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○労災補償業務の運営に当たって留意すべき事項について

(平成25年2月26日)

(基労発0226第1号)

(都道府県労働局長あて厚生労働省労働基準局労災補償部長通知)

(公印省略)

[5年保存]

平成25年度における労災補償業務の運営に当たっては、特に下記に示したところに留意の上、実効ある行政の展開に遺憾なきを期されたい。

第1 労災補償行政を巡る状況への対応と職員の基本姿勢

1 労災補償行政を巡る状況への対応

精神障害事案に係る労災請求件数は3年連続で過去最高を更新しており、脳・心臓疾患事案及び石綿関連疾患事案に係る労災請求件数についても高水準で推移している。また、業務により胆管がんを発症したとして印刷事業場の労働者等から労災請求がなされたことがマスコミに大きく取り上げられていることからも、労災補償行政に対する国民の期待や関心は従前に増して高まっている。

近年、都道府県労働局(以下「局」という。)においては、厳しい定員状況のほか、採用抑制の情勢や行政経費に係る予算の縮減等が続く中、長期未決事案の早期解消、懇切・丁寧な窓口対応の推進等について、組織的な取組が着実に浸透しつつあり、概ね良好な運営が確保されているところであるが、引き続き、労災補償行政を巡る状況の変化に即応した業務運営の改善及び推進が不可欠となっている。

今後、労災補償業務を的確に遂行し、被災労働者等に対する迅速かつ公正な保護を図るためには、局と労働基準監督署(以下「署」という。)が連携して効率的かつ計画的な業務の実施を一層徹底し、労災補償行政を巡る状況に適切に対応する能力を向上させるとともに、平成25年度においては、特に次の事項を重点的に推進することが重要である。

① 胆管がん事案の的確な調査

② 石綿関連疾患に係る労災保険制度等の周知、円滑な運用及び請求促進

③ 精神障害に係る労災認定基準の円滑な運用及び迅速な処理

④ 長期未決事案の新規発生防止と迅速処理の定着

⑤ 労災診療費の適正払いの徹底

また、労災補償業務において取り扱う行政文書については、公文書管理法の定めるところにより、適切に保存期間を設定し管理するとともに、保存期間経過後は所定の手続により廃棄するなど、適正に管理する必要がある。

さらに、労災補償業務の質的向上を図るためには、職員一人一人の資質向上と十分な能力発揮が不可欠である。このため、計画的な研修の実施、職員相互の知識伝達・経験交流の機会の増大等に取り組むことが重要である。

2 職員の基本姿勢

労災補償行政の使命である被災労働者等の迅速かつ公正な保護を実現するため、職員の一人一人が、適切かつ円滑な職務の遂行に必要な知識を修得する努力を不断に行い、自らの権限と責務を明確に自覚し、次の基本姿勢をもって日々の業務に臨むべきことを、すべての職員に周知・徹底すること。

① 親切で、わかりやすく、迅速な対応

② 公正、かつ、納得性の高い対応

第2 業務上疾病にかかる的確な認定業務の運用等

1 胆管がん事案の的確な調査

胆管がんに係る労災請求事案については、労働基準法施行規則別表第1の2に例示列挙されておらず、また、過去にも労災認定した事例がないことから、現在、本省において、印刷事業場で発生した胆管がんの業務上外に関する検討会(以下「検討会」という。)を開催し、業務と胆管がん発症の因果関係について検討を行っているところである。

平成25年2月12日現在、印刷業における胆管がんの労災請求件数は62件となっているが、胆管がんの業務上外を適切に判断するため、当面、以下に留意の上、本省へのりん伺を行うこと。なお、調査に当たって留意すべき事項については、現在行っている検討会報告書の取りまとめ後に別途指示する予定である。

(1) 職歴、従事業務の種類及び作業態様の把握

胆管がん発症者の最終事業場に至るまでの職歴を確認するとともに、各所属事業場において従事した業務を確認するとともに、作業態様について適切に把握すること。

また、胆管がんの発症と業務との関連については、現在、作業時に労働者がばく露した化学物質について検討会で議論しているところである。化学物質と関連のある業務に従事していることが確認された場合は、具体的な作業内容、作業方法及び作業時間を把握すること。

(2) 化学物質の使用状況に係る調査

事業場で化学物質が含まれる製品の使用が確認された場合、SDS(安全データシート)等の情報を基に、使用された化学物質を把握するとともに、仕入伝票の確認等により、把握した化学物質のおおよその使用量及び使用時期について確認すること。

(3) 作業環境に係る調査

事業場で化学物質が使用されていた場合、本省協議の下、化学物質の種類に応じて作業場の気積について図面等を基に確認するほか、換気設備の設置の有無及び換気の状況、保護具の着用状況等を確認すること。

