシスト等の検出に移る。

注1) 一度に処理するメンブレンフィルターの枚数は、15mL遠沈管の場合47mm径メンブレンフィルター5枚、50mL遠沈管の場合142mm径メンブレンフィルター2枚程度を上限とし、極力少なくすることが望ましい。

注2) 加えるアセトン量は、15mL遠沈管の場合12mL、50mL遠沈管の場合45mL程度とする。

注3) アセトンの揮発防止のため、遠沈管のスクリューキャップをしっかりと閉める。

注4) アセトンを加えたまま放置するとメンブレンフィルターが溶解しなくなり、フィルター残渣が生じる。

注5) アスピレーターの使用が可能であるが、アセトン廃液は所定の廃棄物処理を行う。

注6) 試料にフィルター成分が残ると、次の水和処理で析出して沈渣が固化し、回収率が低下する等の問題が生じるおそれがある(フィルター成分の残存は、多くのフィルターを少ないアセトンで溶解した場合に特に見られる)。そのため、遠心沈殿後のアセトン上清を精製水に滴下し、フィルター成分の析出がないことを確認するとよい。

注7) 沈渣にフィルター残渣が認められるようであれば、アセトンによる遠心洗浄を繰り返す。

注8) 沈渣量が多い場合は、沈渣の量に応じてエタノールを適宜増量する。

注9) 沈渣量が多い場合は、沈渣の量に応じてPBSを適宜増量する。

2.2 メンブレンフィルター加圧ろ過―アセトン溶解法

本法は、2.1 メンブレンフィルター吸引ろ過―アセトン溶解法と同様、孔径1μm付近のアセトン溶解性メンブレンフィルターを用いるが、ろ過を加圧方式で行う点が異なる。吸引ろ過法に比べて比較的多量の試料水をろ過できる利点がある。

1) 試薬

2.1 1) に同じ。

2) 器具及び器材

(1) 加圧装置:ペリスタポンプ

(2) 加圧ろ過用フィルターホルダーセット

このほかに、2.1 2)の(4)~(11)。

3) 操作

(1) ろ過装置の組立:フィルターホルダーにメンブレンフィルターをセットし、[試料水の入った試料容器]―[加圧装置]―[フィルターホルダー]―[ろ液受け]の順にチューブ等で連結する。

(2) ろ過:メンブレンフィルターに瞬間的に大きな負荷がかからないよう徐々に加圧し、フィルターホルダーの安全弁を開けてチューブ内に溜まった空気を排出する。試料水があふれ出る直前に安全弁を閉じてろ過を開始し、試料容器内の試料水の全量をろ過する注1)。試料水を全てろ過し終わった後、試料容器に界面活性剤加PBS200~300mLを加え、強く振とうして内部を洗浄し、洗液を同様にろ過する。さらに試料容器に精製水200~300mLを加えて内部を再度すすぎ、すすぎ液を同様にろ過する。

(3) 回収:ろ過に用いたすべてのメンブレンフィルターを集め、2.1 3)(3)回収に従って濃縮物を回収する。得られた沈渣の量が少なく顕微鏡観察に支障がない場合はそのまま4 オーシスト等の検出に移る。沈渣が多い場合は3 オーシスト等の分離・精製を行った後、4 オーシスト等の検出に移る。

注1) ろ過速度が遅くなり始めた時点で試料水の供給を停止してメンブレンフィルターを交換する。ろ過済みのメンブレンフィルターは乾燥させないように注意して保管する。

2.3 親水性PTFEメンブレンフィルター法

本法は、孔径5μm以下の親水性PTFEメンブレンフィルターを用いてろ過した後、メンブレンフィルターを50mLの遠沈管に挿入し攪拌子とともに試験管ミキサーを用いて強く攪拌して、メンブレンフィルター上の捕捉物を洗い出す方法である。

1) 試薬

(1) 精製水:2.1 1)(1)に同じ。

(2) 100倍濃度PET(100倍濃度ピロリン酸ナトリウム希釈液):精製水約800mLにピロリン酸ナトリウム10水塩20g、エチレンジアミン四酢酸3ナトリウム30g、Polyoxyethylene (20) sorbitan monooleate(Tween80またはそれと同等のもの)10mLを溶解し、1N塩酸または1N水酸化ナトリウムを用いてpH7.4に精製したのち、精製水を加えて1Lとする。

(3) 界面活性剤添加ピロリン酸ナトリウム希釈液(PET):精製水990mLに100倍濃度PET10mLを加えて混合する。

2) 器具および器材

(1) 親水性PTFEメンブレンフィルター:孔径5μm以下、直径142mm、または90mm

(2) フィルターホルダーセット(加圧ろ過の場合)

(3) ペリスタポンプ(加圧ろ過の場合)

(4) 吸引ポンプ(吸引ろ過の場合)

(5) 吸引瓶またはマニホールド(吸引ろ過の場合)

(6) 吸引ろ過用フィルターホルダーセット(吸引ろ過の場合)

(7) 送液チューブ(加圧ろ過の場合):内径8mmのシリコン製

(8) ホースバンド

(9) フィルター用ピンセット(先端部が鋭利でないもので先が曲がったもの)

(10) 遠沈管:2.1 2)(8)の容量50mLで、目盛り付きのもの。

(11) 試験管ミキサー:出力50W以上

(12) 遠心沈殿機:2.1 2)(9)に同じ。

(13) 攪拌子:長さ35mm、幅16mm、フットボール型

3) ろ過操作

(1) 加圧ろ過の場合

i) PETを試料水1Lに10mLの割合で加え、よく混和する。

ii) フィルターホルダーのサポートスクリーン上に親水性PTFEメンブレンフィルターを重ね、PETで全体を湿らせる。

iii) フィルターホルダーをセットしてチューブポンプと接続し、徐々に試料水を送る。

iv) 上部プレートのエアーベントを開け、ホルダー内の空気を抜きその後閉める。

v) ポンプのろ過速度を上げて毎分2L程度に設定する。

vi) 試料水をすべてろ過し終わったのち、試料容器にPETを200~300mLを加え、強く振とうして内部を洗浄し、洗液を同様にろ過する。

vii) さらに試料容器に精製水200~300mLを加えて内部を再度すすぎ、すすぎ液を同様にろ過する。

viii) ろ過終了後、ポンプの電源を切り、フィルターホルダーの排水側をアスピレーターに接続して、ホルダー内の水をすべて吸引する。

ix) ピンセットを用いてメンブレンフィルターを下図のように折りたたみ、50mL遠沈管(遠沈管1)に入れる。

x) ろ過に数枚のメンブレンフィルターが必要な場合は、ろ過速度の低下、送液チューブの膨張などをみてメンブレンフィルターを交換する(50mL遠沈管には142mmメンブレンフィルターを同時に3枚まで入れることができる)。

xi) 回収操作に進む。

メンブレンフィルターの折りたたみ方

(2) 吸引ろ過の場合

i) フィルターホルダーにメンブレンフィルターをセットし、PETで全体を湿らせる。

ii) 試料水をすべてろ過し終わったのち、試料容器にPETを200~300mLを加え、強く振とうして内部を洗浄し、洗液を同様にろ過する。

iii) さらに試料容器に精製水200~300mLを加えて内部を再度すすぎ、すすぎ液を同様にろ過する。

iv) ろ過終了後、取り外したメンブレンフィルターを(1)と同様に折りたたみ、50mL遠沈管(遠沈管1)に入れる。

v) ろ過に数枚のメンブレンフィルターが必要な場合は、ろ過速度の低下などをみてメンブレンフィルターを交換する(50mL遠沈管には142mmメンブレンフィルターを同時に3枚まで入れることができる)。

vi) 回収操作に進む。

4) 回収操作

(1) 遠沈管1にPET15mLと攪拌子をいれ、回転速度を最大に設定した試験管ミキサーで2分間攪拌する。(時々遠沈管を上下に振り、中のメンブレンフィルターがよく展開するようにする)。

