高バックグラウンド地域、核実験を対象とした疫学調査
番号 |
報告者 |
報告 |
対象 |
調査方法 |
対象者等 |
結果の概要 |
線量に関する情報 |
潜伏期間に関する情報 |
備考 |
20 |
Z.Taoら |
2000 |
高レベル自然放射線地域の住民 |
コホート |
【対象者数】 159,254例 対照群60,554例 【追跡期間】 1979―1995年 1,231,708人年 対照群:447,095人年 |
線量により3グループに分けて分析。 いずれのグループも胃がんのRRは1.0以下。 低、中、高レベルのRR:0.99、0.96、0.76 全グループのRR=0.91(95%CI:0.60―1.38)(70例) |
平均線量:6.4mSv/年 |
なし |
全死亡5,161例 うちがん死亡557例 |
21 |
S.L.Simonら |
2010 |
|
|
【対象者数】 【追跡期間】 |
マーシャル群島の核実験によるがんの発生予測 胃がん:全マーシャル群島でも自然発生570例(population size24,783人)に対して過剰発生は1948―2008年で3.1例、2009年以降に3.6例と予測される。 生涯の大腸がんの放射線の寄与リスクは南部環礁で0.47%(90%CI:0.069―1.3%)、中部環礁で1.9%(90%CI:0.26―5.7%)、Utrikで4.8%(90%CI:0.64―14%)、Rongelap等で48%(90%CI:11―73)と予測される。 |
外部被ばく 南部環礁住民:5―12mGy 中部環礁住民:22―59mGy 北部環礁住民:数100―1000mGy以上 内部被ばく(赤色骨髄及び胃壁) 南部環礁住民:1―7mGy 中部環礁住民:1―7mGy 北部環礁住民:20―500mGy以上 |
なし |
自然発生のがん10,600人に対して過剰発がんは170例で、うち65例は2008年以降に発生すると推定 |
「電離放射線障害の業務上外に関する検討会」報告書
食道がんと放射線被ばくに関する医学的知見について
平成24年9月
「電離放射線障害の業務上外に関する検討会」参集者名簿
○:座長
氏名 |
所属・役職・専門 |
明石 真言 |
独立行政法人放射線医学総合研究所 理事 放射線被ばく医療と生化学、血液学 |
草間 朋子 |
東京医療保健大学 副学長 放射線防護学 |
祖父江 友孝 |
大阪大学大学院医学系研究科 社会環境医学講座環境医学 教授 がん疫学 |
伴 信彦 |
東京医療保健大学 東が丘看護学部 教授 放射線影響・放射線防護 |
別所 正美 |
埼玉医科大学 学長 血液内科学 |
○米倉 義晴 |
独立行政法人放射線医学総合研究所 理事長 放射線医学 |
(五十音順)
食道がんと放射線被ばくに関する医学的知見について
第1 食道がんに関する文献レビュー結果
放射線被ばくによる食道がんについては、これまで種々の疫学調査が実施されていることから、「電離放射線障害の業務上外に関する検討会」は、医学文献のレビューを行った。
文献は、米国立医学図書館(the National Library of Medicine: NLM)が運営する文献検索システムPubMedを用い、キーワードとして放射線誘発がん(“neoplasms, radiation-induced”[MeSH])、食道(esophagus、esophageal、oesophagus、oesophageal)を用いて平成23年7月時点で検索、抽出された39編及び平成24年3月に追加した1編の計40編をレビューした。
放射線被ばくと食道がんに関する疫学調査は、
① 原爆被爆者を対象とした疫学調査
② 原子力施設等の放射線作業者を対象とした疫学調査
③ 放射線診療を受けた患者を対象とした疫学調査
④ 核実験場周辺地域の住民等を対象とした疫学調査
に大別される。
上記の文献のうち、主な結果の概要を以下に示す。なお、今回レビューした食道がんに関する文献一覧を別添1に、文献の概要を別添2に示す。
1 原爆被爆者を対象とした疫学調査
文献 No.1 寿命調査(Life Span Study: LSS)の最新の報告(K. Ozasaら、2012)
食道がんの過剰相対リスク(ERR)は、0.51/Gy(95%CI:0.11―1.06)であった。
なお、食道がんについて被ばく線量で区分したリスクの解析は行われていない。
文献 No.2 LSS対象集団のうち105,427人を1958年から1998年まで追跡した解析(D. L. Prestonら、2007)
LSS集団を対象とした解析であり、30歳で被ばくした者の70歳における食道がん発生のERRは0.52/Gy(90%CI:0.15―1.01)で、過剰絶対リスク(EAR)は0.58/10,000人年Gy(90%CI:0.18―1.1)であった。ERRに関して、直線的な線量反応関係が認められた。性・年齢による有意なリスクの変動は認められなかった。
なお、被ばく線量で区分したリスクの解析は行われていない。
文献 No.3 広島大学原爆放射線医科学研究所の対象集団51,532人を1968年から1997年まで追跡した疫学調査(T. Zhunussovaら、2003)
線量区分ごとのリスクを解析しており、食道がんによる死亡のERRは、1.0―1.99Sv群で0.98(95%CI:0.04―2.72)となり統計的に有意に上昇していた。また、観察期間内でERRに明らかな時間変化はみられなかった。
食道がんについては、被ばく時年齢20―29歳のERRが突出して高かった。
文献 No.5 LSS対象集団のうち、DS86サブコホート75,991人を1950年から1985年まで追跡した疫学調査(Y. Shimizuら、1991)
食道がんの1Gyにおける相対リスク(RR)は1.43(90%CI:1.09―1.91)、EARは0.34/104人年Gy(90%CI:0.08―0.67)であった。
文献 No.10 LSS対象集団のうち、79.736人を1950年から1974年まで追跡した疫学調査(G. W. Beebeら、1978)
食道がんの100rad以上群におけるRRは1.66、EARは0.19/106人年radで、有意な線量依存性がみられた(p=0.018)。食道がんの線量依存性が初めて有意になる時期は、1955―1958年であった。
2 放射線作業者を対象とした疫学調査