事業場が作業環境測定を実施している場合は、当該測定結果を入手し、作業環境測定が未実施の場合は、監督・安全衛生担当部署の指導・調査後、作業環境測定の結果を入手すること。また、作業環境測定の実施が法令により義務付けられていない事業場については、本省にその取扱いを協議すること。

(4) 臨床・病理所見に係る資料の収集

胆管がん発症者の診断名、発症部位、臨床経過等を確認するため、医療機関から診療録のほか、生化学検査、腫瘍マーカー検査、免疫検査記録等を収集するとともに、必要に応じて事業主に健康診断結果の提出を求めること。

その際、手術等により採取された組織が標本化されている場合があるため、手術等を行った医療機関に対し標本の存否を確認し、標本が残存する場合は当該標本の借用を医療機関へ依頼すること。

また、主治医や専門医に提出を依頼する医学意見書については、確定診断名、発症時期、原発性・転移性の区別のほか、ウイルス性肝炎や肝内結石、原発性硬化性胆管炎等の胆管がんのリスク因子の有無について記載を求めること。

(5) 本省への報告

本省においては、事案の内容に応じて調査の進め方等を指示することとするので、当面、請求のあった時点及び上記(1)及び(2)の調査が終了した時点で本省へ報告し、相談すること。なお、調査過程において疑義が生じた場合には適宜本省に相談すること。

2 石綿関連疾患事案

(1) 医療機関に対する請求勧奨の依頼等

がん診療連携拠点病院等に対して石綿関連疾患にり患されている方に対する石綿業務歴の確認及び労災保険給付の請求勧奨を依頼することについては、平成24年8月30日付け基労補発0830第1号「「石綿による疾病の認定基準」の周知等について」により指示したところであるが、労災認定した事案において診療を行った医療機関からの「石綿疾患労災請求指導料」の請求の有無について療養補償給付たる療養の給付請求書(様式第5号)に添付されたレセプト等により確認し、指導料の請求がない場合や、ほとんどない場合は、計画的に医療機関に対し指導料の請求について再度説明した上で、主治医による石綿業務歴の確認及び労災保険給付の請求勧奨について改めて依頼すること。

(2) 石綿関連疾患の適正な診断

石綿関連疾患については、中皮腫など認定基準に定められた疾病に該当するか否かの診断が適正になされていることが重要であることから、良性石綿胸水を除き、労災医員等の意見を必ず徴するとともに、労災医員等において疑義が示されたもの等については、平成24年5月22日付け基労補発0522第1号「石綿確定診断等事業について」に基づき、必ず確定診断の依頼を行うこと。

なお、良性石綿胸水の事案については、上記通達により、全数確定診断の依頼対象とされていることから、労災医員等の意見を徴することなく、確定診断の依頼を行って差し支えない。

(3) 石綿ばく露作業従事歴の的確な把握

石綿ばく露作業従事歴については、石綿関連疾患の診断名の確定、胸膜プラーク等の医学的所見の有無とともに労災認定の前提となる事項であることから、平成24年9月20日付け基労補発0920第1号「石綿による疾病の業務上外の認定のための調査実施要領について」に基づき、請求人又は遺族から聴取した内容を踏まえ、事業場関係者から必要な聴き取りを行うことにより、可能な限り詳細に石綿ばく露作業従事歴を把握すること。

(4) 石綿労災認定等事業場の公表等

ア 石綿労災認定等事業場の公表

石綿労災認定等事業場の公表については、例年11月に行っているところであるが、公表に当たり、事業場名等の公表情報の誤りによる事業場とのトラブルが生じないよう、漏れのない事実確認、正確な資料作成など公表作業を的確に行うこと。

イ 制度の周知及び相談等への懇切・丁寧な対応

石綿関連疾患に関する労災補償制度等については、本省において、労災認定等事業場に対する退職労働者等への制度の周知依頼や、新聞広告等による周知広報を引き続き実施していくこととしている。

あわせて、局においては、市町村に対して、石綿労災認定等事業場の公表時期に合わせた市町村広報紙(誌)への労災補償制度・特別遺族給付金制度の周知記事の掲載や、死亡届の受付窓口におけるリーフレットの配布等の周知について依頼すること。

石綿関連疾患に関する請求、相談等があった場合には、引き続き、懇切・丁寧に対応するとともに、迅速な事務処理を行うこと。

3 精神障害に係る労災認定基準の円滑な運用及び迅速な処理

(1) 労災認定基準の円滑かつ適切な運用

精神障害の労災請求事案について、平成24年度において、業務上外の判断に当たり、専門部会の合議による意見を求める必要がある事案であったにもかかわらず、専門部会の意見を求めていないものがみられた。局においては、専門部会の意見聴取の要否など医学的意見を求める方法について適切に指示を行い、業務上外の判断を適正に行うこと。

