添付一覧
9 侵襲性インフルエンザ菌感染症
(1) 定義
Haemophilus influenzaeによる侵襲性感染症のうち、本菌が髄液又は血液から検出された感染症とする。
(2) 臨床的特徴
潜伏期間は不明である。発症は一般に突発的であり、上気道炎や中耳炎を伴って発症することがある。髄膜炎例では、頭痛、発熱、髄膜刺激症状の他、痙攣、意識障害、乳児では大泉門膨隆等の症状を示す。敗血症例では発熱、悪寒、虚脱や発疹を呈すが、臨床症状が特異的ではないことも多く、急速に重症化して肺炎や喉頭蓋炎並びにショックを来すことがある。
(3) 届出基準
ア 患者(確定例)
医師は、(2)の臨床的特徴を有する者を診察した結果、症状や所見から侵襲性インフルエンザ菌感染症が疑われ、かつ、次の表の左欄に掲げる検査方法により、侵襲性インフルエンザ菌感染症患者と診断した場合には、法第12条第1項の規定による届出を7日以内に行わなければならない。
この場合において、検査材料は、同欄に掲げる検査方法の区分ごとに、それぞれ同表の右欄に定めるもののいずれかを用いること。
イ 感染症死亡者の死体
医師は、(2)の臨床的特徴を有する死体を検案した結果、症状や所見から、侵襲性インフルエンザ菌感染症が疑われ、かつ、次の表の左欄に掲げる検査方法により、侵襲性インフルエンザ菌感染症により死亡したと判断した場合には、法第12条第1項の規定による届出を7日以内に行わなければならない。
この場合において、検査材料は、同欄に掲げる検査方法の区分ごとに、それぞれ同表の右欄に定めるもののいずれかを用いること。
検査方法 |
検査材料 |
分離・同定による病原体の検出 |
髄液、血液 |
PCR法による病原体の遺伝子の検出 |
髄液、血液 |
9―1 侵襲性髄膜炎菌感染症
(1) 定義
Neisseria meningitidisによる侵襲性感染症のうち、本菌が髄液又は血液から検出された感染症とする。
(2) 臨床的特徴
潜伏期間は2~10日(平均4日)で、発症は突発的である。髄膜炎例では、頭痛、発熱、髄膜刺激症状の他、痙攣、意識障害、乳児では大泉門膨隆等を示す。敗血症例では発熱、悪寒、虚脱を呈し、重症化を来すと紫斑の出現、ショック並びにDIC(Waterhouse-Friedrichsen症候群)に進展することがある。本疾患の特徴として、点状出血が眼球結膜や口腔粘膜、皮膚に認められ、また出血斑が体幹や下肢に認められる。
世界各地に散発性又は流行性に発症し、温帯では寒い季節に、熱帯では乾期に多発する。学生寮などで共同生活を行う10代が最もリスクが高いとされているため、特に共同生活をしている例ではアウトブレイクに注意が必要である。
(3) 届出基準
ア 患者(確定例)
医師は、(2)の臨床的特徴を有する者を診察した結果、症状や所見から侵襲性髄膜炎菌感染症が疑われ、かつ、次の表の左欄に掲げる検査方法により、侵襲性髄膜炎菌感染症と診断した場合には、法第12条第1項の規定による届出を7日以内に行わなければならない。特に、患者が学生寮などで共同生活を行っている場合には、早期の対応が望まれる。
この場合において、検査材料は、同欄に掲げる検査方法の区分ごとに、それぞれ同表の右欄に定めるもののいずれかを用いること。
イ 感染症死亡者の死体
医師は、(2)の臨床的特徴を有する死体を検案した結果、症状や所見から、侵襲性髄膜炎菌感染症が疑われ、かつ、次の表の左欄に掲げる検査方法により、侵襲性髄膜炎菌感染症により死亡したと判断した場合には、法第12条第1項の規定による届出を7日以内に行わなければならない。
この場合において、検査材料は、同欄に掲げる検査方法の区分ごとに、それぞれ同表の右欄に定めるもののいずれかを用いること。
検査方法 |
検査材料 |
分離・同定による病原体の検出 |
髄液、血液 |
PCR法による病原体の遺伝子の検出 |
髄液、血液 |
9―2 侵襲性肺炎球菌感染症
(1) 定義
Streptococcus pneumoniaeによる侵襲性感染症のうち、本菌が髄液又は血液から検出された感染症とする。
(2) 臨床的特徴
