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移植前後から造血回復までの輸血における製剤別の選択血液型を示す。

参考2 一般外科手術

術前の貧血,術中及び術後出血量や患者の病態に応じて,SBOEなどに従い術前輸血準備を行う。術前自己血貯血が可能な患者では,術前貯血を行うことが推奨される。しかし,自己血の過剰な貯血は患者のみならず,輸血部の負担となり,自己血の廃棄にもつながる。予想出血量に応じた貯血を行う必要がある。

重篤な心肺疾患や中枢神経系疾患がない患者において,輸血を開始するHb値(輸血トリガー値)がHb7~8g/dLとする。循環血液量の20%以内の出血量でありHb値がトリガー値以上に保たれている場合には,乳酸リンゲル液や酢酸リンゲル液,生理食塩液などの細胞外液補充液により循環血液量を保つようにする。細胞外液補充液は出血量の3~4倍を血圧,心拍数などのバイタルサインや,尿量,中心静脈圧などを参考に投与する。出血量が循環血液量の10%あるいは500mLを超えるような場合には,ヒドロキシエチルデンプンなどの人工膠質液を投与してもよい。ただし,ヒドロキシエチルデンプンは大量投与により血小板凝集抑制を起こす可能性があるので,投与量は20mL/kgあるいは1000mL以内に留める。循環血液量の50%以上の多量の出血が疑われる場合や血清アルブミン濃度が3.0g/dL未満の場合には,等張アルブミン製剤の併用を考慮する。

赤血球輸血を行う前に採血を行い,Hb値やHt値などを測定するとともに,輸血後はその効果を確認するために再び採血を行いHb値やHt値の上昇を確認する必要がある。

参考3 心臓血管外科手術

輸血量における施設間差

心臓血管外科手術における輸血使用量は施設間差が大きい。これは外科手技の差によるもののほか,輸血に対する考え方の差によるところが大きい2)。それは,少ない輸血量でも,患者の予後に影響することなく心臓血管外科手術が行えている施設があることから示唆される。人工心肺を用いないoff―pump冠動脈バイパス術においては,一般に出血量も少なく,術中に自己血回収を行う場合が多いため,輸血量も少ない。しかし,人工心肺を用いたり,超低体温循環停止を要するような大血管手術における輸血量となると施設間差が大きくなる。これは,凝固因子不足や血小板数不足,血小板機能異常などによる出血傾向に対して治療が行われるのではなく,単なる血小板数の正常以下への減少,人工心肺を使用することによる血小板機能や凝固因子減少が起こるといった検査値,あるいは理論的問題に対して輸血が行われる場合がしばしばあるからであろうと考えられる。そのために,外科的な出血の処置に先立って,凝固因子や血小板補充が行われている場合もしばしばある。

人工心肺使用時には血液希釈が起こる。人工心肺中のHb値についての上限及び下限は明らかではない。人工心肺離脱後はHb値が7~8g/dL以上(<10g/dL)になるようにすることが多い。

18~26℃の低体温により血小板数は減少する。主として門脈系に血小板が捕捉sequestrationされることによる。80%以上の血小板は復温とともに循環血液中に戻る3)。したがって,低体温時の血小板数減少の解釈には注意を要する。また,低体温によりトロンボキサン合成酵素阻害によるトロンボキサンA2産生低下が起こり,血小板凝集能は大きく低下するほか4,5),血管内皮細胞障害も起こる。復温により血小板凝集能は回復するが,完全な回復には時間がかかる。最近よく用いられる常温人工心肺では血小板凝集能低下はない6)

人工心肺を用いた手術において,検査所見に基づいた輸血を行うことで,経験的な方法に比べ出血量を増加させることなく,新鮮凍結血漿や血小板濃厚液などの輸血量を減少させることが出来たと報告されている7)

止血のためには血小板数が5~10万/μL,凝固因子が正常の20~40%あれば十分であることをよく認識する必要がある。血小板輸血や新鮮凍結血漿を投与する場合,正常あるいはそれを上回るような補充は不要であることをよく認識すべきである。

術前の薬物療法が有効な貧血の是正

心臓手術において,術前の貧血は同種血輸血を必要とする重要な因子である。腎不全や,鉄欠乏性貧血もしばしばみられる8)。また,術前に冠動脈造影を受けた患者では貧血になりやすいので注意が必要である。また,鉄欠乏性貧血も存在するので,鉄剤などによる治療が必要なことがある。

