添付一覧
○マダニの防除を標榜する殺虫剤の取扱いに係る質疑応答集(Q&A)について
(平成25年6月26日)
(事務連絡)
(各都道府県衛生主管部(局)薬務主管課あて厚生労働省医薬食品局審査管理課通知)
マダニの防除を標榜する殺虫剤の取扱いについては、「マダニの防除を標榜する殺虫剤の取扱いについて」(平成25年6月26日付薬食審査発0626第1号厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知)により、通知したところです。
今般、その質疑応答集(Q&A)を別添のとおりまとめましたので、貴管内関係者に対して周知方よろしく御配慮をお願いします。
別添
(問1) 「マダニの防除を標榜する殺虫剤の取扱いについて」(平成25年6月26日付薬食審査発0626第1号厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知)におけるマダニとは、分類学上どの範囲が対象となるのか。 |
(答) ダニ目マダニ(後気門)亜目に属するマダニ類が対象となります。
(問2) 効能・効果及び用法・用量に適用害虫としてマダニを追加する場合の記載例を示して欲しい。 |
(答) 効能・効果及び用法・用量欄の変更が必要なケースにおける記載例は以下のとおりです。「マダニ」を追記する箇所については、以下の記載例の通りとして下さい。なお、以下の記載例に該当するものがない場合は、審査管理課又は独立行政法人医薬品医療機器総合機構一般薬等審査部へ事前に相談して下さい。
記載例1
新 |
旧 |
【用法及び用量】 ハエ、蚊には約10m2につき約5秒間噴射するか、直接噴射する。ゴキブリ、ノミ、トコジラミ(ナンキンムシ)、イエダニ、マダニには直接噴霧する。 |
【用法及び用量】 ハエ、蚊には約10m2につき約5秒間噴射するか、直接噴射する。ゴキブリ、ノミ、トコジラミ(ナンキンムシ)、イエダニには直接噴霧する。 |
【効能及び効果】 ハエ成虫、蚊成虫、ゴキブリ、ノミ、トコジラミ(ナンキンムシ)、イエダニ、マダニの駆除 |
【効能及び効果】 ハエ成虫、蚊成虫、ゴキブリ、ノミ、トコジラミ(ナンキンムシ)、イエダニの駆除 |
記載例2
新 |
旧 |
【用法及び用量】 ハエ、蚊成虫には、よく止まる壁等に50倍液を1m2当たり50mLの割合で残留噴霧する。ゴキブリ、ノミ、トコジラミ(ナンキンムシ)、イエダニ、マダニには、潜み場所または生息場所に25倍液を1m2当たり50mLの割合で残留塗布または噴霧する。 |
【用法及び用量】 ハエ、蚊成虫には、よく止まる壁等に50倍液を1m2当たり50mLの割合で残留噴霧する。ゴキブリ、ノミ、トコジラミ(ナンキンムシ)、イエダニには、潜み場所または生息場所に25倍液を1m2当たり50mLの割合で残留塗布または噴霧する。 |
【効能及び効果】 ハエ成虫、蚊成虫、ゴキブリ、ノミ、トコジラミ(ナンキンムシ)、イエダニ、マダニの駆除 |
【効能及び効果】 ハエ成虫、蚊成虫、ゴキブリ、ノミ、トコジラミ(ナンキンムシ)、イエダニの駆除 |
記載例3
新 |
旧 |
【用法及び用量】 小型害虫(チャバネゴキブリ、ノミ、トコジラミ(ナンキンムシ)、イエダニ、マダニ)には約1~2秒、大型害虫(クロゴキブリ等)には約6~8秒直接噴霧する。又、害虫の逃げ込んだ隙間には約1~2秒噴霧する。隙間より出てきた対象害虫には更に上記の量を再度直接噴霧する。 |
【用法及び用量】 小型害虫(チャバネゴキブリ、ノミ、トコジラミ(ナンキンムシ)、イエダニ)には約1~2秒、大型害虫(クロゴキブリ等)には約6~8秒直接噴霧する。又、害虫の逃げ込んだ隙間には約1~2秒噴霧する。隙間より出てきた対象害虫には更に上記の量を再度直接噴霧する。 |
【効能及び効果】 ゴキブリ、ノミ、トコジラミ(ナンキンムシ)、イエダニ、マダニの駆除 |
【効能及び効果】 ゴキブリ、ノミ、トコジラミ(ナンキンムシ)、イエダニの駆除 |
記載例4
新 |
旧 |
【用法及び用量】 ・ゴキブリ、マダニ:1m2につき5倍液80mLの割合で、ゴキブリ、マダニの潜み場所あるいはよくはい回る場所に残留塗布又は噴霧する。 ・ノミ、トコジラミ(ナンキンムシ)、イエダニ:1m2につき5倍液50mLの割合で使用する。 |
【用法及び用量】 ・ゴキブリ:1m2につき5倍液80mLの割合で、ゴキブリの潜み場所あるいはよくはい回る場所に残留塗布又は噴霧する。 ・ノミ、トコジラミ(ナンキンムシ)、イエダニ:1m2につき5倍液50mLの割合で使用する。 |
【効能及び効果】 ゴキブリ、ノミ、トコジラミ(ナンキンムシ)、イエダニ、マダニの駆除 |
【効能及び効果】 ゴキブリ、ノミ、トコジラミ(ナンキンムシ)、イエダニの駆除 |
記載例5
新 |
旧 |
【用法及び用量】 肌から約10cm離して、適量を首筋、腕、足等の皮膚の露出部に塗布する。 |
【用法及び用量】 肌から約10cm離して、適量を首筋、腕、足等の皮膚の露出部に塗布する。 |
【効能及び効果】 蚊、ノミ、イエダニ、マダニ、サシバエ、トコジラミ、アブの忌避 |
【効能及び効果】 蚊、ノミ、イエダニ、サシバエ、トコジラミ、アブの忌避 |
(問3) 承認書の備考欄に適用害虫に係る事項の記載がある場合には、あわせて変更が必要か。 |
(答) 今回の一部変更承認申請では変更の必要はなく、他の理由により、一部変更承認申請や軽微変更届出を行う際に、あわせて変更することで差し支えありません。
(問4) 効力試験を実施するに当たって参考とすべきものはあるか。 |
(答) マダニに対する殺虫剤(忌避剤を含む。以下同じ。)の効力試験法については、以下の文献等を参考として、当該薬剤の用法・用量に見合った試験を実施し確認して下さい。
① 殺虫剤効力試験法解説(1978)改正案(別紙参照)
② EPA(US)試験法(Product Performance Test Guidelines OPPTS810.3700:Insect Repellents to be Applied to Human Skin.)