文献 No.11 原子力発電所作業者の疫学研究に関する論文11編を対象としたメタアナリシス(E. S. Parkら、2010)
食道がんの標準化死亡比(SMR)は0.71(95%CI:0.54―0.93)で、一般集団より有意に低かった。全がんのSMRは0.75(95%CI:0.62―0.90)であったが、調査集団の間に有意な異質性が認められた。
文献No.12 核実験への男性従事者10,983人を対象とした疫学調査(R. T. Gunら、2008)
核実験(1952―1957年)から2001年まで追跡した結果、食道がんの標準化罹患比(SIR)は1.48(95%CI:1.09―1.97)、SMRは1.21(95%CI:0.88―1.61)であった。1mSv未満のリスクが最も高く、線量依存性は認められなかった。
なお、対象者の96%は、被ばく線量が20mSv以下であった。
文献 No.14 原子力施設の男性作業者175,939人を対象とした疫学調査(T. Iwasakiら、2003)
食道がんのSMRは0.84(95%CI:0.68―1.02)で、有意な上昇は認められなかった。解析の対象を1991年から1997年(前向きコホート)に限定した場合、食道がんによる死亡に有意な線量依存性が認められた。
喫煙率が線量とともに上昇、高線量ほど飲酒量が多い傾向がみられ、アスベスト・有機溶剤等の作業歴も高線量群に多かった。
文献 No.15 医療機関のX線業務従事者を対象とした疫学調査(J. X. Wangら、2002)
1950年から1980年に医療機関でX線業務に従事した者27,011人と同一機関でX線業務に従事しなかった者25,782人を追跡した結果、X線作業従事群における食道がんのRRは2.65(p<0.05)で有意に上昇していたが、X線業務従事者群の方が低収入・低学歴で、対照群の食道がん発症率が一般集団よりもかなり低いことから、食道がんの上昇は放射線以外の要因によるものと考えられるとしている。
文献 No.16 原子力研究施設の白人労働者15,772人を対象とした疫学調査(L. D. Wiggsら、1994)
対象者(外部被ばくの他にプルトニウムの内部被ばくあり)を平均29年間追跡した結果、食道がんのSMRは0.8(95%CI:0.5―1.22)で、有意な上昇は認められなかった。食道がんによる死亡について、外部被ばく線量に対して有意な線量依存性が認められた(p=0.04)。
文献 No.17 Hanford、ORNL、Rocky Flatsのいずれかに6か月以上雇用されていた者を対象とした疫学調査(E. S. Gilbertら、1993)
Hanford32,643人、ORNL6,348人、RockyFlats5,952人を追跡した結果(追跡期間:Hanford1944―1986年、ORNL1943―1984年、Rocky Flats1952―1983年)、食道がんの死亡率に関して有意な線量依存性(p=0.015)が認められた。
なお、ORNLの作業者のリスクが高く、バイアスが存在する可能性があるとしている。
3 放射線診療を受けた患者を対象とした疫学調査
文献 No.20 乳がんの放射線治療後5年以上生存した女性患者を対象とした疫学調査(A. Berrington de Gonzalezら、2010)
米国地域のがん登録システム(Surveillance,Epidemiology,and End Results Program: SEER)のデータに基づき、1973年から2000年までに乳がんの診断を受けた患者182,057人を2005年まで追跡した結果、食道がんに関して、手術+放射線治療群の手術のみ群に対するRRは1.99(95%CI:1.37―2.88)であった。また、放射線治療による食道の総線量は1Gy以上であった。
文献 No.21 子宮内膜がんと診断され、放射線治療を受けた女性を対象とした疫学調査(A. P. Brownら、2010)
米国SEERデータに基づき、対象者69,739人を追跡(追跡期間の中央値11.2年)した結果、食道がんのSIRは0.58(99%CI:0.37―0.86)で、有意な上昇は認められなかった。放射線治療の有無に着目した場合、放射線治療群のSIRは0.57(99%CI:0.27―1.05)、非放射線治療群のSIRは0.58(99%CI:0.32―0.96)であり、有意な上昇は認められなかった。
文献 No.22 1981年から1997年までに乳がんの治療を受けた女性16,075人を対象とした疫学調査(Y. M. Kirovaら、2009)
放射線治療群の非放射線治療群に対する食道がんのRRは0.76(95%CI:0.54―1.07)で有意な上昇は認められなかった。
放射線治療群13,472人中5人に食道がんが発生し、その被ばく線量は1人が2Gy、1人が0.5Gy、他の3人は0.5Gy未満であった。
食道がんのうち1例は治療後0.2か月で発症していた。他の4例は治療後3―14.3年で発症していた。
食道がん5例は全員が喫煙者で飲酒習慣があり、治療後0.2か月で発症した症例は慢性食道炎の既往があったことから、放射線よりもこれらの影響が大きいと結論づけられている。
文献 No.23 1953年から2000年までに乳がんと診断され、放射線治療を受けた患者を対象とした疫学調査(E. K. Salminenら、2006)
対象者75,489人を2000年末まで追跡した結果、SIRは放射線治療群が1.3(95%CI:0.9―1.7)、手術のみ群が0.8(95%CI:0.6―1.2)であった。
乳がんの診断後15年以上経過した者については、放射線治療群のSIRが有意に上昇していた。
文献 No.24 非小細胞肺がんで化学放射線療法を受けた患者を対象とした疫学調査(T. Kawaguchiら、2006)
1985年から1995年までにステージⅢの非小細胞肺がんで化学放射線療法を受けた患者のうち、治療後3年間異常がなかった者62人を3.1―12.2年追跡した結果、62人のうち9人が二次がんを発症した。
食道がんはそのうち1例で、O/Eは8.6(95%CI:0.1―47.7)であった。当該食道がんは治療から6.3年後に発症していた。
文献 No.25 口腔がん(SCC:扁平上皮癌)で放射線治療を受けた患者を対象とした疫学調査(M. Hashibeら)
