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○医療ネグレクトにより児童の生命・身体に重大な影響がある場合の対応について

(平成24年3月9日)

(雇児総発0309第2号)

(各都道府県・各指定都市・各児童相談所設置市児童福祉主管部(局)長あて厚生労働省雇用均等・児童家庭局総務課長通知)

保護者が児童に必要とされる医療を受けさせないいわゆる「医療ネグレクト」により児童の生命・身体に重大な影響がある場合については、これまで親権喪失宣告の申立て等により対応していたが、本年4月1日に施行される「民法等の一部を改正する法律」(平成23年法律第61号。以下「改正法」という。)により、親権の停止制度が新設されたことなどに伴い、対応方法に変更が生じることから、下記のとおり改正法施行後における考え方や必要な手続等を整理したので、その内容をご了知いただくとともに、管内の児童相談所並びに市町村及び関係団体等に周知を図られたい。

なお、本通知の施行に伴い、平成20年3月31日雇児総発第0331004号本職通知「医療ネグレクトにより児童の生命・身体に重大な影響がある場合の対応について」は廃止する。

また、本通知は、地方自治法(昭和22年法律第67号)第245条の4第1項の規定に基づく技術的助言であることを申し添える。

1 本通知の対象となる事例

保護者が児童に必要とされる医療を受けさせないことにより児童の生命・身体に重大な影響があると考えられ、その安全を確保するため医療行為が必要な事例であって、医療機関が医療行為を行うに当たり親権者等による同意を必要とするものの、親権者等の同意が得られないため、医療行為を行うことができない場合が対象となる。

なお、児童に必要とされる精神科医療を受けさせないことにより、児童の生命・身体に重大な影響があると考えられ、その安全を確保するため医療行為が必要な事例についても対象に含まれる。

2 児童相談所長及び施設長等の監護措置

児童相談所長は、一時保護中の児童について、親権を行う者又は未成年後見人(以下「親権者等」という。)のあるものであっても、監護に関しその児童の福祉のため必要な措置をとることができる(児童福祉法第33条の2第2項)。

また、児童福祉施設の施設長、小規模住居型児童養育事業における養育者又は里親(以下「施設長等」という。)は、入所中又は受託中の児童等について、親権者等のあるものであってもこれらの措置をとることができる(同法第47条第3項)。

児童相談所長又は施設長等(以下「児童相談所長等」という。)は、保護者が児童に必要とされる医療を受けさせない事案の場合も含め、これらの規定に基づく監護措置として児童に必要とされる医療を受けさせることができる。

しかしながら、児童に重大な影響がある医療行為を行うに当たり、上記の監護措置の権限においても、親権者等の同意がない場合や親権者等が反対しているため、医療機関が医療行為の実施を手控え、結果として児童の監護に支障が生じる場合がある。このような場合には、事例に応じ、3に掲げる各措置をとることで、児童に必要な医療を受けさせることができる。

3 対応方法

(1) 親権停止の審判による未成年後見人又は親権を代行する児童相談所長等による措置

改正法により、新たに親権停止制度が設けられ、「父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するとき」に家庭裁判所が2年以内の期間を定め、親権を停止することができることとなった(民法第834条の2)。

また、親権喪失の原因がある場合でも、2年以内にその原因が消滅する見込みがあるときは、親権喪失の審判をすることができないとされた(同法第834条ただし書)。

このため、従来、親権喪失制度により対応していた医療ネグレクトの事案には、原則として親権停止の審判により対応することとなる。具体的には、児童相談所長が家庭裁判所に親権停止の審判を請求し、審判の確定により親権が停止した後、未成年後見人又は親権を代行する児童相談所長等が医療行為に同意することにより、医療機関が必要な医療行為を行うことができる。

なお、当該医療ネグレクト以外にも児童への虐待行為が認められるなど、親権喪失の原因が2年以内に消滅する見込みのない場合には、当初から親権喪失審判を請求することもできるが、要件がより厳格となることに留意されたい。