なお、セクシュアルハラスメント事案に関しては、その性質から、被害を受け精神障害を発病した労働者の労災請求や署での事実認定の調査が困難となる場合が多いなどの特有の事情があることから、請求人等からの相談・聴取に当たっては、プライバシーに特に配慮すること。

また、各局に配置している労災精神障害専門調査員を効果的に活用し、適切な相談・聴取に努めること。

(2) 精神障害事案の迅速・適正な処理

精神障害事案については、心理的負荷による精神障害の認定基準及び精神実務要領(平成24年3月30日付け基労補発0330第1号「精神障害の労災認定実務要領の策定について」別添)に基づく処理が定着し、平均処理期間は平成24年12月末時点において平成23年度実績に比べて短縮傾向にあるが、中には、請求人聴取等の初動調査が請求書受付後相当期間遅れているもの、長期間にわたり事案検討会が実施されていないもの、調査に大幅な遅延が生じたにもかかわらず調査計画を見直していないもの等、進行管理が適切でなく長期未決事案となっているものも散見される。

このため、引き続き、処理期間を6か月以内に短縮できるよう、認定基準等に基づく調査及び業務上外の判断を迅速・適正に行うこと。

4 業務上疾病の範囲の見直し等

労働基準法施行規則別表第1の2で定める業務上疾病の範囲については、労働基準法施行規則第35条専門検討会(以下「本検討会」という。)化学物質による疾病に関する分科会の報告書が取りまとめられ、今後、本検討会で検討が予定されている。

この検討結果が取りまとまり次第、化学物質について省令及び告示の改正を行う予定であるが、それに伴う周知広報等については別途指示するところにより実施すること。

5 振動障害事案の受診命令

振動障害事案に係る受診命令については、認定要件の整っている事案について行うことのないようにするとともに、受診命令を行う場合は、平成20年8月1日付け職業病認定対策室長補佐事務連絡「振動障害の業務上外認定に係る事務処理の適正な実施について」に留意し、受診命令の必要性を明らかにした上で、請求人に受診命令の趣旨を明確に説明し、理解を求めること。

また、平成24年1月10日付け職業病認定対策室長事務連絡「地方労災医員制度の適正な運営について」に基づき、受診命令の実施の決定に関与した医師が、当該受診命令による検査・診断等を行わないようにすること。

6 認定基準等に定める本省りん伺等の徹底

認定基準等において本省にりん伺や協議を行うことを指示している事案について、これまでに、りん伺等が行われなかった例があったことから、それが確実に実施されるよう、署管理者は、担当職員にこれを徹底し該当事案を請求受付後速やかに把握するとともに、給付決定等の決裁の過程で確認を必ず行うこと。平成24年度は新しい疾病に係る報告が多くみられたところであるが、今後も引き続き補504による報告が必要な事案について、漏れなく報告すること。

第3 長期未決事案の新規発生防止と早期解消

1 長期未決事案の新規発生防止

(1) 調査計画の策定

長期未決事案の新規発生を防止するため、給付事務取扱手引に定めるとおり、精神障害事案については請求書受付後遅滞なく、また、当初は早期決定が見込まれ調査計画を策定していない事案について請求書受付後3か月経過した時点でなお処理が完了するまで相当期間を要することが見込まれる場合にはその時点で、事案検討会を開催し速やかに調査計画を作成すること。

(2) 新規発生防止のための留意点

長期未決事案については、平成24年度中央労災補償業務監察結果(以下「24年度中央監察」という。)において、実地調査の着手までに請求書受付後相当期間が経過しているもの、処理経過について相当期間にわたり署管理者の決裁を受けていなかったもの、請求書受付後3か月経過時において調査に相当期間を要することが見込まれたにもかかわらず調査計画が作成されなかったもの等が指摘されている。

これを踏まえ、署管理者(署長及び労災担当課長等をいう。)は、長期未決事案の新規発生を防止するため、請求書受付後3か月経過時点で事案処理の進ちょく状況の把握及び今後の処理見込みの検討を行い、必要に応じて事案検討会を開催するなど、的確な進行管理を徹底し、原則として6か月以内の決定を目指すこと。

2 長期未決事案の早期解消

(1) 局管理事案の留意点

請求書受付後9か月経過した事案を局管理事案としてその早期解消に取り組んでいるところであるが、新たに局管理事案に該当した事案については、局労災補償課長(以下「局課長」という。)等による組織的検討を実施し、署長に対して事案の処理に関する具体的な指示を行うこと。