(2) メンブレンフィルターを1枚ずつピンセットで遠沈管1の内面に当てて水分を絞り、メンブレンフィルターと攪拌子を取り出す。

(3) 懸濁液を新しい50mL遠沈管(遠沈管2)に移し、遠沈管1に攪拌子とメンブレンフィルターを戻し、洗い出し液10mLを加え、試験管ミキサーを用いて1分間攪拌し、同様の操作でメンブレンフィルターを取り出し懸濁液を遠沈管2に統合する。

(4) この操作を合計で3回繰り返し、最後に遠沈管1を洗い出し液5mLでリンスし、遠沈管2に統合する(得られる懸濁液の総量は50mLになる)。

遠沈管2を1,050×gで10分間遠心濃縮し、上清を吸引除去する。

2.4 粉体ろ過法

本法は、メンブレンフィルター(支持体)上に直径30μm前後の粉体(酸溶解性のハイドロキシアパタイト粒子)を積層させたケーキろ過層を用いて試料をろ過した後、フィルター部分から分離させたろ過層の粉体を塩酸で溶解し、遠心分離操作により濃縮物を回収する方法である。アセトンを使用しないで済む利点がある一方、次の操作に移行する前に粉体成分のカルシウムと溶解に使用する塩酸を除去し、回収液のpHを中性域に調整する必要がある。したがって、本法の採用に当たっては、予め溶解処理後の遠心洗浄・回収条件を十分検討し、適正な操作条件を設定する必要がある。

粉体ろ過法の基本操作及び留意事項は次の通りである。

均質なろ過層が形成できなければ正確な濃縮が期待できないので、先に精製水をろ過してろ過層に異常がないことや、ろ過条件(圧力や流速など)が正常値の範囲にあることを確認し、試料水のろ過を始める。ろ過層が乱れないよう、連続的にろ過する。試料容器内の試料水が無くなったら界面活性剤加PBSにより容器内部を洗浄し、洗浄液をろ過する。容器の洗浄中は、一時的に界面活性剤加PBSや精製水をろ過し、ろ過の中断を避ける。ろ過層がろ過物により閉塞しないよう、適宜ろ過を停止して粉体ろ過層を交換する。

ろ過濃縮物は、粉体を塩酸で溶解してから、遠心濃縮と洗浄等で取り出す。

なお、本法を採用する場合は以下の点に十分留意する必要がある。

(1) 操作法等については、ろ過層並びにろ過補助装置の用法や使用上の注意に従う。

(2) 懸濁粒子が多い試料では閉塞して複数回のろ過を必要とする。予め目的試料で濁度とろ過回数の関係を確認し、濁度に応じたろ過回数の目安をたてておくと、濃縮法を選択するうえでの判断材料になる。

(3) 免疫磁性体粒子法による精製を行う場合、濃縮物は塩酸を除いて中性にしておかなければ、抗原抗体反応が阻害され、オーシスト等の回収が不能となることに留意する。

(4) ろ過層が乱れると十分な捕捉・濃縮機能を発揮できなくなるため、乱れの原因となるろ過の中断といった圧力変化等が起きないよう留意する。

(5) ろ過が完了した後、直ちに溶解・除去を行わない場合は、ろ過層(メンブレンフィルター含む)を遠沈管等に入れ乾燥させないよう密栓して冷蔵保存する。

(6) その他、試料の操作ロスを極力少なくするため、試料への界面活性剤の添加が有効である。

2.5 ポリカーボネートメンブレンフィルター法

本法は、アセトン溶解性フィルターの代わりにアセトン非溶解性のポリカーボネートメンブレンフィルターを用いる方法である。試料水の水質によってはアセトン溶解性のメンブレンフィルターに比べてろ過に時間を要する場合があるが、メンブレンフィルターからの粒子の剥離が容易であり、アセトンを使用せずに濃縮物を回収できる利点がある。

本法の採用に当たっては、予めメンブレンフィルターからの剥離・回収条件を十分検討し、適正な操作条件を設定する必要がある。

ポリカーボネートメンブレンフィルター法の基本操作及び留意事項は次の通りである。

ポリカーボネートメンブレンフィルター(孔径2μm以下)を用いて、2.1 メンブレンフィルター吸引ろ過―アセトン溶解法又は2.2 メンブレンフィルター加圧ろ過―アセトン溶解法に準じて吸引ろ過又は加圧ろ過する。ろ過したメンブレンフィルターから、超音波処理、セパレーターによる掻き取り、界面活性剤加PBS中での手もみ等により捕捉物を剥離させ、剥離物の全量を回収する。これを遠沈管に集め、1,050×gで10分間遠心する。上清を捨て、沈渣を丁寧にほぐした後、PBS約10mLを加えてよく攪拌し、再度1,050×gで10分間遠心して、上清を捨てる。

得られた沈渣が少なく顕微鏡観察に支障のない場合はそのまま4 オーシスト等の検出に移る。沈渣量が多い場合は、必要に応じて3 オーシスト等の分離・精製を行った後、4 オーシスト等の検出に移る。

備考 超音波処理を行う場合、処理しすぎるとオーシスト等が破壊されることがある。また、超音波処理の過程でエアロゾルが飛散する可能性があるので、注意して操作する。

2.6 カートリッジフィルター法

本法は、孔径1μm程度以下のフィルターを可搬型ハウジングに高密度に収納したカートリッジフィルターを用いる方法である。吸引ろ過又は加圧ろ過のいずれの方法にも使用できる。濁質の少ない水では多量の試料水が濃縮できるほか、濁質の多い試料水の濃縮にも適用可能と考えられるが、現在入手可能なフィルターでは良好な回収率が得られるかどうか確認されていない。したがって、本法の採用に当たっては、予めフィルターからの剥離・回収条件を十分検討し、適正な操作条件を設定する必要がある。

カートリッジフィルター法の基本操作及び留意事項は次の通りである。

カートリッジフィルターに対応した所定の方法で試料水をろ過した後、ハウジング内に誘出液を入れ、振とう等によって濃縮物をフィルターから剥離した後、その全量を回収する。必要に応じてこの操作を繰り返し、回収液の全量を1,050×gで10分間遠心する。上清を捨て、沈渣を丁寧にほぐした後、PBSを加えてよく攪拌する。これを再び1,050×gで10分間遠心して、上清を捨てる。

得られた沈渣の量が少なく顕微鏡観察に支障がない場合はそのまま4 オーシスト等の検出に移る。沈渣が多い場合は3 オーシスト等の分離・精製を行った後、4 オーシスト等の検出に移る。

2.7 遠心沈殿法

本法は、試料水中の懸濁粒子を遠心沈殿により濃縮する方法である。遠心沈殿法により懸濁物質を回収する場合、遠心荷重(g値)と遠心時間が重要であり、本法の採用に当たっては、オーシスト等添加系等での回収実験を行って適正な操作条件を設定する必要がある。また、遠心機を停止させる際にブレーキを使用すると遠沈管内に渦流が発生して沈渣が再浮上し、回収率に影響することがあるので、遠心沈殿機はブレーキ機能を解除して自然停止できるものを使用する。

遠心沈殿法の基本操作及び留意事項は次の通りである。

遠心機の使用方法に合わせて、オーシスト等の沈殿が保証される条件で遠心する。上清を捨て、沈渣をすべて遠沈管に集め、十分分散したのち、PBSを加えて再度よく攪拌する。これを1,050×gで10分間遠心し、上清を捨てる。

得られた沈渣の量が少なく顕微鏡観察に支障がない場合はそのまま4 オーシスト等の検出に移る。沈渣が多い場合は3 オーシスト等の分離・精製を行った後、4 オーシスト等の検出に移る。

3 オーシスト等の分離・精製

懸濁粒子の捕捉・濃縮によって得られた濃縮物中に多量の夾雑物が含まれていて、そのままでは顕微鏡観察によるオーシスト等の確認が困難な場合に、オーシスト等を選択的に分離して精製する方法である。密度勾配遠沈法(浮遊法)と免疫磁性体粒子法(免疫磁気ビーズ法)の二通りの方法がある。

