氏名 |
ふりがな |
現職 |
稲田英一 |
いなだえいいち |
順天堂大学医学部麻酔科学・ペインクリニック講座教授 |
川口毅 |
かわぐちたけし |
昭和大学医学部(公衆衛生学)教授 |
河野文夫 |
かわのふみお |
独立行政法人国立病院機構熊本医療センター臨床研究部長 |
木村厚 |
きむらあつし |
(社)全日本病院協会常任理事((医)―成会理事長) |
清水勝 |
しみずまさる |
杏林大学医学部臨床検査医学講座客員教授 |
白幡聡 |
しらはたあきら |
産業医科大学小児科学教室教授 |
鈴木洋通 |
すずきひろみち |
埼玉医科大学腎臓内科教授 |
◎高橋孝喜 |
たかはしこうき |
東京大学医学部附属病院輸血部教授・日本輸血学会総務幹事 |
高松純樹 |
たかまつじゅんき |
名古屋大学医学部附属病院血液部教授 |
田島知行 |
たじまともゆき |
(社)日本医師会常任理事 |
花岡一雄 |
はなおかかずお |
JR東京総合病院長 |
堀内龍也 |
ほりうちりゅうや |
群馬大学大学院医学系研究科薬効動態制御学教授・附属病院薬剤部長 |
三谷絹子 |
みたにきぬこ |
獨協医科大学血液内科教授 |
森下靖雄 |
もりしたやすお |
群馬大学理事・医学部附属病院長 |
門田守人 |
もんでんもりと |
大阪大学大学院医学系研究科教授(病態制御外科) |
◎は座長 (計15名,氏名五十音順)
○ 専門委員
氏名 |
ふりがな |
現職 |
上田恭典 |
うえだやすのり |
(財)倉敷中央病院血液内科 |
高本滋 |
たかもとしげる |
愛知医科大学輸血部教授 |
月本一郎 |
つきもといちろう |
東邦大学医学部第1小児科教授 |
半田誠 |
はんだまこと |
慶應義塾大学医学部助教授輸血センター室長 |
比留間潔 |
ひるまきよし |
東京都立駒込病院輸血科医長 |
前川平 |
まえかわたいら |
京都大学医学部附属病院輸血部教授 |
山本保博 |
やまもとやすひろ |
日本医科大学救急医学教授 |
(計7名,氏名五十音順)
「血液製剤の使用指針」及び「輸血療法の実施に関する指針」の一部改正時(平成24年3月)の委員
○ 薬事・食品衛生審議会血液事業部会適正使用調査会
氏名 |
ふりがな |
現職 |
稲田英一 |
いなだえいいち |
順天堂大学医学部教授 |
稲波弘彦 |
いななみひろひこ |
岩井整形外科内科病院理事長・院長 |
薄井紀子 |
うすいのりこ |
東京慈恵会医科大学附属第三病院腫瘍・血液内科 診療部長 |
大戸斉 |
おおとひとし |
福島県立医科大学輸血・移植免疫部教授 |
兼松隆之 |
かねまつたかし |
長崎市病院局病院事業管理者 |
小山信彌 |
こやまのぶや |
東邦大学医学部外科講座心臓血管外科教授 |
鈴木邦彦 |
すずきくにひこ |
社団法人日本医師会常任理事 |
鈴木洋史 |
すずきひろし |
東京大学医学部附属病院教授・薬剤部長 |
◎高橋孝喜 |
たかはしこうき |
東京大学医学部附属病院輸血部教授・輸血部長 |
田中純子 |
たなかじゅんこ |
広島大学大学院疫学疾病制御学講座・教授 |
田中政信 |
たなかまさのぶ |
東邦大学医療センター大森病院産婦人科教授 |
種本和雄 |
たねもとかずお |
川崎医科大学胸部心臓血管外科教授 |
牧野茂義 |
まきのしげよし |
国家公務員共済組合連合会虎の門病院輸血部長 |
益子邦洋 |
ましこくにひろ |
日本医科大学千葉北総病院救命救急センター長・教授 |
三谷絹子 |
みたにきぬこ |
獨協医科大学血液内科教授 |
◎は座長 (計15名,氏名五十音順)
[別添2]
「血液製剤の使用指針」(改定版)
平成17年9月(平成24年3月一部改正)
厚生労働省医薬食品局血液対策課
目次
■「血液製剤の使用指針」
[要約]赤血球濃厚液の適正使用
[要約]血小板濃厚液の適正使用
[要約]新鮮凍結血漿の適正使用
[要約]アルブミン製剤の適正使用
はじめに
Ⅰ 血液製剤の使用の在り方
Ⅱ 赤血球濃厚液の適正使用
Ⅲ 血小板濃厚液の適正使用
Ⅳ 新鮮凍結血漿の適正使用
Ⅴ アルブミン製剤の適正使用
Ⅵ 新生児・小児に対する輸血療法
おわりに
(参考)
[要約]赤血球濃厚液の適正使用
■ 目的
● 赤血球補充の第一義的な目的は,末梢循環系へ十分な酸素を供給することにある。
■ 使用指針
1) 慢性貧血に対する適応(主として内科的適応)
[血液疾患に伴う貧血]
● 高度の貧血の場合には,一般に1~2単位/日の輸血量とする。
● 慢性貧血の場合にはHb値7g/dLが輸血を行う一つの目安とされているが,貧血の進行度,罹患期間等により必要量が異なり,一律に決めることは困難である。
* Hb値を10g/dL以上にする必要はない。
* 鉄欠乏,ビタミンB12欠乏,葉酸欠乏,自己免疫性溶血性貧血など,輸血以外の方法で治療可能である疾患には,原則として輸血を行わない。
[慢性出血性貧血]
● 消化管や泌尿生殖器からの,少量長期的な出血による高度の貧血は原則として輸血は行わない。日常生活に支障を来す循環器系の臨床症状(労作時の動悸・息切れ,浮腫など)がある場合には,2単位の輸血を行い,臨床所見の改善の程度を観察する。全身状態が良好な場合は,ヘモグロビン(Hb)値6g/dL以下が一つの目安となる。
2) 急性出血に対する適応(主として外科的適応)
● Hb値が10g/dLを超える場合は輸血を必要とすることはないが,6g/dL以下では輸血はほぼ必須とされている。
* Hb値のみで輸血の開始を決定することは適切ではない。
3) 周術期の輸血
(1) 術前投与
● 患者の心肺機能,原疾患の種類(良性又は悪性),患者の年齢や体重あるいは特殊な病態等の全身状態を把握して投与の必要性の有無を決定する。
* 慣習的に行われてきた術前投与のいわゆる10/30ルール(Hb値10g/dL,ヘマトクリット(Ht)値30%以上にすること)は近年では根拠のないものとされている。
(2) 術中投与
● 循環血液量の20~50%の出血量に対しては,人工膠質液(ヒドロキシエチルデンプン(HES),デキストランなど)を投与する。赤血球不足による組織への酸素供給不足が懸念される場合には,赤血球濃厚液を投与する。この程度までの出血では,等張アルブミン製剤(5%人血清アルブミン又は加熱人血漿たん白)の併用が必要となることは少ない。
循環血液量の50~100%の出血では,適宜等張アルブミン製剤を投与する。なお,人工膠質液を1,000mL以上必要とする場合にも等張アルブミン製剤の使用を考慮する。
● 循環血液量以上の大量出血(24時間以内に100%以上)時又は,100mL/分以上の急速輸血をするような事態には,新鮮凍結血漿や血小板濃厚液の投与も考慮する。
● 通常はHb値が7~8g/dL程度あれば十分な酸素の供給が可能であるが,冠動脈疾患などの心疾患あるいは肺機能障害や脳循環障害のある患者では,Hb値を10g/dL程度に維持することが推奨される。
(3) 術後投与
