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○「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査」の指針等について(周知依頼)

(平成25年3月13日)

(雇児母発0313第1号)

(各都道府県・各指定都市・各中核市母子保健主管部(局)長あて厚生労働省雇用均等・児童家庭局母子保健課長通知)

「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査」(以下「新出生前遺伝学的検査」という。)につきましては、去る3月9日に、日本産科婦人科学会が「『母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査』指針」(以下「学会指針」という。)を決定し公表いたしました。また併せて、日本医学会、日本産科婦人科学会、日本人類遺伝学会、日本医師会、日本産婦人科医会の関係5団体が、新出生前遺伝学的検査についての共同声明を発表しました。

学会指針及び共同声明の内容は別添のとおりですが、新出生前遺伝学的検査についての厚生労働省の見解は下記のとおりですので、本通知、学会指針(別紙1)及び共同声明(別紙2)について、その内容を御了知いただくとともに、貴都道府県・市の医療主管部(局)、衛生主管部(局)等の関係部署及び管内の市区町村、並びに必要に応じて管内の医療機関等の関係機関に対して、幅広く情報提供していただくよう、よろしくお願いいたします。

なお、別途、別紙3の関係機関に対して、各会の会員等に対する周知並びに学会指針及び共同声明の遵守を依頼していることを申し添えます。

1.新出生前遺伝学的検査等に関する厚生労働省の基本的考え方

○一般的に医学的検査は、必要な患者に対し、診察から検査、診断、治療に至るまでの医師が行う診療行為の一環としてなされるべきものである。

○特に、新出生前遺伝学的検査については、その高度な専門性と結果から導き出される社会的影響を考慮すると、検査前後における専門家による十分な遺伝カウンセリングにより、検査を受ける妊婦やその家族等に検査の意義や限界などについて正確に理解していただくことが必要である。

○検査対象者については、新出生前遺伝学的検査の特性を踏まえ、超音波検査等で胎児が染色体数異常を有する可能性が示唆された者や染色体数的異常を有する児を妊娠した既往のある者、高齢妊娠の者等、一定の要件を定めることが必要である。

○そのためには、学会関係者に限らず、検査に関わる全ての学術団体、医学研究機関、医療機関、臨床検査会社、遺伝子解析施設、遺伝子解析の仲介会社、健康関連企業等の皆様にも、学会指針を尊重して御対応いただくことが必要と考えている。

[別紙1]

母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査に関する指針

公益社団法人日本産科婦人科学会倫理委員会

母体血を用いた出生前遺伝学的検査に関する検討委員会

Ⅰ はじめに

医学の進歩に伴い、出生前に子宮内の胎児の状態を診断する出生前診断技術が向上してきている。一部の疾患については、出生前診断をもとに出生前に子宮内の胎児に対して、または出生後早期の新生児に対して治療することも可能となっている。しかしながら、治療の対象とならない先天的な異常については、出生前診断を行うことにより、障害が予測される胎児の出生を排除し、ついには障害を有する者の生きる権利と命の尊重を否定することにつながるとの懸念がある。

現在行われている出生前の診断技術には、超音波検査、絨毛検査、羊水検査、母体血清マーカー検査などがある。近年になって、母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査が開発され、海外で普及し始めており、米国においては対象を限定した臨床実施が始まった。母体血を採取するのみで、妊婦への身体的リスクなく行われるこの検査は、その簡便さから日本においても容易に普及していくことが予想される。

母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査は、母体血漿中に存在する胎児由来のcell-free DNAを母体由来のDNA断片とともに網羅的にシークエンスすることにより各染色体に由来するDNA断片の量の差異を求めてそれらの比較から、胎児の染色体の数的異常の診断に結び付けるものである。したがって母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査による診断の対象となるのは、染色体の数的異常であり、現在普及している技術は、染色体のうちの特定の染色体(13番、18番、21番)に対するものである。これら3つの染色体の数的異常は、母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査により診断を行っても、それが治療につながるわけではない。その簡便さを理由に母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査が広く普及すると、染色体数的異常胎児の出生の排除、さらには染色体数的異常を有する者の生命の否定へとつながりかねない。

