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2.効力試験法詳説

2.1 基礎試験法

2.1.1 微量滴下試験法

[概要]

供試虫の体表に原体のアセトン溶液などを一定量滴下して付着させ、一定時間後の薬量と致死率の関係から通常LD50値を求めて効力を判定する、原体では最も基礎的な試験法で広く実施される。薬剤間の相対評価をするのに適しているが、一般に製剤の試験には適用しにくい。

この試験法では殺虫剤を直接に虫体に付着させるので、効果を変動させる要因の介入が少なく、また供試虫1匹あたりの処理薬量を正確に知ることができることから、比較的安定した結果が得られる利点がある。

[対象薬剤]

原体

[対象虫]

ハエ成虫、蚊成虫、ゴキブリなど

[装置]

薬液の滴下処理に用いる微量滴下装置(図1)は、先端につける注射針と一定規格のマイクロシリンジおよびその押し込み部分を動かすマイクロメーターからなっている。マイクロシリンジの先につける針は通常約45度に曲げて使うと取り扱いやすい。マイクロメーターの代わりに、ディスペンサー(米国ハミルトン社製など)とマイクロシリンジのセット(図2)も利用できる。

[手順]

① 原体をアセトンや殺虫力の少ないその他の溶剤に溶かし、通常1.4~3倍程度の公比をもつ4~8段階の薬液を作製する。

② エーテル、二酸化炭素あるいは低温で麻酔した供試虫を、厚紙上などに薬剤を処理する部位を上にして並べる。

③ ①で作製した薬液を装置を用いて供試虫に正確に滴下する。

④ 溶剤のみを等量滴下して対照区にする。無処理のものも対照区として設定する。

⑤ 処理後の供試虫は清潔な容器に移して餌を与えて飼育し、通常ハエ・蚊では24及び48時間後、ゴキブリに対しては48及び72時間後の致死率を求める。

⑥ 薬量―致死率からプロビット統計処理し、LD50値とLD90値を求める。

[備考]

① 供試虫は原則として雌成虫を使用する。

② 麻酔はエーテルでは深くかけすぎると蘇生しないことがある。また、二酸化炭素では蘇生が早いので、曝露させながら薬液を滴下するとよい。

③ 厚紙上に並べる数は10~15匹程度がよい。

④ 標準の滴下量は蚊では0.2~0.5μL、ハエ成虫では0.5~1μL、ゴキブリでは1~3μLとし、ゴキブリでは胸部腹面両脚間に、他の供試虫では胸部背面に処理する。希釈液の滴下量は標準を示したもので、供試する虫の種類によって増減してよいが、正確な量を付着させなくてはならない。

⑤ 必要があれば、各濃度段階区の致死率から得られた1匹あたりのLD50値を、供試虫の単位体重あたりに換算する。この場合は供試虫の平均体重を求め、1匹あたりのLD50値を平均体重で除し、体重1gあたりの薬量をμgなどで表す。

⑥ 致死率の判定は、供試虫や薬剤の作用性に応じて異なる。ノックダウン虫(苦悶虫)が蘇生するか死亡するかを見極めるまで観察を経日的に継続し、評価が安定した時点で致死効果を判定することが望ましい。

2.1.2 残渣接触試験法

[概要]

紙や板などの表面に薬剤を処理して残渣面をつくり、ここに供試虫を接触させて効果を調べる試験法で、薬剤の残留効果を見るためには欠かせない試験法である。また、この試験法では、薬剤を処理する処理面の種類や性状、処理薬量、薬剤を処理してから供試虫を接触させるまでの時間など、効力に直接影響する様々な要因があるので、試験条件を一定にして試験する必要がある。

薬剤の処理面としては、濾紙、ベニヤ板、化粧合板が広く用いられるが、非吸収性のステンレス板やガラス板なども利用される。屋内塵性ダニ類では観察のしやすさ等から濾紙の代わりに黒色のラシャ紙も用いられる。処理面の種類によって薬剤の吸収性が異なり、虫体に直接作用する表面の薬剤残渣量が異なって効力に影響する。供試薬剤の主剤や補助剤の物理化学的性質と湿度や処理面の水分含量なども関与するので、用いる処理面の種類や環境条件は一定にすることが望ましい。

残渣接触試験法では、限定時間接触試験法と継続接触試験法の二つの接触方法があるが、いずれの接触方法でも残効性試験が行われる。試験目的に応じて適切な接触方法を採用する。

(1) 限定時間接触試験法(短時間接触試験法)

[概要]

薬剤を残留処理した実際の場面では、ゴキブリなどの対象虫は長時間連続的に残渣面に留まるよりも、通過による短時間接触が多いとの見方から導かれた試験法である。この試験では、ある基準量の薬剤を処理した残渣面に2、10、20分などの限定した時間だけ供試虫を接触させ、その後は清潔な場所(容器)に移し、一定時間後に致死率を求める。接触時間は使用目的などに応じて、1、2、4時間など、比較的長時間接触させることもある。

[対象薬剤]

原体、油剤、乳剤、粉剤、エアゾール剤

[対象虫]

ハエ成虫、蚊成虫、ゴキブリ、ヒトジラミ、ノミ成虫、トコジラミなど

[手順]

① 使用する薬剤

原体:アセトンやケロシンなどの有機溶剤に溶かして用いる。

油剤:そのまま用いる。

乳剤・水和剤等:水で希釈して用いる。

粉剤:そのまま、または基剤で希釈して用いる。

エアゾール剤:原液をそのまま用いる。

② 処理量

液剤:処理する面が吸収性の材質の場合、1m2あたりの処理量は50mLを標準とする。この量は円形濾紙を使用する場合、直径9cmの濾紙であれば0.32mL、直径11cmであれば0.48mLに相当する。板など四角い処理面の場合は10cm角であれば0.5mLになる。処理面が非吸収性の材質の場合、標準の処理量は25mL/m2とする。

粉剤:シャーレなどを利用し、1m2当り1.5~15g処理することを標準とする。これは直径9cmのシャーレを使用する場合10~100mgに相当する。希釈しない場合は、この範囲の処理量を上限にし、例えば1/3ずつ薬量を低減した区を3段階以上設定する。処理量が著しく少なくなる場合には、同質の粉剤の基剤を用いてあらかじめ希釈したものを処理量を変えずに用いる。

③ 処理法

原体・液剤:原体は有機溶剤で希釈した液、製剤はそのまま、あるいは水で希釈したものをガラス板などの上に置いた濾紙などに、所定量をピペットで均一に滴下処理する。

粉剤:シャーレの底に濾紙を敷き、その上に粉剤をできるだけ均一に散布する。

④ 液剤では薬剤処理後1時間以上経過し、溶剤が十分に揮散してから供試虫を接触させる。

⑤ 処理面は、ハエ、蚊では平型シャーレで、ゴキブリでは内面上壁にバターやワセリンを薄く塗った深型(腰高)シャーレで覆う(図3)。ただし、蒸気圧の高い薬剤で実施する場合は、密閉されたシャーレでは、気門からの吸入効果が加味されて効果が高く現れるので、上面が開放されたガラスリング等を用い、上面を金網蓋で覆う。なお、速効性を評価する場合、接触時間中、経過時間(分)ごとにノックダウン虫数を観察し、KT50値及びKT90値を求める。

⑥ 所定時間の接触が終了したら、供試虫を清潔な容器に移し、砂糖水に浸した脱脂綿球等を餌として入れ、一般的にハエ、蚊では24及び48時間後、ゴキブリでは48及び72時間後に、致死率を求める。2.1.1⑥に記述したように必要に応じて7日後も実施するなど観察を継続することが望ましい。この場合、水と飼育用飼料片を与える。

