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○労働契約法の施行について

(平成24年8月10日)

(基発0810第2号)

(都道府県労働局長あて厚生労働省労働基準局長通知)

(公印省略)

労働契約法の一部を改正する法律(平成24年法律第56号。以下「改正法」という。)については、本日公布され、一部は本日から施行される。

今般の改正は、有期労働契約の反復更新の下で生じる雇止めに対する不安を解消し、また、期間の定めがあることによる不合理な労働条件を是正することにより、有期労働契約で働く労働者が安心して働き続けることができる社会を実現するため、有期労働契約の適正な利用のためのルールとして改正法による改正後の労働契約法(平成19年法律第128号。以下「法」という。)第18条から第20条までの規定を追加するものである。

ついては、法の趣旨及び内容は、下記のとおりであるので、それらについて周知に遺漏なきを期されたい。

なお、本通達の施行に伴い、平成20年1月23日付け基発第0123004号「労働契約法の施行について」は、廃止する。

目次

第1 法制定の趣旨等

1 背景及び趣旨

2 労働基準法及び個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律との関係

第2 総則(法第1章関係)

1 目的(法第1条関係)

2 定義(法第2条関係)

3 労働契約の原則(法第3条関係)

4 労働契約の内容の理解の促進(法第4条関係)

5 労働者の安全への配慮(法第5条関係)

第3 労働契約の成立及び変更(法第2章関係)

1 総論

2 労働契約の成立(法第6条・第7条関係)

3 労働契約の内容の変更(法第8条関係)

4 就業規則の変更による労働契約の内容の変更(第9条・第10条関係)

5 就業規則の変更に係る手続(法第11条関係)

6 就業規則違反の労働契約(法第12条関係)

7 法令及び労働協約と就業規則との関係(法第13条関係)

第4 労働契約の継続及び終了(法第3章関係)

1 出向(法第14条関係)

2 懲戒(法第15条関係)

3 解雇(法第16条関係)

第5 期間の定めのある労働契約(法第4章関係)

1 総論

2 契約期間中の解雇(法第17条第1項関係)

3 契約期間についての配慮(法第17条第2項関係)

4 期間の定めのない労働契約への転換(法第18条関係)

5 有期労働契約の更新等(法第19条関係)

6 期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止(法第20条関係)

第6 雑則(法第5章関係)

1 船員に関する特例(法第21条関係)

2 適用除外(法第22条関係)

第7 附則

1 法の施行期日(附則第1条関係)

2 労働基準法その他関係法律の一部改正(附則第2条―第6条関係)

第8 改正法附則

1 改正法の施行期日(改正法附則第1項関係)

2 経過措置(改正法附則第2項関係)

3 検討規定(改正法附則第3項関係)

別紙 労働契約法第十八条第一項の通算契約期間に関する基準を定める省令第1条第1項について

別添 参考となる主な裁判例

第1 法制定の趣旨等

1 背景及び趣旨

労働関係を取り巻く状況をみると、就業形態が多様化し、労働者の労働条件が個別に決定され、又は変更される場合が増加するとともに、個別労働関係紛争が増加している。しかしながら、我が国においては、最低労働基準については労働基準法(昭和22年法律第49号)に規定されているが、個別労働関係紛争を解決するための労働契約に関する民事的なルールについては、民法(明治29年法律第89号)及び個別の法律において部分的に規定されているのみであり、体系的な成文法は存在していなかった。

このため、個別労働関係紛争が生じた場合には、それぞれの事案の判例が蓄積されて形成された判例法理を当てはめて判断することが一般的となっていたが、このような判例法理による解決は、必ずしも予測可能性が高いとは言えず、また、判例法理は労働者及び使用者の多くにとって十分には知られていないものであった。

一方、個別労働関係紛争の解決のための手段としては、裁判制度に加え、平成13年10月から個別労働関係紛争解決制度が、平成18年4月から労働審判制度が施行されるなど、手続面における整備が進んできたところである。

このような中、個別の労働関係の安定に資するため、労働契約に関する民事的なルールの必要性が一層高まり、今般、労働契約の基本的な理念及び労働契約に共通する原則や、判例法理に沿った労働契約の内容の決定及び変更に関する民事的なルール等を一つの体系としてまとめるべく、労働契約法が制定された。

労働契約法(以下「法」という。)の制定により、労働契約における権利義務関係を確定させる法的根拠が示され、労働契約に関する民事的なルールが明らかになり、労働者及び使用者にとって予測可能性が高まるとともに、労働者及び使用者が法によって示された民事的なルールに沿った合理的な行動をとることが促されることを通じて、個別労働関係紛争が防止され、労働者の保護を図りつつ、個別の労働関係の安定に資することが期待されるものであること。

2 労働基準法及び個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律との関係

労働基準法は、罰則をもって担保する労働条件の基準(最低労働基準)を設定しているものであるが、法は、これを前提として、労働条件が定められる労働契約について、合意の原則その他基本的事項を定め、労働契約に関する民事的なルールを明らかにしているものであり、その締結当事者である労働者及び使用者の合理的な行動による円滑な労働条件の決定又は変更を促すものであること。

また、労働基準法については労働基準監督官による監督指導及び罰則により最低労働基準の履行が確保されるものであるが、法については労働基準監督官による監督指導及び罰則による履行確保は行われず、法の趣旨及び内容の周知により、また、法に規定する事項に関する個別労働関係紛争について、個別労働関係紛争の迅速かつ適正な解決を図ることを目的とする個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(平成13年法律第112号)による総合労働相談コーナーにおける相談、都道府県労働局長による助言及び指導、紛争調整委員会によるあっせん等が行われ、その防止及び早期解決が図られることにより、法の趣旨及び内容に沿った合理的な労働条件の決定又は変更が確保されることを期するものであること。

第2 総則(法第1章関係)

1 目的(法第1条関係)

(1) 趣旨

法第1条は、法の目的を明らかにしたものであること。

(2) 内容

ア 法第1条は、労働契約が合意により成立し、又は変更されるという合意の原則その他労働契約に関する基本的事項として民事的効力を明らかにする規定等を定めることにより、労働者及び使用者による合理的な労働条件の決定又は変更が円滑に行われるようにすることを通じて、労働者の保護を図りつつ、個別の労働者及び使用者の間において個別労働関係紛争が生じることのない円滑な関係の維持を図っていくこと、すなわち「労働者の保護を図りつつ、個別の労働関係の安定に資すること」が法の目的であることを規定したものであること。

イ 法第1条の「労働者及び使用者の自主的な交渉の下で、労働契約が合意により成立し、又は変更されるという合意の原則」には、法第3条第1項の労使対等の原則、法第6条の労働契約の成立についての合意の原則及び法第8条の労働契約の変更についての合意の原則が含まれるものであること。

ウ 法第1条の「その他労働契約に関する基本的事項」には、法第3条第1項以外の法第1章の労働契約の原則等を定める規定、法第6条及び第8条以外の法第2章の就業規則と労働契約との法的関係等を定める規定、法第3章の出向、懲戒及び解雇に関する権利濫用禁止規定及び法第4章の期間の定めのある労働契約に関する規定が含まれるものであること。

エ イ及びウのような規定を法に定めることにより、法第1条の「合理的な労働条件の決定又は変更が円滑に行われる」ことが促されることによって、個別労働関係紛争が防止されることとなり、これにより「労働者の保護を図りつつ、個別の労働関係の安定に資する」こととなるものであること。

2 定義(法第2条関係)

(1) 趣旨

法第2条は、法の対象である「労働契約」の締結当事者としての「労働者」及び「使用者」について、その定義を明らかにしたものであること。

(2) 労働者(法第2条第1項関係)

ア 法第2条第1項の「労働者」とは、「使用者」と相対する労働契約の締結当事者であり、「使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者」のすべてが含まれるものであること。

イ 法第2条第1項の「労働者」に該当するか否かは、同項に「使用者に使用されて」と規定されているとおり、労務提供の形態や報酬の労務対償性及びこれらに関連する諸要素を勘案して総合的に判断し、使用従属関係が認められるか否かにより判断されるものであり、これが認められる場合には、「労働者」に該当するものであること。これは、労働基準法第9条の「労働者」の判断と同様の考え方であること。

ウ 民法第623条の「雇用」の労働に従事する者は、法第2条第1項の「労働者」に該当するものであること。

また、民法第632条の「請負」、同法第643条の「委任」又は非典型契約で労務を提供する者であっても、契約形式にとらわれず実態として使用従属関係が認められる場合には、法第2条第1項の「労働者」に該当するものであること。

エ 法第2条第1項の「賃金」とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいうものであること。これは、労働基準法第11条の「賃金」と同義であること。

(3) 使用者(法第2条第2項関係)

法第2条第2項の「使用者」とは、「労働者」と相対する労働契約の締結当事者であり、「その使用する労働者に対して賃金を支払う者」をいうものであること。したがって、個人企業の場合はその企業主個人を、会社その他の法人組織の場合はその法人そのものをいうものであること。これは、労働基準法第10条の「事業主」に相当するものであり、同条の「使用者」より狭い概念であること。

3 労働契約の原則(法第3条関係)