● 術後の1~2日間は細胞外液量と血清アルブミン濃度の減少が見られることがあるが,バイタルサインが安定している場合は,細胞外液補充液の投与以外に赤血球濃厚液,等張アルブミン製剤や新鮮凍結血漿などの投与が必要となる場合は少ない。
■ 投与量
● 赤血球濃厚液の投与によって改善されるHb値は,以下の計算式から求めることができる。
予測上昇Hb値(g/dL)=投与Hb量(g)/循環血液量(dL)
循環血液量:70mL/kg{循環血液量(dL)=体重(kg)×70mL/kg/100}
例えば,体重50kgの成人(循環血液量35dL)にHb値19g/dLの血液製剤を2単位(400mL由来の赤血球濃厚液―LR「日赤」の容量は約280mLである。したがって,1バッグ中の含有Hb量は約19g/dL×280/100dL=約53gとなる)輸血することにより,Hb値は約1.5g/dL上昇することになる。
■ 不適切な使用
● 凝固因子の補充を目的としない新鮮凍結血漿との併用
● 末期患者への投与
■ 使用上の注意点
1) 使用法
2) 感染症の伝播
3) 鉄の過剰負荷
4) 輸血後移植片対宿主病(PT―GVHD)の予防対策
5) 高カリウム血症
6) 溶血性副作用
7) 非溶血性副作用
8) ABO血液型・Rh型と交差適合試験
9) サイトメガロウイルス(CMV)抗体陰性赤血球濃厚液
[要約]血小板濃厚液の適正使用
■ 目的
● 血小板輸血は,血小板成分を補充することにより止血を図り,又は出血を防止することを目的とする。
■ 使用指針
以下に示す血小板数はあくまでも目安であって,すべての症例に合致するものではない。
● 血小板数が2~5万/μLでは,止血困難な場合には血小板輸血が必要となる。
● 血小板数が1~2万/μLでは,時に重篤な出血をみることがあり,血小板輸血が必要となる場合がある。血小板数が1万/μL未満ではしばしば重篤な出血をみることがあるため,血小板輸血を必要とする。
* 一般に,血小板数が5万/μL以上では,血小板輸血が必要となることはない。
* 慢性に経過している血小板減少症(再生不良貧血など)で,他に出血傾向を来す合併症がなく,血小板数が安定している場合には,血小板数が5千~1万/μLであっても,血小板輸血は極力避けるべきである。
1) 活動性出血
● 血小板減少による重篤な活動性出血を認める場合(特に網膜,中枢神経系,肺,消化管などの出血)には,血小板数を5万/μL以上に維持するように血小板輸血を行う。
2) 外科手術の術前状態
● 血小板数が5万/μL未満では,手術の内容により,血小板濃厚液の準備又は,術直前の血小板輸血の可否を判断する。
* 待機的手術患者あるいは腰椎穿刺,硬膜外麻酔,経気管支生検,肝生検などの侵襲を伴う処置では,術前あるいは施行前の血小板数が5万/μL以上あれば,通常は血小板輸血を必要とすることはない。
3) 人工心肺使用手術時の周術期管理
● 術中・術後を通して血小板数が3万/μL未満に低下している場合には,血小板輸血の適応である。ただし,人工心肺離脱後の硫酸プロタミン投与後に血算及び凝固能を適宜検査,判断しながら,必要に応じて5万/μL程度を目処に血小板輸血開始を考慮する。
● 複雑な心大血管手術で長時間(3時間以上)の人工心肺使用例,再手術などで広範な癒着剥離を要する例,及び慢性の腎臓や肝臓の疾患で出血傾向をみる例の中には,血小板減少あるいは止血困難な出血(oozingなど)をみることがあり,凝固因子の欠乏を伴わず,このような病態を呈する場合には,血小板数が5万/μL~10万/μLになるように血小板輸血を行う。
4) 大量輸血時
● 急速失血により24時間以内に循環血液量相当量ないし2倍量以上の大量輸血が行われ,止血困難な出血症状とともに血小板減少を認める場合には,血小板輸血の適応となる。
5) 播種性血管内凝固(DIC)
● 出血傾向の強く現れる可能性のあるDIC(基礎疾患が白血病,癌,産科的疾患,重症感染症など)で,血小板数が急速に5万/μL未満へと低下し,出血症状を認める場合には,血小板輸血の適応となる。
* 出血傾向のない慢性DICについては,血小板輸血の適応はない。
6) 血液疾患
(1) 造血器腫瘍
● 急性白血病・悪性リンパ腫などの寛解導入療法においては,血小板数が1~2万/μL未満に低下してきた場合には血小板数を1~2万/μL以上に維持するように,計画的に血小板輸血を行う。
(2) 再生不良性貧血・骨髄異形成症候群
● 血小板数が5千/μL前後ないしそれ以下に低下する場合には,血小板輸血の適応となる。
● 計画的に血小板数を1万/μL以上に保つように努める。
* 血小板減少は慢性に経過することが多く,血小板数が5千/μL以上あって出血症状が皮下出血斑程度の軽微な場合には,血小板輸血の適応とはならない。
(3) 免疫性血小板減少症
● 特発性血小板減少性紫斑病(ITP)で外科的処置を行う場合には,まずステロイド剤等の事前投与を行い,これらの効果が不十分で大量出血の予測される場合には,適応となる場合がある。
* 特発性血小板減少性紫斑病(ITP)は,通常は血小板輸血の対象とはならない。
● ITPの母親から生まれた新生児で重篤な血小板減少症をみる場合には,交換輸血のほかに副腎皮質ステロイドあるいは免疫グロブリン製剤の投与とともに血小板輸血を必要とすることがある。
● 血小板特異抗原の母児間不適合による新生児同種免疫性血小板減少症(NAIT)で,重篤な血小板減少をみる場合には,血小板特異抗原同型の血小板輸血を行う。
* 輸血後紫斑病(PTP)では,血小板輸血の適応はない。
(4) 血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)及び溶血性尿毒症症候群(HUS)
* 原則として血小板輸血の適応とはならない。
(5) 血小板機能異常症
● 重篤な出血ないし止血困難な場合にのみ血小板輸血の適応となる。
(6) その他:ヘパリン起因性血小板減少症(Heparin Induced Thrombocytopenia;HIT)
● HITが強く疑われる若しくは確定診断された患者において,明らかな出血症状がない場合には予防的血小板輸血は避けるべきである。
7) 固形腫瘍
● 固形腫瘍に対して強力な化学療法を行う場合には,必要に応じて血小板数を測定する。
● 血小板数が2万/μL未満に減少し,出血傾向を認める場合には,血小板数が1~2万/μL以上を維持するように血小板輸血を行う。
8) 造血幹細胞移植(骨髄移植等)
● 造血幹細胞移植後に骨髄機能が回復するまでの期間は,血小板数が1~2万/μL以上を維持するように計画的に血小板輸血を行う。
● 通常,出血予防のためには血小板数が1~2万/μL未満の場合が血小板輸血の適応となる。
■ 投与量
(循環血液量は70mL/kgとする)
例えば,血小板濃厚液5単位(1.0×1011個以上の血小板を含有)を循環血液量5,000mL(体重71kg)の患者に輸血すると,直後には輸血前の血小板数より13,500/μL以上増加することが見込まれる。
なお,一回投与量は,原則として上記計算式によるが,実務的には通常10単位が使用されている。体重25kg以下の小児では10単位を3~4時間かけて輸血する。