一方、親権停止の要件は、従来の親権喪失とは異なることから、これまで親権喪失の要件を満たさなかった事案についても、家庭裁判所の判断により親権停止の対象となり得るため、親権者が児童に必要とされる医療を受けさせない場合には、必要に応じ親権停止審判の請求を検討されたい。

また、同意入所等(施設入所等の措置であって、児童福祉法第28条の規定によるものを除く。)による措置児童について親権停止審判を請求する場合に、親権者が入所等への同意を撤回したときには、児童相談所長は、当該措置の解除及び一時保護をした上で対応することとなる。

(2) (1)の親権停止審判の請求を本案とする保全処分(親権者の職務執行停止・職務代行者選任)による職務代行者又は親権を代行する児童相談所長等による措置

児童相談所長が親権停止の審判を請求した場合に、これを本案として、本案の審判の効力が生じるまでの間、親権者の職務執行を停止し、更に必要に応じて職務代行者を選任する審判前の保全処分を申し立てることができる(家事審判規則第74条)。家庭裁判所は、申立てにより、子の利益のため必要があるときは、親権者の職務の執行を停止し、また必要に応じて、その職務代行者を選任する。

職務代行者が選任された場合には職務代行者が、職務代行者がない場合には親権を代行する児童相談所長等が医療行為に同意し、医療機関が必要な医療行為を行うことができる。

(3) 児童の生命・身体の安全確保のため緊急の必要があると認めるときに親権者等の意に反しても行うことができる旨の規定に基づく児童相談所長等による措置

改正法により、児童相談所長等による監護措置については、児童の生命・身体の安全を確保するため緊急の必要があると認めるときは、親権者等の意に反してもとることができる旨が明確化された(児童福祉法第33条の2第4項、同法第47条第5項)。

よって、生命・身体に危険が生じている緊急事態であるにもかかわらず親権者等による医療行為への同意を得られない場合(緊急に親権者等の意向を把握できない場合を含む。)には、この規定を根拠として児童相談所長等が医療行為に同意し、医療機関が必要な医療行為を行うことができる。

4 方法の選択

(1) 選択順位

いずれの対応方法を選択するかは、医療行為を行う緊急性の程度により判断することが原則となる。具体的には、医療行為が行われなかった場合の生命・身体への影響の重大性を前提として、医療の観点からの時間的な緊急性のみならず、各手続に要する日数等の時間的余裕などの諸事情も考慮に入れ、時間的な観点から緊急の程度を個別事案ごとに判断する必要がある。

その結果、緊急性が極めて高く、親権停止審判及び保全処分の手続では時間的に間に合わないと判断される場合には、3(3)の措置をとる。他方、児童の生命・身体に重大な影響があると考えられるため対応が急がれるものの親権停止審判及び保全処分の手続によっても時間的に間に合う場合には3(1)及び3(2)の措置をとる。保全処分によらず、親権停止審判の確定を待っても時間的に間に合う場合には3(1)のみの措置をとる。

ただし、3(1)及び3(2)の措置や3(1)のみの措置をとった場合であっても、保全処分の決定又は親権停止審判の確定がなされる前に、児童の状態が急変するなどにより生命・身体の安全確保のために緊急に医療行為が必要になったときにはためらうことなく3(3)の措置により対応する。

また、3(3)の措置をとった上で引き続き継続的に医療行為が必要な場合にも3(1)及び3(2)の措置をとる。

(2) 選択上の留意事項

これらの判断に当たっては、客観性を担保する観点から、時間的な余裕があれば可能な限り都道府県児童福祉審議会の意見や主治医以外の医師の意見の聴取等を行うことが望ましいが、対応に遅れが生じないよう留意する必要がある。

