添付一覧
○「後発医薬品の生物学的同等性試験ガイドラインに関する質疑応答集(Q&A)について」等の改正等について
(平成24年2月29日)
(事務連絡)
(各都道府県衛生主管部(局)薬務主管課あて厚生労働省医薬食品局審査管理課通知)
「後発医薬品の生物学的同等性試験ガイドライン」、「含量が異なる経口固形製剤の生物学的同等性試験ガイドライン」及び「経口固形製剤の処方変更の生物学的同等性試験ガイドライン」並びに「剤形が異なる製剤の追加のための生物学的同等性試験ガイドライン」については、平成24年2月29日付薬食審査発0229第10号審査管理課長通知により改正したところですが、今般、これらのガイドラインに関する質疑応答集(Q&A)の別添を改正し、それぞれ別紙1、2及び3のとおりとしました。また、これらのガイドラインに関する質疑応答集(Q&A)に、「医療用配合剤の後発医薬品の生物学的同等性試験について Q&A」及び「含量が異なる医療用配合剤及び医療用配合剤の処方変更の生物学的同等性試験について Q&A」を追加し、別紙4及び別紙5としましたので御了知ください。
(参考)
1 今回改正を行ったQ&A
(1) 後発医薬品の生物学的同等性試験ガイドラインQ&A
(2) 含量が異なる経口固形製剤の生物学的同等性試験ガイドライン、経口固形製剤の処方変更の生物学的同等性試験ガイドラインQ&A
(3) 剤形が異なる製剤の追加のための生物学的同等性試験ガイドラインQ&A
2 今回新たに追加するQ&A
(1) 医療用配合剤の後発医薬品の生物学的同等性試験についてQ&A
(2) 含量が異なる医療用配合剤及び医療用配合剤の処方変更の生物学的同等性試験についてQ&A
別紙1
(別添)
後発医薬品の生物学的同等性試験ガイドライン
Q&A
《全般的事項》
Q―1 本ガイドラインでは,次の3点においてWHOの該当するガイドライン*と要求水準が異なっているが,そのようにした考え方を示してほしい.
(1) 試験製剤のロットの大きさが異なること
(2) WHOガイドラインでは最小必要被験者数を12としているが,本ガイドラインでは被験者数が12以下の試験も許容すること
(3) 溶出挙動が類似又は同等**の場合には,信頼区間が生物学的同等の許容域よりも大きくても生物学的に同等と判定される場合があること
* Multisource (generic) pharmaceutical products: guidelines on registration requirements to establish interchangeability WHO Technical Report Series, No. 937, Annex 7, 2006
** ガイドラインでは,即放性製剤及び腸溶性製剤の場合には溶出挙動類似を,徐放性製剤の場合には溶出挙動同等を適用する.溶出挙動の同等性,類似性については,「含量が異なる経口固形製剤の生物学的同等性試験ガイドライン,経口固形製剤の処方変更の生物学的同等性試験ガイドラインQ&A」のQ―35も参照すること.
(A) (1)について,WHOガイドラインでは,試験製剤のロットの大きさは実生産ロットの1/10以上又は10万投与単位(以下,錠とする)以上のいずれか大きい方と規定している.しかしながら,我が国の後発医薬品では,実生産ロットの大きさでも10万錠程度のことがある.ロットの大きさが実生産ロットの1/10以上で製造方法が実生産ロットと同じであれば,そのロットの製剤的特性は実生産ロットのものと同等と考えられ,また,溶出試験でそれを確認することができる.このようなことから,試験製剤のロットの大きさは,必ずしも10万錠以上でなくとも,実生産ロットの1/10以上でよいとした.
(2)については,個体内変動の小さい薬物では,12人以下の被験者による試験によっても生物学的同等性を示すことは可能である.不必要に被験者を増やすことを避ける目的で,本ガイドラインでは特に被験者の数を規定していない.
(3)については,次のような理由でこの判定法を導入した.
生物学的同等性試験を行う目的は,先発医薬品のバイオアベイラビリティの80%(AUC及びCmaxの対数値の母平均の比として)に満たないバイオアベイラビリティ又は125%を越えるバイオアベイラビリティを有する後発医薬品が市場に出回らないようにすることにある.本ガイドラインで採用した生物学的同等性試験の判定法は90%信頼区間による方法であり,これは現在欧米で一般的に容認されている.90%信頼区間による判定法では,上記のバイオアベイラビリティの要求基準を満たさず品質の劣る後発医薬品が生物学的同等性試験に合格する確率(消費者危険率)は5%以下である.90%信頼区間による判定法に代えて,他の方法で生物学的同等性試験の判定を行うときにも,消費者危険率は5%以下に維持されなくてはならない.生物学的同等性試験では,クリアランスの個体内変動の大きさは試験対象となる医薬品によって異なる.信頼区間による判定法は消費者危険率が試験の残差変動の大きさに影響されずに一定に保たれるので,生物学的同等性試験に適した判定法ということができる(しかし,信頼区間による判定方法では,σ/√nが大きい場合には実質的消費者危険率が小さくなり,その結果,生産者危険率(合格品質の製品が,試験で不合格となる確率)が実質的に大きくなることが指摘されている(D.J. Schuirmann, A comparison of the two one―sided tests procedure and power approach for assessing the equivalence of average bioavailability, J. Pharmacokinet. Biopharm., 15, 657 (1987))).
さて,クリアランスの個体内変動が大きい薬物(通常,残差変動がCVにして25~30%以上の薬物)では,生物学的同等性を90%信頼区間による判定法で証明しようとすると,実現不可能なほどの例数で試験を行わなければならなくなる.本ガイドラインでは,クリアランスの個体内変動が大きいために信頼区間が広くなり,統計学的に生物学的同等性を示すことが難しい薬物で,溶出試験の結果から生物学的な非同等が生じにくいと考えられる製剤に限って,試験製剤と標準製剤のバイオアベイラビリティの対数値の平均値の差がlog0.90~log1.11にあるときには,生物学的に同等であると判定するようにした.この判定法のヒト試験部分で用いられる判定法は,
表 試験製剤と標準製剤のバイオアベイラビリティの真の平均値の比(μt/μr)とヒト試験の合格率との関係(総被験者数20人)
|
合格率 |
|||||
μt/μr |
1 |
0.9 |
0.8 |
|||
対数変換データの残差変動*1 |
90%信頼区間*2 |
平均値*3 |
90%信頼区間 |
平均値 |
90%信頼区間 |
平均値 |
0.100(0.100) |
1.00 |
1.00 |
0.98 |
0.50 |
0.05 |
0.00 |
0.149(0.150) |
1.00 |
0.96 |
0.78 |
0.50 |
0.05 |
0.01 |
0.198(0.200) |
0.93 |
0.89 |
0.56 |
0.50 |
0.05 |
0.04 |
0.246(0.250) |
0.73 |
0.81 |
0.42 |
0.49 |
0.05 |
0.07 |
0.294(0.300) |
|
0.73 |
|
0.48 |
<0.05 |
0.11 |
0.385(0.400) |
|
0.60 |
|
0.45 |
<0.05 |
0.17 |
0.472(0.500) |
|
0.51 |
|
0.41 |
<0.05 |
0.20 |
*1 括弧内は対数変換前データにおける変動係数を表す.なお,対数正規分布する変量xの変動係数CVと,メタメータy=ln xの標準偏差との間には,CV2=exp(σr2)-1の関係がある.
*2 90%信頼区間による判定法.
*3 本ガイドラインで採用したバイオアベイラビリティの対数値の平均値の差による判定法.
標本の大きさが一定のときは消費者危険率がバラツキに依存する.(表のμt/μr=0.80のときの合格率は消費者危険率を表す).そのために,バラツキが変動する生物学的同等性試験の判定法としては,本来適当ではない.一方,本ガイドラインで試験製剤と標準製剤の溶出特性を比較するために採用しているパドル法50rpm,75rpm,及び回転バスケット法100rpmは,製剤に作用する破壊力が非常に緩和な条件であり,溶出特性の差を識別する能力が高い.このような溶出試験法を用いて,即放性製剤及び腸溶性製剤では3種類以上の試験液,徐放性製剤では5種類以上の試験液を用いて試験を行うこととしており,さらに攪拌速度を変えた試験も行うことにしている.このすべての条件で溶出挙動が類似あるいは同等である製剤同士が生物学的に非同等となる可能性は小さいであろう.このことを考慮すると,溶出試験及びヒト試験の結果を併用する判定法の実質的消費者危険率は5%以下を保てると考えられる.ヒト試験のみでは同等性を証明することが難しい場合の補強データとして溶出試験結果を用いる場合,即放性製剤及び腸溶性製剤では溶出挙動の類似性が求められる.徐放性製剤では有効成分の含有量が即放性製剤よりも多い場合も想定されるので,溶出挙動の同等性が求められるとした.(Q―63も参照すること)
Q―2 海外で実施されたヒト生物学的同等性試験データを使用することができるか.