■ 不適切な使用
● 末期患者への血小板輸血の考え方
単なる時間的延命のための投与は控えるべきである。
■ 使用上の注意点
1) 使用法
2) 感染症の伝播
3) 輸血後移植片対宿主病(PT―GVHD)の予防対策
4) サイトメガロウイルス(CMV)抗体陰性血小板濃厚液
5) HLA適合血小板濃厚液
6) ABO血液型・Rh型と交差適合試験
7) ABO血液型不適合輸血
[要約]新鮮凍結血漿の適正使用
■ 目的
● 凝固因子の補充による治療的投与を主目的とする。観血的処置時を除いて新鮮凍結血漿の予防的投与の意味はない。
■ 使用指針
新鮮凍結血漿の投与は,他に安全で効果的な血漿分画製剤あるいは代替医薬品(リコンビナント製剤など)がない場合にのみ,適応となる。投与に当たっては,投与前にプロトロンビン時間(PT),活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)を測定し,大量出血ではフィブリノゲン値も測定する。
1) 凝固因子の補充
(1) PT及び/又はAPTTが延長している場合(①PTは(i)INR 2.0以上,(ii)30%以下/②APTTは(i)各医療機関における基準の上限の2倍以上,(ii)25%以下とする)
● 肝障害:肝障害により複数の凝固因子活性が低下し,出血傾向のある場合に適応となる。
* PTがINR 2.0以上(30%以下)で,かつ観血的処置を行う場合を除いて新鮮凍結血漿の予防的投与の適応はない。
● L―アスパラギナーゼ投与関連:肝臓での産生低下による凝固因子の減少に加え,抗凝固因子や線溶因子の産生低下がみられる場合,これらの諸因子を同時に補給するためには新鮮凍結血漿を用いる。
● 播種性血管内凝固(DIC):通常,(1)に示すPT,APTTの延長のほかフィブリノゲン値が100mg/dL未満の場合に新鮮凍結血漿の適応となる(参考資料1 DIC診断基準参照)。
● 大量輸血時:希釈性凝固障害による止血困難が起こる場合に新鮮凍結血漿の適応となる。
外傷などの救急患者では,消費性凝固障害が併存しているかを検討し,凝固因子欠乏による出血傾向があると判断された場合に限り,新鮮凍結血漿の適応がある。
● 濃縮製剤のない凝固因子欠乏症:血液凝固第V,第XI因子のいずれかの欠乏症又はこれらを含む複数の欠乏症では,出血症状を示しているか,観血的処置を行う際に新鮮凍結血漿が適応となる。
● クマリン系薬剤(ワルファリンなど)の効果の緊急補正(PTがINR 2.0以上(30%以下)):ビタミンKの補給により通常1時間以内に改善が認められる。より緊急な対応のために新鮮凍結血漿の投与が必要になることが稀にあるが,この場合でも直ちに使用可能な場合には「濃縮プロトロンビン複合体製剤」を使用することも考えられる。
(2) 低フィブリノゲン血症(100mg/dL未満)の場合
● 播種性血管内凝固(DIC)
● L―アスパラギナーゼ投与後
2) 凝固阻害因子や線溶因子の補充
● プロテインCやプロテインSの欠乏症における血栓症の発症時には必要に応じて新鮮凍結血漿により欠乏因子を補充する。プラスミンインヒビターの欠乏による出血症状に対しては抗線溶薬を併用し,効果が不十分な場合には新鮮凍結血漿を投与する。
3) 血漿因子の補充(PT及びAPTTが正常な場合)
● 血栓性血小板減少性紫斑病(TTP):後天性TTPに対しては新鮮凍結血漿を置換液とした血漿交換療法を行う。先天性TTPでは,新鮮凍結血漿の単独投与で充分な効果がある。
* 後天性溶血性尿毒症症候群(HUS)では,新鮮凍結血漿を用いた血漿交換療法は必ずしも有効ではない。
■ 投与量
● 生理的な止血効果を期待するための凝固因子の最少の血中活性値は,正常値の20~30%程度である。
循環血漿量を40mL/kg(70mL/kg(1-Ht/100))とし,補充された凝固因子の血中回収率は目的とする凝固因子により異なるが,100%とすれば,凝固因子の血中レベルを約20~30%上昇させるのに必要な新鮮凍結血漿量は,理論的には8~12mL/kg(40mL/kgの20~30%)である。
■ 不適切な使用
1) 循環血漿量減少の改善と補充
2) たん白質源としての栄養補給
3) 創傷治癒の促進
4) 末期患者への投与
5) その他
重症感染症の治療,DICを伴わない熱傷の治療,人工心肺使用時の出血予防,非代償性肝硬変での出血予防なども新鮮凍結血漿投与の適応とはならない。
■ 使用上の注意点
1) 使用法
2) 感染症の伝播
3) クエン酸中毒(低カルシウム血症)
4) ナトリウムの負荷
5) 非溶血性副作用
6) ABO血液型不適合輸血
[要約]アルブミン製剤の適正使用
■ 目的
● アルブミン製剤を投与する目的は,血漿膠質浸透圧を維持することにより循環血漿量を確保すること及び体腔内液や組織間液を血管内に移行させることによって治療抵抗性の重度の浮腫を治療することにある。
■ 使用指針
1) 出血性ショック等
● 循環血液量の30%以上の出血をみる場合は,細胞外液補充液の投与が第一選択となり,人工膠質液の併用も推奨されるが,原則としてアルブミン製剤の投与は必要としない。
● 循環血液量の50%以上の多量の出血が疑われる場合や血清アルブミン濃度が3.0g/dL未満の場合には,等張アルブミン製剤の併用を考慮する。
● 腎機能障害などで人工膠質液の使用が不適切と考えられる場合には,等張アルブミン製剤を使用する。また,人工膠質液を1,000mL以上必要とする場合にも,等張アルブミン製剤の使用を考慮する。
2) 人工心肺を使用する心臓手術
通常,心臓手術時の人工心肺の充填には,主として細胞外液補充液が使用される。人工心肺実施中の血液希釈で起こった一時的な低アルブミン血症は,アルブミン製剤を投与して補正する必要はない。ただし,術前より血清アルブミン濃度又は膠質浸透圧の高度な低下のある場合,あるいは体重10kg未満の小児の場合などには等張アルブミン製剤が用いられることがある。
3) 肝硬変に伴う難治性腹水に対する治療
● 大量(4L以上)の腹水穿刺時に循環血漿量を維持するため,高張アルブミン製剤の投与が考慮される。また,治療抵抗性の腹水の治療に,短期的(1週間を限度とする。)に高張アルブミン製剤を併用することがある。
* 肝硬変などの慢性の病態による低アルブミン血症は,それ自体ではアルブミン製剤の適応とはならない。
4) 難治性の浮腫,肺水腫を伴うネフローゼ症候群
* ネフローゼ症候群などの慢性の病態は,通常アルブミン製剤の適応とはならないが,急性かつ重症の末梢性浮腫あるいは肺水腫に対しては,利尿薬に加えて短期的(1週間を限度とする。)に高張アルブミン製剤の投与を必要とする場合がある。
5) 循環動態が不安定な血液透析等の体外循環施行時
● 血圧の安定が悪い場合に血液透析時において,特に糖尿病を合併している場合や術後などで低アルブミン血症のある場合には,循環血漿量を増加させる目的で予防的投与を行うことがある。
6) 凝固因子の補充を必要としない治療的血漿交換法
