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○プレーリードッグの輸入禁止に伴う対応について

(平成15年2月14日)

(健感発第0214001号)

(財務省関税局業務課長・財務省関税局監視課長あて厚生労働省健康局結核感染症課長通知)

感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10年法律第114号)第13条第1項及び第54条第1号の規定に基づき、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律施行令の一部を改正する政令が平成15年2月5日政令第35号をもって公布され、プレーリードッグの我が国への輸入禁止措置が平成15年3月1日から実施されることとなりました。

これに伴い、平成15年3月1日以降、万が一、我が国へプレーリードッグが到着した場合には、農林水産省動物検疫所が対応することとし、その対応については、別途、農林水産省から通知される予定です。

なお、「プレーリードッグのペスト」を参考までに配布しますので、ご査収願います。

※同旨の通知は経済産業省協力局貿易管理部貿易審査課長、経済産業省協力局貿易管理部貿易管理課長、法務省入国管理局入国在留課長、総務省郵政企画管理局郵便企画課国際企画室長にも発出された。

(別添)

プレーリードッグのペスト

病原体:Yersinia pestis(ペスト菌)

好発年齢:なし

性差:なし

プレーリードッグの分布域:北米大陸

好発時期:温帯では春から夏

感染経路:ヒトへの感染は感染ノミの刺咬、あるいは感染動物との接触

プレーリードッグへの感染はenzootic host(ペスト菌の自然界での維持に関わる動物)のノミによる刺咬

潜伏期間:プレーリードッグでのデータは存在しない。ジリスでの感染実験成績から2~7日程度と考えられる。なお、実験用マウスを用いた感染実験では感染後数日で症状を呈する。

感染期間:げっ歯類では死亡の数時間前まで明らかな徴候を示さない場合が多い。従って潜伏期と感染期間はほぼ一致する。

症状:野生げっ歯類では行動異常が認められる場合もあるが、ペストによるかの断定はできない。カリフォルニアジリスにおける感染実験では接種部位の所属リンパ節の腫脹を呈する個体が認められている。また鼻出血が認められる場合がある。

オーダーする検査:菌分離、遺伝子検出

確定診断のポイント:検体からのペスト菌の分離、あるいは遺伝子の検出

背景:プレーリードッグはリス科のげっ歯類で、オグロプレーリドッグ(Cynomys ludovicianus、テキサスからカナダにかけて分布)、オジロプレーリードッグ(C.leucurus、コロラド、ユタ、ワイオミング、モンタナ)、グニソンプレーリードッグ(C.gunnisoni、コロラド、ユタ、アリゾナ、ニューメキシコの4州の境界部))、ユタプレーリードッグ(C.parvidens、ユタ)、メキシコプレーリードッグ(C.mexicanus、メキシコの一部)の5種が北米大陸に生息している。プレーリードッグはジリスなどとともにペストのいわゆるepizootic host(増幅動物)である。

疫学:ペストは本来げっ歯類とその外部寄生昆虫であるノミとの間で維持されている。enzootic host(ペスト菌の自然界での維持に関わる動物)はペスト菌感染に抵抗性を示し、繁殖能力が高く、寿命が短い必要がある。ハタネズミ(Microtus spp)、シカネズミ(Peromyscus spp)などが、これらの特徴を有すると考えられる。また、これらの動物に寄生するノミが通年にわたり活動することがペスト菌の維持に重要である。通常enzootic hostからヒトへの感染は起こらず、epizootic hostでの流行からヒトへの感染が拡大する。epizootic hostはペスト菌に対する感受性が割合高く、死亡率が高い。北米ではジリス(Spermophilus spp)、ヒメシマリス(Eutamias spp)、トウブキツネリス(Sciurus neger)、ウッドラット(Neatoma spp)およびプレーリードッグがepizootic hostとして知られている。1959年から1998年までにアメリカ合衆国で393例のヒトにおけるペストの発生が記録されているが、240例(61%)で感染源が特定できている。そのうち31例(13%)がプレーリードッグあるいはその寄生ノミから感染したとされている。図はコロラド州のデータであるが、全米と同様の傾向を示している。

Animal Species Implicated in Transmisson* op Plague To Humans, Colorado, 1957-2000(N=48)

GS=ground squirrel  Multiple Species=two or more rodent specis present with evidence of plague die-off

*Indicates rodent host involved in transmission. Transmission to humans occurred via a flea bite (n=30) or direct contact (n=11) with blood/tissues of infected animals. Seven undertermined species are presumed to have been unrecognized rodent flea bites often brought home by free-roaming pet.

