添付一覧
○皮膚感作性試験代替法(LLNA:DA、LLNA:BrdU―ELISA)を化粧品・医薬部外品の安全性評価に活用するためのガイダンスについて
(平成25年5月30日)
(事務連絡)
(各都道府県衛生主管部(局)薬務主管課あて厚生労働省医薬食品局審査管理課通知)
今般、皮膚感作性試験代替法(LLNA:DA、LLNA:BrdU―ELISA)について、その利用促進を図るため、平成24年度レギュラトリーサイエンス総合研究事業(研究代表者小島肇)において、それぞれ化粧品・医薬部外品の安全性評価に活用するためのガイダンスを作成したので、貴管下関係業者に対して周知願います。
なお、その他の代替法に関するガイダンスについては、順次、作成する予定です。
(添付資料)
① 皮膚感作性試験代替法としてのLLNA:DAを化粧品・医薬部外品の安全性評価に活用するためのガイダンス
② 皮膚感作性試験代替法としてのLLNA:BrdU―ELISAを化粧品・医薬部外品の安全性評価に活用するためのガイダンス
①
皮膚感作性試験代替法としてのLLNA:DAを化粧品・医薬部外品の安全性評価に活用するためのガイダンス
医薬部外品の製造販売承認申請及び化粧品基準改正要請では、化学物質の感作性を評価するために、従来から、モルモットを用いた皮膚感作性試験が最も一般的に用いられてきている。OECDテストガイドラインに記載されている試験法としては、Maximization TestとBuehler Testがある1)。これらの試験法は、感作成立後の惹起時における皮膚反応を判定することにより、化学物質の感作性を評価できる。
1986年にKimberらにより提案2)された局所リンパ節アッセイ(Local Lymph Node Assay:LLNA)は、感作誘導期における局所リンパ節中の細胞増殖反応を指標としたマウスを用いる皮膚感作性試験法である。LLNAは、これまでに、欧米の公的機関で評価され3,4)、2002年にOECDテストガイドライン429(OECD Guideline for Testing of Chemicals, 429 : Skin Sensitization: Local Lymph Node Assay)として採択され、2010年に改訂がなされている5)。
一方、LLNAの改良法として開発されたLLNA:DAは、放射性のヌクレオシドの代わりに、細胞中のアデノシン三リン酸(ATP)を化学発光により定量するため、放射性物質を用いない方法であり、放射性物質による職業性被曝及び廃棄物処理問題に関する懸念が無い。本試験法は、国際的なピアレビューにより検証および検討が行われ6,7)、2010年にOECDテストガイドライン442A(OECD Guideline for Testing of Chemicals, 442A : Skin Sensitization: Local Lymph Node Assay : DA)として採択された8)。本試験法はLLNAと同様に、長年広く使われてきたMaximization TestやBuehler Testに比べ、動物に与える苦痛の低減や評価に用いる動物数の低減という点で意義ある代替法の一つと考えられている。また、従来のモルモットを用いた試験法は、惹起時の皮膚反応を肉眼判定するが、LLNA:DAでは細胞増殖反応を細胞中のATP量を指標として測定するため、より客観的な試験となっている。
本ガイダンスは、OECDテストガイドライン442Aとして採択されているLLNA:DAについて、化粧品・医薬部外品の安全性評価への活用促進を図るため、その実施方法についてわかりやすく解説するとともに、必要な留意点等をガイダンスとしてとりまとめたものである。
1.試験法の概要
1―1.原理
感作性を有する低分子量の化学物質は、経皮に浸透し、そのまま又は生体のタンパク質と結合した後、皮膚中の樹状細胞に取り込まれるものと考えられている。その後、活性化した樹状細胞は皮膚から所属リンパ節へ遊走し、そこで抗原提示を介して抗原特異的な(感作性物質に特異的に反応する)T細胞の増殖を誘導し、次いで特異的なT細胞(感作T細胞)は全身に分布する。この一連の生体応答が感作と呼ばれている。LLNA:DAでは、感作誘導期のリンパ節における抗原特異的なT細胞の増殖を、生細胞数と相関性があることが知られている細胞中のATP量をルシフェリン―ルシフェラーゼ法により測定して評価する9)。
1―2.試験手順及び判定
1―2―1.試験手順