(1) 趣旨

法第3条は、労働契約の基本的な理念及び労働契約に共通する原則を明らかにしたものであること。

(2) 労使対等の原則(法第3条第1項関係)

当事者の合意により契約が成立し、又は変更されることは、契約の一般原則であるが、個別の労働者及び使用者の間には、現実の力関係の不平等が存在している。

このため、法第3条第1項において、労働契約を締結し、又は変更するに当たっては、労働契約の締結当事者である労働者及び使用者の対等の立場における合意によるべきという「労使対等の原則」を規定し、労働契約の基本原則を確認したものであること。これは、労働条件の決定について労働者と使用者が対等の立場に立つべきことを規定した労働基準法第2条第1項と同様の趣旨であること。

(3) 均衡考慮の原則(法第3条第2項関係)

法第3条第2項は、労働契約の締結又は変更に当たり、均衡を考慮することが重要であることから、労働契約の締結当事者である労働者及び使用者が、労働契約を締結し、又は変更する場合には、就業の実態に応じて、均衡を考慮すべきものとするという「均衡考慮の原則」を規定したものであること。

(4) 仕事と生活の調和への配慮の原則(法第3条第3項関係)

法第3条第3項は、近年、仕事と生活の調和が重要となっていることから、この重要性が改めて認識されるよう、労働契約の締結当事者である労働者及び使用者が、労働契約を締結し、又は変更する場合には、仕事と生活の調和に配慮すべきものとするという「仕事と生活の調和への配慮の原則」を規定したものであること。

(5) 信義誠実の原則(法第3条第4項関係)

当事者が契約を遵守すべきことは、契約の一般原則であり、「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない」旨を規定した民法第1条第2項は労働契約についても適用されるものであって、労働契約が遵守されることは、個別労働関係紛争を防止するために重要である。

このため、法第3条第4項において、労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならないことを規定し、「信義誠実の原則」を労働契約に関して確認したものであること。これは、労働条件を定める労働協約、就業規則及び労働契約の遵守義務を規定した労働基準法第2条第2項と同様の趣旨であること。

(6) 権利濫用の禁止の原則(法第3条第5項関係)

当事者が契約に基づく権利を濫用してはならないことは、契約の一般原則であり、「権利の濫用は、これを許さない」旨を規定した民法第1条第3項は労働契約についても適用されるものであるが、個別労働関係紛争の中には、権利濫用に該当すると考えられるものもみられるところである。

このため、法第3条第5項において、労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならないことを規定し、「権利濫用の禁止の原則」を労働契約に関して確認したものであること。

なお、法第3章において、出向、懲戒及び解雇に関する権利濫用を禁止する旨を規定しているが、同章で規定していない場面においても、法第3条第5項の「権利濫用の禁止の原則」が適用されるものであること。

4 労働契約の内容の理解の促進(法第4条関係)

(1) 趣旨

労働契約は、労働契約の締結当事者である労働者及び使用者の合意のみにより成立する契約(諾成契約)であるが、契約内容について労働者が十分理解しないまま労働契約を締結又は変更し、後にその契約内容について労働者と使用者との間において認識の齟齬が生じ、これが原因となって個別労働関係紛争が生じているところである。労働契約の内容である労働条件については、労働基準法第15条第1項により締結時における明示が義務付けられているが、個別労働関係紛争を防止するためには、同項により義務付けられている場面以外においても、労働契約の締結当事者である労働者及び使用者が契約内容について自覚することにより、契約内容があいまいなまま労働契約関係が継続することのないようにすることが重要である。

このため、法第4条において、労働契約の内容の理解の促進について規定したものであること。

(2) 労働者の理解の促進(法第4条第1項関係)

ア 法第4条第1項は、労働条件を提示するのは一般的に使用者であることから、使用者は労働者に提示する労働条件及び労働契約の内容について労働者の理解を深めるようにすることを規定したものであること。

イ 法第4条第1項は、労働契約の締結前において使用者が提示した労働条件について説明等をする場面や、労働契約が締結又は変更されて継続している間の各場面が広く含まれるものであること。これは、労働基準法第15条第1項により労働条件の明示が義務付けられている労働契約の締結時より広いものであること。

ウ 法第4条第1項の「労働者に提示する労働条件」とは、労働契約の締結前又は変更前において、使用者が労働契約を締結又は変更しようとする者に提示する労働条件をいうものであること。

エ 法第4条第1項の「労働契約の内容」は、有効に締結又は変更された労働契約の内容をいうものであること。

オ 法第4条第1項の「労働者の理解を深めるようにする」については、一律に定まるものではないが、例えば、労働契約締結時又は労働契約締結後において就業環境や労働条件が大きく変わる場面において、使用者がそれを説明し又は労働者の求めに応じて誠実に回答すること、労働条件等の変更が行われずとも、労働者が就業規則に記載されている労働条件について説明を求めた場合に使用者がその内容を説明すること等が考えられるものであること。

(3) 書面確認(法第4条第2項関係)

ア 法第4条第2項は、労働者及び使用者は、労働契約の内容について、できる限り書面で確認することについて規定したものであること。

イ 法第4条第2項は、労働契約が締結又は変更されて継続している間の各場面が広く含まれるものであること。これは、労働基準法第15条第1項により労働条件の明示が義務付けられている労働契約の締結時より広いものであること。

ウ 法第4条第2項の「労働契約の内容」については、(2)エと同様であること。

エ 法第4条第2項の「(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)」は、期間の定めのある労働契約が締結される際に、期間満了時において、更新の有無や更新の判断基準等があいまいであるために個別労働関係紛争が生じていることが少なくないことから、期間の定めのある労働契約について、その内容をできる限り書面により確認することが重要であることを明らかにしたものであること。

「期間の定めのある労働契約に関する事項」には、労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号)第5条において、労働契約の締結の際に使用者が書面により明示しなければならないこととされている更新の基準が含まれるものであること。ただし、労働者が次のいずれかの方法によることを希望した場合には、当該方法とすることができること。

① ファクシミリを利用してする送信の方法

② 電子メールその他のその受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信(電気通信事業法(昭和59年法律第86号)第2条第1号に規定する電気通信をいう。)の送信の方法(当該労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものに限る。)

なお、法第4条第1項等法の他の規定における「労働契約の内容」についても、期間の定めのある労働契約に関する事項は含まれるものであること。

オ 法第4条第2項の「できる限り書面により確認する」については、一律に定まるものではないが、例えば、労働契約締結時又は労働契約締結後において就業環境や労働条件が大きく変わる場面において、労働者及び使用者が話し合った上で、使用者が労働契約の内容を記載した書面を交付すること等が考えられるものであること。

5 労働者の安全への配慮(法第5条関係)

(1) 趣旨

ア 通常の場合、労働者は、使用者の指定した場所に配置され、使用者の供給する設備、器具等を用いて労働に従事するものであることから、判例において、労働契約の内容として具体的に定めずとも、労働契約に伴い信義則上当然に、使用者は、労働者を危険から保護するよう配慮すべき安全配慮義務を負っているものとされているが、これは、民法等の規定からは明らかになっていないところである。

このため、法第5条において、使用者は当然に安全配慮義務を負うことを規定したものであること。

イ これについては、次の裁判例が参考となること(別添)。

○ 陸上自衛隊事件(最高裁昭和50年2月25日第三小法廷判決。最高裁判所民事判例集29巻2号143頁)

○ 川義事件(最高裁昭和59年4月10日第三小法廷判決。最高裁判所民事判例集38巻6号557頁)

(2) 内容

ア 法第5条は、使用者は、労働契約に基づいてその本来の債務として賃金支払義務を負うほか、労働契約に特段の根拠規定がなくとも、労働契約上の付随的義務として当然に安全配慮義務を負うことを規定したものであること。

イ 法第5条の「労働契約に伴い」は、労働契約に特段の根拠規定がなくとも、労働契約上の付随的義務として当然に、使用者は安全配慮義務を負うことを明らかにしたものであること。

ウ 法第5条の「生命、身体等の安全」には、心身の健康も含まれるものであること。

エ 法第5条の「必要な配慮」とは、一律に定まるものではなく、使用者に特定の措置を求めるものではないが、労働者の職種、労務内容、労務提供場所等の具体的な状況に応じて、必要な配慮をすることが求められるものであること。

なお、労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)をはじめとする労働安全衛生関係法令においては、事業主の講ずべき具体的な措置が規定されているところであり、これらは当然に遵守されなければならないものであること。

第3 労働契約の成立及び変更(法第2章関係)

1 総論

労働契約は、その締結当事者である労働者及び使用者の合意により成立し、又は変更されるものである。

一方、我が国においては、個別に締結される労働契約では詳細な労働条件は定められず、就業規則によって統一的に労働条件を設定することが広く行われている。また、労働契約関係は、一定程度長期にわたる継続的な契約関係であるのが通常であり、社会経済情勢の変化を始めとする契約当事者を取り巻く事情の変化に応じて、当初取り決めた労働契約の内容を統一的に変更する必要が生じる場合があることから、就業規則の変更により労働契約の内容である労働条件を変更することが広く行われてきたところである。