米国SEERデータに基づき、放射線治療から6か月以降に発症した二次がんを対象に30,221人について追跡した結果、放射線治療群の非放射線治療群に対する食道がんのRRは1.9(95%CI:1.3―2.8)で、有意な上昇が認められた。
また、放射線治療群における食道がんのRRは、治療後5年以降、有意な上昇が認められた。
文献 No.26 1973年から2000年の浸潤・非転移性乳がん患者で6ヵ月以上生存した患者を対象とした疫学調査(L. B. Zablotskaら、2005)
対象者244,624人を2000年末まで追跡した結果、乳房手術+放射線治療群において、食道がん(SCC)のRRが、治療後5―9年で2.83(95%CI:1.35―5.92)、10年以上で2.17(95%CI:1.67―4.02)であり、治療後5年以降有意に上昇していた。
がんの発生部位としては、食道上部が有意に多かった。
文献 No.27 乳がんで放射線治療を受けた患者を対象とした疫学調査(R. Roychoudhuriら、2004)
1961年から2000年までに乳がんと診断され、手術・放射線治療以外の治療を受けていない女性患者64,782人を追跡した結果、放射線治療群の非放射線治療群に対する食道がんのRRは、乳がんの診断から15年以降に2.19(95%CI:1.10―4.62)となり有意な上昇が認められた。
文献 No.28 乳がんの放射線治療後に発生した食道がんに関する症例報告(B. Schhollら、2001)
1985―1993年に治療を受けた食道がん118例のうち、9例が女性で、そのうちの5例が乳がん治療後に発症していた。乳がん(標的)の総線量は36―60Gyで、放射線治療から食道がん発生までの期間は13―31年(平均18.5年)であった。
喫煙量は1年間に0―50箱(平均27箱)であった。また、3名に飲酒習慣があった。
文献 No.29 放射線治療による二次性頭頸部がんに関する症例報告(H. Miyaharaら、1998)
原疾患が良性疾患であった48名に69例の二次がんが発生し、うち8例が頚部食道がんであった。原疾患が悪性腫瘍であった17名に18例の二次がんが発生し、うち5例が頚部食道がんであった。
原疾患が良性であった8例の平均潜伏期間は34.9年、原疾患が悪性であった5例の平均潜伏期間は12.3年であった。
文献 No.30 1973年から1993年までに乳がんと診断された女性患者を対象とした疫学調査(H. Ahsanら、1998)
220,806人を対象として追跡した結果、一般集団に対する食道がんのRRは1.54(95%CI:1.27―1.84)で、有意な上昇が認められた。
放射線治療群における食道がん(SCC)のRR(一般集団に対する比)は、追跡期間10年以上で有意な上昇が認められた。また、腺がんのRRは、放射線治療の有無に関係なく、追跡期間3か月―5年で有意に上昇していた。
文献 No.31 強直性脊椎炎で放射線治療を受けた患者を対象とした疫学調査(H. A. Weissら、1994)
1935年から1957年までに強直性脊椎炎の治療を受けた患者(放射線治療照射群14,109人、非照射群855人)を治療5年後から1991年まで追跡した結果、放射線治療群における食道がんによる死亡のRR(一般集団に対する比)は1.94(95%CI:1.53―2.42)、ERRは0.17/Gy(95%CI:0.09―0.25)でともに有意な上昇が認められた。また、食道の線量は平均5.55Gyであった。
放射線治療群における食道がんのRRは照射後5―24.9年と25年以降で差はなかった。
文献 No.32 肺結核と診断され、肺虚脱療法に伴い頻回のX線照射を受けた患者を対象とした疫学調査(F. G. Davisら、1989)
13,385人を平均25年間追跡した結果、X線照射群において、食道がんのSMRは2.1(95%CI:1.2―3.6)で有意な上昇が認められた。線量依存性は有意ではなかった(p=0.25)。
追跡期間を10年ごとに分割した場合、いずれの区間においてもSMRの有意な上昇は認められなかった。
なお、照射群の食道がんは全例が喫煙者で、飲酒者のSMRが2.3(95%CI:0.5―5.0)であり有意な上昇が認められた。
文献 No.33 強直性脊椎炎で放射線治療を受けた患者を対象とした疫学調査(S. C. Darbyら、1987)
1953年から1954年までに強直性脊椎炎のためX線照射を受けた患者14,106人を追跡した結果、照射後5年以降の食道がんによる死亡のO/E(一般集団に対する比)は2.20(p<0.001)で有意な上昇が認められた。
食道線量は5Gy程度で、照射後5.0―24.9年、25.0年以降とも、食道がんのリスクは有意に上昇していた。
文献 No.34 良性疾患に対する放射線治療後の二次がんに関する調査(Y. Nishimuraら、1987)
病院に対するアンケート調査を行った結果、過去5年間に各施設で経験した二次がん症例は236例あり、うち23例が食道がんであった。食道がん23例の潜伏期間は20―56年(平均35.8年)であった。また、二次がん発生率の推定値は0.9%であった。
文献 No.35 1935年から1982年までに乳がんと診断された女性患者を対象とした疫学調査(E. B. Harveyら、1985年)
対象者41,109人を平均6.6年間追跡した結果、食道がんのRR(一般集団に対する比)は放射線治療群で1.7、非放射線治療群0.7であった。
放射線治療とがんのリスクの上昇との関係については、化学療法の影響等もあり、決定的なことはいえないとしている。
文献 No.37 頭頸部の重複がんと放射線誘発がんの症例報告(H. Shibuya、1984)
重複がん症例192例のうち、食道がんは25例であり、良性疾患に対する治療後に生じた放射線誘発がん16例のうち、食道がんは2例であった。良性疾患治療後の放射線誘発がん(食道以外も含む)の潜伏期間は30±16年であった。
また、重複がんのうち何例が放射線による二次がんであるかは不明であった。
4 核実験場周辺地域の住民を対象とした疫学調査
文献 No.38 セミパラチンスク核実験場の周辺住民を対象とした疫学調査(S. Bauerら、2005)
被ばく群9,850人、対照群9,604人を1960年から1999年まで追跡した結果、食道がんのRRは3.29(95%CI:2.57―4.24)で有意な上昇が認められた。また、ERRは、対照群を含む全コホートに対して2.37/Sv(95%CI:1.47―3.63)、被ばく群に対して0.18/Sv(95%CI:-0.99―0.66)であった。