本試験法では、LLNAと同等の検出感度を得るために、被験物質投与回数の変更及びラウリル硫酸ナトリウム(SLS)適用の追加がなされている。詳細は、OECDテストガイドライン442Aを参照する(図1)。
本試験のバリデーションで用いられたのはCBA/J系統のマウスのみであったため、CBA/Jが優先的に選択すべき系統とされている10,11)。8~12週齢のCBA/J系の雌マウスを使用し、個々の動物の体重が試験に供する全動物の平均体重値の±20%を超えないようにする。試験群としては、溶媒対照群(陰性対照群)の他3群以上の被験物質用量群を設定し、通常、陽性対照群を加える。1群当り最低4匹を用いる。全ての投与群で、マウスの両耳の耳介に感作を増強させる目的で1%SLS水溶液を絵筆等を用いて4,5回塗布する。SLS処置1時間後に、被験物質を25μL塗布する。この操作を1,2,3,7日目に行う(4,5,6日目は無処置)。8日目に耳介リンパ節を摘出し、均一な細胞懸濁液を調製する。ATP測定キットを用いてルシフェリン―ルシフェラーゼ法により細胞懸濁液のATP含量を測定する。
図1LLNA:DAの概略
1―2―2.判定
溶媒対照群に対する被験物質投与群のATP含量の比(Stimulation index:SI)が1.8倍未満の場合は陰性、2.5倍以上の場合は陽性と判定する,7)。1.8倍以上~2.5倍未満の場合は、付加的情報(用量反応情報、全身毒性若しくは過剰な局所皮膚刺激、必要に応じて溶媒対照群との統計的な比較、ペプチド反応性、分子量、関連物質の結果)を考慮し、判定する7,12,13,14,15)。
1―3.試験実施上の留意点
1―3―1.試験実施における各種条件及び注意事項
① 溶媒の選択
使用溶媒は被験物質の溶解性を考慮し、溶液又は懸濁液として最も高濃度で適用可能な溶媒を選択する。皮膚への適用性からacetone:olive oil(4:1,v/v;AOO)、N,N―dimethylformamide(DMF)、methyl ethyl ketone、propylene glycol、dimethylsulfoxide等が推奨される。また、エタノール溶液(例えば、70%エタノール)も使用可能である。水溶性の被験物質の場合、適切な溶媒(例えば、Pluronic((R))L92を1%含む溶液)を用い、皮膚を濡らし、直ちに流れ落ちないように注意すべきである。十分な科学的根拠があればその他の溶媒でも使用可能であるが、皮膚に対する付着性が悪い水溶液の使用は避ける。
② 塗布濃度設定の方法
被験物質の塗布濃度は、100%、50%、25%、10%、5%、2.5%、1%、0.5%等、OECDテストガイドライン442Aで既定された濃度系列から、連続した少なくとも3用量を用いる。最高塗布濃度には、全身毒性や強度の皮膚刺激性を生じない最も高い濃度を用いる。全身毒性や強度の皮膚刺激性を生じない濃度は、急性毒性、皮膚刺激性等の毒性情報や類似構造を含む物質や物理化学的特性情報等、利用可能な全ての情報を参照して決定する。これら既存情報から当該濃度を推察できない場合は、以下に示す予備スクリーニング試験を実施して設定する。
③ SLSの適用、被験物質投与回数について
本試験法では、1%SLS水溶液を被験物質投与の前処理に用いることで感作を増強し、また被験物質の投与回数を増やすことでLLNAと同等の検出感度を得ている。このため、SLS濃度、SLS前処理の実施、被験物質の投与を正確に行う16,17)。
SLS水溶液を全体に均一に塗布するために、絵筆等を用いるが、SLS水溶液へ被験物質のコンタミネーションを避けるため、一投与群終了毎に筆の交換または十分な水洗を行う16,17)。
④ ATP含量の測定について
ATP含量は、動物の死亡後から経時的に減少すると考えられるため、動物の個体ごとに安楽死からATP含量測定までの時間を約30分以内で一定に保つ。10,11,16,17,18)。
⑤ 判定基準について
本試験法の開発及び国内バリデーション試験時は、SI値が2.5以上を陽性と判定していたが、国際的なピアレビューの結果6,7)、それ以下でも偽陰性と判定される物質があったことから、SI値1.8がカットオフ値として採用された。これによりSI値1.8~2.5の場合には、偽陽性の結果を生じる可能性があるため、皮膚感作性の最終判定においては付加的情報(用量反応情報、全身毒性若しくは過剰な局所皮膚刺激、必要に応じて溶媒対照群との統計的な比較、ペプチド反応性、分子量、関連物質の結果)を考慮することとされている。7,12,13,14,15)。