母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査が日本国内でも行われうる状況となっている現在、この検査の問題点とあり方について検討しておくことはきわめて重要である。日本産科婦人科学会では倫理委員会内に母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査に関する検討委員会を設け、さまざまな視点からの議論を行い、「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査に関する指針」をまとめたので報告する。

なお本指針で対象としている「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査」とは、13番、18番、21番の3つの染色体の数的異常を検出する非確定的検査を指している。性染色体の数的異常を検出するための血液による非確定的検査も臨床実施が可能となっているが、今回の検討の対象とはなっていない。性染色体の数的異常検出のための検査の指針策定には別途検討を要する。

Ⅱ 検討の経緯

従来、日本産科婦人科学会は、出生前に行われる新たな検査技術が臨床応用されるようになるたびに、それらの新技術に関する考え方や適用法を「見解」として会員に提示してきた。現在は、「出生前に行われる検査および診断に関する見解」として平成23年6月に改定されたものが提示されている。この領域の技術は進歩が著しく、母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査についても、既にこの検査法に関する考え方を「出生前に行われる検査および診断に関する見解」に取り入れるように「見解」のさらなる改定を目指して平成24年初頭から学会内で検討を始めていたところであった。しかしながら、平成24年8月末、母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査が日本国内で開始されるとの報道がなされるに及び、さまざまな出生前検査がある中、母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査についても学会としてなんらかの指針を示すことが喫緊の課題となったため、「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査に関する検討委員会」が設置され、検討が行われてきた。

本委員会は、日本産科婦人科学会倫理委員会の中に設置され、日本産科婦人科学会、日本小児科学会、日本人類遺伝学会、法学・生命倫理分野からの専門家が委員として加わり、組織された。委員会では、本委員会を構成する委員だけでなく、委員外の有識者にも随時出席を求め意見を聴取し議論を重ねた。出席を求めた委員外の有識者は、同本産科婦人科学会出生前診断見解改定ワーキンググループ委員長、NIPT臨床研究代表者、日本医師会、遺伝看護学分野、遺伝カウンセリング分野、法学・医療倫理学分野、日本ダウン症協会からである。また公開シンポジウムを開催、さらに指針案を公表してパブリックコメントを求めることを通じて、広く一般からの意見を指針策定の参考とした。(4回の委員会、および公開シンポジウムの日程、パブリックコメント収集期間は次のとおりである。委員会:平成24年10月2日、11月1日、12月7日、平成25年2月4日;公開シンポジウム:平成24年11月13日;パブリックコメント収集:平成24年12月17日~平成25年1月21日)

このたびまとめた指針は、上記の4回の委員会、公開シンポジウム、およびパブリックコメントから得られた結果である。

Ⅲ 母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査の問題点

(1) 妊婦が十分な認識を持たずに検査ぶ行われる可能性があること。

母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査は、妊婦からの採血により行われるものである。きわめて簡便に実施できることから、検査に関する十分な説明が医療者から示されず、その結果、妊婦がその検査の意義、検査結果の解釈について十分な認識を持たないまま検査が行われるおそれがある。そのため、検査結果によって妊婦が動揺・混乱し、検査結果について冷静に判断できなくなる可能性がある。

(2) 検査結果の意義について妊婦が誤解する可能性のあること。

母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査は、母体血中のDNA断片の量の比から、胎児が13番、18番、21番染色体の数的異常をもつ可能性の高いことを示す非確定的検査である。診断を確定させるためには、さらに羊水検査等による染色体分析を行うことが必要となる。この点は、従来の母体血清マーカー検査と本質的に変わるところはない。母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査においては、その感度が母体血清マーカー検査と比較して高いために、被検者である妊婦が得られた結果を確定的なものと誤解し、その誤解に基づいた判断を下す可能性がある。