労働基準部長はこれが確実に行われているか確認し、局課長に必要な指示を行うこと。また、労働基準部長は、長期未決事案への取組が不十分な署長に対して直接指導を行い、署の事務処理能力のレベルアップを図ること。

(2) 署長管理事案の留意点

長期未決事案については、24年度中央監察において、調査計画で必要な調査項目が明示されていないもの、調査の完了時期が示されていないもの、処理経過の決裁の際等の署長の指示が期限を付した具体的なものでないもの、調査計画や署長指示から実際の着手までに相当期間が経過しているもの等が指摘されている。

署長は、上記のような問題が生じないよう、処理経過の決裁時及び事案検討会において期限を示して具体的な指示を行うとともにその実施状況を確認すること。

また、局において、上記の問題点を把握したにもかかわらず的確な指示をしていない例もあることから、局管理者は署長に対して必要な指示を確実に行うこと。

第4 労災補償業務の適正な事務処理の徹底

1 基本的な事務処理の徹底

(1) 入力前請求書の特定の場所への保管等適正な事務処理等の徹底

入力を漏れなく行うためには、入力を担当者任せにせず、請求書を集中的に管理することが重要であることから、局署管理者は、入力前の請求書を担当者の机上等に保管することなく特定の場所への保管を徹底すること。また、始業・終業時の点検及び請求書の即日又は翌日入力等の事務処理を確実に実施すること。

(2) 適正な事務処理体制の確立

局署管理者は、労災保険給付の支払の本省払い化の対象が拡大されることを踏まえ、職員による不正受給が生じることがないよう、事案担当者以外の者を入力担当者に指定し、当該入力担当者以外の者に入力させない等のけん制体制の確立を図ること。

2 労災請求事案に係る的確な調査の実施と認定要件の判断等

(1) 的確な調査の実施

労災請求事案の事務処理に当たっては、支給・不支給の判断に必要となる事実を効率的に収集するため、請求事案ごとに必要な調査項目を明らかにした上で計画的に調査を行うこと。その際、重複した調査を実施しないよう留意するとともに、聴取等が必要な関係者については聴取等を確実に行うこと。過去には、脳・心臓疾患事案で全く聴取を行わずに業務外とした事例もあったところであり、今後このような事例が生じないよう、局署管理者は適正な指導等を行うこと。

(2) 的確な認定要件の判断

局署管理者は、担当職員が調査結果復命書を作成するに当たり、業務起因性のほか、労働者性、消滅時効の完成、就業や賃金受領の事実等、支給要件ごとにその該当の有無及び根拠を簡潔に記載するよう指示し、事実認定や要件の当てはめ等が適正か否かを決裁過程で確実に確認すること。

特に、労働者性の判断に当たっては、シルバー人材センターの会員が請負契約により就労する場合のように、契約の形式からは労働者に該当しない者から労災請求があった場合には、作業の実態を調査の上、適切に労働者性を判断すること。

また、給付基礎日額の算定に当たり、賃金総額に算入すべき賃金は、現実に既に支払われている賃金のみではなく、実際に支払われていないものであっても、平均賃金の算定事由発生日において、賃金債権として確定しているものを含むことから、特に、脳・心臓疾患事案及び精神障害事案のように長時間にわたる時間外労働が認められる事案については、適正に給付基礎日額を算定すること。

3 労災年金関係業務の適正な処理

(1) 労災年金給付事務処理

労災年金給付事務の処理においては、当初決定した年金または一時金の基本情報に誤入力等があった場合に年金の基本権を取り消す必要が生じた事案、いわゆる、基本権取消事案の発生を防止するため、支給決定時及び支給決定決議入力時のみならず、定期報告書の審査及び入力時における職員相互のチェック体制及び署管理者の審査・確認体制を確実なものとし、審査・確認、決裁時における適正な事務処理を徹底すること。

また、厚生年金等との併給調整については、これまでに、遡及して厚生年金等の決定を受けた事案や、労災年金とは同一の事由ではないのに併給調整が行われている事案等があったことから、「厚年情報照合リスト」には適正な併給調整を行うために必要な情報が含まれているので、同リストを活用するとともに、定期報告書審査時等に添付された厚生年金等の改定通知書等の添付書類の内容を精査し、疑義が生じた事案については、年金受給者本人又は年金事務所等へ照会等を迅速に行うことにより、適正な給付に努めること。

さらに、平成25年度には、厚生年金等の年金額について、「国民年金法等の一部を改正する法律等の一部を改正する法律」により、老齢基礎年金等の年金額の特例水準について、平成25年度から平成27年度までの3年間で解消することとなり、10月にはこの特例水準の解消措置による改定が予定されている。従って、「厚年情報照合リスト」の配信時期が例年と異なることが想定されるため、平成25年度の「厚年情報照合リスト」の配信時期等については別途通知する。「厚年情報照合リスト」配信後、出力された不一致事案については、計画的に調査・確認を行い、早期解消を図ること。