対照群を含めた場合、男女とも有意な線量依存性が認められた。被ばく群内での線量依存性は女性のみが有意であった。
全固形がんのうち、食道がんが36%を占めていた。
文献 No.39 セミパラチンスク核実験場周辺の汚染地域住民を対象とした疫学調査(B. I. Gusevら、1998)
汚染地域住民9,900人、非汚染地域住民101,125人を1956年から1994年まで追跡し、がんの罹患率を5年毎に解析した結果、食道がんのリスクは1965年にのみ有意に上昇していた(RR=2.76、p=0.045)
平均線量は、汚染地域住民が2,000mSv、非汚染地域住民が70mSvであった。
文献 No.40 原爆被爆者に関する調査と強直性脊椎炎患者に関する調査を比較した研究(S. C. Darbyら、1985)
強直性脊椎炎患者について、食道がんの一般集団に対するRRは2.04(90%CI:1.11―3.46)で有意な上昇が認められた。原爆被爆者について、100rad以上群の0―9rad群に対するRRは1.68(90%CI:1.07―2.64)で有意な上昇が認められたが、EARは4.13/105人年(90%CI:-0.53―8.79)で、有意な上昇は認められなかった。
両者を合わせた場合、RRは1.82(90%CI:1.29―2.57)、EARは4.54/105人年(90%CI:1.09―7.99)で、いずれも有意な上昇が認められた。
第2 文献レビュー結果のまとめ
1 被ばく線量に関するまとめ
(1) 今回レビューした文献について
① 食道がんの発症あるいは死亡が統計的に有意に増加する最小被ばく線量について直接的にふれているのは、文献 No.3であり、1Gy以上の被ばく群で食道がんのリスクの有意な増加が認められたとしている。
なお、この文献においては、1Gyより低い被ばく線量における食道がんのリスクは、対照群と有意な差があるとは言えないとしているが、「統計的に有意な差がない」という結果は、差があっても偶然生じるばらつきに隠れて検出できない場合もありうるもので、必ずしも「全く差がない」ことを意味していない。
② LSSの解析(文献 NO.2)では、ERRに関して0―2Gy(DS02)の範囲で直線的な線量反応関係(p<0.001)が認められているが、被ばく線量で区分したリスクの解析は行われておらず、1Gy未満の被ばくでのリスクは不明である。
③ 上記①、②で言及した以外の疫学調査では、食道がんの発症が統計的に有意に増加する最小被ばく線量の検討は行われていない。
(2) 以上のことから、より小さな影響を調べるためには、食道がんに限定した解析の結果に加え、統計的検出力の高い全固形がんに関する解析に着目して、リスクが有意に増加する被ばく線量を確認することに意義があると考えられる。
2 潜伏期間に関するまとめ
0.5Gy以下の被ばく線量で食道がんを発症した事例もあるが、放射線よりも喫煙や飲酒の影響が大きいと結論づけられている(文献 No.22)。喫煙や飲酒の影響が大きいとする報告を除けば、発症までの最小潜伏期間は5~9年とされている(文献 No.24、No.25、No.26)。
第3 全固形がんに関する文献レビューの結果
放射線被ばくと全固形がんの関連については、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)や、UNSCEAR等の種々の知見に基づいて放射線防護に関する勧告を行っている国際放射線防護委員会(ICRP)が系統的なレビューを行っている。UNSCEAR及びICRPは、これらの結果を踏まえ、数年ごとに報告書を取りまとめており、その報告内容が全固形がんの情報として最も重要である。
一方、国内では、食品安全委員会が行った食品中に含まれる放射性物質に係る食品健康影響評価(平成23年10月。以下、「食品安全委員会の評価結果」という。)において、疫学調査の系統的なレビューが行われていることから、その結果も参考となると考えられる。
これらを整理すると以下のとおりとなる。
1 全固形がんの有意なリスク増加が認められる最小被ばく線量
UNSCEARは、2006年及び2010年に報告書を取りまとめており、2006年報告書を要約したものとして発表された2010年報告書では、固形がんについて「100から200mGy以上において、統計的に有意なリスクの上昇が観察される。」と述べている。
100mSv未満の被ばくによるがんのリスクの増加については、ICRPが、2007年勧告で「がんリスクの推定に用いる疫学的研究方法は、およそ100mSvまでの線量範囲でのがんのリスクを直接明らかにする力を持たないという一般的な合意がある。」としている。
一方、食品安全委員会の評価結果では、多数の疫学調査を検討した上で、「食品安全委員会が検討した範囲においては、放射線による影響が見いだされているのは、通常の一般生活において受ける放射線量を除いた生涯における累積の実効線量として、おおよそ100mSv以上と判断した。」「100mSv未満の線量における放射線の健康影響については、疫学研究で健康影響がみられたとの報告はあるが、信頼のおけるデータと判断することは困難であった。種々の要因により、低線量の放射線による健康影響を疫学調査で検証し得ていない可能性を否定することもできず、追加の累積線量として100mSv未満の健康影響について言及することは現在得られている知見からは困難であった。」とされている。
2 放射線誘発がんの最小潜伏期間
ICRPの1990年勧告(publication. 60)では、「ヒトでは放射線被ばくとがんの認知とのあいだの期間は多くの年月にわたって続く。この期間は潜伏期と呼ばれる。潜伏期の中央値は誘発白血病の場合約8年、乳がんと肺がんのような多くの誘発固形がんの場合はその2倍から3倍のようである。最小潜伏期は、被ばく後に特定の放射線誘発がんの発生がわかっているかまたは起こったと信じられる最短の期間である。この最小潜伏期は、急性骨髄性白血病については約2年であり、他のがんについては5から10年のオーダーである。」とされている。
第4 食道がんのリスクファクター
がんの主な原因は生活習慣や慢性感染であり、年齢とともにリスクが高まるが、食道がんでは、喫煙、飲酒、熱い飲食物、野菜・果物不足がリスクファクターとして知られている(注)。