⑦ 蚊成虫の試験ではWHOテストキット(図4)を用いた方法を準用してもよい。

WHOのテストキット試験では、薬剤を処理した長方形の濾紙を円筒の内側に巻き付け、これに蚊を接触させる(処理区)。この方法を用いて短時間接触を行う場合、無処理の円筒を用意し、内壁に無処理の紙を巻きつけ(無処理区)、接触完了後は、両者の円筒を連結させ、処理区の蚊を無処理区に吹き込むようにして移す。円筒の上は網、下はプラスチック製のスライド板でふさがれている。

⑧ ノミ成虫を用いる試験の場合

i) 10×10cmに切ったカーペットやベニヤ板等に、原体では有機溶剤希釈液、製剤では水希釈液を1m2当たり10~50mLの割合になるように、均一に処理する。

ii) 供試虫を濾紙上に置いた直径9cm,高さ6cmのガラスリング内に放ち、逃亡防止のため上端をパラフィルム等で覆う。

iii) 薬剤を処理した残渣面に供試虫を入れたリングを濾紙ごと置き、跳びはねるノミの体表を傷つけないように濾紙を引き抜き、残渣面にノミを接触させる。

iv) 接触時間は10,30及び90分を標準とし、所定時間接触終了後は、直ちに供試虫を回収してプラスチックカップに入れ、水分を含ませた濾紙小片を与えて保存し、24時間及び48時間後の致死率を求める。

v) 供試虫の採取や回収の際には、軽く二酸化炭素で麻酔すると扱いやすい。

⑨ シラミを用いる試験の場合

方法はハエ・蚊の試験に準じる。供試虫を濾紙の上に放し,シャーレで蓋をし、6時間目までの所定の時間経過後及び12時間、24時間後のノックダウン虫を観察する。接触試験中はシャーレ内の乾燥を防ぐために、したたり落ちない程度に水を含ませた脱脂綿小片をシャーレの上部縁とふたの間に挟んでおく。

[備考]

① 1群の供試虫数は、通常ゴキブリで5~10匹程度、それ以外では10~20匹程度を用いる。

② たとえば照明などの試験環境条件又は供試虫の習性等が残渣面の虫の均一な接触に影響を与える場合がある。特に、蚊の場合は、容器の側壁に静止する習性があり、水平面の残渣に対しては接触を期待しにくい傾向があるので、WHO型リングを用いる場合はキットを垂直に立てて行う。

③ ノックダウン効果の早い薬剤では、致死量を摂取する前にノックダウンして、その後の薬剤の取り込みが行われず致死しないことがあるので、さらに時間をおいて観察を行った方がよい。

④ 薬剤によっては、供試虫がノックダウンせずにそのまま動かなくなることがあるので、注意して観察しなければならないが、これもノックダウンとみなす。また、ノックダウンしてもその後死亡しない場合がある。

⑤ 致死の判定:2.1.1⑥を参照。

(2) 継続接触試験法

[概要]

接触から死亡するまでの供試虫の薬剤に対する反応を経時的に観察でき、また、同時に速効性を評価することができる試験法の一つである。ある基準濃度の薬剤残渣面に供試虫を継続的に接触させ、時間の経過にともなう供試虫のノックダウン虫数からKT値を求める方法である。基本的な手順は短時間接触法と同様の試験法である。

[対照薬剤]

原体、油剤、乳剤、粉剤、エアゾール剤

[対象虫]

ハエ・蚊成虫、ゴキブリ、シラミ、ノミ成虫、トコジラミなど

[試験法]

供試虫を残渣面に接触させたまま、2、5、10、20分など時間経過ごとにノックダウン虫数を数え、経過時間に伴うノックダウン率からKT50値及びKT90値を求める。それ以外は限定時間接触試験法を準用する。

(3) 残効性試験法

[概要]

残効性の試験では、薬剤を処理した濾紙や板などを試験目的に応じた環境条件に保存し、所定期間ごとに上記(1)、(2)と同様の試験を行って薬剤の残留効果を調べる。この場合、たとえば1時間の接触で90%以上の効果が得られる日数(LT90)などの期間を求めて評価する。

[備考]

① 残渣面の保存は、一般に室内の散光下、室温(25℃前後)で行われる。

② 試験は薬剤の処理後、1、2、4週後を目安として行う。目的に応じて観察回数を増やしたり減らしたりする場合がある。

③ 残渣面は、すでに接触試験に供試したものを繰り返し使用する場合と、接触試験に使用せずに保存しておいたものを使用する場合がある。

④ 致死の判定:2.1.1⑥参照

(4) ドライフィルム試験法

[概要]

試験管などの内壁に薬剤を付着させ、供試虫を投入して残渣面に接触させて効果を調べる試験法である。屋内塵性ダニ類のように試験器具の隙間から逃亡したり、壁面を歩き回ったりして残渣面への接触が行われにくい供試虫の試験に用いられる。微量滴下試験の実施が困難な小さな対象虫に対する原体等の基礎効力を評価する手段としても利用されている。

[対象薬剤]

原体、液剤

[対象虫]

主に屋内塵性ダニ類やイエダニを対象にするが、他の供試虫でも準用できる。

[手順](屋内塵性ダニ類に対する試験)

① ガラス製の小管瓶に原体のアセトン所定希釈液を一定量滴下し、その滴下液で管瓶の内壁を均一にコーティングするように、管瓶をまわしながら処理する。

② 付着させた薬液のアセトンが十分揮散するまで室内に放置する。

③ 揮散後、一定数のダニをとって投入し、蓋をして、一定時間後に致死率を観察する。

[備考]

① 直径2.0cm、高さ4.5cm、容量10mL程度の大きさのガラス製管瓶が扱いやすい。このサイズの管瓶であれば、処理量は0.1mLが適当である。

② 1薬剤について数段階の濃度で試験を行う。

③ 生存、ノックダウン、瀕死の判別が難しいので、観察は実体顕微鏡下で行い、針先で刺激を与えても微動しかしない個体や全く動かない個体のみを致死と見なす。接触は24時間(必要に応じて48時間)までとする。

④ 液体の製剤についてもこの方法で実施できるが、アセトンのように揮発性が良い溶剤ではなく、粘着性がある溶剤等が用いてあると、屋内塵性ダニ類が処理面に付着するなど効果に影響を与えるので、溶剤のみを用いた対照区の設定が不可欠である。

⑤ 致死の判定:2.1.1⑥参照

(5) クリップ試験法

[概要]

本法は、逃亡を防ぎ屋内塵性ダニ類が残渣面に確実に接触するように開発された残渣接触試験法である。

[対象薬剤]

原体、製剤

[対象虫]

イエダニ、屋内塵性ダニ類等(飛翔性昆虫類以外の他の供試虫でも応用できる)。

[手順]

① 長さ10cm×幅5cmの大きさに切った濾紙またはラシャ紙を用意する。

② 原体はアセトンで希釈した数段階の薬液、製剤では所定濃度に水などで希釈した薬液を、それぞれ0.25mL(50mL/m2)、均一に滴下処理し、室内に保存して溶剤等を揮散させる。防虫紙では、そのままこのサイズに切断して用いる。

③ 紙を二つ折りにして、二方を目玉クリップで留め、開放された一方の口から小筆などを用いて生ダニのみを20~30匹入れ、ここもクリップで留めて密封する(図5)。粉剤の場合は、同様の手順で作成した二つ折りの紙の中に所定量の薬剤を入れ、さらにダニを入れて封をする。

④ 所定時間経過後に致死率を求める。

⑤ 残効性調査は、薬剤を処理した残渣を、試験の目的に従って一定期間室内などに保存し、同様の手順で実施する。

[備考]

