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○構造改革特別区域における「特別養護老人ホーム等の2階建て準耐火建築物設置事業」の全国展開について

(平成24年3月30日)

(老発0330第3号)

(各都道府県知事・各指定都市市長・各中核市市長あて厚生労働省老健局長通知)

「厚生労働省関係構造改革特別区域法第二条第三項に規定する省令の特例に関する措置及びその適用を受ける特定事業を定める省令等の一部を改正する省令」(平成24年厚生労働省令第53号。以下「改正省令」という。)については、本日公布、施行されたところであるが、その趣旨及び主な内容は下記のとおりである。また、改正省令の施行に伴い、関係通知の一部を別添1のとおり改正し、本日より適用することとしたので、十分御了知の上、関係者、関係団体等に対し、その周知徹底を図るとともに、その運用に遺漏のないようにされたい。

なお、この通知については消防庁と協議済みであるので、念のため申し添える。

第1 改正の趣旨

特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、指定短期入所生活介護事業所及び指定介護予防短期入所生活介護事業所(以下「特別養護老人ホーム等」という。)については、原則として耐火建築物でなければならないこととされており、2階及び地階に居室(療養室)その他の入所者の日常生活に充てられる場所(以下「居室等」という。)を設けていない場合のみ準耐火建築物とすることとされているが、構造改革特別区域法(平成14年法律第189号)に基づく特例措置として、一定の要件の下で、2階に居室等を設ける場合等にも準耐火建築物とすることが認められているところである。

今般、当該特例措置について、「構造改革特別区域において講じられた規制の特例措置の評価に係る評価・調査委員会の意見に関する今後の政府の対応方針」(平成23年3月30日構造改革特別区域推進本部決定)において全国展開することとされたことに伴い、特別養護老人ホーム等が、安全性に係る一定の要件を満たしている場合には、2階に居室がある場合等においても準耐火建築物とすることを可能とするため、所要の省令改正を行う。

第2 改正の概要

一 厚生労働省関係構造改革特別区域法第二条第三項に規定する省令の特例に関する措置及びその適用を受ける特定事業を定める省令関係(第1条関係)

構造改革特別区域における「特別養護老人ホーム等の2階建て準耐火建築物設置事業」の全国展開に伴い、関係規定を削除する。

関係規定:厚生労働省関係構造改革特別区域法第二条第三項に規定する省令の特例に関する措置及びその適用を受ける特定事業を定める省令(平成15年厚生労働省令第132号)第5条及び別表第2

二 特別養護老人ホームの設備及び運営に関する基準(平成11年厚生労働省令第46号)、指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)、介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準(平成11年厚生労働省令第40号)及び指定介護予防サービス等の事業の人員、設備及び運営並びに指定介護予防サービス等に係る介護予防のための効果的な支援の方法に関する基準(平成18年厚生労働省令第35号)関係(第2条から第5条まで関係)

特別養護老人ホーム等が、以下の要件を満たしている場合には、2階又は地階に居室等を設ける場合にも準耐火建築物とすることを可能とする。

イ 所在地を管轄する消防長(消防本部を設置しない市町村においては、市町村長。以下同じ。)又は消防署長と相談の上、非常災害に関する具体的計画(以下「計画」という。)に入所者の円滑かつ迅速な避難を確保するために必要な事項を定めること。

ロ 避難、救出等の訓練については、計画に従い昼間及び夜間において行うこと。

ハ 火災時における避難、消火等の協力を得ることができるよう、地域住民等との連携体制を整備すること。

関係規定:

・ 特別養護老人ホームの設備及び運営に関する基準第11条第1項、第35条第1項、第55条第1項及び第61条第1項

・ 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準第124条第1項及び第140条の4第1項

・ 介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準第4条第1項第1号及び第41条第4項第1号

・ 指定介護予防サービス等の事業の人員、設備及び運営並びに指定介護予防サービス等に係る介護予防のための効果的な支援の方法に関する基準第132条第1項及び第153条第1項

第3 留意事項

一 都道府県知事、指定都市の市長又は中核市の市長(以下「都道府県知事等」という。)は、準耐火建築物である特別養護老人ホーム等を設置しようとする者(以下「申請者」という。)が、所在地を管轄する消防長又は消防署長との相談を以下に基づき適切に実施したことを確認した上で認可、許可又は指定を行うこと。

① 申請者は、施設又は事業所(以下「施設等」という。)の基本設計段階において、所在地を管轄する消防長又は消防署長と相談を行う際に、当該基本設計に基づき建設された場合において、適切な避難活動を行えば安全な避難が可能なことを示す資料を提示すること。

② 具体的には、当該基本設計で定める施設等の建設計画、構造、設備等について、「社会福祉施設及び病院における夜間の防火管理体制指導マニュアルについて(平成元年3月31日付け消防予第36号消防庁予防課長通知)」(別添2)及び「小規模社会福祉施設に対する消防設備等の技術上の基準の特例の適用について(平成19年6月13日付け消防予第231号消防長予防課長通知)」(別添3)に基づき、施設等の建物内の各区画等の滞在可能時間(限界時間)を設定し、想定される最も避難が困難な入所の状況(施設等が満床であり、かつ、全ての入所者又は利用者が自ら避難することが困難な者である場合等)及び夜間等の最も職員配置が希薄な状況において、避難上不利な場所で火災が発生した場合における避難時間等を算出し、当該避難時間等が各区画等の滞在可能時間(限界時間)を下回るものであることを示すものであること。その際、避難時間等が各区画等の滞在可能時間(限界時間)を超える場合においては、当該基本設計で定める施設等の建設計画、構造、設備等について見直しを行うこと。

③ 申請者は、消防長又は消防署長から、相談に関する意見を書面で受領し、認可、許可又は指定の申請の際に、都道府県知事等に提出すること。

二 都道府県知事等は、特別養護老人ホーム等が運営を開始した後、監査時において、計画に従い昼間及び夜間において避難、救出等の訓練が実施されていること及び火災時における避難、消火等の協力を得ることができるよう、地域住民等との連携体制が整備されていることを確認すること。

三 上記の他、特別養護老人ホーム等の運営に当たっては、特に、以下の点に留意すること。

① 要介護度の高い者又は認知症を有する者などの自力避難が困難な入所者については、一階に入所させる等、十分な配慮を行うこと。

② 火災時の非常事態に即応するため、入所者等の状態を日常的に把握し、その状態に応じた適切な搬送体制を確立すること。

③ 夜間は、職員の配置が希薄となること等から、避難誘導に著しく混乱を生ずることもあるので、これに対処できるよう避難体制を整備すること。

第4 その他

平成23年8月12日付け事務連絡「東日本大震災に係る応急仮設施設整備として特別養護老人ホーム等及び介護老人保健施設を設置する際の基準について」において、応急仮設施設として設置される特別養護老人ホーム、介護老人保健施設等(以下「応急仮設施設」という。)については、平屋建ての準耐火建築物とすることとしているところであるが、今回の省令改正の趣旨を踏まえ、応急仮設施設についても、2階に居室を設ける場合等において、第2の二のイからハに掲げる要件を満たしている場合には、2階建ての準耐火建築物とすることができることとする。