(A) 外国で実施された臨床試験データの受け入れにあたっては,平成10年8月11日医薬発第739号厚生省医薬安全局長通知「外国で実施された医薬品の臨床試験データの取り扱いについて」及び同日付け医薬審第672号審査管理課長通知「外国臨床試験データを受け入れる際に考慮すべき民族学的要因について」に示されているとおり,当該データの日本人への外挿可能性を評価するための資料提出が必要となる.生物学的同等性試験に影響すると考えられる民族的要因として,胃液酸度をはじめとする消化管の生理学的要因の民族的差異が生物学的同等性に影響する可能性がないことを検討しておく必要がある.医療用後発医薬品の承認申請におけるヒト生物学的同等性試験は,当該試験成績をもって先発医薬品との薬物動態の同等性を推定し,申請製剤の有効性,安全性を評価するものであるため,外国で実施されたヒト生物学的同等性試験を添付資料として用いる場合には,例えば当該後発製剤のバイオアベイラビリティ等に関して,当該試験データの日本人への外挿可能性を評価するために十分な資料が必要であり,基本的には本邦において実施した試験を添付資料とすることが望ましい.
Q―3 平成9年12月22日医薬審第487号通知における本ガイドラインの適用範囲は,「昭和55年5月30日薬発第698号薬務局長通知の別表2―(1)の(8)に規定する医薬品(以下,「医療用後発医薬品」という.)」としているが,歯科用医薬品や放射性医薬品にも適用されるか.
(A) 医療用後発品に該当するもので,生物学的同等性試験が課せられているものについては,適用されると解してよい.
《項目別事項》
第3章.試験
A.経口即放性製剤と腸溶性製剤
Ⅰ.標準製剤と試験製剤
Q―4 先発医薬品は3ロットの中から標準製剤を選択することになっているが,先発医薬品の3ロットの製剤を集めることが困難な場合などの例外的なケースでは,2以下のロットから標準製剤を選択してよいか.
(A) 標準製剤を選定するために必要な3ロットを入手することが困難な場合,困難である妥当な理由があれば,2以下のロットから標準製剤を選択してよい.
Q―5 「実生産ロットの1/10以上の大きさ」は,生物学的同等性試験に必要な数量に比べて遙かに多いので,試験終了時に大量廃棄ということになる.生物学的同等性試験に用いたロットは実生産ロットの1/10以上のものと溶出が同等であることを確認すれば,生物学的同等性試験に用いるロットの大きさは任意でもいいのではないか.
(A) 医薬品のバイオアベイラビリティは,スケールアップによって変動する恐れがある.実生産ロットの医薬品が,生物学的同等性試験に用いた製剤と同等の品質の製品であるためには,スケールアップの程度が10倍以上あることは好ましくない.なお,WHO*及びEMEA**の規定には,「試験製剤のバッチの大きさは実生産ロットの1/10以上の大きさ又は10万錠以上の大きさのロットのどちらか大きい方」とあり,本ガイドラインよりもさらに厳しい条件が示されている.国際調和の立場からも,「実生産ロットの1/10以上の大きさ」を確保すべきである.
* Q―1の引用文献参照
** EMEA, Guideline on the investigation of bioequivalence, 2010.
Q―6 生物学的同等性試験を実生産と同じスケールで製造されたロットで行わなかった場合,実生産ロットと生物学的同等性試験に用いたロットとの間のバイオアベイラビリティの同等性は,溶出試験で保証するのでよいことを確認したい.
(A) 本ガイドラインは,実生産ロットが,標準製剤と同等であることを保証することを目的としている.生物学的同等性試験を実生産と同じスケールで製造されたロットで行わなかった場合には,実生産ロットと生物学的同等性試験に用いたロットとが品質及びバイオアベイラビリティ共に生物学的に同等であることを示す必要がある.基本的には,適切な溶出試験で実生産ロットの溶出挙動が生物学的同等性試験に用いたロットのそれと類似又は同等であることを確認すれば十分であるが,場合によってはヒト試験により生物学的同等性の確認を行う必要がある.
Q―7 複数のロットの試験製剤を用いて,予試験(ヒト試験)を行い,その中から,本試験に用いる試験製剤を選択してよいか.
(A) 試験製剤のロットの選択については,申請者が妥当と考える方法で行うことができる.
Ⅱ.生物学的同等性試験
1.試験法
Q―8 「消失半減期の非常に長い医薬品」とは,どのような医薬品をさすのか.
(A) tmaxに消失半減期の3倍を加えた時間が72時間以上となる薬物のことをいう.
Q―9 被験者の数が多くて試験を1度に実施することが困難なときには,試験を2度に分けて,又は2施設に分けて実施し,データを併合して解析してよいか.
(A) はじめから試験を2つに分けることを計画しており(例数追加試験ではない),2つの試験間で実施期間がほぼ同じであること,プロトコールや分析法が同じであること,人数にかたよりがないことなどが守られていれば,一つの試験とみなして解析することができる.
Q―10 予試験のデータで生物学的同等性を示すことができたとき,本試験は実施しなくてよいか.
(A) 本ガイドラインの基準を満たした試験が行われていれば,予試験の結果をそのままヒト生物学的同等性試験のデータとして評価に用いることができる.
Q―11 例数追加試験を行った場合には,データがどのようになっていれば,本試験と例数追加試験のデータを合わせて解析することができるか.また,予試験の結果を例数追加試験として取り扱ってよいか.
(A) 異なる薬物の臨床効果を比較する臨床試験の場合とは異なり,生物学的同等性試験では,本試験と例数追加試験との間でプロトコールが共通していて,標本の大きさがほぼ等しければ,2つの試験結果が著しく異なるこということは生じにくいと考えられるので,本ガイドラインにおいても例数追加試験を認めることにした.ただし,これは必要以上のヒト試験を極力避ける目的から行う例外的な措置であり,生物学的同等性試験を逐次検定法で行ってよいとしたわけではないので,例数追加試験は1回に限る.1回の試験で結論を得ることを目標にして,十分な数の被験者によって試験を開始すべきである.
試験結果(2つの製剤のバイオアベイラビリティの比)及び残差の分布が2つの試験間で著しく異ならないのであれば,2つの試験結果を合わせて解析することができる.
例数が不足するために本試験で結論が得られず例数追加試験を行う場合には,その旨を本試験を始める前にプロトコールに定めておく.予試験データを例数追加試験データとして利用する場合には,予め本試験を始める前に,それをプロトコールに定めておかなければならない.
なお,追加試験では検定の多重性による第一種の過誤の確率(α)の増大が問題になるが,生物学的同等性試験においては次のような理由によりあまり問題にしなくてよいであろうと言われている.本来生物学的に非同等な製剤の場合には,バイオアベイラビリティの平均値の比が第一段階で生物学的に同等の領域に入り,第二段階の例数追加試験に踏み切る確率は大きく見積もっても50%であり,例数追加試験によるαへの寄与は高々2.5%である.バラツキの大きい薬物の第一段階でのαは5%よりも小さいと考えられるので,例数追加試験によるαの増大はそれ程危惧しなくてもよい.(K.F. Karpinski ; Ed. by I.J. McGilveray, et al., Proceedings Bio International '89, Issues in the evaluation of bioavailability data, October 1―4, 1989, Pharma Medica Research Inc., Toronto, Canada, p. 138 (1990))
Q―12 被験者は健康成人志願者とあるが,年齢,性別,体重,胃液酸度などの基準を示してほしい.
(A) 健康と判断される人であれば,年齢,性別,体重などについては特に規定を設けていない.胃液酸度についても特に問わない.
Q―13 低胃酸の被験者の選択方法,低胃酸の基準などを示してほしい.
(A) ファイバー状のpHメータの挿入による直接的な測定方法,挿入した胃管を通して採取した胃液のpHを測定する方法などがある.これらの方法における低胃酸と正常胃酸との区別は,それぞれの検査法の規定に従うか,pH5.5を識別の指標とする.従来の検討結果では,高齢になるほど低胃酸被験者の比率が高くなるが,20歳代では10%以下である.また,低胃酸と確定された場合,かなりの確率で低胃酸状態が継続する.