3.1 密度勾配遠沈法(浮遊法)

本法は、濃縮物を比重1.10~1.20の高比重液の上に載せて遠心し、オーシスト等を高比重液層の界面部分に集めて選択的に分離・精製する方法である。濃縮物中の比重の大きい粒子は沈渣として排除され、オーシスト等は水層と高比重層の界面部分に集まるので、その界面部分(絮状沈殿層:フラッフ)又は沈渣以外の全液層を回収することによってオーシスト等を選択的に分離濃縮することができる。しかし、生物性懸濁粒子など、高比重液層よりも比重が小さい粒子はオーシスト等との分離ができず、それらを多く含む試料では必ずしも十分な分離・精製ができない。

1) 試薬

(1) 精製水:2.1 1)(1)に同じ。

(2) 10倍濃度PBS(pH7.4):2.1 1)(2)に同じ。

(3) PBS(pH7.4):2.1 1)(3)に同じ。

(4) 高比重液:次の(a)、(b)のいずれかを用いる。用時に室温に戻し、液体比重計により比重を確認する。

i) ショ糖液(比重1.20):精製水650mLにサッカロース(C12H22O11FW:342)500gを攪拌しながら徐々に加えて溶解する。

ii) コロイドPVP処理シリカ―ショ糖混合液(比重1.10):精製水45mLにコロイドPVP処理シリカ(Percoll又はそれと同等のもの)45mL及び2.5Mショ糖液10mL(8.55gのショ糖を精製水に溶解して全量を10mLとする)を加えて混合する。

2) 器具及び器材

(1) 遠心沈殿機:2.1 2)(9)に同じ。

(2) パスツールピペット

(3) 遠沈管:2.1 2)(8)の容量15mLで、目盛り付きのもの。

(4) 液体比重計

3) 操作

2 懸濁粒子の捕捉・濃縮で得られた沈渣を丁寧にほぐした後、PBS約3mL注1)を加えてよく攪拌する注2)。攪拌後、直ちに試験管立てに入れてパスツールピペットにより高比重液約2mLを遠沈管底部にゆっくり注入して2重層とする注3)。重層界面が乱れないように注意して遠心沈殿機に入れ、1,050×gで10分間遠心する注4)。パスツールピペットを用いて、まずフラッフを回収し、新たな15mL遠沈管(回収用遠沈管)に移す。次いで、PBS層の全量、高比重液層上層部1/4~1/2程度を回収し、先の回収液に加える(1回目の回収)。

遠沈管に残った沈渣を再び丁寧にほぐした後、遠沈管残液の約4倍量のPBSを加えてよく攪拌し、高比重液約2mLを遠沈管底部にゆっくり注入して2重層とする。これを1,050×gで10分間遠心した後、1回目の回収と同様に、フラッフ、PBS層、高比重層上層部を回収して、1回目の回収液に加える(2回目の回収)。

この回収液の全量を染色用試料とし、4オーシスト等の検出に移る。

注1) 沈渣量が多い場合は加えるPBSを適宜増量する。沈渣量が0.5mLを超える場合は、遠沈管1本当たりの沈渣量が0.5mL以下になるように数本に分割して行う。

注2) 超音波処理により沈渣中の粒子塊を破砕・分散させると回収率が改善されることがある。その際、超音波処理によるオーシスト等の破壊がないように十分注意する。

注3) 攪拌後直ちに高比重液を注入する。直ちに注入できなかった場合は、必ず再度攪拌してから高比重液を加える。高比重液を加える際に、ゴム球等を用いて強制的に注入すると2層界面が乱れやすいので、ピペット先端を遠沈管最下端に付けた後、ピペットエンド(吸い口部分)をわずかに解放してゆっくり自然落下させて注入するとよい。また、パスツールピペットを抜き取る際に、ピペット先端で遠沈管内壁をなぞるようにしてゆっくり引き上げると境界面を乱さない。

注4) 遠心後、遠沈管内に上からPBS層、フラッフ、高比重液層が形成され、最下部に沈渣が集積している。このフラッフにオーシスト等が選択的に濃縮される。なお、場合によって500×g、10分程度の遠心処理でオーシスト等の回収率が向上したとの報告もある。

3.2 免疫磁性体粒子法(免疫磁気ビーズ法)

本法は、表面にクリプトスポリジウム等に対する特異抗体を吸着させた磁性体粒子と濃縮試料中のオーシスト等を選択的に結合させ、その後に磁石を用いて磁性体粒子に結合したオーシスト等を回収するものである。この方法を用いることで、オーシスト等を高度に選択的に回収することができる。しかし、オーシスト等と免疫磁性体粒子の結合力が比較的弱いため、個々の操作に細心の注意が求められる。また、共存する懸濁粒子の量や性状によっては回収率が低下することがあるので、本法の採用に当たっては、予め密度勾配遠沈法との比較評価や添加系での回収率の確認等を行い、試料水の水質に応じた適正な操作条件を構築する必要がある。

免疫磁性体粒子法の基本操作及び留意事項は次の通りである。

2 懸濁粒子の捕捉・濃縮で得られた沈渣に所定の緩衝液を加え、十分攪拌して分散注1)させた後、免疫磁性体粒子を所定量加える。これを混和して免疫磁性体粒子とオーシスト等を結合させたのち、磁石により免疫磁性体粒子―オーシスト等の結合物を回収する。次いで、回収物に所定の解離液を加えて結合を解き、磁石で磁性体粒子のみを容器壁面等に固定してから液層を回収する。この回収液を精製濃縮液とし、4オーシスト等の検出に移る。

なお、本法は操作の方法や条件が必ずしも確立されていないので、当面、本法を採用する場合は以下の点に十分留意する必要がある。

(1) 操作法等については試薬キットの用法や使用上の注意に従う。

(2) 懸濁粒子が多い試料ではオーシスト等の回収率が低下する傾向が認められるので、濃縮物と免疫磁性体粒子との適正な混合比を検討しておく必要がある。

(3) 濃縮物と免疫磁性体粒子を混合する場合、オーシスト等と免疫磁性体粒子を効率的に接触・反応させるための工夫が必要である。特に、試料水中の懸濁物質の捕捉・濃縮過程で形成された濃縮物の塊を十分にほぐして、オーシスト等が良好な分散状態にあるようにしなければならない注1)。また、免疫磁性体粒子と懸濁物質とを均一に混和させるように注意する必要がある。

(4) 免疫磁性体粒子とオーシスト等の結合力は比較的弱いので、反応後は強い振とうや衝撃を避ける。

(5) 免疫磁性体粒子とオーシスト等の反応時間は室温で30分間ないし1時間が一般的だが、低温下で一晩の反応でも良好な結果が得られる。あるいは、試薬キットに特別な指示があれば、その指示に従う。

(6) 遺伝子検出法用の試料を調製する場合は、遺伝子増幅反応への阻害物質の混入を極力防ぐため、夾雑物が完全に除去されるまで免疫磁性体粒子―オーシスト等の結合物を繰り返し洗浄する。

(7) その他、微量の試料を散逸させないよう、丁寧に取り扱う必要がある。

注1) 超音波処理が効果的であるとの報告がある。

4 オーシスト等の検出

4.1 蛍光抗体染色―顕微鏡検査法

水試料の濃縮物中にはオーシスト等以外の粒子が多数混在しているのが一般的であり、そのままでは夾雑物の妨害により顕微鏡観察が不可能であることから、免疫反応を利用してオーシスト等を特異的に染色し、顕微鏡観察を容易にする方法である。蛍光抗体染色法には蛍光標識した一次抗体のみで行う直接蛍光抗体染色法と、一次抗体と蛍光標識した二次抗体の2種類の抗体を使用する間接蛍光抗体染色法の二通りの方法がある。