⑥ その他
・ ある種の金属化合物では、感作性物質を識別できないことがある。
・ ある種の皮膚刺激性物質(界面活性剤等)で偽陽性反応を生じることがある。
・ ATPレベルに影響する物質(ATP阻害剤として作用する物質)やATPの正確な測定を妨害する物質(ATP分解酵素の存在、リンパ節における細胞外ATPの存在)に対して本法の使用は不適切な場合がある。
【予備スクリーニング試験】
1濃度につき1~2匹の動物を用い、本試験と同様に被験物質による塗布を行う。塗布濃度は、原則として被験物質の性状が液体である場合は100%、固形物、懸濁物の場合は調製可能な最高濃度とする。他の動物種(モルモット等)で得られた情報のうち、類似条件で行われた利用可能な情報がある場合は、その条件を参考にする。
全身毒性は、試験期間中の一般状態の変化とDay1(被験物質処置前)及びDay8(最終処置1日後)の体重変化率を指標として評価する。皮膚刺激性は、毎日塗布部位の皮膚所見の観察と、Day1(被験物質処置前)、Day3、Day7(最終処置日)、Day8(最終処置1日後)に、耳介の厚さを測定して評価する。すなわち、試験期間中(Day1~Day7)に神経機能の変化(立毛、運動失調、振戦、痙攣等)、行動変化、行動量変化、呼吸パターンの変化、傾眠、無反応症状、摂食量変化、ストレス症状等の一般状態の異常を認める場合、あるいはDay1からDay8の間で5%を超えた体重減少を生じる場合は、全身毒性があると判定する。また、どの測定日であっても中等度以上の紅斑を示す所見を認める場合や、耳介厚の増減率が+25%以上となる場合は、過度の刺激性があると判断する8)。
以上の結果を踏まえ、100%、50%、25%、10%、5%、2.5%、1%、0.5%等、OECDテストガイドライン442Aで既定された濃度系列の中から、原則として、全身毒性反応や過度の刺激性反応が認められなかった最高濃度を本試験の最高用量に設定する。
1―3―2.試験成立条件について
試験が適正に実施されたことは、反応強度が明らかな陽性対照物質を用いて、SI値が3.0を超えることを確認する。試験毎に陽性対照群として25%ヘキシルシンナミックアルデヒドや25%オイゲノール等を投与する群を設定する10,11)。ただし、LLNA:DAを定期的に実施し、陽性対照物質の背景データより、試験結果の再現性や正確性を確認できる実験施設の場合には、陽性対照物質を試験に供するのは一定期間毎(例えば、6箇月毎)でもよい。
2.本試験法の運用方法に関する留意点
本試験法は、動物を使用した試験法であるが、従来の動物を用いた試験法(Maximization Test等)と比較して、動物に与える苦痛の低減や評価に用いる動物数の低減を図ることができ、試験結果においても定量性があり、より客観的な試験となっている。また、LLNAと同程度の精度を有している。なお、以下の点を留意する必要がある。
① 製剤の試験には利用できない。
② 適正に実施されたLLNA:DAで陰性と判定された場合には、当該物質の皮膚感作性は陰性と、陽性と判定された場合には皮膚感作性は陽性と結論し、原則としてそれ以上の追加試験は必要とされない。
③ 適正に実施されたLLNA:DAで、陽性と判断された場合でも、既に十分に使用実績のあることが知られている類縁物質の皮膚感作性データとの比較あるいは従来のアジュバントを用いないモルモット皮膚感作性試験による追加データ等から総合的に、皮膚感作性の安全性を担保できることがある。
④ LLNA:DAの利用が適切でないと考えられる被験物質の場合、従来のモルモットを用いる皮膚感作性試験を実施する。
3.引用文献
1)OECD, 1992, OECD test guideline 406; OECD GUIDELINE FOR THE TESTING OF CHEMICALS: Skin Sensitization:
〈http://iccvam.niehs.nih.gov/methods/immunotox/llnadocs/OECDtg406.pdf〉
2)Kimber I. et al., 1986, Development of a murine local lymph node assay for the determination of sensitizating potential. Food Chem Toxicol, 24, 585-586.