(注)参考文献
1 International Agency for Research on Cancer. IARC Monographs on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans, Vol. 1-100, 1987-2011. Lyon, France.
2 World Cancer Research Fund/American Institute for Cancer Research. Food, Nutrition, Physical Activity, and the Prevention of Cancer: A Global Perspective. Washington, DC: AICR 2007.
3 International Agency for Research on Cancer. IARC Handbooks for Cancer Prevention, Vol. 1-13. Lyon, France.
第5 結論
上記の文献レビュー等の結果によれば、食道がんと放射線被ばくに関する現時点の医学的知見について、以下のとおり取りまとめることができる。
① 被ばく線量について
食道がんに関する個別の文献のうち、発症あるいは死亡が統計的に有意に増加する最小被ばく線量について直接的にふれた文献では、1Gy以上の被ばく群でリスクの有意な上昇が認められたとしている。なお、この文献では、食道がんに関しては1Gy未満では統計的に有意な差があるとは言えないとしているが、統計的な検出力を考えると、このことは必ずしも「全く差がない」ことを意味するものではない。
一方、食道がんを含む全固形がんを対象とした文献レビューでは、被ばく線量が100から200mSv以上において統計的に有意なリスクの上昇は認められるものの、100mSv未満での健康影響について言及することは困難であるとされている。
② 潜伏期間について
食道がんに関する個別の文献では、短いもので被ばくから5年以降で発症リスクの有意な増加が認められている。
統計的検出力の高い全固形がんを対象とした文献レビューでは、全固形がんの最小潜伏期間は5から10年程度であるとしている。
③ 放射線被ばく以外のリスクファクター
食道がんには、放射線被ばく以外に、喫煙、飲酒、熱い飲食物、野菜・果物不足がリスクファクターとして知られている。
[別添1]
食道がんに関する文献一覧
1. K. Ozasa et al. Studies of the mortality of Atomic Bomb Survivors, Report 14, 1950-2003: An Overview of Cancer and Noncancer Diseases. Radiat Res. 2012 Mar; 177(3): 229-43.
2. D. L. Preston et al. Solid cancer incidence in atomic bomb survivors: 1958-1998. Radiat Res. 2007 Jul; 168(1): 1-64.
3. T. Zhunussova et al. Analysis of cancer mortality among atomic bomb survivors in Hiroshima Prefecture, 1968-1997. Hiroshima J Med Sci. 2003 Mar; 52(1): 1-7.
4. Y. Shimizu et al. Risk of cancer among atomic bomb survivors. J Radiat Res (Tokyo). 1991 Dec; 32 Suppl 2: 54-63.
5. Y. Shimizu et al. Mortality among atomic bomb survivors. J Radiat Res (Tokyo). 1991 Mar; 32 Suppl: 212-30.
6. Y. Shimizu et al. Studies of the mortality of A-bomb survivors. 9. Mortality, 1950-1985: Part 2. Cancer mortality based on the recently revised doses (DS86). Radiat Res. 1990 Feb; 121(2): 120-41.
7. D. L. Preston et al. Studies of the mortality of A-bomb survivors. 8. Cancer mortality, 1950-1982. Radiat Res. 1987 Jul; 111(1): 151-78.
8. H. Kato. Radiation-induced cancer and its modifying factor among A-bomb survivors. Princess Takamatsu Symp. 1987; 18: 117-24.
9. T. Wakabayashi et al. Studies of the mortality of A-bomb survivors, report 7. Part Ⅲ. incidence of cancer in 1959-1978, based on the tumor registry, Nagasaki. Radiat Res. 1983 Jan; 93(1): 112-46.
10. G. W. Beebe et al. Studies of the mortality of A-bomb survivors: 6. mortality and radiation dose, 1950-1974. Radiat Res. 1978 Jul; 75(1): 138-201.
11. E. S. Park et al. Radiation exposure and cancermortality among nuclear power plant workers: a meta-analysis. J Prev Med Public Health. 2010 Mar; 43(2): 185-92.