(3) 胎児の疾患の発見を目的としたマススクリーニング検査として行われる可能性のあること。

母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査は、妊婦から少量の血液を採取して行われる簡便さのため、医療者は容易に検査の実施を考慮しうる。また検査の簡便さゆえ妊婦も検査を受けることを希望しやすい状況となりうる。その結果、不特定多数の妊婦を対象に胎児の疾患の発見を目的としたマススクリーニング検査として行われる可能性がある。

Ⅳ 母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査に対する基本的考え方

医療の実践にあたっては、受療者に対して適切な情報を提供し十分な説明を行ったうえで、受療者がその診療行為を受けるか否かを決定することが原則である。ここでいう診療行為とは診断に至るための診察行為、検査、診断を受けての治療行為を含んでいる。したがって、母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査は、この原則に則って行われるべき診療行為に含まれることになる。しかし、母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査は、前章(1)に述べたように、その簡便さから妊婦がその意義、検査結果の解釈について十分な認識を持たずに検査を受ける可能性があり、受療者が検査についての適切な情報を事前に十分な説明とともに受けるという原則が達成されないおそれがある。

胎児に対して出生前に行われる遺伝学的な検査・診断は、その高度な専門性と結果から導かれる社会的影響を考慮すると、臨床遺伝学の知識を備えた専門医が情報提供と説明にあたるべきである。過去に母体血清マーカーによる出生前遺伝学的検査がわが国において実施されるようになった際に、厚生科学審議会先端医療技術評価部会の母体血清マーカーに関する見解(平成11年6月)が発表された。この中で、母体血清マーカー検査の意義の説明と遺伝カウンセリングの重要性が指摘され、検査の前後に検査の意義の説明と遺伝カウンセリングを十分に行うよう配慮したうえで、検査を慎重に実施するよう注意が喚起された。このため、十分な配慮の下に母体血清マーカー検査が行われることの重要性が認識され、慎重に実施される方向に進んできているとはいうものの、産婦人科医療の現場を見渡すと、現在においても、臨床遺伝学の知識を備えた専門医が診断前後に検査の説明と遺伝カウンセリングを行う姿勢が徹底されているとは言い難い。このため、現状では母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査を行う前に検査についての十分な説明と遺伝カウンセリングを行い、妊婦に適切な情報を提供することが不十分であるばかりでなく、検査施行後にその結果について妊婦が適正な判断をなしうるような遺伝カウンセリングを行うことにも体制の不備がある状況と言わざるを得ない。前章(2)に述べた検査結果に対する妊婦の誤解やその誤解に基づいた判断の可能性は払拭されないのである。

したがって、遺伝カウンセリングを必要とする妊婦に対して臨床遺伝学の知識を備えた専門医が遺伝カウンセリングを適切に行う体制が整うまでは、母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査をわが国において広く一般産婦人科臨床に導入すべきではない。また、遺伝カウンセリングを適切に行う体制が整ったとしても、本検査を行う対象は客観的な理由を有する妊婦に限るべきである。不特定多数の妊婦を対象としたマススクリーニングとして母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査を行うのは厳に慎むべきである。

しかしながら、海外、特に米国において母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査が急速に普及しつつある現状、およびこの検査の簡便さを考慮すると、現在の状況では、適切な遺伝カウンセリングが行われずに検査が施行されるようになることも考えられ、きわめて憂慮される事態を招きかねない。

母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査をわが国においても受けることができるようにと願う意見の中には、全面的に自由化し、すべての妊婦がその自由な意思によって受けられるように希望する意見のほかに、従来羊水検査等の侵襲を伴う手技による染色体分析を受けていたような、染色体の数的異常の胎児を出産する可能性の高い妊婦が、羊水検査等の前に母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査を受けることにより、侵襲を伴う検査を回避できる可能性のあることを論拠とする意見もある。たしかにこのような妊婦に母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査を実施し、陰性の結果が得られた場合、その的中率が高いために、胎児が染色体の数的異常を有する可能性はきわめて低いことを意味する。その場合においても、母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査が非確定的検査であることを遺伝カウンセリングを通じて妊婦に説明し、妊婦の正しい理解を得ることがきわめて重要であることに変わりはない。