第5 施行期日

公布日

別添1

関係通知の一部改正

1 特別養護老人ホームの設備及び運営に関する基準について(平成12年3月17日老発214号)の一部改正

別紙1のとおり改正する。

2 介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準について(平成12年3月17日老企44号)の一部改正

別紙2のとおり改正する。

3 指定居宅サービス等及び指定介護予防サービス等に関する基準について(平成11年9月17日老企25号)の一部改正

別紙3のとおり改正する。

(別紙1)

(別紙2)

(別紙3)

別添2

○社会福祉施設及び病院における夜間の防火管理体制指導マニュアルについて(通知)

(平成元年3月31日)

(消防予第36号)

(各都道府県消防主管部長あて消防庁予防課長通知)

社会福祉施設及び病院における夜間の防火管理体制については、「社会福祉施設等における防火安全対策について(昭和62年9月1日付消防予第160号各都道府県知事あて消防庁次長通知)」において、「夜間等における防火管理体制については、夜間等における災害発生時に的確な対応ができるよう、災害が発生した場合の職員動員体制、発災時の初動対応、消防機関と連携した職員等の教育訓練、夜間等における避難訓練、日常における防火戸や防火設備の点検・維持管理、可燃物の保管状況の点検等のあり方について検討する必要があるので、今後、これらの防火管理体制のあり方について、社会福祉施設等の特性に応じた具体的な指針を作成し、その普及を図る予定である。」こととしていたところであるが、今般、標記指導マニュアルを別添1のとおり作成したので送付する。

社会福祉施設及び病院における夜間の防火管理体制については、今後、この指導マニュアルに基づいて指導されたいので、貴職におかれては、下記事項に留意の上、その運用に遺憾のないよう配慮されるとともに、貴管下市町村に対してもこの旨示達され、よろしく御指導願いたい。

1 指導及び検証の対象

社会福祉施設及び病院における夜間の防火管理体制指導マニュアル(以下「指導マニュアル」という。)により夜間の防火管理体制の指導及び検証を行う対象は、消防法施行令別表第一(六)項イのうち病院及び(六)項ロのうち消防法施行規則第13条第2項で定めるもので、消防法第8条に定める防火管理者の選任を要する施設であること(これらの用途の存する複合用途対象物を含むものとする。以下2について同じ)。

なお、それ以外の身体上又は精神上の理由により自ら避難することが困難な者が入所する施設についても、指導マニュアルに準じて指導することが望ましいものであること。

2 指導及び検証の実施期間

指導マニュアルによる指導及び検証は可能な限り早期に実施することとするが、特に(六)項イのうち病院にあっては延べ面積3,000m2以上のもの及び(六)項ロのうち消防法施行規則第13条第2項で定めるものにあっては同1,000m2以上のものについて、3年を超えない範囲で指導及び検証が円滑に行われるように計画的に指導を行うこと。

3 指導マニュアルによる消防機関の指導方法

消防機関が、この指導マニュアルを用いて社会福祉施設及び病院を指導するに当たっては、別添2『「社会福祉施設及び病院における夜間の防火管理体制指導マニュアル」による消防機関の指導の際の実施要領』によるものであること。

4 その他

(1) 指導マニュアルにおける対応事項、限界時間の設定等の内容や、改善指導の方法は、一般的な構造、形態の社会福祉施設及び病院を想定して定められたものであるので、指導マニュアルに基づく指導及び検証を行っていく過程において、想定していない形態の施設等についての考え方や、施設の構造、経済性等諸般の事情によって実現可能な施設独自の改善方法等についての創意工夫がでてきた場合には、各消防本部においてこれを積極的に評価すべきものであること。

また、各施設に対する個別具体的な改善指導を行うに当たっては、施設等関係者と十分協議を行うこと。

(2) 事前訓練及び検証については、消防法施行規則第3条第5項に係る避難訓練とみなして差し支えないものであること。また、検証後も指導マニュアルに基づき定期的に訓練を実施することが望ましいこと。

(3) 指導マニュアルにおいて、直接言及していない事項であっても、火災避難用保護具の設置、バルコニーへの避難用滑り台の併設等、施設及び入所者の状況により望ましい事項があるので留意すること。

別添1

社会福祉施設及び病院における夜間の防火管理体制指導マニュアル

1 目的

このマニュアルは、個々の社会福祉施設及び病院(以下「社会福祉施設等」という。)における防火管理のうち、特に夜間に火災が発生した場合に、入所者又は入院患者(以下「入所者等」という。)の安全確保を図れるようにするために、適切に対応すべき防火管理体制の整備に関する指導方法を示すことを目的とする。

2 対象

このマニュアルの対象は、下表の身体上又は精神上の理由により自ら避難することが困難な者が入所する社会福祉施設及び病院で、消防法第8条に定める防火管理者の選任を要するものとする。

養護老人ホーム

特別養護老人ホーム

救護施設

乳児院

精神薄弱児施設

盲ろうあ児施設(通所施設を除く。)

肢体不自由児施設(通所施設を除く。)

重症心身障害児施設

重度身体障害者更生援護施設

視覚障害者更生施設

聴覚・言語障害者更生施設

身体障害者療護施設

重度身体障害者授産施設

精神薄弱者更生施設(通所施設を除く。)

精神薄弱者授産施設(通所施設を除く。)

老人保健施設

病院

3 考え方

このマニュアルの基本的な考え方は、火災発生時に自衛消防隊員(以下「隊員」という。)がとるべき対応事項を示すとともに、個々の社会福祉施設等について建築構造、内装、消防防災設備等に応じて限界時間を設定し、この時間内に所要の対応事項が行われるかどうかを検証し、これによって夜間の防火管理体制の整備に資するものである。

4 対応事項

火災発生時に隊員がとるべき対応事項は、概ね次のとおりであるが、個々の社会福祉施設等の実態に応じたものとなるよう配慮することが必要である。

(1) 出火場所の認定

自動火災報知設備(以下「自火報」という。)の受信機又は副受信機により出火場所を認定すること。

(2) 現場の認定

出火場所に到って、現場の状況を確認すること。

(3) 消防機関への通報

電話又は非常通報装置により火災である旨を消防機関へ通報すること。

(4) 初期消火

消火器又は屋内消火栓により初期消火を行うこと。

(5) 区画の形成

① 出火区画、隣接区画等の防火区画の形成

防火戸を閉鎖して、出火区画(注1)、隣接区画(注2)等の防火区画(注3)を形成すること。

② 室の区画の形成

入所者等が就寝に使用する室(以下「就寝室」という。)、リネン室等の廊下に面する開口部の戸を閉鎖して、室の区画を形成すること。

(注1) 出火区画とは、出火場所を含む防火区画(就寝室、リネン室等の室を室ごとに防火区画(規則第13条区画を含む)しているものを除く。)をいう。

(注2) 隣接区画とは、出火区画と防火戸が設けられている開口部を介して接する防火区画及び出火区画の上部に接する防火区画をいう。

(注3) 防火区画とは、建築基準法施行令第112条に定める基準により設けた区画のほか、耐火構造の床若しくは壁又は甲種防火戸若しくは乙種防火戸により区画を形成するものも含むものとする。

