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○「輸血療法の実施に関する指針」及び「血液製剤の使用指針」の一部改正について

(平成24年3月6日)

(薬食発0306第4号)

(各都道府県知事あて厚生労働省医薬食品局長通知)

輸血療法の適正化及び血液製剤の使用適正化については、「輸血療法の実施に関する指針」及び「血液製剤の使用指針」の一部改正について(平成21年2月20日付け薬食発第0220002号厚生労働省医薬食品局長通知)の別添1「輸血療法の実施に関する指針」及び別添2「血液製剤の使用指針」により示してきたところである。

今般、輸血医療の進歩に伴い最新の知見が集積されたこと及び「血液製剤等に係る遡及調査ガイドライン」の一部改正について(平成24年3月6日付け薬食発0306第3号厚生労働省医薬食品局長通知)により同ガイドラインの一部が改正されたことに伴い、「輸血療法の実施に関する指針」及び「血液製剤の使用指針」の一部を改正し、別添1及び別添2のとおりとしたので、貴職におかれては下記に御留意の上、貴管内医療機関、日本赤十字社血液センター及び市町村に対し、周知徹底をお願いする。

1 趣旨

より一層の安全対策の向上及び適正使用の推進を図る観点から、「輸血療法の実施に関する指針」及び「血液製剤の使用指針」については、平成22年度から薬事・食品衛生審議会血液事業部会適正使用調査会において、改正に向けた検討が行われてきたところである。今般、輸血医療の進歩に伴い最新の知見が集積されたこと及び「血液製剤等に係る遡及調査ガイドライン」の一部改正を踏まえ、各指針について所要の改正を行うものである。

2 主な改正内容

(1) 「輸血療法の実施に関する指針」の一部改正関係

① 「Ⅴ 不適合輸血を防ぐための検査(適合試験)及びその他の留意点 1.検査の実施方法 1)血液型と不規則抗体スクリーニングの検査」において、頻回に輸血を行う患者については、1週間に1回程度不規則抗体スクリーニング検査を行うことが望ましいことを記載したこと。

② 「Ⅴ 不適合輸血を防ぐための検査(適合試験)及びその他の留意点 2.緊急時の輸血 2)血液型が確定できない場合のO型赤血球の使用」において、緊急時であっても、原則として放射線照射したO型赤血球を使用することを記載したこと。

③ 「Ⅶ 実施体制のあり方 4.患者検体の保存」において、「血液製剤等に係る遡及調査ガイドライン」の一部改正に伴い、患者検体の保存方法を変更したこと。また、輸血による感染か否かを確認する上で重要となることから、輸血前患者検体を保管することを明記したこと。

④ 「Ⅷ 輸血(輸血用血液)に伴う副作用・合併症と対策 1.副作用の概要 1)溶血性輸血副作用 (2)遅発性副作用」において、遅発型溶血性輸血副作用(DHTR)の具体的内容を記載したこと。

⑤ 「Ⅷ 輸血(輸血用血液)に伴う副作用・合併症と対策 1.副作用の概要 2)非溶血性輸血副作用 (1)即時型(あるいは急性型)副作用」において、輸血関連循環過負荷(TACO)の具体的内容を記載したこと。

⑥ 参考として、強力な免疫抑制剤などを施行した場合におけるB型肝炎ウイルスの再活性化の記載を追加したこと。

(2) 「血液製剤の使用指針」の一部改正関係 

① 「Ⅱ 赤血球濃厚液の適正使用 6.使用上の注意点」において、保存に伴うカリウム濃度の上昇と、放射線照射に伴うカリウム濃度の上昇を区別して記載したこと。また、非溶血性副作用、ABO血液型・Rh型と交差適合試験、サイトメガロウイルス抗体陰性赤血球濃厚液に関する記載を追加したこと。

② 「Ⅲ 血小板濃厚液の適正使用 2.使用指針 f.血液疾患(6)その他:ヘパリン起因性血小板減少症(Heparin induced thrombocytopenia; HIT)」において、明らかな出血症状がない場合には予防的投与は避けるべきであることを記載したこと。

③ 「Ⅲ 血小板濃厚液の適正使用 6.使用上の注意点 7)ABO血液型不適合輸血」において、血小板濃厚液中の抗A、抗B抗体によって溶血が起こる可能性に注意することを記載したこと。また、患者の抗A、抗B抗体価が極めて高い場合、ABO血液型不適合輸血では十分な効果が期待できないことがあることを記載したこと。

④ 「Ⅳ 新鮮凍結血漿の適正使用 6.使用上の注意点」において、大量投与によるクエン酸中毒では、必要な場合にはグルコン酸カルシウム等カルシウム含有製剤を静注することを記載したこと。また、ABO血液型不適合の新鮮凍結血漿を使用する場合、新鮮凍結血漿中の抗A、抗B抗体によって溶血が起こる可能性に注意することを記載したこと。

○「輸血療法の実施に関する指針」及び「血液製剤の使用指針」の一部改正について

(平成24年3月6日)

(薬食発0306第5号)

((別記1)あて厚生労働省医薬食品局長通知)

血液行政の推進につきましては、平素より多大な御協力を賜り、厚く御礼を申し上げます。

今般、標記について、別添のとおり各都道府県知事あて通知したところです。

つきましては、貴職におかれましても、輸血療法の適正化及び血液製剤の使用適正化について特段の御理解・御協力をいただきますようよろしくお願いいたします。

(別記1)

社団法人 日本医師会会長

社団法人 全国自治体病院協議会会長

社団法人 日本歯科医師会会長

社団法人 日本看護協会会長

社団法人 日本血液製剤協会理事長

社団法人 日本病院会会長

社団法人 日本医療法人協会会長

社団法人 全日本病院協会会長

社団法人 日本精神科病院協会会長

社団法人 日本薬剤師会会長

社団法人 日本臨床衛生検査技師会会長

社団法人 日本医薬品卸業連合会会長

社団法人 国民健康保険中央会会長

社会保険診療報酬支払基金理事長

日本赤十字社社長

社会福祉法人 恩賜財団済生会理事長

全国厚生農業協同組合連合会会長

社会福祉法人 北海道社会事業協会理事長

社団法人 全国社会保険協会連合会会長

財団法人 厚生年金事業振興団理事長

財団法人 船員保険会会長

健康保険組合連合会会長

国家公務員共済組合連合会理事長

社団法人 地方公務員共済組合協議会会長

日本私立学校振興・共済事業団理事長

社団法人 日本衛生検査所協会会長

各地方厚生 (支)局局長

独立行政法人 医薬品医療機器総合機構理事長

財団法人 日本医療機能評価機構理事長

財団法人 血液製剤調査機構理事長

日本医学会会長

日本外科学会会長

日本心臓血管外科学会会長

日本消化器外科学会会長

日本胸部外科学会会長

日本脳神経外科学会会長

日本整形外科学会会長

日本産科婦人科学会理事長

日本耳鼻咽喉科学会会長

日本泌尿器科学会会長

日本血液学会会長

日本救急医学会会長

日本麻酔科学会会長

日本消化器病学会会長

日本癌治療学会会長

日本臨床腫瘍学会会長

日本小児外科学会会長

日本輸血・細胞治療学会会長

[別添1]

「輸血療法の実施に関する指針」(改定版)

平成17年9月(平成24年3月一部改正)

厚生労働省医薬食品局血液対策課

目次

■「輸血療法の実施に関する指針」

はじめに

Ⅰ 輸血療法の考え方

Ⅱ 輸血の管理体制の在り方

Ⅲ 輸血用血液の安全性

Ⅳ 患者の血液型検査と不規則抗体スクリーニング検査

Ⅴ 不適合輸血を防ぐための検査(適合試験)及びその他の留意点

Ⅵ 手術時又は直ちに輸血する可能性の少ない場合の血液準備

Ⅶ 実施体制の在り方

Ⅷ 輸血に伴う副作用・合併症と対策

Ⅸ 血液製剤の有効性,安全性と品質の評価

Ⅹ 血液製剤使用に関する記録の保管・管理

ⅩⅠ自己血輸血

ⅩⅡ院内で輸血用血液を採取する場合(自己血採血を除く)

おわりに

(参考)

はじめに

輸血療法は,適正に行われた場合には極めて有効性が高いことから,広く行われている。近年,格段の安全対策の推進により,免疫性及び感染性輸血副作用・合併症は減少し,輸血用血液の安全性は非常に高くなってきた。しかし,これらの輸血副作用・合併症を根絶することはなお困難である。すなわち,輸血による移植片対宿主病(GVHD),輸血関連急性肺障害(TRALI),急性肺水腫,エルシニア菌(Yersinia enterocolitica)による敗血症などの重篤な障害,さらに肝炎ウイルスやヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染しウインドウ期※にある供血者からの感染,ヒトパルボウイルスB19やプリオンの感染などが新たに問題視されるようになってきた。また,不適合輸血による致死的な溶血反応は,まれではあるが,発生しているところである。

このようなことから輸血療法の適応と安全対策については,常に最新の知見に基づいた対応が求められ,輸血について十分な知識・経験を有する医師のもとで使用するとともに,副作用発現時に緊急処置をとれる準備をしていくことが重要である。

そこで,院内採血によって得られた血液(院内血)を含めて,輸血療法全般の安全対策を現在の技術水準に沿ったものとする指針として「輸血療法の適正化に関するガイドライン」(厚生省健康政策局長通知,健政発第502号,平成元年9月19日)が策定され平成11年には改定されて「輸血療法の実施に関する指針」として制定された。さらに平成17年9月には,「安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律」(昭和31年法律第160号;平成15年7月一部改正施行)第8条に基づき,「医療関係者」は血液製剤の適正使用に努めるとともに,血液製剤の安全性に関する情報の収集及び提供に努めなければならないとの輸血療法を適正に行う上での諸規定に基づいて再検討を行い,本指針の改正を行った。

今回の改正では,より一層の安全対策の向上及び適正使用の推進を図る観点から,輸血療法の進歩発展に伴う最新の知見及び「血液製剤等に係る遡及調査ガイドライン」の一部改正を踏まえ,所用の改正を行うものである。

※感染初期で,抗原・抗体検査,核酸増幅検査(NAT)結果の陰性期

Ⅰ 輸血療法の考え方

1.医療関係者の責務

「医療関係者」は,

● 特定生物由来製品を使用する際には,原材料に由来する感染のリスク等について,特段の注意を払う必要があることを十分認識する必要があること(安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律第9条に基づく血液製剤の安全性の向上及び安定供給の確保を図るための基本的な方針(平成20年厚生労働省告示第326号)第六及び第七),さらに,

● 血液製剤の有効性及び安全性その他当該製品の適正な使用のために必要な事項について,患者又はその家族に対し,適切かつ十分な説明を行い,その理解(すなわちインフォームド・コンセント)を得るように努めなければならないこと(薬事法(昭和35年法律第145号)第68条の7),

また,

● 特定生物由来製品の使用の対象者の氏名,住所その他必要な事項について記録を作成し,保存(20年)すること(薬事法第68条の9第3項及び第4項)が必要である。

2.適応の決定

1) 目的

輸血療法の主な目的は,血液中の赤血球などの細胞成分や凝固因子などの蛋白質成分が量的に減少又は機能的に低下したときに,その成分を補充することにより臨床症状の改善を図ることにある。

2) 輸血による危険性と治療効果との比較考慮

輸血療法には一定のリスクを伴うことから,リスクを上回る効果が期待されるかどうかを十分に考慮し,適応を決める。輸血量は効果が得られる必要最小限にとどめ,過剰な投与は避ける。また,他の薬剤の投与によって治療が可能な場合には,輸血は極力避けて臨床症状の改善を図る。

3) 説明と同意(インフォームド・コンセント)

患者又はその家族が理解できる言葉で,輸血療法にかかわる以下の項目を十分に説明し,同意を得た上で同意書を作成し,一部は患者に渡し,一部は診療録に添付しておく(電子カルテにおいては適切に記録を保管する)。

● 必要な項目

(1) 輸血療法の必要性

(2) 使用する血液製剤の種類と使用量

(3) 輸血に伴うリスク

(4) 医薬品副作用被害救済制度・生物由来製品感染等被害救済制度と給付の条件

(5) 自己血輸血の選択肢

(6) 感染症検査と検体保管

(7) 投与記録の保管と遡及調査時の使用

(8) その他,輸血療法の注意点

3.輸血方法

1) 血液製剤の選択,用法,用量

血液中の各成分は,必要量,生体内寿命,産生率などがそれぞれ異なり,また,体外に取り出され保存された場合,その機能は生体内にある場合とは異なる。輸血療法を実施するときには,患者の病態とともに各血液成分の持つ機能を十分考慮して,輸血後の目標値に基づき,使用する血液製剤の種類,投与量,輸血の回数及び間隔を決める必要がある。

2) 成分輸血

目的以外の成分による副作用や合併症を防ぎ,循環系への負担を最小限にし,限られた資源である血液を有効に用いるため,全血輸血を避けて血液成分の必要量のみを補う成分輸血を行う。

3) 自己血輸血

院内での実施管理体制が適正に確立している場合は,最も安全性の高い輸血療法であることから,輸血を要する外科手術(主に待機的外科手術)において積極的に導入することが推奨される。安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律の趣旨である,「安全かつ適正な輸血」の推進のためにも,自己血輸血の普及は重要であり,輸血を要する手術を日常的に実施している医療機関は自己血輸血をスタンダードな輸血医療として定着させることが求められる。

4.適正な輸血

1) 供血者数

輸血に伴う感染症のリスクを減らすために,高単位の輸血用血液の使用などにより,できるだけ供血者の数を少なくする。赤血球(MAP加赤血球濃厚液など)と凝固因子の補充を目的としない新鮮凍結血漿との併用は極力避けるべきである。(血液製剤の使用指針参照)

2) 血液製剤の使用方法

新鮮凍結血漿,赤血球濃厚液,アルブミン製剤及び血小板濃厚液の適正な使用方法については,血液製剤の使用指針に沿って行われることが推奨される。

3) 輸血の必要性と記録

輸血が適正に行われたことを示すため,輸血の必要性,輸血量設定の根拠及び輸血前後の臨床所見と検査値の推移から輸血効果を評価し,診療録に記載する。

Ⅱ 輸血の管理体制の在り方

輸血療法を行う場合は,各医療機関の在り方に沿った管理体制を構築する必要があるが,医療機関内の複数の部署が関わるので,次のような一貫した業務体制をとることが推奨される。

1.輸血療法委員会の設置

病院管理者及び輸血療法に携わる各職種から構成される,輸血療法についての委員会を医療機関内に設ける。この委員会を定期的に開催し,輸血療法の適応,血液製剤(血漿分画製剤を含む。)の選択,輸血用血液の検査項目・検査術式の選択と精度管理,輸血実施時の手続き,血液の使用状況調査,症例検討を含む適正使用推進の方法,輸血療法に伴う事故・副作用・合併症の把握方法と対策,輸血関連情報の伝達方法,院内採血の基準や自己血輸血の実施方法についても検討するとともに,改善状況について定期的に検証する。また,上記に関する議事録を作成・保管し,院内に周知する。

2.責任医師の任命

病院内における輸血業務の全般について,実務上の監督及び責任を持つ医師を任命する。なお,輸血責任医師とは,輸血関連の十分な知識を備え,副作用などのコンサルテーションに対応できる医師であり,かつ輸血部門の管理運営を担い,病院内の輸血体制の整備を遂行する医師であることが望まれる。

3.輸血部門の設置

輸血療法を日常的に行っている医療機関では,輸血部門を設置し,責任医師の監督の下に輸血療法委員会の検討事項を実施するとともに,輸血に関連する検査のほか,血液製剤の請求・保管・払出し等の事務的業務も含めて一括管理を行い,集中的に輸血に関するすべての業務を行う。

4.担当技師の配置

輸血業務全般(輸血検査と製剤管理を含む。)についての十分な知識と経験が豊富な臨床(又は衛生)検査技師が輸血検査業務の指導を行い,さらに輸血検査は検査技師が24時間体制で実施することが望ましい。

Ⅲ 輸血用血液の安全性

1.供血者の問診

輸血用血液の採血を行う場合には,供血者自身の安全確保と受血者である患者への感染などのリスクを予防するため,供血者の問診を十分に行い,ウイルスなどに感染している危険性の高い供血者を除く必要がある。特にヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染については,供血者の理解を求めながら感染の危険性がある行為を実行した者を除外する。

2.供血者の検査項目

採血された血液については,ABO血液型,Rho(D)抗原,間接抗グロブリン試験を含む不規則抗体スクリーニングの各検査を行う。さらに,HBs抗原,抗HBs抗体,抗HBc抗体,抗HCV抗体,抗HIV―1,2抗体,抗HTLV―I抗体,HBV,HCV,HIV―1,2に対する核酸増幅検査(NAT)検査,梅毒血清反応及びALT(GPT)の検査を行う。

なお,上記に加えて,ヒトパルボウイルスB19検査を日本赤十字社の血液センターでは実施しているが,ヒトパルボウイルスB19検査は生物由来原料基準には記載されていない。

3.前回の記録との照合

複数回供血している者については,毎回上記2.の全項目の検査を行う。血液型が前回の検査結果と不一致である場合には,必ず新たに採血された検体を用いて再検査を行い,その原因を究明し,そのことを記録する。

4.副作用予防対策

1) 高単位輸血用血液製剤

抗原感作と感染の機会を減少させるため,可能な限り高単位の輸血用血液成分,すなわち2単位の赤血球濃厚液,成分採血由来の新鮮凍結血漿や血小板濃厚液を使用する。

2) 放射線照射

致死的な合併症である輸血後移植片対宿主病の予防には,新鮮凍結血漿を除く輸血用血液に原則として放射線を照射(15~50Gy)して使用する。院内で採血された血液についても原則として照射後に輸血を行う。平成10年に日本赤十字社より放射線照射血液製剤が供給されるようになり,平成12年以降,わが国では放射線照射血液製剤による輸血後移植片対宿主病の確定症例の報告はない。放射線照射後の赤血球(全血を含む。)製剤では,照射していない赤血球製剤よりも上清中のカリウム濃度が上昇することから,新生児(特に低出生体重児)・乳児,腎不全患者及び急速大量輸血患者については,カリウム濃度の上昇に留意し,照射後速やかに使用することが望ましい。なお,現在ではすべての製剤が保存前白血球除去製剤となったが,保存前白血球除去のみで輸血後移植片対宿主病が予防できるとは科学的に証明されていない。

Ⅳ 患者の血液型検査と不規則抗体スクリーニング検査

患者(受血者)については,不適合輸血を防ぐため,輸血を実施する医療機関で責任を持って以下の検査を行う。これらの検査については,原則として,患者の属する医療機関内で実施するが,まれにしか輸血を行わない医療機関等自施設内で検査が適切に実施できる体制を整えることができない場合には,専門機関に委託して実施する。

1.ABO血液型の検査

1) オモテ検査とウラ検査

ABO血液型の検査には,抗A及び抗B試薬を用いて患者血球のA及びB抗原の有無を調べる,いわゆるオモテ検査を行うとともに,既知のA及びB血球を用いて患者血清中の抗A及び抗B抗体の有無を調べる,いわゆるウラ検査を行わなければならない。オモテ検査とウラ検査の一致している場合に血液型を確定することができるが,一致しない場合にはその原因を精査する必要がある。

2) 同一患者の二重チェック

同一患者からの異なる時点での2検体で,二重チェックを行う必要がある。

3)同一検体の二重チェック

同一検体について異なる2人の検査者がそれぞれ独立に検査し,二重チェックを行い,照合確認するように努める。

2.Rho(D)抗原の検査

抗D試薬を用いてRho(D)抗原の有無を検査する。この検査が陰性の患者の場合には,抗原陰性として取り扱い,D抗原確認試験は行わなくてもよい。

3.不規則抗体スクリーニング検査

間接抗グロブリン試験を含む不規則抗体のスクリーニング検査を行う。不規則抗体が検出された場合には,同定試験を行う。

なお,37℃で反応する臨床的に意義(副作用をおこす可能性)のある不規則抗体が検出された場合には,患者にその旨を記載したカードを常時携帯させることが望ましい。

4.乳児の検査

生後4か月以内の乳児では,母親由来の移行抗体があることや血清中の抗A及び抗B抗体の産生が不十分であることから,ABO血液型はオモテ検査のみの判定でよい。Rho(D)抗原と不規則抗体スクリーニングの検査は上記2,3と同様に行うが,不規則抗体の検査には患者の母親由来の血清を用いても良い。

Ⅴ 不適合輸血を防ぐための検査(適合試験)及びその他の留意点

適合試験には,ABO血液型,Rho(D)抗原及び不規則抗体スクリーニングの各検査と輸血前に行われる交差適合試験(クロスマッチ)とがある。

1.検査の実施方法

1) 血液型と不規則抗体スクリーニングの検査

ABO血液型とRho(D)抗原の検査はⅣ―1,2,不規則抗体スクリーニング検査はⅣ―3と同様に行う。頻回に輸血を行う患者においては,1週間に1回程度不規則抗体スクリーニング検査を行うことが望ましい。

2) 交差適合試験

(1) 患者検体の採取

原則として,ABO血液型検査検体とは別の時点で採血した検体を用いて検査を行う。

(2) 輸血用血液の選択

交差適合試験には,患者とABO血液型が同型の血液(以下「ABO同型血」という。)を用いる。さらに,患者がRho(D)陰性の場合には,ABO血液型が同型で,かつRho(D)陰性の血液を用いる。

なお,患者が37℃で反応する臨床的に意義のある不規則抗体を持っていることが明らかな場合には,対応する抗原を持たない血液を用いる。

(3) 術式

交差適合試験には,患者血清と供血者血球の組み合わせの反応で凝集や溶血の有無を判定する主試験と患者血球と供血者血清の組み合わせの反応を判定する副試験とがある。主試験は必ず,実施しなければならない。

術式としては,ABO血液型の不適合を検出でき,かつ37℃で反応する臨床的に意義のある不規則抗体を検出できる間接抗グロブリン試験を含む適正な方法を用いる。なお,後述3.2)の場合を除いて,臨床的意義のある不規則抗体により主試験が不適合である血液を輸血に用いてはならない。

(4) コンピュータクロスマッチ

あらかじめABO血液型,Rho(D)抗原型検査と抗体スクリーニング検査により,臨床的に問題となる抗体が検出されない場合には,交差適合試験を省略し,ABO血液型の適合性を確認することで輸血は可能となる。

コンピュータクロスマッチとは,以下の各条件を完全に満たした場合にコンピュータを用いて上述した適合性を確認する方法であり,人為的な誤りの排除と,手順の合理化,省力化が可能である。必要な条件は,以下のとおり。

① 結果の不一致や製剤の選択が誤っている際には警告すること

② 患者の血液型が2回以上異なる検体により確認されていること

③ 製剤の血液型が再確認されていること

(5) 乳児での適合血の選択

4か月以内の乳児についても,原則としてABO同型血を用いるが,O型以外の赤血球を用いる場合には,抗A又は抗B抗体の有無を間接抗グロブリン試験を含む交差適合試験(主試験)で確認し,適合する赤血球を輸血する。また,不規則抗体陽性の場合には(1),(2)と同様に対処する。

(6) 実施場所

交差適合試験の実施場所は,特別な事情のない限り,患者の属する医療機関内で行う。

2.緊急時の輸血

緊急に赤血球の輸血が必要な出血性ショック状態にある救急患者について,直ちに患者の検査用血液を採取することに努めるが,採血不可能な場合には出血した血液を検査に利用しても良い。輸血用血液製剤の選択は状況に応じて以下のように対処するが,血液型の確定前にはO型の赤血球の使用(全血は不可),血液型確定後にはABO同型血の使用を原則とする。

1) ABO血液型確定時の同型の血液の使用

患者の最新の血液を検体として,ABO血液型及びRho(D)抗原の判定を行い,直ちにABO同型血である赤血球(又は全血)を輸血する。輸血と平行して,引き続き交差適合試験を実施する。

2) 血液型が確定できない場合のO型赤血球の使用

出血性ショックのため,患者のABO血液型を判定する時間的余裕がない場合,緊急時に血液型判定用試薬がない場合,あるいは血液型判定が困難な場合は,例外的に交差適合試験未実施のO型赤血球濃厚液を使用する(全血は不可)。なお,緊急時であっても,原則として放射線照射血液製剤を使用する。

3) Rho(D)抗原が陰性の場合

Rho(D)抗原が陰性と判明したときは,Rho(D)陰性の血液の入手に努める。Rho(D)陰性を優先してABO血液型は異型であるが適合の血液(異型適合血)を使用してもよい。特に患者が女児又は妊娠可能な女性でRho(D)陽性の血液を輸血した場合は,できるだけ早くRho(D)陰性の血液に切り替える。

なお,48時間以内に不規則抗体検査を実施し抗D抗体が検出されない場合は,抗D免疫グロブリンの投与を考慮する。

注:日本人でのRho(D)陰性の頻度は約0.5%である。

4) 事由の説明と記録

急に輸血が必要となったときに,交差適合試験未実施の血液,血液型検査未実施等でO型赤血球を使用した場合あるいはRho(D)陰性患者にRho(D)陽性の血液を輸血した場合には,担当医師は救命後にその事由及び予想される合併症について,患者又はその家族に理解しやすい言葉で説明し,同意書の作成に努め,その経緯を診療録に記載しておく。

3.大量輸血時の適合血

大量輸血とは,24時間以内に患者の循環血液量と等量又はそれ以上の輸血が行われることをいう。出血量及び速度の状況に応じて次のように対処する。

1) 追加輸血時の交差適合試験

手術中の追加輸血などで大量輸血が必要となった患者については,しばしば間接抗グロブリン試験による交差適合試験を行う時間的余裕がない場合がある。このような場合には少なくとも生理食塩液法による主試験(迅速法,室温)を行い,ABO血液型の間違いだけは起こさないように配慮する。万一,ABO同型血を入手できない場合には2―2)また,患者がRho(D)陰性の場合には2―3)に準じて対処してもよいが,2―4)の記載事項に留意する。交差適合試験用の血液検体は,できるだけ新しく採血したものを用いる。

2) 不規則抗体が陽性の場合

緊急に大量輸血を必要とする患者で,事前に臨床的に意義のある不規則抗体が検出された場合であっても,対応する抗原陰性の血液が間に合わない場合には,上記1)と同様にABO同型血を輸血し,救命後に溶血性副作用に注意しながら患者の観察を続ける。

3) 救命処置としての輸血

上記のような出血性ショックを含む大量出血時では,時に同型赤血球輸血だけでは対応できないこともある。そのような場合には救命を第一として考え,O型赤血球を含む血液型は異なるが,適合である赤血球(異型適合血)を使用する。

ただし,使用に当たっては,3―1)項を遵守する。

〈患者血液型が確定している場合〉

患者ABO血液型

異型であるが適合である赤血球

O

なし

A

O

B

O

AB

A型若しくはB型を第一選択とし,どちらも入手できない場合にO型を選択する

〈患者血液型が未確定の場合〉

O型

4.交差適合試験の省略

1) 赤血球と全血の使用時

供血者の血液型検査を行い,間接抗グロブリン試験を含む不規則抗体スクリーニング検査が陰性であり,かつ患者の血液型検査が適正に行われていれば,ABO同型血使用時の副試験は省略してもよい。