この就業規則の法的性質については、秋北バス事件最高裁判決(昭和43年12月25日最高裁大法廷判決。最高裁判所民事判例集22巻13号3459頁)において、「合理的な労働条件を定めているものであるかぎり、経営主体と労働者との間の労働条件は、その就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして、その法的規範性が認められるに至っている」と判示され、また、就業規則によって労働条件を不利益に変更する効力については、「新たな就業規則の作成又は変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されないと解すべき」であるが、「当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者においてこれに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されない」と判示され、その後の累次の最高裁判決においても同様の考え方がとられ、判例法理として確立しているものである。

しかしながら、就業規則に労働契約における権利義務関係を確定させる法的効果を認める法的根拠が成文法上は存在せず、また、判例法理は、労働者及び使用者の多くにとって十分には知られておらず、どのような場合に就業規則による労働条件の変更が有効に認められるのかについての予測可能性は必ずしも高くない状況にあった。

このような状況の中で、個別労働関係紛争が多く発生していることにかんがみれば、労働契約の内容の決定及び変更の枠組みを明らかにし、実態として多く行われている就業規則の変更による労働条件の変更に当たっては、変更後の就業規則を労働者に周知させること及び就業規則の変更が合理的なものであることが必要であること等を判例法理に沿って明らかにすることにより、使用者は安易に一方的に就業規則を変更することにより労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできないこと等が明らかとなり、その結果、使用者が就業規則において合理的な労働条件を定めることが促され、これにより、就業規則において不合理な労働条件が定められ、又は不合理な労働条件の変更が行われたこと等を契機とした個別労働関係紛争の防止につながることが期待されるものである。

このため、法第2章において、労働契約が合意により成立し、又は変更されるという「合意の原則」を定めた上で、我が国における労務管理実務において定着している就業規則について、労働契約との法的関係等を規定することにより、労働契約の内容の決定及び変更に関するルールを明らかにしたものであること。

これらの内容は、判例法理に沿って規定したものであり、判例法理を変更するものではないこと。

2 労働契約の成立(法第6条・第7条関係)

(1) 法第6条

ア 趣旨

当事者の合意により契約が成立することは、契約の一般原則であり、労働契約についても当てはまるものであって、法第6条は、この労働契約の成立についての基本原則である「合意の原則」を確認したものであること。

イ 内容

(ア) 法第6条は、労働契約の成立は労働者及び使用者の合意によることを規定するとともに、「労働者が使用者に使用されて労働」すること及び「使用者がこれに対して賃金を支払う」ことが合意の要素であることを規定したものであること。

(イ) 法第6条に「労働者が使用者に使用されて労働し」と規定されているとおり、労働契約は、使用従属関係が認められる労働者と使用者との間において締結される契約を把握する契約類型であり、労働者側からみた場合には、一定の対価(賃金)と一定の労働条件のもとに、自己の労働力の処分を使用者に委ねることを約する契約であること。

(ウ) 民法第623条の「雇用」は、労働契約に該当するものであること。

また、民法第632条の「請負」、同法第643条の「委任」又は非典型契約であっても、契約形式にとらわれず実態として使用従属関係が認められ、当該契約で労務を提供する者が法第2条第1項の「労働者」に該当する場合には、当該契約は労働契約に該当するものであること。

(エ) 法第6条の「賃金」については、第2の2(2)エと同様であること。

(オ) 法第6条に「合意することによって成立する」と規定されているとおり、労働契約は、労働契約の締結当事者である労働者及び使用者の合意のみにより成立するものであること。したがって、労働契約の成立の要件としては、契約内容について書面を交付することまでは求められないものであること。

また、法第6条の労働契約の成立の要件としては、労働条件を詳細に定めていなかった場合であっても、労働契約そのものは成立し得るものであること。

(2) 法第7条

ア 趣旨

(ア) 我が国においては、個別に締結される労働契約では詳細な労働条件は定められず、就業規則によって統一的に労働条件を設定することが広く行われているが、就業規則で定める労働条件と個別の労働者の労働契約の内容である労働条件との法的関係については法令上必ずしも明らかでない。

このため、法第7条において、労働契約の成立場面における就業規則と労働契約との法的関係について規定したものであること。

(イ) これについては、次の裁判例が参考となること(別添)。

○ 労働契約と就業規則との関係について、秋北バス事件最高裁判決

○ 秋北バス事件最高裁判決を踏襲した電電公社帯広局事件最高裁判決(最高裁昭和61年3月13日第一小法廷判決)及び日立製作所武蔵工場事件最高裁判決(最高裁平成3年11月28日第一小法廷判決)

○ 就業規則が拘束力を生ずるために周知が必要であるとしたものとして、フジ興産事件最高裁判決(最高裁平成15年10月10日第二小法廷判決)

イ 内容

(ア) 法第7条は、労働契約において労働条件を詳細に定めずに労働者が就職した場合において、「合理的な労働条件が定められている就業規則」であること及び「就業規則を労働者に周知させていた」ことという要件を満たしている場合には、就業規則で定める労働条件が労働契約の内容を補充し、「労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件による」という法的効果が生じることを規定したものであること。

これは、労働契約の成立についての合意はあるものの、労働条件は詳細に定めていない場合であっても、就業規則で定める労働条件によって労働契約の内容を補充することにより、労働契約の内容を確定するものであること。

(イ) 法第7条本文に「労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において」と規定されているとおり、法第7条は労働契約の成立場面について適用されるものであり、既に労働者と使用者との間で労働契約が締結されているが就業規則は存在しない事業場において新たに就業規則を制定した場合については適用されないものであること。また、就業規則が存在する事業場で使用者が就業規則の変更を行った場合については、法第10条の問題となるものであること。

(ウ) 法第7条本文の「合理的な労働条件」は、個々の労働条件について判断されるものであり、就業規則において合理的な労働条件を定めた部分については同条の法的効果が生じ、合理的でない労働条件を定めた部分については同条本文の法的効果が生じないこととなるものであること。

就業規則に定められている事項であっても、例えば、就業規則の制定趣旨や根本精神を宣言した規定、労使協議の手続に関する規定等労働条件でないものについては、法第7条本文によっても労働契約の内容とはならないものであること。

(エ) 法第7条の「就業規則」とは、労働者が就業上遵守すべき規律及び労働条件に関する具体的細目について定めた規則類の総称をいい、労働基準法第89条の「就業規則」と同様であるが、法第7条の「就業規則」には、常時10人以上の労働者を使用する使用者以外の使用者が作成する労働基準法第89条では作成が義務付けられていない就業規則も含まれるものであること。

(オ) 法第7条の「周知」とは、例えば、

① 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること

② 書面を労働者に交付すること

③ 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること

等の方法により、労働者が知ろうと思えばいつでも就業規則の存在や内容を知り得るようにしておくことをいうものであること。このように周知させていた場合には、労働者が実際に就業規則の存在や内容を知っているか否かにかかわらず、法第7条の「周知させていた」に該当するものであること。

なお、労働基準法第106条の「周知」は、労働基準法施行規則第52条の2により、①から③までのいずれかの方法によるべきこととされているが、法第7条の「周知」は、これらの3方法に限定されるものではなく、実質的に判断されるものであること。

(カ) 法第7条本文の「労働者に周知させていた」は、その事業場の労働者及び新たに労働契約を締結する労働者に対してあらかじめ周知させていなければならないものであり、新たに労働契約を締結する労働者については、労働契約の締結と同時である場合も含まれるものであること。

(キ) 法第7条は、就業規則により労働契約の内容を補充することを規定したものであることから、同条本文の規定による法的効果が生じるのは、労働契約において詳細に定められていない部分についてであり、「就業規則の内容と異なる労働条件」を合意していた部分については、同条ただし書により、法第12条に該当する場合(合意の内容が就業規則で定める基準に達しない場合)を除き、その合意が優先するものであること。

3 労働契約の内容の変更(法第8条関係)

(1) 趣旨

当事者の合意により契約が変更されることは、契約の一般原則であり、労働契約についても当てはまるものであって、法第8条は、この労働契約の変更についての基本原則である「合意の原則」を確認したものであること。

(2) 内容

ア 法第8条は、「労働者及び使用者」が「合意」するという要件を満たした場合に、「労働契約の内容である労働条件」が「変更」されるという法的効果が生じることを規定したものであること。

イ 法第8条に「合意により」と規定されているとおり、労働契約の内容である労働条件は、労働契約の締結当事者である労働者及び使用者の合意のみにより変更されるものであること。したがって、労働契約の変更の要件としては、変更内容について書面を交付することまでは求められないものであること。

ウ 法第8条の「労働契約の内容である労働条件」には、労働者及び使用者の合意により労働契約の内容となっていた労働条件のほか、法第7条本文により就業規則で定める労働条件によるものとされた労働契約の内容である労働条件、法第10条本文により就業規則の変更により変更された労働契約の内容である労働条件及び法第12条により就業規則で定める基準によることとされた労働条件が含まれるものであり、労働契約の内容である労働条件はすべて含まれるものであること。

4 就業規則の変更による労働契約の内容の変更(法第9条・第10条関係)