12. R. T. Gun et al. Mortality and cancer incidence of Australian participants in the British nuclear tests in Australia. Occup Environ Med. 2008 Dec; 65(12): 843-8.
13. J. X. Wang et al. Cancer risk assessment among medical X-ray workers in China. Zhongguo Yi Xue Ke Xue Yuan Xue Bao. 2001 Feb; 23(1): 65-8, 72.
14. T. Iwasaki et al. Second analysis of mortality of nuclear industry workers in Japan, 1986-1997. Radiat Res. 2003 Feb; 159(2): 228-38.
15. J. X. Wang et al. Cancer incidence and risk estimation among medical x-ray workers in China, 1950-1995. Health Phys. 2002 Apr; 82(4): 455-66.
16. L. D. Wiggs et al. Mortality through 1990 among white male workers at the Los Alamos National Laboratory: considering exposures to plutonium and external ionizing radiation. Health Phys. 1994 Dec; 67(6): 577-88.
17. E. S. Gilbert et al. Updated analyses of combined mortality data for workers at the Hanford Site, Oak Ridge National Laboratory, and Rocky FlatsWeapons Plant. Radiat Res. 1993 Dec; 136(3): 408-21.
18. J. X. Wang et al. Cancer incidence among medical diagnostic X-ray workers in China, 1950 to 1985. Int J Cancer. 1990 May 15; 45(5): 889-95.
19. J. X. Wang et al. Cancer among medical diagnostic x-ray workers in China. J Natl Cancer Inst. 1988 May 4; 80(5): 344-50.
20. A. Berrington de Gonzalez et al. Second solid cancers after radiotherapy for breast cancer in SEER cancer registries. Br J Cancer. 2010 Jan 5; 102(1): 220-6.
21. A. P. Brown et al. A population-based study of subsequent primary malignancies after endometrial cancer : genetic, environmental, and treatment-related associations. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2010 Sep 1; 78(1): 127-35.
22. Y. M. Kirova et al. Can we consider always an esophageal carcinoma as radiation associated cancerafter irradiation for breast cancer? Am J Clin Oncol. 2009 Apr; 32(2): 197-9.
23. E. K. Salminen et al. Impact of radiotherapy in the risk of esophageal cancer as subsequent primary cancer after breast cancer. Int JRadiat Oncol Biol Phys. 2006 Jul 1; 65(3): 699-704.
24. T. Kawaguchi et al. Second primary cancers in patients with stage Ⅲ non-small cell lung cancer successfully treated with chemo-radiotherapy. Jpn J Clin Oncol. 2006 Jan; 36(1): 7-11.
25. M. Hashibe et al. Radiotherapy for oral cancer as a risk factor for second primary cancers. Cancer Lett. 2005 Apr 8; 220(2): 185-95.
26. L. B. Zablotska et al. Increased risk of squamous cell esophageal cancer after adjuvant radiation therapy for primary breast cancer. Am J Epidemiol. 2005 Feb 15; 161(4): 330-7.
27. R. Roychoudhuri et al. Radiation-induced malignancies following radiotherapy for breast cancer. Br J Cancer. 2004 Aug 31; 91(5): 868-72.
28. B. Scholl et al. Esophageal cancer as second primary tumor after breast cancer radiotherapy. Am J Surg. 2001 Nov; 182(5): 476-80.
29. H. Miyahara et al. Radiation-induced cancers of the head and neck region. Acta Otolaryngol Suppl. 1998; 533: 60-4.
30. H. Ahsan et al. Radiation therapy for breast cancer and increased risk for esophageal carcinoma. Ann Intern Med. 1998 Jan 15; 128(2): 114-7.
31. H. A. Weiss et al. Cancer mortality following X-ray treatment for ankylosing spondylitis. Int J Cancer. 1994 Nov 1; 59(3): 327-38.
32. F. G. Davis et al. Cancer mortality in a radiation-exposed cohort of Massachusetts tuberculosis patients. Cancer Res. 1989 Nov 1; 49(21): 6130-6.
33. S. C. Darby et al. Long term mortality after a single treatment course with X-rays in patients treated for ankylosing spondylitis. Br J Cancer. 1987 Feb; 55(2): 179-90.
34. Y. Nishimura et al. Radiation-induced cancers following radiotherapy of benign diseases: the second mail survey in Japan. Gan To Kagaku Ryoho. 1986 Apr; 13(4 Pt 2): 1492-8.
35. E. B. Harvey et al. Second cancer following cancer of the breast in Connecticut, 1935-82. Natl Cancer Inst Monogr. 1985 Dec; 68: 99-112.
36. B. Bergstr画像1 (1KB)
m et al. Late complications after irradiation treatment for cervical adenitis in childhood. A 60-year follow-up study. Acta Otolaryngol. 1985 Jul-Aug; 100(1-2): 151-60.
37. Shibuya H. Radiation associated cancers among head and neck cancer patients. Gan No Rinsho. 1984 Sep; 30(12 Suppl): 1570-7.
38. S. Bauer et al. Radiation exposure due to local fallout from Soviet atmospheric nuclear weapons testing in Kazakhstan: solid cancer mortality in the Semipalatinsk historical cohort, 1960-1999. Radiat Res. 2005 Oct; 164(4 Pt 1): 409-19.
39. B. I. Gusev et al. The Semipalatinsk nuclear test site: a first analysis of solid cancer incidence (selected sites) due to test-related radiation. Radiat Environ Biophys. 1998 Oct; 37(3): 209-14.
40. S. C. Darby et al. A parallel analysis of cancer mortality among atomic bomb survivors and patients with ankylosing spondylitis given X-ray therapy. J Natl Cancer Inst. 1985 Jul; 75(1): 1-21.