血小板濃厚液や新鮮凍結血漿の予防的投与の否定

人工心肺症例における血小板濃厚液や新鮮凍結血漿の予防的投与は勧められない。

出血量に関係する因子

乳児心臓血管外科手術においては,低体温人工心肺中の核心温度が出血量と関係すると報告されている。1歳以上の小児心臓血管外科手術では,再手術,術前からの心不全,長時間にわたる人工心肺時間が出血量と同種血輸血量の多さと関係している9)

同種血輸血量の減少には,術中の凝固検査のチェックを行い,不足した成分を補充する方法が有用である。複雑な心臓手術においては,トロンボエラストグラム(TEG)等が参考になるとの報告がある10)

参考4 肺外科手術

肺切除術の多くは胸腔鏡下に行われるようになった。肺外科手術においては一般に出血量や体液シフトも比較的少ない。肺切除術や肺全摘術においても,Hb値は8.5~10g/dLでよいと考えられる11)

参考5 食道手術

食道全摘術及び胃腸管を用いた食道再建術では,しばしば出血量も多くなるほか,体液のサードスペースへの移行など大きな体液シフトが起こる。輸血準備量は,患者の病態,体格,術前Hb値,術中及び術後出血量などを考慮して決定する。

術前の栄養状態が良好で,貧血もない患者では自己血貯血も考慮する。同種血輸血を用いず自己血輸血のみで管理した症例では,癌の再発率が低下し,再発後の生存期間も長くなるという後ろ向き研究による報告がある12)。自己血輸血を行った方が免疫機能が保たれ,術後感染も低いという報告もある13,14)。輸血が必要であった患者では,輸血をしなかった患者に比べ予後が不良であったという報告もある15)

食道癌患者はしばしば高齢であるが,全身状態が良好な患者における輸血を開始するHb値(輸血トリガー値)は,Hb値7~8g/dLとする。冠動脈疾患などの心疾患があり循環予備力が減少した患者や,慢性閉塞性肺疾患などの肺疾患により術後の血液酸素化悪化が予想される患者,骨髄における血球産生能力が低下している患者では,輸血トリガー値はより高いものとするのが妥当である。ただし,10g/dLより高く設定する必要はない。

参考6 整形外科手術

膝関節全置換術や股関節全置換術において,等容積性の希釈式自己血輸血,術中回収式自己血輸血,さらに体温の積極的維持により同種血輸血量を減少させることができると示唆されている16)。過剰輸血に注意が必要である17)

膝関節全置換術においては,術中はターニケットを使用するために,術中出血は比較的少ないが術後出血量も多い。術中に等容積性の希釈式自己血輸血により自己血を採取し,術後に返血したり18),術後ドレーン血を返血するという自己血輸血によっても同種血輸血量を減少させることができる19)

脊椎外科手術においてはしばしば出血量が多くなり,赤血球濃厚液のほか,血小板濃厚液や新鮮凍結血漿などが必要になる場合がある。適宜,プロトロンビン時間,INR,部分トロンボプラスチン時間の測定を行い,使用指針に従って実施する20)

低体温による血小板機能障害や凝固系抑制が起こるが,軽度低体温でも股関節全置換術では出血量が増加すると報告されている21)。外科的止血に加え,低体温のような出血量を増加させる要因についても注意が必要である。

参考7 脳神経外科手術

脳神経外科手術は,脳腫瘍手術,脳動脈瘤クリッピングや頸動脈内膜切除術などの血管手術,脳挫傷や硬膜外血腫,脳外傷手術など多岐にわたる。また,整形外科との境界領域であるが,脊髄手術も含まれる。

脳神経外科手術の基本は,頭蓋内病変の治療と,それらの病変による頭蓋内圧上昇などにより起こる二次的な損傷を防ぐことにある。したがって,脳神経外科手術においては,まず循環血液量を正常に保ち平均血圧及び脳潅流圧を十分に保つことが重要である。しかし,脳神経外科手術においては,循環血液量評価がしばしば困難である。脳脊髄液や術野の洗浄液のために,吸引量やガーゼ重量を測定しても,しばしば出血量の算定が難しい。また,脳浮腫の予防や治療,脳脊髄液産生量減少のためにマンニトールやフロセミドのような利尿薬を用いるために,尿量が循環血液量を反映しない。また,脳浮腫を抑制するために,血清浸透圧減少を防ぐことが重要である。正常血清浸透圧は295mOsm/Lであるのに対し,乳酸リンゲル液や酢酸リンゲル液などはやや低張液である。生理食塩水は308mOsm/Lと高張であるが,大量投与により高塩素性代謝性アシドーシスを起こすので注意が必要である。