なお、耐火建築物又は簡易建築物以外の建築物については、建築基準法施行令第113条に定める基準により設けた防火壁を防火区画とみなすことができるものとする。

(6) 情報伝達及び避難等

火災を認定後、入所者等及び隊員に火災である旨及び避難すべき旨を伝達・指示するとともに、入所者等をより安全な場所へ順次避難させること。

(7) 消防隊への情報提供

消防隊の活動が効率的に行われるよう、消防隊に対し情報の提供を行うこと。

(8) 近隣事業所等の応援

近隣事業所等の応援がある場合は、上記対応事項の一部について応援を受けることができること。

5 限界時間の設定

火災の比較的早期に火煙が危険なレベルに達することが想定される出火区画(注4)及び隣接区画(「スプリンクラー設備設置の場合」(注5)にあっては、出火区画の上部に隣接する区画を除く。)に限界時間を設定するものとする。

出火場所の感知器の発報から、出火区画内が危険なレベルに達すると想定されるまでの時間を「出火区画の限界時間」、隣接区画が危険なレベルに達すると想定されるまでの時間を「隣接区画の限界時間」とする。

(注4) 限界時間を設定する出火区画の範囲には、バルコニー、ベランダ等の直接外気の流通する場所(以下「バルコニー等」という。)で、出火区画に面して設けられているもの(耐火建築物以外の建築物のバルコニー等及び消防隊による救出が特に困難なバルコニー等を除き、出火区画にスプリンクラー設備が設置されている場合又は出火区画で各室不燃化区画を形成する(注6)場合にあっては出火室の開口部から5メートル以内の部分、出火区画で各室戸区画を形成する(注7)場合にあっては出火室又は出火室の隣室の開口部から5メートル以内の部分に限る。)が含まれるものとする。

(注5) 「スプリンクラー設備設置の場合」には、消防法施行規則(以下「規則」という。)第13条に基づきスプリンクラー設備が設置されていない部分があることを含むものとする。以下同じ。

(注6) 各室不燃化区画を形成するとは、各室(便所、浴室その他の出火危険の著しく少ない室を除く。(注7)において同じ。)ごとに、仕上げを不燃材料又は準不燃材料でした壁及び天井(天井の無い場合においては屋根。(注7)において同じ。)並びに甲種若しくは乙種防火戸又は不燃材料(ガラスは網入りのものに限る。)若しくは準不燃材料で造った戸により区画を形成する(外気に面する開口部を除く。(注7)において同じ。)ものをいう。

(注7) 各室戸区画を形成するとは、各室ごとに壁及び天井並びに戸(襖、障子又はこれらに類するものを除く。)により区画を形成するものをいう。

5.1 出火区画の限界時間

出火区画の限界時間(Tf)は、当該建築物の条件により、次表のとおりとする。

条件

スプリンクラー設備設置の場合

スプリンクラー設備設置でない場合

出火区画の基準時間

(Tf’1)

内装制限がなされている場合(注8)

9分

5分

内装制限がなされていな

い場合

2分

出火区画の延長時間

1 区画等の確保

(Tf’2)

各室不燃化区画を形成する場合

就寝室から有効なバルコニー等(注9)により避難させる場合

(注10)

6分

4分

上記以外の場合

3分

2分

各室戸区画を形成する場合

就寝室から有効なバルコニー等により避難させる場合

(注10)

4分

2分

上記以外の場合

2分

1分

2 寝具類の防炎化

(Tf’3)

寝具類に防炎製品が使用されている場合

1分

3 初期消火

(Tf’4)

6(4)の初期消火において屋内消火栓を使用する場合

1分

出火区画の限界時間

(Tf)=(Tf’1)+(Tf’2)+(Tf’3)+(Tf’4)

(注11)     (注12)

(注8) 内装制限がなされている場合とは、居室の壁(床面からの高さが1.2m以下の部分を除く。)及び天井の室内に面する部分(回り縁、窓台その他これらに類する部分を除く。)の仕上げが不燃材料、準不燃材料又は難燃材料で、各室から地上に通ずる主たる廊下、階段その他の通路の壁及び天井の室内に面する部分の仕上げが不燃材料又は準不燃材料でなされている場合をいう。以下同じ。

(注9) 有効なバルコニー等とは、避難方法、バルコニー等に面する就寝室の開口部、バルコニーの構造等の状況からみてバルコニー等を利用しての避難が可能であるものをいう。

(注10) 当該バルコニー等から出火区画または隣接区画を経由しないで安全な地上へ避難できるものを除き、廊下を経由する避難が限界時間以内にできる場合は、廊下を経由する避難を優先的に指導すること。以下5.2(1)、(2)の「区画等の確保」において同じ。

(注11) 当該区画にスプリンクラー設備が規則第13条により全く設置されていない場合、「区画等の確保」の延長時間については基準時間に加算できないものとする。

(注12) 寝具類に防炎製品が使用されている場合の延長時間は、内装制限がなされていない場合の基準時間に加算できないものとする。

5.2 隣接区画の限界時間

隣接区画の限界時間(Tn)及び(Tu)は、当該建築物の条件により、次のとおりとする。

(1) 出火区画と同一階の隣接区画

隣接区画の限界時間は、5.1で定めた出火区画の限界時間(この場合において、「就寝室から有効なバルコニー等により避難させる場合」であっても、「上記以外の場合」として算定した出火区画の限界時間を用いるものとする。(2)の出火区画の上階にある隣接区画の限界時間の算定に当たっても同様とする。)及び隣接区画の区画等の確保の条件により、次表のとおりとする。

条件

スプリンクラー設備設置の場合

スプリンクラー設備設置でない場合

隣接区画の基準時間

(Tn’1)

Tf(9~12分)+4分

Tf(2~9分)+3分

隣接区画の延長時間

区画等の確保

(Tn’2)

各室不燃化区画又は各室戸区画を形成して就寝室からバルコニー等に避難させる場合

4分

3分

隣接区画の限界時間(Tn)=(Tn’1)+(Tn’2)

(2) 出火区画の上階にある隣接区画

出火区画の上階にある隣接区画の限界時間については、「スプリンクラー設備設置でない場合」に限り設けるものとし、5.1で定めた出火区画の限界時間及び隣接区画の区画等の確保の条件により、次表のとおりとする。