低胃酸の被験者で試験を実施することが必要となった場合,低胃酸の被験者で試験を実施することが第一選択であるが,健康成人を被験者とし胃酸分泌抑制剤を併用するなどの試験を実施することも妥当と考えられる.
Q―14 医薬品の適用集団又は低胃酸の被験者による試験は不要ではないか.また,適用集団が限られているとは,具体的にどのようなことを意味するのか示してほしい.
(A) 医薬品の適用集団が限られているとは,医薬品が特定の年齢層や性別の患者に,高い頻度で適用される場合を意味する.適用集団には,健康人も,患者も含まれる.
特定されない集団から募った健康志願者と適用集団とでは,バイオアベイラビリティに影響を及ぼす因子が異なり,製剤間のバイオアベイラビリティの差も,両者間で異なる可能性がある.したがって,いくつかの溶出試験条件の一つ以上で製剤間に著しい差があるとき,適用集団においてバイオアベイラビリティの差が生じる可能性を否定できない.そこで,そのような場合には,「医薬品の適用集団」を対象とした生物学的同等性試験を実施することが必要である.
ただし,特定されない集団から得られた結果から,適用集団としてのデータを抽出することは統計学上適切ではない.
一方,胃液酸度については,低胃酸の人が多いという,欧米では見られない日本の特殊事情があるので,pH6.8における平均溶出率に著しい差がある場合には低胃酸群の被験者を対象として生物学的同等性試験を実施する必要がある.以下の文献に,製剤間のバイオアベイラビリティの差が,正常酸群と低胃酸群とで異なった例が報告されている.
H. Ogata, et al., The bioavailability of diazepam uncoated tablets in humans. Part 2: Effect of gastric fluid acidity. Int. J. Clin. Pharmacol. Ther. Toxicol., 20, 166 (1982).
N. Aoyagi, et al., Bioavailability of sugar coated tablets of thiamine disulfide in humans. I. Effect of gastric acidity and in vitro correlation. Chem. Pharm. Bull., 34, 281 (1986).
H. Ogata, et al., Bioavailability of metronidazole from sugar―coated tablets in humans. I. Effects of gastric acidity and correlation with in vitro dissolution rate. Int. J. Pharm., 23, 277 (1985)
Q―15 旧ガイドラインでは「薬効又は副作用などが強いなどの理由で,健康人での試験が望ましくない場合」には,動物試験で生物学的同等性を示すことになっていたが,本ガイドラインでは「当該医薬品の適用患者で試験を行う」ことになった.患者を被験者とすることには倫理的に問題があるのではないかと考えられるが,変更された理由を説明してほしい.また,患者を対象とする試験ではバラツキが大きくなると予想されるが,特別の判定基準はないのか.
(A) 現在までに行われた研究によれば,ビーグル犬などの動物を用いた生物学的同等性試験による結果は,必ずしもヒト生物学的同等性試験の結果と一致しないことが指摘されている.薬効又は副作用などが強い医薬品は,同等性の評価を特に厳密に行うことが求められる医薬品であるので,動物ではなくヒトによる試験によって生物学的同等性が保証されなければならない.治療学的同等性が保証されない医薬品を臨床に供給することはできないという考えに基づいて,変更が行われた.
患者を対象とした生物学的同等性試験をGCPに従って行うならば,倫理上の問題が生じることは考えにくい.患者を対象として生物学的同等性試験を実施するに当たって,治療の中断が患者に不利益を与える場合には,試験対象医薬品以外の医薬品や治療は通常通り続行しながら試験を行う.また,試験対象の医薬品についても,定常状態で試験を行うことができる.
患者を対象とした試験においても,判定の基準は健康人による試験と同じである.
Q―16 遺伝的多型がある場合に,クリアランスが大きい被験者で試験を行うとあるが,なぜか.クリアランスの大きさの判定はどのようにするのか.また,クリアランスの大きい被験者のデータを用いる場合,(1)あらかじめ被験者をクリアランスでスクリーニングしておくのか,(2)得られたデータからクリアランスの大きい被験者のデータのみを用いるのか,具体的な考え方を示してほしい.
(A) 文献あるいは蓄積されたデータから,あらかじめ対象医薬品のクリアランスに遺伝的多型のあることが分かっている場合にのみ,クリアランスが大きい被験者で試験を行うことができる.試験からクリアランスの小さな被験者の排除を奨めるのは,被験者の安全を確保するため,及び,クリアランスの大きい被験者の方がバイオアベイラビリティの差の検出感度が優れているからである.クリアランスの大きさの判定は遺伝子上の情報に基づく判断を必要とせず,統計上の判断で外れ値の検定によって行うのでよい.被験者の選択は(1)の方が望ましいが,(2)でもよい.ただし,(2)の場合には,試験を行う前にプロトコールにおいて「遺伝的多型のためにクリアランスの小さい被験者のデータを削除することがある」とうたっていなければならない.被験者の中からクリアランスが特に小さい被験者のデータを(2)の方法によって落とした場合,例数不足となることがあり,追加試験が必要となることも考えられる.
Q―17 「食後投与」において,20分以内に食事を終了することを条件として,被験者に一律に食事開始後50分に製剤を投与してもよいか.
(A) 食事が終了した時間から30分後に投与することが重要であるので,被験者に一律に食事開始後50分に製剤を投与するのは望ましくない.
Q―18 絶食投与ではバイオアベイラビリティが著しく低いか又は重篤な有害事象の発現頻度が高い医薬品の場合には,本ガイドラインでは食後投与で試験を行うとある.試験製剤の溶出速度が標準製剤と著しく異なる製剤については,低胃酸群の被験者又は適用集団の被験者を対象にして試験を行うとされているが,その場合,食後投与による試験を実施してよいか.
(A) 即放性製剤のバイオアベイラビリティの製剤間の差は,絶食投与に比較し食後投与の方が小さくなる傾向がある.そのため,溶出速度が標準製剤と著しく異なる製剤の生物学的同等性を低胃酸群の被験者又は適用集団の被験者を対象にして,食後投与の試験で適切に評価することはできない.
Q―19 検出限界が高いなどの分析上に問題がある場合には,多回投与又は高用量単回投与のいずれを優先させるのか.
(A) 高用量単回投与の方が多回投与よりもCmaxの差の検出力が優れているので,高用量単回投与を優先する.
Q―20 多回投与試験において1日3回投与の医薬品では,等間隔(例えば,10:00am,6:00pm,2:00am)で長期間医薬品を投与し続けることは実質的に不可能である.このような場合,どうすればよいか.
(A) 原則は等間隔投与であるが,やむを得ない場合には,被験製剤の投与開始から体液採取の前前日までは用法に従った間隔で投与し,体液採取日の前日は,標準製剤,試験製剤ともに用法に従って同じ時間に投与することでよい.
Q―21 尿を採取体液にすることができるのは,どのような場合か.
(A) 尿中に未変化体あるいは活性代謝物が排泄され,それらを測定することができる場合である.ただし,サンプリング間隔の問題でUmaxが適切に評価できないような薬物の場合には,尿で評価することは適切ではない.
Q―22 不活性な代謝物を測定対象とすることができない理由は何か.
(A) 生物学的同等性試験は治療学的な同等性を保証することを目的としているので,治療効果に関与しない不活性な代謝物で生物学的同等性を評価することは適切ではない.
Q―23 原則として未変化体を測定することとあるが,プロドラッグの場合には,プロドラッグを測定して評価してもよいか.
(A) 2つの製剤間でプロドラッグのバイオアベイラビリティが等しいときには,互いに生物学的に同等である.プロドラッグを用いて評価する方が活性代謝物を用いて評価するよりも通常バイオアベイラビリティの差をよく検出できるので,プロドラッグの分析が可能な場合には,プロドラッグの測定を行うことが推奨される.しかし,活性代謝物を測定し,これを評価に用いる場合には,プロドラッグの成績は評価に用いる必要はない.
Q―24 抗生物質はバイオアッセイと機器分析のいずれで測定するのが適切か.
(A) 生物学的同等性試験においては,活性を有する化学種を特異的に分析できる方法を用いることが原則である.複数の化学種の和として測定された値を生物学的同等性の評価に用いることは適切ではない.抗生物質も機器分析のように特異的な方法で分析することが望ましいが,やむを得ぬ場合にはバイオアッセイで測定しても構わない.
Q―25 活性を有する代謝物に非抱合体と抱合体があるときには,同等性評価は非抱合体のみで行うのか,両者を合わせたもので行うのか.
(A) 抱合体に活性がないときには,非抱合体のみで同等性を評価する.抱合体と非抱合体がともに活性を有する場合には,いずれか科学的に妥当な方を選択し,評価する.抱合体と非抱合体とを合わせた測定値から同等性を評価すべきではない.