潜伏期間は不明である。小児及び高齢者を中心とした発症が多く、小児と成人でその臨床的特徴が異なる。
ア 小児
成人と異なり、肺炎を伴わず、発熱のみを初期症状とした感染巣のはっきりしない菌血症例が多い。また、髄膜炎は、直接発症するものの他、肺炎球菌性の中耳炎に続いて発症することがある。
イ 成人
発熱、咳嗽、喀痰、息切れを初期症状とした菌血症を伴う肺炎が多い。髄膜炎例では、頭痛、発熱、痙攣、意識障害、髄膜刺激症状等の症状を示す。
(3) 届出基準
ア 患者(確定例)
医師は、(2)の臨床的特徴を有する者を診察した結果、症状や所見から侵襲性肺炎球菌感染症が疑われ、かつ、次の表の左欄に掲げる検査方法により、侵襲性肺炎球菌感染症患者と診断した場合には、法第12条第1項の規定による届出を7日以内に行わなければならない。
この場合において、検査材料は、同欄に掲げる検査方法の区分ごとに、それぞれ同表の右欄に定めるもののいずれかを用いること。
イ 感染症死亡者の死体
医師は、(2)の臨床的特徴を有する死体を検案した結果、症状や所見から、侵襲性肺炎球菌感染症が疑われ、かつ、次の表の左欄に掲げる検査方法により、侵襲性肺炎球菌感染症により死亡したと判断した場合には、法第12条第1項の規定による届出を7日以内に行わなければならない。
この場合において、検査材料は、同欄に掲げる検査方法の区分ごとに、それぞれ同表の右欄に定めるもののいずれかを用いること。
検査方法 |
検査材料 |
分離・同定による病原体の検出 |
髄液、血液 |
PCR法による病原体の遺伝子の検出 |
髄液、血液 |
ラテックス法又はイムノクロマト法による病原体抗原の検出 |
髄液 |
10 先天性風しん症候群
(1) 定義
風しんウイルスの胎内感染によって先天異常を起こす感染症である。
(2) 臨床的特徴
先天異常の発生は妊娠週齢と明らかに相関し、妊娠12週までの妊娠初期の初感染に最も多くみられ、20週を過ぎるとほとんどなくなる。
三徴は、白内障、先天性心疾患、難聴であるが、その他先天性緑内障、色素性網膜症、紫斑、脾腫、小頭症、精神発達遅滞、髄膜脳炎、骨のX線透過性所見、生後24時間以内に出現する黄疸などを来しうる。
(3) 届出基準
ア 患者(確定例)
医師は、(2)の臨床的特徴を有する者を診察した結果、症状や所見から先天性風しん症候群が疑われ、かつ、(4)の届出に必要な要件を満たすと診断した場合には、法第12条第1項の規定による届出を7日以内に行わなければならない。
イ 感染症死亡者の死体
医師は、(2)の臨床的特徴を有する死体を検案した結果、症状や所見から、先天性風しん症候群が疑われ、かつ、(4)の届出に必要な要件を満たすと診断した場合には、法第12条第1項の規定による届出を7日以内に行わなければならない。
(4) 届出に必要な要件(以下のア及びイの両方を満たすもの)
ア 届出のために必要な臨床症状
(ア) CRS典型例;「①から2項目以上」又は「①から1項目と②から1項目以上」
(イ) その他;「①若しくは②から1項目以上」
① 白内障又は先天性緑内障、先天性心疾患、難聴、色素性網膜症 |
② 紫斑、脾腫、小頭症、精神発達遅滞、髄膜脳炎、X線透過性の骨病変、生後24時間以内に出現した黄疸 |
イ 病原体診断又は抗体検査の方法
(ア) 以下のいずれか1つを満たし、出生後の風しん感染を除外できるもの
検査方法 |
検査材料 |
分離・同定による病原体の検出 |
咽頭拭い液、唾液、尿 |
PCR法による病原体の遺伝子の検出 |
|
IgM抗体の検出 |
血清 |
赤血球凝集阻止抗体価が移行抗体の推移から予想される値を高く越えて持続(出生児の赤血球凝集阻止抗体価が、月あたり1/2の低下率で低下していない。) |
11 梅毒
(1) 定義
スピロヘータの一種である梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)の感染によって生じる性感染症である。
(2) 臨床的特徴
Ⅰ期梅毒として感染後3~6週間の潜伏期の後に、感染局所に初期硬結や硬性下疳、無痛性の鼠径部リンパ節腫脹がみられる。