脳浮腫を防ぐために膠質浸透圧が重要であるとしばしば信じられているが,それを示す科学的証拠は乏しい。ほとんどの開頭手術では膠質液の投与は不要である。しかし,脳外傷や脳動脈瘤破裂,脳血管損傷などにより出血量が多くなった場合(たとえば循環血液量の50%以上)には,ヒドロキシエチルデンプンなどの人工膠質液や,アルブミン溶液投与が必要なことがある。ただし,ヒドロキシエチルデンプン大量投与では凝固因子希釈に加え,血小板凝集抑制,凝固第Ⅷ因子複合体への作用により出血傾向を起こす可能性がある。

参考8 泌尿器科手術

根治的前立腺切除術においては,術前の貯血式自己血輸血あるいは,術中の等容積性の希釈式自己血輸血により同種血輸血の投与量を減少させることができる22)。しかし,メタ分析では,希釈式自己血輸血による同種血輸血の減少については,疑問がもたれている23)

根治的前立腺切除術において,術中の心筋虚血発作は,術後頻脈やHt値が28%未満では多かったという報告がある24)

参考9 大量出血や急速出血に対する対処

大量出血は循環血液量よりも24時間以内における出血量が多い場合をいう。しかし,外科手術の場合,特に外傷に対する手術では,数時間という短時間の間に循環血液量を超えるような出血や,急速に循環血液量の1/3~1/2を超えるような出血が起こる場合がある。

輸血準備の時間的余裕がある場合には,交差適合試験と放射線照射を行った赤血球濃厚液を投与する。また,大量輸血時の適合血の選択については,「輸血療法の実施に関する指針」のⅤの3を参照。

急速大量輸血では代謝性アシドーシスや高カリウム血症が起こる可能性がある。高カリウム血症は,輸血速度が1.2mL/kg/minを超えた場合に起こる25)。現在,輸血ポンプや加圧バッグを備えた血液加温装置などの技術的進歩により高速度の輸血が可能になり,心停止を招くような高度の高カリウム血症が起こる可能性がある26,27)。循環不全などによる代謝性アシドーシスも高カリウム血症を増悪させる要因となる。

大量出血患者では低体温になりやすいが,特に輸液剤や輸血用血液製剤の加温が不十分な場合にはさらに低体温となりやすい。低体温は術後のシバリングとそれによる酸素消費量の重大な増加を起こすだけでなく,感染症の増加などを起こすことが示唆されている。急速・大量輸血を行う場合には,対流式輸液・輸血加温器など効率のよい加温器を使用する必要がある。その他,温風対流式加温ブランケットなどの使用により低体温を防ぐよう努力するべきである。

MAP加赤血球濃厚液や新鮮凍結血漿にはクエン酸が含まれているため,急速輸血により一時的に低カルシウム血症が起こる可能性がある28)。しかし,低カルシウム血症は一時的なものであり,臨床的に重大な影響を持つことは少ない。大量輸血時に血圧低下,心収縮性減少がある場合や,イオン化カルシウム濃度測定により低カルシム血症が明らかな場合には,塩化カルシウムやグルコン酸カルシウムなどによりカルシウム補充を行う。

循環血液量以上の出血が起きた場合,新鮮凍結血漿により凝固因子を補ったり,血小板輸血により血小板を補う必要性は増加する29)。循環血液量以上の出血が起きても,新鮮凍結血漿を出血傾向予防のために投与することの有用性は否定されている30)。血小板輸血にあたっては,血小板回収率から考えてABO適合血小板濃厚液を用いることが望ましい。ABO不適合血小板濃厚液も使用は可能であるが,血小板回収率はABO適合血小板濃厚液に比べ低くなることに注意が必要である。

これは,大量出血に伴う出血傾向が,凝固障害によるものだけでなく,重篤な低血圧31),末梢循環不全による代謝性アシドーシス,低体温といったさまざまな因子に関係しているので注意深く観察して対処すべきである32)