このような状況に鑑み、母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査は、十分な遺伝カウンセリングの提供が可能な限られた施設において、限定的に行われるにとどめるべきである。実施可能な施設として備えるべき要件、対象となる妊婦の基準、実施されるべき遺伝カウンセリングの内容、については第Ⅴ章に記載する。

Ⅴ 母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査を行う場合に求められる要件。

Ⅴ―1母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査を行う施設が備えるべき要件。

1.出生前診断、とくに13番、18番、21番染色体の数的異常例について、自然史や支援体制を含めた十分な知識および豊富な診療経験を有する産婦人科医師(産婦人科専門医*1)と、出生前診断、とくに13番、18番、21番染色体の数的異常例について、自然史や支援体制を含めた十分な知識および豊富な診療経験を有する小児科医師(小児科専門医*2)がともに常時勤務していることを要し、医師以外の認定遺伝カウンセラー*3または遺伝看護専門職が在籍していることが望ましい。上記の産婦人科医師(産婦人科専門医*1)は臨床遺伝専門医*4であることが望ましく、上記の小児科医師(小児科専門医*2)は臨床遺伝専門医*4または周産期(新生児)専門医*5であることが望ましい。

上記の産婦人科医師(産婦人科専門医*1)、小児科医師(小児科専門医*2)の少なくとも一方は臨床遺伝専門医*4の資格を有することを要する。

*1公益社団法人日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医

*2公益社団法人日本小児科学会認定小児科専門医

*3日本人類遺伝学会・日本遺伝カウンセリング学会認定遺伝カウンセラー

*4日本人類遺伝学会・日本遺伝カウンセリング学会認定臨床遺伝専門医

*5一般社団法人日本周産期・新生児医学会周産期(新生児)専門医

2.遺伝に関する専門外来を設置し、1項に述べた産婦人斜医師と小児科医師(および認定遺伝カウンセラーまたは遺伝看護専門職)が協力して診療を行っていること。

3.検査を希望する妊婦に対する検査施行前の遺伝カウンセリングと検査施行後に結果を説明する遺伝カウンセリングのいずれについても、十分な時間をとって行う体制が整えられていること。なお、検査施行前後の遺伝カウンセリングには、1項で挙げた専門職のすべてが直接関与することが望ましい。また検査施行前の遺伝カウンセリングから検査の実施までには、被検妊婦自身が検査受検の要否について十分に考慮する時間をもつことができるよう配慮すること。

4.検査施行後の妊娠経過の観察を自施設において続けることが可能であること。

5.絨毛検査や羊水検査などの侵襲を伴う胎児染色体検査を、妊婦の意向に応じて適切に施行することが可能であること。

6.妊婦が侵襲を伴う胎児染色体検査を受けた後も、妊婦のその後の判断に対して支援し、適切なカウンセリングを継続できること。

7.出生後の医療やケアを実施できる、またはそのような施設と密に連携する体制を有すること。

Ⅴ―2対象となる妊婦。

母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査を受けることを希望する妊婦のうち、次の1~5のいずれかに該当する者とする。

1.胎児超音波検査で、胎児が染色体数的異常を有する可能性が示唆された者。

2.母体血清マーカー検査で、胎児が染色体数的異常を有する可能性が示唆された者。

3.染色体数的異常を有する児を妊娠した既往のある者。

4.高齢妊娠の者。

5.両親のいずれかが均衡型ロバートソン転座を有していて、胎児が13トリソミーまたは21トリソミーとなる可能性が示唆される者。

Ⅴ―3母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査を行う前に医師が妊婦およびその配偶者(事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む)、および場合によっては他の家族に説明し、理解を得るべきこと。