Q―26 「立体異性体の混合物から成る医薬品では,主薬理作用への寄与が大きい異性体を測定成分とする」とあるが,理由は何か.
(A) 医薬品の開発,承認においては,異性体同士は基本的には別の化合物と考えられている.したがって,原則として異性体は分離測定し,主薬理作用への寄与が大きい異性体を測定成分とする.特に,初回通過効果,クリアランス等の薬物動態が著しく異なるため,生物学的同等性の判定結果に異性体間で大きな差が生じる可能性のある医薬品では,分離測定は必須である.しかしながら,薬物動態に差があることが文献等で報告されてないならば,異性体間で生物学的同等性の結果に差が生じる可能性は少なく,異性体を合わせたものを未変化体として測定してもよい.
Q―27 分析法バリデーションの具体的な方法を示してほしい.
(A) 生体試料を扱う分析法のバリデーションでは,主として次のような事柄を検討し,その要約を生物学的同等性試験結果の記載事項に記述する.
・ 保管条件下での試料中の分析対象物の安定性(凍結/解凍サイクルにおける安定性も含む.)
・ 真度
・ 精度(併行精度と室内再現精度)
・ 特異性(個体間の差を考慮して複数の個体から採取した試料で検討する)
・ 検量線に関する検討
・ 定量限界
日常の分析法の管理を行う他,次に示す事柄は試験に先立ち予め基準を設定しておかなければならない.なお,日常の分析法のバリデーション結果については,生物学的同等性試験結果の記載事項に含める必要はない.
・ 分析結果を許容する基準
・ 再分析を必要とするときの基準
分析法バリデーションについては次の文献を参考にするとよい.
V.P. Shah, et al., Analytical methods validation: Bioavailability, bioequivalence and pharmacokinetic studies. J. Pharm. Sci., 81, 309 (1992).
鹿庭 なほ子,「医薬品の分析法バリデーション」,林純薬工業株式会社,大阪,2003.
ISO 5725―6 Accuracy (trueness and precision) of measurement methods and results ― part 6: Use in practice of accuracy values.
JIS Z 8402―6:測定方法及び測定結果の精確さ(真度及び精度)―第6部:精確さに関する値の実用的な使い方,日本規格協会,東京,1999.
2.評価法
Q―28 AUCの計算は,どのような方法を用いるのか.
(A) 実測値を直線で結んだ台形の面積を計算する方法を用いる.
Q―29 相対吸収率Fをデコンボルーションで求める場合の,参考文献を示してほしい.
(A) 次のような文献をあげることができる.
D.P. Vaughan, and M. Dennis, Mathematical basis of point―area deconvolution method for determining in vivo input functions. J. Pharm. Sci. 67, 663 (1978).
K. Iga, et al., Estimation of drug absorption rates using a deconvolution method with nonequal sampling times. J. Pharmacokinet. Biopharm. 14, 213 (1986).
D. Verotta, An Inequality―constrained least―squares deconvolution method. J. Pharmacokinet. Biopharm. 17, 269 (1989).
Q―30 参考パラメータを提出する意義は何か.
(A) 生物学的同等性の評価はAUC,Cmaxの両パラメータだけで必ずしも十分であるとは考えられない.検出力が低い等の理由からtmax等は評価パラメータとせず参考パラメータとしたもので,参考パラメータに有意差が生じた場合,AUC,Cmaxが同等であっても無条件に生物学的に同等な製剤として取り扱うことはできない.また,消失速度定数が仮説検定において有意な差が検出された場合には,観測された消失相の勾配が消失速度定数ではなく吸収速度定数である可能性を与え,吸収速度に製剤間に差がある可能性を示唆する.この観点から参考パラメータの提出を求めたもので,統計的有意差が検出された場合,治療上その差が問題とならない差であるかどうかの説明が必要である.検討する参考パラメータは,医薬品の特性によって異なる.例えば,徐放性製剤などでは,VRTや血中濃度の変動幅などを評価できるパラメータの検討が必要な場合も考えられる.なお,作用発現時間の差が医薬品の臨床的有用性に影響を与える可能性がある場合には,tmaxも同等性評価パラメータとする.
Q―31 MRTは参考パラメータとして必要か.
(A) MRTは消失速度定数が小さい薬物では,製剤間のバイオアベイラビリティの速度の差を識別する能力が低い.しかし,消失速度定数が大きい薬物では,製剤間の速度の差を識別する能力が高く,統計学的な検出力も高い.製剤間のバイオアベイラビリティの速度の変動に対してtmaxは感度の高いパラメータであるが,同パラメータは統計学的検出力が低いことが指摘されている.このため,tmaxを補完する参考パラメータとして,MRTは有用である.
Q―32 対数変換は必ず行わなければならないか.必要に応じて対数変換を行うのでもよいか.
(A) 国際調和の原則に基づいて,対数変換した値を用いて評価を行う.未変換データの方が正規分布,変換データの方が非正規分布であることが明白な場合など,変換データで解析を行うことが適切でないときにはその旨を示し,未変換データにより評価してもよい.
Q―33 パラメータの値が0である被験者の対数変換をどうするか.
(A) 対数変換を行うためにパラメータの値が0である被験者を除くことは情報を切り捨てることになり好ましくないので,パラメータ値が0である被験者のデータも含めて未変換データで解析を行う.
Q―34 未変換データの生物学的同等性の判定はどのようにしたらよいか.
(A) 未変換データの場合には,生物学的同等の許容域は,試験製剤と標準製剤のパラメータの母平均の差を標準製剤の母平均に対する比として表すとき,-0.20~+0.20である.したがって,標準製剤のパラメータの平均値をmで表すと,試験製剤と標準製剤の生物学的同等性評価のパラメータの平均値の差の90%信頼区間が,-0.20m~+0.20mに含まれているときに生物学的に同等と判定する.溶出試験の結果が類似又は同等と判定される場合には,パラメータの平均値の差が-0.10m~+0.10mに含まれているときに,生物学的に同等と判定してよい.
Q―35 例数設計,多回投与試験,安定同位体を同時に投与する試験に関する参考文献を示してほしい.また,合理的な理由があれば,本ガイドラインに示した解析方法以外の方法を用いて解析してもよいとあるが,具体的にどのような方法があるか.
(A)
(1) 例数設計
例数の設計に当たっては,予試験の結果や文献調査の結果などを利用して,医薬品の個人内変動の大きさを予測し,下記の文献を参考にして,例数設計を行うとよい.なお,未変換データの引用文献は,2つの片側検定を適用する判定方法の例数設計であるが,2つの片側検定を適用する判定方法は,90%信頼区間による判定法と全く等価の結果を与える.2つの片側検定を生物学的同等性試験に適用する方法に関する文献もここに引用する.
(対数変換データ)E. Diletti, et al., Sample size determination for bioequivalence assessment by means of confidence intervals, Int. J. Clin. Pharmacol. Ther. Toxicol., 30 Suppl. 1,S51~58 (1992).
(未変換データ) K.F. Phillips, Power of the two one―sided tests procedure in bioequivalence. J. Pharmacokinet. Biopharm., 18, 137 (1990).
(2つの片側検定を生物学的同等性試験に適用する方法) D.J. Schuirmann, A comparison of the two one―sided tests procedure and power approach for assessing the equivalence of average bioavailability, J. Pharmacokinet. Biopharm., 15, 657 (1987).
(2) 多回投与試験の利点については下記の報告が参考となる.
el―Tahtawy AA, Jackson AJ, Ludden TM, Comparison of single and multiple dose pharmacokinetics using clinical bioequivalence data and Monte Carlo simulations, Pharm. Res. 11, 1330―1336 (1994).
(3) 安定同位体を同時に投与する試験の利点については下記の報告が参考となる.
Heck HA, Buttrill SE Jr, Flynn NW, Dyer RL, Anbar M, Cairns T, Dighe S, Cabana BE, Bioavailability of imipramine tablets relative to a stable isotope―labeled internal standard: increasing the power of bioavailability tests, J Pharmacokinet. Biopharm. 7, 233―248 (1979).
(4) 本ガイドラインに示した解析方法以外の方法
ノンパラメトリック法による判定法:パラメータが正規分布に従わない場合には,ノンパラメトリック法で求めた90%信頼区間を判定に用いてもよい.以下に参考文献を示す.
V.W. Steinijans and E. Diletti, Statistical Analysis of Bioavailability Studies: Parametric and Nonparametric Confidence Intervals, Eur. J. Clin. Pharmacol.,24, 127 (1983).