3)ICCVAM―Interagency Coordinating Committee on the Validation of Alternative Methods, 1999. The Murine Local Lymph Node Assay: a test method for assessing the allergic contact dermatitis potential of chemicals/compounds. The results of an independent peer review evaluation coordinated by the ICCVAM and the NICEATM. NIH publication No. 99-4494. National Institute of Environmental Health Sciences.
〈http://iccvam.niehs.nih.gov/docs/immunotox_docs/llna/llnarep.pdf〉
4)Balls M. and Hellsten E., 2000, Statement on the validity of the local lymph node assay for skin sensitization testing. ECVAM Joint Research Centre, European Commission, Ispra, Italy. ATLA 28, 366-367.
5)OECD, 2010, OECD test guideline 429; OECD GUIDELINE FOR THE TESTING OF CHEMICALS: Skin Sensitization: Local Lymph Node Assay,
〈http://iccvam.niehs.nih.gov/SuppDocs/FedDocs/OECD/OECD-TG429-2010.pdf〉
6)ICCVAM (2010), ICCVAM Test Method Evaluation Report. Nonradioactive local lymph node assay: modified by Daicel Chemical Industries, Ltd., based on ATP content test method protocol (LLNA: DA). NIH Publication No. 10-7551. Research Triangle Park, NC: National Institute of Environmental Health Sciences.
〈http://iccvam.niehs.nih.gov/docs/immunotox_docs/LLNA-DA/TMER.pdf〉
7)ICCVAM (2009), Independent Scientific Peer Review Panel Report: Updated validation status of new versions and applications of the murine local lymph node assay: a test method for assessing the allergic contact dermatitis potential of chemicals and products. Research Triangle Park, NC: National Institute of Environmental Health Sciences.
〈http://iccvam.niehs.nih.gov/docs/immunotox_docs/LLNAPRPRept2009.pdf〉
8)OECD, 2010, OECD test guideline 442A; OECD GUIDELINE FOR THE TESTING OF CHEMICALS: Skin Sensitization: Local Lymph Node Assay:DA,
〈http://iccvam.niehs.nih.gov/SuppDocs/FedDocs/OECD/OECD-TG442A.pdf〉
9)Crouch, S.P., Kozlowski, R., Slater, K.J. and Fletcher J. (1993), The use of ATP bioluminescence as a measure of cell proliferation and cytotoxicity. J. Immunol. Meth., 160, 81-88.
10)Idehara, K., Yamagishi, G., Yamashita, K. and Ito, M. (2008), Characterization and evaluation of a modified local lymph node assay using ATP content as a non-radio isotopic endpoint. J. Pharmacol. Toxicol. Meth., 58, 1-10.
11)Omori, T., Idehara, K., Kojima, H., Sozu, T., Arima, K., Goto, H., Hanada, T., Ikarashi, Y., Inoda, T., Kanazawa, Y., Kosaka, T., Maki, E., Morimoto, T., Shinoda, S., Shinoda, N., Takeyoshi, M., Tanaka, M., Uratani, M., Usami, M., Yamanaka, A., Yoneda, T., Yoshimura, I. and Yuasa, A. (2008), Interlaboratory validation of the modified murine local lymph node assay based on adenosine triphosphate measurement. J. Pharmacol. Toxicol. Meth., 58, 11-26.
12)Chamberlain, M. and Basketter, D.A. (1996), The local lymph node assay: status of validation. Food Chem, Toxicol., 34, 999-1002.
13)Basketter, D.A., Gerberick, G.F., Kimber, I. and Loveless, S.E. (1996), The local lymph node assay: A viable alternative to currently accepted skin sensitisation tests. Food Chem, Toxicol., 34, 985-997.
14)Basketter, D.A., Gerberick, G.F. and Kimber, I. (1998), Strategies for identifying false positive responses in predictive sensitization tests. Food Chem. Toxicol., 36, 327-333.