(1) 出生児が先天的に有する障害や平均からの偏りに関する一般的な説明。

1.生まれてくる子どもは誰でも先天異常などの障害をもつ可能性があり、その可能性はさまざまであること。

2.障害は、その子どもを全人的にみた場合の個性の一側面でしかなく、障害という側面だけから子どもをみるのは誤りであること。

3.障害や平均からの偏りをもって生まれた場合でも、その成長発達は個人によってさまざまであり一様でないこと。

4.障害の有無やその程度と、本人および家族が幸か不幸かということの間には、ほとんど関連はないこと。

5.生まれる前に原因の存在する先天的な障害や平均からの偏りだけでなく、後天的な障害が発生することもあること。

(2) 母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査の対象となる染色体異常(13番、18番、21番の染色体の数的異常)に関する最新の情報(自然史を含む)についての説明。

1.これらの染色体異常の特徴および症状。

2.これらの染色体異常をもって出生した子どもに対する医療の現状。

3.これらの染色体異常は、出生後の経過が一様でなく、個人差が大きい、したがって出生後の生活は個人によりさまざまであること。

4.これらの染色体異常や合併症の治療の可能性および支援的なケアの現状についての説明。

(3) 母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査の位置づけについての説明。

1.母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査の対象となる妊婦は、従来侵襲を伴う検査(羊水検査や絨毛検査)の対象となっていた妊婦であり、母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査がマススクリーニングではないこと。

2.侵襲を伴う検査で診断される染色体異常の60~70%が数的異常であるが、母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査が対象としているのは、染色体数的異常のうちの3つの染色体(13番、18番、21番の染色体)に限られること。

3.母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査は、染色体数的異常以外の次のような異常は対象としていないこと。均衡型転座、微細欠失などの構造異常。微小でも重要な数的異常、胎児の染色体モザイク。胎児遺伝性疾患。胎盤性モザイク。

4.母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査は、特定の染色体(13番、18番、21番の染色体)の数的異常の診断を目的としているが、染色体の数的異常である可能性が高いことを示す非確定的検査であり、検査を受けることにより確定的診断に到達するわけではないこと。

5.特定の染色体(13番、18番、21番の染色体)の数的異常の診断の確定には、侵襲を伴う検査(絨毛検査または羊水検査)が必要であること。

6.母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査を行っても、対象となる染色体異常に起因する疾患の治療にはつながらないこと。

(4) 母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査の結果の解釈についての説明。

1.検査が陰性の場合は、対象とする染色体異常のみられる可能性はきわめて低いが、0ではなく、偽陰性となることがありうること。したがって、対象とする染色体異常がないことを確定させることにはならないこと。

2.検査が陽性の場合は、対象とする染色体異常のみられる可能性は高くなるが、偽陽性がありうること。陽性適中率は事前確率により異なること。確定診断をするには、侵襲を伴う検査(絨毛検査または羊水検査)が必要になること。

3.結果を確認するための母体血の再検査は意味がないとされていること。

4.検査結果が判定保留(Not Reportable)となる場合があること。

(5) 次の段階の選択肢となりうる侵襲を伴う検査についての説明。

1.対象とする染色体異常の有無を確定させるために穿刺による羊水採取で羊水中胎児由来細胞の染色体検査(羊水検査)を行った場合、300分の1の確率で流産が起こる可能性のあること。

2.羊水検査を行っても、染色体異常に起因する疾患の治療にはつながらないこと。

(6) 以上の事項を口頭だけでなく、文書を渡して十分に説明し、理解が得られたことを確認したあとに、検査を受けることについて文書による同意を得て、その同意文書を保管する。

(7) 遺伝カウンセリングの結果、母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査を受けない選択をした妊婦に対し、その妊婦の要請ある場合は、妊娠の終了まで遺伝に関する相談に応じる。

Ⅴ―4母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査を行った後に、医師が妊婦およびその配偶者(事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む)に説明し、理解を得るべきこと。