* ギランバレー症候群,急性重症筋無力症など凝固因子の補充を必要としない症例では,等張アルブミン製剤を使用する。
* 加熱人血漿たん白は,まれに血圧低下をきたすので,原則として使用しない。
7) 重症熱傷
● 熱傷部位が体表面積の50%以上あり,細胞外液補充液では循環血漿量の不足を是正することが困難な場合には,人工膠質液あるいは等張アルブミン製剤で対処する。
* 熱傷後,通常18時間以内は原則として細胞外液補充液で対応するが,18時間以内であっても,血清アルブミン濃度が1.5g/dL未満の時は適応を考慮する。
8) 低たん白血症に起因する肺水腫あるいは著明な浮腫が認められる場合
● 術前,術後あるいは経口摂取不能な重症の下痢などによる低たん白血症が存在し,治療抵抗性の肺水腫あるいは著明な浮腫が認められる場合には,高張アルブミン製剤の投与を考慮する。
9) 循環血漿量の著明な減少を伴う急性膵炎など
● 急性膵炎,腸閉塞などで循環血漿量の著明な減少を伴うショックを起こした場合には,等張アルブミン製剤を使用する。
■ 投与量
● 投与量の算定には下記の計算式を用いる。このようにして得られたアルブミン量を患者の病状に応じて,通常2~3日で分割投与する。
必要投与量(g)=期待上昇濃度(g/dL)×循環血漿量(dL)×2.5
ただし,期待上昇濃度は期待値と実測値の差,循環血漿量は0.4dL/kg,投与アルブミンの血管内回収率は4/10(40%)とする。
■ 不適切な使用
1) たん白質源としての栄養補給
2) 脳虚血
3) 単なる血清アルブミン濃度の維持
4) 末期患者への投与
■ 使用上の注意点
1) ナトリウム含有量
2) 肺水腫,心不全
3) 血圧低下
4) 利尿
5) アルブミン合成能の低下
はじめに
近年,血液製剤の安全性は格段に向上してきたが,免疫性,感染性などの副作用や合併症が生じる危険性がいまだにあり,軽症のものも含めればその頻度は決して低いとは言えず,致命的な転帰をとることも稀にあることから,血液製剤が本来的に有する危険性を改めて認識し,より適正な使用を推進する必要がある。
また,血液製剤は人体の一部であり,有限で貴重な資源である血液から作られていることから,その取扱いには倫理的観点からの配慮が必要であり,すべての血液製剤について自国内での自給を目指すことが国際的な原則となっている。従って,血液の国内完全自給の達成のためには血液製剤の使用適正化の推進が不可欠である。
このため,厚生省では,1986年に,採血基準を改正して血液の量的確保対策を講じるとともに,「血液製剤の使用適正化基準」を設け,血液製剤の国内自給の達成を目指すこととした。一方,1989年には医療機関内での輸血がより安全かつ適正に行われるよう「輸血療法の適正化に関するガイドライン」を策定した。また,1994年には「血小板製剤の使用基準」,1999年には「血液製剤の使用指針」及び「輸血療法の実施に関する指針」が策定された。
1992年には濃縮凝固因子製剤の国内自給が達成され,アルブミン製剤(人血清アルブミン,加熱人血漿たん白)の自給率は5%(1985年)から62.8%(2007年)へ,免疫グロブリン製剤の自給率は40%(1995年)から95.9%(2007年)へと上昇した。一方,血液製剤の使用量は平成11年から年々減少しており,平成19年には血漿製剤で約3/5,アルブミン製剤で約2/3になっている。
しかし,赤血球濃厚液及び血小板濃厚液の使用量は横ばい,免疫グロブリンは平成15年度にはじめて減少に向かうなど,十分な効果がみられているとは言い切れない状況となっている。また,諸外国と比べると,血漿成分製剤/赤血球成分製剤比(2003年)が約3倍の状況にとどまっており,さらなる縮減が可能と想定される。
国内自給率をさらに向上させるとともに,感染の可能性を削減するために,これらの製剤を含む血液の国内完全自給,安全性の確保及び適正使用を目的とする,安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律(昭和31年法律第160号)が平成15年7月に改正施行された。以上の観点より医療現場における血液製剤の適正使用を一層推進する必要がある。
Ⅰ 血液製剤の使用の在り方
1.血液製剤療法の原則
血液製剤を使用する目的は,血液成分の欠乏あるいは機能不全により臨床上問題となる症状を認めるときに,その成分を補充して症状の軽減を図ること(補充療法)にある。
このような補充療法を行う際には,毎回の投与時に各成分の到達すべき目標値を臨床症状と臨床検査値から予め設定し,次いで補充すべき血液成分量を計算し,さらに生体内における血管内外の分布や代謝速度を考慮して補充量を補正し,状況に応じて補充間隔を決める必要がある。また,毎回の投与後には,初期の目的,目標がどの程度達成されたかについての有効性の評価を,臨床症状と臨床検査値の改善の程度に基づいて行い,同時に副作用と合併症の発生の有無を観察し,診療録に記録することが必要である。
2.血液製剤使用上の問題点と使用指針の在り方
血液製剤の使用については,単なる使用者の経験に基づいて,その適応及び血液製剤の選択あるいは投与方法などが決定され,しばしば不適切な使用が行われてきたことが問題としてあげられる。このような観点から,本指針においては,内外の研究成果に基づき,合理的な検討を行ったものであり,今後とも新たな医学的知見が得られた場合には,必要に応じて見直すこととする。
また,本指針は必ずしも医師の裁量を制約するものではないが,本指針と異なった適応,使用方法などにより,重篤な副作用や合併症が認められることがあれば,その療法の妥当性が問題とされる可能性もある。したがって,患者への血液製剤の使用についての説明と同意(インフォームド・コンセント)*の取得に際しては,原則として本指針を踏まえた説明をすることが望まれる。
さらに,本指針は保険診療上の審査基準となることを意図するものではないが,血液製剤を用いた適正な療法の推進を目的とする観点から,保険審査の在り方を再検討する手がかりとなることを期待するものである。
*薬事法(昭和35年法律第145号)第68条の7で規定されている。
3.製剤ごとの使用指針の考え方
1) 赤血球濃厚液と全血の投与について
適応の現状と問題点
一部の外科領域では,現在でも全血の使用あるいは全血の代替としての赤血球濃厚液と新鮮凍結血漿の等量の併用がしばしば行われている。しかしながら,成分輸血が導入されて,既に20年以上が経過し,この間,従来は専ら全血が使われていた症例についても,赤血球濃厚液が単独で用いられるようになり,優れた臨床効果が得られることが確認されてきたことから,血液の各成分の特性を生かした成分輸血療法を一層推進するため,成分別の種々の病態への使用指針を策定することとした。なお,全血の適応についてはエビデンスが得られていなく,全血の供給を継続することは,血液の有効利用を妨げることから血液製剤全体の供給体制にも問題を生じている。
自己血輸血の推進