① 薬剤処理は10cm×10cmの大きさの紙に行って、処理後半分に切断しても良いが、切断時に残渣面を擦らないように注意する。

② 供試虫を入れて処理が終了したものは、乾燥を避けるため、水を張った密閉容器など、高湿度で保存する。

③ 別に薬剤を処理しない対照区を設ける。

④ 通常、一旦使用した処理紙は観察終了後破棄するので、一接触時間ごとに同じ濃度のものを何枚も用意しておく必要がある。

⑤ 致死の観察は実体顕微鏡下で行い、針先で刺激を与えても微動しかしない個体や全く動かない個体を致死と見なす。

⑥ 致死の判定:2.1.1⑥参照

⑦ 製剤のうち、粒剤はその粒度によっては本試験法に適さないことがある。

2.1.3 噴霧試験法

(1) 噴霧降下試験法

[概要]

ガラス円筒の中に薬液を噴霧し、一定時間後、粗い粒子が落下した後に、下のポットに用意した供試虫を細霧に曝露させて効果を調べる試験法である。

[対象薬剤]

原体、油剤、エアゾール剤など

[対象虫]

ハエ、蚊、ゴキブリ、屋内塵性ダニ類等

[使用装置]

① 噴霧降下装置(図6)

内径20cm、高さ43cmのガラス円筒を、高さ30cm程度の木製の架台上に置き、ガラスのすべり蓋(シャッター板)を仕切りにして円筒の直下に供試虫を入れるガラスポット(内径15cm、深さ18cm程度)を取りつけたものである。円筒の上にかぶせるガラス板(直径27cm程度の円板がよい)には、中央に薬液を噴霧するための直径2~5cmの円孔が開けてある。噴霧時以外は栓をしておく。ガラス円筒、ガラスポット、すべり蓋の接合部には霧滴が漏れるのを防ぐためゴムパッキングを取り付ける。ガラスポットの上面には12~24メッシュの金網をかぶせる。円筒、板、ポットはガラスの代わりに透明樹脂製でもよいが、洗浄しても薬剤が残る恐れがある素材は使用しない。

② エアコンプレッサー

薬液噴射には、1.5~2.0kg/cmの圧力調整装置のついたエアコンプレッサーを用いる。

③ 噴射装置

一般によく用いられる塗装用R2噴霧器(図7)を例に示す。噴霧器は基部(D)をゴム管でコンプレッサーと接続し、噴射口の近くにあるネジ(Cの裏側)に薬液容器(E)のネジ(C)を固定する。ピペットで正確な量の薬液を容器の中に注入する。レバー(A)を手前に引いて、容器内の薬液を全量噴霧降下装置内に噴射する。

[手順]

① 原体はケロシンなどの溶剤に溶解させ、製剤は水などで希釈する。油剤、エアゾール剤はそのまま用いる。

② ガラスポットの底面には濾紙を敷き、供試虫をいれる。ハエ、蚊では24メッシュの網などで蓋をする。ゴキブリではポット内面上壁に薄くバターやワセリンを塗って上部からの逃亡を防止する。屋内塵性ダニ類の場合には、直径9cm程度のガラス容器に入れ、これをガラスポットの中央に置く。

③ 噴射装置(アトマイザー:図8)を用いて供試薬剤を上方円板中央の小孔から1.5~2.0kg/cm2の圧力で噴霧する。噴霧量はハエ・蚊・ダニでは0.5mL、ゴキブリでは1mLを標準とする。エアゾール剤では1秒間噴霧を標準とするが、製剤によっては適宜調整する。

④ 上方の小孔を栓で塞ぎ、噴霧終了から10秒後に下方のすべり蓋を開き、円筒内に残った細かな噴霧粒子を供試虫の上に降下させる。

⑤ すべり蓋を開いてからの時間経過にともなうノックダウン虫数を観察する。屋内塵性ダニ類ではこのような速効性評価のための観察は困難なので、曝露のみ実施する。

⑥ その後、10~20分後に供試虫を別の清潔な容器に移し、餌と水を与え、25℃前後の室温下に保存する。

⑦ 観察は、ハエ・蚊では24時間(または48時間)後、屋内塵性ダニ類では24時間(必要に応じて48~72時間)後、ゴキブリでは48時間ないし72時間後に行い、正常虫、ノックダウン虫(苦悶虫)、致死虫(瀕死虫を含む)数を記録する。

⑧ 3回以上の繰り返しを行う。

[備考]

① ピレスロイドのような速効性薬剤を用いて速効性を評価する場合には、観察を容易にするために、1ポット内の供試虫数を10~20匹程度とし、3~5回の繰り返し実験を行う。

② 噴霧後、すべり蓋を引くまでの時間によって効力に開きが出てくるので、その時間を明記する。通常10秒程度を目安にする。

③ 屋内塵性ダニ類では逃亡を防ぐことが難しいので、供試ダニを入れてから薬剤処理までをできるだけ素早く行う。

④ 装置のうち円板や円孔の大きさは必要に応じて変えてもよい。

⑤ 屋内塵性ダニ類では容器表面に薄いビニルや食品用ラップなどで蓋をして、内部に水に浸した濾紙を入れて高湿に保つ。

⑥ 屋内塵性ダニ類は実体顕微鏡下で素早く致死を観察する。供試ダニが入った容器の内壁を洗剤水で洗って、これを濾紙上に展開して顕微鏡下で観察しても良い。

⑦ 繰り返しは通常3回実施する。

⑧ 致死の判定:2.1.1⑥参照

(2) 直接噴霧試験法

[概要]

円筒の上方から内部に噴霧した薬剤に供試虫を直接曝露させて効果を調べる試験法である。

[対象薬剤]

原体、油剤、乳剤、エアゾール剤

[対象虫]

ハエ、蚊、ゴキブリ、屋内塵性ダニ類等

[装置]

噴霧降下試験法と同じ装置(図6)を使用するが、すべり蓋は使用しない。

[手順]

① ガラスポットに供試虫を入れて金網蓋をする。ゴキブリでは内面上壁に薄くバターやワセリンを塗って上部からの逃亡を防止する。底面には濾紙を敷く。ダニの場合には、さらに直径9cm程度のガラス容器に入れ、これをガラスポットの中央に置く。

② 溶剤で希釈された原体、油剤や水で希釈された乳剤は、噴射装置(アトマイザー:図8)を用いて0.5mLを、エアゾール剤は所定の秒数あるいは噴射量を、上方円板中央の小孔から1.5kg/cm2の圧力で噴霧する。

③ 上方の小孔を栓で塞ぎ、噴霧終了から10~20分間、時間の経過に伴う供試虫のノックダウン虫数を観察する。

④ 曝露終了後、直ちに供試虫を清潔な容器に移し、餌と水を与えて25℃前後の室温下に保存する。

⑤ 24時間後(必要に応じて48時間または72時間後)に死虫数を観察して致死率を求める。

⑥ 通常3回の繰り返しを行う。

[備考]

① ピレスロイドのような速効性薬剤を用いて速効性を評価する場合には、観察を容易にするために、1ポット内の供試虫数を10~20匹程度とし、3~5回の繰り返し実験を行う。

② 屋内塵性ダニ類は逃亡を防ぐことが難しいので、供試ダニを入れてから薬剤処理までを、できるだけ素早く行う。

③ 装置のうち円板や円孔の大きさは必要に応じて変えてもよい。

④ 屋内塵性ダニ類では容器表面に薄いビニルや食品用ラップなどで蓋をして、内部に水に浸した濾紙を入れて高湿に保つ。

⑤ 供試ダニは顕微鏡下で素早く観察する。供試ダニが入った容器の内壁を洗剤水で洗って、これを濾紙上に展開して実体顕微鏡下で観察しても良い。

⑥ 繰り返しは通常3回実施する。

⑦ 致死の判定:2.1.1⑥参照

(3) 箱型試験法

[概要]