並行群間比較試験法:消失半減期が非常に長い医薬品では,クロスオーバー試験ではなく,並行群間比較試験法で試験を行ってよい.解析法は通常の一元配置実験計画法に従う.
Q―36 ノンパラメトリック法及び2つの片側検定で解析を行ったときの生物学的同等性の判定基準を示してほしい.
(A) ノンパラメトリック法で解析した信頼区間を用いて生物学的同等性を評価するときにも,対数変換データを用いる場合には,本ガイドラインに示されているパラメトリックな解析方法と同じ判定基準に従う.未変換データを用いる場合には,Q―34に示した判定基準に従う.
2つの片側検定(パラメトリック法)の帰無仮説及び対立仮説は下記の通りである.
H0:μ≦θ1,μ≧θ2
H1:θ1<μ<θ2
対数変換データでは,μはlog(μt/μr)となり,θ1=log0.80,θ2=log1.25となる.未変換データでは,μは(μt-μr)/μrであり,θ1=-0.20,θ2=+0.20となる.μt及びμrは試験製剤及び標準製剤の生物学的同等性評価のパラメータの母平均を表す.上記の2つの帰無仮説が有意水準5%で棄却されるときに2つの製剤は生物学的に同等と判定される.
Q―37 持越し効果が有意になった場合には試験をやり直さなければならないか.
(A) 一般的には,2剤2期クロスオーバー法では,群効果と持越し効果とは区別がつかない.持越し効果が有意になった場合には結果の解釈が不能であるが,群効果が有意の場合には結果の解釈は可能である.従来は,群間の割付けに偏りがあるなど,持越し効果ではなく群効果による有意差であるという考察が行われた場合には,結果を受け入れてきた.しかし,通常,割付上の偏りがあったことを証明することは困難であり,また,同一薬物のバイオアベイラビリティの比較試験を行う生物学的同等性試験に限っては,プロトコールが遵守されていれば,持越し効果が生じることは本来考えにくいので,持越し効果に関する考察を問わないことにした.
Q―38 対称信頼区間を用いて生物学的同等性を評価してもよいか.
(A) 本ガイドラインに採用した90%信頼区間(最短,非対称)又は2つの片側検定(α=0.05)を用いる生物学的同等性の判定基準は,標準製剤のバイオアベイラビリティの80%又は125%のバイオアベイラビリティを有する製剤が95%の確率で不合格となるように設定されている.これは,消費者危険率が5%であることを意味する.本ガイドラインで示されている以外の方法で判定を行う場合にも,消費者危険率は5%以下としなければならない.そのためには,対称信頼区間を適用する場合には,その信頼係数は95%となる.その結果,対称信頼区間の方が生産者危険率は最短非対称信頼区間よりも大きいので,同方法を適用しても差し支えないが,利点はほとんどない.(V.W. Steinijans and D. Hauschke, Update on the statistical analysis of bioequiavelence studies, Int. J. Clin. Pharamcol. Ther. Toxicol., 30, 543 (1992)).
Q―39 「作用が強くない薬物」の具体例を示してほしい.
(A) 医薬品の特性を考慮して,ケースバイケースに申請者が作用が強くない薬物とした科学的な根拠を説明する.許容域は,試験を行う前に定めておかなければならない.
Q―40 tmaxについてはノンパラメトリックな検定方法を採用してもよいか.
(A) tmaxが参考パラメータの場合には,ノンパラメトリックな検定方法で,試験製剤と標準製剤のtmaxに有意な差がないことを示すことで差し支えない.作用発現時間の差が医薬品の臨床的有用性に影響を与える可能性があり,tmaxを同等性評価パラメータとする場合には,予め適切な生物学的同等性の許容域を設定し,Q35,(4)に示した論文等を参考にして試験製剤と標準製剤のtmaxの差の90%信頼区間を求め,判定を行う.
Ⅲ.薬力学的試験
Q―41 下剤,止瀉剤,造影剤,吸着剤,粘膜防御剤,整腸剤のように,消化管に直接作用する医薬品あるいは消化管内で効力,機能を発揮する医薬品については,動物による薬力学的試験で生物学的同等性を証明してもよいか.
(A) 上記のうち,有効成分が循環血流を介して作用部位に到達しない医薬品であって,作用が強くないもので,且つ,文献その他により動物試験が科学的に妥当であると判断される場合は,例外として動物試験が認められることがある.ただし,溶出試験において試験製剤と標準製剤の挙動が類似又は同等と判断された場合に,また,溶出試験が不可能な場合には,適当な物理化学的試験によって試験製剤と標準製剤の挙動が類似又は同等と判断された場合に限る.後者の場合には,類似又は同等の許容域は,試験の特性によって適切に設定する.なお,動物試験によって生物学的同等性を証明する場合には,用量と薬理効果との関係を検討した上で投与量の設定を行い,同等性の判定はヒト試験に準じる.
Ⅴ.溶出試験
Q―42 ヒト生物学的同等性試験で同等性が証明できたとしても,溶出試験でガイドラインの要求を満たしていない場合には,同等といえないのか.それとも,溶出試験結果はヒト試験のみでは同等性を証明し得ない場合の補強データと考えるのか.
(A) 即放性製剤において,溶出試験は,(1)被験者の選択についての情報を与える,(2)薬物動態パラメータのバラツキの大きな医薬品で,ヒト試験のみでは同等性を証明することが難しい場合の補強データとして位置づけられる.したがって,即放性製剤においては,溶出挙動の類似性を証明できなくても,ヒトで同等性が証明できれば,生物学的に同等の医薬品と判定される.
一方,徐放性製剤では,放出機構などが類似していることの証明として,すべての溶出条件で溶出挙動の類似性が示されなければ,先発医薬品の後発品とは認められない.
ここで言う溶出挙動とは,測定対象成分の溶出量の時間的推移を示すものである.溶出した測定対象成分が分解,反応,析出などによって見かけ上減少するような場合には,極大までの推移で溶出挙動を比較する.
なお,本ガイドラインでは,溶出試験の結果が重視されているが,これには次のような利点もある.
1.患者の消化管の生理学的要因と製剤のバイオアベイラビリティとの間には相互作用が生じる可能性がある.患者の胃液酸度とバイオアベイラビリティとの間の相互作用はよく知られている.このような相互作用が生物学的同等性試験によって検出されるか否かは,生物学的同等性試験の被験者の中に特定の製剤と相互作用をする被験者がどの程度含まれるかによる.一方,溶出試験では,適当な試験液を選択することにより,このような特定の患者と特定の製剤との相互作用の可能性を検出することができる.
2.生物学的同等性試験において,標準製剤と試験製剤の同等性が証明された場合でも,溶出試験においては溶出挙動の類似性又は同等性が示されない場合に,その理由について考察しておくことが重要であり,例えば,当初設定されていた溶出試験条件の妥当性について検討することも可能となる.また,品質再評価の進展により,公的溶出規格が内示又は公表されたものについては,当該公的溶出規格への適合性に係る資料を審査した上で溶出試験の設定を勘案し,承認審査が行われることとされている(平成10年7月15日医薬発第634号医薬安全局長通知).
Q―43 溶出試験法のバリデーション及び溶出試験に用いる分析法のバリデーションの方法を示してほしい.
(A) バリデーションとは,試験法の妥当性と結果の再現性を科学的に保証することである.溶出試験では,JPの規定を遵守し,また,定期的に装置の適合性を確認する.その際,USPのカリブレータなどを用いるのも有用である.また,測定対象物の試験液中での安定性及び自動サンプリングによる試験法の妥当性などを確認する.
分析法のバリデーションにおいては,原則として,以下の事項を検討する.なお,試験液のpHや界面活性剤濃度などの条件を設定するための溶出試験(予試験)は,対象外である.
真度 (回収率で表してもよい)
精度 (併行精度と室内再現精度)
特異性
直線性
範囲
(分析法バリデーションの参考文献)
平成9年10月28日医薬審第338号審査管理課長通知
平成7年7月20日薬審第755号審査課長通知
鹿庭なほ子,医薬品の分析法バリデーション,林純薬工業,大阪,2003.
Q―44 完全に溶解した状態で投与される医薬品は,標準製剤及び試験製剤が15分以内に85%以上溶出した医薬品と見なしてよいか.
(A) ある試験液で溶解していることが確認できれば,その試験液では標準製剤及び試験製剤が15分以内に85%以上溶出した医薬品とみなされる.
Q―45 例えば,下剤,止寫剤,造影剤,吸着剤,粘膜防御剤,整腸剤,消化酵素製剤のように有効成分が循環血流を介して作用部位に到達しない経口製剤についても,溶出試験は必要か.