同種血輸血の安全性は飛躍的に向上したが,いまだに感染性ウイルスなどの伝播・感染や免疫学的な合併症が生じる危険性があり,これらの危険性を可能な限り回避することが求められる。現在,待機的手術における輸血症例の80~90%は,2,000mL以内の出血量で手術を終えている。したがって,これらの手術症例の多くは,術前貯血式,血液希釈式,術中・術後回収式などの自己血輸血を十分に活用することにより,同種血輸血を行うことなく安全に手術を行うことが可能となっている。輸血が必要と考えられる待機的手術の際に,過誤輸血や細菌感染等院内感染の発生に十分配慮する必要があるものの,自己血輸血による同種血輸血回避の可能性を検討し,自己血輸血を積極的に推進することが適正使用を実践するためにも推奨される。
2) 血小板濃厚液の投与について
適応の現状と問題点
血小板濃厚液は原疾患にかかわりなく,血小板数の減少,又は血小板機能の低下ないし異常により,重篤な,時として致死的な出血症状(活動性出血)を認めるときに,血小板の数と機能を補充して止血すること(治療的投与)を目的とする場合と,血小板減少により起こることが予測される重篤な出血を未然に防ぐこと(予防的投与)を目的とする場合に行われているが,その70~80%は予防的投与として行われている。
血小板濃厚液の使用量は年々増加傾向にあったが,この数年間横ばい状態となっているが,再度増加する可能性が高い。その背景としては高齢化社会の到来による悪性腫瘍の増加がみられることとともに,近年,主に造血器腫瘍に対して行われてきた強力な化学療法が固形腫瘍の治療にも拡大され,また,外科的処置などに伴う使用も多くなったことが挙げられる。
しかしながら,血小板濃厚液は有効期間が短いこともあり,常時必要量を確保して輸血することは容易ではない状況である。したがって,輸血本来の在り方である血小板数をチェックしてから輸血することが実際上は不可能であり,特に予防的投与では血小板減少を予め見込んで輸血時の血小板数に関係なく定期的に行わざるを得ないことを強いられているのが現状である。
3) 新鮮凍結血漿の投与について
適応の現状と問題点
新鮮凍結血漿は,感染性の病原体に対する不活化処理がなされていないため,輸血感染症を伝播する危険性を有していること及び血漿たん白濃度は血液保存液により希釈されていることに留意する必要がある。なお,日本赤十字社の血液センターでは新鮮凍結血漿の貯留保管を行っており,平成17年7月から6カ月の貯留保管を行った製剤が供給されている。
現在,新鮮凍結血漿を投与されている多くの症例においては,投与直前の凝固系検査が異常であるという本来の適応病態であることは少なく,また適応症例においても投与後にこれらの検査値異常の改善が確認されていることはさらに少ない。新鮮凍結血漿の適応と投与量の決定が,適正に行われているとは言い難いことを端的に示す事実である。また,従来より新鮮凍結血漿は単独で,あるいは赤血球濃厚液との併用により,循環血漿量の補充に用いられてきた。しかしながら,このような目的のためには,より安全な細胞外液補充液(乳酸リンゲル液,酢酸リンゲル液など)や人工膠質液(HES,デキストランなど)あるいは等張のアルブミン製剤を用いることが推奨される。このようなことから,今回の指針においては,新鮮凍結血漿の適応はごく一部の例外(TTP/HUS)を除いて,複合的な凝固因子の補充に限られることを明記した。
血漿分画製剤の国内自給推進
欧米諸国と比較して,我が国における新鮮凍結血漿及びアルブミン製剤の使用量は,いまだに多い。凝固因子以外の原料血漿の国内自給を完全に達成するためには,限りある資源である血漿成分の有効利用,特に新鮮凍結血漿の適正使用を積極的に推進することが極めて重要である。
4) アルブミン製剤の投与について
適応の現状と問題点
アルブミン製剤(人血清アルブミン及び加熱人血漿たん白)が,低栄養状態への栄養素としてのたん白質源の補給にいまだにしばしば用いられている。しかしながら投与されたアルブミンは体内で代謝され,多くは熱源となり,たん白合成にはほとんど役に立たないので,たん白質源の補給という目的は達成し得ない。たん白質源の補給のためには,中心静脈栄養法や経腸栄養法による栄養状態の改善が通常優先されるべきである。また,低アルブミン血症は認められるものの,それに基づく臨床症状を伴わないか,軽微な場合にも検査値の補正のみの目的で,アルブミン製剤がしばしば用いられているが,その医学的な根拠は明示されていない。このように合理性に乏しく根拠の明確でない使用は適応にならないことを当該使用指針に明示した。
アルブミン製剤の自給推進
わが国のアルブミン製剤の使用量は,原料血漿換算で,過去の最大使用量の384万L(1985年)から146万L(2010年)へと約62%急減したものの,赤血球濃厚液に対する使用比率はいまだ欧米諸国よりもかなり多い状況となっている。したがって,アルブミン製剤の国内自給を達成するためには,献血血液による原料血漿の確保と併せて,アルブミン製剤の適応をより適切に行うことが重要である。
5) 小児に対する輸血療法について
小児科領域においては,使用する血液製剤の絶対量が少ないため,その適正使用についての検討が行われない傾向にあったが,少子高齢社会を迎えつつある現状を踏まえると,その適正使用を積極的に推進することが必須である。しかしながら,小児一般に対する血液製剤の投与基準については,いまだ十分なコンセンサスが得られているとは言い難い状況にあることから,未熟児についての早期貧血への赤血球濃厚液の投与方法,新生児への血小板濃厚液の投与方法及び新生児への新鮮凍結血漿の投与方法に限定して指針を策定することとした。
Ⅱ 赤血球濃厚液の適正使用
1.目的
赤血球濃厚液(Red Cell Concentrate;RCC)は,急性あるいは慢性の出血に対する治療及び貧血の急速な補正を必要とする病態に使用された場合,最も確実な臨床的効果を得ることができる。このような赤血球補充の第一義的な目的は,末梢循環系へ十分な酸素を供給することにあるが,循環血液量を維持するという目的もある。
なお,赤血球濃厚液の製法と性状については参考15を参照。
2.使用指針
1) 慢性貧血に対する適応(主として内科的適応)
内科的な貧血の多くは,慢性的な造血器疾患に起因するものであり,その他,慢性的な消化管出血や子宮出血などがある。これらにおいて,赤血球輸血を要する代表的な疾患は,再生不良性貧血,骨髄異形成症候群,造血器悪性腫瘍などである。
ア 血液疾患に伴う貧血
貧血の原因を明らかにし,鉄欠乏,ビタミンB12欠乏,葉酸欠乏,自己免疫性溶血性貧血など,輸血以外の方法で治療可能である疾患には,原則として輸血を行わない。
輸血を行う目的は,貧血による症状が出ない程度のHb値を維持することであるが,その値を一律に決めることは困難である。しかしながら,Hb7g/dLが輸血を行う一つの目安とされているが,この値は,貧血の進行度,罹患期間,日常生活や社会生活の活動状況,合併症(特に循環器系や呼吸器系の合併症)の有無などにより異なり,Hb7g/dL以上でも輸血が必要な場合もあれば,それ未満でも不必要な場合もあり,一律に決めることは困難である。従って輸血の適応を決定する場合には,検査値のみならず循環器系の臨床症状を注意深く観察し,かつ生活の活動状況を勘案する必要がある。その上で,臨床症状の改善が得られるHb値を個々に設定し,輸血施行の目安とする。