[別添2]
食道がんに関する疫学調査の概要
原爆被爆者を対象とした疫学調査
番号 |
報告者 |
報告年 |
対象 |
調査方法 |
対象者等 |
結果の概要 |
線量に関する情報 |
潜伏期間に関する情報 |
備考 |
1 |
K.Ozasaら |
2012 |
原爆被爆者 |
コホート |
【対象者数】 LSS(がん死亡) 86,611人 【追跡期間】 1950―2003年 |
男女を平均した食道がんのERRは、0.51(95%CI:0.11―1.06)。 |
なし |
なし |
全固形がんについて、全線量域でみた場合、ERRに関して直線的な線量反応関係が適合する。 全固形がんについて、ERRの統計的に有意な上昇が観察される最低線量域は、0―0.2Gy。 しきい値の最良推定値は0Gy(しきい値)で、95%上側信頼限界は0.15Gy。 |
2 |
D.L.Prestonら |
2007 |
原爆被爆者 |
コホート |
【対象者数】 LSS(がん罹患) 105,427人 【追跡期間】 1958―1998年 (2,764,732人年) |
食道がんのERRは、0.52/Gy(90%CI:0.15―1.01)。EARは0.58/10,000人年Gy(90%CI:0.18―1.1)。性・年齢による有意なリスクの変動は認められない。 |
直線的な線量反応関係が有意。 |
なし |
全固形がんのERRについて0―2Gyの範囲で直線的な線量反応関係。しきい値モデルを仮定した場合、しきい値の90%上側信頼限界は0.085Gy。 |
3 |
T.Zhunussovaら |
2003 |
原爆被爆者 |
コホート |
【対象者数】 広大原医研コホート51,532人 【追跡期間】 1968―1997年 |
食道がんの1SvにおけるERRは0.16(95%CI:―0.15―0.46)。 |
食道がんによる死亡のERRは、1.0―1.99Sv群で0.98(95%CI:0.04―2.72)となり有意。 |
観察期間内でERRに明らかな時間変化は見られない。 |
食道がんについては、被ばく時年齢20―29歳のERRが突出して高い。 |
4 |
Y.Shimizuら |
1991 |
原爆被爆者 |
コホート |
【対象者数】 LSS(紹介記事であり詳細な人数の情報はない) 【追跡期間】 1950―1985年 |
食道がんの1GyにおけるRRが有意に上昇していることが示されているが、それ以上の情報はない。 |
なし |
なし |
白血病を除く全がんについては、ERRの有意な上昇が見られる最低線量は0.20―0.49Gy。また、1956―60を除いて、ERRが有意に上昇。 |
5 |
Y.Shimizuら |
1991 |
原爆被爆者 |
コホート |
【対象者数】 LSS(DS86サブコホート)75,991人 【追跡期間】 1950―1985年 |
食道がんの1GyにおけるRRは1.43(90%CI:1.09―1.91)、EARは0.34/104人年Gy(90%CI:0.08―0.67)。 |
なし |
なし |
白血病を除く全がんについてERRの有意な上昇が見られる最低線量は0.20―0.49Gy。最小潜伏期間は10―15年。 |
6 |
Y.Shimizuら |
1990 |
原爆被爆者 |
コホート |
【対象者数】 LSS(DS86サブコホート)75,991人 【追跡期間】 1950―1985年 |
遮蔽カーマに対して、食道がんの1GyにおけるRRは1.43(90%CI:1.09―1.91)、EARは0.34/104人年Gy(90%CI:0.08―0.67)。臓器吸収線量に対しては、RRat1Gyが1.58(90%CI:1.13―2.24)、EARが0.45/104人年Gy(90%CI:0.10―0.88)。 |
なし |
1956―1960と1961―1965に、RRの有意な上昇が見られる。 |
白血病を除く全がんについては、ERRの有意な上昇が見られる最低線量は0.20―0.49Gy。また、1956―60を除いて、RRが有意に上昇。 |
7 |
D.L.Prestonら |
1987 |
原爆被爆者 |
コホート |
【対象者数】 LSS―E85(がん死亡)91,231人 【追跡期間】 1950―1982年 |
食道がんの1GyにおけるRRは1.23(90%CI:1.02―1.52)、EARは0.17/104人年Gy(90%CI:0.02―0.36)。 |
線量依存性が有意(p=0.03)。 |
観察期間内でRRに明らかな時間変化は見られない。 |
白血病を除く全がんのRRat 1Gyは1.17、EARは3.88/104人年Gy。 |
8 |
H.Kato |
1988 |
原爆被爆者 |
コホート |
【対象者数】 LSS(紹介記事であり詳細な人数の情報はない) 【追跡期間】 1950―1985年 |
食道がんのRRat1Gyは1.43(90%CI:1.09―1.92)、EARは0.34/104人年Gy(90%CI:0.08―0.67)。 |
直線的な線量反応関係が有意(p=0.02)。 |
なし |
白血病を除く全がんのRRat 1Gyは1.30、EARは7.49/104人年Gy。 最小潜伏期間は10―15年。 |
9 |
T.Wakabayashiら |
1983 |
原爆被爆者 |
コホート |
【対象者数】 LSS(長崎腫瘍登録)17,936人 【追跡期間】 1959―1978年(319,803人年) |
食道がんのEARは-0.07/106人年rad(90%CI:-0.38―0.23)、100rad以上群におけるRRは1.15(90%CI:0.34―2.33)。 |
線量依存性は有意ではない(p=0.654)。 |
なし |
全がんのEAR、100rad以上群におけるRRともに有意。 白血病を除く全がんについて、直線的な線量反応関係。 |
10 |
G.W.Beebeら |
1978 |
原爆被爆者 |
コホート |