参考10 小児の外科手術

循環予備能が小さい小児患者において,成人の出血量による輸血開始基準を当てはめることは問題になる場合があり,出血が予想される緊急手術術前の貧血(8g/dL未満)も赤血球輸血の対象として考慮する。また,外傷・術中出血による循環血液量の15~20%の喪失の場合も赤血球輸血を考慮する。いずれの場合も,臨床状態から輸血開始の判断をすべきである。

参考11 慢性貧血患者における代償反応

外科手術患者においてはしばしば術前に貧血が認められる。多くの慢性貧血患者においては,赤血球量は減少しているが,血漿量はむしろ増加しており,循環血液量は正常に保たれている。Ht値低下に伴う血液粘性減少により血管抵抗が減少するため,1回心拍出量は増加し,心拍出量は増加する。そのため,血液酸素含有量は減少するものの,心拍出量増加により代償されるため,末梢組織への血液酸素運搬量は減少しない。組織における酸素摂取率は上昇する。ただし,心疾患があり心機能障害がある患者や高齢者では,貧血となっても心拍出量の代償的増加が起きにくい。

慢性貧血では2,3―DPG増加により酸素解離曲線の右方シフトが起こるため,末梢組織における血液から組織への酸素受け渡しは促進される33)。MAP加赤血球濃厚液中の2,3―DPG量は減少しているため,多量の輸血を行いヘモグロビン濃度を上昇させ血液酸素含有量を増加させても,組織への酸素供給量は増加しないため,直ちに期待すべき効果がみられないことがあることに注意する34)

※2,3―DPG:2,3―ジホスホグリセリン酸

参考12 手術を安全に施行するのに必要と考えられるHt値やHb値の最低値

全身状態が良好な高齢者の整形外科手術において,Ht値を41%から28%に減少させても,心拍出量増加が起きなかったという報告35)はあるが,Ht値を27~29%としても若年者と手術死亡率は変わらなかったという報告もある36)。循環血液量が保たれるならば,Ht値を45%から30%まで,あるいは40%から28%に減少させても,酸素運搬量は減少しないと報告されている37)

正常な状態では全身酸素供給量は全身酸素消費量を上回っている。しかし,全身酸素供給量が減少してくると,全身酸素消費量も減少してくる。このような状態では嫌気的代謝が起こっている。この時点での酸素供給量をcritical oxygen delivery(DO2crit)という。冠動脈疾患患者ではDO2critは330mL/minであると報告されている38)。手術時に500~2,000mL出血しHt値が24%以下になった患者では,死亡率が高かったという報告もある39)。急性心筋梗塞を起こした高齢者ではHt値が30%未満で死亡率が上昇するが,輸血によりHt値を30~33%に上昇させると死亡率が改善するという報告がある。また,根治的前立腺切除術において,術中の心筋虚血発作は,術後頻脈やHt値が28%未満では多かったという報告がある40)。しかし,急性冠症候群において輸血を受けた患者では,心筋梗塞に移行した率や30日死亡率が高いことが報告されている41)

冠動脈疾患患者においては,高度の貧血は避けるべきであるが,一方,Ht値を上昇させすぎるのも危険である可能性がある。Hb値10g/dL,Ht値30%程度を目標に輸血を行うのが適当であると考えられる42)

全身状態が良好な若年者では循環血液量が正常に保たれていれば,Ht値が24~27%,Hbが8.0~9.0g/dLであっても問題がないと考えられる43,44,45)。生理学的にはHbが6.0~7.0g/dLであっても生体は耐えられると考えられるが,出血や心機能低下などが起きた場合に対処できる予備能は,非常に少なくなっていると考えるべきである。

周術期の輸血における指標やガイドラインについては,米国病理学会や米国麻酔科学会(ASA)も輸血に対するガイドラインを定めている46,47,48)。実際,Hb値が10g/dLで輸血することは少なくなっている49)

参考13 術中の出血コントロールについて

出血量の多少はあるにしろ,手術により出血は必ず起こる。出血量を減少させるには,外科的止血のほか,出血量を増加させる内科的要因に対処する必要がある48)

出血のコントロールには,血管の結紮やクリップによる血管閉塞,電気凝固などによる確実な外科的止血のほか,高度の凝固因子不足に対しては新鮮凍結血漿輸注,高度の血小板減少症や血小板機能異常に対しての血小板濃厚液投与など,術中の凝固検査のチェックを行い,不足した成分を補充する方法が有用である。