高度の貧血の場合には,循環血漿量が増加していること,心臓に負担がかかっていることから,一度に大量の輸血を行うと心不全,肺水腫をきたすことがある。一般に1~2単位/日の輸血量とする。腎障害を合併している場合には,特に注意が必要である。
いずれの場合でも,Hb値を10g/dL以上にする必要はない。繰り返し輸血を行う場合には,投与前後の臨床症状の改善の程度やHb値の変化を比較し効果を評価するとともに,副作用の有無を観察した上で,適正量の輸血を行う。なお,頻回の投与により鉄過剰状態(ironoverload)を来すので,不必要な輸血は行わず,出来るだけ投与間隔を長くする。
なお,造血幹細胞移植における留意点を巻末(参考1)に示す。
イ 慢性出血性貧血
消化管や泌尿生殖器からの,少量長期的な出血により時に高度の貧血を来す。この貧血は鉄欠乏性貧血であり,鉄剤投与で改善することから,日常生活に支障を来す循環器系の臨床症状(労作時の動悸・息切れ,浮腫など)がない場合には,原則として輸血を行わない。慢性的貧血であり,体内の代償機構が働くために,これらの症状が出現することはまれであるが,前記症状がある場合には2単位の輸血を行い,臨床所見の改善の程度を観察する。全身状態が良好な場合は,ヘモグロビン(Hb)値6g/dL以下が一つの目安となる。その後は原疾患の治療と鉄剤の投与で経過を観察する。
2) 急性出血に対する適応(主として外科的適応)
急性出血には外傷性出血のほかに,消化管出血,腹腔内出血,気道内出血などがある。消化管出血の原因は胃十二指腸潰瘍,食道静脈瘤破裂,マロリーワイス症候群,悪性腫瘍からの出血などがあり,腹腔内出血の原因疾患には原発性あるいは転移性肝腫瘍,肝臓や脾臓などの実質臓器破裂,子宮外妊娠,出血性膵炎,腹部大動脈や腸間膜動脈の破裂などがある。
急速出血では,Hb値低下(貧血)と,循環血液量の低下が発生してくる。循環動態から見ると,循環血液量の15%の出血(classⅠ)では,軽い末梢血管収縮あるいは頻脈を除くと循環動態にはほとんど変化は生じない。また,15~30%の出血(classⅡ)では,頻脈や脈圧の狭小化が見られ,患者は落ち着きがなくなり不安感を呈するようになる。さらに,30~40%の出血(classⅢ)では,その症状は更に顕著となり,血圧も低下し,精神状態も錯乱する場合もある。循環血液量の40%を超える出血(classⅣ)では,嗜眠傾向となり,生命的にも危険な状態とされている1)。
貧血の面から,循環血液が正常な場合の急性貧血に対する耐性についての明確なエビデンスはない。Hb値が10g/dLを超える場合は輸血を必要とすることはないが,6g/dL以下では輸血はほぼ必須とされている2)。特に,急速に貧血が進行した場合はその傾向は強い。Hb値が6~10g/dLの時の輸血の必要性は患者の状態や合併症によって異なるので,Hb値のみで輸血の開始を決定することは適切ではない。
3) 周術期の輸血
一般的な周術期の輸血の適応の原則を以下に示す。なお,各科の手術における輸血療法の注意点を巻末に付する(参考2~10)。
(1) 術前投与
術前の貧血は必ずしも投与の対象とはならない。慣習的に行われてきた術前投与のいわゆる10/30ルール(Hb値10g/dL,ヘマトクリット(Ht)値30%以上にすること)は近年では根拠のないものとされている。したがって,患者の心肺機能,原疾患の種類(良性又は悪性),患者の年齢や体重あるいは特殊な病態等の全身状態を把握して投与の必要性の有無を決定する。
なお,慢性貧血の場合には内科的適応と同様に対処する。
一般に貧血のある場合には,循環血漿量は増加しているため,投与により急速に貧血の是正を行うと,心原性の肺水腫を引き起こす危険性がある。術前投与は,持続する出血がコントロールできない場合又はその恐れがある場合のみ必要とされる。
慢性貧血患者に対する輸血の適応を判断する際は,慢性貧血患者における代償反応(参考11)を考慮に入れるべきである。そして,手術を安全に施行するために必要と考えられるHt値の最低値(参考12)も,患者の全身状態により異なることを留意すべきである。
また,消化器系統の悪性腫瘍の多い我が国では,術前の患者は貧血とともにしばしば栄養障害による低たん白血症を伴っているが,その場合には術前に栄養管理(中心静脈栄養法,経腸栄養法など)を積極的に行い,その是正を図る。
(2) 術中投与
手術中の出血に対して必要となる輸血について,予め術前に判断して準備する(参考15)。さらに,ワルファリンなどの抗凝固薬が投与されている場合などでは,術前の抗凝固・抗血小板療法について,いつの時点で中断するかなどを判断することも重要である(参考16)。
術中の出血に対して出血量の削減(参考15)に努めるとともに,循環血液量に対する出血量の割合と臨床所見に応じて,原則として以下のような成分輸血により対処する(図1)。全身状態の良好な患者で,循環血液量の15~20%の出血が起こった場合には,細胞外液量の補充のために細胞外液補充液(乳酸リンゲル液,酢酸リンゲル液など)を出血量の2~3倍投与する。
循環血液量の20~50%の出血量に対しては,膠質浸透圧を維持するために,人工膠質液(ヒドロキシエチルデンプン(HES),デキストランなど)を投与する※。赤血球不足による組織への酸素供給不足が懸念される場合には,赤血球濃厚液を投与する。この程度までの出血では,等張アルブミン製剤(5%人血清アルブミン又は加熱人血漿たん白)の併用が必要となることは少ない。
※通常は20mL/kgとなっているが,急速・多量出血は救命のためにさらに注入量を増加することが必要な場合もある。この場合,注入された人工膠質液の一部は体外に流出していることも勘案すると,20mL/kgを超えた注入量も可能である。
循環血液量の50~100%の出血では,細胞外液補充液,人工膠質液及び赤血球濃厚液の投与だけでは血清アルブミン濃度の低下による肺水腫や乏尿が出現する危険性があるので,適宜等張アルブミン製剤を投与する。なお,人工膠質液を1,000mL以上必要とする場合にも等張アルブミン製剤の使用を考慮する。
さらに,循環血液量以上の大量出血(24時間以内に100%以上)時又は100mL/分以上の急速輸血をするような事態には,凝固因子や血小板数の低下による出血傾向(希釈性の凝固障害と血小板減少)が起こる可能性があるので,凝固系や血小板数の検査値及び臨床的な出血傾向を参考にして,新鮮凍結血漿や血小板濃厚液の投与も考慮する(新鮮凍結血漿及び血小板の使用指針の項を参照)。この間,血圧・脈拍数などのバイタルサインや尿量・心電図・血算,さらに血液ガスなどの所見を参考にして必要な血液成分を追加する。収縮期血圧を90mmHg以上,平均血圧を60~70mmHg以上に維持し,一定の尿量(0.5~1mL/kg/時)を確保できるように輸液・輸血の管理を行う。