2) 乳児の場合

上記1)と同様な条件のもとで,生後4か月以内の乳児で抗Aあるいは抗B抗体が検出されず,不規則抗体も陰性の場合には,ABO同型血使用時の交差適合試験は省略してもよい。

なお,ABO同型Rho(D)抗原陰性の患児にはRho(D)抗原陰性同型血を輸血する。

また,児の不規則抗体の検索については,母親由来の血清を用いてもよい。

3) 血小板濃厚液と新鮮凍結血漿の使用時

赤血球をほとんど含まない血小板濃厚液及び新鮮凍結血漿の輸血に当たっては,交差適合試験は省略してよい。ただし,原則としてABO同型血を使用する。

なお,患者がRho(D)陰性で将来妊娠の可能性のある患者に血小板輸血を行う場合には,できるだけRho(D)陰性由来のものを用いる。Rho(D)陽性の血小板濃厚液を用いた場合には,抗D免疫グロブリンの投与により抗D抗体の産生を予防できることがある。

5.患者検体の取扱い

1) 血液検体の採取時期

新たな輸血,妊娠は不規則抗体の産生を促すことがあるため,過去3か月以内に輸血歴又は妊娠歴がある場合,あるいはこれらが不明な患者について,交差適合試験に用いる血液検体は輸血予定日前3日以内に採血したものであることが望ましい。

2) 別検体によるダブルチェック

交差適合試験の際の患者検体は血液型の検査時の検体とは別に,新しく採血した検体を用いて,同時に血液型検査も実施する。

6.不適合輸血を防ぐための検査以外の留意点

1) 血液型検査用検体の採血時の取り違いに注意すること。

血液型検査用検体の採血時の取り違いが血液型の誤判定につながることがあることから,血液型の判定は異なる時期の新しい検体で2回実施し,同一の結果が得られたときに確定すべきである。検体の取り違いには,採血患者の誤り(同姓や隣のベッドの患者と間違える場合,同時に複数の患者の採血を実施する際の患者取り違いなど)と,他の患者名の採血管に間違って採血する検体取り違いがある。前者については,血液型検査用の採血の際の患者確認が重要である。後者については,手書きによるラベル患者名の書き間違いの他,朝の採血などで,複数患者の採血管を持ち歩きながら順次採血して,採血管を取り違えることがある。複数名分の採血管を試験管立てなどに並べて採血する方法は,採血管を取り違える危険があるので避けるべきである。1患者分のみの採血管を用意し採血する。

2) 検査結果の伝票への誤記や誤入力に注意すること。

血液型判定は正しくても,判定結果を伝票に記載する際や入力する際に間違える危険性があることから,二人の検査者による確認を行うことが望ましい。

また,コンピュータシステムを用いた結果入力の確認も有効である。

3) 検査結果の記録と患者への通知

血液型判定結果は転記せずに,診療録に貼付するとともに個人情報に留意し患者に通知する。

4) 以前の検査結果の転記や口頭伝達の誤りによる危険性に注意すること。

以前に実施された血液型検査結果を利用する場合には,前回入院時の診療録からの血液型検査結果を転記する際の誤り,電話による血液型の問い合わせの際の伝達の誤りがある。転記や口頭での血液型の伝達は間違いが起きやすいことから,貼付した判定結果用紙を確認する必要がある。

Ⅵ 手術時又は直ちに輸血する可能性の少ない場合の血液準備

血液を無駄にせず,また輸血業務を効率的に行うために,待機的手術例を含めて直ちに輸血する可能性の少ない場合の血液準備方法として,血液型不規則抗体スクリーニング法(タイプアンドスクリーン法:T&S法)と最大手術血液準備量(MSBOS)を採用することが望ましい。

1.血液型不規則抗体スクリーニング法(Type & Screen法;T & S法)

待機的手術例を含めて,直ちに輸血する可能性が少ないと予測される場合,受血者のABO血液型,Rho(D)抗原及び,臨床的に意義のある不規則抗体の有無をあらかじめ検査し,Rho(D)陽性で不規則抗体が陰性の場合は事前に交差適合試験を行わない。緊急に輸血用血液が必要になった場合には,輸血用血液のオモテ検査によりABO同型血であることを確認して輸血するか,あるいは生理食塩液法(迅速法,室温)による主試験が適合の血液を輸血する。又は,予めオモテ検査により確認されている血液製剤の血液型と患者の血液型とをコンピュータを用いて照合・確認して輸血を行う(コンピュータクロスマッチ)。

2.最大手術血液準備量(Maximal Surgical Blood Order Schedule; MSBOS)

確実に輸血が行われると予測される待機的手術例では,各医療機関ごとに,過去に行った手術例から術式別の輸血量(T)と準備血液量(C)を調べ,両者の比(C/T)が1.5倍以下になるような量の血液を交差適合試験を行って事前に準備する。

3.手術血液準備量計算法(Surgical Blood Order Equation ; SBOE)

近年,患者固有の情報を加えた,より無駄の少ない計算法が提唱されている。この方法は,患者の術前ヘモグロビン(Hb)値,患者の許容できる輸血開始Hb値(トリガー;Hb7~8g/dL),及び術式別の平均的な出血量の3つの数値から,患者固有の血液準備量を求めるものである。はじめに術前Hb値から許容輸血開始Hb値を減じ,患者の全身状態が許容できる血液喪失量(出血予備量)を求める。術式別の平均的な出血量から出血予備量を減じ,単位数に換算する。その結果,マイナスあるいは0.5以下であれば,T&Sの対象とし,0.5より大きければ四捨五入して整数単位を準備する方式である。

Ⅶ 実施体制の在り方

安全かつ効果的な輸血療法を過誤なく実施するために,次の各項目に注意する必要がある。

また,輸血実施の手順について,確認すべき事項をまとめた輸血実施手順書を周知し,遵守することが有用である(輸血実施手順書参照)。

1.輸血前

1) 輸血用血液の保存

各種の輸血用血液は,それぞれ最も適した条件下で保存しなければならない。赤血球,全血は2~6℃,新鮮凍結血漿は-20℃以下で,自記温度記録計と警報装置が付いた輸血用血液専用の保冷庫中でそれぞれ保存する。

血小板濃厚液はできるだけ速やかに輸血する。保存する場合は,室温(20~24℃)で水平振盪しながら保存する。

2) 輸血用血液の保管法

温度管理が不十分な状態では,輸血用血液の各成分は機能低下を来しやすく,他の患者への転用もできなくなる。輸血用血液の保管・管理は,院内の輸血部門で一括して集中的に管理するべきである。病棟や手術室などには実際に使用するまで持ち出さないことを原則とする。持ち出した後はできるだけ早く使用するが,手術室などに30分以上血液を手元に置く場合にも,上記1)と同様の条件下で保存する。

注:輸血用血液の保管・管理については「血液製剤保管管理マニュアル(厚生省薬務局,平成5年9月16日)」を参照。ただし,今後改正されることもあるので最新のマニュアルを参照する必要がある。

3) 輸血用血液の外観検査

患者に輸血をする医師又は看護師は,特に室温で保存される血小板製剤については細菌混入による致死的な合併症に留意して,輸血の実施前に外観検査としてバッグ内の血液について色調の変化,溶血(黒色化)や凝血塊の有無,あるいはバッグの破損や開封による閉鎖系の破綻等の異常がないことを肉眼で確認する。(スワーリングや異物・凝集塊などを確認する。なお,スワーリングとは,血小板製剤を蛍光灯等にかざしながらゆっくりと攪拌したとき,品質が確保された血小板製剤では渦巻き状のパターンがみられる現象のこと。)

また,赤血球製剤についてはエルシニア菌(Yersinia enterocolitica)感染に留意し,バッグ内が暗赤色から黒色へ変化することがあるため,セグメント内との血液色調の差にも留意する。

4) 一回一患者

輸血の準備及び実施は,原則として一回に一患者ごとに行う。複数の患者への輸血用血液を一度にまとめて準備し,そのまま患者から患者へと続けて輸血することは,取り違いによる事故の原因となりやすいので行うべきではない。

5) チェック項目

事務的な過誤による血液型不適合輸血を防ぐため,輸血用血液の受け渡し時,輸血準備時及び輸血実施時に,それぞれ,患者氏名(同姓同名に注意),血液型,血液製造番号,有効期限,交差適合試験の検査結果,放射線照射の有無などについて,交差試験適合票の記載事項と輸血用血液バッグの本体及び添付伝票とを照合し,該当患者に適合しているものであることを確認する。麻酔時など患者本人による確認ができない場合,当該患者に相違ないことを必ず複数の者により確認することが重要である。

6) 照合の重要性

確認する場合は,上記チェック項目の各項目を2人で交互に声を出し合って読み合わせをし,その旨を記録する。

7) 同姓同名患者

まれではあるが,同姓同名あるいは非常によく似た氏名の患者が,同じ日に輸血を必要とすることがある。患者の認識(ID)番号,生年月日,年齢などによる個人の識別を日常的に心がけておく必要がある。

8) 電子機器による確認,照合

確認,照合を確実にするために,患者のリストバンドと製剤を携帯端末(PDA)などの電子機器を用いた機械的照合を併用することが望ましい。

9) 追加輸血時

引き続き輸血を追加する場合にも,追加されるそれぞれの輸血用血液について,上記3)~8)と同様な手順を正しく踏まなければならない。

10) 輸血前の患者観察

輸血前に体温,血圧,脈拍,さらに可能であれば経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)を測定後に,輸血を開始し,副作用発生時には,再度測定することが望ましい。

2.輸血中

1) 輸血開始直後の患者の観察

意識のある患者への赤血球輸血の輸血速度は,輸血開始時には緩やかに行う。ABO型不適合輸血では,輸血開始直後から血管痛,不快感,胸痛,腹痛などの症状が見られるので,輸血開始後5分間はベッドサイドで患者の状態を観察する必要がある。

救命的な緊急輸血を要する患者では急速輸血を必要とし,意識が清明でないことも多く,自覚的所見により不適合輸血を疑うことは困難又は不可能であるので,呼吸・循環動態の観察の他に導尿を行って尿の色調を見ることや術野からの出血の状態を観察することなどにより,総合的な他覚的所見によって,不適合輸血の早期発見に努める。

2) 輸血開始後の観察

輸血開始後15分程度経過した時点で再度患者の状態を観察する。即時型溶血反応の無いことを確認した後にも,発熱・蕁麻疹などのアレルギー症状がしばしば見られるので,その後も適宜観察を続けて早期発見に努める。

3.輸血後

1) 確認事項

輸血終了後に再度患者名,血液型及び血液製造番号を確認し,診療録にその製造番号を記録する。

2) 輸血後の観察

特に,後述する輸血関連急性肺障害(TRALI),細菌感染症では輸血終了後に重篤な副作用を呈することがあり,輸血終了後も患者を継続的に観察することが可能な体制を整備する。

4.患者検体の保存

医療機関は当該指針(Ⅷの1の2)の(2)のii及びiii)に従って輸血前後の検査を実施する。当該指針に従って輸血前後の検査を実施していない場合は,輸血前後の患者血液(血漿又は血清として約2mL確保できる量)を,-20℃以下で可能な限り(2年間を目安に)保存することとし,日本赤十字社から検査依頼があった場合には当該指針に従って検査を行うこと。(ただし,新生児や乳幼児においては,約2mL保管することは事実上困難なこともあることから,可能な量を保管することで差し仕えない。)

この際,コンタミネーションのないようにディスポーザブルのピペットを使用するなどの対応が望まれる。

また,検体の保管は,未開封の分離剤入りの採血管に入れ遠心した後に保管することが望ましいが,困難な場合は,輸血前に交差適合試験等で使用した血清あるいは血漿(血球と分離)約2mLを保存しても良い。ただし,検査が適切に行えない可能性があるため,保管検体には抗凝固剤としてヘパリンを用いないこと。

なお,当該指針に従って輸血前後の検査を行っている場合であっても,検査の疑陽性結果,潜在ウイルスの活性化等の有無を確認するため,輸血前後の患者血清(漿)の再検査を行うことがあるので,

①輸血前1週間程度の間の患者血清(漿)

及び

②輸血後3か月程度の血清(漿)

についても保管しているものがあれば,日本赤十字社に提供し,調査に協力すること(院内採血の場合は除く。)。

この際の保管方法は,上記と同様に取り扱う。

特に,輸血前検体保管については,輸血による感染か否かを確認する上で非常に重要になるため,輸血前に感染症検査が実施された場合であっても必ず保管すること。やむを得ず,輸血前の検体保管ができない場合には,当該指針(Ⅷの1の2)の(2)のii及びiii)に従って検査を行う。

Ⅷ 輸血(輸血用血液)に伴う副作用・合併症と対策

輸血副作用・合併症には免疫学的機序によるもの,感染性のもの,及びその他の機序によるものがあり,さらにそれぞれ発症の時期により即時型(あるいは急性型)と遅発型とに分けられる。輸血開始時及び輸血中ばかりでなく輸血終了後にも,これらの副作用・合併症の発生の有無について必要な検査を行う等,経過を観察することが必要である。

これらの副作用・合併症を認めた場合には,遅滞なく輸血部門あるいは輸血療法委員会に報告し,記録を保存するとともに,その原因を明らかにするように努め,類似の事態の再発を予防する対策を講じる。特に人為的過誤(患者の取り違い,転記ミス,検査ミス,検体採取ミスなど)による場合は,その発生原因及び講じられた予防対策を記録に残しておく。

1.副作用の概要

1) 溶血性輸血副作用

(1) 即時型(あるいは急性型)副作用

輸血開始後数分から数時間以内に発症してくる即時型(あるいは急性型)の重篤な副作用としては,型不適合による血管内溶血などがある。

このような症状を認めた場合には,直ちに輸血を中止し,輸血セットを交換して生理食塩液又は細胞外液類似輸液剤の点滴に切り替える。

ABO血液型不適合を含む溶血を認めた場合(副作用後の血漿又は血清の溶血所見,ヘモグロビン尿)には,血液型の再検査,不規則抗体検査,直接クームス検査等を実施する。

(2) 遅発型副作用

遅発型の副作用としては,輸血後24時間以降,数日経過してから見られる血管外溶血による遅発型溶血性輸血副作用(Delayed Hemolytic Transfusion Reaction ; DHTR)がある。

輸血歴、妊娠歴の前感作のある患者への赤血球輸血により二次免疫応答を刺激することで,ABO式血液型以外の血液型に対する赤血球抗体(不規則抗体)濃度の急激な上昇により,血管外溶血を示すことがある。輸血後3~14日程度で抗体が検出されるが,輸血前の交差試験では陰性である。発熱やその他の溶血に伴う症状や所見を認め,Hb値の低下,ビリルビンの上昇,直接抗グロブリン試験陽性となる。緊急輸血に際して,不規則抗体陽性患者に不適合血を輸血した場合にも,同様の副作用を認める場合があるが,本副作用の認知度が低いため,正しく診断されない場合があり注意が必要である。

2) 非溶血性輸血副作用

(1) 即時型(あるいは急性型)副作用

アナフィラキシーショック,細菌汚染血輸血による菌血症やエンドトキシンショック,播種性血管内凝固,循環不全,輸血関連急性肺障害(TRALI)などが挙げられる。

このような症状を認めた場合には,直ちに輸血を中止し,輸血セットを交換して生理食塩液又は細胞外液類似輸液剤の点滴に切り替える。

i 細菌感染症

日本赤十字社が供給する輸血用血液製剤には,採血時における問診等の検診,皮膚消毒,出荷時の外観確認,赤血球製剤の有効期間の短縮,細菌混入の可能性が高い採血初期段階の血液を取り除く初流血除去及び白血球に取り込まれる細菌の除去が期待される保存前白血球除去等,細菌混入を防止する様々な安全対策が講じられている。

血小板濃厚液はその機能を保つために室温(20~24℃)で水平振盪しながら保存されているために,まれではあるが細菌の汚染があった場合には,混入した細菌の増殖が早く,その結果として輸血による細菌感染症が起こることがあるため,特に室温で保存される血小板製剤については細菌混入による致死的な合併症に留意して,輸血の実施前に外観検査としてバッグ内の血液について色調の変化,溶血や凝血塊の有無,又はバッグの破損や開封による閉鎖系の破綻等の異常がないことを肉眼で確認する。

また,赤血球濃厚液では,従来は長期保存によるエルシニア菌(Yersinia enterocolitica)感染が問題とされており,上記に加えてバッグ内とセグメント内の血液色調の差に留意する。保存前白血球除去製剤の供給により,白血球とともにエルシニア菌が除去され,その危険性が低減されることが期待されているものの,人の血液を原料としていることに由来する細菌等による副作用の危険性を否定することはできず,輸血により,まれに細菌等によるエンドトキシンショック,敗血症等が起こることがある。

なお,原因となる輸血用血液の保存や患者検体の検査については,「血液製剤等に係る遡及調査ガイドライン」(参考1参照)を遵守するとともに,原因となる輸血用血液の回収等に当たっては参考2に従うよう努める。

ii 輸血関連急性肺障害(TRALI)

TRALIは輸血中若しくは輸血後6時間以内(多くは1~2時間以内)に起こる非心原性の肺水腫を伴う呼吸困難を呈する,重篤な非溶血性輸血副作用である。臨床症状及び検査所見では低酸素血症,胸部レントゲン写真上の両側肺水腫のほか,発熱,血圧低下を伴うこともある。本副作用の発症要因に関しては,輸血血液中若しくは患者血液中に存在する抗白血球抗体が病態に関与している可能性があり,その他製剤中の脂質の関与も示唆されている。臨床の現場でTRALIの認知度が低いことや発症が亜急性であることから,見逃されている症例も多いと推測される。治療に際しては,過量の輸血による心不全(volume overload)との鑑別は特に重要である。TRALIの場合には利尿剤はかえって状態を悪化させることもあり,鑑別には慎重を期すべきである。TRALIと診断した場合には,死亡率は十数%と言われているが,特異的な薬物療法はないものの,酸素療法,挿管,人工呼吸管理を含めた早期より適切な全身管理を行うことで,大半の症例は後遺症を残さずに回復するとされている。なお,当該疾患が疑われた場合は製剤及び患者血漿中の抗顆粒球抗体や抗HLA抗体の有無について検討することが重要である。

iii 輸血関連循環過負荷(TACO)

輸血に伴う循環負荷による心不全であり,呼吸困難,頻脈,血圧上昇などを認める。胸部X線で肺浸潤影など心原性肺水腫の所見を認めることがある。輸血後6時間以内の発症が多い。

(2) 遅発型副作用

輸血後数日から数か月後に発症してくる移植片対宿主病,輸血後紫斑病,各種のウイルス感染症がある。

i 輸血後移植片対宿主病

本症は輸血後7~14日頃に発熱,紅斑,下痢,肝機能障害及び汎血球減少症を伴って発症する。本症の予防策として放射線照射血液の使用が有効である(Ⅲ―4―2)を参照)。同予防策の徹底により平成10年に日本赤十字社より放射線照射血液製剤が供給されるようになり,平成12年以降,わが国では放射線照射血液製剤による輸血後移植片対宿主病の確定症例の報告はない。

ii 輸血後肝炎

本症は,早ければ輸血後2~3か月以内に発症するが,肝炎の臨床症状あるいは肝機能の異常所見を把握できなくても,肝炎ウイルスに感染していることが診断される場合がある。特に供血者がウインドウ期にあることによる感染が問題となる。このような感染の有無を見るとともに,早期治療を図るため,医師が感染リスクを考慮し,感染が疑われる場合などには,別表のとおり,肝炎ウイルス関連マーカーの検査等を行う必要がある。

別表

 

輸血前検査

輸血後検査

B型肝炎

HBs抗原

HBs抗体

HBc抗体

核酸増幅検査(NAT)

(輸血前検査の結果がいずれも陰性の場合,輸血の3か月後に実施)

C型肝炎

HCV抗体

HCVコア抗原

HCVコア抗原検査

(輸血前検査の結果がいずれも陰性の場合又は感染既往と判断された場合,輸血の1~3か月後に実施)

iii ヒト免疫不全ウイルス感染

後天性免疫不全症候群(エイズ)の起因ウイルス(HIV)感染では,感染後2~8週で,一部の感染者では抗体の出現に先んじて一過性の感冒様症状が現われることがあるが,多くは無症状に経過して,以後年余にわたり無症候性に経過する。特に供血者がウインドウ期にある場合の感染が問題となる。受血者(患者)の感染の有無を確認するために,医師が感染リスクを考慮し,感染が疑われる場合などには,輸血前にHIV抗体検査を行い,その結果が陰性であれば,輸血後2~3ヶ月以降に抗体検査等を行う必要がある。

iv ヒトTリンパ球向性ウイルス

輸血によるヒトTリンパ球向性ウイルスⅠ型(HTLV―Ⅰ)などの感染の有無や免疫抗体産生の有無などについても,問診や必要に応じた検査により追跡することが望ましい。

2.輸血専門医(輸血部門専任医師)によるコンサルテーション

単なるじん麻疹以外では輸血専門医に副作用発生時の臨床検査,治療,輸血副作用の原因推定と副作用発生後の輸血用血液の選択について,助言を求めることが望ましい。

3.輸血療法委員会による院内体制の整備

輸血療法委員会において,原因となる輸血用血液の回収・原因検索のための患者検体採取に関して,診療科の協力体制を構築するとともに,これらの業務が可能な検査技師の配置を含む輸血部業務(当直業務)体制の整備を行うことが望ましい。

Ⅸ 血液製剤の有効性,安全性と品質の評価

輸血療法を行った場合には,輸血用血液の品質を含め,投与量に対する効果と安全性を客観的に評価できるよう,輸血前後に必要な検査を行い,さらに臨床的な評価を行った上で,診療録に記載する。

Ⅹ 血液製剤使用に関する記録の保管・管理

血液製剤(輸血用血液製剤及び血漿分画製剤)であって特定生物由来製品※1に指定されたものについては,将来,当該血液製剤の使用により患者へのウイルス感染などのおそれが生じた場合に対処するため,診療録とは別に,当該血液製剤に関する記録を作成し,少なくとも使用日から20年を下回らない期間,保存すること。記録すべき事項は,当該血液製剤の使用の対象者の氏名及び住所,当該血液製剤の名称及び製造番号又は製造記号,使用年月日等であること(薬事法第68条の9及び薬事法施行規則(昭和36年厚生省令第1号)第238条及び第241条)※2

※1 薬事法第2条第10項に規定

※2 「特定生物由来製品に係る使用の対象者への説明並びに特定生物由来製品に関する記録及び保存について」(平成15年5月15日付け医薬発第0515011号(社)日本医師会会長等あて厚生労働省医薬局長通知)

ⅩⅠ 自己血輸血

自己血輸血は院内での実施管理体制が適正に確立している場合は,同種血輸血の副作用を回避し得る最も安全な輸血療法であり,待機的手術患者における輸血療法として積極的に推進することが求められている。

注:液状貯血式自己血輸血の実施に当たっては,「自己血輸血:採血及び保管管理マニュアル」(厚生省薬務局,平成6年12月2日)を参照。ただし,今後改正されることもあるので最新のマニュアルを参照する必要がある。なお,自己血輸血学会・日本輸血学会合同小委員会による「自己血輸血ガイドライン改訂案について」(自己血輸血第14巻第1号1~19頁,2001年)も参考とする。

1.自己血輸血の方法

1) 貯血式自己血輸血:手術前に自己の血液を予め採血,保存しておく方法

2) 希釈式自己血輸血:手術開始直前に採血し,人工膠質液を輸注する方法

3) 回収式自己血輸血:術中・術後に出血した血液を回収する方法

特に,希釈式や回収式に比べて,より汎用性のある貯血式自己血輸血の普及,適応の拡大が期待されている。

2.インフォームド・コンセント

輸血全般に関する事項に加え,自己血輸血の対象となり得る患者に対して,自己血輸血の意義,自己血採血・保管に要する期間,採血前の必要検査,自己血輸血時のトラブルの可能性と対処方法など,自己血輸血の実際的な事柄について十分な説明と同意が必要である。

3.適応

自己血貯血に耐えられる全身状態の患者の待機的手術において,循環血液量の15%以上の術中出血量が予測され,輸血が必要になると考えられる場合で,自己血輸血の意義を理解し,必要な協力が得られる症例である。特に,稀な血液型や既に免疫(不規則)抗体を持つ場合には積極的な適応となる。

体重40kg以下の場合は,体重から循環血液量を計算して一回採血量を設定(減量)するなど慎重に対処する。6歳未満の小児については,一回採血量を体重kg当たり約5~10mLとする。50歳以上の患者に関しては,自己血採血による心血管系への悪影響,特に狭心症発作などの危険性を事前に評価し,実施する場合は,主治医(循環器科の医師)と緊密に連絡を取り,予想される変化に対処できる体制を整えて,慎重に観察しながら採血する。その他,体温,血圧,脈拍数などが採血計画に支障を及ぼさないことを確認する。

4.禁忌

菌血症の可能性がある全身的な細菌感染患者は,自己血の保存中に細菌増殖の危険性もあり,原則的に自己血輸血の適応から除外する。エルシニア菌(Yersinia enterocolitica)などの腸内細菌を貪食した白血球の混入の危険性を考慮し,4週以内に水様性下痢などの腸内感染症が疑われる症状があった患者からは採血を行わない。不安定狭心症,高度の大動脈弁狭窄症など,採血による循環動態への重大な悪影響の可能性を否定できない循環器疾患患者の適応も慎重に判断すべきである。

5.自己血輸血実施上の留意点

同種血輸血と同様,患者・血液の取り違いに起因する輸血過誤の危険性に注意する必要がある。自己血採血に当たっては,穿刺部位からの細菌混入及び腸内細菌を貪食した白血球を含む血液の採取による細菌汚染の危険性に注意する必要がある。採血針を刺入する部位の清拭と消毒は,日本赤十字社血液センターの採血手技に準拠して入念に行う。さらに,採血時の副作用対策,特に,採血中,採血及び点滴終了・抜針後,そして採血後ベッドからの移動時などに出現し,顔面蒼白,冷汗などの症状が特徴的な血管迷走神経反射(VVR)に十分留意する必要がある。

1) 正中神経損傷

極めてまれではあるが,正中神経損傷を起こすことがあり得るので,針の刺入部位及び深さに注意する。

2) 血管迷走神経反射(Vaso―Vagal Reaction ; VVR)

血管迷走神経反射などの反応が認められる場合があるので,採血中及び採血後も患者の様子をよく観察する。採血後には15分程度の休憩をとらせる。

注:血管迷走神経反射は供血者の1%以下に認められる。

3) 止血

採血後の圧迫による止血が不十分であると血腫ができやすいので,適正な圧力で少なくとも15分間圧迫し,止血を確認する。

6.自己血輸血各法の選択と組み合わせ

患者の病状,術式などを考慮して,術前貯血式自己血輸血,術直前希釈式自己血輸血,術中・術後の回収式自己血輸血などの各方法を適切に選択し,又は組み合わせて行うことを検討するべきである。