③ 森井ら「フトゲツツガムシ幼虫に対するディート及びムシペール12の忌避及び麻痺効果」家庭薬研究(1989)8(31)31―35
(問5) 現在、既にイエダニ又はゴキブリの防除を標榜する医薬品又は医薬部外品の新規承認申請を行っている品目について、申請中にマダニの防除に関する効能・効果及び用法・用量の追加を行ってもよいか。 |
(答) 差し支えありません。
ただし、迅速審査の対象とはなりません。また、マダニに対する殺虫剤の効力については、当該薬剤の用法・用量に見合った試験法により実施し、確認してください。
(問6) マダニ以外の適用害虫について、殺虫剤効力試験法解説(1978)改正案に基づき、例えば、ゴキブリにトコジラミを追加すること等もあわせて申請して良いか。 |
(答) マダニ以外の適用害虫の追加に係る申請については、今回の迅速審査の対象外となるため、追加等は行わないで下さい。
(問7) 平成25年10月1日以降に、迅速審査の対象となった品目と処方、効能・効果、用法・用量、剤形が同一であって、マダニの防除を標榜する殺虫剤を新規に承認申請又は一部変更承認申請を行う場合の申請区分を教えてほしい。 |
(答) 処方等がすべて同一であれば、申請区分について、医薬品の場合は、殺虫剤・殺菌消毒剤区分3となり、医薬部外品の場合は、区分2に該当します。なお、同一でない場合には、申請区分に応じた添付資料が必要となります。
(問8) マダニの防除に関する効能・効果及び用法・用量の追加に係る一部変更承認申請が承認された際、マダニに関する効能・効果及び用法・用量の追加について情報提供を行ってもよいか。 |
(答) マダニに関する効能・効果等の追加に関する承認後、製造販売業者の責任の下、店舗等に対して適切な情報提供を行うことは差し支えありません。
別紙
殺虫剤効力試験法解説
目次
1.効力試験法概説
1.1 製造販売承認申請に必要な試験
1.1.1 原体
1.1.2 製剤
1.1.3 基礎試験
(1) 試験の目的
(2) 供試虫の条件
(3) 温湿度条件
(4) 評価
1.1.4 実地試験
(1) 試験の目的
(2) 試験の特徴と問題点
(3) 注意事項
1.2 供試虫の種類と試験の特徴
1.2.1 蚊類
(1) 成虫
(2) 幼虫
1.2.2 ハエ類
(1) 成虫
(2) 幼虫
1.2.3 ゴキブリ類
1.2.4 ノミ類
(1) 成虫
(2) 幼虫
1.2.5 シラミ類
1.2.6 トコジラミ
1.2.7 イエダニ
1.2.8 屋内塵性ダニ類
1.3 剤型の種類と試験法の特徴
1.3.1 原体
1.3.2 製剤
(1) 油剤
(2) 乳剤
(3) 水和剤
(4) ME剤(micro emulsion)、可溶化型乳剤、水性乳剤
(5) 蚊取り剤
(6) エアゾール剤
(7) 粉剤
(8) 懸濁剤(フロアブル製剤、ゾル剤)
(9) マイクロカプセル剤(MC剤)
(10) 粒剤
(11) 錠剤
(12) 燻煙剤(全量噴射型エアゾールを含む)
(13) 蒸散剤
(14) 毒餌剤
(15) 忌避剤
2.効力試験法詳説
2.1 基礎試験法
2.1.1 微量滴下試験法
2.1.2 残渣接触試験法
(1) 限定時間接触試験法(短時間接触試験法)
(2) 継続接触試験法
(3) 残効性試験法
(4) ドライフィルム試験法
(5) クリップ試験法
2.1.3 噴霧試験法
(1) 噴霧降下試験法
(2) 直接噴霧試験法
(3) 箱型試験法
(4) ピート・グラディー試験法
2.1.4 燻煙試験法
(1) 通気試験法
(2) 定量燻煙試験法
2.1.5 培地混入試験法(1)
2.1.6 培地混入試験法(2)
2.1.7 薬液浸漬試験法
2.1.8 薬液継続接触試験法
2.1.9 散粉降下試験法
2.1.10 食毒試験法
(1) ゴキブリに対する試験
(2) イエバエに対する試験
2.1.11 経口投与試験法
2.1.12 忌避試験法
(1) 吸血害虫に対する試験法
(2) ゴキブリに対する試験法
2.2実地試験法
2.2.1 成虫に対する試験法
2.2.1.1 空間処理試験法
2.2.1.1.1 閉鎖空間での試験法
(1) ハエ類を対象にする試験法
(2) 蚊類を対象にする試験法
(3) ゴキブリ類を対象にする試験法
2.2.1.1.2 開放空間での試験法
(1) ハエ類を対象にする試験法
(2) 蚊類を対象にする試験法
2.2.1.2 残留処理試験法
(1) ハエ類を対象にする試験法
(2) 蚊類を対象にする試験法
(3) ゴキブリ類を対象にする試験法
(4) 屋内塵性ダニ類を対象にする試験法
2.2.1.3 蒸散剤試験法
(1) ハエ類を対象にする試験法
(2) 蚊を対象にする試験法
(3) ゴキブリ類を対象にする試験法
2.2.1.4 蚊取り剤試験法
(1) 屋内試験法
(2) 屋外試験法
2.2.1.5 毒餌剤試験法
(1) ゴキブリ類を対象にする試験法
(2) ハエ類を対象にする試験法
2.2.1.6 忌避剤試験法
2.2.2 幼虫に対する試験法
2.2.2.1 ハエ類を対象にする試験法
(1) 畜鶏舎での試験法
(2) 畜鶏糞を用いる試験法
2.2.2.2 蚊類を対象にする試験法
2.2.2.3 ブユ幼虫を対象にする試験法
2.2.3 その他の種に対する試験法
2.2.3.1 ノミ、トコジラミ、イエダニを対象にする試験法
2.2.3.2 シラミを対象にする試験法
3.殺虫剤抵抗性
3.1 殺虫剤抵抗性が生じるしくみ
(1) 抵抗性遺伝子と殺虫剤選抜
(2) 殺虫剤抵抗性と耐性
(3) 殺虫剤の作用機作と抵抗性
(4) 交差抵抗性
(5) 選択毒性
(6) 昆虫成長制御剤の選択毒性
3.2 殺虫剤抵抗性の事例
(1) コガタアカイエカ
(2) アカイエカ種群
(3) イエバエ
(4) チャバネゴキブリ
(5) アタマジラミ
3.3 殺虫剤抵抗性の検出と系統の確立
(1) プロビット解析における注意点