小型の箱内で薬剤を噴射してから、所定時間後に供試虫を放して薬剤の空間処理効果を見る方法。または供試虫を箱内に放って後に薬剤を噴霧する方法である。前者は供試虫を箱内に導入後、後者は薬剤の噴霧後に時間の経過にともなうノックダウン率を見ることによって速効性を調べる試験方法である。曝露時間終了後供試虫を回収して24~72時間後の致死効果も観察する。時には、限定時間曝露試験法として、一定時間だけ曝露させた後に致死効果を調べる場合もある。

[対象薬剤]

原体、製剤

[対象虫]

ハエ、蚊、ゴキブリ、屋内塵性ダニ類等

[装置]

内容積0.5m3(63cm×63cm×125cm高さ)程度の、洗浄し易いガラスまたは透明の樹脂製の箱(図9)を用いる。図の各辺の長さは標準を示したもので、とくに規格化されたものではない。箱には薬液の噴射孔や、供試虫を出し入れする小窓がある。

[手順]

① 床に非光沢性の紙を敷く。

② 噴射装置を用いて装置内に薬液を2秒間噴射し、一定時間(30秒程度)経過後に下部の小窓から内部に供試虫を放つか、容器に入れた供試虫を入れる。または、装置内に供試虫を放つか、容器に入れた供試虫を導入し、上記と同様に噴霧装置を用いて薬剤処理する。製剤によっては噴射時間を適宜調整する。

③ 薬液に曝露後10~20分など一定時間経過後に全供試虫を回収し、餌と水を与え、所定の時間後致死率を求める。

④ 限定時間曝露試験法の場合は、10~60分間曝露した後に回収し、所定の時間後の致死数を観察する。

[備考]

① 床に敷く紙は、一実験ごとに新しいものに交換する。

② ここに記載した以外に一辺が60cm~1mの立方体(例:60cm×60cm×60cm=0.216m3)の箱型装置を使用することもできる。

③ きわめて速効性の高いエアゾール剤の場合は、電磁式微量噴射装置を用いて0.3秒、0.5秒または1秒間等の噴射を適用する。この場合、噴射量を記録する。

④ 処理後の経過時間ごとにノックダウン率を求め、プロビット法によりKT50値及びKT90値を算出する。

⑤ ダニではノックダウン個体を判別するのが困難なので、ドライフィルム試験法と同様の観察で、一般的に24及び72時間後に致死数のみを数え、致死率を求める。

⑥ 致死の判定:2.1.1⑥参照

(4) ピート・グラディー試験法

[概要]

ピート・グラディー装置内に所定の数の供試虫を放ち、薬剤を噴射後、観察窓からノックダウン虫数を調べることによって効果を見る試験法である。米国で家庭用殺虫剤の効力試験法として開発されたもので、主にハエの試験に用いられるが、蚊でも準用できる。

[対象薬剤]

油剤、エアゾール剤

[対象虫]

ハエ成虫、蚊成虫

[装置]

ピート・グラディー装置は6フィート(182.9cm)立方の、人が出入りできる金属製の箱であり、薬剤の噴射孔、換気装置、照明、観察窓が設けられている(図10)。

[手順]

① 床に非光沢性の紙を敷く。

② 装置内に、ハエでは雌雄比を1にして供試する。蚊では雌のみを供試する。

③ 約10分経過後に供試エアゾール剤0.65g±0.1gを噴射窓から噴射する。油剤の場合はアトマイザー(De Vilbiss Special Atomiserなど)で12mLを噴射する。

④ 噴射後5分、10分、15分あるいはKT50値が得られるような時間を3点ほど設定して、観察窓からノックダウン虫数を調べる。

⑤ 観察終了後直ちに換気を開始すると同時に、ノックダウン虫も含めて全ての供試虫を清潔な容器に回収し、水と餌を与えて飼育し、24及び72時間後に致死数を数える。

[備考]

① 床に敷く紙は一実験ごとに新しいものと交換し、換気を十分に行う。

② 1回の供試虫数はハエでは雌雄約100匹、蚊では雌50匹を原則とし、3回以上の繰返しを行うことが望ましい。

③ エアゾール剤を一定量噴射するには、あらかじめ供試薬剤について、噴霧時間と噴射量の関係を測定しておき、所定量に相当する時間だけ噴射する。噴射後の減量から実噴射量を求めて記録する。

④ 観察時間内に供試虫のすべてがノックダウンしない場合があるので、供試虫を回収する際に逃亡しないように注意する。20分以内に供試虫の回収を終了するようにする。

⑤ 速効性は経過時間に伴うノックダウン率から、また、致死効果は24時間及び48時間後の致死率から評価する。

⑥ 致死の判定:2.1.1⑥参照

2.1.4 燻煙試験法

(1) 通気試験法

[概要]

上部が網蓋などによって通気される円筒内で、蚊取り剤に点火あるいは通電して、有効成分を含んだ煙ないし気流をつくり、供試虫を曝露させて速効性を調べる試験法である。

[対象薬剤]

蚊取り線香、蚊取りマット、液体蚊取り

[対象虫]

蚊成虫

[装置]通気式円筒装置(図11)

木枠の上に直径5cmの円孔付きガラス板をのせ、その上に内径20cm、高さ43cmのガラス円筒2個と短いガラス円筒2個を順にのせる。各円筒はゴムパッキングを置いてサラン網で蓋をする。さらにその上に内径20cm、高さ20cmのガラス円筒をいずれもゴムパッキングを置いて2つ載せる。上から2つ目の短いガラス円筒は供試虫用とする。供試虫を入れるときは下部の蓋はサラン網でよいが、上蓋は規定の目(48~65メッシュ)の合繊布を用いる。

円筒、板、ポットはガラスの代わりに透明樹脂製でもよいが、洗浄後、薬剤が残る恐れがある素材は使用しない。

[手順]

① 下部のガラス円筒内底部中央(Eのガラス中央の円孔下部)に、準備した供試薬剤を設置し、着火もしくは通電する。

② その後、0.5分、1.0分、1.5分、2.0分、3.0分のように、20分間、時間の経過に伴うノックダウン虫数を観察する。

③ 曝露終了後、ただちに全供試虫を清潔な紙コップなどの容器に移して、脱脂綿に含ませた砂糖水を与えて、25℃前後で保存する

④ 24時間及び48時間後にノックダウン虫数、死虫数を観察する。

[備考]

① 供試虫数は10~20匹とし、通常3回の繰り返しを行う。

② 経過時間に伴うノックダウン率からKT50値とKT90値を求める。

③ 致死の判定:2.1.1⑥参照

(2) 定量燻煙試験法

[概要]

密閉装置内に供試虫を放ち、この中に点火もしくは通電した蚊取り剤を入れて一定時間燻煙後とり除き、供試虫を曝露させて速効性を調べる試験方法である。

[対象薬剤]

蚊取り線香、蚊取りマット、液体蚊取り

[対象虫]

蚊成虫

[装置]

通気式円筒装置や、噴霧降下装置を用いる。後者の場合は、ゴムパッキングをはさんで、上下にガラス板を有する内径20cm、高さ43cmのガラス円筒を高さ30cm程度の架台の上に置く。下方のガラス板は中央に径5cmの円孔のあるものを用意する。

[手順]

① 装置内に供試虫を放つ。

② 蚊取り線香は線香立てに水平にとりつけ、一端または両端に点火する。正常な燻煙状態になるまで、あらかじめ3分間ほど経過させた検体を、下方の円孔から装置内に入れる。