ⅩⅡ 院内で輸血用血液を採取する場合(自己血採血を除く)

院内で採血された血液(以下「院内血」という。)の輸血については,供血者の問診や採血した血液の検査が不十分になりやすく,また供血者を集めるために患者や家族などに精神的・経済的負担をかけることから,日本赤十字社の血液センターからの適切な血液の供給体制が確立されている地域においては,特別な事情のない限り行うべきではない。

院内血が必要となるのは下記のごとく非常に限られた場合であるが,院内血を使用する場合においては,輸血後移植片対宿主病防止のために,原則として放射線を照射(15~50Gy)した血液を使用する。

1.説明と同意

Ⅰ項の説明と同意の項を参照(Ⅰ―2―3))し,輸血に関する説明と同意を得た上,院内血輸血が必要な場合について,患者又はその家族に理解しやすい言葉でよく説明し,同意を得る。また,感染症ウイルスのスクリーニング検査の精度及び輸血による感染症伝播の危険性を説明し,同意を得る。

以上の内容の説明による同意が得られた旨を診療録に記録しておく。

2.必要となる場合

1) 特殊な血液

日本赤十字社血液センターから供給されない顆粒球やリンパ球のほかヘパリン化血を,院内で用いる場合

2) 緊急時

離島や僻地などで,日本赤十字社の血液センターからの血液の搬送が間に合わない緊急事態の場合

3) 稀な血液型で母体血液を使用せざるを得ない場合

4) 新生児同種免疫血小板減少症(NAITP)で母親の血小板の輸血が必要な場合

3.不適切な使用

採血した当日に使用する血液(以下「当日新鮮血」という。)の輸血が望ましいと考えられてきた場合も,その絶対的適応はない。

特に,以下の場合は院内血としての当日新鮮血を必要とする特別な事情のある場合とは考えられない。

1) 出血時の止血

ある程度以上の量の動脈あるいは静脈血管の損傷による出血は,輸血によって止血することはできない。

出血が血小板の不足によるものであれば血小板輸血が,また凝固障害によるものであれば凝固因子製剤や新鮮凍結血漿の輸血が適応となる。

2) 赤血球の酸素運搬能

通常の赤血球や全血中の赤血球の輸血で十分目的を達成することができる。

3) 高カリウム血症

採血後1週間以内の赤血球や全血の輸血により発症することはまれである。

4) 根拠が不明確な場合

当日新鮮血液中に想定される未知の因子による臨床効果を期待することは,実証的データのない以上,現状では不適切と考えるべきである。

4.採血基準

院内採血でも,安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律施行規則に従って採血することを原則とする。問診に際しては,特に供血者の問診の事項(Ⅲ―1参照)に留意しつつ,聞き漏らしのないように,予め問診票を用意しておくべきである。

5.供血者への注意

採血に伴う供血者への事故や副作用をできるだけ避けるため,自己血輸血実施上の留意点(XIの5)に示すほか,以下の点に注意する必要がある。

1) 供血者への説明

採血された血液について行う検査内容を,あらかじめ供血者に説明しておく。

なお,供血者が検査結果の通知を希望する場合には,個人情報の秘密保持に留意する。

2) 消毒

採血針を刺入する部位の清拭と消毒は,日本赤十字社血液センターの採血手技に準拠して入念に行う。

6.採血の実施体制

1) 担当医師との連携

採血に携わる者は,指示を出した医師と緊急度や検査の優先順位などについて十分連携をとる。

2) 採血場所

院内採血を行う場所は,清潔さ,採血を行うために十分な広さ,明るさ,静けさと適切な温度を確保する必要がある。

7.採血された輸血用血液の安全性及び適合性の確認

1) 検査事項

院内血の検査もⅢ~Ⅴの輸血用血液の安全性及び適合性の確認の項と同様に行う。

2) 緊急時の事後検査

緊急時などで輸血前に検査を行うことができなかった場合でも,輸血後の患者の経過観察と治療が必要になる場合に備えて,輸血に用いた院内血について事後に上述の検査を行う。

8.記録の保管管理

院内血を輸血された患者についてもⅩと同様の記録を作成して保管する。

おわりに

輸血療法は,現代医学において最も確実な効果の期待できる必須な治療法の一つであるが,その実施にはさまざまな危険性を伴うことから,そのような危険性を最小限にしてより安全かつ効果的に行うために,輸血療法に携わるすべての医療関係者はこの指針に則ってその適正な推進を図られたい。

今後,輸血療法の医学的進歩に対応するばかりではなく,安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律の制定などに象徴されるような社会的環境の変化にも応じて,本指針は随時改定していく予定である。

参考1 医療機関における細菌感染への対応(血液製剤等に係る遡及調査ガイドライン(9その他(1)イ(ア)より抜粋))

① 使用済みバッグの冷蔵保存

医療機関においては,輸血に使用したすべての「使用済みバッグ」に残存している製剤をバッグごと,清潔に冷蔵保存しておくことが望まれる(冷凍は不可)。

なお,使用後数日経過しても受血者(患者)に感染症発症のない場合は廃棄しても差し支えないこととする。

② 受血者(患者)血液に係る血液培養の実施

受血者(患者)の感染症発症後,輸血後の受血者(患者)血液による血液培養を行い,日本赤十字社に対して,当該患者に係る検査結果及び健康情報を提供するとともに,日本赤十字社の情報収集に協力するよう努めることが求められる。この際,冷蔵保存されていたすべての「使用済みバッグ」を提供することが必要である。

また,当該感染症等に関する情報が保健衛生上の危害発生又は拡大の防止のために必要と認めるときは,厚生労働省(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)に副作用感染症報告を行うことが必要である。

その後,当該受血者(患者)に病状の変化等があったことを知った場合は,日本赤十字社に情報提供するよう努める必要がある。

③臨床菌株等の保管及び調査協力

受血者(患者)血液による血液培養で菌が同定された場合には,菌株又は菌株を含む培地を適切に保管すること。後述(イ)②菌株の同定の必要がある場合には日本赤十字社に提供し,調査に協力すること。

※ (イ)②菌型の同定

血液培養の結果,受血者及び供(献)血者の両検体から同一の細菌が検出された場合には,医療機関から提供された臨床菌株等及び輸血用血液製剤由来の菌株を用い,遺伝子解析等により菌型の同定を行う。

なお,供(献)血者発の遡及調査は実施されていない。

参考2 原因となる輸血用血液に関する回収及び検査

①原因となる輸血用血液に関する検査項目

発熱・呼吸困難・血圧低下などの細菌感染症を疑う症状が認められた場合は,細菌培養のほか適宜エンドトキシン等の検査を実施する。溶血を認めた場合は,血液型の再確認などを行う。

②原因となる輸血用血液回収上の注意

バッグと使用していた輸血セット又は白血球除去フィルターセットを回収する。

原因となる輸血用血液の細菌培養等を行うために,2次的な汚染が起きないように注意する。

輸血セットのクランプを硬く閉めて,注射針を除去し清潔なキャップでカバーする。

この状態で,速やかに清潔なビニール袋に入れて輸血部門へ返却する。輸血部門では輸血セットのチューブ部分をチューブシーラでシールすることが望ましい。清潔なビニール袋に入れたままで保管する。

溶血を認めた場合は,輸血針の口径,赤血球濃厚液の加温の有無及び同一ルートからの薬剤投与の有無について確認する。

③原因となる輸血用血液回収のための職員教育

原因となる輸血用血液の確保と回収は,診療科看護師・医師の協力が不可欠である。また,輸血部専任技師だけでなく,輸血当直を担当している中央検査部等の検査技師の関与も必要であるので,上記の注意事項を周知する。

参考3 免疫抑制・化学療法により発症するB型肝炎対策

HBVキャリアに,ステロイドを併用した化学療法や強力な免疫抑制剤などを施行した場合,HBVの急激な増殖,すなわちHBVの再活性化(reactivation)が発症することが知られている。従来,HBV既往感染とされ,臨床的には治癒と考えられていたHBs抗原陰性,HBc抗体ないしHBs抗体陽性例においても,肝臓や末梢血単核球にはHBV―DNAが低レベルで残存していることが明らかになっている。最近,移植療法や強力な免疫抑制剤の使用により,既往感染例からもHBVの再活性化によって重症肝炎が発症することが報告されている。

実際には,血液悪性疾患などに対する強力な化学療法と輸血療法の両者を施行後にB型肝炎が発症した場合,輸血による感染か,再活性化であるのか判断が難しい場合がある。そのため,輸血前の検体保存が重要であり,最終的に輸血前のHBc抗体とHBs抗体(必要に応じてHBV核酸増幅検査)が必要となる場合が多い。

(参考)

「血液製剤の使用指針」,「血小板製剤の使用基準」及び「輸血療法の実施に関する指針」の改定のための作成委員(平成17年9月当時)

○ 薬事・食品衛生審議会血液事業部会適正使用調査会

氏名

ふりがな

現職

稲田英一

いなだえいいち

順天堂大学医学部麻酔科学・ペインクリニック講座教授

川口毅

かわぐちたけし

昭和大学医学部(公衆衛生学)教授

河野文夫

かわのふみお

独立行政法人国立病院機構熊本医療センター臨床研究部長

木村厚

きむらあつし

(社)全日本病院協会常任理事((医)―成会理事長)

清水勝

しみずまさる

杏林大学医学部臨床検査医学講座客員教授

白幡聡

しらはたあきら

産業医科大学小児科学教室教授

鈴木洋通

すずきひろみち

埼玉医科大学腎臓内科教授

◎高橋孝喜

たかはしこうき

東京大学医学部附属病院輸血部教授・日本輸血学会総務幹事

高松純樹

たかまつじゅんき

名古屋大学医学部附属病院血液部教授

田島知行

たじまともゆき

(社)日本医師会常任理事

花岡一雄

はなおかかずお

JR東京総合病院長

堀内龍也

ほりうちりゅうや

群馬大学大学院医学系研究科薬効動態制御学教授・附属病院薬剤部長

三谷絹子

みたにきぬこ

獨協医科大学血液内科教授

森下靖雄

もりしたやすお

群馬大学理事・医学部附属病院長

門田守人

もんでんもりと

大阪大学大学院医学系研究科教授(病態制御外科)

◎は座長 (計15名,氏名五十音順)

○ 専門委員

氏名

ふりがな

現職

上田恭典

うえだやすのり

(財)倉敷中央病院血液内科

高本滋

たかもとしげる

愛知医科大学輸血部教授

月本一郎

つきもといちろう

東邦大学医学部第1小児科教授

半田誠

はんだまこと

慶應義塾大学医学部助教授輸血センター室長

比留間潔

ひるまきよし

東京都立駒込病院輸血科医長

前川平

まえかわたいら

京都大学医学部附属病院輸血部教授

山本保博

やまもとやすひろ

日本医科大学救急医学教授

(計7名,氏名五十音順)

「血液製剤の使用指針」及び「輸血療法の実施に関する指針」の一部改正時(平成24年3月)の委員

○ 薬事・食品衛生審議会血液事業部会適正使用調査会

氏名

ふりがな

現職

稲田英一

いなだえいいち

順天堂大学医学部教授

稲波弘彦

いななみひろひこ

岩井整形外科内科病院理事長・院長

薄井紀子

うすいのりこ

東京慈恵会医科大学附属第三病院腫瘍・血液内科 診療部長

大戸斉

おおとひとし

福島県立医科大学輸血・移植免疫部教授

兼松隆之

かねまつたかし

長崎市病院局病院事業管理者

小山信彌

こやまのぶや

東邦大学医学部外科講座心臓血管外科教授

鈴木邦彦

すずきくにひこ

社団法人日本医師会常任理事

鈴木洋史

すずきひろし

東京大学医学部附属病院教授・薬剤部長

◎高橋孝喜

たかはしこうき

東京大学医学部附属病院輸血部教授・輸血部長

田中純子

たなかじゅんこ

広島大学大学院疫学疾病制御学講座・教授

田中政信

たなかまさのぶ

東邦大学医療センター大森病院産婦人科教授

種本和雄

たねもとかずお

川崎医科大学胸部心臓血管外科教授

牧野茂義

まきのしげよし

国家公務員共済組合連合会虎の門病院輸血部長

益子邦洋

ましこくにひろ

日本医科大学千葉北総病院救命救急センター長・教授

三谷絹子

みたにきぬこ

獨協医科大学血液内科教授

◎は座長 (計15名,氏名五十音順)

[別添2]

「血液製剤の使用指針」(改定版)

平成17年9月(平成24年3月一部改正)

厚生労働省医薬食品局血液対策課

目次

■「血液製剤の使用指針」

[要約]赤血球濃厚液の適正使用

[要約]血小板濃厚液の適正使用

[要約]新鮮凍結血漿の適正使用

[要約]アルブミン製剤の適正使用

はじめに

Ⅰ 血液製剤の使用の在り方

Ⅱ 赤血球濃厚液の適正使用

Ⅲ 血小板濃厚液の適正使用

Ⅳ 新鮮凍結血漿の適正使用

Ⅴ アルブミン製剤の適正使用

Ⅵ 新生児・小児に対する輸血療法

おわりに

(参考)

[要約]赤血球濃厚液の適正使用

■ 目的

● 赤血球補充の第一義的な目的は,末梢循環系へ十分な酸素を供給することにある。

■ 使用指針

1) 慢性貧血に対する適応(主として内科的適応)

[血液疾患に伴う貧血]

● 高度の貧血の場合には,一般に1~2単位/日の輸血量とする。

● 慢性貧血の場合にはHb値7g/dLが輸血を行う一つの目安とされているが,貧血の進行度,罹患期間等により必要量が異なり,一律に決めることは困難である。

* Hb値を10g/dL以上にする必要はない。

* 鉄欠乏,ビタミンB12欠乏,葉酸欠乏,自己免疫性溶血性貧血など,輸血以外の方法で治療可能である疾患には,原則として輸血を行わない。

[慢性出血性貧血]

● 消化管や泌尿生殖器からの,少量長期的な出血による高度の貧血は原則として輸血は行わない。日常生活に支障を来す循環器系の臨床症状(労作時の動悸・息切れ,浮腫など)がある場合には,2単位の輸血を行い,臨床所見の改善の程度を観察する。全身状態が良好な場合は,ヘモグロビン(Hb)値6g/dL以下が一つの目安となる。

2) 急性出血に対する適応(主として外科的適応)

● Hb値が10g/dLを超える場合は輸血を必要とすることはないが,6g/dL以下では輸血はほぼ必須とされている。

* Hb値のみで輸血の開始を決定することは適切ではない。

3) 周術期の輸血

(1) 術前投与

● 患者の心肺機能,原疾患の種類(良性又は悪性),患者の年齢や体重あるいは特殊な病態等の全身状態を把握して投与の必要性の有無を決定する。

* 慣習的に行われてきた術前投与のいわゆる10/30ルール(Hb値10g/dL,ヘマトクリット(Ht)値30%以上にすること)は近年では根拠のないものとされている。

(2) 術中投与

● 循環血液量の20~50%の出血量に対しては,人工膠質液(ヒドロキシエチルデンプン(HES),デキストランなど)を投与する。赤血球不足による組織への酸素供給不足が懸念される場合には,赤血球濃厚液を投与する。この程度までの出血では,等張アルブミン製剤(5%人血清アルブミン又は加熱人血漿たん白)の併用が必要となることは少ない。

循環血液量の50~100%の出血では,適宜等張アルブミン製剤を投与する。なお,人工膠質液を1,000mL以上必要とする場合にも等張アルブミン製剤の使用を考慮する。

● 循環血液量以上の大量出血(24時間以内に100%以上)時又は,100mL/分以上の急速輸血をするような事態には,新鮮凍結血漿や血小板濃厚液の投与も考慮する。

● 通常はHb値が7~8g/dL程度あれば十分な酸素の供給が可能であるが,冠動脈疾患などの心疾患あるいは肺機能障害や脳循環障害のある患者では,Hb値を10g/dL程度に維持することが推奨される。

(3) 術後投与

● 術後の1~2日間は細胞外液量と血清アルブミン濃度の減少が見られることがあるが,バイタルサインが安定している場合は,細胞外液補充液の投与以外に赤血球濃厚液,等張アルブミン製剤や新鮮凍結血漿などの投与が必要となる場合は少ない。

■ 投与量

● 赤血球濃厚液の投与によって改善されるHb値は,以下の計算式から求めることができる。

予測上昇Hb値(g/dL)=投与Hb量(g)/循環血液量(dL)

循環血液量:70mL/kg{循環血液量(dL)=体重(kg)×70mL/kg/100}

例えば,体重50kgの成人(循環血液量35dL)にHb値19g/dLの血液製剤を2単位(400mL由来の赤血球濃厚液―LR「日赤」の容量は約280mLである。したがって,1バッグ中の含有Hb量は約19g/dL×280/100dL=約53gとなる)輸血することにより,Hb値は約1.5g/dL上昇することになる。

■ 不適切な使用

● 凝固因子の補充を目的としない新鮮凍結血漿との併用

● 末期患者への投与

■ 使用上の注意点

1) 使用法

2) 感染症の伝播

3) 鉄の過剰負荷

4) 輸血後移植片対宿主病(PT―GVHD)の予防対策

5) 高カリウム血症

6) 溶血性副作用

7) 非溶血性副作用

8) ABO血液型・Rh型と交差適合試験

9) サイトメガロウイルス(CMV)抗体陰性赤血球濃厚液

[要約]血小板濃厚液の適正使用

■ 目的

● 血小板輸血は,血小板成分を補充することにより止血を図り,又は出血を防止することを目的とする。

■ 使用指針

以下に示す血小板数はあくまでも目安であって,すべての症例に合致するものではない。

● 血小板数が2~5万/μLでは,止血困難な場合には血小板輸血が必要となる。

● 血小板数が1~2万/μLでは,時に重篤な出血をみることがあり,血小板輸血が必要となる場合がある。血小板数が1万/μL未満ではしばしば重篤な出血をみることがあるため,血小板輸血を必要とする。

* 一般に,血小板数が5万/μL以上では,血小板輸血が必要となることはない。

* 慢性に経過している血小板減少症(再生不良貧血など)で,他に出血傾向を来す合併症がなく,血小板数が安定している場合には,血小板数が5千~1万/μLであっても,血小板輸血は極力避けるべきである。

1) 活動性出血

● 血小板減少による重篤な活動性出血を認める場合(特に網膜,中枢神経系,肺,消化管などの出血)には,血小板数を5万/μL以上に維持するように血小板輸血を行う。

2) 外科手術の術前状態

● 血小板数が5万/μL未満では,手術の内容により,血小板濃厚液の準備又は,術直前の血小板輸血の可否を判断する。

* 待機的手術患者あるいは腰椎穿刺,硬膜外麻酔,経気管支生検,肝生検などの侵襲を伴う処置では,術前あるいは施行前の血小板数が5万/μL以上あれば,通常は血小板輸血を必要とすることはない。

3) 人工心肺使用手術時の周術期管理

● 術中・術後を通して血小板数が3万/μL未満に低下している場合には,血小板輸血の適応である。ただし,人工心肺離脱後の硫酸プロタミン投与後に血算及び凝固能を適宜検査,判断しながら,必要に応じて5万/μL程度を目処に血小板輸血開始を考慮する。

● 複雑な心大血管手術で長時間(3時間以上)の人工心肺使用例,再手術などで広範な癒着剥離を要する例,及び慢性の腎臓や肝臓の疾患で出血傾向をみる例の中には,血小板減少あるいは止血困難な出血(oozingなど)をみることがあり,凝固因子の欠乏を伴わず,このような病態を呈する場合には,血小板数が5万/μL~10万/μLになるように血小板輸血を行う。

4) 大量輸血時

● 急速失血により24時間以内に循環血液量相当量ないし2倍量以上の大量輸血が行われ,止血困難な出血症状とともに血小板減少を認める場合には,血小板輸血の適応となる。

5) 播種性血管内凝固(DIC)

● 出血傾向の強く現れる可能性のあるDIC(基礎疾患が白血病,癌,産科的疾患,重症感染症など)で,血小板数が急速に5万/μL未満へと低下し,出血症状を認める場合には,血小板輸血の適応となる。

* 出血傾向のない慢性DICについては,血小板輸血の適応はない。

6) 血液疾患

(1) 造血器腫瘍

● 急性白血病・悪性リンパ腫などの寛解導入療法においては,血小板数が1~2万/μL未満に低下してきた場合には血小板数を1~2万/μL以上に維持するように,計画的に血小板輸血を行う。

(2) 再生不良性貧血・骨髄異形成症候群

● 血小板数が5千/μL前後ないしそれ以下に低下する場合には,血小板輸血の適応となる。

● 計画的に血小板数を1万/μL以上に保つように努める。

* 血小板減少は慢性に経過することが多く,血小板数が5千/μL以上あって出血症状が皮下出血斑程度の軽微な場合には,血小板輸血の適応とはならない。

(3) 免疫性血小板減少症

● 特発性血小板減少性紫斑病(ITP)で外科的処置を行う場合には,まずステロイド剤等の事前投与を行い,これらの効果が不十分で大量出血の予測される場合には,適応となる場合がある。

* 特発性血小板減少性紫斑病(ITP)は,通常は血小板輸血の対象とはならない。

● ITPの母親から生まれた新生児で重篤な血小板減少症をみる場合には,交換輸血のほかに副腎皮質ステロイドあるいは免疫グロブリン製剤の投与とともに血小板輸血を必要とすることがある。

● 血小板特異抗原の母児間不適合による新生児同種免疫性血小板減少症(NAIT)で,重篤な血小板減少をみる場合には,血小板特異抗原同型の血小板輸血を行う。

* 輸血後紫斑病(PTP)では,血小板輸血の適応はない。

(4) 血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)及び溶血性尿毒症症候群(HUS)

* 原則として血小板輸血の適応とはならない。

(5) 血小板機能異常症

● 重篤な出血ないし止血困難な場合にのみ血小板輸血の適応となる。

(6) その他:ヘパリン起因性血小板減少症(Heparin Induced Thrombocytopenia;HIT)

● HITが強く疑われる若しくは確定診断された患者において,明らかな出血症状がない場合には予防的血小板輸血は避けるべきである。

7) 固形腫瘍

● 固形腫瘍に対して強力な化学療法を行う場合には,必要に応じて血小板数を測定する。

● 血小板数が2万/μL未満に減少し,出血傾向を認める場合には,血小板数が1~2万/μL以上を維持するように血小板輸血を行う。

8) 造血幹細胞移植(骨髄移植等)

● 造血幹細胞移植後に骨髄機能が回復するまでの期間は,血小板数が1~2万/μL以上を維持するように計画的に血小板輸血を行う。

● 通常,出血予防のためには血小板数が1~2万/μL未満の場合が血小板輸血の適応となる。

■ 投与量

(循環血液量は70mL/kgとする)

例えば,血小板濃厚液5単位(1.0×1011個以上の血小板を含有)を循環血液量5,000mL(体重71kg)の患者に輸血すると,直後には輸血前の血小板数より13,500/μL以上増加することが見込まれる。

なお,一回投与量は,原則として上記計算式によるが,実務的には通常10単位が使用されている。体重25kg以下の小児では10単位を3~4時間かけて輸血する。

■ 不適切な使用

● 末期患者への血小板輸血の考え方

単なる時間的延命のための投与は控えるべきである。

■ 使用上の注意点

1) 使用法

2) 感染症の伝播

3) 輸血後移植片対宿主病(PT―GVHD)の予防対策

4) サイトメガロウイルス(CMV)抗体陰性血小板濃厚液

5) HLA適合血小板濃厚液

6) ABO血液型・Rh型と交差適合試験

7) ABO血液型不適合輸血

[要約]新鮮凍結血漿の適正使用

■ 目的

● 凝固因子の補充による治療的投与を主目的とする。観血的処置時を除いて新鮮凍結血漿の予防的投与の意味はない。

■ 使用指針

新鮮凍結血漿の投与は,他に安全で効果的な血漿分画製剤あるいは代替医薬品(リコンビナント製剤など)がない場合にのみ,適応となる。投与に当たっては,投与前にプロトロンビン時間(PT),活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)を測定し,大量出血ではフィブリノゲン値も測定する。

1) 凝固因子の補充

(1) PT及び/又はAPTTが延長している場合(①PTは(i)INR 2.0以上,(ii)30%以下/②APTTは(i)各医療機関における基準の上限の2倍以上,(ii)25%以下とする)

● 肝障害:肝障害により複数の凝固因子活性が低下し,出血傾向のある場合に適応となる。

* PTがINR 2.0以上(30%以下)で,かつ観血的処置を行う場合を除いて新鮮凍結血漿の予防的投与の適応はない。

● L―アスパラギナーゼ投与関連:肝臓での産生低下による凝固因子の減少に加え,抗凝固因子や線溶因子の産生低下がみられる場合,これらの諸因子を同時に補給するためには新鮮凍結血漿を用いる。

● 播種性血管内凝固(DIC):通常,(1)に示すPT,APTTの延長のほかフィブリノゲン値が100mg/dL未満の場合に新鮮凍結血漿の適応となる(参考資料1 DIC診断基準参照)。

● 大量輸血時:希釈性凝固障害による止血困難が起こる場合に新鮮凍結血漿の適応となる。

外傷などの救急患者では,消費性凝固障害が併存しているかを検討し,凝固因子欠乏による出血傾向があると判断された場合に限り,新鮮凍結血漿の適応がある。

● 濃縮製剤のない凝固因子欠乏症:血液凝固第V,第XI因子のいずれかの欠乏症又はこれらを含む複数の欠乏症では,出血症状を示しているか,観血的処置を行う際に新鮮凍結血漿が適応となる。

● クマリン系薬剤(ワルファリンなど)の効果の緊急補正(PTがINR 2.0以上(30%以下)):ビタミンKの補給により通常1時間以内に改善が認められる。より緊急な対応のために新鮮凍結血漿の投与が必要になることが稀にあるが,この場合でも直ちに使用可能な場合には「濃縮プロトロンビン複合体製剤」を使用することも考えられる。

(2) 低フィブリノゲン血症(100mg/dL未満)の場合

● 播種性血管内凝固(DIC)

● L―アスパラギナーゼ投与後

2) 凝固阻害因子や線溶因子の補充

● プロテインCやプロテインSの欠乏症における血栓症の発症時には必要に応じて新鮮凍結血漿により欠乏因子を補充する。プラスミンインヒビターの欠乏による出血症状に対しては抗線溶薬を併用し,効果が不十分な場合には新鮮凍結血漿を投与する。

3) 血漿因子の補充(PT及びAPTTが正常な場合)

● 血栓性血小板減少性紫斑病(TTP):後天性TTPに対しては新鮮凍結血漿を置換液とした血漿交換療法を行う。先天性TTPでは,新鮮凍結血漿の単独投与で充分な効果がある。