(2) 室内選抜系統
(3) 感受性系統
3.4 殺虫剤抵抗性の対策
1.試験法概説
殺虫剤の効力を評価するために行う生物試験は、規格化された標準的な方法によって実施することが必要であるが、殺虫剤は種類が多く、どのような害虫に、どのような場面で、どのように使用されるかが様々であるため、その試験方法も多種多様である。したがって、殺虫剤の全てについて画一的に試験法の標準化をはかることは困難である。ここでは殺虫剤(忌避剤も含める。)の有効性についての相対評価を得ることを主目的に、一般によく行われる標準的な試験法について概説する。
効力試験は基礎試験(室内試験)と実地試験(野外試験)の二つに大別される。
基礎試験は、基本的には有効成分自体の殺虫(または忌避)効力そのものの評価、および、実用製剤の処方並びに用法用量の設定根拠や有効性を基礎的に評価することを目的とし、実地試験は、実用製剤に関して基礎試験で得られた結果に基づいて、実際の環境に適用した場合の実用効果とその変動をとらえ、設定した用法用量で十分な効果が得られるかどうかといった、適切な実地適用基準を明らかにすることが目的であるから、試験設計および評価もそれに見合ったものであることが必要となる。
また、供試虫によっては実地試験を行うことが難しいもの、実地試験を行っても必ずしも適切な評価が行えないもの、あるいは、実地試験を行うにあたって、基礎試験と実地試験の中間的な試験が必要なものがでてくる場合がある。このような場合には、両者の中間ともいうべき内容の準実地試験によって評価を行う。
なお、本解説に示された供試虫数、容器サイズ、処理量、観察時間等は、標準的なものやこれまでよく採用されてきた値を示したものであるので、試験の内容等に応じて変更することも差し支えない。
1.1 製造販売承認申請に必要な試験
一般用医薬品・医薬部外品の殺虫剤は、ハエ成虫・幼虫、蚊成虫・幼虫、ゴキブリ、ノミ、シラミ、トコジラミ、イエダニ、屋内塵性ダニ類を対象とする。製造販売承認申請にあたってどのような殺虫試験を行うかは、申請する薬剤の種類や対象害虫、適用方法などによるが、薬剤によっては、必ずしもここで示すような標準化された方法では実施や評価ができない場合、あるいは、できにくい場合がある。しかし、使用方法や対象にしたい害虫の種類に見合った試験を行わなければ、申請する薬剤に対して適切な評価が行えない。そこで、参考として、下表に原体と製剤に関して適用した方がよいと思われる試験区分の目安を示した。
1.1.1 原体
ここでいう原体とは新殺虫成分を指す。
新規に開発された殺虫成分は、基礎効力を明らかにしなければならないので、以下のような試験で効力を検証する。
微量滴下試験や残渣接触試験は、その薬剤の基礎的な効力や対象虫の範囲等を判断する上で最も必要とされる試験であり、これまで多くの原体について、これらの方法で評価が行われていて、既存の成分との比較も行いやすい。培地混入試験や薬液浸漬(接触)試験は、ハエ、蚊幼虫や屋内塵性ダニ類を対象にした薬剤の評価に適している。さらに、毒餌を目的にした場合には、経口摂食での効果を知る必要がある。忌避剤の場合は接触効果を見ることが出来る試験法などによる評価が望ましい。
1.1.2 製剤
新殺虫成分、既存の殺虫成分に関わらず、それらを用いた新たな製剤について製造販売承認を得るためには、基礎効力に加えて、実用的な効力を判断するための試験が必要である。製剤にはその剤型を製造するために必須な副資材以外に、効力面を増強する目的で2種以上の原体の配合や、共力剤などを添加する場合がある。このような製剤は複数の成分を含んだものであるから、それらを配合した理由や利点なども明らかにする必要がある。
基礎試験では、残渣接触試験、培地混入試験、薬液浸漬(接触)試験、噴霧試験、燻煙・煙霧試験、食毒試験、忌避・誘引試験などの試験法の中から、製剤の使用目的にそって必要な試験を実施する。新たな用途や特殊用途(用法、用量)についても、それらに見合った試験を追加設定することが必要である。この場合、設定理由などを明らかにしておく。
次に、基礎試験で得られた結果をもとに、使用場面を想定した実地試験を実施する。
表 薬剤の形態と効力試験内容
試験法の種類 |
原体 |
製剤 |
基礎効力試験 |
|
|
a.微量滴下試験 |
○ |
△ |
b.残渣接触試験 |
○ |
○ |
c.培地混入試験 |
○ |
○ |
d.薬液浸漬(接触)試験 |
○ |
○ |
e.噴霧試験 |
△ |
○ |
f.燻煙・煙霧試験 |
× |
○ |
g.食毒試験(経口投与試験) |
△ |
○ |
h.忌避・誘引試験 |
○ |
○ |
実地効力試験 |
× |
○ |
注1 ○:よく実施される △:場合によって実施される
×:全くかほとんど実施されない
注2 必要性は成分や剤型によって異なる
1.1.3 基礎試験
(1) 基礎試験の目的
基礎試験は、殺虫剤の対象害虫に対する基礎的な効力を明らかにすることが目的であり、温湿度条件のほか、実地とは異なって変動要因が少ない条件で行えるので、基本的な情報が得られる。ここで得られる情報は、その後に行う実地試験などの薬量設定や処理法に対する目安にも重要な指針を与える。
原体を用いた基礎試験では,殺虫成分のみの効力を知ることができることから,同種昆虫に対する他の既存殺虫成分の効力との比較,また,一つの殺虫成分のさまざまな昆虫種に対する作用性の比較が行える。したがって、原体を用いた基礎試験は,殺虫成分が新規に開発された際に,まず実施されるべき試験である。
原体の試験では、試験条件の単純化と高い再現性が必要である。そのためには,殺虫剤の施用方法についてのみならず,供試する虫の標準系統が殺虫剤感受性に関して遺伝的に均一で、継代によって感受性レベルが変動しないことも要件となる。この試験において新規の殺虫原体が既承認の原体に比べて,効力,作用スペクトラム(適用発育ステージまたは昆虫種)などの面で同等以上の利点を有するかを明らかにする。また,選択毒性や交差抵抗性発達の有無を判断する上で、できる限り作用点が明らかにされていることが必要である。