Ⅱ期梅毒では、感染後3か月を経過すると皮膚や粘膜に梅毒性バラ疹や丘疹性梅毒疹、扁平コンジローマなどの特有な発疹が見られる。
感染後3年以上を経過すると、晩期顕症梅毒としてゴム腫、梅毒によると考えられる心血管症状、神経症状、眼症状などが認められることがある。なお、感染していても臨床症状が認められないものもある。
先天梅毒は、梅毒に罹患している母体から出生した児で、①胎内感染を示す検査所見のある症例、②Ⅱ期梅毒疹、骨軟骨炎など早期先天梅毒の症状を呈する症例、③乳幼児期は症状を示さずに経過し、学童期以後にHutchinson3徴候(実質性角膜炎、内耳性難聴、Hutchinson歯)などの晩期先天梅毒の症状を呈する症例がある。
(3) 届出基準
ア 患者(確定例)
医師は、(2)の臨床的特徴を有する者を診察した結果、症状や所見から梅毒が疑われ、かつ、次の表の左欄に掲げる検査方法により、梅毒患者と診断した場合には、法第12条第1項の規定による届出を7日以内に行わなければならない。
この場合において、検査材料は、同欄に掲げる検査方法の区分ごとに、それぞれ同表の右欄に定めるもののいずれかを用いること。
イ 無症状病原体保有者
医師は、診察した者が(2)の臨床的特徴を呈していないが、次の表の左下欄に掲げる検査方法により、抗体(①カルジオリピンを抗原とする検査では16倍以上又はそれに相当する抗体価)を保有する者で無症状病原体保有者と見なされる者(陳旧性梅毒と見なされる者を除く。)を診断した場合には、法第12条第1項の規定による届出を7日以内に行わなければならない。
この場合において、検査材料は、同欄に掲げる検査方法の区分ごとに、それぞれ同表の右欄に定めるもののいずれかを用いること。
ウ 感染症死亡者の死体
医師は、(2)の臨床的特徴を有する死体を検案した結果、症状や所見から、梅毒が疑われ、かつ、次の表の左欄に掲げる検査方法により、梅毒により死亡したと判断した場合には、法第12条第1項の規定による届出を7日以内に行わなければならない。
この場合において、検査材料は、同欄に掲げる検査方法の区分ごとに、それぞれ同表の右欄に定めるもののいずれかを用いること。
検査方法 |
検査材料 |
パーカーインク法による病原体の検出 |
発疹(初期硬結、硬性下疳、扁平コンジローマ、粘膜疹) |
・以下の①と②の両方に該当する場合 ①カルジオリピンを抗原とする以下のいずれかの検査で陽性 ・RPRカードテスト、凝集法、ガラス板法 ②T. pallidumを抗原とする以下のいずれかの検査で陽性 ・TPHA法、FTA―ABS法 |
血清 |
先天梅毒は、下記の5つのうち、いずれかの要件をみたすものである。
ア 母体の血清抗体価に比して、児の血清抗体価が著しく高い場合 イ 血清抗体価が移行抗体の推移から予想される値を高く超えて持続する場合 ウ T. pallidumを抗原とするIgM抗体陽性 エ 早期先天梅毒の症状を呈する場合 オ 晩期先天梅毒の症状を呈する場合 |
12 破傷風
(1) 定義
破傷風毒素を産生する破傷風菌(Clostridium tetani)が、外傷部位などから組織内に侵入し、嫌気的な環境下で増殖した結果、産生される破傷風毒素により、神経刺激伝達障害を起こす。
(2) 臨床的特徴
外傷部位などで増殖した破傷風菌が産生する毒素により、運動神経終板、脊髄前角細胞、脳幹の抑制性の神経回路が遮断され、感染巣近傍の筋肉のこわばり、顎から頚部のこわばり、開口障害、四肢の強直性痙攣、呼吸困難(痙攣性)、刺激に対する興奮性の亢進、反弓緊張(opisthotonus)などの症状が出現する。
(3) 届出基準
ア 患者(確定例)
医師は、(2)の臨床的特徴を有する者を診察した結果、症状や所見から、破傷風患者と診断した場合には、法第12条第1項の規定による届出を7日以内に行わなければならない。
イ 感染症死亡者の死体
医師は、(2)の臨床的特徴を有する死体を検案した結果、症状や所見から、破傷風により死亡したと判断した場合には、法第12条第1項の規定による届出を7日以内に行わなければならない。