* 後天性溶血性尿毒症症候群(HUS)では,新鮮凍結血漿を用いた血漿交換療法は必ずしも有効ではない。

■ 投与量

● 生理的な止血効果を期待するための凝固因子の最少の血中活性値は,正常値の20~30%程度である。

循環血漿量を40mL/kg(70mL/kg(1-Ht/100))とし,補充された凝固因子の血中回収率は目的とする凝固因子により異なるが,100%とすれば,凝固因子の血中レベルを約20~30%上昇させるのに必要な新鮮凍結血漿量は,理論的には8~12mL/kg(40mL/kgの20~30%)である。

■ 不適切な使用

1) 循環血漿量減少の改善と補充

2) たん白質源としての栄養補給

3) 創傷治癒の促進

4) 末期患者への投与

5) その他

重症感染症の治療,DICを伴わない熱傷の治療,人工心肺使用時の出血予防,非代償性肝硬変での出血予防なども新鮮凍結血漿投与の適応とはならない。

■ 使用上の注意点

1) 使用法

2) 感染症の伝播

3) クエン酸中毒(低カルシウム血症)

4) ナトリウムの負荷

5) 非溶血性副作用

6) ABO血液型不適合輸血

[要約]アルブミン製剤の適正使用

■ 目的

● アルブミン製剤を投与する目的は,血漿膠質浸透圧を維持することにより循環血漿量を確保すること及び体腔内液や組織間液を血管内に移行させることによって治療抵抗性の重度の浮腫を治療することにある。

■ 使用指針

1) 出血性ショック等

● 循環血液量の30%以上の出血をみる場合は,細胞外液補充液の投与が第一選択となり,人工膠質液の併用も推奨されるが,原則としてアルブミン製剤の投与は必要としない。

● 循環血液量の50%以上の多量の出血が疑われる場合や血清アルブミン濃度が3.0g/dL未満の場合には,等張アルブミン製剤の併用を考慮する。

● 腎機能障害などで人工膠質液の使用が不適切と考えられる場合には,等張アルブミン製剤を使用する。また,人工膠質液を1,000mL以上必要とする場合にも,等張アルブミン製剤の使用を考慮する。

2) 人工心肺を使用する心臓手術

通常,心臓手術時の人工心肺の充填には,主として細胞外液補充液が使用される。人工心肺実施中の血液希釈で起こった一時的な低アルブミン血症は,アルブミン製剤を投与して補正する必要はない。ただし,術前より血清アルブミン濃度又は膠質浸透圧の高度な低下のある場合,あるいは体重10kg未満の小児の場合などには等張アルブミン製剤が用いられることがある。

3) 肝硬変に伴う難治性腹水に対する治療

● 大量(4L以上)の腹水穿刺時に循環血漿量を維持するため,高張アルブミン製剤の投与が考慮される。また,治療抵抗性の腹水の治療に,短期的(1週間を限度とする。)に高張アルブミン製剤を併用することがある。

* 肝硬変などの慢性の病態による低アルブミン血症は,それ自体ではアルブミン製剤の適応とはならない。

4) 難治性の浮腫,肺水腫を伴うネフローゼ症候群

* ネフローゼ症候群などの慢性の病態は,通常アルブミン製剤の適応とはならないが,急性かつ重症の末梢性浮腫あるいは肺水腫に対しては,利尿薬に加えて短期的(1週間を限度とする。)に高張アルブミン製剤の投与を必要とする場合がある。

5) 循環動態が不安定な血液透析等の体外循環施行時

● 血圧の安定が悪い場合に血液透析時において,特に糖尿病を合併している場合や術後などで低アルブミン血症のある場合には,循環血漿量を増加させる目的で予防的投与を行うことがある。

6) 凝固因子の補充を必要としない治療的血漿交換法

* ギランバレー症候群,急性重症筋無力症など凝固因子の補充を必要としない症例では,等張アルブミン製剤を使用する。

* 加熱人血漿たん白は,まれに血圧低下をきたすので,原則として使用しない。

7) 重症熱傷

● 熱傷部位が体表面積の50%以上あり,細胞外液補充液では循環血漿量の不足を是正することが困難な場合には,人工膠質液あるいは等張アルブミン製剤で対処する。

* 熱傷後,通常18時間以内は原則として細胞外液補充液で対応するが,18時間以内であっても,血清アルブミン濃度が1.5g/dL未満の時は適応を考慮する。

8) 低たん白血症に起因する肺水腫あるいは著明な浮腫が認められる場合

● 術前,術後あるいは経口摂取不能な重症の下痢などによる低たん白血症が存在し,治療抵抗性の肺水腫あるいは著明な浮腫が認められる場合には,高張アルブミン製剤の投与を考慮する。

9) 循環血漿量の著明な減少を伴う急性膵炎など

● 急性膵炎,腸閉塞などで循環血漿量の著明な減少を伴うショックを起こした場合には,等張アルブミン製剤を使用する。

■ 投与量

● 投与量の算定には下記の計算式を用いる。このようにして得られたアルブミン量を患者の病状に応じて,通常2~3日で分割投与する。

必要投与量(g)=期待上昇濃度(g/dL)×循環血漿量(dL)×2.5

ただし,期待上昇濃度は期待値と実測値の差,循環血漿量は0.4dL/kg,投与アルブミンの血管内回収率は4/10(40%)とする。

■ 不適切な使用

1) たん白質源としての栄養補給

2) 脳虚血

3) 単なる血清アルブミン濃度の維持

4) 末期患者への投与

■ 使用上の注意点

1) ナトリウム含有量

2) 肺水腫,心不全

3) 血圧低下

4) 利尿

5) アルブミン合成能の低下

はじめに

近年,血液製剤の安全性は格段に向上してきたが,免疫性,感染性などの副作用や合併症が生じる危険性がいまだにあり,軽症のものも含めればその頻度は決して低いとは言えず,致命的な転帰をとることも稀にあることから,血液製剤が本来的に有する危険性を改めて認識し,より適正な使用を推進する必要がある。

また,血液製剤は人体の一部であり,有限で貴重な資源である血液から作られていることから,その取扱いには倫理的観点からの配慮が必要であり,すべての血液製剤について自国内での自給を目指すことが国際的な原則となっている。従って,血液の国内完全自給の達成のためには血液製剤の使用適正化の推進が不可欠である。

このため,厚生省では,1986年に,採血基準を改正して血液の量的確保対策を講じるとともに,「血液製剤の使用適正化基準」を設け,血液製剤の国内自給の達成を目指すこととした。一方,1989年には医療機関内での輸血がより安全かつ適正に行われるよう「輸血療法の適正化に関するガイドライン」を策定した。また,1994年には「血小板製剤の使用基準」,1999年には「血液製剤の使用指針」及び「輸血療法の実施に関する指針」が策定された。

1992年には濃縮凝固因子製剤の国内自給が達成され,アルブミン製剤(人血清アルブミン,加熱人血漿たん白)の自給率は5%(1985年)から62.8%(2007年)へ,免疫グロブリン製剤の自給率は40%(1995年)から95.9%(2007年)へと上昇した。一方,血液製剤の使用量は平成11年から年々減少しており,平成19年には血漿製剤で約3/5,アルブミン製剤で約2/3になっている。

しかし,赤血球濃厚液及び血小板濃厚液の使用量は横ばい,免疫グロブリンは平成15年度にはじめて減少に向かうなど,十分な効果がみられているとは言い切れない状況となっている。また,諸外国と比べると,血漿成分製剤/赤血球成分製剤比(2003年)が約3倍の状況にとどまっており,さらなる縮減が可能と想定される。

国内自給率をさらに向上させるとともに,感染の可能性を削減するために,これらの製剤を含む血液の国内完全自給,安全性の確保及び適正使用を目的とする,安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律(昭和31年法律第160号)が平成15年7月に改正施行された。以上の観点より医療現場における血液製剤の適正使用を一層推進する必要がある。

Ⅰ 血液製剤の使用の在り方

1.血液製剤療法の原則

血液製剤を使用する目的は,血液成分の欠乏あるいは機能不全により臨床上問題となる症状を認めるときに,その成分を補充して症状の軽減を図ること(補充療法)にある。

このような補充療法を行う際には,毎回の投与時に各成分の到達すべき目標値を臨床症状と臨床検査値から予め設定し,次いで補充すべき血液成分量を計算し,さらに生体内における血管内外の分布や代謝速度を考慮して補充量を補正し,状況に応じて補充間隔を決める必要がある。また,毎回の投与後には,初期の目的,目標がどの程度達成されたかについての有効性の評価を,臨床症状と臨床検査値の改善の程度に基づいて行い,同時に副作用と合併症の発生の有無を観察し,診療録に記録することが必要である。

2.血液製剤使用上の問題点と使用指針の在り方

血液製剤の使用については,単なる使用者の経験に基づいて,その適応及び血液製剤の選択あるいは投与方法などが決定され,しばしば不適切な使用が行われてきたことが問題としてあげられる。このような観点から,本指針においては,内外の研究成果に基づき,合理的な検討を行ったものであり,今後とも新たな医学的知見が得られた場合には,必要に応じて見直すこととする。

また,本指針は必ずしも医師の裁量を制約するものではないが,本指針と異なった適応,使用方法などにより,重篤な副作用や合併症が認められることがあれば,その療法の妥当性が問題とされる可能性もある。したがって,患者への血液製剤の使用についての説明と同意(インフォームド・コンセント)の取得に際しては,原則として本指針を踏まえた説明をすることが望まれる。

さらに,本指針は保険診療上の審査基準となることを意図するものではないが,血液製剤を用いた適正な療法の推進を目的とする観点から,保険審査の在り方を再検討する手がかりとなることを期待するものである。

*薬事法(昭和35年法律第145号)第68条の7で規定されている。

3.製剤ごとの使用指針の考え方

1) 赤血球濃厚液と全血の投与について

適応の現状と問題点

一部の外科領域では,現在でも全血の使用あるいは全血の代替としての赤血球濃厚液と新鮮凍結血漿の等量の併用がしばしば行われている。しかしながら,成分輸血が導入されて,既に20年以上が経過し,この間,従来は専ら全血が使われていた症例についても,赤血球濃厚液が単独で用いられるようになり,優れた臨床効果が得られることが確認されてきたことから,血液の各成分の特性を生かした成分輸血療法を一層推進するため,成分別の種々の病態への使用指針を策定することとした。なお,全血の適応についてはエビデンスが得られていなく,全血の供給を継続することは,血液の有効利用を妨げることから血液製剤全体の供給体制にも問題を生じている。

自己血輸血の推進

同種血輸血の安全性は飛躍的に向上したが,いまだに感染性ウイルスなどの伝播・感染や免疫学的な合併症が生じる危険性があり,これらの危険性を可能な限り回避することが求められる。現在,待機的手術における輸血症例の80~90%は,2,000mL以内の出血量で手術を終えている。したがって,これらの手術症例の多くは,術前貯血式,血液希釈式,術中・術後回収式などの自己血輸血を十分に活用することにより,同種血輸血を行うことなく安全に手術を行うことが可能となっている。輸血が必要と考えられる待機的手術の際に,過誤輸血や細菌感染等院内感染の発生に十分配慮する必要があるものの,自己血輸血による同種血輸血回避の可能性を検討し,自己血輸血を積極的に推進することが適正使用を実践するためにも推奨される。

2) 血小板濃厚液の投与について

適応の現状と問題点

血小板濃厚液は原疾患にかかわりなく,血小板数の減少,又は血小板機能の低下ないし異常により,重篤な,時として致死的な出血症状(活動性出血)を認めるときに,血小板の数と機能を補充して止血すること(治療的投与)を目的とする場合と,血小板減少により起こることが予測される重篤な出血を未然に防ぐこと(予防的投与)を目的とする場合に行われているが,その70~80%は予防的投与として行われている。

血小板濃厚液の使用量は年々増加傾向にあったが,この数年間横ばい状態となっているが,再度増加する可能性が高い。その背景としては高齢化社会の到来による悪性腫瘍の増加がみられることとともに,近年,主に造血器腫瘍に対して行われてきた強力な化学療法が固形腫瘍の治療にも拡大され,また,外科的処置などに伴う使用も多くなったことが挙げられる。

しかしながら,血小板濃厚液は有効期間が短いこともあり,常時必要量を確保して輸血することは容易ではない状況である。したがって,輸血本来の在り方である血小板数をチェックしてから輸血することが実際上は不可能であり,特に予防的投与では血小板減少を予め見込んで輸血時の血小板数に関係なく定期的に行わざるを得ないことを強いられているのが現状である。

3) 新鮮凍結血漿の投与について

適応の現状と問題点

新鮮凍結血漿は,感染性の病原体に対する不活化処理がなされていないため,輸血感染症を伝播する危険性を有していること及び血漿たん白濃度は血液保存液により希釈されていることに留意する必要がある。なお,日本赤十字社の血液センターでは新鮮凍結血漿の貯留保管を行っており,平成17年7月から6カ月の貯留保管を行った製剤が供給されている。

現在,新鮮凍結血漿を投与されている多くの症例においては,投与直前の凝固系検査が異常であるという本来の適応病態であることは少なく,また適応症例においても投与後にこれらの検査値異常の改善が確認されていることはさらに少ない。新鮮凍結血漿の適応と投与量の決定が,適正に行われているとは言い難いことを端的に示す事実である。また,従来より新鮮凍結血漿は単独で,あるいは赤血球濃厚液との併用により,循環血漿量の補充に用いられてきた。しかしながら,このような目的のためには,より安全な細胞外液補充液(乳酸リンゲル液,酢酸リンゲル液など)や人工膠質液(HES,デキストランなど)あるいは等張のアルブミン製剤を用いることが推奨される。このようなことから,今回の指針においては,新鮮凍結血漿の適応はごく一部の例外(TTP/HUS)を除いて,複合的な凝固因子の補充に限られることを明記した。

血漿分画製剤の国内自給推進

欧米諸国と比較して,我が国における新鮮凍結血漿及びアルブミン製剤の使用量は,いまだに多い。凝固因子以外の原料血漿の国内自給を完全に達成するためには,限りある資源である血漿成分の有効利用,特に新鮮凍結血漿の適正使用を積極的に推進することが極めて重要である。

4) アルブミン製剤の投与について

適応の現状と問題点

アルブミン製剤(人血清アルブミン及び加熱人血漿たん白)が,低栄養状態への栄養素としてのたん白質源の補給にいまだにしばしば用いられている。しかしながら投与されたアルブミンは体内で代謝され,多くは熱源となり,たん白合成にはほとんど役に立たないので,たん白質源の補給という目的は達成し得ない。たん白質源の補給のためには,中心静脈栄養法や経腸栄養法による栄養状態の改善が通常優先されるべきである。また,低アルブミン血症は認められるものの,それに基づく臨床症状を伴わないか,軽微な場合にも検査値の補正のみの目的で,アルブミン製剤がしばしば用いられているが,その医学的な根拠は明示されていない。このように合理性に乏しく根拠の明確でない使用は適応にならないことを当該使用指針に明示した。

アルブミン製剤の自給推進

わが国のアルブミン製剤の使用量は,原料血漿換算で,過去の最大使用量の384万L(1985年)から146万L(2010年)へと約62%急減したものの,赤血球濃厚液に対する使用比率はいまだ欧米諸国よりもかなり多い状況となっている。したがって,アルブミン製剤の国内自給を達成するためには,献血血液による原料血漿の確保と併せて,アルブミン製剤の適応をより適切に行うことが重要である。

5) 小児に対する輸血療法について

小児科領域においては,使用する血液製剤の絶対量が少ないため,その適正使用についての検討が行われない傾向にあったが,少子高齢社会を迎えつつある現状を踏まえると,その適正使用を積極的に推進することが必須である。しかしながら,小児一般に対する血液製剤の投与基準については,いまだ十分なコンセンサスが得られているとは言い難い状況にあることから,未熟児についての早期貧血への赤血球濃厚液の投与方法,新生児への血小板濃厚液の投与方法及び新生児への新鮮凍結血漿の投与方法に限定して指針を策定することとした。

Ⅱ 赤血球濃厚液の適正使用

1.目的

赤血球濃厚液(Red Cell Concentrate;RCC)は,急性あるいは慢性の出血に対する治療及び貧血の急速な補正を必要とする病態に使用された場合,最も確実な臨床的効果を得ることができる。このような赤血球補充の第一義的な目的は,末梢循環系へ十分な酸素を供給することにあるが,循環血液量を維持するという目的もある。

なお,赤血球濃厚液の製法と性状については参考15を参照。

2.使用指針

1) 慢性貧血に対する適応(主として内科的適応)

内科的な貧血の多くは,慢性的な造血器疾患に起因するものであり,その他,慢性的な消化管出血や子宮出血などがある。これらにおいて,赤血球輸血を要する代表的な疾患は,再生不良性貧血,骨髄異形成症候群,造血器悪性腫瘍などである。

ア 血液疾患に伴う貧血

貧血の原因を明らかにし,鉄欠乏,ビタミンB12欠乏,葉酸欠乏,自己免疫性溶血性貧血など,輸血以外の方法で治療可能である疾患には,原則として輸血を行わない。

輸血を行う目的は,貧血による症状が出ない程度のHb値を維持することであるが,その値を一律に決めることは困難である。しかしながら,Hb7g/dLが輸血を行う一つの目安とされているが,この値は,貧血の進行度,罹患期間,日常生活や社会生活の活動状況,合併症(特に循環器系や呼吸器系の合併症)の有無などにより異なり,Hb7g/dL以上でも輸血が必要な場合もあれば,それ未満でも不必要な場合もあり,一律に決めることは困難である。従って輸血の適応を決定する場合には,検査値のみならず循環器系の臨床症状を注意深く観察し,かつ生活の活動状況を勘案する必要がある。その上で,臨床症状の改善が得られるHb値を個々に設定し,輸血施行の目安とする。

高度の貧血の場合には,循環血漿量が増加していること,心臓に負担がかかっていることから,一度に大量の輸血を行うと心不全,肺水腫をきたすことがある。一般に1~2単位/日の輸血量とする。腎障害を合併している場合には,特に注意が必要である。

いずれの場合でも,Hb値を10g/dL以上にする必要はない。繰り返し輸血を行う場合には,投与前後の臨床症状の改善の程度やHb値の変化を比較し効果を評価するとともに,副作用の有無を観察した上で,適正量の輸血を行う。なお,頻回の投与により鉄過剰状態(ironoverload)を来すので,不必要な輸血は行わず,出来るだけ投与間隔を長くする。

なお,造血幹細胞移植における留意点を巻末(参考1)に示す。

イ 慢性出血性貧血

消化管や泌尿生殖器からの,少量長期的な出血により時に高度の貧血を来す。この貧血は鉄欠乏性貧血であり,鉄剤投与で改善することから,日常生活に支障を来す循環器系の臨床症状(労作時の動悸・息切れ,浮腫など)がない場合には,原則として輸血を行わない。慢性的貧血であり,体内の代償機構が働くために,これらの症状が出現することはまれであるが,前記症状がある場合には2単位の輸血を行い,臨床所見の改善の程度を観察する。全身状態が良好な場合は,ヘモグロビン(Hb)値6g/dL以下が一つの目安となる。その後は原疾患の治療と鉄剤の投与で経過を観察する。

2) 急性出血に対する適応(主として外科的適応)

急性出血には外傷性出血のほかに,消化管出血,腹腔内出血,気道内出血などがある。消化管出血の原因は胃十二指腸潰瘍,食道静脈瘤破裂,マロリーワイス症候群,悪性腫瘍からの出血などがあり,腹腔内出血の原因疾患には原発性あるいは転移性肝腫瘍,肝臓や脾臓などの実質臓器破裂,子宮外妊娠,出血性膵炎,腹部大動脈や腸間膜動脈の破裂などがある。

急速出血では,Hb値低下(貧血)と,循環血液量の低下が発生してくる。循環動態から見ると,循環血液量の15%の出血(classⅠ)では,軽い末梢血管収縮あるいは頻脈を除くと循環動態にはほとんど変化は生じない。また,15~30%の出血(classⅡ)では,頻脈や脈圧の狭小化が見られ,患者は落ち着きがなくなり不安感を呈するようになる。さらに,30~40%の出血(classⅢ)では,その症状は更に顕著となり,血圧も低下し,精神状態も錯乱する場合もある。循環血液量の40%を超える出血(classⅣ)では,嗜眠傾向となり,生命的にも危険な状態とされている1)

貧血の面から,循環血液が正常な場合の急性貧血に対する耐性についての明確なエビデンスはない。Hb値が10g/dLを超える場合は輸血を必要とすることはないが,6g/dL以下では輸血はほぼ必須とされている2)。特に,急速に貧血が進行した場合はその傾向は強い。Hb値が6~10g/dLの時の輸血の必要性は患者の状態や合併症によって異なるので,Hb値のみで輸血の開始を決定することは適切ではない。

3) 周術期の輸血

一般的な周術期の輸血の適応の原則を以下に示す。なお,各科の手術における輸血療法の注意点を巻末に付する(参考2~10)。

(1) 術前投与

術前の貧血は必ずしも投与の対象とはならない。慣習的に行われてきた術前投与のいわゆる10/30ルール(Hb値10g/dL,ヘマトクリット(Ht)値30%以上にすること)は近年では根拠のないものとされている。したがって,患者の心肺機能,原疾患の種類(良性又は悪性),患者の年齢や体重あるいは特殊な病態等の全身状態を把握して投与の必要性の有無を決定する。

なお,慢性貧血の場合には内科的適応と同様に対処する。

一般に貧血のある場合には,循環血漿量は増加しているため,投与により急速に貧血の是正を行うと,心原性の肺水腫を引き起こす危険性がある。術前投与は,持続する出血がコントロールできない場合又はその恐れがある場合のみ必要とされる。

慢性貧血患者に対する輸血の適応を判断する際は,慢性貧血患者における代償反応(参考11)を考慮に入れるべきである。そして,手術を安全に施行するために必要と考えられるHt値の最低値(参考12)も,患者の全身状態により異なることを留意すべきである。

また,消化器系統の悪性腫瘍の多い我が国では,術前の患者は貧血とともにしばしば栄養障害による低たん白血症を伴っているが,その場合には術前に栄養管理(中心静脈栄養法,経腸栄養法など)を積極的に行い,その是正を図る。

(2) 術中投与

手術中の出血に対して必要となる輸血について,予め術前に判断して準備する(参考15)。さらに,ワルファリンなどの抗凝固薬が投与されている場合などでは,術前の抗凝固・抗血小板療法について,いつの時点で中断するかなどを判断することも重要である(参考16)。

術中の出血に対して出血量の削減(参考15)に努めるとともに,循環血液量に対する出血量の割合と臨床所見に応じて,原則として以下のような成分輸血により対処する(図1)。全身状態の良好な患者で,循環血液量の15~20%の出血が起こった場合には,細胞外液量の補充のために細胞外液補充液(乳酸リンゲル液,酢酸リンゲル液など)を出血量の2~3倍投与する。

循環血液量の20~50%の出血量に対しては,膠質浸透圧を維持するために,人工膠質液(ヒドロキシエチルデンプン(HES),デキストランなど)を投与する。赤血球不足による組織への酸素供給不足が懸念される場合には,赤血球濃厚液を投与する。この程度までの出血では,等張アルブミン製剤(5%人血清アルブミン又は加熱人血漿たん白)の併用が必要となることは少ない。

通常は20mL/kgとなっているが,急速・多量出血は救命のためにさらに注入量を増加することが必要な場合もある。この場合,注入された人工膠質液の一部は体外に流出していることも勘案すると,20mL/kgを超えた注入量も可能である。

循環血液量の50~100%の出血では,細胞外液補充液,人工膠質液及び赤血球濃厚液の投与だけでは血清アルブミン濃度の低下による肺水腫や乏尿が出現する危険性があるので,適宜等張アルブミン製剤を投与する。なお,人工膠質液を1,000mL以上必要とする場合にも等張アルブミン製剤の使用を考慮する。

さらに,循環血液量以上の大量出血(24時間以内に100%以上)時又は100mL/分以上の急速輸血をするような事態には,凝固因子や血小板数の低下による出血傾向(希釈性の凝固障害と血小板減少)が起こる可能性があるので,凝固系や血小板数の検査値及び臨床的な出血傾向を参考にして,新鮮凍結血漿や血小板濃厚液の投与も考慮する(新鮮凍結血漿及び血小板の使用指針の項を参照)。この間,血圧・脈拍数などのバイタルサインや尿量・心電図・血算,さらに血液ガスなどの所見を参考にして必要な血液成分を追加する。収縮期血圧を90mmHg以上,平均血圧を60~70mmHg以上に維持し,一定の尿量(0.5~1mL/kg/時)を確保できるように輸液・輸血の管理を行う。

通常はHb値が7~8g/dL程度あれば十分な酸素の供給が可能であるが,冠動脈疾患などの心疾患あるいは肺機能障害や脳循環障害のある患者では,Hb値を10g/dL程度に維持することが推奨される。

なお,循環血液量に相当する以上の出血量がある場合には,可能であれば回収式自己血輸血を試みるように努める。

図1 出血患者における輸液・成分輸血療法の適応

(3) 術後投与

術後の1~2日間は創部からの間質液の漏出やたん白質異化の亢進により,細胞外液量と血清アルブミン濃度の減少が見られることがある。ただし,バイタルサインが安定している場合は,細胞外液補充液の投与以外に赤血球濃厚液,等張アルブミン製剤や新鮮凍結血漿などの投与が必要となる場合は少ないが,これらを投与する場合には各成分製剤の使用指針によるものとする。

急激に貧血が進行する術後出血の場合の赤血球濃厚液の投与は,早急に外科的止血処置とともに行う。

3.投与量

赤血球濃厚液の投与によって改善されるHb値は,以下の計算式から求めることができる。

予測上昇Hb値(g/dL)

=投与Hb量(g)/循環血液量(dL)

循環血液量:70mL/kg{循環血液量(dL)

=体重(kg)×70mL/kg/100}

例えば,体重50kgの成人(循環血液量35dL)にHb値19g/dLの血液を2単位(400mL由来の赤血球濃厚液―LR「日赤」の容量は約280mLである。したがって,1バッグ中の含有Hb量は約19g/dL×280/100dL=約53gとなる)輸血することにより,Hb値は約1.5g/dL上昇することになる。

4.効果の評価

投与の妥当性,選択した投与量の的確性あるいは副作用の予防対策などの評価に資するため,赤血球濃厚液の投与前には,投与が必要な理由と必要な投与量を明確に把握し,投与後には投与前後の検査データと臨床所見の改善の程度を比較して評価するとともに,副作用の有無を観察して,診療録に記載する。

5.不適切な使用

1) 凝固因子の補充を目的としない新鮮凍結血漿との併用

赤血球濃厚液と新鮮凍結血漿を併用して,全血の代替とすべきではない。その理由は,実際に凝固異常を認める症例は極めて限られていることや,このような併用では輸血単位数が増加し,感染症の伝播や同種免疫反応の危険性が増大するからである(新鮮凍結血漿の使用指針の項を参照)。

2) 末期患者への投与

末期患者に対しては,患者の自由意思を尊重し,単なる延命措置は控えるという考え方が容認されつつある。輸血療法といえども,その例外ではなく,患者の意思を尊重しない単なる時間的延命のための投与は控えるべきである。