条件

スプリンクラー設備設置の場合

スプリンクラー設備設置でない場合

隣接区画の基準時間

(Tn’1)

隣接区画の限界時間は設定しない

Tf(2~9分)+8分

隣接区画の延長時間

区画等の確保

(Tn’2)

各室不燃化区画又は各室戸区画を形成して就寝室からバルコニー等に避難させる場合

3分

隣接区画の限界時間(Tn)=(Tn’1)+(Tn’2)

6 訓練・検証に当たっての対応事項の実施方法

訓練及び検証に当たっての対応事項の実施方法は、概ね次のとおりであるが、個々の社会福祉施設等の実態に応じたものとなるよう配慮することが必要である。

(1) 出火場所の認定

① 自力避難困難者の入所者の人数を考慮して、避難が最も困難であると思われる防火区画内にある就寝室、リネン室等に設置されている感知器を発報させ、自火報を作動させる。この時、発報させた室の廊下側の入口付近に旗等の目印を設置しておく。

なお、当該社会福祉施設等が複数棟からなる場合は、自力避難困難者の入所者等の人数等を考慮して、避難が最も困難であると思われる棟の感知器を発報させることとする。

また、検証を伴わない訓練の場合には、任意に出火場所、棟の選択を行うものとする。

② 隊員は、夜間に正規に勤務する場所(各階のナースステーション、寮母室等)に待機しているものとする。

③ 受信機又は副受信機で火災表示灯が点灯した場所を見て自火報発報場所を認定する。なお、警戒区域一覧図がある場合は、火災表示灯が点灯した場所と警戒区域一覧図を照合すること。

④ 仮眠状態で待機することとしている場合は、発報後15秒経過した後に行動を起こすこととする。

(2) 現場の認定

① 受信機又は副受信機で出火場所を認定した者は、自ら又は他の隊員に指示(肉声、電話、無線等を用いて)して、発報した感知器の設置されている出火室に行き、中に入り、火災の有無を確認する動作を行う。この場合、他の隊員で仮眠状態で待機することとしている者は、指示されてから15秒経過した後に行動を起こすこととする。

② 火災を確認した者は、その場で「火事だー!」と2回叫ぶ。

③ 隊員の移動の際のエレベーターの使用については、次による。

ア 非常用エレベーターは使用できるものとする。

イ 常用エレベーターは、停電時最寄り階停止装置付のものに限り使用できるものとする。

この場合、確認隊員は、出火区画の直下階まではエレベーターを使用できるが、それより上階へは階段を利用しなければならないものとする。

(3) 消防機関への通報

① 対応計画上通報を行うこととされている者が、消防機関への模擬通報を行う。この場合事前に了解を得て、実際に消防機関へ連絡することが望ましいが、訓練用の電話機、内線電話等を利用することでもよい。

② 非常通報装置が設置されている場合には、非常通報装置の起動用押しボタンを押す動作を行い(事前に消防機関の了解を得た場合は、実際に押しボタンを押す。)、③は省略できるものとする。

なお、ボタンを押す時点に関する判断については、非常通報装置と自火報の作動が連動されている場合にあっては現場確認後とし、非常通報装置と自火報の作動が連動されていない場合にあっては④によるものとする。

③ 消防機関への模擬通報の内容は、概ね次のとおりとする。なお、検証の際には通報内容の細部にこだわらず、概ね必要事項が通報されていることを認定すればよいものとする。

通報者 119番をする。

消防 「はい、消防です。火事ですか、救急ですか。」

通報者 「火事です。」

消防 「場所はどこですか。」

通報者 「○○市○○町○丁目○番○号○○社会福祉施設(病院)です。」

消防 「その社会福祉施設(病院)は何階建ですか。燃えているところは何階ですか。」

通報者 「○階建の○階が燃えています。」

消防 「入所者(入院者)は何名ですか。逃げ遅れた人はいませんか。」

通報者 「入所者(入院者)は○名です。逃げ遅れは今のところわかりません。」

消防 「何が燃えているかわかりますか。」

通報者 「○○○が燃えています。」

消防 「近所に目標となる建物はありますか。」

通報者 「○○○○○○○」

消防 「わかりました。すぐいきます。」

④ 消防機関への通報を、現場確認の後にするか自火報発報後直ちにするかについては、当該社会福祉施設等の非火災報対策の進捗状況と消防機関の指導の実態等から、消防機関がそれぞれ判断するものとする。

(4) 初期消火

① 模擬初期消火は、消火器を用いて行っても、屋内消火栓を用いて行っても差し支えないものとする。

② 消火器を用いる場合は、消火器を実際に放出するか、放出のための動作を行った上で放出体勢をとり、15秒間維持する。

③ 屋内消火栓を用いる場合は、放水のための動作を行った上で放水体勢をとり、30秒間維持する。消火開始までの操作は、原則として2人以上で実施すること(注13)とする。なお、この行動を選択した場合は、限界時間が1分間延長される。

(注13) 屋内消火栓が1人で操作できるものである場合又は操作者が屋内消火栓を1人で操作することができる能力があると消防機関が特に認めた場合は、1人で操作してもよいものとする。

(5) 区画の形成

① 出火室の戸は、出火室の避難及び初期消火行動終了後直ちに閉鎖する。

② 出火区画内においては、出火区画内の各室の戸をできるだけ早い時期に閉鎖すること。

③ 出火区画及び隣接区画を構成する防火戸は、温度が急激に上昇した場合又は煙が発生した場合に自動的に閉鎖する構造の防火戸であっても、自動閉鎖を待つことなく、それぞれ出火区画及び隣接区画の避難等を考慮してできる限り早く手動で閉鎖する。

④ 隣接区画において、就寝室からバルコニー等に避難させる場合にあっては、各就寝室の戸を閉鎖することとし、その他の場合にあっては、各就寝室の戸を閉鎖するかどうかは、避難方法、戸の性能等の実態により、それぞれ判断するものとする。

⑤ 出火区画及び隣接区画を形成する防火戸以外の防火戸で竪穴区画または水平区画を形成するものは、火災により煙が発生した場合に自動的に閉鎖する構造の防火戸にあっては、閉鎖障害がないことを予め確認すれば足りることとし、その他の防火戸にあっては、手動で閉鎖する。

(6) 情報伝達及び避難等(注14)

① 非常放送設備が設けられている場合は、非常放送を行う。また、非常放送設備が設けられていなくても、業務用放送設備、その他の伝達手段を有する場合には、それを活用するものとする。

放送文例は、概ね次のとおりとし(当該社会福祉施設等の独自の文例がある場合はそれによることとする。)、3回繰り返すものとする。

「ただ今、○○階○○で、火災が発生しました。入所者等は、至急○○へ避難して下さい。なお避難の際は、各室の出入り口の戸を閉めて下さい。(繰り返します。)」

② 情報伝達及び避難等は、出火区画、隣接区画、その他の区画と火点に近い区画から順に行うこととし、その具体的方法は次による。この場合、原則として入所者等のすべてを避難させるものとするが、全員が訓練又は検証に参加できないときは、自力避難困難者についてはできる限り職員等の他の健常者が代わりになり、その他は参加可能な者の範囲で参加させることとする。