4.1.1 直接蛍光抗体染色法

本法は、染色用試料をろ過して懸濁粒子をメンブレンフィルター上に捕捉し、メンブレンフィルター上のオーシスト等をFITC標識単クローン抗体を用いて特異的に染色する方法である。

1) 試薬

(1) 精製水:2.1 1)(1)に同じ。

(2) メタノール:試薬特級

(3) 抗体試薬:FITC標識抗‐クリプトスポリジウムオーシスト単クローン抗体、FITC標識抗‐ジアルジアシスト単クローン抗体。単体の抗体試薬又は試薬キットとして市販されている。

(4) ブロッキング試薬:10%ウシ血清アルブミン加PBS、10%カゼイン加PBS、10%ヤギ血清加PBSなど。自家調製する場合はメンブレンフィルター(孔径2μm以下)でろ過して冷蔵保存する。

(5) 10倍濃度PBS(pH7.4):2.1 1)(2)に同じ。

(6) PBS(pH7.4):2.1 1)(3)に同じ。

(7) 封入剤:以下の封入剤のいずれかを用いる。

i) DABCO―グリセリン(セルロースアセテートメンブレンフィルター用):グリセリン(比重1.26)12.6gを60~70℃に加温し、これにDABCO(1,4―Diazabicyclo[2,2,2]octane又はこれと同等のもの)0.2gを加えて撹拌・溶解する。使用時に調製するのがよい。

ii) 水性封入剤(PTFEメンブレンフィルター用):DABCO―PBS(PBS、pH7.4、にDABCO0.2gを加えて攪拌・溶解したもので、使用時に調製する)又は市販の蛍光試料用水性封入剤(Fluoprepまたはそれと同等のもの)。

(8) エタノール段階希釈液(脱水用グリセリン加工タノール段階希釈液):グリセリン、エタノール及び精製水を下記の比率で混合する。

濃度

30%

70%

90%

グリセリン(g)

6.3

6.3

6.3

エタノール(mL)

30

70

90

精製水(mL)

65

25

5

(9) DAPI保存液:メタノール1mLにDAPI(4',6―diamidino―2―phenylindole)2mgを溶解する。

密閉容器に入れ、遮光して冷蔵庫に保管する。

(10) DAPI染色液:PBS50mLにDAPI保存液10μLを加えて混合する。本液は使用時に調製する。残った希釈液は所定の方法で廃液として処理する。

2) 器具及び器材

(1) メンブレンフィルター:セルロースアセテート又はPTFE製で、孔径2μm以下、直径25mmのもの。

(2) スライドグラス

(3) カバーグラス

(4) フィルター用ピンセット

(5) 恒温器:温度を35~37℃に保持できるもの。

(6) 吸引瓶又はマニホールド

(7) フィルターホルダーベース:直径25mmメンブレンフィルター用のもの注1)

(8) 吸引ポンプ又はアスピレーター

(9) 撥水ペン

(10) マイクロピペット

(11) 湿箱:遮光・密閉でき、底部が平らなもの(金属製の菓子箱などで代用できる)。内部に精製水を含ませた紙等を置き、高湿度に保っておく。

注1)焼結ガラス製のものを用いると、メンブレンフィルターにゆがみが生じにくい。

3) 操作

特別の留意点:以下の操作は、途中の段階で乾燥が生じると染色不良となるので、一つの操作が終わったら速やかに次の操作に移る。一連の操作を途中で中断してはならない。

(1) 染色用試料の調製:2.4粉体ろ過法以外の捕捉・濃縮法より回収した沈渣はPBSを加えて一定量とする。2.4粉体ろ過法により回収した濃縮物は、塩酸を用いて粉体を溶解後に精製水を加えて一定量とする。3.1密度勾配遠沈法(浮遊法)により精製した染色用試料はそのまま使用する。3.2免疫磁性体粒子法(免疫磁気ビーズ法)により分離精製した染色用試料は、必要に応じてPBSを加えて一定量とする。いずれも液量を読みとり、記録しておく。

(2) フィルターの調製:メンブレンフィルターの中央に撥水ペンで直径約15mmの円を描き、PBSで濡らす注1)。フィルターホルダーのベースを吸引瓶等にセットし、弱く吸引しながら、ベース上端面をPBSでゆっくりと洗浄したのち、円を描いた面を上にしてメンブレンフィルターをホルダーベース上に載せる。

(3) 染色用試料の添加:染色用試料の適量注2)、陰性対照(PBS液)及び陽性対照注3)(試薬キット添付又は自家調製)をそれぞれ個別のメンブレンフィルターに少量ずつ、円内全面に行き渡るように滴下しながら、必要に応じて弱く吸引して、ゆっくりろ過注4、5、6)する。次いで、少量のブロッキング試薬を円内全面に行き渡るように滴下し、室温で約5分間作用注7)させた後、残ったブロッキング試薬を吸引除去する(除去したら直ちに吸引を停止し、速やかに(4)の操作に移る)。

(4) 抗体処理:メンブレンフィルターの円外部分をフィルター用ピンセットで挟んでスライドグラス上に移し、湿箱に入れる。少量の抗体試薬をメンブレンフィルターの円内全面に行き渡るように滴下し、室温で所定の時間注8)反応させる注9)。反応終了5分前にDAPI液100μLを加える注10)。反応後、メンブレンフィルターをホルダーベースに戻し、弱く吸引しながら、PBS約10mLを用いて円内全面をゆっくりとろ過洗浄する注11)

(5) 脱水処理:(セルロースアセテートメンブレンフィルターを用いた場合にのみ適用)エタノール段階希釈液を、エタノール濃度の低いものから順にそれぞれ約1mLずつ、弱く吸引しながら、円内全面をゆっくりとろ過・脱水する注12)

(6) 封入処理:(セルロースアセテートメンブレンフィルターを用いた場合にのみ適用)

i) 封入用スライドグラスの準備:予め、清浄なスライドグラスに検体名、試料番号、その他必要事項を記載したのち、封入剤約75μLをスライドグラス上に載せ、35~37℃で保温しておく。

ii) 封入操作:スライドグラスの封入剤の上に、試料面を上にしてメンブレンフィルターを載せた後注13)、35~37℃で約20分間保温する注14)。スライドグラスを取り出し、メンブレンフィルター上面に封入剤約25μLを滴下する。気泡を入れないように注意してメンブレンフィルターの上にカバーグラスを掛け、カバーグラスからはみ出した封入剤を拭き取る。周囲をネイルエナメル等で封じたのち、4.1.3顕微鏡観察に移る。直ちに顕微鏡観察できない場合は、遮光して冷蔵保存する。

(7) 封入処理:(PTFEメンブレンフィルターを用いた場合にのみ適用)

i) 封入用スライドグラスの準備:予め、清浄なスライドグラスに検体名、試料番号、その他必要事項を記載しておく。

ii) 封入操作:スライドグラスに、試料面を上にしてメンブレンフィルターを載せた後、メンブレンフィルター上面に市販の蛍光試料用水性封入剤又はDABCO―PBS約25μLを滴下する。気泡を入れないように注意しながら、メンブレンフィルターの上にカバーグラスを掛け、カバーグラスからはみ出した封入剤を拭き取る。周囲をネイルエナメル等で封じたのち、4.1.3顕微鏡観察に移る。直ちに顕微鏡観察できない場合は、遮光して冷蔵保存する。

注1) 予めPBSをシャーレに入れておき、撥水ペンで円を描いた面を上にしてメンブレンフィルターを液に浮かべると、撥水ペンの線を濡らさないですむ。濡れた場合は水滴を拭き取ってからろ過する。

注2) メンブレンフィルターのろ過能力が低下するほど多量の染色用試料を添加すると、染色や洗浄に影響するだけでなく、粒子が重なって顕微鏡観察に支障を来す。

注3) 陽性試料が他の試料等に混入しないように十分注意する。

注4) 強く吸引すると標本が乾燥するだけでなく、メンブレンフィルター面の捕捉に著しいムラが生じ、顕微鏡観察が妨げられる。このため、染色用試料が円内全面に渡ってゆっくりろ過できる状態になるよう、極めて微弱な陰圧状態でろ過しなければならない。これができない場合は、吸引を停止した状態で染色用試料を少量ずつ円内全面に滴下した後、吸引ポンプのスイッチを一瞬入れてろ過する。