13 バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌感染症
(1) 定義
獲得型バンコマイシン耐性遺伝子を保有し、バンコマイシン耐性を示す黄色ブドウ球菌による感染症である。
(2) 臨床的特徴
バンコマイシンの長期間投与を受けた患者の検体などから検出される可能性がある。
(3) 届出基準
ア 患者(確定例)
医師は、(2)の臨床的特徴を有する者を診察した結果、症状や所見からバンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌感染症が疑われ、かつ、次の表の左欄に掲げる検査方法により、バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌感染症患者と診断した場合には、法第12条第1項の規定による届出を7日以内に行わなければならない。
この場合において、検査材料は、同欄に掲げる検査方法の区分ごとに、それぞれ同表の右欄に定めるもののいずれかを用いること。
イ 感染症死亡者の死体
医師は、(2)の臨床的特徴を有する死体を検案した結果、症状や所見から、バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌感染症が疑われ、かつ、次の表の左欄に掲げる検査方法により、バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌感染症により死亡したと判断した場合には、法第12条第1項の規定による届出を7日以内に行わなければならない。
この場合において、検査材料は、同欄に掲げる検査方法の区分ごとに、それぞれ同表の右欄に定めるもののいずれかを用いること。
検査方法 |
検査材料 |
分離・同定による黄色ブドウ球菌の検出かつ分離菌に対するバンコマイシンのMIC値が16μg/ml以上 |
血液、腹水、胸水、髄液、その他の通常無菌的であるべき検体 |
分離・同定による黄色ブドウ球菌の検出、かつ分離菌に対するバンコマイシンのMIC値が16μg/ml以上、かつ分離菌が感染症の起因菌であるとの判定。 |
喀痰、膿、尿、その他の通常無菌的ではない検体 |
14 バンコマイシン耐性腸球菌感染症
(1) 定義
バンコマイシンに対して耐性を示す腸球菌(VRE)による感染症である。
(2) 臨床的特徴
主に悪性疾患などの基礎疾患を有する易感染状態の患者において、日和見感染症や術後感染症、カテーテル性敗血症(line sepsis)などを引き起こす。発熱やショックなどの症状を呈し、死亡することもある。
(3) 届出基準
ア 患者(確定例)
医師は、(2)の臨床的特徴を有する者を診察した結果、症状や所見からバンコマイシン耐性腸球菌感染症が疑われ、かつ、次の表の左欄に掲げる検査方法により、バンコマイシン耐性腸球菌感染症患者と診断した場合には、法第12条第1項の規定による届出を7日以内に行わなければならない。
この場合において、検査材料は、同欄に掲げる検査方法の区分ごとに、それぞれ同表の右欄に定めるもののいずれかを用いること。
イ 感染症死亡者の死体
医師は、(2)の臨床的特徴を有する死体を検案した結果、症状や所見から、バンコマイシン耐性腸球菌感染症が疑われ、かつ、次の表の左欄に掲げる検査方法により、バンコマイシン耐性腸球菌感染症により死亡したと判断した場合には、法第12条第1項の規定による届出を7日以内に行わなければならない。
この場合において、検査材料は、同欄に掲げる検査方法の区分ごとに、それぞれ同表の右欄に定めるもののいずれかを用いること。
検査方法 |
検査材料 |
分離・同定による腸球菌の検出かつ分離菌に対するバンコマイシンのMIC値が16μg/ml以上 |
血液、腹水、胸水、髄液、その他の通常無菌的であるべき検体 |
分離・同定による腸球菌の検出かつ、分離菌に対するバンコマイシンのMIC値が16μg/ml以上、かつ分離菌が感染症の起因菌と判定された場合 |
喀痰、膿、尿、その他の通常無菌的ではない検体 |
14―2 風しん
(1) 定義