(1) 母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査の結果の解釈についての説明を行う。

1.結果が陰性の場合、対象とする染色体異常のみられる可能性はきわめて低いが、0ではなく、偽陰性となることがありうること。したがって、対象とする染色体異常がないことを確定させることにはならないこと。

2.結果が陽性の場合、対象とする染色体異常のみられる可能性は高くなるが、偽陽性がありうること。陽性適中率は事前確率により異なること。確定診断をするには、侵襲を伴う検査(絨毛検査または羊水検査)が必要になること。

3.陰性または陽性と出た結果を再確認するための再検査は意味がないとされていること。

4.結果が判定保留(Not Reportable)の場合、血液中の胎児由来DNA濃度が低いことが理由である可能性のあること。その場合、再検査を行うこと、または、侵襲を伴う検査を行うことが選択肢であること。

(2) (1)の他、必要に応じて検査前に説明した項目(Ⅴ―3)の、(1)、(2)、(3)、(5)について、妊婦およびその配偶者(事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む)の理解が得られるように説明する。

(3) 確定診断としての侵襲を伴う検査(絨毛検査または羊水検査)を受けるか、または受けないかの方針決定については、十分な遺伝カウンセリング下での妊婦およびその配偶者(事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む)による決定を尊重する。

(4) 説明した内容、およびその後の方針につき、文書に記載し、文書による同意を得たうえで、同意文書を保管する。

(5) Ⅴ―1―1項に述べた産婦人科医師と小児科医師(および認定遺伝カウンセラーまたは遺伝看護専門職)は、当該妊婦の妊娠終了まで担当医と連携して当該妊婦の遺伝に関する相談に応じる。

(6) Ⅴ―1―1項に述べた産婦人科医師と小児科医師(および認定遺伝カウンセラーまたは遺伝看護専門職)は、当該妊婦の妊娠終了後も、当該妊婦の要望があれば、遺伝に関する相談に応じる。

Ⅴ―5 母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査を行う検査会社に求められる要件

母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査を担当する検査会社は、その会社独自の検査精度や精度管理の状況、感度や特異度について基礎データを検査実施施設に示し、検査の質を保証しなければならない。また、検体の輸送手段、取り違えの防止等のリスク管理についての具体的方法を呈示しなければならない。

この検査業務の遂行によって得られる個人情報、検査結果等についての秘密保持を徹底するとともに、検体は検査終了後速やかに廃棄し、他の検査や研究に利用してはならない。

本条項の順守のために、検査実施施設は検査会社との間に文書をもって契約を交わし、その文書を保管しなければならない。

Ⅵ 母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査に対する医師、検査会社の基本的姿勢

母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査の実施施設であるかないかに関わらず、すべての医師は母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査に対して次のような姿勢で臨んで差し支えない。

1.母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査について医師が妊婦に積極的に知らせる必要はない。ただし、妊婦が本検査に関する説明を求めた場合には、医師は本検査の原理をできる限り説明し、登録施設で受けることが可能であることを情報として提供することを要する。

2.医師は、母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査を妊婦に対して安易に勧めるべきではない。

また、検査会社等がこの検査を勧める文書などを作成し不特定多数の妊婦に配布することは望ましくない。

Ⅶ 認定登録制度の確立

第Ⅴ章に記載した各種要件を満たすために、母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査を実施する施設を認定し、登録する制度を発足させることが必要である。この、実施施設の認定・登録を行う委員会は、各施設から「実施施設」となることの申請を受け、その施設が母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査を行う施殻として第Ⅴ章に記載した各要件を満たしているか審査する。あわせて申請施設と検査会社(および代理店がある場合はその代理店)との間の契約書の写し、被検者に対する遺伝カウンセリングの際の説明文書の写しについて申請施設から提出を受け、検査会社(および代理店がある場合はその代理店)との契約が交わされていること、および被検者への説明文書が作成されていることを確認する。認定された各「実施施設」は、実施された母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査の結果、およびその妊娠の転帰について、認定・登録を行う委員会に報告しなければならない。また、この認定・登録を行う委員会は、認定された各「実施施設」に対して定期的に評価を行う体制を整え、実行する。