ア 避難等は、入所者等の避難能力等に応じて、概ね次による。

(ア) 自力避難ができるもの……大声で「火事だ。○○○へ避難して下さい。」と叫ぶ等施設及び入所者等の実態に応じ、確実に伝達できる方法により避難誘導を行う。

(イ) 自力避難が困難なもの……腕で支える、車椅子、車付きベッド、背負い等、施設及び入所者等の実態に応じた方法により避難させる。

イ 出火区画内の入所者等は、出火区画以外の場所へ避難させる。

ウ 隣接区画内の入所者等は、出火区画又は隣接区画以外の場所に避難させる。

エ イ及びウが終了した後、順次入所者等を地上、屋上、バルコニー等安全な場所へと避難させる。

(注14) 対象となる施設によっては、入所者等が運動能力の低下の他に、視覚・聴覚の障害あるいは精神病・痴呆等による状況判断能力の低下等種々の特別な条件を有している場合があり、当該施設の実態に応じ実効性のある方法で柔軟に対応を行う必要がある。

(7) 消防隊への情報提供

① 消防隊員に対し概ね次の内容を提供する。この場合、入所者等の名簿があれば持参するものとする。

・出火場所 「○階の○○○」

・入所者等の状況 「○階に自力避難困難者○○名、自力避難可能者○○名、○階に自力避難困難者○名、自力避難可能者○○名がいます。」

・避難の状況 「○階の入所者は、○○○へ一時避難しています。」

(8) 近隣事業所等の応援

① 近隣事業所等の応援者に、電話等により連絡をする。ただし、非常通報装置が設置されている施設で、関係者に二次通報が行われるものはその必要はない。

② 近隣事業所等の応援者は、消防隊が救出した入所者等や自力で避難階まで避難してきた入所者等を救護所へ誘導・搬送するとともに、応急救護措置等を行う。

7 検証及び指導の方法

(1) 検証

個々の社会福祉施設等の通常の夜間の勤務体制において、自火報発報以後の対応を6のとおり行った結果、自火報発報から、出火区画での対応事項完了(注15)までに要した時間をRtf、隣接区画での対応事項完了(注16)までに要した時間を、出火区画と同一階の隣接区画にあってはRtn、出火区画の上階にある隣接区画にあってはRtuとした場合

Rtf≦Tf、Rtn≦TnかつRtu≦Tu

であること(出火区画、隣接区画それぞれの対応事項完了までに要した時間がすべて出火区画、隣接区画それぞれの限界時間内に収まること。)を確認する。

(注15) 出火区画での対応事項完了とは、6の対応事項のうち、(1)から(4)並びに(5)及び(6)のうち出火区画に係る部分の完了をいう。

(注16) 隣接区画での対応事項完了とは、6の対応事項のうち、(1)から(4)並びに(5)及び(6)のうち出火区画及び隣接区画に係る部分の完了をいう。

なお、入所者等全員が訓練に参加できなかった場合のRtf、Rtn及びRtuについては、6(6)情報伝達及び避難等の実施の際に、実際に避難等に要した時間のかわりに、資料の「避難等の推定所要時間計算要領」を用いてRtf、Rtn及びRtuを算出するものとする。

(2) 指導

Rtf>Tf、Rtn>Tn又はRtu>Tuであった(出火区画、隣接区画それぞれの対応事項完了までに要した時間が一つでも出火区画、隣接区画それぞれの限界時間を超える場合。)社会福祉施設等について指導を行う場合の指導要領は、別紙の内容が考えられる。

別紙

対応事項の完了までに要する時間が限界時間を超過した際の指導要領

この要領は「社会福祉施設及び病院における夜間の防火管理体制指導マニュアル」による検証の結果、出火区画及び隣接区画の限界時間内に所要の対応事項が完了できなかった場合の関係者に対する指導要領として検討したものである。

1 検証時の問題点の指摘

実地検証の際に問題と考えられた状況について説明するとともに、設備、建物の構造等施設の防火上の弱点となっている事項についても説明を行うものとする。

2 改善策の案の検討

1で挙げた検証時の問題点、限界時間の超過等を勘案して、以下の項目の中から該当する改善内容を示し、それらの中から施設側の状況、隊員、入所者等、防火管理体制、建物の構造、経済性等諸般の事情によって現実可能な改善策を検討するよう指導する。また、これ以外にも施設独自の改善策も考えられるので、指導マニュアルの考え方を十分に理解してもらったうえ、それぞれの創意工夫を引き出すことが望ましい。

<対応事項の完了までに要する時間が限界時間を超過した際の改善策>

(1) 行動の迅速化

訓練を行うことで隊員の知識、設備操作能力の向上、役割分担の工夫等を行い対応事項に係る時間の短縮を図るもので、対策としては最も基本的であり、特にこれまで十分に訓練を行っていない場合は、大幅な改善が望める対策である。

検証時の各隊員の動作、隊員相互の連携等を観察して改良の余地があると思われることを説明する。

ア 訓練等により隊員の行動の迅速化を図る

イ 隊員間の連携を図る

ウ 消火器の取扱い、非常用放送設備等機器の操作・取扱いの習熟を図る

エ 自力避難困難者の搬送方法、技術の習熟を図る

(2) 防火管理体制の変更

隊員の配置、入所者等の配置の工夫等により対応事項に係る時間の短縮を図るものであり、人的な対応が比較的容易な場合や(1)では対応しきれない管理体制上の問題がある場合に有効である。

検証時の各隊員の動作、建物内の諸施設の配置、入所者等の配置・運動能力等を調べ、工夫の余地があると思われることを説明する。

ア 初期消火作業で屋内消火栓を用いる

イ 隊員の資質を考慮し組み合わせ及び役割分担について最適化を図る

ウ 自力避難困難者や受信機に近接した所に隊員仮眠待機場所を設定する

エ 隊員の行動の無駄を排除し効率的にする(目的地までの経路、重複する行為等を指す)

オ 出火区画と隣接区画の隊員配分を適切にする(出火区画と隣接区画の限界時間の余裕時間を考慮して行う)

カ 指揮系統等組織体制を整備する

キ 自力避難困難者は避難容易な場所に変更する

ク 特定の区画内の避難負担を少なくするために、自力避難困難者を同一区画内に集中させないようにする

ケ 職員宿舎からの応援体制の整備、近隣との応援体制の整備、宿直の人員検討等により隊員配分を適切にする。

(3) 設備等の強化

消防用設備等の防災設備の設置、入所者等に適した搬送機材の導入等により限界時間の延長と対応事項に係る時間の短縮を図る。(1)、(2)の対応によるだけでは対応事項を限界時間内に完了することが出来ない場合、又は、(2)の対応事項の変更上必要な場合に有効である。