(1) 趣旨

ア 労働契約関係は一定の期間にわたり継続するという特徴を有しており、その継続する期間においては、労働契約の内容が変更される場合が少なくない。

この労働契約の内容である労働条件の変更については、法第8条の「合意の原則」によることが契約の一般原則であるが、我が国においては、就業規則によって労働条件を統一的に設定し、労働条件の変更も就業規則の変更によることが広く行われており、その際、就業規則の変更により自由に労働条件を変更することができるとの使用者の誤解や、就業規則の変更による労働条件の変更に関する個別労働関係紛争もみられるところである。

このため、法第9条において、法第8条の「合意の原則」を就業規則の変更による労働条件の変更の場面に当てはめ、使用者は就業規則の変更によって一方的に労働契約の内容である労働条件を労働者の不利益に変更することはできないことを確認的に規定した上で、法第10条において、就業規則の変更によって労働契約の内容である労働条件が変更後の就業規則に定めるところによるものとされる場合を明らかにしたものであること。

これらの規定により、就業規則の変更によって生じる法的効果を明らかにし法的安定性を高めるとともに、使用者の合理的な行動を促すことを通じ、労働条件の変更に関する個別労働関係紛争の防止に資するようにすることとしたものであること。

イ これについては、次の裁判例が参考となること(別添)。

○ 労働契約と就業規則との関係について、秋北バス事件最高裁判決

○ どのような場合に就業規則の変更が「合理的なものである」と判断されるのかを明らかにしたものとして、大曲市農業協同組合事件最高裁判決(最高裁昭和63年2月16日第三小法廷判決)

○ 就業規則の変更が「合理的なものである」か否かを判断するに当たって考慮すべき7つの要素を明らかにしたものとして、第四銀行事件最高裁判決(最高裁平成9年2月28日第二小法廷判決)

○ 一部の労働者のみに大きな不利益が生じる就業規則の変更による労働条件の変更事案について、就業規則の変更の合理性を否定したものとして、みちのく銀行事件最高裁判決(最高裁平成12年9月7日第一小法廷判決)

○ 就業規則が拘束力を生ずるために周知が必要であるとしたものとして、フジ興産事件最高裁判決

ウ 法第9条及び第10条は、イの確立した最高裁判所の判例法理に沿って規定したものであり、判例法理に変更を加えるものではないこと。

(2) 法第9条の内容

ア 法第9条本文は、法第8条の労働契約の変更についての「合意の原則」に従い、使用者が労働者と合意することなく就業規則の変更により労働契約の内容である労働条件を労働者の不利益に変更することはできないという原則を確認的に規定したものであること。

法第9条ただし書は、法第10条の場合は、法第9条本文に規定する原則の例外であることを規定したものであること。

イ 法第9条の「就業規則」については、2(2)イ(エ)と同様であること。

ウ 法第9条の「労働者の不利益」については、個々の労働者の不利益をいうものであること。

(3) 法第10条の内容

ア 法第10条は、「就業規則の変更」という方法によって「労働条件を変更する場合」において、使用者が「変更後の就業規則を労働者に周知させ」たこと及び「就業規則の変更」が「合理的なものである」ことという要件を満たした場合に、労働契約の変更についての「合意の原則」の例外として、「労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによる」という法的効果が生じることを規定したものであること。

イ 法第10条は、就業規則の変更による労働条件の変更が労働者の不利益となる場合に適用されるものであること。

なお、就業規則に定められている事項であっても、労働条件でないものについては、法第10条は適用されないものであること。

ウ 法第10条の「就業規則の変更」には、就業規則の中に現に存在する条項を改廃することのほか、条項を新設することも含まれるものであること。

エ 法第10条の「就業規則」及び「周知」については、2(2)イ(エ)及び(オ)と同様であること。

オ 法第10条本文の合理性判断の考慮要素

(ア) 法第10条本文の「労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況」は、就業規則の変更が合理的なものであるか否かを判断するに当たっての考慮要素として例示したものであり、個別具体的な事案に応じて、これらの考慮要素に該当する事実を含め就業規則の変更に係る諸事情が総合的に考慮され、合理性判断が行われることとなるものであること。

(イ) 法第10条本文の「労働者の受ける不利益の程度」については、実際に紛争となる事例は、就業規則の変更により個々の労働者に不利益が生じたことに起因するものであり、個々の労働者の不利益の程度をいうものであること。

また、法第10条本文の「変更後の就業規則の内容の相当性」については、就業規則の変更の内容全体の相当性をいうものであり、変更後の就業規則の内容面に係る制度変更一般の状況が広く含まれるものであること。

(ウ) 法第10条本文の「労働条件の変更の必要性」は、使用者にとっての就業規則による労働条件の変更の必要性をいうものであること。

(エ) 法第10条本文の「労働組合等との交渉の状況」は、労働組合等事業場の労働者の意思を代表するものとの交渉の経緯、結果等をいうものであること。

「労働組合等」には、労働者の過半数で組織する労働組合その他の多数労働組合や事業場の過半数を代表する労働者のほか、少数労働組合や、労働者で構成されその意思を代表する親睦団体等労働者の意思を代表するものが広く含まれるものであること。

(オ) 法第10条本文の「その他の就業規則の変更に係る事情」は、「労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況」を含め就業規則の変更に係る諸事情が総合的に考慮されることをいうものであること。

(カ) 法第10条本文の合理性判断の考慮要素と判例法理との関係については、次のとおりであり、同条本文は、判例法理に沿ったものであること。

○ 就業規則の変更の合理性判断に関する裁判例として、(1)イに掲げた第四銀行事件最高裁判決においては、

① 就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度

② 使用者側の変更の必要性の内容・程度

③ 変更後の就業規則の内容自体の相当性

④ 代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況

⑤ 労働組合等との交渉の経緯

⑥ 他の労働組合又は他の従業員の対応

⑦ 同種事項に関する我が国社会における一般的状況

という7つの考慮要素が列挙されているが、これらの中には内容的に互いに関連し合うものもあるため、法第10条本文では、関連するものについては統合して列挙しているものであること。

具体的には、第四銀行事件最高裁判決において示された「①就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度」「②使用者側の変更の必要性の内容・程度」「③変更後の就業規則の内容自体の相当性」「⑤労働組合等との交渉の経緯」について、法第10条本文ではそれぞれ「労働者の受ける不利益の程度」「労働条件の変更の必要性」「変更後の就業規則の内容の相当性」「労働組合等との交渉の状況」として規定したものであること。

このうち、法第10条の「変更後の就業規則の内容の相当性」には、就業規則の内容面に係る制度変更一般の状況が広く含まれるものであり、第四銀行事件最高裁判決で列挙されている考慮要素である「③変更後の就業規則の内容自体の相当性」のみならず、「④代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況」「⑦同種事項に関する我が国社会における一般的状況」も含まれるものであること。また、これらの考慮要素に含まれない事項についても、「その他の就業規則の変更に係る事情」という文言で包括的に表現されているものであること。

また、法第10条の「労働組合等との交渉の状況」の労働組合等には、労働者の過半数で組織する労働組合その他の多数労働組合や事業場の過半数を代表する労働者のほか、少数労働組合や、労働者で構成されその意思を代表する親睦団体等労働者の意思を代表するものが広く含まれるものであり、第四銀行事件最高裁判決で列挙されている「⑤労働組合等との交渉の経緯」「⑥他の労働組合又は他の従業員の対応」はこれに該当するものであること。

したがって、法第10条の規定は判例法理に沿った内容であり、判例法理に変更を加えるものではないこと。

○ (1)イに掲げた大曲市農業協同組合事件最高裁判決においては、「特に、賃金、退職金など労働者にとつて重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである。」と判示されており、法第10条の規定は、この判例法理についても変更を加えるものではないこと。

○ (1)イに掲げたみちのく銀行事件最高裁判決においては、2(2)ア(イ)に掲げた秋北バス事件最高裁判決、大曲市農業協同組合事件最高裁判決及び第四銀行事件最高裁判決の判旨を引用した上で、「本件における賃金体系の変更は、短期的にみれば、特定の層の行員にのみ賃金コスト抑制の負担を負わせているものといわざるを得ず、その負担の程度も前示のように大幅な不利益を生じさせるものであり、それらの者は中堅層の労働条件の改善などといった利益を受けないまま退職の時期を迎えることとなるのである。就業規則の変更によってこのような制度の改正を行う場合には、一方的に不利益を受ける労働者について不利益性を緩和するなどの経過措置を設けることによる適切な救済を併せ図るべきであり、それがないままに右労働者に大きな不利益のみを受忍させることには、相当性がないものというほかはない。」と判示され、また、「本件では、行員の約73%を組織する労組が本件第一次変更及び本件第二次変更に同意している。しかし、Xらの被る前示の不利益性の程度や内容を勘案すると、賃金面における変更の合理性を判断する際に労組の同意を大きな考慮要素と評価することは相当ではないというべきである。」と判示されており、法第10条の規定は、この判例法理についても変更を加えるものではないこと。

カ 就業規則の変更が法第10条本文の「合理的」なものであるという評価を基礎付ける事実についての主張立証責任は、従来どおり、使用者側が負うものであること。

キ 法第10条本文の「当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする」という法的効果が生じるのは、同条本文の要件を満たした時点であり、通常は、就業規則の変更が合理的なものであることを前提に、使用者が変更後の就業規則を労働者に周知させたことが客観的に認められる時点であること。