風しんウイルスによる急性熱性発疹性疾患である。
(2) 臨床的特徴
飛沫感染により感染し、潜伏期は通常2~3週間である。冬から春に流行する。症状は、小紅斑や紅色丘疹、リンパ節腫脹(全身、特に頚部、後頭部、耳介後部)、発熱を三主徴とする。リンパ節腫脹は発疹出現数日前に出現し、3~6週間で消退する。発熱は38~39℃で、3日程度続き、皮疹も3日程度で消退する。脳炎、血小板減少性紫斑病を合併することがある。
妊婦の風しんウイルス感染が、先天性風しん症候群の原因となることがある。
(3) 届出基準
ア 患者(確定例)
医師は、(2)の臨床的特徴を有する者を診察した結果、症状や所見から風しんが疑われ、かつ、(4)の届出に必要な要件を満たすと診断した場合には、法第12条第1項の規定による届出を7日以内に行わなければならない。
イ 感染症死亡者の死体
医師は、(2)の臨床的特徴を有する死体を検案した結果、症状や所見から風しんが疑われ、かつ、(4)の届出に必要な要件を満たすと診断した場合には、法第12条第1項の規定による届出を7日以内に行わなければならない。
(4) 届出のために必要な要件
ア 検査診断例
届出に必要な臨床症状の1つ以上を満たし、かつ、届出に必要な病原体診断のいずれかを満たすもの。
イ 臨床診断例
届出に必要な臨床症状の3つすべてを満たすもの。
届出に必要な臨床症状
ア 全身性の小紅斑や紅色丘疹 |
イ 発熱 |
ウ リンパ節腫脹 |
届出に必要な病原体診断
検査方法 |
検査材料 |
分離・同定による病原体の検出 |
咽頭拭い液、血液、髄液、尿 |
検体から直接のPCR法による病原体の遺伝子の検出 |
|
抗体の検出(IgM抗体の検出、ペア血清での抗体陽転又は抗体価の有意の上昇) |
血清 |
14―3 麻しん
(1) 定義
麻しんウイルスによる急性熱性発疹性疾患である。
(2) 臨床的特徴
潜伏期は通常10~12日間であり、症状はカタル期(2~4日)には38℃前後の発熱、咳、鼻汁、くしゃみ、結膜充血、眼脂、羞明などであり、熱が下降した頃に頬粘膜にコプリック斑が出現する。発疹期(3~4日)には一度下降した発熱が再び高熱となり(39~40℃)、特有の発疹(小鮮紅色斑が暗紅色丘疹、それらが融合し網目状になる)が出現する。発疹は耳後部、頚部、顔、体幹、上肢、下肢の順に広がる。回復期(7~9日)には解熱し、発疹は消退し、色素沈着を残す。肺炎、中耳炎、クループ、脳炎を合併する場合がある。麻しんウイルスに感染後、数年から十数年以上経過してSSPE(亜急性硬化性全脳炎)を発症する場合がある。
なお、上記症状を十分満たさず、一部症状のみの麻しん(修飾麻しん)もみられることがある。これはワクチンによる免疫が低下してきた者に見られることが多い。
(3) 届出基準
ア 患者(確定例)
医師は、(2)の臨床的特徴を有する者を診察した結果、症状や所見から麻しんが疑われ、かつ、(4)の届出に必要な要件を満たすと診断した場合には、法第12条第1項の規定による届出を7日以内に行わなければならない。
イ 感染症死亡者の死体
医師は、(2)の臨床的特徴を有する死体を検案した結果、症状や所見から麻しんが疑われ、かつ、(4)の届出に必要な要件を満たすと診断した場合には、法第12条第1項の規定による届出を7日以内に行わなければならない。
(4) 届出のために必要な要件
ア 麻しん(検査診断例)
届出に必要な臨床症状の3つすべてを満たし、かつ、届出に必要な病原体診断のいずれかを満たすもの。
イ 麻しん(臨床診断例)
届出に必要な臨床症状の3つすべてを満たすもの。
ウ 修飾麻しん(検査診断例)
届出に必要な臨床症状の1つ以上を満たし、かつ、届出に必要な病原体診断のいずれかを満たすもの。
届出に必要な臨床症状
ア 麻しんに特徴的な発疹 |
イ 発熱 |
ウ 咳嗽、鼻汁、結膜充血などのカタル症状 |
届出に必要な病原体診断
検査方法 |
検査材料 |
分離・同定による病原体の検出 |
咽頭拭い液、血液、髄液、尿 |
検体から直接のPCR法による病原体の遺伝子の検出 |
|
抗体の検出(IgM抗体の検出、ペア血清での抗体陽転又は抗体価の有意の上昇) |