一方、製剤を用いた試験は、基本的な効力を明らかにするだけではなく、その後に実施する実地試験のために設定する用法、用量の情報を得るという大きな目的がある。
(2) 供試虫の条件
供試虫は効力評価の物差しとなるものであるから、基礎試験では、種類、系統、飼育条件、日齢(羽化後の日数、幼虫の齢期など)、性別など、すべて標準化されたものを使用することを原則とする。なお、飼育法に関しては「衛生動物検査指針」などを参照されたい。
試験には、目的に応じて感受性ないし抵抗性の程度が明らかな標準的な系統を用いるか、できるだけ素性のはっきりした累代飼育集団を用いる。場合によっては、野外から採集した集団や、それらの次世代を用いる場合もあるが、その場合は感受性の程度についてあらかじめ明らかにしておくことが望ましい。
1) 供試虫の種類
供試虫は通常、以下の種について試験を行う。
蚊:アカイエカを用いるのが一般的であるが、代わりにチカイエカを用いることは差し支えない。ヒトスジシマカやコガタアカイエカ、ハマダラカなど他の種が対象となるような条件で使用する製剤を申請する場合には、できるだけ該当種も用いる。
ハエ:原則としてイエバエを用いるが、適用場所でニクバエ、クロバエなどが対象となる場合には、できるだけ該当種も用いる。
ゴキブリ:小型のチャバネゴキブリおよび大型のクロゴキブリやワモンゴキブリなどで行うことが望ましい。
ダニ:種類によって効力差が著しく異なるので、イエダニの効力を標榜する場合にはイエダニを、また、屋内塵性ダニ類を標榜する場合にはケナガコナダニとヒョウヒダニ類を、加えて、ツメダニが対象となる場合にはツメダニ類をそれぞれ用いる(薬審二第84号通知:昭和63年2月18日)。
その他:その他の種(ノミ、シラミ、トコジラミ)に関しては、飼育法が確立していないものもあり、十分な試験が行えない場合がある。そのような場合には、少数の供試虫を持ちいた基礎試験を実施し、ゴキブリを代替種として標榜する種との効力差がわかるように、標榜種について実施した試験結果をつける。
2) 日齢、性別等
日齢、性別に関しては、低感受性の時期と性を使用するのが一般的である。
ハエ、蚊の成虫に関しては、羽化後2~5日の間の雌が最も低い感受性を示す。チャバネゴキブリの成虫の場合には、羽化後10~15日の雌が最も感受性が低い。このように、一般に成虫を用いる試験では、感受性が低い雌のみを使用するが、場合によっては雌雄同数を供試する場合もある。微量滴下法では、いずれの供試虫の場合も原則として雌のみを供試する。
幼虫に対する薬液接触試験では、蚊の場合は3齢後期から4齢初期、ハエの場合は、通常、終齢期に入った時点のものを供試する。培地混入法においてはイエバエでは2~5日齢幼虫を用いるが、IGR(昆虫成長制御剤)の試験では効力が評価できる発育段階を選択する。イエダニでは成虫を、また、ケナガコナダニやヒョウヒダニを用いる試験では、培地からの這い出し個体や培地ごと採取したものを用いる。飼育法が確立されていないものにあっては、野外から採集した集団を用いて良いが、できるだけ齢(または大きさ)を揃え、雌雄や齢(大きさ)などを記録しておく。
3) 供試虫の感受性
基礎的な資料を得るためには感受性標準系統を用いればよいが、現実には野外では感受性が低下した集団が多くなっていることから、実用性の評価のために抵抗性の飼育集団や野外集団を用いた試験も行う。
4) 供試虫の取り扱い
ハエ、蚊の成虫を取り扱う場合、通常、エチルエーテル、二酸化炭素あるいは低温で麻酔を行うが、過度の麻酔は悪影響を及ぼすので十分注意する必要がある。微量滴下法を除き、試験は供試虫が完全に麻酔から醒めるのを待って実施する。屋内塵性ダニ類やイエダニは麻酔せずにすばやく取り扱う。
薬剤処理が終了した供試虫については、多くの場合、乾燥しないように湿度を保ち、また、餌を与える必要がある。とくに水は欠かすことができないので、ハエ・蚊成虫に対しては、一般には2~5%程度の砂糖水を脱脂綿に含ませて、観察する容器に入れておくことが必要である。ゴキブリに対しては、脱脂綿に含ませた水とともに、市販のマウス・ラット用の固型飼料を与えるのがよい。このように供試虫の種類によって水や餌の与え方が異なる。観察が少なくとも6時間以上にわたる試験の場合にも、供試虫に砂糖水(および必要に応じ固型餌)を与えることが必要である。
5) 供試虫数
供試虫数は試験法にもよるが1薬量、1回につき、少なくともハエ、蚊では15匹以上、ゴキブリでは10匹以上とすることが望ましい。屋内塵性ダニ類の場合でも正確な個体数を用いることが望ましいが、数を数えて揃えることにはかなり困難を伴うので、数十匹などある程度の見当で数を揃えて供試し、終了後に数を確認することでもよい。
繰り返しは3回以上を原則とするが、きわめて速効性の薬剤にあっては、効果判定を容易にするため、1回の供試虫数を減らして繰り返しの回数を増やしてもよい。
また、IGRや培地混入試験では、薬剤処理後、長期にわたって飼育が必要になるので、無処理区でも途中の死亡などによって数が次第に減少することがある。したがって、あらかじめ途中の減少数などを予測して1群の供試虫数を多めにし、その管理には十分な注意を払う。
(3) 温湿度条件
試験期間中の温湿度条件はできるだけ標準化することが望ましい。一般に試験温度は25℃前後とし、試験期間中の温度を記録する。試験環境の湿度は、一般には60%RH前後とするが、屋内塵性ダニ類では60~80%の高い湿度環境を維持し、同様に試験期間中の湿度を記録する。
(4) 評価
1) 致死の判定