15)Kimber, I., Hilton, J., Dearman, R.J., Gerberick, G.F., Ryan, C.A., Basketter, D.A., Lea,L., House, R.V., Ladies, G.S., Loveless, S.E. and Hastings, K.L. (1998), Assessment of the skin sensitization potential of topical medicaments using the local lymph node assay: An interlaboratory exercise. J. Toxicol. Environ. Health, 53 563-79.
16)JaCVAM新規試験法・評価報告書、皮膚感作性試験代替法(LLNA:DA法)の評価報告書
〈http://jacvam.jp/files/effort02/03_001_03.pdf〉
17)JaCVAM新規試験法・評価報告書、代替試験法申請書類 皮膚感作性試験:LLNA―DA法
〈http://jacvam.jp/files/effort02/03_001_08.pdf〉
18)JaCVAM新規試験法・評価報告書、LLNA―DA法バリデーション研究報告書
〈http://jacvam.jp/files/effort02/03_001_05.pdf〉
②
皮膚感作性試験代替法としてのLLNA:BrdU―ELISAを化粧品・医薬部外品の安全性評価に活用するためのガイダンス
医薬部外品の製造販売承認申請及び化粧品基準改正要請では、化学物質の感作性を評価するために、従来から、モルモットを用いた皮膚感作性試験が最も一般的に用いられてきている。OECDテストガイドラインに記載されている試験法としては、Maximization TestとBuehler Testがある1)。これらの試験法は、感作成立後の惹起時における皮膚反応を判定することにより、化学物質の感作性を評価できる。
1986年にKimberらにより提案2)された局所リンパ節アッセイ(Local Lymph Node Assay:LLNA)は、感作誘導期における局所リンパ節中の細胞増殖反応を指標としたマウスを用いる皮膚感作性試験法である。LLNAは、これまでに、欧米の公的機関で評価され3,4)、2002年にOECDテストガイドライン429(OECD Guideline for Testing of Chemicals, 429 : Skin Sensitization: Local Lymph Node Assay)として採択され、2010年に改訂がなされている5)。
一方、LLNAの改良法として開発されたLLNA:BrdU―ELISAは、放射性のヌクレオシドの代わりに、Bromodeoxyuridine(BrdU)のDNAへの取り込み量を、酵素免疫測定法(ELISA)により吸光度として測定するため、放射性物質を用いない方法であり、放射性物質による職業性被爆及び廃棄物処理問題に関する懸念がない。本試験法は、国際的なピアレビューにより検証および検討が行われ6,7)、2010年にOECDテストガイドライン442B(OECD Guideline for Testing of Chemicals,442B:Skin Sensitization:Local Lymph Node Assay:BrdU-ELISA)として採択された8)。本試験法はLLNAと同様に、長年広く使われてきたMaximization TestやBuehler Testに比べ、動物に与える苦痛の低減や評価に用いる動物数の低減という点で意義ある代替法の一つと考えられている。また、従来のモルモットを用いた試験法は、惹起時の皮膚反応を肉眼判定するが、LLNA:BrdU―ELISAでは細胞増殖反応をBrdUの取り込み量を指標として測定するため、より客観的な試験となっている。
本ガイダンスは、OECDテストガイドライン442Bとして採択されているLLNA:BrdU―ELISAについて、化粧品・医薬部外品の安全性評価への活用促進を図るため、その実施方法についてわかりやすく解説するとともに、必要な留意点等をガイダンスとしてとりまとめたものである。
1.試験法の概要
1―1.原理