6.使用上の注意点

1) 使用法

赤血球濃厚液を使用する場合には,輸血セットを使用する。なお,日本赤十字社から供給される赤血球濃厚液はすべて白血球除去製剤となっており,ベッドサイドでの白血球除去フィルターの使用は不要である。また,通常の輸血では加温の必要はないが,急速大量輸血、新生児交換輸血等の際には専用加温器(37℃)で加温する。

2) 感染症の伝播

赤血球濃厚液の投与により,血液を介する感染症の伝播を伴うことがある。

細菌混入による致死的な合併症に留意し,輸血の実施前にバッグ内の血液について色調の変化,溶血(黒色化)や凝血塊の有無,又はバッグの破損や開封による閉鎖系の破綻等の異常がないことを肉眼で確認する。特に低温で増殖するエルシニア菌(Yersiniaenterocolitica)、セラチア菌などの細菌感染に留意してバッグ内とセグメント内の血液色調の差にも留意する。

3) 鉄の過剰負荷

1単位(200mL由来)の赤血球濃厚液中には,約100mgの鉄が含まれている。人体から1日に排泄される鉄は1mgであることから,赤血球濃厚液の頻回投与は体内に鉄の沈着を来し,鉄過剰症を生じる。また,Hb1gはビリルビン40mgに代謝され,そのほぼ半量は血管外に速やかに拡散するが,肝障害のある患者では,投与後の遊離Hbの負荷が黄疸の原因となり得る。

4) 輸血後移植片対宿主病(PT―GVHD)の予防対策

輸血後移植片対宿主病の発症を防止するために,原則として放射線を照射(15~50Gy)した赤血球濃厚液を使用する4)。平成10年に日本赤十字社より放射線照射血液製剤が供給されるようになり,平成12年以降,わが国では放射線照射血液製剤による輸血後移植片対宿主病の確定症例の報告はない。なお、採血後14日保存した赤血球濃厚液の輸血によっても致死的な合併症である輸血後移植片対宿主病の発症例が報告されていることから,採血後の期間にかかわらず,原則として放射線を照射(15~50Gy)した血液を使用する。また、現在ではすべての製剤が保存前白血球除去製剤となったが、保存前白血球除去のみによって輸血後移植片対宿主病が予防できるとは科学的に証明されていない。

5) 高カリウム血症

赤血球濃厚液では,放射線照射の有無にかかわらず,保存に伴い上清中のカリウム濃度が上昇する場合がある。また,放射線照射後の赤血球濃厚液では,照射していない赤血球濃厚液よりも上清中のカリウム濃度が上昇する。そのため,急速輸血時,大量輸血時,腎不全患者あるいは低出生体重児などへの輸血時には高カリウム血症に注意する。

6) 溶血性副作用

ABO血液型の取り違いにより,致命的な溶血性の副作用を来すことがある。投与直前には,患者氏名(同姓同名患者ではID番号や生年月日など)・血液型・その他の事項についての照合を,必ずバッグごとに細心の注意を払った上で実施する(輸血療法の実施に関する指針を参照)。

7) 非溶血性副作用

発熱反応,アレルギーあるいはアナフィラキシー反応を繰り返し起こす場合は,洗浄赤血球製剤が適応となる場合がある。

8) ABO血液型・Rh型と交差適合試験

原則として,ABO同型の赤血球製剤を使用するが,緊急の場合には異型適合血の使用も考慮する(輸血療法の実施に関する指針を参照)。また,Rh陽性患者にRh陰性赤血球製剤を使用しても抗原抗体反応をおこさないので投与することは医学的には問題ない。

9) サイトメガロウイルス(CMV)抗体陰性赤血球濃厚液

CMV抗体陰性の妊婦,あるいは極低出生体重児に赤血球輸血をする場合には,CMV抗体陰性の赤血球濃厚液を使用することが望ましい。造血幹細胞移植時に患者とドナーの両者がCMV抗体陰性の場合には,CMV抗体陰性の赤血球濃厚液を使用する。なお,現在,保存前白血球除去赤血球濃厚液が供給されており,CMVにも有用とされている。

文献

1) American College of Surgeons: Advanced Trauma Life Support Course Manual. American College of Surgeons 1997;103―112

2) American Society of Anesthesiologists Task Force: Practice guideline for blood component therapy. Anesthesiology 1996;84: 732―742

3)Lundsgaard―Hansen P, et al: Component therapy of surgical hemorrhage: Red cell concentrates, colloids and crystalloids.Bibl Haematol 1980;46: 147―169

4)日本輸血学会「輸血後GVHD対策小委員会」報告:輸血によるGVHD予防のための血液に対する放射線照射ガイドラインⅣ.日本輸血学会会告Ⅶ,日輸血会誌1999;45:47―54

Ⅲ 血小板濃厚液の適正使用

1.目的

血小板輸血は,血小板数の減少又は機能の異常により重篤な出血ないし出血の予測される病態に対して,血小板成分を補充することにより止血を図り(治療的投与),又は出血を防止すること(予防的投与)を目的とする。

なお,血小板濃厚液(Platelet Concentrate;PC)の製法と性状については参考16を参照。

2.使用指針1)~3)

血小板輸血の適応は,血小板数,出血症状の程度及び合併症の有無により決定することを基本とする。

特に,血小板数の減少は重要ではあるが,それのみから安易に一律に決定すべきではない。出血ないし出血傾向が血小板数の減少又は機能異常によるものではない場合(特に血管損傷)には,血小板輸血の適応とはならない。

なお,本指針に示された血小板数の設定はあくまでも目安であって,すべての症例に合致するものではないことに留意すべきである。

血小板輸血を行う場合には,必ず事前に血小板数を測定する。

血小板輸血の適応を決定するに当たって,血小板数と出血症状の大略の関係を理解しておく必要がある。

一般に,血小板数が5万/μL以上では,血小板減少による重篤な出血を認めることはなく,したがって血小板輸血が必要となることはない。

血小板数が2~5万/μLでは,時に出血傾向を認めることがあり,止血困難な場合には血小板輸血が必要となる。

血小板数が1~2万/μLでは,時に重篤な出血をみることがあり,血小板輸血が必要となる場合がある。血小板数が1万/μL未満ではしばしば重篤な出血をみることがあるため,血小板輸血を必要とする。

しかし,慢性に経過している血小板減少症(再生不良性貧血など)で,他に出血傾向を来す合併症がなく,血小板数が安定している場合には,血小板数が5千~1万/μLであっても,血小板輸血なしで重篤な出血を来すことはまれなことから,血小板輸血は極力避けるべきである(f.(2)参照)。

なお,出血傾向の原因は,単に血小板数の減少のみではないことから,必要に応じて凝固・線溶系の検査などを行う。

a.活動性出血

血小板減少による重篤な活動性出血を認める場合(特に網膜,中枢神経系,肺,消化管などの出血)には,原疾患の治療を十分に行うとともに,血小板数を5万/μL以上に維持するように血小板輸血を行う。

b.外科手術の術前状態

待機的手術患者あるいは腰椎穿刺,硬膜外麻酔,経気管支生検,肝生検などの侵襲を伴う処置では,術前あるいは施行前の血小板数が5万/μL以上あれば,通常は血小板輸血を必要とすることはない。また,骨髄穿刺や抜歯など局所の止血が容易な手技は血小板数を1~2万/μL程度で安全に施行できる。頭蓋内の手術のように局所での止血が困難な特殊な領域の手術では,7~10万/μL以上であることが望ましい。

血小板数が5万/μL未満では,手術の内容により,血小板濃厚液の準備又は術直前の血小板輸血の可否を判断する。その際,血小板数の減少を来す基礎疾患があれば,術前にその治療を行う。

慢性の腎臓や肝臓の疾患で出血傾向を伴う患者では,手術により大量の出血をみることがある。出血傾向の原因を十分に検討し,必要に応じて血小板濃厚液の準備又は術直前から,血小板輸血も考慮する。

c.人工心肺使用手術時の周術期管理

心臓手術患者の術前状態については,待機的手術患者と同様に考えて対処する。人工心肺使用時にみられる血小板減少は,通常人工心肺の使用時間と比例すると言われている。また,血小板減少は術後1~2日で最低となるが,通常は3万/μL未満になることはまれである。

術中・術後を通して血小板数が3万/μL未満に低下している場合には,血小板輸血の適応である。ただし,人工心肺離脱後の硫酸プロタミン投与後に血算及び凝固能を適宜検査,判断しながら,必要に応じて5万/μL程度を目処に血小板輸血開始を考慮する。

なお,複雑な心大血管手術で長時間(3時間以上)の人工心肺使用例,再手術などで広範な癒着剥離を要する例,及び慢性の腎臓や肝臓の疾患で出血傾向をみる例の中には,人工心肺使用後に血小板減少あるいは機能異常によると考えられる止血困難な出血(oozingなど)をみることがある。凝固因子の欠乏を伴わず,このような病態を呈する場合には,血小板数が5万/μL~10万/μLになるように血小板輸血を行う。

d.大量輸血時

急速失血により24時間以内に循環血液量相当量,特に2倍量以上の大量輸血が行われると,血液の希釈により血小板数の減少や機能異常のために,細血管性の出血を来すことがある。

止血困難な出血症状とともに血小板減少を認める場合には,血小板輸血の適応となる。

e.播種性血管内凝固(Disseminated Intravascular Coagulation;DIC)

出血傾向の強く現れる可能性のあるDIC(基礎疾患が白血病,癌,産科的疾患,重症感染症など)で,血小板数が急速に5万/μL未満へと低下し,出血症状を認める場合には,血小板輸血の適応となる。DICの他の治療とともに,必要に応じて新鮮凍結血漿も併用する。

なお,血栓による臓器症状が強く現れるDICでは,血小板輸血には慎重であるべきである。

出血症状のない慢性DICについては,血小板輸血の適応はない。

(DICの診断基準については参考資料1を参照)

f.血液疾患

頻回・多量の血小板輸血を要する場合が多いことから,同種抗体の産生を予防する方策を必要とする。

(1) 造血器腫瘍

急性白血病・悪性リンパ腫などの寛解導入療法においては,急速に血小板数が低下してくるので,定期的に血小板数を測定し,血小板数が1~2万/μL未満に低下してきた場合には血小板数を1~2万/μL以上に維持するように,計画的に血小板輸血を行う。とくに,急性白血病においては,安定した状態(発熱や重症感染症などを合併していない)であれば,血小板数を1万/μL以上に維持すれば十分とされる4)~6)

抗HLA抗体が存在しなくとも,発熱,感染症,脾腫大,DIC,免疫複合体などの存在する場合には,血小板の輸血後回収率・半減期は低下する。従って血小板数を2万/μL以上に保つためには,より頻回あるいは大量の血小板輸血を必要とすることが多いが,時には血小板輸血不応状態となることもある。

(2) 再生不良性貧血・骨髄異形成症候群

これらの疾患では,血小板減少は慢性に経過することが多く,血小板数が5千/μL以上あって出血症状が皮下出血斑程度の軽微な場合には,血小板輸血の適応とはならない。血小板抗体の産生を考慮し,安易に血小板輸血を行うべきではない。

しかし,血小板数が5千/μL前後ないしそれ以下に低下する場合には,重篤な出血をみる頻度が高くなるので,血小板輸血の適応となる。血小板輸血を行い,血小板数を1万/μL以上に保つように努めるが,維持が困難なこともある。

なお,感染症を合併して血小板数の減少をみる場合には,出血傾向が増強することが多いので,(1)の「造血器腫瘍」に準じて血小板輸血を行う。

(3) 免疫性血小板減少症

特発性血小板減少性紫斑病(Idiopathic Thrombocytopenic Purpura;ITP)は,通常は血小板輸血の対象とはならない。ITPで外科的処置を行う場合には,輸血による血小板数の増加は期待できないことが多く,まずステロイド剤あるいは静注用免疫グロブリン製剤の事前投与を行う。これらの薬剤の効果が不十分で大量出血の予測される場合には,血小板輸血の適応となる場合があり,通常より多量の輸血を必要とすることもある。

また,ITPの母親から生まれた新生児で重篤な血小板減少症をみる場合には,交換輸血のほか,ステロイド剤又は静注用免疫グロブリン製剤の投与とともに血小板輸血を必要とすることがある。

血小板特異抗原の母児間不適合による新生児同種免疫性血小板減少症(Neonatal Alloimmune Thrombocytopenia ; NAIT)で,重篤な血小板減少をみる場合には,血小板特異抗原同型の血小板輸血を行う。このような血小板濃厚液が入手し得ない場合には,母親由来の血小板の輸血が有効である。

輸血後紫斑病(Posttransfusion Purpura;PTP)では,血小板輸血の適応はなく,血小板特異抗原同型の血小板輸血でも無効である。なお,血漿交換療法が有効との報告がある。

(4) 血栓性血小板減少性紫斑病(Thrombotic Thrombocytopenic Purpura;TTP)及び溶血性尿毒症症候群(Hemolytic Uremic Syndrome;HUS)

TTP とHUS では,血小板輸血により症状の悪化をみることがあるので,原則として血小板輸血の適応とはならない。

(5) 血小板機能異常症

血小板機能異常症(血小板無力症,抗血小板療法など)での出血症状の程度は症例によって様々であり,また,血小板同種抗体産生の可能性もあることから,重篤な出血ないし止血困難な場合にのみ血小板輸血の適応となる。

(6) その他:ヘパリン起因性血小板減少症(Heparin induced thrombocytopenia;HIT)

HIT が強く疑われる若しくは確定診断された患者において、明らかな出血症状がない場合には予防的血小板輸血は避けるべきである。

g.固形腫瘍

固形腫瘍に対して強力な化学療法を行う場合には,急速に血小板数が減少することがあるので,必要に応じて適宜血小板数を測定する。

血小板数が2万/μL未満に減少し,出血傾向を認める場合には,血小板数が1~2万/μL以上を維持するように血小板輸血を行う。

化学療法の中止後に,血小板数が輸血のためではなく2万/μL以上に増加した場合には,回復期に入ったものと考えられることから,それ以降の血小板輸血は不要である。

h.造血幹細胞移植(骨髄移植等)

造血幹細胞移植後に骨髄機能が回復するまでの期間は,血小板数が1~2万/μL以上を維持するように計画的に血小板輸血を行う。

出血症状があれば血小板輸血を追加する。

※ 出血予防の基本的な適応基準

造血機能を高度に低下させる前処置を用いた造血幹細胞移植後は,血小板数が減少するので,出血予防のために血小板濃厚液の輸血が必要となる。血小板濃厚液の適応は血小板数と臨床症状を参考に決める。通常,出血予防のためには血小板数が1~2万/μL未満の場合が血小板輸血の適応となる。ただし,感染症,発熱,播種性血管内凝固などの合併症がある場合には出血傾向の増強することがあるので,血小板数を測定し,その結果により当日の血小板濃厚液の適応を判断することが望ましい(トリガー輸血)。ただし,連日の採血による患者への負担を考慮し,また,定型的な造血幹細胞移植では血小板が減少する期間をある程度予測できるので,週単位での血小板濃厚液の輸血を計画できる場合が多い。この場合は,1週間に2~3回の頻度で輸血を行う。

i.血小板輸血不応状態(HLA適合血小板輸血)

血小板輸血後に血小板数の増加しない状態を血小板輸血不応状態という。

血小板数の増加しない原因には,同種抗体などの免疫学的機序によるものと,発熱,感染症,DIC,脾腫大などの非免疫学的機序によるものとがある。

免疫学的機序による不応状態の大部分は抗HLA抗体によるもので,一部に血小板特異抗体が関与するものがある。

抗HLA抗体による血小板輸血不応状態では,HLA適合血小板濃厚液を輸血すると,血小板数の増加をみることが多い。白血病,再生不良性貧血などで通常の血小板濃厚液を輸血し,輸血翌日の血小板数の増加がみられない場合には,輸血翌日の血小板数を測定し,増加が2回以上にわたってほとんど認められず,抗HLA抗体が検出される場合には,HLA適合血小板輸血の適応となる。

なお,抗HLA抗体は経過中に陰性化し,通常の血小板濃厚液が有効となることがあるので,経時的に検査することが望まれる。

HLA適合血小板濃厚液の供給には特定の供血者に多大な負担を課すことから,その適応に当たっては適切かつ慎重な判断が必要である。

非免疫学的機序による血小板輸血不応状態では,原則としてHLA適合血小板輸血の適応はない。

HLA適合血小板濃厚液が入手し得ない場合や無効の場合,あるいは非免疫学的機序による血小板輸血不応状態にあり,出血を認める場合には,通常の血小板濃厚液を輸血して経過をみる。

3.投与量

患者の血小板数,循環血液量,重症度などから,目的とする血小板数の上昇に必要とされる投与量を決める。血小板輸血直後の予測血小板増加数(/μL)は次式により算出する。

(2/3は輸血された血小板が脾臓に捕捉されるための補正係数)

(循環血液量は70mL/kgとする)

例えば,血小板濃厚液5単位(1.0×1011個以上の血小板を含有)を循環血液量5,000mL(体重71kg)の患者に輸血すると,直後には輸血前の血小板数より13,500/μL以上増加することが見込まれる。

なお,一回投与量は,原則として上記計算式によるが,実務的には通常10単位が使用されている。体重25kg以下の小児では10単位を3~4時間かけて輸血する。

4.効果の評価

血小板輸血実施後には,輸血効果について臨床症状の改善の有無及び血小板数の増加の程度を評価する。

血小板数の増加の評価は,血小板輸血後約1時間又は翌朝か24時間後の補正血小板増加数(corrected count increment;CCI)により行う。CCIは次式により算出する。

通常の合併症などのない場合には,血小板輸血後約1時間のCCIは,少なくとも7,500/μL以上である。また,翌朝又は24時間後のCCIは通常≧4,500/μLである。

引き続き血小板輸血を繰り返し行う場合には,臨床症状と血小板数との評価に基づいて以後の輸血計画を立てることとし,漫然と継続的に血小板輸血を行うべきではない。

5.不適切な使用

末期患者に対しては,患者の自由意思を尊重し,単なる延命処置は控えるという考え方が容認されつつある。輸血療法といえどもその例外ではなく,患者の意思を尊重しない単なる時間的延命のための投与は控えるべきである。

6.使用上の注意点

1) 使用法

血小板濃厚液を使用する場合には,血小板輸血セットを使用することが望ましい。赤血球や血漿製剤の輸血に使用した輸血セットを引き続き血小板輸血に使用すべきではない。なお,血小板濃厚液はすべて保存前白血球除去製剤となっており,ベッドサイドでの白血球除去フィルターの使用は不要である。

2) 感染症の伝播

血小板濃厚液はその機能を保つために室温(20~24℃)で水平振盪しながら保存されているために,細菌混入による致死的な合併症に留意して,輸血の実施前にバッグ内の血液についてスワーリングの有無,色調の変化,凝集塊の有無(黄色ブドウ球菌等の細菌混入により凝集塊が発生する場合がある),又はバッグの破損や開封による閉鎖系の破綻等の異常がないことを肉眼で確認する。(なお,スワーリングとは,血小板製剤を蛍光灯等にかざしながらゆっくりと攪拌したとき,品質が確保された血小板濃厚液では渦巻き状のパターンがみられる現象のこと。pHの低下や低温保存等によりスワーリングが弱くなることがある)

3) 輸血後移植片対宿主病(PT―GVHD)の予防対策

輸血後移植片対宿主病(PT―GVHD)の発症を防止するため,原則として放射線を照射(15~50Gy)した血小板濃厚液を使用する。

4) サイトメガロウイルス(CMV)抗体陰性血小板濃厚液

CMV抗体陰性の妊婦,あるいは極低出生体重児に血小板輸血をする場合には,CMV抗体陰性の血小板濃厚液を使用することが望ましい。

造血幹細胞移植時に患者とドナーの両者がCMV抗体陰性の場合には,CMV抗体陰性の血小板濃厚液を使用する。

なお,現在,保存前白血球除去血小板濃厚液が供給されており,CMVにも有用とされている。

5) HLA適合血小板濃厚液

血小板輸血不応状態に対して有効な場合が多く、ABO同型の血小板濃厚液を使用することが望ましい。なお,血小板輸血不応状態には,血小板特異抗体によるものもある。

6) ABO血液型・Rh型と交差適合試験

原則として,ABO血液型の同型の血小板濃厚液を使用する。現在供給されている血小板濃厚液は赤血球をほとんど含まないので,交差適合試験を省略してもよい。

患者がRh陰性の場合には,Rh陰性の血小板濃厚液を使用することが望ましく,特に妊娠可能な女性では推奨される。しかし,緊急の場合には,Rh陽性の血小板濃厚液を使用してもよい。この場合には,高力価抗Rh人免疫グロブリン(RHIG)を投与することにより,抗D抗体の産生を予防できる場合がある。

通常の血小板輸血の効果がなく,抗HLA抗体が認められる場合には,HLA適合血小板濃厚液を使用する。

7) ABO血液型不適合輸血

ABO血液型同型血小板濃厚液が入手困難な場合はABO血液型不適合の血小板濃厚液を使用する。この場合,血小板濃厚液中の抗A,抗B抗体による溶血の可能性に注意する。また,患者の抗A,抗B抗体価が極めて高い場合には,ABO血液型不適合血小板輸血では十分な効果が期待できないことがある。

文献

1) British Committee for Standards in Haematology,Blood Transfusion Task Force: Guidelines for the use of platelet transfusions. Br J Haematol 2003;122: 10―23

2) Schiffer CA, et al: Clinical Practice Guidelines of the American Society of Clinical Oncology. J Clin Oncol 2001;19: 1519―1538

3) A Report by the American Society of Anesthesiologists Task Force on Blood Component Therapy: Practice Guidelines for Blood Component Therapy. Anesthesiology 1996; 84: 732―747

4) Wandt H, et al: Safety and cost effectiveness of a 10×10 (9) / L trigger for prophylactic platelet transfusions compared with the traditional 20×10 (9) / L trigger : a prospective comparative trial in 105 patients with acute myeloid leukemia. Blood 1998;91: 3601―3606

5) Rebulla P, et al: The threshold for prophylactic platelet transfusions in adults with acute myeloid leukemia. Gruppo Italiano Malattie Ematologiche Mallgne dell'Adulto. N Engl J Med 1997;337: 1870―1875

6) Heckman KD, et al: Randomized study of prophylactic platelet transfusion threshold during Induction therapy for adult acute leukemia: 10,000 / microL versus 20,000 / microL. J Clin Oncol 1997;15: 1143―1149

Ⅳ 新鮮凍結血漿の適正使用

1.目的

新鮮凍結血漿(Fresh Frozen Plasma;FFP)の投与は,血漿因子の欠乏による病態の改善を目的に行う。特に,凝固因子を補充することにより,出血の予防や止血の促進効果(予防的投与と治療的投与)をもたらすことにある。

なお,新鮮凍結血漿の製法と性状については参考17を参照。

2.使用指針

凝固因子の補充による治療的投与を主目的とする。自然出血時,外傷性の出血時の治療と観血的処置を行う際に適応となる。観血的処置時を除いて新鮮凍結血漿の予防的投与の意味はなく,あくまでもその使用は治療的投与に限定される。投与量や投与間隔は各凝固因子の必要な止血レベル,生体内の半減期や回収率などを考慮して決定し,治療効果の判定は臨床所見と凝固活性の検査結果を総合的に勘案して行う。新鮮凍結血漿の投与は,他に安全で効果的な血漿分画製剤あるいは代替医薬品(リコンビナント製剤など)がない場合にのみ,適応となる。投与に当たっては,投与前にプロトロンビン時間(PT),活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)を測定し,DIC等の大量出血ではフィブリノゲン値も測定する。また,新鮮凍結血漿の予防的投与は,凝固因子欠乏による出血の恐れのある患者の観血的処置時を除き,その有効性は証明されていない(本項末尾[注]「出血に対する輸血療法」を参照)。したがって,新鮮凍結血漿の適応は以下に示す場合に限定される。

1) 凝固因子の補充

(1) PT及び/又はAPTTが延長している場合(①PTは(i)INR2.0以上,(ii)30%以下/②APTTは(i)各医療機関における基準の上限の2倍以上,(ii)25%以下とする)

i.複合型凝固障害

● 肝障害:肝障害により複数の凝固因子活性が低下し,出血傾向のある場合に適応となる。新鮮凍結血漿の治療効果はPTやAPTTなどの凝固検査を行いつつ評価するが,検査値の正常化を目標とするのではなく症状の改善により判定する。ただし,重症肝障害における止血系の異常は,凝固因子の産生低下ばかりではなく,血小板数の減少や抗凝固因子,線溶因子,抗線溶因子の産生低下,網内系の機能の低下なども原因となり得ることに留意する。また,急性肝不全においては,しばしば消費性凝固障害により新鮮凍結血漿の必要投与量が増加する。容量の過負荷が懸念される場合には,血漿交換療法(1~1.5×循環血漿量/回)を併用する(アフェレシスに関連する事項は,参考14を参照)。

なお,PTがINR 2.0以上(30%以下)で,かつ観血的処置を行う場合を除いて新鮮凍結血漿の予防的投与の適応はない。ただし,手術以外の観血的処置における重大な出血の発生は,凝固障害よりも手技が主な原因となると考えられていることに留意する。

● L―アスパラギナーゼ投与関連:肝臓での産生低下によるフィブリノゲンなどの凝固因子の減少により出血傾向をみることがあるが,アンチトロンビンなどの抗凝固因子や線溶因子の産生低下をも来すことから,血栓症をみる場合もある。これらの諸因子を同時に補給するためには新鮮凍結血漿を用いる。アンチトロンビンの回復が悪い時は,アンチトロンビン製剤を併用する。

止血系の異常の程度と出現した時期によりL―アスパラギナーゼの投与計画の中止若しくは変更を検討する。

● 播種性血管内凝固(DIC):DIC(診断基準は参考資料1を参照)の治療の基本は,原因の除去(基礎疾患の治療)とヘパリンなどによる抗凝固療法である。新鮮凍結血漿の投与は,これらの処置を前提として行われるべきである。この際の新鮮凍結血漿投与は,凝固因子と共に不足した生理的凝固・線溶阻害因子(アンチトロンビン,プロテインC,プロテインS,プラスミンインヒビターなど)の同時補給を目的とする。通常,(1)に示すPT,APTTの延長のほかフィブリノゲン値が100mg/dL未満の場合に新鮮凍結血漿の適応となる(参考資料1 DICの診断基準参照)。

なお,フィブリノゲン値は100mg/dL程度まで低下しなければPTやAPTTが延長しないこともあるので注意する。また,特にアンチトロンビン活性が低下する場合は,新鮮凍結血漿より安全かつ効果的なアンチトロンビン濃縮血漿分画製剤の使用を常に考慮する。