殺虫試験の致死効果を判定するとき、処理後の経過時間によっては正常虫※、ノックダウン虫※(または、苦悶虫)、死虫※(瀕死虫を含む)が観察される場合がある。ノックダウン虫は時間の経過にしたがって蘇生するものやあるいは逆に死亡するものが見られる。このような現象は、有効成分の作用性、処理薬量、使用方法や製剤特性などに起因する。これまでの殺虫剤は一般に飛翔性害虫では処理後24時間、匍匐性害虫に対しては72時間に生死判定の観察時間としてきたが、有効成分や製剤型も多様になってきているため、このような生死判定を処理後時間限定で一律的に実施することは作用性や殺虫特性を見極めるには不十分である場合がある。従って、生死の判定は、上記の観察時間を目安にするものの、できれば経日的に観察を継続し、ノックダウン虫が蘇生するか致死するかを見極めた上で、効果を判定する。
※(正常虫:
殺虫剤処理される前と変わりなく正常な動きをするものを指す。
ノックダウン虫:
薬剤中毒の症状の一つ。間歇的に、又は継続的に興奮状態で、多くは仰向けになって羽や脚を激しく震わせて動き回りもがき苦しむ状況のものを指す。また、動かなくなった状態でも刺激を与えると激しく反応するもの、時間の経過にしたがって蘇生するものや正常に快復するものがみられる。苦悶虫と同義。
死虫:
全く動かない状態のもので、刺激を与えても、生命活動がみられないものを指す。
なお、瀕死虫(脚や羽等が全く静止している状態であるが、刺激を与えると、死にかけていて、かすかに生命反応するものを指す。これらは中毒症状が進行して、快復しないもの)は、時間の経過にしたがって致死することから、判定時には死虫とみなす。)
2) 試験結果の取り扱い
試験結果は、一般に数回の繰り返しの平均値で求め、無処理や溶剤のみなどの対照区で死虫やノックダウン虫が認められた場合には、以下に示すAbottの補正式を用いて補正死亡(ノックダウン)率を計算する。IGRで羽化阻害率を求める場合も、同様の式を適用する。
原則として、対照区の死亡率ないしノックダウン率が10%を越えた場合や、IGR剤の評価で対照区の羽化率が70%未満などの場合には、通常、その試験は破棄し、再試験を行う方がよい。
試験結果の解析については、プロビット法などによってLD50(50%致死薬量)値およびその信頼限界や可能な限りLD90(90%致死薬量)値をもとめ、また、有意差を確認する場合は適切な統計処理を行ったうえで評価する。この様な処理はKT(ノックダウン時間)値、LC(致死濃度)値、IC(阻害濃度)値、LT(致死日数)値などを求める場合も同様である。
なお、わが国では、まだ公定の標準薬剤はないが、相対的な有効性を明らかにするうえでは、原則として普遍性のある現行の市販製剤を選んで対照薬剤とし、相対有効度を表示する。
(5) 試験実施上の注意
1) 実験動物を吸血源などとして使用する場合、当該研究機関などの倫理委員会等に使用について諮問を行い、許可を得てから実施する。
2) 許可があって実験動物を使用する場合でも、実験動物に対しては、極力苦痛を与えない方法をとるなどの配慮が必要である。
1.1.4 実地試験
(1) 試験の目的
実地試験の目的は、承認申請予定の殺虫製剤(検体)を、設定した用法用量で実際の場所に適用して、その効力を評価するものである。基礎試験では優れた効力を示した検体が、実地に適用した時に優れた効果を示すとは限らない。効力の発現に関与する複雑な変動要因を持つ実地で、検体の実用的効力の確認を得ることが実地試験の目的である。
(2) 試験の特徴と問題点
1) 複雑な環境条件
実地では環境その他の複雑で雑多な流動的要因がある。したがって試験のたびに異なった結果が得られることも多い。このため少ない事例しか得られない場合には、それらの結果が普遍的なものかどうかを十分に考察することが望ましい。
2) 周辺環境との関係
屋内で実施する基礎試験と異なって、実際の環境や人が生活する場で実施するので、処理する薬剤が人や環境に影響を及ぼす場合がある。また、処理した薬剤が洗い流されたり、配置した毒餌が紛失したりする場合がある。気温や風雨など自然現象の影響を受けることもある。さらには、店舗などの施設を借りて実施する場合には、営業時間を避けて行わなければならないという制約も出てくる。
この様なことから、実施時期、実施場所について、できるだけ試験期間中に安定した状況が得られるような配慮をすると同時に、実施する場所の所有者などと十分な打ち合わせを行い、試験に支障が生じないように配慮する。このためには、周辺の環境を考慮した上で、できるだけ以下のような条件を備えた場所で実施することが望まれる。
① 隣接地区から対象とする種の侵入があると結果が乱れるので、できる限り隔離された場所であること。
② 環境条件が単純化されていること。
③ 試験期間中、清掃、整理、排除などにより人為的に状況が変化しないこと。
④ 実施する場所で人やペットなど、また、環境等に悪影響を与えないこと。
3) 対照区設定の問題
実地条件下では試験を実施する場所の対象虫の個体群密度が、駆除を必要とする程度まで達しているのが前提である。個体群密度は季節や温度などによって変動するため、理想的には、処理区と類似した条件の場所を同時期に選定し、対照区として設けることが望ましい。しかし、無処理のままで試験場所の提供を受けられるかどうか、対照に適した場所が得られるかどうかなど、現実にはかなり難しい問題がある。実験場所の提供を受けようとする場合、試験後、駆除を行うことを条件にすればある程度可能である。また、対照区が設けられない場合には、処理区のみでも正しい評価が得られるように試験設計などを工夫する。
4) 評価の困難性
実地試験では多くの場合、効果判定の方法として、処理前後の害虫の個体群密度の増減により効果を評価する。
この方法の第一の難しさは、どのような調査法によって個体群密度を把握するかである。密度変化は絶対的ではなく、相対的な変化でも良い。