ク 法第10条ただし書の「就業規則の変更によっては変更されない労働条件」として合意していた部分については、同条ただし書により、法第12条に該当する場合(合意の内容が就業規則で定める基準に達しない場合)を除き、その合意が優先するものであること。

ケ なお、法第7条ただし書の「就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分」については、将来的な労働条件について

① 就業規則の変更により変更することを許容するもの

② 就業規則の変更ではなく個別の合意により変更することとするもの

のいずれもがあり得るものであり、①の場合には法第10条本文が適用され、②の場合には同条ただし書が適用されるものであること。

5 就業規則の変更に係る手続(法第11条関係)

(1) 趣旨

就業規則に関する規定は、法第2章のほか、労働基準法第9章においても定められており、使用者は、就業規則に関して、法の規定の趣旨及び内容を理解するとともに、労働基準法の規定について遵守しなければならないものである。

特に、労働基準法第89条及び第90条に規定する就業規則に関する手続は、法第10条本文の法的効果を生じさせるための要件ではないものの、就業規則の内容の合理性に資するものである。

このため、法第11条において、就業規則の変更の手続は、労働基準法第89条及び第90条の定めるところによることを規定し、それらの手続が重要であることを明らかにしたものであること。

(2) 内容

ア 法第10条は、就業規則の変更により労働契約の内容である労働条件を変更することができる場合について規定しているが、法第11条は、労働基準法において、就業規則の変更の際に必要となる手続が規定されていることを規定したものであること。

イ 就業規則の変更の手続については、

① 労働基準法第89条により、常時10人以上の労働者を使用する使用者は、変更後の就業規則を所轄の労働基準監督署長に届け出なければならないこと

② 労働基準法第90条により、就業規則の変更について過半数労働組合等の意見を聴かなければならず、①の届出の際に、その意見を記した書面を添付しなければならないこと

とされているものであること。

ウ 労働基準法第89条及び第90条の手続が履行されていることは、法第10条本文の法的効果を生じさせるための要件ではないものの、同条本文の合理性判断に際しては、就業規則の変更に係る諸事情が総合的に考慮されることから、使用者による労働基準法第89条及び第90条の遵守の状況は、合理性判断に際して考慮され得るものであること。

6 就業規則違反の労働契約(法第12条関係)

(1) 趣旨

就業規則は、労働条件を統一的に設定するものであり、法第7条本文、第10条本文及び第12条においては、一定の場合に、労働契約の内容は、就業規則で定めるところとなることを規定しているところである。

一方、就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた場合及び就業規則の変更によっては変更されない労働条件を合意していた場合には、それぞれ、法第7条ただし書及び第10条ただし書によりその合意が優先されることとなるものであるが、就業規則を下回る個別の合意を認めた場合には、就業規則の内容に合理性を求めている法第7条本文及び第10条本文の規定の意義が失われ、個別労働関係紛争をも惹起しかねないものである。

このため、個別労働関係紛争の防止にも資するよう、法第12条において、就業規則を下回る労働契約の効力について規定したものであること。

(2) 内容

ア 法第12条は、就業規則を下回る労働契約は、その部分については就業規則で定める基準まで引き上げられることを規定したものであること。

イ 法第12条の「就業規則」については、2(2)イ(エ)と同様であること。

ウ 法第12条の「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約」とは、例えば、就業規則に定められた賃金より低い賃金等就業規則に定められた基準を下回る労働条件を内容とする労働契約をいうものであること。

エ 法第12条は、就業規則で定める基準以上の労働条件を定める労働契約は、これを有効とする趣旨であること。

オ 法第12条の「その部分については、無効とする」とは、就業規則で定める基準に達しない部分のみを無効とする趣旨であり、労働契約中のその他の部分は有効であること。

カ 法第12条の「無効となった部分は、就業規則で定める基準による」とは、労働契約の無効となった部分については、就業規則の規定に従い、労働者と使用者との間の権利義務関係が定まるものであること。

キ なお、労働基準法第93条については、法附則第2条による改正により、「労働契約と就業規則との関係については、労働契約法第12条の定めるところによる」旨を規定したところであり、これは、改正前と同内容であること。

7 法令及び労働協約と就業規則との関係(法第13条関係)

(1) 趣旨

就業規則が法令に反してはならないこと及び労働組合と使用者との間の合意により締結された労働協約は使用者が作成する就業規則よりも優位に立つことは、法理上当然であり、就業規則は法令又は労働協約に反してはならないものである。

一方、法第7条、第10条及び第12条においては、一定の場合に就業規則で定める労働条件が労働契約の内容となることを規定しているが、就業規則が法令又は労働協約に反している場合においても当該就業規則で定める労働条件が労働契約の内容となることは適当ではない。

このため、法第13条において、法令又は労働協約に反する就業規則の効力について規定したものであること。

(2) 内容

ア 法第13条は、就業規則で定める労働条件が法令又は労働協約に反している場合には、その労働条件は労働契約の内容とはならないことを規定したものであること。

なお、法第13条は、労働基準法第92条第1項と同趣旨の規定であり、就業規則と法令又は労働協約との関係を変更するものではないこと。

イ 法第13条の「就業規則」については、2(2)イ(エ)と同様であること。

ウ 法第13条の「法令」とは、強行法規としての性質を有する法律、政令及び省令をいうものであること。なお、罰則を伴う法令であるか否かは問わないものであり、労働基準法以外の法令も含むものであること。

エ 法第13条の「労働協約」とは、労働組合法(昭和24年法律第174号)第14条にいう「労働組合と使用者又はその団体との間の労働条件その他に関する」合意で、「書面に作成し、両当事者が署名し、又は記名押印したもの」をいうものであること。

また、法第13条の「労働協約に反する場合」とは、就業規則の内容が労働協約において定められた労働条件その他労働者の待遇に関する基準(規範的部分)に反する場合をいうものであること。

オ 法第13条の「労働協約の適用を受ける労働者との間の労働契約については」とは、事業場の一部の労働者のみが労働組合に加入しており、労働協約の適用が事業場の一部の労働者に限られている場合には、労働協約の適用を受ける労働者(労働組合法第17条及び第18条により労働協約が拡張適用される労働者を含む。)に関してのみ、法第13条が適用されることをいうものであること。

第4 労働契約の継続及び終了(法第3章関係)

1 出向(法第14条関係)

(1) 趣旨

出向は大企業を中心に広く行われているが、出向の権利濫用が争われた裁判例もみられ、また、出向は労務の提供先が変わることから労働者への影響も大きいと考えられることから、権利濫用に該当する出向命令による紛争を防止する必要がある。

このため、法第14条において、権利濫用に該当する出向命令の効力について規定したものであること。

(2) 内容

ア 法第14条は、使用者が労働者に出向を命ずることができる場合であっても、その出向の命令が権利を濫用したものと認められる場合には無効となることを明らかにするとともに、権利濫用であるか否かを判断するに当たっては、出向を命ずる必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情が考慮されることを規定したものであること。

イ 法第14条の「出向」とは、いわゆる在籍型出向をいうものであり、使用者(出向元)と出向を命じられた労働者との間の労働契約関係が終了することなく、出向を命じられた労働者が出向先に使用されて労働に従事することをいうものであること。

ウ 法第14条の「使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において」とは、労働契約を締結することにより直ちに使用者が出向を命ずることができるものではなく、どのような場合に使用者が出向を命ずることができるのかについては、個別具体的な事案に応じて判断されるものであること。

2 懲戒(法第15条関係)

(1) 趣旨

懲戒は、使用者が企業秩序を維持し、企業の円滑な運営を図るために行われるものであるが、懲戒の権利濫用が争われた裁判例もみられ、また、懲戒は労働者に労働契約上の不利益を生じさせるものであることから、権利濫用に該当する懲戒による紛争を防止する必要がある。

このため、法第15条において、権利濫用に該当するものとして無効となる懲戒の効力について規定したものであること。

(2) 内容

ア 法第15条は、使用者が労働者を懲戒することができる場合であっても、その懲戒が「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には権利濫用に該当するものとして無効となることを明らかにするとともに、権利濫用であるか否かを判断するに当たっては、労働者の行為の性質及び態様その他の事情が考慮されることを規定したものであること。

イ 法第15条の「懲戒」とは、労働基準法第89条第9号の「制裁」と同義であり、同条により、当該事業場に懲戒の定めがある場合には、その種類及び程度について就業規則に記載することが義務付けられているものであること。

3 解雇(法第16条関係)

(1) 趣旨

ア 解雇は、労働者に与える影響が大きく、解雇に関する紛争も増大していることから、解雇に関するルールをあらかじめ明らかにすることにより、解雇に際して発生する紛争を防止し、その解決を図る必要がある。

このため、法第16条において、権利濫用に該当する解雇の効力について規定したものであること。

イ これについては、次の裁判例が参考となること(別添)。

○ 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効になると判示した日本食塩製造事件最高裁判決(最高裁昭和50年4月25日第二小法廷判決)

(2) 内容

ア 法第16条は、最高裁判所判決で確立しているいわゆる解雇権濫用法理を規定し、解雇が「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には、権利濫用に該当するものとして無効となることを明らかにしたものであること。