血清 |
15 RSウイルス感染症
(1) 定義
RSウイルス(respiratory syncytial virus)による急性呼吸器感染症である。乳児期の発症が多く、特徴的な病像は細気管支炎、肺炎である。
(2) 臨床的特徴
2日~1週間(通常4~5日)の潜伏期間の後に、初感染の乳幼児では上気道症状(鼻汁、咳など)から始まり、その後下気道症状が出現する。38~39℃の発熱が出現することがある。25~40%の乳幼児に気管支炎や肺炎の兆候がみられる。
1歳未満、特に6か月未満の乳児、心肺に基礎疾患を有する小児、早産児が感染すると、呼吸困難などの重篤な呼吸器疾患を引き起こし、入院、呼吸管理が必要となる。乳児では、細気管支炎による喘鳴(呼気性喘鳴)が特徴的である。
その後、多呼吸、陥没呼吸などの症状あるいは肺炎を認める。新生児期あるいは生後2~3か月未満の乳児では、無呼吸発作の症状を呈することがある。再感染の幼児の場合には、細気管支炎や肺炎などは減り、上気道炎が増える。中耳炎を合併することもある。
(3) 届出基準
ア 患者(確定例)
指定届出機関の管理者は、当該指定届出機関の医師が、(2)の臨床的特徴を有する者を診察した結果、症状や所見からRSウイルス感染症が疑われ、かつ、(4)の表の左欄に掲げる検査方法により、RSウイルス感染症患者と診断した場合には、法第14条第2項の規定による届出を週単位で、翌週の月曜日に届け出なければならない。
この場合において、検査材料は、同欄に掲げる検査方法の区分ごとに、それぞれ同表の右欄に定めるもののいずれかを用いること。
イ 感染症死亡者の死体
指定届出機関の管理者は、当該指定届出機関の医師が、(2)の臨床的特徴を有する死体を検案した結果、症状や所見から、RSウイルス感染症が疑われ、かつ、(4)の表の左欄に掲げる検査方法により、RSウイルス感染症により死亡したと判断した場合には、法第14条第2項の規定による届出を週単位で、翌週の月曜日に届け出なければならない。
この場合において、検査材料は、同欄に掲げる検査方法の区分ごとに、それぞれ同表の右欄に定めるもののいずれかを用いること。
(4) 届出に必要な検査所見
検査方法 |
検査材料 |
分離・同定による病原体の検出 |
鼻腔吸引液、鼻腔拭い液、咽頭拭い液 |
迅速診断キットによる病原体の抗原の検出 |
|
中和反応又は補体結合反応による抗体の検出(補体結合反応にて、急性期と2~3週間以後の回復期に抗体陽転又は抗体価の有意の上昇を認めれば確定) |
血清 |
16 咽頭結膜熱
(1) 定義
発熱・咽頭炎及び結膜炎を主症状とする急性のウイルス感染症である。
(2) 臨床的特徴
潜伏期は5~7日、症状は発熱、咽頭炎(咽頭発赤、咽頭痛)、結膜炎が三主症状である。アデノウイルス3型が主であるが、他に4、7、11型なども本症を起こす。発生は年間を通じてみられるが、さまざまな規模の流行的発生をみる。特に夏季に流行をみることがある。
(3) 届出基準
ア 患者(確定例)
指定届出機関の管理者は、当該指定届出機関の医師が、(2)の臨床的特徴を有する者を診察した結果、症状や所見から咽頭結膜熱が疑われ、かつ、(4)により、咽頭結膜熱患者と診断した場合には、法第14条第2項の規定による届出を週単位で、翌週の月曜日に届け出なければならない。
イ 感染症死亡者の死体
指定届出機関の管理者は、当該指定届出機関の医師が、(2)の臨床的特徴を有する死体を検案した結果、症状や所見から、咽頭結膜熱が疑われ、かつ、(4)により、咽頭結膜熱により死亡したと判断した場合には、法第14条第2項の規定による届出を週単位で、翌週の月曜日に届け出なければならない。
(4) 届出のために必要な臨床症状(3つすべてを満たすもの)
ア 発熱 |
イ 咽頭発赤 |
ウ 結膜充血 |
17 A群溶血性レンサ球菌咽頭炎
(1) 定義
A群レンサ球菌による上気道感染症である。
(2) 臨床的特徴
乳幼児では咽頭炎、年長児や成人では扁桃炎が現れ、発赤毒素に免疫のない人は猩紅熱といわれる全身症状を呈する。気管支炎を起こすことも多い。発疹を伴うこともあり、リウマチ熱や急性糸球体腎炎などの二次疾患を起こすこともある。