母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査が産婦人科領域を超えた社会的要素を内包した臨床診療手段であることを考慮し、上記の認定・登録の主体となる委員会は、日本産科婦人科学会だけでなく、関連する他の機関をもって構成されることが望ましい。

(附)指針の提示にあたって

本検査には倫理的に考慮されるべき点があること、試料を分析する検査会社がいまだ国内にはないこと、わが国独自の解析結果が存在しないことなどから、その実施は、まず臨床研究として、認定・登録された施設において、慎重に開始されるべきであります。当分の間、本検査実施施設の認定・登録については、臨床研究の形態をとったもののみを審査の対象といたします。

[別紙2]

平成25年3月9日

「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査」についての共同声明

社団法人 日本医師会

会長 横倉義武

日本医学会

会長 高久史麿

公益社団法人 日本産科婦人科学会

理事長 小西郁生

公益社団法人 日本産婦人科医会

会長 木下勝之

一般社団法人 日本人類遺伝学会

理事長 福嶋義光

「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査」については、平成24年8月末のメディア報道を契機に国民から大きな関心が寄せられ、日本産科婦人科学会の中に検討委員会が設置されました。同委員会には、日本小児科学会からの委員、日本人類遺伝学会からの委員、および法学・倫理の専門家も委員として加わり、有識者からの意見聴取を行うとともに、公開シンポジウムにより広く一般からの意見聴取も行いました。また、日本医師会および日本医学会でも本検査に関する会議がもたれました。このような議論を経て、平成24年12月15日、日本産科婦人科学会は「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査」指針(案)を提示しました。この指針(案)には、パブリックコメントとして、200通を超える貴重なご意見が寄せられました。日本産科婦人科学会ではこれらのご意見も取り入れ、平成25年3月9日、「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査」指針を確定しました。

このたび、日本医師会、日本医学会、日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会および日本人類遺伝学会は、「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査」について共同して下記の方針で臨むことにいたしました。

1.本検査には倫理的に考慮されるべき点のあること、試料を分析する検査会社が未だ国内にはないこと、わが国独自の解析経験とデータの蓄積が存在しないことなどから、その実施は、まず臨床研究として、認定・登録された施設において慎重に開始されるべきである。また、文部科学省、厚生労働省、経済産業省の定める「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」、および日本医学会の「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」に則って行われるべきである。

2.本検査を実施する施設の認定・登録は、日本医学会臨床部会運営委員会「遺伝子・健康・社会」検討委員会の下に設置する「母体血を用いた出生前遺伝学的検査」施設認定・登録部会で行う。本部会は、日本産科婦人科学会、日本小児科学会、日本人類遺伝学会からの委員および法学・倫理の専門家で構成される。

3.今後、出生前遺伝学的検査には、今回のような常染色体の数的異常に関する検査以外にも種々の遺伝学的検査が開発されることが予想される。このような検査を用いた出生前診断では、十分な遺伝カウンセリングが行われる体制の整備が必要であり、私たちは、わが国における遺伝カウンセリング体制のより一層の普及と充実のために努力する所存である。

4.日本医師会、日本医学会、日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会、日本人類遺伝学会の会員以外の、学術団体、医学研究機関、医療機関、臨床検査会社、遺伝子解析施設、遺伝子解析の仲介会社、健康関連企業、マスメディアなどにも、本指針の考え方を尊重するよう呼びかける。

[別紙3]

【周知先団体一覧】

全国保健所長会

公益社団法人日本助産師会

公益社団法人日本看護協会

全国保健師長会

社団法人日本衛生検査所協会

全国遺伝子医療部門連絡会議

NPO法人個人遺伝情報取扱協議会

計7団体