【対象者数】 LSS79,736人 【追跡期間】 1950―1974年 |
食道がんの100rad以上群におけるRRは1.66、EARは0.19/106人年rad。 |
線量依存性が有意(p=0.018)。 |
食道がんの線量依存性が初めて有意になる時期は、1955―1958年。 |
白血病を除く全がんの100rad以上群におけるRRは1.29、EARは2.21/106人年radで、いずれも有意。 |
放射線作業者を対象とした疫学調査
番号 |
報告者 |
報告年 |
対象 |
調査方法 |
対象者等 |
結果の概要 |
線量に関する情報 |
潜伏期間に関する情報 |
備考 |
11 |
E.S.Parkら |
2010 |
原子力発電所作業者の疫学研究に関する論文11編 |
文献のメタアナリシス |
【対象者数】 計361,978人 【追跡期間】 1946―1999年(論文ごとに異なる) |
食道がんのSMRは0.71(95%CI:0.54―0.93)で、一般集団より有意に低。 |
なし |
なし |
全がんのSMRは0.75(95%CI:0.62―0.90)であったが、調査間に有意な異質性が認められた。 |
12 |
R.T.Gunら |
2008 |
核実験への男性従事者 |
コホート |
【対象者数】 10,983人 【追跡期間】 核実験(1952―1957年)~2001年 発がんに関するデータは1982年以降 |
食道がんのSIRは1.48(95%CI:1.09―1.97)、SMRは1.21(95%CI:0.88―1.61)。1mSv未満のリスクが最も高く、線量依存性は見られない。 |
なし |
なし |
対象者の96%が、線量が20mSv以下。 |
13 |
J.X.Wangら |
2001 |
医療機関のX線業務従事者 |
コホート |
【対象者数】 1950―1980年に医療機関でX線業務に従事した者27,011人と同一機関でX線業務に従事しなかった者25,782人 【追跡期間】 X線業務従事群694,886人年、非従事群768,652人年 |
X線作業従事群における食道がんのRRは2.7(p<0.05)。 |
就業時期によって、早期、中期、後期の三つに分け、平均線量はそれぞれ758、279、82mGyであるが、食道がんのRRは早期(3.10)>後期(2.49)>中期(2.09)の順で、線量レベルと一致しない。 |
なし |
全がんのRRは1.2(95%CI:1.1―1.3)。 |
14 |
T.Iwasakiら |
2003 |
原子力施設の男性作業者 |
コホート |
【対象者数】 約175,939人 【追跡期間】 平均7.9年 |
食道がんのSMRは0.84(95%CI:0.68―1.02)。 |
1991―1997年(前向きコホート)に限定した場合、有意な線量依存性。 |
なし |
白血病を除く全がんの線量依存性は有意ではない。喫煙率が線量とともに増加し、高線量ほど飲酒量が多い傾向。アスベスト・有機溶剤等の作業歴も高線量群に多い。 |
15 |
J.X.Wangら |
2002 |
No.12に同じ |
コホート |
【対象者数】 No.12に同じ 【追跡期間】 No.12に同じ |
食道がんのRRは2.65(p<0.05)。 |
1969年までに雇用された者は平均線量551mGyでRRが2.72(p<0.05)。1970―1980年に雇用された者は平均線量82mGyでRRが2.49(p<0.05)。 |
なし |
食道がんの増加は放射線以外の要因によると考えられる(X線業務従事群の方が低収入・低学歴。対照群の食道がん発症率は一般集団よりもかなり低い)。 |
16 |
L.D.Wiggsら |
1994 |
原子力研究施設の白人労働者(外部被ばくの他にPuの内部被ばくあり) |
コホート |
【対象者数】 15,7272人 【追跡期間】 456,637人年(平均29年) |
食道がんのSMRは80(95%CI:50―122)。 |
外部被ばく線量に対して有意な線量依存性(p=0.04)。 |
なし |
全がんの線量依存性は有意ではない。 |
17 |
E.S.Gilbertら |
1993 |
Hanford,ORNL,Rocky Flatsのいずれかに6か月以上雇用されていた者 |
コホート |
【対象者数】 Hanford 32,643人、ORNL 6,348人、Rocky Flats 5,952人 【追跡期間】 Hanford 1944―1986年(633,511人年)、ORNL 1943―1984年(138,322人年)、Rocky Flats 1952―1983年(81,237人年) |
食道がんの死亡率に関して有意な線量依存性。 |
線量依存性が有意(p=0.015)。 |
なし |
全がんの線量依存性は有意ではない。ORNLの作業者のリスクが高く、バイアスが存在する可能性。 |
18 |
J.X.Wangら |
1990 |
No.12に同じ |
コホート |
【対象者数】 No.12に同じ 【追跡期間】 1950―1985(X線業務従事群434,540人年、非従事群522,546人年) |
X線作業従事群における食道がんのRRは5.2(95%CI:1.9―12.7)。 |
雇用期間の増加に伴うRRの上昇は認められない。 |
なし |
全がんのRRは1.21(95%CI:1.08―1.35)。食道がんは男性のみに発生しており、両群の間で放射線以外の要因に差がある可能性。 |
19 |
J.X.Wangら |
1988 |
No.12に同じ |
コホート |
【対象者数】 No.12に同じ 【追跡期間】 1950―1980年 |
X線作業従事群における食道がんのRRは3.49(p<0.05)。 |
雇用期間の増加に伴うRRの上昇は認められない。 |
なし |
全がんのRRは1.50(95%CI:1.3―1.7)。食道がんに関しては、X線作業従事群と非従事群の間で、放射線以外の要因に差がある可能性。 |