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○ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針の改正等について

(平成25年9月30日)

(医政発0930第1号)

(地方厚生(支)局長あて厚生労働省医政局長通知)

(公印省略)

ヒト幹細胞を用いる臨床研究(以下「ヒト幹細胞臨床研究」という。)の適正な実施を目的として、平成18年7月に「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」(以下「旧指針」という。)を策定し、その後、科学技術の進歩、ヒト幹細胞の取扱いに関する社会的情勢の変化等を勘案し平成22年に全部改正を行い、採取、調製及び移植又は投与の過程を複数研究機関で実施する場合の規定を設けた。

一方、平成22年改正においては、ヒト胚性幹細胞(以下「ヒトES細胞」という。)を含むヒト幹細胞の樹立と分配については、今後の検討に委ねられていた。

このため、ヒトES細胞を含むヒト幹細胞の樹立と分配に関して、「厚生科学審議会科学技術部会ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針の見直しに関する専門委員会」において、平成23年10月から15回にわたり、倫理性、安全性、品質等の観点から検討を行った。

今般、本検討を踏まえ、旧指針の全般的な見直しを行い、平成25年10月1日から「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針(平成25年厚生労働省告示第317号)」(以下「本指針」という。)を適用することとした。

本指針については、広く一般に遵守を呼びかける方針であり、下記事項に留意の上、貴職管内においてヒト幹細胞臨床研究に携わる者への周知徹底及び遵守の要請をお願いする。

また、本指針の運用に資することを目的として、別添のとおり細則を定めたので、あわせて通知する。

なお、本通知は、都道府県知事に対しても通知していることを申し添える。

(注)別添については、本指針と細則との関係を分かりやすくするため、本指針において示す各事項ごとに細則を挿入する形式としている。

第1 指針の改正について

今回の主な改正点は、以下に掲げる事項であるので、本指針の運用において留意すること。

(1) 第1章 総則

・ 適用範囲(第3)

ヒト幹細胞等を、疾病の治療を目的として人の体内に移植又は投与する臨床研究に加え、臨床研究への使用の目的でヒト幹細胞等を調製又は保管する研究も対象とすることとした。

・ 対象となるヒト幹細胞等(第5)

これまで、細則において、ヒトES細胞を用いる臨床研究は実施しないこととされていたが、当該細則を削除し、一部のヒトES細胞(※)を用いた臨床研究を可能とする細則を設けることとした。

※ 一部のヒトES細胞には、以下の①及び②が該当する。

① 外国で樹立されたヒトES細胞で、文部科学省の「ヒトES細胞の樹立及び分配に関する指針」(平成21年文部科学省告示第156号)と同等の基準に基づき樹立されたものと認められるもの

② 文部科学省の関連指針におけるヒトES細胞の臨床利用に関する考え方が示された後に、新規に樹立するヒトES細胞

・ 基本原則(インフォームド・コンセントの確保)(第6)

インフォームド・コンセントを受ける者は、研究責任者又は研究責任者の指示を受けた者であり、当該者は、守秘義務を負うこととした。

(2) 第2章 研究の体制等

・ 研究の体制(研究機関の長の責務等)(第1)

ヒト幹細胞臨床研究の審査を適正かつ公正に実施するために、研究機関の長は、倫理審査委員会の委員に対し、教育及び研修の機会を設けなければならないこととした。

・ 研究の体制(倫理審査委員会)(第1)

倫理審査委員会の委員は、研究機関の長が設ける適切な教育及び研修を受けなければならないこととした。

(3) 第3章 ヒト幹細胞若しくはヒト分化細胞の採取又はヒト受精胚の提供

・ 提供者の人権保護(第1)

○ ヒト幹細胞臨床研究に用いるヒト受精胚は、生殖補助医療に用いる目的で作成されたヒト受精胚であって、当面当該目的に用いる予定がないもののうち、提供者による当該ヒト受精胚を滅失させることについての意思が確認できたものであること等の要件を満たすものであることとした。

○ ヒト幹細胞若しくはヒト分化細胞を採取する、又はヒト受精胚の提供を受けるに当たっては、文書によるインフォームド・コンセントを受けることが必要であるが、外国で樹立された既存のヒトES細胞については、一定の要件の下で、倫理審査委員会の承認を得て、研究機関の長の許可を受けていれば、新たにインフォームド・コンセントを受けることができない場合でも、その使用を可能とする細則を設けることとした。

・ 採取した又は提供を受けたヒト幹細胞、ヒト分化細胞又はヒト受精胚の輸送(第3)

採取した又は提供を受けた研究機関が、ヒト幹細胞、ヒト分化細胞又はヒト受精胚を調製機関に輸送するに当たっては、手順書及び記録を作成して保存するとともに、研究機関及び調製機関は、指針への適合性について、文書により互いに確認することとした。

(4) 第5章 ヒト幹細胞等の移植又は投与

・ 移植又は投与段階における安全対策等(第2)

○ 提供者の保有個人情報は、匿名化した上で取扱うこととしており、被験者の健康被害が生じた場合に備え、匿名化する際は原則、連結可能とすることが必要であるが、外国で樹立された既存のヒトES細胞については、適切に品質管理され、公共の福祉の追求の上で特に重要である等、倫理審査委員会の承認を得て、研究機関の長の許可を受けていれば、連結不可能でも、その使用を可能とする細則を設けることとした。

○ 研究責任者は、被験者保護のため、ヒト幹細胞臨床研究が被験者へ与えるリスクを最小化されるように検討し、研究計画を作成することとした。

第2 経過措置について

本指針の改正事項については、平成25年10月1日から適用することとし、同日前にすでに着手された(倫理審査委員会の承認を得た)臨床研究については、従前の例によることとする。

第3 指針運用窓口の設置について

指針運用上の疑義照会等がある場合の連絡先は以下のとおりとする。なお、特に医学的又は技術的に専門的な事項にわたる内容については、必要に応じ、専門家の意見も踏まえて回答する。

○ 連絡先

厚生労働省医政局研究開発振興課

住所:〒100―8916 東京都千代田区霞が関1―2―2

電話:03―3595―2430

FAX:03―3503―0595

○ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針の改正等について

(平成25年9月30日)

(医政発0930第2号)

(都道府県知事あて厚生労働省医政局長通知)

(公印省略)

ヒト幹細胞を用いる臨床研究(以下「ヒト幹細胞臨床研究」という。)の適正な実施を目的として、平成18年7月に「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」(以下「旧指針」という。)を策定し、その後、科学技術の進歩、ヒト幹細胞の取扱いに関する社会的情勢の変化等を勘案し平成22年に全部改正を行い、採取、調製及び移植又は投与の過程を複数研究機関で実施する場合の規定を設けた。

一方、平成22年改正においては、ヒト胚性幹細胞(以下「ヒトES細胞」という。)を含むヒト幹細胞の樹立と分配については、今後の検討に委ねられていた。

このため、ヒトES細胞を含むヒト幹細胞の樹立と分配に関して、「厚生科学審議会科学技術部会ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針の見直しに関する専門委員会」において、平成23年10月から15回にわたり、倫理性、安全性、品質等の観点から検討を行った。

今般、本検討を踏まえ、旧指針の全般的な見直しを行い、平成25年10月1日から「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針(平成25年厚生労働省告示第317号)」(以下「本指針」という。)を適用することとした。

本指針については、広く一般に遵守を呼びかける方針であり、下記事項に留意の上、貴職管内においてヒト幹細胞臨床研究に携わる者への周知徹底及び遵守の要請をお願いする。

また、本指針の運用に資することを目的として、別添のとおり細則を定めたので、あわせて通知する。

なお、本通知は、地方厚生(支)局長に対しても通知していることを申し添える。

(注)別添については、本指針と細則との関係を分かりやすくするため、本指針において示す各事項ごとに細則を挿入する形式としている。

第1 指針の改正について

今回の主な改正点は、以下に掲げる事項であるので、本指針の運用において留意すること。

(1) 第1章 総則

・ 適用範囲(第3)

ヒト幹細胞等を、疾病の治療を目的として人の体内に移植又は投与する臨床研究に加え、臨床研究への使用の目的でヒト幹細胞等を調製又は保管する研究も対象とすることとした。

・ 対象となるヒト幹細胞等(第5)

これまで、細則において、ヒトES細胞を用いる臨床研究は実施しないこととされていたが、当該細則を削除し、一部のヒトES細胞(※)を用いた臨床研究を可能とする細則を設けることとした。