(2) 転給

遺族補償年金の先順位者の失権により転給すべき事案について、次順位者に請求勧奨を行わないまま長期間経過した事案がみられたことから、年金受給権者が失権した場合は、次順位者の有無を確認し、次順位者への請求勧奨を確実に行うこと。次順位者から転給等請求書が提出されていない事案の把握に当たっては、毎月配信される「転給未処理リスト」を活用すること。

4 不支給決定の場合の理由の説明

給付事務取扱手引のⅤの2の第6の3において、不支給決定等の処分の通知を行う場合には、その処分理由を的確かつ具体的に記載するよう指示されているところであるが、「労働基準法施行規則別表第1の2に定める業務上疾病に該当しないため」等の抽象的な理由しか記載されていない例が散見される。

このため、給付事務取扱手引に示された事例を参考に、具体的に不支給理由を記載すること。

また、平成23年3月25日付け基労発0325第2号「今後における労災保険の窓口業務等の改善の取組について」の記の3に定めるとおり、脳・心臓疾患事案、精神障害事案及び長期未決事案の不支給決定を行った場合には、その理由等についてわかりやすい説明を実施するなど、引き続き請求人等への懇切・丁寧な対応を徹底すること。

5 東日本大震災の被災者等に対する適切な対応

東日本大震災に伴う労災請求の相談等があった場合には、引き続き、懇切・丁寧な対応を行うこと。

これまでの取組により把握した労災請求を控えている家族等に対しては、引き続き労災請求の勧奨を行うこと。

6 不正受給防止対策の徹底

不正受給に関しては、新規請求事案の業務(通勤)上外の調査、長期療養者の療養の要否等に係る調査を確実に行うとともに、第三者からの投書等の情報を得た場合には、署内で組織的に検討し実地調査等を行うなど、その未然防止や早期発見に努めること。

また、不正受給者については、過去にも他の局署において不正受給を行っている可能性もあることから、不正受給事案について、当該請求人について他の局署における給付実績があることを把握した場合には、当該局署に情報提供を行う等、適切に連携を図ること。

7 労災かくしの排除に係る対策の一層の推進

全国健康保険協会(協会けんぽ)各都道府県支部から、業務上又は通勤による負傷に当たるとして、健康保険法の保険給付について不支給(返還)決定を受けた者の情報を受け、それらの者に対して労災請求の勧奨を行う取組については、引き続き推進を図ること。

また、労災保険給付に係る審査又は調査において、労災かくしが疑われる場合には、速やかに監督・安全衛生担当部署に情報を提供するなど、引き続き関係部門との連携を図ること。

なお、新規の休業補償給付支給請求書の受付に際し、労働者死傷病報告の提出年月日の記載がない場合には、監督・安全衛生担当部署への情報提供を徹底すること。

8 労災認定事案等に関する監督・安全衛生担当部署との連携

脳・心臓疾患事案又は精神障害事案については、過重労働による健康障害防止の観点から、監督担当部署において把握次第、原則として直ちに監督指導を実施することとしているため、労災請求がなされた段階において、速やかに監督・安全衛生担当部署へ情報提供を行うよう徹底すること。

また、精神障害事案については、上記に該当する事案も含めすべての認定事案について、安全衛生担当部署への情報提供を行うこと。

9 技能実習生に対する労災補償制度の周知等の取組

技能実習生については、我が国の労災補償制度についての知識が十分ではない場合が多いことを踏まえ、機会をとらえて労災補償制度の周知等を行うこと。

また、監督・安全衛生担当部署や公益財団法人国際研修協力機構(JITCO)からの情報等により、労災保険給付の支給事由を満たす可能性の高い者を把握したときは、労災保険給付の請求勧奨を実施する等適切に対応すること。

第5 労災診療費の適正払いの徹底

1 会計検査院の指摘を踏まえた重点的な審査の徹底等

労災診療費の適正支払いについては、労災補償行政の最重点課題の一つとして取り組んできたが、平成24年度に会計検査院から過大と指摘された支払額(以下「指摘額」という。)は前年度に比べて増加した。

指摘額増加の主たる原因については、地方厚生(支)局及び都府県事務所(以下「地方厚生局等」という。)が保険医療機関に対して実施した指導・調査等の結果情報の提供を労働局が受ける体制が整備されていないことによるものであると会計検査院から指摘されたことから、今後、地方厚生局等から指導・調査等の結果情報を受ける仕組みを整備することとしている。ついては別途指示するところにより、これらの情報を活用した適正な審査・支払を行うこと。