● 大量輸血時:通常,大量輸血時に希釈性凝固障害による止血困難が起こることがあり,その場合新鮮凍結血漿の適応となる。しかしながら,希釈性凝固障害が認められない場合は,新鮮凍結血漿の適応はない(図1)。外傷などの救急患者では,消費性凝固障害が併存しているかを検討し,凝固因子欠乏による出血傾向があると判断された場合に限り,新鮮凍結血漿の適応がある。新鮮凍結血漿の予防的投与は行わない。

ii.濃縮製剤のない凝固因子欠乏症

● 血液凝固因子欠乏症にはそれぞれの濃縮製剤を用いることが原則であるが,血液凝固第Ⅴ,第ⅩⅠ因子欠乏症に対する濃縮製剤は現在のところ供給されていない。したがって,これらの両因子のいずれかの欠乏症又はこれらを含む複数の凝固因子欠乏症では,出血症状を示しているか,観血的処置を行う際に新鮮凍結血漿が適応となる。第Ⅷ因子の欠乏症(血友病A)は遺伝子組み換え型製剤又は濃縮製剤,第Ⅸ因子欠乏症(血友病B)には遺伝子組み換え型製剤又は濃縮製剤,第ⅩⅢ因子欠乏症には濃縮製剤,先天性無フィブリノゲン血症には濃縮フィブリノゲン製剤,第Ⅶ因子欠乏症には遺伝子組み換え活性第Ⅶ因子製剤又は濃縮プロトロンビン複合体製剤,プロトロンビン欠乏症,第Ⅹ因子欠乏症には濃縮プロトロンビン複合体製剤,さらにフォン・ヴィレブランド病には,フォン・ヴィレブランド因子を含んでいる第Ⅷ因子濃縮製剤による治療が可能であることから,いずれも新鮮凍結血漿の適応とはならない。

iii.クマリン系薬剤(ワルファリンなど)効果の緊急補正(PTがINR 2.0以上(30%以下))

● クマリン系薬剤は,肝での第Ⅱ,Ⅶ,Ⅸ,Ⅹ因子の合成に必須なビタミンK依存性酵素反応の阻害剤である。これらの凝固因子の欠乏状態における出血傾向は,ビタミンKの補給により通常1時間以内に改善が認められるようになる。なお,より緊急な対応のために新鮮凍結血漿の投与が必要になることが稀にあるが,この場合でも直ちに使用可能な場合には「濃縮プロトロンビン複合体製剤」を使用することも考えられる。

(2) 低フィブリノゲン血症(100mg/dL未満)

我が国では濃縮フィブリノゲン製剤の供給が十分でなく,またクリオプリシピテート製剤が供給されていないことから,以下の病態へのフィブリノゲンの補充には,新鮮凍結血漿を用いる。

なお,フィブリノゲン値の低下の程度はPTやAPTTに必ずしも反映されないので注意する(前述)。

● 播種性血管内凝固(DIC):(前項i「DIC」を参照)

● L―アスパラギナーゼ投与後:(前項i L―アスパラギナーゼ投与関連参照)

2) 凝固阻害因子や線溶因子の補充

● プロテインC,プロテインSやプラスミンインヒビターなどの凝固・線溶阻害因子欠乏症における欠乏因子の補充を目的として投与する。プロテインCやプロテインSの欠乏症における血栓症の発症時にはヘパリンなどの抗凝固療法を併用し,必要に応じて新鮮凍結血漿により欠乏因子を補充する。安定期には経口抗凝固療法により血栓症の発生を予防する。アンチトロンビンについては濃縮製剤を利用する。また,プロテインC欠乏症における血栓症発症時には活性型プロテインC濃縮製剤による治療が可能である。プラスミンインヒビターの欠乏による出血症状に対してはトラネキサム酸などの抗線溶薬を併用し,効果が不十分な場合には新鮮凍結血漿を投与する。

3) 血漿因子の補充(PT及びAPTTが正常な場合)

● 血栓性血小板減少性紫斑病(TTP):血管内皮細胞で産生される分子量の著しく大きい(unusually large)フォン・ヴィレブランド因子マルチマー(UL―vWFM)が,微小循環で血小板血栓を生じさせ,本症を発症すると考えられている。通常,UL―vWFMは同細胞から血中に放出される際に,肝臓で産生されるvWF特異的メタロプロテアーゼ(別名ADAMTS13)により,本来の止血に必要なサイズに分解される。しかし,後天性TTPではこの酵素に対する自己抗体(インヒビター)が発生し,その活性が著しく低下する。従って,本症に対する新鮮凍結血漿を置換液とした血漿交換療法(1~1.5循環血漿量/回)の有用性は(1)同インヒビターの除去,(2)同酵素の補給,(3)UL―vWFMの除去,(4)止血に必要な正常サイズvWFの補給,の4点に集約される。一方,先天性TTPでは,この酵素活性の欠損に基づくので,新鮮凍結血漿の単独投与で充分な効果がある1)

なお,腸管出血性大腸菌O―157:0H7感染に代表される後天性溶血性尿毒症症候群(HUS)では,その多くが前記酵素活性に異常を認めないため,新鮮凍結血漿を用いた血漿交換療法は必ずしも有効ではない2)

3.投与量

生理的な止血効果を期待するための凝固因子の最少の血中活性値は,正常値の20~30%程度である(表1)。

循環血漿量を40mL/kg(70mL/kg(1-Ht/100))とし,補充された凝固因子の血中回収率は目的とする凝固因子により異なるが,100%とすれば,凝固因子の血中レベルを約20~30%上昇させるのに必要な新鮮凍結血漿量は,理論的には8~12mL/kg(40mL/kgの20~30%)である。したがって,体重50kgの患者における新鮮凍結血漿の投与量は400~600mLである。日本赤十字社から供給される白血球を除去した全血採血由来製剤(新鮮凍結血漿―LR「日赤」)の容量は,従来製剤の約1.5倍(200mL採血由来(FFP―LR―1)では約120mL,400mL採血由来(FFP―LR―2)では約240mL)であるため,200mL採血由来(FFP―LR―1)の場合は約4~5本分に,400mL採血由来(FFP―LR―2)では約2~3本分に相当することとなる。また,成分採血由来製剤は容量が450mLであるため,約1本分に相当する。患者の体重やHt値(貧血時),残存している凝固因子のレベル,補充すべき凝固因子の生体内への回収率や半減期(表1),あるいは消費性凝固障害の有無などを考慮して投与量や投与間隔を決定する。なお,個々の凝固因子欠乏症における治療的投与や観血的処置時の予防的投与の場合,それぞれの凝固因子の安全な治療域レベルを勘案して投与量や投与間隔を決定する。

表1 凝固因子の生体内における動態と止血レベル

因子

止血に必要な濃度1)

生体内半減期

生体内回收率

安定性(4℃保存)

フィブリノゲン

75~100mg/dL

3~6日

50%

安定

ブロトロンビン

40%

2~5日

40~80%

安定

第Ⅴ因子

15~25%

15~36時間

80%

不安定2)

第Ⅶ因子

5~10%

2~7時間

70~80%

安定

第Ⅷ因子

10~40%

8~12時間

60~80%

不安定3)

第Ⅸ因子

10~40%

18~24時間

40~50%

安定

第Ⅹ因子

10~20%

1.5~2日

50%

安定

第ⅩⅠ因子

15~30%

3~4日

90~100%

安定

第ⅩⅡ因子

安定

第ⅩⅢ因子

1~5%

6~10日

5~100%

安定

フォンヴィレブランド因子

25~50%

3~5時間

不安定

1) 観血的処置時の下限値

2) 14日保存にて活性は50%残存

3) 24時間保存にて活性は25%残存

(AABB:Blood Transtusion Therapy 7th ed. 2002. p27)3)

*)一部を改訂

4.効果の評価

投与の妥当性,選択した投与量の的確性あるいは副作用の予防対策などに資するため,新鮮凍結血漿の投与前には,その必要性を明確に把握し,必要とされる投与量を算出する。投与後には投与前後の検査データと臨床所見の改善の程度を比較して評価し,副作用の有無を観察して診療録に記載する。

5.不適切な使用

1) 循環血漿量減少の改善と補充

循環血漿量の減少している病態には,新鮮凍結血漿と比較して膠質浸透圧が高く,より安全な人工膠質液あるいは等張アルブミン製剤の適応である。

2) たん白質源としての栄養補給

輸血により補充された血漿たん白質(主成分はアルブミン)はアミノ酸にまで緩徐に分解され,その多くは熱源として消費されてしまい,患者のたん白質源とはならない。この目的のためには,中心静脈栄養法や経腸栄養法が適応である(アルブミン製剤の適正使用:5―1)「たん白質源としての栄養補給」の項を参照)。

3) 創傷治癒の促進

創傷の治癒に関与する血漿たん白質としては,急性反応期たん白質であるフィブリノゲン,第ⅩⅢ因子,フィブロネクチン,フォン・ヴィレブランド因子などが考えられている。しかしながら,新鮮凍結血漿の投与により,これらを補給しても,創傷治癒が促進されるという医学的根拠はない。

4) 末期患者への投与

末期患者に対しては,患者の自由意思を尊重し,単なる延命措置は控えるという考え方が容認されつつある。輸血療法といえども,その例外ではなく,患者の意思を尊重しない単なる時間的延命のための投与は控えるべきである。

5) その他

重症感染症の治療,DICを伴わない熱傷の治療,人工心肺使用時の出血予防,非代償性肝硬変での出血予防なども新鮮凍結血漿投与の適応とはならない。

6.使用上の注意点

1) 使用法

新鮮凍結血漿を使用する場合には,輸血セットを使用する。使用時には30~37℃の恒温槽中で急速に融解し,速やか(3時間以内)に使用する。

なお,製剤ラベルの剥脱を避けるとともに,バッグ破損による細菌汚染を起こす可能性を考慮して,必ずビニール袋に入れる。融解後にやむを得ず保存する場合には,常温ではなく2~6℃の保冷庫内に保管する。保存すると不安定な凝固因子(第Ⅴ,Ⅷ因子)は急速に失活するが,その他の凝固因子の活性は比較的長い間保たれる(表1)。

2) 感染症の伝播

新鮮凍結血漿はアルブミンなどの血漿分画製剤とは異なり,ウイルスの不活化が行われていないため,血液を介する感染症の伝播を起こす危険性がある。

輸血実施前にバッグ内の血液について色調の変化,凝血塊の有無,あるいはバッグの破損や開封による閉鎖系の破綻等の異常がないことを肉眼で確認する。

3) クエン酸中毒(低カルシウム血症)

大量投与によりカルシウムイオンの低下による症状(手指のしびれ,嘔気など)を認めることがあり,必要な場合にはグルコン酸カルシウム等カルシウム含有製剤を輸血実施静脈とは異なる静脈からゆっくり静注する。

4) ナトリウムの負荷

白血球を除去した全血採血由来製剤(新鮮凍結血漿―LR「日赤」)は血液保存液としてCPD液を用いている。容量は,従来製剤の約1.5倍(200mL採血由来(FFP―LR―1)では約120mL,400mL採血由来(FFP―LR―2)では約240mL)であり,200mL採血由来の場合は約0.45g(19mEq),400mL採血由来(FFP―LR―2)では約0.9g(38mEq)のナトリウム(Na+)が負荷される。また,成分採血由来製剤は血液保存液としてACD―A液を用いている。容量は450mLであり,約1.6g(69mEq)のナトリウム(Na+)が負荷される。

全血採血由来製剤と成分採血由来製剤のナトリウム濃度の差はCPD液とACD―A液に含まれるナトリウム量の違いによる。

5) 非溶血性副作用

時に発熱反応,アレルギーあるいはアナフィラキシー反応を起こすことがある。

6) ABO血液型不適合輸血

ABO同型の新鮮凍結血漿が入手困難な場合には,ABO血液型不適合の新鮮凍結血漿を使用してもよい。この場合,新鮮凍結血漿中の抗A,抗B抗体によって溶血が起こる可能性があるため、留意が必要である。

[注]出血に対する輸血療法

1.止血機構

生体の止血機構は,以下の4つの要素から成り立っており,それらが順次作動して止血が完了する。これらのいずれかの異常により病的な出血が起こる。輸血用血液による補充療法の対象となるのは血小板と凝固因子である。

a.血管壁:収縮能

b.血小板:血小板血栓形成(一次止血),すなわち血小板の粘着・凝集能

c.凝固因子:凝固系の活性化,トロンビンの生成,次いで最終的なフィブリン血栓形成(二次止血)

d.線溶因子:プラスミンによる血栓の溶解(繊維素溶解)能

2.基本的な考え方

新鮮凍結血漿の使用には治療的投与と予防的投与がある。血小板や凝固因子などの止血因子の不足に起因した出血傾向に対する治療的投与は,絶対的適応である。一方,出血の危険性は血小板数,出血時間,PT,APTT,フィブリノゲンなどの検査値からは必ずしも予測できない。止血機能検査値が異常であったとしても,それが軽度であれば,たとえ観血的処置を行う場合でも新鮮凍結血漿を予防的に投与をする必要はない。観血的処置時の予防的投与の目安は血小板数が5万/μL以下,PTがINR2.0以上(30%以下),APTTが各医療機関が定めている基準値の上限の2倍以上(25%以下),フィブリノゲンが100mg/dL未満になったときである。

出血時間は検査自体の感度と特異性が低く,術前の止血機能検査としては適当ではなく,本検査を術前に必ず行う必要はない。むしろ,出血の既往歴,服用している薬剤などに対する正確な問診を行うことが必要である。

上血機能検査で軽度の異常がある患者(軽度の血小板減少症,肝障害による凝固異常など)で局所的な出血を起こした場合に,新鮮凍結血漿を第1選択とすることは誤りであり,十分な局所的止血処置が最も有効である。図2のフローチャートで示すとおり,新鮮凍結血漿により止血可能な出血と局所的な処置でしか止血し得ない出血が存在し,その鑑別が極めて重要である。

また,新鮮凍結血漿の投与に代わる代替治療を常に考慮する。例えば,酢酸デスモプレシン(DDAVP)は軽症の血友病Aやフォン・ヴィレブランド病(typeI)の出血時の止血療法や小外科的処置の際の出血予防に有効である。

図2 出血に対する輸血療法と治療法のフローチャート

文献

1) 藤村吉博:VWF切断酵素(ADAMTS13)の動態解析によるTTP/HUS診断法の進歩.日本内科学会雑誌 2004;93:451―459

2) Mori Y, et al: Predicting response to plasma exchange in patients with thrombotic thrombocyto―penic purpura with measurement of VWF―cleaving protease activity. Transfusion 2002;42:572―580

3) AABB:Blood Transfusion Therapy;A Physician’s Handbook (7th ed.) ,2002,p.27

Ⅴ アルブミン製剤の適正使用

1.目的

アルブミン製剤を投与する目的は,血漿膠質浸透圧を維持することにより循環血漿量を確保すること,及び体腔内液や組織間液を血管内に移行させることによって治療抵抗性の重度の浮腫を治療することにある。

なお,アルブミンの製法と性状については参考18を参照。

2.使用指針

急性の低たん白血症に基づく病態,また他の治療法では管理が困難な慢性低たん白血症による病態に対して,アルブミンを補充することにより一時的な病態の改善を図るために使用する。つまり膠質浸透圧の改善,循環血漿量の是正が主な適応であり,通常前者には高張アルブミン製剤,後者には等張アルブミン製剤あるいは加熱人血漿たん白を用いる。なお,本使用指針において特に規定しない場合は,等張アルブミン製剤には加熱人血漿たん白を含むこととする。

1) 出血性ショック等

出血性ショックに陥った場合には,循環血液量の30%以上が喪失したと考えられる。このように30%以上の出血をみる場合には,初期治療としては,細胞外液補充液(乳酸リンゲル液,酢酸リンゲル液など)の投与が第一選択となり,人工膠質液の併用も推奨されるが,原則としてアルブミン製剤の投与は必要としない。循環血液量の50%以上の多量の出血が疑われる場合や血清アルブミン濃度が3.0g/dL未満の場合には,等張アルブミン製剤の併用を考慮する。循環血漿量の補充量は,バイタルサイン,尿量,中心静脈圧や肺動脈楔入圧,血清アルブミン濃度,さらに可能であれば膠質浸透圧を参考にして判断する。もし,腎機能障害などで人工膠質液の使用が不適切と考えられる場合には,等張アルブミン製剤を使用する。また,人工膠質液を1,000mL以上必要とする場合にも,等張アルブミン製剤の使用を考慮する。

なお,出血により不足したその他の血液成分の補充については,各成分製剤の使用指針により対処する(特に「術中の輸血」の項を参照;図1)。

2) 人工心肺を使用する心臓手術

通常,心臓手術時の人工心肺の充填には,主として細胞外液補充液が使用される。なお,人工心肺実施中の血液希釈で起こった低アルブミン血症は,血清アルブミンの喪失によるものではなく一時的なものであり,利尿により術後数時間で回復するため,アルブミン製剤を投与して補正する必要はない。ただし,術前より血清アルブミン(Alb)濃度又は膠質浸透圧の高度な低下のある場合,あるいは体重10kg未満の小児の場合などには等張アルブミン製剤が用いられることがある。

3) 肝硬変に伴う難治性腹水に対する治療

肝硬変などの慢性の病態による低アルブミン血症は,それ自体ではアルブミン製剤の適応とはならない。肝硬変ではアルブミンの生成が低下しているものの,生体内半減期は代償的に延長している。たとえアルブミンを投与しても,かえってアルブミンの合成が抑制され,分解が促進される。大量(4L以上)の腹水穿刺時に循環血漿量を維持するため,高張アルブミン製剤の投与が,考慮される*。また,治療抵抗性の腹水の治療に,短期的(1週間を限度とする)に高張アルブミン製剤を併用することがある。

*Runyon BA:Management of adult patients with ascites due to cirrhosis.Hepatology 2004;39:841―856

4) 難治性の浮腫,肺水腫を伴うネフローゼ症候群

ネフローゼ症候群などの慢性の病態は,通常アルブミン製剤の適応とはならない。むしろ,アルブミンを投与することによってステロイドなどの治療に抵抗性となることが知られている。ただし,急性かつ重症の末梢性浮腫あるいは肺水腫に対しては,利尿薬に加えて短期的(1週間を限度とする。)に高張アルブミン製剤の投与を必要とする場合がある。

5) 循環動態が不安定な血液透析等の体外循環施行時

血液透析時に血圧の安定が悪い場合において,特に糖尿病を合併している場合や術後などで低アルブミン血症のある場合には,透析に際し低血圧やショックを起こすことがあるため,循環血漿量を増加させる目的で予防的投与を行うことがある。

ただし通常は,適切な体外循環の方法の選択と,他の薬物療法で対処することを基本とする。

6) 凝固因子の補充を必要としない治療的血漿交換療法

治療的血漿交換療法には,現在様々の方法がある。有害物質が同定されていて,選択的若しくは準選択的有害物質除去の方法が確立されている場合には,その方法を優先する。それ以外の非選択的有害物質除去や,有用物質補充の方法として,血漿交換療法がある。

ギランバレー症候群,急性重症筋無力症など凝固因子の補充を必要としない症例では,置換液として等張アルブミン製剤を使用する。アルブミン製剤の使用は,肝炎発症などの輸血副作用の危険がほとんどなく,新鮮凍結血漿を使用することと比較してより安全である。

膠質浸透圧を保つためには,通常は,等張アルブミン若しくは高張アルブミンを電解質液に希釈して置換液として用いる。血中アルブミン濃度が低い場合には,等張アルブミンによる置換は,肺水腫等を生じる可能性が有るので,置換液のアルブミン濃度を調節する等の注意が必要である。加熱人血漿たん白は,まれに血圧低下をきたすので,原則として使用しない。やむを得ず使用する場合は,特に血圧の変動に留意する。1回の交換量は,循環血漿量の等量ないし1.5倍量を基準とする。開始時は,置換液として人工膠質液を使用することも可能な場合が多い(血漿交換の置換液として新鮮凍結血漿が用いられる場合については,新鮮凍結血漿の項参照。また,治療的血漿交換療法に関連する留意事項については,参考14を参照)。

7) 重症熱傷

熱傷後,通常18時間以内は原則として細胞外液補充液で対応するが,18時間以内であっても血清アルブミン濃度が1.5g/dL未満の時は適応を考慮する。

熱傷部位が体表面積の50%以上あり,細胞外液補充液では循環血漿量の不足を是正することが困難な場合には,人工膠質液あるいは等張アルブミン製剤で対処する。

8) 低たん白血症に起因する肺水腫あるいは著明な浮腫が認められる場合

術前,術後あるいは経口摂取不能な重症の下痢などによる低たん白血症が存在し,治療抵抗性の肺水腫あるいは著明な浮腫が認められる場合には,利尿薬とともに高張アルブミン製剤の投与を考慮する。

9) 循環血漿量の著明な減少を伴う急性膵炎など

急性膵炎,腸閉塞などで循環血漿量の著明な減少を伴うショックを起こした場合には,等張アルブミン製剤を使用する。

3.投与量

投与量の算定には下記の計算式を用いる。このようにして得られたアルブミン量を患者の病状に応じて,通常2~3日で分割投与する。

必要投与量(g)=

期待上昇濃度(g/dL)×循環血漿量(dL)×2.5

ただし,期待上昇濃度は期待値と実測値の差,循環血漿量は0.4dL/kg,投与アルブミンの血管内回収率は4/10(40%)とする。

たとえば,体重χkgの患者の血清アルブミン濃度を0.6g/dL上昇させたいときには,0.6g/dL×(0.4dL/kg×χkg)×2.5=0.6×χ×1=0.6χgを投与する。

すなわち,必要投与量は期待上昇濃度(g/dL)×体重(kg)により算出される。

一方,アルブミン1gの投与による血清アルブミン濃度の上昇は,体重χkgの場合には,[アルブミン1g×血管内回収率(4/10)](g)/[循環血漿量](dL)すなわち,

「1g×0.4/(0.4dL/kg×χkg)=1/χ(g/dL)」,

つまり体重の逆数で表わされる。

4.投与効果の評価

アルブミン製剤の投与前には,その必要性を明確に把握し,必要とされる投与量を算出する。投与後には投与前後の血清アルブミン濃度と臨床所見の改善の程度を比較して効果の判定を行い,診療録に記載する。投与後の目標血清アルブミン濃度としては急性の場合は3.0g/dL以上,慢性の場合は2.5g/dL以上とする。

投与効果の評価を3日間を目途に行い,使用の継続を判断し,漫然と投与し続けることのないように注意する。

なお,膠質浸透圧の計算式については本項末尾[注]「膠質浸透圧について」に記載してある。

5.不適切な使用

1) たん白質源としての栄養補給

投与されたアルブミンは体内で緩徐に代謝(半減期は約17日)され,そのほとんどは熱源として消費されてしまう。アルブミンがアミノ酸に分解され,肝臓におけるたん白質の再生成の原料となるのはわずかで,利用率が極めて低いことや,必須アミノ酸であるトリプトファン,イソロイシン及びメチオニンが極めて少ないことなどから,栄養補給の意義はほとんどない。手術後の低たん白血症や悪性腫瘍に使用しても,一時的に血漿たん白濃度を上昇させて膠質浸透圧効果を示す以外に,栄養学的な意義はほとんどない。栄養補給の目的には,中心静脈栄養法,経腸栄養法によるアミノ酸の投与とエネルギーの補給が栄養学的にたん白質の生成に有効であることが定説となっている。

2) 脳虚血

脳虚血発作あるいはクモ膜下出血後の血管攣縮に対する人工膠質液あるいはアルブミン製剤の投与により,脳組織の障害が防止されるという医学的根拠はなく,使用の対象とはならない。

3) 単なる血清アルブミン濃度の維持

血清アルブミン濃度が2.5~3.0g/dLでは,末梢の浮腫などの臨床症状を呈さない場合も多く,血清アルブミン濃度の維持や検査値の是正のみを目的とした投与は行うべきではない。

4) 末期患者への投与

末期患者に対するアルブミン製剤の投与による延命効果は明らかにされていない。

生命尊厳の観点からも不必要な投与は控えるべきである。

6.使用上の注意点

1) ナトリウム含有量

各製剤中のナトリウム含有量[3.7mg/mL(160mEq/L)以下]は同等であるが,等張アルブミン製剤の大量使用はナトリウムの過大な負荷を招くことがあるので注意が必要である。

2) 肺水腫,心不全

高張アルブミン製剤の使用時には急激に循環血漿量が増加するので,輸注速度を調節し,肺水腫,心不全などの発生に注意する。なお,20%アルブミン製剤50mL(アルブミン10g)の輸注は約200mLの循環血漿量の増加に相当する。

3) 血圧低下

加熱人血漿たん白の急速輸注(10mL/分以上)により,血圧の急激な低下を招くことがあるので注意する。

4) 利尿

利尿を目的とするときには,高張アルブミン製剤とともに利尿薬を併用する。

5) アルブミン合成能の低下

慢性の病態に対する使用では,アルブミンの合成能の低下を招くことがある。特に血清アルブミン濃度が4g/dL以上では合成能が抑制される。

[注]膠質浸透圧について

膠質浸透圧(π)はpH,温度,構成するたん白質の種類により影響されるため,実測値の方が信頼できるが,血清中のたん白濃度より算定する方法もある。血清アルブミン濃度,総血清たん白(TP)濃度からの算出には下記の計算式を用いる。

1.血清アルブミン値(Cg/dL)よりの計算式:

π=2.8C+0.18C2+0.012C3

2.総血清たん白濃度(Cg/dL)よりの計算式:

π=2.1C+0.16C2+0.009C3

計算例:

1.アルブミン投与によりAlb値が0.5g/dL上昇した場合の膠質浸透圧の上昇(1式より),

π=2.8×0.5+0.18×0.52+0.012×0.53

=1.45mmHg

2.TP値が7.2g/dLの場合の膠質浸透圧(2式より),

π=2.1×7.2+0.16×7.22+0.009×7.23

=26.77mmHg

Ⅵ 新生児・小児に対する輸血療法

小児,特に新生児に血液製剤を投与する際に,成人の血液製剤の使用指針を適用することには問題があり,小児に特有な生理機能を考慮した指針を策定する必要がある。しかしながら,小児一般に対する血液製剤の投与基準については,いまだ十分なコンセンサスが得られているとは言い難い状況にあることから,未熟児についての早期貧血への赤血球濃厚液の投与方法,新生児への血小板濃厚液の投与方法及び新生児への新鮮凍結血漿の投与方法に限定して指針を策定することとした。

1.未熟児早期貧血に対する赤血球濃厚液の適正使用1)

未熟児早期貧血の主たる原因は,骨髄造血機構の未熟性にあり,生後1~2か月頃に認められる新生児の貧血が生理的範囲を超えたものともいえる。出生時の体重が少ないほど早く,かつ強く現われる。鉄剤には反応しない。エリスロポエチンの投与により改善できる症例もある。しかしながら,出生体重が著しく少ない場合,高度の貧血を来して赤血球輸血が必要となることが多い。

なお,ここでの輸血の対象児は,出生後28日以降4か月までであり,赤血球濃厚液の輸血は以下の指針に準拠するが,未熟児は多様な病態を示すため個々の症例に応じた配慮が必要である。