※ 一部のヒトES細胞には、以下の①及び②が該当する。

① 外国で樹立されたヒトES細胞で、文部科学省の「ヒトES細胞の樹立及び分配に関する指針」(平成21年文部科学省告示第156号)と同等の基準に基づき樹立されたものと認められるもの

② 文部科学省の関連指針におけるヒトES細胞の臨床利用に関する考え方が示された後に、新規に樹立するヒトES細胞

・ 基本原則(インフォームド・コンセントの確保)(第6)

インフォームド・コンセントを受ける者は、研究責任者又は研究責任者の指示を受けた者であり、当該者は、守秘義務を負うこととした。

(2) 第2章 研究の体制等

・ 研究の体制(研究機関の長の責務等)(第1)

ヒト幹細胞臨床研究の審査を適正かつ公正に実施するために、研究機関の長は、倫理審査委員会の委員に対し、教育及び研修の機会を設けなければならないこととした。

・ 研究の体制(倫理審査委員会)(第1)

倫理審査委員会の委員は、研究機関の長が設ける適切な教育及び研修を受けなければならないこととした。

(3) 第3章 ヒト幹細胞若しくはヒト分化細胞の採取又はヒト受精胚の提供

・ 提供者の人権保護(第1)

○ ヒト幹細胞臨床研究に用いるヒト受精胚は、生殖補助医療に用いる目的で作成されたヒト受精胚であって、当面当該目的に用いる予定がないもののうち、提供者による当該ヒト受精胚を滅失させることについての意思が確認できたものであること等の要件を満たすものであることとした。

○ ヒト幹細胞若しくはヒト分化細胞を採取する、又はヒト受精胚の提供を受けるに当たっては、文書によるインフォームド・コンセントを受けることが必要であるが、外国で樹立された既存のヒトES細胞については、一定の要件の下で、倫理審査委員会の承認を得て、研究機関の長の許可を受けていれば、新たにインフォームド・コンセントを受けることができない場合でも、その使用を可能とする細則を設けることとした。

・ 採取した又は提供を受けたヒト幹細胞、ヒト分化細胞又はヒト受精胚の輸送(第3)

採取した又は提供を受けた研究機関が、ヒト幹細胞、ヒト分化細胞又はヒト受精胚を調製機関に輸送するに当たっては、手順書及び記録を作成して保存するとともに、研究機関及び調製機関は、指針への適合性について、文書により互いに確認することとした。

(4) 第5章 ヒト幹細胞等の移植又は投与

・ 移植又は投与段階における安全対策等(第2)

○ 提供者の保有個人情報は、匿名化した上で取扱うこととしており、被験者の健康被害が生じた場合に備え、匿名化する際は原則、連結可能とすることが必要であるが、外国で樹立された既存のヒトES細胞については、適切に品質管理され、公共の福祉の追求の上で特に重要である等、倫理審査委員会の承認を得て、研究機関の長の許可を受けていれば、連結不可能でも、その使用を可能とする細則を設けることとした。

○ 研究責任者は、被験者保護のため、ヒト幹細胞臨床研究が被験者へ与えるリスクを最小化されるように検討し、研究計画を作成することとした。

第2 経過措置について

本指針の改正事項については、平成25年10月1日から適用することとし、同日前にすでに着手された(倫理審査委員会の承認を得た)臨床研究については、従前の例によることとする。

第4 指針運用窓口の設置について

指針運用上の疑義照会等がある場合の連絡先は以下のとおりとする。なお、特に医学的又は技術的に専門的な事項にわたる内容については、必要に応じ、専門家の意見も踏まえて回答する。

○ 連絡先

厚生労働省医政局研究開発振興課

住所:〒100―8916 東京都千代田区霞が関1―2―2

電話:03―3595―2430

FAX:03―3503―0595

(別添)

ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針

平成18年7月3日

(平成22年11月1日全部改正)

(平成25年10月1日全部改正)

厚生労働省

目次

前文

第1章 総則

第1 目的

第2 用語の定義等

第3 適用範囲

第4 対象疾患等

第5 対象となるヒト幹細胞等

第6 基本原則

1 倫理性の確保

2 安全性及び有効性の確保

3 品質、安全性等の確認

4 インフォームド・コンセントの確保

5 公衆衛生上の安全の配慮

6 情報の公開

7 被験者及び提供者の個人情報の保護

第2章 研究の体制等

第1 研究の体制

1 全ての研究者等の基本的な責務

2 研究者の責務

3 研究責任者の責務等

4 総括責任者の責務等

5 研究機関の長の責務等

6 組織の代表者等の責務等

7 研究機関の基準

8 倫理審査委員会

第2 厚生労働大臣の意見等

1 厚生労働大臣の意見

2 重大な事態に係る厚生労働大臣の意見

3 厚生労働大臣の調査

第3章 ヒト幹細胞若しくはヒト分化細胞の採取又はヒト受精胚の提供

第1 提供者の人権保護

1 提供者の選定

2 提供者の保護

3 インフォームド・コンセント

4 提供者又は代諾者となるべき者に対する説明事項

5 代諾者からのインフォームド・コンセント

6 手術等で摘出されたヒト幹細胞又はヒト分化細胞を利用する場合

7 提供者が死亡している場合

8 提供者に移植又は投与を行う場合

第2 採取又は提供段階における安全対策等

1 提供者の選択基準及び適格性

2 適切な採取又は提供作業の確保

3 記録等

第3 採取した又は提供を受けたヒト幹細胞、ヒト分化細胞又はヒト受精胚の輸送

第4章 ヒト幹細胞等の調製段階における安全対策等

第1 調製段階における安全対策等

1 品質管理システム

2 標準操作手順書

3 原材料となるヒト幹細胞、ヒト分化細胞又はヒト受精胚の受入れ

4 試薬等の受入試験

5 最終調製物の試験

6 微生物等による汚染の危険性の排除

7 輸送

8 調製工程に関する記録

9 最新技術の反映

第2 調製段階における管理体制等

第5章 ヒト幹細胞等の移植又は投与

第1 被験者の人権保護

1 被験者の選定

2 インフォームド・コンセント

3 被験者又は代諾者となるべき者に対する説明事項

4 代諾者からのインフォームド・コンセント

第2 移植又は投与段階における安全対策等

1 ヒト幹細胞等に関する情報管理

2 被験者の試料の保管及び記録の保存

3 被験者に関する情報の把握

4 リスクの最小化

第6章 雑則

第1 見直し

第2 適用期日

第3 経過措置

前文

ヒト幹細胞を用いる臨床研究(将来の臨床利用のためのヒト幹細胞の樹立、保管又は分配の研究を含む。以下「ヒト幹細胞臨床研究」という。)は、臓器の再生等を通じて、国民の健康の維持並びに疾病の予防、診断及び治療に重要な役割を果たすことが期待されている。

ヒト幹細胞臨床研究が、社会的な理解を得て適正に実施及び推進されるよう、人間の尊厳及び人権を尊重し、かつ、科学的知見に基づいた安全性及び有効性を確保するために、ヒト幹細胞臨床研究に関わる全ての者が尊重すべき事項を定めたヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針(以下「指針」という。)を平成18年7月に策定した。

その後、既存のヒト幹細胞に係る臨床研究が進められている中、人工多能性幹細胞(以下「iPS細胞」という。)や胚性幹細胞(以下「ES細胞」という。)等を用いた臨床応用のための基礎研究が精力的に実施され、研究体制も多様化した。こうした状況を踏まえ、平成22年11月に指針を全部改正した。

現在実施されているヒト幹細胞に係る基礎研究の成果等が広く疾病の治療法等として確立するためには、今後も一層の臨床研究の実施が必要不可欠である。また、臨床研究の実施については、世界医師会によるヘルシンキ宣言(1964年6月世界医師会総会採択)、臨床研究に関する倫理指針(平成20年厚生労働省告示第415号)等に示された倫理規範を踏まえ、個々の被験者の人権が科学的又は社会的な利益に優先されなければならないことに加え、被験者保護について国民に十分な説明を行い、国民の理解に基づき臨床研究を実施することが求められる。

以上のように、多様化しているヒト幹細胞臨床研究の実状に鑑み、この指針においては基本的な原則を示すこととし、研究者が研究計画を立案し、その適否について倫理審査委員会が判断するに当たっては、当該原則を踏まえつつ、個々の研究計画の内容等に応じて適切に判断することが求められる。また、厚生科学審議会においても、この指針に加え、最新の知見に留意し、個別に審査を行うこととされている。