なお、法第16条は、法附則第2条による改正前の労働基準法第18条の2と同内容であること。

イ 法附則第2条による改正前の労働基準法第18条の2については、「解雇権濫用の評価の前提となる事実のうち、圧倒的に多くのものについて使用者側に主張立証責任を負わせている現在の裁判実務を何ら変更することなく最高裁判所判決で確立した解雇権濫用法理を法律上明定したもの」であり、「最高裁判所で確立した解雇権濫用法理とこれに基づく民事裁判実務の通例に則して作成されたものであることを踏まえ、解雇権濫用の評価の前提となる事実のうち圧倒的に多くのものについて使用者側に主張立証責任を負わせている現在の裁判上の実務を変更するものではない」ことが立法者の意思であることが明らかにされており、これについては法第16条においても同様であること。

第5 期間の定めのある労働契約(法第4章関係)

1 総論

期間の定めのある労働契約(以下「有期労働契約」という。)については、使用者のみならず労働者のニーズもあることから、有期労働契約が良好な雇用形態となるようにすることが重要であるが、その実態をみると、契約の終了場面において紛争がみられるところである。有期労働契約の予期せぬ終了は、有期労働契約により労働する労働者(以下「有期契約労働者」という。)への影響が大きいことから、有期労働契約の終了場面における紛争を防止する必要がある。

このため、法第17条において、契約期間中の解雇及び契約期間についての配慮について規定することにより、有期労働契約の終了場面に関するルールを明らかにしたものであること。

また、有期労働契約は、パート労働、派遣労働を始め、いわゆる正社員以外の多くの労働形態に共通してみられる特徴になっているが、有期労働契約の反復更新の下で生じる雇止めに対する不安を解消していくことや、期間の定めがあることによる不合理な労働条件を是正していくことが課題となっていることに対処し、労働者が安心して働き続けることができる社会を実現するため、有期労働契約の適正な利用のためのルールを整備するものとして、法第18条から第20条までの規定が設けられたものであること。

2 契約期間中の解雇(法第17条第1項関係)

(1) 趣旨

有期契約労働者の実態をみると、契約期間中の雇用保障を期待している者が多くみられるところである。この契約期間中の雇用保障に関しては、民法第628条において、「当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる」ことが規定されているが、「やむを得ない事由があるとき」に該当しない場合の取扱いについては、同条の規定からは明らかでない。

このため、法第17条第1項において、「やむを得ない事由があるとき」に該当しない場合は解雇することができないことを明らかにしたものであること。

(2) 内容

ア 法第17条第1項は、使用者は、やむを得ない事由がある場合でなければ、契約期間中は有期契約労働者を解雇することができないことを規定したものであること。

イ 法第17条第1項の「やむを得ない事由」があるか否かは、個別具体的な事案に応じて判断されるものであるが、契約期間は労働者及び使用者が合意により決定したものであり、遵守されるべきものであることから、「やむを得ない事由」があると認められる場合は、解雇権濫用法理における「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」以外の場合よりも狭いと解されるものであること。

ウ 契約期間中であっても一定の事由により解雇することができる旨を労働者及び使用者が合意していた場合であっても、当該事由に該当することをもって法第17条第1項の「やむを得ない事由」があると認められるものではなく、実際に行われた解雇について「やむを得ない事由」があるか否かが個別具体的な事案に応じて判断されるものであること。

エ 法第17条第1項は、「解雇することができない」旨を規定したものであることから、使用者が有期労働契約の契約期間中に労働者を解雇しようとする場合の根拠規定になるものではなく、使用者が当該解雇をしようとする場合には、従来どおり、民法第628条が根拠規定となるものであり、「やむを得ない事由」があるという評価を基礎付ける事実についての主張立証責任は、使用者側が負うものであること。

3 契約期間についての配慮(法第17条第2項関係)

(1) 趣旨

有期労働契約については、短期間の契約が反復更新された後に雇止めされることによる紛争がみられるところであるが、短期間の有期労働契約を反復更新するのではなく、当初からその有期契約労働者を使用しようとする期間を契約期間とする等により全体として契約期間が長期化することは、雇止めに関する紛争の端緒となる契約更新の回数そのものを減少させ、紛争の防止に資するものである。

このため、法第17条第2項において、その有期労働契約により労働者を使用する目的に応じて適切に契約期間を設定するよう、使用者は配慮しなければならないことを規定したものであること。

(2) 内容

ア 使用者が有期労働契約により労働者を使用する目的は、臨時的・一時的な業務の増加に対応するもの、一定期間を要する事業の完成のためのもの等様々であるが、法第17条第2項は、当該目的に照らして必要以上に短い契約期間を設定し、その契約を反復して更新しないよう使用者は配慮しなければならないことを明らかにしたものであること。

例えば、ある労働者について、使用者が一定の期間にわたり使用しようとする場合には、その一定の期間において、より短期の有期労働契約を反復更新するのではなく、その一定の期間を契約期間とする有期労働契約を締結するよう配慮しなければならないものであること。

イ 法第17条第2項の「その労働契約により労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間」に該当するか否かは、個別具体的な事案に応じて判断されるものであり、同項は、契約期間を特定の長さ以上の期間とすることまでを求めているものではないこと。

4 有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換(法第18条関係)

(1) 趣旨

有期労働契約(期間の定めのある労働契約をいう。以下同じ。)については、契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されずに終了する場合がある一方で、労働契約が反復更新され、長期間にわたり雇用が継続する場合も少なくない。こうした中で、有期契約労働者(有期労働契約を締結している労働者をいう。以下同じ。)については、雇止め(使用者が有期労働契約の更新を拒否することをいう。以下同じ。)の不安があることによって、年次有給休暇の取得など労働者としての正当な権利行使が抑制されるなどの問題が指摘されている。

こうした有期労働契約の現状を踏まえ、法第18条において、有期労働契約が5年を超えて反復更新された場合は、有期契約労働者の申込みにより期間の定めのない労働契約(以下「無期労働契約」という。)に転換させる仕組み(以下「無期転換ルール」という。)を設けることにより、有期労働契約の濫用的な利用を抑制し労働者の雇用の安定を図ることとしたものであること。

(2) 内容

ア 法第18条第1項は、同一の使用者との間で締結された2以上の有期労働契約の契約期間を通算した期間(以下「通算契約期間」という。)が5年を超える有期契約労働者が、使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、無期労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者が当該申込みを承諾したものとみなされ、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日の翌日から労務が提供される無期労働契約が成立することを規定したものであること。

イ 法第18条第1項の「同一の使用者」は、労働契約を締結する法律上の主体が同一であることをいうものであり、したがって、事業場単位ではなく、労働契約締結の法律上の主体が法人であれば法人単位で、個人事業主であれば当該個人事業主単位で判断されるものであること。

ただし、使用者が、就業実態が変わらないにもかかわらず、法第18条第1項に基づき有期契約労働者が無期労働契約への転換を申し込むことができる権利(以下「無期転換申込権」という。)の発生を免れる意図をもって、派遣形態や請負形態を偽装して、労働契約の当事者を形式的に他の使用者に切り替えた場合は、法を潜脱するものとして、同項の通算契約期間の計算上「同一の使用者」との労働契約が継続していると解されるものであること。

なお、派遣労働者の場合は、労働契約の締結の主体である派遣元事業主との有期労働契約について法第18条第1項の通算契約期間が計算されるものであること。

ウ 無期転換申込権は、「二以上の有期労働契約」の通算契約期間が5年を超える場合、すなわち更新が1回以上行われ、かつ、通算契約期間が5年を超えている場合に生じるものであること。したがって、労働基準法第14条第1項の規定により一定の事業の完了に必要な期間を定めるものとして締結が認められている契約期間が5年を超える有期労働契約が締結されている場合、一度も更新がないときは、法第18条第1項の要件を満たすことにはならないこと。

エ 無期転換申込権は、当該契約期間中に通算契約期間が5年を超えることとなる有期労働契約の契約期間の初日から当該有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に行使することができるものであること。

なお、無期転換申込権が生じている有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に無期転換申込権を行使しなかった場合であっても、再度有期労働契約が更新された場合は、新たに無期転換申込権が発生し、有期契約労働者は、更新後の有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、無期転換申込権を行使することが可能であること。

オ 無期転換申込権が発生する有期労働契約の締結以前に、無期転換申込権を行使しないことを更新の条件とする等有期契約労働者にあらかじめ無期転換申込権を放棄させることを認めることは、雇止めによって雇用を失うことを恐れる労働者に対して、使用者が無期転換申込権の放棄を強要する状況を招きかねず、法第18条の趣旨を没却するものであり、こうした有期契約労働者の意思表示は、公序良俗に反し、無効と解されるものであること。

カ 法第18条第1項の規定による無期労働契約への転換は期間の定めのみを変更するものであるが、同項の「別段の定め」をすることにより、期間の定め以外の労働条件を変更することは可能であること。この「別段の定め」は、労働協約、就業規則及び個々の労働契約(無期労働契約への転換に当たり従前の有期労働契約から労働条件を変更することについての有期契約労働者と使用者との間の個別の合意)をいうものであること。

この場合、無期労働契約への転換に当たり、職務の内容などが変更されないにもかかわらず、無期転換後における労働条件を従前よりも低下させることは、無期転換を円滑に進める観点から望ましいものではないこと。