(3) 届出基準
ア 患者(確定例)
指定届出機関の管理者は、当該指定届出機関の医師が、(2)の臨床的特徴を有する者を診察した結果、症状や所見からA群溶血性レンサ球菌咽頭炎が疑われ、かつ、(4)を満たすか、(4)の3つすべてを満たさなくても(5)を満たし、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎患者と診断した場合には、法第14条第2項の規定による届出を週単位で、翌週の月曜日に届け出なければならない。
イ 感染症死亡者の死体
指定届出機関の管理者は、当該指定届出機関の医師が、(2)の臨床的特徴を有する死体を検案した結果、症状や所見から、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎が疑われ、かつ、(4)を満たすか、(4)の3つすべてを満たさなくても(5)を満たし、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎により死亡したと判断した場合には、法第14条第2項の規定による届出を週単位で、翌週の月曜日に届け出なければならない。
(4) 届出のために必要な臨床症状(3つすべてを満たすもの)
ア 発熱 |
イ 咽頭発赤 |
ウ 苺舌 |
(5) 届出のために必要な検査所見
検査方法 |
検査材料 |
菌の培養・同定による病原体の検出 |
咽頭拭い液 |
迅速診断キットによる病原体の抗原の検出 |
|
ASO法又はASK法による抗体の検出(ペア血清での抗体陽転又は抗体価の有意の上昇) |
血清 |
18 感染性胃腸炎
(1) 定義
細菌又はウイルスなどの感染性病原体による嘔吐、下痢を主症状とする感染症である。原因はウイルス感染(ロタウイルス、ノロウイルスなど)が多く、毎年秋から冬にかけて流行する。また、エンテロウイルス、アデノウイルスによるものや細菌性のものもみられる。
(2) 臨床的特徴
乳幼児に好発し、1歳以下の乳児は症状の進行が早い。
主症状は嘔吐と下痢であり、種々の程度の脱水、電解質喪失症状、全身症状が加わる。嘔吐又は下痢のみの場合や、嘔吐の後に下痢がみられる場合と様々で、症状の程度にも個人差がある。37~38℃の発熱がみられることもある。年長児では吐き気や腹痛がしばしばみられる。
(3) 届出基準
ア 患者(確定例)
指定届出機関の管理者は、当該指定届出機関の医師が、(2)の臨床的特徴を有する者を診察した結果、症状や所見から感染性胃腸炎が疑われ、かつ、(4)により、感染性胃腸炎患者と診断した場合には、法第14条第2項の規定による届出を週単位で、翌週の月曜日に届け出なければならない。
イ 感染症死亡者の死体
指定届出機関の管理者は、当該指定届出機関の医師が、(2)の臨床的特徴を有する死体を検案した結果、症状や所見から、感染性胃腸炎が疑われ、かつ、(4)により、感染性胃腸炎により死亡したと判断した場合には、法第14条第2項の規定による届出を週単位で、翌週の月曜日に届け出なければならない。
(4) 届出のために必要な臨床症状及び要件(2つすべてを満たすもの)
ア 急に発症する腹痛(新生児や乳児では不明)、嘔吐、下痢 |
イ 他の届出疾患によるものを除く |
19 水痘
(1) 定義
水痘・帯状疱疹ウイルスの初感染による感染症である。
(2) 臨床的特徴
冬から春の感染症であるが、年間を通じて患者の発生をみる。飛沫、飛沫核、接触感染で感染し、潜伏期は2~3週間である。乳幼児や学童いずれの年齢でも罹患する。母子免疫は麻しんほど強力ではなく、新生児も罹患することがある。症状は発熱と発疹である。それぞれの発疹は紅斑、紅色丘疹、水疱形成、痂皮化を順次約3日で経過するが、同一段階の皮疹が同時に全身に出現するのではなく、新旧種々の段階の発疹が同時に混在する。
発疹は体幹に多発し、四肢に少ない。発疹は頭皮及び口腔などの粘膜にも出現する。健康児の罹患は軽症で予後は良好であるが、免疫不全状態の小児の罹患は重症で、致死的経過をとることもある。