なお、研究機関においては、個人情報の保護に関し、個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号。以下「個人情報保護法」という。)、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第58号。以下「行政機関個人情報保護法」という。)及び独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第59号。以下「独立行政法人等個人情報保護法」という。)並びに個人情報保護法第11条の趣旨を踏まえ、地方公共団体等において制定される条例等を遵守する必要があることに留意しなければならない。

第1章 総則

第1 目的

ヒト幹細胞臨床研究は、臓器の再生等を通じて、国民の健康の維持並びに疾病の予防、診断及び治療に重要な役割を果たすものである。

この指針は、こうした役割に鑑み、ヒト幹細胞臨床研究が社会的な理解を得て、適正に実施及び推進されるよう、人間の尊厳及び人権を尊重し、かつ、科学的知見に基づいた安全性及び有効性を確保するために、ヒト幹細胞臨床研究に関わる全ての者が遵守すべき事項を定めることを目的とする。

第2 用語の定義等

この指針において、次に掲げる用語の定義は、それぞれ次に定めるところによる。

(1) ヒト幹細胞 自己複製能(自分と同じ能力を持った細胞を複製する能力をいう。)及び多分化能(異なる系列の細胞に分化する能力をいう。)を有するヒト細胞をいい、別に厚生労働省医政局長が定める細則(以下「細則」という。)に規定するヒト体性幹細胞、ヒト胚性幹細胞(以下「ヒトES細胞」という。)及びヒト人工多能性幹細胞(以下「ヒトiPS細胞」という。)を含む。

<細則>

1 ヒト体性幹細胞は、ヒトの身体の中に存在する幹細胞で、限定した分化能を保有するヒト細胞である。例えば、造血幹細胞(各種血液細胞に分化するものをいう。)、神経幹細胞(神経細胞又はグリア細胞に分化するものをいう。)、間葉系幹細胞(骨、軟骨、脂肪細胞等に分化するものをいう。)等が含まれる。この指針の対象に体性幹細胞を含んだ組織(骨髄、臍帯血等)を用いる臨床研究も含まれる。

2 ヒトES細胞は、受精卵を培養して得られる胚盤胞の内部細胞塊から樹立されたヒト細胞で、未分化な状態で自己複製能と多分化能を有する。

3 ヒトiPS細胞は、人工的に多能性を誘導されたヒト幹細胞であり、ヒトES細胞とほぼ同様の能力を持つ細胞である。一方、人工的に限定された分化能を誘導されたヒト幹細胞(例えば、皮膚の線維芽細胞からiPS細胞を経ずに直接作製された神経幹細胞等)はiPS細胞とは呼ばないが、この指針の対象とする。

(2) ヒト受精胚 ヒトの精子と未受精卵との受精により生じる胚(当該胚が1回以上分割されることにより順次生じるそれぞれの胚であって、ヒト胚分割胚でないものを含む。)をいう。

(3) 研究者 ヒト幹細胞臨床研究を実施する者をいう。ただし、研究責任者に該当する者を除く。

(4) 研究責任者 研究機関において、研究者に必要な指示を行うほか、ヒト幹細胞臨床研究に係る業務を統括する者をいう。

(5) 総括責任者 採取、調製及び移植又は投与の過程を複数の機関で実施するヒト幹細胞臨床研究において、研究者及び研究責任者に必要な指示を行うほか、ヒト幹細胞臨床研究に係る業務を総括する研究責任者をいう。

(6) 研究者等 研究者、研究責任者、総括責任者、研究機関の長その他ヒト幹細胞臨床研究に携わる者をいう。

(7) 研究機関 ヒト幹細胞臨床研究を実施する機関(ヒト幹細胞若しくは採取時に既に分化しているヒト細胞(以下「ヒト分化細胞」という。)を採取する機関、ヒト受精胚の提供を受ける機関、又はヒト幹細胞若しくはヒト分化細胞の調製機関を含む。)をいう。

(8) 倫理審査委員会 ヒト幹細胞臨床研究の実施、継続又は変更の適否その他ヒト幹細胞臨床研究に関する必要な事項について、倫理的及び科学的観点から審議するため、研究機関の長の諮問機関として設置された合議制の機関をいう。

(9) 重大な事態 被験者の死亡その他ヒト幹細胞臨床研究の実施に際して生じた重大な事態及びヒト幹細胞臨床研究の実施に影響を及ぼすおそれがある情報の提供を受けた事態をいう。

(10) 被験者 ヒト幹細胞臨床研究において、移植又は投与の対象となる者をいう。

(11) 提供者 ヒト幹細胞臨床研究において、自らのヒト幹細胞、ヒト分化細胞又はヒト受精胚を提供する者をいう。

(12) インフォームド・コンセント 被験者、提供者又は代諾者となるべき者が、研究責任者又は研究責任者の指示を受けた者から、事前にヒト幹細胞臨床研究に関する十分な説明を受け、当該ヒト幹細胞臨床研究の意義、目的、方法等を理解し、本人の判断において、被験者又は提供者となること及び第5の1に規定するヒト幹細胞等(以下「ヒト幹細胞等」という。)の取扱いについて、当該研究責任者又は研究責任者の指示を受けた者に対して与える同意をいう。

(13) 代諾者 被験者又は提供者(ヒト受精胚の提供者を除く。)となるべき者が単独で同意を与える能力を欠いている場合において、親権を行う者、配偶者、後見人その他本人の意思及び利益を最もよく代弁できると判断される者であって、本人に代わってインフォームド・コンセントを与え得る者をいう。

(14) 調製 ヒト幹細胞等に対して、最小限の操作、ヒト幹細胞等の人為的な増殖、細胞の活性化等を目的とした薬剤処理、生物学的特性改変操作、非細胞成分との組合せ又は遺伝子工学的改変操作等を施す行為をいう。

<細則>

最小限の操作とは、組織の分離、組織の細切、ヒト幹細胞又はヒト分化細胞の分離・単離、抗生物質による処理、洗浄、ガンマ線等による滅菌、冷凍又は解凍等の細胞の本来の性質を改変しない操作をいう。

(15) 調製機関 ヒト幹細胞臨床研究のために用いられるヒト幹細胞等を調製する機関をいう。

(16) ロット 一連の調製工程により均質性を有するように調製されたヒト幹細胞等の一群をいう。

(17) 最終調製物 被験者に移植又は投与する最終的に調製されたヒト幹細胞等をいう。

(18) 個人情報 生存する個人に関する情報であって、個人情報保護法第2条第1項に規定する個人情報をいう。

なお、死者に係る個人情報が、同時に遺族等の生存する個人に関する情報である場合には、当該生存する個人に関する個人情報となる。

(19) 保有個人情報 研究者等が実施するヒト幹細胞臨床研究に係る個人情報であって、当該研究者等が、開示、内容の訂正、追加又は削除、利用の停止、消去及び第三者への提供の停止を行うことのできる権限を有するものをいう。

(20) 未成年者 満20歳未満の者であって、婚姻をしたことがない者をいう。

(21) 代理人 未成年者若しくは成年被後見人の法定代理人又は保有個人情報の利用目的の通知、開示、内容の訂正、追加又は削除、利用の停止、消去及び第三者への提供の停止の求め(以下「開示等の求め」という。)をすることにつき本人が委任した代理人をいう。

(22) 匿名化 個人情報から個人を識別することができる情報の全部又は一部を削除し、代わりにその人と関わりのない符号又は番号を付すことをいう。ただし、試料等に付随する情報のうち、特定の情報だけでは個人を識別できない情報であっても、名簿等の他の情報と組み合わせることにより当該個人を識別できる場合には、更に情報の全部又は一部を削除し、その人が識別できないようにすることをいう。

(23) 連結可能匿名化 必要な場合に個人を識別できるように、当該個人と新たに付された符号又は番号の対応表等を作成することによる匿名化をいう。

第3 適用範囲

1 この指針は、第4に規定する対象疾患等に関するものであって、ヒト幹細胞等を、疾病の治療を目的として人の体内に移植若しくは投与する臨床研究又は臨床研究への使用の目的でヒト幹細胞等を調製若しくは保管する研究を対象とする。