また、日頃から家庭裁判所との間で、この種の事案を家庭裁判所に請求するに当たっての留意点、審判手続上の問題点、調査及び審理に関する留意点等について協議するとともに、家庭裁判所における円滑な審理に資するように、適時適切な審判請求等を行うことが必要である。

なお、親権停止審判又は保全処分の手続に要する日数は、事案により異なることから、一概にはいえないが、上記の日頃からの家庭裁判所との協議の中で一般的に手続に要する期間についての情報を得ておくことが考えられる。

上記の手続の選択に当たっては、児童相談所において個別の事案の実情を十分に考慮し、児童の生命・身体の安全確保を第一に考え、適切に対応されたい。

(3) 精神保健福祉法との関係

精神疾患の対象事例について、精神科病院への入院を要する場合には、任意入院(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和25年法律第123号。以下「精神保健福祉法」という。)第22条の3)によることが考えられるが、これによることができない場合には、医療保護入院(精神保健福祉法第33条)によることが考えられる。

医療保護入院を行う場合には、親権者等の同意が要件とされていることから3(3)の措置によることはできないため、緊急性が高い場合には3(1)及び3(2)の措置により対応し、親権停止審判の確定を待っても時間的に間に合う場合には3(1)のみの措置をとることとなる。

ただし、当該児童に自傷他害のおそれがある場合には、任意入院や医療保護入院ではなく、措置入院(同法第29条)により対応する。措置入院の解除後も引き続き入院が必要な場合には、改めて入院形態ごとに必要な手続をとる。

5 対応別の具体的手続等

(1) 親権停止審判による場合

ア 請求手続に係る留意事項

医療ネグレクト事案について親権停止審判を請求する場合の留意事項は次のとおりである。親権停止審判の請求に係る具体的な手続は児童相談所運営指針を参照されたい。

(ア) 申立書の留意事項

申立書には、申立ての実情として疾患と医療ネグレクトの状況を記載する必要がある。具体的には、児童に対して医療を受けさせる必要があるにもかかわらず、必要な医療を受けさせないことにより児童の生命・身体に重大な影響を及ぼすに至っている具体的な実情を記載して、親権者本人の親権の行使が困難又は不適当であり、児童の利益を害することを明らかにする。

(イ) 添付書類の留意事項

医師の意見書(別紙様式例参照)のほか、疾患や治療方法などの内容を明確にするために医学書等の写し等を添付する必要がある。申立て先の家庭裁判所から指示があった場合には適切に対応する。

イ 審判確定後の対応

親権停止期間中は当該児童には親権者がいないこととなることから、未成年後見人の選任請求を行い、選任された未成年後見人がその権限において医療行為に同意することにより対応することが原則である。ただし、親権停止後、未成年後見人があるに至るまでの間に必要な場合は、当該児童に係る措置内容に応じ、以下の者が親権代行者として医療行為に同意することにより対応することとなる。

(ア) 児童福祉施設入所中の児童の場合

施設長(児童福祉法第47条第1項)

(イ) 小規模住居型児童養育事業を行う者又は里親に委託中の児童の場合

児童相談所長(同法第47条第2項)

(ウ) 一時保護中の児童の場合

児童相談所長(同法第33条の2第1項)

(エ) 上記以外で児童相談所長が未成年後見人を選任請求している児童の場合

児童相談所長(同法第33条の8第2項)

(2) 親権者の職務執行停止・職務代行者選任の保全処分による場合

ア 申立手続に係る留意事項

医療ネグレクト事案について保全処分を申し立てる場合の留意事項は次のとおりである。保全処分の申立てに係る具体的な手続は児童相談所運営指針を参照されたい。

(ア) 申立書の留意事項

a 本案認容の蓋然性

本案が認容される蓋然性が高い旨の説明として、疾患と医療ネグレクトの状況を記載する必要がある。具体的には本案と同様である。

b 保全の必要性

児童に医療を受けさせる必要があるにもかかわらず、親権者が児童に必要とされる医療を受けさせず、一方で、本案の審判確定を待つ時間的余裕もない旨など、保全処分の必要がある旨を端的に記載する。