また,出血を助長するような因子を除去することも必要である。整形外科手術などでは低血圧麻酔(人為的低血圧)による血圧のコントロールが有用な場合がある。また,低体温は軽度のものであっても術中出血を増加させる危険があるので,患者の保温にも十分に努めなければならない。

不適切な輸血療法を防ぐためには,医師の輸血に関する再教育も重要である49)

参考14 アフェレシスに関連する事項について

置換液として膠質浸透圧を保つため,通常は等張アルブミン製剤等を用いるが,以下の場合に新鮮凍結血漿が用いられる場合がある。

1) 重篤な肝不全に対して,主として複合的な凝固因子の補充の目的で行われる血漿交換療法

保存的治療若しくは,肝移植によって病状が改善するまでの一時的な補助療法であり,PTがINR2.0以上(30%以下)を開始の目安とする。必要に応じて,血液濾過透析等を併用する。原疾患に対する明確な治療方針に基づき,施行中もその必要性について常に評価すること。原疾患の改善を目的とする治療が実施できない病態においては,血漿交換療法の適応はない。

重篤な肝障害において,新鮮凍結血漿を用いた血漿交換を強力に行う場合,クエン酸ナトリウムによる,代謝性アルカローシス,高ナトリウム血症や,膠質浸透圧の急激な変化を来たす場合があるので,経時的観察を行い,適切な対応を行うこと。

2) 並存する肝障害が重篤で,除去した止血系諸因子の血中濃度のすみやかな回復が期待できない場合。

3) 出血傾向若しくは血栓傾向が著しく,一時的な止血系諸因子の血中濃度の低下が危険を伴うと予想される場合。このような場合,新鮮凍結血漿が置換液として用いられるが,病状により必ずしも置換液全体を新鮮凍結血漿とする必要はなく,開始時は,等張アルブミンや,人工膠質液を用いることが可能な場合もある。

4) 血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)・溶血性尿毒症症候群(HUS) :TTPでは血管内皮細胞由来の,通常よりも分子量の大きいvon Willebrand Factorが,微小循環で血小板血栓を生じさせ,本症の発症に関与している。また,von Willebrand Factor Cleaving Protease(vWF―CP―ADAMTS13)の著減や阻害因子の出現が主要な病因とされ,新鮮凍結血漿を置換液として血漿交換療法を行い,vWF―CPを補充し阻害因子を除くことが最も有効である。血漿交換療法が行い難い場合や,遺伝性にvWF―CPの欠乏を認める場合,vWF―CPの減少を補充するために,新鮮凍結血漿の単独投与が効果を発揮する場合がある。一部の溶血性尿毒症症候群においても,新鮮凍結血漿を用いた血漿交換や血漿輸注が有効な場合がある。

*BCSH.Guideline Guidelines on the Diagnosis and Management of the Thrombotic Microangiopathic Haemolytic Anemias. British Journal of Haematology 2003;120:556―573

参考15 赤血球濃厚液の製法と性状

わが国で, 全血採血に使用されている血液保存液は,CPD液(citrate―phosphate―dextrose:クエン酸ナトリウム水和物26.30g/L,クエン酸水和物3.27g/L,ブドウ糖23.20g/L,リン酸二水素ナトリウム2.51g/L)及びACD―A液(acid―citrate―dextrose:クエン酸ナトリウム水和物22.0g/L,クエン酸水和物8.0g/L,ブドウ糖22.0g/L)であり,現在,日本赤十字社から供給される赤血球製剤では,CPD液が使用されている。

また,赤血球保存用添加液としてはMAP液(mannitol―adenine―phosphate:D―マンニトール14.57g/L,アデニン0.14g/L,リン酸二水素ナトリウム二水和物0.94g/L,クエン酸ナトリウム1.50g/L,クエン酸0.20g/L,ブドウ糖7.21g/L,塩化ナトリウム4.97g/L)が使用されている。

MAP加赤血球濃厚液(MAP加RCC)

日本赤十字社は,これまで,MAP加赤血球濃厚液として赤血球M・A・P「日赤」及び照射赤血球M・A・P「日赤」を供給してきたが,平成19年1月より,保存前に白血球を除去したMAP加赤血球濃厚液(赤血球濃厚液―LR「日赤」及び照射赤血球濃厚液―LR「日赤」)を供給している。