第二の難しさは、処理後の密度の低下が、薬剤に由来するものか自然の消長によるものかを識別することにある。さらに、その低下に普遍性があるかどうか、実地の場面で広く通用するかどうかも判断できなければならない。
評価は、基本的に、対象とする害虫の防除効果が90%以上になるか、密度指数が客観的に見て妥当な水準以下になることをもって効果があったと判断する。例えば非常に高密度に発生があった場合、計算上の防除効果が90%以上あったとしても、実態的にはまだかなり高い密度が維持されていて、十分に効果があるという評価にはならない場合がある。この場合は、個体群密度が処理によって妥当な水準以下になったかの考察が求められることになる。
無処理との比較は統計処理などを行って有意差を検定することが望ましい。
実地試験を実施するにあたっては、以上のような諸条件を考慮した上で、できるだけ一般性のある普遍的な効力結果が得られるような試験設計をしなければならない。
また、実地試験が困難な場合、準実地試験によって実用効果を確認することになるが、実使用場面の主要な変動要因を抜いて準実地試験を実施することは、必ずしも適当ではない。変動要因なしの条件で試験を実施した場合には、基礎試験の規模を拡大しただけの意味しかないことがあるので、実用効果の確認にはならない場合があり、注意しなければならない。
(3) 注意事項
吸血害虫を対象とした忌避剤の試験において、人おとり法を採用する場合は、おとりとなる人に対して事前に内容を説明した上で、必ず了解を取ること。実施にあたっては、吸血害虫が体表上に係留する時間ができるだけ短くなるよう、速やかに採集する。おとりとなることを職制上の権限を持って強制してはならない。また、動物を用いる場合には、動物に極力、苦痛を与えることがないように配慮しなければならない。
1.2 供試虫の種類と試験法の特徴
1.2.1 蚊類
(1) 成虫
蚊成虫は雌を用いる。供試は感受性が低い羽化後2~5日齢を用いる。但し、吸血忌避試験では吸血活動が旺盛となる羽化後概ね5日齢以上が適している。種によって吸血活動の時間帯が異なる場合があるので、供試虫に適した時間帯を考慮して試験する。
試験場所の明暗が結果に影響を与えることがある。蚊は光を避けて暗い側に集合する性質があるため、照明が均一にあたるように配慮する。また、壁面に係留する習性を持つことから、シャーレを用いて、水平面の残渣に接触させるゴキブリやハエ成虫の様な方法で残渣接触試験を実施すると、底の残渣面に接触しないで、かぶせてあるシャーレの壁面にとどまってしまうので注意が必要である。野外産蚊成虫の殺虫剤抵抗性検定法としてWHOがテストキット(図4参照)による方法を推奨しているので参考にするとよい。
[適用できる標準的な試験法]
微量滴下試験法、残渣接触試験法、噴霧試験法、燻煙試験法、忌避試験法、実地試験法
(2) 幼虫
多くの場合、終齢期の幼虫を用い、蛹は供試しない。終齢後期の個体が混ざっていると、薬液浸漬試験などでは観察時までに蛹化する個体が出てくるが、これらは供試虫数から除外する。致死虫及び瀕死虫は水底に沈んで水面に上がってくることはないので、観察時に容器壁面を軽く叩き、水中を泳ぐ個体を生存個体として扱う。
長期観察を伴う試験では餌を与える。幼若ホルモン様の羽化阻害剤では終齢後期の個体を用い、蛹化させて羽化阻害状況を観察する。
[適用できる標準的な試験法]
薬液浸漬試験法、水面処理試験法、実地試験法
1.2.2 ハエ類
(1) 成虫
イエバエ、ヒメイエバエ、クロバエ、ニクバエなどの雌雄成虫を対象とする。試験は主として雌を供試する。前出の1.1.3(2)1)に記載のとおり、試験は原則としてイエバエが用いられる。標榜する種がイエバエ以外の場合にはできるだけその種を用いた試験を実施することが望ましいが、ハエの種類によって実施できる試験の種類や内容が異なるので注意する必要がある。
[適用できる標準的な試験法]
微量滴下試験法、残渣接触試験法、噴霧試験法、燻煙試験法、食毒試験法、経口投与試験法、実地試験法
(2) 幼虫
培地混入試験では、通常、飼育用培地に薬剤を混合して供試する。培地は種類によって組成が異なるので、種に適した培地を用いること。ニクバエで薬液に継続接触させる場合、幼虫の体の全てが液に沈まないように、用いる薬液量は少量にするなど、供試虫によっては試験条件に配慮を要する場合がある。また、薬液が付着した幼虫はガラス容器といえども壁面を登って逃亡する場合があるので注意が必要である。また、布など吸湿性のある素材で蓋をすると、幼虫の体表についた薬液が吸い取られて、容器内の薬剤が無くなることがあるので、吸湿性のない素材を蓋に用いる。
[適用できる標準的な試験法]
培地混入試験法、薬液継続接触試験法、実地試験法
1.2.3 ゴキブリ類
ゴキブリは供試虫としては大型なので比較的扱いやすい。残渣接触試験や噴霧降下試験などを実施する場合は、チャバネゴキブリのような小形の種では、深さ6cm程度の深型(腰高)シャーレを用い、内壁にワセリンやバターを薄く塗っておけば、壁面をのぼって逃亡することもない。しかし、大型種では投入直後あるいは刺激を与えた時に、暴れて飛び出ることがあるので、直径15cm程度の広めの容器を用いた方がよい。
クロゴキブリ、ワモンゴキブリ、ヤマトゴキブリ、チャバネゴキブリは飼育系統が確立しているので、供試虫としても適しているが、大型の種類では飼育箱からピンセットなどで脚をつかんで取り出そうとすると脚が取れてしまう場合がある。飼育箱ごと軽く二酸化炭素や低温で麻酔すると簡単に取り出せて、残った使用しない個体に対する影響も少ない。
ゴキブリの致死の判定は、処理後48時間や72時間のように、やや長めの時間まで行うほうが安定した結果が得られる。薬剤種によっては1~4週間後の観察が必要なこともある。
[適用できる標準的な試験法]
微量滴下試験法、残渣接触試験法、噴霧試験法、燻煙試験法、直接散布試験法、食毒試験法経口投与試験法、実地試験法