ただし、次のいずれかに該当するものは、この指針の対象としない。

(1) 安全性及び有効性が確立されており、一般的に行われている医療行為

(2) 薬事法(昭和35年法律第145号)第2条第16項に規定する治験

2 この指針は、日本国内において実施されるヒト幹細胞臨床研究を対象とするが、我が国の研究機関が日本国外においてヒト幹細胞臨床研究を実施する場合及び海外の研究機関と共同でヒト幹細胞臨床研究を実施する場合は、日本国外において実施されるヒト幹細胞臨床研究も対象とし、研究者等は、実施地の法令等を遵守しつつ、この指針の基準に従わなければならない。

ただし、この指針と比較して当該実施地の法令等の基準が厳格な場合には、当該基準に従ってヒト幹細胞臨床研究を実施しなければならない。

<細則>

我が国の研究機関が日本国外においてヒト幹細胞臨床研究を実施する場合及び海外の研究機関と共同でヒト幹細胞臨床研究を実施する場合において、この指針の基準が相手国の法令等の基準よりも厳格な場合であって、かつ次に掲げる要件のすべてを満たす場合には、当該相手国の基準に従ってヒト幹細胞臨床研究を実施することができる。

(1) 相手国においてこの指針の適用が困難であること。

(2) 次に掲げる事項が適切に措置されることについて、我が国の研究機関の倫理審査委員会の審査を受け、研究機関の長が適当であると判断していること。

① インフォームド・コンセントを受けられること。

② 被験者及び提供者の個人情報の保護について適切な措置が講じられること。

③ ヒト幹細胞臨床研究の実施計画が、倫理的及び科学的観点から相手国において承認されること、又は相手国が定める法令等に基づいて当該相手国の研究機関内の倫理審査委員会若しくはこれに準ずる組織により承認され、当該相手国の研究機関の長により許可されること。

第4 対象疾患等

1 ヒト幹細胞臨床研究の対象は、病気や怪我で損傷した臓器又は組織の再生を目的とするものであること。

2 初めて人に移植又は投与されるヒト幹細胞を用いる臨床研究(以下「新規ヒト幹細胞臨床研究」という。)については、次に掲げる要件のいずれにも適合するものに限る。

(1) 当該臓器若しくは組織の損傷の原因となる疾患が、重篤で生命を脅かすもの、身体の機能を著しく損なうもの又は一定程度身体の機能若しくは形態を損なうことによりQOL(生活の質)を著しく損なうものであること。

(2) ヒト幹細胞臨床研究による治療の効果が、現在可能な他の治療と比較して優れていると予測されるものであること。

(3) 被験者にとってヒト幹細胞臨床研究の治療により得られる利益が、不利益を上回ると十分予測されるものであること。

第5 対象となるヒト幹細胞等

1 ヒト幹細胞臨床研究において被験者に移植又は投与されるヒト幹細胞等は、次に掲げる細胞等とする。

(1) ヒト幹細胞及びこれを豊富に含む細胞集団

(2) (1)を調製して得られた細胞及び血球

<細則>

ヒトES細胞の樹立及び分配に関する指針(平成21年文部科学省告示第156号)及びヒトES細胞の使用に関する指針(平成22年文部科学省告示第87号)におけるヒトES細胞の臨床利用に関する考え方が示されるまでは、当該指針に基づいて既に樹立したヒトES細胞並びに当該指針及び指針に基づいて今後新規に樹立するヒトES細胞を用いる臨床研究は実施しないこととする。

(3) ヒト分化細胞を調製して得られた細胞及び血球(最小限の操作のみによる調製により得られたものは除く。)

2 ヒト胎児(死胎を含む。)から採取された幹細胞は、この指針の対象としない。

第6 基本原則

1 倫理性の確保

研究者等は、生命倫理を尊重しなければならない。

2 安全性及び有効性の確保

ヒト幹細胞臨床研究は、適切な実験により得られた科学的知見に基づき、安全性及び有効性が予測されるものに限る。

3 品質、安全性等の確認

ヒト幹細胞臨床研究に用いるヒト幹細胞等は、その品質、安全性等が確認されているものに限る。

4 インフォームド・コンセントの確保

ヒト幹細胞臨床研究を実施する場合には、研究機関の長は、被験者、提供者又は代諾者となるべき者のインフォームド・コンセントを確保しなければならない。また、インフォームド・コンセントを受ける者(以下「説明者」という。)は、研究責任者又は研究責任者の指示を受けた者であり、当該者は、守秘義務を負うものとする。

<細則>

説明者は、適切な教育及び研修を受け、当該ヒト幹細胞臨床研究を熟知した者とする。

5 公衆衛生上の安全の配慮

ヒト幹細胞臨床研究は、公衆衛生上の安全に十分配慮して実施されなければならない。

6 情報の公開

ヒト幹細胞臨床研究は、第2章第1の3(8)に規定するデータベースに登録され、その情報は適切かつ正確に公開されなければならない。

7 被験者及び提供者の個人情報の保護

(1) 被験者及び提供者(以下「被験者等」という。)に関する個人情報については、連結可能匿名化を行った上で取り扱うものとする。なお、個人情報保護法、行政機関個人情報保護法及び独立行政法人等個人情報保護法並びに個人情報保護法第11条第1項の趣旨を踏まえて地方公共団体において制定される条例等が適用されるそれぞれの研究機関は、保有個人情報の取扱いに当たっては、それぞれに適用される法令等を遵守する必要があることに留意しなければならない。

(2) 研究者等及び倫理審査委員会の委員は、ヒト幹細胞臨床研究を実施又は審査する上で知り得た被験者等に関する個人情報を正当な理由なく漏らしてはならないものとする。その職を退いた後も、同様とする。

(3) 研究者等及び倫理審査委員会の委員は、提供者に関する情報と被験者に関する情報が提供者と被験者の間で相互に伝わることのないよう、特に細心の注意を払わなければならない。

第2章 研究の体制等

第1 研究の体制

1 全ての研究者等の基本的な責務

(1) 研究者等は、被験者等の生命、健康、プライバシー及び尊厳を守ることは、ヒト幹細胞臨床研究に携わる研究者等の責務であることを認識しなければならない。

(2) 研究者等は、ヒト幹細胞臨床研究を実施するに当たっては、一般的に受け入れられた科学的原則に従い、科学的文献その他の関連する情報及び十分な実験結果に基づかなければならない。原則として、移植又は投与されるヒト幹細胞等は、動物実験等によってその有効性が十分期待され、かつ、その作用機序が可能な限り検討されていなければならない。さらに、新規ヒト幹細胞臨床研究を実施するに当たっては、造腫瘍性の確認を含む安全性に対する特別な配慮をしなければならない。

<細則>

(2)に規定する安全性に対する特別な配慮とは、例えば次に掲げる事項であり、常に技術の進歩を反映させるように努めなければならない。

(1) 有効性が期待されるヒト幹細胞等以外の細胞の混入を避ける。

(2) 被験者に移植又は投与する細胞の特異性に対応した、個別の評価方法(ゲノム、エピゲノム等の評価)を定める。

(3) 造腫瘍性の懸念がある場合には、適切な動物実験に基づいてそれを否定する。

(3) 説明者は、ヒト幹細胞臨床研究を実施するに当たっては、被験者、提供者又は代諾者となるべき者に対し、当該ヒト幹細胞臨床研究の実施に関し必要な事項について十分な説明を行い、文書でインフォームド・コンセントを受けなければならない。

<細則>

1 採取及び移植又は投与ごとに、インフォームド・コンセントを受けなければならない。

2 説明者ごとに文書でインフォームド・コンセントを受けなければならないわけではなく、研究責任者が代表して受けるなど、被験者、提供者又は代諾者となるべき者ごとに一つの文書によるインフォームド・コンセントを受けることが可能である。

(4) 研究者等は、環境に影響を及ぼすおそれのあるヒト幹細胞臨床研究を実施する場合又はヒト幹細胞臨床研究の実施に当たり動物を使用する場合には、当該ヒト幹細胞臨床研究の実施に当たって、環境又は被験者等への影響に十分な配慮をしなければならない。

(5) 研究者等は、新規ヒト幹細胞臨床研究を実施する場合には、多領域の研究者等と十分な検証を行い、患者団体等の意見にも配慮しなければならない。

(6) 研究者等の個人情報の保護に係る責務は、次に掲げるとおりとする。

① ヒト幹細胞臨床研究の結果を公表する場合には、被験者等を特定できないように行わなければならない。

② あらかじめ被験者、提供者又は代諾者の同意を得ないで、インフォームド・コンセントで特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて、保有個人情報を取り扱ってはならない。

③ 保有個人情報について、その利用目的を変更する場合(④に規定する場合を除く。)には、改めて被験者、提供者又は代諾者に当該変更の内容を説明し、同意を得なければならない。ただし、細則で規定する場合を除く。