赤血球濃厚液―LR「日赤」は,血液保存液(CPD液)を28mL又は56mL混合したヒト血液200mL又は400mLから,当該血液バッグに組み込まれた白血球除去フィルターを用いたろ過により白血球を除去した後に血漿の大部分を除去した赤血球層に,血球保存用添加液(MAP液)をそれぞれ約46mL,約92mL混和したもので,CPD液を少量含有する。照射赤血球濃厚液―LR「日赤」は,これに放射線を照射したものである。

赤血球濃厚液―LR「日赤」及び照射赤血球濃厚液―LR「日赤」の容量は,200mL全血由来(RCC―LR―1)の約140mLと400mL全血由来(RCC―LR―2)の約280mLの2種類がある。

製剤中の白血球数は1バッグ当たり1×106個以下であり,400mL全血由来の製剤では,Ht値は50~55%程度で,ヘモグロビン(Hb)含有量は20g/dL程度である。

赤血球濃厚液―LR「日赤」及び照射赤血球濃厚液―LR「日赤」の保存中の経時的な変化を示す(表2)50,51)

赤血球濃厚液―LR「日赤」及び照射赤血球濃厚液―LR「日赤」は,2~6℃で保存する。

日本赤十字社では,MAP加赤血球濃厚液(赤血球M・A・P「日赤」)の製造承認取得時には有効期間を42日間としていたが,エルシニア菌混入の可能性があるため,現在は有効期間を21日間としている。

表2 赤血球濃厚液―LR「日赤」及び照射赤血球濃厚液―LR「日赤」の経時的変化

赤血球濃厚液―LR「日赤」(RCC―LR―2;400mL採血由来)(n=8)

項目

1日目

7日目

14日目

21日目

28日目

容量

(mL)

276.9±14.3

白血球数

すべて適合

上清ヘモグロビン濃度

(mg/dL)

12.8±3.5

25.6±5.4

28.9±6.3

42.7±9.2

55.9±14.1

ATP濃度

(μmol/gHb)

5.5±0.9

7.3±0.9

6.5±0.9

6.0±1.1

5.3±1.2

2.3-DPG濃度

(μmol/gHb)

14.5±0.9

12.2±1.8

3.5±1.5

0.3±0.4

0.0±0.0

上清ナトリウム濃度

(mEq/L)

124.9±1.7

114.3±1.5

109.8±1.0

106.5±2.4

102.4±3.2

上清カリウム濃度

(mEq/L)

1.2±0.1

19.3±2.1

30.5±2.9

38.7±2.6

45.0±2.4

上清総カリウム量

(mEq)

0.2±0.1

2.5±0.3

3.9±0.4

4.9±0.4

5.7±0.4

pH

7.23±0.03

7.08±0.02

6.87±0.02

6.71±0.03

6.63±0.03

赤血球数

(×104/μL)

602±32

603±35

602±36

603±36

602±38

ヘマトクリット

(%)

54.2±1.9

53.2±1.8

53.1±1.9

53.2±2.2

52.8±2.3

平均赤血球容積

(fL)

90.2±4.2

88.3±4.1

88.3±4.1

88.4±4.3

87.8±4.3

ヘモグロビン濃度

(g/dL)

18.9±0.8

19.0±0.7

18.9±0.8

18.8±0.7

18.8±0.8

10%溶血点

(%NaCl)

0.517±0.018

0.495±0.015

0.499±0.017

0.500±0.020

0.501±0.023

50%溶血点

(%NaCl)

0.473±0.018

0.452±0.019

0.452±0.019

0.449±0.021

0.446±0.021

90%溶血点

(%NaCl)

0.422±0.025

0.386±0.021

0.380±0.022

0.372±0.024

0.372±0.025

照射赤血球濃厚液―LR「日赤」1)(Ir―RCC―LR―2;400mL採血由来)(n=8)

項目

1日目

7日目

14日目

21日目

28日目

容量

(mL)

274.8±18.3

白血球数

すべて適合

上清ヘモグロビン濃度

(mg/dL)

12.8±4.3

24.8±7.1

35.0±8.5

49.3±15.6

68.8±24.8

ATP濃度

(μmol/gHb)