なお、就業規則により別段の定めをする場合においては、法第18条の規定が、法第7条から第10条までに定められている就業規則法理を変更することになるものではないこと。

キ 有期契約労働者が無期転換申込権を行使することにより、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日の翌日から労務が提供される無期労働契約がその行使の時点で成立していることから、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日をもって当該有期契約労働者との契約関係を終了させようとする使用者は、無期転換申込権の行使により成立した無期労働契約を解約(解雇)する必要があり、当該解雇が法第16条に規定する「客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない場合」には、権利濫用に該当するものとして無効となること。

また、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日前に使用者が当該有期契約労働者との契約関係を終了させようとする場合は、これに加えて、当該有期労働契約の契約期間中の解雇であり法第17条第1項の適用があること。

なお、解雇については当然に労働基準法第20条の解雇予告等の規定の適用があるものであること。

ク 有期労働契約の更新時に、所定労働日や始業終業時刻等の労働条件の定期的変更が行われていた場合に、無期労働契約への転換後も従前と同様に定期的にこれらの労働条件の変更を行うことができる旨の別段の定めをすることは差し支えないと解されること。

また、無期労働契約に転換した後における解雇については、個々の事情により判断されるものであるが、一般的には、勤務地や職務が限定されている等労働条件や雇用管理がいわゆる正社員と大きく異なるような労働者については、こうした限定等の事情がない、いわゆる正社員と当然には同列に扱われることにならないと解されること。

ケ 法第18条第2項は、同条第1項の通算契約期間の計算に当たり、有期労働契約が不存在の期間(以下「無契約期間」という。)が一定以上続いた場合には、当該通算契約期間の計算がリセットされること(いわゆる「クーリング」)について規定したものであること。

法及び「労働契約法第十八条第一項の通算契約期間に関する基準を定める省令」(平成24年厚生労働省令第148号。以下「基準省令」という。)の規定により、同一の有期契約労働者と使用者との間で、1か月以上の無契約期間を置いて有期労働契約が再度締結された場合であって、当該無契約期間の長さが次の①、②のいずれかに該当するときは、当該無契約期間は法第18条第2項の空白期間に該当し、当該空白期間前に終了している全ての有期労働契約の契約期間は、同条第1項の通算契約期間に算入されない(クーリングされる)こととなること。

なお、無契約期間の長さが1か月に満たない場合は、法第18条第2項の空白期間に該当することはなく、クーリングされないこと(基準省令第2条。シ参照)。

① 6か月以上である場合

② その直前の有期労働契約の契約期間(複数の有期労働契約が間を置かずに連続している場合又は基準省令第1条第1項で定める基準に該当し連続するものと認められる場合にあっては、それらの有期労働契約の契約期間の合計)が1年未満の場合にあっては、その期間に2分の1を乗じて得た期間(1か月未満の端数は1か月に切り上げて計算する。)以上である場合

コ 基準省令第1条第1項は、法第18条第2項の「契約期間が連続すると認められるものとして厚生労働省令で定める基準」を規定したものであること。具体的には、次の①から③までのとおりであること。

なお、ケ①のとおり、6か月以上の空白期間がある場合には当該空白期間前に終了している全ての有期労働契約の契約期間は通算契約期間に算入されない。このため、通算契約期間の算定に当たり、基準省令第1条第1項で定める基準に照らし連続すると認められるかどうかの確認が必要となるのは、労働者が無期転換の申込みをしようとする日から遡って直近の6か月以上の空白期間後の有期労働契約についてであること。

① 最初の雇入れの日後最初に到来する無契約期間から順次、無契約期間とその前にある有期労働契約の契約期間の長さを比較し、当該契約期間に2分の1を乗じて得た期間よりも無契約期間の方が短い場合には、無契約期間の前後の有期労働契約が「連続すると認められるもの」となり、前後の有期労働契約の契約期間を通算すること。

② ①において、無契約期間の前にある有期労働契約が他の有期労働契約と間を置かずに連続している場合、又は基準省令第1条第1項で定める基準に該当し連続すると認められるものである場合については、これら連続している又は連続すると認められる全ての有期労働契約の契約期間を通算した期間と、無契約期間の長さとを比較すること。

③ 基準省令第1条第1項各号の「二分の一を乗じて得た期間」の計算において、1か月に満たない端数を生じた場合は、1か月単位に切り上げて計算した期間とすること。また、「二分の一を乗じて得た期間」が6か月を超える場合は、無契約期間が6か月未満のときに前後の有期労働契約が連続するものとして取り扱うこと。

すなわち、次の表の左欄に掲げる有期労働契約の契約期間(②に該当する場合は通算後の期間)の区分に応じ、無契約期間がそれぞれ同表の右欄に掲げる長さのものであるときは、当該無契約期間の前後の有期労働契約が連続すると認められるものとなること。

有期労働契約の契約期間(②に該当する場合は通算した期間)

無契約期間

2か月以下

1か月未満

2か月超~4か月以下

2か月未満

4か月超~6か月以下

3か月未満

6か月超~8か月以下

4か月未満

8か月超~10か月以下

5か月未満

10か月超~

6か月未満

①から③までの説明を図示すると、別紙のとおりであること。

サ 基準省令第1条第2項は、同条第1項で定める基準に該当し無契約期間の前後の有期労働契約を通算する際に、1か月に満たない端数がある場合には、30日をもって1か月とすることを規定したものであること。

また、1か月の計算は、暦に従い、契約期間の初日から起算し、翌月の応当日の前日をもって1か月とすること。具体例を示すと次のとおりであること。

前の契約 平成25年4月5日~同年7月15日(3か月+11日)

次の契約 平成25年8月3日~同年10月1日(1か月+29日)の場合

(3か月+11日)+(1か月+29日)

=4か月+40日

=5か月+10日 として、コ③の表に当てはめ、無契約期間が3か月未満であるときは前後の有期労働契約が連続すると認められる。

なお、法第18条第1項の通算契約期間の計算においても、これと同様に計算すべきものと解されること。

シ 基準省令第2条は、法第18条第2項の「二分の一を乗じて得た期間を基礎として厚生労働省令で定める期間」を規定したものであること。

具体的には、コ③と同様、1か月に満たない端数を生じた場合は、1か月単位に切り上げて計算した期間とすること。すなわち、次の表の左欄に掲げる有期労働契約の契約期間の区分に応じ、空白期間がそれぞれ同表の右欄に掲げる長さのものであるときは、当該空白期間前に満了した有期労働契約の契約期間は、通算契約期間に算入しない(クーリングされる)こととなること。

有期労働契約の契約期間

空白期間

2か月以下

1か月以上

2か月超~4か月以下

2か月以上

4か月超~6か月以下

3か月以上

6か月超~8か月以下

4か月以上

8か月超~10か月以下

5か月以上

10か月超~1年未満

6か月以上

ス 研究開発法人、大学等の研究者等についての無期転換ルールの適用に当たっては、「研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律及び大学の教員等の任期に関する法律の一部を改正する法律」(平成25年法律第99号)により、法第18条について、無期転換申込権が発生する通算契約期間を10年とする特例が設けられているものであること(平成26年4月1日施行)。

当該特例の詳細については、平成25年12月13日付け基発1213第4号「研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律及び大学の教員等の任期に関する法律の一部を改正する法律の施行について」が発出されているものであること。

セ 専門的知識等を有する有期雇用労働者及び定年後引き続いて雇用される有期雇用労働者についての無期転換ルールの適用に当たっては、「専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法」(平成26年法律第137号)により、法第18条に関する特例が設けられているものであること(一部を除き平成27年4月1日施行)。

当該特例の詳細については、平成27年3月18日付け基発0318第1号「専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法の施行について」が発出されているものであること。

5 有期労働契約の更新等(法第19条(平成25年4月1日前は法第18条。以下同じ。)関係)

(1) 趣旨

有期労働契約は契約期間の満了によって終了するものであるが、契約が反復更新された後に雇止めされることによる紛争がみられるところであり、有期労働契約の更新等に関するルールをあらかじめ明らかにすることにより、雇止めに際して発生する紛争を防止し、その解決を図る必要がある。

このため、法第19条において、最高裁判所判決で確立している雇止めに関する判例法理(いわゆる雇止め法理)を規定し、一定の場合に雇止めを認めず、有期労働契約が締結又は更新されたものとみなすこととしたものであること。

(2) 内容

ア 法第19条は、有期労働契約が反復して更新されたことにより、雇止めをすることが解雇と社会通念上同視できると認められる場合(同条第1号)、又は労働者が有期労働契約の契約期間の満了時にその有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由が認められる場合(同条第2号)に、使用者が雇止めをすることが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、雇止めは認められず、したがって、使用者は、従前の有期労働契約と同一の労働条件で労働者による有期労働契約の更新又は締結の申込みを承諾したものとみなされ、有期労働契約が同一の労働条件(契約期間を含む。)で成立することとしたものであること。