感作性を有する低分子量の化学物質は、経皮に浸透し、そのまま又は生体のタンパク質と結合した後、皮膚中の樹状細胞に取り込まれるものと考えられている。その後、活性化した樹状細胞は皮膚から所属リンパ節へ遊走し、そこで抗原提示を介して抗原特異的な(感作性物質に特異的に反応する)T細胞の増殖を誘導し、次いで特異的なT細胞(感作T細胞)は全身に分布する。この一連の生体応答が感作と呼ばれている。LLNA:BrdU―ELISAでは、感作誘導期のリンパ節における抗原特異的なT細胞の増殖(DNA合成)を、BrdUのDNAへの取り込み量を指標として評価する。
1―2.試験手順及び判定
1―2―1.試験手順
詳細は、OECDテストガイドライン442Bを参照する(図1)。
バリデーションではCBA/JN系統のマウスが用いられていた6,9)が、本系統の生産中止に伴いCBA/J系マウスにおいてその同等性が確認されている。従って本試験では、8~12週齢のCBA/J系の雌マウスを使用し、個々の動物の体重が試験に供する全動物の平均体重値の±20%を超えないようにする。試験群としては、溶媒対照群(陰性対照群)の他3群以上の被験物質用量群を設定し、通常、陽性対照群を加える。1群当り最低4匹を用いる。全ての投与群で、マウスの両耳の耳介に被験物質25μLを3日間繰り返し塗布し、Day5(最終処置2日後)にBrdU(10mg/mL)を0.5mL(5mg/mouse)腹腔内投与する。Day6(BrdU投与後約24時間)に動物を安楽死させた後、耳介リンパ節を摘出し、均一な細胞懸濁液を調製する。BrdUはチミジンのアナログであり、同じように増殖細胞のDNAに取り込まれる。ペルオキシダーゼ標識されたBrdU特異的抗体を用い、細胞懸濁液のBrdUの取り込み量をELISAで測定する。
図1LLNA:BrdU―ELISAの概略
1―2―2.判定
溶媒対照群に対する被験物質投与群のBrdUの取り込み量の比(Stimulation index:SI)が1.6倍未満の場合は陰性、2.0倍以上の場合は陽性と判定する6,7)。1.6倍以上~2.0倍未満の場合は、付加的な情報(用量反応情報、全身毒性若しくは過剰な局所皮膚刺激、必要に応じて溶媒対照群との統計的な比較、ペプチド反応性、分子量、関連物質の結果)を考慮し、判定する10,11,12,13)。
1―3.試験実施上の留意点
1―3―1.試験実施における各種条件及び注意事項
① 溶媒の選択
使用溶媒は被験物質の溶解性を考慮し、溶液又は懸濁液として最も高濃度で適用可能な溶媒を選択する。皮膚への適用性からacetone:olive oil(4:1,v/v;AOO)、N,N―dimethylformamide(DMF)、methyl ethyl ketone、propylene glycol、dimethylsulfoxide等が推奨される。また、エタノール溶液(例えば、70%エタノール)も使用可能である。水溶性の被験物質の場合、適切な溶媒(例えば、Pluronic((R))L92を1%含む溶液)を用い、皮膚を濡らし、直ちに流れ落ちないように注意すべきである。十分な科学的根拠があればその他の溶媒でも使用可能であるが、皮膚に対する付着性が悪い水溶液の使用は避ける。
② 塗布濃度設定の方法
被験物質の塗布濃度は、100%、50%、25%、10%、5%、2.5%、1%、0.5%等、OECDテストガイドライン442Bで既定された濃度系列から、連続した少なくとも3用量を用いる。最高塗布濃度には、全身毒性や強度の皮膚刺激性を生じない最も高い濃度を用いる。全身毒性や強度の皮膚刺激性を生じない濃度は、急性毒性、皮膚刺激性等の毒性情報や類似構造を含む物質や物理化学的特性情報等、利用可能な全ての情報を参照して決定する。これら既存情報から当該濃度を推察できない場合は、以下に示す予備スクリーニング試験を実施して設定する。
【予備スクリーニング試験】
1濃度につき1~2匹の動物を用い、本試験と同様に被験物質による塗布を行う。ただし、BrdUの投与及びリンパ節摘出は行わない。塗布濃度は、原則として被験物質の性状が液体である場合は100%、固形物、懸濁物の場合は調製可能な最高濃度とする。他の動物種(モルモット等)で得られた情報のうち、類似条件で行われた利用可能な情報がある場合は、その条件を参考にする。
全身毒性は、試験期間中の一般状態の変化とDay1(被験物質処置前)及びDay6(最終処置3日後)の体重変化率を指標として評価する。皮膚刺激性は、塗布部位の皮膚所見の観察とDay1(被験物質処置前)、Day3、Day6に耳介の厚さを測定して評価する。すなわち、試験期間中(Day1~Day6)に神経機能の変化(立毛、運動失調、振戦、痙攣等)、行動変化、行動量変化、呼吸パターンの変化、傾眠、無反応症状、摂食量変化、ストレス症状等の一般状態の異常を認める場合、あるいはDay1からDay6の間で5%を超えた体重減少を生じる場合は、全身毒性があると判定する。また、どの判定日であっても中等度以上の紅斑を示す所見を認める場合や、耳介厚の増減率が+25%以上となる場合は、過度の刺激性があると判断する8)。