6.3±0.7

6.4±0.8

6.4±0.6

5.9±0.6

5.0±0.9

2.3-DPG濃度

(μmol/gHb)

14.0±1.4

9.7±2.6

2.8±2.0

0.6±0.9

0.1±0.3

上清ナトリウム濃度

(mEq/L)

123.4±1.6

100.1±3.3

92.4±3.8

89.3±3.2

85.8±3.2

上清カリウム濃度

(mEq/L)

1.7±0.3

36.3±4.8

49.5±4.8

56.6±4.6

60.3±4.6

上清総カリウム量

(mEq)

0.2±0.1

4.6±0.7

6.2±0.8

7.1±0.8

7.6±0.8

pH

7.20±0.02

7.06±0.02

6.84±0.02

6.70±0.02

6.64±0.02

赤血球数

(×104/μL)

615±25

620±29

621±27

617±26

621±24

ヘマトクリット

(%)

54.3±1.6

52.2±1.6

51.5±1.7

51.2±1.9

51.1±1.8

平均赤血球容積

(fL)

88.3±2.4

84.2±2.3

83.0±2.4

82.9±2.1

82.4±2.2

ヘモグロビン濃度

(g/dL)

19.1±0.7

19.1±0.7

19.0±0.7

19.1±0.7

19.0±0.7

10%溶血点

(%NaCl)

0.521±0.017

0.484±0.016

0.475±0.018

0.472±0.019

0.473±0.023

50%溶血点

(%NaCl)

0.477±0.018

0.429±0.020

0.415±0.019

0.410±0.019

0.409±0.021

90%溶血点

(%NaCl)

0.425±0.030

0.353±0.045

0.349±0.016

0.345±0.022

0.345±0.030

平均±標準偏差

1)1日目(採血当日)に15Gγ以上50Gγ以下の放射線を照射

(日本赤十字社社内資料より)

参考16 血小板濃厚液の製法と性状

血小板濃厚液の調製法には,採血した全血を常温に保存し製剤化する方法と,単一供血者から成分採血装置を使用して調製する方法があるが,日本赤十字社から供給される血小板濃厚液では,全血採血由来の保存前白血球除去の導入により,白血球とともに血小板も除去されることから(製造工程において使用する白血球除去フィルターに吸着される),現在は,全血採血からは製造しておらず,後者の成分採血による方法のみが行われている。

血小板製剤では,血小板数を単位数で表す。1単位は0.2×1011個以上である。

血小板濃厚液の製剤規格,実単位数と含有血小板数との関係を表3に示す。

HLA適合血小板濃厚液には,10,15,20単位の各製剤がある。

これらの血小板濃厚液の中には少量の赤血球が含まれる可能性がある。なお,平成16年10月より,保存前白血球除去技術が適用され,製剤中の白血球数は1バッグ当たり1×106個以下となっている。

調製された血小板濃厚液は,輸血するまで室温(20~24℃)で水平振盪しながら保存する。

有効期間は採血後4日間である。

表3 血小板製剤の単位換算と含有血小板数

製剤規格

実単位数

含有血小板数(×1011)

1単位(約20mL)

1

0.2≦

2単位(約40mL)

2

0.4≦

5単位(約100mL)

1.0×1011

5

1.0≦~<1.2

6

1.2≦~<1.4

7

1.4≦~<1.6

8

1.6≦~<1.8

9

1.8≦~<2.0

10単位(約200mL)

2.0×1011

10

2.0≦~<2.2

11

2.2≦~<2.4

12

2.4≦~<2.6

13

2.6≦~<2.8

14

2.8≦~<3.0

15単位(約250mL)

3.0×1011

15

3.0≦~<3.2

16

3.2≦~<3.4

17

3.4≦~<3.6

18

3.6≦~<3.8

19

3.8≦~<4.0

20単位(約250mL)

4.0×1011

20

4.0≦~<4.2

21≦

4.2≦

現在、日本赤十字社から供給される血小板製剤は全て成分採血由来である。

参考17 新鮮凍結血漿(FFP)の製法と性状

全血採血由来の新鮮凍結血漿(新鮮凍結血漿―LR「日赤」)は,血液保存液(CPD液)を28mL又は56mL混合したヒト血液200mL又は400mLから当該血液バッグに組み込まれた白血球除去フィルターを用いたろ過により白血球の大部分を除去し,採血後8時間以内に分離した新鮮な血漿を-20℃以下に置き,凍結したもので,容量は約120mL(FFP―LR―1)及び約240mL(FFP―LR―2)である。