(A) 薬物が溶解する場合には,被験者の選択や標準製剤の選択にあたって,物理化学的試験法として溶出試験が必要である.溶解しないものについては,崩壊試験などの適切な物理化学的試験法を用いるのでよい.
Q―46 溶出試験液のpHの設定根拠を示してほしい.
(A) 消化管の生理的pHの範囲及び製剤間の溶出挙動に差が出やすいpHを考慮して設定した.
Q―47 溶出試験液のpHや界面活性剤の濃度などの条件を設定するための予備検討はどのようにすればよいか.また予備検討における試験回数(ベッセル)は,12ベッセル以上が必要か.また,第十六改正日本薬局方の溶出試験第2液(日本薬局方試薬・試液のリン酸塩緩衝液,pH6.8を2倍に希釈した液)を使用する場合,この液のpHは6.9付近になるが,このまま使用しても差し支えないか.
(A) 薬物の溶解度から考えて,規定された時間以内に平均85%以上溶出する条件で,溶出の遅くなるpH付近でpHを0.5~1.0の単位で振ったいくつかの試験液で先発医薬品の3ロットについて溶出試験を行い,他の溶出試験条件での溶出挙動も考慮し標準製剤となるロットの溶出挙動からpHを設定するのも一つの方法である.薬物の溶解度が最も高くなるpHで3ロットとも(規格の溶出試験液で標準製剤を選択した場合はそのロットが(以下同様))規定された時間以内に平均85%以上溶出しない場合は,そのpHを溶出試験条件としてよい.薬物の溶解度が高く,3ロットとも指定されたpHの範囲で15分以内に85%以上溶出する場合は,溶解度から考えて最も溶けにくいpHとする.界面活性剤の濃度も,指定された濃度のポリソルベート80溶液での薬物の溶解度から界面活性剤の濃度を選んで上述のpH設定と同じようにして設定すればよい.
ガイドラインが示す溶出試験の回数(12ベッセル又は6ベッセル以上)は本試験又は標準製剤の選択に適用するもので,試験条件を設定するための検討では試験回数(ベッセル)は特に規定していない.また,溶解度のpH依存性などから,溶出試験を行うまでもなく適切なpH条件を選択できる場合には,溶出試験による検討は必要ないが,有効成分の溶解度のpH依存性と製剤の溶出速度のpH依存性は相関するとは限らないので,注意を要する.条件設定のための検討で行われた試験結果を溶出試験の本試験の結果に含めてもよい.
日本薬局方の溶出試験法に,「試験液に緩衝液を用いるときは,pHが規定された値の±0.05以内になるよう調整する」と記載されている.しかし,「リン酸塩緩衝液,pH 6.8」はpHが規定された緩衝液ではない*ので,溶出試験法での「pHを調整する緩衝液」に該当せず,「リン酸塩緩衝液,pH 6.8」を水で2倍に希釈した溶出試験第2液は,pHを調整することなくそのまま用いてよい.本試験液のpH実績値は6.92±0.05であり,この範囲のものを用いることが望ましい.
*「リン酸塩緩衝液,pH6.8」は名称であり,調製時pHを調整しないのでpHが規定されていない緩衝液である.
Q―48 原薬の溶解度,使用添加剤の特性から,例えば,pH3.0-5.0で溶出が大きく変わらないことが説明できる場合は,薄めたMcIlvaine緩衝液のpH選定において,試験液のpH 4.0を選択してよいか.
(A) 薄めたMcIlvaine緩衝液のpH選定において,科学的に妥当な理由があれば,薬物溶解度や製剤特性等に基づいてpHを選択してもよい.例えば,原薬の溶解度がいずれのpHでも高く,製剤においてもpH 1.2,pH 6.8,水で溶出性にほとんど差がない即放性製剤(溶出性にpH依存性のない製剤)の場合,pH 3.0-5.0範囲での薄めたMcIlvaine緩衝液のpH選択は,溶解度から考えて最も溶けにくいpHとすることができる.ただし,各pHの溶解度が試験に影響を及ぼさない程度の差と考えられる場合,中間のpH4.0を選択してもよい.
Q―49 溶出試験において,緩衝液の種類,回転数などを指定することは不必要ではないか.
(A) 有効成分が循環血流を介して作用部位に到達する経口製剤において,溶出試験結果は(1)標準製剤の選択,(2)生物学的同等性試験の被験者の選択,及び(3)生物学的同等性の判定に用いられる.溶出試験条件の設定は,in vivo―in vitro相関性の観点から行ったのではなく,製剤間の溶出挙動の差異が相対的に大きく現れるようにした.これらの条件において溶出挙動が類似又は同等と判定されるならば,ヒトにおける生物学的同等性を強く支持するとの考え方をとった.そのため,溶出挙動の類似性及び同等性を試験する条件は任意に設定するのではなく,規定した条件のみとした.ただし,規定された試験液の組成成分の影響を受けて,標準製剤と試験製剤の溶出挙動が大きく異なることが科学的な理由により説明される場合(例えば,McIlvaine緩衝液において緩衝液成分と相互作用することで溶出性が大きく低下する場合など),規定された試験液に替えて,同じpHの他の緩衝液を用いることは妥当と考えられる.即放性製剤及び腸溶製剤では,溶出挙動の類似性は6時間以内に85%以上溶出する条件で判定されることが望ましく,判定する試験条件の数が多いほど生物学的同等性をより強く支持することになるものと考えられる.
Q―50 水はイオン強度が低く緩衝作用が非常に弱いために,水においてのみ,原薬の性質または製剤的要因により標準製剤と試験製剤の溶出挙動が大きく異なることがある.そのような場合,水を除いた試験液での溶出試験結果により溶出挙動の評価を行ってよいか.
(A) 後発医薬品の生物学的同等性試験ガイドラインに従いヒト試験が実施される場合,水においてのみ標準製剤と試験製剤の溶出挙動が異なる科学的な理由(例えば,原薬と添加剤の吸着)を示すことで,水を除いた試験液での溶出試験結果により溶出挙動の評価を行ってよい.なお,水を試験液とした溶出試験は実施する.
Q―51 両性薬物は,酸性薬物又は塩基性薬物のいずれの溶出試験条件で行うのがよいか.
(A) 製剤間の溶出率の差を検出できる,より多くの条件下で溶出挙動を比較することが重要である.したがって,薬物のpH-溶解度プロファイルから判断して,溶出試験が実施可能(規定された試験時間内に85%以上溶出する)なpH条件が多い方の試験条件を選択するのが望ましい.まず,2)中性又は塩基性薬物を含む製剤,コーティング製剤の条件で検討を行い,溶出試験実施可能な条件が1つ以下のときには1)酸性薬物を含む製剤の条件でも検討を行い,より適切な方を選択する.
Q―52 酸性薬物を含むコーティング製剤は,「コーティング製剤の溶出試験条件」を用いるように規定されている.しかし,コーティング膜は中性でもよく溶けるものがあるので,このような製剤では,「酸性薬物を含む製剤」の条件で溶出試験を実施してもよいか.
(A) コーティング膜には,中性で溶解するが,pH 3~5付近で溶けにくい特性を示すものがあり,酸性薬物の条件で行うとこの特性を見逃す可能性がある.この場合には,コーティング製剤の条件で試験を行うことが望ましい.酸性薬物がpH 3~5付近で溶解度が低いために溶出試験の実施が困難な場合には,酸性薬物の条件を採用してもよい.
Q―53 本ガイドラインではパドル法が主に用いられているが,その理由は何か.
(A) 実施上の簡便さ,試験結果の再現性,過去に報告されたデータの豊富さなどの観点からパドル法を中心に用いることにした.
Q―54 ガイドラインの記載に“パドル法,50回転でベッセルの底部に製剤の崩壊物が堆積する現象が認められる場合,その条件に替えて,パドル法,75回転,又は,回転バスケット法,100回転で溶出試験を行ってよい.”とあるが,溶出試験方法の優先順位はあるか.また,パドル法,50回転で溶出挙動の比較は行わなくてもよいか.
(A) “製剤の崩壊物が堆積する現象”は,例えば,写真等によりベッセルの底部に製剤の崩壊物が堆積することを客観的に示す.
パドル法,75回転,又は,回転バスケット法,100回転のどちらかを任意で選ぶことでよい.パドル法,50回転でどのような溶出挙動であるかを示すため,溶出挙動の比較は行う.
Q―55 パドル法,50回転に替えて,パドル法,75回転,回転バスケット法,100回転で溶出試験を行った場合,「特異的著しい差」はどの条件で行えばよいか.