また、上記の地方厚生局等が実施した指導・調査等の情報を受ける体制が整備されていないことによるものを含めた指摘額の内訳を見ると、入院料と手術料が高い割合を占めている。入院料と手術料については、これまで過大な支払が多いと指摘されていることから、平成21年2月20日付け基労補発第0220003号「労災診療費に係る重点審査について」(以下「重点審査通達」という。)に基づき重点的な審査を行なっているところであるが、引き続き以下のとおり取り組むこと。

① 入院料については、施設基準の確認を的確に行うほか、疑義が生じた場合には、労災保険指定医療機関等への必要な照会を確実に行うこと。また、手術料については、レセプト上、人工骨しか使用していない骨移植術について、実際に自家骨が併用されているかを確認する等、重点審査通達に基づく審査の徹底を図ること。

② 本省主催の医療担当者に対する会議・研修の内容の確実な伝達、主任審査補助員を活用した審査担当者の教育、審査業務で培ったノウハウの共有化を図るなど、審査担当者の資質の向上を図ること。

③ 誤請求の多い労災保険指定医療機関等に対しては、個別の実地指導を行うなど、医療機関への指導を徹底すること。

2 柔整施術料金算定基準の改定に伴う的確な審査の実施等

現在、健康保険における「柔道整復師の施術に係る療養費の算定基準」及び「はり師、きゅう師及びあん摩・マッサージ・指圧師の施術に係る療養費の算定基準」の改定が検討されている。

今後、これを踏まえて、労災保険柔道整復師施術料金算定基準及び労災保険あん摩マッサージ指圧師・はり師きゅう師施術料金算定基準を改定することを予定していることから、改定後には、柔道整復師団体等の関係団体に対し、労災診療費に準じて、改定内容の周知・徹底を図り、改定後の施術料金算定基準に基づく的確な審査を実施すること。

第6 適正な文書管理

1 行政文書の適正な管理と文書管理者の職務

(1) 行政文書の適正な管理

行政文書については、厚生労働省文書管理規則(平成23年厚生労働省訓第20号。以下「管理規則」という。)第14条に定めるところにより、標準文書保存期間基準を定め適切な文書保存期間の設定を行うとともに、保存期間満了後の廃棄に当たっては、地方課からの指示に従い所定の手続を経て適正に廃棄等を行うこと。

特に、文書保存期間満了前に誤廃棄が生じると、当該行政文書についてその後行政機関の保有する情報の公開に関する法律に基づく行政文書の開示請求が行われた場合に、適正な開示・不開示決定を行うことが困難となることから、留意すること。

なお、文書保存期間満了時に所定の手続を経て適正に廃棄した行政文書に対して開示請求が行われた場合には、不開示決定を行うこと。

(2) 文書管理者の行うべき職務

行政文書の管理に当たっては、局労災補償課においては局課長が、署においては署長が文書管理者として指名され、この文書管理者が、保存、廃棄、行政文書の作成整理その他の行政文書の管理に関する職員の指導等を行うこととされている(管理規則第6条)ことから、自ら管理責任を有する行政文書の管理状況について確実な点検を行い(管理規則第23条)、適正な文書管理を図ること。

2 個人情報の厳正な管理

個人情報の厳正な管理については、平成22年12月27日付け基労発1227第1号「労災保険関係書類等のリスク評価に基づく対策の導入について」(以下「部長通達」という。)により指示しているが、情報漏えいが後を絶たない。

平成24年4月に生じた個人情報漏えい事案の類型は、平成24年5月1日付け基労補発0501第1号「労災保険関係書類等の個人情報管理の徹底について」(以下「課長内かん」という。)に示したところであるが、課長内かん発出後も同種の漏えい事案が発生している。特に、誤送付について、送付先の医療機関が別法人で同一名称であったことによる事案が複数生じていることから、文書送付時の複数人での確認を再度徹底すること。

また、局管理者は、課長内かん等に示した再発防止のための留意点を踏まえつつ、部長通達に定める個人情報の管理体制が整備されているか改めて点検し、その結果に基づき、事務処理要領の策定、見直しを行うこと。あわせて、局署管理者は、当該事務処理要領に関する職員研修や、その遵守状況についての点検を実施し、個人情報の適正な管理の一層の徹底を図ること。

第7 社会復帰促進等事業の的確な実施

1 義肢等補装具費支給要綱及び外科後処置実施要綱の改正に伴う対応

平成24年6月に取りまとめられた「義肢等補装具専門家会議報告書」を踏まえ義肢等補装具費支給要綱(以下「支給要綱」という。)及び外科後処置実施要綱の改正を予定している。