液体蚊取りや蚊取りマットでは、通電を開始してから30分程度経過した検体を、同様に円孔部より装置内に導入する。

③ 検体を装置内で密封のまま所定時間燻煙後、すばやく検体をとり除く。

④ 直ちに供試虫を導入して、その後の時間の経過に伴うノックダウン率を求める。

⑤ 一定時間後に全供試虫を清潔な容器に移して、水・餌を与え、24時間後又は48時間後に致死数を観察する。

[備考]

① 1回の試験の供試虫数は10~20匹とし、これを3回以上繰り返す。

② 線香では単位時間当りの燃焼量を調べて明記する。

③ 燻煙時間:線香の場合は、0.2gあるいは0.5gなど所定量の検体を秤取して、それを装置内で燃焼し尽くすまで密閉しておく方法もある。蚊取りマットや液体蚊取りの場合は通電時間を1分、2分間等を標準とするが、この時間は目的に応じて適宜変更できる。

④ 蚊取りマットや液体蚊取りは、通電の経過時間により揮散量が異なるので、通電開始後有効使用期間の初期、中期、後期など数回の時間帯について試験を行う。

⑤ 曝露時間を20分間程度にし、経過時間に伴うノックダウン率からKT50値とKT90値を求める。

⑥ 曝露終了後直ちに供試虫をすべて回収し、24~72時間後に致死率を求める。

⑦ 箱型装置を用いて、同様の試験を行うことができる。

⑧ 致死の判定:2.1.1⑥参照

2.1.5 培地混入試験法(1)

[概要]

ハエに対して実施する。幼虫の飼育培地の中に所定量の殺虫剤を処理し、その中に2~4日齢の幼虫を放ってそのまま飼育し、羽化率を調べて効果を判定する試験法である。この方法は食毒以外に接触毒の効果も加わり、総合的な評価となる。

[対象薬剤]

原体、乳剤、水和剤、油剤、粉剤など

[対象虫]

イエバエ幼虫など

[手順]

① 市販の粉末飼料、フスマ、水を1:1:2~2.5の比率で混合した培地50gを深型(腰高)シャーレなどに入れる。

② 原体はアセトンやエタノールで希釈し、数段階の濃度の薬液を準備する。乳剤や水和剤などは水、油剤などはケロシンなど、粉剤などはタルクなどの担体で希釈する。

③ 薬液1mLあるいは1gを前記の培地に加えてよく混合する。

④ 供試虫1群50匹をこのシャーレに放ち、木綿布で覆い、輪ゴムでとめる。

⑤ 通常1週間後に蛹化個体を取り出し、これを別の清潔な容器に移し、さらに1週間後に羽化数を観察して致死率を求める。

[備考]

① 無処理対照区を設け、その羽化率で供試薬剤の羽化率を補正する。幼虫から羽化までの観察を行うので、無処理対照区でも死虫が現れやすい。そのような場合はAbottの補正式により処理区の死虫率を補正する。

② IGRの試験では使用する幼虫の日齢は供試薬剤の作用性や目的に応じて選択する。供試虫のすべてが羽化または致死する時点まで飼育し、羽化阻害率(下式)を求める。

③ ニクバエ幼虫など対象によっては、培地の組成を変える。

④ 培地量に対して幼虫数が少なくなるとカビによる影響を受けることがあるので注意する。

⑤ 蛹化状況は観察しにくいが、必要がある場合には蛹化数、蛹化異常、幼虫死亡についても観察する。

⑥ 供試薬剤を培地に混入せず、表面に処理する方法もある。

⑦ 得られた結果はLC50値やIC50値(50%羽化抑制値)として示す。

2.1.6 培地混入試験法(2)

[概要]

主として屋内塵性ダニ類に対して実施する。殺虫剤を所定の濃度混合した培地でダニを飼育し、一定期間後の繁殖状況を無処理の培地で飼育した場合と比較検討する試験法である。したがって、短期的な薬剤の致死効果というよりも、長期間にわたる個体群の増殖に与える影響を見る試験である。観察に時間がかかるという欠点があるが、比較的安定した結果が得られる。ダニは微小なため他の昆虫類のような微量滴下試験を行いにくく、本法は屋内塵性ダニ類に対する薬剤の基礎的な評価を行う上で重要な方法の一つと考えてよい。

[対象薬剤]

原体、製剤

[対象虫]

ヒョウヒダニ、ケナガコナダニなど屋内塵性ダニ類

[手順]

① 市販の昆虫飼育用粉末飼料を乾熱乾燥した後,水を加えてケナガコナダニ用には15%,ヒョウヒダニ用には12%に含水量を調整して飼育培地を用意する。

② アセトンに溶解させた原体や水などで希釈した製剤を、培地重量に対して所定濃度になるように入れてよく混合し,これを深型(腰高)シャーレやサンプル瓶にとる。

③ ダニのよく繁殖した培地から,ダニを培地ごと少量とって薬剤を処理した培地に入れ,軽く混合する。

④ これらが入ったシャーレや瓶は、ポリエチレンラップ等で蓋をして針先でダニが逃げ出さない程度の小さな空気穴をあけ、ヒョウヒダニでは60~80%RH、ケナガコナダニでは75~90%の環境下に保存する。

⑤ 一定期間後,処理した培地の一部または全部をとり,サンプリング法,視野法,飽和食塩水浮遊法などにより生ダニ数を観察する。

⑥ 別に薬剤を処理しない無処理対照区を設け,両者の生ダニ数の差から増殖抑制率を算出する。

[備考]

① 培地に使用する飼料はダニが生息していることがあること、含水量が一定していないことなどの理由で、供試前に乾熱乾燥してから含水量を調整して供試する。

② 培地量は5g~50gを標準にする。

③ 投入ダニ数の目安は,培地1g中,ケナガコナダニでは100~200匹,ヒョウヒダニでは200~500匹とする。

④ 混合する薬液量は培地重量の1%程度を目安にする。

⑤ 観察はケナガコナダニでは4週まで,ヒョウヒダニでは6~8週まで数回行う。この間、ヒョウヒダニでは週1回培地を撹拌した方がよい。ダニ数が少なくなると、カビが生えたり培地が固化したりして影響を受けるので注意する。

⑥ 防虫紙の効力評価を本法で行う場合,紙を1cm角に切り,これを培地50gあたり50枚,100枚,200枚のように入れて混和し、試験を行う。

⑦ ダニの投入は,培地に混合した溶剤が十分に揮散してから行う。

[ダニの計数法]

① サンプリング法

培地をよく攪拌して100mg程度を精秤してとり,これを実体顕微鏡下で観察し,有柄針等で生ダニを1匹ずつ除去しながら全数を数える。ただし、ダニ数が著しく多い場合には,さらにこれを同質の培地で一定倍率に希釈してから,同様の方法で観察してもよい。この場合、観察で得られた数に希釈倍率をかけて、もとの値にする。

② 視野法

粉末培地をよく攪拌してシャーレなどの容器の底に広げ,直接,実体顕微鏡下(×20)で,一つの視野内に見える生ダニ数を数える。視野を変えるごとに培地を攪拌し,一つの観察あたり6視野を見る。

③ 飽和食塩水浮遊法

適量の培地(通常0.05~0.5g程度)をとり出してワイルドマンフラスコの中に入れ,飽和食塩水を用いてダニを浮遊させ,ダニが浮遊している上層の水を吸引装置をつけた濾紙上に移し,ろ過する。観察がし易いように、濾紙を0.1%メチレンブルー水溶液で染色した後,実体顕微鏡(×20)を用いて生ダニを数える。浮遊時間は原則として10分とする。計数は一視野あたり3回の繰り返しを行う。

2.1.7 薬液浸漬試験法

[概要]

単に浸漬試験法と呼ばれているものである。供試薬剤の希釈液中に蚊の幼虫を放ち,24時間後の致死数を観察する。通常,乳剤及び水和剤の試験に適用するが,この方法は原体の効力試験にも利用することもできる。この場合は,原体を溶剤に溶解させたものを水中に分散させて適用する。