(A) 溶出挙動の評価を行った条件で,「特異的著しい差」があるかどうかを評価する.
Q―56 薬物がベッセル,パドルに吸着する場合,吸着しにくい材質のベッセルやパドルを用いてよいか.
(A) 日本薬局方でベッセルやパドルの材質については規定しておらず,適切な材質のものを用いてよい.
Q―57 試験液に製剤が浮く場合,溶出試験でシンカーを使用してもよいか.
(A) 溶出試験において製剤が試験液中で浮遊する場合には,使用してもよい.シンカーを使用する場合,標準製剤,試験製剤ともに使用する.
Q―58 難溶性薬物の溶出試験で,界面活性剤を添加することの意義は何か.
(A) 難溶性薬物を含む製剤では,溶出率の低い段階で飽和溶解度に達してしまうために,製剤間の溶出率の比較が難しい.難溶性薬物を含む製剤の溶出試験に界面活性剤を加えるのは,薬物の溶解度を上げて,製剤間の溶出率の比較が行えるようにするためである.ポリソルベート80を第一選択とする.
Q―59 溶出挙動の類似性及び同等性の判定において,平均値で比較する場合の許容域を数値で示してほしい.例えば,「試験製剤の平均溶出率が標準製剤の平均溶出率±15%の範囲にある」とあるが,±15%は相対値を表すのか,それとも溶出率の差の絶対値を表しているのか.
(A) ±15%は,試験製剤と標準製剤の平均溶出率の差の絶対値を意味する.例えば,即放性製剤及び腸溶製剤の類似性の判定で,「標準製剤の平均溶出率が約60%及び85%となる適当な2時点において,試験製剤の平均溶出率が標準製剤の平均溶出率±15%の範囲にある」と記載されている場合,実際の標準製剤の平均溶出率が63%,87%であるならば,試験製剤の許容域はそれぞれ48~78%,72~102%となる.また,徐放性製剤の同等性の判定で,「標準製剤の平均溶出率が50%以上80%に達しないとき,標準製剤が規定された試験時間における平均溶出率の1/2の平均溶出率を示す適当な時点,及び規定された試験時間において,試験製剤の平均溶出率が標準製剤の平均溶出率±8%の範囲にある」と記載されている場合,規定試験時間後の標準製剤の平均溶出率が73%で,1/2の平均溶出率に相当する値が35%であったとするならば,試験製剤の許容域はそれぞれ65~81%,27~43%となる.
Q―60 f2関数の計算に用いる溶出率のサンプリング時間の設定が米国のSUPACガイダンスと異なる点があるがその理由は何か.
(A) f2関数の値は,比較時点に依存する特徴がある.例えば比較する溶出曲線の溶出率の差が少ないところで比較点数を増やすと,f2の値が大きくなる.本ガイドラインでは,このような欠点を避ける目的で,比較時点を規定した.平均値で比較する場合又はf2関数を適用する場合のいずれにおいても,比較時点は厳密に規定されている溶出率を示すサンプリング時間でなく,標準製剤について規定された溶出率となる溶出試験を実施するのに適切な時点でよい.
Q―61 溶出挙動の類似性の判定で「標準製剤,試験製剤のいずれかの溶出にラグ時間があるときには,溶出曲線を溶出ラグ時間で補正することができ」とあるが,ラグ時間があった場合でも,ラグ時間を補正しないで判定してもよいか.また,溶出曲線をラグ時間で補正する方法について説明してほしい.
(A) 溶出率を比較するためには,ラグ時間がある場合でも必ずしもラグ時間で補正を行わなくてもよい.溶出曲線をラグ時間で補正する方法をAppendix Aに示す.
Ⅵ.生物学的同等性試験結果の記載事項
Q―62 資料の6)~9)の項目(溶解度,粒子径,結晶形,その他)は,通常先発医薬品メーカーより明らかにされているので,不要として差し支えないか.
(A) これらの物理化学的特性を熟知して製剤設計を行う必要があるので,後発医薬品に関して可能な限り調査して報告するべきである.
Q―63 生物学的同等性の判定に溶出試験結果を用いる場合に,徐放性製剤では即放性製剤よりも厳しい判定基準をなっているが,その理由は何か.
(A) 徐放性製剤では投与間隔が即放性製剤よりも長いために,即放性製剤よりも医薬品の含有量が多いことが普通であり,また,製剤が消化管内に長時間留まる可能性がある.また,徐放性製剤は,薬物の放出をコントロールするという機能を有する製剤である.安全性を保証する目的及び機能を評価する目的で,徐放性製剤では即放性製剤よりも厳しい判定基準となっている.
Q―64 後発医薬品に適用する原薬の物理化学的試験は,先発医薬品で使用されている原薬の公開情報を基に実施しなければならないのか.例えば,粒子径などの測定方法まで一致させなければならないのか.先発医薬品の情報がないときにも,後発医薬品にそのデータが要求されるのか.
(A) 物理化学的測定は,科学的に正しい方法ならば,どのような方法を用いて測定しても差し支えない.ただし,測定値と共に測定方法や使用した装置を記載する.また,先発医薬品についての情報の有無にかかわらず,後発医薬品に関する必要事項は報告する.
Q―65 消失速度定数kelについて,計算に用いた測定点をどのように表せばよいか.平均の血中濃度からkelを求めることで可としてよいか.
(A) 表の形で提出する必要がある.個々の被験者の血中濃度―時間プロファイルがあるので,その上でマークをつけたデータを添付してもよい.kelの平均値と標準偏差を知ることが重要であるので,平均血中濃度曲線からkelを求めるのは適切でない.
Q―66 Ⅵ.生物学的同等性試験結果の記載事項」は申請書(ホ―5―1)の記載事項の説明として捉えてよいか.また,治験総括報告書についてもこの記載事項は適用されるのか.総括報告書を申請資料に添付する場合,「治験の総括報告書の構成と内容に関するガイドライン」の中に「後発医薬品の生物学的同等性試験ガイドライン」を,どのような形で連携をとって記載すればよいか.
(A) 医療用医薬品製造販売承認時の申請の際に必要な提出資料(ホ―5)「生物学的同等性に関する資料」中に記載すべき事項の説明ととらえてよい.また,総括報告書は,「後発医薬品の生物学的同等性試験ガイドライン」に掲げる試験結果の記載事項について,平成8年5月1日薬審第335号厚生省薬務局長通知「治験の総括報告書の構成と内容に関するガイドライン」を参考に作成すること.
B.経口徐放性製剤
Ⅰ.標準製剤と試験製剤
Q―67 経口徐放性製剤の後発医薬品は先発医薬品と大きさ,形状,比重,放出機構が著しく異ならないことが条件となっているが,理由は何か.
(A) 徐放性製剤は即放性製剤とは異なり,製剤の形態を保ったまま長時間消化管内を移動することが多く,消化管内の生理的要因の影響を受けやすい.異なる形状,大きさ,比重,放出機構を持った製剤は,消化管内の生理的要因の影響の受け方が異なる可能性があり,服用条件や被験者によってバイオアベイラビリティが異なる可能性がある.そのために,経口徐放性製剤の後発医薬品は,先発医薬品と放出機構が同じであることが前提である.放出機構の類似性は,マトリックスタイプか膜制御タイプか,シングルユニットかマルチプルユニットか,崩壊型か非崩壊型か,などから説明する.
Q―68 即放性製剤とは異なり,徐放性製剤においては試験製剤の溶出挙動が標準製剤の溶出挙動が類似していることが生物学的同等性試験に入るための必須条件としている理由は何か.
(A) 放出機構の異なる製剤同士では,多様な消化管の生理学的条件下では,消化管内移動や放出性が互いに異なる可能性がある.ヒト試験においては,空腹時と一定条件の生物学的同等性しか評価しておらず,その他の条件における生物学的同等性を保証できるとは限らない.放出機構が似た製剤同士の場合には,多様な消化管の生理学的条件の下でも,互いに似通った消化管内移動や放出性を示すことが期待できる.そのために,徐放性製剤の生物学的同等性試験では,試験を行う前提条件として放出制御機構が同じであることを求めており,試験製剤の放出機構が標準製剤の放出機構と異ならないことを証明する方法として提示を求めている.難溶性薬物等で溶解しないために,規定されたいずれの溶出試験液でも溶出挙動の比較をできない場合は,試験製剤の放出機構が標準製剤と異ならないことを別途説明する必要がある.
Ⅱ.生物学的同等性試験
1. 試験法
Q―69 絶食投与の他に食後投与による評価を行う理由は何か.