以上の結果を踏まえ、100%、50%、25%、10%、5%、2.5%、1%、0.5%等、OECDテストガイドライン442Bで既定された濃度系列の中から、原則として、全身毒性反応や過度の刺激性反応が認められなかった最高濃度を本試験の最高用量に設定する。
③ 細胞懸濁液の調製について
試験間におけるバラつきを低減させるため、リンパ節採取の際に不要な組織片を取り除き、均一な分散状態の細胞懸濁液を調製する必要がある。また、事前に溶媒対照群のBrdU取り込み量の平均吸光度を0.1~0.2の範囲に入るよう細胞懸濁液の最終容量を決定する。細胞懸濁液の最終容量は15mL程度になることが多い。
④ BrdU取り込み量の測定について
BrdUは市販のELISAキットにて測定し、プレートの洗浄及び乾燥や二次抗体の反応時間、波長については各キットの推奨プロトコールに沿って実施する。一方で、ELISA測定時の室内温度、試薬の使用時の温度や発色時間などがバラつきの要因となることが考えられるため、可能な限り室内温度や発色時間を一定にして測定することが望ましい。
⑤ 陽性判定基準について
本試験法の開発および国内バリデーション試験時は、SI値2以上を陽性と判定していたが、国際的なピアレビューの結果6)、それ以下でも偽陰性と判断される物質があったことから、SI値1.6がカットオフ値として採用された。これによりSI値が1.6~1.9の場合には、偽陽性の結果を生じる可能性があるため、皮膚感作性の最終判定においては付加的な情報(用量反応情報、全身毒性若しくは過剰な局所皮膚刺激、必要に応じて溶媒対照群との統計的な比較、ペプチド反応性、分子量、関連物質の結果)を考慮することとされている10,11,12,13)。
⑥ その他
・ ある種の金属化合物では、感作性物質を識別できないことがある。
・ ある種の皮膚刺激性物質(界面活性剤等)で偽陽性反応を生じることがある。
1―3―2.試験成立条件について
試験が適正に実施されたことは、反応強度が明らかな陽性対照物質を用いて、SI値が2.0以上であることを確認する。試験毎に陽性対照群として25%ヘキシルシンナミックアルデヒド、25%オイゲノール等を投与する群を設定する14)。ただし、LLNA:BrdU―ELISAを定期的に実施し、陽性対照物質の背景データより、試験結果の再現性や正確性を確認できる実験施設の場合には、陽性対照物質を試験に供するのは一定期間毎(例えば、6箇月毎)でもよい。
2.本試験法の運用方法に関する留意点
本試験法は、動物を使用した試験法であるが、従来の動物を用いた試験法(Maximization Test等)と比較して、動物に与える苦痛の低減や評価に用いる動物数の低減を図ることができ、試験結果においても定量性があり、より客観的な試験となっている。また、LLNAと同程度の精度を有している。なお、以下の点を留意する必要がある。
① 製剤の試験には利用できない。
② 適正に実施されたLLNA:BrdU―ELISAで陰性と判定された場合には、当該物質の皮膚感作性は陰性と、陽性と判定された場合には皮膚感作性は陽性と結論し、原則としてそれ以上の追加試験は必要とされない。
③ 適正に実施されたLLNA:BrdU―ELISAで、陽性と判断された場合でも、既に十分に使用実績のあることが知られている類縁物質の皮膚感作性データとの比較あるいは従来のアジュバントを用いないモルモット皮膚感作性試験による追加データ等から総合的に、皮膚感作性の安全性を担保できることがある。
④ LLNA:BrdU―ELISAの利用が適切でないと考えられる被験物質の場合、従来のモルモットを用いる皮膚感作性試験を実施する。
3.引用文献
1)OECD, 1992, OECD test guideline 406; OECD GUIDELINE FOR THE TESTING OF CHEMICALS: Skin Sensitization:
〈http://iccvam.niehs.nih.gov/methods/immunotox/llnadocs/OECDtg406.pdf〉
2)Kimber I. et al., 1986, Development of a murine local lymph node assay for the determination of sensitizating potential. Food Chem Toxicol, 24, 585-586.
