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○治験における臨床検査等の精度管理に関する基本的考え方について

(平成25年7月1日)

(事務連絡)

(各都道府県衛生主管部(局)あて厚生労働省医薬食品局審査管理課通知)

治験の実施に当たっては、治験の信頼性及び被験者の安全性確保のために、検査データの信頼性を確保することが重要であり、「「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」のガイダンスについて」(平成24年12月28日付薬食審査発1228第7号厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知。)においても、治験に係るデータが信頼できることを保証するため、検査機関における精度管理等を保証する記録等を確認することとされています。また、国際共同治験の増加等に伴い、国際的整合性を踏まえた検査データの信頼性の確保の重要性が高まっているところです。

今般、平成24年度厚生労働科学研究費補助金医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究事業「医師主導治験等の運用に関する研究」において、治験における臨床検査等の精度管理に関する検討がなされ、研究報告書がとりまとめられました。

つきましては、本研究報告書を踏まえ、治験における臨床検査等の精度管理に関する基本的考え方を別添のとおりとりまとめましたので、業務の参考として、貴管下関係業者及び医療機関等に対し周知いただきますよう御配慮願います。

[別添]

治験における臨床検査等の精度管理に関する基本的考え方

1.治験において求められる精度管理

治験の科学的な信頼性及び被験者の安全性を確保するために、検査データの信頼性を確保することは、非常に重要である。また、治験及び臨床研究の国際化に伴い、本邦で測定された検査データが海外の規制当局等で使用される機会が増加しており、国際的整合性を踏まえた上で、検査データの信頼性を確保することは重要な課題となっている。

ICHE6(いわゆるICH―GCP)では、治験の実施に当たり、要求される検査設備の適格性と検査データの信頼性を確保するため、医学的検査、臨床検査等に関する証明書、合格証、確立された品質管理及び/又は外部機関による品質評価等の文書を求めており、試験実施中にはこれらの文書の最新版を確認し、試験が適切に実施されていることを示す必要があるとされている。

本邦においても医薬品GCPガイダンス第4条第1項及び第15条の2第1項において、「精度管理等を保証する記録等を確認すること」を求めているが、「確認すべき検査の範囲や具体的な確認方法は、各検査データの当該治験における位置づけ(主要評価項目であるかどうか等)を考慮し、取り決めること」としており、各治験における当該検査データの位置づけによって、確認の要否が異なることが示されている。

2.精度管理の現状

米国では、1988年に臨床検査室改善法―検査機関の検査における品質システム要求事項及び規制―(CLIA:Clinical Laboratory Improvement Amendments)が制定され、ヒト検体を扱う全ての検査室は検査精度を確保するため国家基準に基づく認証を取得する必要がある。

一方、本邦においては、臨床検査等の精度管理に関して法制化はされておらず、外部認証の取得も義務づけられていないが、検査受託機関では、臨床検査における検査データの信頼性を確保するため、精度管理体制を導入し、検査精度の向上を図っている。具体的には、検体の搬送から検査の実施、結果の報告等の検査サービス全体を網羅する品質保証システムを構築及び運用し、また、国際規格であるISO15189や米国病理学会(CAP:College of American Pathologists)による臨床検査室の外部認定を取得及び維持することで、検査精度の信頼性を確保している。

医療機関においては、検査精度は個々の検査室に依存している場合が多いが、検査データの信頼性の確保について対外的に説明可能な体制を構築するように努める必要がある。近年では、一部の医療機関、特に国際共同治験や医師主導治験を多く実施している医療機関において、ISO15189の認定取得が進んできているところである。

3.中央一括測定の活用について

現在、多くの治験において、治験検体の中央一括測定が実施されている。中央一括測定の利点として、測定施設間の精度差がなくなり検査方法や基準範囲を統一できる、標準化された手順書に基づいて検査が実施されることで、常に一定の品質を確保することができる、比較データの信頼性が担保できる等がある。例えば、同じ検体を用いた検査であっても、測定原理や測定装置が異なれば測定値にも差が生じるため、治験における主要評価項目に関する検査の標準化は極めて重要であり、中央一括測定の活用が考慮されるべきである。

一方、中央一括測定を活用する際の留意点として、中央一括測定に適さない検査項目(血球数、尿検査、血液ガス等の検体採取後速やかな測定を要する検査項目)については適切な精度管理体制の下、医療機関内で測定することを検討すべきである。また、被験者の安全性を確保するために測定される検査項目についても、必ずしも中央一括測定を実施する必要はない。例えば、医療機関内で当該検査項目を測定することで、医療機関関係者が検査結果をより早く入手し、被験者に対して遅滞なく適切な対応が可能となる場合もある。さらに、国際共同治験で中央一括測定を活用する場合は、輸送コストがかかる、気候等の影響により検体搬送ができない等の理由で検体の保管が長期となったときに検査データに影響が及ぶことなどに留意する必要がある。

4.医療機関内設備及び測定機器等の保守点検について

医療機関内の様々な医療機器の保守点検については、医療法や計量法等で規定されている。治験において求められる精度管理は、医療機関で通常実施している校正や保守点検のみであっても、その記録が必要時に確認でき、かつ、適切に管理されていれば十分である。

また、画像検査や生理機能検査の中には、検査者によって検査結果が影響を受けるものもある。このような検査項目については、試験ごとに作成された手順書に基づいて検査を実施することで、一定の品質を確保することが可能である。なお、当該検査項目が当該治験において重要な位置づけにある場合は、治験実施計画書等において検査方法を定めることが必要となることもある。

5.治験における臨床検査等精度管理に関する基本的考え方

医療機関で測定された検査データが国際的に使用される機会の増加に伴い、検査データの信頼性の確保が必要とされる状況を踏まえ、治験における臨床検査等精度管理に関する基本的考え方を示す。

・検査の精度管理は、治験に係わる検査であるか否かにかかわらず、非常に重要な課題である。各施設は適切な品質管理システムの導入や外部認定の取得等により、自施設の検査の精度を対外的に確保できる体制を積極的に検討する。

・当該検査データが評価上極めて重要な位置づけにある場合(主要評価項目等)には、第三者機関による認証等を取得している検査機関において、国内外の規制当局の要求事項も満たす高い精度管理体制の下、中央一括測定を行う。

・中央一括測定に適さない項目や被験者の安全性を確保するために測定する項目は、適切な精度管理の下、各医療機関で測定する。

・国際共同治験や医師主導治験をはじめとした治験又は臨床研究を積極的に実施している医療機関では、当該医療機関の検査精度を確保するため、ISO15189等の外部評価による認定を取得する。

・治験依頼者や自ら治験を実施しようとする者による測定等に用いた機器の校正・保守点検記録の確認の必要性は、治験における当該評価項目の重要度に応じて判断すべきである。

・精度管理や校正・保守点検に関する記録については、必要時に確認できるよう、治験の記録としても適切に管理できる体制が必要である。