通常はHb値が7~8g/dL程度あれば十分な酸素の供給が可能であるが,冠動脈疾患などの心疾患あるいは肺機能障害や脳循環障害のある患者では,Hb値を10g/dL程度に維持することが推奨される。
なお,循環血液量に相当する以上の出血量がある場合には,可能であれば回収式自己血輸血を試みるように努める。
図1 出血患者における輸液・成分輸血療法の適応
(3) 術後投与
術後の1~2日間は創部からの間質液の漏出やたん白質異化の亢進により,細胞外液量と血清アルブミン濃度の減少が見られることがある。ただし,バイタルサインが安定している場合は,細胞外液補充液の投与以外に赤血球濃厚液,等張アルブミン製剤や新鮮凍結血漿などの投与が必要となる場合は少ないが,これらを投与する場合には各成分製剤の使用指針によるものとする。
急激に貧血が進行する術後出血の場合の赤血球濃厚液の投与は,早急に外科的止血処置とともに行う。
3.投与量
赤血球濃厚液の投与によって改善されるHb値は,以下の計算式から求めることができる。
予測上昇Hb値(g/dL)
=投与Hb量(g)/循環血液量(dL)
循環血液量:70mL/kg{循環血液量(dL)
=体重(kg)×70mL/kg/100}
例えば,体重50kgの成人(循環血液量35dL)にHb値19g/dLの血液を2単位(400mL由来の赤血球濃厚液―LR「日赤」の容量は約280mLである。したがって,1バッグ中の含有Hb量は約19g/dL×280/100dL=約53gとなる)輸血することにより,Hb値は約1.5g/dL上昇することになる。
4.効果の評価
投与の妥当性,選択した投与量の的確性あるいは副作用の予防対策などの評価に資するため,赤血球濃厚液の投与前には,投与が必要な理由と必要な投与量を明確に把握し,投与後には投与前後の検査データと臨床所見の改善の程度を比較して評価するとともに,副作用の有無を観察して,診療録に記載する。
5.不適切な使用
1) 凝固因子の補充を目的としない新鮮凍結血漿との併用
赤血球濃厚液と新鮮凍結血漿を併用して,全血の代替とすべきではない。その理由は,実際に凝固異常を認める症例は極めて限られていることや,このような併用では輸血単位数が増加し,感染症の伝播や同種免疫反応の危険性が増大するからである(新鮮凍結血漿の使用指針の項を参照)。
2) 末期患者への投与
末期患者に対しては,患者の自由意思を尊重し,単なる延命措置は控えるという考え方が容認されつつある。輸血療法といえども,その例外ではなく,患者の意思を尊重しない単なる時間的延命のための投与は控えるべきである。
6.使用上の注意点
1) 使用法
赤血球濃厚液を使用する場合には,輸血セットを使用する。なお,日本赤十字社から供給される赤血球濃厚液はすべて白血球除去製剤となっており,ベッドサイドでの白血球除去フィルターの使用は不要である。また,通常の輸血では加温の必要はないが,急速大量輸血、新生児交換輸血等の際には専用加温器(37℃)で加温する。
2) 感染症の伝播
赤血球濃厚液の投与により,血液を介する感染症の伝播を伴うことがある。
細菌混入による致死的な合併症に留意し,輸血の実施前にバッグ内の血液について色調の変化,溶血(黒色化)や凝血塊の有無,又はバッグの破損や開封による閉鎖系の破綻等の異常がないことを肉眼で確認する。特に低温で増殖するエルシニア菌(Yersiniaenterocolitica)、セラチア菌などの細菌感染に留意してバッグ内とセグメント内の血液色調の差にも留意する。
3) 鉄の過剰負荷
1単位(200mL由来)の赤血球濃厚液中には,約100mgの鉄が含まれている。人体から1日に排泄される鉄は1mgであることから,赤血球濃厚液の頻回投与は体内に鉄の沈着を来し,鉄過剰症を生じる。また,Hb1gはビリルビン40mgに代謝され,そのほぼ半量は血管外に速やかに拡散するが,肝障害のある患者では,投与後の遊離Hbの負荷が黄疸の原因となり得る。
4) 輸血後移植片対宿主病(PT―GVHD)の予防対策
輸血後移植片対宿主病の発症を防止するために,原則として放射線を照射(15~50Gy)した赤血球濃厚液を使用する4)。平成10年に日本赤十字社より放射線照射血液製剤が供給されるようになり,平成12年以降,わが国では放射線照射血液製剤による輸血後移植片対宿主病の確定症例の報告はない。なお、採血後14日保存した赤血球濃厚液の輸血によっても致死的な合併症である輸血後移植片対宿主病の発症例が報告されていることから,採血後の期間にかかわらず,原則として放射線を照射(15~50Gy)した血液を使用する。また、現在ではすべての製剤が保存前白血球除去製剤となったが、保存前白血球除去のみによって輸血後移植片対宿主病が予防できるとは科学的に証明されていない。
5) 高カリウム血症
赤血球濃厚液では,放射線照射の有無にかかわらず,保存に伴い上清中のカリウム濃度が上昇する場合がある。また,放射線照射後の赤血球濃厚液では,照射していない赤血球濃厚液よりも上清中のカリウム濃度が上昇する。そのため,急速輸血時,大量輸血時,腎不全患者あるいは低出生体重児などへの輸血時には高カリウム血症に注意する。
6) 溶血性副作用
ABO血液型の取り違いにより,致命的な溶血性の副作用を来すことがある。投与直前には,患者氏名(同姓同名患者ではID番号や生年月日など)・血液型・その他の事項についての照合を,必ずバッグごとに細心の注意を払った上で実施する(輸血療法の実施に関する指針を参照)。
7) 非溶血性副作用
発熱反応,アレルギーあるいはアナフィラキシー反応を繰り返し起こす場合は,洗浄赤血球製剤が適応となる場合がある。
8) ABO血液型・Rh型と交差適合試験
原則として,ABO同型の赤血球製剤を使用するが,緊急の場合には異型適合血の使用も考慮する(輸血療法の実施に関する指針を参照)。また,Rh陽性患者にRh陰性赤血球製剤を使用しても抗原抗体反応をおこさないので投与することは医学的には問題ない。
9) サイトメガロウイルス(CMV)抗体陰性赤血球濃厚液
CMV抗体陰性の妊婦,あるいは極低出生体重児に赤血球輸血をする場合には,CMV抗体陰性の赤血球濃厚液を使用することが望ましい。造血幹細胞移植時に患者とドナーの両者がCMV抗体陰性の場合には,CMV抗体陰性の赤血球濃厚液を使用する。なお,現在,保存前白血球除去赤血球濃厚液が供給されており,CMVにも有用とされている。
文献
1) American College of Surgeons: Advanced Trauma Life Support Course Manual. American College of Surgeons 1997;103―112
2) American Society of Anesthesiologists Task Force: Practice guideline for blood component therapy. Anesthesiology 1996;84: 732―742