(3) 届出基準
ア 患者(確定例)
指定届出機関の管理者は、当該指定届出機関の医師が、(2)の臨床的特徴を有する者を診察した結果、症状や所見から水痘が疑われ、かつ、(4)により、水痘患者と診断した場合には、法第14条第2項の規定による届出を週単位で、翌週の月曜日に届け出なければならない。
イ 感染症死亡者の死体
指定届出機関の管理者は、当該指定届出機関の医師が、(2)の臨床的特徴を有する死体を検案した結果、症状や所見から、水痘が疑われ、かつ、(4)により、水痘により死亡したと判断した場合には、法第14条第2項の規定による届出を週単位で、翌週の月曜日に届け出なければならない。
(4) 届出のために必要な臨床症状(2つすべてを満たすもの)
ア 全身性の漿液性丘疹や水疱の突然の出現 |
イ 新旧種々の段階の発疹(丘疹、水疱、痂皮)が同時に混在すること |
20 手足口病
(1) 定義
主として乳幼児にみられる手、足、下肢、口腔内、口唇に小水疱が生ずる伝染性のウイルス性感染症である。コクサッキーA16型、エンテロウイルス71型のほか、コクサッキーA10型その他によっても起こることが知られている。
(2) 臨床的特徴
典型的なものでは、軽い発熱、食欲不振、のどの痛み等で始まり、発熱から2日ぐらい過ぎた頃から、手掌、足底にやや紅暈を伴う小水疱が多発し、舌や口腔粘膜に浅いびらんアフタを生じる。水疱はやや楕円形を呈し、臀部、膝部などに紅色の小丘疹が散在することもある。皮疹は1週間から10日で自然消退する。ごくまれに髄膜炎や脳炎などが生じることがあるので、発熱や嘔吐、頭痛などがある場合は注意を要する。エンテロウイルス71型による手足口病の場合にその頻度が高い。
(3) 届出基準
ア 患者(確定例)
指定届出機関の管理者は、当該指定届出機関の医師が、(2)の臨床的特徴を有する者を診察した結果、症状や所見から手足口病が疑われ、かつ、(4)により、手足口病患者と診断した場合には、法第14条第2項の規定による届出を週単位で、翌週の月曜日に届け出なければならない。
イ 感染症死亡者の死体
指定届出機関の管理者は、当該指定届出機関の医師が、(2)の臨床的特徴を有する死体を検案した結果、症状や所見から、手足口病が疑われ、かつ、(4)により、手足口病により死亡したと判断した場合には、法第14条第2項の規定による届出を週単位で、翌週の月曜日に届け出なければならない。
(4) 届出のために必要な臨床症状(2つすべてを満たすもの)
ア 手のひら、足底又は足背、口腔粘膜に出現する2~5mm程度の水疱 |
イ 水疱は痂皮を形成せずに治癒 |
21 伝染性紅斑
(1) 定義
B19ウイルスの感染による紅斑を主症状とする発疹性疾患である。
(2) 臨床的特徴
幼少児(2~12歳)に多いが、乳児、成人が罹患することもある。潜伏期は4~15日。顔面、特に頬部に境界明瞭な平手で頬を打ったような紅斑が突然出現する。つづいて四肢に対側性にレース様の紅斑が出現する。消退後さらに日光照射、外傷などによって再度出現することがある。発疹の他に発熱、関節痛、咽頭痛、鼻症状、胃腸症状、粘膜疹、リンパ節腫脹、関節炎を合併することがある。予後は通常、良好である。但し、溶血性貧血の患者では、汎血球減少を起こすことがある。妊婦の場合には、胎児水腫又は流産を起こすことがある。
(3) 届出基準
ア 患者(確定例)
指定届出機関の管理者は、当該指定届出機関の医師が、(2)の臨床的特徴を有する者を診察した結果、症状や所見から伝染性紅斑が疑われ、かつ、(4)により、伝染性紅斑患者と診断した場合には、法第14条第2項の規定による届出を週単位で、翌週の月曜日に届け出なければならない。
イ 感染症死亡者の死体
指定届出機関の管理者は、当該指定届出機関の医師が、(2)の臨床的特徴を有する死体を検案した結果、症状や所見から、伝染性紅斑が疑われ、かつ、(4)により、伝染性紅斑により死亡したと判断した場合には、法第14条第2項の規定による届出を週単位で、翌週の月曜日に届け出なければならない。
(4) 届出のために必要な臨床症状(2つすべてを満たすもの)