プレーリードッグは何れの種もペストに対し極めて感受性が高く、死亡率は99%以上とされている。従ってプレーリードッグは維持宿主とはなりにくい。また、既に述べたようにヒトのペストの10%強がプレーリードッグを感染源としているが、プレーリードッグのノミ(Oropsylla spp)はヒトからの吸血をあまり好まないことが知られており、プレーリードッグのノミの刺咬によるヒトの感染は稀である。感染プレーリードッグを直接扱うか、プレーリードッグのノミの吸血により感染した、他のげっ歯類あるいは哺乳類のノミの刺咬により感染することが考えられる。日本国内に輸入され長期間飼育されているプレーリードッグがベストに罹患しているあるいはペスト菌を保有している可能性は考えにくい。しかし輸入して間もない動物における原因不明の死亡などの場合にはペストも疑う必要がある。

診断:動物が死亡した場合にはペスト菌の莢膜抗原(fraction 1)特異的抗体を用いた直接蛍光抗体法により菌体の検出を行う。この方法は抗体の特異性が高ければ非常に有効であり、また、死後時間が経過していても大腿骨の骨髄などを検体にすれば判定できる利点がある。確定には菌分離、遺伝子検出などを行う。検査は地方自治体の衛生研究所等で可能である。なお、分離法及びPCRのプライマー等は平成14年2月の感染研で行った希少感染症事業研修会で配布したマニュアルに記載してあるので参照されたい。

病理:ペストで死亡したプレーリードッグにおける病理学的情報は極めて少ないが、他のげっ歯類での報告が参考にできるかもしれない。

カリフォルニアジリスでのペストにおいて急性症状を示した個体では出血性リンパ節腫脹、脾腫が認められたが、肝臓の壊死性結節は認められなかったとされる。また、亜急性感染では、壊死性リンパ節腫脹、肝臓および脾臓における壊死性結節が認められている。治癒した例では、化膿性巣状壊死を伴うリンパ節腫脹を認めるのみであった。同じくカリフォルニアジリスの実験感染では膿瘍形成をしばしば伴う脾腫を認めている。また、鼻出血が高頻度に認められている。イワリスの実験感染でも鼻出血ならびに腹部および胸部の点状出血が認められる場合があると報告されている。また肺炎を呈している個体も認められている。

ペストに罹患した疑いのあるプレーリードッグの取り扱いに関する注意事項について

概要:プレーリードッグはペストに対して極めて感受性が高く、感染するとほぼ100%の動物が死亡するので、国内で長期間飼育されているプレーリードッグがペストを発症する可能性は極めて低い。また、たとえペストの常在地からの輸入個体であっても輸出国で充分な衛生管理及び繋留観察等がなされ、それが確認された健康な個体であれば、輸入後にペストを発症する可能性は極めて低いと考えられる。しかし、ペストを疑う症状を発した動物を扱う場合には、万が一に備えて十分な個人防護策を講じることは有益である。

標準的予防策等:ペストは動物に寄生するノミによる刺咬でヒトに感染する場合が最も普通である。従って、ノミによる咬傷を受けないことが極めて重要である。感染を疑う動物を扱う場合には、なるべく皮膚の露出を避ける。また、露出部分に、忌避剤(有効成分N,Nジエチルトルアミド等)を塗布し、着衣には殺虫剤(合成ピレスロイド系殺虫剤等)を染み込ませるなどの対策が有効である。

また、ペストは感染動物の体液等により直接感染する場合もあるので、感染の疑いのある動物を扱う場合には上記の注意事項に加えて、マスク、手袋、ゴーグル等を着用する必要がある。解剖する場合には安全キャビネット内で行う。この場合バイオセーフティレベル2の実験室で行って差し支えない。

動物が生存している場合には麻酔するなどにより、動物から危害を受けないような注意が必要である。また、動物に寄生しているノミの殺虫を行うことを推奨する。外部寄生虫駆除に有効な薬剤(有効成分フィプロニル、トリクロルホン等)による噴霧、薬浴などを考慮すべきである。

万が一感染を疑われる動物や当該動物に寄生するノミなどからヒトへの感染が起きた可能性がある場合には、速やかに抗生物質による曝露後予防を行う必要がある。

国立感染症研究所獣医科学部長 山田章雄

国立感染症研究所細菌第一部長 渡邊冶雄