イ 法第19条は、次に掲げる最高裁判所判決で確立している雇止めに関する判例法理(いわゆる雇止め法理)の内容や適用範囲を変更することなく規定したものであること。

法第19条第1号は、有期労働契約が期間の満了毎に当然更新を重ねてあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していた場合には、解雇に関する法理を類推すべきであると判示した東芝柳町工場事件最高裁判決(最高裁昭和49年7月22日第一小法廷判決)の要件を規定したものであること。

また、法第19条第2号は、有期労働契約の期間満了後も雇用関係が継続されるものと期待することに合理性が認められる場合には、解雇に関する法理が類推されるものと解せられると判示した日立メディコ事件最高裁判決(最高裁昭和61年12月4日第一小法廷判決)の要件を規定したものであること。

ウ 法第19条第1号又は第2号の要件に該当するか否かは、これまでの裁判例と同様、当該雇用の臨時性・常用性、更新の回数、雇用の通算期間、契約期間管理の状況、雇用継続の期待をもたせる使用者の言動の有無などを総合考慮して、個々の事案ごとに判断されるものであること。

なお、法第19条第2号の「満了時に」は、雇止めに関する裁判例における判断と同様、「満了時」における合理的期待の有無は、最初の有期労働契約の締結時から雇止めされた有期労働契約の満了時までの間におけるあらゆる事情が総合的に勘案されることを明らかにするために規定したものであること。したがって、いったん、労働者が雇用継続への合理的な期待を抱いていたにもかかわらず、当該有期労働契約の契約期間の満了前に使用者が更新年数や更新回数の上限などを一方的に宣言したとしても、そのことのみをもって直ちに同号の該当性が否定されることにはならないと解されるものであること。

エ 法第19条の「更新の申込み」及び「締結の申込み」は、要式行為ではなく、使用者による雇止めの意思表示に対して、労働者による何らかの反対の意思表示が使用者に伝わるものでもよいこと。

また、雇止めの効力について紛争となった場合における法第19条の「更新の申込み」又は「締結の申込み」をしたことの主張・立証については、労働者が雇止めに異議があることが、例えば、訴訟の提起、紛争調整機関への申立て、団体交渉等によって使用者に直接又は間接に伝えられたことを概括的に主張立証すればよいと解されるものであること。

オ 法第19条の「遅滞なく」は、有期労働契約の契約期間の満了後であっても、正当な又は合理的な理由による申込みの遅滞は許容される意味であること。

6 期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止(法第20条関係)

(1) 趣旨

有期契約労働者については、期間の定めのない労働契約を締結している労働者(以下「無期契約労働者」という。)と比較して、雇止めの不安があることによって合理的な労働条件の決定が行われにくいことや、処遇に対する不満が多く指摘されていることを踏まえ、有期労働契約の労働条件を設定する際のルールを法律上明確化する必要がある。

このため、有期契約労働者の労働条件と無期契約労働者の労働条件が相違する場合において、期間の定めがあることによる不合理な労働条件を禁止するものとしたものであること。

(2) 内容

ア 法第20条は、有期契約労働者の労働条件が期間の定めがあることにより無期契約労働者の労働条件と相違する場合、その相違は、職務の内容(労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度をいう。以下同じ。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、有期契約労働者にとって不合理と認められるものであってはならないことを明らかにしたものであること。

したがって、有期契約労働者と無期契約労働者との間で労働条件の相違があれば直ちに不合理とされるものではなく、法第20条に列挙されている要素を考慮して「期間の定めがあること」を理由とした不合理な労働条件の相違と認められる場合を禁止するものであること。

イ 法第20条の「労働条件」には、賃金や労働時間等の狭義の労働条件のみならず、労働契約の内容となっている災害補償、服務規律、教育訓練、付随義務、福利厚生等労働者に対する一切の待遇を包含するものであること。

ウ 法第20条の「同一の使用者」は、労働契約を締結する法律上の主体が同一であることをいうものであり、したがって、事業場単位ではなく、労働契約締結の法律上の主体が法人であれば法人単位で、個人事業主であれば当該個人事業主単位で判断されるものであること。

エ 法第20条の「労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度」は、労働者が従事している業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度を、「当該職務の内容及び配置の変更の範囲」は、今後の見込みも含め、転勤、昇進といった人事異動や本人の役割の変化等(配置の変更を伴わない職務の内容の変更を含む。)の有無や範囲を指すものであること。「その他の事情」は、合理的な労使の慣行などの諸事情が想定されるものであること。

例えば、定年後に有期労働契約で継続雇用された労働者の労働条件が定年前の他の無期契約労働者の労働条件と相違することについては、定年の前後で職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲等が変更されることが一般的であることを考慮すれば、特段の事情がない限り不合理と認められないと解されるものであること。

オ 法第20条の不合理性の判断は、有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違について、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、個々の労働条件ごとに判断されるものであること。とりわけ、通勤手当、食堂の利用、安全管理などについて労働条件を相違させることは、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して特段の理由がない限り合理的とは認められないと解されるものであること。

カ 法第20条は、民事的効力のある規定であること。法第20条により不合理とされた労働条件の定めは無効となり、故意・過失による権利侵害、すなわち不法行為として損害賠償が認められ得ると解されるものであること。また、法第20条により、無効とされた労働条件については、基本的には、無期契約労働者と同じ労働条件が認められると解されるものであること。

キ 法第20条に基づき民事訴訟が提起された場合の裁判上の主張立証については、有期契約労働者が労働条件が期間の定めを理由とする不合理なものであることを基礎づける事実を主張立証し、他方で使用者が当該労働条件が期間の定めを理由とする合理的なものであることを基礎づける事実の主張立証を行うという形でなされ、同条の司法上の判断は、有期契約労働者及び使用者双方が主張立証を尽くした結果が総体としてなされるものであり、立証の負担が有期契約労働者側に一方的に負わされることにはならないと解されるものであること。

第6 雑則(法第5章関係)

1 船員に関する特例(法第21条(平成25年4月1日前は法第19条。以下同じ。)関係)

(1) 法第21条第1項は、法第12条については、船員法(昭和22年法律第100号)第100条に同趣旨の規定が定められていることから、船員に関しては適用しないこととしたものであること。

また、船員法における雇入契約は、有期契約が原則となっているが、雇入契約の解除事由については、船員法第40条及び第41条に具体的な規定が定められていることなどから、法第4章については、船員に関しては適用しないこととしたものであること。

(2) 法第21条第2項は、船員に関して法を適用するに当たって必要となる読替えを規定したものであること。

2 適用除外(法第22条(平成25年4月1日前は法第20条。以下同じ。)関係)

(1) 国家公務員及び地方公務員(法第22条第1項関係)

法は労働者と使用者との間において成立する労働契約についての基本的規範を定めるものであるが、国家公務員及び地方公務員は、任命権者との間に労働契約がないことから、法が適用されないことを確認的に規定したものであること。

(2) 同居の親族のみを使用する場合の労働契約(法第22条第2項関係)

ア 法第22条第2項は、親族については、民法において、夫婦の財産、親子の財産等に関する様々な規定が定められており、中でも同居の親族についてはその結びつき(特に経済的関係)が強く、一般の労働者及び使用者と同様の取扱いをすることは適当でないことから、同居の親族のみを使用する場合の労働契約については、法を適用しないこととしたものであること。

イ 法第22条第2項の「同居」とは、世帯を同じくして常時生活を共にしていることをいうものであること。

ウ 法第22条第2項の「親族」とは、民法第725条にいう6親等内の血族、配偶者及び3親等内の姻族をいい、その要件については、民法の定めるところによるものであること。

第7 附則

1 法の施行期日(附則第1条関係)

法の趣旨及び内容の周知に必要な期間を勘案して、「公布の日から起算して3月を超えない範囲内において政令で定める日」を施行期日としたものであり、労働契約法の施行期日を定める政令(平成20年政令第10号)により、法の施行期日は、平成20年3月1日とされたものであること。

2 労働基準法その他関係法律の一部改正(附則第2条―第6条関係)

法の制定に伴い、労働基準法第18条の2を削除すること、労働基準法第93条を改正し労働契約と就業規則との関係については労働契約法第12条の定めるところによる旨を規定すること等の労働基準法その他の関係法律の規定の整理を行ったものであること。

第8 改正法附則

1 改正法の施行期日(改正法附則第1項関係)

法第19条(有期労働契約の更新等)は、改正法の公布日から施行されるものであること。また、法第18条(有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換)及び第20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)の施行期日は、これらの規定の趣旨及び内容の周知に必要な期間を勘案して、「労働契約法の一部を改正する法律の一部の施行期日を定める政令」(平成24年政令第267号)により、平成25年4月1日とされたものであること。

2 経過措置(改正法附則第2項関係)

法第18条(有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換)の規定は、同条の施行の日(平成25年4月1日)以後の日を契約期間の初日とする期間の定めのある労働契約について適用し、当該施行の日前の日が初日である有期労働契約の契約期間は、同条第1項の通算契約期間には算入しないものとされたものであること。

3 検討規定(改正法附則第3項関係)

法第18条に基づく無期転換申込権が多くの労働者に生じる時期である同条の施行の日(平成25年4月1日)以後5年を経過する時期から3年を経過した時期として、同条の施行後8年を経過した場合に、施行状況を勘案しつつ検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとされたものであること。検討の対象は、法第18条、すなわち無期転換ルール全体であること。

(別紙)