改正内容には、片側上肢切断者に対する筋電電動義手の購入費用の支給、能動式義手及び筋電電動義手における訓練費用の支給等を予定しているので、追って指示するところにより、関係者に対する周知を図るとともに、改正後の支給要綱に基づく、適正な支給を行うこと。

2 労災就学等援護費

労災就学等援護費は、被災労働者の妻や子が遺族補償年金の受給権者であって被災労働者の子が就学等をしている場合のほか、被災労働者の孫や兄弟姉妹が遺族補償年金の受給権者であって当該受給権者が就学等をしている場合にも支給対象となり得る。

しかし、転給により新たに受給権者になった者が上記要件を満たす場合や、遺族補償年金の請求当時は未就学であった者がその後の就学等により上記要件を満たす場合について、年金受給権者に労災就学等援護費の対象となったことの認識がなく、申請が行われていなかった事案が判明したところである。

このため、定期報告書や、毎年2月に配信される「援護費支給開始メッセージリスト」を活用して申請漏れの有無を確認し、労災就学等援護費の対象となるにもかかわらず申請がなされていない場合には、申請を勧奨すること。

なお、平成20年3月31日以前に労災就学等援護費の支給事由が生じた事案については、申請のあった月の翌月から支給対象となることに留意すること。

第8 費用徴収

1 該当事案の漏れのない把握と組織的進行管理

労働者災害補償保険法第31条第1項に基づく費用徴収については、費用徴収に該当する可能性のある事案の局への報告を徹底するよう指示しているが、平成24年度においても、会計検査院から、平成22年度までに発生した事案ではあるが、同項第2号事案に係る署から局への報告漏れ等による徴収不足が不当事項として指摘されたほか、24年度中央監察においても、署での支給決定時に保険料納付状況を確認していない事案が指摘されたところである。

このため、署においては支給決定を行う際に保険料の納付状況を必ず確認するよう改めて徹底するとともに、局労災補償課は、滞納事業場リストや労働者死傷病報告提出事業場リスト等の情報を定期的に把握し、署からの報告が漏れなく行われているか確認すること。

2 第3号事案の適切な判断

同項第3号に基づく費用徴収については、平成14年3月に作成した事例集や、平成24年3月29日付け基労補発0329第2号「労働者災害補償保険法第31条第1項第3号に基づく費用徴収の適正な取扱いについて」を踏まえ、費用徴収に該当するか否かの判断を適切に行うこと。

第9 第三者行為災害

第三者行為災害に関しては、平成24年9月7日付け基発0907第4号「派遣先事業主に係る第三者行為災害の取扱いについて」に基づき、派遣先事業主に対する求償等を適切に実施すること。

また、第三者行為災害に係る債権について、債務者(保険会社等を除く。)に対する納入督励業務を平成24年度より外部委託しているが、今後も外部委託を予定していることから、引き続きこれを活用し、適正な納入督励を図ること。

なお、控除については、会計検査院から、控除期間経過後の二重補てん額が多額に上ることを避けるための方策を検討すべき旨の意見表示がなされていることから、控除期間の見直しを予定しているので、追って指示するところにより、適正に支給調整を行うこと。

第10 特別加入制度

1 海外派遣者の特別加入制度の周知について

海外で日本人労働者が巻き込まれた災害を契機に海外派遣者に対する補償制度について社会的な関心が高まっていることから、海外派遣者の特別加入制度について、労働保険年度更新説明会等での周知に加え、パンフレット等を活用して事業主団体を通じた周知を図ること。

2 農業関係の特別加入制度の周知について

農業関係の特別加入について、関係団体から農業者の特別加入に関して講師派遣等協力要請があった場合には、引き続き協力を行うこと。

3 バイク便事業の適用拡大について

新たに総排気量125cc以下の二輪の自動車(道路運送車両法上の原動機付自転車)を使用する貨物運送事業について、自動車を使用して行う貨物の運送の事業として特別加入の対象とする予定であるので、別途指示するところにより、周知及び承認事務等を適切に行うこと。

第11 行政上の争訟に当たっての的確な対応

1 審査請求事案の迅速・適正な処理

近年、審査請求件数が高止まりにある中、特に以下の点に留意し、審査請求事務について一層迅速かつ適正な処理を図ること。

(1) 局管理者による的確な進行管理

審査請求受理後6か月以上経過した長期未決事案については、平成24年12月末現在、前年同期に比べて微減となっているところである。労災補償課長は、引き続き労災保険審査請求事務取扱手引等に基づき的確な進行管理を行い、長期未決事案の更なる減少に努めること。特に、長期未決事案が減少しない状況が続く場合には、その原因を把握し、その解消のために必要な措置を速やかに講じること。