[対象薬剤]

原体、乳剤、水和剤、懸濁剤など

[対象虫]

蚊幼虫

[手順]

① 原体はエタノールで溶解(溶解しにくい場合はアセトンに懸濁)、製剤は水で所定濃度に希釈して、5~6段階の薬液をつくる。希釈を必要としない粉剤や粒剤ではそのまま使用するので、量を変えて段階を設定する。

② 原体では、エタノールの最終濃度が0.5%(v/v)となるように,まず供試虫20~50匹を199mLの水の入った容器に放ち,次に原体のエタノール希釈液1mLを加え攪拌する。

③ 24時間後(及び必要に応じ48時間後)の致死数を観察し、致死率を求める。IGRの場合は1~2週後の羽化阻害率を求める。

[備考]

① 希釈に使用する水は、蒸留水、純水、1日以上汲み置いた水道水等を用い、塩素が含まれる汲みたての水道水は使わない。

② 粉剤や粒剤では250~500mL容量のビーカーなど深めの容器を使用するとよい。

③ 幼虫はあらかじめ水につけた茶こしの中に駒込ピペットで移す。所定数茶こしの中に入れたら、さっと水を切って、供試する容器に素早く移す。

④ 生死の観察にあたっては,器底に沈み,浮上できないものは死虫に含める。

⑤ IGRを用いる試験では供試虫の発育段階を正確に揃える。例えばキチン合成阻害剤では2齢、幼若ホルモン様薬剤では蛹になる直前の個体を使用するのがよい。

⑥ IGR剤以外は、24時間後に蛹化していたものは供試虫数から除外して死虫率を算出する。IGR剤は、全供試虫が死亡するか羽化まで飼育して羽化阻害率を求める。

⑦ 残効性の試験では、所定の試験調製液を室温あるいは恒温室に保存し,所定期間ごとに上記の方式に準じて残留効果を調べる。この場合、たとえば24時間の浸漬で90%以上の効果が得られる持続期間、日数などを求めて評価する。この場合に汚水を用いて調製液を作り試験すると実用効果の推定に役立つ。

2.1.8 薬液継続接触試験法

[概要]

幼虫がわずかに水に浸るような場所に生息するハエ種に対して適用できる試験法である。

一定の濃度の薬剤を用い、浸漬時間を変えて3段階以上に調製した薬液シリーズで、短時間浸漬を行う場合(薬液短時間接触法)と、浸漬時間を一定とし数段階の薬液を適用する場合(薬液継続接触法)とがある。短時間浸漬を行う場合、浸漬を終えた供試虫は、水洗してからそのまま飼育し、一定時間後に致死率を調べる。前者の場合は供試薬量における50%致死浸漬時間、後者では50%致死濃度が求められる。ここでは、薬液継続接触法について述べる。

[対象薬剤]

原体、乳剤、水和剤、懸濁剤など

[対象虫]

イエバエ、ニクバエ幼虫など

[手順]

① 原体は10%エタノール液に溶解するか、試験乳剤を調製して、これをもとに薬液をつくる。製剤は水で所定濃度に希釈し、5~6段階の濃度の薬液を作る。

② 各希釈液3~5mLを直径9cmの深型(腰高)シャーレにとる。

③ 終齢後期の供試虫の20~30匹をその中に入れ、シャーレを金網等で覆い、輪ゴムで止める。

④ そのシャーレを、わずかに水を張った容器等に入れ、湿度環境を90%以上に保ってそのまま保存する。

⑤ 24時間及び48時間後の致死数を観察する。48時間後を標準判定時間とし、その後、普通の湿度環境に移して保存し、羽化まで観察する。

⑥ IGRを検体とする場合、途中の致死は観察せず、全供試虫が死亡するか、羽化するまで保存して観察し、羽化阻害率を求める。

[備考]

① 供試虫を薬液に比較的長時間継続的に接触させるので、薬液層の深さが問題となり、容器と供試液量を標準化させる必要がある。供試虫は這い上がる性質があるので、少ない液量で実施する関係上、シャーレの上部を吸水性の高い布地で覆うと、供試虫に付着して運ばれた薬液がその布地に吸着され、極端な場合にはシャーレ内の薬液がほとんど見られなくなり、結果に大きく影響してくることになるので、蓋には吸水性のない材質を選んで使い、薬液の蒸散を防ぐために試験を通じて容器内を高湿度に保つ必要がある。

② 得られた結果からLC50値やLC90値(IGRではIC50値やIC90値)を計算すると、他薬剤との比較が容易である。

③ 致死の判定:2.1.1⑥参照

2.1.9 散粉降下試験法

[概要]

あらかじめ供試虫を放ったガラス円筒の下部の小孔から、一定量の粉剤を所定の圧力で吹き上げて虫体に付着させ、供試虫の経時的落下状況を調べ速効性などの判定する試験法である。

[対象薬剤]

粉剤

[対象虫]

イエバエ成虫、ゴキブリなど

[装置]

本体:主要部分は噴霧降下試験装置と同じである。

図12の右に示すように上下に直径27cmのガラス製の板B、Cを有する内径20cm、高さ43cmのガラス円筒Aを、高さ30cm程度の木製の架台Fの上に置いたものである。上方から供試虫を導入する。その後、直径5cmの円孔を持つ上方の円盤の穴に栓で蓋をしておく。下方の円板の中央にあけられた直径5cmの円孔は、粉剤を噴出して円筒内の供試虫を処理するためのもので、散粉時以外はゴム栓Dでふさいでおく。

散粉用漏斗:図の左は、粉剤を入れて噴出させるための漏斗で、口径3.5cmである。なお、1cmずつ外方にひろがって、下方板の円孔(D)に、16メッシュの金網Gを間において密着し、試験前の粉剤の散失を防ぐようになっている。金網は木製の枠Hで、漏斗にかぶせるように縁どりがある。中央の玉Iは、粉剤がこぼれ落ちないためのものである。漏斗の下方はエアコンプレッサーに連結する。

エアコンプレッサー:1.5kg/cm2程度の圧力調整装置のついたもの。

[手順]

① 円筒内に供試虫を導入する。

② 粉剤100mgを漏斗にとり、下方の円板のゴム栓をはずして円孔に濾斗を密着保持する。

③ エアコンプレッサーから約3秒間送風して、粉剤を円筒内に噴出させる。

④ 噴出終了と同時にゴム栓をする。

⑤ 時間経過に伴うノックダウン虫数を観察する。

⑥ ノックダウン虫の観察終了後、供試虫を清潔な容器に移し、イエバエに対しては24時間及び48時間後、ゴキブリに対しては48時間及び72時間後に致死数を観察する。

[備考]

① ピレスロイドのように速効性薬剤にあっては、供試虫数は10~15匹が適当であり、3回以上の繰り返しを行う。

② 低薬量を処理するときには、散布量を変えることが難しいので、効果に影響を与えない増量剤で希釈し100mgを散布する。

③ 噴出圧力は約1.5kg/cm2とする。

④ KT50値は時間の経過に伴うノックダウン率から、また、LD50値は致死率から求める。

⑤ 農業害虫用の試験で用いられる散粉器(ベルジャーダスター等)も使用することができる。

⑥ 致死の判定:2.1.1⑥参照。

2.1.10 食毒試験法

[概要]

適当な大きさの容器に供試虫を放ち、検体を容器内に配置して自由に摂食させ、所定時間後の致死数によって効果を判定する試験法である。特にゴキブリを対象とした毒餌剤の場合は、検体のみを与えた単独区(強制摂食法)のほか、検体と同時に通常の飼料を与えた併置区を設けて喫食嗜好性を比較調査する試験(任意摂食法)も必要である。効果が食毒と接触毒の複合作用として現れがちなので、餌としてのみの効果が評価できるような方法を設定して実施する。