注5) ろ過した染色用試料の液量を必ず記録しておく(後の計算に用いる)。

注6) 染色用試料中にショ糖等が含まれている場合は、PBS約10mLを用いて円内全面をゆっくりとろ過洗浄する。染色用試料中に塩酸が含まれている場合は、精製水約10mLとPBS約10mLを用いて円内全面をゆっくりとろ過洗浄する。

注7) 抗体の非特異吸着を防止するための処理である。この間、必要に応じてブロッキング試薬を追加し、ブロッキング試薬が常時保持された状態を保つ。

注8) 蛍光抗体染色法での反応時間は室温で30分以上が一般的だが、低温下で一晩の反応でも良好な結果が得られる。なお、試薬キットに記載された取扱方法がこれと異なる場合は、その指示に従う。

注9) 時々湿箱内を開けて、メンブレンフィルター円内の抗体液の残量をチェックする。なくなるようであれば少量ずつ追加する。

注10) この処理を行うとDAPIにより核が青色の蛍光を発するようになり、判定が容易になることが多い。ただし、DAPI液との反応時間が長すぎると夾雑物が強く染色され、判別を妨害するようになる。

注11) 円内を丁寧に洗浄する。洗浄液が円外に流れると染色用試料が流出するので、円を越えて流出しないように注意して操作する。

注12) 急激にろ過すると十分な脱水が行われないので、注4)に準じてゆっくりろ過する。

注13) エタノール段階希釈液(90%)で湿った状態のメンブレンフィルターを載せる。乾燥させてはならない。また、メンブレンフィルターとスライドグラスの間に気泡を入れないように留意する。

注14) この過程でメンブレンフィルターが透明化する。

備考 陽性対照が他の標本に混入しないよう操作の全体を通して注意する。また、マイクロピペットの先端をメンブレンフィルターに触れさせないよう十分注意し、標本中のオーシストの剥離を避ける。

4.1.2 間接蛍光抗体染色法

本法は、染色用試料をろ過して懸濁粒子をメンブレンフィルター上に捕捉し、メンブレンフィルター上のオーシスト等を一次抗体(抗‐クリプトスポリジウムオーシストマウス単クローン抗体等)と特異的に反応させたのち、FITC標識二次抗体(抗‐マウス免疫抗体ウサギ抗体等)を加えて一次抗体と反応させることにより、オーシスト等をFITCで標識する方法である。

間接蛍光抗体染色法の基本操作及び留意事項は次の通りである。

(1) 一次抗体処理:4.1.1 3)の(1)~(4)に準じて一次抗体処理を行う。

(2) 標識二次抗体処理:メンブレンフィルターをスライドグラスに移して湿箱に入れ、少量の標識二次抗体試薬をメンブレンフィルターの円内全面に行き渡るように滴下し、室温で所定の時間注1)反応させる。反応終了5分前にDAPI液100μLを加える。メンブレンフィルターをホルダーベースに戻し、弱く吸引しながら、PBS約10mLを用いて円内全面をゆっくりとろ過洗浄する。(セルロースアセテートメンブレンフィルターの場合は、洗浄後速やかに4.1.1 3)の(5)及び(6)の操作に移る。PTFEメンブレンフィルターの場合は、洗浄後速やかに4.1.1 3)の(7)の操作に移る。)

注1) 蛍光抗体染色法での反応時間は室温で30分以上が一般的だが、低温下で一晩の反応でも良好な結果が得られる。なお、試薬キットに記載された取扱方法がこれと異なる場合は、その指示に従う。

4.1.3 顕微鏡観察

蛍光抗体染色法で染色した顕微鏡標本を蛍光顕微鏡及び微分干渉顕微鏡により観察し、特異蛍光を発する粒子の寸法、外部及び内部形態を精査してオーシストを検出する。検出したオーシストを顕微鏡標本ごとに計数する。

1) 試薬及び器材

(1) 油浸オイル

(2) 顕微鏡:蛍光装置と微分干渉装置付き。20倍、40倍及び100倍の対物レンズ付き。

(3) ミクロメーター:接眼スケール又はその他の計測機器を付属すること。

(4) レンズペーパー

2) 顕微鏡観察の手順

(1) 陰性対照標本の観察:陰性対照標本を3)観察方法に従って検査し、標本中にオーシストが一切検出されないことを確認して(2)陽性対照標本の観察へ移行する。万一、標本中にオーシストが検出されるようなことがあれば標本作製の過程でなんらかの操作ミス(オーシストの混入など)があったものと判断してその時点で試験を中止し、作製した標本をすべて廃棄する。原因を究明した上で試験を始めからやり直す。

(2) 陽性対照標本の観察:陽性対照標本を3)観察方法に従って検査し、標本中のオーシストがFITCの特異蛍光を示していること、及び大半の夾雑物、又は標本のある部分が一面に特異蛍光を発するなどの異常が認められないことを確認して(3)検査用顕微鏡標本の観察に移行する。万一、標本中のオーシストがFITCの特異蛍光を示さない場合、オーシストが検出されない場合、又は上記の異常が認められた場合には標本作製の過程でなんらかの操作ミスがあったと判断してその時点で試験を中止し、作製した標本をすべて廃棄する。原因を究明した上で試験を始めからやり直す。

(3) 検査用顕微鏡標本の観察:3)観察方法に従って検査し、オーシストの有無とその数を数える。

3) 観察方法

(1) 低倍率によるFITCの蛍光観察:光源はB励起を選択し、20倍の対物レンズを用いてFITCの特異蛍光(緑色)を示す5μm程度の粒子を探す。粒子が検出されたらその都度(2)高倍率での観察に移る。標本中に特異蛍光を示す粒子が検出されなければ陰性と判断し、観察を終了する。

(2) 高倍率での観察:必要に応じて40倍~100倍の対物レンズを用い、B励起(FITCの蛍光観察)、UV励起(DAPIの蛍光観察)、及び微分干渉装置を用いて粒子のサイズを測定し、染色性や微細構造等を詳細に観察する。形態観察の要点をi)~iv)に示すが、標本の状態によって観察できる微細構造は限られることが多い。なお、蛍光の減衰を考慮して、蛍光顕微鏡観察は手際よく行う必要がある。

i) 一般的特徴:オーシストは類円形で、その長径は約5μmであるが、測定状況によって3.5~6.5μmの範囲に入る。オーシスト壁は薄く平滑で、その1ヶ所に縫合線(脱嚢時の開口部分)と呼ばれる亀裂様構造を有する。内部には4個の三日月型をしたスポロゾイト、残体とその他の顆粒を含む。標本によってはオーシストが変形して紙風船がひしゃげたような形状を呈することがある。また、縫合線が開口し、内部構造が消失していることもある。

ii) 蛍光抗体染色法で染色されたオーシストの特徴:B励起下でのFITCの特異蛍光は緑色である。オーシストが示す蛍光は一様ではなく、辺縁(シスト壁)の蛍光が強く、それに比して中央部は弱い。観察の方向によっては縫合線が確認できることがある。オーシストの内部が赤色、又は強い黄色を呈することはない。

iii) DAPI染色されたオーシストの特徴:UV励起下でのDAPIの特異蛍光は青色である。オーシスト内にスポロゾイトの核が1~4個青色に染まって見える。

iv) 微分干渉像の特徴:表面が平滑なオーシスト壁、その中に1~4個のスポロゾイト及び残体とその他の顆粒構造が確認できる。

(3) 判定:FITC標識蛍光抗体染色で緑色の特異蛍光を示す類円形の粒子で、3.5~6.5μmの範囲に入るもののうち、以下の条件のいずれかを満たす粒子をオーシストと認定し、その数を数える。

i) 蛍光抗体染色像又は微分干渉像で明らかに縫合線が観察される場合注1)

ii) 微分干渉像でスポロゾイトが確認される場合。

iii) DAPI染色の結果、オーシスト中のスポロゾイトの核が明瞭に観察される場合

注1)縫合線は開口している場合もある。

4) オーシストの計数

顕微鏡標本の試料塗布面全面を精査してオーシストを計数する。ただし、標本中に検出されるオーシストが非常に多い場合は標本を定量的に部分観察して検水20L当たりに換算表示してもよい。