(2) 適正な審査決定

労働保険審査会において原処分の取消裁決がなされた場合には、局内において、裁決で認定された事実関係や取消理由を踏まえ、原処分又は審査官決定段階における調査の実施や認定基準のあてはめ等に適切を欠く部分がなかったかについて十分な検討を行い、その結果を局内で共有すること。

2 行政事件訴訟の的確な追行

平成24年12月末現在、訴訟係属件数は294件となっており、平成18年度に比べて2倍と増加傾向にある。

平成24年度の主要な判決を分析したところ、一審で敗訴した事案において、控訴審で複数の専門医による的確で分かりやすい意見書を提出し、これに基づき主張を行ったことにより勝訴に結びついた例がある一方、原処分時に重要な事実関係の調査が不足していたため十分な主張ができず敗訴し控訴を断念した例も見受けられたところである。

このため、訴訟追行に当たっては、法務当局はもとより、本省労災保険審理室とも緊密な連携の下、以下の点に特に留意し、的確な処理を徹底すること。

① 新件が提訴された場合には、早い段階で原告の主張を十分に把握・分析し、各主張に対する的確な応訴方針を立てること。

② 既存の調査資料等を速やかに確認し、原告の主張に対して十分な主張・立証ができない懸念がある場合には、必ず補充調査を実施し、早期に必要な証拠を確保すること。

③ 疾病の発症機序等、医学的な事項が主要な争点となっている事案については、専門医による専門的かつ分かりやすい意見書を裁判所に複数提出し、これに基づき説得力のある主張を行うよう努めること。

④ 局管理者は、訴訟の進ちょく状況を常に把握し、特に準備書面案の作成、医学証人の選定などの重要な段階において、訟務担当者に対する具体的な指示・指導を適切に行うこと。

3 文書提出命令への対応

文書提出命令の申立てに関して、平成24年度において、裁判所に提出する意見書について、局が作成した意見書案の中に聴取書の提出について被聴取者からの同意が得られないことのみを不提出の理由とし、聴取書の記載内容や公務の遂行に生ずる支障を記載していない例がみられた。

このため、文書提出命令の申立てがあった場合は、平成23年6月15日付け労災保険審理室長事務連絡に基づき速やかに労災保険審理室に報告するとともに、公務の遂行に生ずる支障が認められない場合は裁判所から文書提出を命じられることとなるので、意見書には対象文書の記載内容に照らし、公務の遂行に生ずる支障を具体的に過不足なく記載するよう留意すること。

第12 地方監察等の的確な実施

1 地方監察の的確な実施

地方監察は、地方労災補償監察官指針を基に効果的に実施すること。

特に、是正改善を要する事項は、単に問題点として提起するのみならず、当該問題の生じた背景、原因を明らかにし、是正改善策について具体的に指導、助言することにより、継続的に適正な事務処理が行われるよう配意すること。

また、地方監察の結果と併せ、24年度中央監察報告書の内容と局署の事務処理とを照らし合わせて自局の問題点等を整理し、改善すべき事項や事務処理の留意点を、各種会議、研修等あらゆる機会を通じ、すべての労災担当職員に周知・徹底すること。

2 研修の充実等職員の資質向上

初めて労災補償業務に就く者に対しては、別途指示するところにより実地訓練を確実に行うこと。

また、新任の署管理者に対しては、局署の課題や局業務実施計画を踏まえた各管理者の果たすべき役割等について、十分な時間を確保した研修を行うこと。

第13 その他

1 労災保険給付業務の業務・システム最適化に係る開発

(1) 労災保険給付等の本省払い化追加機能等

労災保険給付等の本省払い化追加機能等については、平成25年1月15日付け基労保発0115第1号「労災保険給付等の本省払い化追加機能等に係るシステム開発について」のとおり通知したところであるが、稼働予定としている本省払い追加機能の開発状況等については、別途示すこととする。

(2) 労災レセプトの受付業務及び審査業務のシステム化

労災レセプトの受付業務及び審査業務のシステム化については、労災レセプト電算処理システムを構築し、平成25年9月を目処に稼働する予定である。

また、当該システムの普及を図るため、別途指示するところにより、都道府県医師会等の関係団体への協力依頼や労災レセプト請求件数の多い医療機関へのシステム導入の働きかけを行うほか、本省で作成するリーフレットの送付等による個別の医療機関等への周知を行うこと。

なお、この他の当該システム稼働に伴う職員研修等の今後の予定等についても、別途示すこととする。

2 休業補償特別援護金及び訪問看護費の支払業務

現在、署において支給決定を行っている休業補償特別援護金及び訪問看護費に係る支払業務については、別途指示するところにより適正に取扱うこと。