<細則>

③に規定する細則で規定する場合は、次に掲げる場合とする。

(1) 法令に基づく場合

(2) 人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。

(3) 公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。

(4) 国の機関若しくは地方公共団体又はその委託を受けた者が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき。

④ 保有個人情報について、変更前の利用目的と相当の関連性を有すると合理的に認められる範囲内において利用目的を変更する場合には、当該変更の内容について被験者、提供者又は代諾者に通知し、又は公表しなければならない。

⑤ 他の研究者等から研究を承継することに伴い個人情報を取得した場合は、あらかじめ被験者、提供者又は代諾者の同意を得ないで、承継前における当該個人情報の利用目的の達成に必要な範囲を超えて、当該個人情報を取り扱ってはならない。

⑥ 偽りその他の不正の手段により個人情報を取得してはならない。

⑦ 利用目的の達成に必要な範囲内において、保有個人情報を正確かつ最新の内容に保つよう努めなければならない。

⑧ 保有個人情報の漏えい、滅失又はき損の防止その他の保有個人情報の安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければならない。

また、死者に係る人としての尊厳及び遺族の感情に鑑み、死者に係る情報についても生存する者に係る個人情報と同様に、情報の漏えい、滅失又はき損の防止その他の死者に係る情報の安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければならない。

⑨ あらかじめ被験者、提供者又は代諾者の同意を得ないで、保有個人情報を第三者に提供してはならない。ただし、細則で規定する場合を除く。

<細則>

1 ⑨に規定する細則で規定する場合は、次に掲げる場合とする。

(1) 法令に基づく場合

(2) 人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。

(3) 公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。

(4) 国の機関若しくは地方公共団体又はその委託を受けた者が法令で定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき。

2 次に掲げる場合において、保有個人情報の提供を受ける者は、⑨に規定する第三者に該当しないものとする。

(1) 研究者等が利用目的の達成に必要な範囲内において保有個人情報の全部又は一部を委託する場合

(2) 保有個人情報を特定の者との間で共同して利用する場合であって、その旨並びに共同して利用される保有個人情報の項目、共同して利用する者の範囲、利用する者の利用目的及び当該保有個人情報の管理について責任を有する者の氏名又は名称について、あらかじめ被験者、提供者又は代諾者に通知し、又は被験者、提供者又は代諾者が容易に知り得る状態に置いているとき。ただし、保有個人情報を利用する者の利用目的又は保有個人情報の管理について責任を有する者の氏名若しくは名称を変更する場合、研究者等は、変更する内容についてあらかじめ被験者、提供者又は代諾者に通知し、又は被験者、提供者又は代諾者が知り得る状態に置かなければならない。

⑩ 保有個人情報の取扱いに関する被験者、提供者又は代諾者等からの苦情又は問合せへの適切かつ迅速な対応に努めなければならない。

2 研究者の責務

(1) 研究者は、ヒト幹細胞臨床研究を適正に実施するために必要な専門的知識又は臨床経験を有する者でなければならない。

(2) 研究者は、ヒト幹細胞臨床研究を適正に実施するため、常に適切な教育及び研修を受け、情報収集に努めなければならない。

(3) 研究者は、研究責任者を補助し、ヒト幹細胞臨床研究の実施計画に関する資料を作成するとともに、当該実施計画の実施に当たっては、研究責任者に対し必要な報告を行わなければならない。

3 研究責任者の責務等

(1) 研究責任者は、ヒト幹細胞臨床研究について研究機関ごとに1名とし、次に掲げる要件を満たす者でなければならない。

① ヒト幹細胞臨床研究の対象となる疾患及び関連する分野について、十分な科学的知見並びに医療に関する経験及び知識を有していること。

<細則>

研究責任者が十分な医療上の経験及び知識を有していない場合は、十分な臨床経験を有する医師がヒト幹細胞臨床研究に参加していなければならない。

② ヒト幹細胞臨床研究を実施することができる倫理観を十分に有していること。

(2) 研究責任者は、ヒト幹細胞臨床研究を実施するに当たっては、国内外の入手し得る情報に基づき、倫理的及び科学的観点から十分検討しなければならない。

(3) 研究責任者は、ヒト幹細胞臨床研究に伴う危険が予測され、安全性を十分に確保できないと判断した場合には、当該ヒト幹細胞臨床研究を実施してはならない。

<細則>

研究責任者は、ヒト幹細胞臨床研究を終了するまでの間、危険の予測や安全性の確保に必要な情報について把握し、経過観察の方法及び対処方法を定めなければならない。

(4) 研究責任者は、被験者等の選定に当たって、被験者等の経済的理由等の不適切な事由をもって選定してはならない。

(5) 研究責任者は、ヒト幹細胞臨床研究を実施し、継続し、又は変更するに当たり、(2)の検討の結果及び4(3)の実施計画書を踏まえて、研究遂行に必要な体制を整え、あらかじめ、当該ヒト幹細胞臨床研究の実施計画を記載した書類(以下「実施計画書」という。)を作成し、研究機関の長の許可を受けなければならない。

<細則>

1 (5)に規定するヒト幹細胞臨床研究の継続は、当該ヒト幹細胞臨床研究の実施期間経過後においても引き続き当該ヒト幹細胞臨床研究を実施する場合又は何らかの理由により中止し、再開する場合等を指す。

2 (5)に規定する研究機関の長は、例えば次に掲げる者である。

(1) 研究機関が病院の場合は、病院長

(2) 研究機関が大学医学部の場合は、医学部長

(6) 研究責任者は、実施計画書に次に掲げる事項を記載しなければならない。

① ヒト幹細胞臨床研究の名称

② 研究責任者及び研究者の氏名並びにそれらの研究者がヒト幹細胞臨床研究において果たす役割

③ 研究機関の名称及び所在地

④ ヒト幹細胞臨床研究の目的及び意義

⑤ 対象疾患及びその選定理由

⑥ 被験者等の選定基準

⑦ ヒト幹細胞等の種類並びにその採取、調製及び移植又は投与の方法

⑧ 品質、安全性等についての評価

⑨ ヒト幹細胞臨床研究の実施が可能であると判断した理由

⑩ ヒト幹細胞臨床研究の実施計画

⑪ 被験者、提供者又は代諾者に関するインフォームド・コンセントの手続

⑫ インフォームド・コンセントにおける説明事項

⑬ 単独でのインフォームド・コンセントが困難な者を被験者又は提供者とするヒト幹細胞臨床研究にあっては、当該ヒト幹細胞臨床研究を実施することが必要不可欠である理由及び代諾者の選定方針

⑭ 被験者等に対して重大な事態が生じた場合の対処方法

⑮ ヒト幹細胞臨床研究終了後の追跡調査の方法

⑯ ヒト幹細胞臨床研究に伴い被験者に生じた健康被害の補償のために必要な措置の内容

⑰ 個人情報の保護の方法(連結可能匿名化の方法を含む。)

⑱ その他必要な事項

<細則>

⑱に規定するその他必要な事項は、例えば次に掲げる事項である。

(1) ヒト幹細胞臨床研究における資金源、起こり得る利害の衝突及び研究者等の関連組織との関わり

(2) 既に実施されているヒト幹細胞臨床研究と比較して新規性が認められる事項

(7) 研究責任者は、実施計画書に、次に掲げる資料を添付しなければならない。

① 研究責任者及び研究者の略歴及び研究業績

② 7に定める研究機関の基準に合致した研究機関の施設の状況

③ ヒト幹細胞臨床研究に用いるヒト幹細胞等の品質、安全性等に関する研究成果

④ 類似のヒト幹細胞臨床研究に関する国内外の研究状況

⑤ ヒト幹細胞臨床研究の概要をできる限り平易な用語を用いて記載した要旨

⑥ インフォームド・コンセントにおける説明文書及び同意文書の様式

⑦ その他必要な資料

(8) 研究責任者は、あらかじめ、登録された臨床研究の計画の内容が公開されているデータベース(国立大学附属病院長会議、一般財団法人日本医薬情報センター及び公益社団法人日本医師会が設置したものに限る。)にヒト幹細胞臨床研究の実施計画を登録しなければならない。ただし、知的財産等の問題によりヒト幹細胞臨床研究の実施に著しく支障が生じるものとして、倫理審査委員会が承認し、研究機関の長が許可した実施計画の内容については、この限りではない。