1) 使用指針

(1) 呼吸障害が認められない未熟児

i.Hb値が8g/dL未満の場合

通常,輸血の適応となるが,臨床症状によっては必ずしも輸血の必要はない。

ii.Hb値が8~10g/dLの場合

貧血によると考えられる次の臨床症状が認められる場合には,輸血の適応となる。

持続性の頻脈,持続性の多呼吸,無呼吸・周期性呼吸,不活発,哺乳時の易疲労,体重増加不良,その他

(2) 呼吸障害を合併している未熟児

障害の程度に応じて別途考慮する。

2) 投与方法

(1) 使用血液

採血後2週間以内のMAP加赤血球濃厚液(MAP加RCC)を使用する。

(2)投与の量と速度

i.うっ血性心不全が認められない未熟児

1回の輸血量は10~20mL/kgとし,1~2mL/kg/時間の速度で輸血する。ただし,輸血速度についてはこれ以外の速度(2mL/kg/時間以上)での検討は十分に行われていない。

ii.うっ血性心不全が認められる未熟児

心不全の程度に応じて別途考慮する。

3) 使用上の注意

(1) 溶血の防止

新生児に対する採血後2週間未満のMAP加赤血球濃厚液の安全性は確立されているが,2週間以降のMAP加赤血球濃厚液を放射線照射後に白血球除去フィルターを通してから24Gより細い注射針を用いて輸注ポンプで加圧して輸血すると,溶血を起こす危険性があるので,新生児の輸血に際しては,輸血速度を遅くし,溶血の出現に十分な注意を払う必要がある。

なお,日本赤十字社から供給されるMAP加赤血球濃厚液(赤血球濃厚液―LR「日赤」及び照射赤血球濃厚液―LR「日赤」)は,保存前白血球除去の導入により,ベッドサイドでの白血球除去フィルターを使用する必要はなくなった。

(2) 長時間を要する輸血

血液バッグ開封後は6時間以内に輸血を完了する。残余分は破棄する。1回量の血液を輸血するのに6時間以上を要する場合には,使用血液を無菌的に分割して輸血し,未使用の分割分は使用時まで2~6℃に保存する。

(3) 院内採血

院内採血は医学的に適応があり,「輸血療法の実施に関する指針」のⅩⅡの2の「必要となる場合」に限り行うべきであるが,実施する場合は,採血基準(安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律施行規則(昭和31年厚生省令第22号)別表第二)に従うこととする。また,放射線未照射血液製剤において致死的な合併症である輸血後移植片対宿主病が報告されていることから,原則として15~50Gyの範囲での放射線照射をする必要がある。さらに感染性の副作用が起こる場合があることにも留意する必要がある。

2.新生児への血小板濃厚液の適正使用

1) 使用指針

(1) 限局性の紫斑のみないしは,出血症状がみられず,全身状態が良好な場合は,血小板数が3万/μL未満のときに血小板濃厚液の投与を考慮する。

(2) 広汎な紫斑ないしは紫斑以外にも明らかな出血(鼻出血,口腔内出血,消化管出血,頭蓋内出血など)を認める場合には,血小板数を5万/μL以上に維持する。

(3) 肝臓の未熟性などにより凝固因子の著しい低下を伴う場合には,血小板数を5万/μL以上に維持する。

(4) 侵襲的処置を行う場合には,血小板数を5万/μL以上に維持する。

3.新生児への新鮮凍結血漿の適正使用

1) 使用指針

(1) 凝固因子の補充

ビタミンKの投与にもかかわらず,PT及び/又はAPTTの著明な延長があり,出血症状を認めるか侵襲的処置を行う場合

(2) 循環血液量の1/2を超える赤血球濃厚液輸血時

(3) Upshaw―Schulman症候群(先天性血栓性血小板減少性紫斑病)

2) 投与方法

(1)と(2)に対しては,10~20mL/kg以上を必要に応じて12~24時間毎に繰り返し投与する。

(3)に関しては10mL/kg以上を2~3週間毎に繰り返し投与する。

3) その他

新生児多血症に対する部分交換輸血には,従来,新鮮凍結血漿が使用されてきたが,ほとんどの場合は生理食塩水で代替可能である。

文献

1) 日本小児科学新生児委員会報告:未熟児早期貧血に対する輸血ガイドラインについて.日児誌1995;99:1529―1530

おわりに

輸血医学を含む医学の各領域における進歩発展は目覚しく,最新の知見に基づき本指針の見直しを行った。本指針ができるだけ早急に,かつ広範に浸透するよう,関係者各位の御協力をお願いしたい。今後は,特に新たな実証的な知見が得られた場合には,本指針を速やかに改正していく予定である。

参考1 慢性貧血(造血幹細胞移植)

1) 赤血球輸血

基本的な適応基準

造血幹細胞移植後の造血回復は前処置の強度によって異なる。造血機能を高度に低下させる前処置を用いる場合は,通常,造血が回復するまでに移植後2~3週間を要する。この間,ヘモグロビン(Hb)の低下を認めるために赤血球輸血が必要になる。この場合,通常の慢性貧血と同様にHb値の目安として7g/dLを維持するように,赤血球濃厚液(RCC)を輸血する。発熱,うっ血性心不全,あるいは代謝の亢進がない場合は安静にしていれば,それより低いHb値にも耐えられるので,臨床症状や合併症を考慮しRCCの適応を決定する。

白血球除去赤血球濃厚液

輸血用血液中の同種白血球により,発熱反応,同種抗体産生,サイトメガロウイルス(cytomegalovirus;CMV)感染などの有害事象が生じるので,それらの予防のために原則的に白血球除去赤血球を用いる。特に患者が抗CMV抗体陰性の場合でも,白血球除去輸血により抗CMV抗体陰性の献血者からの輸血とほぼ同等に輸血によるCMV感染を予防できる。

最近の抗体陰性血と白血球除去血の輸血による感染の比較検討では,感染予防率はいずれの場合も90%以上であるが,抗体陰性血の方が高いことが報告されている1)

なお,日本赤十字社から供給されるMAP加赤血球濃厚液(赤血球濃厚液―LR「日赤」及び照射赤血球濃厚液―LR「日赤」)は,白血球数が1バッグあたり1×106以下であるように調製されている。

2) 血小板輸血

基本的な適応基準

出血予防

造血機能を高度に低下させる前処置を用いた造血幹細胞移植後は,患者血小板数が減少するので,出血予防のために血小板濃厚液(PC)の輸血が必要になる。血小板濃厚液の適応は血小板数と臨床症状を参考にする。通常,出血予防のためには血小板数が1~2万/μL以下の場合が血小板濃厚液の適応になる。ただし,感染症,発熱,播種性血管内凝固などの合併症がある場合は出血傾向が増強するので注意する。血小板数を測定し,その結果で当日の血小板濃厚液の適応を決定し輸血することが望まれる。ただし,連日の採血による患者への負担を考慮し,また,定型的な造血幹細胞移植では血小板が減少する期間を予測できるので,週単位での血小板濃厚液輸血を計画できる場合が多い。この場合は,1週間に2~3回の頻度で1回の輸血量としては経験的に10単位が使用されているが,さらに少量の投与でもよい可能性がある。

出血治療

出血症状が皮膚の点状出血や歯肉出血など,軽度の場合は,出血予防に準じて血小板濃厚液を輸血する。消化管出血,肺出血,頭蓋内出血,出血性膀胱炎などにより重篤な出血症状がある場合は血小板数が5万/μL以下の場合が血小板濃厚液の適応になる。

HLA適合血小板濃厚液の適応

抗HLA抗体による血小板輸血不応状態がある場合は,一般的な血小板輸血の適応に準じる。

白血球除去血小板濃厚液の適応

原則的に赤血球輸血と同様に白血球除去血小板濃厚液を用いる。ただし,日本赤十字社から供給される血小板濃厚液を用いる場合は白血球数が1バッグあたり1×106以下であるように調整されてあるので,使用時には白血球除去フィルターを用いる必要はない。

3) 新鮮凍結血漿

通常の新鮮凍結血漿の適応と同様である。複合的な血液凝固因子の低下,及び血栓性血小板減少性紫斑病を合併した場合に適応になる。

4) アルブミン

通常のアルブミン製剤の適応と同様である。

5) 免疫グロブリン

通常の免疫グロブリンの適応と同様,抗生物質や抗ウイルス剤の治療を行っても効果が乏しい感染症に対し適応になり,抗生物質と併用し用いる。

6) 輸血用血液製剤の血液型の選択

同種造血幹細胞移植において,患者血液型と造血幹細胞提供者(ドナー)の血液型が同じ場合と異なる場合がある。これは1.血液型一致(match),2.主不適合(major mismatch),3.副不適合(minor mismatch),4.主副不適合(major and minor mismatch),に分類される。1は患者血液型とドナーの血液型が同一である場合,2は患者にドナーの血液型抗原に対する抗体がある場合,3はドナーに患者の血液型抗原に対する抗体がある場合,4は患者にドナーの血液型抗原に対する抗体があり,かつドナーに患者の血液型抗原に対する抗体がある場合である。

移植後,患者の血液型は造血の回復に伴いドナー血液型に変化していくので,特にABO血液型で患者とドナーで異なる場合には,輸血用血液製剤の適切な血液型を選択する必要がある。以下に血液型選択のための基準を示す。

1.血液型一致

赤血球,血小板,血漿ともに原則的に患者血液型と同型の血液型を選択する。

2.主不適合(major mismatch)

患者の抗体によってドナー由来の赤血球造血が遅延する危険性があるので,これを予防するために血小板,血漿はドナー血液型抗原に対する抗体がない血液型を選択する。赤血球は患者の抗体に反応しない血液型を選択する。

3.副不適合(minor mismatch)

ドナーリンパ球が移植後,患者血液型に対する抗体を産生し,患者赤血球と反応する可能性があるので,赤血球はドナーの抗体と反応しない血液型を選択する。血小板と血漿は患者赤血球と反応する抗体がない血液型を選択する。

4.主副不適合(major and minor mismatch)

ABO血液型主副不適合の場合は,血小板,血漿がAB型,赤血球はO型になる。さらに,移植後ドナーの血液型に対する抗体が検出できなくなればドナーの血液型の赤血球濃厚液を,患者の血液型の赤血球が検出できなくなればドナーの血液型の血小板濃厚液,新鮮凍結血漿を輸血する。

Rho(D)抗原が患者とドナーで異なる場合には,抗Rho(D)抗体の有無によって異なるが,患者がRho(D)抗原陰性の場合には抗Rho(D)抗体があるものとして,あるいは産生される可能性があるものとして考慮する。また,ドナーがRho(D)抗原陰性の場合にも抗Rho(D)抗体があるものとして考慮する。

患者とドナーでABO血液型あるいはRho(D)抗原が異なる場合の推奨される輸血療法を表1にまとめて示す。

移植後,造血がドナー型に変化した後に,再発や生着不全などで輸血が必要になる場合は,ドナー型の輸血療法を行う。

移植前後から造血回復までの輸血における製剤別の選択すべき血液型を示す。

表1 血液型不適合造血幹細胞移植直後の輸血療法

血液型

不適合

血液型

輸血

ドナー

患者

赤血球

血小板,血漿

ABO血液型

主不適合

A

O

O

A(もしなければABも可)

B

O

O

B(もしなければABも可)

AB

O

O

AB

AB

A

A(もしなければOも可)

AB

AB

B

B(もしなければOも可)

AB

副不適合

O

A

O

A(もしなければABも可)

O

B

O

B(もしなければABも可)

O

AB

O

AB

A

AB

A(もしなければOも可)

AB

B

AB

B(もしなければOも可)

AB

主副不適合

A

B

O

AB

B

A

O

AB

Rho(D)抗原

主不適合

D+

D-

D-

D+

副不適合

D-

D+

D-

D+

移植前後から造血回復までの輸血における製剤別の選択血液型を示す。

参考2 一般外科手術

術前の貧血,術中及び術後出血量や患者の病態に応じて,SBOEなどに従い術前輸血準備を行う。術前自己血貯血が可能な患者では,術前貯血を行うことが推奨される。しかし,自己血の過剰な貯血は患者のみならず,輸血部の負担となり,自己血の廃棄にもつながる。予想出血量に応じた貯血を行う必要がある。

重篤な心肺疾患や中枢神経系疾患がない患者において,輸血を開始するHb値(輸血トリガー値)がHb7~8g/dLとする。循環血液量の20%以内の出血量でありHb値がトリガー値以上に保たれている場合には,乳酸リンゲル液や酢酸リンゲル液,生理食塩液などの細胞外液補充液により循環血液量を保つようにする。細胞外液補充液は出血量の3~4倍を血圧,心拍数などのバイタルサインや,尿量,中心静脈圧などを参考に投与する。出血量が循環血液量の10%あるいは500mLを超えるような場合には,ヒドロキシエチルデンプンなどの人工膠質液を投与してもよい。ただし,ヒドロキシエチルデンプンは大量投与により血小板凝集抑制を起こす可能性があるので,投与量は20mL/kgあるいは1000mL以内に留める。循環血液量の50%以上の多量の出血が疑われる場合や血清アルブミン濃度が3.0g/dL未満の場合には,等張アルブミン製剤の併用を考慮する。

赤血球輸血を行う前に採血を行い,Hb値やHt値などを測定するとともに,輸血後はその効果を確認するために再び採血を行いHb値やHt値の上昇を確認する必要がある。

参考3 心臓血管外科手術

輸血量における施設間差

心臓血管外科手術における輸血使用量は施設間差が大きい。これは外科手技の差によるもののほか,輸血に対する考え方の差によるところが大きい2)。それは,少ない輸血量でも,患者の予後に影響することなく心臓血管外科手術が行えている施設があることから示唆される。人工心肺を用いないoff―pump冠動脈バイパス術においては,一般に出血量も少なく,術中に自己血回収を行う場合が多いため,輸血量も少ない。しかし,人工心肺を用いたり,超低体温循環停止を要するような大血管手術における輸血量となると施設間差が大きくなる。これは,凝固因子不足や血小板数不足,血小板機能異常などによる出血傾向に対して治療が行われるのではなく,単なる血小板数の正常以下への減少,人工心肺を使用することによる血小板機能や凝固因子減少が起こるといった検査値,あるいは理論的問題に対して輸血が行われる場合がしばしばあるからであろうと考えられる。そのために,外科的な出血の処置に先立って,凝固因子や血小板補充が行われている場合もしばしばある。

人工心肺使用時には血液希釈が起こる。人工心肺中のHb値についての上限及び下限は明らかではない。人工心肺離脱後はHb値が7~8g/dL以上(<10g/dL)になるようにすることが多い。

18~26℃の低体温により血小板数は減少する。主として門脈系に血小板が捕捉sequestrationされることによる。80%以上の血小板は復温とともに循環血液中に戻る3)。したがって,低体温時の血小板数減少の解釈には注意を要する。また,低体温によりトロンボキサン合成酵素阻害によるトロンボキサンA2産生低下が起こり,血小板凝集能は大きく低下するほか4,5),血管内皮細胞障害も起こる。復温により血小板凝集能は回復するが,完全な回復には時間がかかる。最近よく用いられる常温人工心肺では血小板凝集能低下はない6)

人工心肺を用いた手術において,検査所見に基づいた輸血を行うことで,経験的な方法に比べ出血量を増加させることなく,新鮮凍結血漿や血小板濃厚液などの輸血量を減少させることが出来たと報告されている7)

止血のためには血小板数が5~10万/μL,凝固因子が正常の20~40%あれば十分であることをよく認識する必要がある。血小板輸血や新鮮凍結血漿を投与する場合,正常あるいはそれを上回るような補充は不要であることをよく認識すべきである。

術前の薬物療法が有効な貧血の是正

心臓手術において,術前の貧血は同種血輸血を必要とする重要な因子である。腎不全や,鉄欠乏性貧血もしばしばみられる8)。また,術前に冠動脈造影を受けた患者では貧血になりやすいので注意が必要である。また,鉄欠乏性貧血も存在するので,鉄剤などによる治療が必要なことがある。

血小板濃厚液や新鮮凍結血漿の予防的投与の否定

人工心肺症例における血小板濃厚液や新鮮凍結血漿の予防的投与は勧められない。

出血量に関係する因子

乳児心臓血管外科手術においては,低体温人工心肺中の核心温度が出血量と関係すると報告されている。1歳以上の小児心臓血管外科手術では,再手術,術前からの心不全,長時間にわたる人工心肺時間が出血量と同種血輸血量の多さと関係している9)

同種血輸血量の減少には,術中の凝固検査のチェックを行い,不足した成分を補充する方法が有用である。複雑な心臓手術においては,トロンボエラストグラム(TEG)等が参考になるとの報告がある10)

参考4 肺外科手術

肺切除術の多くは胸腔鏡下に行われるようになった。肺外科手術においては一般に出血量や体液シフトも比較的少ない。肺切除術や肺全摘術においても,Hb値は8.5~10g/dLでよいと考えられる11)

参考5 食道手術

食道全摘術及び胃腸管を用いた食道再建術では,しばしば出血量も多くなるほか,体液のサードスペースへの移行など大きな体液シフトが起こる。輸血準備量は,患者の病態,体格,術前Hb値,術中及び術後出血量などを考慮して決定する。

術前の栄養状態が良好で,貧血もない患者では自己血貯血も考慮する。同種血輸血を用いず自己血輸血のみで管理した症例では,癌の再発率が低下し,再発後の生存期間も長くなるという後ろ向き研究による報告がある12)。自己血輸血を行った方が免疫機能が保たれ,術後感染も低いという報告もある13,14)。輸血が必要であった患者では,輸血をしなかった患者に比べ予後が不良であったという報告もある15)

食道癌患者はしばしば高齢であるが,全身状態が良好な患者における輸血を開始するHb値(輸血トリガー値)は,Hb値7~8g/dLとする。冠動脈疾患などの心疾患があり循環予備力が減少した患者や,慢性閉塞性肺疾患などの肺疾患により術後の血液酸素化悪化が予想される患者,骨髄における血球産生能力が低下している患者では,輸血トリガー値はより高いものとするのが妥当である。ただし,10g/dLより高く設定する必要はない。

参考6 整形外科手術

膝関節全置換術や股関節全置換術において,等容積性の希釈式自己血輸血,術中回収式自己血輸血,さらに体温の積極的維持により同種血輸血量を減少させることができると示唆されている16)。過剰輸血に注意が必要である17)

膝関節全置換術においては,術中はターニケットを使用するために,術中出血は比較的少ないが術後出血量も多い。術中に等容積性の希釈式自己血輸血により自己血を採取し,術後に返血したり18),術後ドレーン血を返血するという自己血輸血によっても同種血輸血量を減少させることができる19)

脊椎外科手術においてはしばしば出血量が多くなり,赤血球濃厚液のほか,血小板濃厚液や新鮮凍結血漿などが必要になる場合がある。適宜,プロトロンビン時間,INR,部分トロンボプラスチン時間の測定を行い,使用指針に従って実施する20)

低体温による血小板機能障害や凝固系抑制が起こるが,軽度低体温でも股関節全置換術では出血量が増加すると報告されている21)。外科的止血に加え,低体温のような出血量を増加させる要因についても注意が必要である。

参考7 脳神経外科手術

脳神経外科手術は,脳腫瘍手術,脳動脈瘤クリッピングや頸動脈内膜切除術などの血管手術,脳挫傷や硬膜外血腫,脳外傷手術など多岐にわたる。また,整形外科との境界領域であるが,脊髄手術も含まれる。

脳神経外科手術の基本は,頭蓋内病変の治療と,それらの病変による頭蓋内圧上昇などにより起こる二次的な損傷を防ぐことにある。したがって,脳神経外科手術においては,まず循環血液量を正常に保ち平均血圧及び脳潅流圧を十分に保つことが重要である。しかし,脳神経外科手術においては,循環血液量評価がしばしば困難である。脳脊髄液や術野の洗浄液のために,吸引量やガーゼ重量を測定しても,しばしば出血量の算定が難しい。また,脳浮腫の予防や治療,脳脊髄液産生量減少のためにマンニトールやフロセミドのような利尿薬を用いるために,尿量が循環血液量を反映しない。また,脳浮腫を抑制するために,血清浸透圧減少を防ぐことが重要である。正常血清浸透圧は295mOsm/Lであるのに対し,乳酸リンゲル液や酢酸リンゲル液などはやや低張液である。生理食塩水は308mOsm/Lと高張であるが,大量投与により高塩素性代謝性アシドーシスを起こすので注意が必要である。

脳浮腫を防ぐために膠質浸透圧が重要であるとしばしば信じられているが,それを示す科学的証拠は乏しい。ほとんどの開頭手術では膠質液の投与は不要である。しかし,脳外傷や脳動脈瘤破裂,脳血管損傷などにより出血量が多くなった場合(たとえば循環血液量の50%以上)には,ヒドロキシエチルデンプンなどの人工膠質液や,アルブミン溶液投与が必要なことがある。ただし,ヒドロキシエチルデンプン大量投与では凝固因子希釈に加え,血小板凝集抑制,凝固第Ⅷ因子複合体への作用により出血傾向を起こす可能性がある。

参考8 泌尿器科手術

根治的前立腺切除術においては,術前の貯血式自己血輸血あるいは,術中の等容積性の希釈式自己血輸血により同種血輸血の投与量を減少させることができる22)。しかし,メタ分析では,希釈式自己血輸血による同種血輸血の減少については,疑問がもたれている23)

根治的前立腺切除術において,術中の心筋虚血発作は,術後頻脈やHt値が28%未満では多かったという報告がある24)

参考9 大量出血や急速出血に対する対処

大量出血は循環血液量よりも24時間以内における出血量が多い場合をいう。しかし,外科手術の場合,特に外傷に対する手術では,数時間という短時間の間に循環血液量を超えるような出血や,急速に循環血液量の1/3~1/2を超えるような出血が起こる場合がある。

輸血準備の時間的余裕がある場合には,交差適合試験と放射線照射を行った赤血球濃厚液を投与する。また,大量輸血時の適合血の選択については,「輸血療法の実施に関する指針」のⅤの3を参照。

急速大量輸血では代謝性アシドーシスや高カリウム血症が起こる可能性がある。高カリウム血症は,輸血速度が1.2mL/kg/minを超えた場合に起こる25)。現在,輸血ポンプや加圧バッグを備えた血液加温装置などの技術的進歩により高速度の輸血が可能になり,心停止を招くような高度の高カリウム血症が起こる可能性がある26,27)。循環不全などによる代謝性アシドーシスも高カリウム血症を増悪させる要因となる。

大量出血患者では低体温になりやすいが,特に輸液剤や輸血用血液製剤の加温が不十分な場合にはさらに低体温となりやすい。低体温は術後のシバリングとそれによる酸素消費量の重大な増加を起こすだけでなく,感染症の増加などを起こすことが示唆されている。急速・大量輸血を行う場合には,対流式輸液・輸血加温器など効率のよい加温器を使用する必要がある。その他,温風対流式加温ブランケットなどの使用により低体温を防ぐよう努力するべきである。

MAP加赤血球濃厚液や新鮮凍結血漿にはクエン酸が含まれているため,急速輸血により一時的に低カルシウム血症が起こる可能性がある28)。しかし,低カルシウム血症は一時的なものであり,臨床的に重大な影響を持つことは少ない。大量輸血時に血圧低下,心収縮性減少がある場合や,イオン化カルシウム濃度測定により低カルシム血症が明らかな場合には,塩化カルシウムやグルコン酸カルシウムなどによりカルシウム補充を行う。

循環血液量以上の出血が起きた場合,新鮮凍結血漿により凝固因子を補ったり,血小板輸血により血小板を補う必要性は増加する29)。循環血液量以上の出血が起きても,新鮮凍結血漿を出血傾向予防のために投与することの有用性は否定されている30)。血小板輸血にあたっては,血小板回収率から考えてABO適合血小板濃厚液を用いることが望ましい。ABO不適合血小板濃厚液も使用は可能であるが,血小板回収率はABO適合血小板濃厚液に比べ低くなることに注意が必要である。

これは,大量出血に伴う出血傾向が,凝固障害によるものだけでなく,重篤な低血圧31),末梢循環不全による代謝性アシドーシス,低体温といったさまざまな因子に関係しているので注意深く観察して対処すべきである32)

参考10 小児の外科手術

循環予備能が小さい小児患者において,成人の出血量による輸血開始基準を当てはめることは問題になる場合があり,出血が予想される緊急手術術前の貧血(8g/dL未満)も赤血球輸血の対象として考慮する。また,外傷・術中出血による循環血液量の15~20%の喪失の場合も赤血球輸血を考慮する。いずれの場合も,臨床状態から輸血開始の判断をすべきである。

参考11 慢性貧血患者における代償反応

外科手術患者においてはしばしば術前に貧血が認められる。多くの慢性貧血患者においては,赤血球量は減少しているが,血漿量はむしろ増加しており,循環血液量は正常に保たれている。Ht値低下に伴う血液粘性減少により血管抵抗が減少するため,1回心拍出量は増加し,心拍出量は増加する。そのため,血液酸素含有量は減少するものの,心拍出量増加により代償されるため,末梢組織への血液酸素運搬量は減少しない。組織における酸素摂取率は上昇する。ただし,心疾患があり心機能障害がある患者や高齢者では,貧血となっても心拍出量の代償的増加が起きにくい。

慢性貧血では2,3―DPG増加により酸素解離曲線の右方シフトが起こるため,末梢組織における血液から組織への酸素受け渡しは促進される33)。MAP加赤血球濃厚液中の2,3―DPG量は減少しているため,多量の輸血を行いヘモグロビン濃度を上昇させ血液酸素含有量を増加させても,組織への酸素供給量は増加しないため,直ちに期待すべき効果がみられないことがあることに注意する34)

※2,3―DPG:2,3―ジホスホグリセリン酸

参考12 手術を安全に施行するのに必要と考えられるHt値やHb値の最低値

全身状態が良好な高齢者の整形外科手術において,Ht値を41%から28%に減少させても,心拍出量増加が起きなかったという報告35)はあるが,Ht値を27~29%としても若年者と手術死亡率は変わらなかったという報告もある36)。循環血液量が保たれるならば,Ht値を45%から30%まで,あるいは40%から28%に減少させても,酸素運搬量は減少しないと報告されている37)

正常な状態では全身酸素供給量は全身酸素消費量を上回っている。しかし,全身酸素供給量が減少してくると,全身酸素消費量も減少してくる。このような状態では嫌気的代謝が起こっている。この時点での酸素供給量をcritical oxygen delivery(DO2crit)という。冠動脈疾患患者ではDO2critは330mL/minであると報告されている38)。手術時に500~2,000mL出血しHt値が24%以下になった患者では,死亡率が高かったという報告もある39)。急性心筋梗塞を起こした高齢者ではHt値が30%未満で死亡率が上昇するが,輸血によりHt値を30~33%に上昇させると死亡率が改善するという報告がある。また,根治的前立腺切除術において,術中の心筋虚血発作は,術後頻脈やHt値が28%未満では多かったという報告がある40)。しかし,急性冠症候群において輸血を受けた患者では,心筋梗塞に移行した率や30日死亡率が高いことが報告されている41)

冠動脈疾患患者においては,高度の貧血は避けるべきであるが,一方,Ht値を上昇させすぎるのも危険である可能性がある。Hb値10g/dL,Ht値30%程度を目標に輸血を行うのが適当であると考えられる42)