1.2.4 ノミ類
(1) 成虫
よく跳ねるので、逃げないように背の高い容器や密閉容器を用いて試験を行う。蓋をする場合には、硬すぎると虫体を傷つけるので注意する。また、体が小さいので歩行して隙間から逃げることもあり、取り扱いには十分注意する。
[適用できる標準的な試験法]
残渣接触試験法、燻煙試験法、噴霧試験法
(2) 幼虫
深型(腰高)シャーレなどの容器の底にカーペット片などを敷き、幼虫を放して薬剤を処理する。餌として乾燥牛血に粉末乾燥酵母などを混合して与える。
[適用できる標準的な試験法]
噴霧試験法、燻煙試験法、培地混入試験法
1.2.5 シラミ類
飼育している試験機関は現在ほとんどない。シラミは1日1度、人の血液を必要とするため、観察時間を長時間設けることはできない。処理後24時間を最長に、観察をすませるようにする。また、乾燥にも弱いので、高湿に保つように心がける。
[適用できる標準的な試験法]
残渣接触試験法、燻煙試験法、薬液浸漬試験法
1.2.6 トコジラミ
飼育している試験機関は現在ほとんどないが、小動物が吸血源になるので、飼育は比較的簡単であり、試験もゴキブリと同じように実施できる。吸血の状況で感受性が異なるので、供試するまでに無吸血だった期間や、吸血後の日数など供試する個体の吸血状況を記録しておく。
[適用できる標準的な試験法]
残渣接触試験法、燻煙試験法、噴霧試験法
1.2.7 イエダニ
扱いはそれほど難しくないが、小さいため逃亡には十分に注意する。逃亡個体は人を吸血する。トコジラミと同様、飼育している試験機関は現在ほとんどないが、小動物が吸血源になるので飼育は容易である。吸血の状況が効果に影響するので、供試するまでに無吸血だった期間や、吸血後の日数など供試する個体の吸血状況を記録しておくが、原則として吸血後の個体を試験に供する。
[適用できる標準的な試験法]
残渣接触試験法、燻煙試験法、噴霧試験法
1.2.8 屋内塵性ダニ類
屋内塵性ダニ類は、ケナガコナダニ、コナダニ類、ツメダニ類などを対象とする。このダニ類はイエダニと同様に虫体が小さく、基礎試験においても、多くの昆虫で適用できる微量滴下試験は適用できない。乾燥には弱く、条件が悪いと対照区でも死亡率が高まるので、処理後の供試虫は湿度が60~80%以上に保たれるような環境条件に置かなければならない。とくにケナガコナダニでは75%以上とする。供試数をあらかじめ揃えることも難しいので、そのような場合には必要とする数(目分量)の前後を細筆などでとって供試し、試験後正確な数を数える方法でもよい。あらかじめ雌雄や齢を揃えることもできないので、供試に際して性および歳期を考慮しなくてもよい。雌雄などを確認する必要がある場合には、観察が終了した後、顕微鏡下で行う。また、試験中にごく僅かな隙間から逃げだしても、それを確認することは容易ではないので、取扱いはできるだけ速やかに行わなければならない。
[適用できる標準的な試験法]
残渣接触試験法、燻煙試験法、噴霧試験法、培地混入試験法、実地試験法
1.3 剤型の種類と試験法の特徴
1.3.1 原体
原体はアセトンやエタノール、あるいはケロシンなどの有機溶剤に溶解して用いる。有機溶剤に対して溶解性が低いものは懸濁して使う。また、用いた溶剤そのものが供試虫に影響を与える場合があるので、必ず溶剤だけの対照区と無処理対照区を設ける必要がある。微量滴下試験をはじめ、実際に供試虫に処理される原体量は極めて少ないので、薬液の調製は慎重に行わなければならない。溶解性にもよるが、一般には高濃度の溶液を調製し、次第に低くなるように数段階濃度の薬液を調製して供試する。
新規の殺虫原体が既承認の原体に比べて,効力,作用スペクトラム(適用発育ステージまたは昆虫種)などの面で同等以上の利点を有するかを明らかにする。また,新規殺虫原体の選択毒性の程度や交差抵抗性の有無を把握するために、できる限り作用点を明らかにすることが必要である。
1.3.2 製剤
試験方法はできるだけ標準的な方法を採用することが必要であるが、製剤は使用する状況によって使い分けることができるよう配慮されているため様々な形態のものがあり、必ずしもこの解説で示した標準的な試験法と全く同一の方法では実施できないことがある。この様なことから、製剤では原体以上に試験機関によって方法が異なり、また、試験機関ごとに独自の方法が採用されていることもあるため、客観的評価になるように2つ以上の試験機関で評価することが必要になっている。
既存製剤と異なる用法用量や効能効果の新殺虫製剤の効力試験は、この解説に示した標準的な方法を参考に、再現性のある、また、追試ができる方法で実施する。
希釈が必要な製剤の多くは水が用いられることが多い。この場合、水の影響を少なくするためイオン交換された純水を用いる。蚊幼虫の試験では、汲みたての水道水を用いると、薬剤によっては塩素が効果を減退させることがあるので、純水を用いるか、または、水道水であれば1日以上経過した汲み置き水を用いる。
(1) 油剤
[特徴]
希釈せずにそのまま使用する、ケロシン等をベースにした製剤。残渣接触試験では、薬剤処理面の材質、薬剤処理から供試虫接触までの時間などが効力に影響するので、薬剤処理後、供試虫に接触させるまでの時間を一定させたり、いくつかの異なる処理面を使用したりして試験を実施する。
[適用できる標準的な試験法]
噴霧試験法、残渣接触試験法、煙霧試験法、実地試験法
(2) 乳剤
[特徴]
殺虫剤の中で最も汎用の製剤で、油性の液体であるが水で希釈して使用する。試験を実施する場合には、希釈液が変質することがあるため、できるだけ試験直前に希釈調製したものを用いる。残渣接触試験では、薬剤処理面の材質、薬剤処理から供試虫接触までの時間などが効力に影響するので、薬剤処理後、供試虫に接触させるまでの時間を一定させたり、いくつかの異なる処理面を使用したりして試験を実施する。