(イ) 添付書類の留意事項

添付資料については、親権停止の審判の申立ての場合と同様である。

なお、本案認容の蓋然性及び保全の必要性については疎明(一応確からしいと認められること)することが求められる。

イ 処分決定後の対応

保全処分の決定により職務代行者が選任されたときには職務代行者が、また、職務代行者の選任がないときには当該児童に係る措置内容に応じ、以下の者が親権代行者として医療行為に同意することにより対応することとなる。

(ア) 児童福祉施設入所中の児童の場合

施設長(児童福祉法第47条第1項)

(イ) 小規模住居型児童養育事業を行う者又は里親に委託中の児童の場合

児童相談所長(同法第47条第2項)

(ウ) 一時保護中の児童の場合

児童相談所長(同法第33条の2第1項)

(エ) 上記以外で児童相談所長が未成年後見人を選任請求している児童の場合

児童相談所長(同法第33条の8第2項)

(3) 児童の生命・身体の安全確保のため緊急の必要があると認めるときの児童相談所長等の措置による場合

ア 一時保護中における児童相談所長の同意

一時保護中の児童については、児童相談所長が必要な医療行為に同意する。

医療機関からの通告により医療ネグレクトを認知した場合など、一時保護又は施設入所等の措置がとられていない児童については、一時保護(一時保護委託)した上で、児童相談所長が必要な医療行為に同意する。

その際、児童の生命・身体の安全を確保するため緊急の必要があるにもかかわらず、親権者等が同意しなかった旨や医療行為の具体的内容等、児童相談所長の同意により医療行為が行われた経緯について記録するとともに、医師の意見書(別記様式例参照)や医学書の写し等、当該児童の疾患や治療方法などについての内容を明確にするための資料を記録に添付する。

また、児童相談所長は、当該措置により対応した旨を事後に都道府県児童福祉審議会に報告することが望ましい。

イ 入所中又は委託中における施設長等の同意

施設入所等の措置がとられている児童については、当該児童を監護する施設長等が必要な医療行為に同意する。

この場合、児童の生命・身体の安全を最優先に考え、速やかに施設長等が医療行為に同意する必要があるが、緊急性の程度によっては、親権停止審判や保全処分による対応を検討する必要がある。このため、施設等において児童の生命・身体の安全確保のため緊急の対応が必要な事態が生じた場合には、施設長等から児童相談所に速やかに連絡することとし、連携して緊急性の判断や対応方法の検討を行うことが望ましい。

また、一時保護の場合と同様、施設長等の同意により医療行為が行われた経緯についての記録等を行う。

なお、施設長等は、児童の生命・身体の安全を確保するため緊急の必要があると認めて行った内容について、速やかに児童福祉法第27条第1項第3号等の措置を行った都道府県又は市町村の長に報告しなければならない(児童福祉法第47条第5項後段)ことに留意されたい。報告の方法等については児童相談所運営指針を参照されたい。

6 医療行為が実施された後の対応

必要な医療行為が実施された後は、児童の福祉の観点から親権又は職務執行を停止された者が再び親権を行使することに支障がないと判断される場合や、一時保護を継続する必要がないと判断される場合には、児童相談所長は、親権停止等の審判の確定後であれば、その取消しを申し立て、本案である親権停止等の審判が係属中であれば、その申立ての取下げや一時保護の解除を行うなど、実施後の状況を踏まえ適切に対応する。

具体的には、医療ネグレクト以外の養育上の問題が見られるかどうか、退院後にも医療行為を継続する必要があるか、その必要がある場合に当該医療行為について親権又は職務執行を停止された者等が同意するかどうかなどについて個別事情に照らして判断する必要があるため、申立ての取下げ等の可否とともに、退院後の処遇や支援方針について、医療機関と協議して決定する。

(別紙)

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(参考)