5) オーシスト数の算出

オーシスト数の算出は以下の計算式に従って行う。

O20:試料水20L中のオーシストの数(個/20L)

N:検出されたオーシストの総数(個)、

Vt:試料水Vs(L)を濃縮して得た染色用試料の総液量(mL)

Vn:顕微鏡検査した染色用試料の総液量(mL)

Vs:濃縮した試料水量(L)

備考 本文ではクリプトスポリジウムについて記載したが、多くの市販の蛍光抗体試薬キットには抗―ジアルジア抗体が含まれており、ジアルジアのシストの同時検出が可能である。観察は3)観察方法に準じて行う。ジアルジアシストの形態的特徴及びその判定基準を以下に示した。

i.一般的特徴:ジアルジアのシストは卵円形で、その長径は8~12μm、短径5~8μmであるが、測定状況によっては長径が8~18μmの範囲に入る。シスト壁は薄く、平滑である。成熟したシストでは4核を備え、その他に軸糸(太目の繊維用構造で、一端が湾曲する。鞭毛との区別は容易でない。)、曲刺(釜状の構造物で、吸着円盤等の遺残物)、中央小体(微細顆粒の集合体として観察される)、鞭毛等が認められる。

ii.蛍光抗体法で染色されたシストの特徴:B励起下でのFITCの特異蛍光は緑色である。シストが示す蛍光は一様ではなく、辺縁(シスト壁)の蛍光が強く、それに比して中央部は弱い。

iii.DAPI染色されたシストの特徴:UV励起下でのDAPIの特異蛍光は青色である。シスト内に栄養体の核が1~4個青色に染まって見える。クリプトスポリジウムのオーシストに比べてシスト壁がDAPIに染まりやすく、青色を帯びて観察される傾向がある。

iv.微分干渉像の特徴:表面が平滑なシスト壁、その中に1~4個の核、軸糸(又は鞭毛)、曲刺、中央小体等が観察される。

したがって、蛍光抗体染色標本で緑色の特異蛍光を示す卵円形の粒子のうち長径が8~18μmの範囲に入るもので、iv.に示した内部構造のいずれかが観察された粒子をジアルジアのシストと認定し、その数を数える。

4.2 遺伝子検出法

本法は、遺伝子検出法用に調製した試料から抽出した核酸を用いて遺伝子増幅反応を行い、標的とする生物種に特異的な遺伝子配列を定性的(あるいは定量的)に検出する方法である。標的配列の増幅の検出には、蛍光強度をリアルタイムに測定する方法(リアルタイムPCR法)あるいは濁度を測定する方法(LAMP法)等が一般に使用される。この用途に向けて、既に試薬と機器が市販されているが、目的の生物種や属にのみ反応する特異性が重要であり、実際の河川水を用いて特異性の検証を経た上で使用する必要がある。さらに、試料水中の1個のオーシスト等を検出する感度が求められることから、基本的にrRNAやrDNA等の多コピーの遺伝子を標的とし、rRNAについてはその逆転写産物を標的とする逆転写PCR法(RT-PCR法)や逆転写LAMP法(RT-LAMP法)が用いられる。

遺伝子検出法の基本操作及び留意事項は次の通りである。

3.2免疫磁性体粒子法(免疫磁気ビーズ法)を用いて夾雑物を除去した精製物から核酸を抽出し、抽出した核酸を遺伝子増幅試薬と混合して反応を行う。核酸抽出操作として、凍結融解、タンパク質分解酵素処理、熱処理等を行う。遺伝子増幅反応は、基本的に逆転写反応(RT反応)とPCRあるいはLAMPとの組み合わせにより行う。増幅の有無は、蛍光強度や濁度の変化として確認する。

なお、本法を採用する場合は以下の点に十分留意する必要がある。

(1) 遺伝子検出法の反応特異性はプライマー等によって異なり、種類によっては偽陽性のおそれもある。したがって、実使用における反応特異性の実態が明らかになるまでの間は、本法によって水道水が陽性と判断された試料について、速やかに蛍光抗体染色―顕微鏡検査法による追加確認を行う必要がある。

(2) 操作法等については試薬キットの用法や使用上の注意に従う。

(3) 遺伝子増幅産物や陽性対照による汚染を防止するため、作業場所及び操作機器は、遺伝子検査試薬調製、核酸抽出、陽性対照添加の目的別に分けることが望ましい。また、増幅反応後のチューブを開封すること等により、増幅産物で試験環境を汚染しないよう十分注意する必要がある。したがって、本法に習熟するまでの間は、蛍光抗体染色―顕微鏡検査法により検出結果の確認を行うことが望ましい。

(4) 汚染の有無と試薬の機能を確認するため、陽性対照、陰性対照及び試料を別々のチューブで同時に反応させ、正しい結果が得られることを確認する。

(5) 核酸以外の夾雑物が混入した試料では遺伝子増幅が阻害されるおそれがあるので、遺伝子増幅反応への阻害物質の混入を極力防ぐ必要がある。そのためには、夾雑物が完全に除去されるまで免疫磁性体粒子とオーシスト等が結合した状態で繰り返し洗浄を行い、夾雑物の除去を徹底する。なお、夾雑物の混入を抑えるために抽出核酸試料の使用量を減らすと、阻害が回避できる場合がある。

(6) 免疫磁性体粒子法で塩酸解離した後の試料は、適切に中和し、必要により遠心洗浄を行なわなければ、遺伝子増幅反応が阻害されることがあるので注意する。免疫磁気ビーズから解離せずに抽出操作を行う場合は、磁気ビーズへの核酸の吸着があることを考慮する必要がある。

(7) 試料中の核酸は分解酵素により分解されるおそれがあるので、使用する試薬は、市販の調整済み試薬で、かつDNA分解酵素、RNA分解酵素を含まない分子生物学グレードのものとする。なお、試薬の保存は添付説明書の条件に従う。

(8) 試料と試薬の分解等を抑制するため、操作中は試料、試薬ともアイスバスのアルミブロック等で冷却して扱う。

(9) 核酸抽出した後、直ちに遺伝子増幅反応を行わない場合は、試料を凍結保存(-20℃前後)する。

付録1 精度管理のためのオーシスト等の添加実験

1 概要

水試料からのオーシスト等の回収率を算定するための実験で、オーシスト等の添加の実施方法について述べる。技術の確認、技術の向上、新しく導入する方法や改良法の評価、回収率に対する水試料の影響についての検討などに用いる。

2 オーシスト等の原液の濃度確認

原液中のオーシスト等の数は、血球計算板による計数か段階希釈法で予め調べておく。

2.1 血球計算板を用いる方法

1) 試薬及び器具

(1) オーシスト等の原液

(2) Buerker-Tuerk型血球計算板(又はimproved Neubauer型)

(3) 顕微鏡

(4) マイクロピペット

2) 操作

(1) オーシスト等は集塊をつくりやすいので、原液をミキサーで2分間攪拌し、均一な浮遊液とする。

(2) 血球計算板に専用のカバーグラスをNewton輪ができるようにすり合わせ、マイクロピペットを用いて、カバーグラスと血球計算板の間のチャンバー(上下2つ)へ原液10μLずつを注入する。オーシスト等が沈むまで2~3分静置する。