[適用できる標準的な試験法]
噴霧試験法、残渣接触試験法、薬液浸漬試験法、実地試験法
(3) 水和剤
[特徴]
粉末を水で希釈し懸濁した形で用いる製剤。残渣接触試験では、薬剤処理面の材質、薬剤処理から供試虫接触までの時間などが効力に影響するので、薬剤処理後、供試虫に接触させるまでの時間を一定させたり、いくつかの異なる処理面を使用したりして試験を実施する。
[適用できる標準的な試験法]
残渣接触試験法、薬液浸漬試験法、実地試験法
(4) ME剤(micro emulsion)、可溶化型乳剤、水性乳剤
[特徴]
水ベースの製剤で、水で希釈して使用する。残渣接触試験では、薬剤処理面の材質、薬剤処理から供試虫接触までの時間などが効力に影響するので、薬剤処理後、供試虫に接触させるまでの時間を一定させたり、いくつかの異なる処理面を使用したりして試験を実施する。
[適用できる標準的な試験法]
噴霧試験法、残渣接触試験法、薬液浸漬試験法、実地試験法
(5) 蚊取り剤
[特徴]
蚊取り線香、蚊取りマット、液体蚊取りなど、いずれもそのまま着火あるいは通電させて空間に処理する製剤。これらの蚊取り剤は吸血阻止という要素も重要なので、評価は主としてノックダウン速効性を見る。しかし、ノックダウンしても蘇生し、吸血する場合があるので、致死効果も重要であり、致死効果と両面から評価する。
[適用できる標準的な試験法]
通気円筒試験法、定量円筒試験法、箱型試験法、実地試験法
(6) エアゾール剤
[特徴]
液剤と同じような方法で試験できるが、噴射剤により薬液を放出する製剤なので、小さな供試虫では噴射圧による影響に注意する。残渣接触試験では、エアゾールから原液を取り出して、それを油剤と同様にして残留処理して試験を行う場合もある。
[適用できる標準的な試験法]
噴霧試験法、残渣接触試験法、実地試験法
(7) 粉剤
[特徴]
原体に鉱物質微粉末を増量剤として加え、均等に混合粉砕して作ったもので、そのまま用いる製剤。粉剤では有効成分以外にも、基剤そのものが供試虫の皮膚を損傷させる効果を持っているので、試験にあたっては、タルク、クレーなど基剤のみを供試した対照区と何も使用しない無処理区を設ける。低薬量の試験では製剤そのものだけで散布量を減らして試験を行うことは難しいので、同様の基剤(増量剤)で希釈したものを用いる場合もある。
[適用できる標準的な試験法]
残渣接触試験法、直接散布試験法、培地混入試験法、実地試験法
(8) 懸濁剤(フロアブル製剤、ゾル剤)
[特徴]
乳剤・水和剤と同じ。
[適用できる標準的な試験法]
残渣接触試験法、薬液浸漬試験法、実地試験法
(9) マイクロカプセル剤(MC剤)
[特徴]
乳剤・水和剤と同じ。
[適用できる標準的な試験法]
残渣接触試験法、薬液浸漬試験法、実地試験法
(10) 粒剤
[特徴]
粒剤は300~1700μm、微粒剤は100~300μmの粒度で、そのまま使用する製剤。処理後、すぐに溶解して一気に有効成分が放出されるものもあるが、薬剤の放出を調節している製剤の場合は、時間の経過に伴って順次有効成分が水中に放出されるので、この点を考慮して試験設計をする。
[適用できる標準的な試験法]
薬液浸漬試験法、実地試験法
(11) 錠剤
[特徴]
有効成分を錠剤状に成型した製剤。試験は薬剤をそのまま水中に処理し、原液又は希釈液に供試虫を浸漬する方法によって実施する。薬剤の放出を調節している製剤では時間の経過に伴って順次有効成分が水中に放出されるので、この点を考慮して試験設計をする。
[適用できる標準的な試験法]
薬液浸漬試験法、実地試験法
(12) 燻煙剤(全量噴射型エアゾール剤を含む)
[特徴]
製品化された製剤では、その一部をとると製剤の特性が失われるものもあり、また、全量噴射型エアゾール剤では、小空間で試験をすると薬液の空間での均一性が担保できない可能性が高いため、広空間のテストチャンバーで基礎的な試験を実施せざるを得ない。
[適用できる標準的な試験法]
燻煙試験法、実地試験法
(13) 蒸散剤
[特徴]
蒸気圧が高い有効成分を樹脂などに含浸させ、有効成分の長期にわたる自然蒸散による効果を目的とした製剤で、主に吊り下げタイプと殺虫機使用タイプがある。現在では、主にジクロルボスを用いた製剤が対象となる。効力の評価のための試験は、燻煙剤と同様の扱いでよい。なお、蒸散剤については、安全性試験、空気中濃度及び効力試験等に関する通知(昭和44年6月9日薬製第227号、平成16年11月10日薬食審査発第1110005号)が発出されている。
[適用できる標準的な試験法]
燻煙試験法、実地試験法
(14) 毒餌剤
[特徴]
一般には原体に食餌誘引物質を加えて作ったもので、経口的に摂取させる目的の製剤。基礎試験では、検体を用法に応じて容器内に配置して自由に摂食させて試験を行うが、喫食性が問題となるので、検体のみを与えた単独区の試験のほか、検体と同時に通常の飼料を与えた併置区を設けて摂食選好性を比較調査する試験も併せて実施する必要がある。試験は、接触毒が発現しないような配慮を必要とするが、とくにハエを対象にした毒餌の場合には、効果は食毒と接触毒の複合作用として評価できる。但し、ハエを対象にした毒餌の場合は、接触毒が発現しないような条件を整えることは困難なため、効果が食毒と接触毒の複合作用としての評価になっても構わない。
[適用できる標準的な試験法]
食毒試験法、経口投与試験法、実地試験法
(15) 忌避剤
[特徴]
目的物に処理して害虫の加害から保護するために用いる薬剤。蚊成虫の忌避剤のように吸血被害を防止するために使用されるものが多い。この様な場合の試験設定は、吸血が行われるような状況を設定して行う。
また、一方ではゴキブリなどの潜伏を阻止するために使用される場合がある。このような場合の試験設定は、対象虫が潜みやすい、或いは生息しやすい状況を作って行う。
[適用できる標準的な試験法]
忌避試験法、実地試験法