<細則>

1 研究機関の長等が研究責任者に代わって登録する場合が想定されるが、その場合、登録の責務は研究責任者にある。

2 他の研究機関と共同でヒト幹細胞臨床研究を実施する場合において、一の研究機関の研究責任者が、他の研究機関の研究責任者を代表して登録することができる。その場合、当該ヒト幹細胞臨床研究を実施するすべての研究機関に関する情報が登録内容に記載されていなければならない。

(9) 研究責任者は、ヒト幹細胞臨床研究を総括し、他の研究者に必要な指示を与えるとともに、常に研究者に対する教育及び研修を行わなければならない。

<細則>

(9)に規定する教育及び研修の内容は、例えば次に掲げる事項である。

(1) この指針についての理解

(2) 個人情報の保護の重要性とそのための方策

(3) ヒト幹細胞等に関する知識(ヒト幹細胞等の取扱いに関する倫理的考え方を含む。)

(4) 調製されるヒト幹細胞等の安全な取扱いに関する知識及び技術

(5) 施設・装置に関する知識及び技術

(6) 調製工程の安全性に関する知識及び技術

(7) 事故発生時の措置に関する知識及び技術

(10) 研究責任者は、ヒト幹細胞臨床研究が実施計画書に従い、適正に実施されていることを随時確認しなければならない。

(11) 研究責任者は、研究機関の長に対して、ヒト幹細胞臨床研究の進行状況について随時報告するものとし、少なくとも年1回、臨床研究の進捗状況及び有害事象等の発生状況を文書で報告しなければならない。

(12) 研究責任者は、ヒト幹細胞臨床研究において重大な事態が発生した場合には、研究機関の長及び総括責任者に対し、速やかに、その旨を報告しなければならない。また、研究責任者は、研究機関の長又は総括責任者の指示を受ける前に、必要に応じ、ヒト幹細胞臨床研究の中止又は暫定的な措置を講ずることができる。

(13) 研究責任者は、ヒト幹細胞臨床研究により期待される利益よりも不利益が大きいと判断される場合には、当該ヒト幹細胞臨床研究を中止しなければならない。また、ヒト幹細胞臨床研究により十分な成果が得られた場合には、当該ヒト幹細胞臨床研究を終了しなければならない。

<細則>

1 研究責任者は、ヒト幹細胞臨床研究を終了するまでの間、当該ヒト幹細胞臨床研究に関する国内外における学会発表、論文発表等の情報(以下「発表情報」という。)について把握しておくとともに、把握した発表情報を研究機関の長に報告することが望ましい。

2 研究責任者は、他の研究機関と共同でヒト幹細胞臨床研究を実施する場合には、当該他の研究機関の研究者等に対し、把握した発表情報を報告することが望ましい。

3 研究責任者は、ヒト幹細胞臨床研究を中止し、又は終了した場合は、その旨を研究機関の長に報告しなければならない。

(14) 研究責任者は、研究機関の長又は総括責任者から指示があった場合には、適切かつ速やかに必要な措置を講ずるとともに、当該措置を講じた結果について研究機関の長及び総括責任者に報告しなければならない。

(15) 研究責任者は、ヒト幹細胞臨床研究の中止又は終了後速やかに総括報告書を作成し、研究機関の長及び総括責任者に提出しなければならない。

(16) 研究責任者は、総括報告書に次に掲げる事項を記載しなければならない。

① ヒト幹細胞臨床研究の名称

② ヒト幹細胞臨床研究の目的及び実施期間

③ 研究責任者及び研究者の氏名

④ 研究機関の名称及び所在地

⑤ ヒト幹細胞臨床研究の実施計画

⑥ ヒト幹細胞臨床研究の結果及び考察

⑦ ヒト幹細胞臨床研究終了後の追跡調査の方法

⑧ その他必要な事項

<細則>

⑧に規定するその他必要な事項は、例えば重大な事態が発生した場合の対処方法等である。

(17) 研究責任者は、ヒト幹細胞臨床研究終了後においても、安全性及び有効性の確保の観点から、治療による効果及び副作用について適当な期間の追跡調査その他の必要な措置を講ずるよう努めなければならない。また、その結果については、研究機関の長及び総括責任者に報告しなければならない。

<細則>

移植又は投与されたヒト幹細胞に由来する腫瘍の発生が懸念される場合には、長期の経過観察が求められる。

(18) 研究責任者は、ヒト幹細胞臨床研究終了後においても、当該ヒト幹細胞臨床研究の結果により得られた最善の予防、診断及び治療を被験者が受けることができるよう努めなければならない。

(19) 研究責任者は、ヒト幹細胞臨床研究に関する記録等を、適切な管理下で、総括報告書を提出した日から少なくとも10年以上保存しなければならない。

(20) 研究責任者の個人情報の保護に係る責務は、次に掲げるとおりとする。

① 保有個人情報の安全管理が図られるよう、当該保有個人情報を取り扱う研究者に対し、必要かつ適切な監督を行わなければならない。

<細則>

研究責任者は、研究機関の長が保有個人情報を厳重に管理する手続、体制等を整備するに当たり、これに協力しなければならない。

② 保有個人情報の取扱いの全部又は一部を委託する場合は、取扱いを委託した保有個人情報の安全管理が図られるよう、委託を受けた者に対し、必要かつ適切な監督を行わなければならない。

<細則>

②に規定する必要かつ適切な監督は、例えば委託契約書において、委託者が定める安全管理措置の内容を明示的に規定するととともに、当該内容が遵守されていることを確認することである。

③ 保有個人情報に関し、次に掲げる事項について、被験者、提供者又は代諾者の知り得る状態(被験者、提供者又は代諾者の求めに応じて遅滞なく回答する場合を含む。)にしなければならない。ただし、二については、細則で規定する場合を除く。

一 ヒト幹細胞臨床研究に係る研究者等の氏名又は研究班の名称

二 全ての保有個人情報の利用目的

三 開示等の求めに応じる手続

四 苦情の申出先及び問合せ先

<細則>

③に規定する細則で規定する場合は、次に掲げる場合とする。

(1) 利用目的を被験者、提供者又は代諾者に通知し、又は公表することにより、被験者等又は第三者の生命、身体、財産その他の権利利益を害するおそれがある場合

(2) 利用目的を被験者、提供者又は代諾者に通知し、又は公表することにより、研究責任者の権利又は正当な利益を害するおそれがある場合

(3) 国の機関又は地方公共団体が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、利用目的を被験者、提供者又は代諾者に通知し、又は公表することにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき

(4) 取得の状況からみて利用目的が明らかであると認められる場合

④ 被験者等又は代理人から、当該被験者等が識別される保有個人情報の開示を求められたときは、当該被験者等又は代理人に対し、遅滞なく、書面の交付又は開示の求めを行った者が同意した方法により当該保有個人情報を開示しなければならない。

また、当該被験者等が識別される保有個人情報が存在しないときには、その旨を伝えなければならない。

ただし、開示することにより、次のいずれかに該当する場合は、その全部又は一部を開示しないことができる。

一 被験者等又は第三者の生命、身体、財産その他の権利利益を害するおそれがある場合

二 研究者等のヒト幹細胞臨床研究に係る業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合

三 他の法令に違反することとなる場合

また、開示を求められた保有個人情報の全部又は一部について開示しない旨を決定したときは、被験者等又は代理人に対し、遅滞なく、その旨を通知しなければならない。その際、当該被験者等又は代理人に対し、その理由を説明するよう努めなければならない。

なお、他の法令の規定により、保有個人情報の開示について定めがある場合には、当該法令の規定によるものとする。

⑤ 保有個人情報のうち、診療情報を含むものを開示する場合には、診療情報の提供等に関する指針の策定について(平成15年9月12日付医政発第0912001号厚生労働省医政局長通知)及び「診療情報の提供等に関する指針」の一部改正について(平成22年9月17日付医政発0917第15号厚生労働省医政局長通知)の規定するところによるものとする。

⑥ 被験者等又は代理人から、保有個人情報の内容の修正、利用の停止、消去又は第三者への提供の停止(以下「内容の修正等」という。)の措置を求められた場合であって、その求めが適正であると認められるときは、その求めに応じなければならない。

ただし、利用の停止、消去又は第三者への提供の停止の措置については、多額の費用を要する場合等、当該措置を講ずることが困難な場合であって、被験者等の権利利益を保護するために必要なこれに代わるべき措置を講ずるときは、この限りでない。