(3) 顕微鏡下400倍で、上部チャンバー内の分画(1mm2)の4隅と中央の計5区画中のオーシスト等の数を数える。

(4) 血球計算板の1mm2が0.1μLの液量に相当する場合、原液のオーシスト等の数(N)は以下の式で算出する。なお、オーシスト等の数は個/mLで表現する。

N=(5区画中のオーシスト等の数/5)×104

(5) 1区画中のオーシスト等の数が多すぎた場合は原液を適当に希釈して計数し直す。

(6) 同様に、(3)~(5)の方法に従って下部チャンバー内の5区画中のオーシスト等の数を数える。2つのチャンバーで得られたオーシスト等の数が大きく隔たっていないことを確認し、その算術平均値を持って原液中のオーシスト等の数とする。

(7) 血球計算板から注意深くカバーグラスを取り、洗浄液はビーカー等に受けるようにして血球計算板とカバーグラスを洗い流し、続いてアルコール綿で血球計算板とカバーグラスを十分に拭き、乾燥させる。この操作は手袋をはめて行い、洗浄液とアルコール綿はオートクレーブで滅菌する。

2.2 段階希釈による方法

1) 試薬及び器具

(1) オーシスト等の原液

(2) 精製水

(3) 蛍光染色に必要な試薬及び器具(4オーシスト等の検出参照)

(4) 蛍光顕微鏡

(5) マイクロピペット

(6) 段階希釈用試験管:蓋付きサンプルチューブ1.5mLなど

2) 操作

(1) 試験管数本に精製水を900μLずつ分注する。

(2) 原液の100μLを上記の試験管の1本に入れ、十分撹拌する。

(3) (2)の希釈液から100μLを取り、別の精製水900μLの入った試験管に入れ、十分撹拌する。この操作を3、4回繰り返し、数段階の10倍段階希釈液を調製する。各希釈段階で使用するマイクロピペットのチップを必ず交換する。

(4) 各段階の希釈液の100μLを4.1.1又は4.1.2に準じて蛍光染色を施し、染色されたオーシスト等の数を数える注1)

(5) 原液中のオーシスト等の数(N)は以下の式で算出する。なお、オーシスト等の数は個/mLで表現する。

N=(標本(100μL)中のオーシスト等の数)×(希釈倍数)×1mL/100μL

注1) 計数に用いる際の標本はオーシスト等が50~500個/mLとなるように希釈されていることが望ましい。

3 添加液の調製及び添加

3.1 添加液の調製

1) 試薬及び器具

(1) オーシスト等の原液

(2) 精製水

(3) 蛍光抗体染色に必要な試薬及び器具(4オーシスト等の検出参照)

(4) 蛍光顕微鏡

(5) マイクロピペット

2) 操作

(1) 100μL中のオーシスト等の数が100~500個程度の範囲内に入るように精製水で原液を希釈し、添加液とする。

(2) 添加液から100μLを5~10回取り、それぞれ試験方法に準じて蛍光染色を施し、各標本のオーシスト等の数を蛍光顕微鏡下で数える。得られた計測値から算術平均を求め、添加数とする。

3.2 添加

1) 器具

(1) 試料容器

(2) マイクロピペット

2) 操作

(1) 添加実験に用いる試料水が入ったスクリューキャップ付き試料容器に添加液100μLを加えて攪拌する。なお、河川水等を用いる場合、その試料水中にオーシスト等が既に含まれている可能性があるので、予め試料水中のオーシスト等の数を計数し、記録しておく。

(2) 回収率を算定しようとする試験方法でオーシスト等を回収し、オーシスト等の数を数える。

(3) 次の計算式で回収率を計算する。

備考 クリプトスポリジウムのオーシスト及びジアルジアのシストは病原体レベル分類で「レベル2」に位置付けられている(参考:国立感染症研究所病原体等安全管理規程)。したがって、生存オーシストを添加する場合の扱いは「レベル2」となり、「レベル2」に対応した封じ込め設備を具備した実験施設内での扱いが必要である。ただし、不活化(固定、熱処理、放射線、紫外線照射等)されたオーシスト等を扱う場合はこの限りではない。なお、水質試験のための試料は「レベル1」の扱いとなり、通常の実験室での試験でよい。

付録2 顕微鏡の取扱い

本試験方法で用いる顕微鏡には、蛍光装置、微分干渉装置、20、40、100倍の対物レンズが必要である。また、一般に接眼レンズは10倍が用いられる。このほか、粒子サイズ測定のために、接眼スケール又はその他の計測機器を付属させる。

1) 蛍光顕微鏡装置

落射型と透過型の2種類がある。落射型は不透明な支持体上の標本でも観察が可能で、メンブレンフィルターを用いた顕微鏡標本の観察には落射型を用いるのがよい。個々の蛍光色素は特有の励起波長を持った光の照射により励起光とは異なった(それよりも長波長の)蛍光を発する。したがって、染色に用いた蛍光色素に合わせて、励起波長と接眼フィルターを組み合わせる必要がある。

2) 微分干渉装置

微分干渉装置はポラライザー(偏光板)、2枚のDICプリズム、アナライザー(偏光板)からなり、それらが一般の生物顕微鏡に組み込まれる。光源として偏光が用いられ、光線が標本を通過する際に標本中の光学的厚さの差によって生じる光路差(二次光線の位相の差)をコントラストの差(又は色の差)に変換する装置で、通常は標本の厚さの差が明暗の差として観察される。顕微鏡観察に先立って、ケーラー照明法に準じた顕微鏡の調製が必要である。

ケーラー照明法

(1) 未調整の顕微鏡に染色標本を載せて焦点を合わせる。

(2) 視野絞りを絞り込み、視野に絞りの影を確認する。その際、コンデンサー絞りを適度に絞ると視野絞りの影が見やすくなる。

(3) コンデンサーを上下して、視野絞りの影が最もシャープに見える位置に固定する。

(4) 視野絞りの開口部を視野の中心に位置させる(センタリング)。

(5) 視野絞りを開ける。その際、開口率を80%程度に設定すると対物レンズのもつ解像力がほぼ完全に引き出される。

(6) 対物レンズを換えた場合には視野絞りを絞って、絞りの影が明瞭に見えることを確認する。

付録3 顕微鏡観察における蛍光フィルター選択と観察上の注意

顕微鏡観察においては、試料中に混在する藻類等の植物プランクトン粒子とオーシスト等との判別が困難な場合があることが知られている。これに対応するための蛍光フィルター選択と観察上の注意について述べる。

1 蛍光顕微鏡用フィルター

蛍光顕微鏡の使用に際しては、目的の蛍光を効率的に観察するために励起フィルターとバリアフィルターの選択、組み合わせが重要となる。

1.1 フィルターの種類

1) 帯域透過フィルター:決められた波長域の光のみを透過するように設計されたフィルターで、目的に応じて励起フィルター、バリアフィルターの両方に用いられる。狭い波長域のみを透過することから狭帯域(バンドパス)フィルターとも呼ばれる。

2) 長波長透過フィルター:決められた波長よりも長い波長域にある光を透過するように設計されたフィルターで、バリアフィルターに用いられる。広い波長域を透過することから広帯域(ロングパス)フィルターとも呼ばれる。

3) 短波長透過フィルター:決められた波長よりも短い波長域にある光を透過するように設計されたフィルターで、励起フィルターに用いられる。これも広帯域フィルターである。このほかに多重励起用のフィルターも開発されている。

1.2 各種の蛍光色と観察用フィルターの関係

1) FITC染色像観察

FITCは励起光として468~505nm付近の光を吸収して501~541nm付近の緑色蛍光を発する蛍光色素である。したがって、観察には490nmよりも短波長側の光に対して透過特性を有する励起フィルターと、515nmよりも長波長側の光を透過するバリアフィルターの組み合わせ、すなわちB励起フィルター系(Blue Excitation)が用いられる。バリアフィルターとしてはロングパスフィルターとバンドパスフィルターのどちらも選択することができるが、観察像はフィルターの種類によって著しく異なる。ロングパスフィルターでは緑色から赤色までの色帯の蛍光を観察することができるのに対して、バンドパスフィルターでは緑色一色の像となる。