3)ICCVAM―Interagency Coordinating Committee on the Validation of Alternative Methods, 1999. The Murine Local Lymph Node Assay: a test method for assessing the allergic contact dermatitis potential of chemicals/compounds. The results of an independent peer review evaluation coordinated by the ICCVAM and the NICEATM. NIH publication No. 99-4494. National Institute of Environmental Health Sciences.
〈http://iccvam.niehs.nih.gov/docs/immunotox_docs/llna/llnarep.pdf〉
4)Balls M. and Hellsten E., 2000, Statement on the validity of the local lymph node assay for skin sensitization testing. ECVAM Joint Research Centre, European Commission, Ispra, Italy. ATLA 28, 366-367.
5)OECD, 2010, OECD test guideline 429; OECD GUIDELINE FOR THE TESTING OF CHEMICALS: Skin Sensitization: Local Lymph Node Assay,
〈http://iccvam.niehs.nih.gov/SuppDocs/FedDocs/OECD/OECD-TG429-2010.pdf〉
6)ICCVAM (2010), ICCVAM Test Method Evaluation Report. Nonradioactive local lymph node assay: BrdU-ELISA Test Method Protocol (LLNA: BrdU-ELISA). NIH Publication No. 10- 7552A/B. Research Triangle Park, NC: National Institute of Environmental Health Sciences. Available at:
〈http://iccvam.niehs.nih.gov/methods/immunotox/llna-ELISA/TMER.htm〉
7)ICCVAM (2009), Independent Scientific Peer Review Panel Report: Updated validation status of new versions and applications of the murine local lymph node assay: a test method for assessing the allergic contact dermatitis potential of chemicals and products. Research Triangle Park, NC: National Institute of Environmental Health Sciences. Available at:
〈http://iccvam.niehs.nih.gov/docs/immunotox_docs/LLNAPRPRept2009.pdf〉
8)OECD, 2010, OECD test guideline 442B; OECD GUIDELINE FOR THE TESTING OF CHEMICALS: Skin Sensitization: Local Lymph Node Assay: BrdU-ELISA,
〈http://iccvam.niehs.nih.gov/SuppDocs/FedDocs/OECD/OECD-TG442B.pdf〉
9)Takeyoshi, M., Iida, K., Shiraishi, K. and Hoshuyama, S. (2005), Novel approach for classifying chemicals according to skin sensitizing potency by non-radioisotopic modification of the local lymph node assay. J. Appl. Toxicol., 25, 129-134.
10)Basketter, D.A., Gerberick, G.F., Kimber, I. and Loveless, S.E. (1996), The local lymph node assay: A viable alternative to currently accepted skin sensitization tests. Food Chem. Toxicol., 34, 985-997.
11)ICCVAM (1999), The murine local lymph node Assay: A test method for assessing the allergic contact dermatitis potential of chemicals/compounds: The results of an independent peer review evaluation coordinated by the Interagency Coordinating Committee on the Validation of Alternative Methods (ICCVAM) and the National Toxicology Program Center for the Evaluation of Alternative Toxicological Methods (NICETAM). NIH Publication No: 99-4494. Research Triangle Park, N.C. Available at:
〈http://iccvam.niehs.nih.gov/docs/immunotox_docs/llna/llnarep.pdf〉
12)Kimber, I., Hilton, J., Dearman, R.J., Gerberick, G.F., Ryan, C.A., Basketter, D.A., Lea, L., House, R.V., Ladies, G.S., Loveless, S.E. and Hastings, K.L. (1998), Assessment of the skin sensitization potential of topical medicaments using the local lymph node assay: An interlaboratory exercise. J. Toxicol. Environ.l Health, 53, 563-79.
13)Basketter, D.A., Gerberick, G.F. and Kimber, I. (1998), Strategies for identifying false positive responses in predictive sensitisation tests. Food Chem. Toxicol., 36, 327-33.
14)Kojima, H. et al. (2010), Inter-laboratory validation of the modified murine local lymph node assay based on 5-bromo-2’-deoxyuridine incorporation. J. Appl. Toxicol., 31, 63-74.