⑦ 被験者等又は代理人から、保有個人情報の内容の修正等の措置を求められた場合であって、その全部又は一部について、その措置を講ずる旨、その措置を講じない旨又はその措置と異なる措置を講ずる旨を決定したときは、当該被験者等又は代理人に対し、遅滞なく、その旨を通知しなければならない。その際、当該被験者等又は代理人に対し、その理由を説明するよう努めなければならない。

⑧ 研究責任者は、被験者等又は代理人が容易かつ的確に開示等の求めをすることができるよう、保有個人情報の特定に資する情報の提供その他の被験者等又は代理人の利便を考慮した措置を講じなければならない。

なお、被験者等又は代理人から、保有個人情報の開示等を求められた場合には、研究責任者は、当該被験者等又は代理人に対し、当該保有個人情報を特定するに足りる事項の提示を求めることができる。

<細則>

研究責任者は、開示等の求めに対して、一元的に対応できるような手続等を定めるなど、被験者等及び代理人の負担をできるだけ軽減するような措置を講ずるよう努めなければならない。

(21) 研究責任者は、(2)から(20)までに定める業務のほか、ヒト幹細胞臨床研究を総括するに当たって必要な措置を講じなければならない。

(22) 採取、調製及び移植又は投与の過程を複数の研究機関で実施するヒト幹細胞臨床研究において総括責任者が当該ヒト幹細胞臨床研究を総括する場合には、その他の研究責任者は、(8)に定める登録を総括責任者に依頼することができる。

4 総括責任者の責務等

(1) 採取、調製及び移植又は投与の過程を複数の研究機関で実施するヒト幹細胞臨床研究において、総括責任者は、ヒト幹細胞臨床研究1件につき1名とし、研究責任者の中から1名に限り選任するものとする。

(2) 総括責任者は、研究責任者の業務を行うとともに、他の研究責任者から依頼された3(8)に定めるヒト幹細胞臨床研究の実施計画の登録を代表して行うことができる。この場合には、当該ヒト幹細胞臨床研究を実施する全ての研究機関に関する情報も登録しなければならない。

(3) 総括責任者は、ヒト幹細胞臨床研究を実施し、継続し、又は変更するに当たり、実施計画書を作成し、研究機関の長の許可を受けなければならない。

(4) 総括責任者は、ヒト幹細胞臨床研究を総括し、他の研究責任者に必要な指示を与えるとともに、適宜、他の研究責任者に対する教育及び研修を行わなければならない。

(5) 総括責任者は、ヒト幹細胞臨床研究において重大な事態が発生した場合には、研究機関の長及び全ての研究責任者に対し、速やかに、その旨を報告しなければならない。また、総括責任者は、研究機関の長の指示を受ける前に、必要に応じ、ヒト幹細胞臨床研究の中止又は暫定的な措置を講ずることができる。

(6) 総括責任者は、ヒト幹細胞臨床研究を総括するに当たって、その他の必要な措置を講じなければならない。

5 研究機関の長の責務等

(1) 倫理的配慮等の周知

研究機関の長は、当該研究機関におけるヒト幹細胞臨床研究が、倫理的、社会的又は法的問題を引き起こすことがないよう、当該研究機関の研究者等(研究機関の長を除く。)に対し、ヒト幹細胞臨床研究を実施するに当たり、被験者等の人としての尊厳及び人権を尊重し、個人情報を保護しなければならないことを周知徹底しなければならない。

(2) 倫理審査委員会の設置

研究機関の長は、実施計画書のこの指針に対する適合性その他のヒト幹細胞臨床研究を実施するに当たり必要な事項について、倫理的及び科学的観点から審査を行わせるため、倫理審査委員会を設置しなければならない。また、研究機関の長は、倫理審査委員会の委員に対する教育及び研修の機会を設けなければならない。

<細則>

(2)に規定する倫理審査委員会は、研究機関に既に設置されている類似の委員会をこの指針に規定する倫理審査委員会に適合するよう再編成することで対応可能であり、その名称の如何を問わない。

(3) ヒト幹細胞臨床研究の実施等の許可

研究機関の長は、3(5)又は4(3)の規定により、ヒト幹細胞臨床研究の実施又は重大な変更であって細則で規定する場合(以下「実施等」という。)の許可を求める申請を受けたときは、まず倫理審査委員会の意見を聴き、次に厚生労働大臣の意見を聴いて、当該ヒト幹細胞臨床研究の実施等の許可又は不許可を決定するとともに、当該ヒト幹細胞臨床研究に関する必要な事項を指示しなければならない。この場合において、研究機関の長は、倫理審査委員会又は厚生労働大臣から実施等が適当でない旨の意見を述べられたときは、当該ヒト幹細胞臨床研究について、その実施等を許可してはならない。

なお、倫理審査委員会又は厚生労働大臣から留意事項、改善事項等について意見を述べられた場合であって、研究責任者又は総括責任者から実施計画書の修正又は改善の報告を受けた場合には、研究機関の長は、その旨を倫理審査委員会又は厚生労働大臣に報告し、再度、倫理審査委員会又は厚生労働大臣の意見を聴いた上で、ヒト幹細胞臨床研究の実施等の許可又は不許可を決定しなければならない。

<細則>

(3)に規定する重大な変更であって細則で規定する場合は、実施計画書の記載内容のうち、ヒト幹細胞臨床研究の対象疾患、ヒト幹細胞臨床研究に用いるヒト幹細胞等の種類並びにその採取、調製及び移植又は投与の方法について変更する場合とする。

(4) ヒト幹細胞臨床研究の継続等の許可

研究機関の長は、3(5)又は4(3)の規定により、ヒト幹細胞臨床研究の継続又は軽微な変更であって細則で規定する場合(以下「継続等」という。)の許可を求める申請を受けたときは、倫理審査委員会の意見を聴いて、当該ヒト幹細胞臨床研究の継続等の許可又は不許可を決定するとともに、当該ヒト幹細胞臨床研究に関する必要な事項を指示しなければならない。この場合において、研究機関の長は、倫理審査委員会から継続等が適当でない旨の意見を述べられたときは、当該ヒト幹細胞臨床研究について、その継続等を許可してはならない。

なお、倫理審査委員会から留意事項、改善事項等について意見を述べられた場合であって、研究責任者又は総括責任者から実施計画書の修正又は改善の報告を受けた場合には、研究機関の長は、その旨を倫理審査委員会に報告し、再度、倫理審査委員会の意見を聴いた上で、ヒト幹細胞臨床研究の継続等の許可又は不許可を決定しなければならない。

<細則>

1 (4)に規定する軽微な変更であって細則で規定する場合は、実施計画書の記載内容のうち、ヒト幹細胞臨床研究の対象疾患、ヒト幹細胞臨床研究に用いるヒト幹細胞等の種類並びにその採取、調製及び移植又は投与の方法に係る変更以外の事項について変更する場合とする。

2 研究機関の長は、他の研究機関と共同でヒト幹細胞臨床研究を実施する場合において、当該ヒト幹細胞臨床研究の実施計画書について、それぞれの研究機関に設置された倫理審査委員会の意見を聴いて、許可又は不許可を決定しなければならない。

3 研究機関の長は、他の研究機関と共同でヒト幹細胞臨床研究を実施する場合において、倫理審査委員会の意見を聴くに当たっては、当該他の研究機関における審査の状況、インフォームド・コンセントの取得状況等の情報を倫理審査委員会に提供しなければならない。

(5) 重大な事態における措置

① 研究機関の長は、3(12)の規定により研究責任者から重大な事態が報告された場合には、原因の分析を含む対処方針について、速やかに、倫理審査委員会の意見を聴き、当該研究責任者に対し、中止その他の必要な措置を講ずるよう指示しなければならない。なお、必要に応じ、倫理審査委員会の意見を聴く前に、研究機関の長は、研究責任者に対し、中止又は暫定的な措置を講ずるよう、指示することができる。

② 採取、調製及び移植又は投与の過程を複数の研究機関で実施するヒト幹細胞臨床研究を実施する場合において、3(12)又は4(5)の規定により重大な事態が報告された場合には、報告を受けた研究機関の長は、研究責任者又は総括責任者に対し、①に規定する必要な措置を講ずるよう指示した上で、当該ヒト幹細胞臨床研究を実施する他の全ての研究機関の長に対して、重大な事態及び講じられた措置等について周知しなければならない。