成分採血由来の新鮮凍結血漿(新鮮凍結血漿「日赤」)は,血液保存液(ACD―A液)を混合し,血液成分採血により白血球の大部分を除去して採取した新鮮な血漿を採血後6時間以内に-20℃以下に置き,凍結したもので,容量は約450mL(FFP―5)である。

製剤中の白血球数は,1バッグ当たり1×106個以下である。

新鮮凍結血漿は,-20℃以下で凍結保存する。有効期間は採血後1年間である。

新鮮凍結血漿―LR「日赤」の経時的変を表4に示す。含有成分は血液保存液により希釈されて,単位容積当たりの濃度は正常血漿と比較して,およそ10~15%低下している。

また,血漿中の凝固因子活性の個人差は大きいが,新鮮凍結血漿中でもほぼ同様な凝固因子活性が含まれている。ただし,不安定な因子である凝固第Ⅴ,Ⅷ因子活性はわずかながら低下する。一方,ナトリウム濃度は血液保存液中のクエン酸ナトリウム水和物及びリン酸二水素ナトリウムの添加により増量している。なお,正常血漿1mL中に含まれる凝固因子活性を1単位(100%)という。また,日本赤十字社が供給する輸血用血液製剤は,採血時における問診等の検診,採血血液に対する感染症関連の検査等の安全対策を講じており,さらに新鮮凍結血漿では6ヵ月間の貯留保管注1)を行っているが,感染性の病原体に対する不活化処理はなされておらず,人の血液を原料としていることに由来する感染症伝播等のリスクを完全には排除できないため,疾病の治療上の必要性を十分に検討の上,必要最小限の使用にとどめる必要がある。

注1) 貯留保管(Quarantine)とは,一定の期間隔離保管する方法である。

採血時の問診や献血血液に対する核酸増幅検査(NAT)を含めた感染症関連検査等でも,感染リスクの排除には限界がある。

貯留保管期間中に,遡及調査の結果及び献血後情報等により感染リスクの高い血液があることが判明した場合,その輸血用血液(ここでは新鮮凍結血漿)及び血漿分画製剤用原料血漿を確保(抜き取って除外)することにより,より安全性の確認された血液製剤を医療機関へ供給する安全対策である。

新鮮凍結血漿の有効期間は1年間であるが,日本赤十字社では,6ヵ月間の貯留保管をした後に医療機関へ供給している。

表4 新鮮凍結血漿―LR「日赤」の経時的変化

項目

新鮮凍結血漿―LR「日赤」(FFP―LR―2,400mL採血由来)(n=7)

1日目

1ヵ月目

3ヵ月目

6ヵ月目

9ヵ月目

12ヵ月目

13ヵ月目

容量

(mL)

229±141)

白血球数

すべて適合1)

凝固第Ⅱ因子

(%)

1002)

97.4±1.9

97.0±1.9

95.0±2.9

87.0±2.1

82.6±6.7

81.9±2.3

凝固第Ⅴ因子

(%)

1002)

96.0±3.6

95.0±6.0

92.8±2.6

89.7±3.2

89.6±2.9

89.4±2.6

凝固第Ⅷ因子

(%)

1002)

95.6±3.8

95.3±4.0

82.3±7.0

82.1±5.9

80.6±6.2

75.0±8.3

プロトロンビン時間

(秒)

9.2±0.33)

9.2±0.4

9.4±0.3

9.4±0.3

9.3±0.2

9.3±0.2

9.5±0.4

活性化部分

トロンボプラスチン時間

(秒)

40.3±4.23)

40.3±4.5

41.7±3.4

38.9±4.2

44.2±6.2

42.6±3.4

42.2±2.7

上清ヘモグロビン濃度

(mg/dL)

5.0±0.93)

7.6±3.0

11.4±6.7

上清ナトリウム濃度

(mEq/L)

167.4±2.13)

165.5±3.0

169.5±4.0

上清カリウム濃度

(mEq/L)

3.3±0.23)

4.2±0.4

4.2±0.1

上清総カリウム量

(mEq)

0.8±0.13)

1.0±0.1

1.0±0.1

pH

7.34±0.033)

7.39±0.03

7.37±0.02