3)Lundsgaard―Hansen P, et al: Component therapy of surgical hemorrhage: Red cell concentrates, colloids and crystalloids.Bibl Haematol 1980;46: 147―169
4)日本輸血学会「輸血後GVHD対策小委員会」報告:輸血によるGVHD予防のための血液に対する放射線照射ガイドラインⅣ.日本輸血学会会告Ⅶ,日輸血会誌1999;45:47―54
Ⅲ 血小板濃厚液の適正使用
1.目的
血小板輸血は,血小板数の減少又は機能の異常により重篤な出血ないし出血の予測される病態に対して,血小板成分を補充することにより止血を図り(治療的投与),又は出血を防止すること(予防的投与)を目的とする。
なお,血小板濃厚液(Platelet Concentrate;PC)の製法と性状については参考16を参照。
2.使用指針1)~3)
血小板輸血の適応は,血小板数,出血症状の程度及び合併症の有無により決定することを基本とする。
特に,血小板数の減少は重要ではあるが,それのみから安易に一律に決定すべきではない。出血ないし出血傾向が血小板数の減少又は機能異常によるものではない場合(特に血管損傷)には,血小板輸血の適応とはならない。
なお,本指針に示された血小板数の設定はあくまでも目安であって,すべての症例に合致するものではないことに留意すべきである。
血小板輸血を行う場合には,必ず事前に血小板数を測定する。
血小板輸血の適応を決定するに当たって,血小板数と出血症状の大略の関係を理解しておく必要がある。
一般に,血小板数が5万/μL以上では,血小板減少による重篤な出血を認めることはなく,したがって血小板輸血が必要となることはない。
血小板数が2~5万/μLでは,時に出血傾向を認めることがあり,止血困難な場合には血小板輸血が必要となる。
血小板数が1~2万/μLでは,時に重篤な出血をみることがあり,血小板輸血が必要となる場合がある。血小板数が1万/μL未満ではしばしば重篤な出血をみることがあるため,血小板輸血を必要とする。
しかし,慢性に経過している血小板減少症(再生不良性貧血など)で,他に出血傾向を来す合併症がなく,血小板数が安定している場合には,血小板数が5千~1万/μLであっても,血小板輸血なしで重篤な出血を来すことはまれなことから,血小板輸血は極力避けるべきである(f.(2)参照)。
なお,出血傾向の原因は,単に血小板数の減少のみではないことから,必要に応じて凝固・線溶系の検査などを行う。
a.活動性出血
血小板減少による重篤な活動性出血を認める場合(特に網膜,中枢神経系,肺,消化管などの出血)には,原疾患の治療を十分に行うとともに,血小板数を5万/μL以上に維持するように血小板輸血を行う。
b.外科手術の術前状態
待機的手術患者あるいは腰椎穿刺,硬膜外麻酔,経気管支生検,肝生検などの侵襲を伴う処置では,術前あるいは施行前の血小板数が5万/μL以上あれば,通常は血小板輸血を必要とすることはない。また,骨髄穿刺や抜歯など局所の止血が容易な手技は血小板数を1~2万/μL程度で安全に施行できる。頭蓋内の手術のように局所での止血が困難な特殊な領域の手術では,7~10万/μL以上であることが望ましい。
血小板数が5万/μL未満では,手術の内容により,血小板濃厚液の準備又は術直前の血小板輸血の可否を判断する。その際,血小板数の減少を来す基礎疾患があれば,術前にその治療を行う。
慢性の腎臓や肝臓の疾患で出血傾向を伴う患者では,手術により大量の出血をみることがある。出血傾向の原因を十分に検討し,必要に応じて血小板濃厚液の準備又は術直前から,血小板輸血も考慮する。
c.人工心肺使用手術時の周術期管理
心臓手術患者の術前状態については,待機的手術患者と同様に考えて対処する。人工心肺使用時にみられる血小板減少は,通常人工心肺の使用時間と比例すると言われている。また,血小板減少は術後1~2日で最低となるが,通常は3万/μL未満になることはまれである。
術中・術後を通して血小板数が3万/μL未満に低下している場合には,血小板輸血の適応である。ただし,人工心肺離脱後の硫酸プロタミン投与後に血算及び凝固能を適宜検査,判断しながら,必要に応じて5万/μL程度を目処に血小板輸血開始を考慮する。
なお,複雑な心大血管手術で長時間(3時間以上)の人工心肺使用例,再手術などで広範な癒着剥離を要する例,及び慢性の腎臓や肝臓の疾患で出血傾向をみる例の中には,人工心肺使用後に血小板減少あるいは機能異常によると考えられる止血困難な出血(oozingなど)をみることがある。凝固因子の欠乏を伴わず,このような病態を呈する場合には,血小板数が5万/μL~10万/μLになるように血小板輸血を行う。
d.大量輸血時
急速失血により24時間以内に循環血液量相当量,特に2倍量以上の大量輸血が行われると,血液の希釈により血小板数の減少や機能異常のために,細血管性の出血を来すことがある。
止血困難な出血症状とともに血小板減少を認める場合には,血小板輸血の適応となる。
e.播種性血管内凝固(Disseminated Intravascular Coagulation;DIC)
出血傾向の強く現れる可能性のあるDIC(基礎疾患が白血病,癌,産科的疾患,重症感染症など)で,血小板数が急速に5万/μL未満へと低下し,出血症状を認める場合には,血小板輸血の適応となる。DICの他の治療とともに,必要に応じて新鮮凍結血漿も併用する。
なお,血栓による臓器症状が強く現れるDICでは,血小板輸血には慎重であるべきである。
出血症状のない慢性DICについては,血小板輸血の適応はない。
(DICの診断基準については参考資料1を参照)
f.血液疾患
頻回・多量の血小板輸血を要する場合が多いことから,同種抗体の産生を予防する方策を必要とする。
(1) 造血器腫瘍
急性白血病・悪性リンパ腫などの寛解導入療法においては,急速に血小板数が低下してくるので,定期的に血小板数を測定し,血小板数が1~2万/μL未満に低下してきた場合には血小板数を1~2万/μL以上に維持するように,計画的に血小板輸血を行う。とくに,急性白血病においては,安定した状態(発熱や重症感染症などを合併していない)であれば,血小板数を1万/μL以上に維持すれば十分とされる4)~6)。
抗HLA抗体が存在しなくとも,発熱,感染症,脾腫大,DIC,免疫複合体などの存在する場合には,血小板の輸血後回収率・半減期は低下する。従って血小板数を2万/μL以上に保つためには,より頻回あるいは大量の血小板輸血を必要とすることが多いが,時には血小板輸血不応状態となることもある。
(2) 再生不良性貧血・骨髄異形成症候群
これらの疾患では,血小板減少は慢性に経過することが多く,血小板数が5千/μL以上あって出血症状が皮下出血斑程度の軽微な場合には,血小板輸血の適応とはならない。血小板抗体の産生を考慮し,安易に血小板輸血を行うべきではない。
しかし,血小板数が5千/μL前後ないしそれ以下に低下する場合には,重篤な出血をみる頻度が高くなるので,血小板輸血の適応となる。血小板輸血を行い,血小板数を1万/μL以上に保つように努めるが,維持が困難なこともある。