なお、ヒト幹細胞臨床研究を実施する全ての研究機関の長は、共同で(6)から(12)までの責務を行わなければならない。

(6) 研究責任者からの報告等

研究機関の長は、ヒト幹細胞臨床研究の進行状況、重大な事態等について、研究責任者から適切に報告を受けるとともに、研究責任者に必要な事項を聴取することができる。

(7) 倫理審査委員会への報告

研究機関の長は、次に掲げる事項を行うものとする。

① ヒト幹細胞臨床研究の進行状況について研究責任者から報告を受けた場合には、当該進行状況について、速やかに、倫理審査委員会に対し報告を行うこと。

② 8(3)②の規定により、倫理審査委員会から留意事項、改善事項等について意見を述べられた場合には、これについて講じた改善等の措置について、倫理審査委員会に対し報告を行うこと。

③ 研究責任者から総括報告書を受理した場合には、速やかに、その写しを倫理審査委員会に提出すること。

(8) 厚生労働大臣への報告等

① 研究機関の長は、3(12)の規定により研究責任者から重大な事態が報告された場合には、速やかに、次に掲げる事項を行わなければならない。

一 重大な事態が発生したこと及びその内容を厚生労働大臣に報告すること。

二 重大な事態について、倫理審査委員会の意見を受け、その原因を分析し、研究責任者に中止その他の必要な措置について指示を与えた上で、倫理審査委員会の意見、原因の分析結果及び研究責任者に指示した措置の内容を厚生労働大臣に報告すること。

三 二の規定によるヒト幹細胞臨床研究の中止その他の必要な措置が講じられた後、その結果を厚生労働大臣に報告すること。

② 研究機関の長は、研究責任者から総括報告書を受理した場合には、速やかに、その写しを厚生労働大臣に提出しなければならない。

(9) 研究責任者への指示

研究機関の長は、倫理審査委員会若しくは厚生労働大臣の意見を受け、又は必要に応じ、研究責任者に対してヒト幹細胞臨床研究の改善、中止、調査の実施その他の必要な措置を講ずるよう、指示するものとする。

なお、倫理審査委員会からヒト幹細胞臨床研究を中止するべきである旨の意見を述べられたときは、その中止を指示しなければならない。

(10) 記録等の保存の体制整備

研究機関の長は、ヒト幹細胞臨床研究に関する記録等を、研究責任者が適切な管理の下で保存できるよう、必要な体制を整えなければならない。

(11) 実施計画書及び成果の公開

研究機関の長は、実施計画書及びヒト幹細胞臨床研究の成果を公開するよう努めるものとする。

(12) 研究体制の整備

研究機関の長は、ヒト幹細胞臨床研究を実施するに当たり、適切な研究体制を整備しなければならない。

(13) 厚生労働大臣からの意見聴取等の委任

採取、調製及び移植又は投与の過程を複数の研究機関で実施するヒト幹細胞臨床研究において、総括責任者から(3)に定める申請を受け、又は3(15)に定める総括報告書を受理した研究機関の長は、他の研究機関の長の委任を受けて、複数の研究機関を代表して、(3)の規定による厚生労働大臣からの意見聴取又は(8)②の規定による厚生労働大臣に対する総括報告書の写しの提出をすることができる。

6 組織の代表者等の責務等

(1) 個人情報の保護に関する責務

① 研究機関を有する法人の代表者、行政機関の長等(以下「組織の代表者等」という。)は、当該研究機関におけるヒト幹細胞臨床研究の実施に際し、個人情報の保護が図られるようにしなければならない。

② 組織の代表者等は、個人情報の保護に係る措置に関し、適正な実施を確保するため必要があると認めるときは、研究機関の長に対し、監督上必要な指示をすることができる。

(2) 個人情報に係る安全管理措置

組織の代表者等は、保有個人情報の安全管理のために必要かつ適切な組織的、人的、物理的及び技術的な安全管理措置を講じなければならない。

また、組織の代表者等は、死者の人としての尊厳及び遺族の感情に鑑み、死者に係る情報についても生存する個人に係る個人情報と同様に、必要かつ適切な組織的、人的、物理的及び技術的な安全管理措置を講じなければならない。

(3) 苦情及び問合せへの対応

組織の代表者等は、苦情及び問合せに適切かつ迅速に対応するため、苦情及び問合せを受け付けるための窓口の設置、苦情及び問合せの対応の手順の策定その他の必要な体制の整備に努めなければならない。

(4) 手数料の徴収等

組織の代表者等は、保有個人情報の利用目的の通知又は保有個人情報の開示を求められたときは、当該通知又は開示の実施に関し、手数料を徴収することができる。手数料を徴収する場合には、実費を勘案して合理的であると認められる範囲内において、その額を定めなければならない。

(5) 権限等の委任

組織の代表者等は、(2)から(4)までに規定する権限又は事務を、研究機関の長その他の研究機関の適当な者に委任することができる。

7 研究機関の基準

研究機関は、次に掲げる要件を満たすほか、第1章第6に規定する基本原則を遂行する体制が整備されていなければならない。

(1) ヒト幹細胞若しくはヒト分化細胞を採取する、又はヒト受精胚の提供を受ける研究機関は、次に掲げる要件を満たすものとする。

① ヒト幹細胞又はヒト分化細胞の適切な採取及び保管に必要な管理がなされており、採取及び保管に関する十分な知識及び技術を有する研究者を有していること。

② 提供者の人権の保護のための措置が講じられていること。

③ 採取が侵襲性を有する場合にあっては、医療機関であること。

④ 倫理審査委員会が設置されていること。

(2) 調製機関は、次に掲げる要件を満たすものとする。

① 調製されるヒト幹細胞等の特性に応じ、ヒト幹細胞等の生存能力を保ちつつ無菌的に調製できる構造及び設備を有していること。

② ヒト幹細胞等の調製及び保管に必要な衛生上の管理がなされており、調製に関する十分な知識及び技術を有する研究者を有していること。

③ ヒト幹細胞等の取り違えが起こらないよう、設備上及び取扱上の配慮がなされていること。

④ 倫理審査委員会が設置されていること。

⑤ 不適切な調製がなされないよう、調製に従事する研究者への教育及び訓練がなされていること。

(3) ヒト幹細胞等を移植又は投与する研究機関は、次に掲げる要件を満たすものとする。

① 医療機関であること。

② 十分な臨床的観察及び検査並びにその結果とヒト幹細胞等の移植又は投与を関連付けた分析及び評価を実施する能力を有する研究者を置き、かつ、これらの実施に必要な機能を有する施設を備えていること。

③ 被験者の病状に応じて必要な措置を講ずる能力を有する研究者を置き、かつ、当該措置を講ずるために必要な機能を有する施設を備えていること。

④ 倫理審査委員会が設置されていること。

<細則>

1 採取、調製及び移植又は投与の過程を複数の機関で実施するヒト幹細胞臨床研究については、薬事法、医療機関における自家細胞・組織を用いた再生・細胞医療の実施について(平成22年医政発0330第2号)等の関係規定を遵守した上で、適正に実施されなければならない。

2 ヒト受精胚の取扱いについて、ヒト受精胚が人の生命の萌芽であることに配慮して、十分に慎重な取扱いをすること。

8 倫理審査委員会

(1) 倫理審査委員会は、次に掲げる要件を満たすものとする。

① ヒト幹細胞臨床研究について、倫理的及び科学的観点から総合的に審査できるよう、次に掲げる者を含めて構成されること。ただし、研究者等を含まないこと。

一 分子生物学、細胞生物学、遺伝学、臨床薬理学又は病理学の専門家

二 ヒト幹細胞臨床研究が対象とする疾患に係る臨床医

三 法律に関する専門家

四 生命倫理に関する識見を有する者

② 男女両性により構成され、かつ、複数の外部委員が含まれること。

③ 審査が適正かつ公正に行えるよう、その活動の自由及び独立が保障されていること。

④ その構成、運営及びヒト幹細胞臨床研究の審査等に必要な手続に関する規則が定められ、公表されていること。

(2) 倫理審査委員会の委員は、研究機関の長が設ける適切な教育及び研修を受けなければならない。

(3) 倫理審査委員会は、次に掲げる業務を行うものとする。

① 研究機関の長の意見の求めに応じ、実施計画書のこの指針に対する適合性について審査を行い、ヒト幹細胞臨床研究の実施等又は継続等の適否、留意事項、改善事項等について、研究機関の長に対して意見を述べること。

② ヒト幹細胞臨床研究の進行状況について研究機関の長から報告を受け、留意事項、改善事項、中止等について、研究機関の長に対して意見を述べること。