ところで、B励起光はFITCのみならず植物の含有する赤色系の蛍光色素クロロフィルやフィコビリン系の色素も励起する。したがって、バリアフィルターにロングパスフィルターを選択した場合、標本中に植物プランクトンがいればこれらの赤色自家蛍光も観察される。

2) DAPI染色像観察

核染色に用いられるDAPIは359nm付近の光を吸収して、461nmの蛍光(青色)を放出する色素である。したがって、観察にはUV励起フィルター系(UltraViolet Excitation)、すなわち励起フィルターに365nm以下の紫外光を透過する短波長透過フィルター、バリアフィルターには420nmよりも長波長側の光を透過するロングパスフィルターが用いられる。

3) 植物プランクトンの赤色自家蛍光観察

植物プランクトンにはフィコエリスリン、フィコシアニン等のフィコビリン系色素、あるいはクロロフィル系色素を含有しており、486~575nm付近の光を吸収し、568nm以上の橙色から赤色蛍光を発する。観察にはG励起フィルター系(Green Excitation)が用いられる。したがって、励起フィルターに546nm付近に透過性を有するバンドパスフィルター、バリアフィルターには590nmよりも長波長の光を透過するロングパスフィルターが用いられる。

2 検査用蛍光抗体試薬の選択

オーシスト等の検査用キットは数社から発売されている。いずれも壁に対する単クローン抗体を用いた試薬で、間接蛍光抗体染色試薬と直接蛍光抗体染色の2種類がある。後者の直接蛍光抗体染色試薬は糞便検査用に開発されたものが多いが、水道水等からのオーシスト等の検出にも用いることができる。

試薬キットによってはエバンス青やエリオクローム黒などの色素(赤色蛍光)をカウンター染色剤注1)として添加していることがある。その場合は壁を除く夾雑物が染色され、B、G励起下でいずれも赤色蛍光を発する。嚢子壁に傷がある場合や縫合線が開列している場合には内部構造が染色されて赤色の蛍光を発することがある。したがって、今後はカウンター染色剤の使用を控えることが望ましい。

また、かつてオーシスト等の生死判定用としてPI染色注2)が行われたことがあったが、生死判定にも効果的とは言えない。通常のオーシスト等の検出試験においてはカウンター染色剤と同様の理由で使用を控えることが望ましい。

注1) 市販のオーシスト等の検出用蛍光抗体試薬キットの中には非特異反応を抑えるためにカウンター染色用の色素を用いている製品があるが、カウンター染色剤にはもっぱら赤色系の蛍光色素が用いられている。

注2) 細胞の生死判定(核酸染色)にPropidium Iodide(PI)が用いられることがあるが、PIは536nm付近の光を吸収して、617nmの赤色蛍光を放出する色素であることから、観察にはG励起系フィルターが用いられる。

3 蛍光抗体試薬に非特異反応を示す植物プランクトンとの分別点

市販の蛍光抗体試薬は試料中に混在する藻類等の植物プランクトン粒子と非特異反応を示す例が知られている。稀に、微分干渉顕微鏡による内部構造観察においても酷似するものがあり、オーシスト等との判別が極めて難しいことがある。このような場合には通常のB励起フィルター系による観察と並行してG励起フィルター系での蛍光像観察を行うことが推奨される。

多くの植物プランクトンは細胞小器官内にクロロフィルやフィコビリン系(フィコエリスリン、フィコシアニン、アロフィコシアニン等)、その他の色素を含有しており、G励起下で橙色から赤色の蛍光(自家蛍光)を発する。したがって、形態的に類似していても粒子の内部が赤色系の蛍光を発することが確認できればオーシスト等を否定することができる。

注意点

(1) 標本作製過程でアセトン処理や熱処理等が加えられると植物系色素の蛍光は減衰・変性する可能性がある。

(2) 植物由来の自家蛍光(赤色)を並行して観察するためにはカウンター染色剤の含有されていない試薬キットを用いること、PIによる二重染色を行わないことが必須条件となる。

(3) 長時間の励起光照射により植物プランクトンの自家蛍光も減衰するので注意すること。

(4) バリアフィルターにロングパスフィルターを用いた場合、同時に青から赤までの蛍光色が観察される場合もある。

付録4 遺伝子検出法におけるオーシスト等の定量

1 概要

水試料中のオーシスト等の数を求める定量PCR法について述べる。通常のオーシスト等の数を求めたい未知試料と濃度既知の比較的新鮮な原液試料から同一の方法で核酸抽出と遺伝子増幅反応を行い、Ct値(定量PCRの蛍光による遺伝子検出に要するサイクル数)を測定する。オーシスト等の数とCt値の関係から検量線を作成する。この検量線を用いて、未知試料のCt値からオーシスト等の数を算出する。

2 オーシスト等の原液の濃度確認

付録1 2に同じ。

3 オーシスト等の希釈系列の調製及び検量線作成

1) 試薬及び器具

(1) オーシスト等の原液:ホルマリン固定されていないもの

(2) 核酸抽出に必要な試薬及び器具

(3) 核酸抽出した未知試料

2) 操作

(1) 原液から核酸抽出を行い、RT-PCR法の場合は概ね10-4~101個相当/5μLの濃度範囲となるように、TE緩衝液を用いて10倍希釈系列を作成する。

(2) 各希釈試料及び未知試料から遺伝子増幅反応を行い、Ct値を測定する。

(3) 片対数グラフに、反応チューブあたりのオーシスト等の数(対数軸)とCt値との関係を座標にとり、回帰直線を検量線とする。

(4) 作成した検量線を用いて、未知試料の反応チューブ内のオーシスト等の数を算出する。液量、希釈操作等の定数を考慮して、未知試料水中のオーシスト等の数を計算により求める。

[参考]検査室におけるクリプトスポリジウム等の感染防止方法

クリプトスポリジウムオーシスト1個を経口摂取したときの感染確率は4~16%(USEPA. National Primary Drinking Water Regulations: Long Term 2 Enhanced Surface Water Treatment Rule; Final Rule. 71 FR 654, January 5, 2006.)、ジアルジアシスト1個では2%(Rose JB, Haas CN, Regli S (1991). Risk assessment and control of waterborne giardiasis. American Journal of Public Health, 81: 709―713.)と計算されており、いずれも感染力の強い病原体である。また、熱や乾燥によりオーシスト等は失活するが、検査室などで使用する消毒液には強い抵抗性を示す。このため、検査に当たっては無菌操作など感染防止に必要な技術を修得した者が担当することとし、バイオハザード対策に関する以下の諸点に留意しなければならない。

(5) 汚染の疑われる試料水の採取においてはゴム手袋を着用する。

(6) 採水等に使用した用具はビニール袋に入れて持ち帰り、加熱処理(5分以上煮沸)した後、洗浄して使用又は廃棄する。

(7) 試料水の取り扱いにおいてはその飛散に注意する。

(8) 試料水及び検査に使用した器具で熱処理の可能なものは70℃以上で10分間程度の加温処理を行う。また、検査に使用した上清液等の廃液は所定の方法で処理する。

(9) 検査者の手指や身体の一部がオーシスト等で汚染されたときはアルコール綿等で拭いた後、石けんで洗浄し、紙タオル等で拭いてからよく乾燥させる。

(10) 実験台や器材がオーシスト等で汚染されたときも同様にアルコール綿等でよく拭き、十分に乾燥させる。

(11) 使用したアルコール綿や紙タオル等はオートクレーブ処理か、焼却処分する。

(12) 検査室内にサンプラー管が引かれている場合は、返送水等が汚染されないように十分に注意する。

(13) クリプトスポリジウム等による感染者は水源地、取水施設、浄水施設及び配水施設への立ち入りは無論、検査や業務に従事してはならない。

(14) 試験に用いられる試薬類には発癌性を示すものがあり、検査担当者本人の汚染を回避するのみならず、環境汚染を招かないように廃棄処理を徹底する必要がある。

(別紙2)