(A) 徐放性製剤は,即放性製剤に比べて1回投与量が多く,しかも特殊な放出制御機構によって徐放性を保証している.そのため,そのような機構が空腹時とあわせ苛酷な条件である食後にも標準製剤と試験製剤とが同等に働いていることを確認することは重要である.なお,製剤にとって苛酷な条件とするために,食事の内容を高脂肪食に規定した.
Q―70 製剤の服用を高脂肪食の場合には食後10分以内とし,低脂肪食の場合には食後30分とする理由は何か.
(A) 食後投与は,食事によってバイオアベイラビリティが製剤間で相対的に変化しないことを確認するために行う.バイオアベイラビリティに対する食事の影響を検討するためには,食事と服用の間隔が短いほどよいので,高脂肪食の場合には食後10分に製剤を服用することとした.一方,絶食投与が困難な場合は食後投与を行うことになるが,その場合は,食事の直接的な影響をできるだけ避けるために,低脂肪食で食後30分に製剤を服用することとした.
Q―71 パドル法200rpmあるいは崩壊試験器を使う方法は苛酷過ぎではないか.それらの方法を用いる理由は何か.
(A) 溶出試験は,製剤間で放出制御機構が同じであることを示すため,及び,生物学的同等性の評価のための補強データとして用いられる.両目的ともに,極端な条件での製剤の溶出挙動が同じ程度であれば,生体内における極端な条件においても両製剤の性能は同程度であることがある程度推定できると考えられる.
C.非経口製剤
Q―72 非経口製剤においては,溶出(放出)試験又はそれに代わる物理化学試験を行うことになっているが,物理化学試験とはどのような試験を指すのか.
(A) 例えば,坐剤では放出試験など,懸濁性注射剤では溶出試験など,があげられる.
D.同等性試験が免除される製剤
Q―73 溶解型皮下又は筋肉内注射剤で,特殊な添加剤を用いていない場合にも,本ガイドラインによる生物学的同等性試験を行う必要があるか.
(A) 現在のところ,皮下又は筋肉内注射剤から医薬品の吸収速度に対して,どの添加剤が影響を及ぼし,また,どの添加剤が影響を及ぼさないかということについては,十分な検討がなされていないので,このような製剤についても本ガイドラインに従って生物学的同等性試験を行う必要がある.
Q―74 「使用時に水溶液である動脈注射用製剤」及び「使用時に水溶液である脊髄腔内注射用製剤」は,同等性試験の免除の対象の製剤にはならないのか.
(A) 動脈注射用,脊髄腔内注射用あるいは硬膜外注射用などの製剤は,目的とする組織へ直接又は近傍へ適用されるものであり,静脈注射用製剤とは異なり局所適用製剤の一種であるので,生物学的同等性試験を免除することはできない.これらの製剤の生物学的同等性の評価は,本ガイドラインC.Ⅲ.に規定される臨床試験により行う.
Appendix A 溶出曲線のラグ時間による補正
溶出曲線のラグ時間による補正は以下のようにして行う.溶出曲線を補正したり,内挿法により溶出率を計算したりする可能性がある場合には,内挿による誤差が大きくならないようにするため,5分間程度の間隔で測定したり,約10%以内の間隔で溶出率が測定されるように,測定の頻度を配慮する必要がある.
1.標準製剤,試験製剤の個々の製剤について,ラグ時間を以下のようにして求める.
2.予備試験等により溶出率―時間曲線の全体像を把握し,ラグ時間tLがどの時間帯に出現するか予想して,その前後は細かに測定点を取った上,測定点を直線で結んだ溶出曲線を得る.溶出率5%となる時間tLを,グラフ上から読みとるか,又は,内挿法によって求め,これをラグ時間とする.
3.個々の製剤について測定時間をラグ時間で補正し補正測定時間を計算し,補正測定時間による溶出曲線と表を得る.
4.標準製剤,試験製剤の平均溶出曲線を次のようにして得る.
5.平均溶出曲線を求めるための時間tsiを決定する.点数は,補正前の溶出曲線ラグ時間以降の測定点数とほぼ同じになるようにする.標準製剤,試験製剤の個々の製剤について,内挿法又はグラフから読みとることによって,tsiにおける溶出率を求める.各tsiにおける平均溶出率を計算し,平均溶出曲線を得る.
6.試験製剤について,下記のA―1,A―2の手順1)―3)に従って,平均溶出曲線を求める.このとき,平均溶出率を計算するための時間tsiは,標準製剤と同じであることが望ましい.
7.ガイドラインに従って,標準製剤と試験製剤の溶出率の比較をする時点tciを決定する.内挿法又はグラフから読みとることによって,tciにおける標準製剤の平均溶出率を求める.
以下に,標準製剤の平均溶出率が規定時間内に85%に達する場合と達しない場合の溶出曲線の補正例を示す.
A―1 規定時間内に標準製剤の平均溶出率が85%に達する場合の例
標準製剤12個を用いて溶出試験を実施し表1に示す結果を得たと仮定する.
手順1)ラグ時間の計算
個々の溶出曲線に対し,溶出率がdA%に到達する時間tAは次式によって計算される.
tA=t1+(dA-d1)x(t2-t1)/(d2-d1) (1)
ここで,t1:溶出率がdA%に到達する直前の測定時間
t2:溶出率がdA%を超えた直後の測定時間
d1:時間t1における溶出率
d2:時間t2における溶出率
表1 個々の標準製剤の溶出率(%)の実測値
製剤 |
測定時間(分) |
||||||||||||||
0 |
5 |
10 |
15 |
20 |
25 |
30 |
35 |
40 |
45 |
52.5 |
60 |
67.5 |
75 |
90 |
|
① |
0 |
1.3 |
8.1 |
17.8 |
29.3 |
41.6 |
51.6 |
60.1 |
68.3 |
75.2 |
81.8 |
84.1 |
91.2 |
97.2 |
100.0 |
② |
0 |
0.8 |
8.9 |
20.9 |
31.8 |
42.2 |
52.0 |
59.1 |
66.3 |
72.9 |
81.3 |
88.9 |
93.7 |
96.7 |
98.5 |
③ |
0 |
1.8 |
11.3 |
23.7 |
35.0 |
45.8 |
55.7 |
62.2 |
70.3 |
77.3 |
82.8 |
88.1 |
91.0 |
94.1 |
97.2 |
④ |
0 |
1.6 |
7.4 |
16.1 |
26.4 |
36.5 |
44.9 |
55.5 |
65.5 |
75.1 |
82.9 |
86.7 |
92.3 |
96.5 |
98.9 |
⑤ |
0 |
1.1 |
7.1 |
15.6 |
25.5 |
35.0 |
44.3 |
52.6 |
61.3 |
69.3 |
78.4 |
86.7 |
94.2 |
97.5 |
99.1 |
⑥ |
0 |
0.5 |
6.6 |
16.0 |
26.0 |
36.8 |
44.7 |
54.1 |
61.4 |
70.4 |
77.5 |
88.0 |
90.5 |
97.8 |
100.0 |
⑦ |
0 |
1.4 |
9.5 |
22.7 |
35.1 |
43.3 |
55.8 |
63.8 |
75.0 |
79.3 |
83.3 |
85.3 |
90.2 |
95.8 |
97.7 |
⑧ |
0 |
0.5 |
8.1 |
18.6 |
31.0 |
42.0 |
53.7 |
62.1 |
67.1 |
72.9 |
78.4 |
81.2 |
85.0 |
86.5 |
91.7 |
⑨ |
0 |
0.3 |
6.6 |
13.8 |
21.5 |
30.4 |
42.3 |
50.8 |
65.4 |
73.0 |
80.1 |
84.9 |
89.4 |
93.6 |
95.2 |
⑩ |
0 |
0.0 |
5.3 |
10.5 |
17.5 |
30.2 |
35.6 |
43.6 |
52.0 |
59.6 |
67.8 |
80.9 |
88.2 |
94.6 |
98.1 |
⑪ |
0 |
0.8 |
6.3 |
18.2 |
27.3 |
42.5 |
50.5 |
58.4 |
70.3 |
76.4 |
84.1 |
89.9 |
93.3 |
94.9 |
96.5 |
⑫ |
0 |
1.8 |
13.6 |
27.5 |
42.1 |
57.8 |
65.3 |
70.0 |
72.4 |
76.5 |
80.4 |
82.6 |
87.1 |
87.3 |
97.2 |
補正前の平均溶出率 |
0 |
1.0 |
8.2 |
18.5 |
29.0 |
40.3 |
49.7 |
57.7 |
66.3 |
73.2 |
79.9 |
85.6 |
90.5 |
94.4 |
97.5 |