[対象薬剤]

毒餌製剤

[対象虫]

ゴキブリ、ハエ成虫

(1) ゴキブリに対する試験

[試験容器]

逃亡防止用に内壁にバターなどを薄く塗った、底面が100cm×100cm程度の広さを持った容器を用意する。

[手順]

① 容器は小さなサイズでも良いが、狭いため供試虫が薬剤に直接接触する機会が多くならない程度や、検体を分割しなければならないといった状況が生じないように、適当な広さを確保する。

② 容器内にゴキブリのシェルター(ベニヤ板などを隙間をあけて重ねたものなど)を配置する。

③ 容器内に10~50匹の虫を放し、餌と水を与えて馴化させる。

④ 毒餌を給水用の水とともに試験容器内に入れて、7~10日間所定日数毎に致死数を観察する。

[備考]

① 容器の大きさは供試虫の種類、齢期などによって調節する。深さはゴキブリが出ない程度で、水の交換など扱い易い深さとする。

② 試験は毒餌単独で設置する場合(強制摂食法)と毒餌を無毒餌と併置する場合(任意摂食法)の両方で試験する。

③ 対照の無毒餌には飼育用の餌(実験動物用固形飼料など)を用いる。

④ 観察は全供試虫が死亡するまで行うのがよいが、一般には毒餌配置後1週間後あるいは供試虫の90%以上が死亡するまで観察する。

⑤ 試験は3回以上の繰り返しを行う。

⑥ 死虫率の経日変化を求め対照薬剤と比較する。評価はLT50値(50%致死日数)で行う。

⑦ 供試した毒餌の摂取量を経日的に測定し、喫食の程度を考察するのが望ましいが、測定にあたっては吸湿補正の必要があるので、同じ温・湿度条件下で保管した毒餌で補正する。

(2) イエバエに対する試験

[対象薬剤]

毒餌製剤

[容器]

20cm立法以上の金網やナイロンメッシュのケージ、または箱形チャンバーなどを用いる。

[手順]

① ケージまたはチャンバー内に毒餌、給水用の水を配置した後、成虫を20~30匹放つ。

② 経時的なノックダウン虫数及び24時間後の致死虫数を観察して、致死率を求める。

[備考]

① 使用する容器は、用法用量の設定を行う目的も持っているので、小さくなりすぎないよう製剤に見合った大きさを確保する。

② 強制摂食法と任意摂食法の両法で実施する。

③ 対照無毒餌にはザラメや、粉ミルクと砂糖を混合した餌などを用いる。

④ イエバエを対象としたいわゆる誘引殺虫剤と称されている毒餌剤の場合は、時間の経過に伴う誘殺虫数を調べる。

⑤ 致死率の経時的変化からLT50値を求める。

2.1.11 経口投与試験法

[概要]

砂糖水に溶解させた原体や製剤を、1匹ごとにマイクロシリンジを用いて経口投与して、経口毒としての効果を評価する試験法である。

[対象薬剤]

原体

[対象虫]

ハエ成虫、ゴキブリなど

[使用装置]

微量滴下試験で用いるのと同じ装置を用いる。

[手順]

① 供試虫はゴキブリの場合は投与前半日~1日間、イエバエの場合は数時間~半日間、水も餌も与えないでおく。

② 原体は所定濃度になるよう、超音波破砕機などで5%砂糖水に溶解(または十分に懸濁)させて、投与する薬液を準備する。

③ 小管瓶に供試虫を1匹ずつ入れ、ガーゼで蓋をする。

④ マイクロシリンジの先に取り付けた注射針を、ガーゼの隙間から挿入して薬液を出し、供試虫に自発的に吸飲させる。

⑤ 吸飲した個体は投与群ごとにまとめて清潔な容器に入れ、餌と水を与えて24時間後及び48時間後に致死数を観察して、致死率を求める。

[備考]

① 小管瓶はイエバエでは3mL程度の容量のものがよいが、供試虫に合わせて適当な大きさのものを使用してよい。

② 薬液を出しても自発的に飲まない個体があるので、あらかじめ供試虫は多めに準備し、吸飲した個体のみで評価する。

③ 吸飲させる薬液量はハエでは0.2~1μL、ゴキブリでは1~2μLとする。

④ 薬液が口器以外の虫体に付着しないよう注意する。

2.1.12 忌避試験法

(1) 吸血害虫に対する試験法

[概要]

マウスを吸血源として利用する。マウスを入れた金網に薬液を処理して忌避効果をみる試験法である。

[対象薬剤]

原体、製剤

[対象虫]

アカイエカ、ヒトスジシマカなど

[手順]

① 金網製、合繊製あるいは寒冷紗を張ったケージを用意する。

② 2~5%の砂糖水を用意し、ケージの中に供試虫を放す。

③ 金網でマウスを固定し、体表全面に均一になるよう薬剤0.5~1.0mLを約10cmはなれたところから噴霧処理する。

④ 薬剤を処理してから風乾後、ケージの中に吊し、マウス体上への誘引虫数を観察する。

⑤ その後2時間おきに3回以上、吸血蚊数を観察する。

⑥ 上記手順を無処理マウスについても実施する。

⑦ 試験終了後冷凍などによって殺虫を行い、供試虫をろ紙上でつぶして、吸血、無吸血を判定し吸血阻害率を求める。

[備考]

① ケージの大きさは30×30×30cm程度以上が良い。

② 供試虫は吸血力の高まったステージの未吸血の雌成虫50~100匹を用いる。

③ 試験は、マウスを固定した金網のみにピペットなどで薬剤の0.3~1mLを滴下して行う場合もあるが、とくにヒトスジシマカを用いる場合は、薬剤の処理むらがあると、その場所から吸血するので、十分注意して表裏にくまなく均一に処理する。

④ 1ケージ当り2匹のマウスを用いるのが望ましい。

⑤ 無処理対照区も設ける。

⑥ 十分に吸血した個体以外は、ケージからの視察法による判別は困難なので、最終的には前項の手順⑦の方法で確認する。

⑦ 経過時間にともなう忌避率(次式)を求める。

⑧ ヒトスジシマカとアカイエカは吸血活動の時間帯が異なるので、適した時間帯を選択すること。

⑨ 24時間後に吸血蚊がほとんど得られない時は、観察時間を48時間後などに延長して再度観察する。

(2) ゴキブリに対する試験法

[概要]

ゴキブリの潜み場所に忌避剤を処理してその効果を確かめるための試験法である。

薬剤処理区単独で試験する方法と、無処理区と薬剤処理区を同じ容器の中で試験する方法がある。単独配置で十分な効果が認められない場合には、併置処理で評価する意味は薄いが、単独処理で効果が認められた場合には、実用性を予測するために併置処理の評価は欠かせない。

[対象薬剤]

原体、製剤

[対象虫]

ゴキブリ

[容器]

衣装箱など

[手順]

① ゴキブリの逃亡を防ぐため、容器内壁上面にワセリンやバターなどを薄く塗布する。

② シェルター(潜み場所)を用意する。

③ シャーレに脱脂綿に浸した水を入れて、餌と共に容器内に配置する。

④ 用意した潜み場所に、供試薬剤の所定量を均等に処理し、風乾する。併置する場合には2つを処理区、残りの2つを無処理区とする。

⑤ 容器内床面の4方向に潜み場所を配置する。

⑥ 供試虫を容器内に放す。

⑦ 1日後に各潜み場所内にいるゴキブリ数を数えて、忌避率を求める。

[備考]