検証時の隊員・入所者等の行動、設備の設置状況、搬送機材の状況等を勘案し、効率的な改善となるように留意すること。

ア 非常通報装置を設置する

イ 自動火災報知設備と非常通報装置を連動させる

ウ 自動火災報知設備の警戒区域を小さくする

エ 無線機、館内非常電話等を設置する

オ 応援要請装置を設置する

カ 非常放送及び119番通報を全ての階からできるようにする

キ 非常放送のスピーカー又は一斉電話等を各室内に設置する

ク 副受信機を仮眠場所等に設置する

ケ 避難器具を設置する(行き止まりバルコニー等に滑り台等を設ける)

コ 階段部分に誘導音装置付誘導灯を設置する

サ スプリンクラー設備を設置する

シ 一人で操作できる2号消火栓を設置する

ス 自力避難困難者搬送用器具の導入や改良を行う

セ 排煙設備を適切に稼働させる(消防機関が、関係者から排煙設備を適切に稼働できるか方法及び時期等を確認したうえ、位置、構造等を勘案し限界時間の延長(スプリンクラー設備設置の場合2分程度、スプリンクラー設備設置でない場合1分程度)について考慮すること)

ソ エレベーターを改良する(非常用エレベーターを改造するか、停電時最寄り階停止装置付とする)

(4) 建物等の強化

内装の不燃化、防火区画の設置等により、限界時間の延長と対応事項に係る時間の短縮を図るものであり、本対策の中では高度なレベルでの対策であり、効果はきわめて大きい。

建物構造、施設等の日常業務との関係を勘案し効率的な改善となるよう留意すること。

ア 全寝具類に防炎製品を使用する

イ 建物の内装の不燃化を図る

ウ 別棟区画する

エ 階段室を竪穴区画する

オ 耐火建築物において、各階を耐火構造の壁(両面を防火構造とした壁でもよいものとする)及び甲種防火戸及び乙種防火戸による区画により細分化する

カ 区画形成の防火戸を煙感知器連動とする

キ 戸区画、不燃区画を形成するよう出入口、開口部を変更する

ク 戸区画、不燃区画のドアを自動閉鎖式にする

ケ 一次避難場所や避難経路のスペースを拡げる

コ 安全な避難路を有するバルコニーを設置する

サ 屋外階段を増設する

シ 搬送・歩行の障害となる段差をなくす

ス 既存ドア等のカギの解錠が容易に出来るようにする(電気錠による一斉開錠や鍵を統一してマスターキーで開錠できるようにする)

3 改善策の実施及び再検証

2で検討した改善策を関係者と十分に協議して実効性のある計画を策定し実施する。この際、ソフト面での改善策については比較的早期に実施できるが、設備・建築の構造等については、費用及び時間が掛かることに十分留意して指導を行う。

改修目標期日以降において、再検証を実施し、限界時間内に対応事項が完了することを確認することとなるが、限界時間内に収まらない場合は、再度検討等を行う。

資料

避難等の推定所要時間計算要領

① 各区画に時間測定者を配置し、当該区画における自力避難困難者、自力避難可能者の避難開始時間及び避難完了時間をそれぞれ測定する。

② 各区画の避難等の推定所要時間(E)は、次のE1又はE2のいずれか長い時間とする。

E1;各区画の入所者等の避難開始から自力避難可能者の各区画外への避難完了までの推定所要時間

E2;各区画の入所者等の避難開始から自力避難困難者の各区画外への避難完了までの推定所要時間

なお、同一階の隣接区画が2以上存する場合は、それぞれ推計した値のうち最も所要時間の長いものとする。

ア E1の推定時間は、原則として各区画の自力避難可能者の①による測定時間とする。

この場合において、出火区画又は上階隣接区画の入所者等のうち同一階の隣接区画を経由して避難するものは、同一階の隣接区画に存する間は、同一階の隣接区画の自力避難可能者とみなすこと。

また、歩行速度の速い者、区画外へ避難しやすい位置の者のみが参加することのないよう配慮すること。

イ E2の推定所要時間は、次のとおりとする。

E2=C・E2’+D

C;各区画の自力避難困難者数とそのうち訓練に参加した者の数の比

E2’;各区画の自力避難困難者の①による測定時間

D;各区画の入所者等の避難開始から自力避難困難者の避難開始までの推定時間

Dの算定は、次のとおりとする。ここで、D’は各区画の入所者等の避難開始から自力避難困難者の避難開始までの①による測定時間とし、f、n、uは、それぞれ出火区画、同一階の隣接区画、上階隣接区画の値を示すこととする。

・自力避難困難者を出火区画から順次避難させる場合

出火区画 Df=Df

同一階の隣接区画 Dn=(Cf-1)E2f’+Dn

上階隣接区画 Du=(Cf-1)E2f’+(Cn-1)E2n’+Du

・自力避難困難者を各区画一斉に避難させる場合

D=D’

・自力避難困難者を階ごとに順次避難させる場合

出火区画及び上階隣接区画 D=D’

同一階の隣接区画 Dn=(Cf-1)E2f’+Dn

この場合において、出火区画又は上階隣接区画の入所者等のうち、同一階の隣接区画で一旦避難を停止する者又は停止すると計画される者については、同一階の隣接区画の入所者等でもあるとみなすこと。

また、Cの値は可能な範囲で小さく、かつ、各区画同様となるよう他の健常者等の活用を図ること。

③ Rtf、Rtn、Rtuの推定所要時間は、次のとおりとする。

Rt=V+E

Rt;各区画の推定所要時間

V;①により測定した各区画の入所者等の避難の開始時間

別添2

「社会福祉施設及び病院における夜間の防火管理体制指導マニュアル」による消防機関の指導の際の実施要領

1 指導マニュアルの周知徹底

社会福祉施設及び病院の関係者に対して講習会等を開催し、指導マニュアルの内容の周知徹底を図ることとし、周知期間については平成元年度中を目途とすること。

また、管内の社会福祉施設及び病院の実情及び消防機関の実情を踏まえ、両者の協議により計画的に各社会福祉施設及び病院に出向し指導マニュアルに基づき指導を行う。

2 指導

指導にあたっては下記事項について留意すること。

(1) 当該社会福祉施設及び病院の構造、内装、区画、消防用設備等の設置の有無等に基づき、出火区画、隣接区画の限界時間を関係者に示す。

(2) 自力避難困難者の人数及び出火区画、隣接区画、建物の階層等の状況を勘案し、避難が最も困難と思われる出火場所を選定するが、施設によっては出火場所を複数想定し検証により確認することが必要である。

(3) 検証は、夜間の火災を想定したものであるので、昼間に実施する際には、検証想定日の夜間の勤務体制で実施し、社会福祉施設及び病院の構造、区画、消防用設備等の状況を勘案して対応行動の内容をとらなければならないことを説明すること。