全身状態が良好な若年者では循環血液量が正常に保たれていれば,Ht値が24~27%,Hbが8.0~9.0g/dLであっても問題がないと考えられる43,44,45)。生理学的にはHbが6.0~7.0g/dLであっても生体は耐えられると考えられるが,出血や心機能低下などが起きた場合に対処できる予備能は,非常に少なくなっていると考えるべきである。

周術期の輸血における指標やガイドラインについては,米国病理学会や米国麻酔科学会(ASA)も輸血に対するガイドラインを定めている46,47,48)。実際,Hb値が10g/dLで輸血することは少なくなっている49)

参考13 術中の出血コントロールについて

出血量の多少はあるにしろ,手術により出血は必ず起こる。出血量を減少させるには,外科的止血のほか,出血量を増加させる内科的要因に対処する必要がある48)

出血のコントロールには,血管の結紮やクリップによる血管閉塞,電気凝固などによる確実な外科的止血のほか,高度の凝固因子不足に対しては新鮮凍結血漿輸注,高度の血小板減少症や血小板機能異常に対しての血小板濃厚液投与など,術中の凝固検査のチェックを行い,不足した成分を補充する方法が有用である。

また,出血を助長するような因子を除去することも必要である。整形外科手術などでは低血圧麻酔(人為的低血圧)による血圧のコントロールが有用な場合がある。また,低体温は軽度のものであっても術中出血を増加させる危険があるので,患者の保温にも十分に努めなければならない。

不適切な輸血療法を防ぐためには,医師の輸血に関する再教育も重要である49)

参考14 アフェレシスに関連する事項について

置換液として膠質浸透圧を保つため,通常は等張アルブミン製剤等を用いるが,以下の場合に新鮮凍結血漿が用いられる場合がある。

1) 重篤な肝不全に対して,主として複合的な凝固因子の補充の目的で行われる血漿交換療法

保存的治療若しくは,肝移植によって病状が改善するまでの一時的な補助療法であり,PTがINR2.0以上(30%以下)を開始の目安とする。必要に応じて,血液濾過透析等を併用する。原疾患に対する明確な治療方針に基づき,施行中もその必要性について常に評価すること。原疾患の改善を目的とする治療が実施できない病態においては,血漿交換療法の適応はない。

重篤な肝障害において,新鮮凍結血漿を用いた血漿交換を強力に行う場合,クエン酸ナトリウムによる,代謝性アルカローシス,高ナトリウム血症や,膠質浸透圧の急激な変化を来たす場合があるので,経時的観察を行い,適切な対応を行うこと。

2) 並存する肝障害が重篤で,除去した止血系諸因子の血中濃度のすみやかな回復が期待できない場合。

3) 出血傾向若しくは血栓傾向が著しく,一時的な止血系諸因子の血中濃度の低下が危険を伴うと予想される場合。このような場合,新鮮凍結血漿が置換液として用いられるが,病状により必ずしも置換液全体を新鮮凍結血漿とする必要はなく,開始時は,等張アルブミンや,人工膠質液を用いることが可能な場合もある。

4) 血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)・溶血性尿毒症症候群(HUS) :TTPでは血管内皮細胞由来の,通常よりも分子量の大きいvon Willebrand Factorが,微小循環で血小板血栓を生じさせ,本症の発症に関与している。また,von Willebrand Factor Cleaving Protease(vWF―CP―ADAMTS13)の著減や阻害因子の出現が主要な病因とされ,新鮮凍結血漿を置換液として血漿交換療法を行い,vWF―CPを補充し阻害因子を除くことが最も有効である。血漿交換療法が行い難い場合や,遺伝性にvWF―CPの欠乏を認める場合,vWF―CPの減少を補充するために,新鮮凍結血漿の単独投与が効果を発揮する場合がある。一部の溶血性尿毒症症候群においても,新鮮凍結血漿を用いた血漿交換や血漿輸注が有効な場合がある。

*BCSH.Guideline Guidelines on the Diagnosis and Management of the Thrombotic Microangiopathic Haemolytic Anemias. British Journal of Haematology 2003;120:556―573

参考15 赤血球濃厚液の製法と性状

わが国で, 全血採血に使用されている血液保存液は,CPD液(citrate―phosphate―dextrose:クエン酸ナトリウム水和物26.30g/L,クエン酸水和物3.27g/L,ブドウ糖23.20g/L,リン酸二水素ナトリウム2.51g/L)及びACD―A液(acid―citrate―dextrose:クエン酸ナトリウム水和物22.0g/L,クエン酸水和物8.0g/L,ブドウ糖22.0g/L)であり,現在,日本赤十字社から供給される赤血球製剤では,CPD液が使用されている。

また,赤血球保存用添加液としてはMAP液(mannitol―adenine―phosphate:D―マンニトール14.57g/L,アデニン0.14g/L,リン酸二水素ナトリウム二水和物0.94g/L,クエン酸ナトリウム1.50g/L,クエン酸0.20g/L,ブドウ糖7.21g/L,塩化ナトリウム4.97g/L)が使用されている。

MAP加赤血球濃厚液(MAP加RCC)

日本赤十字社は,これまで,MAP加赤血球濃厚液として赤血球M・A・P「日赤」及び照射赤血球M・A・P「日赤」を供給してきたが,平成19年1月より,保存前に白血球を除去したMAP加赤血球濃厚液(赤血球濃厚液―LR「日赤」及び照射赤血球濃厚液―LR「日赤」)を供給している。

赤血球濃厚液―LR「日赤」は,血液保存液(CPD液)を28mL又は56mL混合したヒト血液200mL又は400mLから,当該血液バッグに組み込まれた白血球除去フィルターを用いたろ過により白血球を除去した後に血漿の大部分を除去した赤血球層に,血球保存用添加液(MAP液)をそれぞれ約46mL,約92mL混和したもので,CPD液を少量含有する。照射赤血球濃厚液―LR「日赤」は,これに放射線を照射したものである。

赤血球濃厚液―LR「日赤」及び照射赤血球濃厚液―LR「日赤」の容量は,200mL全血由来(RCC―LR―1)の約140mLと400mL全血由来(RCC―LR―2)の約280mLの2種類がある。

製剤中の白血球数は1バッグ当たり1×106個以下であり,400mL全血由来の製剤では,Ht値は50~55%程度で,ヘモグロビン(Hb)含有量は20g/dL程度である。

赤血球濃厚液―LR「日赤」及び照射赤血球濃厚液―LR「日赤」の保存中の経時的な変化を示す(表2)50,51)

赤血球濃厚液―LR「日赤」及び照射赤血球濃厚液―LR「日赤」は,2~6℃で保存する。

日本赤十字社では,MAP加赤血球濃厚液(赤血球M・A・P「日赤」)の製造承認取得時には有効期間を42日間としていたが,エルシニア菌混入の可能性があるため,現在は有効期間を21日間としている。

表2 赤血球濃厚液―LR「日赤」及び照射赤血球濃厚液―LR「日赤」の経時的変化

赤血球濃厚液―LR「日赤」(RCC―LR―2;400mL採血由来)(n=8)

項目

1日目

7日目

14日目

21日目

28日目

容量

(mL)

276.9±14.3

白血球数

すべて適合

上清ヘモグロビン濃度

(mg/dL)

12.8±3.5

25.6±5.4

28.9±6.3

42.7±9.2

55.9±14.1

ATP濃度

(μmol/gHb)

5.5±0.9

7.3±0.9

6.5±0.9

6.0±1.1

5.3±1.2

2.3-DPG濃度

(μmol/gHb)

14.5±0.9

12.2±1.8

3.5±1.5

0.3±0.4

0.0±0.0

上清ナトリウム濃度

(mEq/L)

124.9±1.7

114.3±1.5

109.8±1.0

106.5±2.4

102.4±3.2

上清カリウム濃度

(mEq/L)

1.2±0.1

19.3±2.1

30.5±2.9

38.7±2.6

45.0±2.4

上清総カリウム量

(mEq)

0.2±0.1

2.5±0.3

3.9±0.4

4.9±0.4

5.7±0.4

pH

7.23±0.03

7.08±0.02

6.87±0.02

6.71±0.03

6.63±0.03

赤血球数

(×104/μL)

602±32

603±35

602±36

603±36

602±38

ヘマトクリット

(%)

54.2±1.9

53.2±1.8

53.1±1.9

53.2±2.2

52.8±2.3

平均赤血球容積

(fL)

90.2±4.2

88.3±4.1

88.3±4.1

88.4±4.3

87.8±4.3

ヘモグロビン濃度

(g/dL)

18.9±0.8

19.0±0.7

18.9±0.8

18.8±0.7

18.8±0.8

10%溶血点

(%NaCl)

0.517±0.018

0.495±0.015

0.499±0.017

0.500±0.020

0.501±0.023

50%溶血点

(%NaCl)

0.473±0.018

0.452±0.019

0.452±0.019

0.449±0.021

0.446±0.021

90%溶血点

(%NaCl)

0.422±0.025

0.386±0.021

0.380±0.022

0.372±0.024

0.372±0.025

照射赤血球濃厚液―LR「日赤」1)(Ir―RCC―LR―2;400mL採血由来)(n=8)

項目

1日目

7日目

14日目

21日目

28日目

容量

(mL)

274.8±18.3

白血球数

すべて適合

上清ヘモグロビン濃度

(mg/dL)

12.8±4.3

24.8±7.1

35.0±8.5

49.3±15.6

68.8±24.8

ATP濃度

(μmol/gHb)

6.3±0.7

6.4±0.8

6.4±0.6

5.9±0.6

5.0±0.9

2.3-DPG濃度

(μmol/gHb)

14.0±1.4

9.7±2.6

2.8±2.0

0.6±0.9

0.1±0.3

上清ナトリウム濃度

(mEq/L)

123.4±1.6

100.1±3.3

92.4±3.8

89.3±3.2

85.8±3.2

上清カリウム濃度

(mEq/L)

1.7±0.3

36.3±4.8

49.5±4.8

56.6±4.6

60.3±4.6

上清総カリウム量

(mEq)

0.2±0.1

4.6±0.7

6.2±0.8

7.1±0.8

7.6±0.8

pH

7.20±0.02

7.06±0.02

6.84±0.02

6.70±0.02

6.64±0.02

赤血球数

(×104/μL)

615±25

620±29

621±27

617±26

621±24

ヘマトクリット

(%)

54.3±1.6

52.2±1.6

51.5±1.7

51.2±1.9

51.1±1.8

平均赤血球容積

(fL)

88.3±2.4

84.2±2.3

83.0±2.4

82.9±2.1

82.4±2.2

ヘモグロビン濃度

(g/dL)

19.1±0.7

19.1±0.7

19.0±0.7

19.1±0.7

19.0±0.7

10%溶血点

(%NaCl)

0.521±0.017

0.484±0.016

0.475±0.018

0.472±0.019

0.473±0.023

50%溶血点

(%NaCl)

0.477±0.018

0.429±0.020

0.415±0.019

0.410±0.019

0.409±0.021

90%溶血点

(%NaCl)

0.425±0.030

0.353±0.045

0.349±0.016

0.345±0.022

0.345±0.030

平均±標準偏差

1)1日目(採血当日)に15Gγ以上50Gγ以下の放射線を照射

(日本赤十字社社内資料より)

参考16 血小板濃厚液の製法と性状

血小板濃厚液の調製法には,採血した全血を常温に保存し製剤化する方法と,単一供血者から成分採血装置を使用して調製する方法があるが,日本赤十字社から供給される血小板濃厚液では,全血採血由来の保存前白血球除去の導入により,白血球とともに血小板も除去されることから(製造工程において使用する白血球除去フィルターに吸着される),現在は,全血採血からは製造しておらず,後者の成分採血による方法のみが行われている。

血小板製剤では,血小板数を単位数で表す。1単位は0.2×1011個以上である。

血小板濃厚液の製剤規格,実単位数と含有血小板数との関係を表3に示す。

HLA適合血小板濃厚液には,10,15,20単位の各製剤がある。

これらの血小板濃厚液の中には少量の赤血球が含まれる可能性がある。なお,平成16年10月より,保存前白血球除去技術が適用され,製剤中の白血球数は1バッグ当たり1×106個以下となっている。

調製された血小板濃厚液は,輸血するまで室温(20~24℃)で水平振盪しながら保存する。

有効期間は採血後4日間である。

表3 血小板製剤の単位換算と含有血小板数

製剤規格

実単位数

含有血小板数(×1011)

1単位(約20mL)

1

0.2≦

2単位(約40mL)

2

0.4≦

5単位(約100mL)

1.0×1011

5

1.0≦~<1.2

6

1.2≦~<1.4

7

1.4≦~<1.6

8

1.6≦~<1.8

9

1.8≦~<2.0

10単位(約200mL)

2.0×1011

10

2.0≦~<2.2

11

2.2≦~<2.4

12

2.4≦~<2.6

13

2.6≦~<2.8

14

2.8≦~<3.0

15単位(約250mL)

3.0×1011

15

3.0≦~<3.2

16

3.2≦~<3.4

17

3.4≦~<3.6

18

3.6≦~<3.8

19

3.8≦~<4.0

20単位(約250mL)

4.0×1011

20

4.0≦~<4.2

21≦

4.2≦

現在、日本赤十字社から供給される血小板製剤は全て成分採血由来である。

参考17 新鮮凍結血漿(FFP)の製法と性状

全血採血由来の新鮮凍結血漿(新鮮凍結血漿―LR「日赤」)は,血液保存液(CPD液)を28mL又は56mL混合したヒト血液200mL又は400mLから当該血液バッグに組み込まれた白血球除去フィルターを用いたろ過により白血球の大部分を除去し,採血後8時間以内に分離した新鮮な血漿を-20℃以下に置き,凍結したもので,容量は約120mL(FFP―LR―1)及び約240mL(FFP―LR―2)である。

成分採血由来の新鮮凍結血漿(新鮮凍結血漿「日赤」)は,血液保存液(ACD―A液)を混合し,血液成分採血により白血球の大部分を除去して採取した新鮮な血漿を採血後6時間以内に-20℃以下に置き,凍結したもので,容量は約450mL(FFP―5)である。

製剤中の白血球数は,1バッグ当たり1×106個以下である。

新鮮凍結血漿は,-20℃以下で凍結保存する。有効期間は採血後1年間である。

新鮮凍結血漿―LR「日赤」の経時的変を表4に示す。含有成分は血液保存液により希釈されて,単位容積当たりの濃度は正常血漿と比較して,およそ10~15%低下している。

また,血漿中の凝固因子活性の個人差は大きいが,新鮮凍結血漿中でもほぼ同様な凝固因子活性が含まれている。ただし,不安定な因子である凝固第Ⅴ,Ⅷ因子活性はわずかながら低下する。一方,ナトリウム濃度は血液保存液中のクエン酸ナトリウム水和物及びリン酸二水素ナトリウムの添加により増量している。なお,正常血漿1mL中に含まれる凝固因子活性を1単位(100%)という。また,日本赤十字社が供給する輸血用血液製剤は,採血時における問診等の検診,採血血液に対する感染症関連の検査等の安全対策を講じており,さらに新鮮凍結血漿では6ヵ月間の貯留保管注1)を行っているが,感染性の病原体に対する不活化処理はなされておらず,人の血液を原料としていることに由来する感染症伝播等のリスクを完全には排除できないため,疾病の治療上の必要性を十分に検討の上,必要最小限の使用にとどめる必要がある。

注1) 貯留保管(Quarantine)とは,一定の期間隔離保管する方法である。

採血時の問診や献血血液に対する核酸増幅検査(NAT)を含めた感染症関連検査等でも,感染リスクの排除には限界がある。

貯留保管期間中に,遡及調査の結果及び献血後情報等により感染リスクの高い血液があることが判明した場合,その輸血用血液(ここでは新鮮凍結血漿)及び血漿分画製剤用原料血漿を確保(抜き取って除外)することにより,より安全性の確認された血液製剤を医療機関へ供給する安全対策である。

新鮮凍結血漿の有効期間は1年間であるが,日本赤十字社では,6ヵ月間の貯留保管をした後に医療機関へ供給している。

表4 新鮮凍結血漿―LR「日赤」の経時的変化

項目

新鮮凍結血漿―LR「日赤」(FFP―LR―2,400mL採血由来)(n=7)

1日目

1ヵ月目

3ヵ月目

6ヵ月目

9ヵ月目

12ヵ月目

13ヵ月目

容量

(mL)

229±141)

白血球数

すべて適合1)

凝固第Ⅱ因子

(%)

1002)

97.4±1.9

97.0±1.9

95.0±2.9

87.0±2.1

82.6±6.7

81.9±2.3

凝固第Ⅴ因子

(%)

1002)

96.0±3.6

95.0±6.0

92.8±2.6

89.7±3.2

89.6±2.9

89.4±2.6

凝固第Ⅷ因子

(%)

1002)

95.6±3.8

95.3±4.0

82.3±7.0

82.1±5.9

80.6±6.2

75.0±8.3

プロトロンビン時間

(秒)

9.2±0.33)

9.2±0.4

9.4±0.3

9.4±0.3

9.3±0.2

9.3±0.2

9.5±0.4

活性化部分

トロンボプラスチン時間

(秒)

40.3±4.23)

40.3±4.5

41.7±3.4

38.9±4.2

44.2±6.2

42.6±3.4

42.2±2.7

上清ヘモグロビン濃度

(mg/dL)

5.0±0.93)

7.6±3.0

11.4±6.7

上清ナトリウム濃度

(mEq/L)

167.4±2.13)

165.5±3.0

169.5±4.0

上清カリウム濃度

(mEq/L)

3.3±0.23)

4.2±0.4

4.2±0.1

上清総カリウム量

(mEq)

0.8±0.13)

1.0±0.1

1.0±0.1

pH

7.34±0.033)

7.39±0.03

7.37±0.02

平均±標準偏差

1)n=45,2)1日目(採血当日)の活性を100%とした,3)n=42,4)n=12

(日本赤十字社社内資料より)

参考18 アルブミンの製法と性状

1) 製法・製剤

アルブミン製剤は,多人数分の血漿をプールして,冷エタノール法により分画されたたん白成分である。含有たん白質の96%以上がアルブミンである製剤を人血清アルブミンといい,等張(正常血漿と膠質浸透圧が等しい)の5%溶液と高張の20,25%溶液とがある。また,等張製剤にはアルブミン濃度が4.4w/v%以上で含有総たん白質の80%以上がアルブミン(一部のグロブリンを含む)である加熱人血漿たん白製剤もある。これらの製剤はいずれも60℃10時間以上の液状加熱処理がなされており,エンベロープをもつ肝炎ウイルス(HBV,HCVなど)やヒト免疫不全ウイルス(HIV)などの既知のウイルス性疾患の伝播の危険はほとんどない。しかしながら,これまでに感染例の報告はないもののエンベロープのないA型肝炎ウイルス(HAV),E型肝炎ウイルス(HEV)などやプリオン等の感染の可能性については今後も注視していく必要がある。

2) 性状・代謝

アルブミンは585個のアミノ酸からなる分子量約66,500ダルトンのたん白質である。正常血漿の膠質浸透圧のうち80%がアルブミンによって維持されており,アルブミン1gは約20mLの水分を保持する。アルブミンの生体内貯蔵量は成人男性では約300g(4.6g/kg体重)であり,全体の約40%は血管内に,残りの60%は血管外に分布し,相互に交換しながら平衡状態を保っている。生成は主に肝(0.2g/kg/日)で行われる。この生成はエネルギー摂取量,血中アミノ酸量,ホルモンなどにより調節され,これに血管外アルブミン量,血漿膠質浸透圧などが関与する。アルブミンの生成は血管外アルブミン量の低下で亢進し,増加で抑制され,また膠質浸透圧の上昇で生成は抑制される。その分解は筋肉,皮膚,肝,腎などで行われ,1日の分解率は生体内貯蔵量のほぼ4%である。また生体内でのアルブミンの半減期は約17日である。

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46) College of American Pathologists:Practice parameter fro the use of fresh―frozen plasma, crypprecipitate, and platelets.JAMA 1994;271:777―781

47) Simon A, et al:Practice parameter for the use of red blood cell transfusions.Arch Pathol Lab Med 1998;122:130―138

48) American Society of Anesthesiologists Task Force on Blood Component Therapy:Practice guidelines for blood component therapy:A report by the American Society of Anesthesiologists Task Force on blood component therapy. Anesthesiology 1996; 84:732―747

49) Nuttall GA, et al: Current transfusion practices of members of the American Society of Anesthesiologists: A survery. Anesthesiology 2003;99:1433―1443

50) 柴雅之,他:MAP加濃厚赤血球の製造と長期保存試験.日輸血会誌1991;37:404―410

51) 笹川滋,他:長期保存MAP加濃厚赤血球の有効性について―Survival study―日輸血会誌1991;37:411―413

参考資料1 DIC診断基準―1988年改正―

Ⅰ 基礎疾患

得点

あり

1

なし

0

Ⅱ 臨床症状

 

1) 出血症状(注1)

 

あり

1

なし

0

2) 臓器症状

 

あり

1

なし

0

Ⅲ 検査成績

 

1) 血清FDP値(μg/mL)

 

40≦

3

20≦ <40

2

10≦ <20

1

10>

0

2) 血小板数(×103/μL)(注1)

50≧

3

80≧ >50

2

120≧ >80

1

120<

0

3) 血漿フィブリノゲン濃度

(mg/dL)

 

100≧

2

150≧ >100

1

150<

0

4) プロトロンビン時間

時間比(正常対照値で割った値)

1.67≦

2

1.25≦ <1.67

1

1.25>

0

Ⅳ 判定(注2)

1) 7点以上

DIC

6点

DICの疑い(注3)

5点以下

DICの可能性少ない

2) 白血球その他注1に該当する疾患

4点以上

DIC

3点

DICの疑い(注3)

2点以下

DICの可能性少ない

Ⅴ 診断のための補助的検査成績,所見

1) 可溶性フィブリンモノマー陽性

2) D―Dダイマーの高値

3) トロンビン・アンチトロンビンⅢ複合体の高値

4) プラスミン・α2プラスミンインヒビター複合体の高値

5) 病態の進展に伴う得点の増加傾向の出現。とくに数日内での血小板数あるいはフィブリノゲンの急激な減少傾向ないしFDPの急激な増加傾向の出現。

6) 抗凝固療法による改善。

注1:白血病および類縁疾患,再生不良性貧血,抗腫傷剤投与後など骨髄巨核球減少が顕著で,高度の血小板減少をみる場合は血小板数および出血症状の項は0点とし,判定はⅣ―2)に従う。

注2:基礎疾患が肝疾患の場合は以下の通りとする。

a.肝硬変および肝硬変に近い病態の慢性肝炎(組織上小葉改築傾向を認める慢性肝炎)の場合には、総得点から3点減点した上で,Ⅳ―1)の判定基準に従う。

b.激症肝炎および上記を除く肝疾患の場合は,本診断基準をそのまま適用する。

注3:DICの疑われる患者でⅤ,診断のための補助的検査成績,所見のうち2項目以上満たせばDICと判定する。

Ⅶ 除外規定

1) 本診断基準は新生児,産科領域のDIC診断には適用しない。

2) 本診断基準は激症肝炎のDICの診断には適用しない。

厚生省血液凝固異常症調査研究班報告

(昭和62年度)

参考資料2

画像8 (97KB)別ウィンドウが開きます

(参考)

「血液製剤の使用指針」,「血小板製剤の使用基準」及び「輸血療法の実施に関する指針」の改定のための作成委員(平成17年9月当時)

○ 薬事・食品衛生審議会血液事業部会適正使用調査会

氏名

ふりがな

現職

稲田英一

いなだえいいち

順天堂大学医学部麻酔科学・ペインクリニック講座教授

川口毅

かわぐちたけし

昭和大学医学部(公衆衛生学)教授

河野文夫

かわのふみお

独立行政法人国立病院機構熊本医療センター臨床研究部長

木村厚

きむらあつし

(社)全日本病院協会常任理事((医)一成会理事長)

清水勝

しみずまさる

杏林大学医学部臨床検査医学講座 客員教授

白幡聡

しらはたあきら

産業医科大学小児科学教室教授

鈴木洋通

すずきひろみち

埼玉医科大学腎臓内科教授

◎高橋孝喜

たかはしこうき

東京大学医学部附属病院輸血部教授・日本輸血学会総務幹事

高松純樹

たかまつじゅんき

名古屋大学医学部附属病院血液部教授

田島知行

たじまともゆき

(社)日本医師会常任理事

花岡一雄

はなおかかずお

JR東京総合病院長

堀内龍也

ほりうちりゅうや

群馬大学大学院医学系研究科薬効動態制御学教授・附属病院薬剤部長

三谷絹子

みたにきぬこ

獨協医科大学血液内科教授

森下靖雄

もりしたやすお

群馬大学理事・医学部附属病院長

門田守人

もんでんもりと

大阪大学大学院医学系研究科教授(病態制御外科)

◎は座長 (計15名,氏名五十音順)

○ 専門委員

氏名

ふりがな

現職

上田恭典

うえだやすのり

(財)倉敷中央病院血液内科

高本滋

たかもとしげる

愛知医科大学輸血部教授

月本一郎

つきもといちろう

東邦大学医学部第1小児科教授

半田誠

はんだまこと

慶應義塾大学医学部助教授 輸血センター室長

比留間潔

ひるまきよし

東京都立駒込病院輸血科医長

前川平

まえかわたいら

京都大学医学部附属病院輸血部教授

山本保博

やまもとやすひろ

日本医科大学救急医学教授

(計7名,氏名五十音順)

「血液製剤の使用指針」及び「輸血療法の実施に関する指針」の一部改正時(平成24年3月)の委員

○ 薬事・食品衛生審議会血液事業部会適正使用調査会

氏名

ふりがな

現職

稲田英一

いなだえいいち

順天堂大学医学部教授

稲波弘彦

いななみひろひこ

岩井整形外科内科病院理事長・院長

薄井紀子

うすいのりこ

東京慈恵会医科大学附属第三病院腫瘍・血液内科 診療部長

大戸斉

おおとひとし

福島県立医科大学輸血・移植免疫部教授

兼松隆之

かねまったかし

長崎市病院局 病院事業管理者

小山信彌

こやまのぶや

東邦大学医学部外科講座心臓血管外科教授

鈴木邦彦

すずきくにひこ

社団法人日本医師会常任理事

鈴木洋史

すずきひろし

東京大学医学部附属病院教授・薬剤部長

◎高橋孝喜

たかはしこうき

東京大学医学部附属病院輸血部教授・輸血部長

田中純子

たなかじゅんこ

広島大学大学院疫学疾病制御学講座・教授

田中政信

たなかまさのぶ

東邦大学医療センター大森病院産婦人科教授

種本和雄

たねもとかずお

川崎医科大学胸部心臓血管外科教授

牧野茂義

まきのしげよし

国家公務員共済組合連合会虎の門病院輸血部長

益子邦洋

ましこくにひろ

日本医科大学千葉北総病院救命救急センター長・教授

三谷絹子

みたにきぬこ

獨協医科大学血液内科教授

◎は座長 (計15名,氏名五十音順)