① 容器は、床面積100×100cm以上など大きなものでもよい。

② 潜み場所は、厚紙の小箱の両端に出入り口を開けたもの、15×3.5cm程度の大きさに切ったベニヤ板3枚で中空の三角柱としたもの、又は10cm×10cm程度のベニヤ板2枚を1cm程度の隙間を設けて重ねたものなどを用いる。

③ 潜み場所は薬剤が処理されていなくても配置位置による影響が出やすいので、潜み場所は1日おきに配置位置を交換して観察する。なお、潜み場所は常に新しいものを使う。

④ 供試虫は100匹を用いる。雌雄どちらか、または両方を用いて良いが、雌雄の数は明らかにしておく。

⑤ 試験は3回以上の繰り返しを行う。

⑥ 夜間や暗い条件では、ゴキブリは潜伏場所から出て活動するので、観察時間はシェルターへの潜伏時間帯の午前から日中になるように試験設計をする。

⑦ 忌避の判定は次式によって忌避率を求めて行う。

⑧ 残効性を見る場合には、薬剤処理した潜み場所を室温で保存し、一定期間経過ごとに、同様の方法で試験を繰り返す。

(* ツツガムシに対する試験法については、方法がないわけではないが、確立しているとはいえないので、現時点で標準試験法として提案するのは適当ではないため、記載しないこととした。)

2.2 実地試験法

[概要]

新規に殺虫製剤の承認を得るためには、基礎試験に加えて、実地においても効力の検証を行う必要があるが、現在では、薬事法の対象となる害虫種の多くは、屋外で大量に発生することは極めて少なくなっているため、実施が困難である。仮に発生が見られても、発生密度が低い場所で試験を行ったのでは、適切な評価が得られないことが多い。このような状況を考慮すると、対象種によっては、累代飼育されているコロニーや、野外から採集した少数の対象個体を飼育して次世代を得てこれを実験場所に放つとか、小さな金網に閉じこめて試験するといった方法をとらざるを得ない。しかし、薬剤の実用的な効果を確かめるには、発生している現場をできるだけ探して実施することが望ましいので、やむを得ず飼育集団を使用する場合でも、できるだけ実地に近い条件で行うことが求められる。とくに、野外では薬剤に対する感受性の低い集団が存在することがあるので、供試虫の感受性については、できれば現場で発生する集団の感受性をあらかじめ調査し、飼育集団を使用する場合でも、できるだけ野外の感受性に近い集団を用いるなど十分な配慮をすることが望ましい。

2.2.1 成虫に対する試験法

2.2.1.1 空間処理試験法

[概要]

空間に噴霧するなどして使用する薬剤の効力を評価するために行う試験で、閉鎖空間としては一般住宅の居室またはテストチャンバーやモデル・ルーム、開放空間としては畜鶏舎周辺の地区などを使用して、薬剤の速効性および致死効果を観察する。防除効果が十分に評価できるほど対象害虫が発生していない場合は準実地試験で実施する。

供試虫には、野外で採集した個体を増殖して用いる場合や、累代飼育集団の中から抵抗性を示す集団を選んで用いる場合があり、また、試験場所に供試虫を放つ方法(放逐法)や供試虫を網かごに入れて吊す方法(金網法)などがとられる。

設定したそれぞれの用法用量に従って薬剤処理するが、空間に放出された噴霧粒子に、飛翔している対象虫が曝露される処理法であることから、屋内では処理空間の密閉度、空調などによる空気の動きや温湿度、屋外では風や温湿度などの条件が効果に影響を及ぼす。

2.2.1.1.1 閉鎖空間での試験法

(1) ハエ類を対象にする試験法

[概要]

一般には、イエバエを、密閉した6畳間以上の室内やテストチャンバー(実験装置)内に放して薬剤を処理し、その後の経過を観察する方法で行われる。居室試験と呼ばれる。

[対象薬剤]

油剤、乳剤、エアゾール剤、燻煙剤、蒸散剤(吊り下げタイプ)など

[手順]

① 密閉された試験空間の床に清潔な白い紙を敷く。

② 空間に供試虫を放つか、網カゴに供試虫を入れて室内に吊す。

③ 設定した用法用量に従って薬剤を処理する。

④ 時間の経過に伴うノックダウン虫数を数え、KT50値などを求める。

⑤ 全供試虫を清潔なプラスチック容器に回収して24時間後の致死率を求める。

[備考]

① 試験場所は扉、窓を閉じ、開口部や隙間は目張りなどをして風の影響がないように密閉空間とする。

② 放逐する場合は50~100匹とする。

③ 網カゴに入れる場合は16メッシュ程度の網カゴを用い、1カゴに15~20匹を入れる。これを室内の隅の高さ150cmの位置に吊す。カゴの大きさは適当でよいが、あまり大きくない方が扱いやすい。1試験当たりの網カゴ数は、試験空間が6畳間~8畳間では4個、それ以上の容積空間には6個吊すことを標準とする。

④ 空間噴霧用エアゾール剤の場合は、試験室中央で150cmの高さから天井の縁をめがけ、設定した用量を360度回転することで完結するよう噴霧する。また、燻煙剤および全量噴射型エアゾール剤は室内中央で、煙霧およびULV剤は試験室外から中央に向かって、蒸散剤は室内中央の天井から吊り下げて、それぞれ処理する。

⑤ 曝露時間終了後、供試虫を清潔な容器に移し、脱脂綿に浸した砂糖水を与える。

(2) 蚊類を対象にする試験法

ハエ類の試験に準じて行う。

(3) ゴキブリ類を対象にする試験法

1) 実地試験

[概要]

ゴキブリの発生は室内空間なので、便宜的に閉鎖空間の項で扱った。都市部の飲食店など屋内で発生密度が高い場所が多いことから、試験は原則として実地試験で行う。また、ゴキブリは昼間、隙間に潜伏しているので、その状況を想定した試験も行う必要がある。

[対象薬剤]

油剤、乳剤、炭酸ガス処理剤、燻煙剤、加熱蒸散剤、全量噴射型エアゾール剤、蒸散剤(殺虫機使用タイプ)

[手順]

① ゴキブリの徘徊する場所や出没頻度の高い場所(飲食店など)を選定する。

② 粘着トラップを配置し、ゴキブリを捕獲して事前の密度を把握する。

③ 試験実施場所の出入口、窓、換気扇等の隙間を塞いで、薬剤が室外に漏れないようにする。引出しや戸棚の扉等はできるだけ開放する。

④ 設定された用法用量に従って薬剤を処理する。

⑤ 所定時間、室内を密閉し、その後換気を十分に行ってから入室する。

⑥ 処理後、所定日数経過後ごとに同様の密度調査を行い、事前に行った調査結果と比較を行って効果を判定する。

[備考]

① 粘着トラップは試験実施場所で少なくとも5個以上配置する。

② 2~3日単位あるいは最大1週間単位で、その間にトラップに捕獲されたゴキブリ数と、1日・1トラップ当たりの数を指数として記録する。

③ 捕獲された個体は種類、成・幼虫別(幼虫ではできるだけ若・中・老齢別)に分けて記録する。ただし、トラップの中で孵化した1齢幼虫は総数から省く。

④ 効果判定の参考とするため、以下の操作を加味するとよい。

ポリカップなどの容器に、感受性および抵抗性あるいは試験場所で採取したゴキブリを入れ、試験場所の床面や棚の中など数箇所に配置してから薬剤を処理する。24時間後に回収して実験室に持ち帰り、餌と水を与え、処理後72時間後の致死率を求める。

⑤ 換気後床面でノックダウンしている虫体を回収し、適切な温度環境下で餌と水を与え、72時間後の致死率を求め、その致死率を効果判定の参考とするとよい。

[効果判定法]

① ゴキブリ指数を求め、薬剤処理後の駆除率を各々以下の式により算出する。