(4) 対応行動の順序、応援体制、連絡・指示の方法の詳細については、当該社会福祉施設及び病院等の独自のマニュアルによることができるが、適切な防火管理体制であるためには、出火区画及び隣接区画の対応事項完了までに要する時間が、出火区画及び隣接区画の限界時間(Tf、Tn、Tu)を超えないものでなければならないことを説明すること。

3 検証

検証にあたっては下記事項に留意すること

(1) 社会福祉施設及び病院においては、動かすこと等により支障のでる者もいることから、検証にあたってこれらのことについて十分留意し計画するとともに、検証直前において確認を行うこと。

(2) 適当な場所に消防職員等を配置し、出火区画及び隣接区画における対応行動に係る時間を計測するとともに、対応事項が適切であるか否かを確認すること。

(3) 自力避難困難者の搬送にあっては、搬送に無理がないか、実態に即しているかを確認し、改良の余地のあるものについては、その旨関係者に説明すること。

(4) 施錠、出入口・防火戸の扉開閉等については、夜間の状況を再現して行うこと。

なお、特に煙感知器連動の防火戸にあっては、避難の終了前に閉鎖することがあり得ることに十分留意すること。

(5) 戸区画、不燃化区画については、出入口等の閉鎖の時期及び閉鎖状況を検証時に確認すること。

4 検証後の指導

検証後の指導にあっては下記事項に留意すること

(1) 検証により出火区画及び隣接区画の対応事項の完了までに要する時間が、出火区画及び隣接区画の限界時間内であった場合、検証の際の社会福祉施設及び病院の対応行動計画を元に、夜間における消防計画を作成させること。

(2) 検証後は、一定期間ごとに指導マニュアルに基づく訓練を実施するとともに、施設の事情変更があった場合についても訓練を行うよう指導すること。

(3) 対応事項の完了までに要する時間が限界時間を超過した場合は、指導マニュアルにしたがって当該社会福祉施設及び病院に適応した改善方法を指導するとともに、関係者に改善計画、改善目標期日等を提出させ計画的に改善がなされるよう指導すること。

なお、消防法施行令の一部改正(昭和62年10月2日政令第343号)の附則第2項によりスプリンクラー設備等については、平成8年3月31日までの間、なお、従前の例によるとされているので、この趣旨も踏まえ施設側の設備等の設置計画を十分尊重し、改善計画、期日等の指導を行うこと。

5 再検証

4(3)で示された改善目標期日以降において、再度検証を実施すること。

ただし、設備・建築構造等に係るものについては改修に時間が掛かることから、再検証までの間に必要に応じ指導マニュアルに基づく訓練を行うことが望ましい。

別添3

○小規模社会福祉施設に対する消防用設備等の技術上の基準の特例の適用について

(平成19年6月13日)

(消防予第231号)

(各都道府県消防防災主管部長・東京消防庁・各指定都市消防長あて消防庁予防課長通知)

消防法施行令の一部を改正する政令(平成19年政令第179号)及び消防法施行規則の一部を改正する省令(平成19年総務省令第66号)が平成19年6月13日に公布されました。

今回の改正は、認知症高齢者グループホーム等の自力避難が困難な方々が利用する施設について、防火安全対策の強化の観点から、これらの施設に係る消防用設備等の設置基準等の見直しを行うためのものです。

この改正により新たにスプリンクラー設備の設置が義務付けられる消防法施行令(昭和36年政令第37号)別表第1(6)項ロに掲げる防火対象物で延べ面積が275m2以上1,000m2未満のもの(以下「小規模社会福祉施設」という。)について、消防長(消防本部を置かない市町村においては、市町村長)又は消防署が消防法施行令第32条を適用し、スプリンクラー設備の設置を要しないものとする際の考え方について、下記のとおりとりまとめたので通知します。

なお、貴職におかれましては、下記の事項に留意のうえ、その運用に十分配慮されるとともに、各都道府県消防防災主管部長にあっては、貴都道府県内の市町村に対しても、この旨を周知されるようお願いします。

次の1から4までに掲げる要件のいずれかに該当する小規模社会福祉施設については、令第12条の規定にかかわらず、スプリンクラー設備の設置を要しないものとする。

1 夜間に要保護者の避難介助のため必要な介助者が確保されている小規模社会福祉施設として、次の(1)から(3)までに掲げる要件のすべてに該当するものであること。

なお、(2)の要件に該当するか否かを判断するに当たっては、新規のものについては、事業者が作成した事業計画等による入居者の見込み数により判断することとし、事業開始後に要保護者数が増加したものについては、その状態が継続的なものであることが認められたものについて、改めて(2)の要件に該当するか否かを判断するものとすること。

(1) 当該施設は、平屋建て又は地上2階建てのものであること。

また、壁及び天井の室内に面する部分の仕上げが不燃材料、準不燃材料又は難燃材料でされているものであること。

(2) 夜間における介助者1人当たりの要保護者(当該施設に入所している老人(要介護3以上の者に限る。)、乳児、幼児、身体障害者等(障害程度区分4以上の者に限る。)、知的障害者等(障害程度区分4以上の者に限る。)をいう。以下同じ。)の数が、従業者等(夜勤職員、宿直職員、宿直ボランティア、住込みの管理者など当該施設において入所者とともに起居する者をいう。以下同じ。)にあっては4人以内、近隣協力者(当該施設に併設されている施設の職員、当該施設の近隣住民、当該施設と契約している警備会社の職員等で、火災発生時に駆けつけて避難介助を行う者をいう。以下同じ。)にあっては3人以内となるよう、介助者の数が確保されているものであること。

この場合において、次のア及びイに掲げる要件のすべてに該当する複数ユニットの小規模社会福祉施設にあっては、要保護者の数が最大となるユニットにおいて、これに応じた介助者の数が確保されることで足りるものとすること。

ア ユニット間に設けられる壁及び床が耐火構造又は準耐火構造であるものであること。

また、当該壁又は床に開口部がある場合には、当該開口部に常時閉鎖式又は自動閉鎖式の防火設備が設けられているものであること。

イ 各ユニットにおいて、他のユニットを経由することなく地上に至る避難経路を有しているものであること。

(3) 近隣協力者は、次のアからウまでに掲げる要件のすべてに該当するものであること。

なお、近隣協力者は、一の事業所、世帯等から複数名を確保して差し支えないものであること(例えば、グループホームの隣にグループホーム職員が居住している場合、当該職員の代替者としてその妻と長男を登録しても差し支えない。)。

ア 居所から当該施設に2分以内で駆けつけることができるものであること。

イ 居所には、当該施設の自動火災報知設備と連動して火災の発生を覚知することができる装置が備えられているものであること。

ウ 近隣協力者本人の同意がある旨、火災発生時の活動範囲、夜間不在時における代替介助者の確保方策その他の必要な事項について、消防計画又は関連図書により明らかにされているものであること。

2 各居室から屋外等に容易に至ることができる小規模社会福祉施設として、次の(1)から(4)までに掲げる要件のすべてに該当するものであること。

(1) 当該施設は、平屋建て又は地上2階建てのものであること。

また、壁及び天井の室内に面する部分の仕上げが不燃材料、準不燃材料又は難燃材料でされているものであること。

(2) すべての居室において、地上又は一時避難場所(外気に開放された廊下、バルコニー、屋外階段等をいう。以下同じ。)への経路が、次のア又はイに掲げる要件のいずれかに該当することにより、構造上確保されているものであること。

ア 扉又は掃出し窓を介して、地上又は一時避難場所に直接出ることができるものであること。

イ どの居室から出火しても、火災室又は火災室に設けられた開口部(防火設備を除く。)に面する部分を通らずに、地上又は一時避難場所に至ることができるものであること。

(3) 一時避難場所の位置及び構造は、外部からの救出を妨げるものでないこと(例えば、川や崖等に面していないものであること、建具や隣接建物等で進入経路がふさがれていないものであること。)。

(4) 夜間の体制が夜勤者1名となる2ユニットの小規模社会福祉施設にあっては、当該夜勤者のほかに1(3)アからウまでに掲げる要件のすべてに該当する近隣協力者が1人以上確保されているものであること。

3 共同住宅の複数の部屋を占有し、その総面積により小規模社会福祉施設に該当するもののうち、次の(1)から(4)までに掲げる要件のすべてに該当するものであること。

(1) 小規模社会福祉施設として用いられている部分部屋の床面積が一区画当たり100m2以下であるものであること。

また、壁及び天井の室内に面する部分の仕上げが不燃材料、準不燃材料又は難燃材料でされているものであること。

(2) 小規模社会福祉施設として用いられている部分が3階以上の階に存する場合には、当該部分を区画する壁及び床が耐火構造となっており、その開口部(屋外に面する窓等を除く。)に常時閉鎖式又は自動閉鎖式の防火設備が設けられているものであること。

(3) 要保護者の数が一区画当たり4人以下であるものであること。

また、すべての要保護者が、自動火災報知設備の鳴動や周囲からの呼びかけにより火災を覚知することができ、介助者の誘導に従って自立的に歩行避難できるものであること。

(4) 当該施設において従業者等が確保されているものであること。

4 上記1から3までに該当しない小規模社会福祉施設のうち、次により求めた避難所要時間が避難限界時間を超えないものであること。

(1) 避難所要時間

「避難所要時間」は、要保護者の避難に要する時間であり、「避難開始時間」と「移動時間」の和により算定するものとすること。

ア 避難開始時間

(ア) 「避難開始時間」は要保護者が避難行動を開始するまでに要する算定上の時間であり、その起点として自動火災報知設備の作動時を想定するものとすること。

また、避難前の状況として、夜間において、要保護者は各居室、従業者等は勤務室、近隣協力者は通常の居所(自宅等をいう。)にいることを想定するものとすること。

(イ) 避難開始時間の算定方法は、従業者等による火災確認や要保護者への呼びかけ等を勘案し、次のとおりとすること。

避難開始時間=√延べ面積/30 (分)

イ 移動時間

(ア) 「移動時間」は要保護者の移動に要する算定上の時間であり、移動経路としては、それぞれの居室から、想定される避難の時点において避難限界時間に達していない部分を経由し、最終的に地上に至る最短の経路をとることを想定するものとすること。

この場合において、避難経路及び介助者の進入経路として、火災室を経由するものは原則として認められないものであること。

(イ) 要保護者は、介助なしでの避難はできないものとして想定するものとすること。

また、要保護者1人につき介助者1人の介助形態を原則とするが、手つなぎで歩行誘導すれば円滑に避難できる場合には要保護者2人につき介助者1人、ストレッチャーを用いて介助を行う場合には要保護者1人につき介助者2人の介助形態として算定上取り扱うものとすること。

(ウ) 介助者には、従業者等のほか、1(3)イ及びウに掲げる要件のすべてに該当する近隣協力者を含むものとすること。

(エ) 移動時間の算定方法は、介助者が要保護者の居室に到着するまでの時間、介助準備時間、要保護者の介助付き移動時間を勘案し、次のとおりとすること。

移動時間=T1+T2+T3

T1:介助者の施設内駆けつけ時間(分)

T2:介助準備時間(分)

T3:要保護者の介助付き移動時間(分)

Li:要保護者iに係る避難経路上の移動距離

○ 居室から地上までの距離によることを原則とするが、直接地上に通ずる一時避難場所がある場合には、居室から当該場所までの距離により算定することができるものとすること。

(また、竪穴区画(建築基準法施行令第112条第9項)が形成されている準耐火構造の防火対象物の場合には、出火階及びその直上階の範囲において、上記の例により地上又は出火階の下階に至ることができることを確認することで足りるものとすること。)

○ 要保護者iについて、(イ)後段を適用し、他の要保護者とともに手つなぎで歩行誘導する場合には当該Liを算定上0.5倍読み、ストレッチャーを用いて介助を行う場合には当該Liを算定上2倍読みとするものとすること。

(Vh:介助者の移動速度=2ν)

Ve:要保護者の移動速度

Nh:介助者の数=Nw(夜間の従業者等の数)+Ne(算定上の近隣協力者数)

Ne=Nw・n(1-p)/(Nw+pn)

n:介助に来る近隣者の数

p:近隣者の施設までの駆けつけ時間/近隣協力者なしの移動時間(<1)

Ne:要保護者の数

うち車椅子による介助対象:New、ストレッチャーによる介助対象:Nes

Tr:介助用具を用いる場合に、要保護者の乗換え等の準備に要する時間

車椅子Trw=30秒、ストレッチャーTrs=60秒

ウ 上記算定方法によることが適当でない場合には、避難訓練において実際に測定した所要時間を用いることができるものとすること。

(2) 避難限界時間

「避難限界時間」は、火災により各居室や避難経路が危険な状況となるまでの時間であり、「基準時間」と「延長時間」の和により算定するものとすること。

ア 基準時間

(ア) 「基準時間」は火災室が盛期火災に至る算定上の時間であり、小規模社会福祉施設は、全体の規模が比較的小さく、防火上の構造や区画の一般的な状況等から、火災室の燃焼拡大に伴い、全体が急激に危険な状態となることを考慮し、その起点として自動火災報知設備の作動時を想定するものとすること。

(イ) 火災室は、階段・廊下については、火気・可燃物の管理を前提として、火災の発生のおそれの少ないものとして取り扱うものとし、居室のみを想定するものとすること。

(ウ) 基準時間の算定方法は、火災初期における着火及び拡大のしやすさを勘案し、各火災室の状況等に応じて次表のとおりとするものとすること。